◆−〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第五話−エーナ (2004/8/23 16:18:30) No.30628 ┣〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第六話−エーナ (2004/8/23 18:49:16) No.30630 ┣〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第七話−エーナ (2004/8/24 05:23:43) No.30633 ┣〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第八話−エーナ (2004/8/25 07:11:53) No.30636 ┣〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第九話−エーナ (2004/8/28 20:31:45) No.30649 ┣〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第十話−エーナ (2004/8/31 10:01:06) No.30667 ┃┗Re:わぁぁぁぁぁぁっ♪−はるか (2004/9/3 22:52:41) No.30678 ┃ ┣Re:な、泣く!?−エーナ (2004/9/4 09:58:39) No.30680 ┃ ┗Re:な、泣くとまで!?−エーナ (2004/9/4 10:02:51) No.30681 ┃ ┗Re:な、泣くとまで!?−エーナ (2004/9/4 10:03:42) No.30682 ┣〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第十一話−エーナ (2004/9/4 12:27:44) No.30683 ┃┗Re:ををっ!!−はるか (2004/9/6 15:09:04) No.30693 ┃ ┗Re:ををっ!!−エーナ (2004/9/7 04:59:44) No.30694 ┃ ┗Re:ををっ!!−はるか (2004/9/10 16:36:34) No.30699 ┣〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第十二話−エーナ (2004/9/11 08:13:48) No.30702 ┣Re:〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第十三話−エーナ (2004/9/11 16:57:54) No.30703 ┣〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第十四話−エーナ (2004/9/11 18:55:57) No.30704 ┣〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第十五話−エーナ (2004/9/11 20:47:43) No.30705 ┣あぁるぴぃじぃ第八話 蛇骨館、過去への鍵を求めて−エーナ (2004/9/15 18:24:58) No.30707 ┣るきちゃんのおりょうりきょうしつ?−エーナ (2004/9/19 23:12:00) No.30711 ┗お知らせです。読まれたほうがよろしいかと思われます。−エーナ (2004/10/29 19:20:09) NEW No.30814
30628 | 〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第五話 | エーナ | 2004/8/23 16:18:30 |
――その胸に抱く炎によって、死せる魂を浄化せんことを願う それは、泣きながら歌っている唄。 「・・・母様が・・・また泣いてる・・・」 アルテミスは、窓際でぽつりとつぶやいた。 A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』 第五話 はっきり言って、今のあたしは機嫌が悪かった。 切り倒し、焼き尽くし、氷付けにし、あるいは塵に、あるいは貫き――そして三日だ。 デーモンたちの襲撃は毎日続き、かなりこちら側に疲労が出てきている。 最初の日を含め、四日連続でデーモンが出てくるなど今までなかったそうだ。 おかげで詳しい話を聞くには時間が足りず、大雑把にしかこちらの世界の状態を把握していない。 一応、ここで整理しておこう。 10年前、冥王《ヘル・マスター》が倒されてからデーモンの動きが活発化し、徐々に被害が増えていったという。 これに竜族やエルフなどが動いたが、数が多く対処しきれなかったそうだ。 それから2年の間に神族が動き、危険人物としてマークされていたリナ=インバースを狙ったが、二度ともあえなく返り討ち。 どうやら金色の魔王《ロード・オブ・ナイトメア》の呪文のパワーを増幅するアイテムをどこかで手に入れたらしい。 それによって竜王は地竜王《アース・ロード》ランゴートのみとなった矢先、最悪の事態が起きた。 すなわち、魔王の復活。 その場にいたのは、リナ=インバースとガウリイ=ガブリエフ、そしてその事態に追い込んだゼロスの三人。 当然ではあるが、前者二人は死亡しているといわれている。 それを瞬時に察知し、魔王の動きを妨害するためにランゴートが動き、魔王より先に北の魔王のところへ到着。 まともにぶつかり合い――そしてランゴートが『死』んだのだ! 単純計算で7分の1対4分の1だというのに、よ。 これが降魔戦争の時のように誰かを捨石にして辛勝、というのならまだしも、どんなトリッキーな作戦を使ったのか知らないが、魔族側はほとんどノーダメージ! ランゴートがラグラディアの封印に干渉したらしく、北の魔王の封印は解けてはいない。 それから障気はじわじわと世界中に広がり、あわてて結界を張ったセイルーンとゼフィーリアの首都のみに人間が生き残っているそうである。 そしてじわじわともてあそぶように結界にデーモンたちが侵入し・・・全く、趣味が悪い。 ――こんこん。 物思いにふけっていたあたしの耳に、おとなしいノックの音が入ってきた。 「・・・どうぞ」 そのうながす言葉に、黒髪に赤い瞳の少女が入ってきた。 彼女はルナおばさんの養子で、リナ=インバースの子供。 たしか、アルテミスだったかしら? 「・・・ルキ。母様が、また泣いてるの」 「ああ、聞こえるわよ。 精霊の鎮魂歌《レクイエム》、星の章」 ぴりぴりと震える声。 あたしには聞こえている。そしてこの子も。 あの歌は精神世界側《アストラル・サイド》に響き渡り、障気を乗せて、純粋な悲しみだけを伝えている。 ・・・全く、むかつくったらありゃしない。 あたしは与えられた部屋のソファに座り込み、いらいらと髪を書き上げた。 そのしぐさを、アーティは無表情に見つめている。 「・・・母様は、いつも泣いてるの」 泣いているのはリナ=インバース。そして歌っているのもリナ=インバース。 わかってる。きこえてるもの!この声は彼女のもの! 「悲しみしかなくて、それ以外のすべてが赤くて昏いヒトの中にいるの。 ただ父様が死んでしまったことを泣き続けてる」 「・・・なんですって?」 赤くて昏いヒト?シャブラニグドゥ? 「世界に、黒いものが広がってる。すぐそばが中心なのに、母様は気付かない! 精霊に頼んで伝えても、伝えても、歌うだけなの。悲しいって、泣いて歌ってるだけ」 赤い瞳がまっすぐにこちらを向いている。 顔の筋肉が感情を表すことができなくても、瞳ははっきりと訴えていた。 苦しい、つらい、悲しい、どうにかしたい、でも出来ない、と。 赤い瞳。それは大昔に滅んだ、精霊信仰の巫女の血が流れている事を示す。 すでに宗教としての名すらも消えてしまったその信仰は、歌によって精霊を操る事によって成り立っていた。 今は赤い瞳だけが残っているはずだったのだが・・・ ルナおばさんは赤の竜神の騎士《スィーフィード・ナイト》の力が強かったからその能力も血も無い。 この子は少々その血によって、精霊の歌についての感覚が鋭いだけかと思っていたのだ。 あたしがそれらの歌を歌ったら、母さんも反応した。 だが、この子の言葉は、どう考えても精霊を操っているようにしか聞こえない。 感じるならまだしも、精霊を操る?あたしが歌を歌ってもそんな事にはならない。 この子、もしかして・・・先祖がえり!? 「あなた・・・リナ=インバースが今歌っているもの以外にも歌を知ってる?」 アーティはこくんとうなずく。 ・・・この結界は、精霊魔法を応用して張っているそうだ。 なら、この子の力を使えば強化も出来るんじゃないだろうか? そうすれば、あたしがこの町に留まる事もないし―― 「母様を、助けて」 短くも簡潔な言葉。 「・・・それは、あなたの母様を生き返らせるということかしら?」 あたしの言葉にアーティは首を振る。横に。 「違うの。泣いてるから。もう元に戻らないって知ってるし・・・ だから、泣いてるから、悲しいって泣いてるから・・・」 止めて。せめて、悲しいと感じる心を、最後に残った心を消して。 言外にそのセリフを隠し、アーティはじっとこちらを見ている。 「・・・なら、場所は知ってる?」 「サイラーグ。赤くて暗いヒトが、影たちを連れて作った城に」 サイラーグ・・・ まさしく、魔王城、ってか? 「手伝ってくれる?」 その言葉に、アーティはこくりとうなずいた。 あとがき エ:りにゅうある第五話、ここにお送りいたしました。 L:・・・あれ?なんか前からこの設定ってほのめかしてなかった? エ:はい。入れたくて入れたくてうずうずうずうずしてたんですよ。 そしてこの宗教、主神はリリスだったり。 L:をい。 エ:いや、これはですね。この宗教の歌にやたらめったら『精霊の女王』やら『楽園の蛇』やらの言葉が入ってるんですよ。 だが、しかぁぁぁし! L:・・・元々同一だったものが二つに分裂したとか? エ:ぐごふっ! す・・・鋭い・・・同一の存在だったはずが、いつの間にか主神である『精霊の女王』と、相対する『楽園の蛇』に分裂・・・ 前者が歌詞に織り込まれている歌はどちらかというと『聖歌』のノリなんですが、後者は死者の導き手とか闇の化身とかのイメージからが葬送曲とか鎮魂歌に・・・ ・・・まあどっちでも大差ないんですけどね。 L:別にそんな裏設定なんてどうでもいいし。 エ:がふぅっ! L:さて、吐血しまくってるエセ物書きはほっといて、これであとがきを終わります。 みなさん、それではさよーならー♪ |
30630 | 〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第六話 | エーナ | 2004/8/23 18:49:16 |
記事番号30628へのコメント ――風と共にかける獅子座《レオ》よ、その身に風にやつす風の精霊《シルフ》たちの王よ それは、純粋な悲しみ。 「・・・大変な事になったわ・・・」 羊皮紙をくしゃりと握りつぶすルナの頬に、冷や汗が滑り落ちた。 A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』 第六話 「アーティ、ここのフレーズは一拍置いて、半音最初の音を上げるのよ」 羊皮紙に書き込まれた楽譜を手に、あたしはアーティと話し合っていた。 アーティが精霊のみこの先祖がえりだと判明してから二日。 あたしは部屋で、できうる限りアーティと一緒にいた。 「・・・綺麗に聞こえる」 「でしょ?それから十四節目の三つ目の音は前の音と同じ音階で・・・」 こくこくとうなずくアーティに、あたしは歌を仕込んでいく。 「――ルキさんっ!!」 乱暴にあたしの部屋の扉を開け、ルナが駆け込んできた。 その表情にはあきらかに焦燥が浮かんでいる。 ・・・一体何があったんだろう? 「ルナさん、どうかした?」 「・・・これを」 彼女が差し出したのは、少ししわのある羊皮紙。 内容は・・・・・・って。なにこれ! 『ここ一週間ほどで結界外部の障気が高まり、亜魔族の数が増加。 その原因は裏に高位魔族がいるためと思われる。 魔力波動からしておそらく海王《ディープ・シー》。 午前零時前後に障気の高まりががピークに達し、純魔族が溢れる事は必至。 そのとき結界が持つ可能性は3.1%。至急対策を講じるべし』 「んなッ・・・!」 息をのんだ。 あたしはポーチからぜんまい仕掛けの懐中時計を取り出し、時刻を確認。 ただいま、午後11時半! 「兵はすでに配置済みです!ですが、結界が破られればこのまちは障気に包まれ・・・」 「・・・判ってるわよ!あらゆる動物が住めなくなるんでしょ!? アーティ、これ持ってて。街の中心は王宮だから、その一番高いところで、この針が二つ重なった時にお願い!」 あたしは時計をアーティに渡すと、彼女はこくんとうなずいた。 「ルキさん、そのこに何をやらせるつもり!?」 「話は後!今は時間が無いでしょうが! こうやってる間にも露払いにデーモンが出てくるでしょ!」 「あ・・・ええ、何やるのか知らないけど、無茶しちゃダメよ、アーティ」 その言葉を残し、あたしとルナは部屋を駆け出していった。 ――どぅん! 「もう始まってる!?」 王宮から外へと飛び出し、あたしは声を上げた。 本来なら紺碧の北の空が、紅に染まる。 西も似たような状況だ。 満月は美しく天空に輝き続けているが、それが遠い世界のように穢れなき純白の光で地上を淡く照らす。 「あたしは北!ルナさんは西にお願い!」 「ええ。死なないでね!」 「誰に言ってるわけ?あたしは堕天使さまよ!」 お互いに不敵に視線を交わし、二手に分かれる。 あたしはかけだし――ざわりとした気配に眉を片方跳ね上げた。 「・・・雑魚にかまってる暇は無いのよ」 ぼこぼこと暗い影がいくつも盛り上がり、形を作る――前に。 「烈閃牙条《ディスラッシュ》!」 光の刃が無数に飛び出し、通り抜けざまにそれらのことごとくを闇に散らす。 ・・・12時まで後20分弱。呪文唱えてる間さえ惜しいわね。 あたしは、ふふ、と笑い、ひとみを金色に煌めかせる。 そして背から飛び出すのは、闇よりも濃い漆黒の二対の翼。 背中に展開された漆黒のそれは、攻撃手段兼防御手段兼移動手段。 漆黒の力の端末は、強引に風の精霊を操って自らにまとわりつかせる。 実体の無いそれが大きく羽ばたくと、あたしは浮遊感に身を任せた。 