◆−All was Given 〜前書き〜−久賀みのる (2004/3/1 21:23:51) No.29480 ┗All was Given 〜8〜−久賀みのる (2004/3/1 21:31:31) No.29481 ┗Re:All was Given 〜8〜−エモーション (2004/3/2 22:10:03) No.29499 ┗お待たせいたしました(礼)−久賀みのる (2004/3/2 23:24:49) No.29500
29480 | All was Given 〜前書き〜 | 久賀みのる E-mail URL | 2004/3/1 21:23:51 |
締切破れて山河あり、城春にして悩み深し。 二ヶ月ぶりとなります久賀みのるでございます。こんばんわ。 ……いえ、間に合ってるはずですよ!?多分!! 2月29日には校正作業に入る予定が、結局3月1日朝の5時まで本文書いてたってだけで!!(汗) ……なんで2月はこんなに短いんでしょう……(遠い目) そんないつもの愚痴はさておいて。 「All was Given」、第八章をお届けに参りました〜。 本日はやや長め、10000文字と少々となりました。 ですが今回は、いわば「間奏」にあたる部分であり、むしろスナップショットに近い雰囲気があります。 パーツごとに微妙な関連性をもたせつつも基本的には独立しているので、 それほど長いという感覚は無いかと思います。というか読み飛ばされても構わない部分ですし(をい) 普段と少々書き方が違っていますが、これも立派な久賀文体です。 1パーツほどファンタジーですらないシーンがある気がしますが、気にしないでください(爆) 後、カッコ書きのカタカナ用語が頻発してうっとうしいかも知れません。 HPのほうはルビで打ってありますので、読みにくい方はそちらの方がよろしいかもです。 なお、前回と同じく、「宣伝レス」、「対談型レス」、「全文引用レス」はご遠慮願います。 またあらすじなどは書いていませんので、先々月分までの話を読みたい方は、 著者別の「のりぃ」のリストからとんでくださいね。 いつものごとく長い前書きに付き合って頂いてありがとうございます。 それでは、本文をどうぞ。 |
29481 | All was Given 〜8〜 | 久賀みのる E-mail URL | 2004/3/1 21:31:31 |
記事番号29480へのコメント All was Given 〜Interlude #1〜 青い海。青い空。海流の関係で暖かい風。遮るものもなく照りつける太陽。 大海原の真ん中で、ハッチの部分に腰をかけ、デューンは、海釣りのヒマさ加減を満喫していた。 そう―― 『潜水艦とは潜っていくものだ』と、マックから自信たっぷりに聞かされたにもかかわらず。 「どっからどー見ても遭難してんじゃねぇかコラぁぁぁぁっ!?」 「るっせー黙って食料稼ぎに精出してろボケ――――――!!」 出航二日目。 彼らは、当初の予定を大きく外れて南下していた。 「いやー、たまにゃあ役に立つもんだなー。アナログな現代テクノロジーってヤツもよ。冗談半分で海図持ってこなきゃ、今ごろ完全に漂流してたぜ」 どんな仕組みか全く読めない金属器具を振り回しつつ、いけしゃあしゃあと言うのはマック。さっきまで真面目に見ていた海図は、現在座った足元に敷かれてパーツ調整の削りカス受けである。 「っつーかさー、むしろ何で『超高性能遺失技術(ロスト・テクノロジー)』が現在技術にあっさり負けるのかって言うほうが僕的に疑問なんだけど?」 横で、こちらは細かなパーツを逐一仕分けしながらクレイスが言う。無論分けている当人にも、何が何なのかわかっていない。何のかの言っても船を直せるのも動かせるのもマックだけなので、仕方無しにその手伝いをしているのである。 やりたくないけど仕方なく、というのが非常に良くわかる表情なのだが、マックはそれに気づかないのか気づかない振りをしているのか。 「何言ってんだ。 人間ってーのは常に日進月歩を繰り返して技術を向上させていくもんだろ!? すなわち! 遥か昔に滅びた古代技術よりも現在に生きるその知恵の方が優れているのもまた道理!!」 