-ディストルの惨劇 はじめに-ブラントン(5/17-15:05)No.2739
 ┣ディストルの惨劇 一-ブラントン(5/17-15:08)No.2740
 ┃┗ディストルの惨劇 二 1-ブラントン(5/17-15:11)No.2741
 ┃ ┗ディストルの惨劇 二 2-ブラントン(5/17-15:14)No.2742
 ┃  ┗ディストルの惨劇 三 1-ブラントン(5/18-17:07)No.2749
 ┃   ┗ディストルの惨劇 三 2-ブラントン(5/18-17:09)No.2750
 ┃    ┗ディストルの惨劇 四 1-ブラントン(5/18-17:14)No.2751
 ┃     ┗ディストルの惨劇 四 2-ブラントン(5/18-17:15)No.2752
 ┃      ┗ディストルの惨劇 エピローグ-ブラントン(5/18-17:19)No.2753
 ┣読ませていただきました!-むつみ(5/19-09:32)No.2758
 ┃┗ディストルの惨劇 あとがき 1-ブラントン(5/19-17:31)No.2759
 ┃ ┗ごめんなさい!-むつみ(5/22-08:11)No.2794
 ┃  ┗ディストルの惨劇 あとがき 6-ブラントン(5/22-13:43)No.2797
 ┣読みました。-えれな(5/20-02:44)No.2764
 ┃┗ディストルの惨劇 あとがき 2-ブラントン(5/20-17:39)No.2771
 ┃ ┗レスのレスです。-えれな(5/23-05:24)No.2806
 ┃  ┗ディストルの惨劇 あとがき 7-ブラントン(5/23-15:11)No.2808
 ┣感想になってない感想-山塚ユリ(5/21-01:18)No.2774
 ┃┗ディストルの惨劇 あとがき メイン-ブラントン(5/21-15:21)No.2779
 ┣読みましたよ〜!-みいしゃ(5/21-18:33)No.2780
 ┃┗ディストルの惨劇 あとがき 4-ブラントン(5/22-13:41)No.2795
 ┣ディストルの惨劇 読ませて頂きました♪-Shinri(5/22-00:16)No.2792
 ┃┗ディストルの惨劇 あとがき 5-ブラントン(5/22-13:41)No.2796
 ┃ ┗レス返し、差し上げます♪-Shinri(5/24-06:42)No.2821
 ┃  ┗ディストルの惨劇 あとがき 9-ブラントン(5/24-14:17)No.2824
 ┗Re:ディストルの惨劇-松原ぼたん(5/23-20:07)No.2812
  ┗ディストルの惨劇 あとがき 8-ブラントン(5/24-09:36)No.2822


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2739ディストルの惨劇 はじめにブラントン 5/17-15:05


ディストルの惨劇

 美少女天才魔道士リナ=インバースと、その相棒ガウリイの旅は相変わらず続く

 今回の依頼は人捜し。二年前から音信不通の娘を捜してほしい、というモンなん
だけど――その最後に行った場所ってゆーのが、どーも最近、そこに行った人が誰
一人帰ってきていない、なんてずいぶんとぶっそうなところでねー……
 とまあ、とにもかくにも、あたしたちはさっそくその山――ディストル山へと向
かったのだった――
 爆走ユーモア・ファンタジー、今度は番外編!

 目次

 一、 悪人に 人権なんか ありゃしない

 二、 しょうがない 道中危険はつきモンだ?

 三、 明かされる 真実はいつも 残酷で

 四、 閉ざされた過去と魔人が目を覚まし……

  エピローグ

  あとがき


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2740ディストルの惨劇 一ブラントン 5/17-15:08
記事番号2739へのコメント

一、  悪人に 人権なんか ありゃしない

 ――夜空には、星が輝いていた。
 あたしとガウリイは物陰に身を隠しつつ、外にいる数人の見張りの様子をうかがい、再
度打ち合わせをする。
「いい、ガウリイ。
 あたしが、まず呪文を一発ぶちかますから、それと同時に突っ込むのよ」
「ああ、わかった。
 でもよ……いきなりハデにやっちまっていいのか?」
 めずらしく今回は、ガウリイは何も文句を言わない。
 ……まあ、いつもこれなら、ひじょーにやりやすいんだけど。
「ええ、むしろこのほうが好都合なのよ。
 聞くところによると、ここのおたからはけっこう複雑なところにあるらしいし。
 ありかを白状させるには、最初からハデにいって、恐怖心を植えつけとかないと」
「なるほどな。
 よし、そうとわかれば……」
「さっそくいくわよ!」
 あたしは呪文の詠唱をし――
「火炎球!」
 どぐわぁぁん!
 それが、始まりの合図だった。
「ガウリイ!」
「おう!」
 あたしが、見張りのいるど真ん中へと放った光球が爆音を引き起こすとともに、入り口
へと駆け込んで、中に踏み込むあたしたち。
「なっ、なんだてめえら!」
「敵襲だーっ!」
 ザコに用はなし!
「炎の矢!」
「はぁぁっ!」
 驚きながらも向かってくる盗賊たちを、あたしの呪文とガウリイの剣で倒しつつ、あた
したちはどんどんアジトの奥へと進んでいく。
「ここか?」
 しばらくしてあった大きな扉の前で、あたしたちは立ち止まった。
「たぶん、そうね。
 いくわよっ――振動弾!」
 ごがぁぁん!
 呪文によって吹き飛ばされた扉の向こうは、大きな部屋だった。
 おそらくここが、この盗賊団のボス、組長の部屋なのだろう。
 その証拠に、部屋はまるでどこぞの王宮のように、奥の方が段になっていた。
 そしてその先には――ハデな椅子に座った人の姿が。
「なんだ、てめえら!」
 あたしたちの姿を認めて、その男は立ち上がった。
「あんたがここのボスね」
 それを無視し、逆にあたしは問いかける。
 ――ここまできたらいーかげん、あたしたちのしていることが何か、わかっただろう。
 そう、盗賊いぢめである。
『人様の金品を奪い、それを自分のものにしようという行為――それはまぎれもなく悪!
 そんな極悪非道な人たちには、このあたしが正義という名の鉄槌をくだせてあげるわっ
!』
 ――前に旅をした仲間の一人の論理を借りれば、あたしの行動はこう説明されるだろう

 まあ、あたしの場合それに……
『自らが危険を冒してまでおこなった正義の行動には、それなりの見返りがあって当然!
 だから壊滅させた盗賊たちのおたからを奪うのに、何もやましいことなんてないわっ!

 ってゆーのが加わるけど。
「ああ、そうだ!
 オレこそが、この――」
「はいはい、いちいち名乗らなくていいから」
 あたしは組長のことばをさえぎると――
「さっそく用件に入るわ。
 あたしたちにぶちのめされたくなかったら――さっさとおたからのありかを白状しなさ
い」
 ――このあたし、リナ=インバースは、自分でいうのもなんだが、盗賊いぢめのすぺし
ゃりすとである。
 世間では、どーやらあたしの通称となっている『ドラまた』と対をなす『盗賊殺し』と
いう名があるぐらいだ。
 ……しっかし毎回思うんだけど、いったいどこの誰がこんな名前つけたんだか……
 ――まあそれはともかく、あたしが今まで出会い、そして壊滅させてきた盗賊団の数は
、すでに数え切れないほどにのぼる。
 じつはひそかに、いつか、
『リナちゃんの盗賊いぢめ完全まにゅある(はぁと)』
 でも出せたらいいな、と思っていたりもして。
 そしてその経験をいかしてあたしがおすすめする、こういう場合の対処法とはすなわち
――相手にはあまりしゃべらせない。
 理由は簡単、こういうタイプの男は、えてして自慢話が好きだからである。
 おそらくあたしが止めていなければ、組長はしばらくの間、自分がどんなヤツなのかを
、あーだこーだと語り続けただろう。
 ……まあ、そこを狙っていきなし呪文をぶっぱなす、ってのもあるけど。
「ふっ」
 組長は、あたしの忠告を一笑に付した。
「いきなり現れて、おたからのありかを教えろ、たぁずいぶんナメたマネしてくれるじゃ
ねえか」
「あたしはじゅーぶん本気よ」
 そう言いながら、あたしは横にいるガウリイに、ちらっと目配せをする。
 うなずくガウリイ。
「じゃあ――てめえらは、ただの身のほど知らずだな。
 野郎ども、やっちまえ!」
 組長の声に反応し襲いかかってくる、今まで部屋の端に隠れていた男たち数名。
 だが、こんなのはすでにお見通しずみっ!
「――ガウリイ」
 前へと出て剣を構えるガウリイ。
 しゅぱしゅぴしゅぴぃん!
 その音がした後には、すでに彼らは床に倒れていた。
「なにぃっ!」
 その様子を見て、驚きの声をあげる組長。
 おそらく、彼にはガウリイの太刀筋はまったく見えていなかっただろう。
 よしっ、ここで落としにかかる!
「……さあて、組長さん」
 じらっ。
 視線を組長の方に向け、目で無言の脅し文句を付ける。
 すなわち――こうなりたくなかったら、さっさとおたからのありかを白状しろ――と。
「……ふっ……な、なかなかやるじゃねえか」
 おびえとるおびえとる。
 少し引きながらも、なお虚栄を張る組長。
「ヤセがまんはよしたほうがいいぜ、組長さんよ」
 剣をしまったガウリイが、彼に声をかけた。
「言っとくがな――
 リナにまともに勝負を挑んで勝てるヤツなんて、オレの知ってるかぎりでもこいつの姉
ちゃんぐらいなんだぜ。
 ここは素直に言うこときいとかねえと、ヘタすりゃ竜破斬が――」
「……ガ、ガウリイ……姉ちゃんのことは、言わないで……」
 ……いや、ホントお願い……
「ちょ、ちょっと待て!
 まさか、おめえ――リナ=インバースか!?」
 突然驚いた声で、組長が尋ねてきた。
「ええ、そうよ」
「ホントに、あのリナ=インバースなんだな?」
「……たぶん、そのリナ=インバースよ」
 どーやらこいつも、さっきいったよーな噂を知っているヤツの一人のようである。
「……わ、わかった。宝のありかは教える!
 教えるから、どうか見逃してくれっ!」
 するといきなり態度をひるがえして、組長は命乞いを始めた。
 ……しかしまあ、こりゃまたずいぶんワンパターンな頼みを……
「そうね……考えてみるわ」
「と、とか言って『やっぱ考えた結果ぶちのめす』とかするつもりだろ!」
 ありゃ、読まれてる。
 ……ふーむ、さすがは組長だけあって、なかなか……
「――わかったわよ。じゃあ、ぶちのめすのはカンベンしてあげるわ」
「本当だろうな!」
 いちいち念を押す組長。
 ……こいつって、ただ単に気が弱いだけかもしんない……
「ホントよ、約束するわ!」
「本当に、本当だろうな!」
「ああっ、しつこい!
 ンなに言ってると、問答無用でぶちのめすわよ!」
「そ、それだけわっ!
 お願いだ! 案内するから!」
 もはや組長としての威厳など、かけらも消え去っている。
「よろしい(はぁと)」

 あたしとガウリイは、組長を連れて通路を歩いていた。
「……なあ……そんなにリナが怖いのか?」
 おびえた様子を見せている組長に向かって、ガウリイが話しかける。
「あたりまえだ!
 リナ=インバースといったらなあ、オレたちの間じゃ伝説にすらなっているぐらいの男
なんだぞ!」
 ……へっ!?
「ちょっとまって、あたしはれっきとした女よ!」
 割り込むあたしのことばに対し、組長はまるで信じてない顔で、
「ふん、だまそうたってそうはいかねえ。
 世間の目をあざむくために普段は若い娘の姿をしているが――
 その正体は百歳をこえたじじいだ、ってことはわかってんだ。
 そしてその驚くまでに小さな胸は、変身が不完全なことを示す証拠だってこともなっ!

「ぬぁぁんですってぇぇぇっ!」
 すぱごぉん!
 あたしの手にしたスリッパが、思いっきり組長の頭に命中した。
「いってぇぇぇぇっ!
 おい、ぶちのめさねえ約束じゃなかったのかよ!」
「やかましい! 今のはただスリッパで殴っただけよ!
 だいたい、なんであたしが百歳をこえたじーさんにならなきゃなんないのよ!」
「……リナ……どーでもいいけど、そんなのどこに持ってたんだ……?」
 ほぼあきれたよーなガウリイのツッコミには、当然のことながら無視。
「……ウ、ウソなのか……?
 それじゃ――
『若干一歳で故郷を滅ぼした悪の化身』
 とか、
『血を吸った蚊には――魔竜烈火砲。
 メシにさわったハエには――冥王崩破陣。
 そして、頭にフンを落とした鳥には――覇王雷撃陣。
 などというヤツを問答無用でお見舞いし、生き物愛護協会から永久戦犯としてブラック
リストに載せられている、生きとし生ける者の天敵』
 ってのも……」
「ンなのウソにきまってんでしょーがっ!」
 マジメに信じるなよ、そんなの……
「そーそー、いくらなんでもそんなことまではしねーって。
 こないだみたいに、夜中に吠えてた犬を『うるさくて寝らんない』って呪文でぶっとば
したりはするけどな」
「……そ、そんなことしてんのか……?」
「あんたもそこでよけーなこと言うなっ!」
 ずばっこぉぉん!
 あたしの手にしていたスリッパは、こんどはガウリイの頭にみごと炸裂したのだった。

「……ここが宝の隠し場所だ」
 そしてやっとあたしたちは、目的の場所へとたどり着いた。
「ありがと。
 じゃ――ガウリイ。やっちゃいましょ」
『ええっ!?』
 驚きの声をあげる、組長と、やっぱしわかってなかったのかガウリイ。
「ちょ、ちょっと待て!
 話がちがうぞ! ぶちのめさないってあれだけ約束したじゃねーかっ!」
「ええ、約束したわ。
 だから『ぶちのめ』さないで『しばき倒す』んじゃないの」
「なっ……
 そんなのいっしょだ! サギだっ!
 このひとでなしっ! おにぃ! あくまぁぁぁっ!」
「はいはい、見苦しい言い訳はよしなさい組長さん。
 さ、ガウリイやっちゃいましょ」
「なあ……ホントにいいのか?」
 そんな間にも、組長はありきたりな悪口をならべたてている。
 だが、しょせんこのあたしが気にかけるようなものではない。
「いいのいいの。あたしがいっつも言ってるじゃない」
 そう言うと、あたしはびしっ! と指を立て――
「『悪人に人権はなし!』ってね」

「――うーん、こいつはなかなかの代物だねえ……」
 店のにーちゃんは、女神をかたどった彫刻の像を手にとりながらつぶやいた。
「でしょでしょ!?
 オリハルコンとしての価値もさるものながら、やっぱこれのいちばんの特徴は外見の美
しさよ、美しさ!
 見ているだけで人を幸せにさせるような、この神秘的な姿!
 これほどの像、めったにお目にかかれるモンじゃないわよー」
 今、にーちゃんが手にしているのは、昨日壊滅させた盗賊団からいただいてきた、おた
からの一つである。
 ここはその後立ち寄ったモンテス・シティという街。旧ルヴィナガルド王国領域内に位
置するそこそこの商業都市である。
 現在は、ルヴィナガルドが共和国になった際に隣の国に吸収されて、そこの領地になっ
ている。
 ――店の外では、陽の光が今日も地上を照らし、通りにいっそうの活気を呼び込んでい
た。
「――で、嬢ちゃんはこれを、いくらで買ってほしいんだ?」
 店のにーちゃんは像から目を離し、あたしに顔を向けた。
「うーん、とね……」
 あたしは相場よりも明らかに高い額を口にした。
「おいおい、そりゃちょっと高いんじゃねーか?
 確かにめったにお目にかかれるモンじゃないとは思うが、いくらなんでもそこまでの値
打ちがあるとはとても――」
「ふっ。
 あまいわ、にーちゃん。
 こう見えても、あたしけっこうこーゆーのには目が肥えてるのよ。
 そのあたしが言ってんだから、信じてじゅうぶん、損はなし!
 ここは一発、男の包容力ってモンを――」
「……いや、包容力って言われてもなぁ……」
 店のにーちゃんは苦笑いをしつつ、頭をかきながら、
「だいたいそれを言わしてもらうなら、こっちはこれが本業なんだぜ。
 こういうたぐいは毎日見てるしなあ。
 嬢ちゃんは、見たところ旅の魔道士のようだし――ウチよりもくわしいとは思えねえよ

 あきれつつも、ちゃんと返すあたりは、さすが商売人といったところか。
「いーえ、これにはそれぐらいの価値はあるわ」
「いーや、ないね」
「いいえ、あるわ!」
「いや、ない!」
「ある!」
「ない!」
「――わかったわよ。
 もう少し下げればいいんでしょ」
 あたしはこんどは、相場よりもちょっと高いだろう、という程度の額を言った。
 それに対してちょっと考えていたそのにーちゃんは、不意に何かに気づいたように笑い
出し、
「いやぁ、どうやらこいつはいっぱいくわされちまったようだな!
 まず、自分がほしい値段よりも高く言って、しばらくしてから下げる。
 そうすりゃこっちは、相手がしぶしぶ下げたと思って、その値段で買っちまう。
 それで、けっきょく自分には予定通りの金が入るって寸法だろ?
 ――まったく、みごとみごと!
 最初に言う値段といい、下げるタイミングといい――嬢ちゃんかなりのやり手だな?」
「……あ、バレちゃった?」
「いや、危うくオレもだまされるところだったぜ。
 ま――今回は嬢ちゃんの見事な戦略に敬意を表して、その値段で買ってやろうじゃねー
か」
「ホント!?
 ありがと、にーちゃん」
 ――商談成立。
 まあ、このあたしの作戦に気づくとは、なかなかの男だったかな。
「ガウリイ」
 あたしは、店の中に置いてある剣を、いろいろと手にとっていたガウリイに声をかけた

「おー、終わったのか?」
「ええ。
 ガウリイは、なんか良さそうなのみっけた?」
「いや。
 どーやら、いまんとこはこの剣が、いちばにいみてーだな」
 そう言いつつ、ガウリイは後ろに背負っている剣を見る。
「ま、予想以上の収入もあったことだし。
 やっぱこれだから盗賊いびりはやめらんないのよねー!」
 あたしのことばに、ガウリイはふぅ、とあきれたよーなため息をつき、
「……なあ……
 オレが思うにだな、お前自分の才能ってモンを、まちがった方向に使ってるんじゃない
か?」
 そう、金貨のぎっしりつまった袋にすりすり頬を寄せる、あたしに言った。
「なーに言ってんの。
 『悪人を成敗して、自分も幸せになれる!』
 これ以上の使い方が、どこにあるってゆーのよ」
「……まあ……たしかに、そうかもしれんがな……」
 ぽりぽり頭をかきながら、つぶやくガウリイ。
「そういえば――
 お前さんたち、これからいったいどこに行くつもりだい?」
 そこで突然、店のにーちゃんがあたしたちに聞いてきた。
「――ン?
 別に、いまんとこはまだ決めてないけど」
 あたしたちの旅の目的は、あの冥王フィブリゾとの闘いが終わって以来、そのときにな
くなってしまった、ガウリイの光の剣の代わりとなるものを探す、ということになってい
る。
 だから、そんな噂をかぎつけたら、そこに行って真相を確かめる――ここ最近のあたし
たちの旅の目的は、ほとんどそんなものだった。
 もちろん、そんな名剣がそこらにぽこぽこ転がっているはずがないわけで、伝説になる
ほどのモンに当たったことはない。
 ンで、その代わりに会うのは――
 何の縁か、二度もそれぞれ別の場所で事件に関わることになった、宝探し屋の二人組、
ルークとミリーナ。
 そして――赤眼の魔王シャブラニグドゥの五人の腹心の一人、覇王グラウシェラーが擁
する高位魔族、覇王将軍シェーラ。
 前回はあたしの機転で何とか追い返したが、今度彼女に会ったときもそううまくいくと
は思えない。
 まともに勝負していたら、こちらに勝ち目はほとんどなかっただろう。
 はっきりいって、二度と会いたくはない相手なのだ。
 だがしかし――シェーラとの闘いはおそらくさけて通れない道。
 だからこそいっそう、あたしたちには新しい武器が必要――
「そうか、ならいいんだけどよ。
 まさか、ディストル山に行く気じゃねーだろうな、って思ったもんでな」
「……ディストル山?」
「ああ、ここから五日ほど歩いたとこにある、山のことなんだけどさ。
 どーも最近、悪い話が飛びかっててな。
 いや……半年ほど前からなんだが、そこに向かったヤツが誰一人として帰ってこない―
―ってなことになっちまってるらしくってさ」
「……ずいぶんとぶっそうな話ね」
「だろ?
 街のお偉さんがたも、いろんな奴雇って向かわせてるらしいんだが――やっぱり誰一人
として戻ってきたって話は聞かねえし。
 何か恐ろしい魔物でも住み着いたんじゃねーか、ってのが街の噂の主流になってるんだ

 ――ま、さわらぬ神にたたりなし、っていうしな。
 要は、危ないことには首を突っ込むな、ってことさ」

「……ねえ、あんたはどう思う?」
 その後入った料亭で、エビのマケドリア煮をほおばりながら、あたしはガウリイに話し
かけた。
「ン?
 オレはうまいと思うけどな」
「やっぱり!?
 この食べた瞬間に口の中に広がる、思わず舌鼓を打ってしまうような……
 おお、これぞまさに究極の美味――
 て、ちがぁうっ!
 さっきの話よさっきの!」
「……なんか話あったか?」
「……あ、あのねぇ……あんた何聞いてたの……
 店のにーちゃんが言ってたでしょーが!
 最近、近くの山に行った人が、誰も帰ってこないって!」
 それを聞くとガウリイは、しばらく考えた末にポン、と手をたたき、
「おー、そういやーあったような気がするぞ、そんなの」
 ……さっき聞いたばっかじゃないの……
「――ンで?
 あんたはどう思うわけ、この話」
「どうって……やっぱりなんか危ない奴が住み着いたんじゃねーのか?」
「……もういい……あんたに聞いた、あたしがバカだったわ……」
 あたしは片手で頭を抑えた後に、特上サーモンステーキの切れ端を口にほおばると、
「魔物が住み着いたにしても、その原因ってものがあるでしょーが。
 他から来たんなら、山の周りでどっかべつに何かが起こってたはずだし、いきなり現れ
たんなら、その山自体に何かあるってことよ」
「……へー、そうなのか」
 そうつぶやきつつも、ガウリイの食べるスピードはまったくおとろえない。
 ……こいつ、何もわかってない。絶対に。
「まあ、どーやらあたしたちが探してるよーなのとは、あんま関係なさそうだけど」
 そこまで言って、あたしはこっちの席に近づいてくる者の姿を認めた。
「――魔道士のかたですか?」
「ええ、そうですけど」
 食事の手を止め、あたしは返事をする。
 話しかけてきたのは、中年ぐらいの男。
 言葉遣いや態度からして、さしあたりどこかの使用人か。
「じつは引き受けていただきたいことがあるのですが――」
 ずいぶんと単刀直入に、その男は話を切りだした。
「仕事の依頼ね。
 どんなヤツ、いったい?」
 あたしとしても、見ず知らずの人と世間話をする気などないし、さっさと依頼の内容を
聞くことにする。
「私の口からは詳しくは話せませんが……
 簡単に言ってしまえば、人捜しです」
「……人捜し……?」
 あたしはそのあと少し考え――
 とりあえず話を聞くことにした。
「具体的なことは、ご主人様からなされるはずです。
 お食事が終わるまでは、入り口で待っておりますので――」
 そう言って、その男はいったん出ていった。
「――なあ、リナ。なんであっさり話を聞く気になったんだ?
 めんどーそーな仕事はあんまり好きじゃない、っていつも言ってるじゃねーか」
「ン、それはね――」
 すぐさま話しかけてきたガウリイへとその理由を言いかけたとき、あたしの耳に、後ろ
の席の会話が入ってきた。
「……あー、ひでえめにあったな」
「……まったくだ。
 あんな山、二度といきたくねぇ」
「ま、こんなときには飲むしかねえさ。
 おーい、ビールもってこい、ビール!」
 ……山……? まさかそのディストル山ってとこのことじゃ……
 ちらっと後ろを見ると、その席にいたのは男の三人組。
 一人は体格は普通だが、どことなく怪しい目つきをした若者で、残りは大男である。
 ――がたっ。
「ん、どーしたリナ?」
 ローストチキンを口にくわえつつの、ガウリイの問いかけには答えずに、
「ちょっと、あんたたち。
 その話、くわしく聞かせてくれない?」
 あたしは席を立ち、そのテーブルに歩み寄った。
「なんだ、てめーは?」
 あたしの姿に気づき、話しかけてくる片方の大男。
「リナ、リナ=インバースよ。
 今の話、くわしく聞かせてくれないかしら」
 ――が。
「ヤなこったね。
 なんでいちいち見ず知らずのヤツに、話さなきゃなんねーんだ」
 ぴく。
 その大男に続き、さらにもう片方のヤツも――
「金でもくれるんならまだしも、タダで話してくれ、だなんて世の中甘く見すぎてるぜ、
嬢ちゃん」
 ぴくぴくっ。
 最後に、中央にいた若者も――
「ま、そういうこった。
 わかったなら、あきらめてさっさと帰んな。
 ……おーい、ビールまだかーっ!」
 ぴくぴくぴくぅっ!
 ……せ、せっかく人が下手に出てりゃ、まるで鼻であしらって、そのうえ『さっさと帰
んな』だとは……
 うぉのれっ! こうなったら実力行使あるのみ!
「……あ、そう……
 やっぱ、せっかくミエはって外見だけでも強そうに見せてんだから、自分たちのみじめ
な話は言いたくないわよねえ……」
「なんだとぅ!」
「おいチビ娘!
 あまり余計なことを言いすぎると……そのうち口きけなくなっちまうぜ」
 ――つまりは、殺されるぞ、と言っているのだが。
 しょせんは見えすいたおどし文句である。こんなモンがあたしに通用するはずがない。
「おい、リナ――」
「ガウリイは手を出さなくていいわ。
 こんなヤツら、ちょっとビビらせりゃ終わりだから」
「野郎っ!
 言わせておけば――なめてんじゃねえぞっ!」
 片方の大男がそう言って立ち上がり、あたしの方に向かって拳を繰り出す。
 あたしはそれをあっさりと横にかわし――
 がっしゃぁぁん!
 そのまま男のパンチは、あたしたちのテーブルに炸裂した。
「あーっ! あたしのりょーりっ!」
 もちろんテーブルは崩壊し、その上にのっていた食べかけの料理も、床に落ちて台無し
になってしまった。
「なんてことしてくれんのよっっっっ!
 まだ食べ終わってなかったのに!」
「うるせえ! たかがメシぐらいでがたがた言ってんじゃねえ!」
「そーだそーだ!」
 あたしの方へと向き直る男に、まだ席に座っている大男のほうが相づちを打つ。
「こんどはてめーをこの料理みてーに――」
 と、そこでガウリイの蹴りが、しゃべっていた立っている男の腹に思いっきり入った。
 声をあげ、気を失う大男。
「オレのヤツもあったんだぞ!
 クリームシチューとサーモンのバター・ソテー、ミックスサンドとAランチセットに、
ええっとそれから……」
「……エビフライのライスセットに、コーンスープ、野菜炒めにリンゴとレモンのミック
スパイ……
 ああ、あたしのおなかをきっと満たしてくれたであろう、数々のメニューたちよ……
 ともかく、そこのあんた!
 食いモンの恨みがどれほど恐ろしいかを、思い知らせてあげるわっ!」
 と、まだ座っている大男を指さし、呪文の詠唱に入る。
「待て、リナ!
 こんなとこで、ハデな呪文ぶっぱなすなっ!」
 ガウリイのあわてたような叫び声が、あたしの耳に入る。
 スキを見て殴りかかってきた男を、あたしはまたしてもあっさりとかわしつつ――
「わかってるわよ!
 くらえっ、魔風!」
 こんどはすばやく後ろに回り込み、その背中めがけて呪文を発動させる!
「のわぁぁぁっ!」
 後ろからの風に押されてバランスを崩した大男は、そのままさっき壊されたテーブルの
方へと向かい、そして床に転がっていたそれの一部に足を引っかけて――
 どがっしゃぁん!
 その奥で一人の青年がメシにありついていた、別のテーブルへと突っ込んだ!
 ――当然、そこにのっていた料理は、音を立てて床に落ちるわけで。
 ……ごめん、にーちゃん……
「おい、食えなくなっちまったじゃねーかっ!
 どーしてくれんだ!」
 なかなか血気盛んな年頃なのか、彼は突っ込んできた大男に、猛然とつっかかる。
「ちょ、ちょっと待て、悪いのはあいつ……」
「いいわけなんかしてんじゃねーよ!
 これはなぁ、オレが三日ぶりにようやくありつけたメシだったんだぜっ!」
 ……いや、怒る理由はよーくわかったけど、なにも大声で自分の貧しさを言いふらさな
くても……
「ンなこと、オレが知るわけねーだろ!」
 いーかげんに頭にきたのか、大男の方もどなり返す。
「なにをぅ、やる気か?」
「たりめぇだ!」
 猛烈な殺気を含んだにらみ合いから、少し離れて双方とも腕まくりをする。
 そして、一定の距離をたもちつつ構え――

 数分後、いまだに続いている乱闘を、あたしは店内の現場付近で傍観していた。
 おっと、右ストレート炸裂ぅ!
 しかしそこでひるまずアッパーのお返しだっ!
 ……おいおい、いきなり乱入してきた飲んだくれのじーちゃん、あんたはいったい何な
んだ!?
「いやー、これぞまさに男の青春よねー」
 などとしみじみと語りつつ、あたしはかろうじて生き残っていたミックスサンドを口の
中に放り込む。
「ところでよリナ、いったいあいつらに何の用があったんだ?」
 隣に並んで、これまた無事だったホットドッグにありつくガウリイ。
「あー、そういえば!
 つい忘れるとこだったわ」
 あたしは騒ぎとは関わらずに、一人黙々料理を食べこんでいる若者へと向き直り、
「……こんどこそちゃんと話してくれる?
 あんたたちが、その山――ディストル山で、いったい何を見たのか」
「……わかったよ」
 さっきとはちがい、彼は食べる手を止め、あっさりとそれに応じた。
「――こんなことを聞いてくるからには、あんたらも知ってると思うが……
 オレたちも、あの噂を聞いて山に行ってみた連中ってのの一つさ。
 もし、原因を突き止めて解決でもしたら、領主あたりからたんまりほうびをもらえる、
って話を聞いてな。
 それが、今から四日前のことだ」
「……でも、その途中で何かあったのね」
 いったん、男はあたしを一瞥すると、
「……ああ。
 二日前の夕方ごろ、山のふもとを過ぎたとこで――
 出てきたんだ、そいつは……」
 見ると、彼のコップを持つ手は、少しふるえている。
「……そいつは、全身黒ずくめの男だった。
 道とは少し離れた木と木の間を、ものすげえスピードで、山のほうに走ってやがった。
 肩には、誰かかついでた。死んでたかどうかはわかんなかったけどよ。
 そしたらいきなりこっちに顔を向けて、そのまま左手を一振り。
 ――ンで、バッサリ。オダブツさ。
 いっしょに旅してた、魔道士が一人。それだけで首をスパッと切られちまった。
 オレたちにはあたんなかった。けど、少なくともこのままじゃやられることは確かだっ
た。
 ――あとは三人で必死こいて逃げて、やっと街に帰ってきた、ってわけだ。
 そいつが、どうやってバサッとやったのかはわかんねえ。いちいち見るヒマなんかなか
ったしな。
 ……でもよ。何を投げたのかすらわからせずに、あそこまでバッサリと首を切れるよう
なヤツ、オレにはまったく浮かびゃしねえんだ」
 ゆっくりそこまで言うと、彼は持っていたコップの中のビールを、一気にあおいだ。
「……これでいいだろ?
 もうあんなの、思い出したくもねえ話だ」
「……ええ、ありがと。
 行きましょ、ガウリイ。依頼の話聞かなきゃ」
 あたしたちは、ヤジ馬も加わって、すでに収拾がつかなくなっている店内を背に、外に
出た。
 もちろん――勘定は払わずに。

