-アメリナ 第一話-白銀の魔獣(6/18-17:34)No.3129
 ┣Re:アメリナ 第一話-松原ぼたん(6/18-19:24)No.3135
 ┃┗始めまして-白銀の魔獣(6/19-17:16)No.3147
 ┣アメリナ 第二話-白銀の魔獣(6/19-17:18)No.3148
 ┃┗Re:アメリナ 第二話-松原ぼたん(6/20-20:43)No.3159
 ┃ ┗松原ぼたんさんへ-白銀の魔獣(6/22-10:50)No.3184
 ┣アメリナ 第二話(前編)-白銀の魔獣(6/19-17:23)No.3149
 ┃┗上は間違いです-白銀の魔獣(6/19-17:27)No.3150
 ┣アメリナ 第三話-白銀の魔獣(6/22-08:43)No.3181
 ┣アメリナ 第四話-白銀の魔獣(6/22-08:45)No.3182
 ┣アメリナ 第五話-白銀の魔獣(6/22-08:49)No.3183
 ┣アメリナ 第六話-白銀の魔獣(6/22-11:52)No.3185
 ┣アメリナ 第七話-白銀の魔獣(6/22-15:44)No.3187
 ┣アメリナ 第八話-白銀の魔獣(6/22-17:24)No.3188
 ┃┗Re:アメリナ 第三〜八話-松原ぼたん(6/23-18:10)No.3191
 ┗この後の閑話休題の前書き-白銀の魔獣(6/24-15:30)No.3199
  ┗閑話休題 リナ×アメ話-白銀の魔獣(6/24-15:32)No.3200


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3129アメリナ 第一話白銀の魔獣 6/18-17:34


『アメリナ』

−第1話 悪の定義−

 ここは聖王国セイルーン
神殿がひしめくこの街の王宮で、今… 一つの産声が上がった。

「ふむ…… 名前はどうする? 俺も色々考えたんだが……」
 ゼルガディスは、娘を抱いているアメリアに向かって話し掛けた「わたしに任せて下さい!とってもいい名前を考えてあるんです」
「アメリナ……
意図してる事はわからんでもないが、少々安直すぎないか?」
 嬉々として提案するアメリアに、やや憮然とした表情で
話し掛ける。
「まあ、特に異論はない……
お前と名前が似かより過ぎてるような気はするがな……」
 アメリアはちょっと、落ち込んだ表情を浮かべたあと、
それを払拭するかの如く笑顔でゼルに提案する。
「それじゃあ、ゼルリアとか!アメルディスなんてどうでしょう?!」
「……いや、それはやめたほうが…………」
「なぜです?」
「それはだな………」
 ちょっと考えた後、ゼルは変らぬ調子で話を続けた。
「前の方は……
なんかちょっと悪役っぽいし、後者は呼びにくいだろう?」
(安直さは変らんし… なにより、は…恥ずかしいじゃないか……)
「それもそうですね」
 アメリアも一応は納得したようだ。
「ま、俺はアメリナでもかまわんぞ」
 かくして彼女は『アメリナ』と名付けられ、ゼルガディス、アメリア
フィリオネル王の英才教育の元、すくすくと成長していった。

 そして月日は流れ、アメリナも12歳の誕生日を迎えた、
 母親譲りの黒髪を長く伸ばし、先の方を房のついた紐で纏めていた。父親譲りのその瞳は、母親の如き決意を燃やす。
 細い四肢には並々ならぬ力が秘められ、白い法衣を身に纏う。
大理石の様に白い肌には、少々の事では傷さえつかぬ強靭さを持つ。
 魔力許容度の大きさも然る事ながら、すでに少し目立つ程度に膨らんだ胸はやはり遺伝なのだろうか――

「なんで貴女達もついてくるのよ」
 アメリナは後ろをぞろぞろとついてくるメイド達に向かって言った。
「お父上からの命ですから」
 メイド達の中でも一番落ち着いてる女性が答える。
 おそらくはメイド頭というやつだろう。
「ちょっと街に買い物に出るだけじゃない」
「この間もそう言って出かけましたが、その時は竜破斬で草原に大きな
湖ができてしまいました……」
 ため息を一つつくと話を続ける。
「その前は魔竜吠で呼び出されたまま放っておかれた魔竜王を倒すのに騎士団が一日がかりでした。それから…………」
「あ〜〜っ! もう、わかったわよ!!」
 延々と続くメイド頭の解説に、アメリナは大声を上げる。
 それに負けじと、メイド頭もアメリナにずいと詰め寄ると
「とにかく、毎回被害は拡大する一方なのですから………
今回は大人しく魔術の実験は諦めて下さい!!」
 ぷいっとアメリナはそっぽを向く。
 メイド頭もそんなアメリナを見て、再びため息をつく。
(まったく…… 覚えたばかりの術を使ってみたいのは判るのですけど…とにかく私たちがついていれば、そう無茶な事にもならないでしょう)
 メイド頭が思考を巡らせている頃、そっぽを向いたアメリナの視線の先には、とんでもないものがあった。

 颯爽とアメリナが走り出す。
逃げようとしたのだと思い、メイド達が慌てて後を追いかける。
 だが、アメリナは直ぐに立ち止まり、
数百m先の背中を向けていた男達に拳を揮っていた。
 数瞬の後、メイド頭がアメリナに追いついた頃には、
不意をつかれた男達は既に取り押さえられていた。
 「何をしているのですか?!」
 一見傭兵風の男達を遠巻きに見ながらメイド頭はアメリナに問い掛けた。
 アメリナは怒気を孕んだ視線で男達を睨み付ける。
「まったくもう! 首もいじゃおうかしら……」
「お止め下さいアメリナ様!!」
 アメリナが一旦口に出した行動は、誰かが止めない限り絶対にやると そう思い、メイド頭が制止の声を上げる。
 アメリナはメイド達を一瞥すると、指を一本立てて話し始める。
「い〜い! こいつらはね、立ちションしていたのよ!!
よりにもよって、華も恥じらう乙女の前で! そんなのは悪よ!」
 そう言ってアメリナは倒れている男の頭を脚で小突く。
「どうせ悪人に人権なんかないんだし、こんな奴等死んで
当然よ!このあたし自ら引導を渡してあげるわ!!」
 男達に指を”びしっ”と突きつける。
「覚悟しなさい!!」
「く……、こうなったらもうやぶれかぶれだ!」
 男の一人が押さえつけている手を振り解くと腰の剣を抜き、
アメリナに切りかかる。
 男の剣がとっさに躱す事のできなかったアメリナの脇腹に突き立つ。
「アメリナ様!!」
「なっ! こいつ剣がささらねえっ!!」
 男は驚愕の表情を浮かべた。
「ほーほっほっ、このあたしにそんなのが通用するわけ
無いじゃないちなみに、お父様ならもっと硬くて凄いのよ」
 アメリナは胸を反らし自慢下に男達の顔を見上げ見下した。

 ――結局の所、メイド頭の必死の説得により、男達はアメリナに散々小突き回された後、衛兵に引っ立てられた。

 罪状は………
    ……特に無い――。
                      −つづく−

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3135Re:アメリナ 第一話松原ぼたん E-mail 6/18-19:24
記事番号3129へのコメント
 面白かったです。

