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29021 | むかしばなし・しんませんそう(ぜんぺん) | オロシ・ハイドラント URL | 2004/1/15 18:39:45 |
TRYノベルに疲れて来たので、気分転換としての短編です。 神魔戦争が始まるまでの経緯を、昔話風に書いてみました。 <@><@><@><@><@><@><@><@><@><@> 遥かな昔、女神様は世界を創りました。 そして二つの生き物をそこに済ませました。 それぞれマオーとリュージンと呼ばれる二つの生き物です。 とはいえ、マオーもリュージンも生まれたばかりなので、何をすれば良いのか全く分からず困っていました。 しかも食べることを知らない二人は、空腹に苦しみ始めて来ます。 そこで女神様は、二人に野菜の種を一粒ずつ与えました。 二人は大喜びしました。 でも何に使うか分からないことに気が付くと、二人とも種を捨ててしまいました。 やがて捨てられてしまった種は、うろうろしていた二人の足によって踏みつけられ、種としての機能を果たせなくなりました。 女神様は困りました。 それではどうすれば良いのでしょう。 しばらく考えて、女神様はあることを思いつきました。 野菜の種の使い方を紙に書いて、今度は種と一緒にそれを渡すことにしました。 しかし二人も字が読めなかったせいで、結果は前と同じでした。 そんなことをしている内にも、マオーとリュージンの腹はどんどん減っていきます。 またしても困った女神様は、マオーとリュージンを自分の元に連れて来て、徹底的に教育することにしました。 面倒臭いので、本当はこんなことはしたくなかったのですが、この際仕方がありません。 さて女神様の元で長期間人生勉強をした二人は、見違えるほど賢くなりました。 こうしてもう一度世界に戻り、今度は上手く暮らしていきました。 世界について説明しましょう。 世界は広いです。 でも二人の生活範囲は、禁断の森と呼ばれる森の南側にある平原のほんの一部分だけです。 生まれてから百年ほど経って、二人はそこに家を建てました。 最初は一つでしたが、窮屈になって来たので一つ増やしました。 こうしてマオーの家と、リュージンの家が別々になりました。 また二人は畑で野菜を作って暮らしているのですが、これも最初は共同でやっていたのが、時が経つとともに別々にやるようになりました。 マオーの畑と、リュージンの畑というのが一つずつあるということです。 これにより、二人はどちらが多く作物を作ることが出来るか、競争するようになりました。 勝てば何かがあるというわけではないにしろ、競争とは燃えるものですので、二人合計しての作物の収穫量は年々上昇していきました。 とはいえ、不作になる年もあります。 そんな時は二人で助け合いました。 二人はライバル同士ですが、それ以前に仲間なのです。 でもそれは最初の内だけでした。 不作の年が続くと、次第に自分のことで精一杯になってゆき、相手を助ける余裕などなくなりました。 それによって二人の仲はどんどん険悪になってゆき、作物が取れるようになっても修復することはありませんでした。 ある年、マオーの畑の収穫量に対し、リュージンの畑の収穫量が大幅に劣ることがありました。 リュージンの畑はほとんど作物が取れなかったのです。 リュージンはマオーに作物を分けてくれるよう頼みました。 でもマオーは拒否しました。 実は前にマオーの畑だけが不作になることがあり、その時にリュージンは作物を分け与えてくれなかったというエピソードがありました。 その時の恨みが、マオーがリュージンの頼みを断る理由の最も大きな部分だったりするのです。 リュージンは困りました。 女神様にも祈りましたが、全く返事がありません。 リュージンは知らなかったのですが、実はその時、女神様はお昼寝をしていたのです。 リュージンは本気で困り果てました。 このままでは飢え死に決定です。 こうなれば盗人になるしかないと思うまでには、それほど時間を必要としませんでした。 