◆−とある特異児のお話−パッチー (2004/10/31 16:09:06) No.30828
30828 | とある特異児のお話 | パッチー | 2004/10/31 16:09:06 |
生まれてすぐ、私は川に投げ捨てられた。 多分、このとがった耳のせいだろう。隔世遺伝というものらしく、生まれた瞬間に「取替え子」と呼ばれたのを覚えている。 もしくは、誕生した瞬間に言葉をしゃべったことに対する嫌悪感か。 目が見えなかったので姿は見たことがないが、両親は高位の魔術師だったらしい。 大方の言葉は母親の腹の中に居るときに覚えた。えらく簡単だったのを覚えている。 その後3歳まで、私は川辺で生活した。 川に投げ込まれてしばらくしたら、その川の主だった魚人に助けられたからだ。彼はしばらく私の親代わりになってくれた。 彼には感謝している。私が精霊と話し始め、初めて魔術を使った時期もその時期だったし、生き物として生きていくために必要な知識を学んだ時期でもあった。 彼の名前はヌンサというらしい。面白い家系で、父親の名前もヌンサで、祖父の名前もヌンサというらしい。 私にも当初はヌンサと名づけようとしたらしいのだが、自分の名前があると言って断った。 だが、彼は私をずっとヌンサと呼んでくれた。何度言っても変えないので、私もそれを受け入れた。 これが彼なりの愛情表現だったのだろう。 そんな生活も長くは続かず、私とヌンサが分かれる日が来た。 ヌンサの父のヌンサが危篤のため、故郷にもどれ、と使いのものが来たのだ。 ヌンサは私を連れて行こうとしたが、その当時私は魔術というものに興味を持ち始めていた。 それに、自分と同じ姿の者が他にもいる・・・という話を聞き、会ってみたくなったのだ。 ヌンサは私を抱きしめて、気をつけろ、と言って旅立っていった。 寡黙な彼にとってはそれが精一杯の言葉だったのだろう。私は生まれて初めて涙というものを流した。 その後は各地を旅して、魔術というものを学んでいった。これも生みの親が魔術師だからだろうか、私はかなりの魔力を持ってるらしく、6歳の時分にはそこそこ名の売れた魔術師の一人に数えられた。 たった6歳の魔術師、しかも、エルフの魔術師という事で私はかなり注目を集めていたらしい。 幾つかの国から、仕官する気はないか、と訪ねられたが、丁重にお断りをしていた。 面倒だからではなく、ヌンサと二人で生活していた時期が長かったため、国という概念がその当時はわからなかったためだ。 各地を渡り歩いているうちに、盗賊を退治したり遺跡の発掘をしたり・・という、いわゆる冒険者家業が中々具合よかったためでもあるが。 そして、私はある遺跡で、私の人生(この場合はエルフ生とでも言うべきか)を変えうる物と対峙した。 ・・・金色の王・・・ロード・オブ・ナイトメア それは静かに立っていた。 私と一緒に遺跡を調査していた戦士はすでに腰を抜かして座り込んでいる。それほどの威圧感・・・いや、それでも精一杯抑えていたのだろう。 本気で睨まれれば、私など一瞬で空気と化すだろうから。 彼女を呼び寄せた、古代の魔法具・・・多分神魔戦争時代のものだろう・・・どうやらそれは、彼女ないし彼女に関連する力を召還する道具だったらしい。 それを誤作動させてしまったようだ。古代の者も迷惑な代物を残してくれたものだ。 私は、彼女の存在をその当時は知らなかった。 ただ、個人的に興味がわいたのでしばらく眺めていた。 「・・・何をしている?」 彼女はしばらく立っていたが、私の視線をわずらわしく思ったか、はたまた不思議に思ったのか言葉をかけてきた。 「いや。学術的に興味がある。君の容姿は完璧すぎる。どうやら人ではないらしいが・・・」 手元にあったノートに特徴を書きながら、私はそう答えた。今思えば返答としては意味が通らないものだが。 魔族や神族というものにはまだあったことがないため、私は思わずほほが緩むのを自覚した。 ブツブツと呟きながら一心不乱にノートと睨めっこをする私を、相手は面白そうに眺めていた。 「・・・こんな所かな」 適当なところで私はノートを懐にしまった。 「こんな所って・・・2時間も書き続けて、まだ満足しないのか?」 苦笑しながら彼女は尋ねてきた。今まで付き合ってくれていたのか・・・人のいい性格のようだ。 「満足という言葉は、その存在を全て知ったときに初めて得ることができる。