◆−All was Given 〜前書き〜−久賀みのる (2004/12/1 10:42:32) No.30936 ┗All was Given 〜11〜−久賀みのる (2004/12/1 10:50:56) No.30937 ┗Re:All was Given 〜11〜−エモーション (2004/12/2 21:05:13) No.30939 ┗ああっ目の付け所が鋭いかもっ!?(ぇ−久賀みのる (2004/12/4 00:09:11) No.30943
30936 | All was Given 〜前書き〜 | 久賀みのる E-mail URL | 2004/12/1 10:42:32 |
日に日に冷え行く今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。 未だにストーブをつけずに布団4枚にくるまりつつ久賀みのることのりぃです。 ……もう12月なんですけどねぇ(遠い目) ま、そのあたりの裏話はさておいて。 「All was Given」、第十一章をお届けに参りました〜。 ちなみに今回の文字総数は、約10000文字。まあまあ普通ぐらいですね(をい) ちなみになぜこれぐらいで済んだかと言うと、後半部分をごそっとカットしたからなのですが。 つまり前後編の予定が、前中後篇になってしまいました(滝汗)引きが長くて申し訳ないですー(涙) でもまあ、会話シーンを削らずに済んでいるので、 キャラ立ちという面では結構おいしい章になったかなぁとも思わないでもなかったりします。 追記。今回、描写が比較的エグいシーンが含まれております。お気をつけください。 まあ、そんなに酷い描写はしていないと思いますが……さじ加減って難しいですねぇ(汗) なお、前回と同じく、「宣伝レス」、「対談型レス」、「全文引用レス」はご遠慮願います。 またあらすじなどは書いていませんので、先月分までの話を読みたい方は、 著者別の「久賀みのる(のりぃ)」のリストからとんでくださいね。 いつものごとく長い前書きに付き合って頂いてありがとうございます。 それでは、本文をどうぞ。 |
30937 | All was Given 〜11〜 | 久賀みのる E-mail URL | 2004/12/1 10:50:56 |
記事番号30936へのコメント All was Given 11 〜Stormy Night〜 ざんっ! 茂みに彼女が着地する。雷鳴の響く暗い森の中、雨に濡れそぼった赤毛が広がり、一瞬遅れて身に貼り付いた。衝撃を和らげるために滑らかに曲げた膝を伸ばし、飛び降りた背後を見上げれば、身長の倍よりなお高い。 山を一度上に登ってから、段差を飛び降りることで追っ手を撒いたのだ。もっとも、段差と言っても、それは岩壁に近い。登る最中に着地地点をあらかじめ見定めておいたことと、飛び降りるときに一度木の枝に掴まって、スピードを殺してから改めて下りたことが無ければ、歩けなくなるほどではなくても、多少の故障は免れなかっただろう。 腿と膝とを軽く叩き、全身のコンディションを確認してから、森の切れ目に向かって駆け出す。村まではまだ多少の高さを残したその高台から、彼女は村を見下ろし――そして嘆息した。 「……おいおい。ずいぶんな大事だな。こりゃあ」 薄闇を過ぎた暗さの中で、マックが見下ろしたその先には―― 何十体もの人型の異形が、たいまつもつけずにゆらりゆらりと姿を見せていた―― 履いたブーツの下でぱきりと、ガラスの破片が音を鳴らす。 すでに周囲を囲まれている可能性を考え、山に近い方の窓を割って強行突破した彼らだが、周囲には何の人影も無いようだ。ガラスの割れる音も、豪雨や雷鳴のために、周りには意外とは聞こえなかったらしい。 「やれやれ。