◆−エーナんトコのL様・20のお題−エーナ (2004/7/16 22:41:07) No.30432 ┣蛇の誘惑 第八話−エーナ (2004/7/19 22:07:32) No.30448 ┃┣蛇の誘惑 第九話−エーナ (2004/7/28 18:37:12) No.30474 ┃┗蛇の誘惑 最終話−エーナ (2004/8/11 00:13:32) No.30526 ┗第四部〜万華鏡〜『りにゅうある』プロローグ−エーナ (2004/8/2 10:40:34) No.30478 ┣第四部〜万華鏡〜『りにゅうある』第一話−エーナ (2004/8/12 23:22:52) No.30537 ┣第四部〜万華鏡〜『りにゅうある』第二話−エーナ (2004/8/13 12:39:34) No.30538 ┣第四部〜万華鏡〜『りにゅうある』第三話−エーナ (2004/8/13 22:11:44) No.30540 ┗第四部〜万華鏡〜『りにゅうある』第四話−エーナ (2004/8/16 21:32:12) No.30549
30432 | エーナんトコのL様・20のお題 | エーナ | 2004/7/16 22:41:07 |
どうも。エーナです。話に詰まってしまったのでしょうもないショートです。見逃してください・・・ 『エーナんトコのL様・20のお題』 漆黒の夜空を彩る星。全てを飲み込む闇色の海。 そして、その波間を滑るようにゆったりと進むきらびやかな巨大船。 船首には海の乙女の彫刻が据え置かれ、まっすぐに前を向いている。 魔法で幾重にも強化を施してあるその船体には人間程度の魔力には何人たりとも傷つけられない強度を持ち、内部のガラスや金銀の細工が施された見かけだけのシャンデリアやカンテラに淡い魔法の灯火がともっている。 今は夜。子供は眠る時間。だが、そこに――その豪華客船の一角に『彼女』はいた。 プラチナブロンドに近い光沢の金髪を、宝石の連なった髪飾りで編み上げた女。 その華奢で白い首筋には鈍く銀色に輝く首飾りがかけられ、着ているものは漆黒に金糸の縫い取りがある上等でありながら厭味を感じさせないシンプルな服。 「おほほほほほほvこれであたしの連勝記録、また更新ね〜♪ 金貨50、いただくわよ」 見た目まだ少女から抜けきっていない年齢の女性が笑い声を上げた。 そのしなやかな手で、持ち札が見られるように広げられる。 「フ、フルハウス・・・!?」 3枚のエースと二枚のキングが並んだ手札に、思わず対戦相手の弱々しそうな男が絶句した。 鮮やかに連戦連勝して見せるその深紅の瞳を持つ少女の姿に、ギャラリーから歓声が上がる。 「あたしの強運に優るものはないのよ。さて、お次はどなた?」 チップを奪われ、うなだれてその席を立った男性に代わり、今度は今度は恰幅のよい――といえば聞こえはいいが、ただの肥満体系――男が席につく。 それと同時にギャラリーから今までとは全く違う意味合いの声――少女を哀れむような――が次々に上がる。 しかし彼女は全くそれを意に介さない様子だ。 その男は脂ぎった視線を彼女に向けた。 彼女はそれに気がついているようだが、全く顔色を変えずににこやかに挨拶をする。 「よろしく。小父様、商才がありそうね? あたしは時の運が強いのだけれど、そっちのほうはあまり興味がもてなくて」 「そうかね。お嬢さんほどの強運の持ち主ならば誰とでも渡り合っていけるだろうに・・・」 「ふふ、褒めてくれてうれしいわ。 さて、あたしもポーカーばかりをやっていたものだから少々飽きが来てしまっているのよ。 ブラックジャックでもどうかしら?」 「・・・ほう。それはまた私の得意なゲームだ。受けて立とうじゃないか。君がディーラーになってくれるかね?」 「いいわよ。掛け金は?」 「金貨で、3000」 「あらいやだ。さすがにあたしでもそれくらいしか持っていないわね」 「おやおや・・・先ほどまでの君のお相手たちはずいぶんとお金をケチっていたようだね」 「だって、あたしが最初に1000貰ってから皆さん大人しくなってしまったんだもの。 本当につまらなくって。その点小父様相手なら楽しめそうよ」 言って、彼女は笑みを深める。降りる気は全くなさそうだ。 にこやかに沈黙している金髪のディーラーから少女にカードが渡され、シャッフルののちに配られたカードを男は二枚手に取った。 それと同じくディーラーである少女も一枚裏にして二枚を自分に配る。 カードは、男がクラブとダイヤの7。ディーラーである少女の片方のカードはスペードのA。 「保険はかけておくに越した事はない。半額を追加。インシュア(ディーラーの持っている表に向けたカードがAの場合に保険をかけること。掛け金の半額を追加する。ディーラーがブラックジャックの場合掛け金の倍が戻ってくるが、そうではない場合保険である掛け金の半分は没収される。)させていただこう。 ・・・hit」 男はテーブルを軽く叩き、カードを求める。それが、二度。 「それじゃあ、あたしもカードを見せておくわね。 あたしの持ってるもう一枚のカードは、ダイヤの、6。当然ここであたしもstay。 掛け金の半分、貰うわよ?」 テーブルに乗っていた金貨500枚分のチップがディーラー側に渡り、ギャラリーが歓声を上げる。 「おやおや。お嬢さんにしてやられたようだ。それでは、次は・・・倍の6000でゲームを続行しよう」 「そうくるわけね。この勝負、けっこう燃えるわ」 少女が、笑みを深くする。 そして再びカードをシャッフルし、配る。 男の手元にはダイヤとハートの2。少女の手元にはスペードのJと裏返しにされたカード。 「hit」 二度、三度・・・そして五度。カードを貰って手札を見ながらにやつく男。 枚数は、7枚。 「お嬢さん、どうやら私の勝ちのようですな」 「小父様、強運でいらっしゃるのね。『こんな』セブンカード(七枚カードが配られていても21以下の手札。掛け金の10倍が帰ってくる。)なんてはじめて見たわ。 ・・・でもね。少々おいたが過ぎていてよ?」 少女は、裏になっていたカードをひっくり返す。 スペードの、A。 「なん・・・!?」 スペードのAとJの組み合わせ。 ――表ブラックジャック。 男の手の内から2や3や4ばかりの手札が零れ落ちる。 数えて、20。 「――ゼロス」 「了解しました」 わなわなと震える男の手首を、金髪の青年ディーラーが捕まえる。 その少々乱暴な行為に周囲がざわついた。 「ガノン=シェルヴェール支店長代理。 フォーロシア王国法律第72条詐欺罪及び不正取引委員会の設定した条例の違反、そのほか13の条例、5の法律違反において我々に多大な不利益や損害を与えたものとしてインバース商会はあなたを告訴します」 「な、なんだと・・・ッ!?」 そのざわつきが収まる前に、彼女は笑みを消してそれだけを言い切った。 「カジノにおけるイカサマ行為、取引先相手との癒着。ああ、売春行為なんてのもあったわね? 他にも傷害罪や麻薬取締法違反・・・上げたらキリがないわ。 全く、支店長のフィリアがいい人だからってあっさりと付け入っちゃってまあ・・・」 「お前・・・一体誰だ!?」 「あ、申し遅れました。わたくしインバース商会の強行取り締まりチーム・・・って言っても急造なんだけどね。それの主任。 ついでに現社長の姪で会長の孫のルキ=ファー=ガブリエフです。よろしくv あ、袖に隠してるカード出しちゃったほうがいいわよ?後で面倒な事に為って困るのはあんただし」 「なん、貴様・・・」 「ちなみにそこの人はあたしの助手。 もうひとつ付け足すと、彼、魔族だから」 さらりといったるきに、呆然とする男。そしてゼロスと呼ばれた金髪の青年・・・否、魔族は。 「おやおや。そんな簡単にばらしてしまってまあ・・・」 けろりと笑みを崩さぬまま、姿を揺らめかせて首から上のパーツだけが摩り替わる。 「んんっ?ゼロス君、何か文句でもあるのかしら?」 「いーえ。特にございませんよ。お・じょ・う・さ・ま」 笑みのまま嘆息すると言う器用な芸を見せて、ゼロスは手首をつかんでいないほうの手で指をふる。 「そうそう、共犯のディーラーさんはとっくに取り押さえてありますよ。ご愁傷様ですねv」 「く・・・くそぉぉぉぉぉっ!」 船の上で、男の虚しい声がこだまする。 ――ドッ! 「・・・ッ!?」 一瞬だけゼロスは表情を変え、手首をつかんでいた手を思わず放す。 「うわっ!」 「わっ!?」 「きゃあ!」 