◆−遺された物語――見えない星――(ガウリナ)−颪月夜ハイドラント (2003/4/21 19:50:28) No.25666
 ┗こんばんわ!−水嶋リア (2003/4/26 21:42:24) No.25720
  ┗Re:こんばんわ!−颪月夜ハイドラント (2003/4/27 11:32:53) No.25724


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25666遺された物語――見えない星――(ガウリナ)颪月夜ハイドラント 2003/4/21 19:50:28


――遺された物語――

 ――見えない星――

 見えない星。
 10万光年の彼方の闇。
 まだ届かない。
 今日もあなたの星はない。


――微睡――

黄金色の初夏だった。
遮られた陽射しは希薄。情熱の色の太陽ではなく無機質な灰色の空間だ。
古くなった木造の室内は活力を吸い取る。
その陰気な世界に煌きが微か。
隅に置かれた椅子に座り、机に向かう影があった。

 最後に伝えておきたいことがある。
 お前は昨日の夜遅く宿を抜けた。
 外を歩く音さえ眠れない俺にはよく聞こえていた。

腕は視界に入る白面に世界を生むことだけに動き続ける。
そして止まる時もまた、異空間で世界は生まれている。

 今朝の笑顔は良かった。
 俺も癒されたようだ。
 だがすべてを受け入れられなかった。
 昨日の夜遅く宿を抜けた。
 知ってるんだ俺は・・・。

絶えず紡ぎ出す。
過去と現在が融合している瞬間。それの連続。

 お前は変わらない。ずっと変わらない。錯覚か?
 それが違うとすればすべては時間の問題だ。
 俺は関係ない。

腕が震えた。
呼吸が刹那、止んだ。

 合格なのか失格なのかは、それだけは1つ分からない。誰でも自分は見えないもんだ。
 ただ俺は必要ない。
 それが分かった。
 俺は必要ない。
 じゃあな。

男性を感じさせる屈強な背。
だが反して天輪の如く美しき長髪が反する。
停滞していた肉体が動き出した。

 過去と現在の融合は終わった。

――幻影――

琥珀色の初夏だった。
遮られた陽射しは哀しげ。美しき終わりではなくすでに終わった宵闇。
古くなった木造の室内は感傷を誘う。
隅に置かれた机に何かが載っているのを見つけた。

 知っていたのね。
 まあいつものことだけど。

瞳は視界に入る世界を見取り反芻し続けている。
そして止まる時も、また世界の情景が浮かんでいる。

 あれが良かったの?
 いくらでも見せて良かったのに・・・。

絶えず紡ぎ出す。
笑顔を見せている瞬間。すぐに霧散。

 違う。あたしは変わっているよ。
 時間の問題なんかじゃない。

視線が震えた。
呼吸が刹那、激しくなった。

 あなたは・・・合格よ。
 ただ自分が分からないことはあたしと違う。
 でも必要なの。
 大切なの。
 いかないで欲しかった。

男性を感じさせる屈強な背。
だが反して天輪の如く美しき長髪が反する。
その像を彼女は見ていた。
それだけではない。その男のすべてを・・・。

 俺にとっての言葉は文字だ。
 そして言葉は文字なんだ。
 忘れる前に伝えたい。
 俺はお前が好きだった。

闇が次々に襲って来る。優しくそっと、だが周到にそして残酷に・・・。
責め立てられて瞳が濡れ始めた。
追憶が巡る。
激しく奔流する。
涙に変わる。

 そんな生活。
 今さら・・・。
 無理よ。あたしには無理よ。

――幻想――

そして泣き続けた。
ずっと泣き続けた。
だがそれだけではない。
彼女は紡ぎ出した。

 あなたの目の前には海が広がっている。
 蒼い海。果てしなく広い。
 青天の下。陽射しを浴びてあなたは海を見下ろし見上げ、見詰め続けている。
 哀しみをどれだけ孕んでいようが、壮大な景色はあなたの熱い心を掻き立てる。
 あなたは歩き出した。
 草の音が力強く響いた。
 
 3時間としばし歩いて、あなたは港のある街についた。すでに先ほどから鮮明に見えていた街だ。
 すでに黄昏時は近い。
 あなたは宿を取った。
 今宵は興奮したが不思議に眠れた。
 翌朝も快調に目覚めた。

 船に乗ろうとあなたは言い聞かせた。
 だがすぐに気付いてしまった。夢は破れた。
 路銀などすでに皆無。昨夜の宿で打ち止めだった。
 だがあなたは決心した。
 あなたは漁師となった。
 初めは辛かったがそれにも慣れて来た。
 1週間、2週間、1ヶ月、2ヶ月と、それでも時間はゆっくり流れた。
 白を基調とした涼しげで活気にも満ちたその街にも慣れた。
 時間はやがて急速となった。月日は流れていく。
 だが不意にその夜・・・

――幻惑――

激情はすでに消えていた。
安らかな呼吸。整った反復で長き時が続いている。
闇の中。母なる闇の中で僅かに身動ぎした以外は静謐を保っていた。

 あなたは突然思い浮かんだ。
 懐かしい顔が、けしてそれだけではない顔が・・・。
 涙が浮かんだ。激しい後悔に襲われた。
 そして決断した。この街を去ることを・・・。
 だけどあなたはもの覚えの良い方ではなかった。

 だからいつもが続いていく。
 漁師をし、同僚や気の合う仲間と楽しい時を過ごして、その夜に後悔する。
 あなたはもの覚えの良い方ではなかった。
 だからそれが続いた。何ヶ月、何年・・・。

目覚めればすでに昼であった。あれから何度目の午後だろうか。
陽射しがしばし暑い。
朦朧とする思考を強靭な意志にて吹き飛ばす。力を込めて立ち上がった。
その瞬間に頭を過ぎる。輝かしい哀しみ。
だから彼女はそれを塞き止める。

