◆−後朝(ゼルリナ)−リョウコ (2003/9/6 00:47:36) No.26894
 ┗素晴らしいです〜!−緋崎アリス (2003/9/15 02:41:08) No.26967
  ┗有り難うございます!−リョウコ (2003/9/16 23:28:52) No.26982


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26894後朝(ゼルリナ)リョウコ 2003/9/6 00:47:36


 初登校、いや初投降…違うって、初投稿です。(お約束)
 某ケーブルでTRYが始まり、つい自宅の本編を全巻読み直してしまった私は、見事ゼルリナにハマり直し、勢いのまま書いてしまいました。
 そんな訳で、ゼルリナです。お題はご覧の通り……「きぬぎぬ」。ああああっ、そういった描写はないのでご安心を!!


******


< 後朝 >





 石の腕枕に、艶やかな栗色の髪が散っている。
 西天に月の残る明け方前。宿屋二階の一室。開け放した窓から流れ込む夜気に、二人とも肌の汗はすっかり引いている。
 遠くで犬の遠吠えが響き、風にざわりと梢が鳴る。梟だろうか、羽ばたきが遠くへ飛んでいった。


「――冷たい肌」

 細い指が、男の頬に触れた。窓の外に向けていた眼差しを、男は隣の彼女に向ける。先ほどまで滑らかな瞼は固く閉じられていたのだが。

「硬い感触――」
「人間じゃないからな」

 彼女は笑った。男があまり見ない笑い方で。掌を滑らせて、針金の髪に右手を差し込む。されるがままにしていた男は、そこで彼女の手首を掴んだ。

「やめろ。手が傷つく」

 真剣な目をして、彼女の顔を覗き込む。彼女はまた笑った。何か痛むように眼を細めて笑んで、男の胸に顔を埋める。

「あんたって、本当に……」

 彼女の肩は小刻みに揺れている。男は細い手首をゆるく握ったまま、怪訝な顔で彼女を見下ろした。

「リナ?」
「あんたは馬鹿よ。どれだけその体と付き合ってるっていうの。どうしてそんなに忌むの――いちいち傷つくの?」
「お前こそ馬鹿を言うな。この体にうんざりしているのは事実だが、いい加減慣れてもいる」
「嘘」

 捕らえられていた手首が、するりと抜けた。
 身を起こして、彼女は男を見下ろす。光の強い眼差しが、かすかに潤んできらめいている。男は戸惑うように眼を細めた。らしくない、と思ったのだ。
 男も片肘をついて軽く身を起こし、もう片方の手で彼女の髪を撫でた。そのまま柔らかな腕の上を滑らせ、彼女の右手の甲に掌を重ねる。

「どうした?」
「惚れた男と離れる前夜に、感傷的になって何がおかしいってのよ」

 幾分、棘のある声で彼女は答える。

「俺は、諦めるつもりはない」
「分かってるわよ。止めてないわよ。ただあたしは言いたいの」

 彼女は真摯に男を見つめる。男は黙って彼女の言葉を待っている。そういうところで男は彼女に対して誠実である。考え深く、彼女の言葉を咀嚼する。

「あなたは、その体を疎んでるわね。元に戻りたいっていうのは、つまりそういうことよ。違う?」
「いや、その通りだ」
「その姿は普通の人間と明らかに違うわ。――他人の目が気になる?」
「煩わしいのは確かだ。不便でもある」
「それが元に戻りたい理由?」
「ああ……いや、それだけじゃない。」

 男の目には、猛々しい光が宿り始めている。反比例するように冷たく冴え始める表情。今、自分が男のタブーに触れていることを意識して、彼女は唇を舐めた。

「あたしたちは、あなたの体がどうだなんて気にしたことはないわ。せいぜい丈夫で良かったってくらい。それもあなたにとってはどうでもいいんじゃない?」
「――そうだな。」
「誰がどう思っているかなんて関係なく、あなたは自分の体を厭ってる。キメラである自分を自分と認めてない。
 ――ゼルガディス、尋ねるわ」

 右手に重ねられた男の手に左手を添え、彼女は瞬きもせず男を見据えた。

「それはどうして?」

 そして静寂が横たわる。


 窓から僅かに差し込む月光に、男の体は鈍く照らされている。石と鉱石の体は冷たく光を受け止め、跳ね返す。一方、彼女の白い肩は、身の内まで光を透かすように、淡く輝いている。
 二人は違った。
 男は思い知るたび、元はそうではなかった、と思わずにいられない。