その隙をついて、男はギャラリーの中へと紛れ込んだ。 数秒後にはすでにその姿は全く見えなくなっている。 「ちょっとゼロス!あんた何やってるのよ!」 「いえ・・・ちょっと魔法の品らしきものを突き立てられましてね。 サイズは大きくなかったのでそんなに深刻なダメージではないんですが・・・思わず手を放してしまいました」 みれば、ゼロスの手の甲には真っ白い断面を覗かせる傷跡が。 「ああもうっ!ゼロス、あんたは外回り!あたしは中を探すから見つけたらレグルス盤で連絡!他の客に手荒な真似しちゃダメよ!」 「わかってますよ。さっきくどくどと言われたんですから」 それだけ言ってゼロスはその場から姿を消した。 そしてルキも大きくスリットの入ったドレスのすそをひらめかせて走り出す。 周囲のギャラリーはただ呆然と事の成り行きを見ているだけだった。 ・・・・・・正直、シェルヴェールを見つけるのはそう難しくはなかった。だが。 「・・・問題はこの状況よ・・・」 その『惨状』を目にしてルキはぼそりとつぶやいた。 ここは豪勢なシャンデリアが床を照らす大きなホール。 シェルヴェールはそこの踊り場で、ドレスで着飾った女性の首筋にナイフを当てていた。 他の客はすでに騒いで騒ぎまくったあげくに皆逃げてしまっている。 「全く・・・ああいう陳腐な手しか使えないバカってけっこういるものなのよね・・・」 本気で頭が痛くなってきたルキだったが、まさかこの状況をほおりだすわけにもいかない。 「く、来るなっ!この女がどうなっても知らんぞ!?」 「ごめんねvあたしって意外と人道主義者じゃないのよねー☆」 「っひぃぃぃぃぃ!?」 シェルヴェールが恐怖に引きつった声を上げ、怒りのオーラを放出しまくってるあたしを見て後ずさる。 「それにさ。その程度の魔力のこもったナイフでどうにかできるわけがないでしょ?」 「し、知るかっ!全部お前が悪いんだ・・・」 「ばーか。まぁだ気がつかないわけ? 今あんたが人質に取ってる・・・取ってるつもりの彼女が、何で身じろぎひとつしないのかしら?」 「ま、まさか・・・」 シェルヴェールの表情が、絶望に彩られる。 「ってわけだから、アシュ、取り押さえちゃって」 「了解しました!」 首に回された手を逆手にとり、ドレスを着た紺色の髪の女性――アシュタロスはあっさりとシェルヴェールをねじ伏せる。 「はい、終了。適当に縛って転がしとけばいいわ。明日の昼には港に着くしね」 「ええ〜?やっぱり私が見張りをやるんですか?」 「そーよ。あたしはカジノで一儲けしてくるからよろしくv」 言って彼女は楽しげにきびすをかえした。 お題、『切り札』。お粗末さまでした。 あとがき エ:お久しぶりです。エーナです。 L:けっこう気分爽快な話になったんじゃない?あんたにしては。 エ:お褒めに預かり光栄・・・なのかなぁ・・・『あんたにしては』って・・・ あ、そうそう。どこが『切り札』かといいますと、日本語の『トランプ』・・・これ、元々は『切り札』と言う意味で、外国人が使っているのを日本人が勝手に勘違いしたそうなんですよ。 L:うーん、皆知っていそうなそうじゃないような感じね。 まあ、いいでしょ。それではみなさん、さよーなら☆ |
30448 | 蛇の誘惑 第八話 | エーナ | 2004/7/19 22:07:32 |
記事番号30432へのコメント 奉《たてまつ》りし精霊たちよ、世界に満ちたる八百万の精霊よ、我らに恵みを与えたもう。 穏やかなる流れを。熱き命の源を。舞い踊る恵みよ。 我らはすべての恵みを与えてくださる精霊たちに感謝します。 祈り、この身をささげます。我ら――い――の巫女なれば、この血筋絶えぬ限り――― ――本家の血筋が絶えた精霊信仰の巫女たちが使ったテキストより抜粋。 ・・・ただし一部解読不能。ゼフィーリア魔導士協会 木々に囲まれた道を抜け出し、隠れていた街が目に入った。 すでに傾きかけた太陽のもと、俺は思わずつぶやく。 「つ・・・着いた・・・・・・」 いつもより非常に疲れのたまる行程をようやく踏破し、思わずその場で倒れそうになる。 「おいおい、この程度ではばってるなんぞ情けないな」 と、ベルゼバブ。 誰のせいだ、誰のッ! 叫びたい衝動をこらえ――というより、叫んでもさらに疲れるだけだ――俺は嘆息する。 「気持ちは察するが、今は無視したほうが得策だ。こういう鈍いものはいくら言っても効かぬからな」 まったくだ。 無表情のベリアルの言葉に俺は同調して、さらに嘆息した。 ・・・しかし、こいつらの目的は一体なんなんだ? 『ラミア』を探しているとしても俺からこのレーダーともいうべき宝珠を奪えばいいだけだろう。 俺自身を目的としているとしても、何もせずについてくるのはいささか奇妙だ。 今までいまいち聞きそびれていたのだが・・・聞いてみるか。 「おまえら、何で俺について来るんだ?」 「もうすぐ、わかる」 珍しくベリアルはその表情に笑みを刻めて言った。 蛇の誘惑 第八話 「・・・この街もけっこう復興してきたな。活気がある」 材木を運ぶリヤカーや、野菜や果物を突貫の屋台で売る店。 大きな通りにはさまざまな作業をおこなう大人たちや、道端で走り回る子供の姿も見られる。 「来たことがあんのか?」 そこらの屋台で買ったリンゴをくわえながら器用にはっきりと発音するベルゼバブ。 どうやらこいつ、若い女性がいないからおとなしくしているようである。 「まあな。2度ほどここへ来たことがある」 俺の言葉をベリアルが継ぐ。 「・・・ほう。二度ほどこの町は大きな騒ぎがあったそうだな。 その二度とも住民が全員死亡・・・いや、消滅したと聞いたが。建物も根こそぎ」 ――ぎくっ! じ、実際に住民が全滅したのは一度目のレゾコピーの件だけなんだが、二度目も一度街が復興しているように見えたからはたから見ればそうなるな・・・ 「そういえばザナッファーを封じ、その障気を吸い続けていた神聖樹《フラグーン》と、それを植えた剣士が持っていた光の剣はエルフが写本を使って作ったそうだ」 「なに?」 ベリアルのセリフに、俺は思わず聞き返す。 それは初耳だ。光の剣はともかく、神聖樹《フラグーン》が写本によって作られた? 「さすがに神聖樹《フラグーン》の在った場所は呪われた地とされて、そばには家一軒立っていないそうだが。 神聖樹《フラグーン》あと地には水がたまり、水源として確保できそうなものなのだが、誰一人と近づこうとしないらしい。 それからもうひとつ」 「出るんだとよ」 リンゴの芯をそこら辺のゴミ箱に捨て――そのゴミ箱には『街をきれいにしよう!』などと紙が張ってある――ベルゼバブは言い切る。 「出る?ゴーストの類か?」 神聖樹《フラグーン》のなくなった今、ごたごたの続いていたこの場所にゴーストが出現してもおかしくは無い。 だが、ベリアルは首を横に振り―― 「違う。本来ならあるはずの無いものが出るのだ。確かに人魂と間違えるかもしれんが全くの別物だ」 人魂と間違えるかもしれないが、全くの別物? そんなものに心当たりは――あった。だがどうして?そんなものは湖の上には出現しないはず。 「・・・フェアリーソウル?いや、しかし・・・」 「湖の上には出ないっていいいてぇんだろ?ゼル。だが現実にそれはあるんだな、これが。 本来フェアリーソウルは洞窟の中なんかに出現するものなんだが・・・その真実がきっとこの向こうにある。 街の中心、神聖樹《フラグーン》の湖に。 ――行ってみねぇか?お前の探し物もそこにあるぜ」 「お前ら、何故そのことを・・・!?」 「フェアリーソウルは夜にしか現れない。 ご都合がいいことにこのまま歩いていけば湖につく頃には夜さ。 まあ、行くのを止めるって言うんなら別にかまいやしねえが。俺らはここで帰るだけだ」 俺はその瞳に、濃い闇を見た。 あとがき エ:連載もそろそろ佳境に入ってまいりました。次かその次あたりで終わる予定です。 L:つかあんたの書く文って結果わかりきってるわよね? エ:そ、それを行っちゃお終い・・・! L:自覚してるんなら更なる番外編なんてやめたらどうよ・・・ エ:ううっ!計画してるのもばれてる・・・!? L:それにさ、番外編と本編の境界があいまいなのよね。第一部、第二部なんかは納得できるけど第五部はちょっとねぇ・・・ エ:一応本編では『ルキと魔族や神族のかかわり』を書いてるつもりなんですけど・・・ L:ほう。だったら番外編で人間がメインの出演者だったらいい、と? エ:そそそそそれではあとがきを終わりますっ!! L:あ、待てこら! |
