◆−ハーレクインの狂言回し (1)−律 (2006/3/4 02:54:22) No.32333 ┣ハーレクインの狂言回し (2)−律 (2006/3/4 02:57:09) No.32334 ┣ハーレクインの狂言回し (3)−律 (2006/3/7 00:38:38) No.32339 ┣ハーレクインの狂言回し (4)−律 (2006/3/7 00:40:06) No.32340 ┣ハーレクインの狂言回し (5)−律 (2006/3/7 00:41:44) No.32341 ┃┗Re:ハーレクインの狂言回し (5)−蝶塚未麗 (2006/3/9 01:06:00) No.32349 ┃ ┗Re:ハーレクインの狂言回し (5)−律 (2006/3/10 00:44:25) No.32350 ┣ハーレクインの狂言回し (6)−律 (2006/3/11 00:45:13) No.32351 ┃┗Re:ハーレクインの狂言回し (6)−蝶塚未麗 (2006/3/11 20:44:42) No.32353 ┃ ┗Re:ハーレクインの狂言回し (6)−律 (2006/3/12 23:22:03) No.32356 ┣ハーレクインの狂言回し (7)−律 (2006/3/15 01:43:40) No.32365 ┣ハーレクインの狂言回し (8)−律 (2006/3/15 01:46:46) No.32366 ┣ハーレクインの狂言回し (9)−律 (2006/3/15 01:51:06) No.32367 ┃┗Re:ハーレクインの狂言回し (9)−蝶塚未麗 (2006/3/15 19:27:36) No.32368 ┃ ┗Re:ハーレクインの狂言回し (9)−律 (2006/3/18 00:11:25) No.32372 ┣幕間−律 (2006/3/20 01:57:19) No.32384 ┣ハーレクインの狂言回し (10)−律 (2006/3/20 01:59:43) No.32385 ┣ハーレクインの狂言回し (11)−律 (2006/3/20 02:03:10) No.32386 ┣ハーレクインの狂言回し (12)−律 (2006/3/21 15:39:58) No.32390 ┃┗Re:ハーレクインの狂言回し (12)−蝶塚未麗 (2006/4/6 11:24:03) No.32435 ┃ ┗Re:ハーレクインの狂言回し (12)−律 (2006/4/11 23:28:20) No.32455 ┗お知らせ−律 (2006/4/11 23:30:11) No.32456 ┣Re:お知らせ(+メールのこと)−蝶塚未麗 (2006/4/14 11:44:56) No.32464 ┃┗Re:お知らせ(+メールのこと)−律 (2006/4/16 23:11:57) No.32471 ┗Re:お知らせ−こだち (2006/5/18 20:44:30) No.32511
32333 | ハーレクインの狂言回し (1) | 律 | 2006/3/4 02:54:22 |
はじめまして! ゼロリナ!です。お話書くリハビリも兼ねているんで、かなりつたないですがー。 ちょろっと読んで下さい。お願いします♪ **** < ハーレクインの狂言回し > 腕を組んで、あたしは椅子に座る神官服の男を見下ろした。 「舐めた真似をしてくれるわね」 「正体を隠さない辺り、我ながら潔いと思います」 「手間が省けて助かるわ」 ことさら冷たい顔で言い放ってやる。 相手は、全身を椅子に縛り付けられて、全く抵抗ができない状態にある。 どう料理してくれようと嘯きながら、実のところあたしは、目の前の男の処遇を真剣に思案していた。 このまま殺してしまうのは、あたしの矜持と倫理観と商売人の血が邪魔をする。 黒髪のおかっぱ頭がどうも抜けて見える、目の前のゼロスという男。 はっきり言って、殺す必要性が皆無なのだ。ただの弱いもの苛めにしかならない。 そんなのを殺しても、プライドに障るし、姉ちゃんに顔向けできない。人殺しはそれなりの利益が見込めなければ、損である。元値はマイナスなのだ。親類縁者がいれば、無駄に恨みを買うだけだし。 この男は、あたしを殺そうなんてお話にならないほどに、戦う術も知らない、全く無力な普通の男である。 これから先、また彼が自分の命を狙うことがあったとしても、十中八九撃退できるだろう。 万が一、何かことがあったとしたら、それは間違いなくあたしが耄碌したときで、そのときは、彼がどうこうする前に誰かが手を下しているに決まっている。 とはいえ、いい加減堪忍袋の緒も切れる。 あたしはしばらく前から、ずっとこの男に付きまとわれているのである。 何度こいつがあたしを殺そうとし、何度はり倒してやってから見逃してやったか判らない。いい加減うっとうしい。 そろそろ、徹底的に脅してやらなきゃならない頃だ。 「怖いこと言わないで下さいよ。僕を殺しても、何の得も損もありませんよ」 「そんな卑下することもない気がするけど」 「事実ですから。……いや、善良なお坊さんを無碍に扱うと祟りがあるかもしれませんね。神様に七代祟られたり」 「それって悪霊のやることなんじゃない?」 「大差ないですよ」 「すっごい暴言吐いたわねアンタ」 いやあ。 と、彼は笑った。 縄が解けていたら、頭をかいてみせたのではないか。そんな呑気さで。 「僕の神様って、魔王なので」 確かに、暴言だった。 |
32334 | ハーレクインの狂言回し (2) | 律 | 2006/3/4 02:57:09 |
記事番号32333へのコメント < ハーレクインの狂言回し > 「あたし、宗教がらみの事件ほんっとうんざりなのよね…」 あたしは、頭をがりがりとかいた。 幾つか、そういった関連の事件にかかわったことがあったのだが、本当に厄介だったのだ。 いや、考えてみれば、別件の厄介な問題が絡んでいたからこそとも言えたのだが。 (ん?) 思わず、過去の記憶をなぞってみて、改めて目の前の男を見直した。 「あんた、その魔王信仰って、どのあたりが本拠地?」 「あ、早速尋問ですか? いけませんねえ。たとえ口が裂けたって仲間のことを白状など」 がたごとばたんっ! 「どの辺りが本拠地?」 あたしは、迅速、確実を愛する。 この愛は、それに多少の暴力、強迫という悪徳が伴っても、まるで気にしないほどに深い。 彼の座る椅子の脚を蹴り飛ばしてひっくり返してやり、まともに頭と肩、膝などをぶつけて唸る男の傍にしゃがんで、あたしはにっこり微笑んだ。 「あたし、自分の命を奪おうとした相手に、穏当な手段ばっかり使うほど人間できてないの」 「いやですねえ。根に持つ女の子はモテませんよ」 「そうね。あんたとの縁もすっぱりさっぱり断ちきろうかな」 「マインの村です」 痛い目にあっても、減らず口を叩いたかと思うと、そのわりにあっさりと白状する。 根性があるのかないのか判らない男である。 「マインの村……」 「カルマート公国の端にあるんですが。何か、お心当たりでも?」 「昔、あんたのこと見た覚えがあんのよね……あの件では、実はあちこちの恨み買ってそうだしなー。もしかしたら、あんた以外もあたし狙っている奴いるかも? 面倒臭いわね。先手打っとこうかな」 「……僕に、見覚えが?」 自分の考え事に耽りかけたあたしは、軽く顔を上げて頷いた。 普段、あたしはどうでもいい人間の顔など、いちいち覚えない。それを考えると、こんな弱くてどこか剽軽な言い回しばかりが取り柄のような男の顔を、漠然ととはいえ覚えているのは不可解である。 しかし、その疑問を追う前に、呟くような声を落とした目の前の男が、どこか奇妙な表情になったことに気を取られた。 張り付いたような、変わらない笑顔に、どこか不透明なものを感じる。 ――この男に急襲されたとき、素人と呼ぶのもおこがましいへっぴり腰に、彼がまるきり戦う術を知らないことを見てとった。 でも、そのとき一瞬、あたしは胸騒ぎを覚えたのだ。 それから何度も襲撃されて、そのたびにあまりのしくじりっぷりに、思い違いかとも思ったが。 何となく気に懸かって、今回、わざわざ気絶させて椅子に縛り付けるという手を使っている。 今、その彼の様子を見てみて、どうも、あたしの判断は間違っていなかったような気がしている。 「そうよ。それがどうかした?」 「いや、あまりのナンパの王道台詞に感動してしまいまして」 「は?」 「や、僕も妙齢のお嬢さんに言われて悪い気はしませんが。 どこかでお会いしたことはありませんか?って奴ですよね。もしかして、僕は『はい、前世で』と答えるべきだったんでしょうか」 「あたしとそんなにデートしたいなら、あそこの川沿いまで一緒に出かけてあげてもいいわよ。簀巻きにして沈めてあげるから、帰りのエスコートは結構」 「冗談通じない方ですね……」 どう見ても、戦い慣れしてない、素人中の素人と思った相手に、このあたしが胸騒ぎを覚えているのだ。 よほど擬態がうまいのか、彼本人も知らない裏があるのか。 あたしは、この男を警戒し始めていた。 *** 続くっ! ちなみに、タイトルは超適当です。 ただ、とりあえずハーレクインは、ロマンス小説じゃなくて、アルルカンのイメージで! |
32339 | ハーレクインの狂言回し (3) | 律 | 2006/3/7 00:38:38 |
記事番号32333へのコメント < ハーレクインの狂言回し > 男は、邪気のない顔でにこにこ笑っている。 話している内に気がほぐれてきたのか、当初はやや困惑した面もちだったのが、今は屈託というものがない。縛られた上、さっきは蹴っ倒されたというのに。 先程、霞がかかるように、その表情を覆った不透明さも、いつの間にかきれいに拭われている。 「ご心配なく。マインに残っているのは、もう烏合の衆ばかりですから。あなたをどうこうしようなんて話、とんと耳にしてません」 「あんた一人で、ウン年も前に教祖を殺した仇って追っかけてきた訳?」 「僕は、あの教団の信徒じゃありませんでしたよ」 「あんた、さっき仲間がどうたらって言わなかった?」 「ちょっとした冗談です」 男は笑って片目を瞑って見せた。愛嬌のある仕草だが、大の男にやるもんでもない気がする。 いい加減、立っているのに疲れたので、あたしは数歩下がってどすんと備え付けのベッドに腰掛けた。 心の奥底が、警戒しろと内側から叫んでいるのだが、どうもこの男と相対していると気が抜ける。なんだか、いろいろ面倒臭くなってきた。 「ほんっと、変な奴ね……」 「そんな変な奴のことを、随分とお忘れみたいじゃないですか。見覚えがあるって、どこでご覧になったんです?」 「全然、覚えてない」 ただ、あの件を思い出した瞬間、あのときの記憶がこの男と引き合うようにかたく結びついた。 あたしはこの男を知っている。 あの件に関わって見ている。 それしか思い出せないが、それが事実なのは確実だ。 「いちばん最初に訊いて、結局答えて貰ってないけど、あんた」 「はい?」 「何であたしを狙うの?」 これについては、のらりくらりと言い抜けるばかりで、全く口を割らないのだ。 今の、完全に優劣の決したこの状況でも、こいつの態度は相変わらずで、尋ねても徒労だという気がしてならないが、それでも割らせられるものなら割らせたい。 しかし、やっぱり、彼は到底答えなさそうな、つかみ所のない笑みを頬に浮かべた。 「実はですねえ。僕は本当に忘れられたんだなあ、と大変がっかりしてるんですよ」 「あんたはあたしを直接知ってるって訳ね?」 男は小さく笑った。 笑顔を先程の不透明さが紗がかかるように覆っている。 その瞬間、頭の中で、何かが古い記憶を刺激し―― バッタ―――ン!! 「我らが無慈悲な夜の女王よ! 山のものとも海のものとも知れぬ馬の骨を、何とも恐ろしいことにご自分の部屋へ連れ込んだと聞いたが本当かな。若い婦人が感心しないなどと、身を弁えないことは言わないがねレイディ。全く私はいたく嘆き悲しんでいるよ。たとえどれほど巧みに崇拝者が哀れを誘おうとも、顔色ひとつ変えないのが君じゃなかったのかい?」 上から下までオーダーメイドと一目で判る見事な仕立てのスーツを着込んだ、見るからに金持ちの青年紳士が、紳士らしからぬ騒々しさで闖入してきた。 完璧に糊の利いた真っ白なカッターシャツに、目の覚めるような深い群青の背広が、嫌味なくらいな金髪碧眼と姿勢の良い長身に似合っている。 さきほどまで、まるで調子の変わらなかったゼロスが、やや呆気にとられた顔をしているのに、やや溜飲を下げつつ、あたしは溜息をついた。 「断っとくけど、ここのドアが壊れたら、宿屋に弁償するのはあんたよ。ウイリアム」 「それは勿論」 答えると、「外」から来たよく口の回る若君は、苦労知らずに相応しい鷹揚さで笑んでみせた。 |
32340 | ハーレクインの狂言回し (4) | 律 | 2006/3/7 00:40:06 |
記事番号32333へのコメント すみません、オリキャラ入るって言い忘れました。本当に済みません! しばらくの間、少々出張ります。どうかご勘弁! 苦手な方は退避を! ***** < ハーレクインの狂言回し > ウイリアム・エフ・オクスフォード。 あたしがここのところ、ずっとお守りをしている男である。 どこであたしの名を知ったか知らないが、「ご高名は耳にして」などとのたまいつつ、あたしに護衛を依頼してきたのだ。 報酬として提示された、極上のルビーに心惹かれてあたしは了承したのだが、高額に見合うだけの厄介な男だった。 どう厄介なのかはおいおい説明するが、全くどこぞにでも置き去りにしてやろうかと、何度思ったか知れない。ただ、あのルビー……ただの宝石なら、どこでも入手できるが、あれだけの一品が惜しくて縁を切れずにいる。 あたしの目利きに間違いがなければ、あれは、魔力を受け入れる性質がある。魔道具に組み込んだら、さぞかし強力なアイテムになるだろう。研究材料としての価値も見込めそうだ。 何とも絶妙な報酬を提示したもんである。 雇うに当たって、あたしとの交渉に当たった人間の周到さが伺われる。噂しかあたしのことは知らないはずだが、随分と的確に情報を集めたのだろう。 あたしと同じく、ウイリアムのお守りをしている人間なのだが、仕事の内容はだいぶ性質を異にする。つまりは雑用一般なのだが、あんな変な男には勿体ないくらい、何ごとも完璧にやり遂げるのである。 あたしは、若君が盛大にドアを開けたときも、ずっと後ろに影のように控える長身の女性を見やった。 「グレイス。若君の暴走を抑えるのが、あんたの仕事じゃないの? ノックもしないでドアを開けるなんて、あんたならとんでもないって言いそうじゃない」 「通常の場合でございましたら、お止め致しましたでしょうが」 本人は名乗らなかったが、ウイリアムがグレイスと呼んでいる。 黒髪をきつくひっつめて結い上げた顔つきと暗い緑色のドレスは、老練なオールドミスといった風情。ただ、よく見るとまだ若い。三十をようやく越したと言ったところだろう。 冷徹な灰色の目は、揺らぎもせずにこちらを見ているが、分をわきまえるように決して必要以上に強い光は宿さない。 ウイリアムの奔放な明るさに比べ、あたしの見る限り、彼女は落ち着いていて、常に冷静だった。 「お部屋が尋常でない状況下にあるとの御前の御言葉でしたので、緊急時と判断し、手出しを憚らせて頂きました」 「グレイスを責めないでくれたまえ。確かに私は彼女に頼りきりで、グレイスが断言したとあっては、大穴馬に全財産かけるのも迷わないくらいだが、かといって全ての決定権を彼女が握っていると思っちゃいけない。