「って今さっき現代技術をアナログ呼ばわりした気がするけどっ!?」 「気にすんな!」 「即答っ!?」 「いーからクレイス。28番のパーツ3つ。」 「うわしかも相手にされてないし」 ぶちぶち言いながらも工具箱の中からパーツを探して渡すクレイス。どさくさ紛れに一つか二つかすめてやろうかと思わないでもないが、それで船の航行に支障が出たりする方がもっと大事なのでやめておくことにした。 「……んったく…… 僕らひょっとして、単なる雑用要員として運ばれてるだけなんじゃないだろーか」 「あ。よーやっと気づいたか」 「だからそこであっさり肯定しないでってばっ!!」 「っつーかなぁ、くそマックっ!!」 頭上から、これまた険悪なデューンの声が降ってくる。興奮すると人の呼び方すら穏やかでなくなる彼の癖を、彼女は一日前に知ったばかりだ。 「何だよぼけデューン!!」 「いつになったら俺らまともに陸の上を歩けるんだ!?」 当然過ぎるその問いに、マックは爽やかに平らな胸を張り、 「オレの作業が全部終わったら!!」 『ふーざーけーんーな―――――!!』 悲鳴にも似た彼らの怒声は、ただ穏やかな海の上を、どこまでも滑っていくのだった―― 彼のいる塔には窓がある。塔の高さもそれなりのため、かなりの眺望を望むことが出来る。城壁のきわの大樹の上で、鳥がくるりと輪を書いた。それをぼーっと見ていたレウスが、何があったのかふと顔を上げる。 「どうした? 宮廷魔導士」 「いえ、なんでもございません、陛下」 曲がりなりにもここは王の御前である。私室での内密の会合であり、同室にいる国王、騎士団長の二人とも何かのたびに酒を酌み交わす仲とは言え、公私の別はもう少しはっきりつけておくべきだったかも知れない。そう思って、一応弁解もしておく事にする。 「ただ少々、クレアルト大陸は南西のデルアンダー樹海の極に伝わるパーグリム・パーグレムの子を孕みし金目の黒烏に捧げる天招来の秘儀をあやうく成功させそうになった時と似たようなデューンとクレイスの悲鳴を聞いたような気がいたしまして」 「……そ……そうか………………」 カケラも弁解にならなかった。 色々とツッコミを入れたくなった国王だが、泥沼に陥るのを避けるためにもここは余計なことを言わないほうがいいと判断した。話が長引くのみならず、場合によっては聞き捨てならない実験をやらかしていた事が判明したりもするからだ。平穏無事な時なら追求してもいいだろうが、こうして各国との折衝や手配などが立て込んでいるこの時期に、むやみにトラブルを増やす事も無いだろう。 現グラディエルス国王フェルギス3世は、おおむね温厚な人間だった。事なかれ主義、と称する人間も多くいるが。 「ま、まあ、あまりいろいろと受信するのもほどほどにしておいてくれるとありがたいのだが」 「何をおっしゃいます。 星を見上げ星と語り星にならんとする 星見人(アステリエル)にとって、電波すなわち星々との意思疎通手段にして天空へと至る手段でございますし、宇宙の真理に少しでも近づくためには常に受信と送信との精度を研磨せねばならず間違っても時と場所など選ぶような真似は」 「いや、頼むから少しは選んでくれ」 頭を抱えるフェルギス。それをよそに得体の知れない理論を延々と語るレウス。どこをどうつついても、結局この男は泥沼しか出てこないのかもしれない。 「つまり神学における一般論として始めに聖母ありて後に五大元素の一兄四妹が生まれ人がその元で全てを与えられた、しかしその故に人は空に背きて闇に走りしがために聖母は何も語らざれど太陽と月は人を許さずその顔と姿をまた背けたとありますが、この時星もまた大地に落とされたと言うならば人と異なる星々の落とされし所以については…… おや。陛下、お体の具合でも?」 「………………………………っ! あのなあレウスっ!」 「心配か?」 食って掛かろうとするフェルギスを狙ったかのように遮って、横からぼそり、と言うヴィルトゥス。大体において当人に悪気はなく、ただ単に言葉を紡ぐのが人より一歩遅いと言うだけなのだが、それで言う方言われる方、二人の意気込みを同時に削いでいる辺り、ある意味なかなか大したものである。 