リュージンはマオーの隙を窺って、マオーの畑から野菜を盗みました。 それを何遍も繰り返しました。 マオーは気付いていないのか、何も言って来ません。 リュージンは調子に乗って、生活に必要な分以上を野菜を盗むことにしました。 ですがそれが大きな災いをもたらす元となったのです。 実はマオーはリュージンの盗みに気付いていました。 気付いていながら盗みを容認していたのです。 その裏には、これはリュージンが可哀相になって来たけれど、一度頼みを断ったのに今さら分けてやるとは言い辛いからというマオーの複雑な気持ちが隠れています。 でも必要分以上取るという行為は許せません。 マオーはリュージンの家に乗り込み、盗みを働いたことを糾弾しました。 反論を全く与えず、リュージンを叱り、なじり、この地から追い出してしまいました。 こうしてマオーは二人分の畑の収穫を独占出来るようになりました。 でも幸せは半分になりました。 (続く) |
29103 | むかしばなし・しんませんそう(ちゅうへん) | オロシ・ハイドラント URL | 2004/1/20 19:34:37 |
記事番号29021へのコメント 遥かな昔、女神様は世界を創りました。 そして二つの生き物をそこに済ませました。 でも、それだけのことしかしなかったわけではありません。 女神様はマオーとリュージンの二つの生物の住む土地から遠く離れた場所に、一つの都を築いていました。 そこには十万の民が住み、夜も眠ることはありません。 すべての民の生活は潤っており、不当な差別を受けるものもなく、まさしく地上の楽園と言えました。 その都に欠けているものと言えば、名がないこと程度しか浮かびません。 その満ち足りた都にリュージンは足を踏み入れました。 マオーに土地を追い出されてから、すでに途方もないほど長い年月が経っています。 リュージンはこの日から何不自由なく暮らせるようになりました。 何の苦労も必要ありませんでした。 この土地では種を蒔いた瞬間に作物が取れ、軽くて加工の容易い石材の取れる石切り場があり、数多の病を治す水が沸く泉まであります。 一日に万里を走る馬や、一日に五十の卵を産む鶏、際限なく乳を出す牛などの生き物もすぐ近くに生息しています。 リュージンは長い時をこの地で過ごしました。 都は様々な娯楽に溢れており、飽きることはありません。 本当にリュージンはどれだけここにいたのでしょう。 十年かも知れませんし、百年かも知れません。 でもそれが終わる日は確実にやって来ました。 ある夜、リュージンは都を離れる準備をしました。 どこへいくのか? それは簡単です。 マオーのいる土地に戻るのです。 そして貧しい生活を送るマオーの救済者となるのです。 そうです。 リュージンは自らの罪を思い出しました。 盗みの罪、それを償うのです。 それだけではありません。 マオーは仲間なのです。 たった二人の。 翌朝、リュージンは都を出ました。 それが悲劇を生むとは知らずに。 マオーはリュージンが馬に乗ってやって来た時、本当に驚きました。 その感情のほとんどを驚きに費やしていました。 マオーはリュージンなどすでに死んだものと思っていたのです。 存在を忘れてはいませんでしたが、まさか再び会えるとは思っていませんでした。 驚きが冷めて来ると、今度は嬉しさが込み上げて来ました。 でも冷静になって考えてみると、帰って来たのは無理矢理追い出した相手です。 帰還を歓迎するのもおかしいと思いましたし、もしかして復讐に来たのではないかとも考えました。 でもやはりマオーはリュージンを歓迎することにしました。 たった二人の仲間ですから。 マオーは壊さずに(あるいは壊せずに)残しておいたリュージンの家を、リュージンに返却しました。 リュージンはそれを嬉しがり、お礼として金色に輝く種をマオーに差し出しました。 その種は普通の七倍の作物を七倍の速度で実らせる種なのですが、そんなことを知らぬ内からマオーは喜びを感じました。 さてリュージンが「満たされた都」にいったことをマオーが知ったのは、それほど後のことではありません。 