>意図してる事はわからんでもないが、少々安直すぎないか?」
 確かに。それに将来が怖い(笑)。
> かくして彼女は『アメリナ』と名付けられ、ゼルガディス、アメリア
>フィリオネル王の英才教育の元、すくすくと成長していった。
 どんな教育だ!?
>「この間もそう言って出かけましたが、その時は竜破斬で草原に大きな
 ドラスレ・・・・誰が教えたの?
> アメリナが一旦口に出した行動は、誰かが止めない限り絶対にやると そう思い、メイド頭が制止の声を上げる。
 ひいっ。
>「どうせ悪人に人権なんかないんだし、こんな奴等死んで
 ・・・・リナも教育した、もしかして?
>    ……特に無い――。
 笑。
>                      −つづく−
 楽しみにしてます。

 本当に面白かったです。
 ではまた、ご縁がありましたなら。

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3147始めまして白銀の魔獣 6/19-17:16
記事番号3135へのコメント
 始めまして、松原ぼたん様
コメントを書き忘れた”白銀の魔獣”です。
 ザナッファーでも良いのですが、呼びにくいので”白さん”とでも
お呼び下さい。

松原ぼたんさんは No.3135「Re:アメリナ 第一話」で書きました。
> 面白かったです。

 ありがとうございます。
原作物の話はまだ一度しか書いた事が無かったので心配だった
のですが、楽しんで頂けたら幸いです。

 といっても小説自体、書いた事があるのは2回だけですが…
これからも、疑問点など突っ込んで頂けたら、話にも深みがで
きると思います。

 実は1ヶ月ほど前からここで読ませて頂いていたのですが、
読んでいるばかりでもなんなので、書かせてもらいました。

 皆々様方には、これからもどうぞよろしくお願い致します。

                      白銀の魔獣

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3148アメリナ 第二話白銀の魔獣 6/19-17:18
記事番号3129へのコメント

『アメリナ』

−第2話 闇に恐怖を刻むもの−

 ここは聖王国セイルーン
今、セイルーンは招かれざる者を迎えようとしていた。

「ど…どどど、どうしましょう〜ぅ?」
 アメリアはうろたえ、ビロードの絨毯の上をうろうろと歩い
ている。
「あきらめろ、あいつには逆らえん………」
「で…でもぉ………」
 眼をうるうるとさせて、ゼルガディスを見るアメリアの姿は
とても一児の母とは思えない。
「どうせもうこれ以上悪くはならん………
 神滅斬まで教えやがったんだぞ、あいつは!!」
「それも、そうですよね…………
いったいアメリナは何処まで強くなるんでしょう……?」
(名前が悪かったんだと俺は思うが…………)
「まあ、後残ってるのは重破斬ぐらいだし、
いくらリナでも、それは流石に教えんだろ………」
「甘いです! ゼルガディスさん!!
 リナさんに常識は通用しません!!!」
 ちょっと寂しげな表情で、ゼルガディスはアメリアを
見つめている。
 …………?
 わずかばかり怪訝そうに首を傾げた後――
アメリアは顔を赤らめて話し掛ける。
「ごめんなさい、あなた………」
「あ…いや……その……… 気にするな、ははははは……」
 そんなアメリアの態度に慌てて取り繕うゼルガディス、
そんな微笑ましい光景を余所に、我らがリナ=インバースは
刻一刻と近づいていた。

「久しぶりね、アメリナ!」
「リナ先生もお元気そうで………
で! 今日はどんな呪文を教えてくれるんですか?」
 アメリナは時々来ては呪文を教えてくれるリナを、
先生と読んで慕っている。
「う〜ん、とは言ってもね〜粗方教えちゃったし………
冥王幻朧呪は発動しないし、魔竜烈火咆も発動しないし……」
 以前までは、数年おきにしか来なかったリナも
2年前、冗談で教えた烈閃槍を、復唱した――
(少なくとも、リナにはそう見えた)
アメリナが発動させて以来、請われるままに来ている。
「……そうね、とりあえず何か新しい呪文はつくってみた?」
「自分で考えたわけじゃないけど…… とりあえず新しい
呪文ならあります」
「わかったわ、それじゃあ場所は中庭ね?」
 先に行こうとするリナをアメリナは慌てて止める。
「ちょっと待って下さい、あの……
中庭ではちょっと危ないですし、街中だと結界が邪魔です」
「そっか、じゃあ近くの森にでも行きましょう」
「はい!」
 二人は城門を出て、街の外へと歩き出した。
 そして、それを見つめる三つの人影があった。

 ――暴爆呪
 膨大な熱量が辺りを焦がし、目の前にあった樹の幹の部分が
じゅわっと軽い音と共に消滅する。
 ザワザワザワ………
 幹を失った樹が、周りの木々とひしめき合い崩れ落ちる。
その断面は、燃えるでもなく煙も立たず……
 ――ただ、爛れていた。
「うそ………」
 獣達がざわめく中で、リナの呟きが何故か聞こえる。
「どうでしょう?」
 満身の笑みを浮かべて、アメリナはリナの反応を待つ。
「…そ、そそ…そうねぇ〜〜ま、まあまあじゃない………」
「そうですか!!」
 ひたすら汗を浮かべるリナと、満足そうなアメリナ。
 リナはふと我に返ると、アメリナの瞳を覗き込む。
(別に紅いわけじゃないのよね、ゼルと似たような色だし…)
「あの? どうかしましたか?」
「ん? いや何でもないのよ…… そう、何でもね………」
 言い訳をしていた、リナの感覚に何か触れるものがある。
 ――瘴気
 がさっ
 音を立てて、茂みが揺れる。
「リナ……」
 茂みからアメリアとゼルガディスが現れる。
「どうしてここに………」
「いや、アメリナが心配で見に来ただけだったんだが……」
 三人とも臨戦態勢を取り始める。
「旦那は来ていないのか?」
「来てないわ、家で仕事してるもの……」
「そうか、旦那がいれば少しは楽なんだが………」
「大丈夫ですよ! 何とかなります!!」
 瘴気に向かって三人はアメリナを庇う様に布陣する。
 そんな三人とは裏腹に、アメリナはただじっと虚空を
見詰めていた。
「お久しぶりですね、リナさん………」
 森の影から滲み出るように、ゼロスが現われる。
「ゼロス……」
「あんた、何しに来たのよ!!」
 淡々と呟くゼルガディスに、喚くリナ。
「いやあ、『ちょっとレッサーデーモンをけしかけてこい』
って獣王様に言われまして………」
と言って、アメリナを指差す。
「アメリナに! 何故です?!」
 怒気を込めてアメリアが問い掛ける。
「さあ? 理由は教えて貰えませんでしたし
安心して下さい、僕は闘いませんから…………」
 『それは、秘密です』が来なかった事に、
三人はちょっと戸惑う。
「まあ、これを呼んでしまえば僕の役目は終わりですから
後は御自由に………」
 ゼロスが杖を揮うと、森がざわめきくと共に咆哮が轟く。
木々が、動物が、異形なる物へと変化していく。
「それでは」
 そう言ってゼロスは、変化していない樹の枝に
ちょこんと腰掛ける。
「仕方ない、片づけるぞ………」
 三人がそれぞれ呪文を唱えようとしたとき、
アメリナが駆け出した――。

