◆−第五部 The Snowing city 〜雪降る都に〜 第六話−エーナ (2004/5/8 22:01:59) No.30002
 ┣第五部 The Snowing city 〜雪降る都に〜 第八話−エーナ (2004/5/22 00:32:21) No.30052
 ┣番外 蛇の誘惑 第一話−エーナ (2004/5/22 00:40:01) No.30053
 ┃┣番外 蛇の誘惑 第二話−エーナ (2004/5/22 00:41:16) No.30054
 ┃┣番外 蛇の誘惑 第三話−エーナ (2004/5/22 00:42:23) No.30055
 ┃┣番外 蛇の誘惑 第四話−エーナ (2004/5/22 00:43:21) No.30056
 ┃┗番外 蛇の誘惑 第五話−エーナ (2004/5/26 20:44:18) No.30079
 ┃ ┗Re:番外 蛇の誘惑 第五話−エーナ (2004/5/27 21:33:39) No.30084
 ┃  ┗Re:番外 蛇の誘惑 第五話−エーナ (2004/5/28 22:21:00) No.30088
 ┣第五部 The Snowing city 〜雪降る都に〜 エピローグ−エーナ (2004/5/23 18:16:10) No.30068
 ┗CARRIED SCOPE〜万華鏡〜 二章 第一話−エーナ (2004/6/2 18:58:51) No.30126


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30002第五部 The Snowing city 〜雪降る都に〜 第六話エーナ 2004/5/8 22:01:59



注意!ルキが壊れています。どうやら久々に里帰りして周囲の人間から影響をうけまくったようです。
   どうやらなつかしの故郷の人々がはじけまくっているようです。ごめんなさい;
   そんなルキは見たくない方は回れ右したほうがいいかもしれません。


        第五部   The Snowing city 〜雪降る都に〜   第六話






四日目、精霊魔法基礎理論のさらにその基礎の続き。
五日目、黒・神聖魔法基礎理論のさらにその基礎。
六日目、黒・神聖魔法基礎理論のさらにその基礎のつづき。

「・・・結局こなかったわねー」

そして、六日目の夕方。
あたしはぼそりとつぶやいた。

「覇王《ダイナスト》のだの字も出てきませんでしたしね」

はっはっは。と、朗らかに笑うゼロスにあたしはちらりと視線を向けると、

「母さんの風邪も完治したし・・・明日あたり殴り込みしてみようかしら?」

「ええっ!?」

「冗談よ」

おののくゼロスにさらりと返すあたし。

「・・・いや・・・あなたが言うと冗談に聞こえないんですが」

「褒めてくれてありがとうv」

「いやあの」

あたしがにこやかに言うと、ゼロスの顔が思い切り引きつった。
いーじゃない。他人と感性が違っても。

「んっふっふっふっふ・・・今日までに来なかったってことは、明日よね。
わくわく♪」

期待を胸に(どんな期待だ)言うあたしを前にして、ゼロスがだらだらと冷や汗を流す。

「いやその最後のは一体・・・?」

「いや〜ん♪
あたしがえげつないげっちょんげっちょんでぐっちょんぐっちょんでぎっちょんぎっちょんなトラップしかけると思う〜?」

「思います。」

うあ。どきっぱりといったし。
・・・だ・け・どv

「そのとーりなのよっ!トラップ万歳vもう乙女心をくすぐってくれたまえカモンベイビー!」

瞳をきらきらと輝かせ、夢見る乙女のごとくくるくるとまわる。
やっぱり思い切りやると楽しいわねっ!

「・・・ああああ・・・覇王《ダイナスト》様ご愁傷様です・・・」

となりでゼロスが崩れ落ちた。









次の日、明朝。ルキはさながら遠足の前日に寝付けない子供のように興奮していた。
だが、これからやる事は遠足などという朗らかかつのほほんとしたものではない。

「ここをこーして、そこをあーしてv
・・・うふふふふふふふ♪」

精神世界側《アストラル・サイド》に巧妙なトラップを仕掛け、ルキはにまりと笑う。
犬の尻尾があったらふっていただろう。たぶん。
正面から見たら、狐に見えること間違いなし。(どっちもイヌ科だ!)

「来っないっかな?来っないっかな?はやく獲物が来っないっかな?」

母親が関わったいつぞやの『網』の件の冒頭のごとく目を輝かせている。
獲物とは覇王《ダイナスト》のことか、ルキ=ファー=ガブリエフ。
なんか間違ってるぞ悪夢を統べる存在《ロード・オブ・ナイトメア》。
どーしてこんな性格になっちゃったかな元天使。どんな育てかたしたんだアルヴァセル。(外伝忘却参照)
つーか技術と能力の垂れ流しだろう。それは。

「うっし。完成v」

興味と好奇と才能と技術と労力を尽くしたトラップ・・・いや。最後のはいらないか。
・・・まあともかく。悪夢を統べる存在《ロード・オブ・ナイトメア》が丹精込めて作ったトラップが完成した。










「と、ゆーわけで。今日は一週間のそうまとめよんv」

手にはチョーク。
顔には聖母の・・・もとい、聖書にある『悪魔が己が姿を光の御使いに装うは珍しきことにあらず』のごとき微笑みが浮かんでいる。
ようするに。いつにも増してたちの悪そうな微笑みだという事である。

「・・・先生・・・楽しそうですね」

「そーなのよ♪きょうあたり楽しみにしてたものが着くってことでもぉv」

コウの引きつった言葉には介せず、ルキは本日何度目になるかという『瞳きらきら』をおこなった。
・・・ちなみに。今朝食卓の場に現れた娘の表情におののいた二人はそれぞれ8人前くらいしか食べなかったそうな。

「と、ゆーわけで、今日は外に出るわよー♪」

表情はそのままに楽しげにルキは言った。

『だったらそのチョークは何っ!?』

三人が突っ込む。非常に適切だ。
しかしこの三人気があってるなぁ・・・

「だって授業って言ったらやっぱりチョークに黒板じゃない。ただの気分作り」

『それだけっ!?』

四人目が加わり、豊かなハーモニーで全員突っ込む。

「うん。」

脱力。
生徒四人はそろって机に突っ伏した。
まったくもってこの教師、あらゆる意味でおくが深いかも?

「と、ゆーわけで、外に暴れに行きましょうか♪」

『・・・暴れ・・・?』

もはや突っ込む気力すら失せた四人がぼそりとつぶやいた。
刹那。

――ごぐぁぁぁぁぁああん!づしゃぁっ!ごりゅゑりげしょん!

窓の外から爆音が響く。
・・・にしても、なんだかとてもいたそーな音である。
被害者は無事ではすまんだろう。

「あ。大成功v」

どうやらあれは彼女が仕掛けた『トラップ』とやらが発動し、こちらにまで影響が出たために聞こえてくるようだ。

「何がですかっ!?」

語尾にハートマークすらつけたルキにグロードが突っ込んだ。
復活早いぞ。部下S並みか?

「んー。ハイパートラップダンジョンタイプ。
行く先々には卑劣な罠!行く手を惑わす巨大な迷宮!帰還する道には滅びが口を開けて待っている!
これぞ王道!入り込んだものには恐怖を!滅びを!我が逆鱗に触れるものにはふさわしき制裁っ!」

ぐっと握りこぶしを作り、熱く語るのはうそざむい気配すら覚えるような言葉たち。
聞いてるほうも怖くなるんですけど。雰囲気が。
よーするに嫌がらせか。しかも一歩間違えば滅ぶよーな代物だし。

「あたしの生徒に手ぇ出すよーな愚か者にはお似合いの道っ!
いいえ、むしろこれでは生ぬるい!更なる痛みを!恐怖を!」

まだあるっ!?
・・・恐るべし。ルキ=ファー=ガブリエフ。

「と、ゆーよーな奴に使うのがベストの使い方なのよ、これ。
これを使えば魔王もいちころv」

つかわんつかわん。
つーか精神世界側《アストラル・サイド》そのものにそんな仕掛けができるやつなんぞそうそういてたまるか。

「・・・ところで、引っかかったのは誰ですか?」

「うーん。
ゼロスは今日は来ないほうがいいって忠告してあるし、あいつより弱い奴だとゴールにたどり着く前に滅びるから・・・
たぶん覇王《ダイナスト》ね」

グロードの顔が思い切り引きつる。
ビッグゲストご愁傷様。あわれ、グラウシェラー。
なーむー。ちーん。(滅びてない滅びてない)

――ごりゅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあんっ!

