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-刻の糸の語る詠(予告)-M(5/14-04:47)No.2706
 ┗刻の糸の語る詠・0-M(5/14-05:02)No.2707
  ┣Re:刻の糸の語る詠・0-Shinri(5/14-20:49)No.2711
  ┃┗Re:刻の糸の語る詠・0-M(5/15-02:56)No.2714
  ┗刻の糸の語る詠・1-M(5/15-03:16)No.2715
   ┣Re:刻の糸の語る詠・1-Shinri(5/16-06:20)No.2728
   ┃┗早速の感想、ありがとうございます(^^)-M(5/16-08:59)No.2729
   ┗刻の糸の語る詠・2-M(5/16-09:28)No.2730
    ┣Re:刻の糸の語る詠・2 感想です♪-Shinri(5/18-05:54)No.2745
    ┃┗Re:刻の糸の語る詠・2 感想です♪-M(5/18-21:40)No.2756
    ┗刻の糸の語る詠・3-M(5/18-21:40)No.2755
     ┣刻の糸の語る詠・4-M(5/20-01:07)No.2762
     ┃┗刻の糸の語る詠・5-M(5/20-01:31)No.2763
     ┃ ┗刻の糸の語る詠・6-M(5/20-03:53)No.2765
     ┃  ┗刻の糸の語る詠・7-M(5/20-04:11)No.2766
     ┃   ┗刻の糸の語る詠・8-M(5/20-04:29)No.2767
     ┃    ┗刻の糸の語る詠・9-(5/21-02:26)No.2776
     ┃     ┗刻の糸の語る詠・10-(5/21-02:45)No.2777
     ┃      ┗刻の糸の語る詠・11-(5/21-11:43)No.2778
     ┃       ┗刻の糸の語る詠・R.0-(5/22-19:55)No.2799
     ┃        ┗あとがき-(5/23-20:21)No.2813
     ┣Re:刻の糸の語る詠・3-Shinri(5/20-08:20)No.2768
     ┃┗いつも、ありがとお(^^)-(5/21-01:30)No.2775
     ┗Re:刻の糸の語る詠・4〜7 感想こっちつけます-shinri(5/24-01:18)No.2818


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2706刻の糸の語る詠(予告)5/14-04:47

思うところがありまして、某所で某方々はご存知(だと思う)ものをお送りしま
す。
場合によっては一個だけで忘れる場合もあります。
ツッコミ入らない限り、疑問にはお応えしません♪

さて、ここの所ツリーが分断されてるようです。
どうせなら、一気に読みたいのは。わがままでしょうか?
それでは。

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2707刻の糸の語る詠・05/14-05:02
記事番号2706へのコメント
どうも、Mです。
予告の通り始めます。
あんまり期待しないよーに!(注意)


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

刻の糸の語る詠・0


     0

 そこは、時のとまった空間。
 だが、完全ではない。
 時が「ない」のではない。ただ、外界から「ほぼ」完全に隔離された状態のため。外
界に比べれば非常に緩やかに時が流れているに過ぎない。
そんな、空間がある。
 決して外界から侵入する事など、出口がないのだから不可能な空間に。
 突如として浮かぶ影。
 だが、問題はない。そこへ現れる存在など、他にはないのだ。
 言わば、その存在がこの場に現れる事だけが。唯一時の流れを感じさせる。
 「外の風」をうちに吹かせる存在なのかも知れない。
 ただ、それに関わる問題と言えば。
 その存在は、いつでも同じ姿をしていると言う事だろう。

「リナさん……」

 現れてから、その存在。
 一応、人型をしている。
 格好としては、少し野暮ったい節があるものの。肩からかけられたバッグ。黒い神官
の服と、手には宝玉のついた杖を持っている。
 肩で切り揃えられた黒髪。それが、動きに合わせてさらりとゆれる。
 一見してから、男だと知れる。

「また、現れた様ですよ。皆さん、お暇ですね?」

 彼は跪いた。
 床は冷たい氷で覆われている。否、床だけではない。
 壁も天井も、すべてが氷で覆われているので。普通ならば、多少は冷えるだろうし冷
たいだろう。だが、彼はそこへ跪いたまま。微笑を浮かべたままである。

「おかげで、僕はまた怒られてしまいますよ。『自覚』が足りないって」

 彼は、虚空ともおもえる空間に声をかける。
 もちろん、肉声はない。
 だが、彼には『声』が届いている様である。

「はいはい、よく知っていますよ。
 貴方が『それ』を快く思っていない事も。そして、僕が現れるたびに跪く事を快く
思っていない事も。しかし、それを言うならリナさんだって『自覚』が足りないのでは
ありませんか?
 リナさんがご不満なのも判っていますが……。
 しかし、リナさんが『そこ』にいようとなさる限り。『あれら』は行動を止めたりは
しないでしょうね……。いえ、勿論不満などは……。
 『彼女』も、最近では大分慣れた様ですしね」

 嘘か本当かは別として。彼の言う言葉だけは本物だった。
 彼の口から言葉が出たと言うだけで、満足した……らしい。
 明らかに、彼はほっとした顔をしていた。

「僕とリナさんとの『契約』は続いています。有効ですよ、勿論。
だって、その証はちゃんとありますからね……」

 彼が立ち上がった。
 ふと、頭上を見上げる。
 そこには、厚い氷に覆われた壁があった。
 氷の中を肉眼で覗く事は出来ない。それだけ厚く覆われた氷だから。

「ご心配なく。『ここ』へ人間が入り込むことは出来ませんから。
 この間、リナさんがご心配の様でしたから。少しだけ調べてみたんですね?
 そうしたら、この氷の壁の外側にある。大地の部分に、近づくだけで人間には有害な
成分。ウラン9000と言うもの検出されていました。
 リナさんにも、僕にもそんなものは効き目なんてありません。でも」

 ちらりと、彼は少し視線をずらした様である。だが、どちらにしても肉眼に映るのは
厚い氷の壁だけ。

「ガウリイさんには……いかがでしょう?」

 すこしおどけた様に言ったものの、彼は慌てて両手を振った。
 どうやら、リナと言う存在の怒りを感知でもしたのだろう。

「大丈夫。大丈夫ですって!! だからって、そんなに怒る事はないないじゃないです
かっ! 大体、僕のせいじゃないんですから」

 まだ多少は、何かがあったのかも知れない。
だが、それは第三者に知る事など出来ない世界の話なのだ。

「リナさんの心は、よく存じています。だから……僕は」

 彼は、肩をすくめて見せた。

「判っています。リナさんが、そんな事を望んでいない事も。
 だからこそ、あなた達はそこにいる事も」

 彼が、目を閉じた。
 そして、口元に笑みが浮かんだ。
 言葉なく、だけど。

「彼等には悪いと思いますけど、僕は結構楽しんでいるんですよ。
 だって、退屈ではありませんからね。それでは、リナさんも皆さんにごきげんよう
と。
 お伝えください」

 彼の目には、何も映っていない。
 あるのは厚く覆われた、氷だけ。
 だが、彼の脳裏にはいつでも浮かぶし。記憶から呼び起こす事の出来る映像が、あ
る。

「お元気で……と言うのは」

 くるりと、彼がその場で反転した。

「嫌味ですかね?」

 そして。
 時が止まった。
 否、止まったのではない。
 緩やかにながれ始めただけだった。
 だが、そこから『変化』が消えたのは確かだった。
 彼のいた地上から、遥かに上方。
厚く覆われた氷の壁の中。一組の男女が抱き合っている。
 一人は、長く赤い髪をした、黒でまとめられたマント姿の。おそらく女性。
 もう一人は長身の、これまた長い金の髪をした。軽装鎧を身に纏った。おそらく男
性。
 女性は男性に寄り添うように、男性は女性を守るように。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

注その1:僕はうそつきです。
注その2:僕はガウリナしか書けません。

さて、そこで問題です。
正解はどっちでしょう?(笑)

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2711Re:刻の糸の語る詠・0Shinri 5/14-20:49
記事番号2707へのコメント
こんにちは、Mさま。
こちらでもお会いできるとは・・・。
しかもさっき、某組合でMさまの新作UPされてて喜んでROMったばかりなのに、こ
っちでもなんて・・・嬉しすぎ♪

簡単ですけど感想なぞ。
またまた不可思議な趣いっぱいの作品ですね。
のっけからゼロス君。
何故かは知らねど、どーやらリナ、氷の中に閉じ込められてる(・・・とゆーより自ら
閉じこもってるってのが正解か?)みたいだし。
何があったんだ一体!? ってカンジです。

このお話がいつのことで、どこのことで、そしてリナたちに何があったのか・・・それ
は分かりません。今のとこは・・・。
ゼロスの態度から何となく察せられるものはあるにはありますが。
まだ今の時点では何とも・・・。

疑問はまだまだたくさんあります。
ゼロスの言う『契約』とは何なのか?
『あれら』とか『彼女』とか。それが指すものが何(誰)なのか?
何故ウランとか出て来るのか?
そして、一番の謎は。
リナが何を望んでいるのか・・・ということ。

???だらけですけど。
それらはきっと、今後のお話で明かされていくことなのでしょう。
ですから、今はとりあえずこの続きを待ちたいと思います。

・・・って何だか堅苦しくって、えらそーなこと書いてますね(笑)
しかも実質感想とは言い難いシロモノになってるし(^^; ・・・すいません。
で、結局。何が言いたかったのかってゆーと。
『ぜひぜひ続きをUPして下さいっ!!!』ってコトです♪
これでおしまい・・・なんて、くれぐれもおっしゃらないで下さいね(懇願)
予告を読むに、このお話、「某所で某方々はご存知(だと思う)もの」だということで
すが。
私、知りません(涙)ので。

それでは。続きがUPされるのを心待ちに・・・。

○追伸

>さて、そこで問題です。
>正解はどっちでしょう?(笑)
この答え、続きがUPされてから、ということで(笑)

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2714Re:刻の糸の語る詠・05/15-02:56
記事番号2711へのコメント
>こんにちは、Mさま。

こんばんわ!(笑)

>こちらでもお会いできるとは・・・。
>しかもさっき、某組合でMさまの新作UPされてて喜んでROMったばかりなのに、こ
>っちでもなんて・・・嬉しすぎ♪

ありがとうございます(^^)
某学校にもいらしてますね。どんどん暴走しましょう♪(なんて奴)

>簡単ですけど感想なぞ。

ありがとうございます(^^)

>またまた不可思議な趣いっぱいの作品ですね。
>のっけからゼロス君。
>何故かは知らねど、どーやらリナ、氷の中に閉じ込められてる(・・・とゆーより自ら
>閉じこもってるってのが正解か?)みたいだし。
>何があったんだ一体!? ってカンジです。

(代理)ゼロス:「それは秘密です」

>このお話がいつのことで、どこのことで、そしてリナたちに何があったのか・・・それ
>は分かりません。今のとこは・・・。
>ゼロスの態度から何となく察せられるものはあるにはありますが。
>まだ今の時点では何とも・・・。

これから「少し」は明らかにします。
でも、全部ではありません。
皆さんの反応次第ですが、これは長い物語の一つなんです(それでも長いけど)
場合によっては途中でうち切り。メールのみと言う場合もあります。

>疑問はまだまだたくさんあります。
>ゼロスの言う『契約』とは何なのか?
>『あれら』とか『彼女』とか。それが指すものが何(誰)なのか?
>何故ウランとか出て来るのか?

あんまり意味はないです。
先にバラして起きますが、リナ達がいるのは「普通の人」では入り込めない所です。
某設定から借りて、放射能にご出演いただきました。

>そして、一番の謎は。
>リナが何を望んでいるのか・・・ということ。

とっても簡単で、とっても難しい事です。
でも、本当は簡単なのかも知れない・・・(謎)

>???だらけですけど。
>それらはきっと、今後のお話で明かされていくことなのでしょう。
>ですから、今はとりあえずこの続きを待ちたいと思います。

りょーかいしました。
そこに「望む方」がある限り、僕は願いを叶えましょう。

>・・・って何だか堅苦しくって、えらそーなこと書いてますね(笑)
>しかも実質感想とは言い難いシロモノになってるし(^^; ・・・すいません。
>で、結局。何が言いたかったのかってゆーと。
>『ぜひぜひ続きをUPして下さいっ!!!』ってコトです♪
>これでおしまい・・・なんて、くれぐれもおっしゃらないで下さいね(懇願)
>予告を読むに、このお話、「某所で某方々はご存知(だと思う)もの」だということで
>すが。
>私、知りません(涙)ので。

某学校のがわかりやすかったかなあ?(^^;)

>それでは。続きがUPされるのを心待ちに・・・。
>
>○追伸
>
>>さて、そこで問題です。
>>正解はどっちでしょう?(笑)
>この答え、続きがUPされてから、ということで(笑)

では、もう少しお待ちしましょう(^^)

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2715刻の糸の語る詠・15/15-03:16
記事番号2707へのコメント
刻の糸の語る詠・1

 どこかの大地にある、どこかの国。
 そして、どこにでもある町並み。
 そうである以上、いつの時代。どこの世界にも存在するのが、寂れた裏路地。
 いわゆる、下町というものである。
「きゃぁっ!」
 深夜。人も通らぬ路地を、駆け抜ける音だけが空しく響く。
 まったく。人っ子一人いないと言うわけではない。
 だが、一人で危ない町並みを駆け抜ける存在を気にかけたりする物好きなどいない。
 なぜなら、それは少女だった。
「はぁ、はぁ……」
 もつれそうになる足を懸命になって動かし、激しく存在を示す心臓の。高鳴る音を耳に感じ。
 背後を振り向きながら、必死な形相で走り抜ける少女の存在。
 それは一つしかない。つまり「追われて」いるのだ。
 誰かに追われている。それが、なんの理由であろうと関係はない。ただし、なにに追われてい
るのか知らずに手を出し。その余波を受けることを怖がっているだけなのだ。
 少女も、それを知っていた。
 だから、誰に助けてもらえなくても平気だし。それが当たり前だとは思っていた。
それが、この「世界」での常識だからだ。
 だが、だからこそなのか。少女は理不尽さを感じていた。
 もちろん、普通ならば少女だって助けを求められたとしても。助けたりはしないだろう。自分
自身に、それだけの実力があるのならば話は別だが。
 なぜ、理不尽さを覚えるのかと言えば。
 少女には追われる理由が判らなかったからである。
 勿論、普通は追われる事に理由なんて求めてはいけない。と言うより、本人の知らない所で
「追われる理由」というものは生じるのである。
 当然、少女が追われ始めたのも極々普通に理不尽なものだった。だが、問題はそれではない。
それ事態はまだ納得できなくもない。
 だからと言って納得したいわけでもないのだが。
「逃げても無駄だ」
 走りながら聞こえる声に、少女はぎくりとした。
「なんなのよ、あんた達はぁっ!!」
 少女の動きは俊敏だった。かなりのスピードが出ている。
 しかし、いかんせん。少女は小柄だった。
「死に行く者が、知る必要は……無い」
 小柄であると言う事。そこから真っ先に連想される事といえば、ましてや「少女」であると言
う事を考慮するならば。
「ふざけんじゃないわよ! そんな台詞一つで殺されてやるほど、あたしは安くないんだから
ね!!」
 走りながら叫ぶものの。少女には相手の姿が見えていなかった。
 もちろん、あたりは薄暗い為に視界が遮られている。でも、それだけではないことを少女は感
知していた。
 感知。そうとしか言いようがない。
 見えないところから聞こえる声。存在を確認することは出来ない。
 出来るのは、気配とも呼ぶべきもの。だけど、それを何て呼べばいいのか少女は知らないの
だ。だからこそ、少女は全力で逃げた。
 無論、相手が姿を現したとしても。簡単に殺されてやろうとは思わなかったが。
「その考えは、大事にした方がいいですよ」
 少女が、希望を失ったわけではなかった。だけど、絶望は確実に少女を虫食んで行った。
 それに食い尽くされたわけではない。けれど、その声は天から聞こえたような気がしたのも。
また、本当のことで。
 なぜかと問われれば、よく判らない。
 ただ、少女は感じていた。
 これまで、「なぜか」自分を殺そうと現れた者達と違う。
 どう違うのかと言われても困るわけだが。
 感じたのは、「恐怖」だった。
 だから、闇より現れた存在を肉眼で理解出来た時。
 少女は。別の意味で驚いた。
「貴様……」
「暗い夜道で女性を追いかけるのは、スマートと言えませんよ?」
 それは、闇より現れるのに相応しいと言えば。相応しかった。
 だが、それと同じくらい馴染まないと言えば、馴染まないとも言えた。
「お行きなさい、彼等は僕が引き付けておきましょう」
 少女の視界に映るのは、黒い髪をしていた。
 服装は、黒い……普通のスーツ姿だが。なぜか、異常に似合わないと思える。
「あんた……?」
「そんな事は後になさい。僕を信用出来ないのは、判らなくもありませんけれど。ここにあなた
がいて、出来ることがあるのでしたら……。
話は別ですけどね」
 少女にとって、それはありがたい話ではあった。だが、見ず知らずどころか見た事もなく。ま
してや、気配からしてただものではないと思わせる存在に。あろう事か、命を狙われている。今
にも命を失うかと思われた瞬間に、現れた影。
 これが信用できる存在かと問われた場合。まず起こるのが、「無理」だと言う結論だった。
 逃げ足の速い少女を押さえるために、先回りをして手の内の者を置いておく。そして、助かっ
たと思わせておいて後ろからばっさり……。
 手としては稚拙であっても、効果的である事に間違いはないのだから。
 だけど、少女はその場を去った。
「待てっ!!」
「おっと。あなた方の相手は、この僕がしてさしあげますよ」
 背後で音が聞こえたからではない。
 人々の音そのものは、すでに遥か遠くに消えている。だけど、少女を走らせたのは。たった一
言があったからである。
「ここにあなたがいて、出来ることがあるのでしたら……。
 話は別ですけどね」
 少女を走らせたのは、「怒り」だった。
 何も出来ない。自分に出来ることはなにもない。
 その悔しさが、少女を走らせていたのだ。

「うわぁっ!」
 どさぁ。
 激しい痛みを感じて、少女はぐったりとした。
 気がつくと、動機が激しい。呼吸を困難に感じた。
「おい、大丈夫か!?」
 遠くの方で声がして、次第に飛び込んでくる情報。
 耳につんざくのは、大分少なくなったとは言え。車と人との音。
 開いた瞼に飛び込んできたのは、光り輝くイルミネーションと……。
「しっかりしろ!!」
「う……」
 脳に酸素が回っていないのか、少女は何かを忘れている様な。思い出せない様な、そんな感じ
がした。
 誰かが、抱きかかえている様な気がした。
 揺すられている。誰かが、呼んでいる。
 だけど、それを不快に感じたりはしなかった。
 遠い友人の様に。幼い頃からの親友に。家族の様に近くて、恋人の様に遠くに感じるのはなぜ
だろう?
「あ……」
「大丈夫か!?」
 薄らと開けた視界に入ったのは、金の髪と。
「やばいな……どっか、ぶつけたのか?」
 青い、瞳。
 遠い昔、どこかで出会っただろうか?
 薄れて行く意識の中。少女はありもしない考えに、笑みを浮かべた。
「おいっ!!」
 腕の中で、一人の見知らぬ少女が意識を失って行く。
 それを見て、一人の青年は困り果てた。
 だが、それも当然と言えば当然だろう。
「……困った、なあ」
          ◇
 少し離れた屋根の上。
 そこに、黒いスーツを身に纏った。少々小柄の部類に属する男が一人。
「これは……困ったことになりそうですね」
 肩のところで切り揃えられた、おかっぱの髪。
 線で引いたように細い眼。
 身のこなしは優雅であるのだが……。
 だからこそだろうか?
 男の周囲には、まるでくり貫いた様な濃い暗闇。否、「闇」がある。
「まさか、ここまでそっくりだとは思わなかったのですが……」
 男は、少し考え悩んだ様である。
「これでは、帰りが遅くなるかも知れませんね」
 更に、男は何かを考え始めた様である。
「仕方がありません。とりあえず、彼には報告をしなくては……ね」
 月が空にかかる頃。そして、猫が屋根の上に登る頃。
 そこには、誰もいなかった。
           ◇
 それは、突然起きた。
「あれ?」
 音が耳に聞こえるのではないかとおもえるほどの勢いで、少女は目覚めた。
「あたし……?」
 一瞬前までの行動が思い出せない。
 だけど、見えているのが何かは判る。
 どうみても安い天井。決して暗いとは言わないが、明るいとも思えない光源は、天井にかかっ
た電気の明かりだけ。
 自分の財力で賄える範囲だわ。
 思ったのは、一瞬だった。
「なにぃっ!?」
 恐ろしく柔軟で丈夫なバネのおかげで、少女は起き上がった。
 なぜなら、それは見覚えのない天井だったから。
「なんなのよ……ここ?」
 目に映ったのは、飾り気のない壁。
 今、自分がいるのはベッドの上であって。それは窓際にあるる。
 側にはナイトテーブル。その上には明かりがあるけれど、点いてはいない。
 新しいとは言えない、どちらかと言えば。他にどうしようもないから、おざなりで置いてある
と言う様にしか見えない。
 一つは、おそらくクローゼット。もう一つはそれより小ぶりだが、棚であるのは間違いないだ
ろう。
「一体……?」
 少女は、まんまるの瞳をいっぱいに開いて困り果てた。
 窓の外はまっくら。部屋の中にある時計を見れば、まだまだ夜明けには遠いのが判る。
「なんだか、変な部屋……」
 部屋の中にあるものと言えば、それくらいのものである。
 本当に、飾り気というものがまったくない。
 せいぜい、テーブルの上に飲みかけの酒ビンが置いてあるくらいだろうか?
 だが、それだってグラスがないところをみれば。別にいますぐ飲んだとかという感じではな
い。人の生活している匂いの様なものが、皆無で。
「ホテル……じゃないのは、確かよね?」
 窓の下に連なるのは、少なくとも下町ではない。危険地域ではないが、見知らぬ場所で目覚め
て気分がいいかと問われれば。まず、たいがいの人物はNOと答えるだろう。
 瞬間、少女は身構えた。
 ガチャ。
 乱暴とは言わないが、かと言って慎重とか忍び込むというわけでもなく入って来る音が聞こえ
た。
 入ってきたのは、音からして一人。
 こちらへ近づいてくる。
 一歩。二歩。
「はっ!!」
 ばさぁっっっ!!
「うわぁっ!?」
 舞い上がった毛布の影から、伸びてきた手から。
「きゃぁっ!!」
「おいおい……乱暴はよそうぜ?」
 少女は唇を噛んだ。
 首を曲げることも出来ないくらい、強い力に捕まれている。
 だからどうしても、目にはガラス窓しか映らない。
 窓には、室内の様子が写っている。
 飾り気のない部屋と鮮やかな、それでいて少しクセのある栗色の髪をした少女。
「は……なして」
 堪えて紡ぎ出した声は、自分でも判るくらいに弱々しいものだった。
 窓に映る自分自身は、苦悶の表情を浮かべている。
「じゃあ、暴れたりしないか?」
 頭上から聞こえる声に、少女は恐怖を覚えた。
 だが、さっきまで裏路地で感じた。ましてや、黒いスーツ姿の男に感じたものとは種類が違う
と言えるだろう。
 まだ、普通に近い恐怖だった。
 極普通の。そこらの、「男」に感じるもの。
 実際、窓に映った姿も。そんな、意地の悪い様な表情をしている。
「し……ない、から。放し……て」
 どんなに手を払おうとしても、きつく捕まれた手は離れたりしない。
 だから、暴れようと思ったのは最初の時点であきらめた。
「じゃ、いっか」
「へ?」
 思ったよりはあっさりと。
 少女は開放されたことに驚いた。
 振り向いた先にいたのは、長身の男。
「あなた……誰?」
 今、自分はベッドの上に立っている。だから、男よりはかなり高い位置から見えるわけだが。
 男といえば、シャワーでも浴びていたのか。濡れた髪は暗い電灯の下でもよく映えている。お
まけに金の長い髪だ。瞳は海を写した様な深い青で、格好としては。よくあるフツーのシャツと
ズボンと言った感じ。ただ、かなりの長身。
 鍛えられたらしい体つきは、服の上からでもそれと知れる。
「それは、俺も聞きたいところだな」
 一番おかしいのは、男が笑顔だった事だ。
 一体、男は何が面白いのだろう?
「あたしは……。
 ううん、そんなんじゃなくて。アンタも、あいつらの仲間なの?」
 つい興味に惹かれそうになったが、何よりも。まずはそれだけを聞かなくてはならなかった。
何しろ、己の命がかかっているのだ。
 おざなりにするわけにはいかない。
「あいつら?」
 男は、きょとんとした顔をした。
 しばし考え込んだ様だったが、その内容までは流石に判らない。
「なんの事だ? 俺は、横から飛び出してきたお前さんとぶつかって。そうしたら、お前さんは
倒れちまうし。仕方ないから、俺の部屋に連れてきたんだぜ?」
「アンタの……部屋?」
「ああ」
 誰かの部屋と言うよりは、物置に近いとさえ思える部屋だが。
 飛び出してきたと言う話そのものは、少女も記憶していた。ただ、少し思い出すのが遅れたわ
けだし。何より、あの一瞬でどれだけの事を記憶出来たか……。
「じゃあ、アンタはあいつらの仲間じゃないのね?」
 駄目押しでたずねた少女の様子に、何か感じるところでもあったのか。
 わずかではあったが、男が眉をひそめた。
「お前さん、何かやったのか?」
「知らないわよ」
 少女は即答した。
「けどなあ。普通、誰かに追われるなんて。何かしてないと起きないんじゃないか?」
 正論である。だが、次に起きたのは。
「冗談じゃないわよっ!!
 夜中に道路歩いてて、いきなり「死ね」なんて言われて心当たりがあるのは。ヤクザな商売か
役人くらいなモンよっ!!」
 威勢のいい、少女の声だった。
「まあまあ……落ち着けって。
 その、なんだか判らない奴等だって。ここまでは追って来れないだろうしな」
 圧倒されたのか、男は少女を宥めに入る。
 少女とて、落ち着いたのか。それ以上は追求しようとはしなかった。
 ベッドに横座りをして、足元に毛布をかける。
 そして、少しの間。沈黙が室内を支配した。
「本当に判らないのよ」
 少女が、ぽつりと口を開いた。
 思わずこぼしたと言うよりは、誰かに聞いてもらいたかったのかも知れない。
「いつもの様に、いつもの通りにいつもの事をしただけなのに。それで一日が終わる筈だったの
に。
 こんな事、あたしの人生では始めてだわ」
 椅子がないからなのか、テーブルに座っていた男は。腕を組んで考え始めた様である。
「普段はなにをしてるんだ? その歳だと……学生か?」
「違うわ。まあ、概ね間違ってるとは言わないけど。
 奨学生だから、一日に費やすことなんてバイトよ」
「へえ、すごいんだな」
「まあね! ……って、違うでしょ!!」
 少女は、これは口が滑って出てしまったらしい。
 ぶつぶつと文句を言いながら、考えをまとめているのだろう。
 少し、時間がかかった。
 その間も、男はじっと少女を見つめるだけで何かをすると言った感じはない。
 そいて、少女の方にも結論が出たようである。
「じゃ、世話になったわ」
 言って、少女はベッドから立ち上がる。
「どうするんだ?」
「帰るのよ。決まってるでしょ?」
 あまりと言うか、なんだかと言うか。
 それは判らない。
「帰るって……家にか? いいのか?
 まだ、その変な奴等とかいるかも知れないし。家の人だってどうなってるか……」
「家の人なんて、いないわ。
 あたし、一人だから。それに、もう諦めて帰ったかも知れないじゃない」
「一人って……。まだそこいらにいるかも知れないだろう?」
 男に行く手を阻まれる形で、少女は立ち止まらなくてはならなかった。
「そんなの、行ってみなけりゃわからないでしょう?
 これ以上は迷惑かけたくないから、あたしは帰るって言ってるのよ。第一、他に行くあてもな
いし。これ以上アンタの所にいて。それこそあいつらが襲ってきたら、この部屋やアンタだって
ただじゃ済まないわよ」
 男は、くすりと笑った
「それこそ、心配なんて要らないさ。
 他に行くところもなくて、外にはあいつらがいるかも知れないなら。今晩くらいは泊っていけ
ばいい。幸い、俺も一人なんだ。ここは、他に住人なんていないから。もしもそいつらがここを
突き止めても、被害者なんて出ないしな。
 それと、こんな時間に出歩けば。そいつらじゃないのに襲われるかもな」
 少女にとって、それはありがたい申し出ではあった。
 家族もなく、逃げる場所もなく。理不尽で、理由も定かではなく殺されそうになるなんて。普
通の神経では耐えられないだろう。
「心配なんてしてないわ」
 だが、勝ち気で挑戦的で。赤い瞳を光らせた少女は断言した。
「あたしは、何かあった時に弁償するのが嫌なのよ!」
 数秒の間があって。
 それから、男は笑った。
 それこそ、爆笑と言うものだった。
「な、なによなによなによーっ!!
 あんた、一体なにがそんなのおかしいのよっ!」
「い……いや、経済観念が発達してるんだなって思ってさ」
 男は口を割らなかったが、笑ったのはそれだけではない。むしろ、怒鳴ったことで更に爆笑を
している。
「あったりまえじゃない! 一人で生きていくには、より効率的にお金を稼がないとね。
 それを。自分が原因不明の人災に巻き込まれて、その弁償をあたしがするですって!?
 そんなの、例え国王が許しても神様が許しても。このあたしが許すわけないじゃないっ!!」
 男の笑いは、それこそ声が出なくなるほどすごいものだった。
「しつれーな奴ね……」
「じゃ、じゃあ。その、『このあたしさん』の名前でも教えてくれるか?
 俺はガウリイ。見ての通り、学生だ」
 殺風景と言うか、生活感の欠片も感じさせない部屋を見せて「見ての通り」もないものである
が。とりあえず、男の言うことももっともだと思ったのだろう。
「あたしは、リナ」

 1990年代中期。
 ある大地。ある国。ある町中の。
 ある路地で、一組の男女が出会った。
 だが、問題は始まったばかりである。

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2728Re:刻の糸の語る詠・1Shinri 5/16-06:20
記事番号2715へのコメント
やった! 早速続きがUPされてる♪
・・・という訳で。”とりあえず”こんにちは、Mさま(笑)

まずは、つたないながら『刻の糸〜・1』の感想を。 

・・・なるほど。
転生、ということになるのでしょうか、これは。
で、やっぱりリナはここでも何者かに狙われてる、と。う〜ん、どの世界にあっても『平穏無事
』とかとは縁遠そうですね、彼女って。難儀だなぁ(笑)
今回のを読んだ限りでは・・・こちらのリナ、魔法使えないのかな? となると、ガウリイの方
はどうなるんでしょうね?

