◆−小さな夜の物語★☆−蝶塚未麗 (2005/12/9 17:35:30) No.32123
 ┣小さな夜の物語☆★−蝶塚未麗 (2005/12/24 21:18:57) No.32150
 ┣小さな夜の物語★★−蝶塚未麗 (2005/12/28 12:57:00) No.32166
 ┣小さな夜の物語☆☆☆−蝶塚未麗 (2006/1/19 18:01:45) No.32212
 ┗小さな夜の物語★☆☆−蝶塚未麗 (2006/1/28 22:14:44) No.32223


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32123小さな夜の物語★☆蝶塚未麗 2005/12/9 17:35:30


 

 マエガキ
 こんばんは、蝶塚未麗です。
 今回も冷凍しといたのをレンジでチン方式です。
 最近このシリーズ書いてないから感覚を忘れてしまいました。
 ストックはまだまだありますけど、これ以上書くのは無理かも。
















 ――小さな夜の物語★☆――
















 CONTENTS
 ・火星→250
 ・星の写真
 ・ベーコンの旅
 ・星のジュース
 ・トロピカルムーン








▽火星→250
土星人が名古屋の街をぶらぶらしていると、いつの間にか火星まできいました。
辺りはすっかり夜で、赤みがかった空に赤銅色の三日月が笑っています。
ネオンサインに彩られた大きな通りの歩道。
とても賑わっているのにどこか寂しげで、風がひゅうひゅうと音を立てて吹いています。
たくさん火星人や地球人が土星人の前を後ろを通り過ぎていき、土星人だけがぼうっと道に突っ立っていました。
それにしてもお腹がすいてきました。
しかし近くに食べ物屋らしきものはありません。
仕方がないので私はひょいと手を伸ばして土星人の頭を掴み、すばやく口に放り込みました。
とても苦い味がしたのでぺっと吐き出してしまい、土星人はいつの間にか名鉄に乗って火星から名古屋に向かっている最中でした。








▽星の写真
プラネタリウムが夜の通りを歩いているとどこからともなく石が飛んできて頭に激突し、星が見えました。
とても大きくて美しい星だったので写真にとって今でも部屋に飾っています。








▽ベーコンの旅
ベーコンの切れ端が仲間を求めて船に乗り、暗い天幕の下星を頼りに海を北上していくとやがて北極にたどり着き、白熊に食べられてしまいました。
白熊のお腹の中にはたくさんの仲間がいたので、ベーコンの切れ端はそこでしあわせに暮らしました。








▽星のジュース
汗だくになって目を覚ますと部屋は真っ暗で、手探りで蛍光灯の紐を探し引っ張ってみると、ドアがいなくなっていました。
おそらく散歩か買い物でしょう。
あるいはデートかも知れません。
のどが渇いていた私は部屋の隅っこにおいておいた虫取り網を掴むとベランダに出ました。
夜とは思えないくらいじっとりと暑い空気の中、空にはたくさんの星たちがぐったりとしていました。
私は虫取り網を使ってその星たちを1つ2つと捕まえていき、まとまった量が集まると部屋に持っていって冷凍庫でしばらく冷やしミキサにかけ、ジュースにして飲みました。
調子に乗って飲みすぎてしまいトイレにいきたくなったのですが、ドアはまだ帰ってきません。








▽トロピカルムーン
ジャングルのねっとりとした空気の中を歩いていると私のからだはだんだんとまんまるの果実になっていき、気づけばどこかの樹の枝からぶら下がっていました。
けれど幸いなことに色が黄色だったので、時々お月様のふりをして夜空を旅することができます。
















 アトガキ
 何となく名古屋にいきたいなあと思います。

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32150小さな夜の物語☆★蝶塚未麗 2005/12/24 21:18:57
記事番号32123へのコメント