「……いや、僕に何が」 「養い子達が心配なのではないか、と聞いている。 貴様が五月蝿いのはいつもの事だが、少々今日は度を越しているのではないか」 加えて、慣れていないと疑問なのか断定しているのかすらもわかり難い淡々とした口調。黒く鋭い眼光とあいまって、当人に自覚は無いのに相当の迫力をかもし出している。 彼とフェルギスと自分は立場を超えた友人である、とレウスは思っているのだが、こういったシーンではどちらかと言うと、レウスはヴィルトゥスを苦手とする傾向があった。ちなみにヴィルトゥスがレウスをどう思っているかは、聞いたところでわからない。 「……………………いえ、別に。 ……馬鹿にしているだけですよ。人の決意と言うものを」 「ならそうまでふてくされる必要もあるまいに。 まあいいがな。 それはさておき陛下。デクストリア皇王国より親書が届いておりますが」 問答無用で話の路線を修正してしまうヴィルトゥス。 考えようによっては、この男もレウスと同じほどに有用で希少な人材であり、また同じく考えようによっては、この3人も実に息のあった間柄だと言えなくも無いのだった。 デクストリア皇王国。 クレアルト大陸のやや東寄りに存在する王国である。領土的、また軍事的にはそう大きな力を持っているわけでもないが、大陸のほぼ全土で行なわれている聖母真教の総本山としての宗教的権威が非常に高い、国王が教皇を兼ねる政教一致体制の国家である。 ついでに言うならば、世界最大の教会である聖コンスキエンティア王城を始めとした、宗教建築による観光需要も割りと高かったりもする。 今はその観光需要が最高潮に達する、秋の祭りの時期であった。街には様々な人々が溢れ、無料で果実酒が振舞われる。娘たちはこの時とばかりに着飾り、街を様々な異国の衣装が彩る。そこここの教会でも秘蔵の美術品や聖遺物などが公開される。 だが一番人気があるのは、王城から始まるセレモニーだった。パレードの本隊が動きだす前に、広場に集まった人々に向けて、華やかな白一色の衣装を纏った女官たちが、二階のバルコニーから小さな菓子の包みを投げている。 その中でもひときわ幼い、13、4歳ほどの銀髪の少女が、手持ちかごの中身がなくなったのか、軽やかにバルコニーの入り口を駆け戻って行った。 「もういいですよ。ご苦労様でした、ミルシア。 ……それと、廊下を走ってはいけないといつも言っているはずですけれど?」 横から穏やかにかけられたその声は、苦笑交じりではあったが、確かに身内へかける言葉特有の温かさを伴っていた。 「姉上様! お体の具合はよろしいんですの?」 そちらに向き直って慌てて軽く礼をする少女。青い瞳と同じように、小さな体もまたくるくると良く動く、愛らしい娘である。 「ええ、聖母のおかげをもちまして、ね。 それに、祭りの全部には出られないとしても、セレモニーの初めぐらいにはご挨拶しておきたいものですもの」 後ろに多くの供を従え、車椅子に座ったままの赤毛の女性は、その姿をどこかまぶしいような様子で見上げていた。 「良かった! きっと皆様もお喜びになられますわ。 姉上様が皆さんの前においでになるのは本当に久しぶりですもの!」 少女はその表情に気づく様子もなく、ころころと笑った。祭りである事、このところずっと伏せっていた姉が車椅子とはいえ動けた事、そして何より普段難しい顔ばかりしている姉が笑顔を見せてくれているのが嬉しいのだろう。 その辺りの心情をなんなく察した姉は、軽く妹の手を握ってやった。本当は頭をなでてあげたいのだが、何せ活発な妹はじっとしていないのだ。 「こら、ミルシア。二人きりでいるとき以外は姉と呼んではいけません、といつも言っているでしょう?」 「ああっごめんなさい姉上様! お久しぶりでしたのでつい……」 「ほーらまた」 「あっあっあっ申し訳ありません女王陛下! 度重なるご無礼をお許しくださいませねっ!?」 全くもう、と王女の言動に女王が苦笑する。 「いいから、早く奥へお戻りなさい。 料理人たちが腕を振るってあなたを待っているのですから」 「はい! それではまた後で! あまりご無理をなさらぬようにですわ、姉上様! それでは!」 言うが早いか、衣のすそを翻し、あっという間に駆けていくミルシアーネ・アシル・デクストリア王女。