◆−渇きの夜想曲2−オロシ・ハイドラント (2003/5/22 21:03:02) No.26032
 ┣プロローグ−オロシ・ハイドラント (2003/5/22 21:03:39) No.26033
 ┣始まりの雨に愚者は彷徨い−オロシ・ハイドラント (2003/5/22 21:04:50) No.26034
 ┣邂逅の刻に運命は廻る−オロシ・ハイドラント (2003/5/22 21:08:44) No.26035
 ┃┗致命的ミス−オロシ・ハイドラント (2003/6/5 17:14:23) No.26146
 ┣そして死神は地に降りて―魔―−オロシ・ハイドラント (2003/5/23 16:50:48) No.26043
 ┣そして死神は地に降りて―神―−オロシ・ハイドラント (2003/5/23 16:53:01) No.26044
 ┣犯人当てクイズについて−オロシ・ハイドラント (2003/5/23 16:57:06) No.26045
 ┃┗サッパリ精霊が周囲を飛び回っております(汗)−エモーション (2003/5/23 22:45:33) No.26052
 ┃ ┗Re:地の文にヒントがあったりするような気が……−オロシ・ハイドラント (2003/5/24 14:02:42) No.26065
 ┣檻の中には道化が残り−オロシ・ハイドラント (2003/5/30 20:43:43) No.26108
 ┣悪魔だけが笑い続ける−オロシ・ハイドラント (2003/6/3 17:16:34) No.26132
 ┗後書という名の、非常に見苦しい言い訳−オロシ・ハイドラント (2003/6/3 17:22:50) No.26133
  ┗そして、サッパリ精霊が輪になって踊る−エモーション (2003/6/4 22:09:36) No.26143
   ┗Re:欠陥だらけ−オロシ・ハイドラント (2003/6/5 17:10:47) No.26145


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26032渇きの夜想曲2オロシ・ハイドラント 2003/5/22 21:03:02


こんばんはラントです。
渇きの夜想曲2をお送りいたします。
新ツリーにさせていただきましたが、舞台は同じだけど、続編ですが連載の続きではなく主人公も違うし、著者別に三部作として飾りたいので……。
すみません。

今回、結局駄小説でしかないのでしょうけど、それでも力入れてみました。
内容も、邪道ながらもミステリーになったと思います。

『かつてディルギアの住んでいた古城に訪れたゼルガディス達。
だが死体だらけのその城を探検中、殺人事件が発生した。
犯人は城に巣食うものの仕業か? それともこの中の……』

という感じの物語です。
一応、犯人当て付きです。
いわゆるトリックとかは私の知能では無理でしたし、論理的に解けるというものにも出来ませんでした。
ミステリーの方向をいこうとは思わないので、単に伏線の練習として書いただけです。
読んでくださると大変嬉しいというか浮かばれます。(まだ生存)
吸血王ディルギア読まないと、最後の方は分からないと思いますけど……。

ちなみにタイトルは変更されて
『ゼルガディスと吸血王の車輪』
となりました。

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26033プロローグオロシ・ハイドラント 2003/5/22 21:03:39
記事番号26032へのコメント

 車輪は廻る。
 音は立たぬ。
 沈黙のまま、車輪は廻る。
 闇の中で、廻り続ける。
 自分がその中心に立つのかと、男は闇に問い掛けた。

 悪魔は嘲笑う。悪魔こそが絶対者。

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26034始まりの雨に愚者は彷徨いオロシ・ハイドラント 2003/5/22 21:04:50
記事番号26032へのコメント

 もの言わぬ木々。あまりに密集している。
 夜陰に舞い、ざわめく小鬼はすべて幻。
 耳を澄ませば、木々が絶望を歌うのみ。
 だが突如疾風が吹き付け、世界を揺らした。
 恐怖にも似た驚き。
 覚醒されていく感覚。
 そして、嘲笑うかのように、暗天の霹靂。
 鳴動。救いの声が無数に返った。
(……まずい)
 冷たい感触。
 不快にも、浸透する水。
 雨を合図に、男は駆け出した。
 硬い土が反発し、ブーツを越しに、骨へと振動。
 呼吸が荒ぶる。リズムの変動。
 だが、それでも走り続けた。
 迫るように二度目の雷鳴。
 勢いに乗じて強まった雨。
 それでも、天に追われる青年は、跳躍しては、木の根をかわし、身体をそらし、木の葉を避けて、木々を越える。
 獲物へと、迫って来る暴風。
 それでも必死で、走り続けた。

 迷走につぐ、迷走。
 焦りが膨らみ、心を苛む。
 しかし、それでも木々を掻き分け走り、歩き、迷い続ける。
 雨が降り続け、身も心も凍てつかせた。
 呼吸さえも辛い中、それでも必死で森を走る。運動神経は度々男を裏切って、転倒させもするが、しかし挫けない。
 その行動に囚われていた。雨から、森から逃れることに。
 そしてやがて……
(……ここは?)
 森の深遠へ。
 巨大な木々に、囲まれた空間。
 夜空には、蒼白い月。
 それが照らす地上、そこには……
(……あれは?)
 驚きの渦を掻き立てる、現実的な幻想があった。
 雨の幕から覗くは、蒼く輝く、荒れた巨城。
 誘うように、開かれた入り口の扉が、風に揺れている。
 すでに、男は車輪の中?

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26035邂逅の刻に運命は廻るオロシ・ハイドラント 2003/5/22 21:08:44
記事番号26032へのコメント