レスでおっしゃられた通り、謎が「少し」だけ明らかにされましたね。
と言っても、まだ殆ど謎のまま。しかも、今回のでまた新たに増えた分もあるから、謎は膨らん
で行く一方、と(笑)
まあでも、それが連載ものの楽しみでもありますし♪
いろいろ想像(妄想?)を働かせつつ、続きを待ちましょう(楽)

感じたこと、そして気になることは、今回もたくさんあるんですけれど(前話の『氷の中のリナ
たち』と、『彼ら』のつながりとか)・・・。
けど、あまり最初からあれこれ詮索するのも何ですし、そういう読み方も苦手ですので。
とりあえず続き待ち、ということに今回はしておきます。

ああ、でもこれだけは書いておかなくては(!)
スーツ姿のゼロス!!!
・・・黒はいいとしても・・・スーツ・・・(笑)
確かにあまり似合いそーにありません。けどまあ中間管理職ですし、彼。
あの格好で、「いやあ、何せ上からの指示ですから、はっはっはっ」・・・って、案外合ってた
りして(爆)

と、ここまで書いてきて読み返してみると・・・う〜ん、自分で書いててなんですけど・・・ま
とまってないですね、文章(汗)
しかも、感想とは名ばかりの、あまり中身がないよーなそんなシロモノでしかなくって申し訳あ
りません(涙)
普段、感覚で読み書きするタイプなので、まとまった文章ってなかなか書き辛くって(殴)

で、ここからはレス返し。

>某学校にもいらしてますね。どんどん暴走しましょう♪(なんて奴)
ははは・・・すでにしてるよーな気が。連日カキコしてますし。

>皆さんの反応次第ですが、これは長い物語の一つなんです(それでも長いけど)
場合によっては途中でうち切り。メールのみと言う場合もあります。
その場合には一言お知らせ下さいね♪ 
最後まで読ませて頂けるのでしたら、方法は何でも構いませんので。

>>リナが何を望んでいるのか・・・ということ。
>とっても簡単で、とっても難しい事です。
>でも、本当は簡単なのかも知れない・・・(謎)
何となくですが、分かるような気も。

>りょーかいしました。
>そこに「望む方」がある限り、僕は願いを叶えましょう。
お願いします(笑)

>某学校のがわかりやすかったかなあ?(^^;)
いや(笑) 何となくそーではないかとは思ってましたから。

>では、もう少しお待ちしましょう(^^)
すいません、もう少々お時間下さい(^^;

いやはや。長々と申し訳ありませんでした。
それでは、続きのUPを心待ちに・・・。

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2729早速の感想、ありがとうございます(^^)5/16-08:59
記事番号2728へのコメント
>やった! 早速続きがUPされてる♪
>・・・という訳で。”とりあえず”こんにちは、Mさま(笑)

おはようございまーす(^^)<朝だったりする

>まずは、つたないながら『刻の糸〜・1』の感想を。 
>
>・・・なるほど。
>転生、ということになるのでしょうか、これは。
>で、やっぱりリナはここでも何者かに狙われてる、と。う〜ん、どの世界にあっても『平穏無事
>』とかとは縁遠そうですね、彼女って。難儀だなぁ(笑)

この「リナ」の時代は、どちらかと言えば僕たちの時代に近いです。
追々、その点は明らかになります(^^)
しかし……確かに、平穏無事とか。平和とかは無縁だなあ……。
ちょっと可哀想かも知れない……(汗)

>レスでおっしゃられた通り、謎が「少し」だけ明らかにされましたね。
>と言っても、まだ殆ど謎のまま。しかも、今回のでまた新たに増えた分もあるから、謎は膨らん
>で行く一方、と(笑)
>まあでも、それが連載ものの楽しみでもありますし♪
>いろいろ想像(妄想?)を働かせつつ、続きを待ちましょう(楽)

どんな想像(妄想?)をされるか、こちらも想像で返して楽しんで見ましょう♪

>感じたこと、そして気になることは、今回もたくさんあるんですけれど(前話の『氷の中のリナ
>たち』と、『彼ら』のつながりとか)・・・。
>けど、あまり最初からあれこれ詮索するのも何ですし、そういう読み方も苦手ですので。
>とりあえず続き待ち、ということに今回はしておきます。

楽しみにして行きます。
一体、どんな風に感じるのかなあぁ〜♪

>ああ、でもこれだけは書いておかなくては(!)
>スーツ姿のゼロス!!!
>・・・黒はいいとしても・・・スーツ・・・(笑)
>確かにあまり似合いそーにありません。けどまあ中間管理職ですし、彼。
>あの格好で、「いやあ、何せ上からの指示ですから、はっはっはっ」・・・って、案外合ってた
>りして(爆)

スーツで判ると思いますが、この話はずいぶんと『リナ』達の時代より後となっています。
それに、あの格好だと返って目立つので……。
>
>と、ここまで書いてきて読み返してみると・・・う〜ん、自分で書いててなんですけど・・・ま
>とまってないですね、文章(汗)
>しかも、感想とは名ばかりの、あまり中身がないよーなそんなシロモノでしかなくって申し訳あ
>りません(涙)
>普段、感覚で読み書きするタイプなので、まとまった文章ってなかなか書き辛くって(殴)

とんでもない。
感想と言うのは、「読んだ瞬間に感じた事」がすべてだと思います。
それを、言葉に直そうと言うのは難しい事です。仕方ありません<経験者

>で、ここからはレス返し。
>
>>某学校にもいらしてますね。どんどん暴走しましょう♪(なんて奴)
>ははは・・・すでにしてるよーな気が。連日カキコしてますし。

もっとしましょう(^^)
あまり書き込みは出来ませんが、裏では「悪巧み」をしてます☆
しかし、僕のモットーは「みんな幸せ(はあと)」なので、ご心配には及びません。
>
>>皆さんの反応次第ですが、これは長い物語の一つなんです(それでも長いけど)
>場合によっては途中でうち切り。メールのみと言う場合もあります。
>その場合には一言お知らせ下さいね♪ 
>最後まで読ませて頂けるのでしたら、方法は何でも構いませんので。

りょーかいしました。
その際には、某学校か。某組合か。こちらにお知らせしますね(^^)

>いやはや。長々と申し訳ありませんでした。
>それでは、続きのUPを心待ちに・・・。

このレスが終わったらして置きます。
気に入っていただければ良いのですが……。

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2730刻の糸の語る詠・25/16-09:28
記事番号2715へのコメント
刻の糸の語る詠・2

 人の匂い。生活感。
 それを、まったく感じさせない。殺風景な部屋。
「アンタは、一人で暮らしてるって言ってたわね?」
 少女は、ベッドに座ったままたずねた。
 運び込まれた時には、衰弱もあってかなり疲労していたし。完全に警戒心が解けたと言うわけでもない
のか。瞳は緊張している。
「ああ」
 自分の部屋だからなのか。部屋主だと言う男は、テーブルに寄りかかるように座ったまま。人の良い笑
みを浮かべている。
 男は、窓ガラスに写ったのとは別人かと思うくらいに。
 笑っている。
「ここ、どこなの?」
「ここは、王立学校に程近い。西側にある旧学生寮跡地だ」
「へえ……うわさには聞いてたけど、本当にあったんだ?
 それなら、確かに人なんて来ないわよね」
 少女。リナの記憶には、ある噂があった。
 かつて、校舎の西側には学生寮があったのだが。それが古くなった為に、南側と北側の2館を建てるこ
とで。ここは廃棄処分となったのだ。以来、このあたりは立ち入り禁止区域に指定され。一部の人間以外
は出入りが出来なくなったと言う。
 どういうわけか、誰もいないはずの寮に人の住んでいる気配がするとか。このあたりには妙な気配が散
乱しているとか。怪現象が起こるとか。
「アンタ、それならどうしてこんな所に住んでるのよ?」
「アンタアンタってさっきから言うけど、俺にはガウリイってれっきとした名前があるんだぜ? お前さ
んさぁ……」
「あたしだって、『お前さん』じゃなくてリナよ!」
 うなり声を上げるような感じで、リナが怒鳴る。
 これが町中なら、幾ら見知らぬ女の子が目の前で気絶したからと言って、自分の部屋で寝かせる様なガ
ウリイでも。近所や周囲の目が気になって仕方がなかっただろうが。幸いにも、周囲には人間の気配など
まったくない。
「正確には、『幽霊屋敷』から少し離れた所で。俺は、前にここに住んでいた爺さんから譲り受けたん
だ」
 深く考えるのも馬鹿らしいと思ったのか、少しため息をついて。それだけをガウリイが言った。どちら
にしても、口論して面白い事などない。
「ふうぅーん……」
「どうかしたのか?」
「あ、ううん。なんでもない」
 慌ててリナは首を横に振ったわけだが。実は、部屋の中をじっくりと見ていたのだ。だが、最初に目覚
めた時。
ざっと見回した時と同じ。
 必要最低限どころか、必要なものさえそろっていない部屋。
 お爺さんから譲り受けたと言うのなら、その老人の家具とかが多少は残っていてもおかしくないのに。
それさえもない。
「この部屋だけなの?」
「あ? ああ……。
 あとは、他にも部屋がないことはないけど。それと、台所とかの共有スペースかな?」
 どういう生活をしているのか、それとも越してきて間がないのか。ガウリイはどこか呆けっとした感じ
で。呟く様に言う。
「そうか。ガウリイって……。
 あたしとした事が……」
「な、なんだなんだ?」
 突然のリナの反応に、驚くのはガウリイに限ったことではないだろう。
「思い出したのよ、アナタの事。
 有名だもんね。どうりで、名前を聞いた時に覚えがあると思った」
「有名なのか? 俺」
 有名と言っても、物事には種類がある。
 実力で有名なもの。家族やバックホーンが有名なもの。
 そして、嬉しいもの。嬉しくないもの。
「有名よぉ。あなた、海洋学研究教室のガウリイでしょ?」
「あ、ああ……」
 どうやら、あまり嬉しくない様な状況になって来た様な気がしたガウリイだが。
 自分の事が判ると同時に、リナからにじみ出ていた緊張感が消えたので「まあ、いいか」と言った気分
になっていた。
「神様だって言う人もいるし、無神経だって叫ぶ人もいるわね。
 運動神経がやたらとよくて、困っている人は見過ごせなくて。自分の研究成果を、ぽんと他人に与え
るって聞いた事があるわ」
 そんなことやったっけ?
 ガウリイにとって、すぐに思い出せないくらいの事ではあったが。どうやらリナにとっては、それが面
白くてたまらないらしい。
 今度は、リナが笑っていた。でも、ガウリイには笑う理由が判らない。
「神様なんてものに、なった覚えはないな。無神経は……わからんけど。
 運動神経がいいのは認めるし、別に。誰彼かまわず助けてるわけでもないし。第一、多分……研究の事
だったら、共同研究だったし。俺、人前に出るのは苦手だから。共同者の奴に頼んで、名前を伏せても
らった奴の事を言ってるんだろうけど……」
「そんなのはどうでもいいわ。あたしが知ってるアナタの事を、言ってみただけだから」
 学生。しかも研究生にとって、研究成果と言うのは大切なものだ。
 なにしろ、数年前に起こったと言う「不明の事件」では。研究成果が原因だったといわれているくらい
なのだから。もっとも、「不明の事件」と言うだけあって何があったのかは、一般的には知られていない
が。
「なるほど、それもそうか。
 で、どっちにしても。お前さん……リナは、俺の事を知ってるわけだよな?」
「まあ、うわさ程度には……ね」
 ただし、そのうわさとて。リナはほとんどどころか全然信じてはいなかった。
 大体、そんな事を信じたからと言って。リナにとって有益な事などまったくないとさえ思っていたのだ
から。それは仕方がないだろう。
「じゃあ、今度は俺がリナの事を知る番だな。
 一体、何があったんだ?」
「だから、本当に何も知らないのよ!
 それともなに!? ガウリイには夜中にいきなり『死んでもらう』なんて言われて。『はいどうぞ』な
んて言えるわけ? そんな心当たりがあるってわけ!?」
 さっきの恐怖が蘇ったのだろう。リナは、とたんに激しく怒鳴りつけた。
「いや……俺にもないけど」
「だったら……、だったら。言わないでよ。
 あたしだって……判らないことだらけよ。何も、知らないわ。ここのところ、何かを拾ったとか、何か
を見たとかしたなら話は別だけど」
 困った顔で、ガウリイは言葉が見つからなかった。
 大体、リナの言う事を信用するのならば。リナは無意味で関係のない。単なる被害者だ。そして、裏路
地でいきなり。それこそ、本当に無意味に通り魔に遭う事だとて珍しい事でもなんでもないのも。また、
確かなことであった。
 けれど、追われたリナを見て。その背後を見て。
 ガウリイには、何か大きな問題がある様な気がしてたまらなかった。
 だが、それはリナの意識に関わる問題ではない様である。
「ガウリイには……アンタには、感謝してる。
 あのまま、あたしを放り出して行かれても文句なんて言えなかったのに。ここまで運んでくれたんだも
んね」
「そんなのは……」
「でも、本当にあたしは何も知らないし。何が起こったのか判らないのよ!
 ……そうだ、あいつ」
 リナの脳裏に、フラッシュ・バックする一人の男。
 黒くて肩で切り揃えられた髪。黒いスーツ。
 昼に町中を歩いていて、何の違和感も感じさせないはずの姿は。されど、夜の。腐臭と腐敗と、そして
汚濁した空気の中にあってなおも相応しいと思わせた存在。
「あいつ?」
「あたし、捕まりかけたとき。男が……」
 忘れていたわけではない。ただ、目の前に連なる奇怪なる問題に心を奪われていたと言うだけの話。落
ち着けば、あのおかっぱ頭の男が自分自身にもたらしてくれた屈辱を。思い出す事など造作もないのだ。
「ゼロス、と呼んで下さい」
 ぎくり。
 瞬間。部屋の空気は、確かに真空に変わった。
 息をする事も忘れ、ガウリイも。そしてリナも、身を強ばらせた。
「……あ」
 喉が引きつるのを止められず、リナは全身が震えた。
 リナからは、ちょうどガウリイが死角になっていて見えない。そして、ガウリイからも窓ガラスの反射
には己の姿が壁となって。その背後から聞こえた声の主を確認する事が出来ない。
 だが、リナの脳裏には間違いなく。
 畏怖にも似た恐れが生じる。
 全身の震えを、心が訴える寒気を、何かにすがり付きたくなる孤独を!
「誰だ? あんた」
 放っておけば、間違いなく神経は崩壊しただろう。
 リナの神経が。でも、それを救ってくれたのは、一人の人間の男だった。
 『人間』
 そのフレーズに、リナは不思議な感覚を覚える。
 なぜ、今そんなことを考えてしまったのか。
「謎の神官。ゼロスと言います」
 そっとガウリイの横からのぞいてみると。
 彼は、町中で見たのと同じ。
 黒い髪。黒いスーツ姿。
 まるで、線で引いた様な瞳。
 神官と言うには、あまりにも俗世的な格好ではあるが。残念な事に、宗教関係者に知り合いなど一人も
いないリナとガウリイにとって。ゼロスと名乗った人物の言っている事が本当なのかどうなのか、計り兼
ねていた。
「あんた……」

 どげしっ!!

 沈黙が、部屋を覆った。
「痛いじゃないですか、何をするんですかっ!!」
「やかましぃっっっっ!!」
 何が起こったのかと問われれば。
 まず、ゼロスが現れた。
 ガウリイが、会話を始めようとした。
 リナが、ゼロスに飛蹴りをかました……。
 と、言うところだろうか。
 現に、ゼロスの顔にはリナの足型がうっすらとついている。
「あんた、一体何者なの?
 なんの目的で、あたしを付けねらうのよっ!」
 胸座をつかみ、いつでも臨戦態勢が取れる様子のリナ。それで、多少は困っている様に見えなくもない
が。目が笑っている事でそれを裏切っているゼロス。
 可哀相なのは、家主のはずのガウリイである。
 もっとも、二人は当事者なのだから仕方がないと言えばないわけだが。
「まあまあ……落ち着いてくださいよ。
 その様子ですと、大分元気になられた様ですね」
「だったらなに!? あたしを殺すとでも言うわけ!?」
 まるで子犬と子猫だ。
 二人の様子を見て、ガウリイの中から出てきた感想が。それだった。
「そんなぁ! 僕はあなたを守ってさしあげたんですよ?
 なのに、そんな事を言われるなんて………!!」
 いきなり泣き出したゼロスを睨み付けながら、リナはぽつりと言った。
「目薬。見えてるわよ、ポケットから」
 再び、部屋に沈黙が流れた。
「どうでもいいけど、あんた何なんだ?」
 もっともと言えばもっともな質問に、ゼロスは笑ってこう言った。
「謎の神官です」
「なんでこんな所にいるのよ?」
 つかんでいた手を(呆れ顔で)放し、リナが言った。
 すると、ゼロスは人差し指を口元に持ってきて一言。
「それは秘密です」
 リナが0.3秒で頭に血が上る事を覚悟した瞬間。
「と、言いたいところなんですけどね。
 あなたを迎えに来たんです。お嬢さん」
 言われて、リナがきょとんとした顔をした。
 勿論、上り切って。今にも爆発するかと思われた脳細胞は、一気に冷えて冷静になっている。
「あたし?」
「そうです」
 質問は、簡潔だった。
 答えも、簡潔だった。
「なんで?」
「なんでも」
 問いかけは、すべてに対してだった。
 答えは、すべてを現していた。
「ちょっと」
「はい?」
 問題は、何も解決されていなかった。
 それは、外側にいたガウリイにも判った。
「教えてくれないの? 知ってるんでしょう?」
「そりゃあ、ある程度は。でも、実際にそうだと確認したわけではありません。
 下手な情報を教えて『違って』いたら。なんだか、身に危険を感じそうですしね」
 なんだそりゃ、と思ったのは確かで。
 信じられない、と思ったのも本当で。
「そうそう。それはそうと、僕も名前をお教えしたのですから。
 あなた方も名前を教えていただけますか?」
 正体とか敵味方は別として。
 まあ、それもそうだと思うのが二人の共通の意見だった。
 ただし、それでもゼロスが笑みを崩さないところが。そこはかとなく困るものだったが。
「俺はガウリイ」
「あたしはリナよ」

 ばたん。

「なにやってんの、あんた……?」
「おいおい、大丈夫かあ?」
 二人は、どうしてゼロスがいきなり倒れたのか判らなかった。
 ただ、名乗っただけである。しかも、青ざめているのだ。
「いえ……ちょっと、精神的ショックが大きすぎまして。
 まさか、よく似てらっしゃるとは思いましたけど。ここまでとは……。
 なるほど、彼等も来るはずです」
 意識無意識は別として、ゼロスは本気で動揺しているらしい。
 何しろ、それでリナが再び襟元をつかみ掛かったくらいなのだから。
「どういう事?」
「へ?」
「あんたが今、口走った事よ。
 『似てる』とか『彼等』とか、一体どういう事なの?
 あたしは、誰かに間違われているって事なの?」
 ゆさゆさと襟元を揺らしながら、リナはたずねる。締め上げているとも言う。
 当然の事ながら、ゼロスの顔色はますます悪くなって行く。
「おいおい、リナ! それ以上やったら、本気で死ぬぞ!!」
「言わないなら、殺してでも聞き出してやるわよ!
 あたしは、こんな所で死にたくないんだからっ……。放してよ、ガウリイ!!」
 せき込みながら開放されたゼロスが見たのは、後ろから羽交い締めにしているガウリイと。その被害者
(?)であるリナだった。リナの表情は今にも泣きそうな顔となっている。
 だが、それも無理からぬ話なのだ。
 わけの判らぬ現象が続く。そして、手がかりが目の前にある。
 錯乱しない人間の方が珍しい。
「すべて……とは言いません。しかし、ある程度まででしたら話してさしあげます。
 その為に、僕はあなたを。『リナさん』を探しに来たのですから」
 一瞬。極わずかではあったが、リナには。
 今、ゼロスの呼んだ『リナ』と言うのが。自分自身の事を指しているのではない様な気がした。
「じゃあ、話して。一体、何が起きてるの。
 なんでそれが、あたしなの? 」
「残念ですが……それを今、お話するわけにはいきません」
「なんでなんだ?」
 腕はつかまれたままだったが、リナの手から力は抜けていた。
「ガウリイね?」
 何度か交わされる瞳で、リナとゼロスは会話をしていた。
「そうです」
「どういう事なんだ?」
「これは、あたしの問題なのよ。例え、あたしが巻き込まれただけの被害者であるだけだって言っても。
無関係な人間を巻き込むわけにはいかないらしいし」
 リナが、一度だけ言葉を切った。
「第一、あたしが嫌だわ。
 関係のない人を巻き込むのも、その後始末をするのもね……。
 判ったら、手を放して」
 それは、ゼロスの持ち込んだ問題の大きさを現していた。
 そして、これまでのいきさつからも判るように。命に関わる問題でもあったし、どうやら表沙汰にして
もならない問題でもあるらしい。
「ちょっと待てよ。ここまで話を聞いたら、俺だって無関係だってわけじゃないぜ?」
「じゅーぶん無関係でしょ、アンタは」
 一刀両断で切り裂く台詞に、実はガウリイが情けない顔をしたわけだが。
 後ろから羽交い締めにされていれば。当然、そんなものは見えない。
「じゅーぶん無関係ですよ、ガウリイさんは」
「あのなあ……」
 面白そうな顔で言われると、余計に物悲しくなったりするのが人の常だったりする。
「じゃあ、放さない」
「なによ……それ」
「俺が無関係だから、話を聞く権利がないって言うなら。話を聞くまで放さない。
 そうすれば、自動的に俺も関係者になるだろ?」
 思わず。リナから言葉が失われたのは言うまでもない。
「無関係なんだから、あたしが出ていくって言ってんだから。放っておけばいいのよ!
 今のあたしと関わったら、何が起こるのか判らないのよっ! 素直に『なかった事』にすればいいの
よ、あんたはぁっ!!」
「素直になるのはリナの方だろ?」
「あたしは素直よ、十分素直よぉっ!!」
 再びジタバタと暴れ出すリナだったが。根本的な体格差とか、腕力の問題で解放されることはない。
「まったく……本当に、お変わりないですよね。お二人とも」
 ゼロスが、嘆息を漏らした。

 光が。
 部屋を満たしたとリナは思った。
 体が宙に浮いて、視界が真っ白になった。
 浮遊感と共に、リナは視界に侵入してくる黒い影を感じた。
 それは。
「まったく。だから言ったのに……。
 ねえ、リナさん?」
 立ちはだかる様に、ゼロスがいた。

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2745Re:刻の糸の語る詠・2 感想です♪Shinri 5/18-05:54
記事番号2730へのコメント
レス置いてって間もないのに、もうきちんと続きがUPされてる。
・・・何か追っかけっこ状態と化してません、このツリー?(^^; いいんだろうか?(笑)
私は続けて読めて嬉しいからいいんですけど・・・それはさて置き。
”とりあえず”こんにちは、Mさま♪
何故に”とりあえず”を付けるのか? それは、私のレスはリアルタイムではないから(謎)

今回は先にレス返し♪

>この「リナ」の時代は、どちらかと言えば僕たちの時代に近いです。
>追々、その点は明らかになります(^^)
それは読んでて何となく・・・。
ゼロスのスーツ、とか(笑)

>どんな想像(妄想?)をされるか、こちらも想像で返して楽しんで見ましょう♪
あはははは・・・・(汗) 的外れもアリ、ですよね?

>感想と言うのは、「読んだ瞬間に感じた事」がすべてだと思います。
>それを、言葉に直そうと言うのは難しい事です。仕方ありません<経験者
本当にその通りですね。
イメージがそのまま言葉に出来るなら苦労はしない・・・(しみじみ) 言葉だけに限ったこと
ではありませんが。

>裏では「悪巧み」をしてます☆
>しかし、僕のモットーは「みんな幸せ(はあと)」なので、ご心配には及びません。
わるだくみ・・・・悪巧み???
気になるなあ・・・(笑)

ここから『刻の糸〜・2』の感想いきます♪(って、これが本来の順番だと思ふ(^^;)

さてさて。面白くなってきたぞっ、と♪

読み終えて、まず思ったこと。
氷室の中の『リナたち』と、こちらの『リナたち』と。
全く同じようでいて、でも部分的に異なるとこもあるようですね。微妙にですけど。まあ、世界
が違うのだから、当然と言えば言えるのかもしれません。

例えば……。
「こちら」のリナは、少なくとも今までのところは、魔力もしくはそれに代わる力を持ってない
ようだ(潜在的にはあるのかもしれないが)、とか・・・(引き続き仮定中)
「こちら」のガウリイ、何だか賢そう(!!!)、とか(笑)
あと興味深かったのが、「こちら」の世界では、ガウリイの方が有名らしいということ。
元の世界(こういう表現が適切かどうかは分かりませんが)では、リナの方が圧倒的に有名だけ
ど、ガウリイに関しては殆ど聞いたことがない。
ゼルとか結構有名なのに、その実力の高さにも関わらず彼に関する噂が聞かれないのはなぜなの
か、これは原作の頃からの疑問なんですけど。……でも、神坂センセに聞いても「いや、ガウリ
イだから」の一言で済まされちゃいそうなんだけど(苦笑)
ともあれそのあたりからすると、結構この部分って面白く思えたりするんですが・・・深読みし
過ぎかな? やっぱり。

もちろん変わってないとこもある訳で。
リナがゼロスにいきなり飛蹴り食らわす場面や、ガウリイの保護者ぶり・・・などなど。
あまりにも変わらなさすぎて大笑いしてしまいました(笑)
リナがガウリイについて聞いた噂を次々と挙げた後、いちいち律義にそれに答えるガウリイのセ
リフなんて、まさにそのまんま(!)だし・・・。
世界が変われど一番根っこは変わらない、と♪(爆笑)

お話自体の方は、いよいよ謎が深まってきましたね♪
ゼロスは何故、あれほどまでに『こちら』の二人に驚いたのか? あのゼロスが・・・青ざめて
倒れてしまうほど動揺するなんて!
滅多に見られないような光景だけにすごく気がかりです。
・・・演技かもしれませんが(←疑り深い)
彼が”探してた”という『リナ』は、多分「こっち」の彼女ではなく、おそらく「あっち」のリ
ナを指しているのだろうけど・・・探すって???
おまけにラストでは、何だか正体不明の(注・当たり前だ(笑))新手まで現れるし。
・・・おかげで私の????は、次回までまたまた持ち越し状態となりました、やれやれ(笑)

以上。相変わらず長くってまとまりのないレス&感想でしたが、ここまでお付き合い頂けたとし
たら幸いです♪(謝)
それではまた。続きがUPされますのを心待ちに・・・。

(追伸)・・・・某組合の新作の方、メールで感想書いたとしたら読まれます?

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2756Re:刻の糸の語る詠・2 感想です♪5/18-21:40
記事番号2745へのコメント
>レス置いてって間もないのに、もうきちんと続きがUPされてる。
>・・・何か追っかけっこ状態と化してません、このツリー?(^^; いいんだろうか?(笑)

それが狙いですから♪

>私は続けて読めて嬉しいからいいんですけど・・・それはさて置き。
>”とりあえず”こんにちは、Mさま♪
>何故に”とりあえず”を付けるのか? それは、私のレスはリアルタイムではないから(謎)

僕もリアルタイムではないので「こんばんわ」(^^)

>>どんな想像(妄想?)をされるか、こちらも想像で返して楽しんで見ましょう♪
>あはははは・・・・(汗) 的外れもアリ、ですよね?

それを考えるのが、楽しいんです♪

>>裏では「悪巧み」をしてます☆
>>しかし、僕のモットーは「みんな幸せ(はあと)」なので、ご心配には及びません。
>わるだくみ・・・・悪巧み???
>気になるなあ・・・(笑)

まだ「ひみちゅ☆」

>ここから『刻の糸〜・2』の感想いきます♪(って、これが本来の順番だと思ふ(^^;)

ありがとですぅ〜♪

>読み終えて、まず思ったこと。
>氷室の中の『リナたち』と、こちらの『リナたち』と。
>全く同じようでいて、でも部分的に異なるとこもあるようですね。微妙にですけど。まあ、世界
>が違うのだから、当然と言えば言えるのかもしれません。

違うんですねえ・・・。
でも、それにはちゃんと理由があるんです。
どんな理由かは、そのうち判ります♪

>例えば……。
>「こちら」のリナは、少なくとも今までのところは、魔力もしくはそれに代わる力を持ってない
>ようだ(潜在的にはあるのかもしれないが)、とか・・・(引き続き仮定中)

するどいですねえ(にっこり)

>「こちら」のガウリイ、何だか賢そう(!!!)、とか(笑)
>あと興味深かったのが、「こちら」の世界では、ガウリイの方が有名らしいということ。
>元の世界(こういう表現が適切かどうかは分かりませんが)では、リナの方が圧倒的に有名だけ
>ど、ガウリイに関しては殆ど聞いたことがない。

ですね。一応、リナも有名は有名ですが。
まあ、「ガウリイ」だし(^^)

>これは原作の頃からの疑問なんですけど。……でも、神坂センセに聞いても「いや、ガウリ
>イだから」の一言で済まされちゃいそうなんだけど(苦笑)

言われるでしょうねえ・・・。
実は、その話は知り合いとも言ってるんです。

>ともあれそのあたりからすると、結構この部分って面白く思えたりするんですが・・・深読みし
>過ぎかな? やっぱり。

楽しんでください♪

>あまりにも変わらなさすぎて大笑いしてしまいました(笑)

「基本」です☆
リナはどこで何をやってもリナだし、ガウリイはどうしたってガウリイだと思っています。
ゼロスの場合は、どんな立場にとってもガウリナ←ゼロスだと思いますしね(^^)

>リナがガウリイについて聞いた噂を次々と挙げた後、いちいち律義にそれに答えるガウリイのセ
>リフなんて、まさにそのまんま(!)だし・・・。
>世界が変われど一番根っこは変わらない、と♪(爆笑)

ああ、それってトップレベルのほめ言葉です。
ありがとうございます(^^)

>お話自体の方は、いよいよ謎が深まってきましたね♪
>ゼロスは何故、あれほどまでに『こちら』の二人に驚いたのか? あのゼロスが・・・青ざめて
>倒れてしまうほど動揺するなんて!
>滅多に見られないような光景だけにすごく気がかりです。

狙ってみました(はあと)

>彼が”探してた”という『リナ』は、多分「こっち」の彼女ではなく、おそらく「あっち」のリ
>ナを指しているのだろうけど・・・探すって???

ゼロスが「リナ」を探していたのは、この場合は「この世界のリナ」です。
これ以上は、まだ「秘密☆」です。

>おまけにラストでは、何だか正体不明の(注・当たり前だ(笑))新手まで現れるし。
>・・・おかげで私の????は、次回までまたまた持ち越し状態となりました、やれやれ(笑)

それは、とりあえず次回に出ます。
あくまでも「とりあえず」ですが・・・。

>以上。相変わらず長くってまとまりのないレス&感想でしたが、ここまでお付き合い頂けたとし
>たら幸いです♪(謝)
>それではまた。続きがUPされますのを心待ちに・・・。

UPしましょう(^^)

>(追伸)・・・・某組合の新作の方、メールで感想書いたとしたら読まれます?