言い間違いを指摘する暇さえ与えぬすばしこさである。 病の女王は、それを困ったように、しかし微笑ましげに見送ってから、静かに言った。 「……さて、皆様、参りましょうか」 「――――よろしいのですか?」 供の一人が、耳元で、囁くように聞き返す。一瞬だけ、彼女の表情が変わった。曇るのではなく、決意を新たにするように、何の濁りも残らぬほど鋭く。 「光追人(ルミナリエル)復古派の動きが未だ読めないことは承知の上です。事前の計画が崩壊させられたのはかろうじて捕捉出来ましたが、不確定要因はかえって増したと考えてよろしいでしょう。 だからこそ、私(わたくし)が参るのですわ。妹をあのままバルコニーにおいておくわけには行きませんもの……」 しゃらり、と彼女の胸元で、銀の鎖が音を立てた。真教の聖印たる銀の十字のその重みは、彼女の支えである。 「……できるならば、こういった現実を、あの子には知らないでいてほしいものですけれど」 呟いて、銀十字を手にとって唇を軽く寄せる。それを肌着の上にしまって、再び上げたその顔は、姉のものでも国王のものでもなく、曲がりなりにも一つの「世界」を背負った総責任者の表情だった。 「聖母は我らを守りたもう。屈するわけには参りませんわ。 警備の配置にも抜かりは無いはずです。行きましょう、皆様」 マリアテーゼ・ソロル・デクストリア。 病に倒れ、現実を知り、人間を見つめながらも、なおも国と信仰を守らんとする緑眼の女帝である。 どことも知れぬ暗い場所。しかし確かに同じその時間。 一つの異形が鎖に縛られ、十字の形に繋がれていた。 人とほぼ同じ姿をしてはいる。見た目だけなら20歳ごろの若い娘に見えるだろう。彼女を異形と見せているのは、人形のようなその表情と頭から浴びせられた鮮血と、何より彼女の背中に生えた、白と黒との鳥翼だった。 黒い右翼と白い左翼、流れる金髪に白い表情、それらの全てに絡んだ深紅。地下室を思わせる暗い部屋にいましめられているそれは、確かに一種倒錯的な美しさを持ってはいた。 その前に、明かりもつけずにたたずんでいる人影が二つ。体格すらもわからない闇だが、声から判断するに男のようだ。 「ふむ。未だ覚醒ならず、か。 集めるのにそれなりの手間は取ったのだがな」 「小細工だな。お前らしくも無い。 そもそも、何故このような小娘にこだわる? もっと要領のいいやり方がいくらでもありそうなものだ。現方針を続行するなど、な」 彼らにはそれを見て、美を認める気配も、無論同情を寄せる様子も無い。何の気なしによく切れるはさみを吟味しているような雰囲気が、そこにはあった。 「私にはお前と違って目標があるのでね。 実の所彼女を目覚めさせるだけなら簡単ではあるのだよ。 ただ、私には破壊神を解き放つ気はない。そして、まともな自我が戻るまでは生贄としての価値すら彼女にはない。 それだけの話だ」 互いの表情すら読めない闇の中で、平然と会話が続けられる。闇を見通す目があるのか、何も見えずとも問題が無いのか。 「ふん……『裁きの堕天使』か。 くだらぬものを作り上げたものだな」 「いいや」 「……何が可笑しい」 片方が声もなく笑ったのを、もう片方が察知したようだ。 「『裁きの堕天使』、などと古ぼけた事を言うからさ。 伝承にあるだろう、あれは 縛られし者(バインデッド) だよ。 そう思えば、少しは趣きもあるだろう?」 「……ふん。くだらぬな」 「――いずれにせよ同じ事だ」 突然、第三の声が割って入った。さっきまでいたはずも無いその声に、しかし誰も動揺を示すことなく会話が続く。 「――欠けたる太陽と満ちざる月とを再び元に戻す事によって以外に大地に光は戻らぬのだからな――」 「ご正論で。」 そこで、会話は途切れた。沈黙というよりも、むしろ音の無い空間が経過とともに沈殿を増していくような、そんな時間がただ過ぎていく。 そして。 「――申し上げます! デクストリアの実行基地、壊滅した模様!!」 その静寂を、急報が叩き割った。 「デクストリアにもありませんでしたか…… 奉じられていそうな遺跡は、大体回り終えたと思うんですが」 一人だというのに丁寧な口調で独り言を呟いているのは10歳前後の少年だった。