「なあ……森林伐採に、攻撃呪文使ったら面白いと思わないか?」
「何、馬鹿なこと言ってるんだ? ……下手なことすると、山ごと吹っ飛ぶだろうが」
 否定され、先の男は笑いを上げた。
 比較的穏やかな顔付きだ。印象の薄い黒髪に、茶色めいた黒の双眸。
 口調も、どこか穏やかで、控え目な印象を与えている。歳は二十にも見取れるが、三十ほどが妥当であろう。
 反して獅子に似た、赤毛の美丈夫。
 同じく年齢は定まり難いが、先の男と大した違いはないであろう。
 彼らは喧騒が響き渡る食堂の、一区画に位置する円卓を囲んでいる。ビーフシチュウとワイングラス、フレッシュサラダに、ゼフィーリアン・ブレッドがそれぞれ二組ずつ、置かれてた。
 赤毛の男は、
「……分かってるよ」
 と言う声を受け入れ、そして、
「それにしても、ゼフィーリア・ワインは最高だな」
 手元のグラスを手に取り、唇へ……。
 芳香が漂い、脳内に美しい旋律が流れた。
「おいおい、ゼフィーリアは初めてって言わなかったか?」
「………いや、関係ない。とにかく俺はワインには詳しいんだ」
 赤毛を撫でつつ自信気に言い、焦れていた液を注ぎ込んだ。
 熱された舌が濡れ始め、渇いた喉には雨が降る。
「やっぱり、これだよな」
「後、悪魔城だろ?」
 だが相方の言葉は、極彩色の絵画――あるいは、流麗な管絃楽曲――の感動を急速に冷まし、
「何、くだらないこと言ってるんだ?」
 悪酔いにも似た、醜悪な声を吐き出させた。
「悪い」
 黒髪の男は、意味も分からず謝り、水を含んだ後に、微かな音で舌打ちした。
「とにかく、生きて返れないかも知れないんだ。最期くらい静かに酒を飲ませろ」
「……そうか」
 さして責めることもなく、静かにした。
 だが、
「何か、話せよ」
 男には矛盾とも思えるような言葉が飛び出し、
「おいおい、どういうことだよ」
 思わず、そう発した。
「景気悪いだろうが。俺の剣が機能しなくなるぞ」
「幽霊には、私の力だろ」
 そして、さらに切り返す。同時に、ビーフシチュウの一端をほじくった。
「そうか? お前のコンニャク精霊魔道よりは、俺の魔力剣の方が数段凄いぜ」
「ひどいな」
「事実を、言っただけだ」
 それは、からかうようにも、なだめるようにも取れる。
 それに不快感を覚え、黒髪の男は押し黙る。
 赤毛の男は舌打ち一つし、一気にワインを飲み干した。
「おい、ワインもう一杯頼む」
 そして、通りかかった店員に向けて、少し乱暴な声を掛ける。
「あっ、はい」
 その時であった。
 店員が去ってすぐさま、彼らに接近して来た男が、
「相席……良いか?」
 訪ねて来た。白ずくめの、顔を隠した華奢な男だ。
「空いてる席があるだろう」
「違う。……あんたらに、用があってな」
 喧嘩腰な男を押しとどめ、
「あんたらも悪魔城にいくクチだろう」
 そして彼らの頷きを見ると、
「同行しないか?」
 懐から無造作に金貨を取り出し、卓へと落とした。金貨はしばし舞い踊り、輝きを振り撒いた後、力尽きて制止する。
「一枚か?」
「不服か?」
 残念そうな声。哀れみにも似た。
「……ラガー金貨、だな」
 だが、黒髪の男は笑みを見せていた。
「何だ? ……それは」
「とにかく価値のある金貨だよ」
 言われて、赤毛の男も顔を綻ばせ、それでも静かな口調で、
「まあ……良いだろう」

 黒髪の男は、アマード。
 赤毛の男は、ヴラド。
 それぞれ、剣士と魔道士をやっているらしい。龍やデーモンを倒したこともあり、ともに十年以上の経験者だとヴラドは言う。出会ったのは半年前らしいが……。
 彼らに白ずくめの男は、ゼルガディスと名乗った。
 ゼルガディスは、蒼白い肌に岩石の鱗を付けられ、針を思わせる髪を生やした異形の男であった。顔を隠すのもそのせいか。また、歳は二十半ば過ぎほどで若いが、どこか冷静沈着な風貌を持っていた。

 悪魔城が発見されたのは、五年前となる。
 森から帰らない友人を探しに向かった男達が、友人の死体とともに、発見した城がそれであった。
 その帰り道、彷徨いの果てに命を落としたものさえいたという。
 その後、噂となり、当時より数年前に起こった失踪事件とも関連付けられた。
 探索するものも度々いたが、帰るものは少数で、誰もがすぐに逃げ帰ったものだった。
 やがて、噂は幻想を生む。
 数多の魔道書や、魔法道具などが隠されているのだと、言われた。
 だが反面、魔道士の霊、吸血鬼、魔族、さらには、首だけの男、舌の長い女、ヤカンの化け物、ブリッジして歩く少年、求愛するパンダ、体臭の臭い老人などが住むとされ、ひどく恐れられていた――後半は低俗な冗談でしかなかろうが――。
 それでも城に挑戦するものは常に存在する。
 ゼルガディスは、異形の肉体を元に戻すため、そしてヴラドも同じ魔道の秘儀を求めるものだと、名乗っている。

 彼らは支度を整えた後に、馬車に乗って目的地を目指した。
 ヴラドは黒革の軽鎧。アマードは着替えをしていないようで布の服のまま。
 そしてヴラドと、白ずくめのままのゼルガディスは、それぞれサイズの違った剣――ヴラドは大剣を使用している――を持っていた。
 冷気を微かに孕んだ風が、さらに現実感を強めていく。
 彼らは沈黙。
 さほど時間も掛からずに、陽の衰え始める刻には、馬車は止まっていた。

 森の開拓はさして進んでおらず、その森が深まる点で馬車は引き返す。
 そして軽量の荷物を持たされて、彼らは放置された。まさに構図はそれ。
 だが、不吉な感情を振り払う。
「さてと、ここからだな」
「ああ……どうする?」
 ゼルガディスは、その二名を冷静に観察していた。
 風が吹く。木々が揺れた。
 ざわめきが幾重にも、谺(こだま)する。
 森の闇が垣間見えた。
「目印を辿るんだよ」
 ヴラドが言った。
「目印か」
「ああ。……とある探検家が城までの目印を残していった。」
 その口調は、物語を語るよう。
「その探検家も結局迷いまくってるわけだし、最短距離ではないんだが、確実に辿り着けるはずだぜ」
「……どこで知ったんだ?」
 だが、入り込むゼルガディスの声。穏やかだが、刃を仕込んでいるようにも感じ取れる。
「俺の情報網を疑うのか?」
 だが、高圧的な反論に、
「まあ良いだろう。」
 言葉の波は止んだ。

 木々を掻き分け、彼らは進んでいった。
 標は木の幹に記された曖昧な目印。
 何度も草が、悲痛にうめく。
 彼らは細かな目印を見逃さず、曖昧な標を信じて、歩き続けた。
「それ、本当に目印か?」
 そんな声も、時折混ざるが、
「ああ、間違いないさ」
 ヴラドは確信しているようだ。
 そして陽の落ちる頃には、拓けた地に辿り着いていた。

 覆い囲む高い木々の中で、無言の城。
 燃え上がる空の下、哀しげな風が鋭く吹いている。
 感慨は到達によるか? あるいは……。
 遥かなる過去に果てた栄華は、数多の幻想を彼らに与える。
 そして想像した虚像が、自分の過去と重なることも……。
 だが、感動はすべてを思い起こさせる。恐怖さえも……。
「いくか?」
「そうだな」
 ゼルガディスは無言。
 後に続いた。