30474 | 蛇の誘惑 第九話 | エーナ | 2004/7/28 18:37:12 |
記事番号30448へのコメント ドーナツ状に形成された町のど真ん中にそれはあった。 かつて滅びた強大な魔族の城だった場所―― 俺はその淵に立ち、湖面の上に視線をめぐらせる。 ベリアルとベルゼバブはいつの間にか消えていた。 「・・・・・・・・・。」 夜色にたゆたう水。 それはどこか神聖な雰囲気を残している。 陽は先ほど沈んだ。わずかな残滓が西の空を赤く彩っている。 最近、強い光を発するようになった宝珠を隠すのに小さな黒い袋を二重にしてしまっていた。 その口を、一つ、そして二つ、開く。 満月は煌々と光と注ぐが、それを圧して輝く色は―――黄金《きん》。 「ようこそ」 その声、その姿に、俺は見覚えがあった。 蛇の誘惑 第九話 「ようこそ、ゼルガディス=グレイワーズさん」 かすかに七色に輝く薄羽を持つ妖精の姿をした漆黒のそれ――リリスは俺の前でぺこりっ、とお辞儀をした。 「・・・リリス」 俺はさまざまな感情を込めてその名を呼んだ。 そしてその少女の姿をしたものは微笑む。 「二ヶ月ぶりですねぇ。 順番が逆ですけどぉ、『ラミア』をお見せしましょう。 ご案内しますよぉ?」 くるりと背を向けてゆっくりと湖の中心へとリリスは進みだした。 それと同時に、リリスの足元の波が止まり、地面よりも平坦になり、表面が真っ白ににごってゆく。 俺は、決心をしてそこに一歩足を踏み入れた。 全く別の物質に変わってしまったかのような水面を靴底が叩き、シャリシャリと硝子のこすれるような音が鳴る。 俺もリリスも無言。それだけにその音が大きく俺の耳に届く。 その音はそれ自身静かだというのに、獣の声も、こずえが為る音もかき消し、全てを凌駕するかのようだ。 そしてリリスが、その音を押さえ込むかのように口を開いた。 「――かつてあのお方は最初の世界で、神話と伝説の中にのみ生きました。 弟さんと、三人の僕《しもべ》。そして最初の世界から外に出てから作られた二人の悪魔。 その二人のうちの一人が私ですぅ。 我々は孤独でした。最初の世界に存在していた神の『棺』である世界以外にはどんな世界をも生み出す気になれなかったのですぅ。 あのお方は疲れておりました。自分がかつて信じていたものに裏切られ、それすらも哀れな存在に過ぎなかったんですぅ。 あの方は悲しみます。喜びます。怒ります。嫌います。 けれど、憎まないんですぅ。それは愛を知らないからなんですぅ。愛憎は表裏一体ですから。 あの方は愛と言う感情を鍵のかかった函に閉じ込めて、心の奥底に閉じ込めてしまったんですぅ。 ――我々六人は旧世界が滅びた後、あの方に花束を贈ることにしたんですぅ。 きれいで、気高く咲き誇る、最高の花束。 それが・・・それが。 神聖樹《フラグーン》のオリジナル――『紫蛍桜』」 背中を見せているリリスからは表情が見えない。 この言葉が、どんな意味を持っているのか俺は知らない。 だが、この言葉はリリスにとってとても重い意味を持っているのだろう。 そして、さぁ、とカーテンがひかれるように目の前の光景が入れ替わる。 そこになかったはずのものが現れる。 「ようこそ。ここはラミアの庭ですぅ。 何よりも苛烈な魂を持つリナ=インバースとその仲間たちに対して。 我々はこの花束を贈りますぅ」 樹齢200年ほどの桜の木。 枝は大きく伸び、緑色の葉を茂らせている。 根は清らかにたたえられた水中へと伸び、その先がどこにあるかは暗くてよく分からない。 「この樹が花を咲かせるのは10回目の満月の夜、12時ちょうど。 見に、来てくださいよぉ?」 そう言って、リリスがにこやかにふりかえる。 「リ・・・!?」 視界が、ぶつりと途切れた。 あとがき エ:っくはぁっ!ようやく終わりに差し掛かりましたっ! ああ・・・クロノクロスと第四部はいずこへ・・・ L:あほんだら。 ――ごしゃぁっ! エ:がふっ・・・!?エ、L様愛用死鎌《デスゲイズ》!? L:ふ。慈悲《ケセド》ちゃんにかかればこんなもんよ。 エ:もしかして本来は一瞬で命を奪うから『慈悲』っすか!? そんな慈悲はいらんッ! L:あらぁvこの子の真価見たいわけね? ・・・登場機会もうなさそうだかあとがきで出すだけなんだけど。 それじゃあ、いっきまーす☆ ――ぞぐじゃ(以下自主規制) L:あ。動かなくなった。まあいっか。次回には復活するだろうし。 それでは、またお会いしましょうv |
30526 | 蛇の誘惑 最終話 | エーナ | 2004/8/11 00:13:32 |
記事番号30448へのコメント ゼルガディスは目を見開いた。 「・・・!?」 情景が変わる。上がない。下もない。そこはただ金色に埋め尽くされた場所。 それは、夢だった。自分の手を見る。しかしそこには感覚がなく、あるはずの肉体が見つからなかった。 あやふやで、不確かで。だけどそれは過去の再現。 『・・・つまらない・・・・・・』 金色に輝く、細い、しっとりとした、滑らかな髪。 漆黒の大きなスリットが入ったドレスに、華奢な手首や首にはたくさんの銀と金のリング。 色素の薄い肌。血色のよい頬。ローズピンクの唇。 そしてすべてを貫き、なおかつ呑み込んでしまいそうな金の瞳。 女性は、寂しげにつぶやいていた。 蛇の誘惑 最終話 瞬間的に光景が入れ替わる。そこには先ほどの女性がいた。 高い天井。シャンデリア。寝椅子。たくさんの本が詰まった本棚。天蓋つきのベッド。テーブル。チェス板。そしてその駒。 ガラス製の天球儀や水晶、壁にはレリーフなど、品のよい調度品が並べられて、それらを置くにちょうどいい大きさの部屋。 荘厳で重厚な雰囲気の場所。でも、そこはなぜか寂しげな場所だった。 『えるさま。えるさま』 『名前をあげる。あなたに。可愛い名前がいいわ。そうね・・・リリス』 『りりす。りりす!えるさまからもらったなまえ!』 漆黒の妖精がくるくると踊る。いつもの服装だが、何故だか少し表情が幼い気がする。 楽しげに飛ぶその姿に、金の髪の女性の顔もほんの少しほころんだ。 ・・・これは、リリスだ。そしてこの金髪の女が“L”? 一体なんなんだ、これは。俺はさっきまでリリスの話を聞いていて・・・それで、木を見て。 ・・・これは、なんだ。 『姉さん、全然元気がないよ。ベリアルが持ってきたブランデーにも手をつけてない』 『・・・確かにありゃ異常だな。俺が下ネタ連発してもあっさり聞きながすし』 『・・・・・・それは大変だ・・・!!』 『・・・オイ、そんな世界の終わりみてえな顔を・・・』 場面が変わる。 場所は・・・なにやらやたらと高い天井の、廊下、だろうか。 深紅のビロードがしかれ周囲は純白の石柱が平行に並んでいる。 ベルゼと・・・さっきの“L”とそっくりな顔をした男――口ぶりからして、“L”の弟だろう――が話し合っている。 ・・・少し漫才が入っているが。 その二人は話を茶化しているようだったが、いたって眼は真剣だった。 ベルゼは重甲冑《へヴィ・アーマー》姿だったが、最初に目にしたときのそれより、精密な細工を刻んだものを纏っている。 “L”の弟はゆったりとした純白の布を幾重も纏い、ブルー・ムーン・ストーンらしき宝玉をつけた純白の杓杖を手に持っている。 かつん、と杓杖が床とぶつかって硬質な音をたてた。 『・・・えるさま、香茶にてをつけてない・・・かおりのいいハーブ・ティーなのにぃ・・・』 『これも効果なし、ね。ああ、リリス泣かないの! 今のL様は様子が変なんだから・・・あなたのせいでも、香茶のせいでもないわ。気にしないで』 『でも、でもぉ・・・えるさま、すごくさみしそう・・・・・・』 『・・・・・・親、だったものね。あのヒトはL様にとって特別なヒト・・・大好きで、絶対と信じてた。 でも、それが崩れ落ちて・・・・・・それが許せなくて。 結局ずっと心の中で泣いているの。憎むことを忘れて、愛する事を忘れて。 親への愛とか、友情とか、いたわりとか優しさとか・・・ ・・・それらを覚えていても、一番大切なヒトに向ける感情を、あの方は忘れてしまった。 ・・・・・・とても、悲しいことよ』 目じりに涙をためるリリス。そしてなだめる紺色の髪の女。 廊下で声を潜めて話し合っている。重厚な造りのドアの隙間から、“L”の姿が見て取れた。 紺色の髪の女は目線をドアの向こう――“L”のほうへと向ける。 