◆−お詫びと前口上−オロシ・ハイドラント (2003/12/25 21:05:20) No.28799
 ┗スレイヤーズTRYノベル:物語を始めるための九つの序章−オロシ・ハイドラント (2003/12/25 21:07:58) No.28800
  ┣序章で既に謎がちりばめられてますね。−エモーション (2003/12/26 22:00:58) No.28818
  ┃┗Re:謎解き小説といった感じにしたかったので……−オロシ・ハイドラント (2003/12/27 16:57:34) No.28826
  ┗スレイヤーズTRYノベル:一話:希望の轍−オロシ・ハイドラント (2003/12/29 18:03:43) No.28852
   ┣世界平和の代金は金貨200枚−エモーション (2003/12/29 22:54:33) No.28854
   ┃┗Re:世界平和の代金は金貨200枚−オロシ・ハイドラント (2003/12/29 23:26:11) No.28856
   ┗スレイヤーズTRYノベル:二話:それすなわち世界の危機−オロシ・ハイドラント (2003/12/30 20:50:35) No.28867
    ┗Re:スレイヤーズTRYノベル:二話:それすなわち世界の危機−エモーション (2003/12/30 23:07:59) No.28869
     ┗Re:次回以降が本番かと−オロシ・ハイドラント (2003/12/31 22:25:23) No.28880


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28799お詫びと前口上オロシ・ハイドラント URL2003/12/25 21:05:20




 1
 画面のご覧の皆様こんばんは。
 ハイドラントと申します。
 はじめましての方ははじめまして。
 どうかよろしくお願いします。
 

 2
 さて今日12月25日、前々から構想と執筆を続けて来た「スレイヤーズTRYノベル」をようやく発表することが出来ます。
 本来ならば昨日12月24日に連載開始する予定でしたが、事情あって一日遅れました。申し訳ございません。


 3
 今作は前作「カオティック・サーガ」と少なからぬ関係のある作品です。
 どのように関係しているかは、読んでみてのお楽しみ。
 ちなみにどちらからでも読み始められるようになっているはずです。


 4
 さて前おきはこれまでにして、そろそろ開始します。


 <@><@><@><@><@><@><@><@><@><@>

 
 この作品を最後まで読んでもらいたいと願うのは、あまりに傲慢なことなのかも知れないが、作者はそう願っている。


  ――SLAYERS TRY NOVEL――
  

  ――破滅の羅神盤――

 
 僕の好きなのはエンターテインメント小説です。娯楽小説は楽しむために読みます。文学は眠るために読むのです。中でもミステリーですよ風見さん。
 引用:飛鳥部勝則「バベル崩壊」より

 
 ――主要登場人物一覧――


 <リナサイド>


 リナ・インバース:膨大な魔力と幅広い知識、天才的な推理力と分析力、そして類稀なる美貌を持った天才美少女魔道士。「あたし」。

 ガウリイ・ガブリエフ:剣士としての実力は充分だが、頭の中身は原生生物とそれほど変わらない。

 フィリア・ウル・コプト:火竜王ヴラバザードに仕える巫女。平和と平穏を愛しており、戦いは好まない。規則には厳しく生真面目なのだが……

 ラファエル:正体不明の謎の魔道士。知識をひけらかす癖がある。

 ヴァルガーヴ:魔竜王ガーヴの後継者を自ら名乗り、リナを狙う青年。

 エイデンバングル:ヴァルガーヴの使いを名乗る男。その正体は不明。

 セフィクス:凄まじい戦闘能力を持った謎の美女。

 ゼロス:獣神官。


 <ゼルガディスサイド>


 ゼルガディス・グレイワーズ:異形の魔剣士。合成生物(キメラ)。「俺」。

 アメリア・ウィル・テスラ・セイルーン:聖王国セイルーンの第二王女。

 グルーガ:アメリアの護衛騎士。

 オルテウス:アメリアの護衛騎士。

 アシュエル・ギー:砂漠に聳える塔に住む男。過去に一作の探偵小説を著した。

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28800スレイヤーズTRYノベル:物語を始めるための九つの序章オロシ・ハイドラント URL2003/12/25 21:07:58
記事番号28799へのコメント

 ――物語を始めるための九つの序章――


 1:悪夢の光景
 

 それは悪夢のような光景だった。
 光が注いだ。
 眩しかった。
 綺麗だった。
 だが、それは一瞬で終わりを告げ、光は私達に牙を剥いた。
 悲鳴が、絶叫が響き渡った。
 金色の悪魔が群れをなして攻めて来た。
 あれは悪夢だった。
 皆死んだ。
 皆死んでしまった。
 今でも強く覚えている。
 恐くて何も出来なかったけれど、私は運良く生き残った。
 あの惨劇を私は忘れない。


 2:孤高の魔道士


 暗闇に閃光が走った。光は破壊の意志を持って迫る。
 獣の如く夜闇を切り裂く一撃が、彼女の元に届いた時、その戦いは終わっていた。
 自らの力によって生み出した微かな明かりによって照らされた彼は、柔らかな勝利の風を浴びる。
 闇空に吐息が昇った。その息吹は群青の大気に飲み込まれ、誰の目にも触れなかったが。
 冷たい風。されど優しい。
 海が歌う。静かな歌を。
 天には輝く月。母なる白の光。
 似合う言葉は静謐。無音ではない。闇でさえ囁きを発す。
 強い風が吹きつけた。上質な漆黒の髪が揺れる。黒いマントがひるがえった。
 風は体内に向けて、心地良い冷気を運ぶ。
 彼は再び息を吐いた。
「わたくしの勝ちです」
 返答する者はいない。
 その沈黙こそが勝利の証。
 彼は一歩ずつ、倒した相手の元へと近付いていく。
 海辺の砂を踏み締めて、月を見上げつつ歩いていく。
 月は美しかった。
「だが、あなたはもっと美しい」
 その台詞を平然と吐いて、彼は彼女を見下ろした。
 彼女の名を呼ぶ。最強の魔道士の名を。
 彼女は術を受けて倒れている。
 外傷はなく、ただ意識だけがない。
 彼は彼女を抱き上げた。
 そのまま歩いていく。
 彼と彼女の姿は夜闇の蒼に塗り潰されて、やがて消えた。