 扉は閉ざされている。古びた木の、黒い扉だ。
「開けるぞ」
 ヴラドの声は強く聴こえた。
 そして、取っ手に手を伸ばす。
 瞬間、
「……二名様?」
 届く澄んだ声。
 千里に響かん如しその美声に、彼らの心が揺さぶられる。
 思わず振り返ったヴラド。
「……誰だか知らんが、三名様だ」
 淡い夕闇に映える影。
 それが見せた実体は、
「……あら、冷たいのね」
 三十路程度の、艶やかな美女。
 太陽の残滓に照る黒髪に、豊満な乳房を明かす白と黒の混ざり合ったドレス。寒冷な風に煽られている。
「……ヴェールか」
 その表情の意味は読み取れなかった。
「知り合いか何かか?」
 ヴラドはしばし俯き、風に煽られた髪を整えて、
「……昔の恋人だ」
 美女を見詰めるまま、言った。
 美女は黙っていたが、
「ええ。……そうよ」
 すぐに頷いた。慌てた素振りなどはない。
 そのまま、歩み寄り、
「……何年になるかしら?」
「……二、三年ってところか」
「そうね」
 会話を交わす。
 不自然ではなかったが、情景に似て寂しげな美女の声は、何かを感じさせる。
 それは刃? そうならば、それが向く方向は?
「ところで……」
 だが、不意に感じる視線にゼルガディスは、現実へ引き戻された。
「何だ?」
 遅れて返した声は、どこか滑稽。
「初めて……かしら?」
「馴れ馴れしい態度は止めてくれ」
 しかし、それでも冷たく言い返した。感じる安堵。
「……そう」
 小さく微笑み、
「……いくの?」
 全員に向けた声を掛けた。
「当然だろ」
 ヴラドが、やや強まった声を放つ。
「……私も同行させてもらうわ」
 断る声はなく、ゼルガディスも同意した。

 美女――ヴェールにより、扉は開かれた。
 闇へと走っていく光。
 だが黄昏ではそれも希薄で、内部は黒く染め上げられていた。
 微かに蠢く闇の粒子。
 アマードが、明かりを灯した。闇が逃げていく。
 そして露となった世界には……。
「美しいわね。……ねえ、ヴラド」
 ヴェールが、男を見詰めて囁く。狂気じみた恍惚。
「……冗談だろ」
 困惑げなヴラド。頭を掻いた。
 爛れた金髪の男が倒れていた。それが一目で死体と判断出来た。
 仰向けとなり、腐敗した肉片を晒している。一見外傷はないが、悲痛はひどく伝わって来る。
「無惨としか言えないな」
 ゼルガディスが呟いた。だが衝撃はさほど重くない。
「……ヴラドは趣味だと、思ってたけど」
 ヴェールは、笑った。
 ヴラドは、棘を含む視線を浴びせる。
 ゼルガディスは死体を見続けた。
 城の第一発見者は、黙していた。

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

 これで大体プロローグといったところです。
 これ以降はまた違う日に……。
 ああ最近ちょっと不調かも。

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26146致命的ミスオロシ・ハイドラント 2003/6/5 17:14:23
記事番号26035へのコメント

剣士がヴラドで、魔道士がアマードでした。
見直したのに……。何度も見直したのに……。
なぜ気付かなかったんだろう。

すみません。

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26043そして死神は地に降りて―魔―オロシ・ハイドラント 2003/5/23 16:50:48
記事番号26032へのコメント

 
 荒れ果てた城内。
 寂しげな冷風が、身を刺す。震え出した心は現実に放り出されて、命あることを認識し、恐怖を覚えた。
 死体は無視した。
 先頭をヴェールが導くように歩く。やがて止まった。
「ここよ」
 薄暗い城内は数多の幻想を生み出し、嗜虐の笑みを彼らに向け続けていたが、それがさらに膨らみ始める。
 回廊の隅に隠れていた真実の無明。地下へと続く階段が見えた。
「……ここからが、本当の悪魔城よ」
 その甘美な口調が誘うのは恐怖。
 だが彼らは、動じた様子もなく、
「いこうぜ」
 ヴラドの声により進んだ。
 内に恐怖はどれほどあろうか。それとも、恐れぬか。

 カツゥン……カツゥン……
 闇を引き裂き、石の階段を下り続ける。
 闇を越えれば、さらに闇。その繰り返し。それは永遠にも似た……。
 だが、不意に飛び込んだ光。

 地下回廊を照らす明かりは朧げで、幻覚を生み出させん如し。
 その神秘的に紅い焔達がもたらす感動は凄まじきものであろう。
 しかし、彼らは無言で歩く。
 焔などの小さな波紋ではなく、さらに巨大な魅惑の渦に引き込まれるように……。
 恐怖は今もあったであろうと思われる。しかしより強い恍惚感。
 紙一重な悦楽。表にそれが垣間見えた気がした。
 少し歩いていると、死臭が鼻を刺した。遅れて古き骸が姿を見せる。生前は美女だったと見取れる。
 だが構うことはなく、無視するように蒼ざめた女の屍の元を過ぎ去った。逃げ去るようにも、また見えた。

「ここで休むか?」
 ヴラドの声が、静寂を染めた。
 迷宮とも言える回廊の中で、発見した扉。その奥には微かな明かりが灯っていた。
 小部屋だったが、それでも四人程度ならば充分すぎるほどに横たわれるスペースを持っていた。それに死体は置かれていない。
「そうね」
 ヴェールが頷くと、
「……探索は明日かい?」
「ああ、お前も疲れただろ」
「私は、そうでもないけどね」
 ヴラドとアマードは寄り合い、ゼルガディスは独り、部屋の奥の方に座った。

 そして、持ち込んだ食料で夕食を取り、そして所持して来た寝具を並べる。
「……こっち側、来ないでね」
 離れた位置にいたヴェールが、冗談めかして言う。だが、今も寂しげな面紗(ヴェール)に覆われたまま。
「……私は、いくかも知れませんけどね」
「この変態っ!」
 言い返すアマードをヴラドが小突いた。どこか笑顔に翳りが見えたが……。
 薄光の中で、闇が訪れる。
 恐怖の残滓が残っていたが、それでも安堵に身を任せた。
 死神の足音が聴こえる。錯覚として打ち消そうとする。
 いつしかゼルガディスは眠りについた。
 夢は過去の姿に酷似して、だが脚色されて、誇張されていた。

 引き戻される。覚醒する。
 声が響いている。脳を打ち据える巨大な喧騒。
「……ん、何だ?」
 そして、そこより伝わって来る危機感にゼルガディスは飛び起きた。
 風が冷たい。刺すほどに……。
 ヴラドが焦りを見せている。
「……おい、アマードが……」
 狼狽した彼を一瞥し、その後に部屋を見回した。
 すると……紅い血溜まりが視線を吸い込む。
 引き付けられて見た光景は……
「…………」
 布の服を身に付けた胴体が横たわっている。
 そこには首は存在せず、つまりは……
 場所は部屋の奥。ヴェールの寝具を汚している。だが、寝床から離れていたヴェールは平然としているように見えた。
「……三人が、残されたわね」
 そして、アマードであったものを見て呟く。
 ヴラドはどこか、悔やんでいるように見えた。真実は悟れないが……。
「……誰が、やったんだ?」
 ゼルガディスには誰も答えない。
「とりあえず、出よう。居心地が悪い」
 ヴラドの声に二人は従った。
 素早い手つきで荷物を回収し逃げ出すように部屋を去る。
 ヴェールはアマードの寝具を代用品とした。その彼女だけが落ち着いて見えた……。
 そして部屋にはそれが残された。
 
 三人は、アマードのことを追及しはしなかった。
 事実を受け止めてはいたものの……。
 ただ、謎は明らかに存在している。
 その真実は……?

