◆−初投稿です−朱姫 依緒琉 (2005/1/11 08:20:10) No.31062 ┣鏡の中の緋き月 1−朱姫 依緒琉 (2005/1/11 08:21:45) No.31063 ┣鏡の中の緋き月 2−朱姫 依緒琉 (2005/1/17 08:18:50) No.31091 ┣鏡の中の緋き月 3−朱姫 依緒琉 (2005/1/17 08:22:59) No.31092 ┣鏡の中の緋き月 4−朱姫 依緒琉 (2005/1/17 08:24:13) No.31093 ┣鏡の中の緋き月 5−朱姫 依緒琉 (2005/1/17 08:25:27) No.31094 ┣鏡の中の緋き月 6−朱姫 依緒琉 (2005/1/18 16:40:28) No.31097 ┣鏡の中の緋き月 7−朱姫 依緒琉 (2005/1/19 08:15:29) No.31101 ┣鏡の中の緋き月 8−朱姫 依緒琉 (2005/1/19 08:16:38) No.31102 ┃┗はじめまして−一坪 (2005/1/20 12:04:38) No.31106 ┃ ┗お手数おかけしました−朱姫 依緒琉 (2005/1/21 08:15:27) No.31108 ┣鏡の中の緋き月 9(閑話1)−朱姫 依緒琉 (2005/1/21 08:16:55) No.31109 ┣鏡の中の緋き月 10-1−朱姫 依緒琉 (2005/1/21 08:18:14) No.31110 ┣鏡の中の緋き月 10−2−朱姫 依緒琉 (2005/1/22 11:50:10) No.31112 ┣鏡の中の緋き月 11−朱姫 依緒琉 (2005/1/24 08:13:48) No.31116 ┣鏡の中の緋き月 12−朱姫 依緒琉 (2005/1/24 08:14:50) No.31117 ┃┗お願い−朱姫 依緒琉 (2005/1/24 08:15:26) No.31118 ┃ ┗では、投稿させてもらいます−GURE−TO MASA (2005/1/24 10:37:34) No.31119 ┃ ┗ありがとうございます!−朱姫 依緒琉 (2005/1/24 12:42:44) No.31120 ┗鏡の中の緋き月 13(最終話)−朱姫 依緒琉 (2005/1/25 11:23:37) No.31124
31062 | 初投稿です | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/11 08:20:10 |
はじめまして、こんにちは。朱姫 依緒琉(あけひめ いおる)といいます。 初投稿で初連載、無謀かもしれませんが、長い目で見てやって下さい。 まずは予告編から、どうぞ! さてそれは、いかなる運命のいたずらか。 昔と言うにはまだ近い時、一つの孤独な魂が、この世界に舞い降りた。 孤独を癒す術を求めて、彷徨う一つの魂は、やがて一つの答えに行き着く。 意味を知らぬは二つの魂、求めるはただ、永久の安らぎ。 叶わぬ望みと知りつつも、墓守は鏡に希望を託す。 4番目のニセモノはホンモノと出会い、全ては始まった・・・・。 「リ・・・・リナが二人・・・・?」 「私は私です。それ以外の何にもなれませんよ。」 「私はフィーアさんを信じます!」 「私たちは、生まれながらに罪人・・・・。」 「何か、知っているのね!?」 「会いたいよ・・・・『リュー』・・・・」 「所詮は、ニセモノと言ったところか。」 願いと願いが交差する時、生まれるのは何か・・・・? 『鏡の中の緋き月』、請うご期待! |
31063 | 鏡の中の緋き月 1 | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/11 08:21:45 |
記事番号31062へのコメント こんにちは、と、言うわけで続けて本編です。いきなりですが、どうぞ! 鏡の中の緋き月 1 朱の鏡たる少女 「姫、お待ちください!」 酷暑とはまさにこのことと言った午後、街道沿いの小さな村に、なんとなく周囲から浮いた2人がいた。『姫』と呼ばれた少女は、白い装束を身にまとい、暑さなどものともせず走っていく。一方もまた、少女と呼んで差し支えない年齢ではあろうが、薄い藤色のマントとフード、下には同系色の動きやすそうな貫頭衣とズボンに薄茶色のブーツ。見ているほうが暑くなりそうである。細身のロングソードを腰に挿したその少女は、恐らくはかなり整った顔立ちをしているのであろうが、顔を半分ほどフードで隠しているため、定かではない。さらには、驚くほど飾り気がなく、装飾と呼べる物は、左腕にあるジュエルズアミュレットのついたシンプルなブレスレットくらいのものである。 「何言ってるんですか!フィーアさん。今この瞬間にも、どこかで正義の助けを求める声が上がっているかもしれないんですよ!?悪に不当な弾圧を強いられる者がいるなんて、この正義の申し子、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンが許せません!」 「アメリア様・・・・頼みますからもう少しおとなしくなさってください。私は一応あなた様の護衛なんですから。」 アメリアは、『フィーア』と呼ばれたその少女の手をはしっ、と掴んで言った。 「フィーアさん!あなたに正義の心はないんですかっ!?」 しかしフィーアはあくまでも冷静に。 「姫、これは正義とか正義ではないとか言う問題ではありません。あなたはセイルーン王国の姫。本来ならば、城にいるべきあなた様がなぜここにいるのです?見聞を広げるために、ですよね。確かに、こうして村々を回り、実情を聞くのは、国の内部の、特に王族の支配・庇護があまり受けられていない場所を知るいい機会です。きっといつか、あなたのお役に立つでしょう。しかし、あなたは奉仕作業をするためにここにいるわけではないのですよ。それは、他の者がやるべきこと。何も私は面後くさがったり、上流意識とやらにとらわれたりしているわけではありません。これは雇用の問題です。あなた様が『悪』とやらを全て退治してしまったら、警備隊の立場はどうなります?彼らの雇用は?彼らの給金で生活している家族は?仕事を奪い、彼らの家庭を崩壊させれば、姫、あなた様が『悪』になりかねませんよ?」 「わ・・・・私が、悪・・・・」 真っ白になったアメリアを手馴れた様子で抱えると、フィーアは宿に向かって歩き始めた。 ちなみに余談ではあるが、セイルーン王宮内では、『アメリアならしのフィーア』は結構有名なのである。 宿にて、フィーアはいまだ真っ白になっているアメリアに話しかけた。 「しかし、アメリア様のその優しい心は立派です。常に民を思いやり、公正な目で物事を見ることができる。真に民に愛される王になれましょう。民が幸せに暮らせる国、あなた様はそれを守ることができる。それこそ、あなた様が正義である何よりの証なのでは?」 とたん、アメリアはぱっと復活し、フィーアの手を握って言った。 「そうですねっ!」 フィーアは、フードから覗く口元に優しい微笑を浮かべ、アメリアの髪を撫ぜた。 「さあ、先にシャワーを使ってください。その後、食事ですよ。」 アメリアがぱたぱたと向かった後、フィーアはフードを脱いだ。 アメリアは、ぽつりとつぶやいた。 「それにしても、フィーアさんって、リナさんと瓜二つなのに、性格はほとんど正反対なんですよね・・・・。」 フードの下の顔は、わずかな色調の違いはあるが、あのリナ=インバースに酷似していた。 |
31091 | 鏡の中の緋き月 2 | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/17 08:18:50 |
記事番号31062へのコメント こんにちは、朱姫 依緒琉です。前回から少し時間が開いてしまいましたが、やっとの更新です。 今回は、ついにレギュラーメンバー(?)がそろいますよ! 鏡の中の緋き月 2 いずれ出会うべき少女 「行ってはなりません、アメリア様。」 食堂へ行こうとするアメリアを、フィーアは必死で押しとどめていた。 「どうしてですか!」 「実は・・・・今、下の食堂に食堂荒らしが来ていると聞いたのです。」 フィーアは言いにくそうにぽつぽつと話す。 「栗色の髪をした魔道士風の女に、金の長髪の剣士風の男、あと、私によく似た服装の男の3人連れで、食べ物を食い漁っているらしく・・・・今、下は戦場のような騒ぎです。」 「栗色の髪の女魔道士に、金髪の剣士、フィーアさんに似た服の男の人・・・・まさか!」 アメリアはなにやらピンときたらしく、フィーアを押しのけて食堂に向かった。 「おっちゃん!このジール海老のグラタン3人前追加ね!」 「あー、おれもおれも!あと、このイカの酢の物2人前!」 山のような料理が一瞬にして消えていく。 「・・・・・・・・」 ひとり、参加していない人もいるが。 「あ〜!やっぱり、リナさん、ガウリイさん、ゼルガディスさん!」 「ふぇっ!・・・・ふぁ〜ふぁめいあ、ひはひふひふぇぇ!ふぇんふぃふぁっふぁ?ふぁれ?へほあんふぁふぁんふぇほんなふぉふぉおひ?」 (訳:えっ!・・・・あ〜アメリア、久しぶりねぇ!元気だった?あれ?でもあんた何でこんな所に?) 「口の中にものを入れて話すな!しかし、本当に久しぶりだな、アメリア。」 「え・・・・あ〜、えーと・・・・誰だっけ?」 がくっ、っとアメリアはこけ、リナのツッコミ裏手パンチがガウリイに炸裂した。 「むぐむぐ・・・・ごくっ・・・・このどあほ!アメリアよア・メ・リ・ア!」 「アメリア様!ご無事ですか!?」 「「「へっ?」」」 「あら?」 階段から降りてきたフィーアとリナたちの目が合った。 「「リ・・・・リナが二人・・・・?」」 ガウリイとゼルの声が見事に合致した。 「申し訳ありません。アメリア様のお知り合いの方たちだったのですね。私、アメリア様の護衛を務めさせていたただいております、フィーア=シャルラッハと申します。どうぞフィーアとお呼びください。」 (な・・・・なんかリナの顔で言われると凄い違和感なんだが・・・・) (ああ。しかも声まで似ている・・・・。リナと瓜二つだが、性格はずいぶんと違うようだな。) (ええ。私も慣れるまで苦労しました。) 「はーい、そこ!ひそひそしない!」 服装や、細かいところで違いはあるけれども、それでも瓜二つなリナとフィーアに、ガウリイとゼルはなじめずにいた。かく言うリナも、突然現れた自分と同じ顔の人間に不信感がないとは言えない。アメリアも、改めて二人を並べてみて新鮮な驚きを味わっていた。 「フィーア・・・っていったわね。あんた、驚かないの?」 さっきから(といっても出会って間もないのだが)態度の変わらないフィーアに、リナは話しかけてみる。 「ええ。同じ顔が世界に3人はいるといいますし・・・・何より私、瓜二つの顔は見慣れていますから。」 「見慣れてる?どーいう意味よ?」 「双子の姉がいるんです。本当に、まったく同じ顔の。・・・・ちょっと、苦手なんですけど、ね。」 「苦手って・・・・?」 「ちょっと、精神的に頭が上がらないというかなんと言うか・・・・」 (なんか、すっごくよくわかるわ、その気持ち。) アメリアたち3人がひそひそ話をしているうちに、リナとフィーアはなんとなく気があってきたようだ。 「よっしゃ!景気づけに追加注文!ん〜・・・・子羊のロースト・香草風味3人前ね。フィーア、あんたもなんか頼みなさいよ!」 「では、お言葉に甘えて・・・・と、その前に、アメリア様、お食事はいいんですか?」 「あ、忘れてました。じゃあ・・・・ヤマカサゴの甘辛煮と、オオアサリの炭火焼と、季節の山菜の酢の物を各2人前!」 「私は・・・・そうですね、温野菜のサラダと果物を。」 しーん、と、あたりが静まった。 「・・・・それだけ?」 リナの問いに、フィーアはきょとんとした表情で答えた。 「ええ・・・・何か?」 「いくらなんでも少なすぎるだろう。夕食だぞ?」 ゼルもまた問うが、フィーアは笑って言った。 「いつもこの程度ですよ。」 (そうなの?アメリア) (はい。フィーアさん、いつもあんな感じですよ。だからあんなに華奢なんです。でも、すごく強いんですよ。) 世の中の神秘です、と続けてアメリアは笑った。 「ところでアメリア、何であんたこんなところにいるの?」 料理が来るまでの間に話を済ませてしまおうと、リナが唐突にアメリアに話しかけた。 