「いーーーーーーっけぇぇっっ!!」 ぐん、とスピードが上がる。 家の屋根瓦をふっとばし、あたしは飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ! 喧騒が耳に届いてきた。どんどんと近づいてくる。 そしてそれがびりびりと身体を振るわせるほど大きくなり、その場所の真上に着いた。 「巻き込まれたくなかったらどきなさいっ!」 あたしは空に静止し、両手を空にかざす。 今まで戦っていた兵士たちはあたしの術の問答無用さを知っているので次々と撤退していった。 残るのは燃える家屋とデーモンの大群。 ぱりぱりと黒いプラズマを放出して、あたしの両手の間に漆黒の玉が出現する。 「雨雨降れ降れもっとふれ〜ってか!」 ――きゅどどどどどどどどっ!! 漆黒の玉がはじけ、一斉に天へと向かい――そして雨のように地上へと降り注ぐ。 虚無の雨は狙いたがわず地上のデーモンたちを残らず刺し貫き、消滅させた。 んん〜っvカ・イ・カ・ンv・・・って、これじゃちょっと危ないヒトね。 まあそれはともかく、久々に思いきり力を使ったのでここんとこのイライラも消えた。 所要時間、5分強。さてと、障気がどんどん濃くなってるからどうにかしなきゃね。 あたしは地面に降り立って、翼を消した。 ぴ、と左の人差し指を天にむけ、気合を入れる。 「来い来い来い来い・・・!」 数々の負の感情がそこに集まり、あまりの過密さに赤黒く発光を始める。 それがあっという間に強くなり――はじけた。 むかむかする空気が消え去り、すっきりさわやかさんである 「お掃除完了v」 「――あらまあ、これは綺麗さっぱりと・・・」 突如現る濃い闇のにおい。 ・・・これは。 あたしは振り返り、屋根の上に平然と立っている影を見上げた。 ――時刻は、12時。 あとがき エ:うはははは。海王《ディープ・シー》登場。 L:うん。弱いわね。 エ:・・・か・・・仮にも魔王の腹心を・・・・・・ L:・・・あたしの強さをフィブリゾと同等にしたのはどこのどなた? エ:ここのあたし! ――ごぎゃぁっ! L:いばるないばるな。 エ:い・・・板井・・・じゃなくて痛い・・・ L:坂井? エ:板井、です・・・そんな引越し屋みたいな事いってません・・・ ――めりゅぅっ! L:引越しを笑うものは引越しに泣くっ!・・・って、なんか違う気がするけどまあいっか。 何はともあれ、第六話をお届けしました。それでは! ――幕―― |
30633 | 〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第七話 | エーナ | 2004/8/24 05:23:43 |
記事番号30628へのコメント ――その巻き起こす風によって、死せる魂を浄化せんことを願う 昼夜を問わず、それは響く A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』 第七話 除去した障気が、再びじわじわと広がり始める。 やはり、結界に穴が開いているらしい。しかも今度は外側も! 「ここにはデーモンたちを向かわせたはずなのだけれど・・・もしかして貴女が片付けたのかしら?」 満月を背に、青白い逆光を浴びつつ女は立っていた。 漆黒の髪に青いドレス。おおよそ屋根の上に立つ風体ではない。 だが、こいつから魔を感じる。 燃える炎を近づけることすらさせず、彼女は立っていた。 「そーよ。文句ある?」 「おもしろい、ですわ」 表情はあまり見えないが、笑っているのだろう。おそらく。 「あたし、あんたを相手にする時間が惜しいんだけど」 「あら、そういわずに・・・」 す、と彼女の右手が動く。 「あたくしのお相手をしてくださいませっ!」 「五分で片付けてやろうじゃないの!」 ――どんっ! 放たれた青い光を避け、呪文を唱え始める。 ああもう12時よ!?アーティ何やってるわけ! 「降れ!」 漆黒の玉が瞬時に出現し、はじける。 そして先ほどと同様に虚無が雨のように降り注ぎ―― 「甘いですわ」 踊るようにステップを取り、そのことごとくを避ける。 ああもういらいらするっ! ・・・それにしても、こいつ素早い。避ける事に関しては魔族の中でもぴか一だって聞いたことがあるけど・・・ よし、あれやるか! 「烈閃牙条《ディスラッシュ》!」 あたしが放ったいくつもの光の刃は、くそまじめにまっすぐ海王《ディープ・シー》へと向かう。 「甘いと、言っているのです!」 海王《ディープ・シー》の腕の一振りによって、あっさりと光は掻き消え―― ――がぐん。 「きゃ・・・!?」 突如、家が盛大に陥没した。当然その上に立っていた海王《ディープ・シー》の姿勢も崩れる。 目くらましに呪文を使い、地精道《ベフィス・ブリング》で家の下の土を根こそぎ消したのだ。 あたしは間髪いれず駆け込んで飛び上がり、剣を一閃! 向こう側に着地して体勢を立て直し、剣を構える。 あの程度で倒れるとは思えないからだ。 振り返り――いない!? あたしはすぐさまその場所を飛びのくと、そこに青い光が弾けた。 「・・・やられましたわ。まさかここまでとは・・・・・・ ですが、貴女は魔族との戦いに慣れている様子。 これほどの手練れが、何故最近になるまで見つからなかったのかしら?」 あたしの目の前には、わき腹を右手でかばう海王《ディープ・シー》が。 その瞳には鋭い光が宿っている。 「それは企業秘密よ。けど魔族もけっこう慎み深くなったものね。 人間を素直に褒めるなんてさ」 「人間は命が短い分成長も早い・・・魔力は少なくとも、技術は賞賛せよ、と。 シャブラニグドゥ様のお言葉ですわ」 「・・・・・・ずいぶんと性格が変わったわね。シャブラニグドゥのヤツ」 あたしの瞳に剣呑な光が宿るのが自分でもわかる。 「それは、あの破天荒な人間が混じれば当然といえるかもしれませんね」 「・・・・・・リナ=インバース・・・・・・やな相手ね、全く」 敵。あたしの目の前にいる邪魔なやつは倒す。 ああ、むかつく! あたしは血が上りかけている頭を振り――そして聞こえた旋律に動きを止めた。 ――望月《もちづき》の光のもと、聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな―― 「・・・この歌・・・一体・・・?」 海王《ディープ・シー》は眉をひそめ、王宮のほうへと視線を移す。 ――輝ける星のもと、精霊の女王よ―― 「・・・予想より遅かったわね。さて、海王《ディープ・シー》。とっとと帰ったほうがいいと思うわよ?」 精神世界側《アストラル・サイド》に響く歌声に、あたしは嘆息した。 「なぜ?あたくしは目的を果たしてはいませんわ」 「あたしを倒す事か、それともこの町を潰す事か・・・あんたの目的ってそんなところでしょ? デーモンたちがてこずってるから、あんたが直接出てきた。違う?」 「否定はいたしませんわ。貴女を倒すか、貴女が留まるこの町を潰すか・・・そのどちらかを成せとの命令ですもの。 ・・・貴女がとどまり続ける限り、同じような事は何度でもおきますわよ?」 「それは困ったわね。でももうこの町に留まる理由はないわ。 この町の結界はもう誰にも破られなくなる。だからこの町にこだわる理由はあたしにはもうない。 歌を聴いてみなさいよ。これが何の歌か、あなたにはわかる?」 あたしはくすくすと笑って肩をすくめて見せた。 頭がゆっくりと冷えていく。うん、落ち着いてきた。 ――光ありきすべての業、月には陰陽の力ありて―― 「これに、何の意味があると・・・」 ――輝ける王国の魂、降り来たれ・・・そして我らは願う、全ての魂が安らかなる事を―― 「・・・精霊の歌、『夜の聖歌』。満月の円形は魔方陣の意味を持つわ。そして月には巨大な魔力がある。 そこで精霊の女王の文句が含まれている歌が赤い瞳の巫女によって歌われ、さらにその歌の中に『光』が含まれているとなれば。 ――歌が響いている一種の『聖域』では・・・魔族の力の弱体化を招くと思わない?」 「それは、まさか大昔の・・・!」 はっ、と海王《ディープ・シー》の表情が驚愕に歪む。 ――闇よ、命を奪う影たちよ―― 歌が佳境に入る。 「・・・く・・・してやられた!」 海王《ディープ・シー》は身を翻し、一歩進むと同時に虚空へとその姿が溶けた。 ――我ら命ある者の生を奪うならば、精霊の守護よ・・・・・・精霊の女王よ、我らを守護したまえ! 聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな・・・ここは精霊の聖域《サンクチュアリ》!―― 精神世界側《アストラル・サイド》では大音量で響く少女の歌声に、あたしはほくそえんだ。 これで歌は終わり。障気も完全に引いている。 結界のほうは・・・弱弱しかったはずのそれが、魔なるものを寄せ付けぬほど強くなっている。 あたしが内側から外側へ通り抜けるのは問題ない、か。 びりびりと魔力が満ち、プラスのエネルギーが溢れている。 これであたしもこの町から離れられる。明日の朝に発たせてもらおう。 本当ならセイルーンへ生きたいところだが・・・そうも行かない。 あたしが行けば向こう側に負担がかかる。 なら、一気にサイラーグへ向かうのが筋というものだ。 次は、サイラーグ! あとがき エ:ゼフィーリア編、これにて終了です。これで物語は後半に入り、サイラーグ編へと進みます。 精霊の鎮魂歌の歌の句もおよそ半分。残り六話で終了する予定。ですが予定は未定・・・しくしくしくしく・・・・・・ L:くぉんのあほうっ!! ――ごしゃぁぁぁぁあんんっっ!!! エ:ぐぅふぉおおっ!!? L:あ、いつもより『!』マークが多い。 せーだいにやってるわねー。まあ、それはともかく、第四部大幅変更して残り半分! ・・・原作沿いってどこに行ったのかしら?まあいいわ。 それでは、これであとがきを終わりまーすv |
30636 | 〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第八話 | エーナ | 2004/8/25 07:11:53 |
記事番号30628へのコメント ――大地を駆ける牡牛座《タウルス》よ、その身を大地にやつす大地の精霊《ベフィモス》たちの王よ 闇はただたゆたい、この歌は響く。 「ルキ」 「・・・アーティ、起きてたの?」 荷物をまとめたところに、アーティが部屋へと入ってきた。 「ありがとう。あたし、これしかいえないけど。 ・・・・・・がんばって」 その言葉にあたしは微笑む。 「大丈夫よ。堕天使様に任せなさい!そうそう、そこの机に楽譜が置いてあるから練習しなさいよ?」 アーティはこくりとうなずいた。 あたしは彼女の頭に手を置き、さよなら、と言った。 A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』 第八話 すとん、とあたしは軽い音をたてて大地に降り立った。 サイラーグまでのショートカットに使った漆黒の翼をたたむ。 ここは障気が一段と濃い。 そして歌声が大きく響いている。 ――色とりどりの綺羅星よ―― ・・・うるさい。この唄を歌っているのはリナ=インバース。 だが、彼女ではない。 悲しみのみが声を張り上げ、残骸が歌う。 これは、彼女じゃない。苛烈なほどの魂。あの心はもう失われてしまっている。 ――水をそのかいなに抱える水瓶座《アクエリウス》よ、その身を水にやつす水の精霊《オンディーヌ》たちの王よ―― ――そのかいなに抱える水によって、死せる魂を浄化せんことを願う―― あまりに濃い障気によって、赤黒い光がちらほらと漂う。 目に前にある影によって出来た城は実体が無い。ただのイメージの産物。 ・・・イメージ。どうやらここは半分異空間に近いようだ。 建造物には無機質な塔がところどころに突き出し、『城』とは呼べても人間の手によるものではないとあきらかにわかる。 シャブラニグドゥ。あたしの世界のそいつではない事はわかっている。理解しているし納得も出来る。 その事実にちゃんとあたしはその通りだとうなずけるだろう。 ・・・が、ここはもしかしたらなっていたかもしれない世界だと言うのがあたしの憤りを誘うのだ。 シャブラニグドゥ。リナ=インバース=シャブラニグドゥ! 悲しみを切り捨てて、滅びを撒く?悪いが同意しかねる。 あたしの世界ではないとはいえ、リナ=インバースを貶めた覚悟、出来てるんでしょうね? ――炎をその胸に抱く蠍座《スコルプス》よ、その身を炎にやつす火の精霊《サラマンド》たちの王よ―― ――その胸に抱く炎に・・・・・・―― 「うるさいっっ!!」 あたしの怒号に周囲の障気がはじけて散った。 あたしの怒りが、一瞬だけ瞳を金色に染める。 ああ、昏い。昏くて何もかもが沈んでいく。 「早かったですわね。ここまで来るのは」 かつん、とヒールを鳴らして海王《ディープ・シー》が現れた。 この前の傷は浅かったようなので、その傷はもう見えない。 まあ、隠しているだけだろうが。 「裏技使ったのよ。文句があっても無くても邪魔するならはり倒すわよ?」 「・・・似ていますわ。人間の、リナ=インバースに。 真似でもしていらっしゃるのかしら?」 くすくすと笑う。 「・・・・・・むかつくわね。その言い方」 「あら、お気に触ったのなら失礼」 「触りまくりね。悪いけど。だから――」 そこでいったん言葉を区切る。 一瞬、瞳が金色にきらめいた。 「滅んどいてちょうだい」 「・・・え?」 ――きゅぼっ! 「がっ・・・!?」 心臓の部分がはじけて散る。 そこに本体があると見当はついていたから簡単だ。 倒れゆく海王《ディープ・シー》からすでに目線をはずし、前へと進む。 城の壁に手を当てる。そして―― ――ご・・・ごごごごご・・・ 音を立てて壁に入り口が開いた。 ふん、いらっしゃいませってか。 ああもう、この態度もむかつくっ! 一歩踏み出す。 ひやりとした影の温度が漂い、闇以外の何もかもを拒絶する。 ――・・・ご・・・ごごぉん・・・ 開くのと同じ音をたてて入り口が閉じる音がした。 それと同時に光がさえぎられ、周囲が漆黒の闇に包まれる。 そして次の瞬間、ぼぅ、と赤黒い光がちらほらと漂い始めた。 高濃度の障気が赤い波長の光エネルギーを発しているのだ。 まるで、黄昏のように昏い。 ああ、いらいらする。 頭の中であの歌が響く。 それがあたしから正常な思考能力を奪っていることは判っているが、どうしようもないのだ。 硬い壁に靴音が反射するのを耳で捕らえながら、作られた廊下をただ歩く。 