リュージンがそのことを説明しました。 そしてこれからは全く苦労する必要がないと、はにかみながら言いました。 マオーは最初は信じていなかったのですが、すぐに信じさせられることになりました。 生活がすぐに潤い始めたのです。 鶏は数多の卵を産み、黄金の種は多数の作物を実らせ、牛からはどれだけでも乳が取れます。 またマオーはリュージンの乗って来た馬に乗って、都にいくことも出来ました。 マオーはリュージンに心から感謝しました。 でも逆にリュージンから罪を犯したことを謝られました。 二人は本当に幸せでした。 一度破局が訪れる前よりも何倍も何十倍も幸せでした。 ですが幸せとはいつの日か必ず自壊するものなのです。 |
29175 | むかしばなし・しんませんそう(こうへん) | オロシ・ハイドラント | 2004/1/25 15:13:07 |
記事番号29103へのコメント リュージンが都から帰って来たことにより訪れた幸せな生活が崩壊するのは、マオーが都から美しい女性を連れて来た時なのですが、そのずっと前から破滅の種は植えられていました。 実はリュージンは自分と対等以上に接そうとするマオーを、いつしか腹立たしく思っていたのです。 小人物らしい、自分が人より上の存在だという思い込みです。 これはマオーが馬を手に入れ、自分の意志で都へいくことが出来るようになったため、リュージンへの感謝の気持ちが薄らいだからでもありますが、リュージンが自分の犯した盗みの罪を、些細なものとしか考えなくなったからでもあります。 リュージンの不満は、マオーが美女を連れて来た日に爆発しました。 その美女は都でも最大級の美貌を誇っていました。 よそ者のマオーに似合うような女ではありません。 そんな彼女がなぜマオーなどに好意を持ったかというと、単に都の男に飽きており、マオーのような田舎者の農民がかえって新鮮に感じたからです。 マオーは自らの土地に帰って来るなり、美女をリュージンに自慢しました。 リュージンがそれで良い気分になるはずはありません。 満面の笑顔で歓迎しましたが、心の中には嫉妬の炎が燻っていました。 何とかしてこの女を自分のものにしたい。 マオー如きに似合う女ではない。 次の日からリュージンは、美女に自分をアピールすることに必至で努めました。 でも結局は小人物でしかないため、大して大胆なことは出来ず、彼女が自分の方に振り向く気配はありません。 それどころか自分の気持ちをマオーに気付かれてしまい、散々罵倒された挙句、土地を追い出されてしまいました。 リュージンの怒りは頂点に達しました。 その時は大人しく引き下がりましたが、夜遅くに土地に戻って来て、マオーの家に忍び込み、彼と同じ褥で眠る美女の首を絞め上げました。 そしてマオーに気付かれる前に家を抜け出し、マオーの所有する馬を逃がすと、自分の馬に乗って遙彼方へと逃げ去りました。 夜が明けて美女が冷たくなっていることに気付いたマオーは、リュージンの仕業に違いないと即座に確信し、絶対に彼を見つけ出して報復すると心に誓いました。 自分のものに出来ないからといって殺すとは何ごとだ。 やはりあいつは悪人でしかなかった。 自分の馬がいなくなっていることに気付いたマオーは、自らの足で走って都に向かい、そこにリュージンがいないことを知ると、馬を手に入れ、どこにいるかも分からないリュージンを探すべく、がむしゃらに馬を走らせました。 しかしそうそう見つかるものではありません。 不慮の事故で馬をなくし、それでも自らの足で歩き続けたマオーは、やがて疲れ果て、禁断の森の入り口辺りで倒れ込んでしまいました。 マオーは長い夢を見ました。 リュージンと過ごした長い年月。 幸せで満たされていた時の夢。 マオーは悲しくなりました。 けれども同時に今のリュージンを思い出してしまい、憎しみもまた募り続けたのです。 悲しみと憎しみ、二つの感情の葛藤により、マオーは全身を引き裂かれるかのような苦しみに襲われ続けました。 そんなマオーに声を掛ける者が現われました。 