びりぴりと空気が震え、ひときわ大きな爆発音が響いた。
そしてそれに伴う閃光と熱量が炸裂し、グラウンドには小さなクレーターが。
・・・うっわあ。巻き込まれたら死ぬって。絶対。

「どーやら最後まで抜けてきたみたいねー。
・・・中でくたばって(死んで)ればよかったものを・・・・・・」

窓の外を見やり、舌打ちするルキ。
こ・・・こわひ。このヒトこわひ・・・

「んっんっんっんっん・・・・・・
黒魔法及び神聖魔法には『召喚』というものがあるのは知ってるわよね?
高度な応用魔法なんだけど」

「・・・黒魔法は聞いた事がありますが・・・神聖魔法でそういうのはちょっと聞いた事がありませんね・・・」

ずれた眼鏡を治しつつ、コウが答える。
ををう。なかなか勉強家である。

「それは神族が魔族で言うと中位と同程度以上の力を持ってるから、呼び出すのに膨大な魔力容量《キャパシティ》が必要だからよ。
だから不可能というわけではないわ。大昔の文献には数人がかりでなら成功した例も残ってるし。
まあ、大掛かりな設備と下準備が必要だけどね。
もーちょい魔法の構成式とかが省略できるようになるんならかなり楽にはなるけど」

むむぅっ!そりは初耳っ!
っくはぁ!今すぐ飛び出してルキに色々聞きたいぃっ!!
う・・・うずうずするぅっ!あたしの魔導士魂が知識を獲ろと叫んでいるっ!(←字が違う)
・・・って、あ。こーふんしすぎたわねー・・・
読者の皆様、あたしが誰かお分かりですか?
そう!天下の旧姓リナ=インバースよっ!

「・・・母さん、廊下で身悶えてるくらいなら顔出したら?」

をう。気付かれたか。
・・・ちっ。さすがあたしとガウリイの娘。動物的カンは人一倍かっ!
風邪も治ったことだし、楽しげなルキの様子にこっそり後をつけてきたのだが・・・
気を取り直し、あたしは開き戸のノブを回して胸を張って教室に入った。

「いまさらながら紹介するわ。
あたしの母さん・・・旧姓リナ=インバースことリナ=ガブリエフよ」

『嘘ぉっ!?』

三人そろって叫ぶ。

「だって浅黒かったり角が生えてたりしてないっ!!」

「轟風弾《ウィンド・ブリッド》っ!!」

――づぼむっ!

めちゃめちゃ失礼なディートの言葉に、あたしとルキ(ちゃっかり後ろに避難していた)以外の四人が吹っ飛ぶ。

「すっかり体調はよくなったみたいね。突っ込みの切れが元に戻ってるわ」

机と折り重なって目を回す四人を見て、ルキがやんややんやと小さい拍手を送る。
ふっ!リナちゃん完・全・復・活っ!
今なら一日で盗賊を50ダース吹っ飛ばせそうよっ!

――ごあんっ!

その時であった。協会の建物全体を震わせる爆発音が響いてきたのは。

「あ、いけない。覇王《ダイナスト》のこと忘れてたわ。
あらかじめ結界張っておいてよかったわねー」

「わ・・・忘れるなぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」

のほほんと言い切るルキに、あたしのスリッパが炸裂した。









あとがき

エ:ようやく第七話更新っ!くああっ!いろいろどたばたしておそかったぁぁぁあっ!
  ごめんなさいっ!!

L:ごめんで住んだら軍と警察はいらん。あと探偵も。

エ:げふぉっ!

L:あ、久々の吐血v

エ:・・・楽しまないでください・・・・・・
  今回ルキさんテンション上がったり下がったり。ホント気まぐれですなー。

L:それが『R・O・N』(ロードオブナイトメアの略称。いい加減全部打つのが面倒になってきた)の特権っ!
  これぞ王道っ!(何のだ。)

エ:・・・あんた元々金色の魔『王』でしょうが・・・

L:そうっ!そうなのよっ!だからあたしがどんな道を歩もうがそれが王道っ!
  世界はあたしを中心に回っているっ!

エ:・・・・・・あの・・・・・・それ・・・あながち間違いじゃないから余計怖いんですけど・・・・・・

L:恐怖を!滅びを!我が逆鱗に触れるものにはふさわしき制裁っ!
  とゆーわけでぽちっとな。

エ:のぉおっ!?そのボタンはいったごりゅげ[ピ――――――――――]。

L:あ。自主規制?うーん。だんだんレパートリーが増えていくわねー。
  あたしも精進精進v

     ――(どうしようもなくなったので)幕――


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30052第五部 The Snowing city 〜雪降る都に〜 第八話エーナ 2004/5/22 00:32:21
記事番号30002へのコメント


「・・・貴様等・・・私を愚弄するか!」

銀の甲冑。そいつは、ディルスでいつか見た姿をしていた。
窓の外にいるそいつは怒り、魔力光をかざした右手に宿していた。

「黙りなさい!
愚弄するも何も、あたしの生徒に手ぇ出すよーな莫迦にはお仕置きが必要ね。
あたしの逆鱗に触れたことを後悔なさい!」

ルキは、言って窓の外に向かい、凄絶な笑みを浮かべた。
覇王《ダイナスト》とルキの視線が交錯する。







        第五部   The Snowing city 〜雪降る都に〜   第八話







「さてと。今日はあたしの最後の授業だし、大盤振る舞いしちゃうわよんv」

にへら、と笑うルキ。その後ろには何ゆえか炎が。

「ええっと・・・先生、なんだか怖いんですけど・・・」

冷や汗を流し、顔を引きつらせながらも言うコウ。
ををっ!勇気があるわね!・・・いや、この場合無謀とも言うような気が・・・

「おほほほほほほほほ・・・。怖くて上等っ!」

びっ!と右手の中指を天に向け、黒いオーラをさらに放出する。
・・・ヤバイ・・・暴走気味だ・・・

「んっんっん。『R・O・N』は中立だけど、このあたし『ルキ=ファー=ガブリエフ』は違うのよねぇ」

「あああああっ!!セリフもだんだんやばくなってるっ!?」

あたしは頭を抱えて後退る。こうなったらほとんど暴走を止められる者はいない。

「これぞ秘儀!統合精霊魔法!」

「ちょっとまてぇぇぇぇぇっっ!!!」

思わずあたしがつっこむが、ルキはお構いなし。
窓にだんっ!と足をかけ、今にも外に飛び出しそうな雰囲気である。
なんだかすごくてやばそうな響きである。生徒はすでに青ざめ、凍り付いていた。
ルキが『秘儀』というからにはやっぱりすごいのだろうが・・・

「これぞ人間の魔力容量《キャパシティ》を最大限まで使った召喚魔法の応用魔法と精霊魔法の融合呪文!
みててねv覇王《ダイナスト》をぼこぼこのめしょめしょにしてくるからv」

ああああああっ!暴走が止まらないっ!
・・・くらくらするって・・・こういうことなのね・・・
それはともかく・・・ルキは悪夢を統べる存在《ロード・オブ・ナイトメア》だからほぼ『何でもあり』。
魔族や神族には制限がかかっていても、彼女は自分以外の何者でもないから神聖魔法や黒魔法は扱えるはずなんだけど・・・
どうやら『使えない』んじゃなくて『使わない』のだろう。その証拠に召喚魔法は使っているところを見たことがある。
・・・まあ、封印時は精神力や魔力の干渉がどうとか言っていたが・・・それは特殊な例だろう。
それに、ルキと人間の魔力容量《キャパシティ》が同じになるのは一度に使える最大使用量だけらしい。
その身がやどす魔力だけをみると、どうやら冥王《ヘルマスター》と同じくらい。
しかし、使用したらどこかで引っかかったりしていない限りその分が本体から支給される。
そのため通常の魔法を使うのならほぼ無限に発動できるそうだ。
ううっ・・・うらやましい・・・・・・・・・でも人間止める気は毛頭ないが。