このまままとめて壊してしまいたい衝動に駆られる。 だが、あたしはそれを抑えてただ歩く。 ああ、いらいらする・・・ッ!! 緩やかにカーブする廊下を歩き続け、あたしは開けた場所で立ち止まった。 ここは魔族の作った城。ならこの広い部屋に意味があるはず。 「・・・出てこないの?」 あたしのいらついたセリフに、影がひとつ、しゃしゃり出てきた。 「始めまして」 アメジストのような一対の瞳が、闇の中で光を反射する。 ・・・ゼロス。 「・・・で?」 「これはそっけないお言葉ですねえ。 ただいま我らが主があなたとお話しするための部屋を用意していらっしゃる途中でして。 準備が整うまでの間、あなたと雑談でも、と仰られまして。 いやはや、中間管理職はつらいですよ」 「・・・それなりに力が強くて、融通の利く部下ってところ? 便利なマジック・アイテムみたいな扱いね」 その言葉にぴくりと反応する『ゼロス』。 「即効あんたを片付けて、奥に押し入りたい気分なんだけど。どーしようかしら?」 「おっと、それは怖い・・・ どんな裏技を使ったのかは知りませんが、海王《ディープ・シー》さまを一撃で倒された方ですから。 こちらが痛手を受けるのはもう避けたいところでして」 『ゼロス』は肩をすくめ、おどけたようにいって見せた。 んー。こういうやり取りって何年ぶりだっけ? 「まあ、それはともかく。お互いに色々聞きたいこともあるでしょうし?」 ぱちん、という指が鳴る音と同時にさっと赤黒い光が消え去り、同時に豪華なシャンデリアとテーブルと二つの椅子が出現する。 ご丁寧にもテーブルには純白にテーブルクロスと花瓶、そして一輪の赤い花が飾られ、ティーポットとカップも用意されていた。 ・・・この無機質な城の床と壁に思い切りそれらの存在は違和感をかもし出していたが。 一転して明るくなった部屋で、あたしは素直に椅子に座る。 「色々聞きたいことがあるのも事実よ・・・けど、いつまでもおとなしくしていると思わないでね」 あたしは言って、低く笑った。 あとがき エ:海王《ディープ・シー》あっさりやられ。 あたしの書くのって魔族が哀れ・・・でもゼロスは特待? L:パシられやすいわよねぇ・・・ゼロスって・・・・・・ エ:あー。主人公にも魔族側にも?あっちこっちでひぃひぃ言ってそう。 L:あ、それいえるかもv でもさ、漫画家は絵を書くときキャラと同じ顔するって言うわよね? だったらいくらエセでも登場キャラと同じような・・・というわけでっ!! ――ぞりゅぅうっ!! エ:――ひぃいいいぃぃいいぃいいいっ!? L:もいっちょ! ――ごりゅぃっ!! L:・・・あ。動かなくなった。まあいっか。エセ物書きだもんネ☆ それでは、またお会いしましょう〜♪ |
30649 | 〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第九話 | エーナ | 2004/8/28 20:31:45 |
記事番号30628へのコメント ――その蹄に震える大地によって、死者を浄化せんことを願う それは、眠り知らぬ唄 A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』 第九話 「・・・やけに素直ですねえ」 「そっちが突っかかってこなきゃあたしだって少しは温厚に対処するわよ?」 含みのある笑顔を見せ、あたしは頬杖をついた。 「・・・これは一本取られましたね」 『ゼロス』は笑い、肩をすくめ絵見せる。 表情が変わらないのでその腹の内を探るのは難しいが。 「あなたは本当に変わっている。 人間らしい一面を見せたと思えば、魔族とこうやって相対する事にもためらいというものを見せない・・・ ・・・そして、知識にも富み、一瞬で魔王様の腹心すらも打ち倒す・・・ まるであなたは人でありながら魔王にでもなったようですね」 「ふふ・・・」 ゼロスの言葉にあたしは目を伏せ、再び笑う。 「そんなに面白いですか?僕の言ったことが」 「いえ・・・当たらずとも遠からず、だと思ってね・・・」 逆、だ。 人でありながら魔王になったのではなく。魔王でありながら、人になった。 「・・・ああ、それから」 香茶の注がれたカップを持ち上げ、あたしは言う。 「冥王《ヘル・マスター》の二番煎じは感心しないわよ?」 ――ぱぎんっ! カップが真っ二つに割れ、中身が零れ落ちた。 一瞬、ゼロスはその目を開き、虚空へと消えた。 「・・・まったく。『お互いに色々聞きたいことがあるでしょう』なんてうそ臭すぎるのよ」 あたしは太ももに隠してある鞘からつばのないナイフを取り出し、こぼれた香茶が広がるテーブルへと突き立てる。 とたんばちっという音をたてて香茶がはじけて消えた。 はっきり言えば、あたしは向こうが温厚に話し合いを持ちかけてくるなどと思っていなかった。 香茶に扮した精神体の一部――エネルギーの濃度が薄くて誰のものかはよく判らないが――をこちらの体内にとりこまさせれば簡単に勝てると見込んでいたのだろう。 しかし、あいにくとあたしはそんなに甘くない。 ・・・いや、気分しだいでは甘くなるけどさ。今はそういう気分じゃないし。 あっはっはっは。がんがんがんがん頭ンなかに歌が響きまくってていらいらしないとでも? おまけに中心に近づくたびに声が大きくなるのよっ! ・・・まあ、要するに。 もうこれでもかってくらいに叩きまくってやるって心に決めているのだ。 あたしはにこやかでありながら怒りのオーラを纏いつつ、席をたつ。 すると椅子もテーブルも、その上に乗っていたすべても、シャンデリアも。一瞬のうちにかき消えた。 赤黒い光の粒が再びあたりを漂い始め、一歩踏み出そうとして。 あたしは足元にある赤いものに気がついた。 テーブルの上の花瓶にあった赤い花。 薔薇、ではない。つかそんなにロマンチックな花言葉を持つものではなく。 「・・・ダリア」 深紅の花びら。細い茎。華やかに多くの花びらが円形を形づくり、茎が重そうにそれを支える。 花言葉は、栄華、移り気、華麗・・・ これだけ精神体じゃないってことは何か含みでもあるのかしら? あ、でも花言葉からしてまさにあたしの花って感じ。 でもさあ・・・魔族が花なんて気にするとは思えないんだけどな・・・ あたしは考えをそこで終わらせ、ぺぃっとダリアの花を放り出した。 歩き出して道を進む。そして、再び部屋。 今度は先ほどの部屋より小さい。そして小さなテーブル。 その上には・・・野菜のアスパラガス? よく判らん。やはり無視して進む。 そして再び似たような部屋。似たようなテーブル。 だがその上に乗っているものが違う。 イチョウの、葉。 何の意図があるのだろう? 疑問に思いつつも進み、同じような部屋をいくつも通り過ぎる。 エリカ。花言葉は孤独、寂寞《せきばく》・・・ アーティチョーク。花言葉はそばにおいて・・・ アカナス。花言葉は真実・・・ アジサイ。花言葉は無常・高慢・ほら吹き・・・ アマゾンリリー。花言葉は純粋・・・ アリウム。花言葉は無限の悲しみ・・・ アワナズナ。花言葉はあなたに捧げる・・・ キンセンカ。花言葉は悲嘆・失望・・・ クジャクアスター。花言葉は悲しみ・・・ クジャクヒバ。花言葉は悲しみ・忍耐・・・ コケサンゴ。花言葉はそっとしておいて・・・ ノジギク。花言葉は真実・・・ ミソハギ。花言葉は悲哀・・・ ムスカリ。花言葉は失望・失意・・・ ・・・ほとんどがマイナスのイメージばかりだ。 そういえば、アスパラガスには『私が勝つ・敵を除く』、イチョウには『鎮魂』の花言葉がある。 アマゾンリリーやアワナズナの花言葉はたぶん後ろ向きの意味だろう。 問題はアカナスやノジギクの花言葉、『真実』。 ここまでしつっっこく似た意味の花言葉をもつ植物を並べられたら裏があるのは明白。 真実。あたしは何かを見落としている? あたしは考えながら歩き続け、大きな部屋に出た。 向こうには両開きの扉。手前にはテーブル。 テーブルの上には、アナナス。 赤い葉が花びらのように広がるそれと、もうひとつ。 腕輪。 手に取り、それに刻まれた文字を見て目を見開いた。 『闇よりもなお昏きもの、夜よりもなお深きもの。 その力導きて、虚無と金色をわが力と成せ』 悪夢を統べる存在《ロード・オブ・ナイトメア》の力を増幅する装置。 これは、混沌の言葉《カオス・ワーズ》の古語。 古い言葉だからこそ秘められた力が高まり、増幅する機能を持つ。 ならこれは、前に聞いたリナ=インバースが持っていたはずの。 あたしは嘆息し―― ――ざぎんっ! テーブルごと、それを愛剣で叩き切った。 鏡のような断面を見せて残骸が転がり落ちる。 『闇よりもなお昏きもの、夜よりもなお深きもの。 我が力を現《うつつ》に導きて、あふれるほどの力と成せ』 瞬間的なエネルギーを増加させる増幅装置。 それはあたしの剣に刻まれた文字。 正しい手順に則《のっと》り、かつこの増幅装置を使えばその力は2倍にも3倍にもなる。 あたしは扉をねめつける。 ゆっくりと近づき、乱暴に扉を蹴りつける。 激しく軋んで、それは開いた。 その向こうには。 「これは・・・なんと言う・・・・・・」 シャブラニグドゥ。 その表情は驚愕。そして生前と変わらぬ若々しい姿。 だが。 「何で・・・!?」 あたしもまた、その『真実』に目を見開いた。 見落としていた。なんと言うことだろうか。 あたしとあろうものが。何故それに目を向けなかったのだろう。 それは、それは―― あとがき エ:わはははは。次回まで溜めます。 L:なんっちゅう・・・エーナにあるまじき展開・・・ エ:・・・・・・それは褒めてるんですか?貶してるんですか? L:貶してるに決まってるじゃない。 エ:しくしくしくしく・・・・・・ L:おーっほっほっほっほっほ! エ:・・・うっわ無意味な勝利。 L:負けたやつが何を言うっ!! ――ごりゅぅっっ!!! エ:がふ。 L:ふ。たわいない。 えぇっと、それでは。皆様またお会いしましょう! |
30667 | 〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第十話 | エーナ | 2004/8/31 10:01:06 |
記事番号30628へのコメント ――ああ、我らは脆き者――ああ、我らは愚かなる者 何もかもが失われる 何故気がつかなかった。 今まで何故気がつかなかった! それはたった二つの事実。 予想だにしなかった事実。 単純だと思っていた。 しかし違っていたのだ。 嵌められた。 そして、あたしの目の前にいる『それ』は―― A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』 第十話 「・・・これは。道理で腹心程度では歯が立たないはずです。 しかし、どこで肉体を調達したものか・・・」 驚愕した声で、『それ』は言った。 あたしを目の前にするまで気がつかなかったのだろう。 「しかし・・・これはまた、ご立腹のご様子。 ・・・我がそれだけのことをしていたのですが」 「ええ。あたし今すんごく腹がたってんのよ」 あたしは剣の切っ先を『それ』に向け、顔をしかめた。 あたしは怒っている。目の前の『それ』に対してもだが、あたしに対しても。 どうして気がつかなかった? いつも物事は単純だった。 いつもは詳しい情報を集めて、それがはずれた事が無かった。 いつも裏が見えていた。 だから、今回もいつの間にかそんな感覚でいたんだろう。 けど、今回はそんな単純な事ではすまなかったのだ。 ・・・腹が立つ。気がつかなかったあたしにも。 あたしは『それ』をねめつける。 『それ』・・・リナ=インバース=シャブラニグドゥ、とは呼べない。姿が違いすぎる。 あたしより頭ひとつ分高い背。 白い仮面に、瞳の部分には紅玉がはめ込まれている。 金色の癖の無い髪。 漆黒の軽甲冑《ライト・メイル》。 これは。 「ガウリイ=ガブリエフ=シャブラニグドゥ・・・」 なんという皮肉な事だろうか! ・・・きっとアルテミスは知ってたのね。これを。 あの子は大人びている。落ち着いている。 きっと自分が精霊の巫女だってことも気がついてた。 唄を知っているのならそれを口に出してもおかしくは無い。 障気が濃かろうが精霊は存在できる。だから、精霊にここを探らせて、これも知ってたのね。 「あんたが『ガウリイ』なら、『リナ』はどこ?」 「ここに」 いって『ガウリイ』は自分の胸を指した。 ・・・まさか。 「喰いましたよ?なかなか有用でした。 対神族の作戦も次々に思いつきましたしね」 ・・・ッ! あたしの全身が総毛立つ。 だから神族相手にたった一体で戦えたわけね・・・! ――唄が聞こえる。煩いくらいに。目の前のこいつからではない。いや、確かにその内部から響いてくるのを感じるのだが・・・ 「・・・この唄、もうちょっとボリューム下げられないわけ?」 煩さを振り払うかのように、あたしはなんとなくそれを口に出してみる。 「唄?ここは静かですよ。とても、ね」 ・・・嘘だ。あたしに聞こえていてこいつに聞こえないはずがない。 しかし、こいつにはこんなセリフを言う理由がない。 なら、本当に聞こえていない? 「・・・・・・あんたには色々と聞きたいことが出来たわ」 あたしの瞳の色が揺らめき、金色に染まった。 「我がどうしてこうなったのか、などですか」 シャブラニグドゥが哂う。 「いいでしょう」 一歩、『ガウリイ』が前に踏み出す。 背筋に寒気が走る。 「お見せして差し上げましょう。神も魔も打ち倒した人間が、どうやって闇に染まったかを」 ――どくんっ! 周囲の障気の光がはぜていく。 あたりが暗くなる。 闇に捕らわれる中で、仮面の瞳が光を放ったような気がした。 (・・・これは) 声に出したつもりだった。しかしそれは音にならず、頭の中に響くだけ。 手が出せない。傍観者。あたしは今まさにそれだった。 見ているのは過去の映像。実際の場面ではない。これは『ガウリイ』の記憶。 場所は草原。しかし見渡す限りというわけではなく、地平線のあたりよりかなり手前に森があったり沼があったりしている。 あたしは{彼ら}から少しはなれた場所に立っていた。 「ぉぉおおおっ!」 赤い光を纏った剣を構え、攻撃をかわしつつ剣を繰り出す。 ――『ガウリイ』。 おそらく魔皇霊斬《アストラル・ヴァイン》の効果が付随しているだろう剣を、そいつはひらひらと何とか身をかわす。 『ゼロス』だ。 「――華のごとき艶やかなる力・・・ 炎のごとき苛烈な色彩《イロ》よ、闇よりもなお昏きもの、夜よりもなお深きもの・・・」 精神を高め、呪文を唱え、金色の光をその身にまとう。 