 3:神殿にて


 彼女はそれを見た時に、少なからずの感動を覚えた。
 光。それは光であった。
 上天より発せられ、地上を照らす光とは違う。
 どこかも分からぬ光源から発せられるその光は、神秘的で限りなく強い。
 だが、目を眩ます類の強さではない。むしろこの光を浴びることを眼が欲求しているほどに心地の良いものであった。
 この光の持つ強さとは、その光の内に秘められた力の強さに相違ない。それは聖なる力である。
 この神殿は、偉大なる神の魂が眠る場所であるという。この神は未だなお意思を持ち、弱き者達の道標を与え続けている。ならばこの光は、神の魂が発す光なのであろうか。
「……綺麗」
 彼女は始めにそう言った。
 綺麗。綺麗な光だ。だが、その言葉一つでは、対象のすべてを表現出来ていないことは発言者の彼女にさえ明らかだ。
 それでも人間の口にする感想としては最も相応しいものに思える。
 光が消えた。不意に消えた。
 だが闇が訪れるわけでなく、平常な明るさに戻ったのみだ。
 光が消えた瞬間、彼女は神を見た。
 光を失った光源は、一つの宝玉という形を取っていた。
「……巫女よ」
 この声を発したのは、まさしくその宝玉であった。
「……巫女とならんとする者よ」
 引き続き、宝玉は言葉を投げ掛ける。
 彼女は黙ってそれを聴いていた。
「我は汝に力を託す」
 宝玉から発せられる声は、老人のものにも思え、若者のものにも思え、貴婦人のものにも、童子のものにも、この世ならざる者によるものにも思えた。
 神の声は素晴らしかった。神の声は光に満ちていた。
「我は汝に力を託す。良いな」
 彼女は静かに頷いた。余計な言葉は吐かぬよう言われている。
「ならば我は汝に力を託そう」
 そして神の声は消えた。
 宝玉から再び光が溢れ出す。
 先ほどよりもずっと強い。
 世界が白一面に染まってしまい、上下左右の感覚さえ喪失した。
 彼女はただ神と一体化する夢を見ていた。
 そして彼女は神の力を背負うこととなった。


 4:荒ぶる悪魔


 戦況は圧倒的に不利であったし、不利であり続けた。
 闇の王の力は今や圧倒的となり、彼に背く者達はことごとく滅ぼされていった。
 切り立った崖の上で、老人はその闇の軍勢を見据えていた。
 雷鳴が鳴く。黄金の鉤爪が大地を襲い、激しい衝撃が巻き起こる。
 雷鳴とともに飛来した闇の弾丸。老人はそれを難なくかわしていた。
 老人の目の前に何者かが出現する。真っ黒な人形であった。
 人形は意思を持っていた。腕を翳し、魔力の弾丸を撃ち放つ。
 だが老人は宙に浮いてそれをかわし、軽く指を弾いた。
 その瞬間、闇で作られていた人形は四散し消滅した。
 だが殺意を持った人形はその一体のみではなかった。闇の軍勢はほぼ無限に存在する。生きとし生ける者は、等しくすべて彼らの敵である。それは彼らが世界を消し去ることを望んでいるからだ。
 老人は戦い続ける。
 老人だけではない。闇の軍勢と戦う者達には、真の安息などどこにも存在しないのだ。
 果てしなく長い戦いの中で、闇と戦う彼らの数は減少の一途を辿っている。
 彼らがすべて死に絶え、世界が滅び去る日もそう遠くはないだろう。
 希望はある。微かなものに過ぎないが。
 それでもそれに賭けるしかない。
 彼らの筆頭格である老人は戦い続けた。


 5:謎の箱


 温和な空気が満ちている。命の歌が囁かれている。
 平穏な大地。安眠する野原。
 そこに小さな箱がおかれていた。
 いつからおかれていたのか。それは誰にも分からない。その箱に秘められたものと同様に。
 まさしくそれは謎の箱。
 

 6:光の発端


 あの降魔戦争より百年ほど前。大陸北方にとっては平和な時代であったと言える。
 ガブリエフ家の若き当主、ロランド・ガブリエフは穏やかな陽射しを浴びて昼寝をしていた。
 二十二歳である彼の住屋は小高い丘の上に立っており、辺りは日向ぼっこに最適な環境と言える。
 十年前に集結したハーディヌス王国とネグロゴンド正統戦士連盟との戦――近隣諸国に猛威を振るった正統戦士連盟は、病で盟主を失ったことにより、自滅した――によって父を失い、その五年後に流行病で母を亡くしたロランドは傭兵となっていたが、戦士としての才はないようで、収入もけして芳しくはなかった。
 だがそんな彼の元に、幸運は不意に降りることとなる。
 昼寝をしていた彼は、急に何かを感じ取った。何かが大空から、すぐ近くの大地に降りて来るかのような。
 数分後、睡魔から解放された彼は目を見開いた。
「…………」
 その時の驚きは、生涯忘れぬものであっただろう。
 彼の目の前には、満身創痍の女性がいた。
 漆黒の衣服を着、藍色の長髪を戴いた、彼と同年代ほどに見える女性であった。
 顔立ちは端整な造りをしていたが、憔悴していたことによって、その美は大幅に軽減されていた。
 その彼女は、あるものをその手に握り締めていた。それこそが、このガブリエフ家に輝かしい光をもたらすこととなる光の剣ゴルン・ノヴァである。
 ロランドは彼女を住屋まで運び、傷の手当てをした。医者を呼べるほど経済的余裕はなかったが、必至で手当てした甲斐あって彼女を助けることが出来た。
 だが約一年後に彼女は死んだ。肉体も精神もあの怪我のせいで摩耗していたのだろう。病死だった。
 彼女は死ぬ間際、外に出してくれと言った。ロランドは言う通りにした。彼女は日の当たる大地で息を引き取った。
 ロランドは変わり果てた姿の彼女を埋葬した。
 彼女には遺産があった。ロランドと彼女の子である。
 ロランドはその子を大切に育てた。その異常な姿など気にせずに。


