◆−ちょっと遠出をしてみませう。−鮎 (2004/6/19 19:16:17) No.30233 ┗後日談。−鮎 (2004/6/25 07:01:48) No.30288
30233 | ちょっと遠出をしてみませう。 | 鮎 | 2004/6/19 19:16:17 |
短編にしようとしたのに、何故か長くなり。 ほのぼのにしようとしたら、何故か微妙なシリアスになり。 そんな私は、鮎と申します。 お暇なら、見てくれると嬉しいです。 ############### ×月○日 今日は珍しく晴れ。 だから、ちょっと遠くまで、買出しに行こうと思います。 ジェグさんに乗って。 遠出をしたのは数えるほどだけど、多分大丈夫。うん。 兄さん、母様、行ってきます。 それを見たのは、本当に偶然だった。 世間で愕くほどの異名を囁かれている彼女、リナ・インバースは、とある村に泊まっていた。豊富な自然に囲まれた、骨休めにはうってつけの土地柄に、ついつい長居をしてしまっている。 それ以上に、この辺りでは、魔法薬の材料になる草花が豊富に生息しており、安価でかえるのだ。魔道士ならば、一度は訪れたい場所。 今日も、ここ数日ですっかり行きつけとなった、とある薬草店のカウンター脇に腰掛けて。 店の主人と他愛もない言葉を交わしながら、ふと窓の外を眺めた。 すると。 「・・・・?」 リナは、何か違和感を感じた。じっと窓に張り付くように一点を見つめる。 「どうかしたのかい?」 主人の声に、リナは簡潔に一言。 「何か落ちてきてるわよ」 「は?落ちて・・・・?」 同じく窓辺に駆け寄った彼は、空の端から、黒い影が森に向かって急降下しているのを見つけた。これも土地柄か、あの辺りはレッサーデーモンの住処。村人もあまり近寄らない。 「こりゃあ、どうしたもんだか・・・・」 言って、リナの方へと向き直り―― 「・・・・あれ?」 そこにはすでに、彼女の姿はなかった。 「ガウリイ!」 「・・・・ん?」 背後からの声に、彼はのんびりと振り向いた。見知った姿に、おーいと手を振り、 「なんだ、リナじゃないか。久しぶりだなぁ」 「あのねぇっ!村に入ってまだ4日ぐらいしか経ってないでしょうが!その程度で久しぶりなの、あんたの頭は!」 「いいか、リナ。俺の頭を甘く見ちゃあ困るぞ」 真面目な顔で言う彼に、リナは大きくため息をついた。 「・・・・ま、いいわ。ガウリイだし。それより、行くわよ!」 「えー。俺、まだこいつらの毛を刈り取らなきゃ」 片手に毛刈りの道具を携えて。周囲に集まってくる動物の群れを指しながら、彼は言った。 数日ですっかり動物達との絆が深まったらしい。小さい赤ん坊は、彼の傍に寄ってきて、寝息を立てている。 「・・・・いいからさっさと来る!」 その腕を問答無用に掴み取り、彼女は森に向かった。 背後で、叫び声を挙げて引きずられるガウリイの声を聞きながら。 森の中は、やはり薬草の類がそこかしこに生えていた。 しかし、他の場所と違い、それらは何かに荒らされたように、ぼろぼろのものが多い。 レッサーデーモンだろう、とリナは思い、墜落地点と思われる場所へ歩みを進める。 「リナ、こっちだ」 ガウリイの声に、彼の方に走って近づくと同時に、視界が開けた。 その一帯だけ、木々が倒れて、日差しが差し込んでいる。そして、これの原因だとおもわれる、大きな黒い鳥のようなものが、その場にうずくまっていた。 鳥のようなもの、というのは、こんなに大きな鳥を見たことがないからである。額にある第三の目も、鳥と断定するには、少々不自然だった。言うならば、怪鳥だろう。 「さあて、どうしようかしらね・・・・」 とにかく、近づこうと二人は足を進め―― 瞬間、怪鳥は高く一声鳴くと、こちらに三つの目を向けた。威嚇なのだろう。 「・・・・リナ。人がいるぞ」 唐突に、彼は呟いた。そのガウリイの指差すのは、怪鳥の背の上。よく見れば、足のようなものが背の上に乗っているのが見えた。 