マエガキ
こんばんは蝶塚未麗です。
今回は感動の大作(?)が入っています。
楽しめるかどうかは分かりませんが、できれば楽しんでいってくださいませ。








 CONTENTS
 ・真夜中の神様
 ・月の刑務所
 ・月の餃子
 ・金の雨が降る
 ・さみしさと月








▽真夜中の神様
真夜中3時夜の街を散歩していると、神様がけんかをふっかけてきたので返り討ちにしてやりました。
水銀灯の下ぼろぼろになって悔しそうな表情を浮かべる神様の姿がだんだんと、まるで熱されたアイスクリームのように溶けていきました。
その時、後ろに何者かの気配!
そうです、倒したと思った神様は実はにせものだったのです。
後ろからナイフで刺されたお月様はアスファルトに倒れ伏し、二度と起き上がることはありませんでした。








▽月の刑務所
ロボットは月の刑務所で働いていました。
刑務所は地下につくられているのですが、どんなところかは知りません。
ロボットはまだ一度も刑務所の中に入ったことがないのです。
ロボットの仕事は刑務所の入り口の縦穴をじいっと見張ることでした。
縦穴は底が見えないくらい深く、縄の梯子がかかっています。
ロボットの知る限りでは、これまでにこの梯子をのぼって刑務所から出てきた人は誰もいません。
また梯子を降りて刑務所へ向かった人もいません。
この縦穴の下は本当に刑務所になっているのでしょうか。
ロボットは時々そんなことを考えてしまいます。
今夜はとても明るい夜です。
空には大きな弓形のお月様がすやすやと眠っていました。








▽月の餃子
暗い夜の河原にお月様がすやすやと眠っているのを見つけた私はこっそりと後ろから忍び寄って、お月様の皮をお月様を起こしてしまわないように慎重に剥いでいき、剥いだ皮を家に持ち帰りました。
翌日その皮を使って餃子を作りました。








▽金の雨が降る
水銀灯の明かりしかない夜王女が町を歩いていると、空から大きな白い鳥がやってきて王女をさらっていきました。
鳥はしばらくの間王女を捕らえたまま空をぐるぐると飛び回っていましたが、やがて町を少し外れた辺りにある大きな森の中、ひときわ高い木のてっぺんにある自分の巣らしき場所にやってくると、そこに無造作におかれていた鳥かごの中に王女を閉じ込めて鍵をかけ、さらにその鳥かごを蹴っ飛ばして巣から突き落としてしまいました。
鳥かごは何度も枝にぶつかって勢いを殺されながらもかなりの速度で落下していき、やわらかい土の上でバウンドして空に飛び上がり、月に激突して大量の金の雨を地上に降らせました。
金の雨によって家という家は穴だらけにされ破壊され多くの人が犠牲になったのですが、どういうわけか王女は、月にぶつかった上に地面に叩きつけられたにもかかわらず全くの無事でした。
鳥かごも負けず劣らず頑丈で地面に墜落した後も鉄格子は王女を閉じ込めたままでしたが、そこへ旅の剣士がやってきて自慢の剣技で鉄格子を一刀両断、ついでに王女も一刀両断してしまいました。








▽さみしさと月
人類を含む多くの生物が滅びてしまった惑星で、さみしさは生き別れになった家族を探して旅をしていました。
恐らく誰も生きていないであろうことは十分に成長したさみしさには分かっていましたが、絶望の泉に身を浸すのは絶対に嫌でした。
荒れ果てた大地。
鉛色の空の下、草ひとつ生えていない中を歩いてゆきます。
さみしさは汚れた雨水を飲んでのどの渇きを癒し、時折見つかる、しぶとく生き残っているサボテンの変種を食べて飢えを凌いでいました。
ある日の夜、さみしさは不思議な光景を目にしました。
ぼろぼろの毛布に包まって冷たい土の上に眠っていたさみしさがまぶしい光を感じて目を覚ますと、さみしさの視線の先の少し土の盛り上がったところに全身に光をまとった樹が一本生えていました。
眠る前はそんなものありませんでした。
あるわけがないのです。
さみしさは腕と足に力を入れ寒さをこらえつつも起き上がると樹の方へと近づいていきました。
樹の高さはさみしさの背丈の三倍ほど、幹はさほど太くないもののたくさんの枝を持ち無数の葉を繁らせていました。
でもよく見ると幹も枝葉もすべて銀色、金属製のようでした。
樹の上の方には何やら黄色く光る丸いものがいくつか枝からぶら下がっています。
樹が光をまとっていたのは、その丸いものたちの発する光が金属の幹や枝葉に当たって方向に反射していたからなのでした。
真下で見上げてみるとさみしさにはその丸いものたちが実はお月様なのだと分かりました。
あの日以来空から消えてしまったお月様たちはこんなところにいたのでした。