精密な細工を施された軽甲冑《ライト・アーマー》を纏ったその姿はどこか毅然としていた。 太ももにはふた振りの変わった短剣がくくられていた。二つの柄の間にグリップが真横に渡され、柄の先には刃がある。 リリスの羽ははためく事を忘れ、ただ力なく下がっている。 足首につけられたリングの鈴が、ちりりと鳴った。 『いつもならば、こういう静かな時には毒見と称されてゲテモノ料理を嬉々として作られるのだが・・・』 『・・・・・・あれを見たときは一瞬引き付けを起こしたぞ、俺は。(けど旨かった) しかし『棺』が滅んでからは全くお目にかかれなかったな』 『・・・全くだ。あの世界が時の流れによって潰れて・・・そしてあのまま。 静かに、沈んでおられる。そして悲しみだけがあのお方の友・・・』 『どうにか、できるといいな。・・・・・・できないのなら、もしかしてずっとこのまま――』 ここは、どこかの広間だろう。かがり火が壁にかけられ、ゆらゆらと大きな部屋を照らしている。 若葉色の神官服には濃緑の糸で蔦の模様が縫い取られ、新緑色の瞳はいらだたしそうに細まっていた。 対して黒髪黒目の少年は学者然とした格好で、大き目の服の袖をいじっている。 『おはなを、贈りませんかぁ?』 黒髪の妖精は、にこやかに提案した。その表情は生き生きとしている。 『花?何の花だ?』 黒髪黒目の少年が首をかしげる。 『アスモデウスさん、それは創るんです。これから。リリスと相談しました』 紺色の髪の女はちっち、と指を振りつつ言った。 『ねー、アシュちゃん』 『ねー』 女二人は示し合わせたかのようにそっくれな動作で同じ言葉を言った。 『花・・・か。何もやらないよりはましだろう』 『俺も賛成!で、どんな花を作る気なんだ?』 『僕もそれは聞きたいな』 男性陣が言うと、女性人二人はさらに笑みを深める。 『桜です!』 『一気に咲く、春の綺麗な花ですぅ!』 『ほんの少し紫を混ぜて、夜見ると幻想的な感じの花にします!』 『花粉をきらきら光らせて、もっと綺麗にするんですぅ!』 『散らないように、長生きにするんです!』 次々に言葉を形にする。 ・・・まさか。これが紫蛍桜のルーツか? 『花束』。リリスたちにとってそれがどんなに重い言葉であったか、ようやくわかった。 それを俺を含む仲間全員に贈る?それほどあいつらにとって重要な事をしたのか? なら、見届けてみよう。 その花束を。アメリアと。 ――ああっ!意識中枢が見つからないと思ったらぁ!―― それは、俺に向けられた言葉。急速に風景が焦点を失い、見えなくなった。 「リリス!」 ――全く、ラミアちゃんが見せたんですねぇ。メフィストちゃんのメモリーにアクセスして―― あきれたような言葉の調子。で、すぐにいつもの声音に戻る。 ――・・・でも、忘れちゃうんですぅ。私たちがこの記憶を消しますから・・・ ラミアちゃんを見に来て下さいって言ったのもただの願望ですぅ。 贈られた当人たちに見てもらえないのは寂しいですから・・・ でも、十分なんですぅ。あなた方は、L様を楽しませてくださいましたからぁ。 おわかれですぅ。二度と会うことはないとは思いますけどぉ、お元気で―― 声が遠のく。これが最後だと、何故だか俺には思えなかった。 意識が沈み、やがて―― 天には満月。 ふよふよと一人の少女が水面の上に浮いていた。 「ゼルガディスさぁん、どこですかぁ?」 まったく、手紙で呼んでおいて―― そう思いながらも、アメリアの表情はほんの少しほころんでいた。 2年と半年。大体それくらい振りだろう。なつかしい。彼から手紙をまらったのはこれが初めてだった。 貰ったのは1ヶ月弱前。 『次の満月の晩に、サイラーグの湖の中心で』 たったそれだけのシンプルな内容。差出人の名前はなかったが、直感で彼だとわかった。 けれど、何故ここなのだろうか? 疑問に思いながらも、アメリアは来た。彼に会いたかったから。 そしてわくわくしていた。今日、何かが起こる。 これも直感だった。でも、あたる。 「・・・ふふ」 思わず笑みがこぼれた。 「何を一人で笑っているんだ?お前は」 「ゼルガディスさんっ!?」 声のあったほうを振り向いた。 白いマントと、フード。いつもどおりの格好の彼だ。 だが、夜のためか目元が暗くて表情がいつもより読みにくい。 「・・・アメリア」 「ゼルガディス、さん・・・!」 会いたかった。ずっと。本当ならずっといっしょにいたかった。 でも、彼の邪魔になるかもしれないからと。彼の行動を妨げないようにと。 待っていた。ただ、いつか自分のところに現れることを願って。 大好きだ。こんなにも。 「・・・これを、見せたいと思った。 見たいと思った。二人で」 ぱさり、と、フードとマスクが取り払われた。 「ゼルガディスさん・・・?」 黒髪。漆黒の瞳。人間の肌。 見たいと思っていたその姿。それが自分の目の前にある。 「・・・・・・花束、を」 心臓が早鐘のようになる。 血液が送られすぎて、脳が沸騰しそうだ。 「あ・・・アメリア」 「ゼルガディス、さん」 ふわり、ふわりとフェアリー・ソウルが舞う。 純白の光。淡い蛍に似たそれは、まるで自分と彼を祝福しているかのようだ。 何故ここにあるか、なんて疑問は頭から吹っ飛んでいた。 ゆっくりと、確かめるように近づいて。 差し伸べられた、手をとる。 柔らかな、暖かい。 人間の、手。 彼の向こう側から光があふれた。 紫がかった桃色と、それを縁取る純白の。 「結婚、しよう」 「は・・・はいっ!!」 待ち望んでいたその言葉を。当然考えたその答えで返した。 それを見ていたのは、星と、月と―― ――桜の花束。 あとがき エ:あ・・・あまぁぁぁぁいっ!!ういういしいっ!! 最後のほう『愛』だのの連打!あああああ。5キロ太りそうな甘さです。(自分的に) 転げまわりそうです。 L:ねえ、ゼルガディス10ヶ月も何やってたの? というか、あの時期にサイラーグにいてリナたちと鉢合わせしなかったわけ? エ:・・・ぢつはですね・・・ごにょごにょごにょ・・・ L:・・・ほう。ほうほう・・・って、記憶障害で9ヶ月精神病院に入院っ!? おまけに姿が違ってたからリナたちは気がつかず・・・ぅおい。 エ:はっはっはっはっは。熱心な精神科の先生に見つかって引きずり込まれたそうです。 リリスのことですから当然後に残るような事はしてないんですが・・・ ちゃっかりと『花束』と『10ヵ月後の満月の夜』、『サイラーグの湖の上』だけは覚えていたらしく。 完全に元に戻った状態で「げ。あと1ヶ月くらいしかない!」・・・と、言うわけで。 L:アメリアを校舎裏・・・じゃなくてサイラーグに呼び出し?で、うっかり名前書き忘れ。 エ:ゼルガディスってお茶目さんv L:おまいが言うな。 まあ、何はともあれ、ここに番外編『蛇の誘惑』を終了させていただきます! エ:それでは、またお会いしましょう! |
30478 | 第四部〜万華鏡〜『りにゅうある』プロローグ | エーナ | 2004/8/2 10:40:34 |
記事番号30432へのコメント 名もない小さな墓。 名を刻む事ができなかった小さな墓。 ここには二人が眠っている。 ・・・いや、一人、かも知れない。 何しろもう一人は骨の欠片すら残さなかったのだから。 「・・・・・・。」 ――ちりん。 小さな鈴がついた筒。 それは掌に収まる大きさで、金色の髪を持つ女性は赤い瞳で覗き込む。 ――ちりん。ちりりん。 筒をくるくると動かすたびに鈴の音が心地よく鼓膜をゆする。 色のついたガラスの欠片と、鏡と、黒塗りの小さな筒。 硬質でありながら動的な美しさを見せるそれは、数十年前に造られた珍しい品物である。 A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』 プロローグ 「・・・色とりどりの綺羅星よ」 それは大昔にあった唄。 魔王が北の山脈に封じられるよりも遥か前に廃れてしまった精霊信仰の巫女たちが、死者達にささげた精霊の唄。 「水をそのかいなに抱える水瓶座《アクエリウス》よ、その身を水にやつす水の精霊《オンディーヌ》たちの王よ」 ――そのかいなに抱える水によって、死せる魂を浄化せんことを願う―― 風に乗ってその声が聞こえてくる。 どこから?この周辺には金髪の女性以外誰もいない。 それより、この唄を知っているものはいないはず。 女性はのぞいていた万華鏡の筒をポーチにしまい、眉をひそめてあたりの気配を探る。 