知らなかったかね。主人は私なんだよ。真に賢い主人とは有能な随従に忠実なものだから、よく誤解されて困る」 「あんたほど好き勝手に振る舞う男を知らないわよ、ウイリアム。確かに、グレイスはよく御してると思うけど」 「畏れ多いことでございます。ともかくも、御前の御言葉に誤りはなかったようにお見受け致しますが」 グレイスはウイリアムの茶々にも毛一筋ほども動じず、冷然とした眼差しを、向かいの椅子に向けた。 「椅子に縛られた男性が、うら若き女性のお部屋にいるというのは、確かに尋常な状況とは言い難いと申せましょう。……事情をお伺いしてもよろしいでしょうか?」 最後の言葉は、あたしに向けての問いかけである。 うーん、ウイリアムには関係のない、あたし個人の厄介事に思われたので、巻き込みたくなかったのだが、敢えて介入するならはっきり説明して、下手な誤解を招くのを防ぐべきかも知れない。 あたしも判っていることが少ないので、どう説明をしようか。 軽く眉根を寄せたわずかの間に、馬鹿者はまたもや暴言を吐いた。 「あまり大きな声で答えることじゃありませんよ、グレイスさん。これは僕らのちょっと変わった趣味なんです」 「―――――――ッ!!」 がたごとばたんっ! あたしは再び問答無用に、椅子を蹴り倒した。 |
32341 | ハーレクインの狂言回し (5) | 律 | 2006/3/7 00:41:44 |
記事番号32333へのコメント < ハーレクインの狂言回し > はっきり言って、あたしはその手の冗談が嫌いである。 椅子を立て直してやるどころか、そのまま引きずり回してやろうかとさえ思ったが、客観的にあの馬鹿な暴言そのままの光景に見えることを危惧し、それは耐えてベッドに座り直した。 誰にでも平等に寛大なグレイスは、当然の如く椅子を立て直してやっている。 動きにくそうな古い型のドレスで、軽々とやってのけているところを見ると、けっこう力のある人である。 線の細い感じはないが、ほっそりとした見た目からは、ちょっと意外。 まぁ、女性に対しては老若関係なしに礼儀を尽くすウイリアムが、彼女に限っては、どれだけ荷物を持たせても平然としている辺り、想像してしかるべきだったかも知れないが。 大自然の運行に対するように、己の随従には従順かつ無頓着な御前は、グレイスの行動にはまるで気を払わず、あたしの前にやってくると、見とれるような動きで手を差し出した。 「何?」 「君は殿方との付き合い方を学び直す必要があるね。交際とは双方向の働きかけがあってこそ楽しいもの! まずはディナーから始めよう。全く君の食事の仕方と来たら、料理に対する執着以外何の意思の表れもないじゃないか!」 「ほっとけ!」 「会話を中心にゆっくりと食さなければ満たされないものが、この世にはあるのだよ。全体時間のなかで、相手を見る割合と皿を見る割合を整える必要がある。今のきみは、0:1だ。後者が皿」 「うっさいわね。あんたがバターソテーになって席に座ってたら、熱烈に見つめてあげるわよ!」 「口が利ける段階でお願いしたいね。さあ私の手を取って」 「お断り。今夜は下の定食屋で、AからCセットまで片付ける予定!」 「そんなの明日でも良いだろう。今夜はトレンティーアに予約を取り付けてある。ミリダリ風舌平目のワイン蒸しを食べたいと言っていなかったかね。あそこの店主は気むずかし屋で、いちど予約を取り消した客には、二度と敷居をまたがせないよ」 「っ!」 こ、い、つ、は―――――っっ!!!! まさに高額に見合うだけの厄介な男の振る舞いである。 全くの別天地に来たにもかかわらず、これだけマイペースを崩さずに突き進めるところからも明らかだが、とにかく、傍若無人なのだ。 一人で突っ走るなら、かわいいものだしあたしも多少その傾向はあるが、この男と来たら、あくまでよかれと言いながら、他人を自分の理屈に巻き込んで、山と言うほど面倒を築き上げた挙げ句、そっくり周囲に進呈して澄ましている。 ああ、雇い主でさえなければ! こいつが雇い主でさえなければ、この場ではり倒して一人で食べに行くのに! 怒りを込めてギリギリとウイリアムを睨み付けるあたしを、この期とばかりに外野がはやす。 「ご馳走になったらいかがですか。あなたの激しさに少し僕は疲れてしまいました」 「いっそ過労死して」 「こちらの殿方のお世話は手前が仰せつかりましょう。どうぞお出掛けなさいまし」 「あんたは、ウイリアムを甘やかしすぎ!」 なんで、すかさずその場の全員が一緒になってあたしを追い込む訳。 畜生、魅惑の舌平目! まさしく食べ物につられる形で、あたしは腹立たしげに舌打ちをしながら、ウイリアムの手を取った。 ……ほんっと腹立たしい! 「レイディ、舌打ちは厳禁だ」 この男、もしや、あたしを逆上させるのが目的? **** 思ったよりも出張りすぎましたオリキャラ。 気づかれる前に白状しますが、私は最近、ドロシー・L・セイヤーズが大好きです。ウッドハウスのジーヴスに興味津々です。 次はもちょっとゼロスが喋ります。 |
32349 | Re:ハーレクインの狂言回し (5) | 蝶塚未麗 | 2006/3/9 01:06:00 |
記事番号32341へのコメント はじめまして、蝶塚未麗(チョウヅカミレイ)と思います。 よろしくお願いします! いやー、面白いです。 最初の尋問風景、劇か何かみたいな感じで、とっても素敵でした。 会話にウィットが効いていて、読んでて楽しいです。 今回では、 >「会話を中心にゆっくりと食さなければ満たされないものが、この世にはあるのだよ。全体時間のなかで、相手を見る割合と皿を見る割合を整える必要がある。今のきみは、0:1だ。後者が皿」 >「うっさいわね。あんたがバターソテーになって席に座ってたら、熱烈に見つめてあげるわよ!」 >「口が利ける段階でお願いしたいね。さあ私の手を取って」 とか。 口調とかが想像できて自然な感じだなと思います。 私も「ジョーク辞典」とか読んでるんですが、実際に使いこなすのはなかなか難しくて…… > 気づかれる前に白状しますが、私は最近、ドロシー・L・セイヤーズが大好きです。ウッドハウスのジーヴスに興味津々です。 セイヤーズは表紙が素敵なので一冊買いましたが、残念ながらまだ未読です。 ウッドハウスのジーヴスシリーズも名前だけは知ってるんですが…… 「ミステリといえば日本」「翻訳といえばアメリカ」な人間ですから。 英国ミステリというと「バジル氏の優雅な生活」という日本の漫画が面白かったです。 それでは。 何だか、一面的な感想になってしまいましたが、これで失礼致します。 |
32350 | Re:ハーレクインの狂言回し (5) | 律 | 2006/3/10 00:44:25 |