アトガキ
メリークリスマス。
いい夢が見られますように。

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32166小さな夜の物語★★蝶塚未麗 2005/12/28 12:57:00
記事番号32123へのコメント



 マエガキ
 看護婦→看護師、保母→保育士、ならば、専業主婦も何か考えないと。
 専業主士? 専業主フ? 
 違和感の残るネーミングです。








 ――小さな夜の物語★★――








 CONTENTS
 ・その後のさみしさ
 ・星の雨が降る
 ・冷蔵庫の国
 ・星の砂漠
 ・星になった話








 ▽その後のさみしさ
 枯れた大地を歩いていたさみしさはふとしたはずみに絶望の泉に落ちてしまい、心を腐らせて死んでしまいました。








 ▽星の雨が降る
 なかなか寝付かれないのでリビングで深夜番組を見ながらソーダ水を飲んでいると、ぱらぱらと雨の音が聴こえてきました。
 窓のところまでいって外を見てみると、降っているのは雨ではなく星でした。
 空から無数の星が屋根や地面に墜落し、あるいは電線などにひっかかり、二度と起き上がることはなく、さらにその上から別の星が落下してその星を押しつぶし、さらに上から上からと……


   *


 四十日間降り続いた星の死骸は海を大地を、そしてそこに住むすべての生き物を飲み込んでしまいました。
 ひとりぼっちになったお月様がかなしそうに星の海を照らしていました。








 ▽冷蔵庫の国
 途方もなく大きな冷蔵庫の中に住んでいたので気候は安定していました。
 ただし電気料金がかなりかかるので大変でした。








 ▽星の砂漠
 感じるのは熱気。
 夢から覚めた一瞬ここがどこなのかはっきりとせず、頭の中身を起動させた途端はっと気づき、じんわりと滲み出てくるよろこび。
 今自分がこの場所にいるという興奮。
 ついに目的地に到着したのだ。
 小さな窓から見下ろす景色は一面の砂の海。
 陽光に照らされきらきらと宝石のようにきらめく。
 いやそれは砂ではない。
 ――星の粉。
 夜空から落ちてきた星達が風化してできたものなのだ。
 陽光を浴びて十分に美しいこの粉達は夜には月光を浴びて七色に輝くのだという。
 少し散歩をしてみたくなったので、外に出てみた。
 外は暑かったが、夜はかなり寒くなるらしい。
 何もない中を何十分か歩いた後、金星人は宇宙船に戻りました。








 ▽星になった話
 作りものの私が作りものの森を歩いていると作りものの雨が降ってきたので作りものの木のうろに避難しました。
 その作りものの木は実はロケットだったので作りものの私は空へと飛び出していきましたが私の手に弾かれて作りものの丘に墜落し壊れてもう二度と動かなくなりました。
 私の手は作りものの私をロケットの中から掴み上げその全身に夜光塗料を塗り天井からピアノ線で吊り下げました。








 アトガキ
 似非二進法なので今回が何回目なのか分かり難いこのシリーズ。
 しょうもなさ全開のこのシリーズは一体いつまで続くのでしょう。

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32212小さな夜の物語☆☆☆蝶塚未麗 2006/1/19 18:01:45
記事番号32123へのコメント