 レッサーデーモン達が一斉に炎の矢を飛ばし始める。
アメリナは腰を低くし、地を這う様に走る。
 時折、アメリナの頭上や側をかすめるが、速度を
緩める気配はまるでない。
「アメリナ!!」
 アメリアの叫びが森中に響き渡る。
「正義は必ず勝のよ!!」
 叫ぶというより、むしろ淡々と宣言するかのように
アメリナが声を吐く。
 懐に飛び込まれたレッサーデーモンが、アメリナに向かって
体当りを仕掛ける。
 ひゅぅっ!
 鋭い呼気を吐き、アメリナは体当りをギリギリの所で躱す。
レッサーデーモンの皮膚がアメリナの前髪に触れていく。
 別のレッサーデーモンの丸太のような腕が、
ぶんと振り回され拳がアメリナの肩にぶち当たる。
 アメリナは一寸顔をしかめると、その勢いを殺さぬ様に体を
半回転させて、レッサーデーモンの脇腹に手刀を突き刺した。
 グゥァァァ………
 そのまま、もう片方の手も脇腹に突き刺し、力任せに傷口を
広げる。
 ブチブチブチ
 小さく何かが千切れる様な音を立てて、レッサーデーモンの
体は上下に引き裂かれた。
 非常識な光景に四人の眼は点になっている。
 寄り代は動物だったのだろうか?
 白かった法衣が、レッサーデーモンの返り血を浴びて赤く
――紅く染まっていく。
 アメリナは右手で髪をかき上げながら、淡々と呟いた。
「さあ、次は誰……」
 ずささぁぁっ!!
 アメリナを取り囲むようにしていた、レッサーデーモン達が
たじろいで後ろに下がる。

 「こ…この娘に危機なんてあるの………?」
 一瞬訪れた静寂の中で、
見せ場を完全に失ったリナの呟きがこだました――

               −つづく−

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3159Re:アメリナ 第二話松原ぼたん E-mail 6/20-20:43
記事番号3148へのコメント
 面白かったです。

>今、セイルーンは招かれざる者を迎えようとしていた。
 誰?(笑)。
> 神滅斬まで教えやがったんだぞ、あいつは!!」
 教えてたのね。
>いくらリナでも、それは流石に教えんだろ………」
 魔法ってほいほい教えちゃいけないんじゃなかったっけ?
>冥王幻朧呪は発動しないし、魔竜烈火咆も発動しないし……」
 あはは、てっきりもっと使えなくなってるのかと・・・・(笑)。
>2年前、冗談で教えた烈閃槍を、復唱した――
 んなもん、教えるなぁぁーっ。
>(別に紅いわけじゃないのよね、ゼルと似たような色だし…)
 心配になるよねー、呪符もないのに使われちゃ。
>「来てないわ、家で仕事してるもの……」
 商売でもしてるのか?(笑)。
> 非常識な光景に四人の眼は点になっている。
 こわいとこばっか引き継いでるのね。なぜか防御力もあるし。
> 「こ…この娘に危機なんてあるの………?」
 原因の半分はあんたでしょうか。

 本当に面白かったです。
 ではまた、ご縁がありましたなら。

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3184松原ぼたんさんへ白銀の魔獣 6/22-10:50
記事番号3159へのコメント
松原ぼたんさんは No.3159「Re:アメリナ 第二話」で書きました。

>>冥王幻朧呪は発動しないし、魔竜烈火咆も発動しないし……」
> あはは、てっきりもっと使えなくなってるのかと・・・・(笑)。

 いえ他にも使えない術はあるんですがけどね、冥王降魔陣とか覇王氷河烈とか………

> 本当に面白かったです。
> ではまた、ご縁がありましたなら。

 今後ともよろしくお願いします。

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3149アメリナ 第二話(前編)白銀の魔獣 6/19-17:23
記事番号3129へのコメント

『アメリナ』

−第2話 闇に恐怖を刻むもの−

 ここは聖王国セイルーン
今、セイルーンは招かれざる者を迎えようとしていた。

「ど…どどど、どうしましょう〜ぅ?」
 アメリアはうろたえ、ビロードの絨毯の上をうろうろと歩い
ている。
「あきらめろ、あいつには逆らえん………」
「で…でもぉ………」
 眼をうるうるとさせて、ゼルガディスを見るアメリアの姿は
とても一児の母とは思えない。
「どうせもうこれ以上悪くはならん………
 神滅斬まで教えやがったんだぞ、あいつは!!」
「それも、そうですよね…………
いったいアメリナは何処まで強くなるんでしょう……?」
(名前が悪かったんだと俺は思うが…………)
「まあ、後残ってるのは重破斬ぐらいだし、
いくらリナでも、それは流石に教えんだろ………」
「甘いです! ゼルガディスさん!!
 リナさんに常識は通用しません!!!」
 ちょっと寂しげな表情で、ゼルガディスはアメリアを
見つめている。
 …………?
 わずかばかり怪訝そうに首を傾げた後――
アメリアは顔を赤らめて話し掛ける。
「ごめんなさい、あなた………」
「あ…いや……その……… 気にするな、ははははは……」
 そんなアメリアの態度に慌てて取り繕うゼルガディス、
そんな微笑ましい光景を余所に、我らがリナ=インバースは
刻一刻と近づいていた。

「久しぶりね、アメリナ!」
「リナ先生もお元気そうで………
で! 今日はどんな呪文を教えてくれるんですか?」
 アメリナは時々来ては呪文を教えてくれるリナを、
先生と読んで慕っている。
「う〜ん、とは言ってもね〜粗方教えちゃったし………
冥王幻朧呪は発動しないし、魔竜烈火咆も発動しないし……」
 以前までは、数年おきにしか来なかったリナも
2年前、冗談で教えた烈閃槍を、復唱した――
(少なくとも、リナにはそう見えた)
アメリナが発動させて以来、請われるままに来ている。
「……そうね、とりあえず何か新しい呪文はつくってみた?」
「自分で考えたわけじゃないけど…… とりあえず新しい
呪文ならあります」
「わかったわ、それじゃあ場所は中庭ね?」
 先に行こうとするリナをアメリナは慌てて止める。
「ちょっと待って下さい、あの……
中庭ではちょっと危ないですし、街中だと結界が邪魔です」
「そっか、じゃあ近くの森にでも行きましょう」
「はい!」
 二人は城門を出て、街の外へと歩き出した。
 そして、それを見つめる三つの人影があった。

                        −つづくー

※エラーが出ましたので、二編に分けました続けて後編をどうぞ

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3150上は間違いです白銀の魔獣 6/19-17:27
記事番号3149へのコメント

 上の前編は間違いです。
エラーが出たので登録されていないと思ったのですが、どうやら
平気だったようです。

 邪魔になると思いますのでできれば消しておいて下さい。

                   白銀の魔獣

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3181アメリナ 第三話白銀の魔獣 6/22-08:43
記事番号3129へのコメント