まあ、こっから山まで駆け込めばどうにかなるだろ」 「それはいいんだけど、マックとどーやって合流するのさ? 割とどこにいるのか不明な気がするんだけど」 「決まってんだろ。 騒ぎの起きるところにヤツはいるんだ」 「………………うわー…………」 迷わずきっぱり言い切るデューン。どうかと思うが言い返せないクレイス。荷物から雨合羽を引き出して着ながら、今後の方針を話し合う。 「そうでなくてももう十分に騒ぎだろ。さっきの爆発が事故だとも思えねぇしな。 マックが何かと交戦してるんだったら、またどっかで何か起こんだろ。 そん時を待つ。 合流できないようならこっちから火ぃ焚くなりして合図でも――」 「――デューン!」 突然クレイスがデューンの袖を引く。厳しい目線のその先に、建物の影から走り出てくる、一つの小さな人影があった。 彼らに気づかず、道を横切っていくその姿には見覚えがある。この宿に入るときに玄関先で遊んでいるのを見かけた、宿屋の娘だ。年のころは5、6歳だろうか、転がっていくボールを捕まえて胸に抱いた彼女は、ようやくデューンとクレイスとに気がついて、軽く目をしばたかせる。 「あれー? お兄ちゃんたち、何してるの?」 ボールを抱えて、とてとてという形容そのままに走りよってくる。どこにでもいるような少女であり、どこにでもありそうな状況だ――豪雨の中平然と遊んでいること、今さっき彼女の父親が襲い掛かってきたこと、そして倒した後屍体(ゾンビ)と化したことを考えなければ。 もともと彼らは子供が嫌いな性分ではない。だが、目の前の少女が無害なのか敵なのかの判断がつかない。父親と同じように襲い掛かってくる可能性を考えれば、とても武装を解く訳には行かない。だが一方で、何も知らないただの子供だったらと思うと、心的外傷(トラウマ)を植え付けるような行動を取ることも出来ない。少女の姿をしたものに、何もされていないのにこちらから斬りかかるのにも抵抗があった。 結果、敵意も体勢も中途半端なまま少女と向かい合うことになり、薄いとは言え大人から敵意を向けられて、少女が脅え出す。 「……や、やだ、お兄ちゃんたち、何でそんな怖い顔してるの? あ! ガラス割れてる! お兄ちゃんたちがやったの!? いけないんだよ!? 窓なんか割ったら! お父さんが泣くんだから!!」 子供特有の、手足を振り回す大きな動作とと共に、少女が叫びだす。 デューンの脳裏を、一瞬、宿の主人の言葉がよぎる。 『私には娘がいます。私は娘を死なせたくないんです――』 「お父さん、このごろ元気ないの。ずっとそうなの。なんでかわからないの。あのね、お夕飯食べないの。 遊んでもくれないの。毎日毎日ね、ずっとね、おうちのお掃除ばっかりしてるの。 リリィだけお夕飯食べてね、リリィだけ早く寝なさいって言うの。おかしいの。あのねあのね、昔はね、リリィもおうちのお手伝いしてたのに、窓とか拭いてたのに、今はそんなことしないでお外で遊んできなさいっていうばっかなの」 子供が、怖い顔をしている大人に、自分でも良くわからないことを伝えるのは、本当に難しいのだ。身振り手振りを交えて、リリィという名の少女が、詰まりながらも必死になって、目の前で言葉を紡いでいる。少女は少女なりに、何かの異変を感じ取っているのだろう。 「それでねそれでね、夜になったらこっそりお父さんに会いに行こうとするけど、出来ないの。リリィ寝ちゃうの。あ、でもねでもね、雨のときにね、一回だけ見に行ったことがあるの。 でもお父さんね、部屋の中でね、ずっとお机に座ってるだけなの。ずっとずっとね、動かないの。お母さんの指輪見てた。リリィはお母さん覚えてないけど。それでお父さんがリリィに気づいたらね、そのまんまベッドの上まで持ってかれちゃった。寝ちゃったからその後は覚えてないけど。 だからね、お父さん、きっと何か大変なの。何かすごくすごく悩んで、でもリリィには話してくれないの。