マオーが目を開いてその声の主を探そうとすると、小さな黒い蛇を見つけることが出来ました。 蛇はメイオーと名乗りました。 マオーも自分の名を名乗ると、メイオーは踵を返して森の中に消えていきました。 やはり見捨てられたのかと思っていると、メイオーがまた戻って来ました。 驚いたことに、メイオーは口に赤いな果実を抱えていました。 メイオーはマオーにその果実を食べるよう言いました。 マオーがその果実が何かと問うと、女神様の果実だという答えが返って来ました。 これを食べると、信じられないほどの力が手に入るのだそうです。 でもマオーは食べることを拒否しました。 なぜならマオー達は、女神様にこれを食べたら地獄のように苦しんで死ぬと教えられたからです。 ですが最終的にはメイオーの巧みな話術に乗せられ、一口だけならと言ってしまいました。 一口でも食べたら最後、女神様の果実の表面部分は他のどのような食物より美味しいのです。 衝動的に二口、三口と食べたマオーは、地獄のような酸っぱさを経験してしまいました。 実はこの女神様の果実、外側は甘いけれど、内側は死ぬほど酸っぱいのです。 苦しんだ挙句、マオーは血の涙を流しました。 この血涙のせいで、マオーの目は真っ赤になり、メイオーがなぜか持っていた鏡を見てそのことを知った時、これでは赤眼のマオーだと自嘲気味に呟いてしまいました。 さて果実を食べて数時間が経過すると、突然、マオーの身体に変化が訪れました。 信じられないほどの力がマオーの体内から湧き上がってきたのです。 その力が暴走し、辺り一面は火の海と化してしまいました。 驚いたマオーが思わずジャンプしてしまうと、今度は空高く浮かび上がり、山一つ越えた辺りの地面に着地しました。 本当に信じられないほどの力です。 この力があれば、リュージンに復讐するなど容易いことです。 世界のすべてを我がものにすることだって可能でしょう。 ちゃっかりマオーの身体に捕まっていたメイオーは自分に感謝するように言いました。 するとマオーは言いました。 もしも世界を自分のものにしたら、その内の四十九パーセントはお前のものだと。 こうしてマオーは世界征服とリュージンへの復讐という二つの目標のため、「満たされた都」を滅ぼし、さらに別の場所で見つけた都も滅ぼし、さらにまた見つけた都を滅ぼすという風に、世界を蹂躙して回りました。 やがてマオーという名前には魔の王という意味がつき、彼に従うメイオーには冥界の王という意味がつきました。 マオーから逃げ、「満たされた都」とは別の途轍もなく遠い地にある都に隠れ住んでいたリュージンがマオーの暴走を知ったのは、マオーが女神様の果実を食べてから半年近く経った頃です。 知らせたのは女神様でした。 女神様は言いました。 マオーは圧倒的な力で世界を蹂躙している。 止めなければ、世界中の民がいなくなり、世界は彼のものと化してしまう。 それを聞かされた時、リュージンは初めて殺人の罪を悔いました。 自分の責任だ。 自分の卑しい嫉妬のせいで。 マオーを止めなければならないと、リュージンは心から思いました。 そして、どうすれば良いのかと女神様に尋ねました。 女神様は答えました。 禁断の森にある女神様の野菜を食べれば、正しき力が手に入ると。 リュージンはその言葉に従い、自らの土地の北にある禁断の森を目指しました。 三年掛かってそこに辿り着き、唐辛子の形をした女神様の野菜を食べたリュージンは、正しき力を手に入れました。 リュージンという名前には竜の神という意味がつきました。 女神様の野菜の影響で全身が真っ赤に染まってしまいましたが、これはこれで格好良いので気にしないことにしました。 さてこの日からリュージンは、マオーの脅威から人々を守る役目を負うことになります。 さてマオー、メイオー、リュージンの三人は、それぞれシャブラニグドゥ、フィブリゾ、スィーフィードという異名がつけられましたが、こちらが彼らを呼ぶ時の正式な名前に変わってしまうまでには、まだ千年ばかりの時間が必要です。 (むかしばなし・しんませんそう 了) |