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26044そして死神は地に降りて―神―オロシ・ハイドラント 2003/5/23 16:53:01
記事番号26032へのコメント

「全く。……ついてないな」
 その空間には、回廊のそれを凌ぐほどの死臭が漂っていた。
 そして薄明かりの下、激しい狂気が渦巻いていた。
 ヴェールに導かれたかのように辿り着いた場所は、この迷宮内に設けられた調理場であった。
 正面にまな板台、水道、こん炉、皿を入れる棚があり、左右にも小さめな台が置かれている。
一見整理された手狭な部屋は、静寂さを持っていた。
 だが、正面にある台の上のまな板に、切り刻まれて置かれている死体。
 そして左の台には、餡かけにされている生首がいくつも並んでいた。
 さらに、フライパンの上の焼死体。
 逆さ吊りにされ、壁に掛けられた人の肉塊。
 椀の中の水で溺れる首。
 魔道と科学の法を結集させて、造り出されたであろう、地下迷宮の調理場は地獄絵図を描いていた。
「……ひどい」
 ゼルガディスは目を背けようとした。
 だがその先でも、彼を睨む首。壁に吊るされていたそれは、生前の美しさを知らしめながらも、残してはいない。
「おい。あれは……まさか」
「何?」
 驚愕も、死者達を平然と見詰め続けていたヴェールには浸透しなかった。
 だがゼルガディスはつられるように、見やる。
 探し当てた場所は、部屋の奥、水道の箇所に存在する溝。
 その場所を覗き込めば……
 衝撃が走った瞬間には、ヴラドはそれへと接近していた。
「……アマード」
 その首は、あまりに安らかに見えた。ヴラドは悲壮感を漂わせている。
 続いてヴェールが接近していく。
「辛い?」
 掛けた声は、空間を身震いさせる。そしてヴラドが彼女を睨みつけた。
「まあ……良いわ」
 ゼルガディスだけが、直立不動だった。
「……誰が……やったんだ?」
 力を込めて呟く声。
 だが、
「……全く、凄い演技ね」
 対するヴェールの声は冷静すぎた。
 殺気が見える。それを感じた美女は、
「ごめんなさい」
 同じ口調でなだめた。
「でも本当に上手よ」

「どういうことだ?」
 夜が訪れていた。
 とはいえ、照度は常に変わらず、感覚による日暮れ。
 彼らはあの後も徘徊し、ようやくこの場所を発見した。見つけたのは、あたかも意図されたように疲労の限界時であった。
 先日眠りについた箇所に似ている空間で、もしや対成す場所なのかも知れない。
 微かな明かりの中、二人の狭間でヴラドが規則的な寝音を奏でている。だがどこか、騒がしい。
「何?」
 ヴェールの声は変わらない。眠気を感じているようにも見えなかった。
「あんたは知っているのか?」
 ゼルガディスはそんな彼女が恐ろしくも見えていた。
「何のことかしら?」
「……アマードを殺したやつのことだ」
 力を込めてしまう言葉。脅えて牙を剥く狗のように……。
心で自嘲した。
「ふうん。……ヴラドのことじゃないのね?」
「何の話だ?」
「知らないの?」
 それは、軽い驚きに見えた。
「……もしかして、恋人ってこと信じてたの?」
「だから何の話だ?」
 ゼルガディスは、怒り、焦れていた。
「ディルギア公は……知っているわよね」
 だが感情は吹き飛ばされる。
 ゼルガディスは絶句した。
「私が三人目で、彼が二人目よ。私が二人目で、彼が初代という考え方もあるけどね。まあ、あなたが四人目じゃないなら忘れて良いことよ」
 そしてヴェールが倒れ込むのが見えた。
「でも、もしかして……あなたが中心なのかも知れない。」
 最後の言葉を心に留めて、ゼルガディスは虚空を眺め続けた。
 訊ねることを忘れていたことに気付いたが、かぶりを振って忘れることにした。
 やがて時が経ち、睡魔が襲う。
 やがて眠りについて……夢を見た。
 
 一人の人狼がいた。
 ゼルガディスはその存在を知っていた。
 従者でもあり、仲間でもあり、敵でもあった。
 そして今ならば、友と、そう呼べもする。

 翌朝……ヴェールが死体と化していた。
 あまりに凄惨な光景であったが、首は残っていた。
 表情は安らかにも見えたが、雄弁な血はそれを隠すようだった。
 また、アマードの胴体であったものが発見された時もそうだが、荷物から気になるものは見つからなかった。
 刃物による殺害のようだが、二人の剣が使われた様子もない。それを誤魔化す術はないことはないのだろうが……。

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26045犯人当てクイズについてオロシ・ハイドラント 2003/5/23 16:57:06
記事番号26032へのコメント

 こんばんはラントです。
 さて、この事件の犯人は誰でしょう。
 まあ、容疑者の中に必ずしもいるとは限りませんが……。
 ちなみに、決定的な証拠は存在しないと思われます。
 これも私が未熟なため?
 というわけで、不自然な文章やセリフなどから犯人を導き出してみてください。
 難度は不明です。難しいと判断すればヒントを出します。
 ただスレイヤーズ知らない方には解けないかと。(二次創作ですから)
 正解者には短編リク一つを差し上げ、私のHPで大いに讃えたいと思います。(辞退可)

 解答は何回でも変更ありです。
 期限は後ほど決定させていただきます。

 それでは、自信のある方どうぞ。

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26052サッパリ精霊が周囲を飛び回っております(汗)エモーション E-mail 2003/5/23 22:45:33
記事番号26045へのコメント

♪サッパリだ、はあ〜、サッパリサッパリ〜♪ ←サッパリ精霊の踊りが最高潮です。

こんばんは。

のっけからサッパリ精霊が周囲を飛び交っております(汗)
このお話の時間設定は、ディルギアが悪魔城にいたころから、何年(あるいは何十年?)か
経っているのでしょうか?
これは謎解きとは関係ない、単なる質問なのですが。
……ゼルって、イマイチ歳を取るのか取らないのか分からないので、ハイドラント様の方では
どうなっているのかなと。私の方ではとりあえず、人より少し遅いペースで
歳を取る事にしていますが。

謎解き犯人当て……難しいです〜。疑問に思う点はあっても、サッパリ精霊が
周囲を飛ぶくらいですから、点と線が結びつかないです。
ヴラドさんは名前がもろ「吸血鬼」を連想させてますね。ミスリードなのかと、
思わず穿っちゃいます。
ヴェールさんの言った「彼」が「ディルギア」ではなく「ヴラド」さんの
ことじゃないかな、という気がしていますが。
単純に考えれば、生き残った2人のうち、どちらかなんですよね。消去法では。
そしてまずゼルには動機がない。どちらにも関わって2日程度で、特にトラブルも
なかった。
ヴラドさんはどちらともそれなりの関係がある。でも例え動機があったとしても、
今ここで殺す理由がないんですよね。
だから動機はあってないようなもの。本当に〃犯人〃の意思で行われているのかどうか、
怪しいものですし。