それで元気ないの。 早く元気になってほしいなって、すごくすごくすごく思うんだけど」 君のお父さんは、二階の客室で、干からびた肌をした死体になっている。 そんなことを言えるはずもなく、きびすを返すわけにも行かず、雨の中、割れた窓の下、少女と二人が立ち尽くす。痛みを覚える強い雨足の下、震えを自覚も出来ない彼女をデューンは少し痛ましく思った。 「あ、でもね、あのね、リリィいいこと思いついたよ!」 デューンとクレイスを交互に見比べ、不意に少女が顔を輝かせる。抱えていたボールが落ちて跳ね、道の端へと転がっていった。 「うん、すごくいいこと思いついた。きっとお父さんもこれで元気になってくれると思うの。 リリィだけだと無理だけどね、お兄ちゃんたちがいればきっと大丈夫だよ! だからね、お兄ちゃん、ちょっとだけ――お耳貸して?」 屈託なく甘えた表情のまま、伸び上がるように手を伸ばし、水たまりで滑ってよろめく少女。咄嗟にデューンが腰を落として背を支えようとしたその瞬間。 っがうんっ!! 銃の咆哮が鳴り響き、少女の頭がはじけ飛んだ。 「何してやがんだっ!! んーなところで雁首並べやがって!! 屍体(ゾンビ)に無防備に首筋さらけ出すなんざてめーら自殺志願者か藁人形か!?」 なぜか白衣を無くしたマックが、山の奥から駆けて来る。 片手に持っているのは、彼女が時々見せびらかしていた奇妙な形をした短杖(ロッド)だ。どういう仕組みになっていたのかは、説明されてもわからないが、それが「拳銃」という名の遠距離用の射撃武器だということは知っている。それが、たった今使われたことの証明のように、先端から煙を吐いている。 たった今少女が倒れたことと、それらの知識が脳内で組み合い、突如デューンの頭に血が上る。 「てめぇこそいきなり何しやがった!! 自分(てめぇ)が何やらかしたかわかってんだろうなぁっ!? おいっ!!」 「当たらねーように狙って撃っただろーが!! 大体そのセリフてめーにそっくり返すぜ!? あのまんまヤツに好きなようにやらせてたらどーなったと思ってやがんだよ!!」 「勝手に決め付けてんじゃねぇよ!! どーなったってんだよ!!」 「どーなった、だぁ?」 マックはぎりっ、と奥歯を噛み締め、 「足元にすっ転がってるもんきっちり見てから口利いてもらおうか! ええ!?」 苛立ちに振り下ろした右足は泥の中に埋まり、べちゃり、と煮え切らない返事を返す。飛沫が飛び、先ほどまで少女だったものをさらに汚す。 少女だった「もの」。今改めて見下ろしたそれは、彼女の父親と同じように、干からびた肌とねじくれたつめを持っていた。首が無くなり泥の中に落ちたそれは、先ほど見たものよりももっと汚らしいもののように思えてしまう。先ほどは感じなかった異臭がその遺体と、自分の顔からもすることに気づき、デューンは慌てて自分の顔をぬぐった。残っていた脳の中身なのか、暗い中でも識別できる、血と微妙に異なる色の液体が、手の甲を痛いほどに強く叩く、無数の雨粒に流されていく。 「…………な…………」 クレイスがかすかに声をあげる。その声を掻き消すように、マックがさらにがなり立てる。 「てめーらの脳みその狂い加減なんざ知ったこっちゃねーけどよ、何があろーと死体は死体なんだよ!! 屍体(ゾンビ)が出てきてこんにちはとでも言ってフォークダンスに誘うとでも思ってたのかよ!? 真っ向から叩き潰してやんなきゃあどーにもこーにも埒なんざ明きゃしねーぜ!!」 「…………それでもよ………………」 デューンが足元に目を落としたままで、ぽつりとつぶやく。雨が道に浅く川を作り始めていた。まるで嫌な液体も少女の死体もまとめて隠してしまおうと言うように、濁りきった色の川だった。 「……こいつらは家族だったんだよ。死んでまでもずっとよ。 