◆−Traveler(←いつの小説?) ―これまでのあらすじ―−白昼幻夢 (2005/7/6 17:13:24) No.31578 ┣Traveler−第3話−−白昼幻夢 (2005/7/21 09:05:17) No.31599 ┣Traveler−第4話−−白昼幻夢 (2005/7/21 09:11:06) No.31600 ┗Traveler−第5話−−白昼幻夢 (2005/8/8 09:00:55) No.31681
31578 | Traveler(←いつの小説?) ―これまでのあらすじ― | 白昼幻夢 | 2005/7/6 17:13:24 |
2003年末〜2004年から姿を消していた白昼幻夢です…。小説を途中で止めてしまい申し訳ありません。パソコンやら周辺機器やらFDが壊れてしまい、いつの間にかこんなに月日が過ぎてしまいました。書いていた小説の内容も忘れてしまい、仕方ないので過去を振り返ってから続きを書きます。 ===================================== Traveler ―これまでのあらすじ― 1、旅立ち 「精霊」使いだった少女サディアは、ある日「精獣」使いとなる。その背景には円形で手の平におさまるくらいの透明な石が関与している?ギーアという、妖精界の長の使い魔に連れられて、彼女はまだ見ぬ世界へと旅立つ。 2、森の少年 目覚めたところは森の中。ギーアはどこにいったのか、姿が見えない。とにかく前に進むと、一人の少年が木に座り笛を吹いている。少年は降りてきて「生命の木」なるものを見せてくれたが、サディアは気を失ってしまう。それは、夢だったのだ。 ===================================== こんな感じ、でしょうか? |
31599 | Traveler−第3話− | 白昼幻夢 | 2005/7/21 09:05:17 |
記事番号31578へのコメント Traveler−第3話− 緑の森 「すみません話の途中で寝て…」 「いえ、いいのよ。日も暮れていたし…」 トルーシュが開けた窓からは、眩しい光が差し込んでいた。 その中でサディアは目覚めた。最初に視野に入ったものは彼女の仕事着姿だ。 この世界にはめったにないものを着ている? 彼女は少女の視線の先にあるものを知り顔を赤らめた。 「これは彼からあの世界の贈り物よ…」 サディアは知っていた。自分がここにいることと、彼女が自分の回り見てくれることも。 ギーアが頼んでおいてくれたから。 彼は妖精界に行く途中にここへ立ち寄った。 急ぎの仕事が出来てしまったため、妖魔の森へ行かねばならなくなった。 その森には恐ろしく不気味な化け物もいるらしい。 そして、人間が入ることは危険であった。化け物の多くは、人間を主食とするからだ。 だから[緑の森]に住む知り合い:トルーシュにサディアを預けた。 [緑の森]なら彼女も一度来たことがあるので安全なはずである。 それと、もうひとつ。 トルーシュは、彼の… 「わっだめえぇぇぇっ!!ナレーター言うなっ!作者書くなっ!」 彼女は気が動転でもしたのか、いきなり叫んだ。 理由がわからないサディアは目を丸くした。 「あの、どうしたのですか?」 トルーシュはぴたりと停止した。 「…今度言ったら…容赦しない…」 意味不明だ。 「熱…があるんですか?」 「いえ、ないわよ」 「えっじゃあ一口に夢見といっても、めったに見られないの?」 昨夜の続きの話、らしい。 「そうよ。星霊界はね、七夜星祭が行われる夜、それか死者を偲ぶ…人間界でいうとお盆?かしら。その夜に見られるものよ。普通は妖精の年で2、3回なのだけどね…」 「彼は…どうして…」 トルーシュの顔がにわかにくもった。 「…星霊界は、亡者の霊だけがあるわけではないの…。ほとんど人間なのだけどね、夢ばかり見ている人とか、魔術に精通した人…とかね。ハルヘは夢見がちだった。それに、あ…わからなかったかもしれないけど、わたしたち兄弟はハーフエルフなの」 「なっ…気づきもしなかった(エルフとハーフエルフの違いがわからないだけだけど・・;)」 「無理もないわ。ここにずっと暮らしていたから…」 「うーん??」 「通常、あの夢をみるのは…人間の年でいうと一年に2,3回くらい。