◆−きんいろのなみだ−かぼちゃ (2003/5/29 21:33:02) No.26099
26099 | きんいろのなみだ | かぼちゃ | 2003/5/29 21:33:02 |
「部下S。」 そのたった一言の呼びかけで赤眼の魔王シャブラニグドゥの動きは完全に凍りついた。 「何でしょう?」 仮にも一つの世界の魔王たるものが発する言葉にしてはあまりにも情けない震えた声。だが、それもしかたあるまい。今、その魔王の前にいるのは全てを超越した創造主ともいえる存在、金色の魔王なのだから。 「つい最近、あんたの腹心の一人、冥王フィブリゾをどついたらあっさり滅びちゃった。」 かるい、無邪気な口調。シャブラニグドゥは自分の部下を消されたことに苛立ちと怒りにも似た感情を覚えたが、口に出せようハズもなかった。 「そりゃぁ、貴女にどつかれたら、冥王とはいえ滅びて当然ですよ。私だって滅びますし・・・。」 ごまかすように、シャブラニグドゥは作り笑いを浮べながら言った。と、シャブラニグドゥは目の前でケタケタ笑っていたはずの金色の魔王の異変に気付いた。いつもだったら『どういう意味?』と、恐ろしい顔でトゲ付きハンマーやら電動のこぎりやらで攻撃が開始されるはずなのだが、今はにっこりと美しい微笑を浮べているだけである。 嵐の前の静けさ・・・?それともまた違う感じだ。ただ、笑っている。しいて言うなら、どこか寂しげに・・・。 「何か・・・」 「あの子・・・。泣いてた。」 『何かあったんですか?』と、言おうとしたシャブラニグドゥの言葉をさえぎるようにして、金色の魔王は言った。 その微笑。それは、神のものでも、魔のものでもなく、自らの生み出した世界を想う優しい母親の笑み。 「L様・・・。」 「泣いてたんだよ。本気でさぁ。・・・独りで滅びるのはイヤだって、すごく怖がってた。寂しいってさ。」 ふぅ、と溜息をつき言葉を続ける。 「馬鹿な子。私に逆らったりするからだよ。」 絶対的な存在であるが故の台詞。 「本当に馬鹿な子だよね。・・・独りになんか、するわけ無いのに。あの子だって可愛い私の子供なんだから、ちゃんと受け入れてあげるのに。」 シャブラニグドゥはなんと言って良いかわからず、ただひたすら戸惑った表情をしていた。それを見て、金色の魔王は 「勿論、あんたもね。」 と、いたずらっぽく言った。シャブラニグドゥはそれに対して、照れくさそうに頭をかいて見せた。 「ねぇ。私って、何だろう?」 「は?」 今度こそ、本気で突拍子も無い質問に、シャブラニグドゥは間の抜けた声を上げていた。だが、金色の魔王はいまだに寂しげな微笑のままである。ただし、そのときは何故か、その笑みが仮面のように無機質なものに見えた。 「私って、何だろう?」 もう一度、同じ問いを繰り返す。シャブラニグドゥは 「私たち全ての母です。」 と、迷うことなく答えた。先ほどまでの慈愛に満ちた笑顔を思い出しながら。 「そっか。あんた達を創ったのは、私だもんね。・・・じゃぁ」 その瞬間、笑顔は悲しげに曇り、なんともいえない儚げな表情になった。 「じゃあ、私は何に創られたんだろう・・・?」 言いながら、笑顔は徐々に崩れて、今にも泣き出しそうなものに変わっていった。 「フィブリゾは独りだって言ってたけど、本当に独りなのは私、母という存在を持たない私の方なんだよ。」 金色の魔王はすでに嗚咽を漏らしていた。 「何を言い出すかと思えば・・・。」 もう少し驚いても良いだろうが、シャブラニグドゥは呆れたように言った。金色の魔王は不機嫌そうに我が子を見た。 「だって、この世界が存在する限り、私たちが存在して貴女はそれを見守っていられる。そして、この世界が滅びれば、全てが貴女の元に還ってこれる。貴女が独りになることは無いんですよ。」 何よりも強い母はその時だけ・・・本当にその時だけは幼い子供のように赤眼の魔王の膝の上を思う存分、濡らして泣きじゃくった。 |