今も、それに本当に死んだときも、きっと互いのことしか考えてなかったんだろうな…………」 「………………………………」 「けっ。同情かよ。余裕じゃねーか」 黙るクレイス。嘲るマック。デューンは言葉を続けずにただ川を見据え、かすかな水音を捉えて振り返り――どこか呆然とした調子で言った。 「――じゃあ、あいつらは、何のためにここに来たんだ?」 雨の叩きつける世界の中、振り返った先に見えたのは、数十体もの屍体(ゾンビ)の群れだった。 『!?』 クレイスが顔色を変え、マックが内心臍をかむ。自分だけはそれに真っ先に気づいていなくてはならなかったのに。 だが反省よりも時間が惜しい。内心動揺していても、彼女の決断は早かった。 「いったん退くぞっ!!」 「うおっ!?」 背中を向けたままのデューンの襟首引っつかんで背中に担ぎ、背後の山に向かって全力疾走を開始する! 「……ってちょっと待て! 降ろせ!!」 「やかましい!! そんな腑抜けた顔してるやつを信用できるか!! 持ち方が不服だっつーなら後でいくらでも姫君扱いしてやんぜ!?」 「いるかぁぁぁぁぁ!! 放せぇぇぇぇぇっ!!」 一瞬呆れたがすぐに追いついてきたクレイスが、走りながら後方に散発的に雷撃を放つ。顔の上に降ってきたマックの濡れた長髪を払いのけ、デューンは背中の違和感に気づいた。 山から入ってきた時には穏やかに普通に見えた村から、豪雨の中、屍体(ゾンビ)に追われて山へと走って逃げ戻っていく。事情も何もかもわからないまま、よくわからない人間に担がれて。 「あー畜生!! 何なんだよこの状況はよ!! どこの誰だよ! こんなえげつねぇ筋書き(シナリオ)書いたヤツぁよ!!」 「だから耳元で叫ぶんじゃねーよやかましい!!」 驚くべきことに、人一人を楽とは言えない形で担ぎながら、それでもマックはクレイスの前を走る。最後に目くらましを放ってから、クレイスはマックを追って山に飛び込んだ。 山をある程度登った後で、マックはデューンを放り出した。 そこからさらに移動した、洞窟と呼ぶには小さな横穴で、彼らは火を焚かずに丸く座っている。 「で、これからどーするの?」 口火を切ったのはクレイスだった。大抵何かしようという時、言い出しっぺは彼である。 「……決まってんだろ。とっとと逃げる」 投げ捨てるとまでは行かなくても、投げた口調でマックが言った。 「てめーら知らねーだろーから教えてやるけどよー、大陸じゃあ屍体(ゾンビ)ってぇのは歩く死体でよー、死体を埋葬する仕事やってんのが聖母真教の教会でよー、一度やった仕事が終わってねーってのは面子に関わるからよー、中位以上の聖職者はそーゆーのが祓えるようになってるし、そーゆーの専門のヤツもいるのよ。 で、大概人がいる場所には、よっぽど辺鄙な場所でもない限り教会があんのさ。まあ女司祭(ぼーず)は名ばかりの生臭の時も多いけどよ、少なくとも教会の中にいりゃ屍体(ゾンビ)にもならねーし連中も入って来ねー。最悪総本山(ボス)までの連絡手段もあるしな。 だから何だっていい、どっかの村にまでたどり着けば、教会に避難して、そっから女聖職者(くそぼーず)ネットワークを通じて偉いさんが来て、あの村ごと殲滅して終了(しゅーりょー)、ってなオチよ。 ほら、お前らやることなんざ何にもねーだろー? とっとと帰れや」 「…………ずいぶん詳しいじゃねぇか。マック」 やや斜めにデューンがマックを見上げる。見上げられるのはその身長からだいぶ前に慣れてしまっているが、デューンに見上げられるとどうにもガンをつけられているような気がしてならないマックである。特にこういう、絡むような話し方をされるとなおさらだ。 「言っただろ。オレは大陸育ちなの」 「……教会がらみのか?」 ――何でそこまでバレるのか。 「……てめーら知らねーみてーだからもう一つ教えてやるわ。 この手の話は大陸じゃあ子供達の基礎知識なの。 