「はい!それはもちろん、世に正義を広めるためです!」 「見聞を広げるため、ではなかったのですか?」 元気いっぱい宣言するアメリアの横で、フィーアがぽつりとつっこんだ。 「う・・・・そ、それは・・・・立派な正義の使者となるために、見聞を広げながら、正義を広げるのです!」 微妙に支離滅裂なアメリアの主張に、フィーアは苦笑をもらした。 「はいはい・・・・それはそうと、私まだ皆さんの名前がわからないのですが。」 そう、なぜかなし崩しで同じテーブルで食事はしているものの、よくよく考えてみると、まだフィーアしか自己紹介をしていなかったのだ。 「そういえばそうね。あたしはリナ=インバース。こっちがガウリイで、その横がゼルガディスよ。」 リナが一緒くたにまとめて紹介すると、なぜかフィーアは考え込むようなそぶりを見せた。 「ガウリイさん、と、ゼルガディスさん、ですか・・・・。ひょっとして、フルネームはガウリイ=ガブリエフとゼルガディス=グレイワーズでしょうか?」 「!なぜ知っている!?」 ゼルが音を立てて立ち上がった。ガウリイも、わずかに緊張している。 「だってあなた方有名人ですよ?少なくとも傭兵業界で『黄金の死神ガウリイ』と『白のゼルガディス』を知らない人はいませんよ。」 そう言ってうっすら微笑み 「今は縁あってアメリア様の護衛を務めさせて頂いておりますが、私も傭兵ですから。知っていて当然です。でも・・・・」 少しだけ誇らしげに、フィーアは言った。 「今は、アメリア様の護衛ができることを誇りに思っていますよ・・・・・・・・ちょっと、大変ですけど・・・・ね。」 「あーっ!ひどいです!」 そんなアメリアを見て、皆思わず笑ったのだった。 そうして、夜は更けていった。 【フィーア・・・・本名・フィーア=シャルラッハ。年齢16歳。フリーの傭兵。現在はセイルーン第一王位継承者フィリオネルの2番目の姫アメリアの護衛を務める。緋色の髪に紫を帯びた紅の瞳を持ち、外見はあのリナ=インバースに酷似する。性格は冷静沈着、理性的、温和。優美と言う言葉が似つかわしい、上品で奥ゆかしい態度。かなりの高等教育を受けたものと思われるが詳細は定かではない。】 恐らく何かの極秘資料であろう紙を握りつぶし、影は言った。 「詳細は定かではない・・・・か。セイルーンの情報網は結構なものだが、それでもかぎつけられてないようだな・・・・。」 影の一方がそう言う。 「そう簡単にばれたら意味がないでしょう?私たちの素性が明るみに出たら、それこそ身の破滅程度では済みませんから。」 よく似た、しかし明らかに口調の違う声がそう返す。 「気をつけろ。私よりお前のほうが危険性が高い。」 「わかっていますよ。私だって、今の事態は完全に予想外です。これほどに長い間、同じ立場に留まるつもりなどなかったのですから。・・・・まあでも、偽名を使っていたことも幸いしたようですね。しかしなるべく早めにきっかけを見つけてやめることにしましょう。」 二つの影たちは、お互いに淡々と話す。いや、単なる報告といったほうが正しいかもしれない。 「今回は以上だ。私は帰る。」 「ええ、お気をつけて・・・・。」 そうして、影は一瞬のうちに消えた。残された影が立ち上がる。熱帯夜であることを示すように、不気味に緋く輝く月に照らされ、その顔が明らかになった。 「ふぅ。・・・・そういえば、シャルラッハとは緋色と言う意味でしたっけ・・・・。今日の月の色・・・・私たちの髪の色・・・・罪悪を暗示する色・・・・。私たちは、生まれながらに罪人・・・・まさにぴったり。偽名であるのが残念です。」 フィーア=シャルラッハと名乗る少女は、アメリアたちの前では決して見せぬ歪んだ嗤いを浮かべた。 あとがき代わりの次回予告 知ってしまった言葉があった。認めたくない言葉があった。 夜の帳に紛れて聞こえた声は、嘘か真か。 夢と現の境目で、少女たちは何を思うのか・・・・ 次回、鏡の中の緋き月第3話『薄闇にまどろむ少女』 「あなたたちの願いに、私は答えることができていますか・・・・?」 |
31092 | 鏡の中の緋き月 3 | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/17 08:22:59 |
記事番号31062へのコメント こんにちは。と、いうことで連続更新です。いきなり本編に、どうぞ! 鏡の中の緋き月 3 薄闇にまどろむ少女 (聞こえてしまいました・・・・) アメリアは、隣の部屋のベッドの中から、一部始終を聞いていた。正確には『聞こえてしまった』のだが。あまりの暑さに寝付けなかったためである。本当に小さな声だったから、恐らく聞いていたのはアメリア一人であろう。アメリアは考え込んだ。 (フィーアさんが罪人?しかしそれなら私の護衛につくはずないですし・・・・でも、偽名って言ってましたね・・・・いえしかし、手配されている罪人ならば、顔もわかっているはずです!それに、私の正義の使者としての勘が言っています!フィーアさんは悪人じゃありません!フィーアさんはすごく優しくて、剣も魔法も強くて、もう一人の姉さんみたいで・・・・。そうです!これは何かの陰謀に違いありません!フィーアさんは、きっと騙されているんです!きっとそうです・・・・・・・・・・・・・・・・そう・・・・ですよね?フィーアさん・・・・) アメリアは、赤い月を見ながら、フィーアの無実を心から祈った。 フィーアは夢を見ていた。 『フォレン・・・・フォレン・・・・』 (そう、私はかつてそう呼ばれていた。今となっては、呼ぶのはたった一人だけだけど・・・・) 『逃げなさい、フォレン!そのままだと、あなたは戦いの道具にされてしまうわ!』 『イヤっ!逃げるなら皆一緒よ!姉さまたちを残して私だけなんて・・・・』 (あの時おとなしく姉さまたちの言うことを聞いていれば、姉さまたちは死ななくてすんだのかな・・・・) 『姉さま・・・・姉さまぁっ!!!!』 (姉さま・・・・) 『生きろ・・・・生きるんだ・・・・お前だけでも・・・・。お前は・・・・・・・・』 ばさっ、と布団を跳ね除けて、フィーアは完全に覚醒した。しばし荒い息をついていたが、やがてほう、とため息をつき、枕元におかれたブレスレットに手を伸ばした。それを抱きしめ、小さな震える声で呟く。 「姉さま・・・・、あなたたちの願いに、私は答えることができていますか・・・・?」 ブレスレットの裏には、小さな文字でフィーアの本当の名が刻まれている。 −Vollendet Vier Falsch− その名と、その名にこめられた忌まわしき真実をアメリアが知るのは、もう少し後のことである。 空が白み始めた。今日もまた一日暑くなりそうだ。 あとがき代わりの次回予告 明るい笑顔の下に潜む疑惑。知ることは不幸の始まりか。 望む未来を作るべく犯した罪の代償はいかなるものだったのか。 『平和』の名を冠する魔道士の遺産を求めて、少女たちはまた新たな出会いを迎える。 次回、鏡の中の緋き月第4話『永劫の贖罪人たる少女』 「『シドの遺産』・・・・・ですか。」 |
31093 | 鏡の中の緋き月 4 | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/17 08:24:13 |
記事番号31062へのコメント 続けていきます、4話です。 鏡の中の緋き月 4 永劫の贖罪人たる少女 「おはようございます、皆さん。・・・・・・・・アメリア様、どうかなさいましたか?顔色が優れないようですが・・・・。」 朝一番に、フィーアはそう言ってアメリアの顔を覗き込んだ。アメリアは大慌てで顔に笑顔を浮かべ、言う。 「い、いえ!大丈夫です!」 「そうですか・・・・」 心配を隠せないまま、しかしフィーアは別のことも心配していた。 (まさか・・・・昨日の話が聞こえていたのでは?いえまさかそんなはずは・・・・でももしや・・・・) 「なーに二人そろって暗い顔してるのよ!ご飯は楽しく、おいしく食べないと!」 「「リナさん」」 二人はそろってリナを見る。リナは明るく笑って言った。 「早くしないとみーんな食べちゃうわよ!?」 つられて二人も笑った。 「リナさん、ひどいです!」 「流石に何も食べないのはこたえますからね。頂きましょう。」 そうして、騒がしい食事タイムが始まった。 「そういえばアメリア様、今後はどちらへ行かれるおつもりですか?」 ふと思い出したようにフィーアは言った。 「これから、ですか?・・・・しばらくは、リナさんたちと一緒に行こうかと。」 アメリアはきょとん、とした顔で答える。 「そうですか・・・・。ではリナさん、あなた方はこれからどちらへ?」 「ん〜、一応、シド・シティに行くつもりだけど。」 シド・シティ・・・・ラルティーグ王国の中の小都市で、海に面している。漁業が盛んで、名物のマエル鯛は『世界美食ランキング』で常に上位にランクインしている。そして、200年ほど前に実在した、シドという魔道士の作った街としても有名だ。シドはその生涯をかけて、魔族や犯罪者に脅かされない、弱い人たちが何の心配もなく暮らせる、平和で安全な都市づくりをしてきた。それは、シドの家族が魔族と犯罪者のせいで殺されたせいだと言われているが、真相は定かではない。ただ、そのせいでこの街はセイルーン以上に安全な町となっている。 「シド・シティ・・・・。」 「どうかした?フィーア。」 リナが問いかける。しかしフィーアは微笑み、言う。 「いえ、何でもありません。」 そして、再び目の前の果物に取り掛かったのだった。余談だが、この日のフィーアの朝ごはんは鉢に山盛りになった桃。量は(リナたちどころかゼルと比べても)少ないほうだが、かなりインパクトがある。 「でもリナさん。シド・シティって、何かありましたっけ?」 唐突に、アメリアが言った。リナは少しだけ顔をしかめ、こっそりと言った。 「んー・・・・、実はね、シド・シティで最近、『魔道士シドの遺産』と言われる研究所が発見されたって聞いてね・・・・。シドは『写本』を持っていたって話は有名だし、何か情報が残ってないかなぁ、と思って。」 「『シドの遺産』・・・・・ですか。」 フィーアが桃を食べる手を止め、呟いた。 「フィーア、やっぱりあんた、何か知ってるのね!?」 リナが勢いよく尋ねる。 「いえ、世間一般でよく知られていることくらいしか知りません。ただ・・・・」 「ただ?」 フィーアは視線をそらし、いいにくそうにしている。しかし、やがて覚悟を決めたのか、ふぅ、と息をつき、口を開いた。 「『平和の魔道士シド』は、その平和を維持するため、裏では結構ひどいこともやっていたと聞いたことがあります。・・・・シドを研究していた知り合いが言っていたことを小耳に挟んだ程度ですが。これまで知られていなかった研究所ならば、もしや裏の研究施設ではないかと思ったのです・・・・。」 まあ、本当に『写本』の手がかりがあるのなら、きっと裏の研究所でしょうけど、と付け加え、フィーアは一切れだけ残っていた桃を口に運んだ。 「まあ、行けばわかるでしょ。」 リナはそういって、席を立った。 フィーアは頭を抑えていた。 「お待ちなさい!か弱き人々を襲う悪党よ!たとえ天が地が許しても、この私、アメリアが許しません!」 「アメリア様・・・・。」 いつの間にやら木に登り、びしぃっ!と指差すアメリア。その先には、ぽかーんとした顔でアメリアを見つめる盗賊団と、襲われていた女の子。その間も、アメリアの口上は続く。 「・・・・悔い改めぬというのなら、この私が裁きの鉄槌を下す!とうっ!!!!」 と、飛び降り・・・・ どさっ 「大分、慣れましたから。でも、できればあまりやらないで下さいね。」 確実に着地に失敗しそうだったアメリアを、着地(墜落?)地点に先回りしたフィーアが受け止めた。そして、アメリアを抱えたまま手早く呪文を唱え、 「雷光矢(ライトニング・アロー)!」 フィーアの放った、フレア・アローの雷版、といった感じの金色の光は、盗賊団員全員に命中し、程よく全員を焦がしたのだった。 「さて、と・・・・」 フィーアはアメリアを下ろし、襲われていた女の子に近づく。 「大丈夫ですか?お嬢さん。」 女の子は、一瞬硬直したが、しかしすぐに元気にうなずいた。 「たすけてくれてありがとう!おねぇちゃん!」 フィーアはにっこりと微笑み、アメリアを示した。 「お礼は、あちらのお姉さんに言ってください。」 「うん!」 