「あの人が乗ってきたのかしら」 「判らんが、放っておくわけにもいかないな」 「そうよねー・・・・」 人が乗ってきたという事は、こちらの意思も少しは伝わるかもしれない。思い立ったら即実行、とリナは声を張り上げた。 「ちょっとそこの鳥!あたしは危害を加えるつもりはないわ。それより、その人を助けたいのよ。怪我でもしてたら大変でしょ?」 無言で、両者は睨み合う。それに畳み掛けるようにリナは言った。 「絶対に無事で連れて来るから。待っててくれない?」 怪鳥は微かに首を自分の背へと向け、そして、その背をリナの方へと向けた。 すかさずガウリイが、その背の人を、回収する。 「何だ。まだ子供だぞ」 ガウリイの腕に抱えられたのは、リナよりも幼いと思われる、少女であった。 「でも、この子が怪鳥を操ってたのは間違いないわね」 言うと、その首に掛けられた飾りを指差す。 小さな鳥の形を模したそれから、高い魔力をリナは感じ取った。おそらくは、これを使って鳥に乗っていたのだろう。 「・・・・とにかく、早く村に戻ろうぜ」 「ええ、そうね」 じっと見つめる鳥の視線を受け止めながら、二人は村へと向かって走った。 墜落したにもかかわらず、少女はかすり傷程度の怪我しか負っていなかった。あの鳥が、この子を守ったのだろう。もしかしたら、怪鳥の方が怪我をしているかもしれない。 宿のベッドに少女を寝かして、リナは治療の道具をぱたん、と閉まった。 同時に、部屋の扉が開く。 「リナ。村の人が、その子にお見舞いだとさ」 ガウリイが花束と果物を抱えて入ってきて、それを部屋のテーブルに置く。 「ふぅん。この村の人って、親切よね」 ベッドの脇まで歩いてくると、ガウリイは少女の顔を覗き込む。 「で、どうなんだ?」 「全然たいした事ないわ。ショックで気絶してるだけよ」 すぐに目を覚ます、とリナは立ち上がり、果物を一つ手に取った。 「じゃあ、遠慮なくっ♪」 「おいおい。それはこの子のだぞ」 「いいじゃない。一つや二つや三つや・・・・」 「・・・・ん・・・・?」 小さくうめく様な声がした。 二人の見つめる前で、少女は静かに目を開く。 「・・・・ジャグさん?」 辺りを見回して、不思議そうに呟く。そのまま、リナと視線が合う。 「・・・・お姉さん達、誰?」 「俺はガウリイ。こいつは、リナだ」 「貴方が森に落ちたのを見て、助けに行ったのよ」 「森に・・・・落ちた?」 その言葉に、少女は勢い良く身を起こす。微かに顔をしかめるが、それを気にせずに立ち上がる。 「ちょっと、無理しない方がいいわよ」 「大丈夫です」 そう言うと、ぺこり、と頭を下げる。 「助けてくれてありがとう、リナさん、ガウリイさん。私、ジャグさんを探さないと」 「ジャグさん?」 「はい。大きな鳥の姿になってるんですけど・・・・」 その言葉に微かに眉を顰めながら、リナは答える。 「それなら、森の中よ。良かったら案内するけど?」 「ありがとうございますっ!」 心底感謝するように、少女は笑顔を見せた。それにリナは立ち上がると、ドアに向かって歩き出す。 その後ろ。少女の胸元で、一瞬だけ、飾りが光った。 少女は、レイティアと名乗った。 「皆には、ティアって呼ばれます」 がさがさと草を掻き分けて、ティアは言う。 そんなに背が高くないので、時々草に埋もれて動けなくなるのを、ガウリイに持ち上げてもらう。そのたびに、少女はにっこりと笑った。 「ありがとう、ガウリイさん」 「気にするなって」 何だか二人の周りがほのぼのしている気がする。それもそのはず、先ほどから一体もレッサーデーモンの類が出てこない。気が緩むのもそのせいだろう。 もっとも、ガウリイはいつも緩んでいるが。 「ティア。あそこよ」 リナが、まっすぐに森の奥を示す。振り返ったレイティアは、軽く目を見開くと、その奥へと走る。すぐに、明るく開けた場所に出ると、その真ん中にうずくまる怪鳥へと駆け寄った。 「ジャグさんっ!」 少女の声に、鳥はすぐに反応して目を開ける。その体の周りをくるくる回り、ティアは何かを調べている。そしてぽつり、と呟いた。 「・・・・やっぱり。