『リナ』。 聞いたことのない呪文。だが効果はなんとなくわかる。ましてやあたしの力を使った呪文である。 「水のごとく変化せし、混沌の海よ、たゆたいしもの、金色なりし闇の王・・・」 その手首にある腕輪がこれでもかと言うくらいに輝き、その力を示している。 あたしがさっき叩き切った増幅装置だ。 「大地のごとく不動なるものを、風のごときその力、時にすべてを浚う・・・ 上と下、光と闇、すべてがすべてを貫き、混ざり、たゆたう場所に、すべての心よ・・・今還れっ!!」 呪文が終わる。後は発動するだけ。 ・・・が。あたしはその視界の端に哂うゼロスを捕らえていた。 ――ひゅどっ!! 「・・・!?」 (・・・あ!) 『リナ』の膝が崩れた。 その腹部には『ゼロス』の杓杖が突き立っている。 ・・・なんという原始的な方法だ。 『ゼロス』は『ガウリイ』が切りかかるほんのわずかな一瞬の隙間に、投げたのだ。その手に持っていた杓杖を。 肉を切らせて骨を絶つ、である。 魔皇霊斬《アストラル・ヴァイン》の効果が必殺になるほどの力を持っていないことをいいことに、斬られるのを覚悟でやったのだ。 「リ・・・ッ!?」 『ガウリイ』が振り向く。 (ば、バカッ!) 声が出ないとはわかりつつも、あたしは思わず叫んでいた。 こんな時に敵のそばで戦闘そっちのけで背を向けたらどうなるか―― 「・・・ッが・・・」 漆黒の男の陽に焼けていない白い手が。 しかし『ガウリイ』は自らの身に起こった事も頓着せずに。 「リナ」 呼ぶ。 「リナぁっ・・・!」 それは慟哭。 仰向けに倒れた彼女はすでに絶命していた。 おかしい。おかしすぎる。 (・・・陳腐ね。でも、彼ならありえる・・・) あたしは目を伏せた。これ以上見ていたくないから。 これが引き金。 「ぁああああああっっ!!」 その“左胸”に開いた大穴を全く気にせず、叫ぶ。 障気が、溢れた。 あとがき エ:はっはっはっはっは。 死んでもーた。 L:ヲイ。いやそりゃ話の都合上必要だけどさ。 エ:僕は死にましぇん! L:いっぺん死にさらせこのあほんだらぁっっ!! エンコつめやらかすか?ァアン?(知らない人はそのほうがいいかも。っていうか清いままでいてください。危ないんで) エ:あたしゃカタギっす。ヤクザじゃないっす。ついでに仏教徒。 L:・・・『俺教』じゃないの? エ:いやそれも面白いですけど。つか天才柳沢教授ネタ? L:俺による、俺のための・・・えと。なんとかの宗教。 エ:・・・その先忘れたとか? L:ふ。人は不必要な事は忘れるものよ! エ:・・・・・・・・・・・・『人』? いや、人間も魔族も神族もエルフもドラゴンも全部ひっくるめて『ヒト』って呼んでるのは聞いたけど。 L:うるさいやいっ! ずめし。 L:さて、エセ物書きが酢飯におぼれてるところで、あとがきを終わります。 そりではたいさんっ! |
30678 | Re:わぁぁぁぁぁぁっ♪ | はるか E-mail | 2004/9/3 22:52:41 |
記事番号30667へのコメント お久しぶりです!!はるかです! 読ませていただきました!! やっぱりL様最高っ♪ 動揺したところもかわいいわっ♪(オイ) ・・・・・・・・・こほん。 ガウリイが魔王っていうのもないようで結構あるんですが、 やっぱり楽しいですねー。 といっても、この余裕はL様なんだからたぶん二人ともちゃんと無事に 帰ってくるだろう、との思いこみから来てます。 ・・・・・・・・・・・・・違ったら泣きますね。はい。読みながら。ティッシュ片手に。 SとL様との対決が楽しみです♪ それでは、短い上にやたらと意味不明ですが、これにて終了させていただきます♪(何をだ) |
30680 | Re:な、泣く!? | エーナ | 2004/9/4 09:58:39 |
記事番号30678へのコメント んにゃぁぁぁぁぁぁっ!! ・・・ああ、いきなり叫んでしまった。 お、お久しぶりですはるかさま! いやはや、『りにゅうある』呼んでいただけて恐悦至極。 ほんっっとうれしいです。 いやあ。ずばりネタばれですが、戻ってこない予定でした。(ぅをい! >ガウリイが魔王っていうのもないようで結構あるんですが、 >やっぱり楽しいですねー。 >といっても、この余裕はL様なんだからたぶん二人ともちゃんと無事に >帰ってくるだろう、との思いこみから来てます。 ・・・・・・。が、がんばりますっ! たぶん予定より長くなると思われるので、たらたらと張りの無い文章に付き合っていただければホント喜ばしい限りで・・・ そりでは、失礼します!またお会いしましょう☆ |
30681 | Re:な、泣くとまで!? | エーナ | 2004/9/4 10:02:51 |
記事番号30678へのコメント >ガウリイが魔王っていうのもないようで結構あるんですが、 >やっぱり楽しいですねー。 >といっても、この余裕はL様なんだからたぶん二人ともちゃんと無事に >帰ってくるだろう、との思いこみから来てます。 >・・・・・・・・・・・・・違ったら泣きますね。はい。読みながら。ティッシュ片手に。 >SとL様との対決が楽しみです♪ ・・・・・・。・・・・・・・・・が、がんばりますっ! ネタばれですが、このお二人は戻ってこない予定でした。(さらりと残虐なことを・・・ うう・・・ああしてこうして・・・ ・・・・・・(汗)。そ、それでは本日はこの辺でっ!(逃 |
30682 | Re:な、泣くとまで!? | エーナ | 2004/9/4 10:03:42 |
記事番号30681へのコメント ああああああああ。なんかおかしくなってるっ! ご、ごめんなさい・・・ |
30683 | 〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第十一話 | エーナ | 2004/9/4 12:27:44 |
記事番号30628へのコメント ――それでも我らは願うのだ――友の、親の、子の冥福を 聞こえる。ただそれは歌声となって。 A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』 第十一話 一瞬暗闇が周囲を追い・・・そしてもとの場所へと戻っていた。 「以外に単純でしたでしょう?」 「・・・・・・・・・・・・。」 あたしは口を閉じたまま動かない。 「――我は、あなたが嫌いです」 「・・・・・・そう」 静かな言葉に、あたしは相槌を打った。 きっと、それは真実だ。 「あなたは誰も見ない」 彼は語りだす。静かに。 「あなたは深く踏み込もうとしない」 「あなたはだれも愛さない」 「あなたはだれも憎まない」 「あなたは何にもこだわらない」 「あなたは何も必要ではない」 ならば、と。彼の言葉がそこで一瞬途切れる。 「あなたは・・・何のために我々をおつくりになられたのです?」 ――っ。 それは問われたくなかった言葉。 それは・・・・・・答える事のできない言葉。 あなたは誰も見ない ――YES. あなたは深く踏み込もうとしない ――YES. あなたはだれも愛さない ――YES. あなたはだれも憎まない ――YES. あなたは何にもこだわらない ――YES. あなたは何も必要ではない ――・・・・・・YES. 「・・・・・・あたしは」 頭の中がゆっくりと冷えていく。 あれほどうるさかった唄が遠のいていく。 怒りが消えていく。 指の先から、感情というものが凍り付いていく。 「あたしは・・・あたしがどこから来て、どこへ行くのか知らない。 あたしは、何が出来て何が出来ないのかを知らない。 あたしは全能じゃない。 あたしは全知じゃない。 ・・・・・・あなたはそれを知ってるのかしら?」 自分でも何を言っているのかよくわからない。 それでも、必死に考えて答えを返す事しか出来ない。 「・・・いいえ。あなたの本心を始めて聞きました」 少し驚いたように彼が返す。 「・・・それと同じよ。あたしは知らない。あんたとは今ここで初めて会って、あんたの事を始めて聞くわ。 あんたはあんた以外の何者でもないから、あたしはあんたが嫌い。あんたもあたしが嫌い」 彼はぴくりとその言葉に反応する。 「・・・まさか・・・あなたは、『我』を見ているのですか? ガウリイ=ガブリエフでもなく、シャブラニグドゥでもなく、ましてやリナ=インバースの残骸でもなく・・・ 『我』を、『ガウリイ=ガブリエフ=シャブラニグドゥ』を?」 「そうよ。それ以外になんだっていうわけ? 人の心を喰った魔王は、すでにもとの魔王でもなく、もちろんその心の持ち主であった人間でもない」 ・・・何故、嫌いなのだろう。あたしは、こいつを。 理由が思いつかない。 あたしは胸元のペンダントを見て・・・それを思い当たった。 リナ=インバース。 そして、先ほどの言葉を反復する。 あなたは誰も見ない ――NO. あなたは深く踏み込もうとしない ――NO. あなたは何にもこだわらない ――NO. あなたは何も必要ではない ――NO! あたしは誰を見ている? ――あたしの周囲で、あたしに語りかけてくる人を。 あたしは何に踏み込んでいる? ――あたしの周囲のすべての人々の人生に。 あたしは何にこだわっている? ――あたしが大切だと感じるものに。 あたしは・・・何を必要としている? 最後の言葉。 言葉に表すことが出来るだろうか。・・・いや、出来ない。 「・・・は」 口から声が滑り出る。 「あはははは・・・なんだ。 気がついてなかったんだ。あたしは」 自分の手の中にはたくさんのものがある。 形があるもの、無いもの、全部ごちゃ混ぜで、中には言葉では言い表せないものも。 「あたしが、神と魔を作ったのは・・・探すためよ。 あたしが本当にほしいものを、ね。 きっとそうなのよ。それはまだ見つかってないし、気がついていないだけなのかもしれない。 上っ面を見ていただけだったからわからなかったのよ。 誰も見ない?あたしはあたしと、その回りにいるヒトを見てる。 踏み込まない?あたしはあたしの回りにいるヒトの心に踏み込んでいる。深かろうが浅かろうが。 何にもこだわらない?あたしにだって大切なものは在るわ。それにこだわっている。 何もいらない?あたしにもほしいものはある。それが小さなものであろうがね。 ・・・さて、今度はあたしからよ。 あんたは何故、神を殺し、ここにいるの?そしてどうして留まっているのかしら?」 きゅ、と剣の柄を握る手に力が入る。 再び唄が聞こえてくる。がんがんとそれが頭に響いてきた。 「――ああ」 感極まったような声音で彼は言った。 「それが聞きたかった。あなたの口から」 ・・・ちょっと待て。 あたしの内心の突っ込みも虚しく、彼は安堵したような声で先を続ける。 「我にはどうしても聞きたいことがあった。 我らが母よ。我は言われたのです。ランゴートに。 『人間の力にすがって事をなそうなど、我らが母から与えられたすべてを侮辱する事だ』・・・と」 「・・・ばっかじゃないの?」 「我も、似たようなことを思いました・・・しかし、あなたはどう思うかと。 そんな事を大切にするようなお方ではないと、我は思ったのです」 だからさっきのセリフなのか・・・納得。 ・・・いや、その通りなんだけどさ。 今のあたしの主義は『立ってるものは親でも使え』だし。使えるかどうかは置いといて。 ・・・?ちょっとまて。『今のあたし』? 今の、じゃないあたしだったら・・・どう考えた? 『は?そんな事どーでもいいじゃない』 ・・・・・・。い、言いそうっ!い、いや、もしかすると・・・ 『そんな事急に言われても知らないわよンなこと』 ・・・・・・。こ、こりは・・・・・・嫌いになっても、無理、ないかな? まあともかく・・・・・・ 「・・・あんたはあたしを待ってたわけ?そのために留まり続けたと?」 「その通りです」 その言葉にあたしは嘆息した。 「あんたはそれを気にして・・・手の中にあるものを無視し続けてきたわけね」 彼の手の中にあるものは。彼がそれを直視する事を恐れたものは。 あたしは世界中に響き渡る声を聞いている。 「――色とりどりの綺羅星よ――」 繰り返し繰り返し歌われる唄の、最初の部分。 「それは、一体何の・・・」 「あんたの耳は役立たず?聞こえるでしょう?この唄が」 「・・・唄?」 あたしはまだ聞こえていないそいつにいささかむっとした。 「これは、死者が死者へ送る歌。 ・・・これはあんたが一番聞くべきよ。 この唄の歌い手と、歌われた相手を奪ったあんたに!」 「・・・あ、ああ・・・?」 彼はうつむいて、震えだした。 ――父様――母様―― 新たな声。これは。 「アルテミス!」 ――ルキ・・・母様が、父様を探してる―― この声はやはり、あの少女のもの。 もしかして、精霊を操って思念を声にして届けさせてる? ――母様が・・・父様から離れて父様を探してる―― その言葉にあたしは目を見開いた。 「それって、リナ=インバースの意識が自分の唄に反応して分離を始めてるって事!?」 消えたはずの彼女の意識はまだ存在していて。 彼の耳をふさいでいたものをそっとはずして。 ――母様が・・・・・・泣き止んだ―― ぴたりと、同時に頭の中に響いていた歌も止まる。 沈黙。静かな――とても静かな・・・ ・・・・・・え? 『ガウリイ=ガブリエフ=シャブラニグドゥ』はまだうめいていて。 アルテミスの声はまだ響いているはずで。 ――かしゃん。 あたしの手から剣が滑り落ちる。 その感覚も、音もわからなくて。 身体が、動かない。 意識が・・・追い出される!? 誰がやってるのか知らないけど、ふざけんじゃ・・・ |
30693 | Re:ををっ!! | はるか E-mail | 2004/9/6 15:09:04 |
記事番号30683へのコメント こんにちは。はるかです♪ 読ませていただきましたっ!! なんか・・・・・・L様がめちゃくちゃかわうい・・・・・っ!! どうやったらこんな人間らしく書けるんですかっ!?(問題発言) リナがやたらと女の人やってますけど、 L様の心情の変化とか、抱えているモノとかっ!! すごくツボかもしれません。(涙) 続き、期待しておりますっ!! ところで、エーナ様はHPとか創られてはおられないのですか? もし、その気が少しでもあるのでしたら―――――――― 是非是非、お願いしますっ!! それではっ♪ はるか |
30694 | Re:ををっ!! | エーナ | 2004/9/7 04:59:44 |