女の子はとてとてとアメリアに近づき、大きな瞳でアメリアを見つめ、言った。 「おねぇちゃん、たすけてくれてありがとう!」 「いいえ、このくらい、正義の使者として当然のことです!でも、こんなところで一人でいるのは危ないですよ?大人の人は一緒じゃないんですか?」 「ううん、おつかいのかえりなの。いつもとおってるから、だいじょうぶだとおもったんだけど・・・・」 「では、私たちがおうちまで連れて行ってあげます!」 「ちょ、ちょっとアメリア・・・・」 元気よく言うアメリアをリナが止める。目的地は決まっているのだから、寄り道はしたくない。しかし女の子は嬉しそうに笑って言った。 「ほんとう!?ありがとう!おねぇちゃんたち!」 アメリアを除く全員が、やれやれとため息をついた。 「それで、おうちはどこですか?」 「あのね、ここからもうすこしいったところにある、シド・シティっていうまちの、いせきのそば!」 「シド・シティ!?ちょうどいいじゃないですか!リナさん、ゼルガディスさん、ガウリイさん、フィーアさん、連れて行ってあげていいですよね!」 完全に連れて行くことを前提にしゃべっていることに気づいているのだろうか。一同は、仕方ないと了解した。 「では、行きましょう!そういえば、あなたの名前は?」 女の子はにっこりと笑い、言った。 「ノイ!ノイ=ファルシュっていうの!」 「ノイちゃん、ですか。私はアメリアといいます。では、行きましょう!」 ノイが名乗った瞬間、フィーアが顔をゆがめたことを知るものはいない。 あとがき代わりの次回予告 平和の魔道士の残した遺産、異界黙示録の写本。平和の魔道士が作った遺産、『永遠の灯』。 残されたものたちは何を思い、そこにあるのか。 幼き少女と墓守の少女は、亡き主をどう思うのか・・・・。 次回、鏡の中の緋き月第5話、『大いなる遺産を引き継ぐ少女』 「役に立つとは思えないが、『写本』をお見せしよう。」 |
31094 | 鏡の中の緋き月 5 | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/17 08:25:27 |
記事番号31062へのコメント 第5話です! 鏡の中の緋き月 5 大いなる遺産を引き継ぐ少女 その後は特に何も起こることは無く、一同はシド・シティに辿り着いた。まずはノイを送り届けてから、と言うアメリアの意見に反対するものもいなかったので(と、言うか送り届けないほうが困る)、ノイの家に向かうことになった。 「ここ、ですか・・・・。」 「こりゃぁ、また・・・・」 「ずいぶんと大きな『家』だな・・・・。」 上から順に、アメリア、ガウリイ、ゼルの感想である。そのとおり、ノイの家は、城だった。 「ノイ、あんたって、領主の娘だったの?」 リナがノイに尋ねる。 「いや、そうではない。」 しかし、その問いに答えたのはノイではなかった。 「おねぇちゃん!」 ノイが嬉しそうに声を上げる。 その人は、ノイに似た女性だった。緋色の髪は高い位置で纏められ、紫色のきつめの瞳はまっすぐにリナたちを見つめている。暗い色で統一した、動きやすそうな服は、失礼だがどこか暗殺者を思わせるものだった。ぶっきらぼうな口調ともあわせると、どこか中性的である。 その間に、ノイが女性にかけより、話す。 「あのね、おねぇちゃん!やとーさんにおそわれたのを、このおねぇちゃんたちがたすけてくれたの!」 すると、きついまなざしが少し緩んだ。 「そうか、ありがとう。妹が世話になったな。・・・・お礼といっては何だが、急な用事が無いのなら、食事でもしていかないか?」 「「ぜひっ!」」 リナとガウリイがそういったのは、言うまでも無い。 「では、どうぞこちらへ。・・・・ああ、申し遅れた。私はアインス。アインス=ファルシュと言う。」 はぐはぐ・・・・ がつがつ・・・・ もぐもぐ・・・・ 「な、なんと言うか・・・・健康的だな・・・・。」 そんな域はとうに超えているであろうが、アインスは呆然とそう呟いた。 「気にしないほうがいいですよ。いつもあんな感じですから。」 アメリアは、アインスを慰めるようにそういう。アインスはそうか、と呟いて、視線を他へ移した。 「ところで、あの・・・・リナ嬢に似た・・・・」 「フィーアさんですか?」 「ああ、そうだ。フィーアといったな。彼女は、リナ嬢の血縁者なのか?」 「いいえ、他人の空似と言うやつです。」 アメリアとアインスの会話に割り込んで、フィーアが最後に言った。 「そうか。少し気になって、な。それはそうと、先ほどから何も食べていないようだが・・・・口に合わなかったか?」 「いえ、そうではありません。ただ、少し疲れているので、いつもより食欲が無いだけです。」 フィーアはふわりと微笑み、言う。 「そうか・・・・。では、どうだ?今日はここに泊まっていっては。灯祭りを見に来たのだろう?こんな時間では、宿はもう満室だろうからな。」 「ともしびまつり?何ですか、それ。」 アメリアが問うと、アインスはひとつ頷いて、語る。 「この街独自の祭りだ。『平和の魔道士』シドの業績を称え、シドの遺産の一つである『永遠の灯』を平和の象徴として祭りをする。」 「『永遠の灯』?」 「あれだ。」 そう言って、アインスは窓の外を指差す。その先には、大きな灯台があった。 「その昔、と言ってもシドの生きていた時代だ。30年ほど前、この辺りで大きな海難事故があった。原因は、この辺りの海を縄張りにしていた雷撃竜(プラズマ・ドラゴン)だと言われているが、定かではない。とにかく、何かしらの竜族・亜竜族が原因だったらしい。それを知ったシドが建てたのが、あの灯台『永遠の灯』だ。あれの光は、微妙に調節された、竜族・亜竜族に嫌悪感を与える光らしい。もちろん、近隣の山々に影響が出ない位置に設置されているし、他に害は無い。竜族に対しても、何かいやな感じがする程度のものらしいが、こればかりは当の竜に聞いてみなくてはわからんな。」 アインスが、語り部の如く由来を語る。アメリアはその心地よい響きに聞きほれていたが、フィーアはふと聞き返した。 「すみません、全く別の話になりますが・・・・この辺りで『シドの持っていた写本』の手がかりが見つかったという話を聞きましたが、本当なのですか?」 瞬間、ゼルの瞳が鋭く光った。リナもまた、真剣な表情になる。アインスは3人の視線を受けて、神妙な顔で肯いた。 「確かに。手がかりどころではなく、シドの所有していたと思しき『写本』本体が発見された。しかし、それを見ることは諦めたほうが良い。」 「なぜだ!?」 ゼルが鋭く誰何する。アインスは、相変わらず神妙な顔つきで、一言言った。 「読めないんだ。」 「「「「はい!?」」」」 全員(ガウリイを除く)の声が重なった。アインスは続ける。 「どうやらそれは、『異界黙示録の写本を更に書き写したもの』だったらしい。紙が新しかったし、我々の知る文字とは全く別の文字で書き記されている。それでもいいなら・・・・見るか?」 「へ?み・・・・見るか、って、そんなすぐ手元にあるみたいな・・・・」 「あるぞ。何しろ、発見されたのはこの館の地下の隠し部屋の中だ。ここは昔、シドの住んでいた場所。不思議はあるまい?」 「「「・・・・・・・・」」」 全員、沈黙。 「き・・・・聞いてないわよ!そんなこと!」 いち早く立ち直ったリナが叫ぶ。すると、アインスはしれっと言った。 「言わなかったからな。」 再び、沈黙。と、今度はゼルが口を開いた。 「なぜ、シドの館に住んでいる?」 「我が両親は、シドに仕えていたらしい。シドの死後、ここの管理を任されたそうだ。私は二代目。この屋敷と、『シドの遺産』の管理をしている。」 シド本人は私が物心つかないころになくなっていて、全く覚えていないがな、と続けて、アインスは立ち上がった。 「さあ、こっちだ。妹を助けてくれた礼の一部とでも思ってくれればいい。役に立つとは思えないが、『写本』をお見せしよう。」 あとがき代わりの次回予告 その者の望みは一体なんだったのか。そして今を生きるものたちの望みは・・・・。 灯の光の中交わされた約束は、祈りか、誓いか。 新たなる目覚めの胎動は、何を示すものか・・・・。 次回、鏡の中の緋き月第6話、『叶わぬ未来を望む少女』 「約束、ですよ・・・・?」 |
31097 | 鏡の中の緋き月 6 | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/18 16:40:28 |
記事番号31062へのコメント こんにちは、朱姫 依緒琉です。二日連続更新! 今回は、少し長くなってしまったかも・・・・。そして、今更ながら、この話、主役はリナではなくアメリアな気が・・・・いや、フィーアか・・・・? とにもかくにも、第6話。本編へどうぞ! 鏡の中の緋き月 6 叶わぬ未来を望む少女 「これがその『写本』だ。」 そう言って見せられた写本は、確かに読めなかった。 「何よ、これ・・・・。」 「丸っこい文字と角ばった文字と複雑な記号みたいなのが入り混じってますね・・・・。」 「読めん・・・・」 リナ、アメリア、ゼルはそう呟く。ガウリイはぼーっとしていて、フィーアはそれでも一生懸命写本を見ていた。 「フィーアさん、わかりますか?」 アメリアが疲れた声で問いかける。フィーアは静かに首を横に振り、言った。 「いいえ。見たこともない文字です。あるいは暗号かと思ったのですが・・・・法則性がみつかりません、そういうわけでもなさそうですね。」 アインスはやはり、と呟くと、写本をフィーアから受け取り、再びしまう。 「気にすることはない。各国の有名な学者たちでさえ、手が出なかった代物だ。あるいは我が両親ならば読めたかもしれんが、彼らは既にいない。シドに関することは、残らず墓の中にまで持っていってしまった。」 淡々と呟くアインス。それに対して、特にゼルは気落ちした態度を隠せなかった。と、フィーアが突然思いついた、と声を上げた。 「でも、写本の写しがあるなら、身近にオリジナルがあるのでは?」 一同は、ぱっと顔を上げる。 「なるほど・・・・一理あるかもしれないな。」 アインスはひとつ頷いた。 「これのあった所を探してみよう。あなた方は灯祭りに行ってくるといい。・・・・ノイ、お前は行くか?」 「ううん、おねぇちゃんがいかないなら、あたしもいかない。」 ノイはそう言ってアインスにくっつく。よほどのお姉ちゃんっ子なのだろう。 「そうか。では、少し手伝ってくれないか?『写本』を探す。」 「うん!」 ぱたぱたとノイがかけていった後、アインスは再びリナたちに向き直り、言った。 「案内もできず、申し訳ない。迷うことは無いと思うが、道がわからなくなったら住民に聞くといい。それと、このあたりは魔法がほとんど使えないから、気をつけてくれ。」 「魔法が使えない?どうしてよ。」 「この街には、シドの魔封じの結界が張ってあるからな。この館の中だけは、その効力が中和されているが、外ではせいぜい『明り(ライティング)』や『浮遊(レビテーション)』ぐらいしか使えない。」 「ふーん・・・・。シドって随分変わり者だったのね・・・・」 リナは微妙に気がかりに思いはしたものの、アメリアに催促されて祭りへと繰り出したのだった。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ゆらゆらと、灯が揺れる。夜の帳の落ちた海に、数百もの光が漂っていた。 「ぅわぁ〜!とってもきれいです!」 アメリアが歓声を上げるのを、フィーアは横で微笑みながら聞いていた。 祭りの会場についてすぐ、まずゼルが姿を消した。人ごみは苦手なのだろう。そしてその直後、リナとガウリイが、とある食堂でやっていた、名物・マエル鯛のフルコースの大食い大会に参加し、いまだに食べ続けている。時間がかかりそうなのでそこで別れた。見ていてフィーアが胸焼けを起こしたせいもあるのだが。今、アメリアとフィーアは二人きりで『永遠の灯』の元に来ている。灯台の近くで出店を出していたおじさんの話によると、海に揺れる光は、小さな藁製の舟に『明り(ライティング)』の呪文をかけたもので、願いをこめて海に流すのだという。この灯祭りのメインイベントなのだそうだ。 「フィーアさん、私たちもやりましょう!」 アメリアが、さっき買った藁舟に『明り(ライティング)』をかけて、浜辺に走っていく。フィーアもまた、その後を追った。 