了解しました。お待ちしておきますね。
反応があると思うと、とっても楽しいです♪

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2755刻の糸の語る詠・35/18-21:40
記事番号2730へのコメント
刻の糸の語る詠・3
         
 意識を失わなかったのは、奇跡だと思った。
 重い重圧に耐えながら、無残な様子となった部屋を見る。
 視界には、ついさっきまで飾り気などまったくなかった。古くてボロそうな部屋だったわけだが。
 半分くらいは吹き飛ばされていた。
「おや、少し遅れてしまった様ですね……」
 ゼロスの呟きに、リナは顔をしかめた。
 別に、痛いところはない。ただ、背中にかかる重圧と、もうもうと立ち込めるホコリに顔をしかめるだけだっ
た。
「何が……一体」
 腕を動かすことは出来る。太い、別の人間の腕が絡んでいて。
 一瞬「なにこれ?」とか思ったわけだが、すぐに記憶は修復される。
「ちょっとおぉっっっっっ!?」
 ずるりと落ちてきたのは、鍛えられた体躯の男性。
 知っている人間。ガウリイ。
 ここまで運んでくれた、なんと言うか……。
 お人好し。
「ちょっと、ガウリイ。アンタ……」
 ガウリイの体は、爆発に巻きまれたのか。背中だけ大火傷を負っている。
 内側は、リナを羽交い締めにしていたおかげなのか無傷だ。
 しかし閉じられた瞳は微動だにせず、素人目でも危険と知れる。
「あ、あたし……」
 頭の中で反響する声は、沢山あった。
 けれど、そのうちの一つとして言葉とはならなかった。口から紡がれることはなかった。
「覚悟なさい、極悪人ゼロス!!」
 爆風は収まったが、そこにはまだ落ちてくる壁の欠片やなんかがある。
 はっきり言って、危険と言えば危険だ。
 その中で、白い法衣に身を包んだ女性が立っている。
 見たところ、20代後半と言ったところか?
 正直。普通、こういう所には来てこない様な服装だ。
「おやおや……これは、千客万来と言うところですかね。
 リナさん、場所を移動しますよ」
 どうしたらいいのか判らず、パニックを起こしかけているリナの手を取り。立ち上がらせようと促すゼロスだっ
たが。
「だ、駄目よ……あたし」
「いけません! このままここにいたら、ガウリイさんの身はもっと危険になります。
 非常事態ですからね。失礼しますよ!」
 抵抗をするリナの腕を掴んだゼロスは、とんでもない力で引き寄せる。
 正気の時でも勝てることはないだろうが、リナは次の瞬間。
 判らなかった。何が起こったのか。
          ◇
 一人の女性が、その場にあった。
 服装は、すべて白。「高潔」をイメージさせる。
 髪は黒。長いとは言えないが、肩のあたりで切り揃えられている。
 手には銃の様なものを持っている。
 様なものと言うのは、それが普通の拳銃とはえらく異なる形状をしているからだ。
 とりあえず、銃そのものに不可解な文字が刻まれている。
 そして、普通ならばシリンダーに最高6発の弾が入れることが出来るはずであるが。それは後ろの部分を「ぱ
かっ」と開ける様に出来ているのだ。
 女性が、瓦礫の山に足を踏み入れる。
 足元に転がっている人間を発見した。勿論、彼女は彼を。ガウリイを見て歩いてきたのだから、見逃すわけがな
い。
「これは……ひどいわね」
 女性は、銃から弾を出して腰のベルトについている。別の弾丸と取り替える。
 一応、揺すってみる。だが、反応はない。
 死んだ様には見えないが、彼女にもガウリイの状態は危険だと見えたのだろう。
 そして、彼女は銃を構え。
 引き金を引いた。
 ガウリイに向かって。

 銃声が、あたりに木霊した。
          ◇
 とさ。
 思わず座り込んでしまった、手に触れた感触は。
 暖かくて柔らかい絨毯のもの。
 ふと見上げる。
 そこには、高級なホテルの装飾がある。
 それと判るのは、出入りをしたことがあるらだ。
「え……………………?」
 リナが、座ったまま振り向いた。
「驚かすな、ゼロス」
 そこには、二人の人物がいた。
 一人はゼロス。涼しい顔で、もう一人と話をしている。
「いやあ、申し訳ありません。緊急事態がありましたのでね」
 もう一人は、始めてみる顔だった。
 黒い髪。緑の瞳。
 よくある感じだが、自分と同じくらいの年齢の若い男性。
 少年と言うには老獪で、かと言って青年と言うには。どう見ても若い。
 だが、全身からにじみ出る雰囲気は。彼が見かけで判断してはならない事を、思い知らされる。
 二人は顔見知りなのだろう。当然だ、会話をしているのだから。
 だが、仲がいいとは言えない。多少は剣呑な空気が生じている。
 主に、見知らぬ男からゼロスへ。
「緊急事態?」
「そう、嫌そうな顔をしないでくださいよ。ゼルガディスさん。
 しかし、まあ。とりあえず、彼女を見てからでも。話は出来ると思いますよ」
 促されて、初めて男。ゼルガディスがリナを見た。
「おいっ! まさか……」
 ゼルガディスも、はっきりと顔色を変えた。
 思わず、と言った所だろうか。今にもゼロスにつかみ掛からんばかりである。
「いいえ、彼女ではありません。どれだけ姿形がそっくりであっても、彼女は今でも。
 あなた方『人間』の為に眠っているのですから」
 『人間』
 その表現の仕方に、リナは違和感を感じる。
「なんで、ここ……どこなのよ」
 リナは考えた。
 自分自身で与えられ、掴んだ情報の範囲内で考えた。
 これでもかと考えた。けれど、答えは出てこなかった。
 一度に多くの事がありすぎたし、沢山の恐怖もあった。
 そして。瞬間的に切り替わる、記憶の映像。
 まるで、映像の画法の一つの様に。
 浮かんでは消えて行く。
「ガウリイ……そうだ、ガウリイ。
 どこに行っちゃったのよ、ガウリイぃっ!!」
 暴れ始めようとしたリナを、ゼロスが押え込もうとする。
 すでに、リナの目にゼロスは映っていない。
「ガウリイだとっ!? まさか、ゼロス。貴様!!」
 聞こえていないわけではなかったが、ゼロスはゼルガディスの声を無視した。
「落ち着いてください、リナさん。
 大丈夫です。ガウリイさんは、無事ですからっ!」
 だが、結果としてそれは間違っていなかった様である。
「だい………じょうぶ?」
 次第に、リナの目が焦点を取り戻す。
 その眼に、ゼロスの姿が映る。
「ええ、大丈夫です。
 ゼルガディスさん、リナさんに気付けのワインでも差し上げてください」
 明らかに不満そうな上に動揺が激しいらしいゼルガディスは、それでもワインを持ってきた。
「すみませんねえ、ゼルガディスさん」
「それはそれとして……」
 ゼルガディスの目つきが、凶悪なものになった。
「説明してもらおうか?」
 リナにワインを飲ませた後。ゼロスは、いつものにこにこ顔だった。
「まあ、そうですね。
 僕たちが手を組むには、意志の疎通と。何よりもリナさんが必要ですからね」
 ゼルガディスは、『ものすごく』嫌そうな顔をした。
「お前とだけは、『意志の疎通』なんてしたくないな……」
 極々正直な意見を、思わず口にするゼルガディスだった。
「いやだなあ、そんなに照れないでくださいよ(はあと)」
「誰が照れてるっ!?」
「とまあ、冗談はここまでにして」
 本気だったら恐いぞ、とゼルガディスは思ったが。とりあえず、これ以上不毛な話は忘れようと思ったらしい。
「大丈夫ですか? リナさん」
「教えてよ」
 リナの視線は、両手に握られたワイングラスに注がれている。
 その両手で握ったワイングラスには、まだ残っている。
 だが、リナは一口だけ飲んで。後は、飲もうともしない。
 しかし、それにはちゃんと理由があったのだ。
「何なのよ、あんた達。
 なんであたしが狙われるのよ。あいつら何なの?
 どうしてガウリイが、ガウリイがっ!!」
 手が震えていた。ワインがゆれていた。
 それでも、リナは必死に見えた。耐えている様に。
「落ち着くんだ、リナ。
 お前は、そんなに弱くない筈だ」
 ゼルガディスの手が、リナの肩に触れた。
 見上げると、ゼルガディスの瞳は。何か言いたそうな感じだった。
「あんた達が一体、あたしを通して誰を見ているのか知らないし。知りたいとも思わないわ。でも、あたしは。あ
んた達の知ってる『リナ』じゃないのよ」
「……すまん」
「そうですね。それは、確かに失礼でした。
 リナさんにも、そして『彼女』にも」
 リナは、視線を再びグラスに戻した。
ゼロスの言い方は、常のリナにはカチンと来たかも知れない。
 だが、今のリナに。そんな事はどうでもいい事だった。
「だったら言って!」
「ですが、すべてと言うわけには参りません。それだけは覚悟なさってください」
 手の震えは止まっていた。
 ここで取り乱しても、どうにもならない事を知ってるからだ。
 そう言う意味から言えば、リナは気丈だとゼルガディスも。ゼロスも思った。
「どうして?」
「簡単に言ってくれるな。……リナ」
 どこかにためらいでもあるのか、ゼルガディスの口調は不自然でさえある。
「あたしには、知る権利があるもの」
 静かではあるが、リナの口調はしっかりとしていた。
 その点だけで言えば、確かにゼルガディスは情けないものを感じずにはいられない。
「まあ、リナさんのお気持ちも判らなくはありません。ですが、僕たちにも事情と言うものがあるのです」
「あんた達の事情なんて、知らない。あたしは、巻き込まれた。言わば被害者なのよっ!!
 警察に訴えられないだけ、ありがたいと思ってよね!!」
「警察ですか……しかし、無理ですよ。
 人間に、彼等を捕まえることは出来ません。かつては、世界を二分していたと言うのに。馬鹿にしていた人間
に、存在を認めさせる事さえ困難なわけですからね」
 リナは見ていなかったが、ゼロスは肩を竦めていた。それを見たゼルガディスは苦虫をつぶした様な顔をしてい
た。
「もっとも、あなた方『人間』が。まだ生きていられるのも、犠牲の上に成り立っているわけですけど……。
 おっと、そんな言い方をすると。『彼女』に怒られてしまいますね」
「笑顔で言うな」
 ぽつりと呟かれたゼルガディスの言葉は、リナにもゼロスにも届かなかった様である。
「その犠牲って、なに?」
「犠牲ではないそうですよ。ご本人に言わせると。
 まあ、幸せそうですけどね」
 リナは、視線をグラスから動かさない。だから、ゼロスもゼルガディスもリナがどんな表情をしているのかは知
らない。
 普通ならば、『犠牲でも幸せ』なんて事を言われれば首をひねるものだが。そんな余裕すらないのだろう。
「同じ……なのね」
 それは、問いかけではなかった。
 確認だった。
 それを、知らない訳ではなかったが。ゼロスもゼルガディスも口を開かなかった。
 答えは沈黙。
 肯定を意味していた。
「同じ顔……か。それで、同じ名前……なのね?」
 今度は問い掛けだった。
 今、リナは脳をフル回転させて。必死でこれまで起きたすべての出来事を検分していた。
勿論、リナの視点からでしか物事は見えていない。もしかしたら、どこかで何か。
 自分を関わる出来事が。偶然起きてしまったと見るのが普通だろう。
 死にたくない。死なせたくない。
 今、リナの意識が途絶えたり狂ったりしない最大の原因はそれだった。
「ええ、そうです」
 本当のところを言えば。
 ゼロスもゼルガディスも驚いていた。
 顔も名前も同じ。だけど、彼等の記憶とは別固体の人間の少女。
 特別な教育を、何一つ受けていないはずの彼女には紛れもなく『強い力』がある。
 そう。二人の知る、『彼女』と同じ種類の強さ。
「そうですね……少し、昔話でもしましょうか。
 幸い、まだ夜明けまでは時間があります」
「ならば、一つだけ言っておくわ。あんた達」
 ここで始めて、リナはグラスから『ちゃんと』目を離した。
 何度か、部屋とかゼルガディスとか。調度品とかゼロスとか、そして。いるはずのない存在を気にしながら。そ
れでも最後の視線が戻るのはワイングラスだった。
「もし、あたしのせいでガウリイが死んだら。
 何があっても、絶対にあんた達すべてを殺すわ」
「その……ガウリイ、とは。どういう関係なんだ?
 あんた……リナの恋人か?」
 事情を知らないことも手伝い、ひどく真面目な顔でたずねたゼルガディスを。
 ふわっとした。ほほえみでリナは答えた。
「ううん、さっき始めて会った男よ。
 名前と顔と、学部と……住んでいる所くらいしか知らないわ」
 それだけ知っていれば十分だと言う見方もあるが、お互いが特殊なのだから。これは仕方がない。
「そのあたりも交えて、ちゃんと説明をしますよ。
 なにしろ、情報こそ勝利への近道ですから」
「時代は……巡るのか?」
「何わけわかんないこと言ってるのよ!」
 今度はゼルガディスの事情を知らないリナが。今にも噛み付かんばかりの、だけど真っ赤な顔で言った。
「いや、なんでもない!」
「そこまで一生懸命言わなくてもいいけどさ……」
 リナは思った。
 一体、彼等の知る『リナ』と言う人物は。どんな人物だったのだろう?
「すべては、今の歴史よりもはるかに遠い昔の物語りだと。
 思ってくださいね、リナさん」
 物語。
 その言葉を聞いて、まずリナが思ったのは「うさんくさい」だった。
 そういう、訪問販売の悪徳商法があるのを知っていたからだ。
「リナさんは。世界は何から出来ていると思いますか?」
 しかし、ゼロスの言葉は唐突と言えば唐突だった。
「は?」
「おい、ゼロス……」
 さすがに、ゼルガディスも止めに入る。
「もし、リナさんが本当に望むのであれば。すべてはそこから始まらなくてはなりませんから。それとも、多少は
省いたお話の方がよろしいですか?」
「省いて」
 頭を押さえて、リナは言った。
 もしかしたら、これもゼロスの計略かも知れないと思ったくらいだ。
 何しろ、リナにはまだ。全面的にゼロスを信用するわけには行かなかったのだから。
「では……。
 僕は、人間ではないんです」
 今度は、ゼルガディスがぎょっとした。
「そーでしょーね……」
 だが、リナの反応は冷淡なものだった。
「驚かないんですか? 嘘じゃないですよ?」
「幾らあたしでも、なんとなく判るわよ。
 夜中に「殺す」って現れた奴、はっきり言って人間だとは思えなかったしね。それに、あれもあれで変だったも
の。幾らなんでも、目の前まで来ていてまったく姿が見えないというのもおかしな話じゃない?
 あたしだって、何度か攻撃しようとしたし。でも、そんなものを相手にあっさりと勝てる……とゆーか、逃げら
れる奴が。普通だなんて思えないわね。
 それと、さっきはあたし達に気配も感じさせずに。物音一つさせずに現れたわ。おまけに、つい今し方の。あ
れって、確か超自然現象的には『瞬間移動』って言うんでしょ?
 そんな事が出来るのって、理論上は有り得ないって言うじゃない。それなら、結論は一つしかないわ。
 つまり、ゼロスは人間じゃない」
ぱちぱちぱち……。
「お見事。流石はリナさん。
 見事な推理ですね」
 拍手をしながらゼロスは誉めるが、実の所。
 リナは逆ギレを起こしていた。
「ふむ……。
 少なくとも、この『リナ』も、馬鹿ではないみたいだな……」
「ちょっと!! それどーゆー意味!?」
 この国で、奨学生となるにはかなりの実力でなくてはなれない。
 つまり、無茶苦茶なくらい誇り高い名誉なのである。
 それをけなされれば、流石のリナもいつもの調子を取り戻さざるを得ない。
「まあまあ……。
 ゼルガディスさんは、そういう誉め方しか出来ない人なんですよ。
 許してあげてください」
「今度言ったら、絶対にぶっとばーす!」
 リナの目は、本気だった。
「それはともかくとして……。
 僕は、『魔族』と言う種族なんです。まあ、一番リナさん達の身近なところで言えば。悪魔に近いかも知れませ
んね。とにかく、そういうものだと思ってください」
 ゼロスの説明は端的だったとは言え。
「わかったわ」
 リナの納得の仕方も、どこか問題だった。
 おそらく、惜しいのだろう。
 時間が。
「まあ、ご多分にもれず『魔族』のお仕事は『世界の滅亡』でして。神々と戦ったりしていたわけなんですよ。
 所が、ある時に一人の人間の娘さんが出てきたんです。歴史上に。
 名前とか、どんな方だとかを申し上げるわけには行きませんけどね。判っていらしても、確認はなさらないで下
さい。
 彼女は、ですねえ。『ある事』した為に封印されているんです。
 それが、リナさんの狙われる理由になるんです」
 なんだそれは。
 それが、ゼルガディスとおリナの共通の意見だったわけだが。
「わかったわ」
 リナの口から出たのは、それだけだった。
「ええっ!? 判ったんですかっ!?」
「説明したお前が言うなよ……」
 ゼルガディスがすかさず言ったが。
「こんな所でつぶしていられる時間はないって事は、判ったわ」
 無視された。
「それと、結局ゼロスはあたしにちゃんと説明する気がないって事もね」
「そうですか? そうでもないですよ、これまでの事を考えると。ですけどね」
 ちらりとリナがゼルガディスの方を見ると、どうやらそれは本当の様である。
 もしかして、何回もこんな事があったのかも知れない。
「彼等……まあ、面倒がないように区別すると『半端』の皆さんは。
 真面目に言いましょう。『あなた』を殺したいんです」
「……どうしてそうなるの?」
「つまり、だ」
 話が飛び飛びになっているのを、流石に可哀相だとでも思ったのだろう。唇の端に笑みが浮かんだりもしたわけ
だが、説明を手伝ってくれる。
 もっとも、幾ら突っ込んでも誰も返してくれなくて淋しくなった……と言うのも。あるのかも知れないが。
「例えば、罠の向こうに金が転がっていて『罠を超えたら金をやる』と言われたら、お前ならどうする?」
「すかさず貰う」
 これまた、あまりと言えばあまりな例えに。しかもあっさりと返された日には。
「すごいですねえ、ゼルガディスさん」
「つまり、そういう事だ」
「なるほど……」

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2762刻の糸の語る詠・45/20-01:07
記事番号2755へのコメント
刻の糸の語る詠・4

 リナは、どうやら何かを考え始めた様である。
「それにしても、的確な例えですねえ。ゼルガディスさん♪
 流石です」
「まあ……それが、俺に残された能力だからな」
「ああ、そう言えばそうでしたね。
 それはともかくとして、ゼルガディスさん。どうやら、「彼女」も来ている様ですよ。
 さきほど、転移をする直前に白い法衣を身につけた女性を拝見しましたから」
 一瞬の間があったものの、どうやらゼルガディスはゼロスの真意が判ったようである。
「まさか……」
「ええ、「彼女」です」
 ゼロスの言葉に、ゼルガディスが激しく動揺した。
 それは、まるでリナを見た時と同じ。もしくは、それ以上と言えたかも知れない。
「誰なの? その「彼女」って。
 あたしとそっくりだって人じゃないわよね?」
「お前には関係ない!」
「セイルーン王家の方ですよ、リナさん」
 何時の間にか、リナが意識を取り戻していた様である。
 そのリナの疑問に対して与えられた二つの答えに、多少困った反応を示した。
「せいるーん?」
 とりあえず、ゼルガディスの事は無視を決め込む事にしたらしい。
「ええ。かつての大国だった国の名で、現在では王国そのものは解体されまして。
 ある国の貴族として君臨されている家です。
 おや、どうかなさいましたか? ゼルガディスさん」
 わざとなのか、それとも本気なのか。
 落ち込むゼルガディスに声をかけるゼロス。
 どうやら、ゼルガディスの方はすでに諦め始めた様でもある。
「いや、かまわん。話を続けてくれ……」
 とりあえず、話を進めると言う意見だけは。この場にいる三人の共通の意見では
あった。
 ただし、なかなか進んでいる様に見えないのは。彼等の一筋縄で行かない性格の為である。
「その家の方は、要するに巫女さんの家系なんですね。まあ、僕達とは。
 ……簡単に言えば敵同士になるわけなんですけど」
「お前と一緒にするな!」
「でも、間違いではないですよね?」
 にっこりと言うゼロスに反論しないところを見ると、あながち間違いでもないと言う所らしい。その割にはゼルガディスの表情が微妙に怒っていないと言うことは、別に憎んでいるとか。直接的な感情がないのか。それとも、別の理由からだろう。
「そんな事はどーでもいいんだけど……」
 思わず立場も忘れて、リナがポリポリと頬をかく。
「そんな事って……」
「それで? そのセイルーンとか言う人がいるとどうなの?」
 やはり、無視されるゼルガディス。
「僕やゼルガディスさん。そして、セイルーン王家の方は。
 基本的に、さきほど言った「彼女」の為に存在していると言っても過言ではありません。
 そのあたりは共通の意見なんですけどね、僕は結局魔族ですし。セイルーン王家の方は巫女ですから。
 主義主張が合わないのは仕方ありません」
 違う。絶対に違う……。
 事情を知らない筈のリナと、事情をほとんど知っているゼルガディスが。同時に同じ事を考えたわけだが、それが口に出されることはなかった。
 なんとなくだけど、言わない方がいい様な気がして。
「ま、とにかく。ゼルガディスさんは、セイルーン王家の方が好意をお持ちだから苦手なんですよ」
「ちょっと待てっ!!」
「待ちません」
 ぷいと横を向いてしまい、ゼロスは聞く耳を持たない。
「その人で遊ぶのはどーでもいいけど、話の続きはどうなったの?
 なんだが、最初の話からずいぶんとズレて来た気がするけど……」
 あまりにもはっきり言われてしまい、とうとうゼルガディスが自分の分の酒を取りに。席を外してしまった。だが、話そのものは聞かなくてはならないので。そう離れた距離ではない。
「俺は……ゼルガディスだ」
「おっけー、ゼルガディス」
「それで、お話の方なんですけど……」
 ゼロスが、今度は目前のリナの話を始めた。
 夜の夜中に町中で襲われた事。事故と偶然でガウリイに会った事。
 だが、そのあたりはゼルガディスも知っていた様で。ざっと説明をされただけだった。
「ゼロス、一体どこで。いつから見てたのかしら?」
 リナの目は、細くなっていた。
「その話は置いておきまして……」
「置いとくな!」
「いいんですか? そんな事を追求していると100年はかかりますよ?」
 絶対嘘だとは思ったが、リナは頭を抱えた。
「続けて……」
「そうしたら、突然ガウリイさんのお部屋が爆発されちゃいまして(はあと)」
 概ねと言うか。中身と比較した場合、間違ってはいない。
 確かに、間違ってはいないわけだが……。
 リナとゼルガディスが、頭を抱えたくなったのは。言うまでもないだろう。
「ガウリイ、怪我してたのよ。ぐったりして、意識もなかったわ。
 それなのに、あたしは……」
 思い出したのだろう。リナの声から力が抜けた。
「見捨てた」
 こっそりと握られた拳は、白くなっていた。
「けど、「彼女」がいました」
「ならば、それは「あいつ」が爆弾を?」
 ゼルガディスの顔は、「信じられない」と言うか。信じたくないようだった。
 仮にも、神に仕える巫女の家系である。
 もちろん、中には信仰の為には人殺しもする巫女や家系もあるだろう。結局、その人間の中身は家や血のつながりとはあまり関係がないのだから。
「いえ。襲撃そのものは「彼女」は関わっていないと思いますよ、そっくりですか
ら。
 もしかしたら、リナさんを襲ったものかも知れませんし。もしくは……」
 金持ちとは、とかく問題が起こりやすいものである。
 三人は、御家騒動かも知れないと結論を出していた。ただし、やはり口には出さない。
 リナにとって、つい数時間前に起きたときとは状況が。襲われ方が全然違うと言うのが、答えを出すきっかけだった。
「そっくりって? そのセイルーンとか言う人も、あたしと同じ顔なの?」
「いいえ、現セイルーン巫女姫は。初代の巫女姫である、アメリアさんに酷似している方なんですよ。
 今の巫女姫は「アリエノール」さんとおっしゃるんですけど。代々巫女を排出してきた、由緒正しいお家柄です。ゼルガディスさんもそうでしたよね?」
「ゼロスっ!!」
 いいかげんに切れかけたらしいゼルガディスは、顔を真っ赤にしていた。
 そう、リナは思ったが。
 最初は、見間違いかと思った。
 それとも、人間と言うのは怒りすぎるとそういうものなのだろうかと思ったくらいだ。
「え?」
 リナの見ている前で、ゼルガディスが変化して行く。
 頭に血が上っているのか、ゼルガディス本人は気づいていない。
「大体、なんでそこまでバラす必要がある!」
 髪から色素が抜けて行く様に見えた。
「いいじゃないですか。核心に触れない程度の事を知る権利は、リナさんにもあるんですし」
 髪は白くなったと思った。だが、それは次第に光沢を見せはじめる。
「そこで俺を引き合いに出すな!」
 肌の色は真っ赤になり。そして、どんどん青ざめ。最後には、岩のような色へと変化した。
「それじゃあ、何か問題でもあるんですか?」
 色だけならまだしも、顎や左目の下に。硬く変質した、恐らく皮膚。
 もしくは、そうだったもの。
「当たり前だ!!」
「ちょっとっ、その顔……」
 リナの声が聞こえたのか、そこで始めてゼルガディスは己の変化に気づいた様である。
「あんた……なんなの?」
 ゼルガディスは、ちらりとゼロスを見た。
 ゼロスは、どこ吹く風と言った顔をしている。
 まんまと乗せられた事に気づいたゼルガディスは、しかし。それを追求しなかっ
た。
「俺の名はゼルガディスだ」
「そんなのは、知ってるけど……」
「俺の父親……と言うか、俺の先代もゼルガディスだった」
 リナは口を閉じた。
 どうやら、あまり口を挟まない方がいいとでも思ったのだろう。
「俺の先々代も、その前もゼルガディスだった。つまり、俺の一族男子はすべて『ゼルガディス』と言う名なんだ。
 もっとも、一子相伝みたいなもので。男子は一人しか生まれない。そういう風に遺伝子を改造したんだ」
「改造?」
「元々、遺伝子を操作すれば。肉体の移植が出来ることは知っているだろう?」
 リナの頭の中では、改造と言えば車を分解して組建て直した筈なのに。なぜか飛行機を作ってしまったと言う、伝説にもなったエピソードが展開されたわけだが。どうやら、それはこれとは違うようである。
「俺の先祖。初代ゼルガディスは、人間と人間以外のものと合成された存在だった。
 最初はフツーの人間だったがな。だから、俺の一族でも男だけは。こうやって外見をコントロールする事が出来る。「キメラ化」と言う力だ」
「よくわかんないし、追求したい様な気が。正直を言えばするけど……なんか、止めた方がいいみたいだから止めておくわ」
「そうしてくれ」
 もっと違う言葉で、ごまかすことだって出来たはずである。
 そんな事を言えば、よくて不気味がられ。悪くすれば、その場で……。
 だけど、リナは後回しにする気になったらしい。
「ねえ、聞いておきたい事があるんだけど。
 あたしを、どうするつもりなの?」
 彼等二人は。今は、リナに危害を加える様な事はないらしい。
 恐らく、襲って来る奴等を一気にたたきたいのだろう。それと、セイルーン王家のアリエノールを言う女性の出現も原因の一つだろう。だからと言って、この話が終わった後は判らない。
 何しろ、その気になればリナが死体であっても。この二人には困る必要はないわけだし。それに、事件が終わったとしても同じ事だ。二人がそれで、そのまま消えてくれると言うわけでもないかもしれない。
 それより、秘密を知ったと言う事で消される可能性だとて。消えたわけではないのだ。
 信じたくはないが、それが現実……。
 何より、ゼロスもゼルガディスも。きっと、心は別として人を殺せるだけの実力を持っているだろう。なにより、ゼロスは人間ではないのだ。
「リナさんは、どうなさりたいんですか?」
 まったく揺るがないにこにこ顔で、ゼロスがたずねた。
「決まってるじゃない」
 一瞬だけ、リナは目を伏せた。
 そして、次に開いた時は。
「勝つわ。このあたしに喧嘩を売って、ガウリイ傷つけられて。こんな所で逃げ隠れさせてくれたお礼は」
 リナは、飲みかけのワインを。一気にあおった。
「100万倍にして返してやるわ!」
 赤い瞳を光らせて、挑戦的な眼差しで。
 宣言をした。
「僕は、『ある事情』から半端な方々がうっとうしいんです。それに、そういう方々がいると。困る事情になるかも知れません。そういうのって、困るんです。
 そして、ゼルガディスさんは。世界の平和の為に。
 僕達の目的は、最終的なものはともかくとして。現在の目的は同じです。
 リナさんは、彼等に恨みがある。僕は、布石を打つ。ゼルガディスさんは、お仕
事。
 リナさんには何もない。僕には、情報がない。ゼルガディスさんには、ある程度以上の力がない。僕達が手を組むのに、支障はないはずです」
 言われて、リナとゼルガディスは同じようにイヤそうな顔をした。
「どうかなさいましたか?」
 知ってか知らずか、ゼロスはきょとんとした顔をする。
「いえ……」
「なんでもない」
 ゼロスが、にっこりと微笑んだわけだが……。
 なぜか、リナとゼルガディスは脱力した。