首を切断したもの……魔族はこれくらいすんなりやってのけますよね……。
呪文なら……近いのはブラム・ガッシュ……でもこれは無数のカマイタチで
切り刻む呪文だし……。ブラム・ファングは殺傷能力ない……。う〜ん。(ぷすぷす)
♪はあ〜、サッパリサッパリ〜♪ ←またサッパリ精霊が踊ってます。

……しくしく、解けません〜(泣)ストレートにヴラドさんかな、とも思うのですが、
実はゼル(知らない間に操られてた)の可能性も浮かんじゃうので。

あと、すみません。ちょっと台詞でゼルとヴラドさん、この2人は話し方が
基本的に同じなので、どちらが言ったのか、分からない台詞がありました。
(悪趣味な台所の場面の台詞です)
ミスリードを張っているのかなとも思ったのですが、モノローグ等ではない場面なので
どちらの台詞か分からないのはちょっと……。

それでは、サッパリ精霊を周囲で踊らせつつ、続きを楽しみにいたします。
では、失礼いたします。

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26065Re:地の文にヒントがあったりするような気が……オロシ・ハイドラント 2003/5/24 14:02:42
記事番号26052へのコメント


実は、メルカトル作の「ノスタルジア」を参考にしてたり……
>♪サッパリだ、はあ〜、サッパリサッパリ〜♪ ←サッパリ精霊の踊りが最高潮です。
>
>こんばんは。
こんばんは
>
>のっけからサッパリ精霊が周囲を飛び交っております(汗)
忘れるのも吉……かも。滅茶苦茶卑怯な真相ですから……。
>このお話の時間設定は、ディルギアが悪魔城にいたころから、何年(あるいは何十年?)か
>経っているのでしょうか?
ええ6,7年ほどだと思います。
>これは謎解きとは関係ない、単なる質問なのですが。
>……ゼルって、イマイチ歳を取るのか取らないのか分からないので、ハイドラント様の方では
>どうなっているのかなと。私の方ではとりあえず、人より少し遅いペースで
>歳を取る事にしていますが。
私は普通通りですけど……。
邪妖精がどんな要素を持っているかは不明ですけど、人間としての部分はどんどん衰えていくような気がします(まだそんな歳じゃないけど)
>
>謎解き犯人当て……難しいです〜。疑問に思う点はあっても、サッパリ精霊が
>周囲を飛ぶくらいですから、点と線が結びつかないです。
実際、ダミーな手がかりも多数ありますし。
一定の人を疑って、無理な解釈でもしていけば、もしかしたら分かるかも……小さな手がかりを逃さぬように……。
>ヴラドさんは名前がもろ「吸血鬼」を連想させてますね。ミスリードなのかと、
>思わず穿っちゃいます。
あら、分かっちゃいましたか。……名前思いつかなかっただけですけど。
>ヴェールさんの言った「彼」が「ディルギア」ではなく「ヴラド」さんの
>ことじゃないかな、という気がしていますが。
ええその通りです。ディルギアについては合間に訊ねただけなので……。
まあ、あそこは微妙ですけど……。(HP公開用は修正しておきます)
まあ誤解しても犯人と関係ないといえば、ないんですけどね。
>単純に考えれば、生き残った2人のうち、どちらかなんですよね。消去法では。
さあ? ……どうでしょうか?
>そしてまずゼルには動機がない。どちらにも関わって2日程度で、特にトラブルも
>なかった。
一見はそうですね。
>ヴラドさんはどちらともそれなりの関係がある。でも例え動機があったとしても、
>今ここで殺す理由がないんですよね。
いやここで殺す理由がないとは一概には言えないと思います。
ここなら、殺してもまず犯行はバレないでしょうし……。
>だから動機はあってないようなもの。本当に〃犯人〃の意思で行われているのかどうか、
>怪しいものですし。
意思……一応意思でおこなわれているともいえないこともないでしょうけど、動機などは推測の域を出ないので、あまり考えないほうがいいと思います。(それゆえにヒントがないのですから)
>
>首を切断したもの……魔族はこれくらいすんなりやってのけますよね……。
>呪文なら……近いのはブラム・ガッシュ……でもこれは無数のカマイタチで
>切り刻む呪文だし……。ブラム・ファングは殺傷能力ない……。う〜ん。(ぷすぷす)
>♪はあ〜、サッパリサッパリ〜♪ ←またサッパリ精霊が踊ってます。
ううむ惜しいような、違うような……。
>
>……しくしく、解けません〜(泣)ストレートにヴラドさんかな、とも思うのですが、
>実はゼル(知らない間に操られてた)の可能性も浮かんじゃうので。
さてどうでしょうか?
真実は意外だとは思いますけど(でも詐欺的かも)
>
>あと、すみません。ちょっと台詞でゼルとヴラドさん、この2人は話し方が
>基本的に同じなので、どちらが言ったのか、分からない台詞がありました。
>(悪趣味な台所の場面の台詞です)
>ミスリードを張っているのかなとも思ったのですが、モノローグ等ではない場面なので
>どちらの台詞か分からないのはちょっと……。
最初は口調似ているのは少し意味を持っていたんですが、修正して消えて口調だけがそのままになってしまいました。
「全く。……ついてないな」
は、確率的には口数の多そうなヴラドのセリフです。
別にこれは読まれた方の推測で構わないと思います。
「……ひどい」
はゼル。後の目をそむけた行動から考えて
「おい。あれは……まさか」
これはヴラドです。ゼルガディスはつられて見たのですから。ちなみに何?、はヴェール。
「……アマード」
これはヴラドです。ゼルガディスはあんまり他人の名を呼ぶように思えないし、親しい(と思われる)ヴラドが言ったものと考えたほうが自然かと
「……誰が……やったんだ?」
ヴラドですねこれも……。直立不動で固まったゼルよりヴラドの方が力込めて呟きやすそうですし……。
ってこれだけ解説入れないといけない文なんてダメですよね。
客観的に見られると随分違うものだと思い知らされました。
やはり難しいです。
今回は、自然な方で取ってくだされば(おい)

>
>それでは、サッパリ精霊を周囲で踊らせつつ、続きを楽しみにいたします。
>では、失礼いたします。
それでは……次回は遅れると思いますけど。
どうもありがとうございました。

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26108檻の中には道化が残りオロシ・ハイドラント 2003/5/30 20:43:43
記事番号26032へのコメント