舟を波に浮かべるのは、これでなかなか難しい。タイミングを見計らっていないと、すぐに岸辺に押し戻されてしまうからだ。揺れる水面を見つめながら、アメリアはふと口を開いた。 「・・・・そういえば、どうしてフィーアさんは旅をしているんですか?」 フィーアは不思議そうにアメリアをみて、答える。 「あなたが旅をしているからですよ。私はあなたの護衛ですから。」 「そういうことじゃありません!フィーアさんの腕なら、どこかのお抱えになっていてもおかしくありません。なのに、どうしてフリーの傭兵として旅をしていたんですか?」 アメリアの言葉に、フィーアは意外そうな顔をした。そして、そのまま少し考える。 「・・・・・・・・知りたかったから、でしょうか。」 フィーアは、ぽつりと言った。 「人を、自然を、そこに息づくモノを。風を、水を、炎を、大地を・・・・・・・・この世界の理を、そして、私の存在理由を・・・・・・・・私は、『全て』を知りたくて、旅をしていました。」 「全てを・・・・知る?」 そう、と、フィーアは頷いた。 「・・・・・・・・私には、姉がいます。・・・・いいえ、正しくは『いました』、ですね。数年前に、なくなりました。本当は、私もそこで死んでいたのでしょう。でも、私はこうして生きています。姉のおかげで。姉は、よく私にこう言いました。『生きて、そして自分の真実を知りなさい』、と。私の真実が何か、それはまだわかりません。でも、旅をしていればいつかはわかるかもしれない、そう思って、私は旅してきました。」 「・・・・・・・・」 静かで、何の反応もないアメリアを不思議に思って、フィーアはアメリアを見た。 「! アメリア様!」 アメリアは、泣いていた。声もなく、ただ静かに瞳から涙を流して。 「ごめん・・・・なさい!私・・・・・・・・!」 フィーアは、気づいた。恐らくこの優しい姫は、つらい記憶を話させてしまったと思い、涙しているのだろうと。フィーアは、そっとアメリアに近づき、髪をなでた。 「アメリア様、私は大丈夫ですから。どうか泣かないで下さい。大丈夫。私は、今とても幸せですから、あなたのおかげで。あなたと旅をした時間は、本当にかけがえのないものでしたから・・・・・・・・さあ、これを流してしまいましょう。願いをこめて・・・・」 そして、フィーアは波打ち際に屈み、そっと手を放した。ゆらゆらと沖へ向かう藁舟に、静かに祈りをささげる。それを見たアメリアも、涙を拭い藁舟を流した。 二人はそのまましばらく浜辺に座っていた。先に口を開いたのは、アメリア。 「フィーアさん・・・・何をお願いしたんですか?」 声がためらいがちなのは、またフィーアの心の傷に触れることを恐れたのだろう。フィーアは、それを知ってか知らずか、少し明るい声で言った。 「私ですか?私は・・・・アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン様、あなたの進む道に、幸いあれと。旅が終わって、私がいなくなっても、ずっと幸せであれと。」 「不吉なこと言わないで下さい!!!!」 突然、アメリアが声を荒げる。フィーアは何のことかわからなくて、目をしばたかせた。 「『いなくなる』なんて、言わないで下さい!私は・・・・私は、フィーアさんのことを、・・・・・・・・もう一人の姉さんみたいに思ってます。だから・・・・」 それ以上は、言葉にならなかった。やっと涙が止まった目から、再び涙が溢れ出す。あぁ、また泣かせてしまった、と、フィーアは思った。光栄です、とでも言うべきなのか、とも思ったが、言ったらもっと泣かれそうな気がしたので、言葉には出さず、また黙って髪をなでる。そうして、ふと思い出した。いくらセイルーンの姫と言っても、この人はまだ13歳の少女だと言うことを。だから。 「アメリア様・・・・・・・・一つ、約束しましょう。私は、消えたりしません。この『フィーア=シャルラッハ』が存在し続ける限り、そしてあなたが望む限り、私はあなたをお守りいたします。絶対に・・・・・・・・」 アメリアは、ぱっと顔を上げた。 「やくそく・・・・」 「ええ、約束・・・・ですよ?迷惑ですか?」 アメリアは何度も何度も首を横に振った。フィーアは微笑むと、小指を立てた右手を差し出した。 「?」 「ゆびきり、と言うそうです。遠い国で、約束を交わすときの儀式だとか。」 フィーアがそう言うと、アメリアも同じように右手を差し出した。そして、お互いの小指を絡める。 「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本飲〜ます、ゆびきった」 たわいない儀式なのに、その内容はとても重くて。でも、その『約束』がうれしくて。 リナたちと合流し、アインスの家に帰る道のりは、とても幸せなものだった。 この時間が、ずっと続くと思っていた。 あとがき代わりの次回予告 それは必然か、偶然か。力に魅せられたものは、安息すら与えられぬと言うのか。 真の『シドの遺産』が目覚めるとき、平和な時間は終わりを告げた。 無垢な笑顔と引き換えに、少女が手にしたものとは・・・・? 次回、鏡の中の緋き月第7話、『傷つくも嗤う少女』 「魔力の・・・・・・・・暴走・・・・・・・・」 |
31101 | 鏡の中の緋き月 7 | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/19 08:15:29 |
記事番号31062へのコメント こんにちは、朱姫 依緒琉です。ついに第7話、『緋月』も佳境を迎えました! ちなみにこの『緋月』は全13話を予定しています。と、いいつつそれでは終わりません。更に第2部に続きます。 何かもう、最初から『色無き世界』シリーズ第1部『鏡の中の緋き月』と書いておくべきだったかな、と今更ながら後悔していたり。 ではでは、本編へどうぞ! 鏡の中の緋き月 7 傷つくも嗤う少女 ず・・・・・・・・ん 「! 地震!?」 突如として、大地が震えた。しばらくすると大きな揺れは収まったが、今なお地面はふるふると震えている。・・・・まるで、何かに怯えているかのように。 「地震ではないと思いますよ。・・・・リナさん、あれを。」 フィーアが示す先に目を向けたリナは、愕然とした。そしてまたガウリイ・ゼル・アメリアも、リナの様子に気づいてそちらに目を向け、固まった。 「何だ、あれは・・・・。」 「『永遠の灯』、のようですね。」 呆然としながら呟いたゼルに律儀に答えを返したフィーアは、改めて『永遠の灯』を眺める。そこには、『永遠の灯』を中心に、天に伸びる青白い光の柱。さらに辺りを見回すと、同じような光の柱があと4本立っていた。そして、再びの激震が襲い来る。皆は思わず地面に膝をついた。その中で、いち早く正気に立ち戻ったのは、フィーア。 「これは・・・・・・・・。皆様、ここは危ないです。高台に避難を。」 フィーアはそう言って、小高い丘を指差した。 「あそこへ。できれば、街の人々の誘導もお願いします。」 言うなり、フィーアは身を翻す。 「フィーアさん!どこへ行くんですか!?」 半ば悲鳴のようなアメリアの声。フィーアもまた、常日頃は絶対に出さない切羽詰った声で答える。 「アインスさんの所です!『写本』を探してくださっているのなら、揺れはともかく光の柱の立ち上るという異常事態に気づいていないかもしれません。見てまいります!」 「なら、私も一緒に・・・・」 アメリアは言いかけるが、フィーアの鋭い声がそれを遮った。 「姫!今、より多くの人手が必要なのは街のほうです!私情に囚われて大局を見誤ってはいけません。こちらは私一人で大丈夫、ですから、さあ、早く街へ!」 アメリアは一瞬の逡巡の後に、リナたちと共に街に向かって走り出した。フィーアはそれを見送った後に、小さく呟いた。 「・・・・・・・・アメリア様、申し訳ありません。約束、守れそうにないです。」 そうして、館に向かって走り出す。 「この天変地異・・・・・・・・、原因は恐らく、魔力の・・・・・・・・暴走・・・・・・・・。そして、その中心にいるのは・・・・・・・・」 恐らく、リナやアメリア、ゼル、ガウリイは・・・・いや、フィーア以外の他の誰もが気づいていないだろう。5本の光の柱は、シドの館を中心とする五芒星になっているということに。 諦めた笑みを浮かべ、フィーアは館の中に入っていった。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 「もう、街は大丈夫そうですね。」 「そうね。ゼル、ガウリイ!そっちはどう?」 リナの呼びかけに、大丈夫だ、という答えが返ってくる。 「じゃ、あたしたちも行きましょ!?」 言ってリナたちは駆け出すが、アメリアはその場に立ち尽くしていた。 「・・・・・どうした?アメリア。」 いち早くそれに気づいたゼルが、立ち止まりアメリアに聞く。 「あの・・・・フィーアさんの手伝いに行きませんか?あ、あの館は広かったので、フィーアさん一人じゃやっぱり大変だと・・・・」 「フィーアの?大丈夫だって言ってたじゃない。」 リナはそう返す。別にリナとて心配していないわけではない。ただ、シド・シティに到着するまでの数日とはいえ、行動を共にしたのだ、彼女がお世辞ではなく超一流の腕前を持つ魔剣士であることは、容易に見て取れた。だから、そう案ずることは無いと判断したまでである。 「でも・・・・!」 アメリアは、まだ何か言い募ろうとする。そして、リナが再び口を開きかけた、そのときだった。 ドンッ!という巨大な衝撃。今までとは比べ物にならないそれが襲った、そのとたん。突然、5本の光の柱が消滅し、辺りは一気に闇に包まれる。そして、次の瞬間 「「「「!」」」」 4人は、一斉に絶句した。唐突に、新たな光の柱が立ち上ったのである。しかし、その色は先ほどまでと違って、血のように緋い。そして、光の柱のある場所とは・・・・ 「フィーアさん!」 「アメリア、ちょっと!・・・・・・ああもう!あたしたちもいくわよ!」 シドの館、だったのだ。 ★ ★ ★ ★ ★ 「フィーアさん!・・・・・・・・フィーアさん!!」 「アインス!ノイ!・・・・誰かいないの!?」 「・・・・・・・・」 「おーい、いないのか?」 緋い光に包まれた館は、しかしとても静かだった。もしかして、もう脱出したのだろうか、と思い始めたアメリアは、しかし避難場所と指定された丘に3人がいなかったことを思い出し、また探し始める。と・・・・ ・・・・・・・は ・・・・・・・ははっ ・・・・・・・はははははは! 「ん・・・・?」 最初に気づいたのは、ガウリイ。 ・・・・・・の・・・・・・・れし・・・・・・・汝の・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・願う・・・・・・・・・・・・・・・愚かな・・・・・ 「・・・・・・これは・・・・」 「これ!竜破斬(ドラグ・スレイブ)の呪文・・・・!」 次は、リナとゼルが。 ・ ・・・・・ですよ。・・・・・・・・を・・・・・・・ならない・・・・・て・・・・・・・・ 「! フィーアさんの声です!」 そしてアメリアも。 4人は、そうして声のするほうに走った。 * * * * * 甲高い嗤いが響いていた 「竜破斬(ドラグ・スレイブ)!」 赤い光が収束し・・・・しかし発動せず中和される。そして、相手の手に赤い光が灯り・・・・ 「五芒結界呪(フォーステラ)!」 五芒星の形に立ち上った薄い光の壁が、破壊の力を防ぐ。 「なんなのよ、これ・・・・・」 駆けつけたリナは、そんな声を漏らした。横でゼルが息を呑んだのが聞こえた。ガウリイも流石に真剣な顔をして、アメリアにいたっては茫然自失の状態である。無理もないだろう。だって、そこで戦っていたのは・・・・・・ 「アインス!あんた達一体なにしてんのよ!?ノイはアインスの妹でしょう!?」 甲高い声で笑い続けていたのは、ノイ。 ノイに竜破斬をかけたのは、アインス。 ノイが放った赤い破壊の力を防いだのも、アインス。 アインスは、ちらりとこちらを一瞥し、冷たく言った。 「これは、我らの問題だ。早く立ち去れ。」 そして、またノイに向き直り、呪文詠唱を開始した。 あとがき代わりの次回予告 闇を染め上げる『緋』の中に、少女の嗤いがこだまする。 幼き少女は何も知らず、偽りは真に立ち返る。 涙と哄笑と共に終止符が打たれるとき、そこに立つものは・・・・? 次回、鏡の中の緋き月第8話、『紅に染まる少女』 「偽りの時間は、もう、終わりにしましょう・・・・」 |