「・・・其は楽園に住まう蛇。其は夢魔の母。其は精霊の女王。
我が名において、その力をここに灌げ。
其は力は心の臓となり、精霊は血肉となり、我が意思をもってして生まれゆく者をを操らん。
培え。築け。天を弄する其の力、精霊を巻き込み力の塔となれ!」

・・・これは・・・呪文を聞いても誰の力を借りてるか・・・もとい、誰の力を呼び出しているかよくわからないわね・・・
精霊の力を呼び出してるのはわかるんだけど。
悪夢の王が作り出す、神すらも貫くその力。
本来なら誰も使えるはずのない力。
知在る者は、限られた力しか操れなくても他を圧倒する・・・
・・・・・・・・・こういう場面を見るとルキが悪夢を統べる存在《ロード・オブ・ナイトメア》だってことがよくわかるわ。

「――精霊の塔《エレメンツ・バベル》!」

ルキの呪文が発動する。
たくさんの光が帯となり、組み合わさって天に届かんばかりの勢いだ。
『精霊の塔』・・・か。数十メートル離れていても何かの『力』が集まっていくのがわかる。
びりびりと震える空気。精霊たちが、牙を。剣を。刃を。拳を・・・。怒りをもって、貫く。

「踊れ、炎帝!」

――ごぐぁぁああんんっ!!

「がぁっ・・・!?」

塔から伸びた赤い光の帯が覇王《ダイナスト》を直撃する。
やはり手加減しているらしくダメージはかなりあるが、一撃で葬られてはいない。

「討て、風帝!貫け、地帝!」

続けざまに緑と黄色の光が覇王《ダイナスト》の身体を打つ。

「バ・・・バカな!こんな呪文を・・・呪文を引き出す知識《ウィズダム》を人間が持っているはずが・・・!」

「あら。負け惜しみ?」

ふん、とルキは鼻で笑った。
こりゃそうとう頭にきてるわ・・・まあ、一応常識はあるからいきなりここら辺一体が混沌に帰すなんて事はないだろうけど・・・

「痛い?当然ね。わざとやってるんだから。
あんたをお仕置きするためにわざわざ威力を絞ってるのよ。
あと、2発。・・・特に最後のはすっごくきついから。トラップでダメージを負ってるあんたに耐えられるかしら?」

「ぐ、おっ・・・!人間に・・・人間ごときに・・・っ!!」

「一寸の虫のも五分の魂。柔よく剛を制す。いいことわざよね。
世の中に不可能なんてない。ありえないということこそありえない。ただ、そこにそれが見えないだけ。
あなたは見えるかしら?人間という『可能性』を。
不確かだからこそ時にはとんでもない結果を生み出す存在を。
見えるのだったら、理解できるのだったら退いたほうが身のためよ。
見えないのなら――滅びなさい」

きらりとルキの瞳が金色に輝く。

「たとえ混沌の力を宿そうと――人間ごときに・・・!」

「・・・・・・時代の歯車はすでに回り始めている。楔は解き放たれ、進化が始まる。
それを納得できないのなら淘汰されるだけよ。生きようとする力こそ、すべて。
滅びの理由すら忘れてしまったあなたたちにせっかく道を示してあげてるって言うのにね・・・気付いているのはごくわずか。
・・・・・・・・・残念ね。『リナ=インバース』に触れたあなたなら少しはわかっていると思っていたのに・・・
これならゼロスのほうがよっぽど可能性があるわ」

ルキはかぶりを振る。
をひ・・・言ってる内容がすごいんだけど・・・・・・

「退かないと言うのならばそれもまたあなたの選んだ運命。
まったく、道はひとつじゃないっていうのにね。誰も気付かない。
あたしはあれだけ言っていたのに、昔から、ずっと。滅びしか見えないあなたには未来はないわ。
――なら、あたしがじきじきに眠らせてあげる。混沌で、穏やかに眠りなさい」

「貴様、何を言って・・・!?」

「・・・愚か。あたしを含め『賢者』などどこにも居はしないけれど。
自分で言うのならばそれは愚者。他人に称されるのは勝手。
・・・あなたは・・・前者ね」

光の塔がまばゆく輝きだす。

「砕け、氷帝」

「・・・!?」

――ごぅぉぉぉぉおん!

青白い光が炸裂する。先ほどとは比べ物にならないパワー!
轟音に覇王《ダイナスト》の叫びがかき消され、こちらには鼓膜を破るかのようなすさまじい音が響く。
うあ・・・耳がキンキンする・・・

「降・・・・・・たれ、・・・・・・トの・・・・・・・・・けるた・・・・・・い!」

ルキが叫ぶが、声は鼓膜がしびれていてよく聞こえない。
最後に光がばらばらにほどけ、それらが塔を作り出したときの帯へと戻って覇王《ダイナスト》に直撃する。
しかも、今度は轟音ではなく。
静か。あまりにも静か。あらゆる音を消して、光は覇王《ダイナスト》と共に消滅した。











あとがき

エ:第五部八話、書き終わりましたっ!次で終了予定ですっ!
  セフィロトの木のうち、『王冠』は言わずもがな。ほかに、『栄光』、『美』、『剛毅(永遠)』、『王国』はすでに決定してます。

L:・・・・・・リリスが出てきた時点で即決定したもんね。
  テスト期間中のくせにゼルガディスが主役の外伝長編打ち込んでたわよね・・・

エ:う゛。それは言わない約束・・・

L:まあ、どうせアップするし。
  それが終わったらクロスに戻るわけだけど・・・
  会話内容を再現しようとして根性尽きたのよね。あんた。

エ:あうっ・・・そうなんです。続き書くにしてもかなり大雑把になる事が予想されますです・・・はい。

L:とりあえず言う事はこれだけね。それじゃあ、これであとがきを終わります☆

         ・ああっ!?前回の表記が六話になってる・・・(今気付いた)皆様ごめんなさい。


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30053番外 蛇の誘惑 第一話エーナ 2004/5/22 00:40:01
記事番号30002へのコメント




「――結局徹夜してしまったな」

古びた本の表紙をぱたりと閉じると、埃っぽい匂いが鼻へと届く。
この感覚も幾度となく体験した。
ひどい時はひとつの館に数百冊とある蔵書を寝る間も惜しんで読みふけった事も。

「これのも俺の望むものは書かれてはいなかったか・・・・・・」

彼は嘆息する。同じ事柄でどれだけため息をついただろうか。
肉体をこうまで酷使しても取り戻したいものがある。
取り戻したものを持って、彼女のもとへ誇りを持って、いつか。

「・・・アメリア・・・」

彼はポツリとその名をつぶやく。
閉じた本の表紙には、かろうじて『合成生物《キメラ》についての研究』とかかれているのが読み取れた。







            蛇の誘惑   第一話







陽は傾き始め、森は夜の暗さに包まれようとしていた。
そこに、ひとつの白い人影があった。

「・・・今夜はここで野宿だな」

最近独り言が多い。
孤独を吹き払うかの呪文のように、彼はそれを考えつつも止めようとはしない。
昔は静かだった。静か過ぎた。
そう、2年と半年ほど前だろうか、やたらとやかましい旅の連れ達が出来たことがあった。
その中の一人『彼女』は一番騒がしかった。
炎のように輝く瞳。勝気な雰囲気。どんな時でも可能性を信じるあの心。
・・・・・・時折、彼女が望めばすべての望みがかなうのではないかと錯覚した事もあった。
しかし、彼女は人間で、できない事もある。それは理解していた。
そして『彼女』の傍らにはあの剣士がいた。
『彼』は『彼女』に絶対的な信頼を置き、彼女ができる事とできない事を知っていた。
その点、『彼』は自分よりも観察力がずば抜けていたという事だろう。
そして、最後の一人は・・・・・・