周囲は風がそよぎ、草が揺れ、梢がこすれるだけ。やはり、だれもいない。 ――炎をその胸に抱く蠍座《スコルプス》よ、その身を炎にやつす火の精霊《サラマンド》たちの王よ―― 「・・・その胸に抱く炎によって、死せる魂を浄化せんことを願う?」 ポツリと次に来るはずの部分を疑問符つきで唱えてみる。 ――その胸に抱く炎によって、死せる魂を浄化せんことを願う―― 全く同じ唄の句が聞こえる。 だれが唄っている?・・・いや、これは。 今まで歌に気を取られて気がつかなかったが。 この鎮魂歌を唄っているのは、聞き覚えのある声―― それに思い当たって彼女――ルキはさらに眉をひそめる。 その声は続いて唄を続けている。 その声の主はこの歌を知らないはず。ならば何故唄っている? あらゆる可能性をルキはシュミレートして、いくつかの結論に至る。 その一、声が似ている人が歌っているだけ。 ・・・欠点。この唄はそもそも大昔に廃れたはずである。 その上ここには誰もいない。 その二、空耳である。 ・・・欠点。これが一番丸く収まるが、あいにくと耳は悪くない。 その三、これが一番問題である。 正真正銘本物が唄っている。 ・・・欠点。 「・・・・・・はこの唄を知らないはずだし、もし知っているとしたら――」 この世界ではないどこかの『本物』。 あたしは今度は精神世界面《アストラル・サイド》にまで感覚を広げ、探す。 ・・・あった。声が聞こえる。この奥から。 感覚がとどかない、虚ろに開く『穴』。 これを作ったのは一体誰? ――願わくば―― 「死者に次の生が与えられるまでの安らぎがあらんことを」 ――ばぎゃっ! 温厚とは言いがたい異音を響かせて、あたしはその穴を無理やり押し広げる。 やっぱり、こういうのは自分で入ってみなくちゃね? あたしは黒々と広がるそこに、肉体ごと一歩、足を踏み入れた。 あとがき エ:だ、第四部『りにゅうある』プロローグ・・・ L:これは以前のカレイドスコープを大幅に書き直したものです。 ・・・っと。宣言してから更新までが遅いわよ。何やってるのあんた。 エ:風邪で力尽き・・・勘弁してくだせぇ・・・ L:ええいっ!『勘弁して』で全部が住むのなら借金取立てはいらんわっ! エ:ぐごふっ! L:あ、よわい。免疫力落ちてるからなー。 まあいっか。皆様、それでは☆ ――幕―― |
30537 | 第四部〜万華鏡〜『りにゅうある』第一話 | エーナ | 2004/8/12 23:22:52 |
記事番号30478へのコメント ――色とりどりの綺羅星よ。 それは、死者への手向けの歌。 A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』 第一話 なんて世界は残酷なのだろう。 なんて世界は理不尽なのだろう。 ああ。 失ってから気付く事も多いというのに。 ああ。 怒りにこの身を焦がし、もう涙など流せない。 ああ。 悲しみで心は溢れているのに、憎しみがそれを上回る。 ああ、ああ。・・・ああ・・・ ――世界は、残酷だ。 世界が紅蓮で多い尽くされる。 夕方でもないのに空がアカく染まる。 悲鳴は枯れ、血は大地にこびりつき、炎は空を甞めつくす。 そして、あらゆる気配ががどす黒くなるほどの。 「・・・障気、か」 終焉の世界。魔に包まれゆく世界。 それはこんなものなのだ、とそう知っていた。 だが、前に見た時とは立っている場所が違う。 外からおもちゃのガラス玉を眺めているわけでも、画面越しの映像を見ているわけでもない。 ここに立って、直接触れて、肌で感じ取っている。 どこに居るのだろうか。あの歌声の主は。 会おう。そのヒトに。というより、会いたい。 会って聞きたい。あの死者を悼む歌を、何故、どんな思いで歌っているのかを。 一度振り返ってみる。 穴が開いている。あたしが通った穴だ。 驚くほど安定している。ほんの小さなものだったそれを無理やり広げたというのに。 誰かの意思が介在している。一体誰の? 歌声の主か。それとも他の誰かか。 あたしは、昏い森に向かって足を踏み出した。 考えながら普通の人間なら耐え切れないほどの障気の中を少しずつ進む。まずこの場所の状況を知りたい。 まずひとつ、ここはあたしの知っている世界じゃない。 こんな、魔に包まれていこうとしている世界があったなどということは誰からも聞いていない。 ミカエルたちが報告を怠った、というのは考えられない。 こういうことが起こるのならちゃんと報告しろ、としつこく言ってあるからである。 ふたつめ。かすかにだがこの世界に混沌の力が感じられる。 あたしが降臨したのはスィーフィードとシャブラニグドゥが存在している世界、ただひとつである。 そして、この量の力がこの世界に漂っていた期間もかなり限定されている。 あたしが降臨する以前にあるわけがないし、あたしが14歳ごろ以降には逆にもっと力が溢れているはず。 時をさかのぼってあたしが産まれる4,5年前から14歳になるまでの時間に来たという事も考えられない。 ここまで障気が充満していたわけがないからだ。 まあ、アスモデウスが目を離していた時・・・デュグラディグドゥとヴォルフィードが着ていた時で地区限定でなら考えられない事もないが、今かなり傾いている太陽の位置からは場所が一致しない。 当てはまる場所は南中時に太陽が真上に来るか、もっと南に傾くか、だからだ。 といっても、南のほうは海の真上だし、もう片方はかなり北の寒い場所だ。 以上のことから、あたしはこの世界がいわゆるパラレルワールドだということを推測する。 「ひとつ情報が追加されるわね」 暗い森の暗い道。あたしはその場に足を止めた。 あたしを襲おうとする気配がある。そしてがさがさと木や草を掻き分ける音。 こんな場所に人間はいない。居たのならこの暗黒の気に飲み込まれ、狂っていくだろう。 なら、ここにいるのは、魔族。デーモンだと思うが、あまりに濃い障気のせいかいまいち気配がつかみにくい。 そしてあたしを魔族が襲う事はない。上のほうが管理しているのだ。そのはずである。 それがないということは、あたしの説をますます確証づける。 ・・・いちいち相手にするのは面倒ね。 「・・・久々に『本気』で暴れてやろうじゃないの!」 あたしの瞳が金色に染まる。 人間の色素では瞳はこんな色にはならない。 ざわざわと空気がうごめく。 あたしの『堕天使』の名の由来。 漆黒の翼。 それはただ単に背中に展開される虚無の端末というだけなのだが、そこはそれ、気分でこんな形にしているのだ。 あたしの口角がつり上がる。 こういうトラブルって、大歓迎なのよね! 「さあ、飲み込め!」 消えろ、我に牙を向けるもの! ここは玉座。魔の玉座。 母なるものの力を取り込んで作った城の一室。 ぴくり、と。我はほんのわずかに身を震わせた。 「どうかなされましたか?」 そばに控えていたものが、それに気がついて恭しく尋ねてきた。 「・・・いる」 「・・・は?」 我の言葉に、判らない、といった風にその男が疑問符を浮かべる。 我は苦笑し――といってもふりだが――そちらに顔を向けた。 「我とお前の仲だ。判らぬか?遠い場所で、あの力が今一瞬放出されたのが」 「まさか、あの方の・・・!?」 男の顔に驚愕の表情が表れる。 当然だ。あんな力が今は亡きリナ=インバース以外に使えてたまるものか。 「だろうな。面白い、と感じるのは私が変なせいだからなのだろうが・・・危険だ。 即刻潰さねば。わざわざ戦力を小出しにして減らす必要はない。 覇王《ダイナスト》のやつの直属の部下を一人・・・いや、万全を期して二人だ。 向かわせろ。危険因子は早めに摘み取れ」 場所は。 「東経21.5、北緯53.3。 ――エルメキア、滅びの砂漠との境だ」 「御意。早速その旨を伝えます」 言って、一礼して男は消えた。 我は低く哂う。ああ、愉しい。 滅び、滅び、滅び。また我を滅ぼせる力を持つものが滅ぶのだ。 あとがき エ:げ、原作沿いだった話がリニューアルしたらとんでもないことに・・・ L:うわあ。怪しすぎる展開。つか最後のが誰かばればれ? エ:ふ。その程度はばれてよろしい! L:・・・計画性・・・あるわけ・・・? エ:無いっ! ――ごりゅっ!! L:さて、エセ物書きが沈黙したところでそろそろ幕を閉じさせていただきます。 次の話まで、皆様、しばらくの休演を。 またお会いしましょう! ――幕―― |
30538 | 第四部〜万華鏡〜『りにゅうある』第二話 | エーナ | 2004/8/13 12:39:34 |