マエガキ
こんばんは、蝶塚未麗です。
微妙にお久しぶりです。
お待ちになられていた方がいらっしゃるのかいらっしゃらないのかは分かりませんが、レンジでチン方式でさらに5作投稿させていただきます。
この投稿分を除くと現在のストックは7作。
生産がほとんどゼロに等しい状態ですので、このシリーズ、☆★☆には完結してしまうのではないかと思います。
できれば最後までお付き合いくださいませ。
















 ――小さな夜の物語☆☆☆――
















 CONTENTS
 ・A Love Letter
 ・Luna Park
 ・The Traveler
 ・猫耳の丘
 ・A La Carte
















▽A Love Letter
君の後ろ姿を今でも忘れられません。
黄昏の街、毎日のようにビルの谷間にたたずんで東の空を見上げていた君。
僕が君を見つめていられるのはほんの短い間だけ。
すぐに帰らなければならなくなり、空を見つめて動かない君にさよならを告げることもできず、ただ静かに去っていくのみ。
君は何を見つめていたのでしょうか。
空に昇る月でしょうか、星でしょうか。
あるいはそこに何かの幻影を見出していたのでしょうか。
尋ねたくても君はもう僕のそばにはいません。
君が空飛ぶ船に乗って僕のいるこの土地を去っていったのはもう10年以上も前のことです。
僕は君が船に乗り込むところをこっそりと見つめていました。
今君はどこにいるのでしょう。
君のいない世界はとても空虚に感じられます。
できることなら君のもとへゆきたい。
けれど悲しいことに僕は囚われの身。
この地につなぎ止められ、この地を離れることができないのです。
せめて風がこの手紙を君のもとへと運んでくれることを祈りたいです。


 *


先日こんなお手紙を拾いました。
地球にいた頃がとても懐かしくて泣きそうになりました。
お日様、私はあなたのいう「君」ではないでしょうけれど、今とてもあなたに会いたいです。
















▽Luna Park



風さえ吹かないしんと静かな夜の海。
時折遠くでぶうんと獣の鳴き声がきこえるくらいです。
クラゲの王子は水面にたたずんで月を見上げていました。
仲間のクラゲはみんな眠っています。
ひんやりと冷たい月の光を浴びていると頭は妙に冴えてしまい、いろいろなことを考えてしまいます。
それはたとえば恋のこと。
クラゲの王子は実の妹に恋をしていました。
けれど妹はクラゲの王子のことを兄としか見ていない様子。
想いだけでもどうにか伝えようと思うのですが、なかなかふんぎりがつきません。
それどころか、すでに諦めたらどうだと自分を説得している段階です。
月はゆっくりと暗い空を昇っていました。
そろそろかと思ったクラゲの王子は岸まで泳いでいきました。
音ひとつ立てないとても優雅な泳ぎ方です。
岸にたどり上がるとたくさんの触手を使ってざらざらとした石のような地面を這うように進んでいきます。
海をぐるりと取り囲んでいる薄緑の網状になった壁を登って、てっぺんの狭い足場から向こう側へジャンプ。
向こうはこちら側より地面の位置が低いのですが、クラゲのからだはやわらかいし、地面は緑色のやわらかい植物が覆っているので、怪我をするようなことはありません。
うまく着地し、背の低い植物に覆われた地面を進んでいくと、不意に獣の気配を感じました。
小柄ながらも狡猾で俊敏そして非常に獰猛な獣。
暗闇に強く、四本の触手で移動する獣のそれです。
けれどクラゲの王子は悠然とした態度。
逃げようとか身を隠そうだなんて考えもしません(まあどちらをするにも距離が近すぎますが)。
この獣は、クラゲが陸上では動きが鈍い代わりに触手に毒を持っていて、これを武器とすることを知っているので、クラゲには滅多なことでは手を出さないのです。
クラゲの王子は獣と向かい合います。
万が一ということもあるので身構えはしましたが、結局相手の獣の方が道を譲りました。