記事番号30693へのコメント ああああああああああありがとうございますっ!はるかさま!(どもりすぎ L様かわいいですか?私のつたない文でつづられたキャラクターに感想を持っていただけるなんて・・・!(滂沱の涙 うちのキャラは二面性が激しく、ギャグとシリアスのスイッチがひぢょうに入れ替わりやすく、ああもうこれ駄文だなぁ。なんてはっきりとわかる今日この頃。 やっぱりですね、誰でも、どんな破天荒な人でも普通の感覚って持ってると思うんですよ。 たとえそれが当然である事でも、人間である以上、とか、ヒトである以上、とかあると思うんです。 人が死ぬのを嫌がるように(基準はそれぞれですが)、心に傷を負ってトラウマが出来るように、家族を大切に思うように・・・ 何か大切なものをけなされたりすると、すごく嫌じゃないですか。 その『大切なもの』の対する価値観がたとえ押し付けであっても、『こうであって欲しい』と思うのは悪い事じゃないと思います。 ルキからしてみればリナ=勇者(にちかいもの)で、その思いを単純に言ってみれば、『女は度胸・暴れん坊・超元気・notセンチメンタル』と言う感じなんです。(ちょっと問題があるような気がしなくもないですが) ですから今回のお話は『あぁん?母さんが乙女ぇ!?誰だそんな事にさせたヤツっ!責任者でてこーい!』・・・と、サイラーグに殴りこみ。 それで、責任者が出てきて聞かれたくなかったことを尋ねられて悶々と(おそらくわずか数分ですが)悩むんですよね。 しかし、あの問い(何故Lは魔族を作ったのか。真の意図は何か)はルキでなければ答えられなかったんです。 もし混沌でボーっと日がな一日暮らしてるL様のままだったら、そのことに答えは出せないと思うんですよ。だから、それは『禁断の問い』とされてアニメのトライのゼロスのセリフのごとく、『それは思ってはならないこと』なんですね。L様が困りますから。 ところが今回Sがあっさりとその問いを口にしています。 それは人間と融合した事による『ズレ』なんです。リナの一部と、ガウリイの意識と知識、技術に思考回路。なにぶん強烈な(いい意味でも悪い意味でも)二人ですから融合によってそれらの部分が大きな位置を占めるようになって、本来ならば考えない事を考えるようになったんです。 先にガウリイと融合しましたから、どうしてもリナと融合した時に『泣かせるような事をしたくない。泣くのを見たくない。でもリナといたい』という想いがかなり歪んで、出た答えが『リナ=インバースの悲哀を削除』と言う答え。普通ならありえませんね。 んでもってガウリイは『リナがいればそれでいい。リナがいるなら大丈夫』と言う思考回路の持ち主ですから、結果先に融合した主人格(のようなもの)であってもリナに依存するわけです。 魔族としてもリナの作戦立案、とっさの状況判断能力は有用なものでしたから誰も止めなかったんです。(と言ってもそれを知っているのはゼロスのみ しかし切り離されたリナの悲哀の感情は、ガウリイが居なくなってしまった事に反応し、泣いていたわけです。その結果があの唄(この辺りは本編中にも言われていますが)で、精霊との交感能力のあるアルテミスにそれが聞こえたわけです。 魔族にとってその唄は意味の無いものですし、その歌に秘められた感情を捉えることが出来るのは、魔族の中でもSの意識の大半を占めているガウリイのみなんです。その他の魔族にはただちょっとうるさいなあ、程度にしかわからないんですよね。しかし理解の出来るガウリイは先ほども述べたように『リナの泣く姿を見たくない』んですから、それを認めることが出来ません。結果、無意識にその唄を五感の中から排除して、ルキに言われてようやく気がついた、というわけです。 ・・・ぜーはー。長かった。 ・・・・・・勢いだけでここまで書いてしまいした。 この後の展開は読んでからのお楽しみ、ですね。 サイトのお話なんですが、私は創っていません。 とりあえずものぐさな私ですから創る気も全然ないですし、こうやってのらりくらりと投稿するのが一番性に合っているかと。 さて、ここまで長く付き合っていただいたかたがた、ありがとうございます。第四部も大詰め(というほどの代物でもありませんが)です。 これを完結させたら後はクロノクロスだけなのですが・・・そっちはぜんぜん更新していなくてすみません。 それらが終わったらこのシリーズは全て終わり、ということになります。次の話はぜんっぜん考えてないのでどうしようかと。 どうやら私はファンタジーを書くのはむいていないようです。(好きなんですが・・・ 魔法も大して出せませんし、文もつたないですし。このまま完全に引っ込んでしまおうかとも考えています。 さて、それではそろそろおいとまさせていただきます。 皆様、台風で吹っ飛ばされないように気をつけてくださいね? |
30699 | Re:ををっ!! | はるか E-mail | 2004/9/10 16:36:34 |
記事番号30694へのコメント >ああああああああああありがとうございますっ!はるかさま!(どもりすぎ >L様かわいいですか?私のつたない文でつづられたキャラクターに感想を持っていただけるなんて・・・!(滂沱の涙 かわいいですってばっ!! 私はあんなL様は絶対、書けませんから。(涙) 人間っぽくしても・・・・・・・・・・リナ化・・?するでしょうね・・・・・。 L様ごめんなさい状態です。 エーナさんはどうしたらあんなL様を人間っぽく(殴)書けるんですか!? 本当にに不思議です。 >うちのキャラは二面性が激しく、ギャグとシリアスのスイッチがひぢょうに入れ替わりやすく、ああもうこれ駄文だなぁ。なんてはっきりとわかる今日この頃。 いえそっちの方がわかりやすいしいいです。それに、全然駄文じゃありません!! っていうか、シリアスで真剣な場面なのにとぼけたギャグかましたら、 こいつ阿保・・・・・・?などと考えてしまいます。(オイ) やっぱり場の雰囲気を掴むのは大切ですから、聡明なキャラでいいじゃありませんか♪ 私の場合は・・・・・・・・・阿保なキャラが多いみたいです。(汗) おりじなるから見てわかるよーに、(棒読み) なんかもぉ戦闘シーンなんだかギャグシーンなんだかわかりゃぁしません。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぜぇぇぇぇったい、こっちの方がひどいです。 >やっぱりですね、誰でも、どんな破天荒な人でも普通の感覚って持ってると思うんですよ。 >たとえそれが当然である事でも、人間である以上、とか、ヒトである以上、とかあると思うんです。 私もそう思います。といっても、実際経験はないので、想像するしかないんですけどね。(^^; (↑そりゃそーだ) >人が死ぬのを嫌がるように(基準はそれぞれですが)、心に傷を負ってトラウマが出来るように、家族を大切に思うように・・・ >何か大切なものをけなされたりすると、すごく嫌じゃないですか。 >その『大切なもの』の対する価値観がたとえ押し付けであっても、『こうであって欲しい』と思うのは悪い事じゃないと思います。 確かにそうかもしれませんね。 それが相手の都合で、であっても、自分が現に大切に思っている、ということは変わりないんですもんね。 とある漫画で、『どうしてヒトを殺してはいけないの?』という問いかけがあったんです。 その漫画では、『その人がいなくなっちゃったことを悲しむヒトがいるからだ。』 って答えがでていたんです。 確かにそれもあると思いますが、私は 『多分そのヒトは、ほんの少しかもしれないけど、『幸せになりたい』って思っているから。 『大切なもの』を守っていきたいと思っているだろうから。』 という答えもあるような気がします。 その漫画はなんか、血ぃでまくるわ人は死にまくるわえっぐいシーンでまくるわなんですが、(汗) 結構深いところがあって、私なりにはお気に入りです。 >もし混沌でボーっと日がな一日暮らしてるL様のままだったら、そのことに答えは出せないと思うんですよ。だから、それは『禁断の問い』とされてアニメのトライのゼロスのセリフのごとく、『それは思ってはならないこと』なんですね。L様が困りますから。 なるほどっ!!そういう裏話があったんですか! 今まで思ってもみませんでした。 やっぱり凄いですねぇ・・・・・・。(感動) >・・・ぜーはー。長かった。 >・・・・・・勢いだけでここまで書いてしまいした。 >この後の展開は読んでからのお楽しみ、ですね。 ありがとうございますっ!! なるほど。そういうわけだったんですね。 深いですねぇ。(しみじみ) どうも、私の書く話は浅いのばっかりで・・・・・・。 こんなに深いって言うか、広いって言うか・・・・・・。 そんなお話を書けるエーナさんを尊敬します。 ・・・・・・・・・・・・・・いっそ、『お話を書く極意!』なんていう本出されてはどうですか?いえ冗談ですけど。(汗) >サイトのお話なんですが、私は創っていません。 >とりあえずものぐさな私ですから創る気も全然ないですし、こうやってのらりくらりと投稿するのが一番性に合っているかと。 そうですか。 でも、気が変わったら是非是非チャレンジしてみてくださいね! 即、おじゃまさせていただきますから!(いらんいらん) >さて、ここまで長く付き合っていただいたかたがた、ありがとうございます。第四部も大詰め(というほどの代物でもありませんが)です。 >これを完結させたら後はクロノクロスだけなのですが・・・そっちはぜんぜん更新していなくてすみません。 >それらが終わったらこのシリーズは全て終わり、ということになります。次の話はぜんっぜん考えてないのでどうしようかと。 大丈夫です! お話とは突然に神託のように下ってくるもの!(オイ) それを私はなんども経験しています! なんでしたら、リクエストをかけてみてもいいし、お題に挑戦なさるのもいいのではないかと思います。 私的に、『幻想作家さんに50のお題』がお気に入りなんですが、 どうでしょう? もし、よろしければ、ですけどね。(^^; ちなみに、URLは http://homepage3.nifty.com/nekomeishi/50_items/50_items.htm です♪ >どうやら私はファンタジーを書くのはむいていないようです。(好きなんですが・・・ >魔法も大して出せませんし、文もつたないですし。このまま完全に引っ込んでしまおうかとも考えています。 だだだだだめですそんなことっ!! エーナさんのL様が消えてしまうのはもったいなさすぎです! 考え直してくださいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!(女房に逃げられかけた旦那のノリで) それに、向いてないなんてこと、絶対にないです! べつに、魔法が蝿のよーにとびかってるのがふぁんたじーじゃありません! なかには、現代の京大の変人達が主人公の、これがふぁんたじー?っていう感じのファンタジーもあるんです! だから、絶対考え直してくださいね!(アメリアの感じで) >さて、それではそろそろおいとまさせていただきます。 >皆様、台風で吹っ飛ばされないように気をつけてくださいね? ええ、わたしは吹っ飛ばされませんでした♪ ただ、2学期が始まってしまったのが悲しいです。(涙) それでは、やたらと長くなってすみませんでした。 |
30702 | 〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第十二話 | エーナ | 2004/9/11 08:13:48 |
記事番号30628へのコメント ――蛇よ、楽園の園丁よ、どうか死者の魂を導きたまえ 死の向こうにいるものは。 死者は蘇えらない。 それは生と死の絶対の境界線。 ・・・しかし。 その絶対である境界線の線引きをした者が、その死を望まないとしたら? A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』 第十二話 まるで、万華鏡のように過ぎ行く光。 あたしの周囲は色とりどりの、まるで星のような輝きが満ちている。 肉体から遠のいた意識は奇妙な空間に存在した。 万華鏡。始まりはどこだった? 似ているけれど違う世界。 姿だけでなく、魂すらもその中に映し出す鏡のような―― 「・・・ここに来て、ようやく重い腰を持ち上げたみたいね」 力の渦が周囲を巡る。 ここは、サイラーグではない。ましてや、あの世界のヒトが属する世界のどこでもない。 意識だけがここへと呼び寄せられている。 ここは。 世界の壁と、混沌の狭間。 『・・・何故』 姿の見えないあいつが声を発した。 それは空気をふるわせる音で作られた声ではなく、思念に絡めとられ、言葉に変換されたもの。 『何故、いまさら・・・』 あたしたちは強い力に引っ張られている。 おそらくあの世界における時は完全に止まっているだろう。 『いまさら・・・あなたの課した目的を放棄した我をあそこへ呼ぶのです!』 『それはあたしに言っても仕様のないことよ』 あたしの声も同じように音では捉えられないものになっていた。 『すべてはあなたが創った!あなたは絶対・・・そうやって我々はあなたに支配されてきた!』 『その支配はほころぶ事もあるの。あなたのようにね』 あたしは穏やかに声を返す。 他にも前例に心当たりはあった。 神と、魔が、手を取り合った、二十数年前のあの時。 あたしは見ていなかったけれど、あまりにも重い出来事があったあの時。 『だからと、言って・・・、あなたが責任と義務を放棄していい事にはならない!』 『そうね』 この言葉にもやはり落ち着いて答えを返す。 『我々を創ったあなたには、我々を最後まで見る責務があるはずではないのか!?』 『・・・鈍いわね。あなた。まだわからない? よく考えてみなさい。あたしのあの身体はあたしのもの。 気がつかないなんていわないわよね?』 少々いらついた声であたしは続ける。 『あの赤い瞳は、誰のもの?』 『・・・何を言って・・・』 『あの金の髪は、誰のもの?』 『まさか・・・』 『あたしが何故あの身体で、あの場所にいたのか。 あの身体の父と母は誰なのか。 人間の町に留まっていたのか。 不干渉のはずであったにもかかわらず世界へと降り立ったのか。 そして、人間の身体でありながら、何故あそこまで効率よくあたしの力を使ったのか』 『・・・知らない。わからない!あなたは完璧だ!それくらいあなたならやってのける!』 『完璧なんてどこにも無いわ。愚かな理想よ』 彼の言葉を否定する。 しかし、まだ彼は理解していない様子である。 