『アメリナ』

−第3話 特訓…それは甘美な響き−

 ここは聖王国セイルーン
 まもなく日も暮れようという頃、その近くの森で攻撃魔法の
華が咲いていた。

 「烈閃咆っ!!」
 あれから気を取り直したリナ達が参戦し、レッサーデーモン
の大半は撃退した。
 その4分の1程はアメリナの手によるものなのだが……
今に至るまでただの一撃も魔術を放ってはいなかった。
 その体術は基本的にアメリアと同じものなのだが、
天性だろうか? 技一つ一つのキレが違う。
 残るは二十体余り、更に魔術の攻防が閃く。
「どうしたの、アメリナ?! 魔術を使いなさい!!」
「こんな奴等に魔術なんて必要ないわ!」
 リナの問いにアメリナが答える。
「アメリナ! 油断は禁物です!!」
 そんなアメリアの声にアメリナは憮然とした表情で答えた。
「………わかったわよ」
 爆音が轟く中、アメリナの詠唱の声が透る。
――全ての命を育みし、母なりし存在無限の大地、
     我が手に集いて……がちっ………
 舌を噛んだアメリナが、一瞬その場にうずくまる。
そして何も無かったかの様に、再び拳を振るい始めた。

 数刻後、ようやく全ての敵を倒し終えた後、
三人はアメリナを取り囲んでいた。
 すでにゼロスはどこかに消えている。
「ようするにだ、なまじ完成した体術を持っているばかりに
喋ろうと息を吐くとリズムが崩れるんだろう……」
「………?」
「リナさんにはピンとこないかもしれませんけど
剣術も体術もそうなんですが、基本的に呼吸に合わせて攻撃
するんです」
「単純にちょっと息を吐く程度ならばともかく
詠唱となると吐く息の量も馬鹿にならんだろう」
「成る程ね、あたしも攻撃を寸での所で躱すときとかは、
息を吐いて躱してたわ……」
 納得してリナはうなずく。
「それにしても、戦うときはえらく無口だと思ったら
そういう事だったのね………」
「でも……」
 反論しようとするアメリナをゼルガディスは手で制する。
「まあ、後は肺活量の違いなんでしょうね」
「そうだな、王宮に帰ったら特訓だ」
 アメリアの意見を肯定し、ゼルガディスはアメリナを見る。
「特訓ね!」
 アメリナは決意を込めた瞳で、こくんとうなずく。

 途中でリナと別れ、帰ってきたアメリナ親子は
さっそく特訓を開始した。
「いいか? 行くぞ!!」
そう言うとゼルガディスはアメリナに向って剣を振り下ろす。
「さあ言うんだ『生麦生米生卵』」
「なまむぎなまごめなまたまご」
 ゼルガディスの剣戟を躱しつつ、アメリナは唱える。
「隣の客は良く柿食う客だ」
「となりのきゃくはよくきゃりりゅぅきゃらら」
「駄目だ! もう一回!!」
 ゼルガディスの叱咤が飛ぶ。
「となりのかきは………」
 がすっっっ!!
 ゼルガディスの拳がアメリナに食い込む。
「隣の柿がどうした! 人を食うのか?!!
それから、やはり唱えるのに集中しすぎだ!避けるのが遅い」
 悔しそうに唇を噛むと、アメリナは言い放つ。
「もう一度、いきます!!」
「よし、来い!!」
 そして再び特訓が始まった。
「生麦生米生卵、隣の客は良く柿食う客だ」
「次は…… 『蛙ぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ合わせてぴょこ
ぴょこ六ぴょこぴょこ』『青巻き紙赤巻き紙黄巻き紙』『武具
馬具武具馬具三武具馬具合わせて武具馬具六武具馬具』……」
「かえるぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ合わせてぴょこぴょこむ
ぴょこぴょこ 青巻き紙赤まき紙き巻き紙 ぶぐ馬具武具ばぐ
み武具馬具合わせてぶぐ馬具六武具馬具……」
 さすがにアメリナも息が切れてくる。
「ようし次は……『ういろう売りだ』!!」

 かくして、アメリナの特訓は始まった。
詠唱の……しかも回避しながらの詠唱である。
 彼女の肺活量が人外を極める日も近い………。


――人工呼吸で相手が破裂したりして………

                 −つづく−


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3182アメリナ 第四話白銀の魔獣 6/22-08:45
記事番号3129へのコメント

『アメリナ』

−第4話 旅立ちの時−

 ここは聖王国セイルーン
 あれからニ年、様々な分野で特訓に特訓を重ねたアメリナは
今、決意を秘め旅立ちの日を迎えようとしていた。
「今、世界には何らかの悪意に満ち始めている様な気が
するのです! 聞けばリナさんも14のときに見聞を広める
旅を始めたとか!!
 ………というわけで! あたしは旅に出ます!」
 そう言うとアメリナは両親の顔をじっと見る。
 アメリナの脳裏にはここ二年の特訓の日々が走馬灯のように
浮かんでは消えていた。

 中庭でアメリナに素振りをさせているガウリイの姿が在る。
「ようしアメリナ! 素振り4000回だ!!」
「あの……ガウリイさん?」
「なんだ! 泣き言なんか聞かないぞ」
「泣き言なんか言いません!!」
 一呼吸間を置くと、続けてアメリナは話し出す。
「でも…さっきからそればかりじゃないですか!
ひょっとして……忘れてませんか?」
「あ…あれ? そうだっけ………??」
 ガウリイはきょとんとした表情でそう答えた――

「いいですか? 良婦たるもの竜破斬ぐらい唱えられなければ
なりませんが、家事こそもっとも重要なものです!!」
 包丁を片手に、シルフィールはアメリナに諭す。
 こっくりとうなずくアメリナを満足げに見ると、
”麗和浄”についての講義を始めた。
 ………
アメリナはジト目でシルフィールを見ると、魚を捌き始める。

 この様に両親の無意味に強力な知人達が色々と教えてくれた
二年間は、アメリナにとってとても充実していた。
 だがその充実した日々も、西岸諸国に変なものが現れた
という報告をきっかけに、色々と慌ただしくなった為
すでに終わりを告げていた。
 ちなみにアメリナの言う”悪意”とは、特訓が中断させられ
た事を意味すると推測される。
「………わかりましたアメリナ」
 アメリアはゼルガディスの方を振り向いた。
「かまいませんよね?」
「ああ……」
 ゼルガディスはこっくりとうなずく。
「まあ、途中までとはいえ私も付いて行きますから……」
「お願いします、シルフィールさん」
 アメリアはシルフィールに向かうと軽く会釈する。
 シルフィールはそれに笑顔で答える。
(少なくとも、争いで死ぬような事は無いでしょうしね)

 ――その数刻後
 アメリアとゼルガディスは門へと歩いて行く娘の姿を
見送っていた。
 娘の姿が見えなくなった頃、アメリアは周りをぐるっと
見回す。
「飛び乗って壊れた玉座、握り締めて潰した瑪瑙の指輪に
魔法で焼かれた中庭の花壇…… ぶつかって折れた神殿の柱
 何もかもアメリナの思い出でいっぱいです……」
「ああ、だがアメリナが自分で決めた事だ!
お前もそうだったんだろう? アメリア………」
「そうですね………」
 アメリアは寂しげに呟く。
そんなアメリアを一瞥して、ゼルガディスは虚空を見つめる。
 そして思いを馳せていた。
(あれからゼロスは姿を見せてはいない……
だが、やはりアメリナの人生に魔族が関わっていく事になる
のだろうか)
 ――と。
 −つづく−

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3183アメリナ 第五話白銀の魔獣 6/22-08:49
記事番号3129へのコメント