 魔族は睡眠を必要としないと言う観点から、ゼロスはリナ達が休んでいる間にこのあたりの警護を申し出た。
 確かに、夕刻から人間じゃないものに後をつけられるわ。夜になれば襲われるわ。
 気を失って目覚めてみれば、見知らぬ男の部屋だったりするわ。いきなり爆発するわ。しかもガウリイは大火傷追っているのに、見捨てる羽目になるわ。知らない部屋に移動しているわ。おまけに、なにやら常識と言う観点をすっぱり輪切りにして中に詰め物でもした様な、はっきり言ってわけの判らない事を聞かされてしまって。
 体も神経も疲れきっている。
 幸いにも、用意された部屋はかなり上等なもので。なんだかんだ言っても、あの二人はお金を持っていると言う事なのだろう。
「考えたら、ずいぶんと……あれね。一度に沢山の事が、おきすぎたわ」
 ふかふかのベッドに入るものの、どうにも寝付けない。
 疲れすぎて、返って眠れないのか。それとも……。
 立ち上がる。服は替えていない。
 闇に包まれた部屋。でも、窓に引かれたカーテンの隙間から光が入ってくる。
「あたし、なんでだろう?」
 月の明かり。
 もう、地上の光は入らない。
 窓辺に立つ。
 カーテンを開けて、窓の下を眺める。
「ここ、高級ホテルだったんだっけ……」
 内装からそうだろうとは思っていたが、このあたりでは有名な一流ホテルの。何階かは知らないが、かなり高さがある。
 なにしろ、このホテルより高い建物と言えば。ここからではリナやガウリイの通
ている王立学校くらいなものだった。現在位置と見える場所で、大体の方向はつかめる。
 まだ、夜は長い。
「大丈夫……かな?」
 言葉は、誰にも聞こえないくらい小さなものだった。
 だが、どちらにせよ問題はない。他に聞いている人なんてないのだから。
 リナはカーテンを閉じて、そのまま反対にある扉に向かう。
 その先には、さっきの部屋と明かりと。ゼルガディスがいるのを知っていたから
だ。
「ゼルガディス、ちょっといい?」
「リナか? どうかしたのか?」
 部屋の明かりは、消されていた。だが、ゼルガディスの周囲だけほのかに明るい。
 決して明るいと言えるほどの光ではないが、細かい文字とかを見るのでなければ。
 困らない程度の明かりだった。
「なに、これ……?」
 すたすたと近寄ってきたリナは、そこで奇妙なものを見た。
 光が。他に何と形容すれば良いのか判らなかったからだが、光が。
 浮いているのだ。
「何って、明かりだが」
 一刀両断と言うか、問答無用な言い方である。
 ゼルガディスはキメラ化のままで、物好きにも書類に目を通している様だった。
「あんた……ゼルガディスって、目がいいの?」
 顔を上げたゼルガディスは眼鏡をかけてはいたが、姿は人間のものに戻っていく。
 恐らく、リナに気を使ったのだろう。
「キメラ化していればな。ある程度の新陳代謝を押さえることは出来るから……。
 明かりの魔法が珍しいのか」
 リナの視線は、明かりに注がれたままだった。
 その表情は、子供が「面白いもの」を見る時に見せる無邪気なものと同じだった。
「うん。これさ、どうなってるの?」
 興味深そうに、そろそろと手を伸ばしている。
「魔法だから、触っても大丈夫だぞ」
「魔法?」
 またもや、あまり真面目に取らないほうが良い様な単語が出てきて。正直、リナは記憶から抹消したい衝動にかられた。
 馬鹿にされていると思ったのかも知れない。
 だが、近づけた手の先には熱も。電力も感じなかったのだろう。
 両手で挟むものの、感触がないのをしげしげと眺めている。
「特に技術の要らない、『明かり』の魔法だ。普通の人間にも使える程度のな」
「へえ……」
 感心した声で言っている。
「なんて言うか……電気代がかからなくていいかも」
「そうだな」
 予測していた答えなのだろう。ゼルガディスは、特に笑ったりしなかった。
「これ、どういう仕掛けなの?」
「仕掛けなんてない。魔法だからな」
「魔法……ねえ。
 ゼルガディスって、魔法使い?」
 当然と言えば当然の質問に、少し。
「まあな」
 笑った。
「ふうん……。あたし、魔法って始めてみたわ」
「初代は魔法剣士だった。その剣技も魔力も、並々ならぬものだった」
 過去形で言うゼルガディスに、リナは不思議そうに言う。
「まるで、見た来たみたいに言うのね。
 それと……えーと、初代じゃない貴方はどうなの? そういう風に言うって事は、初代ほど強くないって事?」
 多少は茶化す意味もあったのだろうが、ゼルガディスは特に怒ったりしなかった。
「事情でな。ある程度以上の攻撃力のある魔法は、今では使えないんだ。
 もっとも、剣ならば初代にも負けないと言う自信はある。魔法がほとんど使えないのなら、剣で対応するしかない。銃の時代の今では、長剣を持ち歩くにも気を使うがな」
 なんでだろう?
 どうして、昔使えたと言う魔法が。今では使えないのか。
 リナの疑問は、だけど口にされなかった。きっと、答えてはもらえないだろうと言う結論が出ていたからだ。
「あー……あたし、何もしてないからね」
「ライティング」
 リナの手の中で、どんどん明るさを失って行く光を見て。
 ゼルガディスは冷静に、持ち上げた片手から新たなる光を生む。
「大丈夫だ。時間がくれば、自然と消える」
 暗闇に閉ざされそうになったが、ゼルガディスが光りを生み出したことで。元の、たいした光量ではないが。明るさを取り戻す。
「ああ、驚いた……。
 こういうのは、先に言って欲しいわね」
「騙したつもりはないからな。
 それより、電気をつけてくれるか?」
 言われて、リナが電灯をつける。
 流石に、電気の明かりには勝てないらしく。ゼルガディスの手の中で光る明かり
は、よく目を凝らさないと区別がつかない。
「ところで……。
 何の用だ? 眠らなくていいのか?」
 眠れないのか、とは聞かなかった。それはありがたかった。
「ちょっとね……。
 あのさ、さっき言ってたセイルーンの巫女さんの話って……」
 どかっ。
「なにやってんの? あんた……」
「い、いや……なんでも、ない」
 ゼルガディスは、どういうわけなのか倒れた。しかも、いきなりである。
 触れられたくない話題なのかも知れないが、かと言って引くほどリナとて甘くはなかった。
 それどころか、にやりとしている。
「どーしたの、ゼルガディス♪」
「やけに嬉しそうだな……」
「まあ……ね。
 ただ、さっきゼロスが言ってたでしょ? 『ガウリイは絶対に大丈夫だ』って。
 その人がいたから、大丈夫だろうって言ってたじゃない?」
「そう言えば……」
 一人の世界に入ったとばかり思っていたので、ゼルガディスは。すっかりその話題を忘れていたのだ。
 もっとも、本音を言えば。その後の会話の為に打ちのめされて。
 すっかり忘れる羽目になったと言うのが正しいわけだが。
「なんでかなって思って」
 不安と、心配なのだろう。
 だから眠れない。けれど、それを自覚しているのかも判らない。
「それは、アリエノールがいたからだ。
 アリエノールは俺と違って、表の世界で「すべての人間に正義と平和を」なんて事をやっている。だから、例え相手が悪人だろうと。助かる可能性がある人間を放っておくことはしないだろうと言う、算段か計算でもあるんだろうさ」
「でも、あれだけの怪我……」
 リナの見た限り、あれだけの怪我ならば早々に処置しなければ。間違いなく死ぬだろうと思えた。想像はしたくないが。
「死んでいなければ、ある程度までの怪我なら大丈夫だろう」
「ある程度って?」
「そうだな……出血がないのなら、矢傷や銃痕も消す事が出来るらしい」
 リナには想像もつかない。
 ただ、切り傷や擦り傷程度ならば簡単に直せるのだろうと言う事は判った。
 そして、出血がないのならと条件をつけたのも理由は知れた。
 失った血液は、そうそう戻らないと言う事だ。
「火傷でも、大丈夫かな……」
「そうだな。でも、少しくらい眠っておけ。
 ゆっくり眠れる時間は、これからも。あるかどうか……」

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2763刻の糸の語る詠・55/20-01:31
記事番号2762へのコメント
刻の糸の語る詠・5

 朝になって、リナは目覚めた。
 朝日の射し込む部屋。
 おかしい。確か、昨夜はカーテンを閉じて眠ったはずだ。
「リナ」
 誰かが呼んでいる?
 リナの中にあったのは、まず疑問だった。
 誰もいない部屋。
 何もいない部屋。
 それが、自分のすごしてきた時間。それが。
「リナさん」
 呼びかける声も、何もなかった。
 それが、生きてきた中で。
「そろそろ起きて下さいよ、リナさん。このままではお昼になっちゃいますよ?」
 たった一人。
 淋しいと思ったことはない。ただ、過ごして来ただけの。
 何も知らない。何も感じない。
 一人だったから。
 最初から。
 ずっと。
 一人。
「無理からぬ事ではあるがな。昨夜、眠れなかった様だし」
「リナさんが……あれですかね、やはり」
「そうだな」
 う・る・さ・い………。
 どろどろの、根底の所で沈んでいた意識が。強引に引き上げさせられる不快感に。
「まあ、無理からぬ事であるのは確かですけどね」
 泥から引き上げる様に、意識を持ち上げようとする。
「…………………………………………………い」
 リナ本人としては、思い切り大声で「うるさい、やかましぃぃぃぃぃぃ!!」と叫んだつもりなのだが。どうやら、本人の意識が戻っていない関係で。思ったよりも全然声が出ていなかった様である。
「起きた……か?」
 しかも、リナ本人としては今すぐ起き上がってどつき倒したい衝動にかられた訳だが。疲れ切って回復に向かった肉体と精神が、そう簡単に活動してくれるわけはない。
「困りましたねえ……このままでは」
 少し、ゼロスが考えた様である。
「ふむ………『ガウリイさん』がどうなる事やら」
 ぱちん。
 むっくりと。
 ゆっくりとではあったが、確実に毛布が……もとい。
 毛布を被ったリナが、ベッドの上で起き上がる。
「がうりい…………」
 まだ寝ぼけているのか、頭から毛布を被ったまま。
 目の前にゼルガディスやゼロスがいても、ボケっとした顔のままでじーっと見ている。
「まだお休みの様ですねえ……………」
「なんて寝起きが悪いんだ……………」
 それはそれとして。
 男二人は、途方に暮れた。
「どうします?」
「どうするって、言われても……」
 リナは、もうすでに体が斜めになっている。
「リナさん、朝ご飯ですよ。
 起きないと食べちゃいますよ?」
 食事の二文字にも、リナは反応を示さない。
 その時、ゼルガディスが両手をリナの目の前に差し出した。
「ゼルガディスさん、何を?」
 ゼロスには、ゼルガディスの両手に魔力が収縮するのを感じた。
「ライティング」
 止めなかったのは、どうせ一気に人間の肉体を滅ぼすことが出来るほどの魔法は。現代のゼルガディスには不可能なのを知っているからだ。もし、魔力だけで人間を殺すのであれば。何度か打ち込む必要があるだろう。
「あ……?」
 ちなみに、目の前でライティングなどされたリナとしては。当然の事ながら、た
まったものではない。
「あ……?」
「おはようございます、リナさん」
 ゼロスの言葉に、どうやらリナはほとんど覚醒状態になり。
 そして。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 リナが、力の限り暴れたのは言うまでもない。

 瓦礫を踏み分けて、リナが崩れた。かつては『幽霊屋敷』の愛称で慕われた建物。正確には、その近くに来ていた。
 ガウリイの家だった所。
 でも、そこには誰もいない。
 当然、倒れていておかしくないガウリイさえいない。
「ちょっと、しゃきっとしなさいよね!!」
 リナの後ろからは、うんざりした顔のゼルガディスと。これまた額に汗をかくゼロスがついてきている。
「お前なあ……」
「まあ、リナさんらしいと言えば。らしいんですけどね」
 目覚めたリナは、まず二人をしばき倒した。
 目が覚めてみれば、夢か幻ならば嬉しかったのに。
 昨日の事はしっかり現実だわ、目が覚めたら男の顔があったりするわで。これで驚かないのは、よほどの大物か、何も感じないかのどちらかだろう。
「大体ねえ、目も覚めていない花も恥じらう乙女の部屋に。いきなり侵入しておきながら、五体満足でいられるんだから。感謝して欲しいくらいよ!」
「あのなあ……」
「まあまあ、何しろリナさんですし」
 ゼルガディスが半眼でリナを見るのも変だけど、わけの判らない台詞をはくゼロスも変だった。しかも、その「リナさんだから」と言う台詞で納得なんてされた日
にゃ、どうしろってゆーのか……。
 真面目に、リナが「リナ」と言う人物の事を悩んだとして。誰も責められはしないだろう。
「とにかく! ゼロスのせいでガウリイ置いてきちゃったわけなんだから。無事の一つも確かめるわよ!!
 ガウリイの身に何かあったら、寝覚めが悪いじゃない……」
 そんな事を言いながら、リナは瓦礫の山を丹念に調べ上げていた。
 何しろ、あの時はゼロスの為に転移してしまったのだ。はっきり言って、記憶している事なんてほとんどない。
「どうでもいいが、本当に何か残ってるのか?」
「残ってるかどうかが問題じゃないのよ、ゼルガディス。
 問題は、『探し出す信念』よ」
 リナの目は、至極真面目だった。
 所で、狙われているはずのリナが。朝日も昇り始めた、人通りもまばらな時間に。ゼルガディスとゼロスと言う護衛がついているとは言え、堂々と町中を歩いている理由は。実は、ちゃんと存在する。
 いわく、本人たっての希望。
 何がどうしたのか、結局詳しく判らない。もしくは、きちんとゼロスが説明しな
かった関係で。結局、リナは事情を「どーでもいい」の一言で済ませたのだ。
 常識の範囲内で考えたところで、答えの出ない問題など。ないのと一緒である。
 それに、魔族だの悪魔だのと言う存在が。昼日中に出歩くのが許せないと言うの
が、最大の理由らしい。
「あの、リナさん……僕も。魔族なんですけど」
 リナは、無心なまでに丹念に調べている。
 その様子では、きっと破片を集めて家を再生できてしまうだろう。
 無論、不可能だが。
「一応高位魔族……だったな、そう言えば」
 記憶の奥底を探索する様に、ゼルガディスが考えながら呟いた。
「一応って………。
 そう言えばって………。
 ゼルガディスさん、何か僕にうらみでもあるんですか?」
「色々………あったな、そう言えば」
 ゼルガディスの瞳に、光が宿ったのは見間違いだろうか?
「そんなのはどーだっていいのよ、あんた達……。
 そんなところでくっちゃべってないで、さっさと手伝いなさい!!」
 
 がん!
 
 ごん!
 
 どうみてもリナが投げたのだろう。赤ん坊の頭ほどもある瓦礫が、狙い違わずにゼルガディスとゼロスの頭に命中した。
 合掌………………。
「危ないじゃないですかっ!!」
「リナ……お前……」
 被害者二名は、幸いにも普通の人間以上の強度を持っていたので。脳震盪を起こすまでは行かなかったわけだが。
 このリナの周囲にいるだろう人間は、さぞかし苦労が多いだろうと。
 ため息をつくゼルガディスだった。
「じゃあ、俺はその……ガウリイの行き先を調べてくる。
 情報が入り次第、連絡をつける」
 ちなみに、ゼルガディスのこめかみは薄らと赤くなっている。
「ゼロスは魔族だからいいとしてえ。
 ゼルガディスって、丈夫なのね……」
 一応は悪かったとでも思ったのか、リナは作業を一時中断した。
「攻撃が加えられると、自然に皮膚が変化する様になってるからな。
 だからと言って、痛みがないわけじゃない」
 憮然とした表情ではあるが、それ以上にこの場を逃げ出したかったのだろう。
 さっさと消えてしまった。
「それにしても、本当に誰もきませんねえ。この辺り」
 ゼルガディスが姿を消して、リナは作業に戻る。
 一応、ゼロスも足元くらいは目をむけた。
 なんでも、スーツを汚したくないから。リナの「手伝って」攻撃をあっさりとかわしたらしい。
「そりゃそうでしょ、誰だって迷信だと判っていても。呪われるのはねえ……」
「呪い……ですか?」
 ゼロスが興味深そうな声を出したからなのか、単に暇だったのかは別として。
 リナが、話を続けた。
「誰も、もう詳しい話なんて知らないんだけどね。
 昔、この学校ってばお城だったのよ。それで、この場所には噴水があったんですって。
 ところがある時、何やら事件があったんですって。それ以来、ここには学生寮が建てられたって話なんだけど。どうやら、それはこっちの方が正しかったみたいね」
 手がかりを探していたリナは、建物の土台となっていた部分が。かつては噴水のものであったことを発見したらしい。ただし、興味はなさそうだ。
「あれ、どうかしたの?」
 ふと見ると、ゼロスの顔は青ざめている。
「いえ、何でもありません。お気遣いなく」
 さっきより瓦礫からの距離が離れたのは、気のせいだろうか?
「それはそれとして…………」
「見つけたわよ、極悪人ゼロス!」
 何かを言おうとしたリナは、背後から聞こえる声に気を取られた。
 つい振り返ってしまったわけだが、それを見てぎょっとした。
「散々、この私から逃げおおせたのも。これで最後よ!
 『黙示録』に示された、『暗黒より来たりし人類最後の敵』よ!
 ここで出会ったのも、神のお導きと知りなさい!!」
 そこにいたのは、一人の女性だった。
 身長は、はっきり言って高い。ヒールのせいもあるが、遠目からでもかなりの長身だと言うのが判る。
 着ているのは、すべて白。しかも長衣。
 こんな、ほこりっぽい所で着る様な服ではない。
「アリエノールさん…………」
 ゼロスが、更に距離を取った。
「え? へ? は?」
 何が起こったのか、理解出来ていないリナとしては。
 その場の状況に相応しく、混乱しなくてはならなかった。
「今再び子供相手に不貞を働く輩よ!
 愛と正義と真実の名の元に、この私。
 アリエノール・セイルーンが、見事に成敗してみせるわ!!」
 彼女は、きっとゼロスを睨み付けて。指まで刺して宣言したわけなのだが……。
 リナはノリについていけなかった。
「あの……」
「彼女が、アリエノールさんです」
 ゼロスが、厳かに言った。
「はあ……」
 一体、リナに他にどんな反応が出来ると言うのか。
「極悪人、ゼロス!
 その少女を解放して、おとなしく私の胸に燃える『正義の炎』のチリと消えなさ
いっ!」
 迫力こそなかったが、どうやらリナは自分自身を取り戻した様である。
「ちょっと待って。
 少女って……あたし?」
 勿論、アリエノールの目から見れば。リナはじゅーぶん少女に見えただろうが、リナとしては納得できなかった様である。
「さあ、私から逃げようなんて考えるんじゃありませんよっ!」
「アリエノールさん………」
 ゼロスは、一応困った顔をした。
 一応と言うのは、相変わらず見えない目だからである。
「待ちなさいよ、あんた。
 ガウリイはどうしたのよっ!!」
 リナは声を張り上げた。
 アリエノールのペースに流され切らなかったのは、ひとえに。
『アリエノールがいるからガウリイは無事』だと言う言葉が記憶に残留していたからである。
「……それって」
 名前に記憶があったのか、それとも別の理由からなのか。
 アリエノールは、初めてリナをまともに見た。
「ガウリイはどこなのよっ!!」
 アリエノールはリナを見て、それからゼロスを見て。
 静かにため息をついた。
「ゼロス………」
 リナとゼロスは思った。
 今、アリエノールが考えているのは。絶対に違うと……。
「あなた……」
 意識的か無意識なのか。
 アリエノールは、無意味なポーズを取った。
「とうとう洗脳までしたんですね」
 せっかくアリエノールが「びしぃっ!」とポーズをつけたわけだが……。
「違う違う」
「違いますよ……」
 リナとゼロスの、ユニゾン状態の突っ込みが入った。
「そんな事より、ガウリイはどうしたのよ。ガウリイは!」
「そ、そんな事…………」
 どうやら、アリエノールは。なぜか、無意味な自信が訳の判らない揺るぎを得てしまったらしい様である。
「あんたがガウリイをさらったのは知ってるのよっ!!」
 なおも、リナの追求は続く。
「あの、ちょっといいですか?」
 理屈は判らないが、恐らく。本人にしか理解出来ない理論展開で、アリエノールが打ちひしがれる事になったのは。違いない様である。
「どーぞ」
 どちらにせよ、リナとしては子供扱いされたり。己の存在を無視されるというわけでもないので。寛大にも話くらいは聞いてやろうとは、思っていた。
「あの、その『ガウリイさん』て。どなたですか?」
 当然と言えば当然かも知れず、また。あまりと言えばあまりな台詞に。
「えーとぉ……………」
 思わず、リナとゼロスが顔を見あわせてしまったとして。
 一体、誰が非難することが出来るだろうか?
「あのお………。
 あたし、あなたが。ここに住んでた、ガウリイをさらったって。
 このゼロスが……………」
 リナの指差す先には、当然の事ながら。
 更に二人の側から離れたゼロスが立っている。
 どうやらゼロス。この、アリエノールとか言うテンションの高い女性が苦手か。もしくは、「お近付きになりたくない」とでも思っているのだろう。
「僕は『さらった』なんて言ってませんよ。
 ガウリイさんは、アリエノールさんがいるから大丈夫だ。とは言いましたけど」
「だって…………」
 リナが何かを言おうとすると、アリエノールがオーバーアクションで振り返った。
 つまり、リナ達とは反対の方向へ。
「きゃぁっ!」
 アリエノールの服は法衣である。しかし、白で統一されていたので気づかなかったが。どうやら、背中にはマントもあった様である。
 アリエノールは自分を守る様にしゃがみこみ。同時に、あの時と同じ。
 ガウリイの家が突然閃光によって攻撃された時と同じ、白い光が周囲を満たした。
 そして、その時と同じように。リナの目の前に人影。
「ゼロスっ!?」
 リナの所までは、そよ風ならば届いていた。だが、それ以上は。
 煙も、熱も。届くことはなかった。
「リナさんを傷つけるわけには行きません。そんな事をすれば、どうなるかくらい
知っていますからね」
 どうなると言うのか、リナには知るはずもない。だが、ここで聞いている余裕もない。
「何者ですっ!?」
 どういう効力があるのか、アリエノールは全くの無傷だった。
 立ち上がり、叫ぶアリエノールの周囲には何時の間にか。幾人もの、体にフィットした黒服が囲んでいた。恐らく、暗殺者と言うことなのかも知れないが。
「なんなの、あれっ!?」
 見れば判るのは確かだった。
 ごていねいにも、彼等は手に手にこん棒の様なものや。ナイフなどを握っている。
 銃がないのは、ここが学業敷地内だから気を使ったと言うことなのかも知れない
が。もしそうならば、はっきり言って変である。
「暗殺者……みたいですね。どうやら、アリエノールさんを狙っているようですが
?」
「だぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!
 何をゆーちょーに構えるかなあぁ!?」
思わず叫んではみたものの。暗殺者の一人二人は、どうやらリナ達を見逃してくれると言う寛大な心を持ちあわせてはいない様である。
「ああ……おとなしくしてもらえれば。彼等も僕達を放っておいてくれたかも知れませんのに。
 困ったものです。最近の若い方には」
 そういう問題ではない様な気もしたわけだが、そんな会話をしている暇はなかっ
た。
 リナが身構えるよりも早く、暗殺者達はリナとゼロスに襲い掛かり。
 そして、それよりもなお早く。ゼロスが二人を叩きのめしていた。
 ちなみに、いつ動いたのかリナには見えなかった。
「ちょっとゼロス……まさかとは思うけど。殺して……?」
「殺してしまってもいいんですか?」
 ゼロスの台詞は、人間のものとは思えなかった。
 リナとて、悪人と認識出来る存在などどうなろうがかまわないと思っている。だ
が、だからと言って命まで奪っていいとは思わない。
 仮に、これまで死体を見た事がなかったとしても。
「いいわけないでしょっ!?
 それより、あの人……」
「大丈夫ですよ、アリエノールさんなら」
 ゼロスに促されてみると。
「てぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!」
 
 どかっ!
 
 ばきっ!
 
 ごかっ!

「……………彼女、一体?」
「言いませんでしたっけ?
 セイルーン王家は代々、魔法体術を得手としているんです。そして、能力のもっとも高い方が。巫女姫の名を冠するんです」
「聞いてないわよ………」
 疲れた声を出したリナも。そして、ゼロスも。
 そこに隙が生まれた。
 忘れていたのだ。彼等は、れっきとした暗殺者である事を。
 プロと言うのは、甘くないからプロなのだと言うこと。
 情けも容赦も持たないから、プロなのだと言うことを。
「リナさんっ!?」
 ゼロスの、目が。
開いた。
「え?」
 きぃん………。

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2765刻の糸の語る詠・65/20-03:53
記事番号2763へのコメント
刻の糸の語る詠・6

 五感では、捉え切ることの出来ない領域。
 それがある事を、リナは知っていた。否、知っているつもりだった。
 それを「本能」と呼ぶものがあれば「偶然」だと呼ぶものもあるだろう。しかし、人間の運動神経では、とうてい追いつくことの出来ぬだけの。
 領域。
「ほう……」
 別の意味で、ガウリイは目を細めた。
 どちらかと言えば、それはゼロスなりの賞賛だったのかも知れない。
「よお、また会ったな」
 リナの目の前で、金の光が舞った。
 視界を、大きな影が覆った。
 何も。リナには届かなかった。
「よっ!」
 彼は、どこから出したのか金属の細い棒を持っており。そして、その短い棒で暗殺者の振り下ろした腕を受け止めていた。受け止めた部分を支点にして、そのまま。相手の腕を封じて蹴りを入れる。
 それは、訓練された技術でもあったし。下町で行われる喧嘩にも似ていた。
「あーあ……こんなんなっちゃった。俺の家……。
 まあ、いいか。どうせ、卒業したら他の奴に譲るつもりだったし」
 あっけらかんに言われて、リナは。
「どうかしたのか?」

  どすっ。

「っぐ……」
 彼が、その場で腹を抱えてうずくまった。
「お前……な」
 長い髪が、さらりと落ちる。
 そして、うめいて体をくの字に曲げていた彼は。その頬を両手で触られていた。
「ほん……もの?」
 彼。ガウリイの顔に触れていたリナは、信じられないと言う顔をしていた。
「心配したのか?」
「す………するわけないじゃないっ!」
 ぱっと手を放して、リナは一歩下がった。
「ただ、ただ……あのまま。死なれたら、寝覚めが悪いって……」
 リナの小さくなる声を遮ったのは、誰あろうゼロスだった。
 二人のやり取りを、どこか楽しそうに。そして、懐かしく微笑ましく見ている様に見えるのは。果たして気のせいだろうか?
 もっとも、ゼロスの表情はほとんどの場合「笑って」いるが。
「それはそれとして、体の方はよろしいようですね。ガウリイさん。
 流石はアリエノールさん(はあと)」
「極悪人に誉められても、うれしくないわ」
 リナが、声の方を振り向いた。
 そこには、さっきまで暴れていたアリエノールが立っている。
 拳に、昨夜ゼルガディスがともらせた様な明かりが輝いて見える。
「僕は極悪人じゃないですよ、れっきとした魔族ですから」
 ゼロスは、振り向かない。
「間に合ったみたいね、あなた」
 所が、アリエノールの言葉は意外にもゼロスに向けられてはいなかった。
「そうなんだ、礼を言うよ。
 ………………………えーと?」
「アリエノールよ。アリエノール・セイルーン」
 ガウリイとアリエノールが、これまでのいきさつとかをすっ飛ばして会話を始めている。
「ああ、ありりえる!」
 にこやかに言ったガウリイの口から出た名前は、恐ろしく間違っていた。
「アリエノールよ……」
          ◇
 ゼルガディスは、不満だった。
 なにがどれだけかと聞かれたら、迷わずこう言うだろう。
「全部だ」
 部屋は、昨夜リナの泊った部屋より上等なもので。けれど、建物は同じ物である。
「仕方ないじゃない。こっちの方がセキュリティのチェックも出来るって言うんだ
し、何よりタダなのよ。タダッ!
 人のおごりを断る奴は、人間じゃないわ!」
 リナの迫力に、ゼルガディスは押されていたものの。憮然としていた。
「せっかくアリエノールさんがお部屋を提供してくれたことですし、ここはお受けしてもよろしいよ思いますよ、ゼルガディスさん」
 ゆうに5,6人は泊れる最上階のスィートで。当然、アリエノールもこの部屋にいる。ただし、ワンフロアまるまるなので。厳密に言えば別の部屋である。
 4人がいたのは、すべての部屋の中心となる。リビングの様な部屋だった。
「けどなあ。こう学校から遠いと……」
 異論を唱えたのはガウリイで、ガウリイは海洋学を学んでいるだけあって水棲動植物の飼育を任されているのである。もっとも、すでに事態は学校の上層部には話を通してあるので。書類上の心配は何もない。
「どうかしたのか? リナ」
 ゼルガディスを「説得」する事で疲れてしまったのか、リナはさっきから黙ってしまったっきりである。
「え? ああ……違うわよ。
 ただ、アリエノールさん。どうするのかなって思ってただけ」
 リナの言葉に、確かに。一同に沈痛な面持ちはあった。
 一通りの話が終わった後、アリエノールは「ある行動」に出たのだ。
         ◇
 倒れた暗殺者が。全員身動きも取れないほどぐるぐる巻きにされた。
「どうやってぶちのめそう………。
 大体、暗殺者のくせに太陽が出ている。昼日中のぽかぽか陽気の下で、おもいっきり昼寝でもしようかと言う。このくそのどかな時に出てくるのは万死に値するわ!!」
 あ意味では無茶苦茶だが。ある意味では、ものすごく筋の通った台詞をはかれて
しまい。リナを除いた面々が対応に困ったのは言うまでもない。
 勿論、当の暗殺者ご一行様にも言い分はあるだろう。
 曰く「真っ昼間っから暗殺者が人を殺して文句を言われる筋合いがない」とか。
 曰く「ぽかぽか陽気に殺しちゃいけないと明確な法律でもあるのか」とか。
 無論、人殺しそのものは重罪どころか死刑と言っても過言ではないわけだが。そこまで詳しく書く必要がないわけだから。当然、そこまで詳しい法律も存在はしない。
 どうやって会話をしているのか、リナは猿ぐつわをかまされて。身動きも取れない暗殺者達に的確で。凶器以外のなにものでもない言葉を浴びせている。
「おーい、そろそろやめて置いたらどうだ?
 役人にでも引き渡しちゃおうぜ?」
 うんざりしたガウリイが言ったわけだが、リナはまだ不満そうである。
 ちなみに、そのガウリイはシャツを脱いで上半身は裸のままで。背後では、アリエノールが薬を張り替えている。
 ガウリイの背中は、まだ完治したわけではなかった。
 だが、たった一晩でこれだけ回復したのも奇跡に近いものだとアリエノールは言った。
 最初ガウリイの背中に、いきなり銃を向けられたときのリナの慌てぶりは。思い出すと微笑ましいくらいすさまじいものがあったが。
「これは過去の遺産の一つで。この銃の中に魔力を詰め込んで、増幅と圧縮をする機械なの。ただ傷つけるものではなくて、人を癒す事も出来るのよ」
 アリエノールはそう言って、いきなりガウリイの背中に一発おみまいしたのであ
る。
 はっきり言って。
 ガウリイが死んだと思ったとして、誰がリナを責められるだろうか?
「驚かさないでよ……」
 治療呪文が込められていたと言う弾は、片手で持つには大きいくらいのものだっ
た。
「使い終わった弾はこうやってね」
 アリエノールはそう言って、両手で弾の先端同士を持つ。
「……………」
 何事かを呟いたアリエノールの両手がわずかに光り。そして、弾に収縮されて行
く。
「これで、何度も使えるのよ」
「だったら、それがあれば。あたしにも魔法が使えるって事?」
「理論的にはね」
 そう言って、アリエノールはベルトの内側は医療セット入れになっているのだろ
う。
 真白いガーゼやら小ビンやらなんやらを取り出して、ガウリイの治療を始めたのである。
「理論的?」
 銃は、アリエノールの背中に収納出来る様にでもなっているのだろう。
 マントのしたですっぽりと覆われてしまっている。
 アリエノールのマントも。そして他の部分も、よく見ると細かい刺繍やら細工やらが施してある。かなり精巧な作りだった。
「この銃、弾に魔力を込められる人しか使えないのよ。
 勿論攻撃呪文だって出来るけど、白魔法よりは多少効力が落ちるし。
 ほとんど、命に危険性のある重病人相手にしか使わないのよね」
「あたし、使ってもいいかな?」
 ほとんど軽い気持ちだった。
 どうせ、魔法なんてものは判らないし。縁がないものだと言う自覚もある。
 それなら、遊びで一度くらい使ってみたいと思った。
「残念だけど、これはおもちゃじゃないの。ごめんなさいね」
 アリエノールに断られても、別にリナは悲しくなかった。
 けれど。
 ゼロスの目が光った様に見えたのは。
 果たして気のせいだったのか?
「さ、これでいいわ」
「ありがとう、アリエノール」
 治療の終わったガウリイは、なぜか知らないがにこにこと笑っている。
 だけどゼロスの、正体不明な笑みと違い。ガウリイは確実に「本気」で笑っているのがわかったので。リナとしては、ちょっと困った。
「どういたしまして。
 これが私の仕事だもの。
 …………さて、極悪人ゼロス。あなた、『ゼルガディス』を引っ張り込んで何を企んでいるつもり?」
 事態が収集に向かうかと思われた矢先の台詞に、リナは驚いた。
 アリエノールはゼルガディスがいることを、ちゃんと知っているのだ。
 おまけに、どうやらゼロスと手を組んでいることで「不快」に思ってるらしい。
「僕が? 一体なにを企むと言うんですか?」
 リナがこの場にいて、ガウリイが治療を必要としていた為なのか。ゼロスはあの時の様に逃げようとはしなかった。
「とぼけないで。
 下級魔族を先導して、こんな女の子と関係のない一般人まで巻き込んで。
 極悪人のゼロスが考えることが、「世界に平和を」とか「人民にパンを」とか言うことじゃないくらい。私にだってわかるわ」
 こんな女の子とは、勿論リナの事で。そう言われた事が、リナには腹立たしかっ
た。
 それに、アリエノールは初対面から気に食わなかった。
 関係のない一般人と言うのは、勿論ガウリイの事ではあった。一応、被害にはあっているのだから無関係と言うわけではないよなと考えていたりする。
「僕は確かに魔族です。世界と共に闇に帰ることこそ、我等魔族究極の望みである事も。また、セイルーンに伝わる史実です」
 世界と闇に帰る。
 まともな神経では考え付かない言葉だとリナは思った。
「しかし、お忘れかも知れませんが。僕が現在仕えているのは『彼女』だけです。
 『彼女』の契約に従い、望みを叶え続ける。それが、現在の『僕』のすべてです
よ。
 それとも、あなた方「人間」は『彼女』の犠牲……おっと、この台詞は怒られますね。存在すら史実すら忘れて行き続けると、その様に薄情なことをおっしゃるわけですか?」
 なんだか、話が難しくなって来たなあとガウリイは思った。
「まあ、僕としてはそれでもかまいませんけどね」
「ちょっと、言い過ぎじゃない?」
 一応、打ちひしがれたアリエノールの様子を見て言ってはみるものの。別に、心から同情しているわけではなかった。
「嘘ではありませんから」
 ゼロスの台詞に、更に深みにはまるアリエノール。
 どうやら、台詞が思い付かないらしい。
「ふ…………………………………………………………………………ふふふふふ
ふ…………………………………………………………………………………」
 無意味と言うか不気味と言うか。
 そんな含み笑いが聞こえてきたのは、ちょうどそんな時である。
「ゼロス」

 ぴきーん!