『・・・リナ=インバースなら・・・同じ事を言っていたかもしてないわね』 『・・・・・・そんな』 震える言葉。それは感情を如実に表し、自分の大きなものが崩れて衝撃を受ける者のそれだった。 “リナ=インバースなら”。あたしは今そう言った。 聡い彼女が――たとえ一部であっても――あそこまで言って気がつかないわけが無い。 そうすると彼の内側にはリナ=インバースの部分がもう存在していないことになる。 『あらゆるものは変化する。それが限りなく緩やかでも。けど――』 あたしはそこまで言って、ほんの少し笑う。 『動くわ。これで。世界は変わる。たとえその瞬間にわからなくても。 歴史が動く。続く。終わらない。先へ飛んで、飛んで・・・その先に何があるのかしら? 愚かな滅び?輝かしい未来?・・・こう言っちゃ悪いけど、あたしにとってはそれはどうでもいい・・・ あたしにとって重要なのは、存在することでの可能性。先に進む事で産まれる未来。 それが見たいのよ、とても!』 歴史が回り始める瞬間。あたしはそれをあたしの世界のあの瞬間に重ね合わせて見ていた。 あらゆる物は流転する。あたしはその経過が見たい。結果よりも。 一度は動き始めたけれど止まってしまって、腐り落ちかけたこの時間軸の、この世界の歴史。 見たいはずだ。この時空のあたしも。 ・・・しかし、だ。 結局あたしを呼んだのは、やはり―― 『彼女、ね』 あたしの中で、冷たい感覚を持った確信が存在していた。 「・・・お客様、ですね?」 「ええ、そうよ」 金色の瞳を細め、“彼女”はくすくすと笑った。 「この城に招かれて来訪する方なんて何万年ぶりでしょうかね?」 「さあね、忘れたわ。興味ないもの」 笑顔を見て微笑んだ紺色の髪の女性は、漆黒のドレスを身に纏った“彼女”に香茶のカップを差し出した。 寝椅子にだらしなく座っている彼女はソーサーの上のカップだけを手に取り、口に運ぶ。 「うん、おいしいわ。リリスが入れたんでしょ」 「やっぱりわかりますよね。あの子のお茶はいつもおいしいですから」 “彼女”は機嫌よく香茶を飲み干し、カップをそばにあったテーブルに置いた。 「さて――そろそろ『あたしたち』がつく頃よ。 先に到着したお客様は?」 「はい。桜の下で、ゆっくり眠っていますよ。 なんだか寝言をふにゃふにゃ呟いて、見ていて飽きないんです」 ニコニコと言う女性に“彼女”はぷっと吹き出した。 「ふ、ふにゃふにゃって・・・」 「はい、ふにゃふにゃ、です」 “彼女”のつぼにはまったらしい言葉を二人で繰り返し、二人は“彼女”の自室をあとにした。 ここは、混沌の中心にあって混沌ではない場所。 神も、魔も、ここの住人も、この場所をこう呼ぶ。 ・・・すなわち、 万魔城《パンデモニウム》と。 あとがき エ:り、りにゅうある第十二話、できましたっ! L:うっわいろいろとばればれ! エ:ぐさぁっっ!! L:・・・しょっぱなからこれかい・・・ ええと、こいつが倒れてるのはどうでもいいとして。 この場でエーナに代わり、お礼を申し上げたいと思っています。 はるかさま、そしてこの話を見てくださっている皆様、ありがとうございます。(ぺこり。 のらりくらりなエーナですが、できるだけこやつに努力させるのでよろしくお願いいたします。 それでは、またお会いしましょう! |
30703 | Re:〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第十三話 | エーナ | 2004/9/11 16:57:54 |
記事番号30628へのコメント ――器たる魂は純白となり 戻らない。生まれる者は。 A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』 第十三話 「――でぇりゃぁぁぁぁぁあああっっ!!」 ――がごんっ! 分厚い入り口の扉を蹴破り、あたしは中に侵入・・・じゃなくて進入した。 ふ。勝手知ったるなんとやら。・・・いや本来の意味ならここが実家って言っても差し支えないんだけど。 「・・・・・・乱暴な」 「うっさい」 びしりと軽くチョップをかまし、あたしは彼を連れて足を進める。 「・・・しかしここは周囲の混沌と違って非常に安定しているな」 「まあね。けどここはあんたの上司の居城なんだから安定してて当然でしょ」 けっこうずけずけと物を言うこいつにあたしは言葉を返す。 あたしが『この世界の“彼女”ではない』と告げると、詐欺だ、と文句を言ったのだ。こいつは。 残念ながら、ここに近づくまで実体化することが出来なかったから蹴り倒せなかった。 「あんたも見た事はなくても聞いたことくらいあるでしょ? 万魔城《パンデモニウム》のこと」 「・・・。・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・。 ・・・なんだとっ!?」 「テンポが遅いっ!」 すぱぁん!と景気のいい音を立ててハリセンがその威力を発揮する。 金髪の“超!”美女が簡易化した礼服のようなものを着てハリセンを振り回す姿は異様である。 ・・・が、あいにくとギャラリーはいない。いいのか悪いのか微妙な線だ。 ・・・・・・。・・・・・・・・・あ。言い忘れていたが、あたしはいつもの『ルキ』の姿ではない。 蜂蜜色の金の髪に輝く金の瞳、死鎌《デスゲイズ》の似合う齢900億を越えた絶世の美女!である。 ・・・・・・似合ってどーする・・・うう、一人突込みがちょっぴり寂しい年頃なのでした。 「まあそれはともかく・・・ あんた、『ガウリイ』の部分が大きくなってクラゲ化が始まってるみたいだし、ここは諸悪の根源を探して・・・」 「・・・・・・あんた、そのショアクノコンゲンやらと同一じゃなかったのか?」 ――ゑぎゅりぃっ! ・・・ちくしょう・・・こいつキャラまで変わってきやがって・・・ 釘バットをぽいと放り、あたしは嘆息した。 「『リナ=インバース』は、絶対にここにいるわね。 この城は混沌から切り離して安定させてるから誤って転生させてしまうこともないし」 「・・・・・・・・・。・・・・・・」 あたしが言うと彼は押し黙った。 複雑な心境なのだろう、返す言葉が見つからないらしい。 「彼女は興味の無いものは放っておくけど、興味のあるものにはとことんかまうタチよ。 今回はあなたが・・・それと『リナ=インバース』が後者に引っかかったようね。 あんたに興味が無かったらあの時点であたしをもとの時空に送り返して終わりだったんだけれど」 あたしは大理石にかぎりなく似せて作られた壁のある一点に触れ、立ち止まる。 「・・・ここで空間転移に必須の空間座標の探査が出来ないのは、この城そのもののせいよ。 この城、何でできてるか知ってる?」 「・・・いや」 その言葉にあたしは目を細める。 「・・・賢者の石、よ」 ――ずがんっ! あたしが実力行使でミュールで壁を蹴りこむと、その部分にひびが入る。 二度三度同じ事を繰り返すとガラガラと壁の一部が瓦礫となって零れ落ちた。 ・・・ちなみに、魔力でこの壁を壊そうとするのは無謀のきわみである。 魔力を放射すると増幅して跳ね返るからだ。 あたしは落ちた瓦礫のひとかけら――掌に収まるサイズだ――を手に取ると、一瞬大理石の証拠である黒とグレーの斑点が綺麗に消え去り、完全な無色透明になった。 その無色な石もあたしが触れている部分から漆黒に染まっていく。 透明でありながら夜よりも深い色を宿したそれに、ぽっと金色の炎がともる。 それはちらちらと形を変えながら、内側からあたしの顔を照らした。 あたしが触れたのに反応して、金色の魔王の属性がついたのだ。あたしの力を部分的に吸収したのではないので悪しからず。 「あげるわ」 「ぁだっ!」 無造作にその石をほうり、彼の頭にその石が直撃する。 どうせ彼には使えないのだからあげても問題はないし意味もない。 そして無警戒にあたしたちは歩き続け、T字路の曲がり角で右に曲がる。 そこからまた歩き続け、左側に見えた扉の前で立ち止まった。 「ここね」 白いペンキを塗った、周囲とは不釣合いな木の扉。 あきらかにういたそれの金属製の取っ手を回して押す。 「開かない・・・?」 「・・・それ手前に引くんじゃ・・・・・・」 ・・・・・・・・・。・・・は、恥ずかしいっ! なんつう使い古したネタを素でやってしまうとわっ! ああああああ。痛いっ!痛すぎるっ! 表ではなんでもないような顔を取り繕い、あたしは扉を引いた。 あっさりと、開く。・・・はうっ。 まあ、とにかく・・・扉の先には。 「・・・やっぱり」 あたしは嘆息した。 「リナ・・・インバース・・・!」 ――がんっ! 名を呼んでそこに入ろうとするそいつをすかさず裏拳で黙らせ、足を踏み入れる。 眠っている。彼女が桜の木の下で。そしてあたしは顔をしかめた。 「・・・ふにゃふにゃ?」 いや、何ゆえかそんな感じなのだが。 うっわ。幸せそうに寝てるよこの女・・・ッ!こっちがどんな思いでいたかも知らないでっ!すんげえ腹立つ。 ひらひらと花びらのように純白の光が降り注ぐこの場所。 それを生み出す木の下で、彼女は幹にもたれかかって寝ていた。 「――ようこそ。ルキ=ファー=ガブリエフ。それからガウリイ=ガブリエフ=シャブラニグドゥ」 大理石に似せた賢者の石である床を靴底で叩く音が響いた。 振り返ると、そこにすでに扉はなく、あたしに売り二つの“彼女”が立っていた。 ・・・っていうか。 「本名ばらすなーーっ!!」 「・・・しまったっ!」 あたしの怒号に“彼女”・・・『L』はしまったと言う表情そのもので反応した。 「うっかりなわけ!?あんたっ!」 「け、計算されつくした行動よっ!」 「いや・・・さっき『しまった』って・・・」 『あんたは黙んなさいッ!!』 「・・・・・・すみません・・・」 うっかり口を挟んだ彼に、二人同時に突っ込みがとぶ。 「つーかあんたが手を出してややこやしくなった事態の尻拭いをあたしにさせるなっ! 帰れお前はっ!」 「ふ、ここが実家よっ!」 「無意味にいばるなぁぁぁぁっ!」 喧々諤々。・・・なんか言葉の使い方が間違っているような気がするが、それは置いといて。 あたしと『L』はお互いに言葉でかみ付き合ったのだった。 「・・・不毛ね」 「ええ・・・不毛ね」 いい加減口げんかするのも飽きてきて、冷えた頭でお互いに言った。 「・・・だったら止めておけばいいのに・・・・・・」 などと言う彼の言葉はあっさり無視し、あたしはちらりといまだ眠る『リナ』を見やる。 うっわぁ。あれだけ騒いでてもまだ寝てるしぃ。(怒) 「それじゃあお茶でも飲みながら・・・」 「本題に入れーーッッ!」 おほほほほ、と笑う『L』にあたしは怒号を飛ばした。 もうごめんである。こいつの事情に巻き込まれるのは。 帰らせろ。まぢで。 「まあ、シャブラニグドゥとの融合を解いて人間に戻せば終わりなんだけど」 さらりと結論を『L』が述べた。 ・・・・・・そうなのよね。言葉にすれば結局はこれで全部丸く収まるのよね・・・ ・・・あたしの苦労とかは一体何のためだったの・・・ 思わず泣きたい気分に浸って心のうちでほろりとつぶやき、あたしは盛大に嘆息した。 「・・・じゃ、あたしはこれで」 くるりと背中をむけて帰ろうとするあたしの背中に、声がかかる。 「待って」 あたしと同じ・・・いや、限りなく似てはいるが違う瞳がこちらを見ていた。 「――あなたは今あたしのテリトリーの中よ。しかも戻る扉は無い」 「無理やりこじ開けるだけの話よ」 「だとしても、貴女の力は冥王《ヘルマスター》程度・・・逃げられると思ってる?」 あたしは唇を笑みの形に変えて振り返る。 「実戦から何百億年も遠のいてた貴女に・・・あたしを捕まえる事が出来ると思ってる?」 「・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・。」 お互いに押し黙り、そこにぴりぴりとした空気が流れ・・・・・・ 「ジンジャークッキーでもどう?」 「リリスの香茶もつけてね☆」 ――ずべしっ! 一瞬の後に朗らかに言葉を返していた。 ふ。おいしいものは食べておくのが人情というものであるっ! 『何で転んでるの?』 「シリアスやってたのに何でっ!?」 「ふ。そんなのは単純明快。ねえ?」 「おいしいクッキーと香茶が待っているからよっ!」 力説するあたしと『L』に彼はいぢけていた。 あとがき エ:あああああ。次で終わる?終わらない? L:おまいが言うな。 エ:いーじゃん。どうせいつもこんな調子だし。 L:うっわ開き直りやがったよこいつ。 エ:ええと。一話か二話で終わると思います。たぶん。 L:・・・・・・・・・・・・。(疑いのまなざし エ:・・・わたくし、そこまで信用されておりませんの・・・・・・? L:うん。 エ:よよよよよよよ・・・・・・・・・ L:泣き崩れるなっ!気持ち悪いっ! エ:・・・くすん。 L:まあ、それはどうでもいいのよ。 ほんとにこいつのいうことは証拠がないから信用しないように。 エ:・・・・・・しくしく。それでは皆さんまたお会いしましょう・・・ |
30704 | 〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第十四話 | エーナ | 2004/9/11 18:55:57 |