 すでに何年経ったか分からない。
 もしかすれば本当に数日しか経っていないのかも知れない。日々は似すぎていた。
 同じ繰り返し。循環。
 だがその一種の永遠めいた時間があなたに1つの思考を与えた。

『忘れる前に伝えたい。
俺はお前が好きだった。』
頭を過ぎったのはその言葉。

 『忘れる前に伝えたい。
 俺はお前が好きだった。』
 それが書き出し。
 そうあなたは文字を紡いでいた。
 
 時間を掛けて書き続ける。毎日忘れるのだから読み返しもする。
 少しずつそれが広がる。思えば同じことばかり書いていたりもしたが・・・。
 それでもあなたは記憶を持った。
 『俺にとっての言葉は文字だ。
 そして言葉は文字なんだ。』
 そんな一文も中にはあった。
 
彼女は窓の外を見ていた。
硝子に区切られた非現実。
だが事実のみは正確に届く。
それでも意味は違った。
無表情にも似た彼女からは何度も吐息が漏れている。
それだけではない。彼女は呟きを発していた。
大気のみがそれを知る。

 どれだけの時間の後にだろうか。
 あなたは知った。すべてを覚った。
 自らの文脈から必死で探して答えを見つけた。一種の推理だった。
 そしてあなたは決意した。
 街を去った。向かうのは海ではない。
 途方もなく歩く。歩き続ける。
 あなたは知らない。だから彷徨う。

――幻夢――

むなし過ぎた。
邂逅への望みは・・・。
数年経った今でもって彼女は気付いた。
心は沈んでいる。その空に似て・・・。
そして表情はまさに映し鏡だ。
溜息が昇る。
だが取り憑かれていた。

 あなたは探し続ける。
 その間にも何度も記憶を失った。
 すべてではなく。1つの記憶を・・・。
 それが本能だったのかも知れない。そう欠落した本能。
 だけど、あなたは探し続ける。

1ヶ月。2ヶ月。

 ずっと探し続ける。

半年。1年。

 必死で探した。

2年。3年。

 見つかることを信じて・・・。

4年。5年。

 だけど・・あなたの・・物語・・は・・ひどく・・残酷。
 あなたは・・あたし・・を・・永遠に・・見つけ・・られない。

涙。
虚無的でも現実的でもありすぎた。

 あなたは10万光年の果てにいる。
 知ってるんだあたしは・・・。

「だって見たんだから・・・。」

 今までのは全部嘘。
 あなたはあたしを捨てなかった。
 だから本当の物語を・・・。
 真実だけは伝えておこうとあたしは思う。あなたと違ってね。
 あなたは10万光年の果てにいる。
 あたしには届かない。
 見えない星。
 あなたは星になった。

「帰って来たら・・・キスくらいはしてあげるわ。」
思い切って呟いたその時、

 コンコン。
 ノックの音。
 高揚感を誘っている。

しかしそれは幻。
彼女は夜空を見上げた。

 瞬く星。
 でも今日もあなたの星はない。

「・・・ガウリイ。」
扉が鳴っていることにはまだ気付かない。

後書
この物語の中で行頭が空けられていない文章は現実を表わす。独白もすべて幻想だろう。
しかし、この後書は現実なのだ。ということとなる。
面倒だ。後書まで対象に加える必要はない。
まあ置いといて・・・

 どうやら風邪ひいたようです。
 非常に悪寒が付き纏ってます。
 咳も出ます。
 書くペースにも支障が出るかと・・・。
 皆様もお気をつけて・・・。

 (ちなみにこれは昨日に完成させていた作品であります。)

それではこれで・・・

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25720こんばんわ!水嶋リア URL2003/4/26 21:42:24
記事番号25666へのコメント

こんばんわですv
このあいだはメールありがとうございました!
もう拝見させてもらってすっごい感動しました。
本当にこの方の文章の深みはすごいなーと。
なのに返信もださず失礼しましたです〜(><)

んで、遺された物語。
私の語力じゃとても伝えきれないですが、とにかく良かったです。
情景の想像のしやすさと、くどくは語らないのにその心情がよく伝わってくるところとか、物凄い実力を感じます。

本当に、体には気をつけてこれからも頑張ってください!
ラントさんの刺激を受けて私も精一杯頑張ります!
それではまたお会いしませう♪

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25724Re:こんばんわ!颪月夜ハイドラント URL2003/4/27 11:32:53
記事番号25720へのコメント


>こんばんわですv
こんばんわ。この地ではひどくお久しぶりでございますね。
>このあいだはメールありがとうございました!
いえこちらこそ、あんなもの送らせていただいて・・・
>もう拝見させてもらってすっごい感動しました。
あっ、あれが・・・感動?
りっ、リアさん・・・あなたには悪い霊が・・・(待て)
>本当にこの方の文章の深みはすごいなーと。
>なのに返信もださず失礼しましたです〜(><)
いえいえ〜。
>
>んで、遺された物語。
>私の語力じゃとても伝えきれないですが、とにかく良かったです。
そっそうでございましたか。
>情景の想像のしやすさと、くどくは語らないのにその心情がよく伝わってくるところとか、物凄い実力を感じます。
そっそうですか。一応意識はしましたけど本当にそうなってる自信は九牛の一毛(意味違うかも)ほどにも思ってなかったです。
>
>本当に、体には気をつけてこれからも頑張ってください!
>ラントさんの刺激を受けて私も精一杯頑張ります!
こちらこそリアさんは私の起爆剤です。
こちらこそ刺激受けまくってます。
>それではまたお会いしませう♪
それではHP完成しましたので・・・。

わざわざご感想大変ありがとうございました。