「・・・・・・・・・ん?」

考えにふけっていた自分の動きが、一瞬止まる。
適当なところに荷物を下ろそうとして、耳にあるものが引っかかった。

・・・きゃは・・・きゃはははは・・・

「笑い声・・・?」

それは確かに笑い声だった。
少女のような、大人の女性のような。
どちらとしても女のものであるのは間違いがなかった。
・・・こんな時間に、この森で?獣も出るというのに・・・
本来ならば『関係ない』とでも言って関わらない。
だが。何かが引っかかる。
第六感が告げるのだ。行け、行け!早く!
しかしそう急かすくせに危険な感覚はしなかった。
まるで、乾きゆく大地に水を与えるような・・・・・・
まるで、駄々をこねる子供に、母親が望むお菓子を買い与えるような・・・
・・・・・・いや、比喩で言っても仕方がない。
叶う気がしたのだ。自分の、願いが。
根拠などない。元々第六感が告げたことでもある。
行こう。行かなければならない。
いつの間にかそう決心している自分を、過去の自分は愚かだというだろう。
また、今の自分が過去の自分を愚かだというだろう。
その価値観の違いを確かめるように、走る。








木の影に隠れ、向こうの様子を伺う。

「きゃははは!ぅりゃ〜っ!きゃはは、あははははははは!」

ばしゃばしゃと水しぶきが飛び散り、黒い服と髪がくるくる回るたびに風に揺れる。
黒い服に、収まり悪い黒髪のショートカット。
ときおり、虹色に光を反射する透明な薄羽が二対。
少女が水面でステップを踏むたびに、映りこんだ白い満月がゆれた。
実体のない小さな光たちと、黒い少女は踊っていた。
・・・ただし、掌サイズの。

・・・ぱき。

「・・・!」

黒い小さな少女が振り返る。
しまった!・・・足元の枝を踏んでしまったか・・・・・・
フェアリー・ソウルが踊る中、彼女は水面に立っている足を離し、宙に浮いた。
ひらひらと虹色に輝く羽をはためかせ、迷いもなくこちらに向かってくる。

「・・・どなたですかぁ?」

間延びした声が、樹の向こうから聞こえた。

「おかしーですねー。人間やエルフ、ドラゴンなんかには見えないよーに五感干渉結界をはったんですけどぉ・・・
・・・動物は近づいてこないはずですしぃ、魔族や神族でもなさそうですしぃ・・・」

最後のほうはいかにも泣きそうな声でぼそぼそと少女はしゃべっていた。
なんか・・・いやな予感が・・・・・・

「ふぇっ・・・」

・・・え゛?

「ふえええええええん!あの方目ざといですからきっとばれちゃいますぅ!
あうううううう・・・L様のお仕置きってぇ、すっごくきついんですぅ!」

お、俺が泣かせたのか!?
いきなり泣き出した小さな少女に、俺は当惑する。
彼女が人間ではない事はあきらかだ。
『L』というのが誰だかはわからないが、それなりに力のある存在なのだろう。
それに、この少女の言う事が本当なら、少し哀れである。
出るべきか、出ざるべきか。俺は少し悩んでいた。
だが。
少女の次の言葉を聞いて俺のその思いは吹っ飛んだ。

「こうなれば、昔のしきたりに従うだけですぅ!
・・・そのままの位置にいてくださってけっこうですから、お話、聞いていただけますかぁ?」

「・・・?」

いぶかしげる俺だが、微動だにせず妖精の言葉に耳を傾ける。

「あのですねえ、昔から妖精は人間の前には姿を現さないように努力してきたんですぅ。
でも、今回みたいにごくまれに見つかっちゃう事があるんですぅ。
そのときのためのお約束があるんですぅ。
そーそー、あなたにとっても悪い話じゃあないですよぉ?
妖精がちょっとしたお願い事をしますぅ。
そしてそのお願いを人間さんが叶えて、妖精が今度は人間さんのお願いをかなえるんですぅ。
お互いに一つづつ。妖精は人間さんのお願いを何でもかなえちゃいますぅ。
そのお願いをかなえたときには、人間さんから妖精の記憶は消えますけどぉ、悪い話じゃないでしょう?」

何、でも・・・だと!?
一瞬、俺の鼓動が大きく脈打つ。
すぐさまYESと答えたいところだったが、長年培ってきた警戒心がそれを許さなかった。
だが、これが本当だとしたら。
言葉を声に乗せる。できるだけ落ち着いているように見せたかったが、怪しいものだ。

「・・・たとえおまえが俺の願いを叶える力を持っていたとしても、だ。
何故おまえは自分たちの願いを自分たちでなさない?」

「・・・うーん・・・これを言っちゃいますとお、人間さんたちに不信感を煽らせちゃうんであんまり言いたくないんですがぁ・・・
実を言いますと・・・
・・・この交換条件を出すのは、かなえたい願いがあって、それが人間さんにかなえられるようなときだけなんですぅ。
それ以外の場合は――相手を殺しちゃいますぅ」

今向こうはどんな表情をしているのだろうか?
先ほどのフェアリー・ソウルを撒き散らして遊んでいた少女のものと同じ声で、同じ少女のものとは思えない言葉が飛び出した。
背中の辺りがちりちりする。よくわからない。・・・迷っている?
と、いうより――本能と理性がぶつかり合っているといったほうが正しいのか?
本能は「従え」といい、理性は「戦え」と言っている。
その考えを知ってか知らずか、妖精は先を続けた。

「最初に言ったとおり、妖精は人間の目に付くのを――その存在を知られるのを極端に嫌いますぅ。
そのため、色々な場所を・・・もしくはものを探す事は難しいんですう。
ですが、人間さんならいろんなところを歩き回りますしぃ、色々みつけやすいんですぅ」

「・・・もしそれが人には見つけられない場所にあるのなら?」

「それなら逆に好都合ですぅ。仲間うちで見つけられますからぁ、わざわざ人間さんに頼む必要はありません。
もし仲間うちでも見つけられないのならぁ、あきらめるしかありませんけど」

・・・筋は通っている。ここはひとつ、わらにすがる思いでやってみるか?

「・・・合成獣《キメラ》を元に戻す事はできるか?」

「ええっとぉ、一個を純粋な姿で取り出すことはできますぅ。
ですけどぉ、全てをそのままの姿でって言うのならぁ、私の知っている限りでそれができるのはL様くらいですぅ」

「十分だ」

簡潔に、短く。だがきっぱりと。俺は言い切る。
必要以上に期待してはならない。裏切られた時に絶望が大きくなるから。
それでも・・・思いは膨らむ。

俺は月の光の下に身をさらし、是、と答えた。














あとがき

エ:やってしまった番外編!今度の主役はゼルガディス!
  ・・・・・・ごめんなさい皆様、ゼルガディス以外原作キャラ出る予定ないです。
  あ、でも最後のほうに出るかも。

L:・・・・・・要するに・・・あたしの出番もなしってわけ?

エ:はい、そうです。・・・・・・いつもどつかれるので、思い切って開き直ってみました。

L:くぅっ・・・やるわねエセ物書き。突っ込みどころが多すぎてどつけないわ・・・
  それにあんたには聞きたい事があるし・・・

エ:なんですか?

L:このお話って第五部にてわずか数分で組み立てられたお話なのよね。

エ:L様、それは違います!
  わずか数分ではなく、わずか数十秒です!

L:ありがとう。明確などつきどころができたわv

ごりゅしっ!

エ:さっき・・・どつけないとか・・・言ってたじゃないですか・・・・・・がふっ。

L:ふ。そんな昔のことなんか覚えてないわね。
  それでは皆様、またお会いしましょう!



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30054番外 蛇の誘惑 第二話エーナ 2004/5/22 00:41:16
記事番号30053へのコメント




            蛇の誘惑   第二話






「――了解しましたぁ。あなたのお願いは、人間の姿に戻る事ですねぇ?」

・・・言ってしまった。
本当にこれでよかったのだろうか?
だが、俺は、どんな可能性にもすがりたい。
一刻も、早く。元の姿へ・・・!

