◆−突発的すとーりー・02・妙な縁から恩返し。act,1−鮎 (2004/7/23 13:57:40) No.30460
 ┣突発的すとーりー・02・妙な縁から恩返し。act,2−鮎 (2004/7/23 14:09:01) No.30461
 ┣突発的すとーりー・02・妙な縁から恩返し。act,3−鮎 (2004/7/23 18:33:36) No.30463
 ┣突発的すとーりー・02・妙な縁から恩返し。act,4−鮎 (2004/7/23 18:36:40) No.30464
 ┗突発的すとーりー・02・妙な縁から恩返し。act,5−鮎 (2004/7/23 18:41:51) No.30465


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30460突発的すとーりー・02・妙な縁から恩返し。act,12004/7/23 13:57:40



こーんーにーちーわーぁ!
ひっそりと、こっそりと。
影のように出没。鮎でございます。
やっと一区切りいったので、ネクスト2話の分を投稿します。
気を抜いて御覧下さい。



###############



そよそよと、風が髪を揺らしている。
気持ちの良い青空と、ふわりふわりと流れる雲を見上げながら。
――ポロン・・・・――
そっと、弦を震わせる。
次々と音を出して、それは一つの唄を創り出す。

「・・・・うーん」
不自然に、音が途切れる。
再び手を動かし、また、止める。
――ポォン――
――ポロロ・・・・――
「・・・・あ〜、もうっ!」
がしっ!と自分の頭を抱えて。ぼす、と草原に体を投げ出す。
「青空のばかやろぉー・・・・」
言ってから、竪琴を両手で掲げ、視界の真ん中に据える。
今はいない、楽器の持ち主。
「師匠・・・・」
呟いて、ゆっくりと、体を起こす。
自分だけの唄を創る。何処かに眠る、真実の物語を。
それが、自分の目標。
――でも。
「難しいです。師匠・・・・」
竪琴を抱えたまま、ため息をついて。
何気なく、自分の胸元に手を伸ばし――
「・・・・あれ?」
視線を下げる。
周りを見つめる。
荷物をあさる。
「・・・・ない」
なんでどうしてどこでいつっ!?
再び頭を抱えて、必死に記憶をさかのぼる。
「ゾアナにいって、果物貰って、喧嘩を見物して、怪しいお兄さんとぶつかって、マルチナちゃんが暴れて、失敗して・・・・」
ゾアナが、吹っ飛んだ。
・・・・もし。もし、ゾアナの中で落としていたら。
あそこは完全に吹っ飛んでしまった。つまり。
「・・・・木っ端、微塵?」
言ってから、ずん、と気持ちが沈む。
「ああ〜・・・・」
がっくし、地面に両手をついて。
「どうして落としたんだろう・・・・」
「何をです?」
「指輪・・・・チェーンのついた・・・・」
「ああ。貴方が落としたんですか、あれ」
「そう。私が・・・・」

・・・・・・・・

「誰何っ!?」
「いやあの。言葉が変ですよ」
がばり!と顔を上げると、そこには見たことのある姿。
にこにことした笑顔に、微妙に引きつりを交えて。
神官は、すとん、と私の前に腰を下ろした。
「先日はどうも。お嬢さん」
「いえいえ、こちらこそ・・・・」
反射的に挨拶を返して。はっと我に返る。
「いや違くて。今、指輪の事言わなかった?」
「ええ、言いましたよ」
あっさりと肯定する。そんな彼の腕をわしっ!と掴み。
「どこで!どこで見たの!」
「ゾアナの街中で」
その言葉に、やっぱり、と肩を落とす。