31102 | 鏡の中の緋き月 8 | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/19 08:16:38 |
記事番号31062へのコメント 連続更新!第8話です。 ちょっと、死にネタが入っているので、苦手な人はご注意ください。 鏡の中の緋き月 8 紅に染まる少女 「ちょ、立ち去れって言われても、外の様子わかってるの!?早く逃げたほうがいいと思うんだけど・・・・って、あれ?フィーア、来てないの・・・・?」 正直な話、リナはこの時混乱していた。狂ったように笑いながら、アインスに攻撃呪文を放つノイ、それを防ぎつつも、やはりノイに攻撃をするアインス。だから、話していても、ちっとも筋が通っていないこともわかっていなかった。しかし、リナの言葉にアインスは、確かに一瞬気がこちらに向いたのだ。そして・・・・ ノイは、その瞬間を見逃さなかった。 ドン、という音がして、地面が揺れる。それとほぼ同時に壁に叩きつけられたアインスは、なす術も無く床に崩れ落ちる。零れ落ちた髪の間から、わずかに赤いものが見えて。そしてノイは、それを見て楽しげに笑っていた。 「あんた・・・・・・・・」 リナは、言葉が続かなかった。アメリアも、ゼルも、ガウリイも。ほんの数時間しか一緒にいなかったとはいえ、ノイはアインスを慕っていたはず。なのになぜ、と。ノイは次に、リナたちのほうを向いた。そうしてまた、楽しそうな笑いを浮かべながら、両手に赤い破壊の力を宿らせた。そして、一歩足を踏み出し・・・・・・・ 笑みが、消えた。ぞぶり、という、鈍い音と共に。 見れば、ノイの胸の中央から、緋く濡れた銀のきらめきが生えている。それが、細身のロングソードの切っ先とわかったのは、数瞬後のことだった。 「タイミングが悪い、と言うのでしょうね、これは。しかし、今しかありませんでしたから、まあ仕方ないでしょう。」 相変わらずの、柔らかく優しい声。アメリアはこの声が好きだった。その声の持ち主は、傭兵なのにとてもきれいで、上品で、なにより誰より優しかった。 「かわいそうに。『あれ』ももう少し考えてくだされば良かったのに。魔封じの結界、威力弱すぎです。まったく・・・・何が『平和の魔道士』なのか。」 ずるりと、ノイの胸から剣が引き抜かれる。既に事切れていたノイは、そのまま床に崩れ落ちた。 「そう思いません?」 「既に分かりきったことであろう。『あれ』はそういうやつだ。」 答える声は、今まで倒れていたアインスのもの。 「まあ、そうですけどね。」 そうして、剣を軽く振り血を振り払った後、剣を鞘に収めた。 それは・・・・・・・・ 「フィーア・・・・さん・・・・・。」 そう、それは、『フィーア=シャルラッハ』という名を持つ少女だった。 フィーアは、唇を笑みの形にゆがめて、言った。 「偽りの時間は、もう、終わりにしましょう・・・・・・・・。楽しい、夢、でしたよ。アメリア様・・・・いえ、『セイルーンのお姫様』。」 その瞳から一滴、涙がこぼれ落ちた。 あとがき代わりの次回予告 罪を犯しても、叶えたい望みがあった。理を曲げてでも、掴み取りたい願いがあった。 時は30年ほど前のある日。それは『シド』が生まれた日。 慟哭は今なお、世界を歪めている・・・・。 次回、鏡の中の緋き月第9話、閑話1『けれど少女は闇に笑う』 「理も運命もブチ壊して、私は望みを叶えてみせる!」 |
31106 | はじめまして | 一坪 E-mail | 2005/1/20 12:04:38 |
記事番号31102へのコメント こんにちは一坪です。 投稿ありがとうございます! 勝手ながらタイトル名を修正させて頂きました。 「第2話」→「2」に修正と6話に「6」を追加しました。 気に入らなかったら元に戻しますので、一番下にあるメニューの『修正・削除 連絡伝言板』で連絡してください。 では、連載頑張って下さいね。これからもよろしくお願いします! |
31108 | お手数おかけしました | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/21 08:15:27 |
記事番号31106へのコメント はじめまして。訂正ありがとうございます。 実は、投稿した直後に「しまった!」と思いはしたものの、修正の方法がいまいちよくわからず、ほったらかしにしてしまったのです。 改めまして、わざわざありがとうございました。 引き続き投稿させていただくつもりですので、今後ともどうぞよろしくお願いします。 朱姫 依緒琉 |
31109 | 鏡の中の緋き月 9(閑話1) | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/21 08:16:55 |
記事番号31062へのコメント こんにちは!朱姫 依緒琉です。一日間が空いてしまいましたが、『緋月』の9話の投稿です。 13話で第一部・完と明言しておきながら、新しい人は出てくるし・・・・と言うか、今回はリナたちもフィーア、アインスも出てきません。まあ、名前だけはかろうじて・・・・・。 今回は、何を隠そう『閑話』です。背景にいる人がようやく顔を出します。 では、本編へどうぞ! 鏡の中の緋き月 9(閑話1) けれど少女は闇に笑う 「あー、始まった始まった。」 闇の中に、女の声がこだまする。ほとんど幼さの抜けた、柔らかいアルト。彼女は、うっすらと光を放つオーブ・・・・それに映るものを見ながら、感慨深げに呟いた。 「やっと、ここまでこぎつけたわね。後は出力のチェックだけど・・・・多分これでわかるでしょ。・・・・・・・・さて、計測を始めますか。」 オーブの中に映るのは、静かに対峙するリナたちとフィーアたち。女はなにやら傍にあったものに触れる。すると、部屋のそこここに淡い光が灯り、わずかに音が発せられた。 「さて、と。起動は問題なし。さすが、『アキバ』が作ったコンピュータ、ってところね。しっかりやってよね、『アインス』、『フォレンデット=フィーア』。ちゃんと本気を出さないと、あの『リナ=インバース』だもの、きっと手強いわよ?それに、これで『アキバ』の30年越しの願いが叶うかも知れないんだから。手抜きして二度手間かけさせないでよね。・・・・・・・・にしても、ノイは意外と持たなかったわね・・・・。出力は『ノイ』が一番だったんだけど、安定性に問題アリ、ってところか。じゃあ、やっぱり一番使えるのは『フィーア』かな?まあ、『アキバ』が『フォレンデット』をつけたくらいだしね・・・・。そうすると・・・・・・・・邪魔かな、もう一つの方は。・・・・この結果次第だけど。」 しかし、オーブの中のものたちはまだ動かない。恐らく、この膠着は長く続くだろう。女はふと息をつくと、目を閉じて『記憶』を回想した。 (なんなの、これは!一体何が起こったの!?) これは、『アキバ』の叫びだ。 (私をどうするつもり?言っとくけど、そうそう簡単に不利益を被るつもりはないわよ!?) 気の強い『アキバ』。意地っ張りな『アキバ』。・・・・・・・・でも、それらを武器にしてしまえるほどに、賢い『アキバ』。 (ふーん・・・・別に良いけどね。まあ、こっちで知識を手に入れるのもいいかもしれないし。) 守りたいもののために、全てを犠牲にしてもかまわない、と誓った『アキバ』 (いいわ・・・・・・・・でも、勘違いしないでよ。私の願いはただ一つ。そのためなら・・・・・・理も運命もブチ壊して、私は望みを叶えてみせる!) そして、生まれた『シド』。 「すごいと思うよ、イヤ、本当に。私でさえ、時にわからない。」 女は目を開き、誰にとも無く呟く。 「まあ、あなたの望みをかなえるために私がいるんだし、私、あなたの気持ちはわかってるし。」 女は、すっと立ち上がり、淡い光を放つ機器に近づいていった。光に照らされ、女の容貌が明らかになる。黒い髪は肩につかない程度のところで無造作に切られ、象牙色の肌の顔を縁取っている。瞳は、青味も茶色味も混じらない、純粋な漆黒。女は、刻々と形を変える図形の映し出されたそれを見て、唇の端をゆがめた。 さあ、頑張ってよ、『ファルシュ』の名を与えられた者たちよ。 『アキバ』と『シド』のために。 『アキバ』でも『シド』でもない、『シドウ アキバ』のために。 あとがき代わりの次回予告 穏やかなまなざしは、もう戻らないのか。優しい言葉は、失われてしまったのか。 フィーアの繰り出す攻撃は、少女の身も心も深く傷つけ、涙する。 そして亡き主の姿を映すものは、緋き花を吹き散らした。 次回、鏡の中の緋き月第10話、『凍れる瞳を持つ少女』 「そう、全ては偽り。あなたの探す『フィーア』は、もういない。」 |
31110 | 鏡の中の緋き月 10-1 | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/21 08:18:14 |
記事番号31062へのコメント 続けて、第10話です。やっと『緋月』も二桁の大台に乗りました。 今後も、どうぞよろしくお願いします・・・・・・・・と、言いつつ、こんなへっぽこ、読んでくれてる人いるのかしらん? とにかく、本編へどうぞ!今回は長いので、二つに分けます。 鏡の中の緋き月 10-1 凍れる瞳を持つ少女(前編) 静かにたたずむフィーア。その瞳に、感情の色は無い。誰もが信じられなかった。あのフィーアが、こんな冷たい目をするなんて。 いや、少なくとも一人は、驚きもせず、フィーアに声をかけた。 「遅かったな。」 アインス、だった。 「多少の遅れは大目に見てください。結界の補強を放り出して駆けつけたんですよ。・・・・まあ、結局、最高で最悪のタイミングに来てしまったようですが。」 相変わらずの上品な、しかし優しさだけがすっぽりと抜け落ちてしまったような、フィーアの声。 「まあいい。それで、戻ってくる決心はついたのか?」 「ええ。こうなった以上、やむ終えません。」 リナたちをそっちのけで、フィーアとアインスの二人の間でだけ話は進んでいく。ついに耐えられなくなったのか、アメリアが言った。 「フィーア・・・・さん・・・・」 「それは誰のことだ?名の全ては?」 アインスが言う。アメリアは、泣き出しそうな声で言った。 「フィーアさんはフィーアさんです!フィーア=シャルラッハさんです!」 アメリアの瞳が、まっすぐにフィーアを捉える。しかし、フィーアは冷めた目でアメリアを見返し、言い放った。 「違いますよ、セイルーンのお姫様。私の名前は『フォレンデット=フィーア=ファルシュ』。『アインス=ファルシュ』の妹にあたる者です。」 「ふぉれん・・・・でっと・・・・」 アメリアは呆然とフィーアを見る。 「そう。全ては偽り。あなたの探す『フィーア』はもういない。ここにいるのは、『フォレン』と言う名の、あなたの敵。」 アメリアは、その場にかくりとへたり込んだ。全身に力が入らず、目からはとめどなく涙があふれる。そして・・・・ 「ああ、そうそう。『フィーア』の最後の言葉です。『だから、来るなと言ったんです、私は。・・・・さようなら。罪人は闇に戻ります。』従っていれば、或いはまだ『フィーア』が存在していたかもしれませんね。」 それが、アメリアに対する止めだった。フィーア・・・・いや、『フォレン』は、そのまま視線をすと動かし、リナたちのほうを見る。リナたちの目は・・・・・ガウリイでさえ、怒りが燃えていた。 「フィーア・・・・あんた・・・・!」 リナの、声。怒りを隠そうともしないが、その声でさえ、『フォレン』は軽く流す。 「物覚えが悪いようですね。私は『フォレン』だと言っているはず。」 「そんなことはどうだっていいのよ!あんた、さっきの言葉、本気で言ってるわけ?」 「そう、と、言ったら?」 ガウリイとゼルの瞳が、険しさを増す。リナは、そんな二人を制し、一言だけ、言った。 「見損なったわ。」 「・・・・・・・・」 フィーアはそのままきびすを返すと、館の奥に入っていく。アインスと共に。 リナはアメリアにそっと手を伸ばす。 「いきましょう、アメリア。」 アメリアは虚ろな目のまま、その手を取った。そのまま、4人はシドの館を立ち去った。 リナたちは気づいていなかったが、シドの屋敷の一角にある物見の塔の上で、立ち去るリナたちを眺める人影があった。 