◆−夢幻の朧−夜宵 吹雪 (2003/7/5 15:57:08) No.26468


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26468夢幻の朧夜宵 吹雪 E-mail 2003/7/5 15:57:08


人に優しくできるほどの余裕はない
かと言って見捨てるほど薄情にはなりきれない

本気にならず、踏み込まず
決して相容れない仲

それが理想論

けれど理想は理想で、幻のようなもの
叶う筈がないから人はそれを『夢』と呼ぶ

欲しいものは一つだけ

決して手に届かない、遠い存在
太陽と月は互いに惹かれあい、そして永遠に交わる事がない

そう、永遠に――――


   夢幻の朧――― 夢、幻の如く


白の地の魔族、リュシカはてくてくとノンキに街並みを眺めていた。
そんな彼がいる場所、フィガロシティ。
山を切り開いて生まれたそれなりの大きさの街だ。
治めていたのはマクレガル公。過去形となっているのは、もうこの世にいないからだ。
3、4年ほど前に死んだらしく、死因は病気らしいが、つい最近までピンピンしていたらしいので、殺されたとの噂が一時期はやったが、それは過去の事。今となっては新しい領主が街を治めている。
だがこの新しい領主が問題だった。
名はアレステット公爵。
かつては美男子だったが、今となってはその面影は限りなくゼロに近い。
ついでに性格が悪く、貴族にありがちな傲慢で尊大な性格らしい。そのおかげで人気は無い。いつ反乱がおきてもおかしく無いほどだ。
黒い噂も多い。この街では誘拐事件が多発して、その犯人がアレステット公ではないか、など。
もっとも人間の権力争いなど、リュシカにとって昨日の晩御飯よりも興味のないシロモノだ。
関わりになりたくない、と言うのが正直な感想だった。
「・・・・ふわぁ」
思わずあくびが出る。いい天気だ。雲一つない晴天。こんな日はのんびりできたらなぁ、と思うのが性分だ。
しかしリュシカの思考はそこで中断される。

ずごごおおぉぉぉんっ!!!

轟音、爆音、逃げ惑う人々、そして赤い炎と、焼け焦げた木材より発せられる灰色の煙。
呆然とした。目の前でいきなり建物が爆発したのだ。さすがのリュシカも驚きを隠せない。
「みきゃあっ!」
猫のような甲高い悲鳴がした。女の子だ。
年の頃なら15だろう、明るいと言う言葉が良く似合う茶髪に青の瞳。可愛い。
だがその顔は今となっては、苦悶の表情となっている。
リュシカはつい、といった様子で手を差し伸べた。無意識にやっている事だ。下心はおそらくはないだろう。言い切れないところが悲しいが。
「大丈夫ですかー、お嬢さん。」
「あ、ありがとう。」
差し伸べられた手をあっさりとつかみ、素直にお礼を言った。リュシカはにこにこと笑みを浮かべた。
「いーえ、可愛い女の子を助けるのは男の義務ですから。」
軽くウィンクを飛ばし、おどけた口調で言う。
「ふふっ、ありがとうございます。お礼に私の家にどうぞ。」
「えっ?いいんですか!?」
思わず声を張り上げた。今まで、誘った事は会っても初対面に誘われた事はない。脈ありか、と都合よく考えた。
「あ、名前言ってませんでしたよね。私、リンス・ハイラートといいます。」
「あたしはリュシカです。いや、本当にお邪魔していいんですか?」
「はい。」
リュシカはその返答と同時に小さくガッツポーズを浮かべた。


こぽこぽこぽ・・・・
心地よいコーヒーのにおいが辺りに充満する。
連れて来られたのは小さな民家。
ここが彼女の家らしい。
「・・・・・はい、どうぞ。」
「あ、どうも。砂糖あります?」
「ええ、はい。」
そう言って可愛らしい陶器に入れられた角砂糖を差し出す。
リュシカは嬉々とした表情で、角砂糖をつまみ、6個、カップに落とした。リンスはぎょっとした顔になったが、リュシカは気にしない。
「・・・・・・それで?あたしをここに連れてきた理由。そろそろ教えてくれません?」
リュシカの質問にリンスはきょとんとした顔になった。
「何の事ですか?」
「・・・・・ごまかさないでくださいよ。大体、殺気丸出しで狙われるのって気分悪いんですよ。」
そうリュシカが言った途端、動いた。
リンスが、ではない。二階へと続く階段の上に潜んでいた、殺気をリュシカに放っていた奴が、だ。
だんっ!
そいつは階段から大きく飛び降りると、ナイフをリュシカに突きつけた。
「何者だ!貴様!!」
男の声だ。リュシカは落ち着いて男を観察した。
年の頃なら20代前後、黒い茶のはねた髪に鋭い青の瞳。その顔は怒りで染まっている。
「何者だと聞いてるんだ!!」
声を荒げ、男は言い放つ。しかしリュシカはその程度で怯むような男ではない。
「・・・・・それ、あんたにそっくり返します。」
ぱきいぃんっ
リュシカは手刀でナイフの刀身を折った。それを拾い、男の首に突きつけた。
「あんたは何者ですか?」
それでも男は答えない。そして耐え切れないとでも言いたげに、リンスは叫んだ。
「やめて!お兄ちゃん!!」

