◆−闇黒の断章 〜第6章〜 「魔術師の帰還」 3−棒太郎 (2005/12/2 20:28:58) No.32105
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   ┗面白そうではあるんですがね・・・・・−棒太郎 (2005/12/4 21:30:38) No.32114


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32105闇黒の断章 〜第6章〜 「魔術師の帰還」 3棒太郎 2005/12/2 20:28:58


こんばんは、棒太郎です。
長らくほっぽらかしでしたが、続きをお送りします。
それではどうぞ。


*************************************


  『闇黒の断章』 〜第6章〜 

   「魔術師の帰還」 3 



見渡す限り広がる荒涼たる砂の大海。
不穏な空気を帯びた風が、砂塵を巻き上がらせながら駆けて行く。
それをものともせず、砂の海を突き進む三つの影――――いや、正確にはもうひとつ、そのまた後方にあとをつける影があった。
前方の影たち――――先頭を行く黒衣の男、『不世出の天才』と知る人ぞ知る魔道士、ヴェルミス=インバース、そしてそのすぐ後ろの二人は、当代一流の『赤の竜神の騎士』としてその名を知られるグレン=アルハザードと彼の相棒のラナ=ウィンダミアであった。
3人は砂漠を一直線に、ペースを落とすことなく歩いている。
それを一定の距離を開けてついていっているのが、リナであった。
一定の距離を開けて、とはいったが、正確には一定の距離までしか詰められないのであった。
詰めようとすると、何故かそこから先の距離が一向に縮まらないのである。
それに歩いてはいるが、疲れも感じないし、まして全体の空気というか雰囲気がどこか現実感を伴わない。
これらはすべて巨大で広大な立体映像のようなものであった。
自分は観客なのだ、とリナは思った。
「着いたか・・・・・・」
ふと、ヴェルミスの声が聞こえてきた。
その声の先には、あの遺跡が、自分たちが見たのと変わらぬ姿でそこにあった。

******


何処までも続くかと錯覚しそうな石の回廊の中を、ガウリイは駆けていた。
リュウゼンが足止めしてくれている一群以外、あのような怪物の襲撃は特になかった。
とはいえ、楽観などできない。
逆にない分だけ余計に不気味さが大きく募ってくる。
あれで仕留められると高をくくっているのか、それとも更に大きなトラップが仕掛けられているのか――――――
(数でこないって場合、大体はそれ以上の実力を持つヤツが護っているってのがセオリーなんだがな・・・)
と、ガウリイが思っていると、
「!!」
前方から気配を察知し、身を半身に切った。それと同時にその脇を集束した魔力波がかすめていった。
「ほほう、気配のみで私の魔法を躱すとは。流石、流石はリナ=インバースの相棒、ガウリイ=ガブリエフ」
聞き覚えのある声が前方から聞こえてきた。
「お前は―――!」
前方の闇から人影が浮かび上がった。
シルクハットに片眼鏡、手にはか細いステッキ、そしてその顔には魔性の気配が漂っている。
「確か―――――チリンギャスト、だったな」
「ノン、ノン、”ティ”リンギャストだよ、ガウリイ=ガブリエフ君」
「ふん、ややこしい名前は覚えるのが苦手なんでね」
そう言いながらも、ギラリと光る眼光を向ける。
「ほう、ほう・・・・修羅に堕ちたと思ったが、どういうわけか正気に戻ったようだ。これはなんとも、なんとも面白い」
ニタリと亀裂のような笑みを浮かべながら、手にもつステッキをクルリと廻す。
こちらもどういうわけか、斬りおとされたはずの右手は、何事もなかったように元通りにくっついていた。
「ここで遇えるとは私もなんとも運がいい。黒騎士殿には悪いが、雪辱戦も兼ねて始末させてもらおう」
ティリンギャストの言葉に、ガウリイは光の剣を抜き放った。
それを見た瞬間、ティリンギャストの目の色が変わった。
「その剣は・・・・!まさか、まさか光の剣!?馬鹿な、それはすでに失われたと――――」
驚きの声を上げながら、ティリンギャストは即座に印を結んだ。