墓場に入って遊んでるガキどもは、どいつもこいつも『悪いやつは一緒に祓われるぞ』っつーて脅されるんだからよ」 とりあえず、嘘は言っていない。そう考えて自分をごまかすマックである。 会ったばかりのころは嘘ばかりついていた気がするのに、今になって当り障りの無い真実しか答えられないのはなぜなのだろう。 「……まあいいさ。 で、もう一つ疑問があるんだが」 「何だよ。言ってみろよ」 デューンは、今度はクレイスにも等分に視線を移しつつ、 「……あの村、生存者が他にいると思うか?」 クレイスが軽く眉を寄せ、宙を見つめて考える。 「……教会に逃げ込むか、もしくは確率は低いかもしれないけど、もしあの群れになった屍体(ゾンビ)にも自我と意識があったとしたら――」 「期待するだけ無駄だ。ンなもん」 クレイスの発言を、マックが途中で遮った。それこそ、投げ捨てるような口調である。 「ドタマん中まともなもんが詰まってねーよーな連中に何期待してんだお前ら。 オレなんざほっつき歩いてるだけで襲われたってーのによ」 『!? ほっつき歩いてるだけで襲われた!?』 突然色めきたつ二人に、今度はマックが不審の目を向ける。 「何盛り上がってんだお前ら。屍体(ゾンビ)が人を襲うのに理由が要んのかよ」 「要るかどうかは知らないけどあった。」 「は?」 目を丸くするマックに、クレイスが手短にこちらにあったことを説明する。 「――つまりあれか。マジで屍体(ゾンビ)が出てきてこんにちはでフォークダンスに誘われたのか」 「……いや、今の説明をどこをどー聞けばそーなるのかわからないけど。 とにかく、こっちからすれば『村人が死んだ後に動かない屍体(ゾンビ)が残った』って事しかわからなかったわけさ。屍体(ゾンビ)が村人の振りをしているんじゃないかって予測も一応ついてはいたけどね。 だから村人の姿をした女の子を殺したくなかったわけ。 ……でも、結局死んじゃったから結果は変わらなかったのかな……」 「……ちょっと待て」 今度はマックが待ったをかける。 「お前ら、アレが、少女の姿に見えたのか?」 「ちょい待ちマック! じゃあ、君にはどう見えたのさ!?」 「どうと言われても。身長ちみっちゃい普通の屍体(ゾンビ)にしか」 「……どういうこと?」 「――考えたところで何もわかんねぇよ。当人に聞くっきゃねぇな」 ずっと考え込んでいたデューンが、そこでようやく口を開く。 「……って当人? 術をかけて屍体(ゾンビ)を作った当人ってこと?」 「バカ言うな。それができりゃあ苦労なんざしねーよ」 二人が冷めた発言を返すが、しかしデューンの目は揺るがない。 「どんなヤツかもどこなら確実にいるかもわかんねぇけど、大体いそうなところなら予測がついたぜ?」 「なっ!?」 「デューン、それってマジ!?」 二人を見ながらうなずき返す。 「いなかったらいなかったでそれでいいし、やるだけのことはやれたことになるしな。 まあ失敗したら多少マズいかも知れねぇが……いざとなったら逃げ切りゃいいだろ」 淡々としたその話し方には、気負いもなければ気配りも感じられなかった。 当たり前のことを話しているように重要なことを話す彼に、ふとレウスの影響を垣間見るクレイスである。 「……っておい! さっきから言ってんだろーがてめーら! もう既にてめーらの手におえる事態じゃねぇんだぞ!?」 「ああ。一応俺らもてめぇの力量ぐれぇはわきまえてるさ」 「だったら――」 言い募るマックに向けて、しっかり顎を上げ目で目を見据えて、デューンはきっぱり言い放った。 「てめぇが帰るなら俺らも帰る」 「んなっ!?」 あまりの言い草に二の句が継げない彼女に向けて、デューンはさらに言葉を続ける。 「さっきからてめぇは人に向かって帰れ帰れって。人のこと散々足手まとい扱いして。 んの割には自分自身の身の振り方なんざちっとも話さねぇんだからな。 