でもハルヘは6回も見たって言うの。このままじゃ危ないって思ったわたしは長老様に願い出て…そしたら、ならば夢操り人を連れてくるって…それで来た人がメセって人で…そしてハルヘがあの夢を見始めたときに何かしていたのだけど…無理だったの。遅すぎた。[生命の木]のあの瞬間を見た日がその日なの。気づいたら、彼もメセもいなかった。二人とも、アストラルプレーンに呼び寄せられたのね…」 彼女は一気に言い終えた。目に涙があふれ、頬にひとすじの線をつくった。 「でも…なんでそのメセって人まで?」 「彼、生命の木に近づくハルヘをとめようとして自ら夢の中へ入っていったの。でも、あの瞬間をうっかりとはいえ見てしまったの」 「そんな悲しい事が…」 「ごめんね。旅の最初から、こんな話がでて…」 彼女は謝った。 「そんなことはないですぅ…(ぼそりと)あれわたしも見たけどなぁ」 と、そのぼやきの言葉を彼女は聞き逃さなかった。 「あっ!!見てしまったの?!何故ここにいることが…ん」 彼女は机に置いてある透明な石に目をやった。 「そういえば、これあなたの持ち物よね」 サディアもそれを見た。しかし、いくつか違うところがあることに気づいた。 「緑の…?」 「あら、いつからあったのかしら…これって「風」じゃない?ほら、赤いのを「火」だとすると、風は緑ね。…「火」?あなた火の精霊が使えるの?」 「ええ。なんとか…」 「…」 彼女は黙ってしまった。サディアに背を向け、なにやら考えこんでいようだ。 (おかしいわねぇ?いえ、使うのもあったわね、でもそうすると…?) 「どうかしました?」 サディアは心配そうな口ぶりで聞いた。 「…外に出ましょうか」 [緑の森]には、こんなエルフが住んでいる。薄緑の髪と目に象牙色の肌を持つ種、リルーフエルフである。ほかのところにはさまざまな種がいるのだ。 「[緑]ねぇ…緑の森っていってもそのままなのよねぇ…わざわざ[緑]をつけなくてもいい気がするわ。でもここには4つの森があって、それぞれ「赤き森」「黄の森」「青き森」ってついているのだからここだけ「森」だなんておかしいわね。ふふっ…」 昼間からくもりがちだったトルーシュの顔は、日光がさしたように明るくなった。 「青き森ってどんなところ?」 サディアが尋ねた。 「すぐそこ。なんなら行ってみましょうか」 「うん」 二人は、森の奥深くへと消えた。 ★WAIT SEQUEL★ ====================================== 最近「フルハウス」が再放送されているので、見ています。とても面白いです。若返った(?)ような気がします。 |
31600 | Traveler−第4話− | 白昼幻夢 | 2005/7/21 09:11:06 |
記事番号31578へのコメント Traveler−第4話− 青き森 見上げる森が、ひどく青く感じる。水色という生易しいものではない。 青いのだ。とにかく青なのだ。 森ばかりではなく、地面に生える草原までもがそれに染まっている。 一面の青。どこを見ても一色の風景しかない。 青いペンキをそのままふりかけた、というぐらいのものだ。 青い世界。それだけが存在する場。それだけが支配する国。 後に見えるのは緑色。前に広がるのは青色。 一体どうなっているのだろう? 「す、すっごい青…」 サディアが驚きの声を上げた。それを見てトルーシュはくすりと笑う。 「驚いた?ここは[青き森]なのよ。全てが青一色。何回かここに来たことがあるけれど、そのたびに、ここは空じゃないかなぁって感じるの」 「でも、すごいね。ここまで青いとめまいが…」 サディアは倒れそうになった。それをトルーシュが慌てて受け止める。 「ちょ、ちょっと大丈夫?」 彼女の口調には笑いと心配が半々ふくまれている。 「…大丈夫です。あの、ここに住んでいる人は?」 「ウルップエルフ。確かそうだったわ」 「ウルップ…?」 サディアは首を傾げた。 「[迷いの森]を囲っている森は、全部で四つ。赤、黄、緑、青と。それぞれ四つの森に、別々のエルフが住んでいるの。緑の森にはリルーフ種、青き森にはウルップ種、黄の森と赤き森は行ったことがないからどんな種がいるのかわからないけど。