『アメリナ』

−第5話 ある夫婦−

 今、アメリナはセイルーンからサイラーグへ向う途中に在る
とある町へと辿り着いた。
 勿論、シルフィールも一緒なのだが、珍しげにうろつくアメ
リナと慣れた道のりのシルフィールとではペースが違う。
「待って下さい、アメリナさん……」
 アメリナが屋台を見つけ、そちらに向おうとしたとき
ようやくシルフィールが追いついてきた。
「はあ、やっと追いついた」
「遅いじゃないですか!! シルフィールさん!!」
「そうは言われても………ちょっと早すぎです……」
 息をつくシルフィールをほっといて、アメリナは屋台へと
走っていく。
 アメリナは相変わらず白い法衣に身を包んでいるわけだが、
一見しただけでは判らない所に変化が見られる。
 すでにかつてのアメリア並みに成長した胸が目立たない事か
ら中に色々と着込んでいるのが判った。
 不審に思ったシルフィールが調べた所によれば………
 まず法衣、所々に縫い込まれたミスリルが簡単な魔法陣を
形成している。
 髪をまとめている房の付いた紐の中には針金が、大きなサフ
ァイアの付いたネックレスの中には何かが入っているようでは
あったが、シルフィールには開ける事ができなかった。
 そして、ブーツの踵には鉄板が仕込まれ、法衣の下には鎖で
編まれたシャツとズボンを着込んでいる。
 肝心の胸には、布がきつく巻かれていた事が判明した。
(どうしてあんなに着込んでいるのに………)
 シルフィールは一つため息を吐くと、アメリナの後を追いか
ける。

「ここはうちが見つけたんや! あんたには渡さへんで!!」
 アメリナが屋台で装飾品を物色していると、
路地裏から奇妙な訛りの入った叫び声が聞こえた。
 路地を覗くと、同い年くらいの女性が白い毛色の狼?犬?
と対峙している。
「今日こそはうちが勝つでっ!! 覚悟しいや白狼!!」
 白狼と呼ばれた狼?は、女性に対して戦闘体制をとる。
 瞬間、彼女の脚が三つに分裂したかの様に見えた。
――三段蹴りだ!! だが白狼は後ろ足で彼女の足を蹴ると、
悠々と間合いを取って着地した。
(もっとも、狼のような小さな目標に対しては意味無いし…)
 アメリナはそのまま勝負の行く末を見守った。
 女性の残像を伴った、蹴りや拳を白狼は悠々と躱していく。
(腕は悪い方じゃないと思うけど……)
 女性の服装といえば所謂魔導士姿ではあるのだが、あまり
服装に気を使っているようには見えない。
(そろそろ声をかけようかな?)
 そう思ってアメリナは近づこうとした。
 だが次の言葉を聞いた瞬間、アメリナの目は点になった。
「ここの残飯はうちのもんや!!」
(……わ…技が勿体無い………)
 がっくりとアメリナは膝を着き、なんだか身体中の全ての
力が抜けていった様な気がした。
 そして、最後の力を振り絞るように呟いた。
「お願い……止めて、食事なら奢ってあげるから………」

 その後、アメリナはシルフィールと合流すると、近くにある
酒場へと足を運んだ。
「いや〜生まれてから二十余年、こんな親切受けたんは初めて
やわ」
「に、にぃじゅうぅよねん?」
アメリナは聞き返す、どう見ても同い年ぐらいにしか見えない。
「そうや、もうすぐ三十路も近いっちゅうのに、こないなお嬢
ちゃんに奢って貰うはめになるとは、世の中っちゅうのはなか
なか油断できまへんな!!」
 そういってがつがつと食事を続ける。
 シルフィールがアメリナをちょいちょいと小突く。
「どこで拾って来たのですか?」
「いえちょっと……食うに困っていたみたいですから………」
 小声でシルフィールと話しながら彼女の方を見る。
「はあ〜食った、食った………」
 食事も粗方終わり、彼女も一息つく。
「え〜と、ちょっと聞いてもかまいませんか?」
 相手が年上だという事を知って、アメリナは比較的丁寧に
話し掛ける。
「なんやいきなり改まって、もっとざっくばらんに話しても
かまへんよ」
 女性は床で食事をしていた白狼を見ると、
「そういえば自己紹介がまだやったな!」
――と、席を立ち胸を反りかえす。
「うちは”レイカ”や、言い難いやろうから”レイ”でええ」
「見たところ魔導士みたいですけど?」
「まあ、どっちかっちゅうと召喚士やな、そっちが専門や」
「召喚士ですか………」
 シルフィールが不思議そうに呟く、実はネクロマンサーとか
そういった特別な場合を除き、召喚を主とする魔導士はあまり
いない。
もっとも最近では魔導士の数すら減少の一途をたどっている。
 なぜなら”魔を滅する者”ことリナ=インバースのおかげで
使用可能な黒魔術もその数を減らしているからだ。
 変わりに台頭してきたのが外から伝わってきた神聖魔法だ。
 結界が既に崩れかけているとはいえ、こちら側はやはり物騒
なので相変わらず魔術の発達は限りが無い。
 もう一つ衰退しているものがある、それは剣士だ。
 外から入って来た技術の中に銃器というものがある、手軽に
破壊力を生み出し遠距離で敵をしとめる事が出来る為に所謂、
一流では無い傭兵や流れ者達に普及したのだ。
 それにしても、その普及した銃器の発明者がジラスというの
だから、最早何を言わんやだ。
「それでな………」
 といって白狼を抱き寄せる。
「こっちが…うちの旦那の”白狼”や」
 ………

                 −つづく−

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3185アメリナ 第六話白銀の魔獣 6/22-11:52
記事番号3129へのコメント

『アメリナ』

−第6話 理想と現実−

 呆然と佇むアメリナ達を尻目に、レイカは解説を続ける。
「……まあ、呪われたっちゅうのが手っ取り早い説明やな」
「要はそういう事だ……」
 レイカを補佐するように白狼が喋る。
「い…犬がしゃべった!」
 口を挟んだ白狼に驚愕するアメリナ、よくよく考えれば獣人
族等というのもいる事だし、そこまで驚く事では無いと思うの
だけれども、やっぱし違和感があるのかもしれない。
「ちなみに”白狼”といのは字(あざな)だ、本名は別にあるが
これでもかまわんだろう?」
「え…っと、それで呪いを解く方法は?」
 シルフィールが違和感を堪えて話し掛けた。
「まだ見つかってへん、白魔術や神聖魔法では無理みたいや」
「……という事は、術者を倒すとか?」
 アメリナの言葉にレイカは無言で首を振る。
「そうなんですか………」
 四人ともなんとなく無言になって佇む。
――とそのとき、ざわめきと共に叫び声が上がった。
「喧嘩だ〜〜っ!!」