 ぎり、と男の手が、その下の彼女の右手を握り込む。耐えるように、一瞬、彼女は瞼を揺らした。しかし視線は揺るがない。荒ぶり高ぶる男の瞳と、真っ向に見つめ合う。

「――俺が」

 掠れるように低い声が、歯列を割って唇から漏れる。

「俺が人間だからだ」

 何か痛むように、彼女は眼を細めた。
 滾るような熱に静けさを被せて、男は語る。

「今の俺は人間じゃない――だが、本当は俺は人間だ」
「そんなの今更よ。今だってあなたは人間だわ。どんな体であったってそれは変わらない」
「――体も含めて俺だ。体が人間じゃなければ、俺は人間じゃない――そんな俺は認められない」
「たとえあたしが、あなたは人間だと、あなたは全てがあなただから、あなたは体ごと人間だと言って……あなた全てを認めているとしても?」
「ああ。俺は俺を認めない」

 そう――溜息のように呟いて、彼女は瞑目する。何かを堪えて固く目を閉じる。男は片肘を外し、身を起こした。彼女の両手を片手で包んで、もう一方の腕で頭ごと彼女を包む。
 
「すまない、リナ。俺の問題なんだ。こればかりはお前にもどうしようもない」
「……謝らないでよ。所詮あたしのわがままよ。あたしはあなたを好きなのに、あなたはあなたを厭っているのが腹立たしいだけ。子供の――馬鹿な女の、わがままだわ」
「泣くな」
「勘違いしないで。腹立たしくて涙が出るのよ。あなたがいつまで自分の体に傷ついてるつもりなのかと思うと――泣きたくなるくらい腹が立つのよ!」

 嗚咽も泣き声も漏らさず、ただ彼女は肩を震わせる。男は彼女を深く胸に抱きながら、同時に確信する。
 彼女が泣いても、この体に対する自分の絶望は消えないこと――それを知っているから、彼女が泣くのだということ。
 変えようのないその事実を無惨にすら感じながら、それでも彼は、小さく仄かに笑む。
 彼は、自分の体を疎む。キメラである自分を疎む。だが。

「だが、リナ。それでも、そうやって俺を想うお前がいるから――」

 男は、自分の肌で傷つけないよう注意を払いながら、力を込めて彼女を抱き締める。
 キメラである自分を忌まわしく思う心は変わらない。だが、鮮烈に輝く彼女が愛する自分と思えば。

「終わらないような旅路でも、俺は絶望に飲み込まれずにいられる」
「……………っ馬鹿……」

 彼女は男の胸に額を強く押しつけた。
 窓から入り込み、部屋を照らしていた月は遙か西へ去り、星の光は闇を微かにやわらげるだけ。
 僅かの間のみ許されたその暗闇は、いかにも儚いものであったけれど、このひとときなら、二人共に等しく夜に染まることが出来る。
 朝の光が彼らを隔てる――そのときまでなら。
 
 


<了>

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26967素晴らしいです〜!緋崎アリス URL2003/9/15 02:41:08
記事番号26894へのコメント

 初めまして、リョウコさん。ゼルリナ大好き腐れヲトメ、緋崎アリスと申します。

 後朝ステキでした〜v シチュとか雰囲気もツボでしたが、なによりリナもゼルも格好良かったです〜v
「謝らないで」とか「勘違いしないで」と、嗚咽を殺してただ涙するリナがもう……v

 リナや他の人が幾ら受け容れても、ゼル自身が認められないのでは、意見は平行線を辿るばかりですもんね。(確かにそれを容認することは出来ないだろうなぁ)
>「終わらないような旅路でも、俺は絶望に飲み込まれずにいられる」
>「……………っ馬鹿……」
 ↑ここがもう、素敵すぎます。もっとやって! もっと!!

 ではでは。

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26982有り難うございます!リョウコ 2003/9/16 23:28:52
記事番号26967へのコメント

 あ…あ、有り難うございます。
 っってゆうか、まさか、緋崎さんにコメント付けて頂けるなんてっ……(汗汗汗)こんな処でなんですが、HP拝見しております。そちら様のゼルリナの大ファンです。こんな処でなんですがっっ!ファンメール出せよあたし!
 今更ながら、もっと推敲してから出せばよかったと、怒濤のような後悔が沸き上がりました。……いやはやっ……有り難うございます恐れ入ります!!
 緋崎さんほど、ゼルリナに対する自分なりの考察が深めていない段階で、勢いで書いてしまっていて、そんな風に言って頂けるなんて、分不相応な気がして非常に非常に、恥ずかしいのですが、それでも誉めて頂けてとても嬉しいです。

>リナや他の人が幾ら受け容れても、ゼル自身が認められないのでは、意見は平行線を辿るばかりですもんね。(確かにそれを容認することは出来ないだろうなぁ)

 この言葉がとても嬉しかったです。判って頂けて嬉しい! 
 大変、励みになりました。ありがとうございました!