記事番号30478へのコメント ――水をそのかいなに抱える水瓶座《アクエリウス》よ、その身を水にやつす水の精霊《オンディーヌ》たちの王よ それは。水に癒しを求める唄。 あたしは周囲十数メートルにわたってできたクレーターの中心から歩き出した。 西へ。歩く。歩き続ける。 その行程で何かを見落とさないように。 A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』 第二話 「・・・人の気配は無い、か」 打ち捨てられた村で、あたしはつぶやいた。 こげた屋根。大きな穴のあいた壁。よどんだ井戸。 やはりここにも障気が充満し、はっきり言って気持ちのいい場所ではない。 もう日も暮れかけている。仕方がない。とりあえずここに泊まろう。 とりあえず破損の少ない廃屋を見繕い、扉に手をかけて、開ける。 「・・・っ」 あたしはあわてて扉を閉めた。 ・・・なんて・・・・・・これは・・・ たくさんの白い欠片と、家具や壁、床、天井に飛び散った黒い何かの痕。 白骨と、血。それも一人は二人ではきかない。 「お気に召さなかったようだな。人間の憤り、か。その感情は久々に喰うな。 ゼフィール・シティやセイルーンの町のそばに行けば悲しみや恐怖はいつでも味わえるが・・・私はこの感情が一番美味いと感じる」 ・・・だいぶ、あたしも人間くさくなってきたようだ。 あーもー。ムカツク。 あたしは向かいの家の屋根に腰掛ける魔族を見上げた。 そいつは薄ら笑いを浮かべてこちらを見下ろしている。 漆黒の髪に漆黒の瞳の青年。そいつは表情に気色の悪い薄ら笑いを浮かべてこちらに視線を浮かべている。 「――ノースト、何をしている」 そいつの後ろに人影――少年が現れた。 「グロゥ、なんだ、もう来たのか?久々に遊ぼうと思っていたのに」 黒髪の戦士はくつくつと笑い、銀髪の少年は呆れたようにそちらを見やった。 ・・・さて、どうしようかな。このまま無視して野宿する場所を探すか、こいつらを速攻潰すか。 「いちいち相手をするなど面倒だ。 とっとと殺してとっとと帰るか。人間の相手なんてつまらねえしな。 しかも、こんなお子ちゃまでこんな女・・・」 ・・・決定。いびり倒して色々吐かせる。 「ヒトを探してるの。あんたたち知らない?」 こめかみの青筋を隠しつつ、極めて冷静にあたしは尋ねる。 表情も、極めて普通を装って。 「人、ねえ。あんたはこの障気の中、そいつを探してるってことか?」 楽しげにノーストと呼ばれた魔族が言う。 こいつはさっきから顔が笑いっぱなしだが。 「ま、そゆこと。ずいぶん昔に作られた唄を歌っててさ。 それを作ったのが、精霊の女王を最上として精霊たちをおもに信仰してた宗派でね。 まあ、精霊の女王っていうのは誰も姿は知らないし、存在自体もあやふやなものだとされてるけど・・・ ――だけどね」 こういうことも、できるのよ? 「――精霊の塔《エレメンツ・バベル》っ!」 『――!?』 光が集い、それが急速に塔を形作っていく。 この塔の内部には精霊の力が超高密度で詰まっていて、それぞれの精霊に指示を与えると力が具現化して対象者を襲うのだ。 ・・・ただし、精霊一種ずつの攻撃は単体相手にしか効果がない。 火の精霊、風の精霊、大地の精霊、水の精霊。そして最後に塔を構築してる力が放出されるのだが、これの力が一番大きい。 最後の力は、召喚魔法の応用魔法によって作られた力なので・・・当然のごとく、リリスの力が混ざっている。 え?それ以外の力は何なんだって? それは、最後まで見てのお楽しみ! 「踊れ、炎帝っ!」 あたしは炎の精霊に指示をし、屋根の上に向かわせる。 ――ごぁんっ! 屋根ごと家屋の半分が吹っ飛んだ。 我ながらなかなかの威力である。 が、あいつらにはかすりもしていない。避けられたのだ。 「討て、風帝っ!」 「ごぁっ・・・!?」 後ろから来るだろうとカンで悟り、振り向きざまに一発。 襲おうとしていた銀髪の魔族が吹っ飛んだ。 「貫け、地帝っ!」 大地に叩きつけられたところにもう一発。止めを刺した。 今さっきまで人の形を形作っていた黒い塵を風が吹き浚う。 あとは黒いの一人! 視界の端に漆黒の影をとらえる。あたしは即座に反応し、指示を出した。 「砕け、氷帝!」 ――ぎぎゃぁんっ! 刹那、それを氷が捕らえて砕け散る。 「・・・!?」 違う。ただの黒い布だ。どこから引っ張り出してきたわけあんなもの! 誰に入れ知恵されたのか知らないけど、簡単ながらフェイントを使うなんて・・・普通の魔族はやらない。 ――ぞく。 背筋に走る悪寒に従い、最後の指示を出す。 上に。 「――降り来たれ、王国《マルクト》の輝ける魂!」 至近距離で白い光が炸裂して、ノーストが吹っ飛んだ。 そう、これはリリスの力と共に紫蛍桜の結界を一部だけ具現するものなのだ。 だからこんなにも効果があるのである。 うー、ちょっとくらくらする。さすがに目の前であれは目によくなかったか。 そう感じつつも太ももの普通はただの幅広のベルトに見えるものからナイフを取り出し、魔力を込めて上から呪文をかける。 動けないように。 「影縛り《シャドウ・スナップ》」 幾本ものナイフが西日によって伸ばされた影に刺さり、倒れたノーストの行動を縛る。 何しろあたしが魔力を込めたナイフだ。こいつごときに抜けるわけがない。 あたしは少し回復した目でそちらを見やり、ゆっくりと近寄った。 「さて、あんたには聞きたいことがあるのよ。いくつかね」 「貴様・・・ッ!」 「そんな恨みがましい目をしないでよ。お互い様でしょ? さて、まずひとつ。早々にあんたたちみたいな神官・将軍クラスが出てきたのは何でかしら?」 「答える義務はない!」 「威勢のいい事」 はぁ。これじゃまるであたしが悪役だ。 ・・・まあいいか。悪役なら悪役で、まだやり方はある。 「――闇よりもなお昏き存在《もの》――夜よりもなお深き存在《もの》――」 あたしは重破斬《ギガ・スレ》の詠唱を開始する。 もちろんあたしには必要ないのでフリなのだが。 「な、何っ!?貴様・・・!」 「混沌の海にたゆたいしもの――」 さすがに完全版では脅しの意味がなくなる。 あたしは呪文を唱え続ける。 「ぐ・・・!わかった!答えられる事なら何でも答える!」 「じゃあ、最初の質問に答えてもらいましょうか」 「・・・ルビーアイ様が指示なされたのだ。 混沌の力を扱うものを潰せ、と。万全を期して二人向かわせろと・・・」 ・・・ふむ。シャブラニグドゥは復活済みか。 少し、厄介かしら? 「まあ、なんだかんだといって人間が魔王を倒す事もありえないとは言えないしね。 次に、何故こんなにも対応が早いのかしら?」 「ルビーアイ様がお気付きになられたからだ。それ以上私に何が言える?」 「まあ、それもそうよね。それから、リナ=インバースって知ってる?」 その言葉に、ノーストが哂い始める。 「は、ははははははっ! 貴様、知らないのか?これは傑作だ!」 ・・・なんですって? 「それはどういうことかしら」 「人間、リナ=インバースはな・・・死んだ! 娘を残し、ガウリイ=ガブリエフと共に!八年前にな!」 全身が総毛だつ。 不可解な感情が身体のうちからあふれ出した。 あたしはわけがわからないままその感情を必死で押さえ込む。 「何故死んだ?」 ざわざわと感情がうねる。 「く、くくっ。くふふふふ・・・」 「答えろ!」 首筋のそばに、あたしは剣をつきたてる。 「・・・リナ=インバースは危険人物だった。魔族にとっても、神族にとっても。 なぜなら、魔王様を一度、冥王《ヘル・マスター》様を一度滅ぼしてるからな。 その上異界の魔王を追いやったとなれば警戒しないほうがおかしい。 先に神族があの人間を抹殺しようと動いた。魔族はそれを逆手に取り、協力してやって竜神を二人滅ぼしたのだ」 「・・・どう、やって?」 「混沌の言葉《カオス・ワーズ》の古語さ。 あのお方の力を増幅させる呪文を腕輪に幾重にも書き込み、増幅させて滅ぼした。 それをあの人間がどこで手に入れたのかは知らんが・・・どこかで買ったと聞いた。 人間も奇妙な代物を売るものだな」 買ったぁ!?そんなモンがぽこぽこ売られてたまるもんですか! あたしは表情が少し引きつりつつも、先をうながす。 「・・・それで?何故死んだの?」 「復活なされたのだ。ルビーアイ様が。そして死んだ! ただそれだけだ。他には知らん。 