記事番号30628へのコメント ――願わくば この世界で、一体何に願えと言うのか。 A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』 第十四話 「・・・・・・ひゃるほろ」 クッキーを頬張り、リナは言う。 「ひょーふるに、へふのひくうはらひらのあるひえ、あはひにひゅろふほーふぅのうえわほうっはほうらるひよよんらのれ」 「ひょーゆーほろ」 「ほのふっひーおいひぃ。つふりはぁおひえへほひぃら」 「あはひあすぅはえらならならなひかもしれないから、『える』ひならひなひゃいお」 「ほうふぅあ」 「・・・・・・・・・会話がものすごくほのぼのしてるのだが・・・」 「・・・っていうかこの会話理解できてないのあたしだけ・・・?」 あたしと『リナ』の会話に、彼は嘆息する。 ただ一人、『L』のみが呆然としていた。 ・・・こほん。会話がわからない皆様は下の文をお読みください。 注訳:「要するに、別の時空から来たのがルキで、あたしに呪力増幅の腕輪を売ったほうがルキを呼んだのね」 「そーゆーこと」 「このクッキーおいしい。作り方教えて欲しいわ」 「あたしはすぐ帰らなきゃならないかもしれないから、『L』に習いなさいよ」 「そうするわ」 ・・・以上。お粗末さまでした。 この『口に物を詰め込んだリナ・ガウリイ』語を理解するのにあたしでの1年かかったのだ。そう簡単に理解されてたまるか。 類似言語で『酔っ払った時のリナ』語がある。 今では二つとも翻訳もお手の物であるっ!・・・けどほかに誰が使うんだこの言語(それは思ってはならないことbyリナ)。 「・・・んぐっ。と言うわけであんた『リナ』にクッキーの作り方教えて二人とも無事にあの世界に送り返す事になったから」 「・・・今の言葉本当に通じてたわけ・・・あんたたち・・・」 呆れたようにあたしと『リナ』を交互に見やる『L』。甘く見てもらっちゃ困る。 「・・・はぁ。帰ったら寝よ。なんかいらん苦労ばっかした気がするのよね、あたし」 うふふふふ、などとあたし一人黄昏てみる。 「あー。帰ったら姉ちゃんにどやされるだろうなー」 あはははは、などと『リナ』が暗い背景を背負った。 「・・・部下S、あんた当分下働きね」 「そ、そんなっ!?」 「そんな事よりもさぁ、『L』・・・」 脚を組んでちらりとあたしは『L』を見やる。 「あんた箱入り娘してないで、もっと世間の波にもまれたほうがいいわよ。 そのほうが経験も増えるし、『ものはためし』なんてことわざもあることだし。 今のままでは対処ができない事態に陥ったらどうするの? 今回は無理やりあたしを引っ張りこんだけど・・・次は無いわよ」 「・・・・・・・・・・・・・・・もっともね」 言って『L』は苦笑する。 「さてと、極めて穏便に話も終わっ・・・、・・・!?」 あたしは感じた気配に虚空を凝視した。 漆黒の空には星がまたたき、ゆっくりと池の水が揺れるようにお互いが別の方向へと動いている。 その部分の星が震え、しゅん、とかなりのスピードでそこをどいた。 ――・・・・・・ん―― 聞き覚えのある声。 ――・・・さん―― ここまで追ってきたというの? ――ルキさん!―― 「・・・ゼロス!」 虚空がはじけて、漆黒の神官がその姿を現した。 「る、ルキさぁぁぁぁぁんっ! 2週間もどこ行ってたんですか!探したんですよっ!」 「うっさい。黙んなさい」 「いーえっ!黙りませんっ! 弟さんを含めた貴女の部下たちもリナさんもガウリイさんもみんな貴女を探してたんですよ! かなりの騒ぎになってるんですからね!聞いてますか!?」 「・・・あー、はいはい」 「この2週間どれほど僕が胸を焦がふっ!」 あたしはうるさいゼロスを足の裏で黙らせる。 ・・・あ、ミュールはいてるから顎の辺りが痛そう。 「・・・はあ。迎えも来たことだし、あたしはこのアホをつれて帰ることにするわ」 「・・・えっと・・・ゼロス?」 ここで彼が出てくるとは思わなかったのだろう、『リナ』がゼロスを指差してそれだけを言った。 「はい、なんですかリナさん? おや、僕が知っているリナさんよりお若いですねえ・・・20歳ぐらいですか?」 「8年死んでたけどね。実年齢はそんなものじゃない?」 あたしはぐいっとゼロスの首根っこを引っつかみ、ゼロスの出てきた穴を見た。 どうやらサイラーグにつながっているのだろう。あたしの身体が倒れているのが見える。 ゼロスの右手の人差し指には王冠《ケテル》がはまっていた。 ・・・なるほど。王国《マルクト》を起動させてあそこの時間を動かしたようだ。 「・・・それじゃあ、帰りましょうか、ルキさん」 「わかってるわよ。あたしも今帰ろうと思ってたところ。 ああ、アーティとルナさんによろしく言っといてね。 ・・・それじゃ!」 あたしは笑って穴に飛び込んだ。 光が見えた。くるくるとまわる七色の光。 ガラスの欠片たちが光を通し、鮮やかな姿を鏡が反射する。 あとがき エ:ああああああっ!ようやく次で終わりです!ほら、L様、予告どおりでしょ? L:・・・一話分しか書く内容が無いんでしょ・・・ (二人の間に流れる沈黙。その中でエーナがL様から目を逸らす) エ:そ、そういえばこの第四部『りにゅうある』、実は今までのシリーズの中でも一番長いんですよね! L:あ、ほんと。 エ:プロローグを入れて全部で16話。今までの最長が第三部の12話。 四話も長くなっています。 L:このまま三桁の大台に乗ってみるって言うのは? エ:無理。 L:・・・まあ期待してなかったけどね。 とにもかくにも、第四部A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』、次回で完結です。 それでは、エピローグで会いましょう! |
30705 | 〜万華鏡〜 『りにゅうある』 第十五話 | エーナ | 2004/9/11 20:47:43 |
記事番号30628へのコメント ――死者に次の生が与えられるまでの安らぎがあらんことを 死んでしまった、たくさんの存在のために、私は歌う A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』 エピローグ 「色とりどりの綺羅星よ」 城が消え去ったのは10年前。 「水をそのかいなに抱える水瓶座《アクエリウス》よ」 そこにはただ湖が在るだけ。 「その身を水にやつす水の精霊《オンディーヌ》たちの王よ」 彼女は悼む。死んでしまった者たちのことを。 「そのかいなに抱える水によって、死せる魂を浄化せんことを願う」 彼女は感謝する。去ってしまったある女性に。 「炎をその胸に抱く蠍座《スコルプス》よ」 もう戻らないと思ったものを、その女性は救い上げてくれたのだ。 「その身を炎にやつす火の精霊《サラマンド》たちの王よ」 祖父から譲り受けた彼女の黒髪が、美しく精霊の満ちる風の中で揺れる。 「その胸に抱く炎によって、死せる魂を浄化せんことを願う」 死んだものは蘇えらない。 「風と共にかける獅子座《レオ》よ」 母と同じ深紅の瞳を持ったあの女性。 「その身に風にやつす風の精霊《シルフ》たちの王よ」 父のような、さらさらとした金色の髪をしたあの女性。 「その巻き起こす風によって、死せる魂を浄化せんことを願う」 教えてくれたのは、ほんの少しのことだったけれど。 「大地を駆ける牡牛座《タウルス》よ」 彼女にとってはとても大切な事だった。 「その身を大地にやつす大地の精霊《ベフィモス》たちの王よ」 これは思い出の唄。彼女と女性をつなげた唄。 「その蹄に震える大地によって、死者を浄化せんことを願う」 両親は死んではいなかった。 「ああ、我らは脆き者――ああ、我らは愚かなる者」 戻ってきた。かろうじて世界とつながっていた。 「それでも我らは願うのだ――友の、親の、子の冥福を」 識ある多くの種族は消え去った。 「蛇よ、楽園の園丁よ、どうか死者の魂を導きたまえ」 けれど、動物も植物もかなり戻りつつある。 「光も闇も、死者には隔てなく」 命は終わらない。 「器たる魂は純白となり」 続いていく。誰にも止められない。 「願わくば」 私は私に願う。 「死者に次の生が与えられるまでの安らぎがあらんことを」 自分があるべき姿であることを。 湖面が揺れる。その波紋の中心に、何かがひらりと落ちた。 彼女はかがんでそれを手に取った。 花びら。紫がかった薄桃色。 彼女は驚いて、持ってきていた黒塗りの箱を開ける。 中に入っていた柔らかい質感の布を開き、そこにある二つの物を取り出した。 ひとつは栞、ひとつは万華鏡。 【とてもとても綺麗な花があるの】 あの女性の言葉が蘇える。 【すばらしい色の薔薇よりも、可憐なユリよりも、あたしに似合う花言葉のダリアよりも】 あの女性は目を細めて笑っていた。 【あたしはその花が好き】 笑って、頭をなでて、彼女が幼い時に優しくしてくれた。 【これはね、その花の栞よ。あげるわ、アルテミス】 彼女はあの声の感じを思い出しながら、花びらと栞の花を見比べた。 同じ、だ。 【その万華鏡は・・・?】 その問いに、彼女はこう答えた。 あたしの母様の形見、と。 それを言うとあの女性はすこし悲しそうだった。 【大切にしなさい】 ちりん、と、万華鏡についていたすずが鳴った。 あとがき エ:A KALEIDOSCOPE〜万華鏡〜『りにゅうある』エピローグ、ここにお送りいたしました。 L:長かったわねー。全部で16話。まさかここまで長くなるとは・・・ エ:うう、クロスは余裕で30ぶっちいきますね。 倍以上・・・場合によっては三倍より上? L:・・・気長に行きましょ、気長に。 エ:がんばりますっ! L:さて、気合も入ったところで、ここで退散させていただきます。 エ:またお会いしましょうっ! |
30707 | あぁるぴぃじぃ第八話 蛇骨館、過去への鍵を求めて | エーナ | 2004/9/15 18:24:58 |
記事番号30628へのコメント あらすじ 実家の倉庫に入れてあった写本に触れ、うっかりゲームの世界へ飛ばされてしまったリナ。 これはおもしろ・・・じゃなくて、大変だと思ったルキは、ガウリイ・ゼロス・アメリアなどの人々ゲームの世界へ送り込んだ。 自身もゲームの世界へ入るが・・・なんと、『堕天使』と名乗り蛇骨館にてヤマネコの護衛としてリナの前に立ちはだかる! 剣を自らの母に向けるルキと、それを迎え撃たんとするリナ・キッド・ゼロス。 この『変化し始めた世界』から抜け出す事はできるのか!? しかもヤマネコぜんぜん出てきてないしっ! それにルキ、あんた腹に一物抱えてそうだから普通にバトルして終わりなんてことなさそうだし。 ・・・ま、まあ。とにかくそれは読んでからのお楽しみ! それでは久々にどうぞ! 「――ってゆーわけでいきなり『ウルトラノヴァ』っ!」 ――ぐがぁぁぁん! ・・・オイ。(エーナの突っ込み) ちょっと待て!あぁるぴぃじぃ異世界ゲームっ!? ――蛇骨館、過去への鍵を求めて そのに 「おっちゃーん!Aセット二つ追加―っ!」 「あいよぉっ!嬢ちゃんけっこういける口だねぇ!」 あたしの言葉に厨房から威勢のいい中年の男性の声が聞こえた。 目の前にはたいらげられたAセット2つとBセット4つ、『本日の定食』が3つと単品が数種類。 兵士の食堂と聞いたのでよくて並み程度の味くらいしか期待していなかったのだが、これがなかなかおいしいのだ。 先ほどに返事を返したおっちゃんが厨房の主らしく、彼の腕がいいようだ。 「・・・・・・よく、食べるな」 「そお?普通のつもりなんだけど。まあ追加分を含めればちょっと多めかしらね」 単品の餃子――地元では見かけないが、ルキに作り方を教えてもらったことがある――の最後の一切れぱくりとほおばった。 キッドはミート・スパゲッティをほとんど食べ終わり、無言で隣のゼロスを見る。 「まあ、リナさんですから・・・」 「・・・・・・そうなのか」 苦笑して言うゼロスの手元にあるのはオレンジジュースのみである。 んぐぐっ、『堕天使』のヤツっ! あたしはガラスのコップに注がれた水を飲み干し、むかむかするあの場面を思い出す。 強く打ったお尻をさすり、あたしは頭上の穴に目をむける。 戦闘開始直後に全員吹っ飛ばされたのだ。 どうやらここは地下のようである。 円形の鉄格子が天井まで届き、扉には鍵がかかっている。 「あーっ!やられた!」 あたしは鉄格子の内側で地団太を踏んだ。 ・・・くそぅ。戦闘始まっていきなり『ウルトラノヴァ』が来るとはっ! きぃーっ!イベント戦闘なんて大嫌いよーっ! 「り、リナさん、気持ちはお察ししますが落ち着いてください」 「とにかくここから出る方法を・・・」 「封除《アンロック》!でもって風魔砲裂弾《ボム・ディ・ウィン》っ!」 ――ごぐぁっ! 怒り任せに放たれた呪文が見張りをしていた三人の兵士に直撃し、有無を言わさずふっとばす。 「服を剥いでそれ着ていくわよっ!」 『・・・・・・・・・・・・・・・。』 呆然とする二人に、あたしは拳を握り締めて命令した。 おにょれルキ・・・じゃなかった『堕天使』のヤツぅぅぅぅっ! 「――『ニードル』っ!」 出てくるカガリをエレメントでなぎ倒し、あたしは鼻息荒くずかずかと廊下を突き進む。 下級兵士のメットの内部で、瞳がぎらぎらと輝いていることが自分でもわかる。 そして後ろの二人はあたしの後ろでちょっと離れて歩いていた。 「あああああああああのリナさんっ!?」 「・・・なぁに?ゼロスぅ」 「ひぃっ!」 わざと甘ったるい声で言いつつゼロスのほうを振り向く。 緊張のためか(違)、震える声でゼロスが続ける。 「ほ、ほら、右側の部屋兵士用の食堂みたいですよ? 腹が減っては戦はできぬと言いますし、もうとっくに日が沈んでいる時間ですから。 食事でも取ったほうがいいと思うんですが・・・・・・ですよね?ね!?」 「お、おう!」 青ざめた顔でキッドが同意し、かっくんかっくんと首を縦に勢いよく何度も振った。 それらの行動が何か引っかかるが・・・ふむ。 「・・・それもそうね。人間お腹がすくと思考回路もおかしくなるし」 ・・・と、言うわけである。 あたしはAセット二つを残らず平らげ、二杯目の水をすべて飲み込む。 「・・・り、リナさんっ!」 「何よ、ゼロス」 「落ち着いてくださいね?入り口に近いテーブルのほうを黙ってゆっくり見てください」 「・・・?」 ゼロスが視線で示した方向を、指示通りにゆっくりと見る。 あたしは声をかろうじて飲み込み、テーブルのそばの人影を凝視した。 あまりにも見慣れた金色の色彩。そう、ガウリイだった。 「・・・あいつか?」 「しっ!」 あたしは同じく彼を見つめるキッドの声を制し、耳に神経を集中する。 「なにぃ?また落ちただとぉ?お前あの仕掛け扉でいったい何回落ちれば気がすむんだ」 ガウリイの目の前に座っている兵士が呆れたような声音で言う。 ・・・仕掛け扉で落ちた、って・・・玄関ホールの仕掛け扉?落ちてるのか。何度も。・・・ガウリイならありえそうだ。 「悪い悪い。覚えてもすぐ忘れちまうもんでなぁ。 ・・・こういうのはいつもリナが覚えててくれたんだが」 「・・・リナって誰だ?まあいい。もう一度言うぞ、あの仕掛け扉は・・・ 右に・・・・・・、それから左に・・・・・・・・・だ。わかったか?」 とりわけセリフに不信感を持たなかった兵士は手振りを交えてガウリイに説明する。 仕掛け扉に関わる部分の一部は遠いし喧騒にまぎれて聞き取れなかった。 「おう!今度は忘れないようにしなきゃな、ありがとよ」 言って彼は兵士のそばを離れ、そのままドアを開けて出て行ってしまった。 「・・・追うか?」 キッドが横目で目配せし、あたしはにやりと笑う。 「もちろん」 不自然じゃないようにごく普通に立ち上がり、ガウリイを追ってあたしたちも廊下に出る。 右側にその姿を認めて注意してゆっくりと後をつけた。 