外見とか性格が違うだけで、あとは同じエルフよ」 「へえ…」 「人間だってそうでしょ?」 その問いにサディアは答えられなかった。 「サディアちゃん…?」 トルーシュが心配そうに聞く。 「そうでもないです」 と、ため息をつくサディア。 「どうして?」 トルーシュは少女の顔を覗き込んだ。 「…ここから遥か遠くの東の国に…ほんの少し、違っただけ、それだけでその人を追い出そうとする人の国があるって聞いたことがあります。あくまでもうわさですが」 「…」 しばらくの間、長い沈黙が流れた。あたりは風が通り抜けるだけ。 その沈黙をやぶったのは… 「でもさ、みんな一緒じゃつまんないじゃん」 二人にはその声がはっきりと聞こえた。 「こんにちは!!」 さっきの声がまた聞こえる。 「こんにちは…どなたかしら?」 トルーシュが言ったとき、その者は近くの木陰からあらわれた。 その姿は、この森に住む者としてぴったりだった。 薄青の髪と目に、覚めるような浅葱色の服。 周りがああでなかったら、遠くからでも目立つであろう色合いだ。背丈は小さくて顔は少々おてんば娘っぽいが、エルフとしての誇り高さがかいま見える少女だった。年はサディアより1,2才下だろうか。 「ああ、あなたね。あまり驚かせないでよ。大事なお客がいるのだから」 すると少女は舌をだした。 「はいはい。わかったよトルーシュさん。んで、大事なお客様っていうのが…!?」 少女は「大事なお客(様)」を珍しそうに眺めた。その人の、黒髪黒目を見ていたのである。サディアはこの少女を、まるで得体の知れないものでも見るような目をしていた。トルーシュの背に隠れるようにして。それに気づいたトルーシュが 「ほら、あなたが全く…」 と、言おうとしたところその続きをさえぎって少女は言った。 「どうせこんな性格ですよーだ」 少女はいじけてまた木陰に隠れてしまった。 「…ふーっあんな子は大変だわ…。サディアちゃん?」 声をかけられたサディアは一瞬はっとなり、それまでの硬直がとけた。 「あの子…ウルップエルフなの…?」 「そ。まあ容姿はそうなのだけど、性格はねぇ…。物静かで冷静、だからこそそれでいて美しいのだけど、あの子はちょっと違うわねぇ…あ、これが「個性」っていうものかしら」 「大婆様!どこにいるの婆様?」 「なんじゃ、そうぞうしいのぅ。なにかあったのかねぇ?」 「珍しい人をみました」 「ほほぅ…どんな者かの?」 「えっとね、髪を二つに分けてて、白地の服着た子。微妙にエルフっぽいけど、エルフじゃないの。そういえば、どこかでみたことあるなぁ…んーん、引っかかっているなぁ…」 「他人の空似じゃろう。よくあることだのぅ」 「違うよぅ絶対…あ、そうだそうだ!この絵の人」 「ふーん?どれどれ…?ん?何!?この人物だって?本当かね?」 「そうだよー」 「…い、今すぐ早く連れてきておくれ。頼むよ!ささ早く!」 「うっう〜ん、もう人使い、じゃなくてエルフ使い荒いんだからぁ〜」 どこまでも青い道を真っ直ぐ歩く。一回もまだ曲がっていない。どこにたどりつくかわからないけど、知らない道を歩けるのが楽しくてしょうがない。おまけに、全ての景色は真っ青なのだ。本当の不思議な世界に来られて、しょうがない。 でも、なにかを忘れていく気がするのだ。前の世界の記憶はしっかりと焼きついているはずだった。だが、新しい記憶がつくられるにつれ、少女は何かを忘れていた。このことが、最後のときに影響を与えることになるだろう。 「再びこんにちわぁ!!」 その声でサディアはつかの間の夢から覚めた。 「うわっ!?…こ、こんにちは…」 サディアは疲れて一休みしているところだった。トルーシュに、そこで待っていてと言われ、周りの風景を見ているうちにうつらうつらしているところだった。 「ねぇ、ちょっと大婆様のところまで来てほしいのだけど」 「…その人、誰?」 「大婆様はこの森の…いわば指導者ってかんじかな?うん?…長老かな。族長…」 「なんとなくわかったけど、何かあったの?」 「何かあったの?じゃない!何かあるの!そうあなたに!」 「…わたし、なにかやっちゃった?…不法侵入とか?」 「いや、そういうことじゃないみたいだよ。とにかく来ればわかるよきっと」 「あの、トルーシュさんが…」 「ああ、その人なら平気。