「これで二人か……」
 死者を見下ろす視線は、ひどく感傷的であった。惨たらしさを忘れたかのように、ゼルガディスは見詰め続けていた。
「そうだな。……全く、巧いやり方だぜ」
「どういうことだ?」
 笑みを浮かべるヴラドに、ゼルガディスはすぐさまその双眸を向けた。
「あんただろ」
 その、ヴラドの言葉には棘。
「あんたしかいない。そうだろ」
「……自分を棚に上げる気か?」
「当然だろう。俺は自分がやってないと分かってるからな」
「くだらない。……証拠はあるのか?」
 すると、ヴラドは邪な笑みを浮かべ、
「なら訊くが……なぜ金払ってまで、俺達を誘ったんだ? 腕の立つ剣士サマがよ」
「……警戒心だ」
 しかし冷静に切り返す。
「……だが、あんたは一度ここを訪れたことがあるだろう。なあ、ヴラドさんよ」
「……あんたも、だろうがな」
 ヴラドの言葉に、ゼルガディスは頷いたが、
「……だが、恐らくあんたが先だ。あんたが二人目。あの目印もあんたのものだろ?」
 続ける。
「一応、そうなる。……俺が――偉大なるディルギア公を除けば――事実上の第一発見者だからな」
「あんたこそ、アマードとやらを連れ込んで殺すつもりだったんだろ」
「殺そうとは思ったさ。だがやったのは俺じゃない」
「……まあ、良い。口論では犯人は分からん」
「そうだな」
 二人は同意した。
 睨みあう。視線がそれを伝え合い、そしてヴラドが懐を漁り始めた。
 ゼルガディスはその仕草の断片さえも逃さずに見る。
 瞬間、空中に光が舞った。
 それを目で追い、腕を伸ばす。
 掴み取ったそれは一枚の金貨。
「……表に出ろ」
 ラガー金貨を受け取ったゼルガディスは、ヴラドに続いた。

 両者ともに今気付いたのだが、回廊は決闘には充分な幅を持っていた。
 時折、空気に運ばれる異臭が鼻を襲うが、血染めの小部屋よりは充分に良好だ。
「……ずっと、あんたとやりたいと思ってたぜ」
「……俺は、興味ないがな」
 そして互いに剣を抜く。白刃より閃光が迸った。
 そしてヴラドは床を蹴る。空気を切り裂きゼルガディスへ迫った。
 キィン!
 抜刀と同時に、片手でヴラドの大剣を弾く。
 そして退くと同時に、下方を狙った追撃をゼルガディスはうまくかわした。
 ガキィン! ガキィン!
 正面で打ち合う。
 だが、ヴラドは捨て身覚悟で脇腹に向けて渾身の一撃。
 ゼルガディスは身を捩ったが、
「ぐっ」
 傷が走り。遅れて激痛。
 不安定な足で後方へ跳び、さらなる斬撃をどうにか、かわした。傷口は燃えるよう。
 ガッキィィン!
 そして歯を食い縛り、刃を放つ。
 浅い傷など忘れ、獅子の如く獰猛に、嵐の如く華麗で無情に剣を振るい続ける。
 金属音が何度も地底に響き渡り、そして勢いをつけた一撃は、ヴラドの腹部を一閃した。
 ヴラドは背後へ跳び、かわそうとしたが、それでも血は、激流の如く溢れ出る。
「やるな」
 だが、ヴラドは痛みを堪え、賞賛の笑みを向ける。
 ゼルガディスは追い討ちのための駆け出したが、
「甘い」
 ヴラドはダメージをものともせぬ勢いで、剣を打ち据えた。
 その強烈な一撃にゼルガディスの剣は悲鳴を上げる。
 腕の痺れは脇腹の傷に伝わり、彼はうめく。
 さらなる一撃に体勢を崩され、ゼルガディスは倒れ込んだ。
「……頑丈な剣のようだが、俺には勝てんぞ。合成獣!」
「貴様……」
 そして振り下ろされた一撃は、ゼルガディスの回避によって、左肩へと至った。
 残酷無比な刃は、冷酷な笑みを浮かべ、ゼルガディスの腕を削ぎ落とす。
 ザクッ!
「ぐあああああああああああああ」
 凄まじい激痛が襲い掛かった。
 さらにヴラドの蹴りの痛みは全身に響き、腕を失った肩は絶叫を上げる。
「……とどめだ」
 そしてヴラドの剣は、ゼルガディスの首元へ。
「ライティング!」
 しかし、それでもゼルガディスの解き放った魔術は世界を焼き、ヴラドの目を晦ませる。
「はあ……はあ……」
 そして息を整え立ち上がり、片手で剣を振り払った。
 光の狭間から、ヴラドのものであろう、鮮血が見える。
 片腕のゼルガディスは、焦りに取り憑かれ、必死で攻め込んだ。
「無駄だ!」
 だが、さらに傷を得たヴラドも、怒りを持ってゼルガディスへ斬り付けに掛かる。
 刃が交差した。
 ガッキィン!
 力負けし、ゼルガディスは吹き飛ばされたが、それでも、
「エルメキア・ランス!」
 どうにか、魔法を紡ぎ上げる。
 光の槍は空を切り、ヴラドへと至った。
 しかし、
「無駄だ!」
 剣を翳せば、光はそこへ吸い込まれる。
「魔力剣……か」
 仰向けに倒れたゼルガディスが呟く。
 肩は血を吐き出している。命の水が失われていく。
 だが、死に晒されてこそ、生への欲求。
「負けるか!」
 全身全霊で立ち上がった。
 滲み出る苦痛をすべて、跳ね除けて……。
 体勢を崩し掛けたが、それでも整え、歯を食い縛り、剣を打ち出す。
 ヴラドも同じく斬撃を放っていたが、敢えてそれを受け、深く切り込み、片腕の 剣士はヴラドの首を、素早く切り裂いた。
 鋭利な剣は硬い骨をも切り裂いて、またヴラドの剣は奇跡的にもゼルガディスをそれた。
 片腕の一撃は、神業ともいえた。

「……やはり……お前……か……」
 ヴラドの最期の声。
 一点に、向けられた怨嗟。
 しかし、
「……違う!」
 ゼルガディスは首を振った。呪いを吹き飛ばす。
「……だが、俺が絶対者だ」
 そして誰もいなくなった城内で、ゼルガディスはそう告げた。


 ゼルガディスはその文を思い出していた。
 「悪魔城の歴史:第二期」の巻末、数年前にこの城で見たその文を……。

『我は今も汝の友だ……
 ゆえに哀れなる汝にこの秘術を捧げよう……
 まあ堅いことは置いておこう。
 お前の求む術は存在する。
 方法は簡単だ。本文で紹介した『秘薬』を飲んで、以下の呪文を唱えるのみだ。
 DU(ダーウーク)DOROS(ダーゼンレメー)OS(ザンメシーン)
 ……これは神聖魔道を俺流にアレンジしたものだ』

 続いて、同じ書の別の一文を思い出した。

『俺を永遠に眠らせて欲しい。だから心あるものに守護を頼みたい。
 自ら以外のすべての侵入者を片付けて欲しいのだ。当然、存在するのならば、他の『守護者』も含めてだ。
 殺戮の車輪の『中心』に立ち、『絶対者』ともなるのだ。
 そのものに俺は、俺の叡智が生み出した『秘薬』を授けようと思う。
 俺の『秘薬』は、すべての苦を取り払うだろう。
 それは、俺の棺の中にある。
 だが、『絶対者』でないものには、けして渡さない。
 俺は答えを知っている。
 永遠の苦を恐れるならば、それだけは止めることだ。
 俺は……すべてを見ている』 