向こうの扉に入るのを確認して、あたしたちもそこへと入る。 兵士たちのベッドがあることから、どうやら宿舎のような部屋らしい。 奥にガウリイを見つけて駆け寄ろうとするが、ベッドに倒れこむようにして眠っていた。 盛大にいびきをかいている。 ・・・これは当分起きそうにない。嘆息して『リナ様参上!落とし穴には気をつけなさいよ』とメモを残すに留まった。うーん、注意してあげるあたしって優しい! 「・・・おいリナ、ここに書いてあるの仕掛け扉の開け方じゃないか?」 キッドがそばの壁を指差し、あたしはそちらに視線を移した。 腕を組んだ小柄な彼女が見る先に、なにやら文字が刻まれている。 「・・・え?ああ、ほんとね。えーと・・・右に三回、左に五回・・・どうやら仕掛け扉の解除の方法みたいね」 仕掛け扉の手前、左側に蛇の彫像があったのを思い出す。 蛇の彫像が床と接するはずの部分、最下面がほんのわずかだが不自然に浮いていた。 「ガウリイさんはどうします?」 「放っておきましょ。こいつ起こそうとして目立つのもやヤだし。 それにどうせまた会うわよ。ここにいるって事は何か意味があるんだろうから」 そのゼロスの言葉に、あたしは不機嫌に言い切った。 本当ならたたき起こしておきたいところではあるが、そんな事をすれば目立つ事は確実だ。 ジョイントの多い、鈍い鋼色の手甲が人間の頭部にぶつかって音をたてた。 あとがき エ:・・・クロス更新でございます・・・ぐげふっ。 L:・・・しょっぱなから吐血かい。 痙攣してるし。・・・・・・あ、動かなくなった。 ・・・・・・・・・。まあいいや。あたしが進行しよ。 さて、今回リナたちは蛇骨館の地下に落とされたわけですが、そこで発見したのは何とガウリイ! 向こうは気がつかずそのまま兵士の宿舎で寝てしまったわけですが、リナ最後に殴ってるし。それでも起きんのか? ええっと・・・それでは『堕天使』のプロフィールと、ステータスをちょっとだけご紹介しましょうか。 大陸から来たヤマネコについている護衛。Another Worldのみで生存を確認。 三年前に突如出現し、「ラジカル・ドリーマーズ」とタメをはれるほど有名。 本業は魔物ハンターらしいが、それはあまり知られていない。 常に顔の上半分が隠れる仮面をかぶり、表情が読みづらい・・・と思いきや雰囲気でたいていはわかる模様。 喜怒哀楽がわりと顕著に出るため、「謎な人物」であるにもかかわらずそんなイメージはほとんどない。 しかし、なにやら腹に一物抱えていそうではある。 カーシュをいぢめるのが楽しくてしょうがないらしい。 料理も上手い。家庭的なスキルが他にもあるようだ。 名前 :『堕天使』(本名ではない。本人の名乗り) 年齢 :十代後半から二十代前半と思われ 職業 :ヤマネコ護衛? 性別 :女 出身地:大陸? 身長 :167cm 体重 :軽め 体格 :細め 利き腕:左 装備DATA 装備可能武器:ソード、死鎌《デスゲイズ》(『堕天使』と『死神』以外には装備不可) 装備可能防具:一般、女性 専用装備 :慈悲《ケセド》(死鎌《デスゲイズ》)、魔剣士の証 能力値 戦闘能力は非常に優秀。先天属性は白。腕力はそこそこ。スタミナ回復力は高め。 若い女性だけあって防御力は低め。 魔力と降魔の値が高く、魔法攻撃にはもってこい。魔法防御も強め。グリッドの数は普通。 ・・・あ、まだある。 ええと・・・慈悲《ケセド》を装備するとレベル6とレベル8のグリッドが一つづつ増える。そこには固有エレメント。 中身はヒミツv・・・オイ。 L:・・・・・・こんなかんじ?ちょっとじゃなかったような気もするけど。 さて、それじゃあそろそろお時間となりました。 あたしはここで退出させてもらいまーすv またお会いしましょう! |
30711 | るきちゃんのおりょうりきょうしつ? | エーナ | 2004/9/19 23:12:00 |
記事番号30628へのコメント シェイライア。この町の名前である。あたしは今ここに来ていた。 ゼフィールの実家へ戻ろうと、ゼフィーリアの国に入ったばかりの国境沿いのこの町へと来たのだ。 昼前に着いてしまって、前日野宿した身としてはどうしようかなーなどと思っていたが、一泊する、とすぐさま決定してしまった。 なぜなら、ここには『食の大通り』なる大きな通りがあるのだっ! その名の通り、この道の左右には食堂やパン屋、八百屋、居酒屋など、食に関する店が見境なくがずらずらずらっ!なのである。 正直この町は少々有名で、隣町から休日に家族で食べに来たりするのだ。 まあ、それはここらの治安がいいということなのであるが、それはこの際置いといて。 飯屋、食材屋と一口に言ってもピンキリがある。 それは当然なのだが、ピンの店で肥えてしまった住人の口にはキリの店の味は非常に怒りを誘うものである。(それはあたしもだが) という事は、イコール、潰れる。要するに旨い物をあつかう店しかここでは生き残れないのだ。 ををっ!なんかすばらしひではないかっ! 「ああっ!待ってくれっ!お前に出て行かれたら店がぁっ!!」 ・・・何事だ。 あたしは曲がり角で叫び声がしたほうの路地をちらりと見やる。 「しくしくしく・・・・・・」 うっわ。いい歳した親父が道に座ってすすり泣いてやんの。 ご丁寧にバックに暗い雰囲気を背負って。 あたしは即座にくるりとUターン。もと来た道を戻ろうと・・・ 「ちょっと待ったお客さんっ!」 がっしと腕をつかまれた。 いつの間にっ!? てゆーかいつの間に客になったっ! 「旅の傭兵さんとお見受けしますっ! ご飯奢りますから話を聞いていただけませんかっ!?」 ご飯。ただ?しかも話し聞くだけ? おいしい。美味しい。 「・・・話、聞くだけよ」 ・・・その言葉に男の目に星空が浮かんだのは見間違いであってほしい。 「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 こげた変な魚。 塩辛くてくずれた・・・オムレツ? 水でべちゃべちゃのサラダ。 酸味のきつすぎるホワイトソースのかかったぼろぼろのハンバーグ。 パンとオニオンスープ。 脈絡のないメニューのうえにまともなものは最後の二つだけである。 パンは既製品、オニオンスープは作り置き。 それにメインディッシュに当たる品物が三つってどうよ。 ・・・これは、もしかして。 「申し訳ありませんっ!先ほど最後のコックが辞めてしまって料理は私が作ったんですっ!」 やはり泣きながらいうおっさん。 あたしは静かに椅子を引いて席を立ち。 「・・・其は楽園に住まう蛇其は夢魔の母其は精霊の女王我が名においてその力をここに灌げ其は力は心の臓となり精霊は血肉となり我が意思をもってして生まれゆく者をを操らん培え築け天を弄する其の力精霊を巻き込み力の塔となれこのヤローっっ!!」 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」 半ばやけくそで呪文の詠唱をするあたしに、おっちゃんが絶叫した。 出現する光の帯たちによって店内のあらゆる物が吹っ飛ばされる。 「止めてくださいっ!店がっ!隣の店にも被害が及びますよ!?貴女この町でご飯食べられなくなってもいいんですかっ!」 ・・・はっ! ぷしぅ、という力の抜ける音をたてて光の帯がしぼんで消えた。いかんいかん、ご飯食べられないのは困る。 「・・・・・・話を切り出す前に非常に疲れた気がします」 げんなりするおっさん。 「あんな料理出すほうが悪いんでしょ。 にしてもあんな料理があたしの目の前にあることこそ許せないわね・・・ あんたまさかあれを客に出すつもりじゃないわよね?」 手近な椅子を引き寄せ(さっきの唱え化研p呪文で座っていた椅子が壊れた)、あたしは座り込んだ。 「さすがにそれは・・・ですから、あなたに色々とお聞きしたい事があるんですっ!」 「・・・何を?」 「地方料理のレシピを」 「・・・・・・・・・。それってもしかして・・・『旅の傭兵だからいろんな場所の料理を口にしているだろう。その料理たちのレシピを教えてもらえたらなー』なんて考えに基づいてやってるわけ?」 呆れるあたしにおっちゃんは期待するような目でこくこくとうなづいた。 ・・・どうやらこのおっちゃん、本気で自分で料理を作る気らしい。店のオーナーだかなんだか知らないが、めちゃくちゃ甘い考えである。 「あんた、馬鹿でしょ」 「・・・は?」 率直に言うあたしに、おっちゃんは凍りついた。 「あのねえ、傭兵って言うのは命を駆けて戦うものなのよ。 あるいはボディーガード、あるいは戦争の雇われ兵。そんなのが料理の味をさして気にすると思う?」 「ええっ!?料理は命の糧ですよっ!それなのに味を気にしないんですかっ!?」 「傭兵が緊急時・・・たとえば戦争の途中で口にするのなんて味のしない干し肉や乾燥した野菜、よくて塩辛い瓶詰めよ。 明日死ぬかもしれないときに味の心配なんぞするやつなんてほとんどいないわ。当然ね。 そういった食生活を送る・・・というか、食生活を犠牲にするくらいじゃなきゃ傭兵なんてやってられないの。わかる?この理屈」 「し、しかしかの有名なリナ=インバースは食にうるさかったと・・・」 「彼女だって緊急時にはまずいものくらい食べたわよ。 あたしだっておいしいものは好きだけど、一品のおいしい料理に寄り道程度はしても反対方向に行く道を選ぶなんてことはしないわ」 ・・・あ、母さんならしそうかも。でもその場合一品というより逸品目当てだもんねー。 「けどね、あたしにもちょっとばかり許せないものがあるのよね」 にっこり、と笑って見せる。だがしかし、瞳は絶対零度の冷たさで。 「そ・・・それはなんでしょうか?」 おっちゃんが顔を引きつらせつつ勇気を持ってあたしに問いかけてきた。 「まずい料理を客に出す料理人、よ!」 さて、ここからあたしとおっちゃんの特訓は始まった。 まずは基本から。 どうやらこのおっちゃん、火傷したり包丁で手を切ったりするのが怖くてのろのろとしか料理が出来ないらしい。 火の扱い方、包丁の扱い方からあたしは教える羽目になった。 「そこ!右手で包丁を扱いのなら左手は軽く指を丸める!あ、こら握りこぶし作れっていってるんじゃないのよ!」 「ちっがーう!ぶあつい野菜は弱火でじっくり火を通す!そんなに火を強くしたらこげるっ!」 「どあほっ!薄い肉は強火でちゃっちゃと焼く!分厚い肉は最初強火にしてあとは弱火!理由?肉汁を中に閉じ込めるためよ!」 「何よこのきゅうりのスライス!あれほどしっかり切れって言ったじゃないっ!」 ・・・はっきり言って魔王相手にするより疲れた。 「・・・基本はマスターね」 そんなこんなで本日の陽は暮れたのだった。 こけこっこー。 ・・・いや冗談はこれくらいにして。 「うっわ。何これ」 あたしが来た昨日から『CLOSED』のカードを下げている店の中であたしはまたしても呆れた声音で言った。 「見て下さい!この食財の数々!どれもすばらしいでしょう!」 「・・・まあ、食材がいいのは認めるけど・・・」 このおっちゃん、食材の目利きに関してはけっこういけるらしい。 しかし、だ。 はっきり言って見境がない。 量もまちまちなのでどうやって客に出せっつーんだ、なんて品物もある。 あ、豆腐。カイワレふたパック?げ、アボガド。あたしこれあんまり好きじゃないのよね・・・ パン粉や小麦粉、パスタ、ライスのたぐいは十分にある。調味料も種類や量も多い。 これは・・・いけるかな? 「一つ言っておくけど、あたしはシェフじゃないから家庭料理しか作れないわよ」 「かまいませんっ!」 ・・・気合入ってるわねー。 「それじゃあ特訓開始!」 材料を調べ、幾つか余る材料は無視して何とかできる料理をピックアップした。 海老団子のスープ煮 豚肉と大豆の煮込み カレイの煮付け マカロニグラタン チンジャオロース 以上。 すべて一品料理なのであわせて食べるなんて無謀な事はしないよーに。 「海老はもっと細かくする!ぜんぜんダメ!」 「ああっ!しいたけ入ってないわよ!入れなさい、今すぐ!」 「豚肉のサイズが大きい!4センチよ、4センチ!」 「沸騰してるっ!弱火ぃーっ!」 「まだ一時間経ってない!火から下ろすなっ!」 「カレイの内臓全部とれてないっ!お客を食中毒にさせる気!?」 「しょうがを切れっ!ほら皿に盛って!」 「泣くなっ!泣いてる間にたまねぎ切れっ!」 「シメジ!マッシュルーム!塩!胡椒!スープの素!ついでに白ワイン!」 「細切り!千切り!みじん切りじゃないっ!食材を無駄にするなぁぁぁぁぁぁっっ!」 声が枯れる・・・ッ! 「・・・合格」 食べられるようになった料理を空にし、あたしは疲れた面持ちで言い切った。 「そ、それではっ!」 「あー、店あけるなりなんなり勝手にしなさい。あたしもう疲れた。 料理を作るのにこんなに疲れたの初めてよ・・・・・・」 もうすでに夕飯の時間は過ぎていた。 あたしはもうおっちゃんの顔を見る気力も起きず、そのまま宿へと帰ったのだった。 そして里帰り。 後にこの店は『家庭的なお味が新鮮なお店』とか何とか言ってけっこう売れたそうな。 ・・・どーでもいーや。 あとがき エ:・・・くだらん。 L:それはあんたの頭の中身。 エ:がふぅっ! L:最初本当に材料とか作り方入れようとしたのよね。 エ:・・・がふ。 L:で、その名残があのルキのセリフ、と。 エ:・・・・・・・・・。(ケイレン中) L:・・・ふぅ。あたしも疲れたわ。 皆さん、料理する際は十分気をつけてね〜。 またお会いしましょうっ! |
30814 | お知らせです。読まれたほうがよろしいかと思われます。 | エーナ | 2004/10/29 19:20:09 |
記事番号30628へのコメント ええと、皆様お久しぶり(すぎ)です。 大変申し上げにくい事態が勃発いたしました。 このアルファベットシリーズ、番外編『あぁるぴぃじぃ』が書けなくなりました。 毎度毎度何とか書こうとしているのですが、今回ばかりは転んでしまったまま起き上がれません。 前途多難すぎます。船は沈没。道では落とし穴に。・・・というのは比喩ですが、私の文章力では無理のようです。 まことに勝手ながら、番外編はここで打ち切らせていただきます。 ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません。 くじら幕を掲げる勢いで切にお詫び申し上げます。 それならこのシリーズはどうなるんだ、というお声も上がるでしょうが、ただ今第六部を検討中です。 この場でお詫び申し上げます。 |