ああ・・・・どうしよう・・・・

そんな私の眼前に、ちゃり、と何かが差し出される。
「・・・・え?」
「どうぞ。貴方が落としたんでしょう?」
目を丸くした私の手の上に、彼は指輪をのせる。
まじまじと見つめる。
それは確かに、私の探していたもので。
古びた石のはめ込まれた、簡素な指輪。
ぎゅ、とそれを胸元に寄せて。
改めて、神官に頭を下げる。
「・・・・ありがとう。拾ってくれて」
言って、思わず笑みが零れる。
「お気になさらずに。ただの気まぐれですよ」
そして、私の手の中を興味深げに覗きこんで、
「大事なものなんですか?」
「うん。・・・・一番大好きな人の、形見」
「へえ。そうなんですか」
「まあね」
それに、と私は囁いた。
「私の、戒めでも、あるかな・・・・」
「・・・・?」
聞こえたのか聞こえなかったのか。青年は、小さく首を傾げた。
それに笑って首を振ると、私はにっこり問いかけた。
「お兄さん、名前は?」
「ゼロスといいます。貴方は?」
「私は、リア。一応吟遊詩人をやってるよ」
言ってから、苦笑を顔に浮かべる。
「有名な人の名前に、ちょーっと似ちゃってるんだよね」
「ああ。リナ=インバースさんですね」
確かに1字違いですねえ、と彼はのほほんと頷いた。
「そういえば、この間ゾアナ王国を吹き飛ばしたの、そのリナさんらしいですよ」
「あ。何か納得」
ぽん、と手を打って。ん?と首を傾げる。
「えーと、ゼロスさん?」
「ゼロスで構いませんよ」
「じゃ、ゼロス。こんな所で何してるの?」
今更だけど。
私の問いに、彼は草原の向こうを指差した。
ちらほらと、影が見える。
・・・・って、あれは・・・・
「噂のリナ=インバースさん?」
「ええ。実は訳あって、あの方を追っているんですよ」
「訳?」
問い返すと、彼は申し訳なさそうに笑って、
「まあ、詳しくは言えないんですけど。
ちょっとリナさん達のお力をお借りしようと思いまして」
そこで、とゼロスは指を振りつつ、
「つきましては、貴方にも協力して頂けないかと」
「私?」
予想外の言葉に、目を軽く見開く。
それにこくこくゼロスは頷き、
「ちょっと人手が足りないな、と思っていたんですよ。
それに、此処で出会えたのも何かの縁でしょうし」
どうでしょう?
腕を組んで、暫し、私は考える。
・・・・まあ、指輪の恩もあることだし。
「判った。出来る事なら、協力するよ」
「ありがとうございます」
では早速、と彼は彼方を指差して。
「僕はちょっと行かなくてはならない所がありまして。
代わりに、後をつけて頂いてもよろしいでしょうか?」
「構わないよ」
こくり、と私は頷いた。それにゼロスはほっと一息、
「じゃあ、よろしくお願いします。後から僕も追いつきますから」
「うん」
リナさん達を見つめながら頷いて。
「・・・・あ。でも、場所判る――」
くるり、と私は振り向いて。
「あれ?」

いつの間にか、ゼロスの姿は消えていた。


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30461突発的すとーりー・02・妙な縁から恩返し。act,22004/7/23 14:09:01
記事番号30460へのコメント

もぐもぐもぐ。
ごきゅごきゅごきゅ。
がたばたどたっ!!
「・・・・・・・・」
異常・・・・じゃなかった、以上、食事風景をお送りしております。

ゼロスに頼まれて。私はとことこリナさん達の後をつけていき。
宿に入った皆さんは、さっそく食事を開始。
・・・・語りつくせない光景が繰り広げられた。
思わず、食べていたパスタを半分ほどで下げてもらった。
勿体無いとは言うなかれ。
あの光景を見れば、誰だって、食欲が削げると思う。絶対。

がたんっ!!
椅子を蹴倒す音と共に、怒鳴り声が聞こえてくる。
「・・・・食うか喋るかどっちかにしろっ!!」
ぴたり。もぐもぐもぐもぐ・・・・・
「・・・・うわぁ」
迷わず食事を優先したよあの人達。
・・・・もっとも、食事の風景を思い出し、私は何となく納得した。
叫んだ本人も、半分諦めの入った態度で、疲れたように言い直す。
「・・・・俺が悪かった。食うのをやめて喋ってくれ!」
途端、リナさんが身を乗り出して、恐ろしい剣幕で彼に詰め寄った。
「そーは言うけどねぇっ!」