 どこからともなく、そんな音が聞こえてきたのは。
 絶対に気のせいだとリナは思いたかった。
 だが、気のせいではない。
 それならば、取るべき道は一つしかない。
「行きましょガウリイ」
 すなわち、逃げること。
「いいのか? あれ、放っておいて」
「いいのよ。巻き込まれてもつまんない時間をすごすだけだし。
 こいつらが逃げようとしても無駄なのはわかっているし。それなら、あたし達はせめて被害の及ばぬ離れたところで見守ってあげるのが親切ってものよ」
「そーかあ?」
 いまいちどころか、全然釈然としない様子だったが。
「いーのよ。
 それより、あの口喧嘩の中に戻りたい?」
 リナに導かれる様にして、少し離れたところから振り返ってみる。
 白づくめの女性と黒づくめの男性。
 言い争っているのは言い争っているが、どうも。それだけではない様に。
 見えなくもない。
「戻りたい?」
 念押しに言われたリナの台詞を聞いたガウリイが。
 リナを見て、ゼロス達を見て。もう一度リナを見て。
「やめて置こう」
 リナは満足そうな笑みを浮かべた。
「どうせ、そんなに遠くに行かないんだから。すぐにゼロスが迎えに来るわよ。
 それに、ガウリイだって自分の荷物運び出したいでしょ?
 …………………瓦礫の山だけどさ」
「うーん………………」
 流石のガウリイも、この光景を見ると汗が流れる。
 何しろ、そんなに大きな建物でなかったとは言うものの。残っているのが隅の角っこだけなのだ。おまけに、ごていねいにもさきほどのどたばたも含めて。形の残っているものを探すほうが困難を極めている。
「これ……………………………大変よね。別の意味で」
 生活の問題ではなく、探す方の問題ではあるが。
「まあいっか」
 ガウリイの答えは、シンプルすぎた。
「まあいっかって…………………」
 リナがコメントに困ったのは、言うまでもない。
「布団なんかは無理だけど、生活用品とかないの?」
「うーん、そう言われてもなあ……」
 本気で考えられてしまい、リナも困った。
「必要な学術本とかは、この間で全部返却終わってるし。借りたものもないし。
 金とかは貯金があるし、関係書類は研究室だし」
「いや、もっと根本的な服とか私物とかはないのかって話なんだけど」
 突っ込みにも、自然と力が抜ける。
「着替えかあ。それなら少し飼育室にあるし。
 うん、困らないな。どうかしたのか?」
 リナの顔を見て、ガウリイがたずねた。
 よほど変な顔をしていたわけだが、リナは心から「変だ」と思っていたので。聞かれたら迷わずにうなずくだろう。
 物事に関心と言うものがないと言うか。
 なにものにも執着しないというか。
「アンタって、変ね」
「そうか?」
 そのくせ、笑ったりする。
「昨日、ここには一人で住んでるって話だったけど。家族とかはどうなってんの?」
「気になるか?」
 ならないと言えば、嘘である。
 まあ、色々な意味ではあるが。
「知らせないといけないでしょーが」
「海の向こうの国だから、仮に知らせても『それがどーした』で終わるな。多分」
 どーゆう家族だ。
 突っ込みを入れたいのを我慢して、リナはたずねた。
「これから、どうするの?」
「リナはどうするんだ? お前さんこそ、家族とかに知らせなくていいのか?」
「ああ、いないから」
 ひどくさばさばと。あっさりと言ったリナの台詞に、ガウリイが驚いていた。
「え?」
「あたし、物心着いたときからずっと一人だったの。
 家族もなくて、本当に一人っきりの生活だったから。誰も心配しないわ」
「ふーん……」
「その割にはグレてないでしょ?」
 それどころか、非常に明るく言っている。
 そんなに明るく言える話題でもないと思うが、まあ。
 リナの問題だから。
「……………………………………そうだな」
「気になるわね、その沈黙」
「いや、なんでもない。たいした問題は何もないぞ!」
「つまりぃ、たいしたわけじゃない問題ならあるってわけ?」
 えぐる様なリナの突っ込みに対して、ガウリイの額に汗が流れた。
「ええと、ずっと一人でさびしくなかったかなあ? とか」
「その前に毎日の生活でしょうが。
 人間、ご飯を食べないよ死んじゃうんだよ?」
 苦し紛れの台詞は、リナの切り替えしにあっさりと一刀両断された。
「それに、周りには色々な奴がいたわ。善人も悪人も、容量のいい奴、悪い奴。
 それで一つだけわかったことがあったのよ」
「わかったこと?」
「運のよしあしなんて、関係ない。
 問題は、どれだけ『生きようとあがくか』って事だってね」
 一瞬でリナの顔が変化した。
 本気の、それになった。
「だからあたしは生きるわ。
 ゼロスや、他のやつらがどんな形であたしを気にくわなくても。あたしは、それでも望む限り生きる権利があるんだから。
 誰にも、殺させてやる権利なんて出した覚えはないんだから」
 その。
 リナの声が合図だったかの様なタイミングで。
 風が吹いた。
「リナさん、こんな所にいらしたんですか」
 その声は。まるで、昔からの親しい友人を呼ぶような。
 甘い声だった。
「背後に立つのはやめてくれる? ゼロス」
 リナの声は、まるで今にも斬りかからんとする敵に対する様なそれだった。
「それは済みません。
 とりあえず、僕達の話の方が着きましたのでお迎えに来ました。
 ずいぶんと話に華が咲いていた様ですね」
 ゼロスもリナも、お互いに友達や仲間だとは思っていないのだとガウリイは感じ
た。
 ただ、リナは生き延びる為に。ゼロスは、よく判らないなにかの為に。
 手を組んでいるだけだと言う話。
 その手は、いつでも離れることが出来ると言う。
「アリエノールさんは?」
 そう言えば、あの白い服の女性の姿はなかった。
 結構な長身だから、走ってくればわかりそうなものだが。
「先に行きましたよ。
 僕達も行きましょうか」
「行くって、どこに?」
「今朝のホテルです。
 僕達、手を組むことにしたんですよ。でも……」
 ゼロスが言いよどむ理由が、わかるはずはなかった。
「ゼルガディスさんが何て言うか」
          ◇
 どういう話の仕方をしたのかは、この際わきにでも置いておくのが親切と言うものだろう。恐らくは。
「なんだって『セイルーン』が俺に関わって来るんだっ!」
 事情を聞いたアリエノールは、協力を申し出た。どちらかと言えば、この話に首を突っ込みたいと言うのが本当の所だろう。
 一体、ゼロスがどんな口八丁手八丁を使ったと言うのか。
「そうね、『セイルーン』が『ゼルガディス』を嫌ってるのは確かです。しかし、
『私』は『あなた』を嫌ってはいません。
 それではいけませんか?」
「いいも何もないだろう!」
 アリエノールは、資金のすべてと持てる特権を使ってリナとゼルガディスと。ついでにガウリイの安全を保障した。その代わり、自分にも参加させろと言ってきたのだ。
 勿論、話の中心人物たるリナは欠けるわけにも行かず。ゼルガディスの実力を知っていれば当然だが、ガウリイだけは渋い返事を返した。
 だが、結局はガウリイの「俺だって被害者だから関係者だ」と言う。またわけのわからない理屈を言われ。なぜか、それで納得してしまうアリエノールの姿があるわで。
 だが、これに異を唱えたのはゼルガディスだった。
「なんでよ?」
 当然なリナの質問に、ゼルガディスは面白くなさそうに言った。
「何代か前の『ゼルガディス』さんに、セイルーンの当時の巫女姫が叶わなかった事が悔しくて。セイルーンで『ゼルガディス』と言えば、永久犯罪者。
 その血の一滴までも滅ぼす様にと命令を受けているんです」
「正確には37代前の姫で、名前はテスリーン。
 はっきり言って、かなりドジな女だったのは確かだったな……」
 ぼそりと補足説明をしたわけだが、どうやら正解だったらしい。
「それ以来、未だに『ゼルガディス』は処刑対象。今すぐ殺さなくてはならない人物です。そして、極悪人ゼロスも」
 もしかしたら、単にアリエノールも忘れているのかも知れないが。
 なににしても。
 こうして、のおんびりと一つのテーブルを囲んでお茶を飲む事なんてないのであ
る。
 その時、部屋の電話が鳴った。
 この部屋の借り主はアリエノールだから、当然アリエノールが出る。
 二言三言かわしたアリエノールは、どうやら役人に手配をつけていたらしい。
 しばらく留守にすると言って、部屋を出ていった。
「一体、なにが不満なのよ」
 リナの言葉に、ゼルガディスが答えた。
「全部だ」

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2766刻の糸の語る詠・75/20-04:11
記事番号2765へのコメント
刻の糸の語る詠・7

 リナは、その光景を眺めていた。
「いいかげんに機嫌を直してくださいよ、ゼルガディスさん」
 一人はゼロス。
 リナにはよく判らないが、高位魔族と言う種族であって人間ではない。ただし、どこからどう見ても人間にしか見えないが。リナはそんな事はどうでもよかった。
 勿論、興味はあるが。片づけなくてはならない問題がある。
 もっとも、後で追求できる保障はないが。
「無茶を言ってくれる」
 ゼロスの左隣で座っているのは、ゼルガディスと言う青年。
 黒髪で若い容貌をしているが、皮膚を変質させたり魔法が使えたりする。本来は人間だったと言う話だが、遺伝子レベルでの改造をされているという。
 もちろん、リナには判らない。
 ゼルガディスが苦虫をつぶした様な顔をしているのは、リナに関わる問題の為だと言う話である。しかし、ゼルガディスは自分から詳しい話をしようとはしない。
「あまり駄々をこねないでください。わがままは正義じゃありません!」
 わけの判らない理屈を言っているのは、ゼルガディスの隣に座っている。女性でアリエノール=セイルーン。
 年齢は、可愛らしい顔立ちをしているがリナより10歳くらい上と言った所だろうか?
 全身を白い法衣でまとい、身のこなしは良いところのお姫様らしくて上品だが。どうにも意味不明な理屈で行動している節がある。
 アリエノールは一応普通の人間のようだが、魔法の使える銃とか持ってるために。
 あまり信用できる相手だとリナは思っていない。
「誰が元凶だと思ってるんだか……」
 呆れた声でゼルガディスが言うが。アリエノールには聞こえていないようだったりする。
 リナは心中で独白した。
 あたしの常識を返せって気がしてくるなあ、と。
「どうしたんだ? リナ、変な顔して」
 三人とは少し離れた、ホームバーくらいのカウンターで。リナの隣のガウリイがたずねてきた。
 同じ学校のはずが、会ったのは昨夜が始めてだった。
 会ったのは偶然。そのまま放っておけばいいものを、物好きにも命を狙われているリナの問題に。自分から巻き込まれて関係者になったりするから……。
 リナには一番理解出来ない存在と言っても、過言ではない。
「ちょっと……人生について」
 言ってリナは、目の前にあるフルーツの盛り合わせに手を伸ばす。
「人生って……お前」
「じゃあ聞くけど。こういう構図を見て、アンタはなんとも思わないってわけ?」
 一見しただけでは、極フツーに見える可能性がないわけでもないが。
 ちょっとでも内情を知っていると、なんとなく現実逃避したくなるとリナは思っている。
「何か変か?」
「じゅーぶん変よ。大体、アリエノールはどうしてこんな所にいるのかしら?
 どうやら、何が起きているのかは判っているみたいだけど。あたしは、結局何も知らないのよ。中心人物であるにも関わらずね。
ゼルガディスも……まあ、悪い人ではないみたいだけど。ゼロスなんて人間じゃないまで言ってるのよ? いいかげん、頭もおかしくなるわよ……」
 言って、リナは立ち上がる。
「どこ行くんだ?」
「少し休ませてもらうわ。なんだか、疲れちゃって……」
 ほとんど徹夜状態だったリナは、ここに来て休めたからなのか。ひどく眠りを欲していた。ただし、同じ状態だった筈のゼルガディスは何の支障もなさそうに見える。
「だったら、ガウリイさんもついていてあげてくださいな。一人では危険ですから」
 三人(?)でこれからの事を話し合っていたはずだが、不意のアリエノールの台詞にリナは驚いた。
「お前、何考えてんだ?」
 ジト目で見ているゼルガディスの視線を気にもせず、アリエノールは続ける。
「ガウリイさんは自分から巻き込まれることを望んだんですから。それくらいはいいですよね?」
 一瞬とは言え、リナは何が起きたのか理解出来ずに声を失っていた。
「ああ、いいぜ」
 軽く答えたガウリイの台詞に遮られて、更に現実を受け入れられない。
「よろしいんですか? アリエノールさん」
「なにが?」
 アリエノールの見るゼロスへの視線は、限りなく鋭かったはずなのだが。
 どうやら、今の話し合いで手を組んでいるのか。目以外は笑っている。その最たる被害者は、どうやらゼルガディスらしく。その表情は、疲れ切った様子だ。
「若い男女が一つ同じ部屋にいて。間違いでもあったら……と言うお話ですよ」
 それはそれは楽しそうに。なおかつ面白そうに言うゼロスだが、リナの表情が見えているのは勿論。その表情が語る意味も理解している上での行動なのは。
 言うまでもない。
「大丈夫ですよ、ガウリイさん。そういうメンタルな部分には鈍そうですし」
 本人を目の前にして言うアリエノールだが、どうやら半分は本気と言うところである。
 ちなみに、そのもう半分は面白がっている節もある様だが。
「なななななな………なに言ってんのよ、あんた達!?」
 リナの顔は、真っ赤になっている。
「なんだってガウリイが着いて来なくちゃなんないのよ! 全然、そんな必要ない
じゃないのぉっ!!」
 思わず大声で。怒鳴ってしまうリナを、ゼルガディスはうんざりした様に。
 ゼロスとアリエノールは、それはそれは楽しそうに眺めている。
「必要なら、あるわ」
「なんでよ!!」
 アリエノールの台詞に対し、反射的に聞くリナ。
「何かあったらどうするんだ?」
 リナの質問に答えたのはアリエノールではなく、質問の形の答えを口にしたガウリイだった。
「何かってなによっ!!」
 ついた勢いが止まらないのか、リナは更に大声を出す。
「そうですね。なににしても、リナさんをお一人で休ませて無事に済むとも思えませんし」
 ゼロスの台詞に、リナはカチンと来た。
「ちょっと、どういう意味よ。それ。
 花も恥じらう様な若い乙女を、こんな奴と同じ部屋で休ませるなんて。常識のある奴なら推奨しないわよ!」
「こんな奴って……」
「だが、まあ。冗談は別として、リナは一人で行動しない方がいい」
 真面目な顔に戻ったゼルガディスにまで言われては、リナとしては不信感を抱かなくてはならない。
「どう言う事?
 まさか、ここまであいつらが来るとでも言うんじゃないでしょうね?
 馬鹿馬鹿しいっ! ここをどこだと思ってんのよ!」
 このホテルの最上階スィートは、町の中でも抜きんでて目立った建物である。他にある高層建築物と言えば、リナ達の通う「王立学校」くらいだからである。
 距離にして地上100メートルちょっと、と言うところである。
 普通に考えてみれば、そんな所にわざわざ侵入する奴なんてあるわけがない。
 それに、この部屋はベランダもない。窓もはめ込み式になっていて、あえて開く窓と言えば天窓くらいだ。その天窓だって、人が一人入ることなんて出来ないくらいの大きさとなっている。
 従業員の安全性の為だと言うのは、このホテルに新聞配りのバイトをした事がある関係でリナは知っていた。
「真面目に考えれば、ここに誰かが残っていれば他の部屋までは無茶よ」
 この階は、他の部屋から入るには専用のエレベーターで一度この部屋まで行かなくてはならない。そして、そこから5つある部屋。すべてツインだが、それと二つのベッドルーム。そしてレストルームに出入りをする事が出来る。
 専用のエレベーターや、この部屋に備えてあるキッチンなどが独立した関係で。もしも災害に見回れたとしても自家発電で逃げ延びることが出来るという設計になっている。ただし、このホテルそのものが倒れた場合には保障も出来ないが。
 リナは、その事さえ知っていたのだ。
「真面目に。そして、普通の常識でならばの話ですけどね」
 ゼロスの台詞に、リナは笑みをこぼしかけた。
 だが、それは出来なかった。ゼルガディスもアリエノールも、そしてガウリイですら笑ってはいなかったのだから。
「普通に物事を考えられるなら、これほど楽なこともないがな……」
「そうです。彼等を甘く見てはいけません」
 ゼルガディスとアリエノールは、ため息をついていた。
「宙を飛ぶくらい、ゼルガディスさんやアリエノールさんでも可能ですしね」
 ゼロスはあっさりと言った。
 確かに、ゼロスは瞬間移動が出来る。しかし、ゼルガディスやアリエノールが宙を飛べる事など初耳だったリナとしては、やはりにわかには信じがたい様である。
「まあ、僕なら。もっと簡単な手段を使いますけど、ここはお一人で過ごされるのは危険でしょう。
 とだけ言っておきますね」
「だったら、アリエノールが一緒にいてくれればいいんじゃないの?」
 極々当然だと思われたリナの台詞だったが、アリエノールは「にっこり」と微笑みながら言った。
「私はまだゼルガディスさんや極悪人ゼロスとの、今後の打ち合わせがあるもの。
 今、リナさんを守ってあげられるのはガウリイさんだけなのよ」
 言っている事は正論だと思うのだが、リナにはしっくりと来ない。
 何より、リナにはアリエノールの言った「守ってあげられる」つまり、リナが守られると言う言葉を受け入れる事が出来なかった。
「その極悪人と言う形容詞を除いていただければありがたいんですけどね、アリエ
ノールさん」
 ゼロスを呼ぶときは、いつでもどこでも「極悪人ゼロス」と呼ぶものだから。それがこのように密閉に近い状態ならばまだしも、公共の場ですら言われるのだから。
 リナやガウリイは知らなかったが、流石に警察の前で呼ばれたときにはゼロスが驚いてアリエノールの手を引っ張って逃げたと言うエピソードまである。
「だから、リナさんを一人にするわけにはいかない→手が空いてる人がいない→ガウリイさんと一つ同じ部屋へレッツ・ゴーと言う結論に達するわけですよ」
 意見を無視される形になったゼロスは、思わず固まっていた。
「達するなぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!」
 怒りの拳を握ったリナは、かなり頭に血が上っているらしい。
「リナ」
「なによっ!?」
 とぼけた声で聞いたのは、ゼルガディスである。
「お前、いくつだ?」
「14歳よ。それがなにっ!?」
 声は怒ったままである。
「ガウリイはいくつだ?」
「24だと思うが、それがどうした?」
 年齢を聞いて、ゼルガディスが考え始めた。
 そうなると、リナも一息つかなくてはならない。
「その、思うって何よ」
「ちょっと忘れてたから……」
 ふと思い出したが、海洋学教室の年の取り方は。他の学部の1/3だろ言われている。
 実際にそうだと言うわけではなく、それだけ周囲から影響されにくい状態で日々を過ごしているからだと言う事らしい。
「年齢差は10歳……まあ、犯罪ではないな」
「真顔で言うなぁぁぁぁぁっっ!!」
 リナの怒りのボルテージが、再び上がった。
「へえ、リナってすごいんだな」
 ガウリイが言うのも尤もな話で、二人の通っている学校はかなりなレベルである。
「じゃ、じゃあ。あたし、ここで寝るからいいわよ」
 この部屋にはベッドとまでは言わないが、カウチソファくらいはある。
 眠るのに充分とまでは言わないが、出来ないわけでもない。
「ここで寝ると、私が悪戯しますよ」
 すかさず出たアリエノールの言葉に、妙な感触を覚えたリナは。思わず、ゼロスとゼルガディスに目をむけてしまう。
「そう言えば、アリエノールさんは『美しいものなら何でも好き』だと言うお話でしたねえ、確か。聞いた限りですけど」
 リナが、ぎょっと目を開いた。
「俺がセイルーン王家に近づきたくない理由の一つが、それだ」
 力無く言うゼルガディスの言葉には、別に嘘とか冗談とか言った風な言葉に。リナはどこか核心めいたカンの様なこのを観じた。
「初代のアメリア姫は、そこまで酷くなかったんだがな……」
 追加で出された台詞に、リナの背筋が寒くなったのはなぜだろう?
「ちなみに、悪戯ってここでか? ゼルガディスやゼロスも見ているわけだろ?」
「ご心配なく。僕はここでビデオでも回しますから。
 最近、デジタル製のカメラとかパソコンとかが出ましてねえ。かなりの年数を奇麗に保存しておけるようになったそうですよ。それの試験もかねて使ってみたかったんですよねえ」
 嬉しそうに。それはそれは嬉しそうに、ゼロスがどこからか8ミリのビデオカメラを出してきた。形としてはまったく同じだが、もう一つの方がデジタルカメラとか言う奴なのだろう。
「絶対にやめて……。
 それで、ゼルガディスはどうするのよ」
「俺に聞くな……………」
 真っ赤な顔をして、ゼルガディスが横を見た。
 リナは現在、かなり追いつめられていた。
 眠りたい→一人になれない→ガウリイしかいない→そんなの嫌だ→ここで眠る→アリエノールが悪戯する→ゼロスがビデオの準備をしている→ゼルガディスは止めないだろう。
 結論。二つに一つ。
「ちなみに、なんでそんなに嫌がるんだ? 別にいいじゃないか。側にいるだけなんだし」
「そおいう問題じゃないわっ!!」
「じゃあ、どういう問題なんだよ」
 リナにだって、状況が判っていないわけではないのだ。
 何しろ、彼等はご親切にもリナを守る為にわざわざ。集まってくれている。ガウリイなど、自分から巻き込まれた。感謝してもしたりないくらいだ。
 おまけに、相手は冗談ではなく人間ではない。
「な…………なにもしない?」
 顔は赤かったが、リナは真顔で聞いていた。
「何もって………なにがだよ」
 ガウリイの顔は困っていた。
「え、いや……その」
「心配なら離れててやるからさ」
「わ……………………………わかった」
 結局、悪戯されるよりはガウリイを選んだリナが。用意された部屋に消えていっ
た。
          ◇
 まだ日は高い。だが、三人のテーブルにはそれぞれグラスが置かれ。そこには、
並々とそれぞれの好みのアルコールが乗っている。
「魔族なのに酒を飲むのか?」
 ゼロスの注文した酒が注がれると、不思議そうな顔でゼルガディスがたずねた。
「ええ、まあ。人間並みに味くらいは判りますよ」
 ゼルガディスが、一体どういうものなのかを知っていると言うよりは思い出したのだろう。一泊おいたゼロスが答えた。
 とりあえず、その言葉の真意に。アリエノールは気づかなかったようである。
「それにしても、二人ともよく協力してくれましたね」
 それよりも、機嫌がいいと言うことなのだろう。
「まあ、な」
「その割にはお疲れの様ですね、ゼルガディスさん」
「当たり前だ」
 リナを一人にするわけには行かなかった。それは確かだ。
「そうそう。そのビデオカメラ、リナさん達の部屋に仕掛けるのは駄目ですからね」
 三人は打ち合わせをしなくてはならない。それも確かだ。
「えぇ〜、駄目なんですかぁ?」
 手の空いている人物がガウリイだけだと言う事。それさえも確かだ。
「当たり前だろうがっっ!!」
 だからと言って、リナが。しかも少女である以上、赤の他人の異性を簡単に寝室に置こうとは考えないだろう。アリエノールだとてそう思う。
 だから、一芝居打ったのだ。
 しかし、リナがこの部屋で眠ったら悪戯でもしようと考えたのは事実である。勿
論、悪戯と言っても口紅で顔中落書きをしてやろうと考えたくらいだが。
 そのアリエノールの画策に乗ったゼルガディスは、らしくもない悪巧みに乗ったわけだが、ゼロスの「ビデオに保存」は半ば本気だったらしい。
「それにしても、リナさんをどうやって使うつもりなんですか? お二人は」
「特にはまだ何も。どう考えても、リナさんに危険が及ぶのは判り切っていることですもの」
 アリエノールの答えは、かなり優等生的なものだった。
「そうだな……相手が『あれ』では、百の手を打っても百一の手で来るかも知れないしな……」
 ある程度相手の正体を掴んでいるのか、ゼルガディスは別の意味で力が抜けてい
る。
「ゼロスは、どうするつもりなんだ?」
 注がれた酒を飲み、ゼルガディスのたずねた台詞を。
「それは秘密です」
 ゼロスがかわした。
           ◇
 一方。リナとガウリイはアリエノール達と壁一枚を隔てたところに入った。
 だが、流石は一流のホテル。
 三人が大声を出しているわけでもないと言うのもあるが、かなり防音性が高いのだろう。
 外も、三人の声もまったく聞こえない。
 リナは服のままではあったが、扉に近いベッドに潜り込んだ。別に、それで誰が困ると言うわけでもなかったからである。
「じゃ、じゃあ……おやすみ」
 部屋にはベッドが二つ。それと、ガウリイのいる窓際にソファセット。
「ああ、おやすみ」
 疲れ切って眠りたいのは本当だった。
 安心したのかも知れなかった。
 だけど、他人である。
 心配もした。
 驚きもした。
 けれど、これまでは一人だった。
「起きてるか、リナ?」
 まだベッドに入ってすぐだったけど、ガウリイが声をかけてきた。
「うん……」
 体は休みたかった。
「一人だったって言ってたよな?」
 リナは答えなかった。だけど、それを肯定と受け止めた様だ。
「だからか? 俺が側にいるの嫌そうだったの」
 いや、極普通の倫理的問題としての。極普通の台詞だったわけだが、どうやらそういう問題でもないらしい。
「そーいうわけじゃ……」
「そっか、ならいいんだ」
 リナは悩んだが、それに対しては何も言わなかった。
「もう眠れ」
「あたし……」
 少し、間があった。
「あたし、誰かが側にいて。眠るのって珍しいわ」
 更に、間があった。
 眠ってしまっただろうかと、リナは思ったくらいだ。
「そうか」

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2767刻の糸の語る詠・85/20-04:29
記事番号2766へのコメント
刻の糸の語る詠・8