 7:奇跡の所業


 シルフィールはその宮殿を見詰めていた。
 陽光を浴びて金色のような輝きを見せる白亜の建造物。
 無気味に捻れて天に収束するその建物は、人類に造りえるものであるかどうかさえ分からぬほど不可思議で、そして芸術的なものであった。
 だが、彼女が驚いたのはそのためではない。
 その建造物が立つ場所こそが、あのサイラーグ・シティのある場所だったからである。
 サイラーグ・シティとは、伝説の魔獣によって一度崩壊の危機を迎え、光の剣士に救われたが、狂える魔道士が生み出した悪魔によって今度は完全に滅ぼされてしまった街である。
 その街は一度蘇った。だが偽りの復活であり、それは邪なるものによってなされた奇跡であったが、それでも彼女はその奇跡を少なからず喜ばしいものと思っていた。なぜなら、ここは彼女の生まれ故郷であり、死した父とも再びまみえることが出来たのだから。
 その奇跡は二度起こった。ある噂を聞いて、再びここに舞い戻った彼女が見たものは、まさしく再生を遂げたサイラーグ・シティであった。
 そこには彼女の父もいた。だがあの時と何かが違う。同じ父がそこにいるはずなのに、何かがおかしく違和感を禁じえない。
 これを喜んで良いのかは分からない。父にまた会えたことは嬉しかったが、これは本当に父なのだろうかと考えてしまう。
 今回のサイラーグ復活も悪しき何者かの手によるものであり、その者が意図して父の中の何かを変えたのかも知れない。分からない。
 過去に神聖樹(フラグーン)と呼ばれた大樹が聳えていた場所に建つ建造物を、彼女は見詰め続けていた。


 8:再臨


 光が降りて来る。
 闇の土地より降りて来る。
 一度は闇に還されたその光は、再びこの地に降りて来る。
 彼は笑っていた。
 漆黒の闇の中で彼は。
 狂気のままに笑っていた。
 ここに闇がある。
 すべてをそれで満たすのだ。


 *


 精神世界には魔族の住む領域がある。通称魔界と呼ばれるその地域の一区画に建てられし巨大な塔。獣王神殿と呼ばれるその巨塔の最上階に彼女はいた。そこは「世界を見下ろす塔」と呼ばれている場所であった。
 彼女――獣王神殿の主、獣王(グレーター・ビースト)ゼラスはその光景を見て、少なからぬ危惧を感じていた。
 
 
 9:悪魔の部屋


 暗い部屋には黒い髪の男がいた。
 その男はある一点にのみ、漆黒の眼差しを向けていた。
 そこには寝台があり、若い男が横たわっている。その男は身動き一つ取らず、すでに死んでいるようにも見えた。
 黒い服の男はその男を見つめ続けている。何を考えているのかは分からない。外部には何の感情も現れていない。
 黒い髪の男の視線の中にいる男の額には、微かに縫合の跡が見られた。
 寝台の脇に静止している車輪つきの縦長の台の上に、透明な液体に浸された銀の刃物がある。何らかの理由があって頭部に手術を施されたのなのだとしたら、この刃物が使われたのだろう。透明な液体は消毒液か何かだ。
 黒い髪の男は静止したまま動かない。このままずっと何も変わらないまま、時が過ぎていくのではないだろうか。
 だがそれから何十分かが経つと、黒い男の手が動いた。
 真っ白な手が少しずつ伸びていったのだ。
 やがて伸びきった手は、寝台に横たわる男の額を突き破った。
 黒い髪の男が呼吸をすると、寝台に横たわる男に変化が起こった。
 全身が膨れ上がり、蒼く染まり、怪物じみた姿となる。
「……成功だ」
 男が呟いた。



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28818序章で既に謎がちりばめられてますね。エモーション E-mail 2003/12/26 22:00:58
記事番号28800へのコメント

こんばんは。

とうとう始まりましたね。「スレイヤーズTRY ノベル」!
リナサイドとゼルサイド、二方向に分けられているということは、
少なくとも途中までは、リナたちとゼルたちは別行動をしていて、
二方向からの視点になるのですね。
大変そうですが、がんばってください。

序章……名前が出ていて、すぐに分かるキャラはともかく、
それぞれ、これは誰だろうと思いつつ、読んでいきました。
さすがに、何となく分かるのもあれば、多分新キャラだろうなあ。
これは後々誰のことになるのかなと、思いました。
それにしても、すでに謎がちりばめられてますね。
異常な姿を気にせず育てるガブリエフ家の御先祖さまに、何故か「ガウリイの
先祖だしなあ」と、変な納得をしてしまいました(汗)
それにしても、光の剣を携えた美女……この方も謎ですね。
また、最後の章は何となく「フランケンシュタイン」を彷彿しました。
ソード・ワールドならフレッシュ・ゴーレムという代物ですね。
この実験をしていた方は、一体何者なのでしょうか。そして何をする気なのでしょう。

前回の話と絡むということは、ラレニェさんは暗躍しまくっているんですね……。
表に出てくるかどうかは、続きを読まなければ分からないことですが。

さて、ハイドラント様版「スレイヤーズTRY」。どのような展開に
なっていくのでしょう。続きを楽しみにしています。

それでは、今日はこの辺で失礼いたします。

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28826Re:謎解き小説といった感じにしたかったので……オロシ・ハイドラント URL2003/12/27 16:57:34
記事番号28818へのコメント


>こんばんは。
こんばんは。
>
>とうとう始まりましたね。「スレイヤーズTRY ノベル」!
>リナサイドとゼルサイド、二方向に分けられているということは、
>少なくとも途中までは、リナたちとゼルたちは別行動をしていて、
>二方向からの視点になるのですね。
>大変そうですが、がんばってください。
構想している内に必然的にこういう形になりました。
特に合流させる場面が大変で、悩んでもいますが、何とかうまくいきそうな気がします。
>
>序章……名前が出ていて、すぐに分かるキャラはともかく、
>それぞれ、これは誰だろうと思いつつ、読んでいきました。
>さすがに、何となく分かるのもあれば、多分新キャラだろうなあ。
>これは後々誰のことになるのかなと、思いました。
>それにしても、すでに謎がちりばめられてますね。
一種の謎解き小説にしたかったので、ついこうなりました。
一つ一つの場面の意味を想像(あるいは推理)しつつ、読み進んでいただけると幸いです。
>異常な姿を気にせず育てるガブリエフ家の御先祖さまに、何故か「ガウリイの
>先祖だしなあ」と、変な納得をしてしまいました(汗)
たとえ大昔とはいえ、血の繋がりがありますからね。
>それにしても、光の剣を携えた美女……この方も謎ですね。
結構重要な人物のような、そうでもないような……
>また、最後の章は何となく「フランケンシュタイン」を彷彿しました。
>ソード・ワールドならフレッシュ・ゴーレムという代物ですね。
>この実験をしていた方は、一体何者なのでしょうか。そして何をする気なのでしょう。
怪実験風のエピソードが無性に書きたくなったので、書いてしまいました。
重要……かどうかは結構微妙かも。
>
>前回の話と絡むということは、ラレニェさんは暗躍しまくっているんですね……。
>表に出てくるかどうかは、続きを読まなければ分からないことですが。
事件の裏で暗躍していたりします。
具体的に何を企んでいるのかは最後の方まで明らかにならないと思いますが(ある意味ホワイダニット(動機当て)と言えるかも)。
ちなみにこれだけではネタバレにはなってませんので御安心を(笑)。
>
>さて、ハイドラント様版「スレイヤーズTRY」。どのような展開に
>なっていくのでしょう。続きを楽しみにしています。
どうもありがとうございます。
出来るだけ間が空かないように気をつけながらも、慎重に投稿していきたいと思います。
 