伝言送るから」 と言うと少女は宙を指で描き始めた。サディアが何かするのかと見ていたところ、何かが集まってくる気配がした。少女の手の中、である。少女はそれに向かって話しかけているように見えた。そして、少女が空に向けて手を広げると、中のものがあちこちに流れていった。 「今のは[伝風]よん☆」 少女は得意そうな顔をしてサディアを見た。ある言葉を待っていたのである。サディアも少女を見た。 「風に伝えてもらうってこと?ってことは、精霊を操っているってことだよね?」 「うう」 少女は少し落胆していた。当てが外れたのである。気を取り直して言うと 「あたしはこー見えても、精霊使いのはしくれだから。くふふっ…」 と、笑いながらもちらりと向かい側の少女の顔を見る。 「ウルップエルフって、精霊使いの人多いの?」 「んんっ、そんなことはないと思うよ。んーまあ妖精界に住むエルフだとかのほうが使える精霊数多いのは確か。でもあたしだって(妖精界のエルフを除くのだとすると^^;)けっこうすごいもん…くふふっくふ…あ、こんな事している場合じゃなかった。行かないと」 「大婆様、来ましたー」 少女が言うと、奥から初老の女があらわれた。かなりの年をとっているような感じはあるが、外見は若いエルフとそう変わらなく見えた。 ★WAIT SEQUEL★ ======================================== そういえば、この小説を書いている時期はいつでも人生が辛く感じられる時だ…。現実逃避しているのかな? それともやはり私は空想家? |
31681 | Traveler−第5話− | 白昼幻夢 | 2005/8/8 09:00:55 |
記事番号31578へのコメント Traveler−第5話− 惑わしの森 その初老の女性は黒髪の少女を見るなり驚愕の表情をさぁっと浮かべ、叫んだ。 「ア、アリューじゃないか!!」 「えぇっ?」 少女達が驚いた瞬間には、サディアはその女性に抱きしめられていた。 「今までどこにいっていたのじゃ…アリュー…何十年も…?おや?数十年たっているのに何故あの時のままなのかのぅ?」 「あ、だからそれは…」 青い少女が言おうとするのだが、女性はあぁ、といってわかったようにサディアの頭を撫でた。 「そうか、異世界に迷い込んだのか…失われた時間はもう戻らぬが…いいんじゃよ、アリュー…お前の時間は再び流れ始めた。もとに戻ったのじゃよ…」 「だからぁ、その人はアリューという人ではありません!」 堪りかねて青い少女は叫んだ。女性は怪訝そうに彼女を見やり、そして自分の腕の中にいる少女の顔を見た。 「…そうかの?こんなに似ているのにのぅ…?」 少女の頭を撫でていた女性は、ふと自分の手元を見た。 「髪の色が黒いねぇ…そうか、よほどのショックで髪の毛が真っ黒になってしまったのか!かわいそうに…」 「あの、私はアリューという名では…」 サディアが腕に抱えられたまま、弱々しい声で言った。しかし女性は、そんな声にも耳をかさずさらに少女を抱きしめた。彼女の「うぅぅ」という苦しむ声を聞いた、そばにいる青い少女は(この子、死んじゃうかも…)と思い込んでいて、おろおろと二人をかわるがわる見つめているばかりである。 「記憶まで無くしてしまったか…なんて哀れな子なんじゃ!一体この子が何をしたのじゃ…」 「大婆様、その子…死んじゃうよう…」 青い少女は泣きそうになりながらも震える声を絞り出した。その声に気づいた女性はやっと、強く抱いていた少女を解放した。少女は貧血を起こしたかのように、ばたっとその場に倒れてしまった。あわてて青い少女が彼女に駆け寄った。 「大丈夫?もうホントに婆様ったら人の話聞いてくれないのね…」 「う…咳き込みそう…さ、酸素ちょうだい…」 「え?酸素?空気のこと?あ、そうだ、シルフの風よ!」 少女が呪文を唱え、手を高く上げると辺りはさあっと風が吹き通り、新しい空気が運ばれてきた。その空気をサディアは深く吸い込んだ。 「はぁ、はぁ…ちょっとお花畑が見えたよ…」 「幻覚が見えちゃった?」 「す、すまぬ…そんなつもりはなかったのだが…」 女性は少女達の近くにかがみ込み、少女の服を緩め姿勢を楽なむきにさせた。 