 町の雑踏。
 むせ返るのは、ほこりと。海の匂い。
 海と山に囲まれた町。学業と産業で栄える町。
 人の過ぎ行く町。通りの賑わい。
 人の声。明るい声。暗いわだかまり。
「おばちゃーん、これと……これ。それと、こっちのリンゴもくれる?」
「あいよ」
 果物の露天。沢山に詰まれた、色とりどりの珍しいもの。
「じゃ、これも持ってね」
 リナが、ガウリイに紙袋を渡す。
 笑顔で。
「おい……まだ持つのかあ?」
「あったりまえじゃない! あたしの分だけならともかく、アンタだって食べるで
しょーが」
「そりゃあ、まあ。そうだけど……」
 不服そうではあるが、ガウリイはしぶしぶ紙袋を持った。
 だが、両腕にはすでに沢山の食料が詰まれている。
「あとは……」
「まだあるのかあ?」
 紙袋の間から、ガウリイが顔をのぞかせている。
 その視線の先には、ガウリイの胸元までしか身長のないリナがいる。
「うーん……これで終わりかな。アリエノールに言われた分と、ゼルガディスに言われた分と……」
 言って、リナはメモとガウリイの持っている紙袋とを見比べている。
「うん、大丈夫みたい……。
 あ、ちょっと待ってて」
 急に、何かを思い出したリナは人込みを掻き分けて。走り抜ける。
「あ、おいリナっ!」
 それを見て慌てたのはガウリイだった。
 何しろ、置いてかれては困るのだ。
「まいどどうも」
「ありがと」
 だが、焦ることはなかった。リナは、すぐ先の露店で買い物をしていたのだ。
「リナ」
 落ち着いた、低い。いさめる様な声で、ガウリイが話し掛ける。
「なに?」
「なにじゃないだろう……お前なあ」
 呆れた声を出すガウリイを、リナが明るい声で答えた。
「だから、ちょっと待っててって言ったじゃない」
「そうは言うけどなあ」
 あわや喧嘩になるかと思われた二人を止めたのは、誰でもない。
 露店のおじさんだった。
「仲がいいねえ、お二人さん」
 瞬間。
 リナの顔は真っ赤になるが、それ以上の口すらきけなくなる。
「……あー……えーと」
 ガウリイも困った様子で、二人とも動きが止まった。
「え……と、行きましょ」
 それでも何とか声を出したのは、リナだった。
「あ……ああ」
 ぎこちない様子で、ガウリイが。
 人込みに消え行くリナに続いて消えていった。
          ◇
 それを言い出したのは、意外な事にガウリイだった。
「買い物に行こうぜ」
 昼より、少し前と言ったあたりだろうか。
 とにかく、眠気眼で起き出したリナが。眠気覚ましに顔を洗ってきた直後に、最初に耳に届いたのがその台詞だった。
「はあ?」
 誰の台詞だったのだろうか? もしかしたら、誰もが自分の台詞かと思い。けれ
ど、確かめようとは思わなかった。
 現在、室内には全員そろっている。
 相変わらず、アリエノールとゼロスが結託して。ゼルガディスをつつきつつ、うんざりしながらも一人で。果敢にも二人に対して言葉の応酬を繰り広げていた。
 ただ、作戦そのものは考案が進められているらしく。アリエノールのものらしい、女性らしい文字で幾つもの「失敗」と×印のつけられた書類が散乱している。
「正気ですか? ガウリイさん」
 呆れた声で、率先して口を開いたのはアリエノールである。
 沢山の没書類を作った為か、痛みでもあるのか。手をぶらぶらと振っている。
「とうとう……と言うか、最初からと言うか……」
 うんざりした顔で、それでも無視する事無く答えるゼルガディス。
 ちなみに、相当苦労していたのだろう。
「電話一本で、ルームサービスが頼めますよ?」
 これは当然ゼロス。
「なあ、リナ」
 ひょいに話が向けられたので、一瞬。リナは対応に遅れた。
「……買い物に行くって言った? 今」
「ああ」
 自信たっぷりに言われてしまうと、リナは勿論。その場の誰もが反応と言うか対応に困るのは当然と言うものである。
「あたし?」
 まだ頭の中は眠ってるのか、不思議そうな顔でたずねるリナ。
「そりゃあ、リナに向かっていってるのに。ゼロスの事は言わないだろう?」
 そう言われてみればそうかもしれない……。
 などと考えてしまったリナは、相当寝起きが悪いのかも知れない。
「無茶な事を言わないで下さい! 今がどう言う時なのか、判って言ってるんです
かっ!?」
 アリエノールの台詞は、ことほかに「これだから理解できてない人は……」と馬鹿にする節があった。ただ、それは彼女の性質によるものなのかは判らない。
「まったくだ」
 ゼルガディスの口調は、あからさまだった。
 だが、それ以上の台詞がないと言うことは。よほど疲れているのか、すでに他に万策尽きたと思っているかのどちらかだろう。
「リナさんは狙われてる立場だって事が。判っておっしゃるんですか? ガウリイさん」
「ああ、そうだけど?」
 あっけらかんと口に出された台詞には、流石にリナも怒りを覚えなくてはならな
い。
「アンタねえ、何考えてんのよっ!?」
「何って?」
 無論、リナのボルテージが上がるのに時間など必要なかった。
「なんで命を狙われてるあたしが、わざわざ敵さんに『どーぞ狙って下さい状態』になんなきゃなんないのよっ!?」
「じゃあ、一生ここから出ないつもりなのか?」
 おもわず、リナはうなりながら一歩下がる。
「あいつら、どう言う訳かはどうでもいいが。どこにいても結局はリナを狙ってくるわけなんだろ?
 なら、どこで何しててもかまわんてわけじゃないのか?」
「なるほど……」
 確かに、普通ではないと言ったのはアリエノール達三人である。
 常識ではかれないと言ったのは、ゼロス達三人である。
 その為にわざわざ、警護しやすい高級ホテルに来ることを選んだのも、ゼルガディス達三人である。
 常識が通じない相手に常識で対抗しようと言うのが、そもそも間違いなのだから。
「で、こんな所で閉じこもっててもしょうがないし。買い物すれば、少しは気晴らしになるだろうし。俺だって済ませたい用事もある事だし」
「用事って、何ですか?」
 好奇心からなのか、ゼロスが聞いてみた。
「くらげの世話」
 思わずコケる一同。
「あと、イルカとオルカとサメと……」
 指折り数えるガウリイを、リナを含めた一同が妙な目つきで眺めたのは。
 言うまでもない。
「研究室で飼ってるんだ。俺の当番じゃないけど、心配なことがあってな」
「心配な事? 電話で知らせて他の誰かに代わってもらってはいけないんですか?」
 いち早く復活したのは、アリエノールだった。
 どう言う理屈からなのか、まだゼロスとゼルガディスはコケたままである。
「イルカの元気がなくてな……。
 出産を控えた奴とかもいるし、全体的に調子も悪そうだし。一応、自分の目で確認してやりたいだろう?」
「判った」
 完全に目の覚めた調子のリナが、言った。
 多少疲れた感じがするのは、なぜだろう?
「あたしも行くわ」
「リナさん、判ってるんですか? 自分の置かれた状況」
 なんとか体を起こしたゼロスが、それだけ言った。
 ちなみに、ゼルガディスはまだコケている。
「判ってるわよ。それに、あたしも学校の図書館から借りっぱなしの本返しておきたいし。どうせなら、海洋学教室も覗いてみたいし。もしかしたら、あたしだって選考していたのかも知れない教室だもの。
 第一、 物を借りて返さないで死んだら。学校に悪いでしょ?
禍根は、残しておきたくないのよ……」
「リナ……」
 一同は声を失った。
 だが、それは仕方ないのかも知れない。
「まさか、死ぬ気なのか?」
「そんな事ないわよ、ゼルガディス。
 あたしは、そんなに人生悟っちゃいないわ。ただ、念の為に……ね」
「そんな事はさせないさ」
 カウンターバーで水差しから水をくんだガウリイが、不意に言った。
「ガウリイ……アンタ、あたしに惚れたでしょ?」
 突然と言えば突然過ぎたリナの台詞に、思わずむせるガウリイ。
 声すら出ていない。
「あらあら、大丈夫?」
 げほげほげほげほ……。
「まあ大変」
 あまり、そう思ってはいない様な台詞で。にっこりと微笑んだアリエノールが声だけをかける。
 ちなみに、なんとかしてやろうと言う親切なと言うか。不親切なと言うか。とにかく、そんな考えを持った人間は。この場には存在しないようである。
「おま……」
「冗談よ。
 それに、あたしが望んだとしても。ゼロスあたりが意地でも死なせないんじゃないかって。そんな気がするわ」
 うんざりした様な顔で、リナがゼロスを見ている。
 だが、ゼロスの顔はいつもと同じ。
「そんなに親切なことはしませんよ? 僕は」
「あたしが死んだら、困るんでしょ?」
 まだ咳き込んでいるガウリイの背中をさすりながら、リナが平然と答える。
「おや、バレましたか」
 困っていない顔で答えたゼロスが、姿を消した。
 どうやら、別の所からリナを監視でもする事にしたらしい。
「ま、あんなもんでしょ……。
 ねえ、二人とも。どうせなら買い物もしてきてあげるわよ、あたし。下町は詳しいんだから。少なくとも、表の通りより時価20%オフは保障するわ!」
          ◇
 学校の校門の前で、リナはしばし。上を見上げた。
 だたし、校門とは言っても石柱が二本立っているだけの話であって。それ以上は何もない。
 その先には堀があって、昔の王城か何かだったのだろう。奥にはいかにも城門と
言ったものがある。
「行くぞ?」
「うん」
 人通りの少ない堀の上に、もう上げられる事のない跳ね橋を。
 リナとガウリイは歩いて行く。
「どうする? 先に図書館行くか? 教室に行くか?」
 跳ね橋を渡りきると、奥にはクラシカルなお城が立っている。
 ここが「王立学校」と呼ばれるゆえんで、そこの西側の敷地にガウリイの家があったわけだが。どうやら「幽霊屋敷」の噂とあいまって、野次馬がいるのだろう。中央には人が少なかった。
 そこから真っ直ぐ。北に行けば図書館だし、東に行けば地下で海にい通じる海洋学教室となる。
「どうしようかな。うん、図書館に行くわ」
「そう言えば、リナは何学年になるんだ? まだ専門課程はやってないんだろう?」
 石造りの校舎の中を、リナとガウリイが歩いて行く。だが、すれ違う生徒さえまばらだ。職員室は中央にあるわけだから、当然。教師にも会わない。
 普段ならばいざ知らず、今はいない。
 誰も。
 かつーんかつーんと足音が、二人のものだけがこだまする。
「あたし? ハイのマクロノイド先生よ」
 この学校の学年レベルは、基本的に個人授業となっている。
 最初はキンダーが半年。エレメントリーが1年半。次にジュニア・ハイが5年で、ハイが5年。それからが専門課程のカレッジと呼ばれており、これは基本的に限定年数はない。ただし、上級になるには資格試験があるし。当然、それはかなり難しい。
「えーっ!? マクロノイド先生!?
 リナって、本当に頭いいんだなあ……」
「まあね♪」
 大体がジュニア・ハイくらいで。後は仕事についてしまうのが大体の法則だ。
 おまけに、そこまで行くのに人によっては10年くらいかかる。
 マクロノイドと言うのは、ハイのうちでも難しく。また、かなり大変だと評判の先生で。それでも、マクロノイドの教え子となれば。カレッジに進むのにかなり有利となるのも、また本当だった。
 リナの年齢は14歳。
 そこから見ても判るように、リナはかなり異例と言えた。
「12の時にスキップでジュニア・ハイに入ってからだから……マクロノイド先生とは、かれこれ半年の付き合いかしら?」
「ちょっと待てよ、お前さん……」
 今や、ガウリイの目は完全に見開いている。
 異例中の異例の存在と言うのは、しばしばこう言われる。
 異常と。
「あ、ついたわよ。ガウリイ。
 どうする? 一緒に中に入る?」
「あ? ああ……」
 リナの目前には大きな木製の扉があって。そこには古めかしい金属のプレートに
「書庫」と書いてある。
「あら、リナさん。いらっしゃい」
「こんちはー、サラ」
 書庫には、沢山の本を抱えたまま。あちこちへと歩いている、だけど目深に被ったヴェールのために表情の見えない人がいた。
「借りてた本、返そうと思って……」
「珍しい。明日は雪かしらね?」
 口元は笑いながら、司書のカウンターに入ったサラは。
 ずらっとならんだカードの中から、狙いを違えることなく。リナのカードを取り出す。
「ガウリイさんは、本の貸し出しですか?」
 くぐもっているので、男なのか女なのかも判らないが。所在なさそうにしているガウリイを見たサラが、一言だけたずねた。ただし、手はすばやく業務を処理している。
「え? 俺の事、知ってるのか?」
「ええ、有名ですから」
 そう言って、サラは本を片づける山のてっぺんに積み上げ。そして、どこから出したのか紅茶のサーバーに紅茶を入れる。
「サラは謎の占い師なのよ」
「なぞの……うらないし?」
 さっきから、みょうな事ばかり起きてしまい。ガウリイはきょとんとした顔をしている。
 そうこうしているうちに、サーバーには熱いお湯が入れられ。当然の事の様に、カウンターの脇にある踏み台にリナが腰掛ける。
「お恥ずかしい。私のやっている事など、占いの真似事にすぎませんよ」
 信頼しているのか、リナの表情は明るい。
 場合によっては、ガウリイやアリエノール達と一緒にいる時以上に穏やかなものかも知れない。もっとも、アリエノール達は昨日。しかもとんでもない状況で知り合ったわけだから、仕方が無いとも言えるだろうが。
「そんな事ないわよ、サラの占いって。よくあたるんだから。
 あたしが学校に来る気になったのも、サラの占いがあったからだし……」
「そうなのか?」
 カウンターの上に、ティーカップが二つ置かれる。
 極々当然の様にリナは一つに手を伸ばし。ガウリイも、無言のうちに薦められる。
「あ、どうも」
 どうやらリナは、しょっちゅう入り浸ってはごちそうになっているらしい。
 その光景は、さながら喫茶店か何かのようで。周囲に本がうずたかく積まれていなければ、見間違いそうだった。
「大した事を言ったりはしませんでした。
 ただ、『信じる道を信じるままに。道はあなたの後ろに生まれるのだから』と伝えただけです。何か、迷っておられる様でしたので……。
 それで、今日は何をお求めなのです?」
 まるで店か何かのようだが、この図書館には滅多に足を踏み入れないので。ガウリイも、「こんなもんなのだろう」と思っていた。
「あたし、死ぬ?」

 ぐぷぃ。

 ストレートすぎる質問に、ガウリイはお茶を吹き出していた。
 幸運だったのは、本に吹き出したお茶がかからなかったことくらいだろう。
「り……リナぁ……」
「それは、ずいぶんと率直な言葉ですね」
 慌てるでもなく、穏やかに紡がれるサラの言葉に。返って、自分が間違っているのだろうかとガウリイが錯覚を覚えたとして。誰が責められるだろう?
「どうなの?」
 だけど、リナの質問はあくまでも率直だった。率直すぎた。
「……人は、いつか死ぬものです。
 どれだけ望んだとしても、望まなくても」
 人によって、サラの台詞は薄情とも言えたかも知れない。
 判らないならそう言えばいいと、言う人もいるかも知れない。
「遠い国では、この様な言葉があります。
 『神様が許さなくては、人は死ぬことが出来ないのだ』と。
 現世を地獄と呼ぶ人もあれば、天国と呼ぶ人もあるでしょう。しかし、それは人の内にあるもの。星の定め。天の軌道」
 あまりにも淡々としたサラの言葉は、周囲の空気にあいまって。不思議な雰囲気を醸し出す。もしかしたら、お茶はその為に入れているのかも知れない。
「私の役目は、刻まれた事を刻まれた人へと語るもの。
 ただ、それだけの話です」
 サラの言葉を聞いても、リナは特に反応を示すこと無く。最後まで、同じように
淡々と聞いていた。
「ありがとう、サラ」
 ただ、リナはカップのお茶をすべて飲み干して。
 ガウリイに声をかけることもなく、図書室を後にした。
『相変わらずですね、サラさん』
 カップを片づけていたサラが、手を止めた。
「この場には、今。どなたもいらっしゃいませんよ」
 虚空から聞こえた声に、驚きすら見せずにサラが答える。
「ゼロスさん」
『いいえ、このままで失礼します。せっかくですから、久しぶりにサラさんのお茶をいただきたいのが本音ですけど。リナさんから目を離して、何かあったら僕がしかられてしまいますからね』
 サラの、瞳までを見ることは何者にも出来ない。だが、口元にははっきりと笑みが浮かんでいた。
『もっとも、サラさんがいらっしゃるのでしたら。僕なんて必要なかったですかね
?』
「意味のない謙遜は、嫌味にしかなりませんよ。ゼロスさん」
 虚空から届く、少し拗ねたような『声』が聞こえたのか。
 サラは言葉を続けた。
「私もまた、『文字をなぞる者』に過ぎません。
 けど、『彼女』はどうでしょう?」

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2776刻の糸の語る詠・95/21-02:26
記事番号2767へのコメント
刻の糸の語る詠・9

 リナとガウリイが向かったのは、校舎の東側にある。海洋学研究教室だった。
 ちなみに、リナは海洋学研究教室の位置を理解していなかった。
「そうかあ?」
「ガウリイは毎日来てるから知ってるんでしょうけど、学校案内にも場所は書いてないんだもの。何でも、海洋学研究教室に入る条件て教室に行けることだって聞いたことあるけど、ホント?」
「なんだ、それ」
 笑いながら、ガウリイが答えた。
 二人が進んでいるのは、東側の校舎である。
 謎の多い教室なので、リナも時間の許す限り海洋学研究教室(略して海研)を探しに行ったものだったが。どうしても見つからなかったという、本当に謎の教室なのである。
「入れなかったら、確かに研究は出来ないなあ」
 先に進むガウリイの方向から、リナは頭の中で現在位置を想定してみる。
「それもそうね」
 ガウリイの行く先は、どんどん下層に向かっている。
 当然、階段も壁も。元々は王城だっただけあって石造りである。
「ね、ガウリイ。本当に、こんな所にあるの?」
 壁にも肌にも、少しずつではあるがじめじめとした質感を感じる。
 足元も反射で光ってるわけだが、なんとなく滑りそうな気がしてくる。
「恐いか?」
 なんだか笑われてる様な気がして、思わずリナは。
「そ……そんなんじゃないわよっ!!」
 気がついたら怒鳴っていた。
 螺旋状となり始めた階段に、思ったよりもキンと張り詰めたリナの声が響く。
「お前さんねえ……」
 耳を押さえていたガウリイだが、リナも同じように耳を押さえている。
「こんな所で大声出したらどうなるかくらい、判るだろ?」
「だってぇ……」
「しょうがないなあ、リナは」
 ぽんと、ガウリイがリナの頭に手を置く。
「なにすんのよ!」
 流石に、今度はリナの声も多少は押さえられる。
 それでも、階段の中に反響は起こるが。
「そうですよ、ガウリイさん。お気持ちは判りますけど、リナさんの気持ちも尊重して差し上げなくては……」
 耳元から聞こえた声に。リナは、思わず背筋を反応させた。
「きゃ…」
 ついでに、その場で足を滑らせて階段に座ってしまう。
「大丈夫ですか、リナさん?」
 にこにこと微笑みながら、ゼロスは言っている。
「いったぁ……」
「ドジですねえ」
「誰のせいよ、誰の!」
 気配を殺して、じめじめとした階段で背後から近寄り。いきなり耳元で、ささやきにも近い声なんてかけられた日には……。
「え? 誰のせいなんですか?」
「ぜぇーろぉーすぅー……」
 思い切り声を低くして、危ない目までさせながらリナが怒りに燃えている。
「そろそろ立てよ、ほら。
 あーあ……怪我してるじゃないか」
 言いながら、振り上げられたリナの手に走る赤を見つけたガウリイが。今にもゼロスにつかみかかろうとしていたリナの手を取り。
「リナさん、どうか落ち着いて……」
 流石に顔色を変えたゼロスが、どうしようかと思った矢先。

 ぺろりん。

 リナは、何が起こったのか判らなかった。
「これでよし!」

 ぎ……ぎぎぎぃ……。

「あ……」
「あ?」
 一言と言うか、何と言うか。
 とにかく、それだけを言って硬直状態に陥ったリナを見て。
 ガウリイが、それこそきょとんとした顔となっている。
「あ……………………………………………………………」
 わなわなと震えて、でも顔が恐怖に震えて。
「リナ?」
「いやあ、ガウリイさん。いまのはやりすぎかと思いますけど……」
 流石にゼロスが、同情する様な顔でリナの顔を覗き込んでいる。
「そうかな? でも、怪我の治療は早めの方がいいと思ったんだけどなあ」
 今度は、ガウリイが困った顔となっている。
「リナ、リナって」
 ゆさゆさと揺すられて、少し時間がたって。
 ようやく、リナは視点があってきた様である。
「あ……がう……? え………と」
 真っ赤になったリナは、あまりにも混乱して。それこそ、どうしたらいいのか判っていない様である。
「とりあえず、立った方がいいんじゃないかと思いますけど」
 そろそろと言ったつもりだったが、どうやら糸口を求めていたらしいリナの勢い
は。
 はっきり言って、獣並みだった……。
「何いってんのよ! そもそも、あんたがいきなり背後から気配殺して近寄って。耳元で声なんか聞かせるのが悪いんじゃないのよぉっ!!」
 その声は、きんきんと反響を起こしながら続いた。
          ◇
 一番下の階段まで降りたのは、学校に入ってからどれくらいたったのだろう?
 幸いにもと言うか、不幸にもと言うのか。誰も時計を持っていなかったので、それは判らない。
「あ、そこ左な」
 リナの機嫌は、はっきりと言おう。
 悪かった。
 またゼロスに何かされては困るということで、先に進むのはリナとなった。
 ちなみに、まだガウリイも怒りの範疇内と言うことらしい。
 ほとんど口を開こうとしない。
「ゼロス……なんとかしてくれよぉ」
 流石に、ガウリイが情けない声を出す。
「いやあ、あそこまで怒るとは思っていなかったんですけど……」
 ゼロスの顔も、目以外は困っている様に見えなくも無い。
「うわぁっ!!」
 ガウリイに言われたように、リナが先へ進むと。
 そこには、一面青い世界があった。
「ほう……」
「ここは海につながってるだろ? だから、天然の洞窟をくり貫いてガラスをはめ込んで囲いをして。実験とか観察とかに使ってるんだ」
 光が反射して、その部屋は青い光に満たされていた。
 上に下に、どこもかしこも硬質ガラスがはめ込まれており。さしずめ、そこは天然の水族館と言った感じだろうか?
「きれー……」
「見事なもんですねえ」
 ゼロスも、感嘆の声を上げている。
 足元にも真横にも、元気に泳いでいるイルカやオルカなどがいる。
 それらにも判るのだろう。
「人気者……なのね」
 ガウリイの方に近寄る海の動物達を見て、リナも思わず見とれた。
「いつも世話してるからなあ。こっちくるか?」
 はいる時は気づかなかったが、扉の脇には細い路地が続いており。その奥には小部屋の様なものでもあるのだろう。
 ガウリイに続いて、リナとゼロスも後に続いた。
 その先には、やはり天然の洞窟を削って作られたのだろう。さまざまな大小の水槽が並び、横にはなぜかはしごがある。
 ガウリイは、その水槽の一つに近づいた。
「くらげ……ですね。電気くらげですか?」
「よく判ったな」
 この部屋も、さまざまな角度から光が当てられているので。水槽が乱反射してい
る。
 そして、くらげの水槽にもあてられた光を透過させ。くらげが美しいシルエットを浮かび上がらせる。
「こいつが元気なくてさ、心配だったんだ」
 どこにあったのか、ファイルのようなものを取り出して水槽と見比べている。
 ガウリイの作業を見ている限りでは、リナの機嫌はよくなったらしい。
「奇麗なのね、くらげって……」
「どこかの国じゃ、くらげは『海の花』とか『海の母』って言うんだってさ」
「酢の物だけじゃないのねえ」
 二人の様子を、ゼロスは一歩離れた所から見ている。
 だけど、その様子は無理にそうしているようにも。見えなくも無い。
「こっち来てみろよ」
 どこかにファイルをしまって、ガウリイがリナとゼロスを呼び寄せる。
「いえ、僕は遠慮しておきます。具合の悪い方々の側で、何かあるといけませんか
ら」
 どういう理屈かは判らないが、ゼロスはそれ以上。リナ達に近寄ろうとはしないので、そのまま放置しておくことになる。
「遠慮しなくてもいいんだぜ?」
「いえ、お気遣い無く」
 とりあえず、ガウリイの勧めではしごの上に登るリナ。
 そこにはガラスはなく、波を称えている水がむき出しになっている。恐らく、そこから入れるようになっているのだろう。
 水辺にしゃがみこんで、リナはガウリイの説明を聞いていた。
 ふんふんと聞いてる様子からすると、どうやらすっかりさっきの事は忘れたらし
い。
「あ」
 瞬間、リナは何が起きたのか判らなかった。

 どぽん!

 勢いよく音を立てて、リナは自分が水の中に落ちたことを知った。
 人間が水の中に落ちたら、まずどうするか?
 まあ、普通は行動が制限される。
 次に人間が起こす行動。
 落ちる→驚く→暴れる→息が抜ける→そのうち息絶える。
 大体、こんなパターンだろう。
 ご多分にもれず、リナも突如として起きた事件に神経が乱れて。上も下も判らない状態となっている。
 手足をばたつかせても、何がどうなっているのか判らない。
 視界の中に、慌てた表情のゼロスと。金色の光が見えたような気がしたが、おそらく。それはガウリイの髪の毛だったのだろう。
 慌てたリナに抱き着くように、ガウリイの腕がリナの腹部に触れていた。
 水に落ちたことも、ガウリイが近づいてきたことも。ゼロスが焦った顔をしている事も、すべてに対してすべてに対してリナは混乱した。
 混乱すれば、自分が何をしているのかわからなくなるというのが普通である。
 そして、リナはなぜか判らないが暴れていた。
 そして、ガウリイはリナを押さえようとがんばっていたが。リナはますます暴れてもがき出す。
 そして、混乱の真っ只中だったリナとガウリイを救ったのは。リナとガウリイ本人でもなく、どういう訳か焦った顔をしていたゼロスでもなく。
 イルカだった。
          ◇
 リナとガウリイが水槽に落ちた後、結局は水槽にあがれなくなったのか。それと
も、イルカ自身が水槽に顔を出せるだけの広さが無かったからなのか。海の、学校の敷地から離れた岩場に連れて行かれた。
 全身がびしょ濡れではあったが、幸いなことに水とかは飲んでいないようだった。
 かなり重そうではあったが、ガウリイはリナを近くの岩場に引きずり上げていた。
 気は失っていなかったが、二人ともグロッキーのようである。
「なんだったのぉ?」
 季節は、幸いにも海に入ったとしても命に関わるような季節ではない。ただし、時間的にはそろそろ夕食の買い物に出かけなくてはならず。はっきり言って、かなり目立つだろうと思われる。
「大丈夫か、リナ?」
 リナもガウリイも、まだ多少は咳き込んでいる。だが、あれだけの大騒ぎになったと言う割には、二人とも元気だ。
「足を滑らせたりするからだぞ?」
「え〜……? だれが、すべらせたってゆうのよぉ」
 元気がないが、なんとか声だけでも出そうとしているのだろう。
 時折ごほごほ言いながら、リナは疲れきった体をなんとか起き上がらせる。
「……ガウリイ、それ。なに?」
 リナよりはかなり元気なのだろう。
 シャツを脱いだガウリイは岩場にかけて、本人は岩場に擦り寄ってきているイルカに。
 話し掛けたりしている。
「イルカ」
「んなの見ればわかるけど……?」
 リナは、疲れているのも忘れてイルカを見ていた。
 歩き出そうかと思った矢先。
「いやあ、大変でしたねえ。大丈夫でしたか? リナさん」
 つい今し方まではいなかった筈である。
 幾ら疲れきっているとは言っても、それくらいならリナにも判った。
 だけど、イルカが表情を変えたように見えた気がして。ガウリイが、なんとも言えない表情をしているように見えたのは、恐らく気のせいではないだろう。
「ゼロス……?」
 飛び込んだようには見えなかった。手には見慣れない紙袋を持っているし。
「これ、アリエノールさんから預かった着替えです。あちらの岩場の方で着替えて来てくださいね。ここで着替えてもらっても、僕は構いませんけど。
 この時期に、水泳はきついと思いますよ。あ、こちらはガウリイさんのものです」
 言って、ゼロスはリナに紙袋を二つとも渡した。
「なんで、ゼロスが自分で渡さないの?」
 いくらか、リナとガウリイの間には距離がある。
 ほんの4、5歩と言ったところと言えるのだが……。
「僕は魔族ですから。曲がりなりにも『神の使い』には近づきたくないんです。あちらさんも、僕の事は嫌ってらっしゃるみたいですしね」
 紙袋からタオルを取り出したリナは、頭を拭きながら言葉の意味を考えた。
「は?」
 考えても判らなければ、当然聞くしかない。
「ですから、イルカと言うのは『神の使い』と言われているんです。本当は白いイルカがそうらしいんですけどね。おかげで、昔からイルカさんとか海洋生物とは相性が悪くて……」
 リナは考えた。
 考えて、考えて、考えて。
 そして出た結論は。
「ああ、そう……」
 考えるのを止めよう、だった。
「あたし、着替えてくるから。これ、ガウリイのだそうだから。
 のぞいちゃ駄目よ」
 考えて判らないことを、無駄に考えるのも馬鹿らしい。それなら、考えない方がマシと言えるだろう。何しろ、どうせゼロスは教えてくれないのだから。
「ねえ、ここどこなのー?」
 岩場の向こう側から、リナが声を上げるのが聞こえる。
 ゼロスのすぐ近くでは、ガウリイが渡された服に着替えていた。
「そうだなあー、向こうに学校が見えるから……町の南側って所だと思うぞー!」
 ガウリイも、負けずに声を張り上げる。
「南側かあ……じゃあ、市場にでも寄っていこうかなあ」
 ちなみに、二人の間にゼロスは立っている。
 そんなに遠い距離ではないし、何より。意識しない限り、二人とも声は結構通りがいい。声量はこのさい、別として。
「しっかし、なんだったんだろう? あれ」
 だから、二人の呟きでさえも聞こえてしまうと言う位置にある。
「ゼロスは、どう思う?」
早々と出てきたリナは、そう聞いてきた。
 こうやって見る限り、あの洞窟の中で見たゼロスの慌てた姿は。欠片すら残っていない様に見える。まあ、実際にはどうだか判らないが。
「さあ? 僕は遠くから見てましたしね」
「遠くからの方が、よく見える事もあるんじゃない?」
「それもそうですね」
 軽く受け流されてしまったが、リナは大して反応を示さなかった。
「ガウリイ、そろそろ行くけど。いい?」
「ああ、いいぜ」
 イルカとの別れを済ませたガウリイは、なんとも言えない表情だったといえるのかも知れない。だが、それは言う気がないのだろう。
 そんな目をしている。
「どうでもいいが……なんとかならんか? これ」
 ガウリイの服は、基本的には前と同じである。しかし、多少サイズが小さ目と言うか。かなり小さいと言うか。
 おまけに、材質は皮だった。
「ぴっちぴちだもんね」
「仕方ないんですよ。ガウリイさんのサイズって、今はないそうなんです。
 それだって、ゼルガディスさんのやつを借りてきたわけですし」
 皮のジャンパーの前は、ジッパーがあがらない状態となっている。
 流石に、ジーンズの方はなんとかあうサイズがあったらしい。自分の足元を見ながら、それでも落ち着かない様子だ。
「しょうがないか」
 ため息と共に出された言葉に、なぜか笑みをこぼすリナとゼロス。
「じゃあ、買い物して行きましょ。ちょうど、バザールが始まる頃だもの」
 本当の事を言えば、リナは気づいていた。
 ゼロスは何かを言いたがっていたし、ガウリイも聞きたがっていた。そして、その内容も検討がついていた。
 なぜ水に落ちたのか。
 どうして、誰に落とされたのか。
 はっきりと悪意をもって、それは行われたのに。
 なぜ追求しないのか。それを確かめようとしないのか。
「もしかしたら、ガウリイが着られる服もあるかもねー」
 だけど、リナは聞こうとしない。確かめようとしない。
 どのような意図があるのだとしても、本人がそうする限り。ガウリイにもゼロスにも口を挟むことは出来ない。
「ガウリイさん、大きいですからね」
「そうかあ?」
 そんな事を話しながら歩いていれば、どうしたって市場には着く。
 この市場は町の生活に沿った露店が並んでいて、朝と夕方には売り出しをしてい
る。それが、バザールと呼ばれているのだ。
 そして、バザールと言う名にはもう一つ意味があり。
「兄ちゃん、いいクスリあるよ」
 一人のガラの悪そうな男が、ゼロスに声をかけてきた。
「遠慮しておきます」
 いつものスマイルで難なく切り抜けるが、つまり。人の多い時間帯には劇薬なども売られると言う時間帯でもある。
 最も危険度が高い時間帯でもあるが、歩きなれた町の者に時間帯も何も関係はな
い。
「えーと、じゃあ……あれとこれと……。
 ゼロス、あっちの二つ向こうの『緑の旗』の立っている方の小間物屋さんで。これを買ってきてね。向かいの何も旗の立っていない方の露店だと、10%高いのよ」
 言って、リナはゼロスにメモを渡す。
「僕……ですか?
 離れると困ると思いますけど」
「何言ってんのよ。こんな人込みの多い、面倒な所でわざわざ人手があるのに。固
まって動いたらいい商品がなくなっちゃうでしょ!?
 いいものを安く! これぞバザールで生き残る必勝法よ!」
 思わず、額に汗が流れるのを感じる。ゼロスとガウリイだったが。
 妙に燃えているリナを止められる存在が、この場にいただろうか?
「じゃ、ガウリイ。あたし達は食料品を買うわよ!」
「俺もどこか行くのか?」
「荷物持ち……おっちゃーん! この魚、今朝捕れたやつー?」
 そうして、リナと露店の人々との戦いは始まり。
 最後の買い物を終えた直後、それは起きた。
          ◇
「あれ?」
 メモを見ながら、リナはぶつぶつとうなっていた。だから、何が起きたのか気づくのが遅れた。
「危ないっ!」
「え?」
 山と積まれた荷物が、路上に散乱した。
 リナはガウリイにタックルされ、視界の中で甘く熟した。名も知らぬ果物が音を立てて踏み潰されるのが見えた。
「ちょっと、なに……」
 驚くべき事に。
 今の今まで、沢山の人でにぎわっていた市場。
 歩くのさえままならなかったその場所には、誰もいなかった。
 露店のおじさん、おばさん。影で暗い瞳を光らせている男達。そして、人の間を
縫って走り回り、遊びながら「仕事」をする子供たち。
 頭上から下界を見下ろし、人間が捨てる食べ物のおこぼれを狙う鳥。
 人から、鳥からすべてを見張る番犬。散歩する猫。
 およそ、動物と言う動物のすべてが。その場からいなくなっていた。