>
>それでは、今日はこの辺で失礼いたします。
それでは、これで……

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28852スレイヤーズTRYノベル:一話:希望の轍オロシ・ハイドラント URL2003/12/29 18:03:43
記事番号28800へのコメント

 一章:この世に闇を満たすもの


 1:物語の始まり


 街道を馬車が走っていく。
 空には眩い太陽が照っている。
 地上を覆う草達は光を浴びて、青々とした中に金色の輝きを秘めている。
 気温は高くも低くもない。
 ほど良く非常に心地が良い。
 あたし達三人は、大きな樹のそびえる芸術の都へ向かっている。
 だがあたし達の真の目的は、樹を眺めたり、芸術作品を鑑賞したりすることではない。
 あたし達はこの世界を危機から救いにいくのだ。
 依頼料、成功報酬で金貨二百枚。
 とある事情であたしは、僅か金貨二百枚程度の報酬――しかも前金なし――で、世界を救わなければならなくなった。
 全く、面倒くさい。
 あたしってば本気で悲劇のヒロイン。
 
 
 発端は、彼と出会ったことであった。
 二十歳の夏もついに過ぎ去ろうとしていた頃の話だ。
 海に面したその村の小さな宿の一階にある食堂で、あたしと彼は邂逅した。
 あれは夕食を食べていた時のことだ。
 ローブにマントという魔道士のような格好を彼は、いきなりあたしに話し掛けて来た。
 確か最初の言葉は挨拶だったはずだ。
 その時ガウリイがあたしに向けて、知り合いかと訊いて来た。
 ガウリイというのはあたしの旅の連れだ。
 あたしは首を横に振った。
 彼と出会うのはそれが初めてだ。
 彼はあたしを探していたと言った後、小さく独り言を呟き、別れの挨拶をして去っていった。
 また後で伺いますと。
 食後、部屋に戻ったあたしは、窓から外を眺めていた。
 その時に彼はやって来た。
 あたしは彼を部屋に招き入れた。
 当然、相手に対して無警戒ではなかったが。
 ラファエルと名乗った彼は、あたしの顔と名を知っていた。
 ついでにあたしの様々な功績と、いくつかの悪名も。
 あたし達の住んでいた世界というのは恐ろしい魔族達の張った結界が張られていて、その結界の外にいくことが出来なかった。
 それがあたしの活躍によって、今では結界が消え、外の世界といき来が出来るようになった。
 大体四年前のことである。
 そして今、あたしがいるのは紛れもない、その結界の外の世界だ。
 あたしがこの外の世界に初めて足を踏み入れたのは、ほんの数十日前のことである。
 二年前、一つの旅が終わった後、あたしはガウリイを連れて故郷ゼフィーリアへと向かった。
 親戚一同はあたしの帰郷を歓迎して暮れ、姉ちゃんもあたしの旅の成果を認めてくれた。
 あたしはしばらくゼフィーリアに留まることにした。
 男爵一家連続毒殺事件や連続辻斬り事件などの大事件にも遭遇したが、基本的には平和な日々が続いた。
 そんな安息の日々の中で思うのは、死と隣り合わせの戦いの日々。
 冒険への恋心に焼かれたあたしは、ガウリイとともにまた旅に出た。
 今度は外の世界へと。
 外の世界では特に大きな事件を起こしたこともないし、誉れ高い行為をした覚えもない。
 結界を消滅させたのがあたしだということも、恐らくこの辺りでは知られていない。
 彼が結界の外に住んでいたとした場合、あたしのことを詳しく調べ上げた――名を知っているだけでなく、容姿まで把握していたのだから――ということになる。
 また結界の中に住んでおり、元々あたしについて知っていた者であっても、あたしが今この辺りにいるということを知っていなければならない――当然こちらの情報は、彼が結界の外に住んでいた場合でも掴んでおかなければならないが――。
 彼はあたしに依頼を持ち掛けて来た。
 その依頼は予想通り非凡なものであったし、さらにその依頼方法も非凡であった。
 面倒な内容だったので依頼を断る――実は金欠だったのだが――と、彼は自分と勝負しろと言った来た。
 魔道士として決闘したいと。
 そしてその勝負にあたしが負けたら、依頼を引き受けてもらうと言った。
 もしあたしが勝った場合は、依頼料分の金額を無償でくれるという。
 あたしは受けて立つことにした。
 あたしの魔道士と商売人の娘としてのプライドが、この戦いを拒むことを許さなかった。
 彼とは深夜、浜辺で戦うこととなった。
 その戦いであたしは負けた。
 そう。あたしは負けたのだ。
 彼は強かった。
 あたしなんかよりずっと。
 遥かに。
 魔道士としての実力は超一流なんてもんじゃない。
 全く歯が立たなかった。
 もっとも彼があたしと同じ人間かどうかは分からないので、あたしより強い魔道士とは認めなかったが。
 負けて気絶したあたしは宿に運ばれたようだ。
 気が付いたのは明け方。
 彼はあたしの部屋へ再びやって来た。
 そして約束通り、あたしは彼の依頼を受けることとなった。
 その依頼内容が世界を救うことであり、依頼料が金貨二百枚である。