暫くお待ちください。

待ちましたかー?
皆さん、次々と部屋に帰っていきましたとさ。
彼らの話に、じっと耳を傾けてみて。ふむふむ、と私は頷いた。
元の体に戻るため、クレア・バイブルを求めて、あの岩肌のお兄さんは旅をしている、と。
手元のレモネードを、こくり、と飲み込む。
「クレア・バイブル・・・・」
私の知る唄の中にも、それらしきものは幾つかある。
師匠から聞いたのが小さい頃だったので、覚えてはいないけど。
どっかに楽譜が入ってると思う。
でも、その唄を、私はあまり好きになれない。
初めて聴いた時、とても恐かった。
「確か、あれは・・・・」
・・・・あれ?
何に関する唄だったっけ?
思い出せないと、何か気になる。
楽譜を探そうと、荷物に手を伸ばして。

かたん、と。扉の開く音。
そして、階段から、誰かが降りてきた。
その顔を見た瞬間、私はそっと死角に移動する。
リナ=インバース。
彼女は、私に気付かずに、何やらぶつぶつ呟きつつ、外に出て行った。
盗賊・・・とか、情報・・・・とか、小さく聞こえてきた。
「・・・・追うべき?」
私は、少しだけ考える。
ゼロスからは、代わりに後を追うように言われているし。
多分、リナさんを見張るのが、一番重要だと思う。
「・・・・ごー」
小さく拳を挙げて。
そっと、私はリナさんの背を追った。

山の中を、リナさんは歩いていく。
人気のない、山の奥へと進むことしばし。
唐突に、爆発が巻き起こった。
「これが、噂の盗賊いじめ・・・・」
妙に感心して、私はその光景を見つめた。
情け無用に攻撃呪文をぶち込んで。
あっという間に、辺りは火の海。瓦礫の山。
「破壊神みたい・・・・」
「いやあ、確かに。見事な壊しっぷりですねぇ」
「ん?」
何故か隣から、同意の声が上がった。
見れば、私の隣にちょこん、と座る神官さん。
楽しそうにリナさんの暴れっぷりを見ていたが、私の視線に気付いて、
「はい。ご苦労様です、リアさん」
にっこり笑って、こちらを見つめる。

・・・・何処から出たんだ、この人。

「私の居場所、よく判ったね」
「それのお陰ですよ」
彼が指差したのは、私が首から掛けた、指輪。
「その指輪の、魔力波動を追ってきました」
「へえ。そんなの出てるんだ」
私の言葉に、おや?と首を傾ける。
「ご存じなかったんですか?」
それにこくこく頷く私。
「ただの吟遊詩人だし。魔道士じゃないもの」
「ふうん・・・・」

「んっふっふっふ・・・・」
やたらと含みのある怪しい笑い方で、リナさんが賊の一人を引き寄せる。
その襟首をぐい、と引き上げて。
「あんた達の盗んだものの中に、クレア・バイブルの写本があるでしょう?
さっさと出しなさいっ!」
がくがくぶんぶんゆさゆさ。
言って、脅すように首を揺らす。
「クレア・バイブルを探して・・・・?」
でも、盗賊がそんなもの持ってるんだろうか?
「そう、馬鹿にしたものじゃないですよ」
答えは、隣から返ってきた。
「たかだか盗賊といっても、色んな情報が流れていますし。
現に、僕の知ってる幾つかは、写本を隠し持っていました」
朗らかに語るゼロス君。
その顔を私はじいっ、と見つめて。
「クレア・バイブル関係のお仕事?」
「え?」
不意打ちをくらったようなその顔に、私はリナさんの方を示しながら、
「何だか写本を探した事のあるような口ぶりだし。
もしかして、リナさんの事もそれに関わってくるのかな?」
「・・・・いやぁ」
相変わらずの笑顔のままに、彼は私に小さく拍手をくれた。
「まあ、そんなとこですかねぇ。
今回はリナさん達には、僕が追っている写本の奪取に、協力してもらうつもりなんですよ」
ですが、と。彼女の様子を窺いながら。
「一筋縄ではいかない方みたいですけど。
・・・・できれば、もう少し、付き合ってもらえますか?」
すごく助かるんですけど。
「何言ってるの」
当たり前、と私は頷いた。
「半端で終わるのは好きじゃないし。一段楽するまでお手伝いしましょう」
指輪の恩は大きいしねー。
それに、ははは、とゼロスは笑う。
「いやぁ、助かります」