「んーと。それで、先ほど言った『お願い』の事なんですがぁ・・・」

心臓がひとつ、大きく鳴った。
全身が緊張する。一体どんな条件を出してくるのか・・・?

「あのですねぇ、『ラミア』を探してほしいんですぅ」

「・・・『ラミア』?」

・・・女性の名前か?何かと思ったら人探し・・・?

「わけあってぇ、どんな姿をしているかはお教えできないんですぅ。
大雑把な場所は分かってるんですけどぉ、それ以外の情報がないんですぅ」

「それはいいとして、俺にどうやって探せと?
・・・そいつの目印のようなものがあれば別だがな」

「そぉですねぇ・・・」

むーん、と、数秒考え込む妖精。
数度しぐさを変え、少女はぽんと手を打った。なんとも古典的な表現方法だ。
ぱたり、そう音をたてて羽が一度羽ばたく。(それまで一度も羽を羽ばたかせていなかった)
ふわりとフェアリー・ソウルが宙に舞い・・・それが水をすくう時のようにかかげられた掌の上に集まっていく。
それは次第に無色の光から青みを帯びて、ついには形も伴っていった。
約一センチほどの、玉。
ガラスでもなく、サファイアでもなく、樹脂でもない。
不思議な光沢を持つそれは、フェアリー・ソウルだった時の名残のように、内側から淡い光を放ち続けていた。
さらにそれを左手で抱え、右手の人差し指で、妖精は虚空に光の線を描き出す。
ただ、こちらはすぐさま光が消えてごくごく普通の皮の紐になったが。
眉をひそめる俺の目の前で、妖精は玉にあいた穴に紐を通し、両端をしっかりと結んだ。

「これはぁ、一種のレーダーになってますぅ。
ここから『ラミア』が北にいるのなら青く、南なら赤く、西なら黒く、東なら白くなりますぅ。
ものすごーく近くなら金色になりますぅ。
近づくたびに光が強くなりますけどぉ、昼間は見えませんから覚えておいてくださいねぇ」

「・・・わかった」

皮ひもを通しただけの単純なブレスレットを受け取り、俺はうなづく。

「見つかったらぁ、私がすぐさまかけつけますぅ。よろしくおねがいしますねぇ」

そのままふわりと風が舞い、妖精の姿は掻き消えた。










今、俺は日が沈んだ街道を歩いている。
いざこざを避けるために夜は野宿ですごし、昼に町を抜ける。
宿に泊まることができればもっといいが、金次第で口の堅さが変わる宿と言うものはある程度以上に大きな街にしかない。
そもそもその口の堅さの基準というのはその宿の主人それぞれだ。
下手な場所に行けば料金が通常の30倍、などということもある。
それならば必要時以外町で泊まらなければいいのだ。

「――ふう・・・」

ため息が出る。仕方のないことだ。
沿岸諸国の南岸西端のあたりから出発して、そこから北の町をしらみつぶしに探したが、『ラミア』はいまだ見つからない。
玉の光は徐々に強くなっているが、いまだ色は青のまま。
・・・14。いや、15か。それだけの数の街を回った。
あの妖精の話を統合して考えてみると、『ラミア』とやらが見つからないのは街や村の中に住んでいるからだろう。
そのため妖精からは干渉ができず、見つけることが難しい。
もうすぐ、ラルティーグを抜けてディルスに入る。
この先にある大きな街と言えば・・・サイラーグか。
冥王《ヘルマスター》との決戦の地。金色の魔王が降臨した街。
そういえば、あいつらは今頃なにをしているのだろうか。
今は夜だから、あの二人はいつものごとく盗賊いぢめでも――
そんな考えが頭をよぎった時。
空気が一瞬にして変わる。

――びぐんっ!

世界が。

「何・・・!?」

震えた。











あとがき

エ:み、短いっ・・・!

L:これくらいのほうが読みやすいと思うけど。ネットでは。

エ:はぉうっ!?まともなつっこみっ!!(ダメージ20。残りHP80)

L:無駄に長いのよね、あんたの文って。いらないところとか省くとかしたら?

エ:ううっ・・・それができたら苦労しませんよう・・・(ダメージ10。残りHP70)

L:・・・必要なところは書けないくせに。

エ:がぐふっ!!?(ダメージ50。残りHP20)

L:第二話のくせに、本編中に出てきた名前は実際には登場していないアメリアのみ!
  ゼルガディスが主役なのにゼの字すら出てこない始末っ!!

エ:ごぶぅっ!!!(ダメージ1000。HP‐980)

L:ゾンビ発見。ファ○ナルファンタ○ーシリーズじゃレイズで一発なのよね。
  9だと出てくるころにはちゃんとアビリティ習得してるから一発。
  アビリティのアンデットキラーも便利よねー。
  ドラゴンゾンビもドラゴンとか言ってるくせにレイズで一発なんて弱すぎると思うけど。
  そうそう。パーティーは四人が便利よね。
  10のバトル中のメンバー入れ替え機能もけっこう便利だけど、四人だとバランスが取れてていーわね。
  ・・・そういえばエセ物書きの父親、いい年こいて娘よりはまってたのよね。気付けばプレイ時間は400超過。
  エセ物書きでさえ40時間でクリアするのに・・・極めて極めてできなかったのがちょうちょ探しと雷避け?
  全てを越えしものもオメガウェポンも張り倒しといてATBが苦手ってどういうことかしら。
  予約自分でしておきながら10−2は手も触れてないし。
  うーん。世界には不思議が満ちてるわ。
  まあ、ゲームの話はさておき。
  エセ物書きも動かなくなった事だし、これであとがきを終わりますv


     ――幕――


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30055番外 蛇の誘惑 第三話エーナ 2004/5/22 00:42:23
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            蛇の誘惑・夢魔の誘い   第三話






背筋を走る悪寒に、俺はすぐさまその場から跳躍した。
赤い炎を撒き散らし、先ほどまで俺がいた空間を貫く矢たち。
・・・炎の矢《フレア・アロー》!?
驚愕する次の瞬間、肌に触れてきたのは――

「これは・・・瘴気!魔族か!?」

剣を抜き放ち、神経を研ぎ澄ます。
イメージとして瘴気を垂れ流す『点』・・・亜魔族の位置を確認する。
1,2,3・・・5匹。
・・・どういうことだ?先ほどまでは何もいなかったはず・・・!
こんな風に自然に発生するわけがない!
何かが、起こっている。確実に。

「・・・まさかあいつら・・・」

その先は言わなかった。言わなくても別にかまわない。言っても同じ事だが。
・・・あの二人のことだ。世界を巻き込むような大きな事件にでも遭遇しているに違いない。
そしてその影響がここまで及んでいる。

「・・・魔皇霊斬《アストラル・ヴァイン》」

呪文の発動と共に白銀の刃が赤い光をまとう。
これで、亜魔族に与えるダメージが少なくても精神世界側《アストラル・サイド》に追い払えるはずだ。
深い草を掻き分け、不用意に顔を出した魔族を一閃。
巨体が倒れ、黒い塵となって風に巻かれて消える。残りは4。
それを最後まで見届けるような愚は犯さない。
すぐさまそこから飛びのいて、そこに突き刺さった氷の矢《フリーズ・アロー》が飛来した先に照準を定め、呪文を発動!

「黒妖陣《ブラスト・アッシュ》!」

――ぎゃるぉおっ!?

断末魔の叫びと共に、漆黒に染まった空間がデーモンを二体まとめて消し去る。
残りは、2!
まとめて足を止めるか・・・

「永遠《とわ》を過ぎ行き行きかう・・・風・・・・・・よ・・・?」

違和感を感じ、呪文が止まる。

――・・・ィィィィイイ・・・・・・・・・

・・・音?
なんだ、これは・・・
躊躇している場合ではない。俺は続けて呪文を詠唱する。

「・・・優しき流れ、たゆたう水よ・・・」

――・・・ィィィイイインッ!!