「さっきは聞きそびれたけどよ、けっきょくなんで話を聞く気になったんだ?」
 街の中を、主人のいるところに案内してくれている、使用人さんの後ろを歩きながら、
ガウリイが小声で話しかけてきた。
「あのね、ガウリイ。
 もし、あんたがある人を探してほしい場合、ふつーどこの何もんかも知らないような『
魔道士』なんかには頼まないじゃない。
 あの人は、最初にそれを確認してたでしょ?
 つまり――これはただの人捜しじゃない、ってことよ」
「そーゆーもんなのか?」
「そーゆーもんなの」
「……よく、わからんが……」
 ガウリイは頭をかきつつ、
「よーは、何かごたごたがありそうだってことだろ?」
「そーそー。
 あんたにしちゃ、それだけわかればじゅーぶんよ。
 ま、こーゆーたぐいのモンは、たいがい報酬も多いし。
 とりあえず、話ぐらいは聞いてみようかなー、って思ったわけ」
「――こちらです」
 あたしたちが到着したのは、街の宿屋だった。

 街の中央に位置する、ランクとしては並よりは上の、宿屋の二階の一室に、あたしたち
は案内された。
「――私の娘のメリッサを、捜してほしいのです」
 あたしの正面に座っている依頼主――バックラーさんは、そう切り出した。
 年の頃は四十代後半だろうか。言葉づかいからは、あまり気が強そうには思えないが、
弱そうな感じもない。
「娘には、昔から魔道の才能がありまして……」
 そして、バックラーさんは事情を話し始めた。

 メリッサは、母親が代々魔道士の家系だったからなのか、まだ十歳になるかならないか
、というころから魔法に興味を持つようになった。
 両親も彼女の才能を伸ばそうと、家庭教師を雇ったり、たくさんの魔道書を読ませたり
したため、メリッサはどんどん成長していった。
 ケストという、同じぐらいの歳の男と相思相愛の仲になり、幸せすぎる日々――
 しかしある日突然、それは終わりを告げた。
 メリッサがケストとともに家を出てしまったのである。

「――私たちも、もう十六になることだし、自立してもいい頃だろうと思い、放っておく
ことにしたのです。
 ちゃんとメリッサも、手紙をよこしてくれましたし。
 ですが、二年ほど前からぱったり音なしになって――
 しばらくは待つだけだったのですが、あまりにも遅すぎる、と一年が過ぎた頃から行方
を捜し始め、やっとあの山、ディストル山に向かったことを知ったのです。
 そして妻は故郷に残し、私はここまでやってきたのですが……
 なにせ、あんな噂がただよっていては……」
「それで、あたしたちに代わりに山に行ってほしい――というわけですね」
 たしかに、誰一人として帰ってこないよーな所に、いないかもしれない娘を捜しに行こ
うなどとは、ふつー思わないだろう。
「この街の領主も、実際に死体が見つかった、という報告があったわけでもないため、な
かなか動こうとはしないのです。
 まあ、誰も戻ってこないのですから、それも当たり前の話ではあるのですが……」
 ……なるほど。
「事情はわかりました。
 ――で、一つ聞きたいんですけど、メリッサというのはどんな娘さんなんですか?
 魔道士というのはわかったのですが」
「……娘は、親の私が言うのも何ですが、それはそれは美しい子で……
 ケスト以外にも寄ってくる男はたくさんいたのですが、なぜか見向きもしませんでな。
 いつか二人で歴史に残るようなことをするんだ、とつねづね言っておりました。
 それに、街の中では魔道士だけでなく、傭兵なども含めてどんな人にも負けないぐらい
の腕で、まさに美少女天才魔道士と呼ぶにふさわしいほどの――」
 ぴく。
 ……び、びしょーじょてんさいまどーし……!?
 ――バン!
「バックラーさん!」
「は、はい!?」
 前にあった机を思いっきりたたきせまるあたしの剣幕に、身をよぞけるバックラーさん

「受けるわ、この依頼」
「お、おい、リナ……」
 ガウリイのことばなど、聞く耳持たず。
「あたし以外に、美少女天才魔道士の名をかたるとは――
 ……ふっふっふっふっ……見っけたら、自分がどれほどまでに未熟かを、イヤとゆーほ
ど思い知らせてあげよーじゃない!」

 辺り一面に立ってる木が、暮れかけた太陽の日射しを遮断し、周りを時間以上に暗くさ
せる。
 申し訳程度に舗装されている山道を、あたしとガウリイは一路ディストル山へと歩いて
いた。
「にしても、やけに変わった親よねー」
 後ろで手を組みながら歩いているガウリイに、あたしは話しかける。
「んー、そうか?」
「だって依頼内容は――
 私は、娘が今どうしているかさえわかればいい。
 連れ戻す必要もないし、伝えてほしいこともない――よ?
 ふつー、かわいい愛娘なら、一目会いたいとか思うじゃない」
「なんかあやしい、とでも考えてるのか?」
「いえ、今回のとは関係ないわよ、おそらく。
 でも……この事件、他にあやしいことはたくさんあるわ。
 昨日のメシ屋の彼の話じゃ、いなくなった人はどーやらみんな殺されてるみたいね。お
そらくその、黒ずくめの男に。
 ンで、その黒ずくめの男ってのも――」
 まちがいなく普通の人間ではない。
 何を投げたのかすらわからないような小ささで、かつ人間の首をスパッと切り裂けるよ
うなものは、あたしですら聞いたことがない。
 一つだけ心当たりがあるのは――見えない刃。
 そう、その男は目には見えない、不可視の衝撃波を発生させて、それで首の切ったのだ

 ――かつて、いちどだけ目の当たりにしたことがある。
 あたしたちが前に、ソラリア・シティでの騒動に巻き込まれたとき――
 いたのだ、実際にそれを使う者が。
 そして、そいつは普通の人間ではなかった。
 つまりこの男の正体も、それに似たようなものか、もしくは――魔族か。
 もしかしたら、ソラリア・シティでの奴らの残党か――
 ……いきおいで受けちゃったけど、やっぱ断ればよかったかな……
 あたしは、心の底でちょっぴり後悔しはじめていた。
「でもよ、そんな奴がいるんなら、そのメリッサってのも、もう死んでるんじゃねーのか
?」
「そうかもしれないわ。
 でも、噂が広がりはじめたのは半年前なのに、二人が山に行ったのは一年は前のことだ
っていうし……
 意外と、彼女自身が事件の張本人だったりしてね」
「……まさかあ……」
「わかんないわよー。
 歴史に残るよーなすごいことってのが、恐怖の殺人鬼として名をとどろかすことかもし
んないし」
 軽口をたたいてはいながらも、あたしはちゃんと周りを警戒していた。
 さっき考えていたことがもし本当だとしたら、油断した瞬間にバッサリこっちがやられ
てしまうような奴かもしれないからである。
 しかし、とはいうものの、まさかまだ街に近いところで現れるとは思っていなかったし
、あたしの警戒心はあくまで軽いものだった。
 だが――
「うわああぁっ!」
 あたしのそんな考えをあざ笑うかのように、突然それは聞こえてきた。
 ――恐怖からくるものではない、これは何か衝撃を受けたときのもの!
「どーやら、いきなりお出ましのようだな」
 言葉とともに、ガウリイも表情をけわしくする。
「ガウリイ!」
「わーってる!」
 あたしたちは、その道を声のした先へと走りだした。

 ――まちがいない。
 道を先へ先へと進むほど強くなっていく、言葉では表現できないような不気味な気配―
―瘴気。
 これが漂ってくるということは――
「魔族か」
 走りながら、つぶやくガウリイ。
「そのようね。
 ――近いわ、もうすぐよ!」


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2741ディストルの惨劇 二 1ブラントン 5/17-15:11
記事番号2740へのコメント

 二、 しょうがない 道中危険はつきモンだ?

 そして、現場にたどり着いたあたしたちが見たものは――
 二匹のレッサーデーモンの姿だった。
 何のことはない、最近よく見る超有名な下級魔族である。
 ……期待はずれだったみたい……
 そこは、今まで細長い道が広く丸まっていて、円のようなものをつくっていた。
 そしてその道を外れたところには、一人の少年が木の下に倒れている姿が。
 小さくうめき声を上げているところから、まだ死んではいない。
 ――おそらく、さっきの声はこの少年が発したものなのだろう。
「……どーやら、ちがったみたいね」
 ま、何はともあれ――
「黒妖陣!」
 先手必勝! あたしの呪文は片方のデーモンを黒い塵と化す。
「はっ!」
 それと同時に剣を抜き、突っ込むガウリイ。
 レッサーデーモンは、少年に放とうとしていた炎の矢を、向きを変えて発射するが、これをガウ
リイはあっさりとかわし――
 ばさっ。
 デーモンを縦一文字に両断した。

 あたしは、その間に倒れている少年のもとに駆け寄った。
「ちょっと、だいじょーぶ?」
 離れていたときはよくわからなかったのだが、彼の全身にはたくさんの傷があった。
 外傷は、ズタボロの服から数カ所皮膚が切れて、血が出ているのが見えるのと、打撲のあとがい
くつか。骨も折れている可能性がある。
 おそらくは、何発か爪でかっ切られたあとに、おもいっきりふっとばされたのだろう。
「……う、うう……」
 案の定、返ってきたのはうめき声だけ。
 とにかく、一刻も早くなんとかしなければ。
 そう思ってあたしは彼に呪文――治癒をかけ始めた。
「だいじょーぶそーか?」
 剣をしまって近寄ってきた、ガウリイが問う。
「とりあえずは、ね。
 傷が治っても、ちょっとの間は満足に動けないと思うけど」
 手を少年の体にあてたまま、あたしはそれに後ろを向いて答えた。
「――でよ、リナ。
 けっきょく今のは何だったんだ?」
 さらにガウリイの質問は続く。
「……うーん。
 たぶん、ただの通りすがりじゃない? たった二匹だけだったし。
 それに、最近こーゆーの多いしね。
 まあ、この事件の黒幕とやらが、デーモンの大量発生なんかをやらかしてんならまだしも、いま
んとこ関係ないと思うわ。
 もしそうだとしたら……これからもぽこぽこ出てくるんでしょうから。こんなのがね」
 あたしの実力を持ってすれば、これぐらいの魔族なら、何回出てきてもたいしたことはない。
 ……そりゃあ、いちどにまとめて来られると、ちょっとぐらいは、やばいかもしれないが。
「それよりも気になるのは、この……彼のほうよ」
 あたしは再び、少年の方に向き直る。
「まだ十二か三あたりでしょうけど、たった一人でこの山に来ようだなんて、きっと何か事情があ
るはずだから」
「……まー、そりゃーオレも、変わったヤツだなー、くらいは思ったけど……
 なら、リナは何だと思うんだ?」
「それがわかんないから、こうやって傷直してから、話聞こうとしてんじゃないの」
 ここにいるのに何か事情があるとすれば、もしかしたらこの事件の手がかりになる話が聞けるか
もしれない。
 それに、まだ彼が山に向かう途中なのか、それとも帰ろうとしている途中なのかすらわかってい
ない。
 もし帰る途中だったとしたら、なおさら可能性は高い。
 何せ、山へと向かって無事に帰ってきたのは、昨日会った三人組をのぞいてはほとんど、いや、
まったくいないかもしれないのだ。
 山のことはまったく知らないあたしたちにとって、まして今回は人捜しなどという仕事なのだか
ら、小さなことでも貴重な情報になる。
 そう思って、あたしはとりあえず彼の回復を待ってでも話を聞こう、という気になったのだ。
「ガウリイ。
 もう日も暮れかけてきたし、今日はここで野宿するわよ」
 彼の傷がとりあえず治ると、あたしはそう言った。
「もうか?
 ずいぶんと早いなー、めずらしく」
「この子からちょっと話、聞きたいからね。
 どーやら眠っちゃったみたいだから、連れてくんなら背負ってくことになるけど。
 あんたも人背負って山道を歩きたくなんかないでしょ?
 だいいち、もし彼が山から帰る途中だったら、逆方向に行くことになっちゃうし。
 それとも――あたしみたいな、か弱い乙女に背負えってゆー気?」
 ガウリイは後ろ頭をかきながら、
「いや、そーは言わんが――」
「なら、ここにいるしかないでしょ。
 さ、わかったんならはやく野宿の準備、準備!」
「へいへい」
 あたしにせかされ、準備を始めようとしたガウリイだが、ふとあたしのほうに振り向くと、
「あ、リナ。一つ言っとくけどな」
「ン?」
「もうちょっと、自分のことは理解したほうがいいと思うぞ」
「うるさいっ!」
 こうして、あたしたちは初日の夜を迎えることとなった。

 その少年が目を覚ましたのは、すでに夜も深まりかけてきた頃だった。
「……ここは……?」
 まだ意識がはっきりしていないのか、起きあがって頭をおさえる。
「どーやら、気がついたみたいね」
 彼のそばで様子を見ていたあたしが、声をかける。
「おー、目覚ましたか?」
 少し離れたところで、見張りをしていたガウリイもやってきた。
「……あなたたちは……?」
 それだけつぶやくと、彼は突然思いだしたのか、
「あの怪物たちは!? いったいどうなったんです?」
「安心して、ちゃんと倒したわ。あたしたちがね」
 あたしは一通りの事情を説明した。
 デーモンを倒したこと、そのときの傷はすでに治したこと、そして――あたしたちが人を捜すた
めに、山に向かっていることも。
「……まあ、それで助けたお礼ってのは、ちょっとアレなんだけど……
 あなたがなんでここにいるのか、話してほしいのよ」
 少年――グレイスという名前らしい、は少し考える素振りを見せると、
「僕も、山に向かう途中だったんです。
 ちょっと、事情があって」
「でも、あなただってこの山にまつわる噂、知ってるでしょ?
 なのになんだって、たった一人でこの山に来ようだなんて……」
「この山で暮らしてたんです、僕は。
 でも一年前ぐらいに山を下りて、それからはずっと来てなかったんですけど、今回の話を聞いて
、いてもいられなくなって――」
「……何かわけありのようね。
 話してくれない? もしかしたら、あたしたちの捜してる人の手がかりになるかもしれないの」
「……なんていう名前なんです? その人」
「メリッサ、よ」
「え!?
 でもあの人は、一年前に行方不明に……」
「……行方不明?」
 そこでグレイスは、あたしの問いに一つ間をおくと、
「話は、いまから一年ほど前にさかのぼります――」

 少し昔。
 グレイスは、この山の中腹にある村に住んでいた。
 村の人口はぜんぶ合わせても十数人ほどで、集落と呼んだほうが正しいほどだった。
 住んでいたのは、二十代前半から、上の方でも三十代後半までの男が大半で、女子供はほとんど
いなかった。
 なぜなら、そこは狩人の住む村だったからである。
 あたしもはじめて知ったのだが、この山は野生動物の宝庫らしく、その動物を使った料理なんか
は、ふもとの街でよく食べられているそうなのだ。
 おそらく、あたしたちが昨日食べたモンの中にも、入っていたのだろう。
 とにかくそういうわけで、彼らは、野生動物の狩りをしては、獲物をふもとの街に持っていって
売る――そうやって生計を立てていた。
 そんなある日、村に二人の男女がやってきた。
 名前は――ケストとメリッサ。
 二人は、二、三日村に滞在すると、その後はそこから半日ほど歩いたところにある少し大きな洞
窟へと行き、そしてそこに住み着くようになった。
 それ以降は、たまにケストが村に食料などの調達に来る以外は、ほとんど二人を見ることもなく
なった。
 グレイスは彼らが洞窟の奥で何をやっているのか、興味を持った。
 が、その洞窟は普段から、村の人たちに近づかないよう言われていた場所であり、また子供一人
で山道を歩くのも怖かったので、結局知ることはできなかった。
 その後一度だけいってみたことがあったが、途中にどうしても開かない扉があったため、結局何
もわからなかった。
 ところが、彼らが来てから半年が過ぎたある日、久しぶりに二人で村にやってきたケストとメリ
ッサは突然、グレイスを洞窟に来ないか、と誘ってきたのである。
 願ってもないこと、とグレイスはその誘いを受けた。
 そして翌日、グレイスは胸をおどらせながら、三人で洞窟へと行き、その奥にある扉の前に立っ
て――

「次に気がついたときは、全身傷だらけで、洞窟の出口にいました……」
 グレイスは、そのときのことを思い返しているのか、少し弱い声で言った。
 あたしたちは、中央で燃える火をはさんだ、彼の向かい側に座って、ずっと黙ったまま、彼の話
に耳をかたむけている。
「隣には、同じく大ケガを負ったケストがいて――
 そして、メリッサの姿はどこにもありませんでした。
 そのあと僕は、なんとか自力で村までたどりついたんですけど、ケストのほうは、僕が事情を話
して他の村の人が洞窟に行ったときには、すでに姿はなかったみたいで……
 それ以来、二人を見たという話は、僕は聞いていません」
 あたしはそこで一度、視線を上にそらした。
 ……うーむ。
 すなわち、メリッサもケストも行方不明だが、いっしょにいなくなったわけではない、というこ
とである。
 もちろん今はいっしょにいるかもしれない。が、ケストとちがって、メリッサはすでにそのとき
死んでしまったかもしれないのだ。
 だとしたらおそらくは――洞窟の中で。
 ……これは、ちょっと望みうすいかもしんない……
「なあ、一つ聞いていいか?」
 あたしがグレイスの話を聞いて考えごとをしていたとき、不意にガウリイが片手を上げた。
「ん? めずらしいわね、あんたが質問だなんて」
「いや、ちょっと疑問に思ったんだがな」
 そう言うと、ガウリイはグレイスのほうを向き、
「噂とやらは、けっこう前からあったんだろ?
 ンじゃあ、なんであんたは今ごろ山に行こうとしてるんだ?
 いや、そもそもなんで山を下りてるんだ?」
 ……あ。
 なるほど、たしかにそういえばそうである。
「ガウリイ、あんた、たまにはいいことゆーわねー」
 あたしはガウリイの背中を、ぽんぽんと叩き、
「で、どうなの?
 半年も山を下りてるからには、なんらかの事情があったんでしょ?
 それに『住んでた』っていうことは……」
 グレイスの顔を見る。
「……ええ。僕は村から出ていったんです。
 村の人たちにも勧められましたし、正直もっといろんなところに行ってみたいな、って昔から思
ってましたから」
「村の人たち、って親は――」
 ガウリイの問いに、グレイスは一瞬黙り込み、
「いないんです。
 みんなは、町で一人泣いていたところを拾った、って言ってました。
 昔、本当の親に捨てられたみたいで――この村で過ごした数年間のことしか覚えてなくて」
「……すまん。
 ヤなこと聞いちまって」
「いいんです、昔のことなんですから。
 とにかく、ここに戻ってくるのは、あのとき以来になるんです」
「――つまり、久々に戻ってみたら、いつのまにやら大変なことになってた、ってわけね……
 ま、事情はよーくわかったわ。
 で――」
 頭の後ろに手を組み、背後の木にもたれかかりながら、あたしはたずねる。
「これからどうするの?」
「……え……?」
「……はっきり言わせてもらうけど。
 さっきみたいに、ただのレッサーデーモンにすら歯がたたないようじゃ、これから先、いくら命
があってもたりはしないわ。おそらくね。
 それにいままでの話から考えても、村の人たちが無事にいるとは思えないし。
 それでも、まだ行く気はあるのか、ってきいてるのよ」
「……たしかに、そうかもしれません。
 僕は狩人としての腕もまったく未熟だし、村にいったってどうしようというわけでもありません

 ――でも、なぜかいかなきゃならないような、そんな気がするんです。
 というより、誰かが僕を呼んでいるような……
 それに――
 悔しいでしょう? 何もわからないままでいるのって」
 ――この子――
「半年前、いったい何があったのか、僕は知りたいんです。
 そうしなければ、この村にもふんぎりをつけられないような気がして」
「……そう……
 わかったわ。
 来る? あたしたちといっしょに」
 グレイスは、顔を上げた。
 しばしの静寂の後、ふたたび態勢を起こして言った、あたしの言葉に。
 そしてそこに浮かぶ、驚きの表情。
「旅は道づれ世は情け、ってゆーでしょ。
 あたしたちにとっても、現地にくわしい人は欲しいしね」
「……でも……」
 不安そうなグレイスの顔を、あたしはじっと見つめ、
「この美少女天才魔道士、リナ=インバースに二言はないわ。
 行きましょう、ディストル山に」
 それを聞いたグレイスの表情は、一気に明るくなり――
「あ、ありがとうございますっ!
 ぜひとも、ごいっしょさせていただきます!」
 と言いつつ、何度もあたしたちに向かって頭を下げる。
「そんなていねいにしなくていいわよ。
 とにかくそうと決まれば、今日はもう寝たほうがいいわ。
 まだ――先は長いんだしね」

 前日に比べて、徐々に荒れつつある山道だけが、あたしたちが先へと進んでいることを実感させ
てくれる。
 見渡せば、周りにはどこまでも広がる木々。
 そして頭上には、その木々の間から、かすかに光をのぞかせる太陽。
 だが、そんな自然を鑑賞する気など、あたしにはさらさらなかった。
「どうしたんですか、リナさん。
 なんだか今日は、いつもより周りをきょろきょろ見てますけど……」
 これまでに比べて、あたしの言葉数が少ないのもあったのだろう、グレイスが少し心配そうな声
でたずねてきた。
 ――街を出てから、三日目の昼。
 グレイスの話では、山まで五日、というのは実際にはその村まで五日、という意味なのだそうだ
。それにどうやら、すでにここらへんは、山の中に含まれるらしい。
 そしてグレイスの話で出てきた洞窟は、そこからだいたい半日ぐらいいったところにある、とい
うことだった。
 もしその洞窟が、あたしたちの最終目的地だとしたら、おおよそ半分来たことになる。
「ン? ああ、ちょっとね。
 あんたにも話したでしょ、黒ずくめの男のこと。
 そろそろ姿を見せるんじゃないかな、って思ってね……」
「……ほう……
 ということは、ご要望にお応えする形になるのかな」
 ……!?
 驚いてあたしは足を止める。
 声とともに、前方の木の後ろから姿を現したのは――
 まさに暗殺者、といった全身黒ずくめの、声から察するに、男だった。
 最近おなじみとなった黒装束に、黒マスク。ごていねいにはいているものまでがぜんぶ黒。
 そして外にのぞかせているのは、短く切られたやはり黒い髪と、そして、黒い瞳だけだった。
 ……こいつ、できる。
 一瞬であたしはそう感じ取った。
 あたしが神経を張りめぐせていたにもかかわらず、気配がまったく感じられなかったからである

 しかも、ガウリイの様子からして、彼も気づかないほどの。
 ……もしや、話で出てきたヤツか!?
「……あんた、何者?」
 とりあえず確かめるために、あたしは問う。
「お前たちがいま言っていた奴さ。
 話を聞くかぎりでは、少しばかり事情にくわしいようだな……
 生存者は出さないようにしているのだが……誰かがしくじったか」
「……へえ……
 ってことは、あんた一人でやってるわけじゃないのね。これは」
 もちろんあたしも、そんなわけがないことはわかっている。
「私はただの一部下にすぎない。
 言われた命令を、守るだけのな」
 あたしは、ちらっ、とガウリイに目配せをした。
 無言でうなずくガウリイ。すでに、いつでも剣を抜けるように構えている。
 それを確認すると、あたしはふたたび正面を向き、
「ンで、その下っぱさんがあたしたちに何の用?
 あんまりノンビリはしてらんないから、手短にお願いしたいんだけど」
「……そうか。
 なら聞く。
 お前たち、この山に何しに来た」
 そいつの言葉には、普通とは違う、有無をいわせない威圧感があった。
「……ちょっと、ヤボ用でね」
 あたしの挑発的な答えに、しかしその男は全く反応を見せず、
「……ほう……それはまた、たいした野暮用だな。
 殺されることがわかっていながら、わざわざ来るのだからな」
「残念だけど、そんなたいしたもんじゃないわよ。
 殺されるつもりなんか、これっぽっちもないから」
「……ふっ」
 黒ずくめは、聞こえるか聞こえないかという声で、そうつぶやいた。
「……なかなか言うな……
 では見せてもらおうか。その、自身のほどを」
 そう言うと、黒ずくめは両手を後ろにやり――
 そしてそれぞれの手に、一本ずつ剣を抜きだした。
 二刀流!?
「はあぁっ!」
 相手が剣を抜き出すのを見て、すばやく自らも剣を出したガウリイが、先手必勝とばかりに突っ
込んでいく。
 そして、力強く地面を蹴ると、両手でつかんだ剣を大きく振りかぶる!
 それに対し、黒ずくめは右手に持っている剣を、横向きにして頭の前に構える。
 ンな、片腕で正面から受け止める気か!?
 並の剣士ならまだしも、ガウリイの剣の腕は掛け値なしの超一流である。
 その渾身の一撃を、片腕で受けようなど――
 かきぃぃん!
 金属同士がぶつかり合った、甲高い音が響く。
 ――瞬間。
 あたしが目にしたのは、ガウリイの剣がしっかりと、その黒ずくめの右手の剣に、止められてい
る光景だった。
 バカな、受け止めたっ!?
 そしてそこからすばやく、黒ずくめは引き構えていた左手の剣で突きを繰り出す!
 ガウリイはそれを何とか横に跳んでかわす。
 だがその表情は、まさか正面から受け止められるとは思わなかった、というのを表していた。
「氷の矢!」
 なにはともあれ、あたしはガウリイが離れたのを見て、唱えておいた呪文を発動させる!
 ――しかしこれは、黒ずくめとの距離があったため、楽々とかわされてしまった。
 ……うーむ。魔族とかそっち関係だったら、よけないで消し去るとかするか、とか思ったんだけ
ど……
 剣を使ったりするところからして、どうやらそうではないようである。
 ――もちろん、常人ではないことも確かであるが。
 黒ずくめは今度は、両手に剣を持ったまま、こちらに向かって駆け出した!
 視線からしておそらく狙いは、あたし。
「おおぉっ!」
 させじと、斜め後方からガウリイが斬りかかるが、右手の剣で受け流されてしまう。
 呪文を唱えてるヒマはないっ!
 あたしはそう判断し、左手の剣の振り下ろしを、すばやく右によける。
 黒ずくめは第二撃をかけようと、よけたあたしの方に向き直り――
 すでに右手は振りかぶられている!
 ――よけられないっ!
 だが、その瞬間、黒ずくめは真後ろに振り向く。
 ふたたび響く金属音。
 ガウリイが背後から斬りかかったのを、それに気づいた黒ずくめが、振りかぶっていた右手の剣
で受け止めたのだ。
 だが、今度はもう片方の剣で反撃する余裕はなく、そのまま繰り出されるガウリイの攻撃を受け
るのでせいいっぱいである。
 おっし、チャンス!
 あたしは後ろに下がって少し距離を置くと、すばやく呪文を唱える。
「ガウリイ、離れて!」
 その声に反応して、ガウリイがその場から離れた瞬間――
「炸弾陣!」
 どごぉぉん!
 男の立つ地面が、いっせいに吹き上がった。
 男によける余裕はなく、まともに呪文をくらう。
「……くっ……」
 全身傷を負い、さすがに不利と判断したか、黒ずくめは道を外れ逃げ出した。
「待てっ!」
「いいわよ、ガウリイ」
 すぐさま追おうとするガウリイを、あたしは引き止める。
「ここの地理に関しては、向こうのほうが圧倒的に上だわ。
 むやみに追いかけても、逆にこっちが迷うだけよ」
「……そうだな」
 納得し、剣をしまうガウリイ。
 あたしもガウリイも、ほぼ外傷はなかった。
 振り返り、なかばぼーぜんとしている感じのグレイスに、あたしは話しかける。
「だいじょうぶだった?」
「……は、はい」
「……にしても……
 あいつ、ただモンじゃなかったな」
「……ええ……」
 ガウリイの言葉に、あたしは小さくうなずく。
 料亭の話に出てきた奴といい、いまの奴といい……
「どうやら、一筋縄ではいかないみたいね……」
 あたしは、はるか先まで続く山道の先に視線を合わせ、そうつぶやいた。

 その後、予想に反して旅は順調に進んだ。
 あの黒ずくめからあたしたちのことを聞いて、第二、第三の刺客が現れるだろうと思っていたの
だが……そんなこともなく。
 あたしたち以外にも山に向かっている者がいるだろうし、そっちの相手もしなければならないの
だろうが、どうやら連中の数はあまり多くないらしい。
 それとも、山道で待ちかまえているのは一部の者だけで、本拠地にはたくさんいるのかもしれな
いが。
 とにもかくにも、そんな平和の旅についに変化が訪れたのは、もうすぐ村に着こうかという五日
目の昼のこと――
「あとちょっとで、着くはずです。
 この先はこの山道で唯一木が生えてない場所で、小さい広場みたいになっているんですよ」
 村が近いからなのか、グレイスの表情は明るく、足取りも軽い。
 ――だが、村の人たちが無事でいるとは限らないのだ。
「……やっぱり、あの話は本当だったみたいね……」
 走って、先のほうへと行ってしまったグレイスを見ていたあたしだったが、ふと真剣な面もちで
、隣を歩くガウリイに言った。
「何だ、あの話って?」
「街で三人組の一人から聞いた話のことよ。
 ほら、もう五日目になるのに、今まで一回も人の死体を見てないでしょ?」
「……そういや、そうだなー。
 で、それがどうしたんだ?」
 立ち止まって思い返したのち、ガウリイは言う。
「あの話だと、その黒ずくめの男は、人間を抱えて山のほうに向かっていたことになってるのよ。
 まあ、おそらく死体だと思うけど……いまだにあたしたちがそれを一度も見てないってことは、
本当にぜんぶ山の方に運んでるってことになるわ」
「……で、なんでそんなことするんだ?」
「さあね……回収した死体を何かに使っているのかもしれないわ。
 それとも、死体を人の目にふれさせたくないのか」
「ふーん。
 ……ところでよ、なんでグレイスを連れていく気になったんだ?」
 わかったような、いや、おそらくわかっていないのだろうが、いちおううなずきつつ、ガウリイ
は話題を変えた。
「ン? ああ、そのことね。
 ――わかるのよ。あの子の気持ち。
 記憶喪失って、あたしも何度も経験したから」
「……い、いや、それって何度もなるモンか……?」
「まあね。
 昔、姉ちゃんに毒味の特訓受けてたときに、本物あてたことがなんどもあったから」
「……じつの妹にやることか、それ……?」
「ふっ。まさかメシ食べるのに命かける日が続くとは思わなかったわよ。
 ンで、その間はあることないこと吹き込まれてねー。
 いつのまにか大金借りたことになってたり、近所の友達といいなづけになってたり。
 ……しまいに、じつはお前はミミズとナメクジが駆け落ちして生まれたんだ、なんて言われた日
にゃ……
 家出ようかと思ったわよ。マジで」
「……い、いやー……
 ……それはさすがに、記憶がなくてもウソだとわかるんじゃねーかなー、なんて……」
「――子供ってのは、純情な生き物なのよ」
 ――広場に入ったその少し先のところで、グレイスは立ち止まっていた。
「グレイス、お待たせ」
 あたしが声をかけるが、グレイスの顔は正面を向いたままで、返事もない。
「……グレイス?」
 不思議に思い、前方へと視線を向けると、そこには――
 二つの、黒ずくめの姿があった。


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2742ディストルの惨劇 二 2ブラントン 5/17-15:14
記事番号2741へのコメント