わかりやすいんだよ。お前は。」 (…………わ、わかりやすい…………) ちょっと落ち込むマックである。 「で、その辺踏まえて、だ。 お前一体、ここで俺らと別れた後何する気だったんだ? 出来れば納得できるように理由まで言っとけや」 「いや。あのな。」 「あ、途中まで俺ら送った後で、はぐれた振りして姿消すっての無しな。 先に言っとくけど、それだと俺作戦話さねーから。 あんだけの屍体(ゾンビ)正面から一人で相手すんのって、そーとー手間だぜ。いやご苦労さん」 「……た、性質悪ぃぃぃぃっ!! てめーそーとー手加減抜きに根性悪ぃだろ!? おい!? っつーかクレイス! お前いつのまにかきっちり人数入ってんぞおい! それでいーのかっ!?」 思わず穴の中で叫ぶマック。岩壁に反響して大変うるさい。 話を振られたクレイスは、とりあえず耳をふさいだ後で、拭いた聖印を指ではじいた。 「……別にいいんじゃないかなあ? だってさー、マック。あー、知らないと思うから教えてあげるんだけどね? 理詰めモード入ってるデューンって、下手するとレウスよか怒らせるとヤバいんだ」 その後の説得には、大して時間はかからなかった。 いつしか、雨は小降りになってきていた。 保存食をかじり、作戦決行を雨が止むだろう夜明け前に定め、それまで体を休めると言うことに決める。 床が斜めの横穴で、クレイスが器用に丸まっている。外をぼんやり眺めていたマックは、ふと、デューンが外に出て行ってからそれなりの時間が経っていることに気が付いた。 どうせ体を休めようと休めまいと大差は無いと思い、外に出る。一般人の目にはほぼ暗闇に等しいだろうが、彼女には夜も昼も大差は無い。とはいえ、横穴を出てすぐのところで、木に寄りかかって村の方を眺めている彼ならば、クレイスでもそうかからずに見つけられただろう。 「……何やってんだ。お前は」 デューンがこちらを振り向く。音で位置がわかっているようだが視線は微妙に合わない。まあ夜闇の中なのだから、仕方の無いことではあるのだろうが…… 「……何も見えねーだろ。どーせ真っ暗なんだから。こんなとこ突っ立ってたって」 横にまで並ぶ。ようやっと自分の姿が見えるようになったようだ。 「……別に何だっていいだろ。ちっと考え事だ」 「まだ引きずってやがんのか。このおセンチ野郎」 「バーカ。違(ちげ)ぇよ」 「じゃあ何だよ。冥福でも祈ってやってたか?」 「俺ぁ祈り方わかんねぇんだよ」 (……ふーん) 祈り方がわからない。それは聖母真教形式の祈り方がわからないと言う意味ではないだろう。だとすればそれはグラディエルス人としては珍しいことではない。わざわざ言うほどのものでもなかろう。 だが、固有の祈り方を、宗教を持っていないということならば、これは国がどうとか珍しいとか言うレベルの問題ではない。まして子供のときからずっとそうだと言うのならば、もはや感性の差は異邦人どころの騒ぎではないだろう。 神を呪うにも世界を呪うにも、まだ到底早すぎる年齢の子供だ。それも、子供が見上げれば大人になり、大人が見下ろせば子供になる類の、一番不安定な年齢の。信じるものの不在は彼にとって、その不安定さにどう作用しているのだろう。 別に良い悪いの問題ではない。だが、全く予測がつかないのだ。もし、どの神のものでもいい、その神の秩序と気まぐれとを信じないとするならば、理不尽極まりなく天秤のつりあわないこの世の中と、一体どうやって妥協できるのか。信じなくなったというならともかく、始めから信じずにずっと世の中を渡っていくというのは、一度でも何かを心から信じてしまった人間にはたどり着けない境地なのかもしれない。 バカなことを考えていることに、そこで気が付いた。頭を振る。濡れたままの髪がうっとうしく、少し苛ついた。 「……なあ。マック。