少なくとも、私はそう考えています」 「ほう・・・その年で一端の学者気取りか」 「学者というものに年齢はいりません。いるのは探究心と好奇心・・・それにちょっとした魔術です」 そう答えて、私は彼女に対し幾つかの質問をした。 貴方のような存在にとって、生活とは何ですか? 私たちのような存在をどう認識していますか? あなた方にとっての力と、その意義は?魔術とはどういう関係が? 世界の成り立ちとは?そしてどうやって存在している? 一つ一つに、彼女は律儀に答えてくれた。良い人(いや、この場合は良い魔族か良い神族と呼ぶべきか)なのだろうか。 彼女が答え終えたあと、私はなぜこんなに親切に答えてくれるのか尋ねた。 彼女は数秒考え、面白かったから。と答えてくれた。 「悠久の時を過ごす我にとって・・・こういった暇つぶしでもないと、暇で暇でしょうがないからな」 そう言って、彼女はしばらく私に色々な話を聞かせてくれた。 異世界のこと。魔王や神の存在する理由。自分の存在について。 そして、付け加えるように彼女は私にこう言った。 「もし、お前が望むのなら・・・お前に時をくれてやってもいい。全てを見たいというのなら・・な」 そう聞かれても、私は今現在十分に若い。その上、エルフなのにこれ以上時間をもらってもしょうがないではないか。 その旨を伝えると彼女はくすくすと笑った。 「では、お主の意見が変わるまで気長に待っていよう。呼びたい時に私を呼ぶがいい」 分かった、と私が言うと、彼女はそういえば・・と付け加えた。 「私の名はロード・オブ・ナイトメア・・・小僧、お主は?」 彼女の問いに、私は少し考えてからこう言った。 「ゲルボルフ・・・ゲルボルフ・マグナス」 私の真の名前・・明かしたのはヌンサ以来だ。 「そうか・・ではゲルボルフ。また会おう」 彼女はそう言ってと、光のように消えていった。彼女が立っていた場所には、指輪がひとつ落ちているだけだった。 私はそれを拾い上げると右の人差し指にはめ込んだ。これが彼女を呼び出した魔法具だからだ。 仲間はもうすでに逃げ去っている。私が殺されたとでも思って、戻ってこないのだろう。 私は持っていくものがないかどうか確かめてから、遺跡を後にした。 そして10年の月日が流れた。 私は今や大陸でも有数の魔術師と呼ばれている。 といっても名前が売れただけ、挑戦してくるばか者も増えていくだけなのだが。 あの後、ロード・オブ・ナイトメアは一度も呼び出していない。彼女も気長に待つと言っていたし、私の寿命が終わるまではできれば呼び出したくはないものだ。 そして今、私は研究のために色々な存在を見に世界を回っている。 ロード・オブ・ナイトメアは暇だ、と言っていた。長らく生き過ぎて。 だが・・・本当にそうなのだろうか? 世界は常に回り続けている。そう、一秒もとまらずに。 同じ時間に笑っている人も居れば、泣いている人も居る。それこそ、今、この瞬間にも。 そう。同じ瞬間など、一秒もないのだ。 りんごを売っているおばちゃんに小銭を渡して、りんごを口にもって行く。 しゃりっという感触に幸福感を覚える瞬間。何度も経験していても、その時々でどう思うかは違うはずだ。 彼女にとって、この世界は小さな箱庭でしかないのかもしれない。けれど、その空間で生きている私たちはその一瞬一瞬を大事に生きるしかない。 再び彼女にあった時に言う言葉は、もう考えている。 私はもっとこの世の中を見て生きたい。それこそ、永遠と呼ばれる空間の中でも。 とりあえずは、今のエルフ生を歩み終えるまで。私は研究を続けるだろう。 限りある命を持つ生き物として・・・・この美しい世界を。 あとがきっぽいもの うぅん。なんとなく変な文書ができた。 頭の中にささぁ〜っとできたものを書き続けてたら、いつの間にかこうなっていたと・・・ああ、石を投げないでください、たんこぶはもうあります(泣) とりあえず、言い訳をば。 今回のは、ちょっとした短編的な奴です。というか練習作品です(ヒド)どこがスレイヤーズなんだ、って突っ込みはできれば言わないで下さい(泣) 会話が少ない小説・・ってのを目指して書きました! 見ていただいた方には抽選で・・・という適当なボケはなしで、こんな駄文見ていただいて本当にありがとうございました。 また、次の作品を楽しみにしていてください。ではでは |