ふと、彼は私から顔を逸らして、目線を動かす。
私も何気なくその先を辿ると。宿からすっ飛んできたらしい、お仲間の姿。
「役者が揃ったようですねぇ」
何気なく呟くと、彼は私の肩をとん、と叩いて。
「じゃ、しっかりついて来て下さいね」
「はへ?」
咄嗟に反応できずに言葉を詰まらす。
声へと顔を向ける。が、ゼロスの姿はどこにもなかった。
「またですかー・・・・」
あの人は、普通の入退場ができんのかい。
思わず、心の中で突っ込みを入れてしまった。

パンパンパン・・・・
手を叩く音が、頭上から響く。
音の方に目を向けて。ひく、と顔が引きつった。
「・・・・そんなとこに登らなくても・・・・」
壊れかけた木の柱。そのてっぺんに。
法衣を風にたなびかせて。リナさん達を見下ろす神官姿。
「いやぁ、なかなか素晴らしい読み。僕は感服いたしました」
「うあ?!」
とんでもないところからの、予想外の乱入者に。
皆さん、口をあんぐり開けて、ゼロスを見上げる。
実はあーいう登場の仕方が趣味とか・・・・?
瞬間、切れのある動作と勢いで、彼は真下に落下する。
「ひっ!?」
リナさんに当るか当らないかの、すれすれの場所へと着地して。
思わず身を引く彼女にがばっ!と顔を近づける。
その顔は、終始笑顔。あれで詰め寄られたら、すんごく引くと思う。
「いやあー!ひそかに後を追ってきたかいがありました。
僕も故あってクレア・バイブルを探している身、よろしければ僕の追っている盗賊から、クレア・バイブルの写本を取り戻して頂きたいと思いまして・・・・」
「ええっ!?」
「写本だと!?」
さらりと素晴らしいセリフを言い放ったゼロスに、一斉に警戒の視線が向けられる。
それでも、彼は笑顔のまま。
・・・・いい性格してるなぁ、本当。
「あんた・・・・何者?」
「・・・・あ。ご心配なく。決して怪しいものではありませんから。
ご覧の通りの謎のプリースト、ゼロスといいます」
にっっこりと。語尾に♪までくっついた彼の自己紹介。
・・・・思いっきり。怪しいと思うよ。ゼロス・・・・

・・・・にしても。
「謎のプリースト、って・・・・自分で言うかぁ。普通?」


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30463突発的すとーりー・02・妙な縁から恩返し。act,32004/7/23 18:33:36
記事番号30460へのコメント

小屋の中、ぱちぱちと、火のはぜる音。そこへからん、と薪を放り込む音がする。
小屋の外、私は身を潜めて。壁越しに、中から小さな声が漏れてくる。
「・・・・どう思う?」
「自分の事を謎のプリーストと言い切っちゃう辺り、怪しさ大爆発ですよね」
「だよねだよねー!」
ひそひそと語る、リナさん達の声。
それに、うんうん頷いてしまう。
だって怪しいもの。すんごく。
「その写本が本物って保障はどこにもないのよ?」
「確かに・・・・」
呟いてから、慌てて口を塞ぐ。
・・・・良かった。聞こえていないようである。
「ご心配には及びません」
『うえっ!?』
ゼロスの声に被せる様に、驚きの呻き。
中を見ることはできないので、何に驚いたのかは判らないが。
にしても、写本ってそんなに重要なものなんだろうか?
魔道士でもない私には、いまいちその価値の程が解らなかったりするんだけれど。
「・・・・寺院の名誉にも関ること。事を荒立てずに済ませたいと、腕の立つ方を探していたのです・・・・」
・・・・おや?
急に真面目なトーンのゼロスの声が聞こえてくる。
が。
ぱん、と。気の抜けるような音と共に、
「と、言うような事を言えば、信じてくださいますか?」

・・・・・・・・。

「・・・・変わってる・・・・」
何か、あほらしくなってきたよ。おい。
壁にすっかり体を預けて。私は空を見上げる。
星の輝く、夜空に、きらり、と光が流れ落ちた。
「・・・・明日天気になりますように・・・・」
ぼそぼそと三回繰り返す。
いや、これでも結構切実な願いなんだよ。
野宿は晴れた方がしやすいし。