「――――これは」
「おい、こいつぁ・・・・」
「・・・・・まずいかも知れんな」
何かの気配を感じたのか、シキブ、ミカズチ、ラ・モルテが足を止め呟いた。
「ど、どうしたんですか?」
苦々しげな表情をつくる三人にアメリアが問い掛けた。
「奴らが儀式を行ったとき感じた空気が、更に濃くなりやがったんですよ」
「それって―――――」
「ええ、こちらに顕現するのも時間の問題かと思います」
「急がねばなりません。完全にこちらへの道が開く前に」
そう言うと、一向はミカズチ、シキブ、ラ・モルテの三人を先頭に駆け出した。


******

目の前では激戦が繰り広げられていた。
そこかしこに倒れる無数の人の山。
向かってくる数はだいぶ減ってはいるが、それでも凄いと言わざるを得ないだろう。
その光景を見ながらリナは思った。
向かってくるのは大した力もない人間だが、それを相手にしているのはたったの二人なのだ。そして、すべて致命傷は負わせていない。
(流石、じいちゃんに競り勝っただけあるわ)
向かってくる者を打ち払い、薙ぎ払い進むグレンとラナを見ながらリナは心の内で呟いた。
向かってくるのは”シャッド=メル秘密教団”の信者たちであった。
何かがあると思い、ヴェルミスについてきたふたりであったが、結果的にここで行われようとしている召還儀式を阻止することとなったのだった。
「お前たちに、この世界を乱させはさせんぞ!!」
鬼神の如き勢いで信者の囲みを突破してゆく。
主だった幹部たちはすでに倒されている。
そして教祖であり、首領であるシャッド=メルは――――

「地獄の火炎よ、我が敵を燃やし尽くせ!煉獄熱波(インフェルノ・バースト)!!」
「永遠たる死の床よ、全てを包み込め!魔冷氷獄(コキュートス)!!」

巨大な魔力が互いを喰らいつくさんとぶつかり合い、大きく弾け飛んだ。
「おのれ、やりおるな!噂に聞くヴェルミス=インバースの実力、確かに真実であったか!!」
「そちらこそ、な・・・・・・これほどの猛者、そうはおらん」
「だが、貴様如きに我らが計画、邪魔はさせん!」
叫ぶや、再び巨大な魔力が膨れ上がった。それに呼応するようにヴェルミスのほうにも凄まじい魔力が集束していった。
「ヴェルミス=インバース・・・・・恐ろしいまでの力の持ち主だな」
「ええ、私たち過小評価していたようね」
「だが、危険だ。もし魔族が彼を引き込んだら――――」
シャッド=メルとヴェルミスの戦いを見たグレンが、感心とともに警戒の表情を浮かべた。
「でも・・・彼が魔族の甘言にのるとは思えないわ。それは神族が説いたところで同じだと思う」
短いながらも、自身が感じたヴェルミスの印象を告げるラナ。
「それなら余計に厄介だ」
一言そう切り捨てると、グレンは遺跡の更に内部へと駆け出した。

******


「ハァァーーッ!!」
声と共に爆音が響き渡る。
ティリンギャストが放つ魔力弾が、爆風と共に次々と床を壁を抉ってゆく
その爆発はそれを躱すガウリイを追いかけるように、あるいはティリンギャストへ近づけないように次々と巻き起こる。
ティリンギャストは爆発の壁をつくり、ガウリイを剣の間合いへ入らせないようにしているのだ。
「チィッ!」
舌を打ちながら、ガウリイは襲い来る爆発を躱してゆく。
「ハハハハッ!剣術使いの間合いは侮れないのでね。近寄らせはせんよ!」
途切れることなく放たれる魔力弾に、(どうするか・・・)と思案を巡らせる。
ティリンギャストの魔力が切れる気配はまだまだない。このままではこちらが力尽きるのが先であろうと思われた。
「こうしていても埒があかん。やるか―――!」