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2777刻の糸の語る詠・105/21-02:45
記事番号2776へのコメント
刻の糸の語る詠・10

 さっきまで、すごい人の数だった市場。
 だけど、生きて動いている人間は現在。リナとガウリイしかいない。
 他には誰もいない。その筈だ。
「な、なにこれ……?」
 わけの判らない感覚に、リナが震えるのを止められない。
「下手に動くなよ、リナ」
 リナよりは幾分マシな態度をしてるガウリイだが、ガウリイだって状況を把握していると言うわけではない。
「なるほど。どうやら『結界』に閉じ込められたようですね」
 さっき消えた方角の、露店の影から。
 見覚えのある、スーツ姿の男が一人。
「ゼロス! 大丈夫だったのか? あんた」
「僕は……この程度の奴等に遅れを取るわけには。行きませんから」
 手には、奇妙な形をした。上の方に宝石らしいものがはまった杖を持っている。
 それを構えて、気を張り詰めているようだった。
「まったくもって情けない。
 幾ら半端者とは言え、仮にも誇り高い魔族が。人間の道具を使うなんて……。
 あの方々が聞いてらしたら。お嘆きになりますよ」
 一体誰に向けられた言葉なのか、それは判らなかった。
 ただ、判ったのは彼等は『人間と手を組んだ』と言うだけだった。
「それは、ひどい言い草だなあ。裏切り者よ」
 声は、頭上から聞こえてきた。
 誰もいないはずの空間に、いる存在。
 そんなものが、普通の存在のわけがない。
「裏切り者とはひどいですねえ。
 まあ、何も知らない方々と。無駄な話はしたくないですけどね」
「ふざけたことを!」
 奴は、どこにでもいるような格好だった。
 着古した、TシャツにGパン。
 紗のかかった髪。だけど、目つきはかなり悪い。
 どこが、と聞かれると判らない。ただ、はっきりと判るのだ。
「なんで……?」
「知ってるのか? リナ」
 男と言うよりは、少年に近い彼を見て。リナが驚いていた。
「知ってるも何も……」
「炎よ!」
 リナが説明をしようとすると、男の声と共に炎が舞う!
「きゃぁぁっ!」
「うわぁっ!?」
 舞い上がる炎はうねりを上げ、驚愕のリナと。それをかばうガウリイに襲い掛かる!
「おやめなさい、あなたにリナさんへの手出しは許しませんよ」
 だが、炎はリナ達に届く前に霧散した。
「ゼ……ロス?」
 周囲には、鼻につくこげた匂いがする。
 露店の幾つかは、炎に巻き込まれたのだろう。炎上している。
 リナとガウリイの目の前に、ゼロスの背中がリナには見えた。
 だけど、その表情は笑っているのだろうと思えた。
 いつもと変わらない、顔。
「邪魔をするな」
 面白くなさそうな顔で、男は言う
「いいえ、それは出来ません。
 僕がしかられてしまいますからね」
 逆に、ゼロスは。それはそれは面白そうな声で、男に言う。
「裏切り者がっ!!」
 振り下ろした手から、光熱な光が轟く。
 だが、それさえも一瞬の間に消える。
 恐らく、理屈はさておきゼロスが消したと言う事なのだろう。
「冗談じゃありませんよ。誰が裏切り者なんです?」
 片足を一歩引いて、ゼロスが構えた。
「あなた達こそ、不完全な記憶しかないくせに。よく言いますよね」
 ゼロスと男の会話には、どこか食い違うところがある。
 だけど、それを突っ込んで聞ける状況でないのは。確かだった。
「済みませんが、ガウリイさん」
「へ? 俺?」
 突然声をかけられて、ガウリイが戸惑いの声を上げる。
「リナさんと隠れていていていただけますか? この方は僕が引き受けますので。
 それに、この場から逃げることも出来ませんしね」
『そうは行かぬ。我等が悲願を成就させる為。
 世界を手中に収める為、殺す……』
 声は、人の声ではなかった。
 どこから聞こえてくるのかと言う疑問もあったが、それ以上に何が起きているのか判らない疑問の方が強い。
「ガウリイさん、早く」
「あ、ああ……」
 釈然としない顔で、ガウリイがリナを立たせる。
 リナも、ガウリイにされるがままとなっている。
「逃がすかっ!!」
 言って、男が払った手から赤い光が現れようとしたが。それも形となる前に消失する。
「リナさんへの手出しは。許さないと言ったはずです」
『これと遊んでおれ!』
 別の声が聞こえると同時に、ガウリイとリナの目の前に落ちる。小さなつぶての様なものがあった。

 ぽん!

 それは、可愛らしい音を立てていくつも落ちる。
 当然、行く手を遮られれば止まらなくてはならない。
「何これぇっ!?」
 つぶては、うにょうにょと動き出すと変形を始め。
「何なんだよ、これはぁっ!?」
 まるでゴムを伸ばした様な動きの後。それは、クモの足にねずみの顔。更にはカブトムシの様な胴を持った。どう見ても見た事の無い生き物になった。
「あたしが知るわけ無いじゃないのよぉっ!!」
 混乱しているのか、自然とリナの声が張り上げるものとなる。
「何とかしてよ、ゼロス!!」
 あまりのショックで、リナがゼロスの方を見る。
 しかし、ゼロスはのほほんとした声で空中戦を繰り広げていた!
「いやあ。僕もそうそう手が離せない状況ですので、出来る限りご自分でなんとかなさってください」
「ちょっと待てぇっ!!」
 ガウリイが懐から、何か短めの金属の棒を取り出す。
 それはアリエノールとであったときにも持っていたものだったが。そんな疑問よりは、目の前で起きている危険らしい事実の方が大事だった。
 そう。目の前で、ゼロスが飛んでいても。
 正確には、瞬間移動で空中を飛び回っていても。だが。
「あんた、何のためにここにいるのよぉっ!!」
「吠えるなって。俺がいるだろ?」
 正眼の構えを取ったガウリイを、リナが不審そうな目で見た。
 確かに、瞬間移動が出来るような奴と見比べては。どうしたってガウリイの方が見劣りするかも知れないが。
 何しろ、相手は町のゴロツキやチンピラではなく。訳の分からないものなのだ。
「そんなこと言ってもぉっ!!」

 ぶん。

 ガウリイが棒を振ると、それは伸縮自在だった事が判る。
「俺達は、俺達に出来ることをやればいい。そうだろ?」
 そう言った、ガウリイの手に握られた金属棒は。淡い燐光を発してる。
 何かの気配を感じたのか、クモの足がガウリイへと飛び掛かる!
「はぁっ!」
 ぶぅん!
 ガウリイの振った棒にかすったはずのクモは、かすっただけだと言うのに。その足が塵へと変化させて行く。
「な、なんなのよ。それはぁっ!!」
「これか? なんだか、アリエノールが護身用にってくれた」
 恐らく、それはリナが眠っている時に行われたのだろう。覚えている限り、リナには記憶がなかった。
 けれど、これでガウリイ達には勝てる見込みが出来たことが判明した。
 もしかしたら、これを知っていたからゼロスはあんな事を言ったのかもしれないとも思ったが。
「ガウリイ、あっち!」
「おうよ!」

 ざしゅ。

 ばしゅ。

 どしゃ。

 血が飛び散ったりしないことが、唯一救いと言えば救いだったが。
 それでも、最初からクモの足をしたやつのビジュアルが悪いためか。リナは、顔を背けている。
「大丈夫か? すぐ終わるからな」
 ガウリイに捕まっているので、本当ならかなり動きにくいはずだが。それを気にもしないガウリイは、次々と襲ってくる雑魚を相手に切りかかっている。
 当然、リナにはまったく触れる事無く。クモの足をした奴等は消されて行く。
「危ない!」
 だけど、ガウリイは一人である。
 どんなにがんばっても、どれだけ腕がたっても。
 そして、リナを庇いながらであれば。どうしたってスキは出る。
「きゃ……」
 もう駄目だとリナが思った瞬間。
「フレア・アロー!」
「行けーっ!」
 二個所から、二種類の光がとんだ。
 今にもガウリイに届くかと思われたクモが、一瞬にして塵へと帰る。
「ちっ……」
「やっと来ましたね」
 リナがそろそろと目を開けると、そこには。
「楽しそうだな」
 ため息をつきながら、ゼルガディスが静かに言った。
 どうやら、何か気になることでもあるらしい。
「まったく……これだから、信用できないんです」

 かしゃん。

 銃から弾丸らしいものを取り出して、腰のものと入れ替えるアリエノール。
 その表情も、かなり疲れている様に見える。
「なんだってこんな、面倒なことをする?」
「こっちの身にもなって欲しいものです!
 大丈夫でしたか? リナさん、ガウリイさん」
 二人とも、かなり疲れた顔をしている。
 ゼルガディスは、すでにキメラとなっている。
 アリエノールは、いつもの格好ではあるが。腰に差した弾丸の数が増えている様に見えるのは、気のせいだろうか?
「よお!」
「二人とも……って、いつまでそのカッコでいるのよ!」」

 どす。

 リナのエルボーが、ガウリイの鳩尾に入った。
「うごぉぉぉぉっ!」
 わざわざ助けたと言うのに、この調子では割に合わないガウリイである。
「遊んでるな、来るぞ!」
 言って、ゼルガディスは懐から何本かの細長い短剣の様なものを出して構える。
「リナさん達は、この私。アリエノール=セイルーンが守ってみせます!」
 腰に銃を仕舞い、アリエノールが両手をボクシング・ファイトの構えをする。
「ヴィスファランク!」
 更にまかれたらしいつぶてが変形を果たし、再びクモの足をした奴等が襲い掛かる!
 それを、すさまじい勢いで。しかも正確にアリエノールが『拳』で打ち抜く。
 打たれたクモの足は、ガウリイに斬られた様に塵へとかえって行く。
「アストラル・ヴァイン!」
 ゼルガディスが叫ぶと同時に、投げられる短剣。同時に走り出すゼルガディス。
 短剣が当たると、同じようにクモの足は。やはり塵にかえって行く。
 そして、塵の山からゼルガディスは短剣を引き抜き。再び、別の相手に短剣を投げつける。
 ガウリイも、さっきより善戦をしている。
 リナだけ、何も出来ずに隠れていなくてはならない。
「やはり、僕が出るまでもありませんでしたね」
 楽しそうな声で、ゼロスが言う。
「冗談じゃない。俺達は町中を走らされたんだぞ!」
 その声が聞こえたのか、すかさず反応するゼルガディス。
ちなみに、すでにクモの足はほとんどが消え失せている。これ以上、増殖はしないようだ。
「そうです! おまけに『結界』を破るの、大変だったんですからね!」
 背後からクモの足が近寄ってきたが、それを振り返りもせずにアリエノールが裏拳で打ち抜く……。
 どうやら、二人は町中を走らされたようである。
 なぜかは別として、それで疲れきった顔をしているのだろう。
「やかましぃっ!!」
 突然。
 否、それは突然ではなかったのかも知れない。
 ガウリイとリナの前にアリエノールが現れ、銃を撃ち。
 ゼルガディスが更に懐から出した、今度はスライド式の棒を振り下ろすことで伸ばし。それを突き立てる。
 リナの視界の隅で、黒い光が瞬き。それから逃げるようにゼロスの姿が掻き消えるのが見えた。
「いちいち、いちいち……。
 俺はリナを殺して、ガウリイを殺せればそれでいいんだ。邪魔するなぁっ!!」
 ゼロスと戦っていたはずの男が、怒りに燃えて。額に青筋を浮かび上がらせてい
る。
「なんで俺達の名前を知ってるんだ?」
「ガウリイの事はともかくとして、あれはマークよ!」
 当然と言うか思わずと言うか、自然と視線がリナに集中する。
「知ってるのか?」
「マークは、あたしと同じ。下町にいたんだけど、あたしより10年早く『王立学
校』にあがったのよ。あの頃はちやほやされてたけど……。
 そう言えば、あんたマクロノイド先生につくんじゃなかったっけ?」
 リナの言葉に、マークと呼ばれた男が反応した。
「ふ……そうだよ。俺はマクロノイド先生につける、一番の地位にいたんだよ。
 お前が来るまではな、リナ……」
 つまり、その言葉はつけなかった事を意味している。
「逆恨みで魔族と手を組むなんて、そんなの正義じゃありません!」
「当たり前だ。魔族が正義かっ!?」
 ゼルガディスの鋭いツッコミに。だけど、額に汗を流しながらアリエノールは聞かないフリをした。
「人の十年にも及ぶ努力を、このガキはたった三ヶ月で踏みにじったんだぞ!
 誰が許せる!?」
「……それって、リナのせいなのか?」
 思わず、ガウリイが頬をかきながら呟く。
「でも、ガウリイの事も狙ってるのよね。それはなんでなのよ!」
 噛み付くように言ったリナの台詞に、マークの眼光が鋭くなった。
「そうだ! なんで俺の事を知ってる!?」
「お前……俺の事を忘れたのか?
 俺は、お前と同じ研究をしていたんだよ。お前は別の奴と共同研究だったが、俺はお前達と三日後になって同じ結果を出したんだよ。だから、俺の研究は教授達の目に止まらず。結局、俺はマクロノイド先生につけなかったんだよ!」
 怒りの波動なのだろう。
 空気と大地が振動して、立っていられない。
 思わず座り込んでしまう一同だったが、心中は誰もが同じだった。

 そんな理由で、はた迷惑な!

 当然の心理と言えるだろう。
「皆殺す、殺してやるんだーっ!!」
「そこまでにしてくださいね」
 マークの意識は、リナ達に向いていた。つまり、正面だ。
 そして、マークの意識そのものは非常に単純だったようである。はっきり言って、逆恨みでここまで出来るのだから。確かにそうだろう。

 とす。

 がくん。

 どさ。

「困ったものですねえ、最近の若い方は」
 振動が止まって、リナ達が見てる前で。
 マークの肉体が空中から自由落下で降りてくる。
「危ないっ!!」
 アリエノールが走る。それを見て、わずかに送れたゼルガディスが走る。
「アリエノール、ゼルガディスっ!!」
 リナの声が届いたかどうかは判らない。だが、アリエノールは意識を失ったらしいマークに飛び込み。助けようとしいるらしかった。
 それを見たゼルガディスは、ほとんど無意識だったのだろう。アリエノールを助けようと体が動いてしまった様である。
 二人は重なるように飛び込み。結局、ゼルガディスに弾き飛ばされる形で。アリエノールが近くの露店に落ちたわけだが、幸いにも穀類の店だったので怪我はないようである。
「馬鹿が! こんな奴は放っておけばいいんだ!」
 ゼルガディスの言葉に、アリエノールは笑った。
 とてもではないが、王族の姫君には見えない。可愛らしい笑顔だとリナは思った。
「危ないじゃないのよ、ゼロス!」
 ほっと安心したリナは、未だに宙に浮いたままのゼロスに怒鳴りつけた。
「いやあ、皆さんがマークさんを引き付けておいてくれたので。僕としても楽をさせていただきました。
 ありがとうございます」
 にこやかに言うゼロスに、リナは思いっきり嫌そうな視線を向ける。
「あ、そうだ。怪我とかないか? リナ」
「あたしは大丈夫だけど……」
 リナの表情は、かなり複雑そうだった。
 それはそうだろう。己のせいで誰かが不幸に合うと言うのは、それが自業自得とは言え。決して面白いものではない。
「それにしても、迷惑な人ですね。このマークさんて!」
 憤慨したようなアリエノールは、気絶をしたままのマークを転がすゼルガディスの側に近寄る。
 その姿は、かなり汚れていた。
 白い法衣はすす汚れ、裾の辺りは擦り切れている。顔にも髪にも、多少は疲労の後が見受けられる。
「まあな、でも。きっと、こいつもこいつなりに頑張ったんだろうな……」
 ガウリイも、警戒を解いておきあがる。そのまま、リナの手を取ってマークに近寄ろうとするが。
「ガウリイ?」
 リナが、ガウリイの異変に気がついた。
 ゼルガディスが、ゼロスがリナの様子に近づき。
「下がれ、アリエノール!」
 ゼルガディスの声と共に、アリエノールが再び吹き飛ばされ。ゼルガディスも、ガウリイもリナも吹き飛ばされた!
 警戒を解いていただけに、それはかなりの結果を生み出した。
「はぁっ!!」
「っく……」
 どこかの壁にめり込むまで吹き飛ばされたゼロスの口から、呟く声がもれた。
「困りましたね……スーツが汚れてしまいました」
 唇の端から、赤い血が流れていた。
『愚か者達め……』
 うつろになる意識の中で、リナは痛みを覚えた。
 無意識にだろうか? ガウリイの下敷きになった関係で、かなり四肢が悲鳴を上げている。
「リナ……?」
「大丈夫よ……。あいつ、まだ」
 リナの視界の隅で、ゼルガディスとアリエノールらしい塊が。ぴくりと動くこと無く横たわっている。
『お前達が倒したと思ったのは、この肉体のみ……。
 我には何のダメージもないわ』
 声は、マークのものではなかった。
『お前を倒し、我等の栄華を!』

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2778刻の糸の語る詠・115/21-11:43
記事番号2777へのコメント
刻の糸の語る詠・11

 何が起こったのか、正直なところを言ってしまえば。リナにもガウリイにも判らなかっただろう。何しろ、それまでの常識を無視された現象が多すぎた。
 だから、自意識に目隠しをして考えなかった。
 だけど、目の前で起きている事は現実だから。
「あいつは一体……」
 何しろ、マークは首をくたりと傾け。しかも、青ざめたまま口を半開きにして。
 白目をむいていたのだから。
「どうやら、人間の肉体を乗っ取ったようですね」
 少し疲れたと言った感じのゼロスが、ガウリイの前に転移する。
「人間を、乗っ取った……?」
「自らの存在だけでは、己の姿を保つことは出来ないのです。
 人間の肉体に潜り込めば、ある程度の規制はあっても。ある程度以上の解放は望めますからね。苦肉の策と言ったところでしょう。
 まあ、『半端』な方の考えそうなことです」
「寄生虫みたいなものか?」
 ガウリイの台詞に、ゼロスが笑った。
「……せっかく頂いたスーツを、汚してくれたお礼はしませんとね」
「来るぞ!?」
 衝撃にリナは身構えた。だけど、その衝撃は起きなかった。
『黙れ、裏切り者!』
 衝撃は来なかった。だが、空気は震えている。
 恐らく、ゼロスが消したのだろう。
「いいかげんになさい。人間を、世界と共に還る。それが我等の究極の望みのはず。
 その人間の肉体に寄生するなど、魔族の恥です」
『あの方を裏切った貴様の言う事など、誰が信じる!?』
「エルメキア・ランス!」
 完全な死角だったはずだが。
 ゼルガディスの放った緑色の光を、マークは。もしくは、マークの体を使っている存在は、あっさりとかわした。
 この距離でも、ゼルガディスが不機嫌に舌打ちをしたのが。
 リナには見えた。
『下がりおれ、この下衆がぁっ!!』
 言うと同時に、マークの手から衝撃はの様なものが発生する。
 なんとか避けたようだが、ゼルガディスの肩のあたりがパックリと裂けた。
 しかし、怪我はないようだ。
「その下衆の体も借りなくては、何も出来ない『半端』な方々に。
 言われたくはないですね」
『黙れぇ!』
 縦横に走る白い軌跡に、リナは体を低くした。
 だが、ゼロスが何かをしているのと。それでもかいくぐってくる白い軌跡をガウリイが切り落としている。
 勿論、それは無茶苦茶に放たれているのだからゼルガディスやアリエノールにも影響があるはずだが。何時の間に走ったのか、ゼルガディスがアリエノールの側で軌跡を切り落としている。
「この世界に残っている、純粋なる魔族は僕だけです。
 ですから、あなたが勘違いをしてしまう理由も。まあ、判らなくはありません」
 平然とした顔で、ゼロスが避けるでもなく話を進める。
 それが腹立たしいのか、マークは更に軌跡を生むわけだが。やはり、ゼロスには
まったく効力を示さない。
「真実を知ることを、許されない立場にある。まあ、それもご同情してもいいでしょう。寛容であるならば、ですけど」
 ゼロスが、息をついた。
「ですが」
 リナとガウリイは、ゼロスの背中を見ている。
 位置的にはだから、ゼロスの顔など見えるはずがない。
 それなのに、ゼロスは笑っているのだろうと。簡単に想像することが出来た。
「本来の目的も、『あの方』のご意志も忘れ。
 こうして何度も愚考を繰り返すあなた方を、放っておかれるほど。『リナさん』とて甘くはありません」
 ゼロスが言ったのは、今。ここにいるリナではなかった。
 恐らく、リナにそっくりだと言う『リナ』だ。そして、その『リナ』の為にリナは命を狙われている。
普段ならいざ知らず。リナは、不思議と怒りが込み上げなかった。
 一体いつから。どこにいるのかも判らない、自分と同じ姿をした少女。
 魔族だと言うゼロスが、リナの為に動いていると言う事実。
「あなたは、一体何を。どこまでご存知なのでしょうね?」
 攻防は続いている。
 だが、リナはどこか他人事の様な気持ちで。それを聞いていた。
「ふざけるな!!」
 それは、何か意味があったのかも知れない。ないのかも知れない。
 何か、意図することがったのかも知れない。ないのかも知れない。
 だけど、本当のものがあった。本物が、そこにはあった。
「何言ってんのか、俺には正直わからん。
 だけど、誰かの為にリナを犠牲にしようとしてるのだけは判る。
 誰かの為に、勝手に殺されて良い命なんて。俺は認めない!」
 本物は、感情。
 本当は、気持ち。
 そこから感じるのは、怒り。
 不条理に対する、想い。
 反発する。
「ガウリイ……」
 どうしてガウリイが、そこまで反発するのか。
 普通に考えれば、確かにそれは正しいのかも知れない。
「やだなあ、ガウリイさん」
 緊張した空気を一気に崩したのは、のほほんとした声を出したゼロスだった。
「何の為に僕が来たと思ってるんですか?」
 のほほんとした声を出したまま、ゼロスが先を続ける。
「僕はリナさんを守るために、ここまで来たんです。上司の命令でね。
 もっとも、アリエノールさんやゼルガディスさんは別の事情からですけどね」
 言い方が悪ければ、リナの身の安全は二の次と言う見方もあるわけだが。これまでの事から判断するあたり、それもまた。仕方ないのだろうとリナは思った。
 一人で生きてきたと言うのは、そういう事なのだ。
「私を、極悪人のゼロスと一緒にしないでください!」
 復活したらしいアリエノールが、肩で息をしているものの。なんとか立ち上がっ
た。
 ただし、右肩を押さえていると言うことは。それなりの傷でも負っているのだろ
う。顔つきは、苦痛に耐えている。
 それでも戦う気力は失っていない様で、右手には銃を持っている。
「まったくだ」
 ゼルガディスの方がまだしも軽傷で、右手には赤い光をまとっている長棒を握り。
左手には、同じように赤い光を刀身にまとわせた。数本の短剣を構えている。
『生きていたか……』
 大して気にしたそぶりも見せず、マークは呟く。
 もしかしたら、それ以前に目に入っていないと言う事なのかも知れないが。
「私をなめてもらっては困ります。
 伊達に、『セイルーンの巫女姫』をやってはいません!」
『殺す……
 栄華を、我等の栄光を……
 あの方の御為に……』
 せっかく「びしっ!」と指差したものの。
 どうやら相手は人の話を聞いていないようである。
「あ、あう……」
 思わず、突きつけた指が曲がる。
「馬鹿なことをやるんじゃない。行くぞ!」
 明らかにアリエノールの方が年上のはずだが、ゼルガディスのツッコミに涙を流す姿は。はっきり言って、可愛いものだった。
 しかし、この場において。そんな事は関係ない。
「とにかく、話が中断してしまいましたが。
 あなたは一体、何をどこまでご存知なのですか?」
 話を元に戻して、ゼロスが切り出した。
 ところが、マークは話を聞いていないかのように『殺す』と『栄華を』とだけ繰り返している。
「プラム・ブレイザー!」
 魔力の光を発してから、ゼルガディスが短剣を投げつけ。そして走り出す。
「ヴィスファランク!」
 真正面から走り出し、魔力を込めた拳を奮い上げ。アリエノールがマークに仕掛ける。
 だが、どういうわけか魔力の光も短剣も。マークまでは届かない。
「ほう……」
 唯一、アリエノールの拳だけがマークにヒットしたのを見て。ゼロスが感嘆の声を漏らす。
「っくそ……数が」
 マークの意識はすでになく、どうやらマークに寄生してるらしい意識すら。同じ言葉をぶつぶつと繰り返しているだけのようである。だが、手から放たれる白い軌跡は数を減らすどころか数を増し。だけど、それらはすべてリナに向かって放たれている。
「どうやら、彼等も外れの様ですねえ」
 やれやれと言ったようなゼロスの態度を見て、リナが聞いた。
「あんた、何かを聞き出したかったの?」
 ちなみに、リナはガウリイの下敷きになった以外の怪我は一切負っていない。
「まあ、出来れば……ですけどね。
 こう半端な方々が多いと、被害者が増えて。僕の仕事も増えてしまうんですよ。
 まあ、命令ではありませんけれど。アフター・サービスと言ったところで」
「何を、聞きたかったの?」
「彼等の生まれたところですよ、リナさん」
 今更と言えば今更だが、ゼロスのおかしな物言いを。
 考えるのをリナは止めた……。
「彼等のって……あんなのが、まだいるわけ?」
「ええ、いますよ。そして、彼等を滅すること。もう一つが、僕にかせられた命令です」
 やつとゼロスは、どちらかと言えば同じ種類の存在である事は間違いない様であ
る。ただ、ゼロスの方がどうしたって上級に見えるのは間違いない。
 何しろ、ゼロスは言いきったのだ。
「ですから、僕は彼等が生まれる場所をつぶしておきたかったんですけど……。
 まあ、世の中うまく行かないと言う事なんでしょうね」
「どうでもいいから、なんとかしてよーっ!!」
「他力本願ですね……」
 思わず、ゼロスの口から。考えてもいない台詞が。
 それこそ「ぽろっ」と零れた。
「自分で出来るなら何でもやるわよ! でも、あたしには出来ないんだから仕方ないじゃない。あたしに出来ないことを他人に頼って、何が悪いってのよ!!」
 瞬間的に、怒りに燃えたリナが。
 切れた。
『消えろぉっ!!』
 けれど、切れたのはリナだけではなかった。
 リナの怒りに呼応する様に、マークの怒りも増長され。
「これは……」
 ゼロスの顔から、余裕の笑みが消えた。
「なんだぁっ!?」