自称大陸出身のてめぇに聞くけどよ」 「何だよ」 「俺らがやろうとしてることって、犯罪?」 「……まあ犯罪だな。ちなみに50年前なら超重犯罪扱いのおまけつきだ」 今でも、状況によっては十分以上に重犯罪だろう。それをしようとしているのはただ単に、これだけ悪化している状況ならば許されるだろうと言う楽観的な見込みと、今から自分達の行動を見聞きする善意の第三者など来ないだろうと言う客観的な見込みに基づいてのことである。 「嫌ならやめるか? 一応それでも行動回んだろ」 「冗談。俺だって命は惜しい。どうせなら生き延びる確率上げるって」 「じゃあ何を考える必要があんだよ?」 こいつの言動こそ良くわからないことに、いまさらながら気が付いた。世の中にすねたガキなのか、理性で突き進む悪党なのか、目の前の人死にに動揺する単なる子供なのか。 「………………あいつら、どこにいくのかなってよ」 「あいつら? 結局また屍体(ゾンビ)どもかよ」 マックは呆れた。結局同じことを引きずっているだけではないのか。 「心臓と呼吸が止まった時点でそれは死者であり既に生者ではない。 で、死者の魂はそのまま冥界に行き、眠りの炉を通って精錬されて、いずれ再びこの大地にて共に歩むのだと。 ……大体ここら辺までは共通弦義じゃなかったか? 五大精霊神教圏(グラディエルス)も聖母真教圏(たいりく)も」 「知ってるよ。だから気になってんだ。 心臓と呼吸が止まった時点で魂が離れるんなら、今動いてるあいつらの中身は人の魂じゃねぇんだよ。 俺らがあの体全部吹っ飛ばしたら、連中の中身はどこへ行くんだ? 結局、あの親子はどこに行くんだよ」 今度こそマックは呆れ果てた。よりによって術者により屍体(ゾンビ)に与えられたかりそめの自我と知性の行く先を心配しているのか。こいつは。 「バカかお前。 魔物も死体も魂はねぇよ」 何でそんなものにまで同情してしまうのか。 それらと自分達を同一視してしまったら、自分達があまりにも惨めではないのか。 そんなものを抱え込みながら延々と歩くつもりなのか。 バカだ。こいつ。 「……悪かったよ。バカなこと考えちまったよ。自覚はしてんだよこれでもよ」 寄りかかっていた木から背を離し、横穴の方へと彼は戻っていく。足元が不安定になりながらも、目指す場所に向けて。 「……体休めとけよ。足手まといはごめんだからな」 「安心しろ。俺だってまっぴらごめんだ」 憎まれ口を叩きながら彼は彼の暗闇の中を歩いていく。たとえ彼女に暗闇が見通せたとしても、それはあくまで彼女の目でしかないのだ。 一体どこへ歩いていくのか。自分もヤツも、あいつらも。 「……やれやれ」 誰にともなくつぶやいて、後姿を見送った後、立ったまま眼下に村を見下ろし、雨粒を顔に受けて空を見上げる。彼には見えなかった廃墟と化した村と、雨が止んでも未だに晴れそうに無い暗雲とが見える。 暗闇が見えるのと、救いの無い光景を見せ付けられるのと、どちらがましなのだろうか。 「……同情されちまったぜ。ご同輩どもよう」 むしろ苦々しくつぶやいてから、彼女はくるりときびすを返した。 足元に見えていた枯れ枝を、わざわざ選んで踏み潰す。ぱきりという奇妙に乾いた音が、かすかに耳に心地よかった。 |
30939 | Re:All was Given 〜11〜 | エモーション E-mail | 2004/12/2 21:05:13 |