 その二人は、少し離れて、二つしかないこの小さな広場の出口――村へと続くその山道の前に立っていた

「やっと到着かい。待ちくたびれたぜ」
 陽気な声で口を開いたのは、背の低い方。
「……へえ……待っててくれるとは、わざわざご苦労なことね。
 でもンなことなら、こんなとこにいないで、そっちから来ればよかったんじゃない?」
 皮肉を含ませて、あたしは疑問に思ったことを口にした。
 正直、不意打ちもじゅうぶん想定していたのである。あたしは。
 グレイスの話では、村へと向かう道はこれしか存在しない。
 そのことは向こうもわかっているはず。だから、その気になればいつでも奇襲をかけられたのだ。
「ンなの、つまんねぇだろ?
 ここまで来るような歯ごたえのある獲物をしとめるときは、やっぱ正面から殺らねえとなぁ。
 相手が気づかないうちに殺るのもいいが……こないだやっちまったしな。
 それに、こいつはそういうのが好きじゃないみてぇだし」
 そいつは、斜め後ろに立っていたもう一人の方を見やった。
「いずれにせよ、ここまで来たヤツはお前らが初めてだ。
 歓迎するぜ」
 言っている内容とは裏腹の殺気を隠そうともせずに、そいつは言った。
「……歓迎する気があるんなら、まず自分の名前ぐらい言ったらどう?
 前に出てきた奴も、何も言わなかったし。
 あんたたち、基本的な礼儀ってモンがなってないわよ」
「……そいつぁ、悪かったな。
 オレの名は――」
 口にしようとしたとき、背の高い方が、そいつの肩に、ぽんと手を置いた。
 振り返る黒ずくめ。そして何かに気づいたような表情をし、
「……あ、そうだったそうだった。
 名前は言えねぇ、わりぃんだけどな」
 とあたしの方に向き直った。
「ま、とにかくあんたらにはここで死んでもらうぜ。
 とくに……」
 そういうと、そいつはグレイスを指さした。
「お前には上から命令が来てるんでな。
 悪いが絶対に見逃せねえ」
「えっ!?
 ……そんな、いったい……」
 おどろくグレイス。
 ……そりゃーたしかに、いきなりそんなこと言われりゃあ、ふつーはうろたえるだろう。
「『命令』ってのは興味深いわね。
 誰の命令で、何のためにグレイスは狙われなきゃなんないの?」
「……そんなことオレに言う義務はねーな」
 あたしの質問は、しかしあっさりと却下された。
「そう?
 あんた口が軽そうだから、案外しゃべってくれるかと思ったんだけどね」
 あたしは、そう挑発的な言葉を放つ。
 これで乗ってくればこっちのモン!
「……身の程はわきまえてるつもりさ」
 ちっ、残念。
「まあいいわ。
 ってことは、何か知られちゃ困る理由があるようだけど……
 どーせこれ以上聞いても、話してくれそうもないしね。
 それじゃ――
 さっさと始めましょうか」
「そうだな……」
 そう言いつつ、黒ずくめはゆっくりと態勢を低くし、構えをとる。
「オレは剣士とやる。
 女の相手は、まかせたぜ」
 彼の言葉に、ゆっくりうなずく背の高い方。
「グレイスは下がってて。
 ガウリイ、向こうはああ言ってるけど、あんたはどうする?」
「あいつらの言うとおりでいいぜ。
 ずいぶん、自信があるみてーだしな」
 問いかけるあたしに対し、ガウリイはそう答える。
「オーケイ、わかったわ」
 言って、あたしは背の高い方の黒ずくめに体を向ける。
「よし、ンじゃ――」
 どばごわぁん!
 そう黒ずくめが言いかけたとき、いきなり爆撃音が響いた。
 それも――広場の横側、森の中から。
 新手の敵!? いや、でもそれはおかしい――
 音のしたほうを見ると、そこからは木々の間を駆けて、もう一体の黒ずくめが姿を現す。
 そいつは、あたしたちと黒ずくめ二人組の両方をすばやく一瞥すると、たった今自分が出てきた森のほう
へと向きを変える。
「逃がしゃしねーぜっ!
 振動弾っ!」
 そして、ふたたびその方向から、今度は声とともに多数の光の玉が、その黒ずくめに向かって飛んできた

 ――この声、まさか――
 それをその黒ずくめは、片手をばっと前に出し――
 ばじゅっ!
 あっさりとはじき散らした!
 ――っ!?
「ちっ。
 やっぱ並の呪文じゃきかねーわけか」
 そうつぶやきながら、あたしたちの前に姿を現したのは――
 黒い髪に戦士ふうの格好、ちょっとキツメの目つきが特徴。
 宝探し屋で、自称ミリーナの愛の奴隷――ルークだった。

「ルーク!?」
 彼はあたしの声を聞くと、こっちに向き直り、
「ようやく追いついたみてーだな」
 と、一言声を出した。
「――また、会ったわね」
 そして、遅れて姿を現したミリーナも。
「『追いついた』って、あんたたち――」
 だが、あたしの言葉はルークにさえぎられた。
「話は後でじっくりするとしよーぜ。
 どうやら、そっちも取り込み中みてーだしな」
 そう言うと、いつの間にか合流している黒ずくめ三人組に目を向けた。
「なるほど、こいつらとバトルってたのか」
 さっきからずっとしゃべっていた小さいほうの黒ずくめが、そう声を出した。
 ちょうど今現れた三人目の黒ずくめは、身の丈でちょうど二人の中ぐらいになっている。それでなんとか
三人の見分けがついているのだ。
「……にしてもわかんねぇな」
 続けて黒ずくめは、つぶやいてあたしたちに視線を向ける。
「おめーら、なんでこんなところまでわざわざ来るんだ?
 村に行っても人なんていねぇし、はっきりいってムダ足だってのに」
「……人なんて……いない?」
 ……それって、まさか……
「――しゃべりすぎだぞ。
 そんなことまで言う必要など、我々にはない」
 三人目の黒ずくめが、そいつに低い声で告げる。
 ――人がいない、ってことは――
「……それじゃ、村の人たちは!?」
 グレイスが声を上げた。
「言っただろ。
 人なんていねぇって」
 それが、相手の答えだった。
「……はっ、なにバカなこと言ってんだか」
 ルークがつぶやく。
「だいたい、何もねえンなら、てめーらがここにいる理由だってなくなるじゃねーか。
 そんな陰気くせえカッコして、何も怪しいものはねえだなんて言われてな、そんなの信じる奴がどこにい
るかよ!」
「……信じる信じないは貴様らの勝手だ」
 答えたのは、三人目の黒ずくめ。
「そーかい。
 ならオレは信じねえ、ってことにさせてもらうわ」
「ルーク、いいかげんにしなさい」
 だんだん彼の言葉が挑発的になっていくのを感じ取っただろう、ミリーナが一言そう告げる。
「……わかったよ」
 やはりというか、ミリーナに言われると、ルークもあっさり引き下がった。
「さて、と。
 いつのまにか三対四に変わっちまったが、口先だけの前哨戦はこれぐらいにして――
 さっさと始めようぜ。
 本物の殺し合いってヤツをな」
「……三対四?
 三対五のまちがいじゃない?」
「いいや。三対四だ」
 あたしは周りを見回した。
 あたし。
 ガウリイ。
 ルーク。
 ミリーナ。
 そして――
「グレイス!?」
 いない。
 さては、さっきの話でいてもたってもいられなくなったか!?
「任せろ。
 行き先はわかっている」
 そう仲間へと言い残し、黒ずくめの一人――さっき現れた三人目の奴は森の中へと消えていった。
「追うわよ!
 きっと村に向かったはずだから!」
 あたしも急いで向かおうとした――
 刹那。
 あたしの目の前を、何かがヒュッ、と横切った。
 ――っ!?
 ぶすっ。
 そしてそれは少し離れた一本の木に突き刺さる。
 目を向けたその先にあったのは、一本のナイフ。
「おいおい、オレたちのとのバトルはどうなるんだ?
 約束やぶって行かせるわけには、いかねぇなあ」
 服装とはおよそかけ離れた陽気な声に、あたしは黒ずくめたちに視線を戻す。
 いまナイフを投げたのはこいつか、それとも――?
 あたしは無言で、もう一人のいまだに沈黙を守ったままの奴に視線を移す。
 マスクにおおわれ、その表情はまったくうかがえない。
 ただ一つわかるのは、その目からはっきりと伝わってくる、殺気のみ。
「おい!」
 ルークがあたしに声をかけた。
「そっちはオレたちに任せな!
 なんかよくわかんねーけど、つまりあの子に手を出させなきゃいいんだろ!」
「……わかったわ。
 それと、さっきのを見るかぎり、奴らはおそらく――」
「……ああ、わかってる」
 うなずくルーク。
 そして二人もふたたび森の中へと消えていった。
 残ったのは、あたしとガウリイ、それに黒ずくめ二人だけだった。
「これで邪魔者は消えたな」
「……いいの?
 グレイスの命が欲しいなら、こんなとこであたしたちと戦わないで、後を追いかけたほうがいいんじゃな
い?」
「命令よりも、オレにとっちゃあ、こっちの方が大事さ。
 さっきから体がうずうずしててな」
「悪いけど、あんたの話を聞いてる余裕はなくなったわ。
 そんなに楽しみならさっさと始めましょ」
「そうかい、なら……
 いくぜっ!」

 ざっ。
 小さい黒ずくめのその言葉とともに、背の高い方はいきなり道をはずれ、その左右に生い茂る木々の間へ
と入り込んだ。
 あたしも迷わずにそれを追いかけ、森へと入っていく。
 森の中から、道の上にいる者を見つけるのは簡単だが、その逆はそうはいかない。
 だから、あたしがわざわざ、そこにとどまっていることはない。
 だが、自らそうしたということは、こういうところでの戦いに自信を持っている、ということである。
 ぱたっ。
 ――どこにいる。
 動かしていた足を止め、あたしは周りを見回す。
 黒ずくめの姿は……ない。
 それを確認すると、あたしは呪文の詠唱を始めた。
 このまま探し回っても、らちがあかない。ならば相手に先にしかけさせ、そこを呪文で迎撃したほうが、
てっとりばやい。
 あたしの耳に入ってくるのは、かすかな木々のざわめき。
 そして、少し離れたところから聞こえる、ガウリイたちの戦闘の音。
 金属音が聞こえてこないところからすると、相手はそういった物は出していないらしい。
 それにときおり聞こえる、ズガガッ、という音は、木が倒れるときのものなのだろう。
 あたしはふたたび、周囲に気をはりめぐらす。
 ざわざわざわっ。
 ――後ろっ!
 あたしの後方、少し離れた上のほうから、木の枝が激しくゆれる音。
 すぐさま振り返り、あたしは唱えた呪文を発動させようとする。
 ――が、その瞬間目にしたのは、あたしに向かって木の枝から飛びかかってくる、一匹の狼の姿だった。
 黒ずくめじゃない!?
 あたしは一瞬動揺して、呪文を発動させるタイミングを逸した。
 そしてそのまま、爪で切り裂こうとするその狼の攻撃を左にかわす。
 攻撃がはずれ、地面に着地する狼。
 全身は、多少白が強い灰色。今はこっちを向いていないためわからないが、さっきちらっと見たかぎりで
は、額に一筋の傷跡がある。
「振動弾!」
 あたしは唱えていた呪文を放つ。
 が、その狼はすぐさまあたしから離れていったため、赤い光球は何もない地面に当たっただけだった。
 ……いまのは……?
 走り去る狼を追おうとはせず、あたしはその場に立ったまま、考える。
 ――が、それはすぐに中断させられた。
 背後から来る殺気。
 そして、風を切る音。
 がばっ。
 あたしが横に倒れ込むと、ちょうどいまあたしが立っていたところを通過する、数本のナイフ。
 ――こんどこそ、まちがいないっ!
 急ぎ体を起こし、あたしは視線を、ナイフの飛んできたほうに向ける。
 少し離れたところに見えるのは、一つの黒ずくめの姿。
 その黒ずくめは、後ろに振り返り、ふたたび走り出す。
「ちょっとぉっ!
 せーせーどーどー、正面からかかってきなさい!」
 どなりつつ、あたしはそれを追いかけた。

 ――がさっ。
 背後から聞こえる、草を踏みしめる音。
 足を止め、振り返るその先にいたのは、さっきの狼だった。
 額にある斜め向きの一筋の傷が、それを表している。
「どーやらあんたの主人は、あいつみたいね……」
 こいつは明らかに、あたしに殺意を持っている。
 しかもさっきは、こいつがいなくなった瞬間、後ろからの攻撃がきた。
 つまり――
「氷の矢!」
 あたしは、急ぎ唱えた呪文を発動させた。
 前方ではない。あたしの、後ろに向かって。
 ざざっ。
 何かが動く音がした。
 振り向いて見たその先にある、予想通りの黒ずくめの姿。
 黒ずくめは、自分の方へと飛んできた数本の氷の矢を、よけてかわす。
 ――やっぱり。
 狼にあたしが気を取られているスキに、背後からナイフで攻撃。
 黒ずくめの作戦はおそらくそうなのだろう。
 敵もそれが見破られたと悟ったのか、ふたたびその場から走り去る。
「こらぁっ!
 ちまちまやってないで、いっきにきなさいよ、いっきに!」
 ……こーゆーの、あたしのいちばん嫌いなタイプ……
 黒ずくめを追いかけながら、あたしは心の底からそう思った。

 ――ぴたっ。
「……なに……これは……」
 あたしは足を止める。
 前方に広がる景色を、目の当たりにして。
 そこでは、森全体にそびえ立っているはずの木が、ばっさり切り倒されていた。
 一本ではない。あたしの前にある左右両方何本もの木が、あたしの首ぐらいの高さからすべて切断されて
いたのだ。
 そして上の部分は、辺りに何本も横たわっている。
 さっきから聞こえていた音で、このような状況はわかっていたのだが、これはあたしの想像とは明らかに
かけ離れていた。
 一つは、ここまで大量に。そしてもう一つは、こんなにスッパリと切られていること。
 こんなのは呪文では作れない。少なくとも、あたしの知識の中には存在しない。
 これではまるで、かなりの殺傷性がある研ぎすまされた刃が、いくつも切断したような――
「まさかっ!?」
 あたしは急ぎ駆け出した。
 こっちはガウリイたちのいる方向。そしてガウリイには、こんなマネはできない。
 つまり――
 びゅん。
 突然、音がした。
 あたしは何かが触れたような感じがして、ほおに手をやる。
 そしてそれを、そのまま顔の前に持ってくる。
 ……血……
 ずががががが……
 さらにあたしの後ろから聞こえてくる、何か大きな物が動いていく音。
 もはや見る必要もなかったが、あたしはその方向へと目をやった。
 どさぁん!
 倒れる、一本の木。
 それを見て、あたしははっきりと確信した。
 ――不可視の刃。
 たったいま、あたしの顔に傷をつけ、この木を切断したもの。
 そして、ここに広がる光景を作り出したもの。
 ガウリイと戦っているはずの、あの黒ずくめが発しているもの。
 それは同時に、あの料亭で聞いた話が本当だった、ということを表していた。
『相手が気づかないうちに殺るのもいいが……こないだやっちまったしたな』
 あたしの頭に、先ほどの黒ずくめのことばがよみがえる。
「うおおおおっ!」
 あたしの耳に入ってくる、ガウリイの声。
 現場は近い。だがそっちは、倒れている木がじゃまして、ここからは見えない。
 声からして、ガウリイは無事なのだろう。それに、でなければさっきの刃が発生する理由がない。
 ただこれは、ガウリイにとって明らかに不利である。
 相手がそういう素振りを見せたらかわす。それしかないのだ。
 もし前回と同じく物質的なものであれば、切ることも可能なのだが――
「ま、何はともあれ……」
 そうつぶやいて、拳をぎゅっ、とにぎりしめつつ、
「乙女の柔肌に傷をつけるとは、言語道断!
 そんな不届き者には、このあたしが目にもの見せちゃるわっ!」
 あたしはそう宣言すると、さっきよりもさらに速く走りだした。

「ガウリイ!」
 ガウリイが地を蹴ったのと、あたしが現場に到着したのは、ほとんど同時だった。
 対峙する黒ずくめは、両手を振り、おそらくその見えない刃を発生させているのだろう。
 が、ガウリイの体にできるのはかすり傷だけである。
 そうして間合いをつめ、ガウリイはいっきに飛び上がり、剣を大きく後ろに振りかぶる!
 空中では体の自由はきかない。刃のかっこうのまとになる。
 案の定、黒ずくめは右、続いて左、と手を横に薙ぐ。
「おおぉぉっ!」
 が、ガウリイは振りかぶった剣を前にうち下ろしながら、まっすぐ黒ずくめの頭上めがけて斬りかかる。
 ガウリイの体に傷はできない。もちろん目には見えないが、おそらくガウリイの剣が刃を切断しているの
だろう。
 ということは、やはりこの刃も物質的なもの――
 黒ずくめはすんでのところで、一歩後ろに下がって、剣を後ろにかわす。
 しかし、それを予測していたガウリイは、着地するとすぐさま横薙ぎの一閃をくりだす!
 ――かわせるタイミングじゃない。
 あたしはそのとき、はっきりとそう思った。
 が、黒ずくめは、そこでいきなりひざから上ぜんぶを、ぐにゃっと後ろに折り曲げた!
 なんてやわらかいヤツっ!?
 びゅん。
 ガウリイの剣が、むなしくその上の空を斬る。
 そこですぐさま再度体を起こし、黒ずくめは振りかぶっていた右手を一閃させる!
 予想外のことに反応が遅れ、ガウリイはかわしきれない。
 じゃばっ。
 右腹に少し深く、切り口ができる。
 そしてそこから流れ出る、血。
 ガウリイが左手で切り口を押さえつつ、いったん距離をとる。
 間髪入れず襲いかかる、黒ずくめの攻撃。
 ざっ! ばしゅっ!
 ガウリの剣が空を切るたびに、音が響く。
 はたから見ては、何がどうなっているのかさっぱりわからないが、ガウリイは相手の手の動きと、超一流
のカンとウデを駆使して、紙一重のところでその見えない刃を断っているのである。
 だが、飛び道具を持っていないガウリイに対し、相手には見えない刃という強力な武器があり、このまま
では勝ち目はない。
 そのためガウリイは次々と刃をかわしつつ、じょじょに敵に近づいていく。
 もういちど接近戦に持ち込み――そして、しとめるために。
 よしっ!
 あたしは、ガウリイと黒ずくめが離れたのを見て、呪文を唱え始めた。
 さっきまでは巻き込む可能性があったが、今ならその心配もない。
「あたしの顔に傷をつけたぶん、きっちり何倍にもお返しして――」
 と、そのとき。
 突然、あたしは背後から来る殺気を感じた。
 振り返ると、その奥から何かが、猛然とこっちに向かって走ってくる!
 ――灰色の狼。
 さっきまであたしに襲いかかってきていた、あいつである。
 あたしは呪文を変更し、ふたたび詠唱を始めつつ、じっと、あたしとの距離を縮めてくるそれを見た。
 相手は、あくまで猪突猛進。
 ならばこんどこそ寸前でかわして、呪文をたたき込む!
 距離はまだある。ちゃんと見れば余裕でかわせるはず。
 に、しても……
 そのときあたしは、ふと思った。
 ――いくらなんでも離れすぎではないか、と。
 これでは相手にとっても、かわされることは目に見えている。あいつに指示を出しているはずのあの黒ず
くめが、そんなこともわからないはずがない。
 これではまるで、よけてください、と言っているようなもの――
 もしやっ!?
 ――次の瞬間。
 別の強い殺気を感じとって、あたしは横に振り向いた。
 目に映ったのは、こっちに向かって飛んでくる、上方から放たれた数本のナイフ!
 あたしは後ろに飛んで、なんとかそれをかわす。
「やっぱり!」
 寸前であたしは、相手の考えに気づいたのだ。
 狼をかわそうと思って、そっちに気をとられているときに、不意をついて別の場所からナイフで狙う。
 あいつは、そのまさにあたしがよけようとした、ギリギリのタイミングで投げてきた。
 あと少し気づくのが遅ければ、まちがいなく今のナイフはあたしの体に突き刺さっていただろう。
 ――が、などと、思いにふけっているのは甘かった。
 あたしがナイフをかわして着地した瞬間、すかさず第二撃のナイフが数本襲いかかってくる!
 時間差っ!?
「振動弾っ!」
 かわせる状態になかったため、あたしは唱えていた呪文でそれを迎撃した。
 ちいぃっ! もったいない!
 さらに、狼は向きを変え飛びかかってくる!
 呪文を唱えてるヒマはなく、態勢は相変わらず悪いまま。
 これはさすがにまずいっ! とっつかまれたらいろいろめんどうになるっ!
 だが、あたしが対処にあわてていたその瞬間――
 すぱっ。
「……!?」
 あたしの目の前で、突然空中にいた狼の胴体が、まっぷたつに横に分かれた。
 そしてそのまま、二つになった狼の体は地面に落ちる。
 それは――すでに息絶えていた。
「……これは……」
 あたしはそれを見ると、視線をある方向へとやった。
 そう、ガウリイたちの戦っている方へと。
 あいかわらず、ガウリイは剣を空に切らせ、黒ずくめは腕を振っている。
 この狼は、その流れた見えない刃に、運悪くあたったのだろう。
 ……し、しかし……
 これはシャレにならんぞ、本当に。
 今のはたまたま、この狼だったからよかったものの……
 そこはついさっきまで、あたしが立っていたところなのだ。
 これではおちおち戦闘に集中していられない。考えようによっては、今まであたらなかったこと自体が、
運のいいことなのかもしれない。
 案外、あたしの相手の黒ずくめがあまり姿を見せないのも、こういう巻きぞえを恐れてのことなのかも…

 あたしはふと、そう思った。
 とにかく、早くガウリイを援護しなければ。
 急ぎ、詠唱をし――
「幻霧招散!」
 その言葉とともに、辺りに霧がたちこめる。
 前に同じ技を持つ奴相手に、ミリーナが使った呪文である。
 この呪文、辺りの視界をある程度悪くし、ふだんは逃走用に使われるぐらいで、はっきりいって実用性は
あまりないのだが――
 不可視といっても、ちゃんとそこには存在する。
 だから衝撃波は放たれるたび、霧を裂き、軌跡を生むのだ。
 それによって本来見えない刃も、見切ることができるようになるのである。
 これで戦況はガウリイに有利に――なるはずだった。
 が。
「火炎球」
 ――光の球が放たれた。
 ナイフが飛んできた場所、つまりもう一人の黒ずくめのいる場所から――
 接近している、ガウリイと相手の黒ずくめ、二人の間に。
 ガウリイはそれに気づくと、あわててその場を離れる。
 いっぽう、黒ずくめはまったく身動きしない。
 ぼがぁぁん!
 そして、地面に着弾した火炎球は、爆音と爆風をあたりにまき散らす!
 ――おさまったあとは、さっきまでと同じ状況だった。
 そう、あたしが霧を発生させる前まで。
 つまり、黒ずくめは、火炎球の巻き起こす爆風で霧を吹き飛ばしたのである。
「どーやら、知っていたようね……」
 今のはかなり反応が早かった。考える間もないほど。
 ということは、最初からあの刃の弱点を知っていたことになる。
 これでは何度やっても同じことだろう。しかも、今のようにガウリイにはよけい損になってしまう。
 ――これは、先にたたくしかないわね――
 あたしは、そう結論づけた。

 だっ!
 ガウリイが、ふたたび強く地を蹴った。
 このままではらちがあかないし、傷を負っているぶん、いつまでも逃げていてはいっそう不利になるだけ
だ、と判断しての行動だろう。
 さっきと同じように、両手を一閃させる黒ずくめ。
 それをさけ、ガウリイは間合いをつめていく。
 ――が、やはり傷の影響か、さっきとちがってガウリイの動きは微妙ににぶくなっている。
 そしてこのような戦いでは、そのわずかな差が勝負を決するのである。
 黒ずくめが右の手を縦に薙ぎ、それを横にかわした瞬間、ガウリイは態勢を崩しかける。
「もらったっ!」
 大きく右手を振り上げる黒ずくめ。
 ガウリイが近寄ったぶん、その距離はほとんどない。
「くっ!」
 立て直し、ふたたび切りかかろうとするガウリイ。
 が、わずかにタイミングが遅い!
 ――やられる!
 と、そのとき突然、振り上げた黒ずくめの手が、ピタッ、と止まった。
 えっ!?
 そしてそこに、間髪入れずこんどはガウリイの剣が襲いかかる。
「うおおおぉっ!」
 せまるガウリイの剣!
 そして――
 ざんっ。
 ガウリイの剣が、黒ずくめの体を斜めに深く切り裂いた。

 黒ずくめが、血を吹き出しながら地面に倒れるのと同時に、ガウリイは剣を杖がわりにし、片ひざをつい
た。
「ガウリイ!」
 もう片方の黒ずくめを警戒しつつ、声を上げ、あたしはその場に駆け寄る。
 倒したとはいえ、状況からして本来ならガウリイは負けていたはずなのだ。
 そう――あのときあいつが、振り上げた腕を下ろしていれば。
 ガウリイは息を切らしつつも、いつもの笑顔をあたしに向ける。
 ――だいじょうぶだ、と。
「なんとか間に合ったみたいね」
 そう言ってガウリイに近寄ってきたのは、ミリーナだった。
「ああ。
 助かったぜ、ありがとな」
 ミリーナの手には、一本の短剣がにぎられていた。
「運が良かったわ。
 ここに木が生えていたら、影ができなかったかもしれないから」
 あたしはそのときようやく気がついた。
 黒ずくめの動きが止まったのは、彼女が影縛りを使ったからだということに。
「あなたがここに来たってことは、そっちは――」
「ええ、片づいたわ。
 あの子なら、ルークといっしょに村に」
「……そう。
 ありがとね」
 あたしはふたたびガウリイの方を見ると、
「さ、あんたもだいじょうぶなら早くいくわよ」
「……ちょっと待て、リナ」
 応えたガウリイの表情が、ふたたび真剣なものとなる。
 視線を、前方に向けて。
「……くっ……」
 血があとからあとへと流れ出る体に手をあてつつ、黒ずくめがゆっくりと立ち上がったのだ。
 身がまえる、あたしとガウリイ、そしてミリーナ。
「……オレと、したことが……とんだヘマをしちまった、みてぇだな……」
 そのたどたどしい口調は、彼のダメージの大きさをものがたっていた。
「……でもよぉ……おめぇらはけっしてこの山からは帰らせねぇ……
 ……もし町に戻って騒ぎを大きくされちゃ……困るからな……」
「……どういうこと?」
「……くわしい事情を知っちゃあ……ふもとの連中も、いろいろ手を打ってくる……
 ……そうなれば、あの洞窟にも……」
 たずねるあたしへと、彼がそう言葉を出した――
 瞬間。
 ぶすっ。
 彼の胸から、一本のナイフが突き出された。
 そしていつの間に現れたのか、彼の後ろには、もう一人の黒ずくめの姿がある。
 刺された黒ずくめは、ゆっくり後ろを振り向くと、
「……よけいなおしゃべりは、するな……ってか。
 ……まったく、おめぇは最後まで、おかたいヤツだったな……っ!」
 ――それが。
 彼の最後の言葉だった。
 刺した黒ずくめは、相変わらず無言のまま、息絶えたその黒ずくめを肩にかつぎ上げ――
 そして、そのまま森の中へと走り去っていった。
 その姿を見て、ガウリイがあたしに問う。
「追いかけないのか?」
「その必要はないわ。
 いまは、とにかく村に入ることが重要よ。
 ――行きましょ」
 そして、あたしたちは村へと歩き出した。


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2749ディストルの惨劇 三 1ブラントン 5/18-17:07
記事番号2742へのコメント

三、  明かされる 真実はいつも 残酷で

「なあ……けっきょく何がどうなってるんだ?」
 隣を歩いていたガウリイがたずねてきた。
「……さあね……
 はっきりいってまだ全然わかんないわ。
 表面上は、あの黒ずくめたちが山にやってきて、村人たちをみんな殺して、しかも山に来る人たちまでも手にかけ
てる、ってことになるけど……
 実際にその殺してるとこを見たわけではないのよ。まあ、でもこれはたぶんまちがいないとして――
 とりあえず、何の関係もなさそうな人にまで、無差別に襲ってるってことから考えて、おそらくこの山に――さっ
きの話では村のさらに先にあるっていう洞窟に、何か隠したい秘密があるんでしょうね。
 確証はもてないけど、もしかしたらそのこととメリッサたちとは、なんらかの関わりがあるのかもしれないわ」
「おい、それ本当か!?」
「だから、確証はもてないって言ったでしょ。
 そうね、たとえば……その洞窟には何かが隠されていて、メリッサたちも、黒ずくめたちもそれを目当てにしてい
る、とか。
 可能性としては、これがいちばんありそうでしょ?
 ほら、前のベゼルドの一件も――って言っても、あんたはどーせおぼえてないでしょーけど、似たようなモンだっ
たし。
 ……まあ、そのときはハズレだったけどね」
「……ふーん……」
「……あと、奴らが死体を隠してる理由ってのは、だいたいわかったわ。
 ――ガウリイ、もしあんたが、今から行こうとしてるところへの途中の道ばたに、いきなり人の死体が転がってた
らどう思う?」
「……かわいそうだなー、って思う」
 …………。
「やっぱ、あんたに聞いたあたしがバカだったわ……
 いい? ここは行ったが最後、誰も帰ってこないと噂の山なのよ。
 そんなところの途中の道に、死体が転がってるのを見たらふつうは――」
「すぐさま引き返すでしょうね、そこから」
 代わりに応えたのは、ガウリイの反対どなりを歩いていたミリーナ。
「そう。
 で、奴らにしてみれば、死体を目撃されて、しかもそれが公になってもらっては困るわけよ。
 今は事態がよくわからないから、深く対策を立ててもいないけど、実際に死体の目撃報告なんて来たら、いいかげ
んふもとのほうでも本腰を入れてくるでしょうし。
 となれば、いっきにおおごとになってくるでしょ。
 あの黒ずくめが最後に言い残したのは、そういう意味よ」
「……なるほど……
 逆に言えば、何もなけりゃとりあえずは先に進んでくるもんな
 あたしはそれにうなずき、
「奴らは、とにかく誰でもかまわず皆殺し、って感じだからね。
 何も見ずに帰るのはまだ別にいいのよ。
 でも、逆に少しでも事情を知られたら、即――」
「抹殺、ってか」
「――着きました」
 あたしたちの会話は、そのミリーナの言葉に打ち切られた。

 目の前に広がっていたのは、間を置いて立つ、数件の家々の姿だった。
 それまで辺り一面に生い茂っていた木は、ここだけ脇に追いやられ、一種の広場のようになっている。
「……ここが、グレイスの住んでた村ってわけね……」
 あたしたちは家々の間を進みながら、左右を見回す。
「……ああ……
 ……けど、誰もいねーな……」
 そう、ここは外見上は普通の村とたいして変わりないのだが、そこには人の気配がまったく感じられなかった。
 ばたん、ばたん。
 開け放しにされたドアが、風に揺られて音をたてる。
 ――ぴたっ。
 おそらく、ここが村のいちばん奥なのだろう。
 足を止めたあたしの眼前にある、その家の背後には、一時左右に追いやられていた木々が、ふたたび姿を現し、そ
びえたっている。
 そして、その家の前にたたずむ、人の姿が二つ。
「遅かったな」
 あたしたちの姿を認めたルークが話しかけてきた。
「まあね。
 ……で、どう?」
 ルークは静かに首を横に振ると、
「ダメだった。
 いろいろ探し回ったが、ひとっこひとり、姿は――」
「……そう」
 あたしは、彼の隣にたたずんでいるグレイスに目を向ける。
 グレイスはあたしの視線に気づくと、
「いいんです。
 最初から、こうなることは覚悟してましたから」
 と、きっと無理をしているのだろうが――さばさばした声で応えた。
「行きましょう。
 僕の家に案内します」