記事番号32349へのコメント >はじめまして、蝶塚未麗(チョウヅカミレイ)と思います。 思うのか。(ツッコミ) ああっ、挨拶もまだなのにすみませんっ。思わず! >よろしくお願いします! (気を取り直して)こんにちは、蝶塚さん! 律です。 軽く過去ログを見てみたんですが、オロシ・ハイドラントさんだったんですね…! なるほどって感じです。 以前、リョウコという名で書き込んだことがあるのですが、そのときにお話ししたの覚えてらっしゃいます? 相変わらず特徴的なお話の傾向で!(褒めてます) 最近では、他の方へつけたコメントで恐縮ですが、お正月のセンター試験の回答にオチました。 > X>0である時、Xの餅つきはXの鏡餅の二乗根(√)となる。 完全白旗です。 普通の感想はまた。 >いやー、面白いです。 >最初の尋問風景、劇か何かみたいな感じで、とっても素敵でした。 >会話にウィットが効いていて、読んでて楽しいです。 >今回では、 >>「会話を中心にゆっくりと食さなければ満たされないものが、この世にはあるのだよ。全体時間のなかで、相手を見る割合と皿を見る割合を整える必要がある。今のきみは、0:1だ。後者が皿」 >>「うっさいわね。あんたがバターソテーになって席に座ってたら、熱烈に見つめてあげるわよ!」 >>「口が利ける段階でお願いしたいね。さあ私の手を取って」 >とか。 >口調とかが想像できて自然な感じだなと思います。 >私も「ジョーク辞典」とか読んでるんですが、実際に使いこなすのはなかなか難しくて…… 大体、ウィットの効いた会話というものは、話の中身を際だたせるスパイスの役割を果たす為に存在するものなんでしょうが、私の場合、これが目的という事態に陥ることがまま……果たせているかも怪しいもんですが(汗) ジョーク辞典なんて愉快なものお持ちなんですか。 そういうのを、一気に読んだあとって、微妙に口調が変なノリになりませんか。 「…という訳さ!」みたいな感じで台詞をしめくくりたくなる。 最初の二話は、なんか書きたいという気持ちに流れてプロットもなく始めたので(おい)、導入のつかみとかそういう工夫は全くないです。 劇みたいというのは、つまり、ほとんど台詞しかないってことですよね! いやあ、それでも素敵と言っていただけて本当に嬉しい。蝶塚さんのお優しい御心が窺えます。 >> 気づかれる前に白状しますが、私は最近、ドロシー・L・セイヤーズが大好きです。ウッドハウスのジーヴスに興味津々です。 >セイヤーズは表紙が素敵なので一冊買いましたが、残念ながらまだ未読です。 >ウッドハウスのジーヴスシリーズも名前だけは知ってるんですが…… >「ミステリといえば日本」「翻訳といえばアメリカ」な人間ですから。 >英国ミステリというと「バジル氏の優雅な生活」という日本の漫画が面白かったです。 > 本の話に食いついてきてくれた!! アメリカのミステリはエラリー・クイーンくらいですね。読んではいるのですが、読者への挑戦をまともに受けてたったことは一度もありません(さわやかに)。 和物なら江戸川乱歩。ヤバくって好き。今の人だと京極夏彦とか、森博嗣とかの、ちょっと正道からずれたのばかり制覇している私。東野圭吾とか貫井徳郎も、好きは好きなんですが。 バジル氏は超読みたい。評判ばかりは耳にしているんですよね。 私的にあれを読まずして、大手を振って英国ファンとはいえない。世界のどこにもないといわれる夢のロンドンを見たい! セイヤーズは、何を買われたんだろう。誰の死体?とか、不自然な死とか、前期の作品ならさほど長くないし読みやすいですから、読み始めれば案外いけますよ。 もう、浅羽莢子氏の訳が秀逸。 ざっと一冊でも読み通せば、文体が勝手に伝染る。 もしも、次に感想を下さることがあれば、別に私の話のじゃなくて、セイヤーズのでも全然構わないくらいに、私はあの話が気に入っています!(真顔) あとお礼。 以前に蝶塚さん、「アラビアの夜の種族」を気に入っているようなコメントをされていませんでしたか? 私、あのあと見つけて、読んでみたのですが、壮絶に面白かったです。 良いめぐりあいでした。感謝してます。 >それでは。 >何だか、一面的な感想になってしまいましたが、これで失礼致します。 一面的。 そうか、私の話に多面性を感じてくださったんですね。その言葉だけで充分嬉しいです。 ありがとうございました。 つーか、折角、身に余るお言葉を頂いているんだから、妥当に平伏して感謝していればいいものを、つい勢い込んで語り倒してすみません……何でコメント返しがこんなに長いの。しかも馴れ馴れしい。 お気を悪くされなければ幸いです。 それでは失礼をば。 |
32351 | ハーレクインの狂言回し (6) | 律 | 2006/3/11 00:45:13 |
記事番号32333へのコメント 私は嘘をつきました。 嗚呼、ゼロスの出番が……もうちょっと待ってください! **** < ハーレクインの狂言回し > 「それでは乾杯」 目の前で、にこやかに微笑みながら、ワイングラスを差し出す相手を、あたしは無言で見やった。 思いっきりあからさまに溜め息でもついてやろうかと思うが、それも大人げない。 さすがに自分もにっこりと、とまでサービスする気にはならなかったが、それでもまぁ引きつらない程度の表情でグラスを手に取った。 「乾杯」 ちりん、と涼やかな音が鳴った。 ――賭けてもいい。この男の頭の中には、テーブルにおける多様な状況に応じた数多のマニュアルが取り揃えてあるに違いない。 よく自分に関心がないとはっきり分かっている女の前で、こう雰囲気を作れるものである。この域になると、歴戦の強者といった風格さえ漂う。 「前菜が来る前に、尋ねておきたいんだけどね」 「ここってあんたの奢り?」 「君が望むなら」 「いい返事ね。いいわ。なにが聞きたいの?」 「あの男と君は親しいのかい?」 あたしは思わず、くっと喉で笑った。 ウイリアムは聞いているはずだ。はっきりゼロスは、あたしを殺そうとしていると言った。 店に行くに当たって、グレイスひとりをゼロスの元においていくことに、難色を示したあたしに彼は言ったのだ。 殺したいのはあたしであって、他の人間ではない、と。 次にグレイスが、差し出がましいようだが、自分も決して容易い相手ではない、と言ってどことなく物騒に微笑み、それについ呑まれたあたしは、強く反論する機を逸した。 そんなわけで、結局二人置いてきてしまったのだが。 あのやりとりを聞いて、あたしとゼロスがオトモダチだと誰が思う? 「昔どっかで恨みを買ったみたいだけどね。あたしにしちゃ初対面よ」 「それはいつ」 「あんたの依頼を受けてすぐよ。三週間くらい前かしらね」 「ほう。それは意外」 いかにも身に付いたもったいぶり方で、ウイリアムはグラスの中の液体をくゆらした。 香りと味を確認し、偉そうにまずまず、といった顔をする。 ――ほんっと、タイプじゃないな、この男……。 「別に人見知りするたちでもないし。あいつも引っ込み思案とは言い難いみたいね」 「おや勘違いをしているね。無論、会うたびハグとキスが欠かせない仲に見えたというわけではないよ。ただ、君の言い方が既知の友人に向けるものに聞こえたのさ」 「あたしなんか言った?」 「チェスがどうの」 つまらないことをよく覚えている。 確かに、そんなことを言ったかも知れない。コースだとウイリアムが言ったから、これは時間がかかりそうだと思ったのだ。チェスでもやって待ってろと言った記憶がある。 「グレイスとチェスでもやってれば、とか言ったわね」 「その答えは正確性に欠ける。『チェスでもしながら宮仕えの苦労でも語り合ってれば』。君はそういった」 「ほんっと、つまんないことをいちいちよく覚えてるわね!」 「もう少し素直な表現で褒めてくれ。羨ましい記憶力だろう? 私はあの言葉に、以前にも、似たようなことがあったのかと思ったんだよ。あるじゃないか。昔のことを軽く揶揄して思い出させる言い方。『へぇ、待ち合わせかい? コートとマフラーを忘れずに!』」 「以前に、待ちぼうけでも食らわされた人間?」 「そう。吹きっさらしの寒空の下でね。私は言ってやったものだ。……君の言葉は、その類を想起させる声音だった」 「そのつもりはないけど」 「つもりがなくても、だ。彼は、君がどこかに行っている間、誰かとチェスをして待ってたことがあるのか、と思った」 「ばっかばかしい……」 馬鹿馬鹿しい。 あたしは単に、相手がグレイスだからちょうどいいと思っただけである。 彼女と来たら、完璧な使用人然とした振る舞いが、むしろ食えないくらいの域に達している。 ゼロスと二人向かい合っていたら、お揃いでいかにも本性隠してますと言わんばかりで面白いだろう。鬼の居ぬ間とばかりに、こそこそと何か示し合わせるなら、やっぱりまたチェスでもやるのかと―― (また?) あたしは眉をひそめた。 