やがて地面はやがてまた硬くなりました。
やはりざらりした石のような質感ですが、先ほどのものとは若干の違いが感じ取れます。
その地面は大きな道となっていました。
左右に長く伸びており、左側では別の大きな道とTの字になるように合流しています。
右側は直角に折れ曲がっていました。
何本か脇道もあります。
巨大な柱が何本も空に向かって突き出し、遥か高いところで黒い線状のものによってつながっています。
てっぺんから光を放つ柱もありました。
どちらかというと背の低い柱です。
あちらこちらに二本の触手で歩く獣の巣がいくつか見えます。
二本触手の獣(といっても移動用でない触手を二本、別に持っていますが)は四本触手の獣よりも遥かに大きなからだをしていますが、性質はどちらかというと温和。
個体差の大きい獣なので凶暴なものもいますが、それはごく少数です。
巣からは光が漏れています。
中には恐らく海があるのでしょうけれど、見たことはありません。
巣と巣の間にある脇道の一本にクラゲの王子は入っていきます。
さらにずうっと進んでいき、やがて目的地にたどり着きました。
巣が密集する中に、ぽつんと開けた四角形の空間。
ひんやりとした土の地面に得体の知れない奇妙なオブジェがいくつかおかれています。
ちょうど月は空のてっぺんに達していました。
計算どおりです。
クラゲの王子は月に向かって口笛を吹きました。
すると空から一本の長い触手のようなものが降りてきました。
クラゲの王子がその触手に自分の触手をしっかりと巻きつけると、その触手のようなものはゆっくりと空に引っ張られていきました。
気がつくとクラゲの王子は月の迷路の中にいました。
眠れない夜はここで不思議な水を飲みながら朝までひとりで過ごすのです。
















▽The Traveler
フルートの音色がきこえます。
僕と兄さんは何もない場所を歩いていました。
もうどれくらい歩いているのでしょう。
不思議なことにからだは大変軽く疲れは全く感じませんがとても退屈です。
家へ帰れるものなら帰りたいのですが帰り道はとっくの昔に分からなくなっています。
フルートのきこえる方へと僕と兄さんはひたすら歩いていきます。
あとどれくらい歩けばいいのでしょうか。
フルートの音はとても遠くからきこえてくるのです。
長く歩きましたがちっとも近づいた気がしません。
もしかしてこのまま永遠にこの何もない場所を歩き続けなければならないのでしょうか。
僕と兄さんは引き返して帰り道を探した方がよいのでしょうか。
相変わらずですがそんなことを考えていると、突然目の前に何かが現れました。
一本の背の高い緑色の草です。
何もないところから伸びた茎。
反り返った細長い葉がたくさん放射状に広がっています。
僕と兄さんはその草をすり抜けて先に進んでいきます。
いつの間にかフルートの音色はきこえなくなっていました。
やがてたくさんの植物が現れます。
中空から逆さに生えた鬼百合。
開いたり閉じたりを繰り返す睡蓮。
無数の花びらを散らしては引き寄せる桜。
茎を生き物のように動かす巨大なつぼみの植物。
空から降るたんぽぽの綿毛と宙を舞う花粉。
けらけらと笑うひまわり。
唐突に暗い場所に出ました。
無数の星が上下左右あらゆるところで冷たい光を放っています。
魚の群れが僕と兄さんのからだを凄いスピードで通り抜けていきました。
ひらひらと粉雪が降ります。
足元から貝殻が生えてきます。
いつの間にか古びた石の螺旋階段を上っています。
気がつけば下っています。
それから流れ星。
きらっと光ってすぐに見えなくなりました。
階段の下りが妙に長いと思ったらいつの間やら鍾乳洞のようなところ。
得体の知れない青い光に照らされた空間。
無数の鍾乳石。
ぽたぽたと落ちてくる雫。
ばさばさと飛んでくるこうもり。
巨大な地底湖。
ようやく出口かと思えば、石畳の坂道に左右は墓地。
雨が降り、雷鳴がとどろきます。
いつの間にやら道は大地を離れ、薄暗い空をゆるやかに昇っていました。
遥か向こうには古びた城。
時間の止まったような石の建造物。
でもそこへたどり着くことは永遠になく、距離は無限。
まるで亀に追いつけないアキレスのよう。
でもそれもやがて光に飲まれて、すべては消える。
いつもと同じ光景。
安っぽい立体映像。
こんなものはとっくに見飽きています。
またこれかと思うとため息が出たくらいです。
何もかもがなくなるとまたフルートの音色が戻ってきました。