「全くもう…殺人未遂になるところだったよ?」 「すまなかったの、フォート」 「それは客人の方に言ってくださいっ」 フォートと呼ばれた少女は少々ふくれ気味に言った。 「確かにその人とは似ているかもしれないけど、全く別人なの」 青き森の族長は、確認するような目でサディアを見つめた。そして、はっと気付いたようにその違いを見つけた。 「うむ…明らかに耳が尖っとらん…人間じゃな」 さっきとは違い、明らかに警戒心を含ませた声だった。サディアはばつが悪そうに一歩、後ろに下がった。 「エルフと人間は似るところが多いとは聞くが…ここまで似ようとはな。まあよい。ところでお主は妖精界の使い魔に連れてこられたそうじゃな?」 「…はい」 「妖精界に、何の用じゃ?」 「それは…」 サディアは星霊界を除いてこれまでのことを話した。 「ふむ…生まれつきの精霊使い、だが今は炎の獣を操れるだけということか…それはきっと[紅き鬣(たてがみ)の獅子]じゃろう。火の精霊の集合体じゃな。しかしなぜそのような高度な精霊を操れるのかのぅ?」 サディアは首を振った。 「わかりません。ただ、物心がついたときにはもう精霊と会話が出来たのです。今は無理に近いのですが…」 「自分自身を知るために、妖精界へ行くのじゃな」 「はい」 「でも、その使い魔さん、迎えになかなか来ないじゃない。いくら急用が出来たからって言っても」 横からフォートが口をはさんだ。 「そういえば…そんな気もする。どうしたんだろう?忘れられたのかな…」 「迎えに行けなくなったからよ…」 その声に三人は振り向いた。戸口にはいつのまにかトルーシュが立っていた。 「さっき、手紙が来たの…「いかなる理由があろうと、人間をこの世界に入れる事は厳禁である」という決定が円卓議会で決まったのだって…」 彼女はかすれた声で言う。フォートが体をわなわなと震わせている。おそらく、この手紙の内容に怒りを感じているのだろう。 「なんで…?何で急に態度を変えるの?呼んだのはそっちじゃないの!」 少女は怒りに満ちた声で叫ぶ。こみ上げているその感情が抑えきれないのだろう。顔は朱色に染まっている。 「…「そんな覚えはない。しかし困ったものだ。愚かな人間を我々の森に呼ぼうなどとは…」が理由だそうよ…」 その残酷な言葉に、サディアは肩を震わせている。トルーシュと青き森の族長は、悲痛な面持ちで彼女を見やり、視線を地面に落とした。慰める言葉が無いのだ。裏切りの内容に傷つけられた少女を可哀相に思っているのだが、なすすべは無かった。 ただ一人、フォートが憤慨して叫んだ。 「それなら、私たちで行こうよ!迎えが来られないのなら、行っちゃおう!」 「無謀なことはやめるのじゃ、フォート」 族長が少女を戒めた。しかし彼女は気にもせずに言い出した。 「無謀じゃないよ。だってあっちが悪いのだから。そうだ、変装すればいいよ」 「危険よ…もし見つかったら、何があるのかわからないのだから…」 トルーシュが不安そうに言う。同じくサディアも不安そうに少女を見ている。 「何とかなるよ。このままじゃ引き下がれないわ。どっちにしろ、もう彼女は妖精の住む森に来ているのだから」 フォートはサディアを見た。その青い目は突き進もうとする強い意志があった。それは若さゆえの焦りだ、とよく言う者もいる。その時期は外へ行こうという思いから、危険なものを持ち込んでしまう。だがサディアは、その少女の瞳を信じようと思った。同じくらいの年の子という安心感もあったが、この幼い考えについていこうとも思ったからだ。彼女はこの世界に来て、一回り育ったようだ。それと代わりに、前の世界で自分がまだ十五に満たない娘だということを忘れていた。 「行くよね?」 急に子供のような声がして、サディアはふと我に返った。細めの青い瞳がこちらを見上げている。 「行ってみたい気はあるよ…」 サディアが口ごもりながら言うと、少女は胸の前で手を重ねて笑顔になった。 「決まりだね。じゃあすぐ出発しようよ!」 フォートは裏口に向かってすたすたと歩き始めた。その後をサディアが追おうとすると、族長である女性が彼女をじっと見つめてつぶやいた。 「危険には近づくんじゃないぞ…」 少女は微笑を返し、フォートの後をついていった。 二人の少女は、「惑わす森」の近くまで来ていた。