地図を開きながら、いかにもといった感じの裏路地をてくてく歩いているその姿は、一見すると祭り見物にやってきて道に迷った子供、と言えなくも無いだろう。 もっとも、それは着ているものを別にすれば、の話である。少年は、大人でも着るのが難しいような全身鎧(フルプレート)を着込んでいたのだ。色も美しい銀色の上、当人の髪も瞳も銀色。表通りに出ればよく出来た仮装だと思われること間違い無しである。 さらに奇妙な事に、彼は鎧を着ているのに、武器を持っている気配が無い。仮に魔法の使い手なら定められた箇所にそれぞれ信じる神の聖印を掲げているはずだし、それ以前にそこまで大仰な鎧は着ない。ナイフや飛び道具を使うにしても、全身鎧(フルプレート)などは無用の長物である。かといって、拳術を扱うものの風体にも見えない。 もっとも、そうまで重いものを身につけて平然と歩いているのだ。どう転んでも、ただの一般人では無いことは確かなのだが。 「始めっから奉じられてなかった上、大概の遺跡にはあるはずのチップすらありませんでしたし。 まあなんにしろ、無いものは仕方ないですけど。今度は北辺りを回ってみるだけですから。 ……それにしても」 手に持っていた地図を畳み、青空を見上げて一つ嘆息。 「何でこの辺りの遺跡は、入ろうとするなり問答無用で襲ってくる人たちが多かったんでしょうか……」 微妙に不審人物な銀ずくめ少年のその問いに、答えるものはいなかった―― ――何のかので結局、前線基地の総員を殲滅してしまったのだから、これで答えが帰ってきても困る所ではあるが。 現在『彼女』の総数は16人。 内一人を 現実(グラウンド)の対応に残し、さらに一人を念のために宙天に置き、上部から残りの位置を俯瞰させる。 この時点で残りは14人。 侵入(イントゥルード)の開始地点へ、この14人を配置する。 電脳空間(エキストラグラウンド)は彼女にとって、黒い大地を走る緑の格子だ。その中を光の線と柱が縦横無尽に駆けている。赤い線(ライン)、青い立方体(キューブ)、駆け抜けていく光の束。もっとも彼女は知っている。今でも十分にめまぐるしいこの風景は、かつては遥かにけたたましく、めまぐるしく、光に満ちた空間であった事を。 差し当たって過去に用は無い。彼女は『自身達』を小さな光の球に偽装して、14人の配置を終えた。右に4人、左に7人。残り3人は、大胆にも第四電算部の中枢近くに直接転移(アポート) させる気でいる。早い話がおとりであり、それで決まるとは思っていないが、それを見抜かれて放っておかれたらその時点で反転して少しでも情報を削ぐ気でいる。 感知・感覚システムの総チェックを行なう。特に文字通り脳裏に浮かんで見える残数報告装置には念入りに点検を入れる。この16個の緑のランプが全て赤く点灯したら、二度と還っては来られないのだ。ミスがあっては文字通りに命取りである。 一見ゲームに似ているが、似ても似つかないこの緊迫感が、しかし彼女は好きだった。 総点検が終り、グリーンランプの明滅の数を数え始める。 肉体(ボディ)から離れ、人型のヴィジュアルすら放棄しているはずなのに、どこかで自分の息遣いを聞いている気がするのは滑稽だろうか。 3・2・1…… 潜入(ダイブ)! 全部で11個の光の球が、電脳空間(エキストラグラウンド)を駆け始める。転移(アポート)予定の3人はしばらく待機。彗星のように引いている光の尾は、自動バックアップが正常に動作している証である。互いに重なり合わないように、それぞれ0.05秒の時間差で消失していく。 右部隊が狙うのは第四電算部、左部隊の狙いは第一中枢である。4人はしなやかに、7人は慎重に、静かに壁を破り網を超え―― 偽装爆弾(ブービートラップ)!! 15人の脳裏に走る赤い衝撃。右を走る4人が3人になっている。遺跡自体のセキュリティが立て続けに起動を始め、破ることのできない白い壁が乱立していく。すかさず待機させておいた3人を転移(アポート)。追ってきたのを確かめてから自壊プログラムを注入(インジェクション)。自重で色の消えていく壁を右からの3人がやすやすと超えていき―― 遭遇(エンカウント)!! 