怪我、してる」 言うと、胸元の飾りを外して、鳥を見上げる。 「ジャグさん。足見せて」 素直にジャグは翼の下に隠していた足を出す。その足を見て、リナは顔を顰める。 傷口は、片足をえぐるようについており、殆ど取れかかっている。 「大丈夫なのか、あれ・・・・」 ガウリイがそう漏らして、ティアの方へと歩いていった。リナも後に続いて近づく。 ティアは傷口を、じっと見つめていた。特に取り乱したりはしていない。だが、その瞳は泣き出しそうに潤んでいた。 声をかけるのを躊躇っていると、少女は片手でぐ、と涙を拭うと、聞こえるか聞こえないかの声で囁いた。 「・・・・離れて、下さい」 「え?」 ガウリイの声に、今度は大きな声で、 「私、ジャグさんの傷を治してみます。余波が当ると危ないので、離れて下さい」 「余波って・・・・ただの治療じゃないの?」 その言葉に、ティアは首を振る。飾りを握り締めて、 「普通の人には危ないんだそうです。よく判らないけど」 「そうです・・・・って。だれから聞いたの?そんな事」 「兄さんから」 言うと、彼女はもう一度繰り返した。 「離れて下さい」 「判ったわ・・・・」 頷いて、レイティア達から距離をとる。それを確認して、ティアは患部に飾りをかざした。 小さく呟く声がして、その手に光が灯る。じわじわと、それは足を包んでゆく。 同時に、その周囲に何かが広がった。そして、倒れていた木々の緑が、枯れてゆく。 「余波って、これの事・・・・?」 驚くリナの足元で、草花が萎れた。枯れるまではいかないが、数日はこのままだろう。 レイティアの手の光が、ゆっくりと消えてゆく。 飾りを首に掛けなおし、彼女はおそるおそる足を覗き込む。そこには、微かに傷跡があるが、しっかりとくっついている足の姿。 「ごめんね、ジャグさん。私じゃ、ちゃんと綺麗に直らないみたい」 それから、周囲の草花を見渡して、寂しそうに笑った。 「ごめんね。しばらくしたら、元気になるから」 最後にリナたちの方へ頭を下げる。 「ごめんなさい。迷惑かけて」 「違うわよ、ティア」 すかさず、リナは言い放った。ずんずんとティアに近寄ると、その額を小突く。 「そーゆー時は、『ありがとう』って言うのよ」 にっ、と笑って、目を瞬く彼女を見つめる。そのティアの頭に、ガウリイの手が置かれた。 「そうだぞ。謝らなくたっていいさ」 「ガウリイさん・・・・」 「このリナの今までの行動に比べたら、全然たいしたことは」 「ふっ!」 すかさず黙らせて、リナはにっっこりと笑った。 「とにかくっ。あたしが案内するって言い出したんだし」 気にしない、気にしないと肩を叩く。微妙にその笑顔に怯えているのは気のせいだろう。うん。絶対気のせいだ。 「えっと・・・・じゃあ、ジャグさん、先に帰っていいよ」 その瞬間、講義するようにぎゃーぎゃー鳴く。それに耳を押さえながら、 「だって、私を乗せてくなんて無理させるわけには、いかないしっ!」 負けずに大声で言い返し、レイティアはとどめとばかりに、 「多分、誰か様子を見に来てくれると思うしっ!」 「ええ。お帰りになって結構ですよ。ジャグドルさん」 唐突に、第三者の声が響いた。 レイティアは目を瞬いて。ガウリイはのほほんと。そしてリナは、心底嫌そうに。 ゆっくりと、ティアのすぐ背後に立つ影に目を向けた。 「性懲りもなく出てくるんじゃないわよ、パシリ魔族のくせして」 「そ、そーゆう呼び方はしないでほしいんですけど・・・・」 にっこりと笑った顔を崩さすに、彼はちらり、と横に視線を向ける。 「ジャグドルさん。レイティアは僕が責任を持って送りますから。早く帰ってその傷を直した方がいいですよ」 それに、判ったとばかりに羽をはためかせて、ジャグドルと呼ばれた魔族は飛び立つ。 一度、彼らの上を旋回してから、何処かへ飛び去っていった。 「さて、と・・・・」 彼は、目の前に立つレイティアに視線を合わせる。その顔を見つめて、レイティアはあはは、と笑った。 「レイティア。何か言う事はありますか?」 