音がさらに大きくなる。
なっているのは――妖精からもらった、宝玉。
温度が下がる。夜気よりもさらにつめたい、冬のような空気。
冷たく、清涼。何者をも進入させないような『壁』が俺の周囲に出来上がる。
・・・ちょっと待て。今俺が詠唱しているのは氷窟蔦《ヴァン・レイル》だ。
その程度のレベルの魔法で呪力結界!?

「すべてのものに、白い息吹を・・・!氷窟蔦《ヴァン・レイル》!」

俺の内心の疑問をよそに、呪文は完成する。

――っぎん!

地面に手をつき、そこから氷の蔦が四方八方に・・・って、なんだこれは!?
四方八方どころか、空中にも氷の蔦が届くだと!?
あらゆるものが凍りつき、全てが純白の世界へと変貌する。
俺の周囲、およそ1メートル四方のみが全く影響を受けていない。
これではおそらくデーモンも氷付けになっている事だろう。

「・・・この宝玉のせいか・・・?」

ポツリとつぶやく。
まさか、賢者の石だとでも・・・いや、さっきの黒妖陣《ブラスト・アッシュ》には全く反応しなかった。
魔皇霊斬《アストラル・ヴァイン》には反応しているのかいないのかはいまいちわからない。
持続時間が延びるような効果があるかもしれない。
しかし、今の氷窟蔦《ヴァン・レイル》には思い切り反応していた。

「・・・すべての心の源よ。輝き燃える紅き炎よ・・・」

とりあえず、試してみる事にした。これが一番手っ取り早い。

「炎の矢《フレア・アロー》!」

――きゅごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごっ!!

・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・数が、多い。
放たれた矢の数は、通常のおよそ3倍。
そしてその数を喰らいつつ、その向こうにさらに白い壁。
範囲が広すぎだ!一体どうなってる!

「・・・無の具現たる深遠よ、漆黒の波動となりて・・・」

次に試すのは黒魔法。壊したい方向に掌を向け、呪文を詠唱する。

「・・・蒼き炎を・・・っだっ!?」

・・・・・・痛い。それもかなり。
呪文を詠唱しつつ、氷の蔦が絡まりあった壁に触れたのだが・・・
冷たいを通り越して、痛かったのだ。
・・・・・・これはかなり温度が低い。もしかすると、液体窒素(約−200℃)のレベルかもしれん。
・・・・・・・・・リナがいたら笑われていたな・・・・・・これでは『お茶目』といわれても言い返せない。
自分からお茶目街道を驀進してどうする!
それにしても・・・さすがに一瞬ふれただけだったのでひどい凍傷にはなっていないとは思うが、どうやってここから抜ける?
やはりちまちま炎系の呪文で壁を崩すしかないのか?
俺は嘆息して黒魔波動《ブラスト・ウェイブ》の呪文をあきらめ、炎の槍《フレア・ランス》に切り替えた。


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30056番外 蛇の誘惑 第四話エーナ 2004/5/22 00:43:21
記事番号30053へのコメント


「・・・ふむ」

指先の感触を確かめて俺はつぶやいた。
氷窟蔦《ヴァン・レイル》によって氷付けとなった街道を炎の槍《フレア・ランス》の連打で抜け、今は脇の岩の上に腰を落としたところである。
指先の凍傷はすでに魔法で治療した。
あれからいくつかの魔法を試してみたが、どうやら宝玉が反応するのは精霊魔法と白魔法だけのようだ。
剣を確認してみたところ、いまだに魔皇霊斬《アストラル・ヴァイン》の魔法がかかっている。
やはり持続時間が延長されていたようだ。
しかし――この宝玉は一体なんなのだ?
精霊の力を借りて行使する魔法のみに反応し、それ以外には無反応。
そして精霊魔法と白魔法を行使すると、問答無用で威力や継続時間が数倍にまで増す。
魔力が増す、というのではない。魔法の発動にあたって精霊に干渉する力が跳ね上がるようだ。
どうやらこの宝玉が精霊をひきつけているらしい。
手首からはずして離れた場所におき、それから魔法を発動してみたりもしたが・・・二十メートル以上離れてようやく反応しなくなった。
精霊魔法と白魔法に無差別・問答無用で反応するのなら危険極まりない。
俺の周囲20メートルでは白魔法と精霊魔法の効果が大きくなりすぎる。
いざこざに巻き込まれなどしたら被害拡大間違いなしだ。
いらん機能までつけやがって・・・はた迷惑だ。
・・・いや、こんなことを言っては魔法の威力を増大させる研究をしている者に失礼か。
・・・・・・。今一度この宝玉ができた時の事を思い出してみよう。
あの妖精・・・そういえば名前も聞かなかったな・・・
・・・あの黒い妖精がフェアリー・ソウルを掌に集め、その光の色が青くなったかと思えば、次の瞬間には宝玉となっていた。
・・・・・・ん?フェアリー・ソウル・・・?
目にするのは珍しくなかったから今まで気にも留めなかったが、フェアリー・ソウルといえば研究者の間では謎になっていたな。
フェアリー・ソウルが何故このような形態をとるのか。そもそも『ラミア』とはなんなのか。
・・・・・・・・・謎が多すぎる。
今わかっているのは、『ラミア』がここより北にあるということのみ。
最後にはあの妖精についての記憶も消されるというのだから探っても仕方のないことなのかもしれないが、気に入らない。
あの妖精の事も。この宝玉の事も。『ラミア』の事も。記憶を消されるという事も。それを事前に知らされているという事も。
しかし、それでも。
すがるしかないのだ。俺は、これに。

「・・・ふう」

考えをそこで切り捨て、俺は再び腰を上げた。
東の空は紺から空色へと変わりつつある。
白い光がゆっくりと木々の影を作り出す。
次の町に着くのは昼前くらいだろう。
俺は道を歩き出した。








            蛇の誘惑   第四話








「・・・・・・・・・・・・・・・。」

暑い。もとい、熱い。

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

なんなんだこの気温は。確実に30℃を越えているぞ。
熱い。
まだ午前10時。町はもうすぐそこに見えている。
熱い。熱い。
やたらと静かだが、それより俺は早くどこかの食堂にでも入って涼みたい。
熱い。熱い。熱い。
・・・直射日光が・・・・・・
熱い。熱い。熱い。熱い。
いくら冷気の呪文を唱えようが、直射日光だけはどうしようもないのだ。
その上俺のこの岩の肌。熱しやすく冷めやすい。真夏と真冬は最悪なのだ。
熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。
夏場は火傷をする可能性があるから、白い服なのだが・・・
熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

熱い。熱い。熱い。熱い。・・・あっっつい・・・・・・
――熱いぞこらっ!!
どうなってるんだこの気温!
リナじゃなくても氷の矢《フリーズ・アロー》を乱射したくなるというものだ。

「・・・浄結水《アクア・クリエイト》」

――ばしゃっ!

とりあえずこれで我慢しようと水をかぶった。
オーバーヒートしかけていた頭が冷え、少し体感温度がましになる。
向こうの町で何か冷たいものでも・・・

「・・・!?」

感じなれたこの気配。
俺はぞくりと背筋に悪寒を覚え、町に向かって走り出す。

「・・・・・・うあ」

俺は思わずうめいた。
それは仕方なかろう。
このくそ熱いのに、火事。
デーモンもかさわさといる。ついでとばかりに羽が生えていたのもいたが。

「ふ・・・ふっふっふっふっふっふっふ・・・・・・」

ぷつん、と。熱さでどこかが切れる音がした気がする。
燃え上がる家屋。踊る熱気。飛ぶ炎の矢《フレア・アロー》。

「・・・まとめて氷付けにしてやる」

さぞかし今の俺はイッタ目をしていることだろうと、場違いに冷静な部分が考えていたりした。

「氷魔轟《ヴァイス・フリーズ》っ!」

――ぎぃんっ!