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32106闇黒の断章 〜第6章〜 「魔術師の帰還」 4棒太郎 2005/12/2 20:31:12
記事番号32105へのコメント

  『闇黒の断章』 〜第6章〜 

   「魔術師の帰還」 4


「むぅ、これは――――!?」
その部屋に入るなり、グレンは呻いた。
部屋全体を包む異様な気。
これまで感じたことのない、怖気の奮うものであった。
「い、一体何だというのだ・・・・・」
流石の彼も当惑せざるを得ない。魔族と違う魔性の神気。

  ―――This is not dead which can eternal lie,

  ―――And with strange aeons even death may die.

ゾクリと走った気配に彼は振り返った。
祭壇の中央―――その空間に垣間見えた光景。

  ―――そはとこしえによこたわる死者にはあらねど

  ―――測り知れざる永劫のもとに死を越ゆるもの

荒れ狂う光と闇。それらは混じり合い、解け合いながら空間を侵食している。
その侵食の裂け目の向こうには何もない、深淵が存在しているのみ。
だが、グレンの瞳は大きく見開かれ、わなないている。
そこになにが見えたのか。

  ――――クカカカカカ、愚かな

  ――――確かに汝はあの御方のもうひとつの存在といえよう

  ――――だが!それで勝てると思ったのか

  ――――この私に

  ――――この千の異形たる私に

  ――――この這い寄る混沌たる私に

ソレは嗤っていた。
光の極限に位置する、闇の極限に位置するそこで―――
矛盾の巣窟、世界の綻び、神々の禁忌で―――
闇の金色の光を混沌の闇が。
その嗤い声とともに闇の金色の光が、混沌の闇に犯される。
その闇の金色の光と混沌の闇の背後に果て無き狂気、おぞましいほどの邪悪に満ちた宇宙が広がっていた。

  ――――このナイア■■■■■■■に!!

クカカカカカカカと空間を汚すような嘲笑が響き渡った。

「ウワアアアァァァァァァァァッッ!!!」
その瞬間グレンの絶叫が響き渡った。

「な、なによ・・・・・あれ・・・・・」
『観客』としてすべてを見ていたリナも全身に脂汗を流しながら、呼吸も忘れたかのように瞳を見開いていた。
あのとき見えたあの異空間、いや異次元の光景。
あんなものが存在するわけがない。いや、存在していいわけがない。
姉とグレンとの戦いの後にチラリと聞いたあの話。
ロード・オブ・ナイトメアの真実を知るリナにとっても俄かに信じがたいことであったが、先ほどのアレを見て、激しい戦慄とともに理解した。
あのタイタスも全てを話したがらないわけだ。常人があんなものを知れば容易く発狂してしまう。
リナも自分の目を潰してしまいたいぐらいに思ったほどだ。
未だに激しく脈打つ胸をなんとか落ち着かせ、リナはその部屋を出た。
表では、シャッド=メルとヴェルミスが、互いにボロボロになりながらも睨みあっていた。
「こ、これは・・・・力場が消えてゆく」
「ふふ・・・・どうやらそちらの計画は潰えたようだな」
ヴェルミスの言葉に憎悪の視線を投げつける。
「おのれぇ、貴様それほどの力を持ちながら、”正義”などとたわごとを抜かす愚か者どもの味方面をするか」
「それほどまでに嫌いかね?”正義”を唱える連中が」
「当然よ。”正義””悪”など所詮は大義名分、自己陶酔に過ぎぬわ。それをさも正当とする者など愚者も愚者よ」
「ほう、そこらへんは気が合うな」
「おのれ、弄るか!!」
シャッド=メルに巨大な魔力が集中する。恐らくこれを最後の一撃とする気なのだろう。
「せめて貴様は殺滅してくれるわ!死ねぃ!」
ヴェルミスも印を結び、魔力を集束させる。
次の瞬間、真っ白い閃光がすべてを呑み込んだ。
光が止み、リナがゆっくりと目を開けると、そこにいたのはヴェルミスのみであった。
シャッド=メルの姿は、僅かに残った両足首から下の部分だけであった。
「・・・・・ひとつ勘違いしていたようだが、私は自分を”正義”などと言った憶えはない。ぶちのめしてきた相手に偶々、悪党と呼ばれる連中が多かっただけの話だ」
そう言うとボロボロになった身を引き摺りながら、遺跡の深部へと歩いていった。
そこで一冊の書を手にすると、腰を下ろした。
「この身体では、残りの書を取りに行く時間もないな・・・・・・せめてこれだけでも封殺しておくか。これなしで完全な召還を行なえる者はもはやおらんだろうし・・な・・・・・」
印を結び何かの呪文を唱えた。
「さて・・・・彼らは無事に・・ここを出たかな・・・・・・後の・・処理は・・・・・彼らが・・やって・・・・・くれ・・・・・・・・・」
大きく、ひとつ息を吸うと、そのままヴェルミスは動かなくなった。
それを見届けた後、リナの視界は暗転した。