 それにしても、世界を危機から救うとは、一体どういうことなのだろうか。
 彼――ラファエルは、詳しいことを教えてはくれない。
 彼は依頼の代理人か仲介人みたいな感じで、真の依頼人は聖なる樹のそびえる芸術の都で待っているらしい。
 ラファエルの談では、真の依頼人が世界を救えそうな人を求めていた時に彼が偶然現れ、その人に自分が連れて来ると言ったそうだ。
 そしてその世界が救えそうな人が、あたしだというのだ。
 あたしは魔竜王ガーヴと、冥王フィブリゾという二人の強大な魔族を倒す原因を作っている――世界を閉ざす結界が消滅したのは、結界を張っていた者の一人である冥王フィブリゾが滅びたからだ――。
 そのために、世界を救う可能性ありと判断されたのだろう。
 こちらも本人の談だが、彼は結界の外の人間らしい。
 世界を閉ざしていた結界が突然消え去ったことに興味を持ち、閉ざされていた世界――つまりあたし達の世界に赴き、そこで初めてあたしの噂を知ったという。
 彼は四年前からずっとあたしに興味を持っていたのだ。
 また、あたしを発見出来たのは最終的に占いの力に頼ったからであるという。
 それは神から言葉を授かる神託に近いものなのかも知れない。


 ラファエルは、自らの馬車を目的地へと導いていく。
 あたしの新しい物語が、今始まろうとしている。
 願わくは、運命の轍の果てが希望に満ちたものであらんことを。


 <@><@><@><@><@><@><@><@><@><@>

 
 実は昨日すでに投稿してあった話なんですが、投稿して一読してみると、文がやたらと横に長いせいか異様に読み辛く感じたので、改行を増やしてみました。
 ネット上の文章は大量改行した方が良いとどこのサイトに書いてあったような気がしますけど、本当にその通りだと思いました。
 前の投稿分に載っていたあとがき代わりの風神通信は、前の投稿分を削除して頂いた時に、保存し忘れていたためでなくなってしまいましたが、新しく作り直そうと思います。
 それでは……
 二話(こちらも昨日はあった)も近い内に再アップします。

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28854世界平和の代金は金貨200枚エモーション E-mail 2003/12/29 22:54:33
記事番号28852へのコメント

……でも、「世界を救え!」と命令しておいて、渡される軍資金が
たった50Gとかだったりするド○クエよりは良心的かも(笑)

こんばんは。

時間軸を原作で考えると、15巻から2〜3年後ですか。
……まあ、そう頻繁に世界の危機なんぞが、起きても困りますし(^_^;)
(どこぞの小説では「そんなの毎週ドラマでやってるだろ」という台詞が
ありましたが)

謎の人物ラファエルさん。何故か真っ先に天使じゃなくて、画家の方を
思い出しますが、何だかさっそく蜘蛛の糸が動いているような……。
何にせよ、普通は断りますよね(汗)からかわれてるのかとも思いますし。
でも自分のことを徹底的に、しかも正確に調べているとなると……ちょっと
さぐりの一つも入れたくはなりますね。
勝負をして、負けてしまったリナ。自分より弱い相手に、代理とはいえ、
こんな依頼をするラファエルさんに、少々疑問を感じているのではないでしょうか。

次はフィリアとご対面……なのでしょうか。それともゼルサイドかな。
何にせよ、続きを楽しみにしています。
それでは、今日はこれで失礼します

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28856Re:世界平和の代金は金貨200枚オロシ・ハイドラント URL2003/12/29 23:26:11
記事番号28854へのコメント


>……でも、「世界を救え!」と命令しておいて、渡される軍資金が
>たった50Gとかだったりするド○クエよりは良心的かも(笑)
確かにそうですね。
あっちだと棍棒くらいしか買えないし……。
>
>こんばんは。
こんばんは。
眠る前にレスです。
>
>時間軸を原作で考えると、15巻から2〜3年後ですか。
ええ15巻のラストシーンで、一度ゼフィーリアにいったん帰りそうな雰囲気を見せてたような気がしましたし。
>……まあ、そう頻繁に世界の危機なんぞが、起きても困りますし(^_^;)
それでも結構起こってる方でしょうけどね。
>(どこぞの小説では「そんなの毎週ドラマでやってるだろ」という台詞が
>ありましたが)
……爆笑しました。
確かにそういうことを言う小説ってありますね。
>
>謎の人物ラファエルさん。何故か真っ先に天使じゃなくて、画家の方を
>思い出しますが、何だかさっそく蜘蛛の糸が動いているような……。
私はある海外小説に出て来る修道士が浮かびます。有名の作品ではないですが。
彼がこの物語でどのような役割を担うのかは、いずれ判明するかと思います(……そこまでが遠すぎるような)。
>何にせよ、普通は断りますよね(汗)からかわれてるのかとも思いますし。
アブない人かと思うかも知れませんしね(笑)。
>でも自分のことを徹底的に、しかも正確に調べているとなると……ちょっと
>さぐりの一つも入れたくはなりますね。
>勝負をして、負けてしまったリナ。自分より弱い相手に、代理とはいえ、
>こんな依頼をするラファエルさんに、少々疑問を感じているのではないでしょうか。
こういうやつには裏があることほぼ間違いなしですからね。ゼロスもそうですし。
>
>次はフィリアとご対面……なのでしょうか。それともゼルサイドかな。
(気が変わらなければ)リナ編の続きになるかと思います。
ゼル編は序盤にもありますけど、中盤以降に一気に語られると思いますし。
>何にせよ、続きを楽しみにしています。
>それでは、今日はこれで失礼します
ご感想どうもありがとうございました。

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28867スレイヤーズTRYノベル:二話:それすなわち世界の危機オロシ・ハイドラント URL2003/12/30 20:50:35
記事番号28852へのコメント