何もない場所をフルートのきこえる方へ僕と兄さんは歩いています。
ときどきひとりでいることが無性にさみしくなりますが、本当にときどきです。
僕と兄さんはさみしがり屋ではありません。
















▽猫耳の丘
西日の差し込む部屋。
ソファにもたれかかってぼうっとしていると、ふと思い出すのはあの丘のこと。
ここから少しだけ北へいったところに、背の低い草ばかりが生える小さな丘があります。
丘のてっぺんには二本の猫の耳が生えていました。
二本の耳はとても仲が良くていつも冗談を言い合っていました。
五年前のあの日……、時刻は今と同じ夕暮れ時でした。
植物学者だった僕は丘にやってきて、その二本の耳のうち一本を研究のために引っこ抜きました。
ビニール袋に入れて持ち帰ったのですが、家に帰るとどろどろに溶けていました。
翌日、同じような時刻に再び丘にいってみると、もう一本の耳はどこにもなくどろどろとした粘液が草の上にべっとりと付着していました。
それ以来僕はあの丘へは一度もいっていません。
植物学の研究もやめました。
















▽A La Carte



夜の散歩をしていた時のことである。
お月様がタバコを切らして困っていたのでくれてやると、礼として星を一個もらった。
帰り道、喉が渇いていたのでそれを口の中に放り込んだのだが、あまりに不味かったのでぺっと吐き出してしまった。
星は地面に転がったかと思った途端、もの凄い勢いで夜空に昇っていって爆発し……
――A HAPPY NEWYEAR !
中空にそんなメッセージを残した。
どうやら星だと思っていたのは花火だったらしい。



夜空を散歩していると星が話しかけてきたが、口をなくしていたので何も言えなかった。
無視されたと思ったのか星は怒って殴りかかってきたが、からだをなくしていたので痛くもかゆくもなかった。



新しい年が始まるというので慌てて帰ってきたのだが、どうやら誤報だったらしい。
















アトガキ
それでは、よい夢を!

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32223小さな夜の物語★☆☆蝶塚未麗 2006/1/28 22:14:44
記事番号32123へのコメント








 マエガキ
 「生きる意味」なんて言葉を聞くと、税金を使って国民の「生きる意味」を探す機関があるというよく分かんない世界が頭の中に浮かんできます。
 嘘です。
 今思いついただけです。
 それくらい今、マエガキ&アトガキのネタに詰まってます。
 書かなきゃいいのにって思いますが、何となく書かなきゃならない飢餓するのです。
 宮沢賢治の「飢餓陣営」面白いです。
 必殺確信犯的誤字。
 といっても別に政治的意図とかがあるわけじゃないですよ(分かるかな?)。
 それにしても、必殺〜、なんて言葉使ったの何年ぶりだろ?