******


爆発と爆風が雨あられの如く襲い掛かる。
その天性の勘を以ってなんとか躱しているガウリイであったが、
「なかなかにやるものだ。しかし、しかしだ。いつまでもイタチごっこを続けているわけにもいかんのでね。そろそろお終いにさせてもらうよ」
ティリンギャストの言葉に、降り注ぐ魔力弾の力が更に膨れ上がる。
しかしその瞬間、
「ティリンギャストッ!!」
ガウリイが叫びと同時に、背中にかけていた斬妖剣を抜き、それを上に投げ放った。
「なにっ!?」
放物線を描きながら、斬妖剣はティリンギャストの頭上目掛けて落ちてくる。
「!?」
と、同時に光の剣を手にガウリイがティリンギャスト目掛けて突進してきた。
投げられた斬妖剣に刹那、気がいったタイミングでガウリイは駆け出した。
すでにガウリイの剣の間合いに入っている。避けるタイミングは完全に殺されていた。
ガウリイを魔法で迎撃するか、それとも斬撃を防ぐか。
刹那の時間で様々な思考が駆け巡る。
しかし、目の前のガウリイの斬撃を防げば、頭上の斬妖剣が脳天を貫く。
逆に頭上の斬妖剣をどうにかしようとすれば、突進してくるガウリイの一撃を喰らうことになる。
相手がどう動くかを見極め、その頭上に落下するように剣を投げ、そして斬りかかる。
前面の剣を受ければ、頭上の剣を防ぎきれず、頭上の剣を防げば、前面の剣を喰らうことになる二刀技、『陰陽虎狼剣』。リュウゼンより授けられた一手であった。
「お、おのれっ!」
まさに前門の虎、後門の狼というティリンギャスト。
だが彼は、頭上の斬妖剣を左腕で受けたのだった。そして、前面の光の剣を右腕で受けた。
「!?」
流石のガウリイもこれには虚をつかれた。
光の剣の一撃で右腕は見事に斬り落とされ、斬妖剣を受けた左腕もほとんど斬れ落ちかかっていた。
だが、飛影の如くガウリイの脇を駆け抜けると、背後を取った。
(ふはは、切り札は最後までとっておくものだよ)
突き出された舌の表面には、魔術刻印が刻まれている。そこに魔力が集中する。
「死ねぃ!ガウリイ=ガブリエフ―――――」
と、世界がぐるりと回った。
ドッと鈍い衝撃が走ったと同時にティリンギャストが見たのは、崩れ落ちる首のない自分の身体であった。そして闇が視界を覆った。
キンと音を立て、光の剣が鞘に納まった。
「ふぅ、なんとかやれたか・・・・礼を言うぜ、リュウゼン」
先ほどの撃剣もまたリュウゼンより授けられた奥位六手之太刀の一手、『秘剣 稲妻』。
その名のとおり、かつてジゴマでさえ捉えられなかった稲妻の如き神速の剣技である。
「まさか舌まで細工を施してあったとはな。魔道士の認識を少し変えなきゃいかんな」
リナのような正統派ばかりじゃないな――――呟きながら、ガウリイは回廊の奥へと駆け出した。