 一行はちょっと興味を引かれたが、あえて無視して話を続け
た。
 酒場の窓が壊れ、シルフィールが手を付けようとしたティー
カップが割れる。
 アメリナが目の前に飛んできた鉄球を人差し指で弾いた。
「ちょっと貴方達! 食べ物は粗末にしないって教わらなかっ
たの?」
 流石に無視できなくなったのか、アメリナが喧嘩をしている
男達に向かって声を荒げる。
「あ〜もう、まったくぅ……怪我人がごろごろ………」
 アメリナは銃器で撃たれのた打ち回る、男達を見る。
 幸いな事に死人はまだ出ていないわけだが、銃器で手加減が
できるはずもなく、これから出る事はまず間違いないだろう、
アメリナの後ろではシルフィールが男達の傷をえぐっている。
 ただ単に治癒をかけただけでは体内に残った鉄球を放置する
結果になるからだ……。
「ここはうちに任せてぇ〜な」
 レイカがずいっと前に出ると、呪文を唱え始めた。
 どうも”明り”のアレンジバージョンみたいなのだが……
アメリナは首を傾げている。
 レイカの掌から光球が浮かび上がり、光球から数条の光の帯
が放たれる。
 光の帯が次々に男達の銃器を切断していく、粗方の銃器が壊
されると光球は消失した。
「なに……? 召喚魔法じゃないわよね??」
「まあ、普通は光が純粋な攻撃力になるとは考えんわな……」
 白狼がアメリナの問いに答える。
「あいつの使える数少ない攻撃魔法の一つさ……」
「なるほど」
 やや納得していない表情だが、これ以上聞いても判らないだ
ろうと思ったらしく、アメリナは男達の方に歩いていった。
「貴方達もこれで終わりね、これからあたしが築き上げる伝説
の……秩序と正義の礎となりなさい!!」
 びしっっとアメリナの指先が男達に向けられる。
「……あの…アメリナさん?…あまり乱暴は……」
 そんなアメリナに、控え目なシルフィールの声が届く。
「見ていて下さい! きっとあたしは正義の名の元にこの力を
もって支配体制を築き、いずれこの世に一分の隙も無い秩序を
打ち立ててみせます!!」
(アメリナさん、きっとそれは独裁……いえ恐怖政治というも
のですよ)
 ふう、シルフィールはため息をついた。
(まあ、アメリアさんもリナさんも口で言う程酷い事はしませ
んでしたし……人間、歳をとれば丸くなりますから……)
 やれやれとばかりに腰を上げると、再び治療の作業に戻る。
店の外ではアメリナが男達相手に拳を揮っていた。

――だが、過去のメイドの一言が鮮明に思い浮かべられる
    果たしてこれで良かったのだろうか?
   シルフィールは未来を一つ滅ぼしたかもしれない――

                 −つづく−

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3187アメリナ 第七話白銀の魔獣 6/22-15:44
記事番号3129へのコメント

『アメリナ』

−第7話 出会いと別れ−

「ほな、うちらはここで………」
 そう言って、レイカと白狼は去っていった。
「また何処かで出会うような気がします……」
 その後ろ姿を見送りながら、アメリナは呟いた。
 アメリナとシルフィールは再び、サイラーグへと向かう。
いく日かが過ぎ、サイラーグの町並みが見えてきた。
 復興が始まり、ようやく町並みの様相を築いていた。
復興したから、いや復興中だからこそ色々なものや胡乱な者達
が流れ込んでくる。
(神聖樹の無い光景は何か寂しいですね……)
 感傷にふけるシルフィールはさておき、アメリナは当然神聖
樹のある光景なぞ見た事が無い。
「では、ここでお別れです」
 アメリナはシルフィールが神官長を勤める神殿の前で、シル
フィールに別れを告げた。
 シルフィールは旅道具を色々と渡してくれたが、化粧道具等
結構余計な物も多い。
 だが、アメリナは快く受け取るとサイラーグの町並みに消え
ていった。

 時刻はまだお昼過ぎ、アメリナは屋台を物色しながらサイラ
ーグの町並みを歩いていた。
「おや、貴女お一人ですか?」
 にこ目の黒い神官服に身を包んだ青年がアメリナに声をかけ
てくる。
「何か用ですか? 随分前から周りをうろついていたようです
けど……?」
「気がついていたのですか? 僕の名はゼロスといいます、見
ての通り神官をやっております」
「ゼロス………?」
 両親が時々話してくれる無茶苦茶な夢物語――
(いや…全部事実なのだが……)
――に出てくる登場人物の一人だ。
(ひょっとしたら、あの物語には何か元になった話があって、
この人はその中の登場人物の名前を付けられたのかも………)
 などと考えながらアメリナは答える。
 ”二年前に会ってるだろーが”と言いたい所だが、どうも
覚えてないようだ。
「貴方も大変ね、魔族の名前を貰うなんて………」
「は? いえ…まあ……そういう事にしておきましょう」
 ゼロスは戸惑いつつも、なんとなく理解した。
「ところでアメリアさんはお元気ですか?」
「母さんの事を知っているんですか?」
「勿論知ってます、他にもリナさんやガウリイさん、それに
ゼルガディスさんも知ってますよ」
 ゼロスはにこやかな顔でアメリナに答えた。
「ど〜して、父さんが最後なんです?」
「いや……まあ、ああいう人ですから………」
 思わぬ突っ込みにしどろもどろのゼロス。
「なるほど………」
 何か思う所があったのかアメリナはいとも簡単に納得した。
「二年前にも会ってるんですがねぇ」
 何が気に入らないのか、ぶちぶちと呟くゼロス。
「ああっ!! そーいえば!!」
 どうやらアメリナも思い出したようだ。
 だが戦闘か? と思いきや、アメリナはゼロスの手を取ると
感謝の言葉を述べ始めた。
「ありがとうございます、貴方のおかげで始まったあの特訓の
日々……とても至福な時でした……ああ、あたしのお腹に拳が
突き刺さる瞬間も、苦悩に満ちたあの時も、そしてなにより…
徐々に強くなっている事を実感した瞬間! とっても素敵…」
 うっとりとしているアメリナとは裏腹に、苦痛に満ちた表情
のゼロス……。
 なんとか苦痛を堪えると、ゼロスはアメリナに話し掛ける。
「あの……まだわかりませんか? 僕は魔族なんですが……」
 しつこいゼロス、今回の任務がどんなものかはわからないが
異様なまでの拘り様だ。
「ああ…そうなんですか……」
「いや、ですから魔族なんですけど……」
 不思議そうな顔でアメリナは答える。
「……魔族なんでしょう?」
「そういう反応をされても困りますが……」
 なんか寂しげな表情のゼロス、確かに見方によっては徹底的
に無視されているように見えなくも無い……
「ですから、生きとし生けるものの天敵、この世の悪の根元、
金曜の夜の生ゴミこと魔族です!!」
 自らそこまで言うゼロス、だがアメリナはあっけらかんとし
て答える。
「魔族なのは判りました、でも悪い人なら父さんはともかく、
母さんの知り合いなわけないじゃないですか!!
 リナさんも噂ほど酷い人じゃありませんし………
全体の評価で個体を評価するほど悪い事はありませんよ……」
 アメリナの話をそこまで聞いた時点で、ゼロスは…なんか…
力尽きた――
                 −つづく−

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3188アメリナ 第八話白銀の魔獣 6/22-17:24
記事番号3129へのコメント