フィーアだった。 瞳に優しさとせつなさを秘めて、小さくなっていく4人をずっと見ている。『フォレン』ではなく、『フィーア』の表情で。 背後で、ことりと音がした。 「アインス姉さま。」 振り向きもせず、フィーアは言う。アインスは、気遣わしげに声をかけた。 「本当に・・・・・・・・よかったのか?」 「・・・・・・・・」 「あのときならまだ、望むなら彼らと共に行くこともできたはず。それなのに・・・・・・・・」 「アインス姉さま!」 フィーアは鋭くさえぎる。そして、少し早口で話し始めた。 「これで良かったんです。幸い、最も重要な秘密はまだ知られていませんから。しかし、このまま彼らと共に行けば、いつかは全てが明るみに出ることもあるでしょう。そうすれば、私たちには破滅の道しか残されてはいません。そして、ああ言えば、彼らがこの地を訪れることは二度とないはず。いくら『あのこと』が知られず済んだとはいえ、私たちの戦う様を・・・・そして、私も知らなかった新たな姉妹の力も見られてしまった以上、今度あったときには彼らを・・・・・・・・ ・ ・・・・・・・殺さなくてはならないでしょう?」 「・・・・・・・・我らは、秘密の番人だからな。しかし・・・・」 「いいんです!もう・・・・・・・・。忘れます。」 フィーアはそのまま館に駆け込もうとした。しかし・・・・・・・・その腕をアインスが捕らえた。 「放して!」 「聴け!フィーア!」 アインスはフィーアの肩に手をやり、強引に自分の方を向かせる。 「我々は、確かに『あれ』に作られたものだ。人ではない、といわれたら否定できない。しかし、我々には心がある、意思がある!『あれ』亡き今、我らが望むように生きて何が悪い!」 「・・・・・・・・」 フィーアは、無言。 アインスは、押し殺した声で、言った。 「『ツヴァイ』と『ドライ』は、そんな生き方をお前に望んだのか?」 ひくり、と、フィーアが動きを止めた。 (フォレン・・・・フォレン・・・・) ツヴァイ姉さま・・・・・・・・ (逃げなさい、フォレン!そのままだと、あなたは戦いの道具にされてしまうわ!) (イヤっ!逃げるなら皆一緒よ!姉さまたちを残して私だけなんて・・・・) ドライ姉さま・・・・・・・・・・ あなたたちの、望んだことは・・・・・・・・ (生きて、幸せになって。あなたの真実を見つけて。『私たち』は『Falsch』じゃ・・・・『ニセモノ』じゃないのだから。) 「・・・・・ッ!」 (思い出した。) フィーアは、流れる涙を止めることができなかった。アインスは、そんなフィーアの頭を優しく撫ぜる。そして・・・・・・・・ 「何だ、役に立たない。」 女の、声。柔らかいアルトの。聞き覚えのある、声。 「『フィーア』は残しておくつもりだったけど、まあいいや。データは残ってるし。」 黒い髪、黒い瞳、象牙の肌。動きやすさを重視した、クリーム色の貫頭衣に、黒のズボン。上から、くたびれた、白い膝より少し長いくらいの薄い上着−確か、『白衣』とかいったはずだ−を羽織って、伊達眼鏡をかけている、女。 「もう、いらないよ。」 走る、二条の光。フィーアがアインスを突き飛ばす。塔の外に投げ出されたアインスは見た。光がフィーアを貫いた所を。フィーアの唇がわずかに動く。 シド、と。 |
31112 | 鏡の中の緋き月 10−2 | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/22 11:50:10 |
記事番号31062へのコメント こんにちは、朱姫 依緒琉です。10の後編のアップです。あはは・・・・前回、かなり危ないところで終わってしまってごめんなさい。引き続き危ないです。 早速ですが、本編をどうぞ! 鏡の中の緋き月 10−2 凍れる瞳を持つ少女(後編) 「アメリア・・・・」 突然立ち止まったアメリアに、リナは気遣わしげに声をかけた。リナは、フィーアとの付き合いは短いし、交わした言葉もそれほど多くは無い。しかし、アメリアを大切に思っていたことだけは確かだと思っていた。しかし、その結果がこれ、である。はっきりいって、リナはあの場でフィーアを一発殴っておけばよかったと、本気で後悔していた。 ゼルやガウリイも、道々アメリアを慰めようとしている。しかし、アメリアがよく立ち止るため、この場をはやく通り過ぎて忘れるよう仕向けることもできない。 と、アメリアがあの時以来はじめて口を開いた。 「リナさんたちと食堂で出会った日の夜中に・・・・フィーアさん、誰かと会っていたみたいなんです。今思うと、あれはアインスさんだったんだと思います。その時、フィーアさん、言ってました。『私たちは、生まれながらに罪人』、って。でも、私には、フィーアさんが罪を犯すような人には、どうしても思えませんでした。優しくて、強くて。・・・・・・・・変ですね、あんなことの後なのに、私は、どうしてもフィーアさんが悪い人には思えないんです。」 リナたちは、顔を見合わせた。一体、アメリアは何を言おうとしているのか、と。 「リナさん、ガウリイさん、ゼルガディスさん・・・・・・・・私、フィーアさんのところに戻ります。」 「「「!」」」 3人の間に驚きが走った。 「止めても無駄ですからね!もう一度フィーアさんに会って、確かめるんです。」 「ちょっと、アメリア!」 こうなるともう、アメリアは一直線に突っ走る。それは、長い付き合いだ、3人にもわかっていた。 「私は、フィーアさんを信じます!」 そのまま、シドの館に向かって一直線。リナたちは、しばしためらっていたが、アメリアの後を追った。 * * * * * アインスは、地面に叩きつけられる直前で浮遊(レビテーション)を発動させ、無事に地面に降り立った。しかし、即座にまた呪文を唱え始める。今度は翔封界を。早く、早くと焦る心を静めながら、それでも最速で。 と、空から影が落ちてくる。一瞬でそれが何かわかったアインスは、呪文を中断し駆け出した。 「フィーア!」 かろうじて、受け止めることに成功する。しかし、フィーアは出血こそ無いものの、ぐったりとして呼吸も途切れがち。このままでは、遠からず命の灯が消えるだろうことは、誰の目にも明らかだった。 「死なせない・・・・死なせてたまるか!」 アインスは、呪文を唱え始める。治癒(リカバリィ)ではない、復活(リザレクション)でもない。これは、『シド』の創った呪文。運命すら捻じ曲げて、死者をも呼び戻す、禁呪。実はこの術、アインスでは成功する可能性はかなり低い。彼女にはそれが痛いほどよくわかっている。自分は、姉妹の中で一番魔力キャパシティが小さい、だから。或いはフィーア本人ならば、高い確率で成功させることが可能だっただろう。或いはあの小さな『妹』・・・・ノイならば、確実だったかもしれない。しかし、ここにはアインスしか、フィーアを助けられるものはいない。アインスは、己の無力さをこれほど嘆いたことはなかった。フィーアの、ノイの、そして、死んでいったあと二人の妹たちの背負うものの重さを知りつつ、それでも力を願わずにはいられなかった。 そして、呪文は完成した。後は、『力ある言葉』を・・・・・・・・ 「バカねぇ。あがいたって、どうにもならないのに。」 声は、後ろからした。アインスの喉が凍りつく。 ぎしぎしと、きしむ音すら聞こえそうな緩慢な動作で、首だけを後ろに振り向かせる。そこに立っていたのは・・・・・・・・ 「なぜ・・・・・・・・なぜ生きている!?シド!」 口元だけを歪ませて、『シド』と呼ばれた女は言う。 「どうして、私が『シド』だと思うの?アインス=ファルシュ。そうやって見た目で判断するのは悪い癖だね。」 「な・・・・。『シド』でないと言うのなら、お前は何者だ!?その姿、確かに『シド』の・・・・・・・・」 「まあ、それもあながち間違いではないね。確かにこの体、『シド』と・・・・『シドウ アキバ』と同一のもの。でも、私は違うのよねぇ。一応、『アキバ』には『ミラ』と呼ばれていたよ。私、『アキバ』本人が作った、『アキバ』のバックアップ。クローン体だもの。」 女・・・・ミラは、さらりと、何でもないことのように言う。 「で、心残りは消えたかな?じゃ、さよなら。」 そう言って、右手を上げる。そうして、再びあの光を放とうと・・・・・・・・ 「爆炎舞(バースト・ロンド)!」 横手から飛来した光の粒が、ミラの周囲で爆発する。直撃しても軽い火傷くらいしか負わないが、それでも傷つくのはイヤだったらしく、ミラは軽くバックステップしてそれをかわす。 「・・・・・・・・何のつもりかな?セイルーンの姫君?」 そこには、全力疾走の余韻か、まだかすかに肩を上下させているアメリアの姿があった。 「フィーアさんに、会いにきました。」 毅然と、アメリアは言い放つ。その瞳に、もはや迷いや悲嘆の影はない。ミラは、呆れたような溜息をついた後、アメリアに向かって話しかける。 「何の冗談なのかなぁ?私には理解できないよ。あそこまで言われて、それで『フィーアさんに会いにきました』?なんと言うか、不可解なことこの上ない。普通、フィーアを憎むか早々に忘れようとするか、じゃない?」 「まあ、あたしもそう思うけどね。」 アメリアの後ろに、姿を現したリナは、ミラの言葉に頷いた後、付け足した。 「でも、あたしは今、アメリアよりも、あんたが不可解よ。」 そう言って、ミラを鋭いまなざしで見る。ミラは、その視線をかえって心地よさげに受け止めた。 「そう、私は不可解そのものね。すばらしい褒め言葉をありがとう、リナ=インバース殿?・・・・さて、姫君。改めて聞くけど、どうして『これ』に会いたいなんて思ったの?」 そう言って、アインスの腕の中、ぴくりとも動かないフィーアを指差す。 「・・・・・・・・私には、旅の途中のフィーアさんの様子が、ニセモノだったとは思えないからです。だから、聞きにきました。」 ミラの瞳は、まっすぐにアメリアに向けられている。アメリアも、その視線から逃れることなく、見つめ返す。 やがて、ミラの唇が楽しげに歪んだ。 「ふ、あははははは!面白い、実に面白い!せっかくフィーアが慣れない悪役に徹したってのに!げに不可思議は人の心ね!ああ、まったく・・・・こんなに楽しいのは久しぶりよ!・・・・・・・・いいわ、ならば真実を知るチャンスをあげる。・・・・アインス、これの特性はわかるでしょう?」 そう言って、ミラは手に持っていた、黒い、『く』の字型に曲がった筒をアインスに見せる。 「そうね・・・・・フィーアが生きてたら、あなたたちにもチャンスをあげましょう。せいぜい、あがいて御覧なさいな。・・・・・・・・どうせ既に理論は完成しているのだから、そう慌てることもないわ。これも、戻ったし。」 そう言って、左手をポケットから出す。そこにあったものは、数枚の紙切れ・・・・・・・・・・『写本』。 「なっ・・・・・!」 最初に反応したのは、ゼル。 「まさか・・・・!」 そして、その意味に最初に気づいたのは、アインス。 「『ノイ』の核にしていたこの『写本』。これで神力は何とかなるもの。じゃ、がんばってみたら?」 アインスは、最後にミラに向かって苦々しげに言った。 「『シド』とは、かなり性格が違うようだな。」 と。 ミラもまた、言った。 「それはそれは、どうかしらね?」 と。 そして、ミラは消えた。まるで、魔族のように、空間に溶けて。 アインスは、溜息をついた。さて、これからどう説明したものか。 「・・・・・・・・気になる点は多いだろうが、まずはフィーアの治療が先だ。一刻を争う。」 そしてまた、アインスは静かに呪文を唱え始めた。 あとがき代わりの次回予告 偽りに偽りを重ね、生きてきた少女たちは、その命すら偽りだと言うのか。 その名すら存在を否定するのなら、それは『偽りの平和』の呪縛。 死してなお望みを捨てぬのならば、またそれも呪縛か・・・・。 次回、鏡の中の緋き月第11話、『寂しき過去を持つ少女』 「ニセモノ、なのだよ、我々は。」 |
31116 | 鏡の中の緋き月 11 | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/24 08:13:48 |