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32107闇黒の断章 〜第6章〜 「魔術師の帰還」 5棒太郎 2005/12/2 20:34:21
記事番号32105へのコメント

  『闇黒の断章』 〜第6章〜 

   「魔術師の帰還」 5



 闇の奥から意識が覚醒してくる。
意識が無明の闇の中をグルグルと渦巻いていく。
闇のそこからようやく意識が身を起こしだした。
情報を総括し終わり、意識は急速に浮上していった。
「う・・・・・・・・」
固く閉ざされた瞼が開く。
焦点が合わず、ぼやけたものが目に飛び込んでくる。
しかし、少しして焦点も定まってきた。そしてその目が映したのは――――

「やあ」

「うわおぅっ!!??」
突然目の前に移った人の顔に、リナは仰天して跳ね起きた。
あの男―――ヴェルミスと呼ばれていた男がまた、覗き込んでいた。
「目覚めはどうかね?あんなものを見た後では、いい目覚めとはいえんだろうが」
早鐘のように打つ心臓を鎮めながら、リナは「だ、大丈夫・・・」と答えた。
辺りを見回すと、まるで王宮のように広い広間であった。その中であちこちに実験器具や書物が山のように置かれている。
側に置かれた黒板には見たことも無い理論が、様々に書き留められている。
分からないながらもそれに魅入っていると、「興味あるかね?」とヴェルミスが声をかけた。
「どうやら私を探していたようだが、何用かな?」
「率直に言ってあたしは元の世界に戻りたいの。あんたなら何か知ってるかと思って」
「ほう、この虚空間から出ようというのかね」
「可能性はあるんでしょ?あんた言ってたじゃない。『生か死か―――どちらに変化するかは”観測する”瞬間に決定される』って」
リナの言葉に、ヴェルミスは感心したような笑みを浮かべた。
「ならば、少し講義の時間を貰おうか。このツイスター宇宙のことを知っておかねば理解はできないだろう」

 〜閑話休題〜

「――――――という訳だ。どうだね?わかったかな?」
「お、大雑把なところは―――――」
流石のリナも頭がショートしそうであった。
「つまり・・・乱暴な言い方をすればここは時間軸と空間軸に実数部と虚数部があって、物質を構成する素粒子の回転方向を虚軸方向に回転させ、時間軸の符号が反転した虚時空、ってことね」
「そこまで理解できたら上出来だろう」
「冗談じゃないわ・・・・・ほんとにチンプンカンプンなんだから」
頭痛を堪えるように頭を抱え、溜息をつく。
「君が元の世界に戻るのはそれらを反対にさせればいい。だが、それが限りなく困難なことなのだがね」
「結局戻れないって事?いやよ、あたしはまだやらなきゃならないことがあるのに!」
ダンッと激しく机を叩き、詰め寄る。
「方法はないこともない・・・・・・しかし成功率も限りなく小さいかもしれないがね。それでもやってみるかね?」
「方法があるならやうわよ!」
「成功確立が限りなく0に近くても?」
ヴェルミスの言葉に一瞬詰まるが、
「それでも0じゃないんでしょ?やってみなきゃわからないじゃない!」
リナのその言葉に、ヴェルミスは「わかった」と笑みを浮かべ、奥の部屋に案内した。
部屋には奇妙な大型の機械が占拠していた。
ヴェルミスは機械に備え付けてある椅子にリナを座らせると、頭に大型のヘッドギアのようなものを取り付けた。
「実は我々が元いた世界とこの世界と繋がっているかもしれないという場所があるのだよ」
「そんなのが・・・・それってどこなの?」
ヴェルミスは自分の頭を指差した。
「我々の脳だよ。人が思考するというのは、脳の微細管における量子振動といわれている。この装置はそれを利用するものだ。魔道士ならば、思考というものが一般人より研ぎ澄まされているしな」
そう言いながら、次々と装置のスイッチを入れ、起動させてゆく。
「ただし上手くいくかどうかはまったくわからん。下手をすれば、永遠の彷徨い人となってしまうかも知れん」
「・・・・・やって頂戴。あたしは絶対戻ってみせるわ」
あのとき、完全版のギガ・スレイブを使い、混沌へと堕ちかけた恐怖が浮かび上がってくるが、胆力を込め、それを振り払った。
「それではいくぞ」
ヴェルミスの声が重く響いた。
装置の力が大きくなり、リナの脳裏は白い光が埋め尽くした。