 ――小さな夜の物語★☆☆――
















 MENU
 ・幻想少年
 ・学校のかいだん
 ・When?
 ・トリックの正体
 ・A Funeral
















▽幻想少年



月は群雲に隠れ、仲間の星はどこにもなく、風だけがびゅうびゅうと騒いでいる夜。
街灯の白い明かりに濡れたアスファルトの地面。
2人の少年が襟巻きとコートと手袋で身をかため、向かい風を浴びながら寒そうに歩いています。
小さな商店街。
店という店のシャッターは降りています。
車の音は遠く、捨てられた新聞紙が風に舞っていました。
――兄さん。
後ろを歩く背の低い少年の口から微かな声が漏れました。
とても小さな声でしたが、この静かな夜の中ではどんなに微かな音さえ大きく響きます。
前方の背の高い少年は足を止め、後ろを振り向きました。
――何だい?
すると背の低い少年は少しびっくりした様子で、
――……ううん、何でもない。
恐らく声に出したつもりはなかったのでしょう。
――寒くないか?
――大丈夫だよ。
――……そうか。
再び歩き出していくと、月が雲の中からこっそりと顔を覗かせました。
2人は兄弟でした。
兄の方はこれから汽車に乗り、長い旅に出るのです。



角を曲がると公園のある通りに出ました。
街灯に照らされた遊具と樹。
子どもたちの遊ぶ声が今にも聞こえてきそうです。
――兄さん、あれは何?
公園の反対側、車ひとつない狭い駐車場の片隅で何かが燃えています。
――あれは夢見だよ。
――夢見?
――ちょっと見てきたらどうだ。時間はまだ大丈夫だし。
――うん。
弟はうなずくと一向に車のこない通りを渡って駐車場の方に走っていきました。
兄の方はその場に立ち止まったまま、弟の方を静かに見つめています。
炎は何もない場所で燃えていました。
とても小さな炎でしたが、手を近づけるととても暖かいです。
炎の中には遠い国の景色が見えました。
恐らくヨーロッパのどこかの街です。
とても古風な街並み。
大きな時計塔がありました。
雪が降っていてここよりもずっと寒そうでした。
しばらくして弟は兄のところへ戻りました。
――もう、いいのか?
――うん。
歩きながら弟は先ほどの情景を思い出していました。
とても素敵な街。
あれはあの炎の見る夢なのでしょうか。
あんな街を兄さんと2人で歩くことができたなら……



閑静な住宅地にぽつんとある無人駅。
プラットホームの待合室でベンチに座り、寒さに縮こまってからだを震わせる弟。
兄が飲み物を買って戻ってきました。
ホットココアの缶を渡された弟はそれを手袋越しにもてあそびながら、となりに腰掛けコーヒーを飲む兄の顔を見つめていました。
――ん? どうかしたか?
――いや、別に……
視線をそらし、窓の向こうに目を向けると、対岸のプラットホームに、小さく炎が燃えています。
先ほどまではそんなものなかったはずなのに。
――また夢見だね。
――あれは違うよ。
――……えっ?
――あれはただの宿無しだよ。……とってもかわいそうなやつさ。
兄は遠い目をして言いました。
――そうなんだ。
違いは全く分かりませんでしたが、近寄るのはよそうと思いました。
ココアを飲み終えても、汽車はやってきません。
このまま永遠にやってこなければいいのに。
そう思いながら弟はだんだんと眠たくなっていきました。
兄の肩にもたれかかって眠りに落ち、夢を見ました。
あの古い街を2人、手をつないで歩く夢を。



――ねえ兄さん。母さんはどこにいったの?
――旅に出たんだよ。とても長い旅に。
――えっ、どこまで? いつ戻ってくるの。
――……こないよ。
――えっ?
――……もう戻ってこないんだ。もう……2度とね。
――ふーん、じゃあ、2人ぼっちなんだね、僕たち。
――……そうなるね。
――……兄さんと、2人かあ……。



朝日が昇り、鳥たちのさえずりがきこえる朝。
無人駅には誰の姿もありません。
ベンチにはただ光だけが差し込んでいました。
すべては宿無しが見た夢だったのかも知れませんし、孤独な星が見た幻だったのかも知れません。
あるいは2人とも汽車に乗って長い旅に出てしまったのでしょうか。