『アメリナ』

−第8話 闇の胎動−

 ゼロスが目覚めると、目の前にはアメリナの顔があった。
 あの後、近くの宿に引っ張り込んで、看病らしきものをし
ようとしていた様だ。
 額には濡れたタオルが乗せられ、服は着たままベットに寝
かされている。
 服を脱がせようと努力した後はあるが、脱がせられなかっ
た様だ、まあ服に見えてもれっきとした魔族の一部なのだか
ら当然だろう。
「大丈夫ですか? ゼロスさん……」
心配そうなアメリナの表情に、ゼロスの顔色が益々青くなる。
(負の感情には違いないのですが、なんか…限りなく嫌です)
「大丈夫です、大丈夫ですから……」
 そういってゼロスは起き上がろうとする。
「まだ、駄目です…顔色がそんなに悪いじゃないですか!!」
 アメリナはゼロスを押さえつけようとするが、物理的に押さ
えつけられるようなゼロスではない。
「僕は平気ですから、心配する必要はありません」
「そうですか……」
 アメリナは一応納得すると、ゼロスの寝ていたベットに潜り
込む。
「何をしているんです?」
「いえ、一部屋しかとれませんでしたし、もう夜も遅いですか
ら、寝ようと思ったんですけど……?」
 話が終わるか終わらないかという時に、くーくーと音を立て
て既に寝入っている。ちなみに着の身着のままだ。
「一体、何を考えているのでしょう……?」
 ゼロスの頬を伝う汗一筋……。

 アメリナがとった宿の屋根の上で、ゼロスは物思いに耽って
いた。
(ゼラス様には”アメリナに喧嘩を売ってこい”と言われてき
たのですが……、あのアメリアさんの娘だというから、楽な話
だと思っていたんですけどねぇ)
 ――と頭上に浮かぶ月を見る。
(直接戦闘でも仕掛けてみましょうか? 殺してこいって言わ
れた方が、何倍も楽なんですけどね)
 ゼロスの姿がふっと消え、アメリナのベットの側に現われる。
(一応、まだ殺すなと言われてますし……とりあえず一度引き
上げるとしますか……)
 ゼロスは虚空に溶けるように消える。
 数瞬の後、アメリナがむくりと起き上がった。
 アメリナの瞳は蒼く爛々と輝き、ゼロスの去った虚空を見つ
めている。
「まだ早すぎるわね、関わるのは………」
 ――と、呟いた。

 次の日の朝、いなくなったゼロスを一通り探した後
先に出ていったのだと思い諦めると、アメリナは次の目的地で
あるゼフィーリアへと向かっていた。
 ”手加減一発岩をも砕く”、やたら強力な者がごろごろいる
とリナから聞いているゼフィーリアは強さに恋焦れるアメリナ
にとって一種憧れの土地だ。
 その途中の街道で、お婆さんが困った表情で湖を見つめてい
るのを見かけた。
「どうしたんですか? お婆さん?!」
「ん…ああ指輪を落としてしまってねぇ、こりゃあ諦めるしか
ないじゃろぅぅなぁ……」
 水面を見つめたまま、お婆さんはアメリナの問いに答える。
「そうですね、随分泥も積もってますし………」
 ふと、何かに気がついたようにお婆さんに問い掛ける。
「お婆さん、ひょっとして落とした指輪って魔法がかかってい
たりしませんか?」
「アミュレットとか言っとったから、かかっとるかもしれんが」
 お婆さんは怪訝そうな顔でアメリナを見つめる。
「やっぱり」
 と言って、アメリナは袖をたくし上げると、腕を湖の中に突
っ込んだ。
 しばらくして、引き上げたアメリナの掌には指輪があった。
「これですか?」
「それじゃ、それじゃ!」
 お婆さんは喜びアメリナにお礼をしようとしたが、アメリナ
はそれを丁重に断ると――
(何でわかったんだろう?)
――と思いながら、ゼフィーリアへの街道を進んでいった。

                 −つづく−

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3191Re:アメリナ 第三〜八話松原ぼたん E-mail 6/23-18:10
記事番号3188へのコメント
 面白かったです。

> その4分の1程はアメリナの手によるものなのだが……
 すごひ・・・・。
> 舌を噛んだアメリナが、一瞬その場にうずくまる。
 呪文ってややこしそうですからねぇ(^^;)。
>「さあ言うんだ『生麦生米生卵』」
 なっ、謎。
> ガウリイはきょとんとした表情でそう答えた――
 ちょっとはまともになったのかもと思えば(笑)。
>「いいですか? 良婦たるもの竜破斬ぐらい唱えられなければ
>なりませんが、家事こそもっとも重要なものです!!」
 じゃ、リナは条件クリアね。
>「こっちが…うちの旦那の”白狼”や」
 旦那と残飯の取り合い・・・・すさんどるなー。
> 一行はちょっと興味を引かれたが、あえて無視して話を続け
>た。
 行かなきゃ話進まないんじゃないの?(笑)。
> 幸いな事に死人はまだ出ていないわけだが、銃器で手加減が
>できるはずもなく、これから出る事はまず間違いないだろう、
 はうっ、文明ってむごい。
>「また何処かで出会うような気がします……」
 あわなきゃ詐欺だ(笑)。
> にこ目の黒い神官服に身を包んだ青年がアメリナに声をかけ
>てくる。
 でてきましたねー。
> アメリナの話をそこまで聞いた時点で、ゼロスは…なんか…
>力尽きた――
 まぁ、頑張ってね。
>(負の感情には違いないのですが、なんか…限りなく嫌です)
 でしょうねぇ。
>「一体、何を考えているのでしょう……?」
 ホントに。
>(ゼラス様には”アメリナに喧嘩を売ってこい”と言われてき
>たのですが……、あのアメリアさんの娘だというから、楽な話
>だと思っていたんですけどねぇ)
 ゼラス様、何を・・・・?
>「まだ早すぎるわね、関わるのは………」
 何?
>(何でわかったんだろう?)
 ・・・・何かあるみたいですね。

 本当に面白かったです。
 ではまた、ご縁がありましたなら。

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3199この後の閑話休題の前書き白銀の魔獣 6/24-15:30
記事番号3129へのコメント

 この後の話は、根本的に全ての話と無関係です。
一応、どうにもならなかった事にはなっていますが……。

 18禁ではないのですが(別の意味ではそうかも………)
その手の話が嫌いな方は落ちまで読まないと思うので、
最初から読まない方がいいと思います。

 あと、食事時にも読まない事をお勧めします。

 以上の事をふまえた上で読んでみて下さい。
「アメリナ」の方が煮詰まってしまったので、閑話休題です。

 ひょっとして文中にアメリナがいるかもしれませんが、
それはアメリアの間違いです。

                      白銀の魔獣

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3200閑話休題 リナ×アメ話白銀の魔獣 6/24-15:32
記事番号3199へのコメント

 閑話休題 リナ×アメ話

   『わきゃわきゃとにぎにぎとむしゃむしゃ』(笑)

 ここはある山の中のとある町、”闇を撒くもの”をたおした
あたし達は、魂の安らぎを求めフィリアの紹介で温泉のあると
いうこの町に来ているのであった。
過疎化が進んでいるのか、既に町の大半は廃虚と化している。
 まあ、フィリアが黄金竜の間に伝わる古い文献で調べたのだ
から、それは仕方の無い事なのだろう。
 勿論、宿にも誰もいないので当然無料である。
 無料…… ああ、なんて甘美な響きだろうか……。