 きん。

 かん。

 っきん。

 金属的な鋭い音を立てて、軌跡の威力が増した事を知らせる。
 威力が増しただけではなく。ガウリイが消したのではなく、かわした軌跡は威力を衰えさせる事もなく、ゼルガディスやアリエノールにも襲い掛かる!
「きゃぁぁ!!」
 素手では弾き飛ばしきれなかったのだろう。威力に負けて、アリエノールが再び吹き飛ばされる。
 ゼルガディスも善戦している方だとは思うが、それでも。どんどんマークから距離を開かされる。
「なんなのよ、一体!!」
「どうやら……切れちゃったみたいですね」
「っは!」
「ガウリイっ!?」
 棒が折れて、ガウリイがはじかれる。
 意識は失ったようだが、怪我はないらしい。
 これで、まともに残ったのはリナとゼロスだけとなってしまった。
「あなたの実力で、僕に勝てると思ってるんですかっ?」
 マークに隙はない。だが、それは単に意識が暴走しているからに過ぎない。
 それは、逆に言えば隙だらけと言うわけでもあるのだが。別の見方をすれば、破
壊マシーンとなっているとも言える。
 だから、ゼロスは上空に移動した。このままリナを庇っているだけでは、話が進まないと思ったからである。
「ちょっとゼロス!?」
『消す……
 消えろ……
 皆……死ね!』
 ゼロスの思惑は当たったようだし、実際問題としてリナへの攻撃は防御され続けているようである。しかし、リナにとっては不安が増すのは仕方がない。
「ちょ……」
 瞬間。
 リナは、自分がおかしくなったのか。死んでしまったのか、それともすべてが夢なのではないかと思った。
 光で視界が埋め尽くされ、爆音も燃える臭いも。
 何も感じなかったからである。
          ◇
 リナが目覚めた時、窓辺にはガウリイが座っていた。
 眠るときと同じ、椅子に座って本を読んでいた。
 何の本かは判らない。ただ、それは一枚の風景画か何かのようだった。
「起きたのか?」
 リナは、ずいぶんときょとんとした顔をしていのかも知れない。
「どうかしたのか?」
 ぶんぶんぶんと、リナが首を横に振った。
「なんでもない。なんでも……ないよ。
 ただ、目が覚めた時。誰かがいるのって……。
 初めてかなって」
          ◇
 全身が痛みを訴えた。
 ずいぶんと熱を持ってる。
 どこかで、誰かが何かを言ったような気がしたが。それがなんて言葉だったのか
は、記憶していない。
 額にずきずきと痛みを感じ、リナはゆっくりと体を起こした。
「った……」
 額を押さえながら、リナは顔を上げる。
 視界が赤く染まっているのは、額がぱっくりと割れて。そこから血がだらだらと流れているからなのだろう。
「夢じゃ……ない」
 壊れたり、燃えたりした露店。
 ぐちゃぐちゃの道路。
 建物の幾つかはえぐれているし、整然と陳列されていた商品は原形をとどめていない。
「夢なら……楽だったんですけどね」
 ゼロスのスーツは、アリエノールやゼルガディスに比べればマシだったとは言え。かなり薄汚れ。擦り切れ。そして、表情も余裕が消えていた。
『コロ……ス』
「どうやら、すでに残留意識だけで動いているようですね……。
 意識と引き換えに力を得ているようです」
 リナに見えるのは、四肢ががくがくになっているマーク。
 倒れたまま動かないアリエノールと、なんとか意識はあるのだろう。起きようとしているゼルガディス。
「僕としたことが、してやられちゃいましたね」
 力無く笑うゼロスの姿が見えた。
 リナの視界に、ガウリイだけがいない。
「ガウリイ……?」
 首を曲げる。
 左手の下に、ガウリイがいる。
 意識は無く。血だらけとなっている。
「悔しい……!」
 リナは、怒っていた。
 マークが自分を狙っていることも、その為に恐らく。ゼロスの言う『半端』な奴に利用されたのだろう事も。
 自分が狙われている事も、アリエノールやゼルガディスが倒れている事も。
 ガウリイが、血を流している事も。
 何より、自分自身に力が無いことを。
「あんた、ひどい……」
 立つために、リナは右手を地面に突き立てた。
 妙な硬い感触を覚えたけど、意識はしなかった。
「あんたなんて、要らない……」
 それが何かなんて、リナは考えなかった。
 だから手にとって、カチャリと言う音がしても。
 それを構えたのも、無意識な事だった。
 使い方は記憶している。でも、使えるとは思わなかった。
「あんたなんて」
 そんな事なんて、あるわけないと思った。
「きらい」

 かちん。

 引き金を引いた音だけが、空虚に耳に届いた。
 そして。
 壊滅状態の市場も、穴だらけの建物も。
 倒れたゼルガディス。アリエノール。ゼロス。ガウリイ。リナも。
 マークも。
 光に包まれた。

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2799刻の糸の語る詠・R.05/22-19:55
記事番号2778へのコメント
刻の糸の語る詠・R.0

 厚い氷に覆われた、時の止まった空間。
 否、止まったのではない。ただ、非常にゆるやかに流れているだけの話であり。
 その場にあるものは、何もない。
 外界から閉ざされている為に、進入者すらない。
 入り込める「人間」は、有り得ない。
 その空間に、一個所だけ奇妙に窪んだところがある。
 まるで、何かが置いてあったかの様に。

「ただいま戻りました、リナさん」

 声と同時に、虚空より現れる。
 影が一つ。
 だが、その影は常とは違っていた。
 普段は、最初は立っていた。でも、今回は最初から跪いている。
 いつもは黒い緩やかな神官服に身を包み、奇麗に整えられた髪をし。
 一糸乱れぬ姿で、軽やかにして優雅な立ち振る舞いをする彼。
 なのに、今はぼろぼろとなったスーツを身に纏い、髪も乱れ。薄汚れている。
 名を、ゼロスと呼ばれている。
 虚空から瞬時に現れる事の出来る、紛れもなく人間ではない存在。
 彼は自らをこう呼ぶ。
 『魔族』と。

「ええ、まあ……。
 しかし、流石は『リナさんの欠片』です。懐かしいものを見ました」

 ゼロスが苦笑した。今回の「顛末」について、何か言われたのだろう。
 しかられているわけではなさそうだが、かと言って優しい言葉でもないらしい。

「あまりいじめないで下さい。少なくとも、言われた事はこなしましたから……。
 ええ。町も、ガウリイさんの……あの『リナさん』の側にいた『ガウリイさん』と言う方の家をのぞけば、『何も起こらなかった』事に細工をしておきました」

 破壊された市場。燃えた露店。散乱した市場の品物の数々。
 それらは、すべてマークの結界の内側での出来事。だから、レベルはどうあれ現実世界に影響を及ぼす事はない。半端とは言え、仮にも魔族であるからこそ出来る技術だった。

「ゼルガディスさん達ですか?
 ……ええ、まあ。一応、安全な所にはお連れしておきましたよ。
 リナさん達も、リナさんのお部屋に」

 誰も死ななかった。出来れば『何も起こらなかった』事とするため、ゼロスはゼルガディスとアリエノールは海の岩場に。リナとガウリイはリナの部屋に運んでおいた。
 だが、あの『リナ』と『ガウリイ』二人の事だ。いずれは真実にたどり着いてしまうだろうが。かと言ってそれ以上の事をしようとは思わなかった。
 それに、あの二人に現実以上の事に目をむけていられる暇が。これから出来るかどうかと言う問題もある。
 そうなったとしても、それはそれで見てみたいものだが。
 胸中で、ゼロスは一人ごちる。

「……マークさんと、おっしゃっていました。どうやら、彼らも手を変えてきたようです」

 マークだけは、ゼロスもどうなったのか判らない。
 結界が解除された後、マークの姿だけは掻き消えていたから。確かめる術はない。

「アリエノールさんは……そうですね」

 声が、ほんの少しトーンがおちた。
 アリエノールは、法を無視した。
 絶対命令である『ゼルガディス』と『ゼロス』の二人を。倒すどころか手を組んだのだ。勿論、ただでは済まないだろう。
 なぜなら、ガウリイの家を襲ったのも。本当はアリエノールを狙っていたのだか
ら。
 けれど、ゼロスが声を落としたのは自分自身の為ではない。その報告を聞いたリナの事を思ってだ。
 予想通り、リナからは「悲しい」意志が流れ込んでくる。

「ゼルガディスさんも、お元気でしたよ……」

 意図したわけではないが、ゼルガディスの事を聞いたリナは。少しは気持ちが浮上したらしい。

「そうです。僕も人手は多いほうがよかったので……」

 ゼロスが、笑った。

「リナさんの居場所のヒントをお教えする代わりに、手伝っていただきたいと言ったら。喜んだかどうかは別として、飛びついていらっしゃいましたよ」

 ヒントと言っても、それは正確かどうかは判らない。
 何しろ「人間では行けないところ」としか教えなかったのだ。確かに間違いではないが、だからと言って特定できるかと問われれば。
 無理な話だろう。

「いえいえ。なかなか楽しんでいただけたと思いますよ」

 ゼルガディスの話題で、ひとしきり笑顔が出たので。
 ゼロスもほっとした。

「彼等の攻撃は、最近増してきたようです。
 ……いいえ、特定の方は。調査の方も、進んではおりません。
 もうしわけありません」

 しばらく、ゼロスは「調査報告」をしていた。

「それは、あの『リナさん』達の事ですか?」

 どうやら、今回の話に戻った様である。

「それはもう『そっくり』でした。名前まで同じでしたので、流石に僕も驚きましたよ。
 おまけに『ガウリイさん』までいらっしゃいました」

 どういうわけなのか、ゼロスは今回一度も顔を上げてはいない。
 それは、別に顔に受けたダメージが回復していないからだと言うわけではない。

「……え?」

 珍しい事だが、ゼロスが驚きの声を上げた。

「それでは……」

 あまつさえ、立とうとして苦痛に顔を歪める。

「そうですか……。
 もうじきですか。間に合えば良いですが……。
 判りました。僕の方も『計画』を進めておきましょう」

 そう言って、ゼロスは今度は立ち上がる。

「これですか? ええ、似合いますか?」

 両手を広げたものの、ゼロスのスーツはぼろぼろとなっているので。かなり判断するには迷うだろう。

「そうなんです。僕ともあろうものが、半端程度に手傷を負ってしまいまして……。
 お恥ずかしい限りです。
 せっかく頂いたスーツが、こんなになりましたし……。なんとお詫びしたらよろしいでしょうかね?」

 一言、二言。ゼロスは、耳に届かぬ声に意識を傾けた。

「判りました。おおせのままに……」

 軽く頭を下げると、ゼロスは何かの衝撃を受けた表情となった。

「やだなあ、手厳しいじゃないですか」

 でも、顔は笑っていた。
 いつもと同じ、笑顔だった。

「それではリナさん、ガウリイさん。
 いずれ、時が満ちる頃。お待ちしておりますよ、ごきげんよう」

 ゼロスの姿が消えた。
 そして、空間から時間が途絶えた。
 けれど、刻が失せたわけではない。
 それは、いずれ必ず動き出す。
 『存在』がある限り。
 氷の中の、二人にも……。

終わり

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2813あとがき5/23-20:21
記事番号2799へのコメント
こんばんわ。
長い間おつきあいをいただき、ありがとうございました。
全部読んでくださった方がいらっしゃれば幸いです(^^)
これだけで充分長いのに、実はまだまだ長い物語だったりします。
ちなみに、どこかに出すかどうかも判りません。

それではまた、いずれお会いしましょう。

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2768Re:刻の糸の語る詠・3Shinri 5/20-08:20
記事番号2755へのコメント
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ひたすら沈黙)
あ・・・・申し訳ありませんでした。のっけから放心状態、お見せしまして(汗)
”とりあえず”こんにちは、Mさま。
いやその。
レス置きに来て、ここのツリー見たら、ちょっとのけぞってしまいまして(冷汗)
・・・嬉しいけど、何があった???・・・ちと恐い・・・
い、いつまでも硬直したままいても埒があかないですから、取りあえず進めさせて頂
きますね(消せぬ動揺)
まずは前回のレス返し。

>>・・・何か追っかけっこ状態と化してません、このツリー?(^^; いいんだろうか?(笑)
>それが狙いですから♪
今回のこれも、狙い、ですか・・・・??

>僕もリアルタイムではないので「こんばんわ」(^^)
あ、そうなんですか。
ということは、MさまはUP時点を選択なさっている訳ですね。ちなみに私の場合は、書き初め
の時点。 

>まだ「ひみちゅ☆」
・・・ふふふふふふふふ(謎笑)

>でも、それにはちゃんと理由があるんです。
>どんな理由かは、そのうち判ります♪
そのうち・・・すでにUPされてる続きで見えてくる部分も、あるかな? まだ読んでないけど。

>>「こちら」のリナは、少なくとも今までのところは、魔力もしくはそれに代わる力を持ってない
>>ようだ(潜在的にはあるのかもしれないが)、とか・・・(引き続き仮定中)
>するどいですねえ(にっこり)
(『3』を読んで)やや当たり。もしくは、多分当たり・・・というところでしょうか♪

>一応、リナも有名は有名ですが。
>まあ、「ガウリイ」だし(^^)
そうですね、何と言っても「ガウリイ」、ですし(笑)

>実は、その話は知り合いとも言ってるんです。
まあ、真のところはどうか分かりませんが(知るは作者のみ)。
そのあたり想像をかき立てられるのは、皆さん同じみたいですね。

>>ともあれそのあたりからすると、結構この部分って面白く思えたりするんですが・・・深読みし
>>過ぎかな? やっぱり。
>楽しんでください♪
そうさせて頂きます♪

>ゼロスの場合は、どんな立場にとってもガウリナ←ゼロスだと思いますしね(^^)
私の中では、この図式にさらに『郷里の姉ちゃん』が加わって来ます・・・(謎)
でもそれって、ちょっと反則っぽい、かも。

>ああ、それってトップレベルのほめ言葉です。
>ありがとうございます(^^)
『あの一言』はホントに感じたままを書きました。喜んで頂けたようで幸いです♪

>>滅多に見られないような光景だけにすごく気がかりです。
>狙ってみました(はあと)
やっぱり(笑)

>ゼロスが「リナ」を探していたのは、この場合は「この世界のリナ」です。
>これ以上は、まだ「秘密☆」です。
あの後。前話を読み直してみたら、自分の取り違えに気が付きました(汗)

>それは、とりあえず次回に出ます。
>あくまでも「とりあえず」ですが・・・。
あくまでも「とりあえず」、というのが非常に気になる・・・。

それでは以下、『刻の糸〜・3』の感想を。

今回は感想書くのが、少し難しいです。
今後の展開に向けての伏線が結構張られてるように思いますので。
あまり今の時点から、ずばりそのあたりをお尋ねするようなことはしたくないので、そ
のあたり、やや適当にぼかして感想を述べさせて頂きたいと思います。
多少、意味不明な文になるかもしれませんが・・・どうかお許しを。

まず、いきなりガウリイ負傷しましたね。しかも結構重傷。
ゼロスがリナを伴い、半ば強引に現場から離れたのには・・・無論理由があるのでしょ
うが・・・。
それにしても、この襲撃者たる法衣の女性。一体何者? 
黒髪、肩のあたりで切り揃えられた長さ、白い『法衣』・・・・でもって「覚悟なさい、
極悪人ゼロス!!」のセリフ。
・・・実は彼女を見て、とっさに某王国の某第2王女のイメージが浮かんだんですけど
・・・違う、よな? やっぱり。・・・・年齢合わないし。
ところで、彼女の手にした銃。あの表現の仕方から考えて、殺傷を目的としたものでは
なさそうですね。どうやら。
それに、ガウリイがこのままお亡くなりになる(!)訳もないだろうし。

そして、ゼル。出てきましたね。・・・このことからも↑の女性の存在が気になって
仕方がないんですけど。まあ、それはとりあえず置いといて。
彼、リナやガウリイとは、少々事情が違うみたいですね。いやつまり、彼の場合、単に
『こちら』のゼル、というだけでは無さそうだということ。・・・ゼロスと知り合いみ
たいだし。何か訳知りだし。
少なくとも『あちら』のリナたちについても、多少は知っているみたいなのは確か。
それが何を意味するのかは、今後の展開待ちですが。

ホテルの一室でのゼルとせロスのやり取り。
ちょっとした息抜きみたいで(これから部分的に明かされるだろう謎に対しての)、笑
わせてもらいました♪

で、ゼロスの『物語』ですが・・・。
これについては、今はコメント避けます。
これによって、理解った部分と。そうでない部分と。
両方あるのですが・・・イメージを言葉としてまとまるのにも時間がかかりそうだし。

今回の部分を読んで強く感じたことは、やはりリナは『リナ』だ、ということ。
何か前回と同じようなこと、言ってるようですが(苦笑)
微妙に違ってはいても、その根本は、そしてその魂は、間違いなく『リナ』のそれと同
質のものである、ということを再認識させられました。
強い意志・・・・どんな時であれ、場合であれ、生きようとする強い力。
私がリナに、そしてスレイヤーズに惹かれる、一番の部分。それを、このリナの中にも
感じました。

さて、今後どう続くのか。
その答えは・・・・すでに出されているようです(笑)
と言う訳で。
これからゆっくり続きを読ませて頂きたいと思います♪
今度のはボリュームがあるので、感想差し上げるまでには少々時間がかかるかもしれま
せん。それまで、このツリーが持つかどうか・・・。以前より落ちる速度速いような気
がするし。
まあ、無理だったとしたら、再掲示を待たせて頂くか、もしくはメールにて差し上げる
・・・ということになると思います。よろしかったら、またお付き合い下さいませ♪
それでは続き、読ませて頂くことにします。

(追伸) 今回これをUPする前に、出だしと終わりの部分だけ書き直しました。
 あしからず。

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2775いつも、ありがとお(^^)5/21-01:30
記事番号2768へのコメント
>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ひたすら沈黙)
>あ・・・・申し訳ありませんでした。のっけから放心状態、お見せしまして(汗)

おや、どうかなされましたあ?(にっこり)

>”とりあえず”こんにちは、Mさま。

とりあえず「こんばんわ」(^^)

>いやその。
>レス置きに来て、ここのツリー見たら、ちょっとのけぞってしまいまして(冷汗)
>・・・嬉しいけど、何があった???・・・ちと恐い・・・

いやあ、大した事は・・・
なかったとは言いませんけど(謎)

>い、いつまでも硬直したままいても埒があかないですから、取りあえず進めさせて頂
>きますね(消せぬ動揺)
>まずは前回のレス返し。
>
>>>・・・何か追っかけっこ状態と化してません、このツリー?(^^; いいんだろうか?(笑)
>>それが狙いですから♪
>今回のこれも、狙い、ですか・・・・??

さあて?(にっこり)

>>>「こちら」のリナは、少なくとも今までのところは、魔力もしくはそれに代わる力を持ってない
>>>ようだ(潜在的にはあるのかもしれないが)、とか・・・(引き続き仮定中)
>>するどいですねえ(にっこり)
>(『3』を読んで)やや当たり。もしくは、多分当たり・・・というところでしょうか♪

うーん・・・あと、斜め右20度(謎)

>>>ともあれそのあたりからすると、結構この部分って面白く思えたりするんですが・・・深読みし
>>>過ぎかな? やっぱり。
>>楽しんでください♪
>そうさせて頂きます♪

んじゃ、楽しまれてる事を楽しもう♪

>>ゼロスの場合は、どんな立場にとってもガウリナ←ゼロスだと思いますしね(^^)
>私の中では、この図式にさらに『郷里の姉ちゃん』が加わって来ます・・・(謎)
>でもそれって、ちょっと反則っぽい、かも。

いやいや、それも一興・・・。

>>>滅多に見られないような光景だけにすごく気がかりです。
>>狙ってみました(はあと)
>やっぱり(笑)

ちぇ・・・。
予測された事が悔しいらしいが、嬉しいらしい。

>>それは、とりあえず次回に出ます。
>>あくまでも「とりあえず」ですが・・・。
>あくまでも「とりあえず」、というのが非常に気になる・・・。

これぞ悪巧み・・・・・(くす)

>それでは以下、『刻の糸〜・3』の感想を。
>
>今回は感想書くのが、少し難しいです。

信じてもらえるかどうか・・・。
この話を書いていた頃、僕は「帰って書き上げてからチャットに行く!」と言う決意の元でやっていたので。
実は、それぞれ当時4時間くらいで書き上げたと言う過去が・・・。

>ところで、彼女の手にした銃。あの表現の仕方から考えて、殺傷を目的としたものでは
>なさそうですね。どうやら。

うーん・・・。
出来ないわけじゃないですが・・・<殺傷
彼女は好きではないですね。銃で人を傷つけるのは。

>それに、ガウリイがこのままお亡くなりになる(!)訳もないだろうし。

まあ、ガウリイだし(^^)

>そして、ゼル。
>彼、リナやガウリイとは、少々事情が違うみたいですね。いやつまり、彼の場合、単に
>『こちら』のゼル、というだけでは無さそうだということ。・・・ゼロスと知り合いみ
>たいだし。何か訳知りだし。
>少なくとも『あちら』のリナたちについても、多少は知っているみたいなのは確か。
>それが何を意味するのかは、今後の展開待ちですが。

そうですねえ・・・。
言い換えれば、「一番可哀想かも知れない人」って所かなあ?
>
>ホテルの一室でのゼルとせロスのやり取り。
>ちょっとした息抜きみたいで(これから部分的に明かされるだろう謎に対しての)、笑
>わせてもらいました♪

ギャグおんりーってかけないんで。ショート・ギャグなら。

>今回の部分を読んで強く感じたことは、やはりリナは『リナ』だ、ということ。
>何か前回と同じようなこと、言ってるようですが(苦笑)
>微妙に違ってはいても、その根本は、そしてその魂は、間違いなく『リナ』のそれと同
>質のものである、ということを再認識させられました。
>強い意志・・・・どんな時であれ、場合であれ、生きようとする強い力。
>私がリナに、そしてスレイヤーズに惹かれる、一番の部分。それを、このリナの中にも
>感じました。

そうですね。
ただ、この場合の「リナ」と言うのは。氷の中で眠ってる『リナ』とは違うんです。
仮に彼女がどんな境遇で立場だとしても。リナはリナでしかないです。
そうでないと、彼女の存在意義さえなくなりますからね・・・。

>さて、今後どう続くのか。
>その答えは・・・・すでに出されているようです(笑)
>と言う訳で。
>これからゆっくり続きを読ませて頂きたいと思います♪
>今度のはボリュームがあるので、感想差し上げるまでには少々時間がかかるかもしれま
>せん。それまで、このツリーが持つかどうか・・・。以前より落ちる速度速いような気
>がするし。

全部では、ありませんがね・・・<答え
そして、今から言っておきますが再掲示はしません。思うところがありましてね。
別の所にUPする事も。僕の意志ではありません。まあ、誰かの意志でUPする事はあるかも知れませんが。
と言うわけで、さ。がんばるか。

未来の切符が、いつでも白紙である事を祈って・・・。

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2818Re:刻の糸の語る詠・4〜7 感想こっちつけますshinri 5/24-01:18
記事番号2755へのコメント
うげげっ、『あとがき』がUPされてる(汗)
しばらく来れなかったら、こんなコトに・・・(涙)
順調にUPされる続きに追い着かなかった、私が悪いのですね・・・ひとえに己の力不足(泣)
申し訳ありませんです(涙) けど感想だけは追いていこう・・・。
と言う訳で。”とりあえず”こんにちは、Mさま。

>いやあ、大した事は・・・
>なかったとは言いませんけど(謎)
>>今回のこれも、狙い、ですか・・・・??
>さあて?(にっこり)
って、Mさま・・・お人が悪い・・・(苦笑)

>>(『3』を読んで)やや当たり。もしくは、多分当たり・・・というところでしょうか♪
>うーん・・・あと、斜め右20度(謎)
むう、『あと斜め右20度』、かあ。・・・って理解してるか? 自分・・・

『ガウリナ←ゼロス』、プラス姉ちゃん、な話(謎爆)
>いやいや、それも一興・・・。
ゼロスと郷里の姉ちゃん、井戸端会議繰り広げとるし・・・(意味不明)

>ちぇ・・・。
>予測された事が悔しいらしいが、嬉しいらしい。
・・・うふふ♪ ↑という反応が見れたのが嬉しかったらしい。

>実は、それぞれ当時4時間くらいで書き上げたと言う過去が・・・。
よ、4時間〜〜〜〜・・・・凄すぎ(汗) ところでチャット、お楽しみになれましたか?

ゼルについて。
>言い換えれば、「一番可哀想かも知れない人」って所かなあ?
リナじゃないけど、彼も苦労が絶えんなあ。いろんな意味で。

>ギャグおんりーってかけないんで。ショート・ギャグなら。
私もギャグおんりーはなかなか・・・。途中でコケる・・・(^^;

>仮に彼女がどんな境遇で立場だとしても。リナはリナでしかないです。
>そうでないと、彼女の存在意義さえなくなりますからね・・・。
それはそうでしょう。別個体として存在してる時点で、すでに『全く同じ』ではあり得ないし。
私が感じた『同質』とは、あくまで根っこの部分のこと。
その意味では、この先リナがどう自身の存在を周囲に示していくか。そこに興味ありますね。
まだ今のとこ、周囲の皆さん(除ガウリイ)、彼女と『リナ』混ぜこぜにしてるフシ、なきにしもあらずな
気がするし。リナもそれ嫌がってるし。

>今から言っておきますが再掲示はしません。思うところがありましてね。
>別の所にUPする事も。僕の意志ではありません。まあ、誰かの意志でUPする事はあるかも知れませんが。
なるほど・・・・承知致しました。

>未来の切符が、いつでも白紙である事を祈って・・・。
いいですね。この言葉。

では、ここから感想。今回は『4』〜『7』まで、少しまとめてさせて頂きます。
ただでさえ的外れな感想が、さらにそうなるだろうことは、火を見るよりも明らかなんですけど(汗)
・・・読み辛かったらごめんなさい。

さてさて・・・どこから感想述べればいいのかな? う〜ん。
・・・そうですね。今回はちょっと切り口を変えて、とりあえず現段階でほぼ出揃った(?)、メインの
面々に対しコメントを差し上げる、というカタチをとってみようかと思います。

と言う訳で、まずは。
ゼル・・・案の定、ただ者じゃあなかったですね。彼も。
まあ、並みの方があのメンバーの中にいる訳ないし、いても持たないでしょうし(体力的にも精神的にも)
けど彼、どうやら割と遊ばれる運命にあるみたいですね・・・お気の毒に(笑)
その最大の原因は・・・やはり周囲の環境でしょうかね(しみじみ) 

続いて、アリエノール。
やはり彼女、セイルーン関係者であられましたか。
しかしある意味、彼女の個性は、すでに初代を超えてぶっ飛んじゃっているような、そんな印象が(笑)
何て言うか・・・似ているとされる初代アメリアはもちろん、その姉君と噂される「ある人物」の性質も、
ごくわずかだけど混じっているよーな(汗) ・・・噂が真実だとしたら血筋な訳ですし。
でもまあ、これはあくまで気のせいでしょう。気のせい。ははは。
ただ、それくらいパワーUPしてるなー、ってのは事実で。ゼロスじゃないけど付き合うのは大変そう(苦
労する訳だね、ゼル(合掌))

で、そのゼロス。
少しずつですが、彼が今どのような立場にあるのかが見えてきたように思います。
なぜそうなるに至ったか、とか細かい部分については、未だに不明ですけれど。でも彼に、説明とか求める
のも何だかなー・・・と思うし(爆)
どうやら彼、『暗黒より来たりし人類最後の敵』らしいし・・・(ところで、この『黙示録』って・・・?
(謎))
けど今現在は、「『彼女』との『契約』により、その意思に従い行動する者」なんですよね。
それだけ分かっていれば、とりあえずはまあいいか・・・ってことで。

それからガウリイ。
・・・正直言って、彼が私にとっては今のところ一番謎、です。いろいろな意味で。
彼自身のことはもちろんだけど、他にも彼のとってる海洋学研究、とか・・・ね。
何か彼に関しては、お話が進めば進むほど????な部分が増えていってるように思えます。
しかし、相変わらずクラゲなのに(「ありりえる」ってアンタ(笑))、リナに対してだけはきちんと気が
回るのね。もっとも、それがなきゃガウリイじゃないって気もするけど。

最後にリナ。彼女に関しても謎は謎のまま。
今回明らかにされて、なおかつそれゆえに新た生じた謎もありますしね。
例えば「家族がいない」こととか。・・・まあ、「奨学生」という言葉の響きやリナの言動から、それと
なく感じてはいましたけど・・・やはりそうかと。
このあたり、結構ポイントっぽい気もします。この辺、あとでもちょっと触れるつもりですが。
ともあれ。そういう意味では、リナ、何かと苦労してきてるんでしょうね(バイトとか) 言葉にはしない
けど。
リナにとって今の状況って、かなり屈辱的なものかもしれない。何も分からず、ただ命を狙われ、そして
ただ守られるだけっていうのは。
・・・でもま、彼女のことだから。いつまでも現状に甘んじてることはないでしょう。きっと。

各キャラに対するコメントはこれくらいにして・・・。
今回『4』〜『7』まで読み終えて、ふと思ったことを一つ。
ゼルとアリエノールに関しては、ここまでの段階である程度、前の、つまりスレ世界のゼルやアメリアとの
関係が示されましたよね? 彼らの子孫だということが。
となると。リナとガウリイは・・・そのあたり、一体どうなるんでしょう?
リナには家族がいない。ガウリイは一応いるにはいるらしいけど、詳細は不明。さてさて、これらの事実が
意味するところは、一体?? ・・・・気になります。
今はまだ分からないけど・・・ただ一つだけ、言えそうな事は。
リナとガウリイに関しては、ゼルやアメリアみたいに出自がはっきりしていない。つまり彼らのように、前
の世界の『リナ』と『ガウリイ』と、単純にその存在を結び付けることは出来ないんじゃないか・・・とい
うこと。少なくとも今の段階ではね。じゃあ何なんだって聞かれても困るんですけども。
でも、あっちの『リナ』と『ガウリイ』は、現在も二人揃ってどこぞの氷室の中で封印状態にある訳ですし。
そう簡単には・・・ねぇ? 

・・・やれやれ。今回はいつもにもまして、まとまりのない文と化してますねー(^^; おまけに、やたら
と長い。読み返してみると、自分でも何が言いたかったのか(←おい!) 
的外れまくってるんだろうなぁ・・・きっと。
果たしてこんなので、感想と言ってよいのやら?
数話まとめて感想を述べること自体、どだい私にゃ無理だったのか(涙)
でもなあ・・・今回のところって、一話一話見ていくよりも全体通して見た方が、内容が掴み易い気がした
ものですから。嵐の前の状況確認、という面もあったと思うし(意味不明・爆)

ともあれ。ここまで見捨てず、お付き合い頂けたとしたら幸いです。
これをUPしたら、また戻って続きを読み進めていくつもりです(←まだ読み終えてない・ごめんなさひ)

「あとがき」がUPされたということは、連載はここまでということでしょうか?
となると、感想どう致します? 今までのようにここに残します? それともメールにしましょうか?
・・・とりあえず、今回のこれに対するレスを待ちます。では。

(追伸)最近他所でUPされたお話の感想見てますと、皆さん、ここへもいらっしゃってるみたいですね。
    だったら、一声かけて(残して)下さっても良いものを(苦笑) 
    それとも私が暴走しまくってるものだから入り辛かったとか・・・。だったらどうしよう??