白血球(ホワイトセル)と呼ばれるタイプの捕食者と鉢合わせした。相手の解析をある程度可能にする、常時稼動の動型セキュリティである。 (読まれてたか!?) 喰われるよりは自爆のほうがましだとの判断が一瞬遅れた。2人が身をかわすが1人の回避が間に合わずに捕食される(ビー・プレイド)。解析された情報を転送される前に破壊しようとしたが、16分割状態ではそこまでの馬力がなかった。彼女たち全ての位置が相手に捕捉される。 とっさに左以外の部隊を思考から閉ざし、自動モードに任せる。この状況ではそちらまでの面倒がとても見られない。残数を表す16のランプが次々に赤く変わっていく。 (この際だ!!) 彼女はヤケを起こした。一時的に7人を一箇所に集め、そのうち接続(リンク)を外した一人を恣意的に爆破(ブラスト)。わざと派手に情報(ジャンク)をぶちまけることによって目くらましを測り、爆破による揺らぎを速度に変えて突撃! 無茶にも程がある。警報(ワーニング)はノンストップ。視界の赤さは目を閉じた時に瞼の裏を流れる血流のそれだ。衝撃を緩和する手段が既に無い。緩和などしていたら速度が落ちる。14人中残り3人にまで減った彼女は、技術と慣性を駆使してさらに突っ走る。 致命一撃(フェイタルブロー)!! 横から飛んできた何かにさらに1人が吹っ飛ばされる。何があったのかを解析する余裕は無い。残数二人、左右に分かれて一瞬でも時間を稼ぐ。白い壁が発生するよりこちらの侵攻速度の方が上、最終シールドは眼前、突破口を一刻も早く解析して―― ――Crash!! ――――and The END. 残数報告システムのランプが14個まで赤くなった後、宙天に位置していた『彼女』が、全ての偽装を解除する。 いくら古代技術とはいえ、操る人間がいなくなった今ではただの自動防御・反撃システムに過ぎない。遠からずここも見つかるだろうが、すぐに移動しなければならない、というほどでもないだろう。 そもそも15人目のこの『彼女』にしたところで所詮は使い捨て(エキスペンダブル)だし、設備の設置場所に至っては海のど真ん中なのだから、個人情報まで抜かれない限りは追っ手がここまでかかることも無い。 「――とはいってもなぁ。 やっぱ手強えーよ。古代遺跡のセキュリティってやつはよ」 現実(グラウンド)と同じ姿を改めて取り直した彼女は、肩をすくめて首を振った。なんでもない動作だが、今まで窮屈な偽装をしていた身としてはそれなりに気分がいい。 「ま、しゃーねーか。一応第四電算部のチップは頂いてきたし、 現実(グラウンド)のセキュリティはそれなりにボコにしたはずだから、後は警備部がどーにかするよな」 実際のところ、確かにセキュリティはガタガタになったし、実行予定の計画もあらかた崩壊させたのだが、その後をどーにかしたのは全く見知らぬ乱入者だった。だがその辺りのことは彼女の預かり知らぬ所である。 「さ――ってっと!! 作業終り! 本気で船動かすぞ――!!」 そう叫んで、彼女はこの彼女との 接続(リンク)を切断した。 Flip-Flop. シーソーの上下が入れ替わる。 「いつになったら俺らまともに陸の上を歩けるんだ!?」 「オレの作業が全部終わったら!!」 『ふーざーけーんーな―――――!!』 「じゃあその作業ってのは一体いつ終わるのさ!?」 「おっし終わった!!」 『早っ!?』 「ってか今一体何があったんだ!?」 「んー、言ったところでどーせ信じねーよ」 信じるわけが無い。 今のたった2秒の間で、自分は人工世界で16人に分裂して生きるか死ぬかの冒険をやって来たのだ、などと。 言えるわけが無い。 実はお前らの正体も目的も知ってるし、身体能力まで全部測った上で利用してやろうと思ってこっちの航路まで引っ張って来たのだ、などと。 彼らに対して、悪い事をしているのかも知れない、という自覚はある。 ただ、後から彼らにどう思われようと、事態を進めていかなければ間に合わなくなりつつあるのではないか、という危惧が彼女にはあるのだ。 だからこそ。 「うっし!発進するぞー! デューン! とっとと中入って来い中! 置いてかれると悲惨だぜ!」 「てめぇが壊しててめぇが追い出したんだろーが! どーゆー言い草だオイ!?」 「……てゆーか、ほんとに壊れてたのかな〜…… 都合のいいように言いくるめられてるよーな……」 「ぐだぐだ言うんじゃねーよ! ほれほれとっとと総員配置につけー!!」 差し当たっての目的地、デクストリアに着くまでは、せめて無事に送り届けてやろうと彼女は思っているのだった。 青い海の中、潜水艦はゆっくりと沈んで行き―― ――潜望鏡だけをのぞかせて、やがてそれも沈んだ。 |