 2:それすなわち世界の危機


「うわっ、凄い!」
 清涼な空気が漂う。
 白石で築かれた活気ある街。
 その入り口の門の前からでも見える巨大な樹木。
 天空を貫くが如き巨体に茂る無数の葉。
 太陽の光と自身の影に彩られ、途方もなく膨大な生命力と美を感じさせる。
「ここが何とかって街か」
 ガウリイが樹を見上げて呟く。
「ようやく着きましたよ」
 御者役をしているラファエルが言った。
 逞しい肉体を持った金髪のガウリイと、漆黒のゆったりとしたローブとマントを身に着け、闇のように黒い髪を生やしたラファエルは、実に対照的な存在に思えた。
「ここがムッサボリーナです」
 アルフォディーネ王国の北に位置する、聖なる樹と芸術の都ムッサボリーナ。
 ここは辿り着いたのは、ラファエルと出会ってから六日後の午前九時頃である。
 それだけの時間が経ったことによって、随分とラファエルに対する警戒心も少しは薄れた。
 ラファエルは、いきなり勝負しろと言って来るとは到底思えないくらい、人の良い男であった。
 言葉遣いも丁寧で、基本的には慇懃無礼というわけでもない。
 少なくとも、以前会ったさる神官よりは信用出来そうな気がする。
 もちろん完全に気を許したわけではないが。
「ところでリナ……」
「何?」
 ガウリイがあたしに何か質問をして来た。
 内容の見当は大体つくが。
「そういや俺達って、何しに来たんだっけ?」
 質問は予想通りのものであった。
「それならこっちの人に訊いて」
 あたしはラファエルを指差してそう言う。
「危機に瀕したこの世界を救うためです」
 ラファエルは、どこぞの正義オタク少女のような台詞を静かに吐いた。
「とにかく中に入りましょう」
 あたし達はラファエルに続いて門を潜った。
 街は限りなく白かった。
 無機質な白石の建造物が立ち並んだ清潔感漂う世界には、いくつもの木や花が植えられており、中心の聖なる樹と合わさり、一つの芸術作品と化しているかのようだ。
 それでいて、街は活気に満ちている。
「ええ〜この街は千年を越える歴史を誇り――この国よりも遥かに長生きしてます――、過去に三度危機を迎えました。一つ目の危機は千年以上前のことですので詳しい資料は残っておりませんが、何か大きな戦いに巻き込まれたことであり、二つ目の危機は恐ろしい怪物に蹂躙されたことでして、三つ目は我が国と北方のアウスベリー王国の戦争によってなのですが、三度壊れた街は不死鳥の如く三度とも蘇りました。その素晴らしい生命力を象徴するかのような聖樹。三度の悲劇を体験したからこそ生まれた平和、平和なゆえに洗練されていった芸術……」
 観光客相手に街の歴史について語る青年がいる。
「聖樹の養分を吸って熟成した花だよ〜。こんな綺麗な花は、他のどこにもないよ〜」
 露店で、花を売るおばちゃんがいる。
「安いよ。安いよ。これは聖樹の祝福を受けた剣さ。護身用兼お守りとして一本どうだい」
 聖樹の祝福というのの真偽は分からないが、剣を売っているおっちゃんもいた。
 人は多い。
 観光客がほとんどだろう。
 皆、幸せそうに見える。
 あたし達の世界にも、何度も壊滅させられた街というのがあるが、こことは随分と違う気がする。
 それにしても、こんな平和な街並みを見ていると、世界が危機に瀕しているというラファエルの言葉が疑わしく思えて来る。
 もしかして全部嘘で、あたし達を騙して馬鹿にしようとしているのではないか。
「さてと。あんたの言う真の依頼人ってのは、この街のどこで待ってるのだったかしら?」
 歩きながら、あたしはラファエルに尋ねる。
「喫茶「金色の竜」ですよ。そんなに遠くはないので、ここから徒歩で充分いけますから安心してください」
 雑踏していると言えなくもない街中、ラファエルの声が返って来る。
「ガウリイ、はぐれないでよ」
「何言ってんだ。この程度の人込みで迷子になるわけないだろ」
「でもあんたなら、食べ物の匂いとかにつられて、勝手にどっか言ったりするでしょうが」
「俺は腹空かした動物じゃない!」
「そういえば、アウスベリー南方からアルフォディーネ北方の一帯に住む鳥獣達は皆、気高く知性的なんですよ。簡単な罠に引っ掛かることなんて滅多にありえないことです。また関係のないことですが、わたくしと真の依頼人との連絡手段は、この辺りに棲息するオオカミバトを使ったものでして、このハトは奇跡的ともいえる……」
「もう良い!」
 このように会話をしながら、あたし達は目的の場所を目指した。


 *


 一人の青年がいた。
 少年と言っても良いのかも知れない。
 彼は異様な雰囲気を持っていた。
 白色のこの街に全く馴染んでいないのは、二つの瞳に湛えられているがゆえであろう。
 怒りがある。
 憎しみがある。
 哀しみがある。
 孤独がある。
「エイデンバングルの言った通りだな」
 彼は彼女を見ていた。
 彼女を探し出すことは、目的でもあり、生き甲斐でもあった。
「見つけたぞ。リナ・インバース」


 *


 あたし達は喫茶「金色の竜」に入った。
「いらっしゃいませ」
 店員は威勢の良い声を掛けて来る。
 それほど広い店ではなく、入り口から充分全体が見渡せる。
あたしは入った途端に、真の依頼人らしき人物を発見した。
 その彼女は店の奥の方にいたが、かなり異質で目立っている。
 質量感たっぷりで鮮やかな極上の金髪、肌荒れとは恐らく無縁であろう白磁の肌、職人技を感じさせる精巧な造りの顔立ち、人間であれば滅多に持つ者のいない黄金の瞳、エルフ種を思わせる華奢な体格……比類なき美人と充分に言える。
 どこか神官衣を思わせる白と桜色のロングスカートのドレスを身に着け、清楚な雰囲気を漂わせている。
 あたしは迷わずそこへ向かった。
 薄暗い店内を、一度も振り返らずに進んでいった。
「あなたね」
 あたしは即座に声を掛けた。
 ……思ったけど、間違ってたら滅茶苦茶恥ずかしいし。
 彼女は二つの瞳をあたしに向けて来た。
 しばし沈黙。
 金色の視線があたしに刺さる。
 鋭くはないが、穏やかだとは言い切れない。
 二秒ほど見つめていた彼女は不意に、
「ああ、負け犬さんですね」
 いきなりの言葉に、あたしの思考が吹き飛んだ。
「……負け犬って」


