◆−FAIR WIND―月(多分ゼルリナ)−オロシ・ハイドラント (2003/7/29 19:11:27) No.26596
 ┗しっとりしたお話でした。−エモーション (2003/7/29 23:41:36) No.26603
  ┗Re:そう思っていただけると嬉しいです−オロシ・ハイドラント (2003/7/31 21:55:05) No.26616


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26596FAIR WIND―月(多分ゼルリナ)オロシ・ハイドラント URL2003/7/29 19:11:27

 ―前書候補生―
 こんばんはラントです。
 何となく書いてみました。ゼルリナです。
 タイトルの通り、スレイヤーズTRYのサントラに組み込まれていた「FAIR WIND」を聴いて浮かんだものです。
 それでは……。


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 FAIR WIND―月


 穏やかな気流。静かで、そして寂しげ。
 天を覆い尽くすは闇。暗く、絶望的なほどに深い。
 そんな夜空を唯一照らしているのは、煌々と輝く大きな月。
 眠りについた世界の安らかな命の鼓動は、その月の光によってより鮮やかとなる。
 生きている。世界は生きている。今は眠っているだけ、時期に目が覚めるだろう。そして世界を見ている自分もまた生きている。
 星のない夜空の美しさに惹かれ、彼女は部屋を抜け出していた。
 向かったのは屋上。実際に夜の空気と触れ合うのだから、窓から見ているよりもずっと美しさを知ることが出来るはず。
 その予想は当たった。いや予想ではなく確信だったのだから、それは当然のことなのだろう。むしろそうでなければいけなかった。
 風を浴びつつ空を見るのはまた違った。別に満月の照った夜空など特別な光景ではないのだが、旬の名物を食すかのような魅力を彼女は感じていた。
 さらに収穫は夜空だけではなかった。
 屋上の片隅、ほとんど闇に埋もれ掛けた微かな人影。誰かいる。
 それに気付いた時、彼女は臆せずに近付いていった。
 初めから正体は分かっていた。確信していた。とはいえ全貌が見えていたわけではないし、論理的な思考にて導き出したわけでもない。単に感覚的に分かっていたのだ。
 感覚的といえば、そういえば妙に感覚が研ぎ澄まされている感じがする。まさか満月のせいか?
 結果、人影の正体はやはり彼女――リナの思う通りであった。
「ゼル」
 ゼル――ゼルガディス・グレイワーズ。魔法剣士。針金の頭と、岩石の張り付いた蒼白い肌を持つ美しき青年がそこにいた。相変わらずの全身白ずくめだ。フードもしっかり被っている。
「リナ……か」
 彼は驚いたような素振りも見せず、あくまで冷静に受け答える。
「こんなところになぜ?」
「理由はないわ。あなたも……そうなんじゃない?」
 妙に声が澄んで聴こえる。自分も、相手も……。
「まあ、そうだな」
 ゼルガディスは空を見上げた。リナも視線を追う。
「綺麗ね」
 やはり空には満月が見える。何度見てもやはり心を撃つ。
「綺麗なだけじゃない。月は……魔性の女だ」
 ゼルガディスはそう呟いた。
「女? 月は月じゃない」
「比喩だ。それくらい分かれ」
「分かんないわよ」
 あっ……リナは自分の声が妙に大きくなってしまっているのに気付いた。実際それほどの音声ではないのだが、このような夜では多少の大声もはばかられる。
「月は人を惑わす。……伝承で聞いたことはないか? 月から降りて来た美女が、冴えない男をたぶらかすとかいう……」
「ううん。伝承とかには詳しいはずなんだけど……」
「そうか」
 ゼルガディスは空に吐息を向けた。
 リナは小さく呟くように、
「でも……その女ってやっぱり自分に自信があるのかしら」
「何だ?」
「いえ……」
 弱みを見せたとリナは思った。
「どうしたんだ? そういえば今日のリナはリナらしくない」
「そうかしら?」
 ゼルは言った。
「辛いことでもあったか?」
「…………」
 リナはしばしの沈黙を経て、
「辛いことなんて、いくらでもあるわ」
「それはそうだ? だがもう耐え切れない、か?」
 リナは頷く。その思い詰めたかのような表情からは笑顔など予測すら出来ない。哀しげな人形のようにも見える。やはり相当辛いことがあったのだろう。
 だが、そのリナは美しかった。月光に照らされたことにより、妖しげな魅力を微かながらも滲ませている。その少女と魔性が入り混じったような雰囲気が、むしろ彼女を美しく見せていた。
「敢えて聞かないことにする。だがやはりお前らしくはないな」
「…………」
 リナは静かにゼルガディスの言葉を聞いている。会った時より随分と場は重く、そして深みに入っている。
「翼の折れた鳥だ。だが実際、傷は治っている。勇気がないだけだ」
 勇気……リナはその言葉を反芻した。
「飛び立つんだ。俺が風になってやる。お前に纏わりついて、お前を天高くまで届けてやる」
「…………」
 黙り続けたリナも、やがて微笑み、
「それってストーカー?」
 言った。
 だがゼルは笑うことも、心外だという表情を見せることもなく、
「そうかも知れんな。俺は今までもそうだったのかも知れん」
「それはないわ」
 リナは強く言った。
「そうか。じゃあお前の風になっても良いか?」
「もちろん……よ。今までのようにね」
 するとゼルはフードを外し、硬い髪を撫でる。
「それは出来ない」
 そして彼はそう言った。
「何で?」
 だがゼルは答えずに、懐に右手を入れると、
「これをくれてやる」
 握った手を差し出した。
 リナも恐る恐る手を伸ばす。
 触れ合った手。ゼルガディスの手はひんやりと冷たかった。
 リナの手に質量感のあるものが落ちて来る。
 石のようなものだろうか? 妙に冷たい。
 リナはそれを握り締めて、手を引き戻した。
 目の辺りまで手を持っていき、月明かりでその正体を確かめる。
 やはり石だ。だが何と美しい石なのだろうか。
 半透明で煌いている。魅惑的な輝きだ。
「……これは?」
「名前はない」
 ゼルはそう言った後、
「俺の……石だ」
 するとリナは冗談混じりに、
「へえ、あんたの身体から取れたの?」
「違う!」
 ゼルガディスの反応を見てリナは笑う。
「とにかく……なくすなよ」
「分かってるわ」
 ゼルガディスはリナの脇の抜けて、宿へと戻っていく。
「じゃあな」
 その姿は突如幻のように、闇の中へと消えていった。
 リナはゼルガディスの石を握り締めた。
 月が煌々と照っている。
 妖しげな月。人を惑わす月。
「……ゼル」