29499 | Re:All was Given 〜8〜 | エモーション E-mail | 2004/3/2 22:10:03 |
記事番号29481へのコメント こんばんは。 8話、お待ちしていました♪ 優しく毅然とした女王さまと明るく元気なその妹姫。 見るからに怪しげな(ルミナリエル復古派かな、と好き勝手に予想)男達と、 デューンくんとは違う意味で「バインデット」と呼ばれた謎の羽を生やした娘。 さらに何となく天然っぽいフルプレート少年。 今回は、今後の展開に関わる方々の現在の状況という感じでしょうか。 また、同時に伏線が再び張られているようですね。 レウスさんが気に入っている私としましては、レウスさんの登場が嬉しかったです。 レウスさんの、ツッコミどころ満載でも、あんまり詳しく追求したくない(笑)話の内容は、 相変わらずなのですね。……心配もあるのでしょうけれど、速攻で突っ込む デューンくんがいないのは、レウスさんとしても寂しいのかもしれないですね。 最初の部分の、マックさんとクレイスくんの会話に、科学が発達しすぎた結果、 正確な情報データを得るには、古典的な手段を取るしかなくなってしまった 某銀河の帝国と同盟を思い出しました。 それにしても、漂流するのは予測していましたが(それでも漂流というより、 沈没したままかと思ってましたが)、それが実はわざとというのには、 ああ、引っかかったなあと。 そう言えば「彼女」=マックさんは、デューンくんとクレイスくんの身体能力を きっちり測定していたんですよね。デューンくんとのツッコミ合戦な会話で 綺麗に忘れていました。 どうやら一癖も二癖もある方だったマックさん。 彼女は今後、どんな立場からの関わりになるのでしょうか。 何にせよ、続きを楽しみにしています。 それでは、拙い感想ですが、この辺で失礼いたします。 |
29500 | お待たせいたしました(礼) | 久賀みのる E-mail URL | 2004/3/2 23:24:49 |
記事番号29499へのコメント こんばんは。久賀みのるでございます。 8話、お待たせいたしました(滝汗) >ざ・伏線な人々 お察しの通り、これから関わってくる人々の現況報告です。 ああっ色々話したいのに話せませんっ!!(爆) ちょっと気を抜くと某鋼鉄娘になってしまう王女ですとか、 ちょっと気がそれると某スクラップド・プリンセスの 某正義純情騎士少年になってしまう鎧少年ですとか(爆死) 今から今後の展開を考えるとなかなかに笑えつつ頭が痛いです。 とはいえ、鎧少年の登場は相当後になりますが…… >電波青年(←待て三十路) 彼の話している内容は、正直作者でも把握し切れてない部分があります(本気) ……いや、把握したいともあまり思いませんが(笑) デューンがいないとレウスも寂しいのですが、 意外にも「団長」ことヴィルトゥスも寂しがっているようです。 もっとも、半分近くは自分のツッコミ回数が増えるのを嫌ってのようですが(苦笑) >漂流偽装のサブマリン ちなみに私は同盟軍のほうが好みです。既にバレバレかもしれませんが(笑) 伏線を思い出していただけてまずは何よりです。 実の所、マックはかなりの部分まで計算ずくで動きます。さらに癖だらけです。 キャラ自体にも相当ぎっしり伏線を詰めてありますし、 ある意味で一番”真相”に近いところにいるのかもしれません(←疑問形!?) それではこのあたりで。次回の締切は4月1日ですね。 9話からは舞台を移して、「クレアルト大陸編」が始まると……いいなぁ……(弱気) とにかく、読んで頂いてありがとうございました! いつもにもまして長文レスになってしまいましたが、これで失礼いたします。 |