 宿に着くとさっそくあたし達は、温泉を求め浴場へとくりだ
したのだが……、残念な事にここは混浴ではないらしい。
 ゼルの岩肌で体をこすると、垢がよく落ちるんだけどな……
お肌もすべすべになるし、一緒に入るガウリイが羨ましい。
 あたしは女湯の暖簾を捲り中に入って服を脱ぎ始める。
 ん〜 めんどくさい!
 デザイン優先の複雑な服を着ていると、こういう時大変だ。
 隣でアメリアが既に服を脱ぎ終わり、タオルを体に巻いて
温泉へと歩いていこうとしている。
 アメリアのくせに生意気っ!!
 あたしはすかざず、アメリアに足を引っかけた。
びたっっ
「何するんですかリナさんっ!!」
 顔面をしこたま床にぶつけたアメリアが、あたしに向かって
声を荒げた。
 巻いていたタオルがほつれ、乳房が零れ出ている。
 そこはかとなく嫌な予感が頭を過ぎるが、とりあえず今は考
えない事にしておく……。
「ごめんごめん、ちょっと服が脱ぎにくくって………」
 憮然とした表情のアメリア。
「それにしても、ちょっと待っていてくれてもバチは当たらな
いと思うけど?」
「わかりましたっ!!」
 座り込んだまま、ぷいっとアメリアはあさっての方を向く。
 怒らせちゃったかな……?

「うわぁ……中々のものねぇ」
「凄いですっ! これほどとは思いませんでしたっ!!」
 あたし達は二人揃って驚愕の声を上げる。
 時を同じくして、あたし達二人は顔を見合わせると、
にんまりと笑みを浮かべた。
「やっほーっ!!」
 歓声の声を上げ、あたし達は湯の中に飛び込む。
湯気がうっすらと視界を覆い、広さも湯の温度も申し分ない。
 あたしが前に行った温泉なぞ、湯気がやたらと下を這ってい
て、思わず湯船にしゃがみ高笑いを上げながら仁王立ちで立ち
上がるという事をやってみたくなったぐらいだ。
 無論アメリアの前でそんな事をすれば、どんなリアクション
が返ってくるかなんてわかりきっている。
 どうせ――
「ようやく現れましたね悪の大魔王! このアメリア=ウイル
=テスラ=セイルーンが成敗してあげます!!」
 とかって言われ、指を突き付けられるに決まってるのだ。
 まあ、そのときアメリアはいなかったわけだが……
一緒にいたナーガが、それをやって宿の人に叩き出されたのは
言うまでもない。
 それにしても、なんか美味しそうな匂いのする湯ではある。
 あたしの目の前では、ばちゃばちゃと音を立てながらアメリア
が泳いでいた。
 困ったもんだ……。
多分今ごろガウリイも泳いで……いや漂っているに違いない。
 アメリアのタオルを巻いた頭と、浮かんでいるお尻を見て
何かむらむらとした思考が浮かんでくる。
 あたしは手をわきゃわきゃとさせると、
アメリアに飛び掛かった――
「何するんですかリナさんっ!!」
 あたしはアメリアを後ろから抱き締め胸を鷲掴みにする。
むにっ…むにむに……
 やっぱし、また大きくなってるんでやんの……
 あたしは一寸、もの悲しくなってしまった。
「アメリア〜〜っ……また胸大きくなったんじゃない?」
「え? そうですか??」
 顔を赤らめながら、嬉しそうな表情のアメリア。
 むかむかむか……
「まったくもう、少しぐらい分けてもらえないもんかしら…」
むにむにむに……
 あたしはアメリアの胸を揉みしだく。
「や…止めて下さいっ! リナさんがそうやって揉むからあた
しの胸が大きくなるんじゃないですか!!」
 …………
 はて? ひょっとしたらそうかも……
「そんなに胸を大きくしたいなら、このあたしがっ!
……揉んであげますっ!!」
 そういってアメリアは手をにぎにぎする。
「ちょ…ちょっと、冗談よね? ……アメリア?」
「い〜え、冗談じゃありませんっ!!」
 アメリアがあたしに向かって飛び掛かってくる。
 あたしは一寸暴れたが、すぐにアメリアに胸を掴まれてしま
った。
 まあ、ひょっとしたら大きくなるかもしれないし……
 アメリアは前からあたしに挑みかかった為に、手を後ろに回
してから胸を揉むというえらく複雑な状態だ。
 あたしの手持ちぶさたな腕はアメリアの背中に回されている。
 ちょうど抱き合うような格好だ。
 アメリアの胸とあたしの胸が互いにに押しつけられている。
 …………
 流石に体勢が苦しいのか、アメリアはあたし体を温泉の岩に
押し付けると、腰に足を絡め胸を反らし前から胸を揉む。
 アメリアは真剣な表情であたしの胸を揉んでいる。
 なんか、可愛いぞアメリア……。

 しばらくして、あたしとアメリアはぐて〜っとして岩の上で
寝転んでいた。
 長く湯の中に漬かっていた所為でのぼせたのだ。
 ひょっとしたら、他にも原因はあるかもしれない。
 腕を顔の上に乗せて寝転んだまま、ぴくりとも身動きをしな
いアメリアをあたしは手で扇いでやる。
「あ…リナさん……」
 上気して潤んだアメリアの顔があたしの方を向く。
 あたしは桜色に染まった肌をつつっとなぞる。
 ……ぷよぷよしていて、とっても柔らかい。
 温泉の匂いと相俟ってとても美味しそうだ……。
「可愛いわアメリア……食べてしまいたいくらい」
 あたしはぼ〜っとして、思ったままを呟く。
「リナさんになら……食べられてもいいです…………」
 拳を胸に顔を俯け、桜色の肌を益々赤く染め上げて、
アメリナは答える。
「アメリア…………」
「リナさん……」
 あたし達はお互いに顔を見つめ合った……。

むしゃっ…ばりぼり……もぐもぐ……ぺちゃぺちゃ……
「ん、やっぱ新鮮な食材はさっと湯通しして、ちょっと味を
付けて食べるのが一番ねぇ〜〜」
 そういってあたしは次の肉に取り掛かる。
むしゃむしゃむしゃ……
 太腿の肉が軟らかで、とてもでぇりしゃす。
勿論、骨も残さない。
「リナさん……酷い…………」
 何処からか、か細いアメリアの声が聞こえる。
 ふと、温泉の柵の方を見上げると……
 そこにはドラゴン用と思しきナイフとフォークが立てかけて
あった。
 そしてあたしの視線は、律義にも立っていた効能表へと移る。

  効能:血行活性、食欲増進、子宝成就
  成分:塩、胡椒、昆布、ニボシ、獣油、鶏がら
     醤油、植物性アルカロイド

 …………なんじゃそりゃぁぁ!!
 あたしの頭の中は、その一言で埋め尽くされた。
 慌ててアメリアの方を見るが、あたしに食われた四肢から血
を流し今にも死にそうである。
 ”復活”と高位の白魔術でならば、欠損した部位を治し治療
する事ができるかもしれないが、あたし達で有一その手の呪文
の使えるアメリアがこの状態である。
 フィリアは知らなかったのだろう――
……いや、知らなかったのだと思いたい。
 あたしの鋭い推理によれば、多分ここは遥か昔の竜族の食事
処なのだ。
 そしてあたしは、いや…あたし達はラリっていたのである。

 ――結局の所、その事に気付き慌てて来てくれたフィリアの
手で、アメリアを治療してもらった事を後記しておく………。

                 −おわり−