 翌朝、リナが一階に向かうと、すでに起きていた旅の仲間である金髪の剣士――ガウリイが声を掛けて来た。
「よう、遅かったなリナ」
 リナは食堂となっている一階の壁に掛かった時計を見やる。
「あっもうこんな時間?」
「そうだ。早く席付けよ」
 大人しく従った。
「ガウリイはもう食べたの?」
「ああ、もちろんだ」
「威張ることじゃないわよ」
「は、はは」
 ガウリイは頭をボリボリと掻いた。
「あっ、おっちゃんモーニングセット三人前ね」


 リナの料理が来るまでの時間。初めは沈黙していた二人だが、突如リナが切り出した。
「ところで、ゼルはまだ起きて来ないの?」
「え?」
「だからゼルよ」
 リナは昨日のことを思い出しつつ言った。
「え? どういうことだ?」
「だからゼルはまだ起きて来ないかって訊いてんのよ?」
 リナの語調が強まっていく。
「ゼル……ってえと、あのゼルガディスのことか?」
「それ以外に誰がいんのよ?」
 そこまで言ってリナは、ハッとなった。
「……あれ?」
「何言ってんだお前さん。この宿にはゼルガディスはいないぞ」
「え?」
 そういえば……ゼルガディスとは随分前に別れていた。
「あれ?」
 リナは自分の身体中を漁った。
「どうしたんだよ? リナぁ」
「待って! あれっあれっ……」
 ひたすら探す。
 そして、突如立ち上がって二階の方へと走っていった。


「あれっ、あれっ、どうしたのかしら? あれ、……どこいったのかな?」
 部屋中探すが、どうしても昨日もらった石は見つからない。
「本当に……どこやったのかしら」
 それでも、探し続けるリナ。
 だが石はどうやっても見つからなかった。
 もしや、昨日のあれは夢だったのだろうか。
 それとも、すべてはあの満月の仕業なのだろうか。


 数日後、あの時すでにゼルガディスが死亡していたことを風の噂で知った。
 「……あなたは風になってくれたのよね」
 思いのほか、涙は多く流れなかった。


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 ―後書候補生―
 普通に終わらせるだけじゃ、何か嫌なのでこんな感じにしてみました。ゼルファンの方すみません。でも何度でも生き返りますから(笑)
 でも内容、意味不明かも知れませんね。
 このようなものを読んでくださった方、おられましたら本当にどうもありがとうございます。
 それではこの辺りでさようなら。

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26603しっとりしたお話でした。エモーション E-mail 2003/7/29 23:41:36
記事番号26596へのコメント

こんばんは。

月夜の晩に語り合うリナとゼル。
露骨にラブラブ、という感じではないのですが、しっとりとした雰囲気で
良いですね。
会話も自然で、ゼルだな、リナだなと違和感なく思いました。