記事番号31062へのコメント こんにちは!朱姫 依緒琉です。1日ぶりの更新、やっと謎が明かされます! 長かった・・・・。と、ちょっと感慨に浸ってしまったり。 では、早速ですが本編へどうぞ! 鏡の中の緋き月 11 寂しき過去を持つ少女 呪文の発動と同時に、周囲を爆発的な白光が照らした。リナたちは思わず目を覆う。しかし数秒後、唐突に光は掻き消えた。 「?」 リナは、よくわからない、といった様子で目を開ける。そこには、肩で息をするアインスと、呼吸の安定したフィーアがいた。 「私の・・・・・・・力では・・・・・・これが、限界・・・・・・だったか・・・・・・。」 「無茶ですけど・・・・・・・・ありがとうございました。」 ・ ・・・・・・・・・ 「! フィーア!?気がついたのか?」 目を閉じたまま、フィーアは呟くような声で返す。 「ええ。まだ目と胸元がやられているようですが、後は、自分で。・・・・しかし、なぜ死んだはずの『あれ』がいたのでしょうか?」 「その話は後だ。とにかく、治せ。」 「ハイハイ。」 そう言って、フィーアは呪文を唱え始める。さっきのアインスとは違う、ただの復活(リザレクション)のようだ。柔らかい白の光が灯り、フィーアは大きく息をついた。 「ふぅ・・・・。・・・・・あら?人の気配・・・・・・・。4人ですね。姉さま、そこに誰か?」 「あ・・・・ああ。」 アインスは気まずげに背後に・・・・リナたちに視線を向けた。アインスは、どう説明すべきかと思い、再びフィーアに視線を戻そうとして・・・・ 「あの・・・・・・・・フィーア・・・・さん・・・・?」 アメリアが、少し遠慮がちに、声をかけた。 時が止まったかのように、フィーアは動きを止めた。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぜ・・・・・・・・・」 震える、か細い声で、フィーアが呟いたのは、それからしばらく時間が経ってからのことだった。 「なぜ、あなたがここにいらっしゃるのですか・・・・・・・・アメリア様・・・・・・・。」 奇妙なほど平坦な声。このままでは話が進まないと判断したリナは、簡単にフィーアに話してやった。 「アメリアが、あんたに会うって言って走り出しちゃったのよ。で、あたしたちもついてきた、ってわけ。」 「リナさんまで・・・・。と、言うことは、ガウリイさんとゼルガディスさんもご一緒ですか・・・・・・・・。」 「ついでに言うと、さっきまで『ミラ』ってやつもいたわよ。」 「『ミラ』?」 フィーアは不思議そうに問いかける。それに答えたのは、アインス。 「『あれ』のクローン体た、と言っていた。」 フィーアは、ほうと溜息をつき、治療が終わった目と胸元から手を離し、ゆっくりと目を開いた。 「なるほど、『あれ』らしいと言えばこの上なくあれらしいことです。『死しても望みはなお消えず』、ですか。・・・・・・・・さて、姉さま。この収集、どうつけます?」 フィーアは目だけでリナたち、特にアメリアを指した。 「言うしかあるまい。『ミラ』が彼ら・・・・殊にアメリア嬢に興味を持っていた。これからは、否応なく手を出してくるだろう・・・・・・・・『あれ』と同じと考えるならば、な。」 二人は大きく溜息をつく。 「これまで、隠し通してきたのに・・・・・・・・。」 「苦節30年、我らもこれまで、か・・・・・・・・。」 ほとんどお通夜並みにどんよりした空気が漂う中、さっきからほうっておかれたリナは、我慢の限界とばかりに叫んだ。 「あーもう!どうでもいいからさっさとしなさい!」 ※ ※ ※ ※ ※ その後、リナたちに促されて、アインスとフィーアはシドの館の中に場所を移した。そして話を切り出す。 「さて・・・・・・・・何から聞きたい?」 「まずは・・・・そうね、あんたたちは何者なわけ?」 「そこから来たか・・・・・・・・。仕方ない、語ろう。・・・・・・・・これを聞いて何を思うも自由だ。しかし・・・・・・・・我々とて、いざとなったら手段は選ばぬつもりだ。 ・・・・・・・我々は、シドに創られたモノ。ある種のキメラ、と言ってもいいかもしれん。早い話・・・・・・・・ニセモノ、なのだよ、我々は。」 沈痛な顔をして、アインスは語り続ける。隣に座るフィーアもまた、青ざめた顔をしていた。 「少なくとも、シドはそう呼んでいた。我らの名とて、『アインス』とは『1』、『ファルシュ』とは『偽の』という意味らしいしな。」 「私の名もまた、『フォレンデット』とは『完璧な、申し分ない』、『フィーア』とは『4』を表すものです。」 「シドの望みをかなえるためだけに生み出されたモノ、それが我々だ。・・・・・・・・ノイもまた。」 交互に語るアインスとフィーア。 「何よ・・・・それ・・・・・。」 「ひどすぎます・・・・・・・・。」 リナとアメリアは呻くように言った。ゼルに至っては言葉もない。 「別に、それ自体はたいしたことはない。たとえそうであっても、私は、な。」 アインスは淡々と続ける。 「私は、よくも悪くも『ヒト』だ。人工的につくり出された、と言う以外、それほど変わったこともない。しかし・・・・・・・・」 フィーアを、ちらりと見る。フィーアはその視線を受け、自分で言います、と返した。 「私の中には、神と魔、両方の力があります。それらを、中間に立つ『ヒト』を媒介につなぎとめているのです。・・・・・『混沌の力』に最も近いのは、『神魔融合の魔力』ですから。」 「!」 『混沌の力』と言う言葉に最も大きな反応を示したのは、自身がそれを使うことができるリナだ。フィーアは軽くうなずく。 「しかし、所詮は『近しい』だけ。だからノイは、異界黙示録を核とし、『神魔融合魔力』を媒介として、『混沌の力』を宿すものとして作られた。・・・・ミラの手によって。つい先ほどわかったことだが、な。」 「何で・・・・。」 リナは言葉少なに問う。 「なぜなら、シドには『世界を超えて通用する強大な力』が必要だったから。『神魔融合魔力』は、強大ではあるが、所詮この世界の内部のもの。だからシドは『混沌の力』を欲した。ミラはシドの意思を受け継ぎ、ノイを創った。」 「だから、何でよ!何で混沌の力が必要なの!?」 「・・・・・・帰るため。」 「へ?」 「シドの、本来在るべき世界に、シドが帰るため。」 フィーアは、静かに語る。決意のまなざしで。 「シドの本当の名は『アキバ=シドウ』。正式には『シドウ アキバ』と読むそうです。紫の藤と書いて、『紫藤』、水晶の羽と書いて、『晶羽』。『あれ』は、この世界に元からいたものじゃないのです。偶然、この世界に来てしまった、異世界人、なのです・・・・・・・・。」 「そして、元の世界に帰るためならば、全てを惜しまない。『あれ』は、死してなお、それだけを望んでいる。だから、『ミラ』がいる。・・・・あの分では、シドの記憶も全て持っているのであろうな。」 「私たちの力の解放は、即ちシドの望みの叶うことは、そのままこの世界の崩壊につながる危険性すらあるもの。だから、私たちはこれまで、全てを隠して生きてきたのです。私は世界を巡り、シドの力の痕跡を・・・・世界の『歪み』を消すために。」 「そして私はこの地に留まり、これ以上の『歪み』を封じるために。」 そして、フィーアはアメリアを見た。 「セイルーンにいたのは、セイルーン王宮の宝物庫の中に、シドの魔力を宿すものがあったからです。まさか、アメリア様の護衛に任命されるとは・・・・考えてもいませんでした。」 最後に、アインスが締めくくった。 「これが、我々が隠し続けた真実だ。」 そして、言葉を発するものはいなくなった。 あとがき代わりの次回予告 不幸な定めに生まれた者、彼女のその運命に終わりを告げることはできないのか? 唯一つの希望を抱くことさえ、罪だと言うのか。 創り出されたものたちが抱く思い、そして、創り出したものの抱く思いとは!? 次回、鏡の中の緋き月第12話、閑話2『少女は現れた』 「望んではいけないなんて、誰が決めたの?」 |
31117 | 鏡の中の緋き月 12 | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/24 08:14:50 |
記事番号31062へのコメント 続けて第12話です。今回は閑話で、とっても短いです。 では、本編へどうぞ! 鏡の中の緋き月 12 少女は現れた そのときはただ、眠っていればよかった。 ぬるいまどろみのなかで、ただ・・・・・。 「これは・・・・・・成功、ね。現段階では、最も完璧に近い・・・・・・。さあ、起きなさい!『フィーア』・・・・・・『フォレンデット=フィーア=ファルシュ』!」 私は、ゆっくりと目を開いた。初めて見たものは、ガラスの筒の内壁と、その向こうに立つ黒い髪の女性。 「よしよし、いい感じじゃない!?おはよう『フィーア』。私は『アキバ=シドウ』。世間では『シド』と呼ばれているわ。そして、あなたを創ったものよ。」 これが、全ての始まり。 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ やっと、ここまできた。やっと・・・・・・・・ どうしても叶えたい願いがあって、それを叶えるためにずっと努力して、叶う前にここにやってきて。 今一度、私は全てを取り戻す! 「さあ、いらっしゃい!『ツヴァイ』、『ドライ』!うまくいけば、これで全てが終わるのよ。」 神の力を持つ『ツヴァイ』と、魔の力を持つ『ドライ』。両方の力を併せ持つ『フィーア』を使わなかったのは、一人より二人分の力を使ったほうが成功率が高いかもと思ったから。3人ならもっと、とも思ったんだけど、どうやら『ツヴァイ』・『ドライ』と『フィーア』は力の波長が違うらしく、たまに反発をおこすのだ、確実を期すためには、これが一番いいだろう。 生命倫理や、それ以上に人としての良心を、全部捨ててここまで来たんだ、向こうに・・・・日本に戻っても、まともな医者にはなれないと思うけど、せめて『リュー』の・・・・・・『紫藤 琉哉』の、弟の遺伝子に組み込まれた爆弾を消してあげたい。この世界の技術と日本の技術をあわせれば、それが可能だとわかったから。誰に否定されても、どんな目でみられようとも! 「法則を超えることを、不可能を覆すことを、望んではいけないなんて、誰が決めたの?・・・・・・・・サア、全てを創りたもうた偉大なる存在よ!あなたに否定されたものが今、あなたの創った『理』に勝負を挑む!」 結果は、残念なものだったけど、大丈夫、思いは断たれていない。 頼んだよ、ミラ・・・・『ミラージュ』よ・・・・。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさいね、『紫藤 晶羽』・・・・・・・・。」 あとがき代わりの次回予告 呪縛は消えない。それは生まれながらにあるものだから。 しかし、足を踏み出すことはできる。守りたいものがあるから・・・・・・・・ だからこれは終わりではない。これは、新たなる始まりなのだ。 次回、鏡の中の緋き月最終話、『進む未来を寿ぐ(ことほぐ)少女』 「あなたと見る世界なら、それはきっと、素晴らしいものです。」 |
31118 | お願い | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/24 08:15:26 |
記事番号31117へのコメント こんにちは、朱姫 依緒琉です。いつも『緋月』をご愛読してくださって、ありがとうございます。 さてさて、今回こうして本編以外で書いているのは、皆さんにお願いがあるからです。 あと1話で『緋月』は終わり、新章に入ります。そこに出てくるキャラクターの名前と外見と性格を募集したいのです! ちなみに、上級神族で、恐らく『色なき世界』シリーズの最後まで出演します。 先着1名様で採用しますので、どうかよろしくお願いします! 朱姫 依緒琉 |
31119 | では、投稿させてもらいます | GURE−TO MASA | 2005/1/24 10:37:34 |
記事番号31118へのコメント はじめまして、GURE−TO MASAことMASAです。 朱姫 依緒琉さんの小説は、よく読んでおります。 では、キャラクターを投稿しますね。 名前:セフィクス・ローレンス 性別:女性 外見:長い銀髪に、碧眼 長身で、鋭い目つきと黒い法衣が特徴。 性格:冷静沈着 冷酷 どんな事をしてでも、任務を遂行する どんな死地からでも生きて帰ることができる。 こんなかんじでよろしいでしょうか? では、よろしくお願いしますね。 |