 グレイスは一人暮らしで、家もたいして大きくはなかった。
「……で……
 なんであんたたちがここに来てるわけ?」
 あたしは向かい側の席のルークにたずねる。
 ――とりあえず、一息つくために昼飯を食べたのち。
 テーブルを囲んであたしたちは席に着いていた。
「あんたらと同じさ」
「……え……
 ってことは、バックラーさんに?」
「……こんなものを預かってな」
 ルークはそう言うと、ふところから一枚のたたまれた紙を出した。
「……手紙?」
「ああ。
 娘に渡してくれ、ってのが依頼だ」
 ……やっぱり、か……
「……あの……さっきから聞いてて思ったんですけど、みなさんお知り合いなんですか?」
 不思議そうな表情でグレイスがたずねてきた。
「え?
 ああ、前に二回ほど同じ事件に関わったことがあってね」
「……ま、どーやら今回は、お国がらみの陰謀も伝説の剣もなさそうだけどな」
 あたしのことばをルークが引き継いだ。
「……まあ、たしかにそういうモンはないかもしれないけど、裏には何かあるような感じがするのよね……」
「どういうこと?」
「じつは……」
 ミリーナの質問に、あたしはグレイスから聞いたケストとメリッサの話をした。
「なるほど……その洞窟ってのは確かに怪しいな」
 話を聞き終えたルークがそう漏らす。
「そう。
 メリッサたちが洞窟の奥で何をしていたのかはわからないけど、そこに人の目にふれさせたくない何かがあった、
ってことはまちがいないわ。
 そして半年前、そこで何かが起こった。
 故意のものなのか、それとも不慮の事故なのか――それはわからないけど」
「……なるほどな……
 で、えーと……グレイスだっけ?」
 言いつつ、ルークはグレイスに顔を向けた。
「本当に、何も覚えてないのか?」
「……はい、すみません……」
 本当にすまさそうな表情を見せるグレイスに、ルークはあわてて手を振り、
「あ、いやいや別に責めてるわけじゃねーさ。
 ただ……あまりに、わからねーことだらけだったもんでな」
「珍しいわね、そんなこと言うなんて。
 もしかして怖くなったの?」
「おいおいミリーナ。オレがそんなおくびょうなヤツに見えるか?
 あの黒ずくめだって相手じゃなかったじゃねーか。
 そう! オレとミリーナのらぶらぶカップルに敵はないのだあぁっ!」
「だから『らぶらぶ』じゃないです」
 ほえるルークに、表情変えずつっこむミリーナ。
 ……うーん、あいかわらず脈ないなー……
「で、けっきょくなんなのよ?」
 あたしの問いに対し、ルークはさもイヤそうな目つきをして、
「……いやーな。
 あんたらといっしょに関わったモンで、ロクなのがなかったからさ。
 もしかしたら、また疫病神に連れられて、めんどーなことに巻き込まれるんじゃねーか、って思ったからな」
「……ふん。
 あんたのほうなんじゃないの、疫病神ってのは?
 こっちだってあんたたちが出てくると、なぜか毎回おおごとになって困ってんのよねー」
「うるせぇなあ、オレたちはふだんはちゃんとした宝探し屋やってんだよ!
 人捜しなんてやってるのが珍しいんだからな」
「あれ、そういえば……
 なんであんたたちこの仕事引き受けたわけ?
 前にラーヴァスに雇われてたときは、ちゃんと別の理由があったけど」
「うっ!
 ……そ、それは……」
 ルークが返答に窮しているところにすかさず入る、ミリーナのボソッとつぶやいた一言。
「……あなたがお金の入った袋をなくしたから」
「ミリーナぁぁっ!
 オレが悪かったから、そんな冷たい目でオレを見ないでくれよぉっ!
 ほら、その代わりにすぐ新しい仕事見つけてきただろ?」
「…………」
「……ミリーナぁ……」
 ……はは、なるほどね……
 ――でも、なんだかんだいって結局いっしょにいるんだし、ひょっとしたら――
「ま、細かい事情はオレにはわからんからどーでもいいとして……
 これからはオレたちといっしょに行動するんだろ?」
「そういうことになるわね」
 ガウリイの問いに答えたのはミリーナ。
「で、リナ、これからどうするんだ?」
「……そうね……
 まずは本当に人がいないのか、ここらへんを探索して、それからその洞窟に行くってことになるでしょうね。
 いまンとこはそれ以外に手がかりになりそうなものもないし、とりあえず心あたりがそこしかない以上――」
「行くしかないって、ことだな」
 ルークの言葉に、あたしは無言でうなずいた。

 辺りは、静寂と暗闇に支配されていた。
 あたしは二階にある部屋から出て、ゆっくりと階段を降りる。
 みしっみしっ。
 軽いあたしの体をもってしても、わずかにきしむ音が生まれる。
 だが、そのわずかな音だけが、そこには存在していなかった。
 階下に降りると、玄関からドアを開け、静かに、あくまで静かに外に出る。
 慎重にドアを閉め、軽く一息ついてから、あたしは呪文を唱え――
「明りよ」
 あたしの前に小さな光球が生まれる。
「誰だ!」
 びびくぅっ!
 その声はいきなり闇の中から発せられた。
「……なんだ、あんたか」
 ふたたび暗闇の中から聞こえたそれは、あたしの知っている声だった。
「……こっちこそあせったわよ」
 近づくに連れ、明かりに照らし出されるその姿は――ルークのものだった。
「どうしたんだ、夜中に。
 一人で散歩でもシャレこもうってか?」
「じょーだん。
 こんな盗賊いぢめもできそうにない場所で、あたしがそんなことするわけないでしょ」
「……はあ?」
 いぶかしげな表情をするルーク。
「ま、まあ、それはいいとして……
 あんたこそ何してんのよ」
 ……しまった、つい。
 あたしはあわてて話題を変えた。
「決まってんだろ?
 見張りさ、夜襲にそなえてのな。
 ……あんたも、そうなんじゃないのか?」
「……まあね……」
 応えると、あたしはグレイスの家がある――今は暗闇に覆われて見えないが、その方向に視線を向けた。
「上からの命令が出てる以上、連中、本気でグレイスの命を狙ってくるわ。
 問題の洞窟には明日中に着いちゃうし、チャンスは今日だけのはずだから」
 あの後五人で手分けして探したのだが、結局人の姿はどこにもなかった。
 で、明日に備えて早く寝ることにして――
 グレイスは一人暮らしだから、あたしたちの寝るところがない。
 それで近くにあった、他の人の家に勝手に泊まることにしたのである。
 まあ、別に野宿しても良かったんだけど……
 そして、あたしとガウリイ、ルークとミリーナでほぼ隣り合った家を別々に借りることにした、というわけなのだ

「……ああ、そうだろうな。
 それに、奴らはおそらく……いや、まちがいなく――」
「――人魔――ね」
「ああ。
 あんたも見ただろ」
 そう、あたしはソラリア・シティで見たのだ。あの、昼間と同じ光景を。
「……でも、わかんねーのは奴らの正体だ。
 いちばんわかりやすいのは、あのラーヴァスの部下の残党って場合なんだが――」
「それはたしかに有力だと思うわ。
 ……でも、にしちゃ、いろいろと疑問に思う点があるのよね……」
「……けどよ、そうじゃないとすると、それはそれでやっかいだぜ」
 あたしはうなずく。
 ――人魔とは、人間にデーモンなどの魔族を同化、あるいは憑依させたものに対して、あたしが勝手に名付けた呼
称である。
 で、この人魔、単純な精霊魔法はきかないうえに、基本は人間の意識だから、普通のレッサーデーモンやブラスデ
ーモンなんかよりも、かなり知能が高い。
 場合によっちゃあ、そこらの純魔族なんかよりも強くなってしまうこともあるとゆー、とんでもなくはためーわく
な奴らなのである。
 そんなのがほこほこ出てこられては、これから先がとことん思いやられる。
 この技術はかなり高度なものだから、そうそうできるものではないはずだが……?
「……しっかし、前にああは言ったものの、ホントに出てくるとなるとずいぶんやっかいだよなー……」
 視線を暗闇の先へと向けて、ルークは一人つぶやく。
「……まあ、なんとかするしかねえんだけどな」
 あたしはそのとき、めずらしく彼の弱気そうな態度が見えた感じがした。
「だいじょうぶよ。
 奴らも前回と同じように、みんながみんな人魔ってわけじゃないみたいだから。
 すでに二人は倒したわけだしね」
「……そうだな……」
「ところで――見張りってあんた一人なの?
 ミリーナは?」
「あいつなら、寝てるぜ。
 だいいちこれだって、オレが勝手にやってることだ」
 ……へえ……
「意外ね。
 あんたが、そんなことするなんて」
「……そもそも今回のことは、オレのせいで始まったんだしな。
 あいつには迷惑はかけない。ゆっくり寝ていてほしいんだ」
 ……ふーん……
「おいおい、どうした?
 やけにあやしい顔して」
「……悪かったわね『あやしい』顔で。
 ……ちょっとだけ、あんたのこと見直したのよ」
「……はあ?
 もしや、お前――」
「な、なによ」
 いきなりにやけだすルーク。
「はいはい、わかるぜ、お前の気持ち。
 でも……わりぃな、オレにはミリーナというすでに心に決めた相手が――」
 すぱこわぁぁぁぁんっっっ!
「のわぁぁっっ!」
 炸裂するあたしのスリッパ。
 ……うーん、いい音。
 芝居じみてカッコつけてたルークは、頭を押さえる。
「おいっ!
 なんだいきなり、いてぇじゃねーかっ!」
「一人でたわごと言ってるからよ」
 文句を上げるルークをかるくいなした、そのとき。
 ……あれ、いま……
「なんだと、だいたい――」
「しっ、黙ってて」
 再度声を上げようとするルークを、あたしは制する。
 がさがさがさっ。
 ――聞こえる!
 かすかな音だが、それは確かにあたしの耳に届いた。
「おい、今のは――」
 ルークにも聞こえたようである。
「どうやら、本当においでなさったようね。
 音からして、おそらく――二人」
「よし、追うぜ」
 そして、あたしたちは走り出した。

 前方から聞こえてくる音と、月明りに照らされ、うっすらとだが辺りに見える景色をたよりにして、あたしたちは
追跡を続ける。
 暗闇の中では姿を見つけにくい、というのが、黒ずくめの身なりをしている最大の利点である。
 で実際その通り、奴らの姿は暗闇に同化して、ほとんどうかがえなかった。
「おい、奴らどこにいこうとしてんだ?
 グレイスの家はもう過ぎちまったはずだぜ」
 走りながら、ルークがあたしにたずねてきた。
 手には、明りの光をさきっぽにつけた剣を持っている。
「さあね。
 そんなのは、あとでじっくり本人たちに聞きましょ」
 動かす足はそのままに、あたしはそれに答える。
 ――がさっ。
 ようやく止まったか?
 耳に入る音の大きさから判断して、あまり離れてはいないはず。
 同じくそう考えたのか、ルークも足を止める。
 で、もっかい……
「明りよ!」
 あたしは生み出した魔法の明りを、頭上へと放った。
 今まで剣の先についていたものよりも、さらに強力な光が、あたしたちの頭上から照らす。
 これは持続性のあるタイプ。増幅かけて強力にしてあるので、光量も持続力もばっちりのはず。
 あたしたちが足を止めた場所は、昼間戦ったところと同じような広場だった。
 村の中は歩き回ったから覚えている。たしかここは、はずれのあたりだった。
 グレイスの家とは、かなり離れたところであるはず。
「どうやら、マジメに戦う気になったみてーだな」
 ルークが視線を向ける先には――予想通り二つの黒ずくめの姿。
 じゃっ。
 それに応える代わりに、黒ずくめたちは一人は剣を、もう一つはナイフを取り出し、手に構えた。
「どっちとやる?」
 たずねるあたしに、
「そりゃあ、剣の方さ」
 と応え、いったんしまった剣をふたたび抜くルーク。
「わかったわ。
 ――いくわよっ、振動弾っ!」
 あたしはさっそく、ナイフを出したほうの黒ずくめに向かって、呪文を放った。
 ――まずは相手の実力をみきわめるっ!
 見た目では、相手が人魔かそうじゃないのかわからない。
 だから呪文への反応で、とりあえずそれを調べようというわけ。
 で、黒ずくめは――それを横に跳んでかわす。
 ……ちっ、これじゃわかんないじゃないの……
 しゃしゃっ!
 跳びつつ、こんどは黒ずくめの方が、左右ともに手にしていたナイフをすばやく両方投げてきた。
 が、こっちもそれをあっさりかわす。
 そして、黒ずくめはふたたび両手にナイフを取り出し、構える。
 ……うーん……このままいっぱい投げさせて、ナイフの品切れを待つってのもあるけど……
 いつのなるかわかんないので、やっぱりパス。今は急いでるし。
 となると、ここは――
 あたしはショートソードを抜き、黒ずくめへとダッシュをかける!
 がかきぃぃっ!
 黒ずくめは、両手にたずさえるナイフを十字に交差させ、正面でそれを受け止める!
 剣をはじいた瞬間、黒ずくめはそのまま右手のナイフを横に一閃!
 しかし、さすがはナイフ! リーチがなさすぎて届かない!
 そしてこんどは、左手のナイフを同じように――
 ぃきぃぃん!
 次に響いたのは、あたしの剣が飛んできたナイフをはじいた音だった。
 投げつけたナイフを、とっさに立てたショートソードで防いだのである。あたしが。
 一本目で届かないと悟るとすぐに、黒ずくめは二本目を至近距離から投げつけてきたのだ。
 ……い、いまのはじょーだんぬきで危なかったぞっ!
 とか心の中で叫びつつ――
「塵化滅!」
 あたしはあいた一瞬を狙って、唱えておいた呪文を発動させる!
 が、黒ずくめはそれをよんでいたのか、すばやくその場から離れる。
 ……こいつ、なかなかできる……
 あたしはふたたび距離を置き、ふたたび作戦を練り始める。
「――どうだ、そっちは」
 いったん相手から離れたルークが、剣を構えつつ、近くにいたあたしに話しかけてきた。
「けっこうやるわ……
 でも、早く決着をつけないと」
「……ああ。
 けど、そう簡単にいきそうにないぜ。
 なにせ、こっちは――」
 と、ルークが言いかけたとき。
「爆裂陣!」
 その声は、あたしの背後から聞こえた。
 どがぁぁん!
 そして、ルークの相手をしていた方――剣を手にした黒ずくめの地面から、土砂が噴き上げられる。
「ミリーナ!」
 呪文を放ったのは、ミリーナだった。
「やっぱり愛しいオレのことが気になって、かけつけてくれたんだな!」
 ……をい。ゆっくり寝ていてほしいんじゃなかったのか。
「何が『愛しい』よ」
 ミリーナは、表情一つ変えずにツッコミつつ、
「あんなに大声で騒いでいれば、誰だって目を覚ますし、夜なのにやけに明るい場所があれば、ふつうそこに向かい
ます」
 と、ルークのことばをあしらった。
「それよりも――」
 彼女はそう言いつつ、あたしのほうを向き、
「ここは私たちに向かせて、早くグレイスのところにいったほうがいいわ。
 一応、ガウリイさんを向かわせましたけど、きっと向こうはこちらよりも戦力をつぎこんできているはずですから

「……わかったわ。
 ここ、よろしくね」
 そう言い残し、あたしはその場を後にした。
「よし、じゃ再戦といくか!」
 そう言い、剣をギュッと握りなおすルーク。
 呪文を真っ向から受けたにもかかわらず、ダメージの一つもなく平然と剣を構えている黒ずくめを見たのち。
「気をつけて」
 ミリーナはルークに言った。
「ふっ。
 ミリーナ、オレが心配で心配でしかたないのはわかるがな――」
 それを聞き、抗議の声を上げようとするミリーナだったが、
「安心しろって。
 ミリーナの前で、敵にやられるようなザマ――
 オレが見せるわけねーだろ」
 それが、ルークの返事だった。


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2750ディストルの惨劇 三 2ブラントン 5/18-17:09
記事番号2749へのコメント

 あたしは、一路グレイスの家へと走っていた。
 ――ミリーナもわかっていたのだ。
 こいつらが、陽動だということに。
 見張りについていたあたしたちを家から遠ざけ、一通り距離がとれたら、こんどは戦って足止めをする。
 となれば、当然グレイスを狙うほうの本隊がいるはずで――
 だから、あたしは早くグレイスのもとへと向かうのみ。
 そうふたたび結論づけ、あたしは動かす足を速めた。

 ぎぃぃん!
 ルークと黒ずくめ、二人の剣がぶつかり合う。
 勢いがあったのは、ルークだった。
 剣の柄でおもいっきり相手を押し、距離をあけ――
 ぐぉぉぉうっ!
 言葉で表現できないような、おぞましい声を黒ずくめは上げた。
 と同時に、彼の前に出現する、十数本の氷の矢。
「ちっ!」
 突っ込もうとしていたところを、急いで態勢を戻し、向かってきた氷の矢を、ルークは横にかわす。
「……なるほど……
 それがてめぇの能力ってわけか」
 ふたたび相手に視線を向け、ルークはそうつぶやいた。

 ――たったったったっ――
 ミリーナと黒ずくめ、二人の駆ける音が静寂の中に生まれる。
「青魔烈弾波!」
 先にしかけたのは、ミリーナだった。
「氷の槍」
 しかし黒ずくめはそれをあっさりとかわし、こんどは逆に呪文を放つ。
 だが、これも簡単にミリーナはかわす。
 相手が呪文を使うのを待ってから、彼女は剣を抜き、突っ込んでいく!
 対する黒ずくめは、ナイフを出して両手に持つものの、投げずにミリーナが近づくのを待っている。
 遠距離から投げても、かわされる可能性が高い。ならば、ぎりぎりまで敵を引きつけてから、というつもりだろう。
 ミリーナは剣を構えたまま、距離を近づけていく。
 しゃしゃっ!
 すばやく両手のナイフを、絶妙の時間差をつけて投げる黒ずくめ。
 その二つがミリーナに向かって、一直線に飛んでゆく!
 ――が。
「魔風!」
 ミリーナは、真っ向から迫り来るナイフに対し、呪文を発動させた!
 突風がまきおこり、彼女へと進んでいたナイフは、勢いを失って地面に落ちる。
 そしてそのまま、風を正面に向け動きの止まった黒ずくめに向け、ミリーナは剣を振りかぶる!
「炸弾陣」
 風によって消されかけ、弱くなってはいたが――
 その声は、確かにミリーナの耳に入った。
 と同時に、彼女の目の前の地面が音をたて爆発する!
 この呪文は、普通相手の足下を爆発させるものなのだが、アレンジすればこのように場所をずらすこともできる。
 ざっ。
 ミリーナは前に進んでいる勢いを、なんとか殺そうとする。
 が、完全に止まることはできず、斜め前へと回転しつつ倒れ込んだ。
 そしてそのまますばやく起きあがり、風の過ぎ去って自由を取り戻した黒ずくめに、ふたたび剣を向ける。
 ――その冷静な表情を、まったく変えることなく。

 あたしは、ようやくグレイスの家へとたどり着いた。
「おー、リナ」
 ……いや、そんな明るい声かけられても……
 そこにいたのは、鎧はつけずに剣だけを持った、パジャマ姿のガウリイだけだった。
「どうだった? 黒ずくめは」
「ああ。
 三人ぐらい来たけど、昼間やったヤツとはちがって、ぜんぜんたいしたことなかったぞ」
 ガウリイのことばは、パジャマなのに傷一つついていない、彼の姿からも確認できる。
「そう。
 ……にしてもあんた、なんでそんなカッコしてるわけ?」
 外見からは、その尋常でない彼の実力はまったくうかがいしれない。
 ……こりゃー、倒された黒ずくめたちもさぞかし悔しかっただろーなー……
「……しょーがねーだろ……
 いきなり寝てるとこにミリーナが入ってきて、剣もってすぐにここに向かえ、って言われたんだぜ?
 それでいってみたら、こんどはヤツらが団体さんでおそってくるし。
 いったい何がどうなってんだか、さっぱりわかんねーんだよな」
 ……へえ……
 どうやらミリーナは、よっぽど急いでいたようである。
「で、グレイスは?」
「……は?」
「だから、グレイスはどうしたのよ。
 ちゃんと無事を確認したんでしょ?」
 ……をい、まさか……
「……なんの話だ?
 グレイスが、どうかしたのか?」
 あぁぁぁぁっ!
 もしかしたらと思ったけど、ホントにわかってないっ!
「あんたねぇ!
 奴らが狙ってるのはグレイスなのっ!
 その本人ほっぽっといてどーすんのよ!」
「なんだ、そうだったのか」
「いまごろおそいわぁぁぁっ!」
 などと、どなりつつ――
 あたしは急いで、家の中に入っていった。

「……おい……
 てめえ……なんで人間やめたんだ?」
 ルークが、突然黒ずくめに話しかけた。
「…………」
 黒ずくめの返事は、ない。
「前にやった奴は『復讐のため』だったらしい。
 答える気がねえんなら、別にかまわねえが……」
 そこでルークはいったん間をおくと、
「造ったヤツも、造られたヤツも! ずりぃんだよ!
 造ったヤツは『命令だったから、自分は悪くない』なんてぬかしやがる!
 造られたヤツだってな、力がほしいんなら自力で手に入れてみろってんだよ!
 それで何人犠牲になってると思ってやがんだ! 何も知らない奴らが!」
 その声は、ミリーナが驚いて振り向くほど、大きなものだった。
「……だ……まれ……」
 ひとしきり生まれた静寂を破ったのは、今までいちどもしゃべらなかった、相手の黒ずくめの声だった。
「……なんだ、口きけるんじゃねえか」
 ルークは怪しい笑みを浮かべつつ、うれしそうにそう、口を漏らした。

「お前、ミリーナというのか?」
 ミリーナと黒ずくめの対峙は、続いていた。
「……何? いきなり」
 剣を持った状態は崩さずに、ミリーナはたずねる。
「……私がしゃべれないとでも思ったか?
 昼間の相手は、さっきまでいたあの小娘――どうやら勘が鋭そうだったので、あえて口をつぐんだのだが……
 どうやらそちらも、我々が陽動だと気づいているようだしな……
 それを承知で戦おうというのなら、こちらもいらぬ詮索を防ぐ必要はない」
「そうじゃありません。
 なぜ私の名前を聞こうとするのか、ということです」
 憎らしいほど変化のない口調で、ミリーナは再度問う。
「仕留めがいのある獲物なら、そいつのことを覚えておこうとするもの……
 動物であれ、人間であれ、それは同じことだ」
「……動物?」
 ミリーナは、何かに気づいたかの表情を浮かべ、
「……あなたたち、まさか……」
 と、言葉をしぼりだした。
「……おっと」
 それが聞こえたのか、黒ずくめはそう声を上げ、
「どうやらお前も、あの小娘と同じようだな……
 これ以上のおしゃべりはやめにするか!」
 そして、ミリーナに向かって突っ込んでいった。

 きぃぃぃん!
 突っ込むルークの剣を、自分の剣で受け止める黒ずくめ。
 が、ふたたび勢いはルークにあった。
 先ほどと同じように、ルークは相手をおもいきり押す。
 ぐぉぉぉぉうっ!
 そしてまた、声を上げる黒ずくめ。発生する、十数本の氷の矢。
 しかし、同じなのはここまでだった。
「火炎球!」
 その瞬間、ルークは呪文を発動させる!
 二人の間にある、氷の矢の束へと、火の球は突っ込んでいく。
 ばじゅぅぅぅぅっ!
 二つが衝突し、蒸発する音が生まれる。
 そしてその場は、周りがまったく見えなくなる。
 ――と、その中から――
 剣を振りかぶったルークが姿を現した!
 ざしゅっ!
 そして、ルークの剣が、黒ずくめの体を上下に断った。

 しゃっ!
 黒ずくめのナイフが風を切り、ミリーナにせまる。
 それをミリーナは余裕をもってかわし――
 しゅっ!
 と、そのとたん、彼女の目の前に現れるもう一本のナイフ!
「――っ!?」
 あわててそれもよけるが、ミリーナは体勢を崩してしまう。
 それを機と見てか、黒ずくめはいっきに接近してくる!
 しゅんっ! しゅぱっ!
 ミリーナが両手を順にしならせた。
「くっ!」
 驚きつつも黒ずくめは体をひねらせ、飛んできた何かをかわす。
 その横を通り過ぎたのは、黒ずくめ自身のナイフだった。
 ミリーナは、はずれて地面に転がったそれを数本、辺りを走りつつひろっていたのだ。
 だが、それもかわされ、黒ずくめの呪文が完成し――
「螺光衝霊弾!」
 響いたのは、ミリーナの声だった。
 そして彼女の放った白い光弾が、黒ずくめに直撃する。
 ――その一撃で決着はついた。

 あたしとガウリイは、村の中を走っていた。
「あーっ、たく!
 グレイスのヤツ、どこいったのよ!?」
 家の中にグレイスの姿はなかった。
 となると、黒ずくめたちに連れ出されたのか、もしくは自分で出たのか。
 どちらにしろ、状況がまずいことに変わりはない。
「ガウリイ、あんたの目でも見つかんないの?」
 あたしは、隣を走るガウリイにたずねる。
 この男、天性のものというか、異常に目がいいのだ。
「……ああ、いまんとこは――」
 と答えようとしたとき、前方に視線を向けたガウリイの表情が変わる。
「いたぞ、リナ!」
「どこっ!?」
「あそこだ、あそこ!」
 ガウリイの指さす先には、一人で歩いているグレイスの姿があった。
 ……ふう……とりあえずは無事みたい……
 という安堵は、一瞬にして打ち砕かれた。
 ――グレイスの横に立つ木に潜む、黒い影が一つ。
 まだ他にいたのかっ!?
「グレイスッ!」
 あたしは大声で、そいつに気づいていないグレイスに呼びかける。
 それを耳にし、グレイスはこちらへと視線を向ける。
 が、その声は同時に、こちらの存在を黒ずくめに明かすことになる。
 横から剣を構えて、飛び出てくる黒ずくめ!
 あたしとガウリイは、距離がはなれているため届かない!
「あぶないっ!」
 そう叫んだ、次の瞬間。
 ――ぎぃぃんっ!
 グレイスに向かって振り下ろされた黒ずくめの剣は、もう一つの剣に受け止められていた。
 突如猛然と横から入り込んできた、もう一体の黒ずくめの持つ剣に。
「はぁっ!」
 受け止めたほうの黒ずくめが、かけ声とともに相手を強く押し返す。
「……何のつもりだ」
 剣をお互いに向き合わせたまま。
 押し返されたほうの黒ずくめが、わずかに動揺の感じとれる声で、静かにそう言った。
「……黒ずくめという姿は便利なものだ。
 口を閉ざしてしまえば、相手に自分が誰なのか悟られにくくなる。
 敵と味方の区別すら――つかなくさせるのだからな」
 黒い布に覆われた、その口からつむぎ出される言葉。
 それは予想もしない、あたしの知っている声のものだった。
 ……いや、完全にないと思ったわけではないのかもしれない。
 彼はふところから、紋章入りのペンダントを取り出し、
「私は、ルヴィナガルド共和国特別捜査官、ワイザー=フレイオンだ。
 行方をくらました、メリッサとケストの二人を捜している」
 と、顔の布を取り払ったのちに言った。
「……ずいぶんとたいそうな肩書だな……
 ケスト様に用があるようだが……
 どう見ても友好的に感じられんな」
 黒ずくめは、相変わらず冷静な態度で応える。
「おっちゃん!」
 そこで、ようやくあたしたちも現場に到着した。
「……お前たち……!?」
 あたしたち二人の姿を認め、驚きの表情を浮かべるワイザーのおっちゃん。
「リナさん!」
「だいじょうぶ、この人は味方よ。
 あたしたちのね」
 グレイスにそう応え、あたしはおっちゃんの方に顔を向ける。
「いったいどういうこと?
 おっちゃんが来た、ってことはあの二人は――」
「ああ。
 いろいろと関係があってな」
「――来るぞ!」
 ワイザーのおっちゃんをさえぎる、ガウリイ。
 振り向けば、黒ずくめがその場から動き、こっちに突っ込んできていた!
 そしてその手には、さっきまでとはちがい、両方に一本ずつの剣がたずさえられている。
「……あんた、こないだのヤツね?」
 そう、二日前戦ったあの二刀流のヤツである。
「グレイスをお願い、おっちゃん。
 こいつは、あたしたちにまかせて!」
 あたしは、そう言うと呪文を唱え始める。
 黒ずくめの突進は、剣を抜いたガウリイが受け止める。
 こいつは人魔ではなく、呪文も通じる。そのことは、先の戦いで実証済みである。
 そうこうしているうちに、黒ずくめが、ガウリイの剣とまじわっていない、左手の剣を振りかぶる!
 そして繰り出される、横薙ぎの一閃!
 しかしガウリイはこれをよんでいたか、すばやく離れて距離をとる。
 よしっ!
「黒妖――」
「待て!」
 それをさえぎったのは、ワイザーのおっちゃんだった。
「おまえたち、わかってやっているのか!?」
「……わかってる、って何が?」
「あいつの正体が、だ」
 ――!?
「おっちゃん、知ってるの!?」
「……ああ」
 だが、そう答える彼の顔は、なぜかひどく重かった。
「私の調べが確かなら、連中の正体は、おそらく――」
「――村のみんな――
 みんな、なんですよね」
 ――それは、押し殺したように暗い、静かな声だった。
「…………」
 あたしは、驚きのあまり何も言えなかった。
 言葉の内容の衝撃ではない。
 それを発したのが――グレイスだった、から。
「……気づいて、いたのか……」
 それにいちばん動揺したのは、他ならぬ黒ずくめ自身だった。
「……いくら黒い布で口を覆っていても、口調は何も変わってないじゃないですか、ガナルさん。
 ゾルクさんも、アルキスさんも。
 姿を隠しても、僕がわからないわけないでしょう?
 いっしょに暮らしていたんですから」
 ――グレイスは、うすうす感づいていた。
 黒ずくめの正体を、おそらく、かなり前から。
 そしてそれが確信に変わったのは、おそらく二人目、三人目の黒ずくめの声を聞いたとき――
「……じゃ、なんで……
 ……なんで、あたしたちにそれを言わなかったの……?」
「……だって」
 グレイスはそこでいったん言葉を止める。
「戦いにくくなるでしょう?
 もしリナたちが、それを知ったら」
「……グレイス……」
 あたしは、愕然とした。
 グレイスは、もうあきらめていたのだ。
 彼らを正気に戻すことはできないと、悟って。
「……いいのね」
 あたしはまっすぐグレイスを見つめて、言った。
 手加減はできない。すれば、自分たちが危ないからだ。
「はい」
 彼の返事は、それだけだったが――
 じゅうぶんだった。それだけで。
「……話はまとまったようだな」
 黒ずくめ――いや、ガナルが口を開く。
「一つだけ聞かせて。
 なぜ、あなたたちはこんなことをしているの?」
 振り返り、黒ずくめと向かい合ってあたしはたずねる。
「……決まっているだろう。
 命令、だからだ」
 ――『命令』だから。
 そのときあたしも、彼らがもう元には戻れないということを、確信できた気がした。
「……ガウリイ。
 さっきと同じ、時間をかせいどいて。
 そしてあたしが合図をしたら、離れて。
 一発で決めるから」
「……わかった」
 ガウリイはうなずくと、いったん下ろしていた剣をふたたび構える。
「おっちゃん。
 グレイスを……よろしく」
 もういちどあたしは、ワイザーのおっちゃんに同じことを言う。
 だが、今度のはさっきとは意味も、その重みもちがった。
「……ああ」
「よし。
 じゃあ、いくぜ!」
 おっちゃんの返事を確認すると、ガウリイはガナルに突っ込んでいった。
 と同時に、あたしは呪文の詠唱に入る。
 ぎぃん!
 ぎぅんっ!
 目の前で繰り広げられる、刃と刃のつばぜり合い。
 二刀流は、両手がふさがっているためバランスが保ちにくいというのがある。
 そのため、足技なんかでそれを崩されると、けっこう弱かったりするのだが……
 ガナルの剣はガウリイのそれよりも多少短く、俊敏な動作、とまではいかないものの、かなりすばやい動きができるようにな
っているのだ。
 という間に、あたしの呪文が完成した!
「ガウリイ!」
 声を聞き、さっと大きく後ろに飛び退くガウリイ。
 もらった!
「覇王雷撃陣!」
 発動する呪文。
 ガナルの立つ地面の周りを五芒星が取り囲む!
 ――が――
 ガナルは左手に持っていた剣を高くかざした!
 っばちばちばちぃっ!
 巻き起こる稲妻!
 しかしそれがすべて、剣に集められている!?
 ……ンな、マジかっ!?
 当のガナル本人に、電撃はあたりもしない。
 まるで手の先に持つ剣に、すべての電撃が吸い寄せられているかのように。
 ――ばちっ。
 そして、それがすべて放たれた後には、まったく無傷のガナルがそこに立っていた。
 ……うそ……
 あたしはその光景にただあっけにとられるまま。
「……これは、並大抵の呪文なら完全に無効化できる。
 前回は不意をつかれたために、まともに受けてしまったが……」
 ……なるほど……だから、こいつは人魔にならなくてもよかったわけか……
 いや、だがしかし……
 はっきりいっておこう。
 覇王雷撃陣は、並の呪文ではない。
 赤眼の魔王シャブラニグドゥの五人の腹心の一人、覇王グラウシェラーの力を借りておこなう黒魔法なのである。
 その威力は、並の純魔族なら、たやすく葬り去るほどのものなのだ。
 元の強度は保証済み。しかもこれほどの呪文すら防ぐとなると――
 ……あの剣、欲しいかもしんない……
「――となると、こっちでカタをつけるしかねーようだな」
 ガウリイは、ふたたびその手に剣を構える。
「……いや、まだよ」
 あたしはガウリイを制し、
「直接の呪文がきかなくても――
 こういうのがあるのよっ!
 黒妖陣!」
 力ある言葉に応えて、ガナルを白い霧が包み込む。
 これなら、その剣でも防げないはず!
 ――じゃきっ。
 それに対し、ガナルは左手の剣を自分の正面にまっすぐ立てる!
 ……おいおい、まさか……
 またしても白い霧が、剣に集束されている!?
 あっというまに、白い霧はすべて剣の周りに集まった。
 そして、横に軽く一振り。
 それだけで、白い霧は文字通り霧散し――そして、消滅した。
 ……じょ、じょーだんではない……
 空間を包み込む呪文すら防がれるとなると、これはいよいよ竜破斬でもうたなくてはならない。
 ……いく……しかないようね。
「――ガウリイ。
 時間かせぎ、お願いね」