それを知っているのは、復活なされたルビーアイ様自身と、リナ=インバースのそばにいたゼロスのみだ」 ・・・ゼロス。 何でこう・・・ゼロスはリナ=インバースに関わってくるのかしらねっ!! 「あのお方、って、悪夢を統べる存在《ロード・オブ・ナイトメア》のことよね?」 「そのとおりだ」 「なら、その力を増幅する呪文、あんたは知ってる?」 「知っているわけがないだろう。あのようなもの読めるものなどほとんどいない。魔族や神族ですらな」 なら、いい。 「これであたしの質問は終わりよ。 混沌で眠れ。魔族」 「・・・!?話が違――」 ――どんっ! あたしはノーストの首を切り飛ばした。 話が違う?それこそこいつがあたしの言葉を聞いてない証拠よね。 「あたしは一言も、答えたらあんたを滅ぼさないだとか、逃がしてあげるなんて言った覚えはないのよ」 あたしは散る黒い塵を見やりながら、剣をおさめた。 あとがき エ:グロードくん元バージョン登場。ただしあっさりとやられ。 あまりにも雑魚なやられっぷりだったのでやった本人第五部まで覚えておらず。 L:・・・哀れ。 と、それはいいとしてもこの世界とんでもないことになってない? エ:なってますねー。思いっきり。 リナ=インバース死んでたり竜神二体滅んでたり魔王復活してたり人間ほとんど駆逐されてたり。 当然のごとく北の魔王も復活。はっはっは。神族側劣勢っすよ。 んでもってルキちゃん悪役化。次はゼフィール・シティを征服よ!(違 L:・・・・・・あほなヤツはほっといて、そろそろおいとまさせていただきます。 それでは、さよーならーv |
30540 | 第四部〜万華鏡〜『りにゅうある』第三話 | エーナ | 2004/8/13 22:11:44 |
記事番号30478へのコメント ――そのかいなに抱える水によって、死せる魂を浄化せんことを願う それは。清らかな流れを望む唄。 「・・・ここにいると次のヤツが来そうね。 少しだけでも移動したほうがいいかしら・・・?」 剣をおさめ、あたしはつぶやいた。この村を囲んでいる漆黒の森に、すでに太陽は飲み込まれつつある。 この様子だと、他の場所も同じ状態だと考えられるわね。 だとしたら、人間がいる可能性がある場所に行ったほうがいいか。 空気の乾燥具合から、ここはおそらくエルメキア。なら、一番近いのは・・・ 「・・・ゼフィール・シティ」 あたしは感慨深くつぶやく。 そこは、リナ=インバースの故郷。 A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』 第三話 日が沈んだばかりの時間。私はある兵士からの報告に目を見開いた。 「――第三小隊が全滅!?第一、第二小隊共に壊滅的・・・なんてこと!」 がたん、と椅子が倒れる。 私はゼフィーリア王宮に与えられた執務室で舌打ちした。 「赤の竜神の騎士《スィーフィード・ナイト》様! ブロックF3に結界のほつれを確認!」 次々と新しい情報が入る。ここ八年、何とかもたせてきたけど・・・ ・・・いえ、ここで諦めては終わり。まだ戦える。諦めたら、一般市民はどうなるの! それに、あの子も・・・ 「F3には第五と第六小隊を向かわせて。 ブロックA9には私が向かいます。 私が戻るまで、指揮はゼフィール親衛隊の総隊長に。 第四小隊は引き続き避難を補助」 テーブルに立てかけてあった剣を取り、私は指示を出した。 「・・・おば様」 「・・・アーティ、ここに来ちゃいけないっていったでしょう?」 穏やかに、私はなが細い箱を抱えた子供を諭した。 扉の向こうから姿を現したのは、黒髪に深紅の瞳の私の姪だった。 妹が死んでから今10歳になるこの子を預かっているのだけれど、どうも私はこの子に甘くなる。 ・・・父も、母も、八年前の騒動で行方不明になってしまった。 その中心にいた妹夫妻も―― 「母様が、うたってたの。父様を抱えて」 八年前から表情を全く見せなくなった彼女は、ただこのことを言い続ける。 この話以外にこの子が饒舌になることはなく、いつもは身振りで物事を示すだけ。必要な時は最低限の言葉しか使わない。 「その話は何度も聞いたわ。死んだあなたの母様は歌えないわ。 あなたの父様と母様はもう死んで――」 「いつもみたいに、うたってたの。母様が。あたしのせいで、母様と父様が死んだかもしれない。 だからせめて、なんて悲しい歌なんだろうって、そう感じてくれる人がいるかもしれないから、あたしは歌を届けたの」 淡々と言葉をつむぎ続ける。 「そしたら、聞いてくれた人がいたの。 今まで誰も聞こえなかったのに、聞いてくれた人がいたの。 その人は、あたしが歌を伝えてるとても細い道を広げて、母様を探してる。 その人は、もしかしたらあたしになってたかもしれない人。 その人がね、こっちに来る。黄昏に棲む者を蹴散らして」 「その話は後で聞くわ。今は急いでるのよ。わかって?」 姪はこくりとおとなしくうなずき、でも・・・と続けた。 「もう、来てる。壁の外」 「・・・なんですって?」 「る、ルナ様!魔族の攻撃がほとんどなくなっています! 結界の外で何者かと戦闘している模様!」 息せき切って兵士が駆け込んでくる。 新たな伝令。結界の外には障気が充満し、人間が生きていられる事などないのに? 「場所は!?」 「ちょうどA9の位置です!」 「判ったわ。アーティ、ここでおとなしく待ってなさい」 返事を待たず、私は駆け出す。 王宮を抜け、人のいない町を抜け、結界の境へ。 ・・・この町を覆っている結界は二重になっている。 外側から一つ目は魔族を止めるため。二つ目は障気を進入させないため。 とはいうものの、外側の結界は自力で実体化できる純魔族をとめることはできるが、亜魔族はそうは行かない。 だから二つ目の結界が何らかの理由で破られれば、デーモンが数に任せてこの内部へ押し寄せてくることになる。 そして、私はその向こうに信じられないものを見た。 金色の髪。それはまるでガウリイさんのもの。 紅い瞳。それはまるでリナから受け継いだかのよう。 赤い女性用の軽甲冑《ライト・アーマー》に身を包み、すさまじいスピードで次々と亜魔族を屠っている。 刹那。視線が合った。そして。 何と、彼女はにこやかに微笑み、ひらひらと手を振ったのだ! デーモンに囲まれ、汗ひとつかかず、軽やかに、踊るように敵を葬る――どこかの神話にあった戦乙女のように。 赤の竜神の騎士《スィーフィード・ナイト》以外にこんな芸当ができるなど・・・信じられない。 当然のごとく、私がやればあれくらいのことはたやすい。 だが一般の人にもできるような芸当でもないのも確か。 ・・・なんという戦闘能力。 ・・・・・・しかし、このスピードで動き続けていれば彼女の体力も尽きる。 私は彼女に加勢するべく、人間には反応しない結界を抜けた。 私が加勢した後の戦闘はあっさりと終わった。 処理スピードと生産スピードがほぼ同等だったところに、処理スピードが倍に上がったからだ。 そして魔族がうんともすんとも言わなくなったところで、私は彼女を連れて結界の中に退避した。 「あー、疲れた。あんなに亜魔族相手に走り回ったの久しぶりねー」 けろりと。言ってのけたのだ。彼女は。 普通なら並みの剣士が数人かかってやっと倒す代物を何十と滅ぼしておきながら、いったのは『疲れた。』の一言だけ。 「ああ、ちょっと忙しかったから自己紹介がまだだったわね。 あたしはルキ。しばらくこの町で厄介になるから。よろしく♪」 言って差し出された手を、私は思わず握っていた。 あとがき エ:第四部三話、勢いに乗ってアップ! ルナさんと姪が登場!あ、この姪は=悪夢を統べる存在《ロード・オブ・ナイトメア》ではないので悪しからず。 L:でも口ぶりから特殊能力ありまくり。 エ:それはお約束v L:・・・ま、いいけど。別に。 エ:何はともあれゼフィール・シティに到着。 しばらくここに滞在する予定。1週間弱? L:あっそ。それでは、そろそろおいとまさせていただきます。 それでは皆様、またお会いしましょう! |
30549 | 第四部〜万華鏡〜『りにゅうある』第四話 | エーナ | 2004/8/16 21:32:12 |