「えーっと・・・・」 決まりが悪そうに笑う彼女の頭に手を置いて、心なしか強い調子で、 「――ティア」 「・・・・ごめんなさい」 それに一つ頷くと、彼は一瞬リナに視線を向けて。ころりと話題を変える。 「レイティア。買い物はしたんですか?」 「あ。忘れてた」 「早く行ってください。僕も後から村に向かいますから」 「うん」 くるり、と身を翻して、ティアは森を抜けてゆく。途中、リナの傍まで来ると、一旦足を止めて、 「・・・・ありがとう」 頭を下げると、再び走り去っていった。 それを見送ってから、リナは彼に呼びかける。 「ゼロス」 「何でしょう?」 彼――ゼロスは、いつもとかわらぬ人の良さそうな笑みを浮かべて、リナとガウリイに向き直る。そのまま無造作に距離を詰めると、リナ達のすぐ目の前で足を止めた。 「あの子、あんたの仲間?」 「同類という意味なら、違いますよ。レイティアは人間です。 ――少なくとも、今はまだ、人間として生きていける」 「・・・・どういう意味だ?」 ガウリイの声に、曖昧に笑みを返し、ゼロスは村の方角へと目を向けた。 「とりあえず、歩きながら話しませんか?」 「今から丁度、十年前の事です」 ゆっくりと歩きつつ、ゼロスは口を開いた。 「僕の上司である獣王様は、群狼の島を拠点として動いておられました。 周りを海に囲まれた、孤島であるそこには、他の生き物が来る事もありませんでした」 ぱきり、と片手で邪魔な木の枝を折る。それを指先で弄びながら、ゼロスは続ける。 「しかし、そこに人間の子供が流れ着いたんです。 最初は死んでいるとばかり思っていたんですよ。で、一応僕が観に行ったら・・・・多少の傷はありましたが、殆ど無傷で、生きていました」 不意に、ゼロスは森の奥の方へと目を向ける。つられてリナもそちらを向くと、ちらほらと何かが動いているのが判った。レッサーデーモン。ゼロスの気配に圧倒されたのか、すぐに木々の中に消えて、見えなくなる。 「最初は始末するつもりでした。ですが、その前にここまで来れた訳を知りたかったんですよ、僕。まあ、好奇心って奴ですかね。それで、近づいて声をかけたんです」 『こんにちは』 『・・・・・・・・』 『貴方、お一人ですか?』 『・・・・うん』 『よくこの海を越えてこれましたねぇ。酷い嵐の筈ですけど』 『・・・・だって・・・・』 「・・・・ゼロス?」 「・・・・ああ。すみません」 黙り込んだ彼に、訝しげに声をかける。返事を返した彼の表情は、彼らしくないものだった。言いようのない、哀れみの表情。それもすぐに元に戻ったが。 「まあ、省略しますけど、色々あって郡狼の島に住むことになったんですね」 「・・・・略しすぎて判んないわよ」 「はっはっは。機会があったらお話しましょう」 そう言う彼の眼前には、村の入り口が見えている。ゆっくりと歩いたから、レイティアはすでに買い物を済ませているだろう。 「――レイティアの成長は、止まっています」 ゼロスは、静かに告げた。その視線を村へと向けて。 「止まってるって、どういう事?」 「原因は判りません。ただ、ここ数年、外見に全く変化が見られません。 ・・・・ああ見えても、レイティアは16才なんですよ?」 「じゅうろく!?どう見ても、12、3才にしか見えないわよ!」 「ああ。まだまだ子供料金でいけるな」 「でいっ!」 妙な事を口走るガウリイを地に沈めて。リナは自分の記憶と知識をフル活動させて、結果、眉を寄せた。 「成長が止まるなんて聞いた事ないわ」 「ええ。今は肉体と精神にそんなに差はありません。ですが、あと数年すれば、それも変わってきます」 「・・・・人間として、生きれなくなるって、そういう意味?」 「一人で人里に住むには、レイティアは幼すぎます。それ以前に、周囲の人々は奇異と嫌悪の視線を向ける事でしょう」 「・・・・そうね」 外見の変わらない少女。それは人間として見てもらえるか。・・・・大抵の人は、そうは見てくれないだろう。たとえ、少女が人間として生きようとしたとしても。 