 ――黄昏よりも暗きもの
   血の流れより紅きもの――

「……わかった」
 ガウリイも、あたしのやろうとしていることを理解したようだ。

 ――時の流れに埋もれし
   偉大な汝の名において――

 あたしの詠唱が続く間に、ガウリイとガナルは激しい攻防を繰り広げる。
 ガウリイの繰り出した横の斬撃を、右手の剣を正面、縦に下向きにして受け止めるガナル。
 その瞬間、引かれていた左手の剣をすばやく前に突き出すガナルだが、これをガウリイは必要最小限の動きで紙一重にかわし
――
 ……あれ……?
 あたしはふとあることに気がついた。
 ……まてよ、たしかあのときも……
 あたしの頭の中で、二日前の戦いが思い出される。
「……なるほど。そういうことね」
 そして、それから導き出される一つの結論。
 ――考えてみれば、ガナルはいつも右手の剣で、ガウリイの斬撃を受けている。
 そして、あたしの放った呪文を防いだのは逆の左手の剣。
 つまり、あの剣は片方が直接の打撃に対して完璧な防御を発揮し、もう片方が呪文に対して完璧の防御を展開できるのだ。
 いうなればあれは対をなす、二本そろって初めて完成された剣。
 ということは――
「おっちゃん。
 でかい呪文、準備しといて」
「……あ、ああ……それはかまわんが……」
「だいじょうぶよ。呪文は、きかせるわ。
 ガウリイ!」
 あたしの呼びかけに、ガウリイはいったんその場を離れてこちらに戻ってくる。
「なんだ、竜破斬はやめたのか?」
「その必要がなくなったのよ。
 それで――」
 あたしはガウリイに小さく耳打つ。
「……ああ。まかせとけ」
「よし、じゃあ――
 いくわよ」
 あたしは腰のショートソ−ドを抜いた。
「ほう……?
 呪文は無理とあきらめたか」
 ガナルのつぶやきにはこたえず。
「たああああっ!」
 あたしは剣を大きく振りかぶって、ガナルへと突っ込んでいった。
 ガナルには、右手の剣で受けてもらわなくてはならない。そのため、多少の危険はあるが、威力をつける必要があるのだ。
 ぎぃぃんっ!
 ガナルは狙い通り、あたしの剣を右手のそれで受け止めた。
 ――うまくいった!
「おおおおおっ!」
 そして、時間差であたしの後を追っていたガウリイが、すさまじい剣気とともにそこに現れる!
 右手の剣がふさがっているガナルは、代わりにすばやく左手の剣を出すが――
 がっぎぃぃん!
 ――鈍い音がした。剣の折れる音が。
「おっちゃん!」
 あたしは、ワイザーのおっちゃんへと合図を送る。
「よし、離れろっ!
 覇王雷撃陣!」
 ばぢばぢばぢぃっ!
 ――こんどこそ。
 断末魔の悲鳴すらあげることなく、ガナルは呪文の直撃を受け――
 そして、息絶えた。

「……にしても、お前らまで来ていたとはな……」
 ワイザーのおっちゃんが、向かい側に座るルークとミリーナに目を向け、つぶやいた。
 あのあと。
 黒ずくめ――いまではそれが村の人たちだとわかっているが――を倒した二人は、あたしたちと合流し、そしてグレイスの家
へと戻ったのだった。
「世の中、案外広いようで狭いのかもな。
 それにあんたが来たってことは――」
 ルークの言葉を引き継ぎ、あたしはワイザーのおっちゃんに視線を向ける。
「そうね……説明してもらいましょうか。
 今回の事件の、背景を」


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2751ディストルの惨劇 四 1ブラントン 5/18-17:14
記事番号2750へのコメント

四、 閉ざされた過去と魔人が目を覚まし……

 あたしたちは、洞窟の入り口に立っていた。
「……ここね」
 それは、まるであたしたちを飲み込もうとしているかのように、ぽっかりとあいている。そんな感じがした。
「いよいよ首謀者とご対面ってわけか」
「まだいるとしたら、ね」
 ルークの言葉に加えるミリーナ。
「だいじょうぶ。
 きっと、いるはず」
 言って、あたしは周りを見る。
 ガウリイ。
 ワイザーのおっちゃん。
 ルーク。
 ミリーナ。
 そして、グレイス。
「それじゃ、行くわよ!」
 あたしは、足を踏み出した。

「……奴らは、旧ルヴィナガルド王国の宮廷魔道士だ」
 昨夜、ワイザーのおっちゃんはそう言って、話を始めた。
 ――メリッサとケストの二人は、王国解体の際、前ベルギス国王――つまりラーヴァスといっしょにソラリア・シティにやってきた。
 そしてそこでしばらく、魔道の――人魔の研究をしていた。
 ところが、やがて二人は町を去る。
 理由はどうやら、ラーヴァスの非道なやり方に反発したためらしい。
 そして二人はこの山へとやってきた。それが一年前――
「あとは、私よりもくわしい者がいるだろう」
 彼は最後にグレイスに視線を向け、そうしめくくった。
「……あ、ラーヴァスってのはだな……」
 おっちゃんの話に、いまいち上の空の表情をしているグレイスを見て、ルークが説明を付け加える。
「昼間言ってた『お国がらみの陰謀』だの『伝説の剣』だのでオレたちの敵だった奴らの首領のことだ」
「……はあ……」
 どうも、いまだによくわかっていないようだが、わざわざくわしく知ってもらう必要もないだろう。
 そう判断し、あたしはおっちゃんに顔を向けた。
「それで、なんで二人はここに?」
「……おそらく研究のためだろう。
 ラーヴァスと別れたとはいえ、人魔の研究までやめたわけではなさそうだ」
「それじゃあ、その実験台に村の人たちを?」
「……おかしいぜ、それは。
 そいつら、ラーヴァスのやり方に反発して、ここに来たんだろう?
 にしちゃ、やってることは何も変わってねえじゃねーか」
 ルークの意見はもっともだった。
 ラーヴァスは、まったく無関係の女子供、その他の人間を無理やり実験にして魔道の研究をしていたが……
 ここだって、村の人たちは自ら進んで変えられたとは思えない。
 非道なやり方ではまったく同じなのである。
「確かに反発はしていたようだが……実際にはメリッサのほうが特にそうだったらしい。
 ケスト一人では、何をしでかすかわからん」
「じゃあ、メリッサは――」
「おそらく、すでに死んでいるのだろう。
 先ほどのガナルの言葉からしても、それはまちがいない」
 ――一年前、二人はこの山にやってきた。
 そしてあの洞窟の奥で、人魔の研究を続けていた。
 だが半年前、ある事件をきっかけにメリッサは他界。
 ケストは、村の人たちを自分の手足となるように変えて、今もなおその洞窟の中にいる――
「……ひでえ奴だな」
「ああ。
 何の関係もない村の連中を、無理やり変えるなんてよ」
 ルークのつぶやきに、ガウリイも同調する。
「いや。
 じつは、それがそうでもない」
「え?」
 ワイザーのおっちゃんの言葉を引き継ぎ、あたしが代わりに話す。
「考えてみて。
 なんでこんな山奥の村に、そんな研究のできる施設があると思う?」
 ――そうなのだ。
 人魔の研究には、当然のことながら場所以外にもいろいろと道具が必要である。
 それは当然、二人きりで運べるようなものではない。
 つまり、それらは最初からその洞窟の中にあった、ということになるのだ。
 ならば、なぜそんなものがあるのか?
「答えは簡単――
 その洞窟が、最初から研究のために造られたからよ。
 ここはふもとの街から歩いて五日もかかるし、人の出入りなんてほとんどないわ。
 隠れて研究をするにはもってこいの場所でしょ?
 でも、たまに人が来ることだってある。
 その際、無関係な人を洞窟に近づけないようにする――
 その役割を担っているのが、この村だったのよ」
 グレイスの話では、この村ができたのと、王国が解体をした時期はおおよそ一致していた。
「つまり、この村の人たちもおそらくは――」
「全員、なんらかの関係があったでしょうね。
 あの連中と」
 ミリーナの言葉にうなずいてから、あたしは答える。
「……で、でも……
 僕はそんな話はいちども……」
「それはまだグレイスが子供だったからよ」
 ――それなら、なぜグレイスを村に置いていたのか? という疑問はある、が。
「……でもよ、なんでケストはまだここに残ってるんだ?
 メリッサがいなけりゃ、ここにいたってたいした研究はできねーんだろ?
 わざわざグレイスを殺すためだけにいるとも思えねえし」
「ええ、そう。
 だからその洞窟には、まだ何かがあるとあたしは思ってるわ」
 ――洞窟の奥に何かがある。
 それは今までのことから考えて、おそらくまちがいない。
「グレイスはあの日、その何かを知ってしまった。
 だから狙われているのよ。口封じのためにね」
 いちばんてっとりばやいのは、グレイスに半年前のことを思い出してもらうことなのだが……
 とにもかくにも、今回のことはそれさえわかればすべての謎が解けるのだ。
 それこそが、グレイスが狙われている理由であり、そしてメリッサが死んだ原因でもあり。
 そして、ケストがここに残っている理由になるはずだから。
 だが、あいにく失われた記憶を呼び覚ますすべを、あたしは知らない。
「……まあ、いろいろ裏事情はあるみてーだけど……」
 ガウリイが、頭をぽりぽりかきながら言う。
「つまり、あとはもう行くしかないってことだろ?」
「ええ。
 ――行きましょう、その洞窟に」

 洞窟の奥に進むと、道は二つに分かれていた。
「……どっちかしら」
 先頭を進んでいたあたしが、後ろを振り返ってたずねる。
「あなた、知らないの?」
 ミリーナがグレイスに顔を向ける。
「きっとあのとき、通ったんでしょうけど……
 覚えてないんです」
「……そう」
 つぶやくミリーナ。
「あ、でも……」
 そう声を上げ、グレイスは右の方を指さしつつ、
「なんとなくなんですけど、こっちのほうに何かいるような気がするんです」
「じゃ、そっちだな。
 昔の記憶が少し残ってるんだろ」
 ルークはさっそくその方向に向かって歩き出した。
「ちょっと待て」
 が、そこをワイザーのおっちゃんを呼び止める。
「私は反対側に行かせてもらう」
「……そうね。
 こっちがハズレだった場合も考えて、一人くらいは残しといたほうがいいかも」
 あたしもそれに同意した。
「ああ。
 それに……お前らといると、おとなしくことが進みやしないんでな」
 そう言い残し、ワイザーのおっちゃんは左側の道に進んでいった。

「……この奥ね」
 ふたたびあたしたちが足を止めたのは、体よりも一回り大きい扉の前だった。
「オレの出番だな」
 扉の前にガウリイが立つ。
「いえ、ここは呪文でいくわ。
 ルーク、お願い」
「オレか?
 振動弾ぐらいあんたがやれば――」
 そこまで言って、ルークはあたしの考えに気づいたのか、
「わかった、任せな」
 そして、扉から距離を置いて構える。
「振動弾!」
 ぼがぁぁんっ!
 中央部を中心に、バラバラに扉は崩れる。
 爆破の衝撃で巻き起こる砂煙。
 そして――その先から、飛んでくる青い光球!
 やはりきたかっ! だがしかし、こっちも対処はうってある!
 ごうっ!
 あたしは唱えておいた風の決界を発動させる。
 強風が渦を巻き、突っ込んでくる光球を防ぐ障壁となる。
 増幅版だから、氷結弾程度は防げるはず。
 これを唱えておくために、あたしはルークに扉を壊す役目を頼んだのだ。
「……さすがに、こんな手にひっかかるような相手じゃないか……」
 そして。
 壊された扉の向こうから聞こえる声。
 奥の岩壁の前にたたずむ者が一人、あたしたちの視界に映った。

 踏み込んだそこは、さながら天然のホールだった。
 天井はたいして高くないが、それでもガウリイの身長の五倍はゆうにある。
 広さも街の宿屋が一、二軒ぐらい入りそうなほど。
 そして、岩壁のところどころにまばらにかけられている灯りが、あたしたちの顔が識別できるほどの明るさを作り出していた。
「ケスト!」
 グレイスが声を上げる。
「……久しぶりだな……」
 あたしたちとその青年――ケストは、向かい合う、というには多少距離がありすぎるほど離れている。
 が、その声ははっきりとこちらまで聞こえてきた。
 さらに隣にも、今までと同じ格好をした黒ずくめが一人。
「……ようやく真打ち登場ってわけね」
 この明るさでは相手の表情はうかがえない。
「あんたにはいろいろ聞きたいことがあるけど――
 いきなり呪文をたたき込んでくることからして、こっちの話に応じてくれそうにないみたいね」
「……オレの目的はただ一つ。
 グレイスを、殺すことだけだ」
 ケストはそう言い、腰の剣を抜いた。
「どうして!
 どうして僕を殺さなきゃならないんです!」
 声を張り上げるグレイス。
「……たとえ、それがあいつの意志でなくても……」
 ケストは答えずに、そう小さくもらした。
 ……こいつ……正気じゃない……
 彼の焦点には、おそらくあたしたちは映っていないのだろう。
『あいつ』とは、はたしてメリッサ、彼女のことなのか――
「グレイス、どこか安全なとこに隠れてて」
 あたしはグレイスにうながした。

「いくぜぇっ!」
 最初に剣を抜いて突っ込んでいったのは、ルークだった。
 声を上げ、一直線にケストに向かっていく。
 がぎぃぃん!
 それに対し、ケストも自分の剣で真正面から受ける。
 多少遅れ、こんどはガウリイがケストに向かい走り出す!
 ――ひゅひゅんっ!
 が、そのときいきなり、二人が剣を重ね合っている、その近くの壁から二本のナイフが飛んできた!
「――っ!?」
 思わず身をひねり、それをかわすガウリイ。
「いまのはっ!?」
 あたしはナイフが飛んできた岩壁に目をやる。
 だが、そこに人の姿はない。
「いや、いるぜ」
 ガウリイはあたしの考えをよんでいるかのように、否定した。
「見えないが、たしかにいる」
 ……なるほど……
 そこには気配――強烈な殺気があった。
 つまり――
「そういう能力なのね、あいつは」
 あたしたちの目には映らない、姿を消す力。
 そこにいるはずの人魔は、そういう力を持っているのだ。
「いるのはわかってんのよ。
 声ぐらい返したらどう?」
「……お初にお目にかかる。
 私はミルザだ。
 だが……もう話すことはないだろう」
 返ってきたのは、かなり無愛想な声だった。
 ……しかし……
 反則だぞ、これは。
 姿が見えないのはまだわかる。
 しかし、いまナイフは放たれるまで見えなかった。
 ――それは、彼の手にしている物まで見えないということなのだ。
「こいつは任せろ」
 ガウリイが、そちらに――見た目は何もない岩壁――に剣を向けた。
 たしかに、こういう奴にはガウリイが相手をしたほうがいいかもしれない。
「わかったわ」
 うなずき、あたしは剣の応酬をくり返している、ルークとケストの二人に目をやった。

 がぎぃんっ!
 ルークとケスト、二人の剣がぶつかり合う。
 先ほどから、ずっと一進一退の攻防が続いている。
 ――剣の腕はほぼ互角。
 ガウリイほどではないにしろ、ルークの腕前もなかなかのものである。
 それと対等に渡り合うということは、ケストの方もかなりの使い手だということだ。
 ルークが、ふたたび剣を引き――
 ばっ!
 そこで、いきなりあわてて後ろに飛び退く!
「霊氷陣!」
 響くケストの声。
 そして、先ほどまでルークのいた地面から濃い冷気の霧が発生する!
 なるほどっ、詠唱を聞いてたのかっ!
 いくらルークでも、あれをまともに受ければ一発でジ・エンドである。
 ……しかし、よく何の呪文かわかったなー……
 ルークといいミリーナといい、まだまだ謎が多そうである。
 それはともかく――
「ルーク!」
 唱えておいた呪文を発動させようと、あたしはルークに声をかける。
 呪文は覇王雷撃陣。効果範囲の広いヤツだから、ルークに巻き込まれる可能性があるためだ。
「手を出すな!」
 だが、ルークから返ってきたのは強烈な拒否の言葉だった。
「こいつはオレがやる。
 手を出したら……承知しねえぞ」
 そのルークの声には、低く、そして有無をいわせない迫力があった。
 ――あたしは、過去にこんなルークを一度だけ見たことがある。
 数ヶ月前、ソラリア・シティで、合成獣の生産工場に踏み込んだときだ。
 ……この状態のルークはミリーナでも止められない。
 あたしは無言で、ガウリイの方へと向き直った。

 たっ、たっ。
 すばやく動くその足音は、ガウリイのものだった。
 といってもそれだけである。
 つまり――飛び回るだけでガウリイは何もしていないのだ。
 いや、正しくは何もできないのである。
 ときおり聞こえる刃物の衝突する音からして、ミルザも剣を持っている。
 ガウリイの超野性的カンで、相手の気配はわかる。
 だが、剣には気配はない。しかも見えないのだからわかりようもない。
 長さはどれぐらいなのか、いや、そもそもどんな剣なのかすらわからないのだ。
 相手の場所がはっきりとわかり、しかも一瞬ひるませることができれば、ガウリイにもチャンスは生まれるのだが……
「おい、リナ!
 なんとかなんないのかよ!」
「ンなこと言われたって……」
 染色の魔法でもあたり一面に吹きかければ、さすがに何とかなるのだろうが……あいにくあたしはその呪文を使えない。
 ……なにか他の呪文で代用は……
 そうこうしている間にも、ガウリイは徐々に追いつめられていった。

 ミリ−ナと黒ずくめは、ずっと向かい合ったままだった。
 黒ずくめはまだ武器を出していない。
 相手が、どんな攻撃をしてくるかもわからないうちに仕掛けるのはまずい。
 そう判断したのか、ミリーナはただ相手が動くのを待っていた。
 ――長いように感じられた時間も、実際には瞬間だった。
 しびれをきらした黒ずくめが、自分の獲物を取り出す。
 トゲを、柄の部分以外にはりめぐらせたそれは、通常のものよりも幾分長いムチだった。
「烈閃砲!」
 それを確認すると、ミリーナは自分の唱えておいた呪文を放った。
 そして同時に、自分も黒ずくめに向かって剣を抜き、ダッシュをかける。
「しゃあああっ!」
 呪文をかわすと、奇声を上げ、黒ずくめは右手に持つムチをミリーナへとしならせる!
 ミリーナは、それを横に跳んでかわし――
 だが、そこでムチはありえない動きをして、かわしたミリーナのもとへとふたたび向きを変え襲いかかる!
「くっ!」
 いちどすでに動いているので、ミリーナにすばやい動きはできない。
 だが、なんとかミリーナは多少体をかする程度でその攻撃からのがれた。
「どうだい! このブラナス特製ムチの感触はよぉっ!?」
 かなりぶっとんでいる口調で、その黒ずくめ――ブラナスが吠えた。
 ムチというのは、一度なら自由に持ち主の意思で動かすことができるが、それを間髪入れずにふたたび操ることなど、通常なら無理な話
である。
 ……そう、通常のムチならば。
「――弦操呪牙――」
 ミリーナがそうつぶやくのを聞き、ブラナスは感嘆の声を上げる。
「ほう!? 一発でこいつのからくりを見破るとはねえ!」
 ――弦操呪牙。
 手のひらに集めた魔力で、糸やひもなどをからめとり、自分の意思である程度自由に操ることができるという、もともとは土木工事用に
開発された白魔術の一種である。
 彼は、それをムチにからめとらせることで、自由に動かしていたのだ。
「別に特製でも何でもありません。
 それぐらいの細工、関係なしにうち破れますから」
「……言ってくれるじゃねえか」
 ミリーナの落ち着き払った言葉に、怒りを押し殺したような声で言うブラナス。
「なら、さっそくやってみせてもらおうか!」
 そして、ふたたびムチがミリーナに向かい襲いかかった。

 ルークとケスト、二人の剣がふたたびぶつかり合う。
 あれから、戦いは硬直していた。
 何回か剣をかわした後に、スキを見つけ唱えておいた呪文を放つ。このくり返しだった。
 剣技は互角、しかも双方魔法もあやつれる。
 つまり基本的にこの二人は似たタイプなのだ。
「……やるじゃねえか」
 ルークは顔に危険な笑みを浮かべつつ、つぶやいた。
「上からの命令だからって、自分の責任を棚に上げて、のうのうと人体実験やってる奴に比べたら、ずいぶんなおおちがいだぜ。
 しかもてめえ、生身の人間だろう?
 ってことは、そいつは自分の力で手に入れたんだよな」
「……オレは……あいつよりも強くなりたかった」
 剣の構えは崩さぬまま、ケストもルークの問いに答える。
「いつか、殺すためにか」
「ちがう!」
 大きな声で否定するケスト。
「……オレは……悔しかった。
 あいつは天才だった。
 オレがどんなに努力しても、あいつには届かないんだ。
 それがわかってて、でもオレは自分が許せなかった。
 いつまでもあいつを守ってやれない自分が!」
 ケストの独白を、ルークはただ、だまって聞いていた。
「……わかるぜ、あんたの思ったことはよ。
 だがな――」
 しばしの静寂ののち、そう口を開く。
「オレは、あんたを許せねえ」
 ――はたしてルークは気づいていたのだろうか?
 ケストのことを『てめえ』ではなく『あんた』と呼んだことに。
「何もわかっていないんだ、お前は……
 あのとき何があったか……
 なんのためにオレがここにいるのか……」
 首を振り、弱い声でつぶやくケストに、ルークは言い放つ。
「たとえ事情が何であろうと、関係なんかねーのさ。
 ……決着をつけようぜ。
 オレたちの、闘いにな」
 ――そしてふたたび、二人の剣は重なり合った。

「あった!」
 あたしはようやく『答え』を見つけだした。
「ガウリイ、こっち来て!」
 言ってから、急いで呪文を唱え始める。
 相変わらず、距離を置くように飛び回っていたガウリイだが、それを聞いてあたしのほうへと向きを変える。
 ガウリイにはあたらず、ミルザにはあたるように。
 ちょうどガウリイが射程圏内からはずれた瞬間、あたしの呪文は完成した。
「烈閃牙条!」
 あたしの力あることばに、発生する数十の光のブーメラン。
 増幅付きの烈閃牙条。とはいっても、威力ではなく数を増やしてある。
 これならさすがにどれかあたるだろっ!
 そのブーメラン状の一つが、不自然に消滅する。
「ガウリイ、あそこ!」
「おおっ!」
 烈閃牙条で倒れればそれでもよし。
 だが、そうでなくても少しはひるむはず。
 そこに――
 ざすっ!
 ガウリイの剣が、空を切り裂いた。
 手応えありかっ!?
 虚空から一本の剣が現れ――
 からんっ。
 そして、地面に落ちた。

 びちぃっ!
 ブラナスのムチがミリーナの左腕をからめとる。
 一瞬、顔をしかめるミリーナ。
 腕の数カ所からじわりと血が現れ、徐々に広まっていく。
「ひゃははははっ!
 もう逃がしゃしねーぜっ!」
 奇声を上げるブラナス。
 だが――
「氷窟蔦!」
 ミリーナは自由に動く右手を、左腕に巻きついているムチに押し当てた!
 きぅんっ!
 そこから、氷の蔦が猛烈なスピードで伸びていく。
 ――ムチを持つ、ブラナスのほうに向かって。
「なにぃっ!」
 驚愕するブラナス。
 ――ミリーナはこれを狙っていたのだ。自分の左腕をおとりにして。
 このままでは、氷の蔦はムチからそれを持つ手を通して、ブラナス自身にまで伝わってくる。
 あわてて手を離すブラナス。
「……これで、自慢の特製ムチは使えないわね」
「うるせぇーっ!」
 逆上したブラナスは、武器も持たずにミリーナへと飛びかかった。
「螺光衝霊弾!」
 ――だが、もはやそいつは彼女の敵ではなかった。

 ――この二人は、何度剣を重ねたのだろうか?
 二人とも、このままではらちがあかないことはわかっているはずだ。
 それなら残るは――一発勝負あるのみ。
「覇王氷河烈!」
 仕掛けたのはケストの方だった。
 いったん距離をとるためにルークが下がった瞬間を狙い、詠唱した呪文を解き放つ。
 魔力の氷が、いっきにルークに向かい襲いかかる!
「海王槍破撃!」
 それに対し、ルークも一歩も引かずに真っ向から自分の唱えた呪文で迎え撃つ!
 どがばちばちぃぃっっ!
 二つの呪文が衝突し、辺りに爆音をまき散らす!

 ……なんつームチャな……
 ガウリイがミルザを倒した瞬間、それは起こっていた。
 火炎球と氷結弾のように相互干渉を起こして消え去るものではない。
 両者はまったく異質の呪文なのだ。
 そんな大技同士が正面からぶつかればどうなるか――
 正直、あたしも試す気にはなれなかった。
 ――それはともかく。
 現に、いまだに二つの呪文は、両者のちょうど中間あたりでぶつかり合っている。
 しかもあたりに、破片というか、はじかれた呪文の一部をばらまきながら。
 ――ン――?
 そのときあたしは、その奥に一つの人影を見つけた。
「グレイス!?」

 ばぐわぁぁぁぁんっっ!
 派手な音が生まれ、そして二つの呪文ははじけた。
 だっ!
 その瞬間、二人は同時に相手に向かい突っ込む。
 ――これで決まる。
 おそらく二人にそれがわかっていたのだろう。
 ――ざすっ。
 そして――
 剣が突き刺されたのは、ケストの胸だった。

「グレイス!」
 やはり、あたしが見たのはグレイスだった。
 ……安全なところにいろって言ったのに……
「……この奥です」
 だが、グレイスはあたしのほうをちらっと見ただけで、自分の前にある岩壁を指さした。
「この奥?」
 あたしはその岩壁に手を差し出す。
 ――ばちっ。
 だが、その手は何かによってそれに達すると同時にはじかれてしまった。
 ――結界――?
「……強力ね。それもかなり」
 あたしの疑問に答えるかのように、こちらにやってきたミリーナがつぶやく。
「おそらく、この岩はカモフラージュです」
「だろうな。
 ってことは、結界が強力すぎてはみでちまったわけか……」
 ミリーナの言葉に、こちらもやってきたルークが加える。
 おそらく二人の言ったとおりだろう。
 となると、この奥に何かが守られている、ということになる。
 ――すべての謎を解く『何か』が。
「で、どうする?」
「破るわ。もちろん」
 ガウリイの問いにそう答え、あたしは詠唱を始める。
 すべてを切り裂く虚無の刃、神滅斬の詠唱を。
 ホールにはあたしの声のみが響き――
「神滅斬!」
 あたしは生まれた漆黒の刃を、正面の岩壁に向かって思いっきり斬りつける!
 がらがらがらっ!
 大きく音をたて、岩壁は崩れていく。
 いや、『崩れて』いくのではない。『消滅して』いくのだ。
 それが証拠に、地面に残る岩は破壊された部分に比べれば圧倒的に少ない。
 だが中には本物の岩もまざっているのだろう。前方は砂煙におおわれまだ見えない。
「ところでグレイス。
 なんであんた、ここだとわかっ――」
 ふと思い当たり、あたしが振り返った瞬間。
 ――ぐさっ。
 グレイスの左胸に、一本の剣が背後から突き刺さっていた。


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2752ディストルの惨劇 四 2ブラントン 5/18-17:15
記事番号2751へのコメント

 ――ばたっ――
 ゆっくりと、グレイスは前に倒れ込んだ。
「――グレイスっ!?」
 あたしがあげた声に、他のみんなも異変に気がつく。
 ――いったいだれが――
 ルークの行動は早かった。
「てめえぇぇぇっ!」
 怒りの声を上げると、猛然とそいつに向かって飛びかかる。
 最後の力で自らの剣を投げ、そして倒れ込もうとしているケストへと。
 ルークは、地面に着く前にそれを強引にわしづかみにし、自分の元へと引き寄せる!
「なんでだっ!
 どうしてそこまでする!」
 ケストは完全に瀕死である。それは見れば明らかだ。
 ルークの剣がつらぬいた胸からは大量の血が流れ、もはや力など残っているはずもない。
「……言った、だろ……
 目的は……それだけだ……と……」
 消え入りそうなほどの声だったが、ルークはそれを聞き取った。
「……長かった……この半年は……」
 昔を懐かしむ声、遠くを見つめた目で。
 ケストは息絶えた。
「……なに言ってんだ……こいつは……」
 聞いているうちに落ち着いたのか、ルークはそのままケストの体を地面に置く。
「――なんだ、あれは!?」
 そのとき、ガウリイの声が、ふたたびホール中に響きわたった。

 それは――黒い霧だった。
 岩壁の向こう、すなわち結界のあった先。
 そこにあったのは、ひび割れた数本のクリスタル筒。半分以上を破壊され、もはやまったく機能しない実験用の寝台。乱暴に部屋中に散らばった、
数々の小道具。
 ここが研究用の施設であることは明らかだった。
 ――その中央。
 そこにそれは浮かんでいた。
 霧が集まり、何かを形成しているように見える。
「おい、リナ……」
 ガウリイがふたたび声を上げる。
 視線の先は、その霧の下。
 床に横たわるそれは――人の、髪の長さからして女性の死体。
 腐敗しきっていて、顔はもちろん判別のしようがない。
 ――が、あたしには十分すぎるほどの心当たりがあった。
「……メリッサ……」
『……ようやく……もどってきた……』
 外から発せられたものではない。
 だが、それは確かにその霧から、耳に入ってきた。
「……なに……?」
 不安と恐れを含んだ声で、ミリーナは言葉をしぼりだす。
 瞬間。
 突然、霧は集束をはじめ――
 そして、いっきにこちらに向かって突っ込んできた!
「リナっ!」
 ガウリイが叫ぶが、あたしの反応は遅れた。
 よけられないっ!?
 ――が、そのまま霧は、あたしの手に抱えられたままの、グレイスの中へと入り込んだ!
 ……ふたたび静寂が訪れる。
「……な、なんだったの……いまのは……」
 ……それに、さっきの言葉は……
 あたしがほうけたように言ったとき。
 ……どくん。
 その音は、あたしのすぐ近くで聞こえた。
 ……どくん。どくん。
 音の主に気づき、あたしは自分の手に抱えたグレイスを見る。
 何かが目覚めるような、そんな鼓動を発しているのは、すでに意識を失い、目を閉じたままのグレイスだった。
「おい、どうしたんだ!?」
 ルークがかけよってくる。
「わからないわ、何があったのか――」
 はた、とあたしはそこで言葉を止める。
 ……いや、そんなまさか……
 いままでに起きた、そして聞いたさまざまなことから、あたしの頭は一つの結論を導き出す。
「何なんだ!? 心あたりがあるのか!?」
 つめよるルークに答えたのは、あたしではなかった。

「――離れろ!」
 ルークの破壊した扉からホールへと入ってきたワイザーのおっちゃんが、声を張り上げた。
「はやくそいつから離れるんだ!」
 続けざまに言うワイザーに、事の重大さを感じとって、あたしたちはグレイスから距離を置く。
 ――覚醒が始まっていた。
 グレイスの皮膚は変色し、体は一回りも二回りも大きくなっていく。
 おぞましいうめき声を上げつつ、体のいろいろな部分が角張り、もりあがっていく。
 もはや人間だったころのあとは、まったく見られなくなりつつある。
「なんなんだよ、あれは!?」
 驚愕の声を上げるルーク。
「合成獣だ。あれは」
 静かに、ワイザーはそう答えた。
「合成獣?」
「ああ。
 一年前にやってきた二人がここで研究していたこと――それが、合成獣だ」
 そして半年前、実験台としてグレイスが洞窟に呼ばれた。
 が、実験は失敗。暴走した『グレイス』を止めるために、メリッサはグレイスと合成した怪物を分け、結界を張り――
 そして命を落としたのだ。
 ――だが、完全に二つが分かれたわけではなかった。
 結界内部に封じ込まれた怪物は、グレイスに残った自分の一部に呼びかけていたのだ。ここに来るように。
 グレイスの不可解な行動も、それですべて説明がつく。
『呼んでいる』のも『奥にいる』のも、こいつだったのだ。
 この結界を破って、ふたたび一つになるために。
「……じゃあ……
 ……あたしがやってきたことは……」
「……すべて、あいつの復活の手助けをしていた、ということになる」
 言いにくそうに、だがはっきりとワイザーは肯定した。
 ――ざっ。
「おい、どうするんだ!」
 ゆっくりと『グレイス』に歩き出すあたしに、ワイザーは呼びかける。
「もういちど分けるわ。
 あいつと、グレイスを」
 ――やらなきゃいけない。
 責任は、あたしにあるのだから。
「やめろ、そいつは無理だ!」
「なんでよ!
 彼女にはできたんでしょ!」
 大声で止めるワイザーに、あたしもどなりかえす。
「それは合成が不完全だったからだ!
 ――いいか、失敗したからこそ、暴走し、そしてまた分けることもできたのだ。
 だが、それでも完全に分けることはできなかった。
 たとえいまここでお前がやったところで、何も変わりはしないんだぞ!」
 こんどは低く、そして強く言い聞かせるワイザー。
 ――そう。
 ワイザーの言ったことは事実だった。
 前に知り合いからその話は聞いたことがある。
 合成するよりも、それを元に戻すことは何倍も難しいのだと。
 つまり、もう――
「倒すしかないわね、彼を」
 そう言ったのはミリーナ。
「そうだな――」
 ルークも同じく、剣を『グレイス』に向ける。
「……リナ」
 ガウリイの視線があたしに向けられる。
『グレイス』の変化はもう終わろうとしている。
 おそらく彼は、終わった瞬間あたしたちを攻撃しはじめるだろう。
 悩んでいる時間はない。
「……わかったわ」
 ――まちがっていたのだろうか――?
 ――あのとき、グレイスを連れていくことにしたのは、まちがいだったのだろうか――?