何を考えている。 (これじゃ、ウイリアムの言う通りみたいじゃない) まるで、あたしのいない間に、互いの正体がバレないように、「今回はお互い不干渉」とでも言い合っているようなことが以前にも……。 (!?) 何かが記憶の端に引っかかった。 ――「……『僕の正体をみんなにはバラすな。かわりにそっちの正体もバラさない。今回はおたがい不干渉』って約束しといたんですけど」 ――「あなたにバレてたなら、あんまり意味がなかったみたいですねぇ」 (これは、) 誰の言葉だ? あたしは、手を口元に当てた。 店の中は暑いくらいなのに、指先が驚くほど冷たくなっている。 今、あたしはゼロスの声で一体何を思い出した!? 「君は無意識に情報をこぼしているらしい。抜け目ないように見えて、そういうところが案外かわいらしい。それとも何かの影響でも受けているのかな?」 「……」 「疑問に思ったのにはもう一つある。宮仕えといったね」 眉を寄せて視線を落とし、顔も向けずに記憶を探るあたしの様子にまるで構わず、ウイリアムはのんびりと言葉を続けた。 「彼が誰かに仕えているという話を、いつ聞いた?」 そんなの、一度だって聞いた覚えなんかない。 |
32353 | Re:ハーレクインの狂言回し (6) | 蝶塚未麗 | 2006/3/11 20:44:42 |
記事番号32351へのコメント こんばんは、蝶塚です。 今回も楽しく読ませていただきました。 まさかリョウコさんでしたとは。 道理で小説うまいわけですね。 もちろん覚えていますよー。 やっぱり会話シーンお上手ですねえ。 凄く自然で雰囲気出てます。 センスを感じます。 それに、ウィリアム氏の名探偵のごとき鋭い指摘。 リナがゼロスのことを覚えていないという謎。 それにグレイスさんもどうやらただ者ではないらしいようで…… この後、どうお話が展開していくのか非常に気になるところです。 さてここからは、前回の感想に対して頂いたコメントについて。 >>はじめまして、蝶塚未麗(チョウヅカミレイ)と思います。 > > 思うのか。(ツッコミ) あっ、ミスっちゃいました。 多分、当時「思います」がいっぱい出てくる文章を書いてたんだと思います。 挨拶文って結構定型的ですからどうしてもチェックがゆるくなるんですよね。 灯台下暗しな感じでした。 うっかりしていてすみません。 >> X>0である時、Xの餅つきはXの鏡餅の二乗根(√)となる。 > 完全白旗です。 割と数学が好きなんですよ。 映画にもなったみたいですけど小川洋子の「博士の愛した数式」って本読んだお陰で。 いや、問題解くのは死ぬほど大嫌いなんですけどね。 もうすぐ大学生なのに因数分解すらまともにできませんし(英語は英語で中学生レベルだし)。 > 大体、ウィットの効いた会話というものは、話の中身を際だたせるスパイスの役割を果たす為に存在するものなんでしょうが、私の場合、これが目的という事態に陥ることがまま……果たせているかも怪しいもんですが(汗) でも会話が魅力的な小説は魅力的ですから、そこに力を入れるのも一つの手だと思います。 私自身は気になりつつも読んでないんですがギルバート・アデアって人の「閉じた本」って作品は、会話と独白だけで構成されているみたいですし。 > ジョーク辞典なんて愉快なものお持ちなんですか。 いえ、図書館で借りただけです。 正式名称は「ジョーク・ユーモア・エスプリ大辞典」(野内良三)。 小咄みたいなのが700個くらい入ってて結構お得な感じでしたけど、何か下ネタが異様に多かったような…… > そういうのを、一気に読んだあとって、微妙に口調が変なノリになりませんか。 > 「…という訳さ!」みたいな感じで台詞をしめくくりたくなる。 昔は思い切りありましたけど、最近はそうでもないかも。 ただボケようとする回数は増えます。 うまくいかないか、うまくいっても通じないかのどっちかですが。 > 劇みたいというのは、つまり、ほとんど台詞しかないってことですよね! その台詞が面白い、という意味です。 > アメリカのミステリはエラリー・クイーンくらいですね。読んではいるのですが、読者への挑戦をまともに受けてたったことは一度もありません(さわやかに)。 クイーンは「Xの悲劇」読んでその論理展開にものすごく感動したんですが、同時に頭も痛くなってそれ以来、読んでないです。 アメリカで好きなのはブラッドベリです。 ミステリじゃないですが、ノスタルジックで詩的で素敵。 > 和物なら江戸川乱歩。ヤバくって好き。今の人だと京極夏彦とか、森博嗣とかの、ちょっと正道からずれたのばかり制覇している私。東野圭吾とか貫井徳郎も、好きは好きなんですが。 乱歩の「赤い部屋」とか「人間椅子」とか大好きです。 ちょっとしか読んだことないですが安部公房なんかも好きですね。 京極夏彦は「邪魅の雫」待ち。 森博嗣は「浮遊研究室」シリーズがバイブルです。この人には是非ジョークの本を出して欲しい。 東野圭吾はブラックユーモア系しか読んだことないですね。なかなか面白かったですけど。 貫井徳郎だと「プリズム」かな。「慟哭」とか「修羅の終わり」みたいな作品が代表作なんだと思いますけど、まだ読んでないですから。 後は山口雅也なんかがいいです。 妖しげな雰囲気の館が大大大好きなので綾辻行人、二階堂黎人辺りも。 > バジル氏は超読みたい。評判ばかりは耳にしているんですよね。 > 私的にあれを読まずして、大手を振って英国ファンとはいえない。世界のどこにもないといわれる夢のロンドンを見たい! 私はブックオフで手に入れました。 あれはかなりの名品だと思います。 > セイヤーズは、何を買われたんだろう。誰の死体?とか、不自然な死とか、前期の作品ならさほど長くないし読みやすいですから、読み始めれば案外いけますよ。 > もう、浅羽莢子氏の訳が秀逸。 > ざっと一冊でも読み通せば、文体が勝手に伝染る。 「誰の死体?」です。 今は大作「嵐が丘」に挑んでいるところなので(まだ50ページくらいしか読んでないですが)、その後にでも読んでみようと思います。 ウッドハウスも面白そう。 > もしも、次に感想を下さることがあれば、別に私の話のじゃなくて、セイヤーズのでも全然構わないくらいに、私はあの話が気に入っています!(真顔) じゃあセイヤーズの「も」ということで(笑)。 > 以前に蝶塚さん、「アラビアの夜の種族」を気に入っているようなコメントをされていませんでしたか? > 私、あのあと見つけて、読んでみたのですが、壮絶に面白かったです。 > 良いめぐりあいでした。感謝してます。 あー、何だかこっちが嬉しいです。 あの作品は私の中で別格ですので。 > 一面的。 > そうか、私の話に多面性を感じてくださったんですね。その言葉だけで充分嬉しいです。 字の文の独白もうまいですし、オリキャラも素敵ですし、リナがゼロスを忘れたという謎もありますから。 それではこれで失礼致します。 |
32356 | Re:ハーレクインの狂言回し (6) | 律 | 2006/3/12 23:22:03 |