▽学校のかいだん
絵が仕上がった頃には外はもう真っ暗でした。
風が窓ガラスを叩く音しかきこえません。
廊下にも明かりひとつなく、とても不気味に感じられました。
それでも勇気を振り絞って美術室の電気を消して、恐る恐るリノリウムの床を進んでいきます。
週末にある友達の誕生日会のことを考えながら。
階段を手すりに一段ずつ下りていき、踊り場に差し掛かった時でした。
足が何か硬くて丸いものを踏みました。
驚き、バランスを崩して転びそうになります。
その時、突然ケタケタという笑い声。
心臓を貫かれたような恐怖に襲われ、慌てて階段を駆け下りていきました。
後から聞いた話ではその丸いものはお月様の一種だとか。








▽When?
駅前の道を左に歩いていくとオレンジ色の空をバックにその建物が見えてきました。
背の低い住宅が立ち並ぶ中にひときわ高くそびえる漆黒の巨塔。
屋上付近に金色の文字で名前が書かれています。
――Moonbow Factory
間違いなくその異様な建物がKの住むマンションなのでした。
Kは私の昔の友人です。
今は作家をしていて、そこそこ売れているようです。
先日、彼からパーティの招待状がきました。
なぜ彼が今頃私をパーティに招こうと思ったのかはわかりませんが、私はちょうど暇でしたし、Kは少し個性的すぎるところもあったものの、とてもいいやつでしたから、懐かしい気持ちになって迷わず出席の返事を出しました。
縦横無尽に走り回る狭い迷路のような道を進んでいきます。
しかしマンションへは一向にたどり着きません。
もう大分歩いてきたはずなのに、マンションへの距離は少しも縮まっているようには感じられませんでした。
日はとっくに沈み、空にはほっそりとした三日月。
家々に明かりが灯り、酒を飲みながら歩く酔っ払いにからまれそうになりました。
私は歩き疲れ、だんだんと腹が立ってきました。
もう帰ってやろうかと思った時、私は招待状にKの電話番号が書かれていたのを思い出しました。
電話が好きでない私はまだ一度もかけていないのでした。
街灯の明かりの下、招待状の裏面に書かれた数字列を、会社に持たされている携帯電話に打ち込んでいきます。
しかしKは不在のようでした。
人を招待しておいて何が「ただ今留守にしております」だこの野郎!
私は怒って、きた道を引き返しました。
駅へはすぐにたどり着きました。
電車に乗ってすぐさま家に帰ります。
最寄の駅から徒歩10分くらいのところに高くそびえ立つマンション。
ここに私は住んでいます。
ダイヤルロックを解除して中へ入り、大理石の豪奢なホールを横切って、エレベータで6階にあがりました。
615号室が私の部屋です。
ポケットから鍵を取り出し中に入った私は、慌ててパーティの支度を始めましたが、誰も訪ねてはきません。
仕方がないので小説の続きを書くことにしました。







▽トリックの正体
目を覚ますと時刻は7時過ぎ。
今からでは友人との約束の時刻に間に合いません。
ちゃんと目覚まし時計もセットしていたはずなのに。
仕方がないので私はベランダに出ることにしました。
季節は晩秋。
朝の空気は気持ちいいといえばいいけれど、まるで冷蔵庫のように冷たいです。
空からは一本の紐が垂れ下がっていました。
私が背伸びしてそれを引っ張ると辺りはすっかり夜になり、こんぺいとうのような星が一面空を覆いました。
私はベッドに戻って二度寝を始めました。
お月様の夢を見ましたが、どんな夢だったのかは覚えていません。








▽A Funeral
先日、何者かによって殺害されたお月様の葬儀がとりおこなわれました。
たくさんの星が参列し、棺に収められたお月様を天の川に流しました。
次のお月様を選ぶ選挙は来月5日におこなわれるようで、それまではブリキ製のイミテーションが使われることとなるそうです。
















 アトガキ
 悪夢ってどんな感じなのでしょう。
 見たことがないので分かりません。
 こんなこと書くと見そうで怖いです。
 何ででしょう?
 科学的根拠は全くないのに。