きい・・・・

急に、小屋の中から誰かが出る気配。
壁に背を預けたまま、私はその姿を探す。
暗がりに浮かび上がるような、白い後姿が見えた。ゼル・・・なんとかって言う人だ。
彼はそのまま、木々の隙間をぬって、何処かへと消えていった。
他の人が出てくる気配はない。
「?」
どうしたんだろう、と私は小屋の中へと注意を凝らす。
丁度、リナさんの協力に了承する声が聞こえてきた所だった。
「・・・・但し!」
「但し?」
「あなたに協力するのは、写本を手に入れるまで!その後のことまでは保障しないわ」
・・・・なんていうか、ものすごく強気の人だ。
そこに、ゼロスの囁きが聞こえてきた。
「・・・・いいでしょう」

その瞬間。

ぞわっ!と、体を何かが駆け巡った。
「・・・・っ!」
両肩を抱いて、顔をしかめる。
「何、今の・・・・?」
まるで、冷水を浴びせられたような。
・・・・いや、そんな生易しいものじゃない。
もっと、深くて、暗くて、得体の知れない――

「・・・・リアさん?」
「ひゃうっ!?」
いきなり耳元で聞こえた声に、言葉にならない叫びを上げて。
とりあえず、大きく腕をふりまわした。

がすっ、と。打撲音がして。

あ・・・・

「・・・・れ?」
改めてみれば、足元に顔面を押さえてうずくまる、ゼロス君。
「何するんですかぁ・・・・いきなり・・・・」
「あははは」
涙交じりの訴えに、私は立ち上がるのに手を貸しながら、笑ってごまかす。
「話は終わったの?」
立ち上がった彼は、ため息一つ。顔をさすりつつ、
「ええ、大体は。今からその盗賊団に潜入してもらいます」
もらいます・・・・って事は。
「ゼロスは何をするの?」
「皆さんを暖かく見守ります」

・・・・・・・・

押し黙った私に、ぱたぱたとゼロスは手を振る。
「いやだなぁ、楽をしようなんて思ってませんよ」
これも、考えあっての事なんですから。
「そういう訳でリアさんには、もう一働きしてもらいます」
「私?」
ゼロスは、ぽん、と私の肩を叩くと。
にこにこと、無意味に朗らかな笑顔を浮かべた。


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30464突発的すとーりー・02・妙な縁から恩返し。act,42004/7/23 18:36:40
記事番号30460へのコメント

すー。はー。
数回深呼吸をして、息を整える。
決して舐められないように、しっかりと背筋を伸ばし。
私は、にっこりと、正面に据わる頭に向かって、口を開いた。
「いいお話があるんですけど」
お聞きになります?

「・・・・只今戻りました〜」
用件を済ませると。
私はアジトからさっさと離脱して、近くの岩場に駆け込んだ。
「お疲れ様です」
言葉どおり、様子をただただ見守っていた神官は、にこやかに私を見上げた。
「言われたとおり、情報を伝えてきたよ」
「こちらも、リナさん達が潜入したところですよ」
これなら、上手くいきそうですねぇ。
心なしか嬉しそうに、彼はアジトの方を見つめる。

この人、絶対人を利用しまくるタイプだな・・・・

口には出さずに、私も同じくアジトへと目を向ける。
遠目に、数人の人影が建物の中へと消えていくのが見えた。
「これで、どうなるの?」
「まあ、見ていてください」
楽しげに語るゼロス。
首を傾げた私に諭すように。

爆音。そして轟音。

「さあ。始まりましたよ」
言うと、ゼロスは立ち上がった。
「僕もそろそろ行きましょうかねぇ」
リアさんは、この辺りにいてください。
呟くと、私の返事を待たずに、駆け出した。
「あ。ゼロ・・・・」
振り向いた私の目の前で、その姿が掻き消えた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」


何?幻?錯覚?なになになににいぃぃーっ!?

ぐるぐるとそんなことを考えながら、私は岩に体を預ける。
「・・・・確かに消えた、よね」
そんな術があるんだろうか。
いや。それにしても何も唱えないって事はないんじゃないだろうか。

悩み続ける私の視界を、白いものが横切った。
顔を上げて見つめれば、それはあのキメラの兄さん。
火の手を上げるアジトへと、足早に入ってゆく。
「・・・・へぇ」
あの人。
きっと後をつけてきたんだな、と思ってから、はた、と気付く。
(私の事、気付いてたらどうしよー・・・・)
こっそりとやっては来たが、見つからないという保障はない。
そもそも私の本職は吟遊詩人だし。
思う間に、彼の姿は火の中に消えていった。