「事実じゃないですか」
 彼女は全く悪びれた風もなくそう言う。
 あたし達は今、テーブルに着いてお茶が来るのを待ちつつ、雑談のようなことをしていた。
「ラファエルさんと対決して負けたんでしょう」
 彼女はフィリアと名乗った。
 フルネームはフィリア・ウル・コプト。
 あろうことか彼女は、世界を統治する四人の神様の内の一人、かつて存在していた偉大なる赤の竜神スィーフィードの分身である火竜王ヴラバザードに仕える巫女の一人であるという。
「何だリナ? 負けたのかこいつに」
 ガウリイがラファエルを指差しつつ訪ねて来る。
 そういえばガウリイにはそのことは伏せといたんだった。
「ま、まあね」
 曖昧な口調で答えるあたし。
 屈辱感が沸き上がって来る。
「でも、インバースさんもなかなかの腕前でしたよ。わたくしの見込み通り」
 ラファエルが微笑みながら言って来る。
「まあ、それは良かったですわ。ただの役立たずじゃ世界の危機は救えませんしね。安心しました」
 フィリアの言葉は、いちいちあたしの心をえぐる。
 根はそれほど悪そうに見えないのだが。
「ところでラファエルって何者なの? 火竜王の巫女さんと関係あるってことは……」
 信心深い人間に見えなくもないラファエルだが、火竜王の巫女と親交がある風には到底見えない。
「……彼は旅人なんです」
 フィリアはそんな答えを発した。
「偶然、火竜王の神殿にやって来られたんです。偶然にも私達が困っている時に」
「古い建築物と、信者達の生活に興味があったので訪れてみたんですが、まさかあんなことになっているとは……。それで世界を救えそうなあなた方を、わたくしは探すことになったんですよ」
 ラファエルがフィリアの言葉を引き継ぎ、あたしとガウリイに向けて言う。
 ちなみにフィリアは、ラファエルがあたし達を探しに動き回ったいる間、あたしについての情報を各地から受信する役目を負っていたのだという。
 そしてその情報を、鳩を使ってラファエルに伝えていたらしい。
「となると、あんたの正体は不明のままということね」
 ラファエルは素直に頷いた。
「ええ、わたくしの正体は謎に包まれているということになります。ですが、わたくしはあなた方の敵対者ではないと思いますよ。少なくとも、今の時点では……」
 その時ラファエルの視線から圧倒的な力を感じて、あたしは少したじろぐ。
「ま、まあ。あんたの素性については聞かないことにしとくわ」
 あたしがそう言った直後、ウェイトレスが注文した香茶を運んで来た。
 テーブルに四人分のお茶――ちなみにあたしとガウリイがアイスティー、ラファエルとフィリアがホットティーである――と、あたしとガウリイが注文したサンドウィッチが並べられた。
「この香茶に使われる葉は、この街で取れたものを使っているそうですよ。ムッサボリーナのお茶はこの地方では最高のものらしいですよ。それも百年前、時の領主の……」
 ラファエルがまた解説を始める。
 あたしは無視してサンドウィッチを食べ始める。
「ところで……そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか」
 白い湯気を立てる香茶を啜りつつ、フィリアが切り出して来る。
 ……そういえばそうだった。
 世界を、危機だか何だかから守んなくちゃならないんだっけ。
 サンドウィッチを頬張りつつ、あたしは小さく頷いた。
「半年ほど前――つまり三月の始め頃のことなのですが……」
 フィリアの表情が真剣になる。
「私達は、火竜王様の神殿に住んでいます。それで火竜王様のご尊顔を拝することもあるのですが……」
 彼女の表情は暗く、悲しさも多少混じっていた。
「ある日突然、火竜王様がご病気に掛かられまして……」
 あたしの心に衝撃が走った。
 火竜王といえば、この世界で最も強い力を持った者の一人である。
 当然、簡単に病魔に取り憑かれたりするはずがない。
「まさか……」
「これは事実です。火竜王様はご病気のせいでお力の大半を失われ、ずっと目覚めずに眠られております」
 本当にそんなことが起こるとは。
 これでは、世界の危機を連想するのも無理はないかも知れない。
 フィリアの先ほどまでの明るさは、丸っきり偽りのものだったのかも知れない。
 俯いていたフィリアは、それでも力強く顔を上げて、
「これは魔族にとって絶好のチャンスになるでしょう。天竜王様と地竜王様に呼び掛けて、魔族に一層の睨みを効かせてもらったわけですけど、もし今、魔王が復活しでもしたら……」
 神族の天敵、闇を総べる魔族の王、魔王シャブラニグドゥ。
 魔王は遥か昔、赤の竜神スィーフィードの手によって七つの欠片に断ち切られ、人の心に封印されたのだが、それでも何かが引き金になって復活することがある。
 復活した時の魔王の力は凄まじく、実はあたしは今までに二体の欠片を倒していたりするのだが、それは偶然がいくつも味方したからこそ勝てたわけで、普通なら人間の敵う相手ではけしてない。
 並の人間を遥かに越える力を持った竜が何百、何千と束になって掛かっても、一蹴されてしまうだろう。
 そんな魔王の欠片は現在、世界中に五つ残っている。
 その内の一つは、千年前の降魔戦争時に火竜王と並ぶ神族、水竜王ラグラディアをどうにか滅ぼした時、水竜王の力によって氷漬けにされて動けない状態になっている。
 実質四つだ。
 とはいえ、氷漬けの魔王の欠片を復活させることも、他の魔王の欠片には不可能ではないらしいが。
「で、原因は分かっているの? どうして火竜王が病気になってしまったか」
 あたしが尋ねるとフィリアは首を振って、
「分かりません。それに病というのも便宜上そう呼んでいるわけでして……」
「……魔族が犯人とか?」
「そうかも知れませんが、だとしたらもっと昔にやっていたのではないかと……」
 確かにその通りかも知れない。
 それに今の魔族にそれほどの力があるかどうかも疑問である。
 魔族犯人説は一時保留としておくべきだろう。
「で、あたしは火竜王の病気――あたしも、そう呼ばせてもらうわね――の原因を探り出して、それを直す方法を見つけ出せば良いのね」
「その通りです。あなた方にはまず火竜王の神殿に足を運んで頂きます。旅の費用はすべて私が持たせて頂きますのでご安心ください」
 それは助かる。
 前にも述べたことだが、あたし達は今、金欠状態なのだから。
 フィリアは一度頷いて、
「というわけで、張り切っていきましょう!」
「……え?」
 彼女がいきなり明るい声を発したことにより、唖然としてしまったあたしである。
 

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 風神通信創刊号

 
今日のあとがき:第一回「存続の危機?」


 あとがきには何を書こうか。
 正直言って、全くネタが浮かびません。
 どうすれば良いんだろう。
 いきなり存続の危機かも。
 というわけで、次回にはなくなっているかも(笑)。


今日のキャラクタ:第一回「ラファエル」


 謎の魔道士ラファエル君、現在はああいうキャラですが、実は最初は全然違ったんですよ。
 リナより年上に見える年下で、生意気で超慇懃無礼で、リナに思い切り嫌われてしまうキャラだったんですよ。
 髪は銀髪でしたし。
 なぜ今みたいになったのかは本当に分からないです。
 もしかしたらゼロスと似て来たから差別化のためにそうしたのかも。
 でも結果的には良かったなあって思います。
 結構好きになれましたし。
 (次回は「リナ」の予定です)