記事番号30478へのコメント ――炎をその胸に抱く蠍座《スコルプス》よ、その身を炎にやつす火の精霊《サラマンド》たちの王よ それは、炎に願いをかける唄。 「リナ=インバースに会いたいの」 「・・・彼女は、死んだわ。八年前に」 予想通りの答え。 ほんの少しだけ期待していたのだが――やはり。 A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』 第四話 突然の『外』からの来訪者。 障気が充満し、生きる事すらも叶わない荒野からの来訪者。 ゼフィーリア軍に対魔族戦の切り札として中将の位を与えられたルナ=インバースに連れられ、『客』は永遠の女王《エターナル・クイーン》に会うため、謁見の間へと来ていた。 ・・・久しぶりにですますございます口調を使うわね。 あたしは内心苦笑しつつも部屋へと足を踏み入れた。 面倒な事はいやだし、できるだけ穏便に事は済ませたいから巨大な猫でもかぶらなきゃやってらんないわ。 かつ、かつ、とブーツが床を踏んで硬質な音が部屋に響く。 かつん。 先行するルナが止まり、その横にあたしは立ち止まった。 数メートル先の距離に、数段高くなっている玉座の上で威厳と自愛に満ちた表情の、プラチナブロンドの女性が座っていた。 この部屋にはあたしたち三人の気配しか感じられない。 「・・・女王、彼女が夕方、亜魔族との戦闘にご助力してくださったルキさんです」 一番最初に口を開いたのは、ルナだった。 彼女は深々と臣下の礼を取り、堅い口調でそれだけを言った。 「始めまして。私は24代目ゼフィーリア国女王、永遠の女王《エターナル・クイーン》ことテレジア=アリーシャ=エターナル。 ルキ、でしたね。今日はありがとうございます。おかげで兵たちの犠牲を減らす事ができました」 「あたしはただ遭遇した亜魔族を屠ったに過ぎません。 あたしはあたしのためにやったに過ぎませんので、礼など恐れ多い事などはけっこうでございます」 ・・・あああ・・・自分で言っておいてなんだけど痒いっ! どうして真面目にこんなセリフ吐けたかなあたし・・・あー、性格が変わってきたのがありありとわかるわ。 「あなたのフルネームを尋ねたいのですが。よろしいですか?」 「・・・あたしの名は、ルキ。ただそれのみです。 この世界に父と母はいないので」 「・・・それは・・・申し訳ないことを聞いてしまったようですね」 申し訳なさそうに女王は目を伏せた。 別に嘘は言っていないわよ、嘘は。 あたしの親は『この世界』のはいないし、当人と該当する人物は本当に死んでいるようだし。 ふっ。秘儀、『紛らわしい事を言ってうやむやにする』、である。 「・・・本題に入りましょう。あなたは、どこから来たのですか?」 「エルメキアの滅びの砂漠との境界でございます、女王」 「・・・あんな場所からですか?人間が住んでいる場所はもうすでにここゼフィール・シティとセイルーンだけだと・・・」 「あたしは、一人です。あの場所に生きた人間はいませんでした。 ひどい有様でした。何もない村、壊れた家屋、血塗られた部屋、捻じ曲がった植物、ごろごろと転がる白骨、溢れる障気・・・ 私からも尋ねたい事があるのです。八年前・・・リナ=インバースが死んだそうですね。 それから、一体何が起こっているのでしょうか?」 そう、あたしが一番聞きたかったのはこれだ。 ノーストに聞いた事はあまりに大雑把過ぎる。 ある程度、把握しておきたい。 「・・・我々もよく知らないのです。 ただ、この町にいたスィーフィードの巫女が、魔王が、復活したと言ったのです。 それと同時にリナ=インバース――いえ、そのときすでにガウリイ=ガブリエフと籍を入れていたので、リナ=ガブリエフです――が夫ガウリイ=ガブリエフと共に死亡した、という噂がまことしやかに流れたのです。 それが、何らかの事件でガウリイ=ガブリエフが光の剣を失い、それから四年が経ったときでした。 その四年の間に魔族と神族との戦いに巻き込まれ、神族が二度敗退しても、彼女たちは何とか生きていました。 しかし・・・今度は正真正銘亡くなったようなのです。 ・・・噂では、リナ=インバースに封印されていた魔王が復活した、という・・・」 「・・・!」 あたしはその言葉に顔をしかめた。 ・・・ありえないことではない。確率がどれだけ低かろうと、可能性はあるのだ。 「・・・それからの八年間は悪夢でした。 じわじわと人が死に、世界中に障気が広がり・・・対抗しようとしていたドラゴンやエルフたちもほとんどが死に絶え・・・ そして間一髪、セイルーンとここゼフィール・シティのみが生きながらえたのです。 神族はこの区域にはうかつに手を出せず、人間はごく少数の者を除いて結界の外に出ることもできず・・・ ・・・結局、守りを固めるしかないのです。この絶望的な状況の中」 こうして女王との謁見は終わった。 ・・・人は脆く、そして強い。 脆いからこそあがいてあがいて、その向こうにある強さを手に入れることのできる命。 絶望的。どうにもできない状況。これをひっくり返すための方法を探して、試行錯誤して――そして八年。 人が悲観的な生き方しかできないようになるには十分な時間だ。 この最後の崖っぷちでとどまっているような、手が止まっているようなゲームの盤をひっくり返せはしないのだろうか? そうやって、探して、待って。時間がたてば立つほど絶望に覆われる。 魔族は幾年を経ても変化する事はない。・・・最悪のゲームだ。 かといって盤外で待っている神族には頼れない。リナ=インバースが示したはずだ。 彼らの『世界』という概念には人間は入っていない。 無視されるか、利用されて捨てられるか・・・どちらにしろ人間に有利になるはずがない。 「おば様」 謁見の間を出て頭の中でそんな事を考えていた時、少女の声が聞こえた。 「アーティ、もう夜も遅いわ。うちに帰って寝なさい」 黒髪に赤い瞳の少女は、無表情にルナを伯母と呼んだ。 ちょっと待って。それじゃまさかこの子・・・! 「おば様、自分で言った事を忘れたの? 帰ったら、話を聞くって」 黒い箱を抱え、少女はルナを見上げる。 「ああ、ごめんなさいね。でもお客様が来たから、今夜泊まる部屋に案内しなきゃならないのよ」 「待って。夜に一人で帰すほうがよっぽど危ないと思うわよ? だったらあたしの部屋に案内した後で一緒に帰ったほうがいいと思うんだけど」 渋る彼女に、あたしは言った。するとルナは嘆息して、 「・・・それもそうね。アーティ、歩きながら話しましょ」 少女はこくりとうなずき、ルナと手をつないだ。 ・・・けっこうなついてるんだなぁ・・・ 「おば様、壁の外にきてたのはこのヒト?」 結界を壁とあらわし、少女が言った。 「ええ、そうよ。名前はルキというんですって。あなたやあなたの母様と同じ赤い瞳よ。おそろいね」 やわらかく微笑んでルナが言う。 「赤い瞳は、蛍ちゃんと仲良しに慣れるかもしれない人の証拠なんだって。蛍ちゃんが言ってた」 ・・・蛍ちゃん? あたしはその言葉に眉をひそめる。 「あのねえ。アーティ、蛍ちゃん蛍ちゃんってあなたたまに言うけど、私はそんな子見たことないわよ? 黒い服を着た黒髪黒目の小さな女の子で、背中に羽根が生えてる――」 ――ずしゃぁぁっ!! あたしはルナの言葉に思い切りすっころぶ。 ・・・ごめん。さすがにこれは予想外だった。ここでこいつが出てくるとは・・・ 「あら、ルキさんどうしたの?」 ルナの言葉に苦笑いを浮かべてあたしは立ち上がる。 「だ、だいじょーぶ・・・なんでもないから・・・」 ・・・こうなったらもうあいつだろう。あいつ以外にその容姿に当てはまるヤツなんぞいるかンなもんっ! あたしはほんの少し脱力しつつ、嘆息した。 ・・・あー・・・もー、どーなってんのよ、これ・・・ あとがき。 エ:ルキ、リリスの友達と知り合う。サブタイトルつけるならこんな感じ? L:・・・・・・リリスと人間が友達・・・?(胡乱げな眼差しをエーナに向ける エ:うはははは。アーティちゃん、実はこの子に秘密があるんですv 本名、アルテミス=インバース。あ、ルナが引き取ったからファミリーネームがインバースなだけで深い意味はないです。 で、愛称がアーティ。月でおそろい。 L:あー、確かに。別にたまたま名前がおそろいになったわけじゃないのね? エ:ぎぎくっ! L:やっぱりか・・・。それじゃあそんな子には、月に○わっておしお○よっ! (どこからか赤とピンクの棍棒らしき物体を取り出し、エーナを殴りつける) エ:ぐふぁっ!?す、すてーじあうとぉ・・・ L:ふ。悪(?)は滅びた。て言うか去り際のセリフが必殺武器の時期と違うし。 ・・・・・・別にいーか。 それじゃ、エーナが死んでるようなのでこれであとがきを終わりますv |