「いけしゃあしゃあとあたしを利用して!」
「利用?・・・・そうともいいますねぇ」
言い争いつつ、二人は頭の行動を見つめる。
狼狽した表情で、踏み潰した額縁の裏から、数枚の紙を取り出して。
「さあ。行きましょうか」
「人の話を・・・・っ!」
身を乗り出しかけたゼロスは、不意に表情を改める。
それにつられてリナも下を覗き込めば。

「・・・・!」
剣が一閃されると。
白い男が、頭目から紙を奪ったところだった。

天井から顔を出したリナは、すかさず講義する。
が、そのまま叫ぶリナにもかまわず、ゼルガディスは立ち去った。
慌てるリナの耳に、静かな声音が届く。

「おやおや・・・・まずいですねぇ、これは」

そして。リナも目にする。
ゼロスの姿が掻き消える様を。
「・・・・え?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・え?

「よし。落ち着いた」
呟くと、私はアジトへと目を向ける。
なおもごうごうと巻き上がる火の手。

『か――ず、――けて―――』

「・・・・え?」
一瞬だけ。脳裏に浮かんで消えていった声。
それを訝しがる間もなく。

ドゴォオオンッ!!

「!?」
今までに無いほどに、盛大な爆発。
一気にアジトもろとも、山を吹っ飛ばす。
だいぶ離れた私にも、その余波は向かってきた。
体に当る小石や土砂に顔をしかめつつ、私は爆発の方向を見つめる。
ようやく収まってきた土埃の彼方に、見るも無残な元・アジト。
「どうしたんだろ・・・・」
「いやぁ。ちょっと怒らせちゃいまして」

・・・・・・・・。

振り向けば。
例のごとく、いつの間にか現われたゼロス君が、笑顔で佇んでいた。

・・・・決めた。
この人の奇行は気にしないことに。決めたったら、決めた。

しっかりと決意する私に、相変わらずのニコニコ笑顔で語りかける。
「とりあえず、写本については収まりました。
リアさん。ご協力、ありがとうございました」
「気にしないで。・・・・ねぇ、本当に何があったの?」
崩れ落ちたアジトを指差して、私は尋ねた。
それにぽりぽり頬を掻きながら。ゼロスは、口を開いた。
「それがですねぇ・・・・」

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30465突発的すとーりー・02・妙な縁から恩返し。act,52004/7/23 18:41:51
記事番号30460へのコメント

「何か、どっちもどっち・・・・」
事のあらましを聞いた私の第一声。
「そんな事言わないで下さいよぉ」
「じゃあ、ぶっ飛んだ者同士」
「あ、いや。それも、ちょっと・・・・」
数回言い換えたが、どれもゼロス君のお気には召さなかったらしい。
結構細かい事気にするなぁ。

「まあ、これでお別れですね」
延々と伸びている街道に立って、私とゼロスは互いに向き直る。
あのままあそこにいるわけにも行かないので、さっさと旅の続きをしようと、ここまでやってきた。
夜も明けてきた空を見上げて、私は呟く。
「貴重な体験した気がするよ」
というか、すごく疲れたけれど。
「お褒め戴き恐縮です」
・・・・褒めてない。褒めてない。

ともあれ、この自称謎の神官さんともお別れである。
「指輪を拾ってくれた事、すごく感謝するよ」
ぺこりと彼に頭を下げると、頭上から、朗らかな笑い声。
「いえいえ。こちらこそ」
それでは、失礼します。
いうと、くるり、と私に背中を見せる。
「平和な旅を」
「ええ。平和な旅を」
私の呟きに律儀に答えてから、ゼロスの姿は道の向こうへと小さくなる。
その姿に背を向けて。私も歩き出した。
吟遊詩人としては、ありえないくらい騒がしい出来事だったけれど。
「たまには、こういうのもいいかなぁ」

何はともあれ。
次の目的地に向けて。出発。

・・・・・・・・・今度は平和に営業したいなぁ・・・・・・・・・。



###############



以上、2話のお話の連続投稿でした。
一気に投稿したので、コメントも最初と最後だけ。
続きは、まだまだ見通しが立ってないですけれど。
少なくとも、今年中(爆)
では、鮎がお送りしました。
失礼いたします〜・・・・