「ですが、どこまでいっても、レイティアが人である事に変わりはありません。魔族とは在り方の異なるもの。 ――それを承知で、獣王様は、彼女をあの島に住まわせていらっしゃいます」 「・・・・」 ゼロスは、相変わらずの笑顔のまま。だがリナには、その顔が悲しそうに見えた。 魔族である彼が、何を、何故、悲しむのかは、判らないけれど。そう見えた。 「知っていますか?ティアというのは、涙という意味を持っているんですよ」 「涙・・・・」 「涙というのは、悲しくて流したものも、嬉しくて流したものも、とても綺麗なものです。できれば、僕は――」 「兄さん、リナさん、ガウリイさん!」 ゼロスが言葉を続けるより早く、元気な声がそれを遮った。 村の入り口から、こちらに向かって賭けてくる人影。片手に下げた籠の中から、色とりどりの草花を覗かせて。 レイティアは、笑顔で走り寄ってきた。 「用は済みましたか?」 尋ねるゼロスの顔は、のほほんとした、いつもの笑みが浮かんでいる。 レイティアはこっくり頷くと、籠の中身を見せるようにして、 「うん!薬草もいろいろ買ったし、種も買ったし、肥料も買ったし! ・・・・うまく育つかが、問題なんだけど・・・・」 最後の方はぼやく様に言う。 「・・・・・・・・ねえ、ティア」 「はい?」 振り向けば、何だが頭を抱えながら、ゼロスを指差すリナの姿。 「今・・・・兄さんって・・・・」 「はい。それが何か?」 次の瞬間、その腕をリナに掴まれた。きょとん、とする彼女に視線を合わせて、リナは深刻そうに、真剣に告げた。 「やめときなさい。こんなのを兄ちゃんにしたっていいことないわよ」 「え?」 「そりゃあ、周りは魔族ばかりだと思うけど、よりにもよってこんなゴキブリ、生ゴミといわれる奴を慕うのはどうかと思うわ」 「・・・・ひどいです、リナさん・・・・」 後ろで涙を流すゼロスをすっぱり無視して、リナは言う。それにしばらく考えるように指を口元にあて、レイティアは言い返した。 「でも、母様が創ったのが兄さんだから、兄妹みたいに、そーゆう呼び方がいいのかなぁ、って・・・・」 「・・・・・・・・母様?」 いやな予感がしたが、勇気を振り絞って、リナは聞き返した。それにレイティアは軽く頷き。彼女が口を開くより早く、復活したゼロスがリナの耳元で囁いた。 「獣王様のことですよ」 「やっぱりかああぁぁっ!?」 思わず叫んで、ゼロスの頭を叩き飛ばす。飛んだゼロスは、ガウリイに衝突して、一緒になって飛んでゆく。数メートル先の木に激突して、彼はそこでようやく起き上がると、 「何するんですか!?」 「八つ当たりよ」 きっぱりと言い返されて、う、と言葉に詰まる。そんなゼロスにびし!と指をつきつけ、 「何でよりにもよって獣王が母ちゃんなのよ!?まさか子育てしたわけじゃあないんでしょう!?」 「・・・・えーと、ですね・・・・」 「・・・・・・・・まさか・・・・・・・・」 言葉を濁すゼロスに、更なる予感がリナを襲う。 そして、その予感を裏切らずに、ゼロスは苦笑しながら、告げた。 「・・・・いえ、人間の子供と接する機会なんて滅多にないと仰って・・・・」 「・・・・・・・・」 それでいいのか、魔族。 リナは本気でそう思った。 「じゃあ、リナさん。お元気で」 「あんたも元気でね、ティア」 「またな、ティア」 「はい、ガウリイさん」 「あの、僕には挨拶なしですか?」 「二度と来るな」 「・・・・ううっ・・・・」 「兄さん、ガンバ・・・・」 ×月○日 今日は珍しく晴れ。ついでに墜落。 目当ての種も草も買えたし、噂のリナさんにも会えました。 兄さんの言った通り、変わった人でした。 ガウリイさんは、またな、と言ってくれました。 ・・・・また、会えるといいな。 ・・・・今度は、普通に降りて会いたいです。うん。 ############### 思いつきキャラ。レイティアちゃんを書いてみたり。 子育てする獣王ってのを思いついたのが運のつき。 いや、ちらっとしか出てきてないですけどね。 まあ、こんなお話でございました。 |