  ――――ほう、戻ってきますか

  ――――境界の近くまで来れたようですね

  ――――ここまで来れたなら私も手伝って差し上げましょう

  ――――折角ここまで来たのですから、もう少し頑張っていただきたいですからね

  ――――クカカカカカカ




なにかの”声”が聞こえたような気がした。
それと一緒に、燃え上がる三つの眸らしきものが見えたのは、気のせいだったのだろうか。







「ん?」
何かの気配がここにやってきたのを感じ、闇の中でじっとうずくまっていたものが身を動かした。
その前に横たわるそれに、スゥッと気配が重なった。
「還ってきたかい」
その呟きと共に横たわっていたものが、起き上がった。
「・・・・ここは?」
「お目覚めでございますか?リナ=インバース様」
不意にかけられた声にリナが振り向くと、
「あ、あんた――――」
闇と同化するかのようにそこにいたのは、口元だけが見える黒子衣装。傍には同じく黒塗りの櫃。
「お久しぶりでございますねぇ。ミルトニアの件ではどうも」
からくり師のジゴマの姿がそこにあった。
「あんた、アメリアの話じゃ―――――」
「やつがれはからくり師でございますから」
答えになっていないようで、なにか納得するものがある答えだった。
「あんたがどうしてここにいんのよ?」
「自業自得――――ってやつですかね。てめぇでてめぇの首絞めちまったんでさぁ」
へへへと頭を掻くジゴマに、リナは胡散臭そうな目を向けていた。
「しかし参りましたよ。貴女様があんなことになっちまうんですからね」
ジゴマの言葉にリナはティリンギャストとの戦いを思い出した。
「そうだ、あたし確か―――――」
「そうでございますよ。貴女様はほとんど焼滅なされたんですからねぇ」
「え?ちょっと、それじゃこの身体は・・・・まさか人形――――――」
リナの顔から血の気が引いてゆく。
「いえいえ。確かに代わりの木偶は用意しましたがね。そいつは正真正銘、元の生身の肉体でございますよ」
「どういうことよ?」
「ある方のお力と・・・・・あと、貴女様が懐に持ってらした書物のおかげですかね」
そう言われて懐に手を当てると、『妖蛆の秘密』が無くなっていた。
「ちょっと!どこにやったのよ!」
「ご安心くださいな。あの本はもうこの世にはございませんよ」
「え?」
「消滅しちまったんですよ。いや、ある御方が消滅させたんですよ」
やれやれとジゴマが呟いた。
「あの書によって貴女様の肉体を元通りに再生させた後にね。やつがれも興味あったんですがねぇ」
残念無念と肩を竦めるジゴマ。
どうにも油断ならない相手だが、今言っていることは本当だろうと思えた。
「ん?」
ようやく落ち着いてきたところで、ふとリナは何かしらの違和感を感じた。
なんだろう?と見回し、そして「あっ!」と声を上げた。
「ちょ、ちょっとジゴマ。こ、これ、何よ」
「ああ、そいつですか」
ジゴマがリナの胸を見てニヤリと笑った。
そのリナの胸、そう元のサイズより2カップほどボリュームアップしていたのだ。
「いえ何、あんなことになっちまったでございましょう?そいつはその慰謝料ってことで」
リナはボインボインと胸を揺らしながら、「お、おお、おお」と感極まった声を上げている。
「お嫌でしたら元にお戻しいたしましょうか?」
「い、いや大丈夫!こ、これで、OKだからっ!」
しばしの間、リナはボインボインという感触に酔いしれていた。