記事番号32353へのコメント >こんばんは、蝶塚です。 こんばんは、律です♪ リョウコを覚えていてくださったみたいで嬉しい! 思います、はボケだと思ったので、これはツッコまねば!と張り切ったのですが、天然だったのですね!(笑) 会話シーンはですね、褒めて貰ったら、ちょっと意識しちゃったのか、微妙に不自然になった気がします……なんてヘタレな。ここは、セイヤーズでも読み直して、調子を取り戻します。 ストーリーに関しては、あとあと墓穴を掘らぬよう、取り敢えずいまは黙秘で。 これからどう話が展開するのか、広げた風呂敷を私は畳めるのか、いろいろな意味でスリリングなこの先をお楽しみに!(待て待て待て) 数学に関しては、私は愛憎様々な気持ちを抱いています。 高校時代ですね、なにをとち狂ったか、国立大学志望だったので、かなり頑張ったのですよ。そして最終的に、私はあなたを永遠に愛せない、とつぶやいて縁を切りました。 あれだけ努力して嫌いなのだから、私と数学は完璧に相容れない仲なのです。きっと前世で仇かなんかだったんだわ……(全てを説明できる魔法の言葉)。 ただ、「博士の愛した数式」は、確かに素晴らしかったですね。私の頑なな心もちょっと和らぎました。 でも、解くのははっきり嫌いです。もー無理。 >私自身は気になりつつも読んでないんですがギルバート・アデアって人の「閉じた本」って作品は、会話と独白だけで構成されているみたいですし。 聞いたことないですそれ。 わー、今度探してみようかしら。大学にあるかな? >小咄みたいなのが700個くらい入ってて結構お得な感じでしたけど、何か下ネタが異様に多かったような…… そういえば、最近、見つけたちょっと品のないサイトにあったフレンチ・ジョーク。 夫の帰りが遅いので心配になった妻が母親に電話をした。 「女ができたんだわ」 「どうしてそう悪い方へ悪い方へと考えるの。交通事故に遭っただけかもしれないじゃない」 もっときわどいのも沢山ありました。 なんで、ジョークってそういうのが多いんでしょうねえ。私は好きですが(暴露)。 >> アメリカのミステリはエラリー・クイーンくらいですね。読んではいるのですが、読者への挑戦をまともに受けてたったことは一度もありません(さわやかに)。 >クイーンは「Xの悲劇」読んでその論理展開にものすごく感動したんですが、同時に頭も痛くなってそれ以来、読んでないです。 >アメリカで好きなのはブラッドベリです。 >ミステリじゃないですが、ノスタルジックで詩的で素敵。 ブラッドベリは好きですよ……! 昔、新井素子の小説に、「たんぽぽのお酒」が出ていて、それがきっかけで読んだんですが、大好き!左に挙げたのは勿論のこと、「雨ぞ優しく降りしきる」とかご存じですか? あれも、ほんとノスタルジックで詩的で素敵で! 長編は読んだことがないのですが、短編は結構持っています。 最近、「いかづちの音」が映画化されましたよね……公開されるまえに、読もうかな。 ドルリー・レーンについては、Yもお勧めですよー。私としては、Xから最後の事件まで読み通されることをお勧めします。 ただ、確かに頭は痛くなりますよね。一気読みすると頭がしばらく使い物にならなくなる……。 私は、どちらかというと、国名シリーズの方が親しみやすいかなと思っています。 >乱歩の「赤い部屋」とか「人間椅子」とか大好きです。 >ちょっとしか読んだことないですが安部公房なんかも好きですね。 >京極夏彦は「邪魅の雫」待ち。 >森博嗣は「浮遊研究室」シリーズがバイブルです。この人には是非ジョークの本を出して欲しい。 >東野圭吾はブラックユーモア系しか読んだことないですね。なかなか面白かったですけど。 >貫井徳郎だと「プリズム」かな。「慟哭」とか「修羅の終わり」みたいな作品が代表作なんだと思いますけど、まだ読んでないですから。 >後は山口雅也なんかがいいです。 >妖しげな雰囲気の館が大大大好きなので綾辻行人、二階堂黎人辺りも。 もおお、蝶塚さんっ。 本の趣味被ってませんか? 乱歩はまさにそれが私のお気に入りですよ。あとは「屋根裏の散歩者」「押絵と旅する男」とか……あと「芋虫」……(視線を逸らす)。 そして、その文脈で安部公房の名前を出してくるところに感動。私も好きです。私の本棚にあるのは、「箱男」「終わりし道の標に」だけなんですが、家のどこかに他のもありそう。「砂の女」とか好きですね。 貫井徳郎は、「慟哭」お勧めです。「修羅の終わり」は、私はイマイチでしたけど、好きな方は好きかも。「慟哭」はお勧めです(しつこい)。 山口雅也は結構見たことのある名前ですね。つか名前が好きで見覚えていたようです。 綾辻行人とか、二階堂黎人は気にしながら読んでない……妖しげ、って感じなんだ。いま食指がぴくりと。 漫画って、図書館で借りられないのが痛いんですよね。 バジル氏は、私もブックオフあさろうかなあ。 いま実は、文庫で「パトレイバー」全巻を見つけて、どうしようか悩んでいるところで。 財布の中身もさることながら、本棚が最近、日に日に威圧感を増しているんですよね……。非難がましく黙ってないで、言いたいことはハッキリおっしゃい! って、いきなし口利かれたら超怖いですけど。 >今は大作「嵐が丘」に挑んでいるところ 「嵐が丘」!はー!無理!ですね。 読んだことがありません。あらすじを至る所で目にするので、どっかで読んだことがあるような気すらしていますが、まちがいなく未読です。 あれだけの作品になると、ある程度まとめて読まなきゃ中身忘れません? いまの私に、それだけの体力があるかしら。 翻訳物の長編の中には、なんだか読むのにすごいエネルギーを搾り取られるようなのありませんか? 日本の小説にもそういうのはありますけど、翻訳独特の感じで。読んでいる量が足りないのかなあ。 「嵐が丘」は、一行も読んだことがないので、実際どうだかは知らないのですが、なんとなく、私はその類ではあるまいかと疑っています。 そうでもないようなら、教えてください。思い切って手を出してみるかも知れません。 翻訳長編で言えば、かねてより「エマ」を読みたいと思っているのですが、一度どこかで見かけたハードカバーの分厚さに怯えて、改めて探す気になれない私。 それに比べて、セイヤーズは楽ですよ。 「嵐が丘」にちょっと疲れることがありましたら、息抜きのように読んでご覧になってみてもいいかも。 「誰の死体?」なんて、字間行間もよく空いてて、セイヤーズ作品のなかでも、ほんっとうに読みやすい作品です。 ああ、久しぶりに語り倒せて幸せです。 本当に、ありがとうございました。 もし機会がありましたら、他にも、お勧めなど是非、紹介してくださいませ♪ とりあえず、セイヤーズを読まれることがあったら、是非感想を聞かせて下さいね! それでは失礼をば。 |
32365 | ハーレクインの狂言回し (7) | 律 | 2006/3/15 01:43:40 |
記事番号32333へのコメント < ハーレクインの狂言回し > 「お早いお戻りで」 優雅に淀みなく、グレイスは椅子から立ち上がった。 二人は、本当にチェスをしていたらしい。 女性一人の腕で大変ではなかったのだろうか。ベッドの脇にあったナイトテーブルを動かし、自分の部屋から椅子を持ってきたのだろうが、チェスボードの類はどこから入手したのか。 ともあれ、あたしのいない間、無聊を慰める材料はあったようである。 「任せちゃって悪かったわね。ゼロスは大人しくしてた?」 「それが、なかなか攪乱させられました。大変、面白い話をしてくださるので、つい盤上から意識が離れまして」 「ゲーム中の作法の話してるんじゃないんだけど……ウイリアムは、部屋に戻っているわ」 「それでは失礼させて頂きます」 グレイスが、部屋を下がろうとするのを横目に、あたしはチェスボードを覗き込む。 ゼロスはとぼけた表情ながら、じっと盤を見ながら考え込んでいるようである。 「考え中、悪いんだけどね。尋問の時間よ。チェスボードは片付けます」 「んー、ちょっと待ってください」 「駄目に決まってんでしょ。しかも、あんた序盤に失敗してない? 中止になってこれ幸いじゃないの」 「あと15分頂ければ、展開は変わるんですよ」 「負け惜しみって言葉知ってる?」 「負けたあとに言うセリフですよね?」 ああいえばこういう。 しかし、見たところ飄々とした言動からして、こういう勝ち負けに執着しそうなタイプには思えないのだが、意外にこだわる奴である。 