 ぐおおおおっ!
 咆吼を上げ『グレイス』は地を蹴った。
 速い!?
 信じられない速さで、彼はガウリイへと向かっていく。
 だが、右手による彼の一撃を、ガウリイはこちらも常人では不可能な反応でかわす。
 そしてすばやく抜きだした剣を、首筋を狙い横に一閃する!
 ――が。
 がぎぃぃんっ!
 鈍い金属音とともに、ガウリイの剣はあっさりはじき返されてしまった。
「なっ!?」
 声を上げたのはルークだったが、あたしも気持ちは同じだった。
 ガウリイの持つ剣は、先のソラリア・シティでの戦いの際に拾ってきたもので、性能もなかなかのはずなのだが……
 現に『グレイス』の体には傷一つついていない。
 そして『グレイス』はそのまま、ガウリイに強烈な回し蹴りをたたき込む!
「くっ!」
 なんとか直撃をさけるが、完全にはかわしきれない。
「螺光衝霊弾!」
 ガウリイが離れたスキを見て、こんどはミリーナが呪文を放つ!
 それに対し『グレイス』は反応すら見せず、そのまま直撃する――
 が、効果はない。
「ダメだ。
 もっかいやったら剣のほうが折れちまう」
 ガウリイが近くに来てもらす。
 ぎぃんっ!
 それを証明するかのように。
 ミリーナの攻撃のあとに突っかかっていったルークの剣は、『グレイス』にかすり傷さえもつけることなく、あっさりと折られてしまった。
「くそっ!」
 ルークが大きく声を上げる。
 ――だが、わからなくもない。
 あたしが、一時期いっしょに旅をしていた仲間の中に石人形と合成された者がいたが、実際彼には剣はそうそう通用しなかった。
 それを強化すれば、たいていの剣ははじき返せるようにもなるだろう。
 ガウリイがこの間まで持っていた光の剣ならば、そんなこともないのだろうが……
 ともかく、となれば頼りは呪文攻撃のみ。
「覇王雷撃陣!」
 どばちばちばちぃぃっ!
 あたしの力あることばに応え、すさまじいまでの電撃が『グレイス』に襲いかかる!
 ――これなら――
「いや、ダメだな」
 あっさりとそれを否定するワイザー。
 ぐああああっ!
 吠える『グレイス』。
 そして電撃ははじけ散った。
「どういうこと?」
 何か事情を知っていそうなワイザーに、ミリーナが顔を向ける。
「奴は、メリッサによって対魔法の能力が格段に強化されているらしい」
「……にしても、あそこまできかないってのは異常だぜ。
 なんかあるんじゃねえのか?」
「いや。
 少なくとも、彼女の使えた呪文に対しては完璧だな」
 ルークの問いに、ワイザーは否定の言葉で答えた。
 だが、それは裏を返せば――
「使えなかった呪文なら、そのままきくということね」
 ミリーナは、言って呪文を唱え始める。
 そうこうしているうちに、ふたたび『グレイス』は地を蹴った!
 狙いは――ミリーナ!
「させるかぁっ!」
 叫び、その前にルークが立ちはだかる。
「海王槍破撃!」
 ルークの呪文が一直線に『グレイス』を襲う!
 ばしゅうっ!
 が、それを『グレイス』はあっさり防ぎ、そのまま正面のルークを左手の一撃ではじきとばす!
「ぐがっ!」
 ものすごい勢いで岩壁に激突するルーク。
「崩霊裂!」
 そのとき、完成したミリーナの呪文が発動する!
 こうっ!
 光の柱が『グレイス』を包み込む!
 彼女、こんな隠し玉を持ってたのか!?
 精霊魔術では威力は最大。竜破斬にも匹敵するほどである。
 ぐおぁぁぁぁっ!
 柱の中で『グレイス』は苦しみのおたけびをあげ――
 だが、それでもまだ倒れない!
「ぐぅあっ!」
 放たれた蹴りをまともに受け、ミリーナも壁に激突する。
「てめえぇっ!」
 それを見たルークが怒りの声とともに『グレイス』に飛びかかっていく!
 いまのでかなりの衝撃を受けたはずなのにっ!?
「魔王剣!」
 ルークの手に現れる赤い刃。
 しかし、それが振り下ろされる寸前、『グレイス』は驚異的な速さでそれをかわす。
 そしてお返しと、強烈な拳の一撃をルークの腹にたたき込んだ!
「ごがっ!」
 言葉にならないうめき声を上げ、ルークはその場に倒れ込む。
「覇王氷河烈!」
 こんどはあたしの放った呪文が『グレイス』を襲うが、これまた防がれる。
 ――だが、まったくきいていないというわけでもない。
 防がれる、とあっさり言っているが、先ほどからあたしたちが唱えている呪文はかなり威力の高いものばかりである。
 それをまったくの無傷で防ぐとなると、それこそもう獣神官や覇王将軍クラスになるのだ。
「おい、どーするんだリナ!
 このまま、ききそうな呪文をかたっぱしからぶつけてくんじゃ、かなりつらいぞ!」
 剣での攻撃が通じないとなると、はっきりいってあまり役にたたないガウリイが、あたしにたずねる。
 どなり声でなのは、『グレイス』の攻撃を必死にかわしているからだ。
「ンなことぐらいわかってるわよ!」
 ――ききめのあるヤツがないわけではないのだ。
 一つはいまルークの使った魔王剣。この剣の威力は光の剣なみだから、通じるはずである。
 実際、それまではすべての攻撃をよけもせずにいた『グレイス』も、あのときだけはそれをさけた。
 そしてもう一つは、先ほど結界を破るときに使った、金色の魔王の力を借りて生み出す虚無の刃、神滅斬。
 ……だが、どちらも一度すでに使用しているために、チャンスは多くもあと一回ずつ。
「……せめて、どこかに弱点になる箇所でもあれば……」
 あたしはルークに治癒をほどこしているワイザーの方を見た。
 ――賢明な判断だろう。
 冷静に考えて、おっちゃんの力では剣でも魔法でも『グレイス』にダメージをあたえることはできない。
 それならば、可能性のあるルークの援護に回るほうが得策である。
「……そんなものがあれば、対呪能力をつける前にそれをなくすでしょうね」
 あたしも、そう言うミリーナと同じ考えだった。
 ……まてよ……もしかしたら……
「胸よ! そこが弱点かもしれない!」
 あたしは思わず声を上げた。
「おまえなあ、人間じゃねーんだぞもうあいつは!
 いまさらそんなとこ狙ってどうすんだよ!」
 ワイザーの呪文により回復したルークが、あきれた顔であたしに返す。
「ちがう、その前よ。
 あいつがグレイスであるときに受けた傷が、残っているかもしれないわ」
 基本的身体能力や、直接打撃、魔法攻撃に対する防御が異常にすぐれている代わりに、『グレイス』には治癒能力や、魔力の刃や衝撃波を生み出す
力はない。
 それならば、覚醒する前に受けた傷がそのまま残っている可能性はある。
 そこをつけば、あるいは――
「何にせよ、他に手がないのなら、それを試すしかないわ」
 そう言い、ミリーナはルークに目をやる。
「……そうみてーだな」
 ルークの視線の先には、ガウリイに攻撃をくりだし続ける『グレイス』の姿がある。
「っがはっ!」
 さすがに対応しきれなくなったか、『グレイス』の蹴りをくらい、ガウリイは吹き飛んだ。
「いくぜっ!」
 それを見て、ルークはいっきに『グレイス』へと駆け出していく!
 手には何も持っていない。ということは、魔王剣を使うということである。
 ……しかし正直な話、ルークの腕では先ほどのようにかわされてしまう可能性が高い。
 何か勝算があるのか!?
「魔王剣!」
 ルークの手にふたたび生まれる赤い刃!
 だが距離がある。これではよけられる!
「明りよ!」
 その瞬間、ミリーナの声が響き――
 そして、光が走った。
 あたりを閃光が包み込み、すべての動きを一瞬の間止める。
 ――そう、あらかじめわかっていたルークを除いては。
 閃光に目を押さえ、あたしの視界には何も映らない。
「おおおぉっ!」
 耳に飛び込んでくるルークの声!
 どすっ。
 ――ふたたび目を開けたあたしの視界に飛び込んできたのは、『グレイス』の体に赤い刃が突き刺さった光景だった。
 剣が貫いたのは、右胸。
 ごあぁぁぁぁっ!
 痛みに吠える『グレイス』。
「があっ!」
 力任せの一振りを受け、ルークはふっとぶ。
 かろうじて左胸への直撃をさけた、といったところだろうか。
 だが、いままで傷一つついていなかった『グレイス』の体には、くっきりと右胸の部分に貫かれた跡が残っていた。
 ――これで、まちがいない。
 ルークが狙ったのをはずしたとは思えない。
『グレイス』がさけたのだ。左胸に突き刺さるのを。
「やっぱりあそこを狙えば……」
 ――だが、どうする?
 明りによる目くらましはもう通用しないだろう。
 他に『グレイス』の不意をつく方法は――
「……やる、しかないわね」

 ――四海の闇を統べる王
   汝の欠片の縁に従い
   汝ら全員の力もて
   我にさらなる力を与えよ――

「黒妖陣!」
 その間に『グレイス』に向けて、呪文を放ったのはミリーナ。
 これがきかないことなど先刻承知だろう。
 彼女は足止めに使っているのだ。あたしの呪文が完成するまでの。

 ――天空のいましめ解き放たれし
   凍れる黒き虚無の刃よ――

「覇王雷撃陣!」
 続けて、ワイザーの呪文が『グレイス』を襲う!
 これも先ほどと同じように防がれる。
 だが、いまは『グレイス』も傷を負っており、動きは多少鈍くなっている。

 ――我が力 我が身となりて
   共に滅びの道を歩まん
   神々の魂すらも打ち砕き――

「青魔烈弾波!」
 その攻撃を『グレイス』が防いだとき、あたしの呪文は完成した。
「神滅斬!」
 あたしの手に生まれる、暗黒の刃が現れる。
 ――わずかに短刀ほどの長さの、暗黒の刃が。
 そしてあたしは『グレイス』へと突っ込んでいく!
 それに対し『グレイス』は、あたしとの距離と剣の長さをはかってか、まだ動こうとはしない。
 先ほども、その前に最初にルークが魔王剣を使ったときもそうだった。
 並大抵の攻撃がきかないため、必要がなかったのだろう。『グレイス』はよけるのがあまりうまくはない。両方ともギリギリでかわしていたのだ。
 ――あたしが狙うのは、まさにそこである。
「いけぇぇっ!」
 あたしは暗黒の刃を突き出す!
 だが、短すぎてこのままでは『グレイス』には届かない。
「刃よ!」
 その瞬間、あたしはありったけの魔力をふりしぼり、剣に力をそそぎ込む!
 ぃいぃぃんっ!
 そして――
 どずっ。
 左胸を貫いたとき、刃は通常の長剣よりもさらに長くなっていた。
 そのままあたしは剣を横へと一閃させる。

 ――ごめんなさい、グレイス――

 ――それが、惨劇の終わりだった。


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2753ディストルの惨劇 エピローグブラントン 5/18-17:19
記事番号2752へのコメント

  エピローグ

「……そうですか、娘は半年前にすでに……」
 バックラーさんは、覚悟ができていたかのように、努めて冷静な声で言った。
 モンテス・シティの宿屋。
 あたしとガウリイがここに戻ってきたのは、ほぼ十日ぶりのことだった。
 ――あのあと、あたしたち五人は山を下り――
 とりあえずワイザーのおっちゃんをのぞいた四人は、依頼主であるバックラーさんのもとへとおもむいたのである。
「……これも、渡せなくて……」
 ルークに代わって、あたしは手紙を返した。
「……それでは……失礼します」
 最後まで重苦しい雰囲気のまま、あたしたちはその場をあとにした。

 翌朝。
「それじゃ、またね」
 あたしたち二人と、ルークたち二人は街の出口で別れのあいさつをかわしていた。
 ワイザーのおっちゃんは、国への報告などいろいろあるようで、先にここを発ち――
 そしてルークとミリーナの二人は、もう少しこの街にとどまるということだった。
「ま、どーせまた近いうちに会うんだろーしな」
 感慨というものをまったく感じさせずに、ルークが言った。
「そうねー。
 こっちが望まなくても、どっかでひょっこり顔を合わせるんでしょーね」
「で、またでかい事件に巻き込まれてんだろーなー」
 空を見上げ、あきらめ顔でつぶやくルーク。
「そのくせたいした見返りもないし、でしょう?」
 ……え?
 ミリーナが笑顔でそういうことを言うのは、初めて見た気がした。
「そーなんだよな。
 それにオレたち二人っきりのらぶらぶな旅も――」
「ま、それはともかくとして」
 しくしくしく。
 ……おいおい、あっさりさえぎられたからって泣くなよ。
「元気でね」
 あたしは手を差し出した。
「ああ。そっちもな」
 立ち直って、それを握り返すルーク。
 ……うーむ、やっぱ慣れてんだろーなー……こんなのには……

「なあ、リナ」
 そうガウリイが話しかけてきたのは、もう街からかなり離れたところまで来たときだった。
「ン、なに?」
「お前、まだ気にしてるんじゃないのか? グレイスのこと」
 何気なく返したあたしに向けられたのは、予想外の言葉だった。
 ……こいつ……気づいてたのか……
 ……こーゆーふうに、ガウリイにはときどきよくわからないぐらい、鋭いことがあるんだよなー……
 ……ふぅ。
 一息つくと、隠すのをあきらめてあたしは話し始めた。
「ワイザーのおっちゃんから聞いたのよ。
 ほら、グレイスって両親に捨てられたって言ってたでしょ?
 あれ、本当はそうじゃなくてさらわれたのよ。まだルヴィナガルド王国があった頃、あの連中にね」
 だが、実験台となる前にあたしやワイザーによって計画は発覚し、そのままとん挫。
 さらわれた大部分の子供たちも、無事両親のもとへと返された。
 が、連中が国を抜け出した際に、何人かの子供はそのまま連れていかれたのである。
 そして、その一人が、グレイスだった。
「二回も関わってたってのに、助けられなかったのよ。あたしは」
 しかも、あたしのやったことは逆に――
「……たぶんお前、もし自分がグレイスと会わなければ――とか思ってるんだろーけどさ」
 あたしは沈黙で返す。
「たしかにお前はいろいろ、ああなっちまった手助けをしたのかもしれない。
 けどさー、オレ思うんだが。
 ……もしグレイスがお前と会ってなければさ、そのままあのデーモンたちに殺されてたんじゃねーのか?」
 ――!?
「だからさ、けっきょくお前のせいで死んじまったなんて、思うことないって」
 ……こいつ……あたしを元気づけようとしてる……?
「……そうね」
 あたしは小さくうなずいた。
「それに、いつまでも気にしてちゃ、あたしらしくないもんね」
「そうそう。
 わかってるじゃないか」
 ぽんっ、とあたしの頭に手を置きつつ、ガウリイは笑みを浮かべる。
 それをあたしも笑顔で返すと、
「ンー、なんかひさびさに盗賊いぢめしたくなってきたわ!
 さぁて、どっかにおてごろなのないかしらねー」
「おいおい、またか?」
 あきれ顔をするガウリイ。
 ……ふっ、相変わらずわかってないな、こいつ。
「いい。
 たしかに、メリッサはかなりの才能を持ってたわ。失敗したとはいえ、あんな合成獣をたった二人で生み出したんだから。
 ただ、それを使う道をまちがえたのよ」
 ――大事なのは、力ではなくその使い道。
「それに比べたら、あたしはものすごくいいことに使ってるのよ。
 悪党どもをぶち倒したり、魔族を滅ぼしたり。
 だからそれに対する報酬としてお宝をいただくのは、ごくごく自然なことなのよ。
 どう、わかった?」
「……そうかもな」
 ――え?
「さてと、ンならさっそくいくとするか?」
「ちょ、ちょっとガウリイ?」
 やけにあっさりと同意したガウリイにとまどいつつも、あたしはあとを追いかける。
 行くあてのない、あたしとガウリイ、二人の旅はまだまだ続くのだった。
 ――とりあえずは、そこらへんのアジトめざして。

                     (ディストルの惨劇:完)

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2758読ませていただきました!むつみ 5/19-09:32
記事番号2739へのコメント
ブラントンさんこんにちわ。むつみです。
全部、読ませていただきました!
(つかつかつか。)
「あなた実は、神坂 一でしょう!!」


・・・・・などというお約束なギャグはさておいて。

 面白かったです!炸裂する攻撃呪文!手に汗にぎるバトル!
スレイヤーズは、こうじゃなくちゃ。
 不自然な状況で行方不明になった女魔道士。怪しさ大爆発の黒衣軍団!
事件の鍵を握る少年。・・・なんて燃える設定なんでしょう(はあと)。
 次々現れる人魔達の描写。彼らの意外な正体。う〜〜〜ん。すごい!

 大きなストーリーの流れをフォローするエピソードもよかったです。
特に、ガウリィがリナに「才能の無駄遣い」という話と(この科白がエピローグに効
いているのが、凄く嬉しかったです。)、「記憶喪失に妙に思い入れのあるリナ」の
話。このふたつが好きです。
 ルークとミリーナは相変わらず見事なコンビネーションだし。(原作でも、あの二
人の息のあった連携が好きなので、感服しました。)
 あろうことか、ワイザーのおっちゃんまででている!!好きなんですあの人。
・・・欲を言えば、例のせりふを言って欲しかったですけど。(本当、欲張り)。

 各話のサブタイトルもよかったです。・・・タイトル考えるのって、大変じゃない
ですか?(私は大変なんです。すいません個人的な話で。)

 それでは。こんな面白い小説が読めるなら、気長に待ちます!
待ちますから、ぜひ新作を書いてくださいね。
(九尾さんのところに送られた作品も、楽しみに待っています。)




 

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2759ディストルの惨劇 あとがき 1ブラントン 5/19-17:31
記事番号2758へのコメント

 むつみ様、感想ありがとうございました!

 ……最初に謝ります……
 九尾様の所に送ったのは同じ作品です。二重投稿です。
 九尾様に素敵なイラストを付けていただこうと、送った次第です。
 加筆修正もしていません。まったく同じのを送りましたから。
 でもでも、掲載されたらイラストだけは見て下さいね。


>面白かったです!炸裂する攻撃呪文!手に汗にぎるバトル!
>スレイヤーズは、こうじゃなくちゃ。

 ありがとうございます。戦闘シーンにはとことん苦労しました。
 敵の特徴決めて、同時に倒し方決めて、最後にそれにあったこちらの戦う相手を決めて…
…と段階が長いですし。
 もうネタないです。ですからこれが私の最初で最後の本編小説になりますね。

> 不自然な状況で行方不明になった女魔道士。怪しさ大爆発の黒衣軍団!
>事件の鍵を握る少年。・・・なんて燃える設定なんでしょう(はあと)。
> 次々現れる人魔達の描写。彼らの意外な正体。う〜〜〜ん。すごい!

 ……本当に意外でしたか? あれはおそらくバレるだろう、と見積もってあらかじめ書い
てましたけど。
 正直言いまして、ストーリー展開に関してはまったく満足していません。
 ……これについてはまた次の機会に。

>大きなストーリーの流れをフォローするエピソードもよかったです。
>特に、ガウリィがリナに「才能の無駄遣い」という話と(この科白がエピローグに効
>いているのが、凄く嬉しかったです。)、「記憶喪失に妙に思い入れのあるリナ」の
>話。このふたつが好きです。

 こちらは本当に嬉しいです!
 前のガウリイの話は、思いついてから実際にエピローグで書くまで8ヶ月暖めていたもの
です。
 もうラストはこれしかないっ! って。
 対照的に記憶喪失の件は、全部書きあがってから校正するとき、半月ぐらい前に急遽付け
加えたものです。ふと浮かんで、なんとか使えないかなーって。
 ……でもこれってギャグですよ?

> ルークとミリーナは相変わらず見事なコンビネーションだし。(原作でも、あの二
>人の息のあった連携が好きなので、感服しました。)

 これは、ちょうど九尾様のHPで話題だったので、その方々に楽しめていただければ非常
に嬉しいです。むつみ様のとは違う、戦う二人、ということで。
 何度も言いたくなったんですけど、突然出てきた方が驚くかな、と何とか黙ってました。

> あろうことか、ワイザーのおっちゃんまででている!!好きなんですあの人。
>・・・欲を言えば、例のせりふを言って欲しかったですけど。(本当、欲張り)。

 すみません……「例のせりふ」ってなんですか?
 教えてくださいっ!

> 各話のサブタイトルもよかったです。・・・タイトル考えるのって、大変じゃない>で
すか?(私は大変なんです。すいません個人的な話で。)

 いやあ、大変でした。
 でも執筆期間が一年以上あったので、さすがに浮かびますよ。
 こちらも詳しい話は次の機会に。

> それでは。こんな面白い小説が読めるなら、気長に待ちます!
>待ちますから、ぜひ新作を書いてくださいね。

 ……最初に書きましたけど……たぶんこれが最初で最後の本編小説でしょう。
 今の頭の中は、次回作のロスト・ユニバースの方でいっぱいになりつつあります。
 まだストーリーを練っている途中ですが……
 ま、今年中の完成はないでしょう(爆)。

 それでは……

 ってちょっと待ったぁぁっ!
 目次をご覧下さい。
 最後に「あとがき」ってあるでしょう?
 じつはこれ、感想を下さった方へのレスに載せることにしてるんです。ネタバレ防止、と
いうのと何かお礼を、との意味を込めて。次の機会に、というのはそこで触れるからです。
 今のところ三人分ぐらい用意してあります。
 それ以降は……何か書きます。

ディストルの惨劇 あとがき

1、 メインキャラクター編


リナ

 輝いてないです、彼女。
 なにせ最後がああなってしまうものですから……
 いちばん彼女らしいのは文句なしで「一」でしょう。
 あのときは書いてて非常に楽でした。
 後半になるにつれて、「はたしてリナはホントにこうするのか?」と迷うシーンがどんど
ん増えてきてしまって……

 お気に入りのセリフは
『悪人に人権はなし!』(一)
 これは絶対に言わせたかったです。このセリフを言うときの彼女がもっとも輝いていると
思います。


ガウリイ

 はい、今回もっとも不幸なキャラが彼です。
 なにせ前回に引き続いて見えない刃の使い手とやったと思ったら、次は姿自体が見えない
ヤツ。しかも最後は相手が堅すぎてどうしようもない。
 ……ごめんなさい。
 でもこれ、事情があるんです。
 つまり、私は剣技を全く知らないから、戦闘のバリエーションが全然ない、という。
 元々戦闘以外ではギャグぐらいしか活躍の場もないですし、かなり影が薄くなってしまい
ましたが……
 とりあえず、エピローグで許して下さい。(泣)

 というわけで、お気に入りのセリフは
「……そうかもな」(エピローグ)
 私なりのガウリナです。……でも、私にはこれが限界。
 既にバレバレですけど、一の店での会話はこれへの伏線になっているんですね。
 この話が二人にとって何をもたらしたのか……というのを一つでも残したくて、このセリ
フを入れました。
 どーせ番外編だからいいかな、って。(爆)
 ところで、その前のガウリイのセリフ、あれ内容としては全然意味がないんですよね。
 リナが立ち直ったのは、ガウリイの言ったことに納得したわけではなく、ガウリイがそう
言ってくれたことにあるんです。
 ……あとはガウリナ好きの方なら……語るまでもないでしょう。
 

ルーク

 今回もっともわけわからなかったのが彼です。
 やはり性格が全然つかめていなかったせいでしょうね。
 特にわからなかったのは賢さの度合い。
 リナ>ミリーナ>ルーク>ガウリイなのは間違いないのですが……
 結局どの程度になったのかは本文をご覧下さい。

 彼の中で気に入っているのは
「安心しろって。
 ミリーナの前で、敵にやられるようなザマ――
 オレが見せるわけねーだろ」(三)
 これはこの物語でも一、二を争うほど気に入っているセリフです。
 このときのルークは本当にかっこよかったと思います。ミリーナが惚れ直すぐらい。


ミリーナ

 ある意味もっとも書きやすかったキャラです。
 苦労したのは、リナの呼び方。
 二人きりでは「あなた」と呼んでいますが、普段はなんて呼んでいるのかわからないんで
す。原作を読んでも。
 で、やむをえずそういったセリフはカットして、何とか言わせませんでした。

 彼女はセリフ自体が少ないのですが……
「そのくせたいした見返りもないし、でしょう?」(エピローグ)
 彼女らしくない、といってしまえばそれまでなのですが……一つぐらい言わせてみたかっ
たんです(謝)。


ワイザー

 今回のドッキリビックリキャラ(笑)。
 彼は本当に登場する予定はありませんでした。
 四の展開を見ればモロバレです。出番がない。途中で消しちゃってるんです。
 ……だって……覇王雷撃陣ぐらいしか持ちネタないんですもの。あとは黒妖陣とか。
 しかも治癒使えるとは原作のどこにも載ってません。あしからず。
 ……ああ、許して……
 ちなみに、リナの呼び方が「ワイザー」か「ワイザーのおっちゃん」かで違うのは、雰囲
気です。シリアスなら「おっちゃん」はなし。
 ……つまり明確な基準はなし……です。

 彼もまたセリフの少ないこと。しかも事務的なことばっかり。
「……黒ずくめという姿は便利なものだ。
 口を閉ざしてしまえば、相手に自分が誰なのか悟られにくくなる。
 敵と味方の区別すら――つかなくさせるのだからな」(三)
 この後の名乗るシーンは結構好きなのですが「ソラリアの謀略」そのまんまなので、こち
ら。
 シブさ(死語)をなんとか出したかったですが……うまくいってませんね。


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2794ごめんなさい!むつみ 5/22-08:11
記事番号2759へのコメント
> もうネタないです。ですからこれが私の最初で最後の本編小説になりますね。
 ・・・ということは。すぺしゃるネタはあるということですか?

> ……本当に意外でしたか? あれはおそらくバレるだろう、と見積もってあらかじめ書い
>てましたけど。
 すいません。本当に意外だったの。読み込みが足りませんね。魔族と契約したメリッサが、あの村を支配下に置いたものと・・・。
(以下省略)。

> 正直言いまして、ストーリー展開に関してはまったく満足していません。
> ……これについてはまた次の機会に。
 読ませていただきました。なるほど。そういう意味だったんですか。
 先の感想で「あなた、神坂 一?!」とやったのは、もしかしてかなり皮肉になりました?
 私は、神坂先生の文体や設定やギャグを良く再現してるな・・・と思ったんですが。
>

> すみません……「例のせりふ」ってなんですか?
> 教えてくださいっ!
 ごめんなさい!「こう見えても私は、並みいる特別捜査官の中でも随一の切れ者、と、ご近所の奥様方も大評判でな。」
・・・これです。この手の{何だかんだと聞かれたら  答えてあげるが世の情け}的決まり文句が好きなんです。

 まだストーリーを練っている途中ですが……
> ま、今年中の完成はないでしょう(爆)。
 ごゆっくりどうぞ。楽しみに待っていますね。

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2797ディストルの惨劇 あとがき 6ブラントン 5/22-13:43
記事番号2794へのコメント

 レスのレス、ありがとうございます♪
 これって、私しかしないのかと思ってました。(爆)

>・・・ということは。すぺしゃるネタはあるということですか?

 はい、そうです。
 既に3作品書いてますし。(でも、そのうち2つは載せてません)
 ネタはあるんですけど、いかんせんギャグが浮かばなくて……

> すいません。本当に意外だったの。読み込みが足りませんね。魔族と契約したメリ>ッサが、あの村を支配下に置いたものと・・・。

 おお、そういった考え方もあったんですね♪
 こういうの勉強になります。
 私はバリエーションがとことん少ないものですから。

> 先の感想で「あなた、神坂 一?!」とやったのは、もしかしてかなり皮肉になり>ました?
> 私は、神坂先生の文体や設定やギャグを良く再現してるな・・・と思ったんですが。

 いえいえ。もちろん嬉しいですよ!
 私は雰囲気を真似るのがダメといっているわけではないです。逆にそれは私の作品の大前提です。
 納得行かなかったのはストーリーの単純さです。
 小ネタの流用はいいですが、やはり根底はオリジナルでいかないと、と思うのです。
 今回の場合も、『ソラリアの謀略』と関連づけたのがダメなのではなく、展開が『クリムゾンの妄執』に似ていたのがダメだ、というわけです。

> ごめんなさい!「こう見えても私は、並みいる特別捜査官の中でも随一の切れ者、>と、ご近所の奥様方も大評判でな。」

 ああ、これですか!
 いやー、そこまでは考えつかなかったです。
 入れようと思えば入れられましたね。

>ごゆっくりどうぞ。楽しみに待っていますね。

 いや、忘れた方がいいでしょう。(爆)
 何せまったく見通したってませんから。

 それでは……


ディストルの惨劇 あとがき

 6、ストーリー編 3

「三」

 元は「黒い影 闇に包まれ暗躍す」でした。
 もうダメダメの極地です。いいのは響きだけ。
 何せ「黒」「影」「闇」「暗」と同じ意味の言葉が四つも入っているんですから。
 なかなか代わりが浮かばなかったのですが、絶対にこのままじゃダメだ、と強引にこちらに変えました。
 でも、あんまり気に入ってません。


グレイスの家

 会話シーンってじつは難しいんだ、と実感させられました。
 消化しなきゃいけないことは決まっているけど、どうそれをつなぎ合わせていくか。ギャグをどこに入れるか。味のない会話の羅列にならないか。
 特に人が増えると、上のようになりやすくなりますし、このセリフを誰に言わせるか、というのも出てきていっそう大変です。

 ここではミリーナのボソッと呟いた一言が気に入ってます。
 逆にあの手紙。この後何の関係もないのは、最後に急遽別のヤツから差し替えたからです。
 ルークたちが来た理由は他のことだったんですけど、なんだか理論がおかしいので校正段階で変えました。
 本当は、エピローグでバックラーさんにこれに関連して何か言わせたかったのですけど……


リナとルーク

 これがこの「三」でもっとも書きたかったネタです。
 よし、まだ原作じゃやってないぞ、って。(笑)
 いちばんの目的は、ルークがミリーナのことを本当に大事に思っているんだ、ということを表すことです。
 今回のルーク、そういう意味ではかっこいいですね。
 ラストの戦いでもミリーナのために体はってますし。
 
 ただ、ちょっと満足はいってません。本当に書きたいネタだったので、さらによいものにしたかったです。


ミリーナVS名無しの黒ずくめ1

 これは、ルークとミリーナ、パートを同じ数にするのに苦労しました。
 ルークを先に持ってきた理由は……忘れました。
 この対決、魔風使うパートは気に入っているのですが、決着の付き方に難あり、ですね。
 本来ならミリーナの賢さを表すようにしたかったのですが、彼女無口だから。(笑)
 これはブラナス戦でより苦労しました。
 そうそう、「動物」ってのが何を表すかはわかりますよね?