「お行きなさいますか、リナ様」
ようやく堪能し終えたリナに、ジゴマが訊ねた。
「あったりまえよ。で、どう行けばいいのよ」
「こちらの方角を道なりにお進みください。そうすれば、目的の所におつきになれますよ」
「あんた、どうすんのよ。また変なちょっかいかけんじゃないでしょうね?」
「いやいや、これ以上の厄介ごとはご勘弁でございますよ。大人しく退散いたします」
結構、結構と手を振るジゴマを尻目に、リナはジゴマの言った方角を走り出した。
そのリナを見送りながら、
「やれやれ、これで舞台はクライマクッスへと突入か」
櫃を背負い、リナの駆け去った方角を見ながら、
「しかし、これもなにもかもあの御方の筋書き通りなのかねぇ」
そう呟きながら、ジゴマもまた闇の奥へと消えていった。


************************************

今までほっぽらかしていたので、今回は一気にいきました。
まぁ、量子力学の世界なんざ出すんじゃなかった・・・・・
文系の人間にはほんとチンプンカンプンですわ。
それではまた次回。

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32109ハマる人はハマるんだろうなあ……量子力学……。エモーション E-mail 2005/12/3 00:06:11
記事番号32107へのコメント

棒太郎様、こんばんはです。
一気に三回分投下ですね♪
そして内容の方もリナが今回の元凶を知る、ポイントのお話なのですね。
わくわくしながら読ませていただきました。

リナがヴェルミスさんを追いかけて見たものは、過去の出来事だったのですか。
グレンさんの姓に思わずなるほど、と……。(汗)彼はなまじ超一流の剣士だったので、
修羅の方へ行ってしまったのですね。
確かに、これではラナさんも割り切る事なんて出来ませんね。正気を保つ方が
難易度高い代物を見てしまった結果ですから……。
そしてヴェルミスさん。
彼はリナが自分の子孫だと気づいているのでしょうか。何となく、家に入った時点で、
リナの〃データ〃を読みとっていても、不思議はないような気がします。
ヴェルミスさんの研究は量子力学ですか……。
ヴェルミスさんが、説明や教え方が上手い人という事もあるのでしょうけれど、
「ちんぷんかんぷん」と言いつつも、それなりにポイントの部分を認識できる辺り、
さすがリナですね。
同じく、0じゃない可能性にかけ、それを成功させようとする強い意志の強さも。
ナイの方も手伝ったとはいえ、そこまで持っていく強さはさすがとしか言い様がないです。

さてガウリイとティリンギャストさんの2回戦。
ティリンギャストさんも、さすがに光の剣に驚いてますね。彼は元の『光の剣』の正体を
知っていたのでしょうか。
まあ、そうでなくても〃修羅〃を乗り越え、リュウゼンさんから受け継いだ剣の技と、
光の剣(異界の高位魔族成分を排除しつつも、以前とほぼ変わらない)を持つガウリイでは、
慌てるなと言う方が無理でしょうけれど。
無事、リュウゼンさんから受け継いだ技でティリンギャストさんを倒したガウリイ。
「なんとかできた」と言っていましたが、短時間でなんとかできるようになる方が凄いです。
やはり人類最強カップルですね、リナとガウリイ。

元の世界に戻ってきたリナの「まさに棚ぼた」な慰謝料(笑)に笑いました。
ジゴマさんってば(笑)ほんとーに、良く分かってますね。(笑)