 恐らく、ヴラドが二人目。
 ヴェールが三人目。
 彼らもまた、ディルギアに誓い、中心を目指して戦ったのであろう。
 四人目の守護者である、ゼルガディスと同じように……。
 苦しみから、逃れようとしたのか?
 それとも殺戮に歓びを見出したのか?
 だが事実は闇に葬られた。
 彼らが「守護者」となった理由も、この事件の犯人も……いや、自分のことさえも分からない。

 ゼルガディスは、その場所へ向かっていた。
 車輪の中心に立ち、絶対者を名乗ることを許されたと、確信しているゼルガディスは……。
 すでに、腕は治癒呪文さえも受け付けない。
 死神の秒刻の中で、必死でその場所を求めた。渇き、泉を求めるように……。

――犯人は、誰だったのだろうか?
 ゼルガディスは考えた。
 ヴェールは知っていたのではないか?
 ……ヴラドだったのか?
 二人目であり、または初代である彼がか?
 ……初代?
 ゼルガディスは疑問を感じた。
 ヴラドを二人目と数える場合、初代がいるのか?
 そうだとしたら、それは特殊な位置の人物ではないだろうか?
 ……ディルギア?
 いや、彼女にとって、ディルギアは大いなる神のはずだ。人として数えるはずがない。
 それにディルギアは守護者ではないだろう。
 ならば……誰だ?
 だが、その初代が本当に犯人なのだろうか?
 それとも……まさか!
 それとも……自分自身?
 ゼルガディス自身が無意識に犯行を行なったのではないか?
 ついに、そんな説にまで至った。
 だが……ありえない。
 俺は殺してない。
 いや……もしや狂気に取り憑かれたまま……。
 そう狂気。この城にはそれが満ちている。
 人は元々、愚かな生きものなのだろう。
 だが、理性がある。知識がある。
 それが、進むべき道を照らす。
 ならば……それらが狂えば。
 そう殺戮の「車輪」とは……まさしく狂気の檻。
 車輪は未来へと進むことを象徴しているのだろうが、それはまさしく破滅の未来。
 絶対者も結局は、滅へ向かうのではないだろうか?
 そうだとすれば、俺は……狂っている?
 狂っているのか?
 ありえない。
 ありえない。
 ありえない。
 やってない。
 それにゼルガディスなのならば、誰が初代だというのだ?
 いや、なぜ関連つける必要がある。
 初代がこの城にいるのかも分からないし、すでに死んでいる可能性もある
 ならば……俺ということか。
 違う! なぜそうなるんだ――
 
 しばしして、ゼルガディスは思考を振り払った。
 再び走り出す。
 荒ぶる心を落ち着かせつつ。

 扉の奥は静謐に包まれていた。
 息を整え、呪文を唱える。
「ライティング」
 明かりを照らす。それさえも必死。
 その部屋には黒い棺が、たわっていた。
 小さな空間。
 だがこの迷宮の中心にして、主の眠る地。
 誰もがこの場所を避けていた。
 神聖なるディルギアの棺。
 ゼルガディスは何とか、棺を開けた。片腕のために体勢を崩しかけたが、持ちこたえられた。
 闇が一つの形を成す。
「……ディルギア」
 眠り続ける主を見た。
 その姿は彼の知るものとは違ったが、それでも面影を残してはいた。
 その腕には小さな瓶が置かれている。
 迷わず掴む。
 そして一度退いた。
 手元を覗く。
 瓶には液体が含まれている。紫の奇妙な液体だ。
――これが、すべての苦を消し去る薬か。
 呪文は覚えている。
 すでに勇気はあった。
 そして、たとえ狂気が住み着いていようと、姿さえ戻れば……。
 望みだったのだ。何ものにも変えがたい……。
 ゼルガディスは不器用な手付きで瓶の蓋を開けようとする。
 感情は一心。
 器用に指先だけで、蓋を外そうと努めた。
 だが、
(まずい)
 手は震え、瓶が落下。
 危機感。
 冷や汗が一気に奔流する。
 それでも、素早く手を伸ばした。
 掴み損ねる。
 しかし、諦めずに屈みこみ、二度目はしっかりと掴んだ。
 汗で滑り、再び落ちてしまいそうなその瓶を、口元へと……。
 喉に……液が染みた。
 不思議と甘味が、口の中を占める。
 そして、法悦感の中で、

DU(ダーウーク)

 彼は、呪文を唱え始めた。

DOROS(ダーゼンレメー)

 だが!
 
 不意に激痛。眩暈が襲った。
 背後から刃に貫かれたような感覚。
 まだ液の残った瓶は、地に落ちて破裂した。
 そして、ゼルガディスは倒れていく。
「貴様……だった……のか……」
 背後のそれに、その言葉を残して……。
 そして、命の火は消えていく。
(……ヴェールは気付いていたんだ)
 激しい屈辱と、微かな安堵を持って……。
(……そう……俺じゃない)
 ゼルガディスは死んだ。
 笑っていた。
 笑っていた。
 嗤っていた。
 ……首は嗤っていた。
 首だけの男は、いつまでも……。

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆
すみません。
すみません。
すみません。
こんなわけ分からんもので、クイズなんか出したりして
私が愚かでした。
考えてくださった方、本当にすみません。
でも……まだ犯人当てのチャンスはありです(まだ言うか)
首だけの男が何なのか分かれば、消去法で出てくるのではないかと

何か、この回投稿で即分かりか、意味不明か、どっちなのか微妙な感じになってしまいました。
それでは……。

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26132悪魔だけが笑い続けるオロシ・ハイドラント 2003/6/3 17:16:34
記事番号26032へのコメント

 ……首は嗤っていた。
 ……悪魔の首は嗤っていた。
「人間風情が絶対者となるなど、愚かなこと」
 ゼルガディスの骸を見詰める。
――所詮は定命の身。
――絶対者となることなど不可能。
「私こそが守護者にして、定められた殺戮の車輪の中心点なのだよ」
 嘲笑う。
 嘲笑う。
「ディルギア様の、神聖な寝室を汚すな!」
 そして突如、怒りを込めて、眩い閃光を吐き出した。
 ゼルガディスの姿はそして消える。
 魔族アマードの首だけが嗤っていた。

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26133後書という名の、非常に見苦しい言い訳オロシ・ハイドラント 2003/6/3 17:22:50
記事番号26032へのコメント


 犯人は……悪香月(全然違うが)こと、アマード。
 実はドラキュラの部下だったりしたりする。
 魔族で首が本体。胴体がダミー(アルテメ塔の人形魔族からヒントを得た)。
 スレイヤーズらしいとは「魔族が絡んでいる」という意味です。