>「そうか。じゃあお前の風になっても良いか?」

この辺りの言い回しは、本当にゼルだな、と思います。
ゼルはよっぽどのことがない限り、露骨に言いそうにないタイプですから。

> 目の辺りまで手を持っていき、月明かりでその正体を確かめる。
> やはり石だ。だが何と美しい石なのだろうか。
> 半透明で煌いている。魅惑的な輝きだ。

綺麗な石なんですね。水晶っぽいものなのかなと思いました。

>「……これは?」
>「名前はない」
> ゼルはそう言った後、
>「俺の……石だ」
> するとリナは冗談混じりに、
>「へえ、あんたの身体から取れたの?」
>「違う!」
> ゼルガディスの反応を見てリナは笑う。

……すみません、私もゼルの身体から取れた石かと思いました。(汗)

> 部屋中探すが、どうしても昨日もらった石は見つからない。
>「本当に……どこやったのかしら」
> それでも、探し続けるリナ。
> だが石はどうやっても見つからなかった。
> もしや、昨日のあれは夢だったのだろうか。
> それとも、すべてはあの満月の仕業なのだろうか。
>
>
> 数日後、あの時すでにゼルガディスが死亡していたことを風の噂で知った。
 
宿にいないはずのゼルからもらった石。そして、確かにもらったはずなのに、
なくなってしまった石……。
どういう事なのかな、と思っていましたら……ゼルちゃん……(合掌)
「最期の挨拶」みたいなものでしょうか。
あの石は「心」や「想い」のようなものなのかな、と読み終えて思いました。


上にも書きましたが、全体的にしっとりとした雰囲気と、不思議な感じのある、
悲しいというより、切ない感じのお話でしたね。
何故か、悲しいより「ああ、そういうことか」と納得してしまうタイプの
切なさと言いますか……。とにかく、良かったです。

それでは、短いですがこの辺で失礼します。
次の作品も楽しみしていますね。

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26616Re:そう思っていただけると嬉しいですオロシ・ハイドラント URL2003/7/31 21:55:05
記事番号26603へのコメント

>こんばんは。
こんばんは。
>
>月夜の晩に語り合うリナとゼル。
>露骨にラブラブ、という感じではないのですが、しっとりとした雰囲気で
>良いですね。
>会話も自然で、ゼルだな、リナだなと違和感なく思いました。
今回は、会話を重点に置いて書いてみました。
質は良いかどうか分かりませんが、私の話にしてはまともな会話が出来てるんじゃないかなあと思っています。
>
>>「そうか。じゃあお前の風になっても良いか?」
>
>この辺りの言い回しは、本当にゼルだな、と思います。
>ゼルはよっぽどのことがない限り、露骨に言いそうにないタイプですから。
彼はこういった夜の雰囲気に乗じて、こんなことを言ったのかも知れません。
素直には言えないんでしょうね。
>
>> 目の辺りまで手を持っていき、月明かりでその正体を確かめる。
>> やはり石だ。だが何と美しい石なのだろうか。
>> 半透明で煌いている。魅惑的な輝きだ。
>
>綺麗な石なんですね。水晶っぽいものなのかなと思いました。
多分、そのような感じかと思われます。
>
>>「……これは?」
>>「名前はない」
>> ゼルはそう言った後、
>>「俺の……石だ」
>> するとリナは冗談混じりに、
>>「へえ、あんたの身体から取れたの?」
>>「違う!」
>> ゼルガディスの反応を見てリナは笑う。
>
>……すみません、私もゼルの身体から取れた石かと思いました。(汗)
まあ言い方が言い方ですからね。
ゼルにとっては失言だったのかも知れません。

>
>> 部屋中探すが、どうしても昨日もらった石は見つからない。
>>「本当に……どこやったのかしら」
>> それでも、探し続けるリナ。
>> だが石はどうやっても見つからなかった。
>> もしや、昨日のあれは夢だったのだろうか。
>> それとも、すべてはあの満月の仕業なのだろうか。
>>
>>
>> 数日後、あの時すでにゼルガディスが死亡していたことを風の噂で知った。
> 
>宿にいないはずのゼルからもらった石。そして、確かにもらったはずなのに、
>なくなってしまった石……。
>どういう事なのかな、と思っていましたら……ゼルちゃん……(合掌)
>「最期の挨拶」みたいなものでしょうか。
そうですね。


……そういえばHPにあるメルの方のあれって同ネタだよなあ(ボソッ)
>あの石は「心」や「想い」のようなものなのかな、と読み終えて思いました。
そうなのかも知れませんね。
形は失ったけれども、まだそれは残っていると思います。
>
>
>上にも書きましたが、全体的にしっとりとした雰囲気と、不思議な感じのある、
>悲しいというより、切ない感じのお話でしたね。
>何故か、悲しいより「ああ、そういうことか」と納得してしまうタイプの
>切なさと言いますか……。とにかく、良かったです。
そうでしたか。
確かに切ないタイプに書いたつもりなので、そう思っていただくと嬉しいです。
>
>それでは、短いですがこの辺で失礼します。
ご感想どうもありがとうございます。
>次の作品も楽しみしていますね。
おお、大変嬉しいお言葉です。がんばって少しでも良いものを書きたいです。


それでは……。