31120 | ありがとうございます! | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/24 12:42:44 |
記事番号31119へのコメント >はじめまして、GURE−TO MASAことMASAです。 はじめまして、こんにちは。朱姫 依緒琉です。「朱姫」でも「依緒琉」でも、好きな方で呼んでください。こんな拙いモノカキにキャラを下さってありがとうございます。 > >名前:セフィクス・ローレンス >性別:女性 >外見:長い銀髪に、碧眼 > 長身で、鋭い目つきと黒い法衣が特徴。 > >性格:冷静沈着 冷酷 どんな事をしてでも、任務を遂行する > どんな死地からでも生きて帰ることができる。 > >こんなかんじでよろしいでしょうか? >では、よろしくお願いしますね。 はい!セフィクスさん、大切に使わせていただきますね! これからも、どうぞよろしくお願いします。 現在、授業開始20分前で、少々時間が無いので手短に失礼します。 朱姫 依緒琉 |
31124 | 鏡の中の緋き月 13(最終話) | 朱姫 依緒琉 | 2005/1/25 11:23:37 |
記事番号31062へのコメント こんにちは、朱姫 依緒琉です。鏡の中の緋き月、ついに完結でございます。短い間でしたが、ご愛読ありがとうございました! しかしもちろん予告どおり、物語は続きます。今回は、最後に次回予告に代わり、第二章の予告編があります。 では、本編へどうぞ! 鏡の中の緋き月 13 進む未来を寿ぐ少女 永遠に続くかと思われた沈黙に終止符を打ったのは、アメリアだった。 「フィーアさんは・・・・ならどうして私の護衛を引き受けたんですか?断ることもできたはずです。」 「それは・・・・・・・・」 ここへきて、初めてフィーアの表情に感情が表れた。困惑、という感情が。 「わかり、ません・・・・・・・・。正直に言ってしまえば、最初はとんでもないと思っていたのです。引き受けたのは・・・・その、フィリオネル殿下の勢いに押されたというか・・・・・・・・」 ここでリナとゼルが納得したように頷いたのは・・・・・・・・彼らのためにも内緒にしておこう。 「それでしばらくは・・・・・・・・あなたと一緒に旅をしたのは・・・・・・・・大変、と言うのかなんというのか・・・・・・・・。」 こんなことを言うなんて予想もしていなかったフィーアは、恥ずかしさで真っ赤になっている。 「それで、あの・・・・・・・・いつかは別れないと、と思っていたんですけれども・・・・・・・・なかなか言い出せず・・・・・・・・それで・・・・・・・・・・・・・・・・」 ついに、フィーアは下を向いてしまった。なにやらもごもごと言っているようなのだが、全く聞こえない。だから、アメリアはきっと自分には言いづらいのだと思って、口を開いた。 「フィーアさん・・・・・・・・私、迷惑だったんですね・・・・・・・・?」 「そんなことはありません!・・・・・・・・・あ。」 フィーアは、がばっと顔を上げ、言った。その後、自分の発言を恥ずかしがり、そっぽを向いてしまう。しかし、ためらいがちながら視線を戻し、深呼吸を繰り返すと、意を決して、言った。 「その・・・・・・・・あの・・・・・・・・正直、これまでしてきたどんな旅より・・・・・・・あなたと一緒の旅は・・・・・・・・楽し、かった・・・・・・・・です。だから・・・・あなたを迷惑になど、思っておりません。」 なんと言うか、その様は、これまでのフィーアの印象とはかけ離れたものだった。 (なんか、全然雰囲気ちがうわね・・・・。) (別人みたいだな。) こそこそと言い合うリナとゼル。と、アインスがこっそりその話に加わった。 (当たり前だ。あいつは他人から向けられる『好意』にも、それを自分が抱くことにも慣れておらん。普段は『沈着冷静、温和で優美』を装っているようだが、本来あいつは引っ込み思案でな。慣れない状況に陥ると、すぐパニックを起こす。恐らく今、何をしゃべっているかろくにわかってはいないだろう。まあ、そんなときでもなければ、あいつは絶対に本音は言わないがな。) 「「うをっ!」」 二人は驚いて悲鳴を上げる。すると、アメリアとフィーアもこっちを向いた。 「何してるんですか?リナさん、ゼルガディスさん?」 「姉さま・・・・一体何をなさっているんですか?」 「「「いや、なんでもない(のよ)。」」」 3人の声が見事にハモった。どうやら、本来の性格は、フィーアは恥ずかしがりや、アインスは話好きらしい。 と、そこで気を取り直してアインスが言った。 「さあ、どうする?この話を聞いた以上、こちらとしても今後の対応を考えねばならん。なにしろ、このことが世間に知れ渡ったら、シド・シティは取り壊し、シドの遺産と思しきものは全て廃棄もしくはこの国の研究機関に没収され、われらもまた、国に実験動物扱いされるであろうことは目に見えているからな。そんな未来を、甘んじて受け入れるわけにはいかん。」 ガウリイを除く3人は顔を見合わせ、恐らく皆同じことを考えているであろうことを悟って、代表でリナが口を開いた。 「言えるわけないでしょ!?絶対、どこにも漏らさないと約束する。」 「・・・・・・・・・・その言葉、信じよう。」 アインスが重々しく言い、フィーアも頷く。 そして、いつの間にやら迎えた夜明けの光を浴びながら、リナとアインスは固く握手を交わした。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ すっかり日が昇った。シドの館の前には、リナたち4人と、前より少し軽装の、淡藤色のローブに濃色のズボン、ズボンと同じ色のブーツにクリーム色のケープといった旅装束を着たフィーアの姿があった。 「では、道中気をつけて。近くに来たときはいつでも寄るがいい、歓迎しよう。」 アインスが、当初と比べるとかなり柔らかくなった笑顔で言う。こうしてみると、アインスもまたリナに・・・・と、言うよりは、フィーアに似ている。 「フィーアさん・・・・本当に一緒に来てくれないんですか?」 アメリアが、悲しそうにフィーアに言う。フィーアもまた、少し残念そうな顔をしていた。 「ええ。私がいれば、『あれ』に関わる事件に否応なく巻き込まれることになるでしょう。それに・・・・・・・・」 フィーアは、そこで言葉を切った。その理由は、ここにいる皆が痛いほどにわかっている。あのとき、演技とはいえアメリアを傷つけるべく発せられた言葉は、今はアメリア以上にフィーアを責め苛んでいるのだ。フィーアは、本当に優しい人だから、そして何より、本当にアメリアを守りたいと思っているから。単なる護衛としてではなく、・・・・・・・・『姉』として。でも、だからこそフィーアは誰より自分が許せない。穏やかな笑顔の下には、今だ心が血を流しているのだろう。 「・・・・・・・・アメリア様。」 フィーアは、唐突に膝をつき、アメリアに頭を垂れる。 「護衛の任、全うすることができず、まことに申し訳ありません。・・・・私はいつまでも、あなたの幸せを祈っています。」 そう言って立ち上がってきびすを返し、そのまま立ち去ろうと・・・・・・・・ 「・・・・・・・・あの・・・・・・・。」 したが、できなかった。 「そんなの、ずるいです・・・・・・・。」 アメリアが、フィーアのケープの裾をしっかと掴んだからだ。 「フィーアさんだけ言いたいことを言って、さっさと立ち去ってしまうなんて、そんなのずるいです。それに、ちゃんと人の話を聞かないと。話し合いの放棄は、正義じゃありません!」 「え、あの・・・・・・・・」 突然の事態にあっけに取られるフィーアに、アメリアはここぞとばかりに言い募る。 「大体、フィーアさんはいつもそうなんです。勝手に一人合点して、私の意見を聞こうともしません。私は、フィーアさんが『ニセモノ』だなんて思いません!フィーアさんはフィーアさんです。・・・・・・・・約束、したじゃありませんか。私が望む限り、守ってくれるって。傍にいなかったら、守ることなんてできませんよ!?・・・・・・・・私は、まだ望んでいます。だからフィーアさん、私と一緒に行きましょう!!」 力強い、アメリアの宣言。フィーア本人が、既に違えてしまった約束を、この姫は。 だから、フィーアはそれに答えなければならなかった。そう、曖昧にごまかす事は許されない。 「アメリア様・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・今一度、誓いましょう。」 これは、破れた約束をつなぐ、新たな誓い。 「・・・・・・・・私は、あなたをお守りいたします。いつ、いかなる時も。あなたの望む限り。 ・・・・・・・・・・・・・・・もしも、許されるならば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ あなたの、傍で。」 アメリアは、ぱっと笑った。 「もちろん、許します。他の誰が許さなくても、私は、あなたを許します。」 フィーアは、これまでで一番きれいに微笑んだ。 その目元に、涙がにじんでいた。 こちらは、ある意味二人の世界に突入しているアメリアとフィーアを放って、アインスがリナに話しかけていた。 「やれやれ、ようやく収集がついた、といった感じだな。」 「んー・・・・そうね。でも、フィーアって意外と演技派なのね。あの時は本気だったみたいに見えたもの。」 「あの後、思い切り自己嫌悪に沈んでいたのだが、な。・・・・と、そうだ、リナ嬢にゼルガディス氏。言わねばと思っていたことがある。あの『写本』のことだ。」 二人は、とたんに真剣な表情になる。 「あの『写本』に記されていた事は・・・・・・・・『伝説のカレーの作り方』だ。」 大真面目にアインスが言った言葉に、二人は目が点になる。その間に、アインスは続けた。 「『シド』は、キメラ技術に関して高い知識を持っていたが、それらは全て、書物を集めればわかる程度のこと。それに、異世界の技術を併せて、独自の方法として編み出したまで。『シド』にとって『写本』とは、オリジナルの異界黙示録・・・・つまりは水竜王の知識、それに付随して残る神力を導くための媒介に過ぎなかったからな、内容は全く関係ない。どのような内容のものであれ、『写本』に変わりはないのだから。」 この言葉に、リナとゼルは今度こそ真っ白になって燃え尽きた。 「『シド』はこだわるところにはとことんこだわるが、それ以外にはまるで無頓着だったからな。まあまさか、カレーの作り方の『写本』なんてものが存在しているなど思いもしなかったのだが。」 アインスは一人、うんうんと頷きながら話し続ける。ガウリイは、「カレーか〜、いいなぁ。」なんてのんきに呟きながら、アインスの話を聞き流していた。 アメリアとフィーアがこちらの様子に気づき、アインスの話を止めてリナとゼルを救出するまでには、もう少しの時間がかかる。 今日も空は青い。快晴の日はまだまだ続きそうだ。 フィーアは、これまでよりもほんの少し幼い笑顔で言った。 「あなたと見る世界なら、それはきっと、素晴らしいものです。」 少女はやっと、自分の瞳で世界を見ることができるのだから。 少女はとても孤独だった。偽りの生の中、全てを隠す必要があって。 同じ顔の緋色の少女と、鏡写しのように正反対。 彼女が太陽ならば、少女はまるで月のように。 寂しい心は救われたのだろうか?悲しい願いは聞き届けられたのだろうか? 今はまだわからない。物語はまだ、始まったばかり。 だから、今はまだ、これだけの話。 『鏡の中の緋き月』、『フィーア』の名を持つ少女の話。 鏡の中の緋き月 完 あとがき代わりの第二章予告 少女は光を手に入れた。 その名は未来、その名は希望。 それらを闇に閉ざすが正義ならば、神の御使いは・・・・・・・・ 少女は絶望を抱いた。 それは終焉に続く道、破滅しか生まぬ修羅の道。 それらが光に立ち返るとき、魔の使者たるものは・・・・・・・・ 「シドさんが、助けてくれたの!」 「彼女には未来があった、なのになぜ!」 「所詮、世界なんてこんなもんさ。」 「信じて、みたいのです・・・・・・・・。」 「何を考えてるのか、わからないわ。」 「それが、神の御意思なのだ。」 「ふふふ・・・・これで、いいのよ・・・・」 シドの遺産が動き出すとき、神と魔は何を思うのか・・・・? 『色無き世界』シリーズ第2章、『虚ろの中の蒼き影』 請うご期待! |