「お兄・・・ちゃん?」

リュシカは壊れたナイフの刀身を男の喉に突きつけたまま、ジッと男の顔を見た。
確かに面影はある。ただ鋭い目と、優しさを知らない雰囲気が漂っているせいで、パッと見て兄妹とはわからない。
「ふーん、で?そのお兄さんが何の用です?まっさかあたしがリンスちゃん、口説いたから、なーんて無粋な理由じゃありませんよね〜?」
けたけたとふざけたセリフをいれ、笑みをこぼす。わずかにリンスの顔が赤くなった。
「黙れ!あいつらの差し金だろうが!!オレはリンスは渡さない!!」
リュシカの言葉に荒々しく叫ぶ。
「・・・・・・はい?」
「とぼけるなっ!!」
リュシカは困ったような、呆れたような何とも言えない複雑な顔になった。
「お兄ちゃん!この人は関係ないの!その・・・私がこけて・・・そしたら手を貸してくれて・・・・、そのお礼に家に招待して・・・・・・。」
「リンス・・・・・。」
「だってもう嫌だよ!私、もう何ヶ月も外に出てないんだよ!!誰とも話せないし・・・淋しいよ・・・・・・。」
リンスの瞳から涙が零れる。リュシカはナイフを地面に落とし、リンスの所へ歩み寄った。
「泣かないで。」
リュシカは頭を撫でた。その表情は本当に困っている。
「泣かれるのは苦手なんです。だから泣かないで。」
とても―――悲しそうな声だった。リンスはどうして良いか分からず、戸惑っている。それがリュシカ自身良くわかった。
「・・・ごめんなさい。」
リンスは静かに謝った。
リュシカは苦笑を浮かべた。
「何があったか話してみて、あたしみたいなのでも聞く事はできるから。」
リュシカの言葉にリンスは淡々と語り始めた。


リンスは兄、アクエスと二人で暮らしてきた。
親はいない。だから幼い頃からずっと二人で働いていた。
しかし、三年前、事件は起こった。
アレステット公爵が領主となったのだ。
アレステット公は権力を盾に私腹を肥やし、悪行三昧。
フィガロシティは荒れていった。
そして二年前、リンスとアクエスは引越してきた。明るく、、料理上手な健気な少女はあっという間に町の人気者となった。
兄も仕事を見つけ、それなりに幸福な生活を送っていた。
そこまではいい、しかし悲しいことに、アレステット公がリンスに目を付けたのだ。
無論、最初は丁重に断った。
アレステット公は現在30代後半、それに対しリンスは15歳。親子ほどの差だ。
そして断り続け、とうとうアレステット公は実力行使に出た。
魔道士を雇い、無理矢理、身柄を確保しようとしたのだ。
それに抵抗するが、段々、最近ではエスカレートしている。
街の中で平気に魔術を放ち、最近では建物に火をつけると言う手段に出てきた。
リンスのせいではないが、そのせいで白い目で見られる始末。リンスは外に出る事すらままならない。
そして今日、久ぶりに外に出た途端、こんな事になったらしい。
リュシカを家に招待したのは、親切にしてもらったからだ。
アレステット公に目を付けられて腫れ物扱いされる身として、リュシカの親切はとても嬉しかった。

リンスはそう言い終えると、涙をまた流していた。
リュシカは肩を落とした。
「頼みますよー、泣かないでくださいって・・・・嫌いなんです、泣かれるのは・・・・・・。」
「ご、ごめんなさい・・・・・。」
「謝らなくて良いです・・・泣かないで・・・・・お願いですから・・・・。」
リュシカは完全にお手上げ状態だった。
「・・・なあ、アンタ、旅人か?」
「ん?あー、まあそうなりますね。」
「だったら頼みがある。」
「・・・・・何です?」
アクエスの返答にリュシカはきらりと目を光らせた。

「アレステットの弱みを探してくれ。」

リュシカはクスリと笑みを浮かべた。
「そうですねぇ・・・・でもただは嫌だなぁ。」
アクエスは眉をひそめた。
「リンスちゃんともっかいお茶させて。そしたら引き受けます。」
アクエスは苦笑を浮かべた。リンスは静かに頷いた。


あとがき
吹雪:さてやっちゃいました、リュシカ主人公のシリアス!!
R:あー、ちなみにフィガロシティはすぺしゃるのリトル・プリンセスにのってます。
吹雪:とりあえず女の子関連の話。泣かれるのが嫌い、泣くのも嫌い。そんなリュシカのちょっと悲しい物語にできたらと思っております。
R:・・・なんかシリアスじゃなくてダークになりそうな気も・・・・・・。
吹雪:・・・・・言うな。あ、それと後、没ストーリーもいくつか。
R:?何?
吹雪:まずはRが殺人事件の犯人にされて、その真犯人を見つけるってやつ。
R:へー、吹雪、トリックとか考えてるの?
吹雪:いんや、全然。ただの証拠集めのために走りまくるお話。メロスみたいな(笑)
R:・・・そんなんでシリアスが書けるんですか?
吹雪:無理、あ、あともう一個の没ストーリーがテロリスト。
R:はいぃ?
吹雪:爆弾騒ぎが起きて、それを設置するシーンを目撃して、無理矢理その仕掛けたテロリスト・・・もといレジスタンスに入るとゆー・・・・。
R:・・・・なんかヤな予感するんですが。
吹雪:もう、バトロ○のごとく、ガンガン人が死ぬ。で最後、キレて終わりみたいな。黒すぎるからやめた。
R:・・・そうですか。
吹雪:ちなみにタイトルに特に意味はありません。
R:なんとなく語呂が良かったから付けたんですよねー。
吹雪:うむ。では長くなったのでこの辺で。