30288 | 後日談。 | 鮎 | 2004/6/25 07:01:48 |
記事番号30233へのコメント こんにちは。鮎です。 思いついたら即実行。という訳で、ちみっと続きを打ってみたり。 ############### ・・・・・後日談。 さらさらと、水をまく音。時折、重いものが動く音もする。 水音が止んで、今度はどさぁ、と何かを流し込むような音。 そして。ふぅ、と一息ついて。 「完了っ!」 レイティアは、わー!と万歳をして、後ろを振り返る。背後には、黒い獣が一匹、鋭い目付きで少女を見つめていた。 「ジャグさん。お手伝いありがとー」 にこにこと礼をいうレイティアを鬱陶しそうに見て、ぱたん、と尻尾を上下させる。 何しろ、彼は魔族。感謝などの生の感情は苦手なのである。 それ以前に、重たい石を何個も運ばされたのを、根に持っているかもしれない。 因みに、その石は、花壇の仕切りとして並べられている。 先日。色々と予定外の出来事もあったが、目的の魔法薬や、魔力に体性のある草花の種や苗を買ってきた。それを、島の一角に植えていた所である。 「ちゃんと芽が出るかなぁ・・・・?」 「・・・・」 無言にも関わらず、レイティアはまるで声が聞こえているように頷いて、 「うん、此処日当たり良くないしね」 しょっちゅう嵐が起こるしさぁ、と呟く。それに、再び沈黙を返すと、ジャグダルは、くるり、と少女に背を向けた。 「あれ。もう行くの?」 「・・・・」 「うん、じゃあ、また今度ね!」 応えるように一度、尾を振り上げて。彼は、虚空に掻き消えた。 それを見届けると、彼女は遠くを見渡して。 「声、かけても平気かな・・・・?」 うーん、と暫く考えて。やるだけやろう、と少女は空を見上げた。 「――母様、母様。兄さんはいらっしゃいますか?」 首飾りの鳥を、手で包むようにして、レイティアは問いかける。 少しの間を置いて、空から、声は降ってきた。 『――ああ、戻っている。何か用か?』 静かな、しかし威圧感を伴った声。声が返ってきたことに、ほっとして。それから、少女は小首を傾げて、 「用というか・・・・お暇なら、外の様子を聴かせてもらえれば、と」 『・・・・いいだろう。今、そちらに向かわせる』 声が途切れた瞬間、レイティアの前の景色に、黒い色が霞む。 それは、瞬時に法衣を纏った青年へと姿を変える。 「こんにちは、レイティア」 にこにこと笑みを浮かべて、ゼロスはさくさくと足を進める。おや、と背後の花壇を指差し、 「出来上がったんですか?」 「うん。ジャグさんに手伝ってもらったの」 「それはそれは・・・・」 ゼロスは微かに苦笑する。土いじりを喜んでする魔族など、あまりいないだろう。 加えて、常に無口で、頼みをあまり拒まない彼の性格を思い出し、何だかその光景をすごく見てみたかった、とゼロスは思った。 「ねえ。外の様子はどうだった?何か面白い事あった?」 好奇心いっぱいで、レイティアは問いかける。 用のない時は、外に出ず、島の中でも、人――というか魔族――に会うことのない少女は、時々彼に外のことを話してもらう。 ゼロスが少女を尋ねていったのが最初の起こりで、今ではすっかり恒例行事と化している。 獣王とは、滅多に会う事はない。 だから余計に、この習慣をレイティアは楽しみにしている。 「そうですねぇ・・・・」 ゼロスはその場に腰を下ろし、笑顔のまま、レイティアを手招きする。 素直に近づいてきた少女を、正面に座らせて。 「それでは・・・・・。帰りがけに、ゼルガディスさんと、アメリアさんを見つけて・・・・あ。この二人は、この間も話したとおり、リナさんとガウリイさんの・・・・」 島に唯一の、人間の子供に向かって。 身振り手振り、彼は語りだした。 今日も時間が、過ぎてゆく。 ############### 暇に見えるんですよね。うちのゼロス君は。 でも、しっかりとお仕事をしているときもあるので、ほとんど会えない、と。 何か続きが書きたくなりましたねぇ・・・・ |