問答無用の氷系最大の精霊・・・魔法・・・・・・って、しまったぁぁぁぁっ!
精霊魔法は効果が上がるんだった!
後悔しても遅い。というか後で悔やむからこそ後悔・・・じゃなくて!
・・・いかん。熱さで頭がやられていたためか、行動がやばくなり気味だ。
そんな事を思いつつも通常より数倍の範囲に氷の侵食は広がっていく。
向こうは火事、手前は町の氷付け+デーモンのシャーベット、なーんだ。
・・・・・・・・・あほかぁぁぁぁぁぁぁっ!!何をやってるんだ、俺はっ!!
ええいっ!それもこれも皆デーモンのせいだ!(←責任転嫁だがあながち間違いでもない)
今の呪文に気付き、飛来するデーモンに狙いを定めて呪文を唱え始め・・・・・・

「――ぉぉおおおおっ!!」

壁を足場にし、駆け上がる影がデーモンを一刀両断する!
もちろん俺ではない。・・・一体、誰だ?











あとがき

エ:うちこみうちこみ〜。てすときかんちゅう〜。ただいましゅっけつだいさーびすちゅう〜♪

L:ただいましゅっけつだいさーびすしなさいちゅう〜v

めげっ!

エ:ごふっ!?・・・いや・・・蹴り入れるのはちょっと・・・・・・・・・

L:ほらほら出血出血。

エ:意味が違うぅぅぅぅぅっ!!

めし。どご。ごりゅ。

L:それでは皆様、テスト中のくせに打ち込んでたあほうのエーナに代わってあとがきを終わりますv


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30079番外 蛇の誘惑 第五話エーナ 2004/5/26 20:44:18
記事番号30053へのコメント


「――ぉぉおおおおっ!」

宙を舞い、羽を持つデーモンを両断する赤い影。






            蛇の誘惑・夢魔の誘い   第五話






飛ぶデーモンを両断した影は・・・・・・
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・着地し、足元の氷に滑って転んでいた。すまん。名も知らぬ剣士よ。3秒くらいはたぶん忘れない。
・・・はっ!?いかん、リナの色に染まってきたっ!?
スレイキャラ唯一の常識人だったのにっ・・・!
落ち着け、俺。俺はニヒルなんだ。お茶目なんかじゃ絶対無い。
うん。そーだ。そのとーりなんだ。

「・・・いってぇ・・・」

朱色の重甲冑《へヴィ・アーマー》を着込んだ20前後の男が後頭部をさすりつつ起き上がる。

「おまえかっ!?着地場所氷付けにしたのはごっ!?」

――ずる、ごす!

・・・・・・俺を指差し、抗議の声を上げたところでまた転んでいる。

「・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫か?」

これで頭蓋骨陥没でも起こされたら寝覚めが悪いので、とりあえず近寄って声をかけてみる。
脳震盪くらいは起こしそうなものだが、そいつはゆっくりと上半身だけを起こした。

「あ゛―。何とか。お前手加減ってものを知れよな。死んだらどうするんだおまえ」

短い赤毛に朱色の鎧。全身赤ずくめである。
しかし、毒々しいというよりはどちらかというと炎のイメージを髣髴とさせる。
あまりにも端正な顔立ちと赤みがかったブラウンの瞳。
黙って静かにしていれば人間離れした美貌・・・といえるのだが、軽薄な雰囲気や口調がそれをぶち壊している。
鎧をはずせば町の軟派な兄ちゃんで通るくらいである。

「む、すまん」

「・・・いやあのだな・・・そんな一言で切り捨てられるとどうも・・・・・・」

がしゃん、とそいつのアーマーが打ち鳴る。
それにしても、こいつこの装備で壁を足場にして飛んだのか・・・?
メットこそつけていないものの、上半身は重たげな防具。足にはすねあて。
その上剣は両手持ちの大剣。
・・・これであそこまで身軽に動けるのならば、着地して滑ったところを差し引いても一流の剣士で通る。

「・・・ん?ああ、こいつか?これは俺の愛剣・・・トゥヴァイハンダーの『剛毅《ネツァク》』だ」

俺が落ちていた大剣を見ていたためか、赤毛のそいつはそういった。

――がすっ!

「ごっ!?」

赤毛のそいつに四角く長細い何かがクリーンヒットする。
音からしてかなり硬そうである。
角度から見て・・・屋根の上!?

「――ベルゼバブ。のんびり談話している場合ではないだろう」

俺がそちらを仰ぎ見ると、若葉色の神官服に、深緑色の髪を首筋の辺りで束ねたなんとも不思議な色彩の男が立っていた。

「うっせぇなベリアル!鉄扇投げつけるのは止めろって言ってるだろーが!」

直撃した側頭部をさすりながら、赤い男――ベルゼバブというらしい――が現れたベリアルという男に悪態をつく。

「・・・君が緊張感というものを持ってくれたら少しは考えるが。
それに鉄扇ではない。天罡劈水扇《てんこうへきすいせん》だ」

呆れたようなまなざしで、表情に乏しい声音でそいつは言った。

「へーへー。テンコウスイヘキセンの栄光《ホド》ちゃんだろ」

「『ちゃん』をつけるな。無礼な」

「うっせぇ!大体てめえ根暗な顔して俺よりもてやがって・・・」

「それは君の性格に原因があると私は思うが。
大体君は初対面の女性に限りない言葉を並べてナンパなど・・・」

「・・・・・・あのだな」

二人の間で応酬される言葉の雨あられ。
俺はここでようやく口を挟む。

「うるせえ!今取り込み中・・・」

「こっちは・・・・・・・・・いいのか?」

俺がジト目で指差した先は。
デーモンが約1ダース。

『あ。』

どうやら二人ともどこかぬけているようだ。










あとがき

エ:またみじかいっ!?

L?:下手に別サイドとか書けないから苦労が・・・・・・

エ:ぅひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?こんな発言L様じゃないっ!!

L?:あれぇ?どうして私の表示がLになってるんですぅ?

エ:その口調はまさか・・・リリスちゃんっ!?

リ:そうですぅ。ちなみにぃ、私の名前のつづりはLILITHですぅ。
  せっかくですからぁ、ミカエル君たちのつづりを教えちゃいましょぉ。

ミカエル  ― MICHAEL
ベルゼバブ ― BEELZEBUB
ベリアル  ― BELIAL
アシュタロス― ASTAROTH

  ・・・以上ですぅ。ネットで調べましたからぁ、合ってると思いますよぉ。

エ:それでは、またお会いしましょう!


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30084Re:番外 蛇の誘惑 第五話エーナ 2004/5/27 21:33:39
記事番号30079へのコメント

ああっ!?見直してみたら表示がおかしいっ!
天罡劈水扇・・・の、『コウ』と『ヘキ』の部分。

四       辟
正 (コウ)  刀 (ヘキ)

・・・ええっと・・・この表示が一番近いです。
ううっ・・・失敗した・・・・・・

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30088Re:番外 蛇の誘惑 第五話エーナ 2004/5/28 22:21:00
記事番号30084へのコメント


・・・ごめんなさい。

 四
天正劈水扇の読みはテンコウスイヘキセンではなく、テンコウヘキスイセンでした。

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30068第五部 The Snowing city 〜雪降る都に〜 エピローグエーナ 2004/5/23 18:16:10
記事番号30002へのコメント


        第五部  The Snowing city 〜雪降る都に〜 エピローグ




「・・・あたし、そろそろ行くわ」

荷物をナップザックに詰め、ルキは雪降る外への扉を開けて言った。

「そう。年末には帰って来るんでしょ?」

冷たい外気が金の髪を煽る。

「まあね。年末年始は母さんたちと過ごしたいもの。
ああ、そうそう」

「どうかした?」

「グロードのことなんだけど――」

「大丈夫よ。結界区域の外じゃ魔族は手を出せないし、ここには姉ちゃんもあたしも、ガウリイもいるし。
神族についても協定があるしね」

「それも、そうね」

自分でやった事なのに、忘れてたわ。
そういって、ルキは外へ一歩足を踏み出した。









あとがき

第五部、ようやく完結しました。
まだ終わっていない第四部、番外が二つ。これらが終わったらこのシリーズはそれで一応終了という事になりそうです。
ネタがあればまた書くかもしてませんが、番外・外伝などといった形になると思います。
それでは、またお会いできる日を願って。

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30126CARRIED SCOPE〜万華鏡〜 二章 第一話エーナ 2004/6/2 18:58:51
記事番号30002へのコメント


「・・・おやまあ」

気付けば、そこは戦場になっていた。





CARRIED SCOPE〜万華鏡〜
               二章 第一話





ここはアトラス・シティの酒場。今ここで、ちょっとした抗争が起こっている。
ぎゃあぎゃあわあわあとうるさい店内。その中で落ち着いているのはあたしとルキの二人だけだった。

「・・・成る程。ナンパしてきた男にトレイで叩こうとして角に当たった、と。
で、よろめいた男が他の客にぶつかって、『ああ』なったわけね」

言って無関心にココアを飲むルキ。

「・・・正当防衛よ」

「まあ、とうぜんね」

ばつが悪そうに言うあたしに、ルキはさも当然と返してきた。
んむ。やっぱりルキは話が分かるっ!