 動機は守護者の淘汰と負の感情の摂取。

 ちなみに地の文にはアマードが死んだとは書いてない(卑怯?)
 ヴェール死亡時の「アマードの時も」も、「アマードが死んだ振りをして、これを似た状況を作り出したときも」いうことです。
 ヒントが異様に少ないのも「アマードが死んだ」と言わせないため。
 「分からないけどね」は魔族ゆえに……。

 後、細かい部分では最初は「彼ら」を使ってたけど、アマード退場後に「三人」に変わってます。
 厳密に言えば人ではないということ。
 ヴェールの「二名様?」も同じ意味。

 ついでに最初の方で、二人がゼルガディスにいろいろ紹介した時、「ヴラドが」と書かれてます。滅茶些細ですけどね。

 噂話も「首だけの男」という重要なことを提示しておくために書いたもので、ただギャグのために書いたわけではないです。

 プロローグでの「悪魔こそが絶対者」はある意味答え言ってるような感じ(かぁ?)。

 後、趣味の悪い調理場でのヴェールのセリフの「辛い」とか「迫真の演技」はアマードの首に言ってるセリフです。
 書いてる時は「うわっすぐバレるよこれ」と思ってたのにいざ投稿すると「うわっ分かり辛っ!」に変わってしまいました。

 本当にこんなものですみません。
 本当の本当にすみません。どうかお許しを……。
 某ノスタルジア以上に卑怯な気がしてしまいまして……。
 投稿遅かったのも、正解者出るまで待とうというよりは、続き見せると怒られそうで恐い、って方がかなり強い。

 にしても「ドラキュラの怨念」だとか、そういうものも取り入れれば良かったと思う今日この頃。

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

 さて、次回予告
 眠り続けるディルギアの元に依頼を抱えてやって来た謎の人物X。
 彼の依頼内容とは……。
 悪夢は果たして終わるのか
 感動(暫定)のシリーズ完結編。

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

 それではこの辺りで……。
 本当に皆様すみませんでした。

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26143そして、サッパリ精霊が輪になって踊るエモーション E-mail 2003/6/4 22:09:36
記事番号26133へのコメント

こんばんは。

本気で、点と線が繋がらない……というか、配線を間違えていると言うべきか(苦笑)
出ていたヒントに、ある程度気づいていた癖に(分かってないのもありましたが)
……つなげて考えていない(爆)サッパリ精霊さん、団体でカモ〜ン!!(爆涙)

「閉鎖された場所で、メンバーが一人ずつ殺されていく」という系統の
王道パターン「最後に残った者たちは犯人ではなく、実は先に死んだことに
なっている者たちの中に、真犯人がいる」というのも頭にはあったのにぃ……。
アーマンドさんを人間だと思いこんでいたのが敗因でした。
ふふふ、そーいえば、原作の魔族にもいましたよね。見た目に汚い水芸をする
首だけ魔族が……ふふふ。
最初の方で、黒髪がアーマンドと赤毛がヴラド、と言う順番で書かれ、
それぞれ剣士と魔道士、と言う紹介なのに、「この紹介だとアーマンドさんは
剣士のはずなのに、何で装備が布の服だけなんだろう?」とか、
ゼルと会う前の会話、「お前のコンニャク精霊呪文よりマシ」とか言われている辺りに、
「?……剣士だよね? 魔道も使うの? まあ、ゼルも剣士でもあるけど」と
疑問に思った部分はあったのですが……何故かスルーしてましたし。
「なら、もっと突っ込んで考えましょう、自分」の称号を自分で勝手に
なすりつけときます。

さらに、ヴェールさんの最初の「二人?」の台詞に、ちゃんと気づいていた癖に、
カウントから除外されたのは、ゼルだろうと、ナチュラルに考えてました(爆)
ゼルに斬られながら逝ってきます(どこへ?)

作品そのものは楽しんで読みました。
そして推理小説の基本、「推理小説に挑戦するときは、固定観念を捨てましょう」を
しみじみと実感いたしました。(普段は探偵役が謎を解く過程を、楽しんでますので)

それでは、この辺で失礼いたします。
完結編を楽しみにしています。

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26145Re:欠陥だらけオロシ・ハイドラント 2003/6/5 17:10:47
記事番号26143へのコメント


>こんばんは。
こんばんは
>
>本気で、点と線が繋がらない……というか、配線を間違えていると言うべきか(苦笑)
すべてが事件のヒントじゃないですからねえ。
>出ていたヒントに、ある程度気づいていた癖に(分かってないのもありましたが)
>……つなげて考えていない(爆)サッパリ精霊さん、団体でカモ〜ン!!(爆涙)
まあ、すべて私が悪いんですけどね。
>
>「閉鎖された場所で、メンバーが一人ずつ殺されていく」という系統の
>王道パターン「最後に残った者たちは犯人ではなく、実は先に死んだことに
>なっている者たちの中に、真犯人がいる」というのも頭にはあったのにぃ……。
王道でも、偽装のやり方が邪道っすからねえ。
>アーマンドさんを人間だと思いこんでいたのが敗因でした。
まあ、文中の仕掛けはアンフェアらしいですけど……。
>ふふふ、そーいえば、原作の魔族にもいましたよね。見た目に汚い水芸をする
>首だけ魔族が……ふふふ。
ええ。でもこっちの悪香月君は、胴体と合体して人間の振り出来るから結構高位っすけどねえ。
>最初の方で、黒髪がアーマンドと赤毛がヴラド、と言う順番で書かれ、
>それぞれ剣士と魔道士、と言う紹介なのに、「この紹介だとアーマンドさんは
>剣士のはずなのに、何で装備が布の服だけなんだろう?」とか、
あれ?
>ゼルと会う前の会話、「お前のコンニャク精霊呪文よりマシ」とか言われている辺りに、
>「?……剣士だよね? 魔道も使うの? まあ、ゼルも剣士でもあるけど」と
>疑問に思った部分はあったのですが……何故かスルーしてましたし。
ああ、間違えたぁあ。
逆だった。
見直ししたのに……私ってバカ?
ヴラド剣士のつもりだったのに……。
ああすみませんすみません。
全然気付きませんでした。
>「なら、もっと突っ込んで考えましょう、自分」の称号を自分で勝手に
>なすりつけときます。
ううむちゃんと見直ししないと……。
いったい何を直してたのやら。
欠陥だらけだよ。
>
>さらに、ヴェールさんの最初の「二人?」の台詞に、ちゃんと気づいていた癖に、
>カウントから除外されたのは、ゼルだろうと、ナチュラルに考えてました(爆)
>ゼルに斬られながら逝ってきます(どこへ?)
まあゼルだと思わせるようにやってましたけどね。

>
>作品そのものは楽しんで読みました。
それはどうもです。
>そして推理小説の基本、「推理小説に挑戦するときは、固定観念を捨てましょう」を
>しみじみと実感いたしました。(普段は探偵役が謎を解く過程を、楽しんでますので)
私もそうですね。もう探偵任せです。
>
>それでは、この辺で失礼いたします。
>完結編を楽しみにしています。
実は……完成してたり。

それでは、どうもありがとうございました。