ケストVS名無しの黒ずくめ2

 これはもう何といっても吠えるルーク。
 ケスト戦への布石、ということになっています。ちょっと行き過ぎかな、とも思いましたけど、『ソラリア』のあのシーンから言わせてもいいかな、と。
 黒ずくめの能力は、もろブラス・デーモンです。
 こちらも決着の付け方には不満です。ケスト戦に似てますし。
 いや、こっちを先に書いたんですけどね。


ワイザー登場

 この前のルークたちの戦闘が終わるところを書いた段階でも、まだ登場する予定のなかったワイザーのおっちゃん。
 これは別の機会でゆっくり触れたいと思います。
 その機会があったらですけどね。


VSガナル

 前に書いたとおり、ガナルの倒し方は最初から決まってました。
 で、本当は最後に呪文唱えるのはリナだったんですけど、せっかく登場したんだから使おう、とワイザーのおっちゃんに任せて。
 これはネタばらしを後にしても良かったかもしれませんが、やっぱりこのままでいいと思います。


 「三」は「二」を書いてから四ヶ月の断筆期間に入っていたので、「二」を書き終えた頃に頭の中にあった展開はすべて変更、という事態になりました。
 実際、三分の一ぐらいは書いてたんです。でも全部消して作り直し。
 起承転結の「転」にあたりますが、実際にはここはいちばん自由度が高い。内容が変わったのもそういうところにありますね。
 私の中での出来のいい順では三番目です。


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2764読みました。えれな E-mail 5/20-02:44
記事番号2739へのコメント
ブラントンさん、こんにちわ。えれなです。
感想を書くのは苦手なんですが(つーか、特にここに(笑))
あまりにも凄いと思ったので書きます。

む、むつみさんもおっしゃってたけど、えれなも一瞬思いました。
あなたは、もしや神坂先生?13巻書かないでこっちを書いてたのね(笑)とか。
ほんとに神坂先生だったら、どうしよう・・なんて方に小説を読まれてたんだ、
恐れ多いいいいいっ!とか(笑)

いや、だって。スレイヤーズの本編(二部)読んでるみたいでした。ほんとに。
あの怒涛の前半のギャグといい、戦闘シーンの凄さといい、リナ達のセリフまわし
といい、ほんとにほんとにスレイヤーズでした。
こんなに原作と近い話は読んだことないです。
どこもかしこも、細かいところまでたくさん神坂節を感じさせるところが
出ていて凄い(ほんとに上げるとキリないっす)と思いましたが、えれなが
一番凄いと思ったのは、戦闘シーンです。
こんなに人をどきどきさせることができるって凄いです。
えれなは、素人の方で(つーか、これも疑ってるが(笑))こんなにどきどき
する話を読んだことないです。
戦闘シーン、どこもかしこもすげえって思いましたが、一番好きなところ。
ミリーナが影縛りを使ったところ。ここは「ををっ!?」って思いました。
んで、個人的にむちゃくちゃうれしかったのが、ルーク・ミリーナの会話(笑)
えれなのルーク・ミリーナ狂は知ってらっしゃると思いますが(笑)
とても楽しませていただきました(笑)
ラストの「力の使い道」のエピローグもよかったです。

えれな自身が小説を書くと、どーしても「こーなったらいいなぁ」という「願望」
が出まくって、「こんなんスレじゃない・・・」とか思うことが多いのですけど、
この話は、ほんとに「らしく」てよかったです。
なんかスレの原点を再認識させられる話でした。カップリングとかにこだわるのも
楽しいけど、スレってやっぱりこーですよね(笑)
ああ、面白かった♪次回作も期待してます。

あと、一個だけ、質問。
番外編ってことは、本編があるんですね?(にやり)
楽しみにしてます♪

では、えれなはさっさと去りますー(笑)

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2771ディストルの惨劇 あとがき 2ブラントン 5/20-17:39
記事番号2764へのコメント

 えれな様、お読みいただきありがとうございました!

 感想書くのは私も苦手です。
 ですから、前に他の方へも書いたんですけど、「これは読ませてもらったお礼として書かないと失礼だっ!」と感じたときにだいたい書くことにしてます。
 もちろん正義館もそうですよ。
 この作品も「あんなに偉そうな感想書いているんだから、いい作品書かないとかっこわるい!」という意地が入ってたり……すると思います。

>ほんとに神坂先生だったら、どうしよう・・なんて方に小説を読まれてたんだ、
>恐れ多いいいいいっ!とか(笑)

 そんな、そう思われること自体が恐れ多いですよ。
 ここらへんは、あとでまとめて書くと思います。

>こんなに原作と近い話は読んだことないです。

>えれな自身が小説を書くと、どーしても「こーなったらいいなぁ」という「願望」
>が出まくって、「こんなんスレじゃない・・・」とか思うことが多いのですけど、
>この話は、ほんとに「らしく」てよかったです。

 これは嬉しいです!
 それが目標でしたから。とにかく「らしく」ないのはとことんボツにしました。
 たとえば、えれな様が気に入られたミリーナの影縛り。
 あれって、そもそもは別の理由で相手の動きが止まるんだったんですけど……
 それが「らしく」ないんで却下して、代わりに「三」まで登場する予定のなかったルークとミリーナを急遽登場させて、ああしたのです。
 でも……後でも言ってますけど、本当に人魔に影縛りはきくんでしょうか?
 物質的な肉体があるのだから通じると解釈したんですけど……

>一番凄いと思ったのは、戦闘シーンです。

 やっぱスレイヤーズの原作は戦闘シーンだろっ!
 というわけで、でもあんまり入れると大変だ……と「一」では何とか逃げていたのですが……
 それ以降は怒濤の多さになってしまいました。

>戦闘シーン、どこもかしこもすげえって思いましたが、一番好きなところ。

 私のいちばんのお気に入りは、ミリーナVSブラナスです。
 ブラナスのムチ、急遽浮かんだネタだったのですが、かなり気に入ってます。
 本当はネタあかしまで時間をおきたかったのですけど……幾分登場するのが遅すぎて……

>んで、個人的にむちゃくちゃうれしかったのが、ルーク・ミリーナの会話(笑)

 ……いったいどこでしょうか?
 私はあとがき1でも書きましたが、「三」のあのシーンです。
 そーですか、喜んでいただけて大満足です。特にえれな様に。
 正義館読んだときに、「ああっ、ルークとミリーナのネット初登場(厳密には絶対違うと思いますけど)取られたっ!」と嘆いていたのが懐かしいです。

>なんかスレの原点を再認識させられる話でした。カップリングとかにこだわるのも
>楽しいけど、スレってやっぱりこーですよね(笑)

 これもすんごく嬉しいです!
 そうです、スレって本来こうなんです。(いや、ただ単にらぶらぶが書けないだけというのもありますけど)
 やっぱりこういうところだとカップリングが人気ありますから、こういうのもあるんだぞっ、と殴り込み(笑)をかけようかな、なんて(爆)。

>ああ、面白かった♪次回作も期待してます。

 すみません……ホントにネタ使い果たしたんで、もう本編を書く予定はありません。
 次回はロスト・ユニバースです。
 暗躍するナイトメアに遺失宇宙船、レイルくんも久々に本業にバイトに奔走……
 と言えば聞こえはいいですが、ホントにまだ全然おおまかです。
 これにも一年以上かかりましたから……待ってないで下さい(謝)。

>番外編ってことは、本編があるんですね?(にやり)

 ……すみません、ありません。
 これは毎度おなじみの文庫の表紙めくった出だしの部分です。だから本編は原作のことです。
 で、なぜ番外編なのかといいますと、これが絶対にありえない話だからです。
 理由は……後で述べますけど、12巻を読めばわかります。
 
 それでは……


ディストルの惨劇 あとがき

 2、ゲストキャラクター編


グレイス

 書いていく途中で青年になったり子供になったりところころ設定の変わったかわいそうなキャラです。
 彼は……というより今回のゲストキャラ全般ですが、性格はほぼないに等しいです。
 ……すみません、私にはオリジナリティーというものがないのです……
 ま、ラストがああなりますから、必然的におとなしめにはなるんですけど。
 当初はジェイド並に強かったのですが、そうなると同じく「覇軍の策動」並にこちらが強くなりすぎるので、却下しました。

 
ケスト

 「ハーメルンのバイオリン弾き」より大魔王ケストラーから。
 彼は登場が一番最後だったせいで、三が書きあがるまで何も決まってませんでした。
 しかも書いてくうちにどんどんアブナイ奴になっていって……
 彼も最初はいろんな能力持ったハイパー人魔として登場する予定だったのですが……
 いろいろ事情があって却下しました。


メリッサ

 「FQ外伝バイト編」より、パステルがエベリンでできた最初の友達(の姉の)名前からです。(だったはず)
 彼女は最初からああなっていることは決まっていました。そのため設定はなーんもなし。
 一のバックラーさんの説明だけが、唯一の設定といえば設定でしょうか。
 崩霊裂も黒魔法全般もあらかたの呪文は使えたわけですから、魔法の才能に関してはリナ以上だったかもしれません。
 実は一時期彼女を「もう一人(つまり研究に没頭するタイプ)のリナ」としてそっちに話のコンセプトを持ってこようかとの考えも持ったのですが……
 死んでて一度も登場しないキャラじゃそんな大役は無理だと悟り、あきらめました。

 
ガナル

 唯一最初からの予定通りにいったキャラです。
 あの剣は一番最初に浮かんだネタで、倒され方もああ決まっていました。
 もちろん「二」でも左右はちゃんと書いてありますから、気が向いたら確認して下さいね。


ゾルク

 名前だけでは誰だか絶対にわからないキャラ、その1です。
 彼は「二」でルークとミリーナに倒されたあの黒ずくめです。
 もとからそれの戦闘シーンは入れる予定のなかった、完全なチョイ役です。
 いろいろ特殊能力は考えたんですけどね。


アルキス

 同じくその2。ゾード2号です。
 性格まで似てしまってどうしようもないです。せめてそれぐらいは変えれば良かったです。
 まあ、いっちゃてるキャラとしてはブラナスってのもいますけど。


ブラナス・ミルザ

 彼らは……他の機会で語ります。

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2806レスのレスです。えれな E-mail 5/23-05:24
記事番号2771へのコメント
ブラントンさん、こんにちわ。またまたえれなです。
いや、質問されてる個所に応えないのは、一般的に考えても、あれだけの感想を頂いたえれなの立場から考えても失礼にあたるとおもったので(笑)

> この作品も「あんなに偉そうな感想書いているんだから、いい作品書かないとかっこわるい!」という意地が入ってたり……すると思います。

あ、そーなんですか(笑)えれなはあれだけ凄い感想もらったら、感想に負けないような本編を書かなきゃ・・って思いました。感想のが作品より凄いだなんて恥ずかしいじゃないですか(笑)
それにしても、みなさん結構細部まで読んでらしてるんですね。

> でも……後でも言ってますけど、本当に人魔に影縛りはきくんでしょうか?
> 物質的な肉体があるのだから通じると解釈したんですけど……

人魔ってのは、「元」人間だから効くと思います(あくまで私的意見)
完璧な精神生命体ではないから、効く・・・・と思う・・・・たぶん(笑)

>>んで、個人的にむちゃくちゃうれしかったのが、ルーク・ミリーナの会話(笑)
> ……いったいどこでしょうか?

えーと、えれなも基本的には「三」のとこが好きです。
どこも好きですが、お金落としたところの掛け合いと三の1のラストのかっこつけてるルーク(笑)がとくに好き。リナとルークの会話も好きです(寝て欲しいのとこ)三は個人的に一番お気に入りです。というか三のルークが(笑)


> 次回はロスト・ユニバースです。
> これにも一年以上かかりましたから……待ってないで下さい(謝)

待ちますよー(笑)面白い作品ならいつまでも。それに人のこと言える立場じゃないし(笑)
いろいろ思うところはあるみたいですが(他の方へのレス拝見しました)がんばってください。
「他のどんな人の作品よりもスレイヤーズらしい」というのもブラントンさんの作品の個性の一つだと思います。自分の個性・好みに走りすぎて「ほんとに原作よんでんのか?」という作品も多いですし(含む自分(笑))
ブラントンさんは話が面白くないと言ってらしたけど、えれなはこの話はストーリー的には面白いと思います。
ただひとつだけ、残念だったのがゲストキャラです。名前がついてる以上なんらかの個性を持たせて欲しかったなと言う気がします。神坂先生の話はすぐ倒される雑魚キャラだけでなく、名前がついてないキャラ(店のおばちゃん)まで非常に個性的ですから(笑)
まあ、オリキャラの難しさはえれなもまだまだ勉強中ですが、ブラントンさんがそのへんを極めたらほんとに神坂先生になれると思います(笑)

では、長くなりましたけど、これで♪
ロスユニの話、できあがって掲載することになったら教えてくださいね♪
えれなでした。



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2808ディストルの惨劇 あとがき 7ブラントン 5/23-15:11
記事番号2806へのコメント

 えれな様、レスのレスありがとうございます!

 本当にありがとうございます!
 何せこのまま誰も来なければあとがきが「三」で終わってしまうものですから。(爆)

>感想のが作品より凄いだなんて恥ずかしいじゃないですか(笑)

 何をおっしゃいますか。(笑)
 作品がいいからこそ、感想の書きがいもあるというものです。
 伏線がなかったら推理のしようもないですし。

> どこも好きですが、お金落としたところの掛け合いと三の1のラストのかっこつ
>けてるルーク(笑)がとくに好き。リナとルークの会話も好きです(寝て欲しいの
>とこ)三は個人的に一番お気に入りです。というか三のルークが(笑)

 嬉しいです! そこは全部自分でも気に入っているところだったので。
 何せ今回のルーク、絶対ガウリイよりも、いやもしかしたらリナよりも活躍してますから。
 これはもう、書きがいのあるキャラだからですね。
 ガウリイやゼル(原作)のように、いろいろな性格のパターンがない人だと……

>自分の個性・好みに走りすぎて「ほんとに原作よんでんのか?」という作品も多い
>ですし(含む自分(笑))

 いや、読んでるでしょう。(笑)
 って(笑)じゃなくて本気ですが。
 そういった作品を書くのもスレイヤーズへの愛情の表れです。ってことは深くはまってるってことで、やっぱり読んでるでしょう。
 私は自分がこういう作品を書いている手前、性格変わった作品は好みではないのですが(だから極端なカップリングなんかはダメなんです、ごめんなさい)、純粋に作品として判断すればいいものってたくさんありますし。
 ついでに(含む自分(笑))はないでしょう。
 私が正義館を気に入っているのも、キャラがらしく動いているからです。
 私の評価の対象は「純粋に面白いか」と「スレイヤーズらしいか」の二つです。
 正義館は両方兼ねてますから、私の中じゃポイント高いです♪

>名前がついてる以上なんらかの個性を持たせて欲しかったなと言う気がします。

 ……はい。これは本当に改善点です。
 次回は他の方へのレスでも触れましたけど、一人のオリキャラを話の中核に据えていこうと思っていますので、彼をどう性格付けするかに悩んでいる最中です。
 ストーリーの大筋は決まってるんです……相関図とか書いたりなんかして。
 何せストーリーはシリアス面だけで作れるため、ギャグパートをどうするかはかなり自由なんですよね。
 ……うーん、なんかいいのないですかねえ……

 それでは……


ディストルの惨劇 あとがき

 7、ストーリー編 4

「四」

 タイトルは、「一」と同じく最初から不動でした。
 ……いや、確かに『ベゼルド』に似てるんですけどね……


グレイスの家

 ここでようやく事件の概要が明らかになります。
 ワイザーのおっちゃん、じつはこのためだけに登場させました。
 ここで気に入っているのは、この村の正体を明かすところ。
 リナの推理もこの話では多いですけど、ここがいちばんうまくいっていると思います。
 ただ、おかしな点もまた一つ。
 一度も行ったことのない洞窟の話をするってのは……
 ……なんか、ねえ……


ガウリイVSミルザ

 今回もっとも即興で造られたキャラ、ミルザ。
 ただの透明人間みたいに持ってる物が浮いてる、というのは嫌だったので、無理矢理あんな能力つけました。
 即興だったため出来もあまり良くないです。特にわざわざあの呪文を使わなくてもいくらでも他に方法はあったと思います。
 ただ、最後のシーンは気に入ってます。


ミリーナVSブラナス

 前に述べましたが、この戦いがいちばん気に入っています。
 とにかくブラナスのムチ。あれがうまくいったと思うんです。
 本当はああいったの増やしたかったんですけど、さすがにネタがなかったです。
 ただ、問題はミリーナがミリーナらしくなかったということ。
 最後の挑発的なセリフ。あれはリナの方が言うのにふさわしいですね。
 まあ、片手を囮にするあたりは彼女らしいんですけど。


ルークVSケスト

 実はこの話の中でもっとも意味のある戦いだったような気がします。
 そもそも今回やりたかったものの一つに、一巻のリナVSゼルのような魔法を使った人間同士の戦い、というのがありました。
 で、ようやくここで実現と相成ったわけです。
 ここはもうとにかくルークがかっこいい。
 でも逆に言えば彼しかできないです、あれは。
 彼にも感じるところがあるのでしょうね。ミリーナとのことで。
 もっと男の戦いになる予定だったのですが、ケストの性格がどんどん崩れていったので、その雰囲気はなくしました。

 で、ここの最大の問題は覇王氷河烈VS海王槍破撃。
 ……正直いってどうなるのかわかりません。とりあえずホールを高く広くして、よほどの爆発でも耐えられるように設定はしておいたのですが。
 これから実現する機会もなさそうですし。
 ホントにどうなるんでしょうかね?


VSグレイス

 ラスボスは何が大変か。
 それはもう、どうやってリナたち全員と互角に渡り合うか、です。
 で、考え出した逃げ道は合成獣でした。これなら剣は防げるだろう、と。
 魔法も……ああやってなんとかしました。でもおかげでメリッサはリナ以上の魔法の使い手になってしまいました(笑)。いや、実際それぐらいの力はある、という設定ではありましたけど。
 しかしラスボスは展開がスピーディーですねー。でっかい呪文がばしばし飛び交い敵には聞かない、味方はやられる。書いてて非常に楽しかったです。
 じつはグレイス戦とエピローグは、何をとちくるったか一日で書きあげたんです。
 ……そのペースなら二週間で全部書けるのに。

 肝心の倒し方は前から決まっていました。だいたいエピローグのあれと同じぐらいの時期です。魔力の入れ具合で神滅斬の長さは変えられるだろう、と。
 しかしこちらは会心の出来とはいきませんでした。
 最初に短くした説明というか、相手が魔力が足りないのか、と判断したのがわかるようにしたかったのですが、何せ彼がしゃべれない。
 初稿では他の人に言わせてたんですが、アニメっぽい技法だから気に入らなかったんです。
 全体的には満足の出来でした。


 「四」は戦闘シーンがメイン、ということで気合いをそそぎ込みました。それなりにうまくいったと思っています。
 ただ、最初の謎解きのシーンはまたどうもうまくいっていないような気がします。
 不必要に長かった、というわけではないと思うのですが……


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2774感想になってない感想山塚ユリ 5/21-01:18
記事番号2739へのコメント
ブラントン様。
「正義館」における、えれな様とのやりとりを読んで、「この人はただ者ではない」と
思っていたのですが、やっぱりただ者ではありませんでしたね。
読みながら、「これ神坂さんがペンネーム使って書いてるんじゃないだろうな」などと
考えてしまったのは私だけではなかったらしい。ははは。

つーわけで感想。(箇条書)
☆私のグレイス=メリッサ説はあっというまに頓挫したし。ちいっ(笑)
☆ワイザー〜真相知ってたらなんで言わんのじゃあぁぁ。
☆ 戦闘シーンが書ける人はいいなあ〜(私は書けない)

皆さんがおっしゃっている通り、ホントに神坂さんが書かれたような、スレイヤーズ
らしい小説でした。
ただし、惜しむらくはスレイヤーズに出てきた設定や小道具を使いすぎていて、ブラン
トン様本人の顔が見えないような気がします。
既存のキャラを使って小説書いている者にとって、「○○らしい」というのは誉め言葉
だと思います。私はそれで満足していますが、オリジナルの雰囲気を残した上で、
プラスαというか自分らしさ、を付け加えることも時には必要ではないでしょうか。
いっそオリジナルを超越して、こんな書き方もあったんだ〜と原作者をうならせる
ことができたら…まあ理想っちゃ理想だけど、それだけの力がある人だったら自分で
小説書くわな(笑)
と、いうわけで、オリジナル小説に挑戦してみませんか?(とーとつ。)
既存の世界とキャラ使っていたらいつまでたっても所詮は借り物。どうせ書くなら
オリジナル。そしてどこかの出版社のコンクールに応募して、目指せ夢の印税生活者♪
(無責任にけしかけとるな私)

ついしん。ルーク達の戦い、そこにいなかったリナの一人称では書けないはずですが、
まあ重箱の隅ということで(笑)。


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2779ディストルの惨劇 あとがき メインブラントン 5/21-15:21
記事番号2774へのコメント

 ……いや、来るか来ないかわくわくしてたんですけど……

 本当に嬉しいです!
 誰も言ってこなかったら最後に自分でやっちゃる、と思ってました。

 ……あ、何のことかわかりますよね?
 そう、こういった感想です。

 しっかりとこの物語の問題点を指摘されていらっしゃって、感激しました。

 正直不安だったんです。
 私の感想は、かならずそういった部分が存在しているので、はたしてもらった方はどう思うのだろうか、と計りかねていて。
 やっぱり自分でもらわないとわからないのだろう、と思ったのもこの小説を載せた理由の一つです。

 今はすごく嬉しいです! ちゃんと読んで下さっている、というのがわかりますし、正直に言ってくださって。
 これでこれからもビシバシ感想書けるわ(はぁと)
 ……って、それは違いますけど。

 前振りが長くなりました。
 つまりまとめますと、非常に嬉しいということです。
 いや、こう冷静に書いては信じてもらえないかもしれませんが。


>「正義館」における、えれな様とのやりとりを読んで、「この人はただ者ではない」>と思っていたのですが、やっぱりただ者ではありませんでしたね。

 そんなことはありません。
 おそらくじっくり読んだら、みんな私が書いていることぐらい思うはずです。
 ただそこまで読まないのと、わかってもそれを載せないだけです。
 私はそう確信しています。

>☆私のグレイス=メリッサ説はあっというまに頓挫したし。ちいっ(笑)

 いやー……申し訳ないのですがそれはかけらも考えたことなかったです。
 それもよかったかもしれませんね。

>☆ワイザー〜真相知ってたらなんで言わんのじゃあぁぁ。

 ……そーか、変えたらまずかったのか……
 いや、あれじつはワイザーのおっちゃんが洞窟で別行動を取っていた際に、メリッサの日記を見つけて真相を知った、ということになっているんです。
 ですからそれまでは「四」の冒頭にあった通り。みんなの認識はあれで一致しています。
 で、その日記の件、原稿をパソコンに打ち込む際に急遽なくしたのです。一週間ぐらい前のことです。
 しかしそれだとそう思うことがあるのですね。というよりそう思うのが普通でしょうか。
 やっぱり急遽、というのはつじつまが合わなくなっていけないですね。

>☆戦闘シーンが書ける人はいいなあ〜(私は書けない)

 ここの苦労は他の方へのレスから察して下さい……
 とりあえず言えることは、もう二度とやらん、ということです。

>ついしん。ルーク達の戦い、そこにいなかったリナの一人称では書けないはずですが、
>まあ重箱の隅ということで(笑)。

 ……ばれてますね……
 しかしこれは正直言って、10巻や12巻のあの戦闘だって、その場にいるものの実際にリナが見てるわけないんですよ。だからその発展ってことで。
 ……ってやっぱりダメですか……

 真ん中の部分へは、このあとのあとがきで。
 本当はこれは最後に回そうと思っていたのですが、この話題が来たので触れさせていただきます。

 それでは、本当にありがとうございました!
 この次、山塚様の小説がUPされたら、感想載せますね。


ディストルの惨劇 あとがき

3、 感想


 えーっと……今回はたぶん長くなります。

 自分の作品を客観的に見ることは難しい、と私は今まで思っていましたが、実際に自分の作品を読み返してみると、じつは誰よりもよくわかっているような気がしました。

 で、私が客観的に見て判断すると、この作品って「おもしろくない」んですよ。

 確かに長い。それに戦闘シーンもバリバリ入ってますし、ところどころに小ネタも挟んである。それだけでも評価はできます。
 ですが、肝心のストーリーが最悪なんです。
 この話、はっきりいって「クリムゾンの妄執」にそっくりです。ネタが「ソラリアの謀略」使っているせいでごまかされるかもしれませんけど。

 私の目指す作品はとにかく「らしく」。
 オリジナルでなければ、私は元の作品を徹底的に真似ます。キャラの性格はもちろん、世界観とか、文体とか。
 なぜなら、そのときがいちばんその作品が輝いていると思うからです。 

 学園物とかカップリングものとか。
 確かに名作は多いですけど、私の場合、それらを「スレイヤーズ」として評価しているわけではありません。独立した作品として読んで「すばらしい」と思うのです。
 この世界は創造力豊かです。その気になればなんだってできますから。

 対して私の作品。
 アニメ作品でいえば、絵だけ綺麗でストーリーがざるなヤツでしょうか。
 神坂先生らしく、なんて(決して神坂先生を軽く見ているわけではありません)誰でもできるんですよ。要は真似ればいいんですから。根性さえあれば絶対にできます。

 つまり、元が終わってるのを、文体真似て、ボリューム増やして、戦闘シーン入れて、いろいろ小細工して必死に覆い隠している、というのがこの作品なんです。

 スレイヤーズを読んだことのない人に読ませてみればわかります。絶対「つまらない」というでしょう。
 スレイヤーズを知っている人にしか通用しないんですね、これでは。
 そしてそれは、作品の評価の点においてまったく考慮されるものではありません。

 なんだか言っていることが矛盾している、と思うかもしれません。
 まとめてみましょう。

「私の作品は、純粋に一つの作品として見たときにはまったくおもしろくない」
 というわけです。

 ……でも、それでもいいと思うんです。
 私が何でこれを書いたのか、というとやっぱり書きたかったからです。
 決して将来作家になりたいわけでもなく、コミケに参加して売りさばこうと思っているわけでもなく。(まあ、おそらくコミケにあるような作品も売ることを目的にして書いている物なんて少ないと思いますけど)
 書きたいと思った作品が、これだったんです。

 私にはオリジナルを書く気はありません。書くとしたらもちろん自分「らしさ」を全面に出すよう努力はしますけど。
 次はロスト・ユニバースを書くつもりですが、このままでしょう。

 ただし、絶対に改善しなければならないのがストーリーの独立性です。
 他の全部がそのままでも、ストーリーだけは絶対にオリジナルでなければダメです。
 それだけは今回の話で肝に銘じました。
 目指すべくは、他の方々のもののように、独立した作品として読んでも面白い物語です。
 それには「自分らしさ」はありませんけど。

 でも、今回の作品はそういった評価はどうあれ、書けて良かったと思います。
 得るものは非常に多かったですし。これを次の作品に生かしていきたいですね。
 とりあえず、いちばんの収穫は……
 戦闘シーンはもう書かない、ということでしょうか(笑)。

 以上です。
 この作品を読んで面白くない、と思った方たくさんいらっしゃるでしょう。
 逆に気に入った方も(たぶん)いらっしゃるでしょう。
 それはまさに人の好みだと思います。この場所にどんな話を求めるのか。その違いですね。
 というわけで皆様、自分の書きたい話を書きましょうね。きっと同志がいるはずです。
 書きたくないときは書かない。どーせ趣味なんですから。
 人の評価なんか知ったこっちゃない! という道を歩くのもまたよし。
 ……おいおい、自分ホントに高校生か?

 最後は戯れ言です。
 まとめてないので気にしないで下さい。
 ……って、それ自体が逃げですね。私の正直な気持ちです。これは。

 ではでは、おつきあいありがとうございました。


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2780読みましたよ〜!みいしゃ E-mail URL5/21-18:33
記事番号2739へのコメント
ブラントンさん!読みましたよ。

とうとう完成しましたね。おめでとうございます〜!
お話はきちんと構成されていると思います。
それほど気にすることは無かったのではないでしょうか?
ただ気になったことは、原作に忠実すぎた感じを受けます。
言い換えると、ブラントンさんの色が出ていない。
ブラントンさんの世界というのか、そんな物がもう少しあったらもっとよくなるのではないでしょうか?
例えば、リナとガウリィを出さず、ゼルとルーク、ミリーナの話にするとか…同じメンツでもミリーナの一人称にするとか。
原作では語られない部分をブラントンさんがどう考えているか。
原作・アニメと同じだったら原作やアニメ見ればいいし…と言うことになっちゃう。
特にこの話はゼル主人公にしたら…いや、遠回しな言い方はやめよう(^ ^;;;)。
ゼルを出して欲しかった!
このストーリーだとゼルが適任!(^ ^)
原作ではたぶんで合わないだろうゼルとルーク、ミリーナ…
一体どんな話になるんだろう?
ストーリーも重要なんだけど、やっぱりスレイヤーズはキャラクターの魅力が売りだと思うので、キャラを中心に据えて考えてみてはどうでしょう?
その際ストーリーが多少破綻をきたしても私はいいと思います。
でも…やっぱりゼル…(^-^;;;)。
今度はゼルの話書いてください(^-^)。

ではでは、次回作頑張ってね〜!
(といいつつ私は何もしてない…汗)

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2795ディストルの惨劇 あとがき 4ブラントン 5/22-13:41
記事番号2780へのコメント

 みいしゃ様、感想ありがとうございました。
 うーむ、まさにみいしゃ様らしいお言葉。予想通りでした。

>ただ気になったことは、原作に忠実すぎた感じを受けます。
>言い換えると、ブラントンさんの色が出ていない。

 これは山塚様と一緒ですねー。やはり巨匠はそこまで考える域に達しているのでしょうか。
 これに対する私の考えは……前のあとがきをご覧になって下さい。
 今のところは、ストーリー展開以外には独自色を出すつもりはありません。

>原作では語られない部分をブラントンさんがどう考えているか。
>原作・アニメと同じだったら原作やアニメ見ればいいし…と言うことになっちゃう。

 まさにその通りです。所詮プロに勝てるわけないですからね。
 私の作品は所詮一時間程度の暇つぶしにしかなりません。
 でも、それだけでも十分すごいと思うんですよね。

 私は深読みはしないです、普通。額面通りに受け取ります。
 だから「じつはガウリイは賢い!」とか「アメリアのあの性格は悲しい過去を覆い隠すための演技である!(ってこんな意見ありませんか)」とか考えたりはしないです。
 例えば今回の話ですが、その気になれば海王将軍とか覇王神官とか出そうと思えばできたんですよ。形がどうなるかはわかりませんが。
 それでもあえてしなかったんです。
 これは話を作る上での大原則でした。
 いわく、重破斬は絶対に使わない。ゼロス・アメリア・ゼルは出さない。
 私なんかが書くような作品で、原作でもやってないようなことやっちゃいけない。
 私はそう思っています。
 だからオリジナリティというのはきついでしょう。

>ゼルを出して欲しかった!
>このストーリーだとゼルが適任!(^ ^)

 それも同感です。
 そもそも今回の『グレイス』は本文でも触れているとおりゼルがモチーフです。
 じつはこれ、半年以上前に猫南の話題別で他の方が触れていたもので。
 その頃ラスボスの形態を思い悩んでいた私の頭に飛び込んできたのです。

>原作ではたぶんで合わないだろうゼルとルーク、ミリーナ…
>一体どんな話になるんだろう?