記事番号30937へのコメント こんばんは。 さすがに12月だけあって、寒くなってきましたね。 それでも確かに去年の今頃に比べれば、まだ部屋で暖房を使わなくても平気なあたり、 暖冬なんだと感じていますが。何にせよ、風邪などにはご注意下さいませ。 ゾンビ村(……どういうネーミングだ(汗)。しかも勝手につけてるし)編、パート2ですね。 今回はマックさんの正体に関する部分が、ちらほらと出ていますね。 コンピューターのネットワーク空間っぽいところに入り込めるし、夜目は利くし、 遠いところでもバッチリ見えるし、デューンくんとクレイスくんには人間に見えたゾンビが、 彼女にはきっちりゾンビにしか見えなかったり、どう軽く見積もっても体重が 確実に50〜60kgはあるだろう15〜16の兄ちゃんを担いで走ったりと、 かなり謎な部分の多い方ですが、ラストのデューン君との会話の後の台詞に、 もしかしたら彼女は、ダニール=オリバーやR・田中一郎、データ、A−K以降 (A−Rはちょっと違うけど)のA−ナンバーズ(……知らないと全然分からない キャラに例えているなあ……(汗)特にダニール=オリバーとデータ)と 似たような存在なのかなと、ちらりとそう思いました。 デューンくんの持った疑問、分かるような気はします。 かりそめだと分かっても、じゃあ彼らが見せたあの感情は何だったのだと、どうしても思いますから。 ただの同情と言われれば、そうだねとしか返せませんが、かりそめだから 何の意味もない代物、と扱うのは、やっぱり何か違う気がします。 単なる気分の問題と言われればそれまでですけどね(^_^;) それにしても理詰めのデューンくん。レウスさんより怖いのですか。 今回の件、相当頭にきているんですね、デューンくん。 次回で判明するであろう、あの村をゾンビ村にしてしまった張本人、もしくは原因。 デューンくんやクレイスくん、何となく察しは付いてそうなマックさんは、 一体どんな真相を見つけるのか、続きを楽しみにしています。 それでは、この辺で失礼します。 |
30943 | ああっ目の付け所が鋭いかもっ!?(ぇ | 久賀みのる E-mail URL | 2004/12/4 00:09:11 |
記事番号30939へのコメント こんばんわ。久賀でございます。 レスありがとうございます!! どんどんコメントのつけづらい方向に話が進んでいますので、 本当にただ感謝でございます。 >正体不明型爆裂姐御 実のところ、A-ナンバーズ以外はわからなかったので、ぐぐって見ました。 いろいろ出てきましたよー。出てきたがゆえにコメントが出来ません。あはは(笑) ちなみに、彼女に関してはウィリアム=ギブスンの影響も結構大きかったりします。TRPGではトーキョーN◎VA。ニューロ!!(をい) >魔物と死体と子供と闇と 実際、この辺りの問題はつつくとかなり複雑です。 2章や6章で書いてあるとおり、魔物との共存は実質不可能ということになってますので。 彼らに感情やら精神やらを認めてしまうと、攻撃や反撃がしづらくなるということもあり、宗教界では彼らにそれらを認めてないわけですね。 でも眼前にするとやっぱりそういって割り切れなかったり。 でも認めてしまうと逆に自分達が惨めになってしまったり(ゾンビを斬るのは犯罪ですか?)。うーん、袋小路。 ……わお。良くこんな設定入れたな自分(待たない) >「宮廷魔術師より怖かった」C少年涙の供述 ……すいませんさすがに嘘です(爆)あったらヤだなぁ(こら) えー、実際にレウスと理詰めモードのデューンが対峙してどうなるかはわかりませんが。レウスはクレイスに対して、やっぱり年齢的な遠慮なんかもあるんですけど、デューンはその辺の考慮が全く無いので。 結果、デューンからのほうが被害がでかいのですよ。クレイス限定だと。 ……世間様一般的にはどっちが迷惑かはまあさておきます(逃) えー、ゾンビ村(仮称)に関しては、残り一回で一段落つけたいところです。 マックの正体などに関しては、その次かさらにその次あたりになるでしょうか。 個人的に、15日辺りに更新できると嬉しいのですが……まあ期待しないで待っていてくださると助かるような気がいたします(弱気) それではこのあたりで。長文失礼いたしました。レスありがとうございました!! |