今日の失敗(舞台「破滅の羅神盤」より)



 ――喫茶「金色の竜」場面1――


 OKシーン


 リナ、ガウリイ、ラファエル、店内に入る。
 店員「いらっしゃいませ」
 リナ、フィリアを発見する。
 リナ、歩き出す。
 ガウリイ、ラファエル、後ろに続く。
 リナ「(フィリアの席の前で)あなたね」
 フィリア、リナの方を向く。
 ガウリイ、ラファエル、リナの後ろで立ち止まる。
 フィリア、しばらくリナを観察。
 フィリア「ああ、負け犬さんですね」
 リナ「(驚いたような表情で)……負け犬って」
 場面転換


 NGシーン(テイク1)
 
 リナ、ガウリイ、ラファエル、店内に入る。
 店員「いらっしゃいませ」
 リナ、フィリアを発見する。
 リナ、歩き出す。
 ガウリイ、ラファエル、後ろに続く。
 リナ「(フィリアの席の前で)あなたね」
 フィリア、リナの方を向く。
 ガウリイ、ラファエル、リナの後ろで立ち止まる。
 フィリア、しばらくリナを観察。
 フィリア「……すみません。私がやりました」
(リナ)「はあ?」
(フィリア)「あっ、ごめんなさい。昨日刑事ドラマで犯人役やってたもんで……」
(リナ)「……刑事ドラマって何?」
 

 NGシーン(テイク2)
 
 リナ、ガウリイ、ラファエル、店内に入る。
 店員「いらっしゃいませ」
 リナ、フィリアを発見する。
 リナ、歩き出す。
 ガウリイ、ラファエル、後ろに続く。
 リナ「(フィリアの席の前で)あなたね」
 フィリア、リナの方を向く。
 ガウリイ、ラファエル、リナの後ろで立ち止まる。
 フィリア、しばらくリナを観察。
 フィリア「ああ、犬夜叉さんですね。……って間違えました。すみません!」
(リナ)「……犬夜叉って何?」
(フィリア)「もう本当にごめんなさい! ああ、どうして間違えたんだろ」
(注:某コミックとは全く関係ありません)
 

 好評で、ネタもあるなら次回も載せます。
 また舞台「破滅の羅神盤」は、来春セイルーン王立国際劇場で公開予定(嘘)。


 風神通信創刊号(終)

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28869Re:スレイヤーズTRYノベル:二話:それすなわち世界の危機エモーション E-mail 2003/12/30 23:07:59
記事番号28867へのコメント

こんばんは。

第二話。フィリア登場ですね。
アニメの時も最初の2〜3回は思いましたが……物言いが思いっきり
失礼ですよね、フィリアって……(汗)
人間相手の交渉に慣れていないって言えば、それまでなのでしょうけれど。
また、ヴァルも出てきましたね。今は行動を監視中、というところでしょうか。
ラファエルさん……良く喋る方だったのですね、この方。
知らない場所に行くのですから、説明してくれる方がいるのは、有り難いとは
思いますが、喋り続けられたら大変でしょうね……(^_^;)

世界の危機……火竜王様の病気(仮定)ですか。
確かに魔王5/7と赤の竜神3/4の現在の力関係なら、少し神の側が有利ですけれど、
これが5/7、1/2になると……確かに問題ですよね。
これについては、魔族の側が多少荷担していても不思議はないなあ、と思います。
魔族としては、5/7、3/4の状況で、さらに欠片が一つでも減ったら、
かなりヤバイことになりますから。
目覚めていないのは、神の側には手出しできない代わりに、魔族にとっても
はっきりいって潜在勢力でしかないですし、そんな現在の状況で北の魔王が
滅ぼされたりしたらと思うと、手の一つくらいは打ちたくなるかなと。

さて、火竜王の神殿へ向かうことになったリナ達。何が起きるのでしょうね。
続きを楽しみにしています。
それでは、今日はこの辺で失礼いたします。

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28880Re:次回以降が本番かとオロシ・ハイドラント URL2003/12/31 22:25:23
記事番号28869へのコメント
>こんばんは。
どうもこんばんは。
>
>第二話。フィリア登場ですね。
>アニメの時も最初の2〜3回は思いましたが……物言いが思いっきり
>失礼ですよね、フィリアって……(汗)
確かに、リナに向かって補欠宣言(?)したり。
>人間相手の交渉に慣れていないって言えば、それまでなのでしょうけれど。
でも竜族にも社会がありますし……。まあ本音に満ちた社会なのかも知れませんし、人間相手だとどうしても見下してしまうのかも知れませんけど。
>また、ヴァルも出てきましたね。今は行動を監視中、というところでしょうか。
ヴァルガーヴは、第四話で登場すると思います。
>ラファエルさん……良く喋る方だったのですね、この方。
>知らない場所に行くのですから、説明してくれる方がいるのは、有り難いとは
>思いますが、喋り続けられたら大変でしょうね……(^_^;)
まさしく諸刃の剣(何か違う)。
>
>世界の危機……火竜王様の病気(仮定)ですか。
ええ、アニメとは違った形にしてみました。
これにより、リナ達は火竜王の病と復讐に燃えるヴァルガーヴの二つの問題を抱えることになります。
>確かに魔王5/7と赤の竜神3/4の現在の力関係なら、少し神の側が有利ですけれど、
>これが5/7、1/2になると……確かに問題ですよね。
>これについては、魔族の側が多少荷担していても不思議はないなあ、と思います。
>魔族としては、5/7、3/4の状況で、さらに欠片が一つでも減ったら、
>かなりヤバイことになりますから。
>目覚めていないのは、神の側には手出しできない代わりに、魔族にとっても
>はっきりいって潜在勢力でしかないですし、そんな現在の状況で北の魔王が
>滅ぼされたりしたらと思うと、手の一つくらいは打ちたくなるかなと。
魔族が関与しているかどうかは微妙ですが、確かにそのような手に出て来ても不思議ではないですね。
神と魔の戦力差は微妙で、水竜王を滅ぼして得た有利さもリナの影響で失われていますから。
>
>さて、火竜王の神殿へ向かうことになったリナ達。何が起きるのでしょうね。
>続きを楽しみにしています。
>それでは、今日はこの辺で失礼いたします。
次回も近い内に投稿出来そうです。
それでは、ご感想本当にどうもありがとうございました。
良いお年を!