無論、あたしにゼロスのこだわりに付き合うつもりは毛頭ない。 「グレイス。これあなたの?」 「いえ。御前がお貸し下さいました。まずは、こちらに持って参りました椅子を戻しますので、今しばらくお待ち下さい」 「そっか、オーケイ。駒は片付けとくわ」 「……」 グレイスは珍しく迷うような様子を見せた。 いつもならば、無駄な動作なく丁寧に会釈して、さっさと、だが礼儀正しく去っていくのだが、椅子から立ち上がったまま動かず、背もたれを握りしめて、ゆらゆらと視線をナイトテーブルに向けている。 「グレイス?」 「15分……」 まさか、彼女までゲームの勝敗をきっちり付けたいなどと抜かすつもりか。 そのまさかだった。 思い切ったように顔を上げると、グレイスは頭と肩を動かさず、足音も立てないという、優雅というか物騒というか、といったなめらかな動きですっと近づいてきた。 「勝手を申し上げる立場におりませんのは重々承知しておりますが。15分間だけ、頂けないでしょうか」 「あ、あんた、決着つけたい訳?」 「無論、御前のお許しが頂けなければ諦めますが、今のところ勝ち数が同じなのです。大変良い勝負が続いたこともありますし、途中で切り上げるのは大変惜しく思うのでございます」 妙なシチュエーションになってきた。 自分を狙ってきた男を縛り付けたまま、同僚をひとり残して雇い主と食事に行ったのは、やっぱりまずかったのか。 なんで、いつの間に、この二人が好敵手になってる訳! 変な奴ら…… 内心呆れながら、あたしはどうにでもしてくれと思った。 「好きにしたら。ウイリアムの許可が得られたら、別に問題ないでしょ」 「有り難うございます」 「僕からもお礼を言いますよ」 珍しく顔に喜色を浮かべるグレイスと、にこやかに軽く会釈をするゼロス。 あたしは、いわく言い難い表情になって、彼を見つめた。 「……何か?」 「なんでもないわ」 視線を外して、窓の外に向ける。 夜の気配が濃い。既に月は高く、そろそろ夜中と言っていい時分である。 ゼロスがやって来たのは、夕陽が沈もうかという頃だった。 大した時間もかけずにはり倒したから、もう彼を椅子に縛りつけてから、随分な時間が経った計算になる。 あたしが、しばらく時間を置いたのは、あまりにのらりくらりとしたゼロスの様子に、当分は尋問も意味がなさそうなことを見てとって、しばらく放置する間に疲労を誘う狙いもあったのだが……。 それどころか、頭を使うという点で体力を消耗するチェスに興じ、あたしが帰ったあとも、敢えて尋問前まで続けようと彼は言う。 (化けもんか、こいつは) 戦うという点では、笑ってしまうような馬鹿ばかりしているが、体力という、一面、戦闘において決定的な意味を持つ能力においては、実は侮れない男なのかも知れない。 まあいい。 今は元気のようだが、不利な勝負をひっくり返そうとすれば、当然、15分といえども体力には一定の打撃を与える。 あたしから見れば、自殺行為に近い酔狂も、素人のゼロスには、いかに自分に致命的な影響を及ぼすか、考えが至らないのだろう。 ――そうに、違いない。 「そうね。ウイリアムも文句は言わないわよ。あたしが断ってくるから、引き続きやってれば?」 理由のわからない引っかかりを心のどこかで感じながら、あたしはにっこり笑って言った。 |
32366 | ハーレクインの狂言回し (8) | 律 | 2006/3/15 01:46:46 |
記事番号32333へのコメント < ハーレクインの狂言回し > ウイリアムに断りを入れて、部屋に戻ると、二人はもう続きを始めていたらしく、共に盤上を見つめていた。 脇から覗いてみると、動きの鈍い感じだったゼロスの駒も、遅ればせながら中央に出ていて、少々込み入った盤面になっている。 「お帰りなさいませ。ウイリアム様は何と?」 歩兵を動かして問うグレイスに、あたしはベッドに腰を下ろしながら軽く答えた。 「ご苦労様って笑ってたわよ。覗きに行きたそうだったけど、プレッシャーになると悪いから見ないって」 「お得意なようですから。――ご覧になるのであれば、椅子を持って参りますが」 「いいわよ! あたしに気にしないでやってて。あたしはこっちのことしてるから」 「それではお言葉に甘えて」 グレイスが目を盤上に戻すと、ゼロスがすかさず、指し手を口にする。彼女はその通りに駒が動かした。 なるほど。 縛られていて、手が使えないから、グレイスが代わりに動かすわけだ。自然、ついでに雑談もかわされる展開になったのだろう。 やはり、ゼロスを責め立てるのは、グレイスが部屋から去るまで待つ必要がありそうだ。 彼女の言動から、それなりの修羅場経験がありそうなのは窺えるが、それでも、今まで主にこなしてきたのは、お坊ちゃんのお世話係なのだ。殺し合っても構わないという覚悟済みでやり合う傭兵とは、感覚が随分違うだろう。 少なからず接触を持った人間に酷いことをする場面を、彼女にはあまり見せたくない。 つらつら考えつつ、椅子を持ってくるでもなく、立ったまま盤上を眺めていると、グレイスが指すのを待っているゼロスが声をかけてきた。 「そういえば、僕のことは、身の程知らずな素人と思われているんじゃなかったんですか?」 「思ってるわよ。戦い方も知らないであたしの命を狙おうなんて、百万年早い。とんだ笑い話だわ」 「笑い話にしては、扱いが苛酷だと思うんですけど」 「さすがにつらくなってきた訳? 残念でした。あんた怪しいのよ。容赦する気はないわ。いい加減回数も重なってきたし」 「酷いなあ……あ、グレイスさん、僧侶を」 ゼロスが、マスを指定する。あたしと会話しながらも、ゲームの進行はきちんと追っているようだ。 不利な形勢を覆すと言っているのだから、もっと集中した方が良いんじゃないか、とも思ったが、これも彼のやり方のひとつなのかも知れない。そういえば攪乱させるとグレイスが言っていた。 「しかし、何を根拠に僕を素人だと判断するんです?」 「あのね……」 何を今更、根本的なことを。 「戦闘中に変な真似する奴は少なくないわ。でも、それも大概一貫性がある。それなりにポリシーに則ってるもの。それに引き換え、あんたのって、訳判らないのよ」 「僕、何しましたっけ?」 「とぼけてんじゃないわよ。最初っからあんたは変だった」 実のところ、恨みを買うのには慣れている。知らない相手から奇襲されるのは、あたしの生活の中でさほどの珍事でもない。その都度片付けて、次の日には忘れている。 しかし、彼の場合は、週に二度三度とやって来て、とんだポカをやるのだ。まともな戦士だったら、いつ死んでいてもおかしくない。平気でそれを繰り返せる彼は、ミスが命取りになる状況を知らない。 だから、ゼロスは素人だとあたしは判断するのだ。 「ご丁寧に、宿屋のあたしの部屋にやってきてノックしてきたでしょ。そんな刺客いないっつの。油断させるつもりかと思いきや、全身白ずくめで、フードを目深に被ってるし!」 「素顔を見られたくなかったんですよ」 「思いっきり怪しかったわよ。あんたもいってたじゃない。『自分でも怪しいと思いますよ。普通ならこんな怪しい人間、部屋の中に入れたりしませんね』って」 「入れてくれたじゃないですか」 「廊下ではり倒すより、部屋ではり倒す方が、他人に迷惑かかんないでしょ」 「なるほど」 そこで納得してくれるなと思うのだが。 ――第一回はそれだった。それで終われば、あたしも忘れたかも知れない。しかし、第二弾が来た。 「一回目、素顔を見られたくないってこそこそやってきた奴が、何で次は口上付きで颯爽と登場する訳?」 「颯爽なんて言われると照れちゃいますが」 「皮肉ってんのよ。脈絡なく木の上に現れて、『正義の鉄槌を下して差し上げます、覚悟!』