 ま、ギャグはないでしょう(笑)
 ついでにこれぐらいの長編も無理でしょうね。
 前のあとがきの通り、独立した作品としてなら面白いかもしれませんが……
 少なくとも私の書く作品ではないです。

>ストーリーも重要なんだけど、やっぱりスレイヤーズはキャラクターの魅力が売りだ>と思うので、キャラを中心に据えて考えてみてはどうでしょう?
>その際ストーリーが多少破綻をきたしても私はいいと思います。

 この話ですらストーリーに問題ありありなのですから……
 これ以上破綻されたら、どうしようもないです。
 きっと次回作は……ケインたちはあまり活躍しないでしょう。
 一人のオリキャラにスポットをあてようと思っていますから。
 まあ、これがオリジナリティの表れかもしれませんけどね。

>今度はゼルの話書いてください(^-^)。

 って言われましても……
 私、原作の第一部は持ってないんです。つまり資料なし。
 それにギャグがないのはきつい。正直言いまして。
 はたして書くことはあるのでしょうか……

>(といいつつ私は何もしてない…汗)

 いやいや、「もう一つの夢の彼方」は長編を書く上で非常に参考にさせていただきました。
 あれぐらいのストーリーを書ければ、と一つの目標にしていました。
 ……で、全然及ばなかったですけど。

 それでは……


ディストルの惨劇 あとがき

 4、ストーリー編 1

 えーっと、今回からはストーリーを追っていきます。

 まずタイトル。
「ディストル」というのは、元ネタはありません。ふと浮かんだものです。
「惨劇」は……もっと複雑な言葉にしたかったのですが……いかんせん知識が及んでいなくて……漢和辞典とにらめっこしたんですけど……・
 

「一」

 サブタイトルは最初から決まってました。とにかくこれが原点だと思っているので、リナのセリフに続いて使いました。


盗賊団襲撃

 これがじつはこの話でいちばん気に入っています。
 理由は……あとがきのリナの通りです。
 この話「二」以降はギャグが全然ないんで……ここに詰め込みました。
 毎度おなじみのリナの肩書きにスリッパツッコミ。三つある噂は長すぎて面白くなかったと思いますけど。
 最後をあのセリフでしめるのは、当然でしょう。

 ……ところで、この話は「理由なき冤罪」「ソラリアの謀略」の続編として書いています。
 そのため、「ソラリアの謀略」のネタを流用している箇所が二つあります。
 一つはアルキスの使う見えない刃。そしてもう一つが、ここに登場する「考えてみてもいい」。
 出すからにはこれを上回るものにしなければ、というわけで、両方とも前回の手口を否定してから新たな抜け道を作りました。一応この点はかなりうまくできたと思っています。




 何の店かは書いてないですけど、まあ想像している通りかと。
 前の盗賊団のシーンが本筋に何の関係もないので(いろいろ考えたんですけど、ダメだったんです)、ギャグを引きずりつつ、この話の時代設定と物語の導入、とずいぶん忙しい場面になりました。
 なんとかいってよかったです。
 それにここではこの物語最大の伏線である、あのセリフが出てきますし。


料亭

 ギャグはここで終わり、ということであれ、やらせました。
 まあ、どさくさにまぎれて、というのは定番ですから。
 ここでは、
「いやー、これぞ男の青春よねー」
 の部分がかなり気に入っています。
 あとは食事の列挙。あれはネットで集めた資料とにらめっこして書き出しました。

 でも、青年が二度目はあっさり応じる、というのは物語の都合上です。
 ……うう、それは嫌いなのにやってしまいました……


宿屋

 説明口調が使えるのはいいですねー。スレイヤーズ原作では定番ですし。
 アニメだと大した量でなくても批判を受けますからね。
 ここは何といっても「美少女天才魔道士」でしょう。
 私の知る限りではこのネタは見たことなかったのですが……
 すぺしゃるで登場したでしょうか?


 「一」はとにかくギャグ。雰囲気としては完全に「すぺしゃる」ですね。
 本来なら戦闘シーンとシリアスとギャグが物語の最後まで共存しているのが原作本編なのですが……
 私にはとても無理でした。分けられてしまってます。
 しかも原作は開始10ページもたたずにいきなり最初の戦闘シーンに持ってきてますが、なんとこちらは一つもありません。
 ここは開き直りました。(爆)
 全体的には満足してます。浮かんだネタもばしばし使えましたし。


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2792ディストルの惨劇 読ませて頂きました♪Shinri 5/22-00:16
記事番号2739へのコメント
こんにちは、ブラントンさま♪
『ディストルの惨劇』、読ませて頂きました。
結構なボリュームだったので、少々読み終えるまでに時間がかかってしまいましたが(あまり読むの速くないのです(涙))、
お話は十分に堪能させて頂きました。
すでにもう何人かの方々(殆ど知ってる(笑))が感想を置いていかれたようで(←読ませて頂きました、それに対するレス
も含めて)、今さら私のまで……とは思いましたが。
内容のレベルの高さと、書き上げられるまでのご苦労とに敬意を表し、謹んで感想置いていかせて頂きます。
楽しませて頂いたお礼として、それがブラントンさまに対する一番のことだと信じまして……。
よろしければお付き合い下さいね。(長い前置きだ(汗))

最初から最後まで読み終えて、まず思ったのは。
非常にしっかりと練り込まれたお話だ、ということ。
これだけの……それこそ文庫本一冊に匹敵するようなボリュームを、大した破綻もなく、しっかりとした一本のお話に纏め上
げた構成力の高さ。まず、そこに唸らされました。
内容も厚いし。すごいですね。
正義館でのえれなさんとのやり取りを読んでて、この方ただ者ではない、とは以前から感じてましたけど(笑) このお話読
んだらさらに、です。やはり、ただ者じゃあなかった、と(笑)
他の方が、あなた神坂センセでは!? と思わず突っ込みたくなる気持ち、分かります。
ただ。もしブラントンさまがあくまで、それは過ぎた誉め言葉だとおっしゃるのでしたら。
このお話の素晴らしさ、それはブラントンさまのスレイヤーズに対する愛の深さだと。そう言い換えさせて頂きます。
これは違うとは言わせませんよ!(笑) だってそうじゃなきゃ、一年かけて一つのお話創り上げられないでしょう!?

どなたかへのレスにもありましたけど、確かに、カップリングにこだわらない、こういうスレイヤーズも十分あり! ですね♪
このお話読んで、そのことを改めて再認識させられました。本当に。
とりわけ戦闘シーンにおける、リナたちの駆け引きとスピード感、緊迫感は、まさにスレの醍醐味そのもので。
読んでて、その空気に知らず引き込まれてしまいました。
そういや私、スレにハマった理由の一つにゃ、アクション場面の生きの良さ(!)もあったんだっけ、思ったりなんかして。
でも、それって文章として表現するのはなかなか難しいんですよね……(しみじみ痛感)
ともあれ戦闘シーンの描写の上手さが、お話の全体的なレベルを高めているのは、ほぼ間違いないと言えるでしょう。

で、読み進めてて思わず嬉しくなったのが、「ご近所の奥様方に切れ者と評判」のワイザー氏のご登場!! この方、実は好
みだったりします♪ 
おまけにルクミリ出てくるし♪
お話のベースになってる、『ソラリアの謀略』はスレ本編中でもかなりお気に入りの一編なもんで、それだけでもこのお話、
私にとって読む価値あった、と思います。
しかし、いくら『ソラリア』がベースになってるとは言え、お話自体はオリジナル。よくここまで考えつかれたものだと、
ただただ驚かされるばかりです。

いいな、と感じた部分はいろいろあるんですけれど。
もし一点だけ挙げるとするならば……。
四の1中盤の、ルーク対ケスト。この対決シーン、ですね。
中でも一番印象的なのが、

>ケストの独白を、ルークはただ、だまって聞いていた。
>「……わかるぜ、あんたの思ったことはよ。
>だがな――」
>しばしの静寂ののち、そう口を開く。
>「オレは、あんたを許せねえ」
>――はたしてルークは気づいていたのだろうか?
>ケストのことを『てめえ』ではなく『あんた』と呼んだことに。

このくだり。ルークのルークたる部分を見た気がしました。
このセリフを言うのは、やはりルークが一番適切だったと思います。

まだまだ感想、書き足りないことばかりなのですが、このままだととてつもなく長くなってしまいそうなので、このくらいに
しときます(それでも十分長いって(汗)) ともかく、読んでいて楽しかった。
後書きを読ませて頂くに、ブラントンさまご自身、まだまだ満足のいく出来ではないようですが……それはそれとして。
完成度は高い方だと、私は思います。もちろん課題は残されてるとは思いますが。
でも、100%完璧な作品などあり得ませんし。あったら面白くない(←私はそう考えます)
……そうそう。後書きでもおっしゃられてましたが、ミリーナのリナに対する呼び方。
やっぱり悩まれました? 実は私もそれで悩んでたりします(現在進行形……謎)
確かにないんですよね、ミリーナがリナを「あなた」以外の呼び方したことって。う〜ん(悩)

最後にもう一度改めまして。全体的な感想を……。
とても読み応えのあるお話でした。読むことが出来て良かったと思います。
また機会があったら読ませて頂きたいものですが……それは、ブラントンさまのお心にお任せすることにします。
何だか、本当に長ったらしい上にえらそーな(そのくせまとまってない)文と化してしまいましたが、最後までお付き合い頂
けたとしたら幸いです。
それではまた。どこかでお会いできることを願いつつ……。

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2796ディストルの惨劇 あとがき 5ブラントン 5/22-13:41
記事番号2792へのコメント

 Shinri様感想ありがとうございます♪
 おお、長い。それになんというか……優しい感じがしました。
 いただく文章の長さと喜びは正比例です!

> 楽しませて頂いたお礼として、それがブラントンさまに対する一番のことだと信じ>まして……。

 はいー、まさにその通りです!
 やっぱり感想がいちばん嬉しいですね。
 Shinri様は小説お書きにならないのですか?
 私は目にしたことないのですけど……

> これだけの……それこそ文庫本一冊に匹敵するようなボリュームを、大した破綻も>なく、しっかりとした一本のお話に纏め上げた構成力の高さ。まず、そこに唸らされ>ました。

 これは、もう時間のおかげでしょう。
 徐々に徐々にですが、どんどん良くなっていくんだ、と校正をしながら感じました。
 でも、逆に言えば一年ぐらいかければ、誰だって書けますよ。これぐらい。

> このお話の素晴らしさ、それはブラントンさまのスレイヤーズに対する愛の深さだ>と。そう言い換えさせて頂きます。

 うーん、そうなんでしょうかね。
 作品に対する思い入れは間違いなくあります。
 これだけ時間をかけてるんだから、それが無駄にならないぐらいの出来にはしないと、と。
 私は短編が書けないので。

> そういや私、スレにハマった理由の一つにゃ、アクション場面の生きの良さ(!)>もあったんだっけ、思ったりなんかして。

 そうですねー!
 小説なのにあの生きの良さはさすが神坂先生です。

> ともあれ戦闘シーンの描写の上手さが、お話の全体的なレベルを高めているのは、>ほぼ間違いないと言えるでしょう。

 でも、結構書くのは早いんですよ。
 戦闘シーンの唯一の利点といえば、何といっても少ない文字数で行数が稼げる点でしょう。
 最初は「文庫一冊分が目標っていってもなー、どうやってそんなに増やそうかなー」と嘆いてましたが。
 気がつけば60000字。いやはや、わからないものです。

> で、読み進めてて思わず嬉しくなったのが、「ご近所の奥様方に切れ者と評判」の>ワイザー氏のご登場!! この方、実は好みだったりします♪ 

 なんかやけに人気ありますねえ……彼……
 あとがきに余裕があれば、彼の登場のいきさつにも触れたいと思います♪(いや、たぶんないだろう)

> お話のベースになってる、『ソラリアの謀略』はスレ本編中でもかなりお気に入り>の一編なもんで、それだけでもこのお話、私にとって読む価値あった、と思います。

 私は第一部を持っていないのではっきりとはしませんが……
 気に入っているのは『アトラスの魔道士』です。
 ああいった、二転三転するストーリーが次回作以降の目標です。

> しかし、いくら『ソラリア』がベースになってるとは言え、お話自体はオリジナル。>よくここまで考えつかれたものだと、ただただ驚かされるばかりです。

 これはもうお読みになったようですが、あとがきの通りです。
 ただ、原作との関連づけはうまくいったかな、と思ってます。

>四の1中盤の、ルーク対ケスト。この対決シーン、ですね。

 人によってお気に入りのシーンが違う、というのは嬉しいですねー。
 それもだいたい気合いの入ったところですし。
 この対決シーンの解説は、「四」のあとがきで。

>……そうそう。後書きでもおっしゃられてましたが、ミリーナのリナに対する呼び方。
>やっぱり悩まれました? 実は私もそれで悩んでたりします(現在進行形……謎)

 謎って……めちゃめちゃ今書いてます状態じゃないですか。
 公開されたら感想書きますね♪

> それではまた。どこかでお会いできることを願いつつ……。

 はいー。九尾様のページで明日にでも会いましょう。(爆)

 本当にありがとうございました。
 心のこもった、という感じを強く受けました。
 どうもありがとうございます。

 それでは……


ディストルの惨劇 あとがき

5、 ストーリー編 2


「二」

 サブタイトル、元は「ひさしぶりっ! またまた登場この二人」でした。
 最初の最初は彼らは「二」から出てくるはずだったので、そのときにはこうだったんです。
 ところが途中で今のが浮かび……そっちの方がいいと思ったので、変えました。


グレイスの話

 ここは、かなり苦労させられました。
 一応ネタがバレないように、でも情報はとりあえず出しとかないと……といろいろどこまで書くかというのに四苦八苦。
 しかも実はこの話、最初はルヴィナガルド王国とはまったく関係なくオリジナルな話にするつもりだったんです。
 ところがそのときに既に出すことが決まっていたゾード2号との兼ね合いで、どーせ同じネタなんだからくっつけてしまおう、と「ソラリアの謀略」の続編ってことにして。
 このときはまだワイザーのおっちゃんも出す予定は全くありませんでしたし、「理由なき冤罪」ともあんまり関わってませんでした。
 しかし、いろいろ事情があって急遽おっちゃんを出すことになった際に、こうなったらとことんくっつけよう、とグレイスを接着剤にしてその話とも関連づけたわけです。
 これのせいでグレイスの年齢がころころ変わってしまったのです。
 だってあのとき幼児(せめて子供)でないといけなかったわけですから。


VSガナル

 ようやく登場の戦闘シーン……
 前に書きましたが、ガナルの二刀流のあの剣は最初の頃からあった案なので、十分煮詰めて書くことができたと思います。
 でもリナがいきなりピンチに陥るのは、正直疑問です。ガウリイがあっさりはじかれるのも。
 ……つまり話の都合上、ってやつですね。
 ……だから、それは避けたかったんですけどねえ……


記憶喪失ネタ

 あそこでギャグ一発入れたかったので急遽作りました、これ。
 というより、本来なら別のギャグがあったのですが、それをボツにして空いたところに突っ込んだのです。
 即興なため、おもしろみに欠けるとは思いますが……
 ……うーん、ネタはいいと思ったので、もったいなかったなあ……


ルーク、ミリーナ登場

 本来「三」から登場する予定だった彼ら。実際「二」はそれで一度書きあがってました。
 その証拠にここでは戦闘シーンなしです。
 なんで変わったかは……本当にいろんな点が複雑にからみあって長くなるので……
 しかし、登場早々キレぎみなのはいかんぞ、ルーク。
 ……いや、自分でそうしたんですけどね。


リナVS名無しの黒ずくめ

 彼は珍しく黒ずくめで名前がありません。ホントに考えてないです。
 理由は、グレイスに一度も声を聞かれないため、後で出てくることがないからです。
 さてさて、この戦闘シーンはじつはいちばんダメだと思っています。
 ……だって、なんでたかが狼にリナが手間取らなきゃならないんでしょう。
 やっぱり書いたのが10ヶ月も昔だとヘタですねー……


ガウリイVSアルキス

 ゾードのときと似てますね、本当に。
 これはあまり言うことないです。ただ、決着のシーンは、唯一ネタばらしが後に来るので、なかなかよかったでしょうか。


 「二」はじつはいちばん長いです。上から「二」「三」「四」「一」の順です。
 不必要に長かったと思います。だからもっとも評価は低いです。
 グレイスの話と、後半の戦闘シーンはもっと削れたのでしょう。


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2821レス返し、差し上げます♪Shinri 5/24-06:42
記事番号2796へのコメント
どうも。またまたこんにちは、なShinriです♪
何か皆さん、レスのレスしてらっしゃるから、私もいいかなー……なんて思っちゃまして(笑)
あまり長くならない程度にレス返し、させて頂きます♪

>おお、長い。それになんというか……優しい感じがしました。
>いただく文章の長さと喜びは正比例です!
すいません、私、短い文章って書くの苦手なんです(涙) ここをはじめ、他所のカキコ見て頂いてもお分かりになるか
と思いますが。↑こう言って頂けて、内心ほっとしています。前回の感想UPする前、あまりの長さに正直UPしないで
帰ろうかと思ったくらいですから。

小説……ですか? 書きかけ、というかネタはいくつかありますけど……UPはしたことないです(^^;
と言うより、ネット始めた事自体まだ間もないものですから。こうやってカキコするようになったのなんて、さらに最近
のことな訳で(←それまでは分からなかった(爆))
そのうちカタチになったら、ということで……(書くの遅いから、いつとは聞かないで(^^;)

>でも、逆に言えば一年ぐらいかければ、誰だって書けますよ。これぐらい。
一年頑張れるってことが、すごいんですよ。思い入れがあってもなかなか……世の中、色々誘惑が多いですし。

ワイザー氏について。
>なんかやけに人気ありますねえ……彼……
あはははは……。らしいですねぇ(笑)
私、もともとこーいうタイプのおじさま(はあと♪)に弱いんですよ。強くって、しかもイキなところのあるっていう。
この辺の趣味は私の場合、故池波正太郎氏の『剣客商売』シリーズに端を発してますね、きっと。

>人によってお気に入りのシーンが違う、というのは嬉しいですねー。
それって凄いことだと思いますよ。
これだっていうワンシーンも大切ですけど、読む側に話の中で十分に楽しんでもらえたという意味で、非常に素晴らしい
ことです。

>> それではまた。どこかでお会いできることを願いつつ……。
>はいー。九尾様のページで明日にでも会いましょう。(爆)
あ、明日?……そりは……ちょっと。でもそう遠くないうちに、ということなら(けど断言はしない←卑怯者(^^;)

最後に……これは書こうか書くまいか、迷ったのですけれど。
『ソラリア』をベースにした今回のお話が、結果的に『クリムゾン』に似た内容となってしまったことを、後書き等で反
省してらっしゃるようですが、それについて一言。・・・私なんかが言うのはひどく口幅ったい気がしますが。
オリジナルのはずが、その出来上がりが結果的に既存のものに似通ってしまう・・・ということは、ままあることです。
自分にも覚えがあります。
そして。それは一概に悪いとは言い切れないと思います。
良いものであれば、その受ける影響力も大きいですし。プロの作家さんだって、始まりはそこからだと思いますから。
ただ問題は、似ているとしてもその中に、いかに自分なりのメッセージを込めるか、なのではないでしょうか?
似てる似てないは、結局は結果論な訳で。それよりも大事なのは、あのお話自体はあくまでもブラントンさまが書きたか
ったものである、ということ。ならば、そこには伝えたい何かがあるはず。
結果として似てしまった事よりも、話を通してそれが伝えられたか否かの方がきっと重要なのだと、私はそう考えます(あ
くまで私の個人的な考え、です)
安易に「似せよう」とする行為は、もちろん避けるべきことでしょうが(含む自戒)

……うう、言いたいことが上手く文にならなひ……(涙) きっと、読む方にとってはさぞかし分かりにくいものとなっ
ている事でしょうね。おまけにひどくえらそーだし……ごめんなさい(涙)

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2824ディストルの惨劇 あとがき 9ブラントン 5/24-14:17
記事番号2821へのコメント

 Shinri様、レスのレスありがとうございます♪
 なんだか普段レス返ししている私のツリーだからでしょうか、皆様もやってらっしゃって。

 さて、とはいうもののこのレス返し、本来は控えるべきものなのではないかと思えてきました。
 理由は、ただでさえ容量が少ないのにそれを食うからです。
 レスのレスともなると話題は個人的なものに移ってきます。それならば掲示板ですべきでないのか、と。こういった皆様向けの場所にそぐわないのではないかと。
 実際、M様のツリーが沈んでしまったのは私個人としても非常に残念です。しかもそれは私のせいというのが多大に入っているんです。
 今回感想のレスにあとがきを加えたのは、あとがき1で挙げた理由の他にそういった皆様向けの部分を加えたかったからなのですが……

 でも書いている方としてはどんどんレスをもらいたいのは事実。複雑ですね。
 私はこれからはレスのレスを送る際には掲示板に移行しようと思います。
 いえ、別に皆様にもそうしろ、といっているわけではないのですよ。

 あらあら、全然レスになってないですね。しかもまた容量食ってるし。
 どうも神経質になってしまいます。

>前回の感想UPする前、あまりの長さに正直UPしないで
>帰ろうかと思ったくらいですから。

 ああ、帰らないで下さい!
 私のなんかもっと長いじゃないですか。お読みになったのでしょう?
 今から思えばあの頃は容量が大きかったから安心して送れたのですね。
 ただ、あれではトラブルが起こりやすかったですから、それよりは今の安全確実の方がいいことは明らかですけど。

 今回すごく嬉しかったのは皆様が自分言葉で書かれていた点です。
 引用部分が少ない、ということはそれだけ皆様が実際に書いた部分が多いということですから。
 ……いや、長すぎて引用する箇所が選べなかったというのも……あるかもしれないですけど。

>そのうちカタチになったら、ということで……(書くの遅いから、いつとは聞かないで(^^;)

 はいはい、それでは待たないでおきましょう♪
 そうしておいた方が、いざUPされたときに驚きも大きいですしね。
 気楽に書いて下さい♪ 私も誰にも待たれなかったせいで期限を気にせず書けましたから。
 えれな様のように人気作で途中切れとなると大変。おそらく推定200人(もしかしたらそれ以上)ぐらいは続きを待っていることでしょう。もちろん私もその一人。

>……世の中、色々誘惑が多いですし。

 同感です。私も駄作を二作ほど例の断筆期間の際に書きました。ただ今は見ることはできません。

>この辺の趣味は私の場合、故池波正太郎氏の『剣客商売』シリーズに端を発してますね、きっと。

 ……すみません……知りません……
 しかし本当にシブい(だから何度も言うけど死語だって)作品をお読みですね。

 さて、最後の文章ですが。

 言うか言うまいか、と迷うようなことでもちゃんと述べられる、というのはいいことだと思いますよ。
 ネット上は文章の与える影響を恐れて謙遜のしあいになりがちですから、言いたいことがなかなか言えないと思います。
 やはり送る相手がどう思うか、というのがあらかじめわかっていないと厳しいですね。
 たとえば初投稿の人に文句ばっかりいってはいけない、とか。
 私は元の性格が比較的おとなしめなんで、全然大丈夫です♪

 さて、おっしゃっていただいた意見、こちらとしても非常に救いになりました。
 えれな様の「神坂先生にもっとも近いというのが個性」という言葉と同じく、本当に嬉しかったです。
 伝えたい何か、というのはいままでのあとがきを読めばわかると思います。これは書きたかった、と言っているはずですから。
 でもいちばんは、えれな様へ言ったことでしょうか。スレイヤーズにはこういう作品もあるんだぞ、っていう。感想と同じく、作品にも自分なりに他の人とは変わったものを、というのを目標にしていましたから。

 ただ、やっぱり似てしまったというのは納得いきません。
 スレイヤーズは最後のどんでん返しというのが魅力の一つであり、似ている話ではそれがわかる可能性があるのですね。
 おそらく皆様、私の作品がどういったタイプのものか当たり前ですがわかっていないで読んだために、あの展開が予想できなかったと思いますが、あらかじめこれが原作を真似ているのだ、とわかって最初から読めば、おそらく十中八九グレイスのことは考えたでしょう。
 で、私にはそれが満足いかないのです。高望みかもしれませんが。
 文体だの目次だの細かい点にこだわる前に、もっと大きな点でそのスレイヤーズらしさに欠けていたのではないか、と。
 原作を読んだ人向け、といいながらも、本当によく読んでいらっしゃる方には逆に面白くないような気がするのです。
 だから誰でも同じ気持ちで読めるオリジナルというはいいのですね。

> ……うう、言いたいことが上手く文にならなひ……(涙) きっと、読む方にと
>ってはさぞかし分かりにくいものとなっている事でしょうね。おまけにひどくえら
>そーだし……ごめんなさい(涙)

 いえいえ、私としてはおっしゃりたいことはわかったつもりです。わかりたりない部分もあるとは思いますけど。
 謝らないで下さい。これからも忌憚ない意見を交わしましょうね。


 それでは……


ディストルの惨劇 あとがき

9、 ワイザー、その登場のわけ


 今回は予告通り、なぜか人気のあるワイザーのおっちゃんについて。
 事の発端は、ルークとミリーナの戦いを書き終え、そろそろ四についても具体的に流れを煮詰めていこう、と思ったときでした。
 「まず謎解きして、あとはケスト戦で、最後にラスボスだな」と。
 ……ちょっと待て。
 ……謎解きって、リナたちはそれができるほど事情を知ってたっけ……?
 これは完全に迂闊でした。リナの立場から物事を考えていなかったのです。
 全部事情を知っている作者と違って、リナたちがそれまでに得た情報はごくわずか。
『ソラリア』との関連づけができそうなことは何も知らないのです。
 というわけで、急遽そこで事情説明をするキャラを出す必要に迫られました。
 本当はそこで新キャラを持ってこようとも思ったのですが……
「惨劇」の名が示す通り、この話は結局村の人は全員死ぬことになっているのです。
 それではこの新キャラも殺さなくてはならない、という観念を何故か持ち、その方法はボツにしました。
 そして同時にワイザー登場のカギとなったのが、この「三」の性格でした。
 前に書いた通り「三」は自由度が非常に高かったです。そこで「読者サービス」ということで、多少本編から離れても読んでいる方が喜ぶようなものを書こう、ということにしたのです。例えばルークとリナの会話なんかがそうですね。
 まあ、マジメに読者受けを狙っていたわけではなく、それはつまり自分も書きたかった場面だったということですけど。
 とにかくそういうわけでワイザーのおっちゃんの登場と相成ったわけです。
 しかし……本当にチョイ役ですねー。
 ま、人にはそれぞれ役割というものがありますから。


 今回はあとがきに入る前が長かったのでこれで終わりです。
 ……はい……そうです、ネタがないんです……

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2812Re:ディストルの惨劇松原ぼたん E-mail 5/23-20:07
記事番号2739へのコメント
 面白かったです。感想遅れて済みません。

> おそらくここが、この盗賊団のボス、組長の部屋なのだろう。
 組長って・・・・・。
>『リナちゃんの盗賊いぢめ完全まにゅある(はぁと)』
 読むだけなら楽しいかもしんない。
>「と、とか言って『やっぱ考えた結果ぶちのめす』とかするつもりだろ!」
 鋭い。
>『血を吸った蚊には――魔竜烈火砲。
> メシにさわったハエには――冥王崩破陣。
> そして、頭にフンを落とした鳥には――覇王雷撃陣。
> などというヤツを問答無用でお見舞いし、生き物愛護協会から永久戦犯としてブラック
>リストに載せられている、生きとし生ける者の天敵』
 呪文が具体的なところが怖い。
> まあ、このあたしの作戦に気づくとは、なかなかの男だったかな。
 確かにっ。
>「魔物が住み着いたにしても、その原因ってものがあるでしょーが。
 ルヴィナガルドと聞くと真っ先にあれが思いついてしまう。違うだろうけど。
> もちろん――勘定は払わずに。
 さすがリナ。
> 記憶喪失って、あたしも何度も経験したから」
 おいおい。
> さては、さっきの話でいてもたってもいられなくなったか!?
 良く動けたなー、あの状況で。
> ――でも、なんだかんだいって結局いっしょにいるんだし、ひょっとしたら――
 その言葉、そっくりそのまま返されるぞ。
>「私は、ルヴィナガルド共和国特別捜査官、ワイザー=フレイオンだ。
 わーい、ワイザーのおっちゃんだー。
> 理由はどうやら、ラーヴァスの非道なやり方に反発したためらしい。
 多少は、まともな感覚はあるのね。
> ――覚醒が始まっていた。
 嫌な展開ですね。

 本当に面白かったです。
 ではまた、ご縁がありましたなら。

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2822ディストルの惨劇 あとがき 8ブラントン 5/24-09:36
記事番号2812へのコメント

 松原様、感想ありがとうございました。
 前に掲示板でいろいろ言いましたが、百聞は一見にしかず。この作品とあとがきから私の考えというのがわかると思います。
 松原様は相変わらずハイペースで量産されていて……
 ホント、私にはとても無理なことです。


>組長って・・・・・。

 これの元ネタは新撰組です♪(byるろ剣)
 あれの場合は、隊なのに組長なんですね。

>読むだけなら楽しいかもしんない。

 そうですねー。実行するとなると大変です。
 だいいち書いてある内容を実際にできるのって、リナぐらいしかいないような気が……

>呪文が具体的なところが怖い。

 それを呪文には縁のなさそうな人が覚えている、というのが噂の大きさを表してますね。

>良く動けたなー、あの状況で。

 ……いやー、あのこれは……
 すみません。話の都合上です。
 だってあそこに残ってると見えない刃の巻き添え食いそうだったんですもの。

>その言葉、そっくりそのまま返されるぞ。

 なんとっ!? そこまでは考えなかったです! いや、ホントに。
 すごいです。作者よりも深読みしてるなんて。
 やっぱり経験の差というヤツでしょうか。

>多少は、まともな感覚はあるのね。

 ここを選んだ、ということはおそらく疑問点として浮かんだのでしょうが。
 これはメリッサの性格がはっきりと固定されていなかったせいです。
 彼女は、あとがきでも書いていますがもう一人のリナという感じにしてました。
 ので心優しい、という部分も同じなのですね。
 それではなぜグレイスを実験台にしたのかということですが……
 これは科学者(という表現はおかしいですが)としての欲望に勝てなかった、ということです。(にしといてください(謝))
 最期に結界内に残った、というのはそういう意味での謝罪、というのが入っています。
 ……と、まあそれぐらいは考えてたんです。
 
 しかし、こんなあとがき読まないとわからないようなもの書いてるようじゃ、全然ダメです。
 とにかく彼女は死んでいるのでどうしようもなかったのですが……
 次回以降はそんなことは絶対になくします。固く決意。


 それでは……


ディストルの惨劇 あとがき

8、 ボツネタ紹介

 ……いや、予定していた量を過ぎてしまったのでこれからはネタとの勝負です。
 本当に皆様、ありがとうございました。この感想の数は完全に予想以上でした。
 やっぱり載せて良かったです。心からそう感じます。


・幻の第一稿

 そもそも今回のストーリーは、前作「進め!インバース探偵団」(私の作品で唯一今でもネット上で読めるものです)を書き上げた後に考えていたものをボツにした次に生まれた第二稿なんです。
 で、その前作。じつは都市が舞台の権力闘争でした。
 ところがそのタイプは『聖王都動乱』で既に使われており、しかも戦闘シーンが出しにくい話だったのであきらめて。
 そうなりゃ180度方向転換だ、と考え出したのがこのストーリーだったというわけです。
 その第一稿は次作で大幅に改良を加えて(そりゃあ、作品自体が違いますから)使用します。
 ……え、そんなの聞いてない? 失礼しました……


・幻の「三」

 前に書いた通り、「三」は三分の一まで書いていたのを書き直したものです。
 ではどういった展開だったのかといいますと……
 あの名無しの黒ずくめ1が生き残った村の人として登場することになっていたんです。
 もちろん罠です。「二」で彼が喋らなかったのはミリーナに言っている理由ではなかったのです、「二」を書いたときには。
 で、なんでボツにしたのかは……そんなことをわざわざする理由が明確にできなかったからです。
 話の都合上、というのは何度も書いてますがいやだったので。


・ 幻の敵キャラ

 あとがきの通り、いちばんの即興キャラだったミルザ。
 なぜ即興になったかというと、その前に使う予定だった者がいたからです。

 その敵とは、呪文を使う小動物。具体的にはネズミとかです。
 ルヴィナガルド時代に、デーモンと子供を融合させる研究をしていたベルギス国王一味ですが、デーモンとの前に実験段階として、普通の動物と人間の子供を融合させていた、という設定です。
 で、それをメリッサが引き取り、かわいがってきた(普通に「かわいがった」という意味です)という展開で登場させようと思っていました。
 ……と、このようにほとんど具体的に決まっていたのです。

 それではなぜボツにしたのかといいますと、話が残酷すぎるからです。
 そもそも『グレイス』のこと自体が残酷なのに、子供と戦うなんて……
 『ガーヴの挑戦』でのフィブリゾからもわかるように、リナはかなりそういった面ですごく心優しいんです。
 理由のもう一つとしては、どうも強さに限界を感じたからです。あっさり倒されかねないか、と。
 ですから、泣く泣くこの案は切りました。


 ……うーん、こんなの読んでもつまらないですね……
 おそらくないと思いますが、もし次があったら、そのときは予告していた通りワイザーのおっちゃんの登場について触れたいと思います。