次回から次の幕ですね。
ジゴマさんが教えた方角で、リナはガウリイやゼル・アメリア組、ゴーメンガースト組と
再会できるのでしょうか。
そして……ナイの方の出番も着々と近づいている……のですね(汗)
一体どうなるのやら。世界が無事だと良いのですが……(汗)
それでは、今日はこの辺で失礼します。
続きを楽しみにお待ちしていますね。

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32114面白そうではあるんですがね・・・・・棒太郎 2005/12/4 21:30:38
記事番号32109へのコメント

>棒太郎様、こんばんはです。
>一気に三回分投下ですね♪
>そして内容の方もリナが今回の元凶を知る、ポイントのお話なのですね。
>わくわくしながら読ませていただきました。

こんばんは、エモーションさん。
今まで長いこと間が空いていた分、気合いれてお届けしました。
書きたい部分を一気に放出しました。


>リナがヴェルミスさんを追いかけて見たものは、過去の出来事だったのですか。
>グレンさんの姓に思わずなるほど、と……。(汗)彼はなまじ超一流の剣士だったので、
>修羅の方へ行ってしまったのですね。
>確かに、これではラナさんも割り切る事なんて出来ませんね。正気を保つ方が
>難易度高い代物を見てしまった結果ですから……。

何があったのか、原因も示しておきませんとね。
『竜剣抄』で言及していた部分がこの出来事ですね。

>そしてヴェルミスさん。
>彼はリナが自分の子孫だと気づいているのでしょうか。何となく、家に入った時点で、
>リナの〃データ〃を読みとっていても、不思議はないような気がします。
>ヴェルミスさんの研究は量子力学ですか……。
>ヴェルミスさんが、説明や教え方が上手い人という事もあるのでしょうけれど、
>「ちんぷんかんぷん」と言いつつも、それなりにポイントの部分を認識できる辺り、
>さすがリナですね。
>同じく、0じゃない可能性にかけ、それを成功させようとする強い意志の強さも。
>ナイの方も手伝ったとはいえ、そこまで持っていく強さはさすがとしか言い様がないです。

気付いているかも知れませんね。どれぐらいの年月が流れたまではわからないでしょうが。
量子力学に限らず、この世界で様々な分野の研究をしています。
そしてリナは、この意志の強さがリナたる所以ではないかと。

>さてガウリイとティリンギャストさんの2回戦。
>ティリンギャストさんも、さすがに光の剣に驚いてますね。彼は元の『光の剣』の正体を
>知っていたのでしょうか。
>まあ、そうでなくても〃修羅〃を乗り越え、リュウゼンさんから受け継いだ剣の技と、
>光の剣(異界の高位魔族成分を排除しつつも、以前とほぼ変わらない)を持つガウリイでは、
>慌てるなと言う方が無理でしょうけれど。
>無事、リュウゼンさんから受け継いだ技でティリンギャストさんを倒したガウリイ。
>「なんとかできた」と言っていましたが、短時間でなんとかできるようになる方が凄いです。
>やはり人類最強カップルですね、リナとガウリイ。

そういった意味で「天賦の才」を持ってますね。ガウリイは。
ティリンギャストは光の剣の威力を知っているのでしょうから、それで驚いたのです。

>元の世界に戻ってきたリナの「まさに棚ぼた」な慰謝料(笑)に笑いました。
>ジゴマさんってば(笑)ほんとーに、良く分かってますね。(笑)

アノ呪文でリナ、焼滅→現世に帰還というプロットを考えたとき、これを思いつきました(笑)

>次回から次の幕ですね。
>ジゴマさんが教えた方角で、リナはガウリイやゼル・アメリア組、ゴーメンガースト組と
>再会できるのでしょうか。
>そして……ナイの方の出番も着々と近づいている……のですね(汗)
>一体どうなるのやら。世界が無事だと良いのですが……(汗)
>それでは、今日はこの辺で失礼します。
>続きを楽しみにお待ちしていますね。

ひとつの山場を一気に越えた感じです。
この後は再開とボス戦ですね。また、ひと波乱ありますが・・・・
それでは、どうもありがとうございました。