入った者は誰でも、この森の精霊に名の通り惑わされて抜け出せなくなってしまうのだ。ただ、精霊の言葉がわかる者や姿を見る事が出来る者は精霊達が丁重に道を案内してくれる。ただし、そのような者でも、森が危険と感じた侵入者は残らず遮断する。決して森の中の道を見つけ出さぬように。そして、妖精界に来させないために。 少女たちは迷わずその森へ踏み込んだ。一人はフードを目深に被り、もう一人はその鮮やかな浅葱色の服に香色の長い上着を羽織って。歩きながらフォートは行方不明のエルフ娘について話し始めた。 「アリューさんという人はね、数十年も前に赤き森で姿を見たのが最後で、それから行方がわからないそうだよ」 「赤き森で?」 「[四つ森巡り]をして遊んでいたのだって。自分の住む森から出発して、ぐるっと四つの森を回ってくるの。彼女とその仲間は、赤き森を最後に見ようってことにしていたの。…ただ、赤き森を見て帰ってくる時は皆ばらばらだったから、誰も彼女が帰ってくるところを見た人がいない…ってね、その当時の遊び仲間だった大人のエルフ達はそう言うんだ」 「赤き森のエルフ達は見ていたの?」 「子供の遊びは面白かったが、一人一人よく見てはいないのだって。最後に見た人は、彼女が赤き森の奥に走っていくのを見たそうよ。その人はその時の後悔から、未だに病に伏せっているの…あの時無理にでも止めていれば、こんなことにはならなかった、が口癖になっちゃった…」 「探しても見つからなかったの?」 「だめだった。妖精界と四つの森の周りはすごく広い樹海に覆われているけど、そこは人間界との境界線だから…彼女は森を出たかもしれないという噂が広まり、大婆様も一時気に病んでいたよ…」 「それで私が来たとき、あんな喜び方を…」 サディアはさっきの苦しさを思いだし身をぶるるっと震わせた。 「帰ってきたのだと思ったんだろうねきっと」 フォートが進行方向を見ながらうなずく。彼女はちらりとサディアの顔を見た。が、驚いた表情を浮かべていた。サディアがそれに気付き何か言おうとしたが、 「しっ。静かに。そこの木に隠れて」 彼女はサディアの言葉を制して、自らも木の後ろにさっと回りこみ、遠くを見るように目を細めている。サディアも木の後ろに膝をついて座り込み、木の脇から彼女の視線を追った。 「ほら、あれ。人間みたいだよ」 フォートが軽く指差した先には、薄い藍色の金属鎧を着た騎士のような出で立ちの者の、切り株に座りうつむいている姿があった。 「気分でも悪いんじゃない?」 「違うよ…あのような人間がなぜこの森にいるかってことだよ…」 「迷い込んだかな?」 「どうやってここまで来たのさ…?樹海をくぐり抜けるのだって、人間にはそう簡単には出来ない…ましてや、樹海には侵入を拒む深い霧が漂っているというのに…仕方ない、この情報が入る前に、妖精界に急ごうよ」 「知らせに行くの?」 フォートは少し考え込む様子を見せた。 「…それもあるけど、私達が妖精界に入る前にあの人間が見つかったら、きっとあなたは妖精界に入ることが出来なくなっちゃうよ?」 「そうだね…」 「妖精界の入り口はすぐ近くだから、慎重に歩こう」 フォートは数歩歩いた先にある、千年以上は生きていると思われる大きな樹木を振り返った。そこには黄金色のきらめきがちらちらと輝いている。フォートが呪文を唱えると、金色の光が木のうろのような形になっていった。二人の少女は手を握り合い、その光の中へ駆けていった。 あの騎士が顔を上げてこちらを見たのも、その時だった。 一人の少女の被っていたフードがとれて、黒髪が最後に見え、そして光の中に消えた。 彼はしっかりと見ていた。髪の間から見えた尖っていない耳を。 「…人間?」 ★WAIT SEQUEL★ ====================================== 指名手配[WANTED] 〇薄青の髪と目、象牙色の肌、浅葱色のひとつなぎの服(ワンピース)に香色の長い上着(ローブ)を着た十二、三才くらいのエルフの少女。 〇夜の空のような髪と黒い目、白地のふたつなぎの服(ツーピース)を着た人間の少女。 見つけた方、無事に連れ戻して下さいませんか?報酬は話し合いにて。 ↑これは気にしないで下さい。 |