「こいつら自業自得なんだからほうっておきましょ。止める義理もないし」

ココアをすすりつつのんびりと構えるルキ。
・・・いや・・・それはちょっと問題があるような気がするのだが・・・・・・

そのとき。
一陣の風が店の中に吹き込んできた。
波が退くかのように喧騒が収まり、低いざわめきにとってかわられる。

「・・・あら」

ルキは立ち上がり、戸口のほうに目をやった。あたしも釣られて視線をそちらに向け――眉をひそめる。
年のころは20前後、一言で言うなら死神っぽい姿の男が戸口に立っていた。
そしてその死神っぽい男は、その用紙にたがわないような気を・・・すなわち殺気をその身にまとっていた。

「・・・ボディーガードを探している。金の欲しいやつ、腕に覚えのあるヤツは名乗り出ろ。
スポンサーはミスター.タリム。悪い話ではない」

砂漠のような沈黙が支配するなか、あたしは数秒黙考し・・・言った。

「話を聞かせてもらいましょうか」

「あーっ、てめぇ、このっ・・・」

ぼろくそになったランツが抗議の声を上げようとすると、死神っぽいカッコの男が視線でそれを妨げる。

「ここでなにをしている・・・」

知り合いかよおい。友達は選んだほうがいーぞ。お互い。

「ロ・・・ロッドさん・・・いえ・・・その・・・タリムの旦那から使いをちょいと頼まれましてね・・・それで・・・・・・」

「用が終わったら戻れ」

言い放つと、それきり彼には目もくれずにあたしのところにやってくる。

「魔導士か・・・いい目だ。名は?」

「聞くほうから名乗るもんよ」

相手の名前を知りつつも、あたしはいけしゃあしゃあと言い放った。

「ロッドだ」

「リナよ」

「ほう・・・
おまえがあの、か。噂には聞いたことがある」

・・・どーせ悪い噂でしょうが。

「いいだろう。ついて来い」

彼は身を翻し、あたしたちはその後ろについていった。










「あなたといると、普通の人は長生きできそうにないわね・・・」

あの酒場を『話を聞く』といって抜け出し、何度か言葉のやり取りをしてルキは言った。

「それについてはお互い様よ。あたしよりあんたのほうがよっぽど無茶するじゃないの」

「あたしは実力がともなってるからいーの」

あたしの言葉にルキはさも平然と言い放つ。
・・・いや・・・そりゃ魔王を蹴倒すなんぞきっとルキ以外誰もやらんけど・・・

「あたしだって同じ――」

いいかけて、ぴくりと止まる。
・・・何?視線が・・・

「・・・・・・・・・・・・。」

ルキも眉根を寄せて視線をあちらこちらに回している。
どうやら彼女も気付いているようだ。

「・・・・・・裏道を行くぞ・・・・・・」

ロッドはぼそりといい、道を変えた。





犬がほえるじめついた道。
大きな通りから一本はずれるだけで町の様子は一変していた。
んーむ。ゼフィーリアはもっときれいなんだけどなあ・・・

「もういいだろう」

ロッドの足がぴたりと止まり、つられてあたしたちも立ち止まる。

「殺し屋さんたち、もうお遊びはやめにしようって言ってるわよ、この人」

あたしが声を大きく上げると、周囲の気配がざわりと動く。

「・・・こりゃ雑魚ね」

「あたしもそーおもう」

「・・・てめぇらっ・・・!」

うあ。あっさり挑発に乗ってきたわね。

「で、どうする?リナ」

「あたしパス。あんたもやめといたほうがいいわよ。
ずるずると依頼を受けることになるなんてごめんだし」

「そう。じゃ、お願いするわ。あたしたち傍観してるから」

ロッドに向かってルキはこともなげに言う。
雑魚は10人ほど。全員新兵に毛が生えた程度の実力だろう。
これではあたしやルキが単独で戦ったとしてもあっさり倒せる。
――ロッドも同じだろうが。

「・・・・・・まあよかろう」

一歩、踏み出す。
――速いっ!
数個の首が飛び、たたらを踏んだものたちの腹をかっさばく。
引き返そうとした男どもの前に。

――ざしゅっ!

そこには、ランツがいた。
そしてあっさりと先行した一人を切り伏せる。
へえ、けっこう強いんだこいつ。

「まあ、こんなもんね」

「あんた働いてねえだろうがっ!!」

「あら、か弱い娘二人に働かせるつもり?」

「そーそー」

ルキの言葉にあたしは同意し二度うなずく。

「男女平等参画社会っ!」

「レディー・ファーストって言葉を知らないのかしら?」

・・・・・・うわぁ。熾烈な戦い・・・・・・

「ド三流に用はないわね」

しれっとルキが言い放つ。

「このアマ・・・いいやがったな・・・!?」

げっ!?火花散らしちゃってるよおい!
・・・ランツ。ご愁傷様。魔王を蹴倒すようなやつに人間が普通勝てるはずがないのだ。
さすがにロッドが口を開こうとしたそのとき。

「天より降りよ。精霊の女王の名において。降れ、雷光《ライトニング・ヴォルト》っ!」

――ばりごしゃずがしゃぁぁぁああん!

ルキの言葉にわずか数秒でにわかに空がかきくもり、青白い閃光がジグザグに数本走る。
そのうちの一本がランツに、他は全て周囲の家屋の屋根に落ちた。
当然のことながら、ランツは黒こげ。ぽくぴくとその身体を弛緩させ、ばったりと倒れた。
つーか物理法則無視っ!?普通雷は高いところに落ちるものなんだけどっ!?
・・・・・・んーむ。ルキには謎がいっぱいだ。・・・・・・後で方法教えてもらおv

「ふっ。あたしに勝とうなんざ1千億年早い」

「あーあ・・・ルキと張り合うから・・・」

胸を張るルキに、あたしは嘆息した。
・・・あたしが知る中でも精霊魔法の応用において、彼女の右に出るものはいない。
惜しいかな黒魔法が扱えないのがネックだが・・・そこまでできちゃあたしの立場がない。
剣も超一流。魔導の知識を生かし、どうやら魔力増幅――といっても本人限定のものらしいが――ができる文様術。
本人に聞いてみたところ、剣に刻まれているのは混沌の言葉《カオス・ワーズ》の古語らしい。今の文体じゃできないとか。
くぅっ・・・『教えて』といったら『自分で調べて組み立てたら?』と何度言われたか・・・
魔導士協会の書庫には資料がないんだいっ!・・・なんせ2000年以上前のものだかんなぁ・・・・・・

「こっちの軟派君はいいけど・・・屋根の上に転がっているやつ、回収しなくていいの?」

「は?屋根の上?」

「・・・・・・何のためにわざわざあたしが広範囲指定攻撃呪文を使ったと思ってるのよ・・・・・・」

あたしがオウム返しに尋ねると、呆れた顔で、右手の屋根の上を指差すルキ。
・・・ちくしょう・・・なんかむかつく・・・・・・でも確かに屋根の上には焦げた物体が。

「・・・ほう」

それを見やり、ロッドはポツリと感嘆の一言を口から漏らした。