とか何とか言って、飛び降りてきて」 「格好良いじゃないですか」 「着地に失敗しなきゃね!」 大体、この男の口から正義という文句が出てくると、違和感を覚えてしょうがない。ある意味、清々しいくらいに、口先と判るので、さほど厭らしい感じはしないのが幸いだが。 ああいうのは、もっと若い女の子とかが、一片の迷いも曇りもなく、目を輝かせて言えばかわいげがあるというもんである。 三回目もかなりキていたと思う。 人通りの少ない、郊外の辺りに足を伸ばしたときに、彼は再び現れた。 「その次は、三度目の正直と、かなり気合いを入れて挑んだんですけどねえ」 「変装するなら、もっと目立たなくて動きやすい扮装を選ぶことね。何なのよ、あのキンキラの長髪は!?」 「カツラです」 「んなこた判ってるわ。似合わない甲冑と長剣なんて持っちゃって。結局、まともに動けなくて自滅。あたしは笑ったわよ」 「コンセプトは、金髪美青年剣士!だったんですよ」 「繰り返すけど似合わなかった。あーいうの、もうちょっと体格とか筋肉量がなきゃ着こなせないのよ。なんて言うか、もっと……」 背は見上げるほど高く、袖から覗く腕はもっと太く筋肉質でなきゃ。 顔立ちも、底の読めない笑みではなく、もっと朗らかで明るくて、優しい青い目をした―― あたしは口をつぐんだ。 「もっと?」 にこやかに、ゼロスが先を促す。 あたしは、眉をひそめた。 (もっと?) ゼロスは笑ってしまうくらいに、あの甲冑姿が似合っていなかった。そう、あたしは不出来な扮装だと笑った。全然、真似できてないじゃないか、と。 (何の?) いやに具体的なイメージが頭の底から、泡のようにぷかりと浮かんだ。 「どうかされました?」 返事をしないあたしに、問いかけるゼロスの声が笑みを含んでいる。 おかしい。 あたしは唇の内側を軽く噛んだ。 この男はおかしい。 ――いや、あたしがおかしいのだ。だが、彼に関わると、あたしがおかしくなる。何か、あたしの基盤が揺らいでいる。 「…………」 確かめるように、ゼロスはあたしをじっと見ている。 あたしは沈黙して目を伏せた。 無意識のどこかが、記憶を探り回している。奥底で何かが、出せ出せと拳を叩き付けている。 頭の芯が痛い。 「――ゼロス殿。貴方の番です」 あたしたちのやりとりを一顧だにせず、グレイスが淡々と順番を告げた。 |
32367 | ハーレクインの狂言回し (9) | 律 | 2006/3/15 01:51:06 |
記事番号32333へのコメント < ハーレクインの狂言回し > グレイスが部屋に戻そうと椅子を持って行くのに、ウイリアムに返すチェス盤を持って付き合いながら、あたしは茶化す口調で言った。 「意外だったわよ、あなたが負けるなんて」 「恥ずかしながら、幾つか手を間違えました」 「あんだけ喋ってて、よくゼロスも間違えないもんよねー。むしろ、あなたの方が攪乱させられたみたいだし」 突然、グレイスが足を止めた。 思わず気づかず、そのまま置き去ってから、あたしは振り向いた。 「どうしたの?」 「あの男は何者ですか?」 灰色の眼差しに宿る光が強い。 初めて、まっすぐに強く見据えられて、あたしは少し狼狽えた。 自分は主に仕えるただの影と言わんばかりに、常に出過ぎることを恐れるようなさりげなさで佇んでいる彼女が、彼女自身の言葉で何か答えを求めてくるなんて初めてのことだ。 チェス盤を持ち直して気を取り直し、あたしは苦笑して見せた。 「あたしもわかんないのよ。部屋に戻ったら、何が何でも訊きだしてやるつもりだけど」 「以前から、貴女のことをよくご存知のように拝察致しました。そして、その理由を貴女自身がご存知でない」 「――グレイス」 らしくないことを言うわね。 あたしのことよ。自分で始末をつけるから気にしないで。 他人の介入は必要ないわ。ほっといてくれていい。 頭の中で、いくつかの返答が浮かび上がって沈む。 あたしとゼロスが問答をしている間も、彼女は顔色ひとつ変えず、淡々と盤を見つめていたのだが――当たり前だ、聞こえていないはずがない。 あくまで、影のように振る舞うから、何となく彼女の存在に気を払うことを忘れていたのか。 今、返答につまる羽目になっているのは、完全にあたしのミスである。ゼロスの誘導に乗って、むざむざ動揺を晒した。 「すました顔で、意外に聞いてるわね」 「出歯亀をする上での良策をお教えしますと、まずは自己の存在感を希薄にし、好奇も感情もない人間のように振る舞うことです」 「だけど、その実そうでもない、と」 グレイスは例のすました顔をしたが、目に少し悪戯な色がある。 なるほど、彼女がゼロスにチェスで負けた理由がわかった。 思わぬところで、この完全無欠といわんばかりの有能人間も、かわいげを見せてくれるものである。 もしかして、あたしはまんまと騙されていたのかも。 「お気になさらず。年季が違います」 あたしの心を読んだように、すかさず言ってのけるあたり、よく頭が回るのは間違いない。 なかなかに役者だ。 なんで、彼女があんな極楽トンボに仕えているのか、つくづく判らない。いや、ウイリアムも頭は回るが、どうも浮ついて楽しきに流れる傾向が強い。 一方、グレイスはどっしり地に足をつける一方で、さりげなく戯れに視線だけを遊ばせている感じだ。 おそらく、この二人の旅路の舵取りは完全に、グレイスが握っているのだろう。 「それで、あの男は一体?」 逸らした話も、ちゃんとまた戻している。 抜け目ないことだ。 あたしは、ため息をついて、チェス盤を持ち直した。 「昔、どこかで見知ってたような記憶はあるわ。その辺り丸ごとなんだか思い出せなくてね。ただ、あいつといると刺激されるのか、何か思い出しそうになって、頭が痛くなる」 「彼は、貴女に思い出させようとしているように思います」 「気づいてる。あたしの都合お構いなしな感じがむかつくのよね……それで実際、いちいち色々こじ開けられてるのが業腹だわ」 「しかし」 いい加減、立ち話も何なので、グレイスの言葉を途中に、目で先を促し、歩き始めるとグレイスも付いてきた。 長いコンパスで、簡単に追いついてきて隣で言葉を続ける。 「しかし、自分の中に欠けた記憶があるのも、また不愉快なのでは?」 「……それは確かにそうだけど」 「記憶は過去から現在を結ぶ糸のようなものです。現在から糸を手繰り寄せ、過去を遡ることができてこそ、今の自分の立脚点を確かめられる。貴女は今、現在の自分に繋がる糸が断たれている。気づかない間はともかく、気づいたとあっては、そのままではいずれ不安に襲われることになります」 「語るわね」 「常日頃から絶えず影を務めていると、鬱憤が堪るのです。ご容赦を」 「いいわよ。あなたの言う通りだわ」 宿屋の部屋の間取りは、あたし、グレイス、ウイリアムの順で、次第に奥になっている。 グレイスが、自分の部屋に入って椅子を戻すのを、戸口のところで待ちながら言った。 「こじ開けられるのが不快なら、自分で思い出せばいいんだし」 部屋を出てきたところでチェス盤を渡すと、グレイスはいつも通り、落ち着いた眼差しであたしを見つめながら、それを受け取った。 その食えないすまし顔に、あたしは、にっこり笑って見せる。 「ゼロスは得体が知れないし、狙いもなんだか穏やかじゃない気がするから、あいつの示唆通り思い出すつもりはないわ。自分の記憶なら、自分で取り戻せばいい」 「私見で恐縮ですが、それがよろしいかと私も思います。あとは」 彼女が付け加えた言葉は独り言じみていた。 「なぜ、ゼロスが私にあの会話を聞かせたかですね……」 「他人に気を回すタイプに見えないわよ、あいつ。聞かせるつもりもなかったんじゃない?」 あっけらかんと指摘すると、グレイスははっと改めてあたしを見下ろした。 ややあって、くすりと苦笑する。 「確かに、その通りですね。愚問でした。――これから、御前の元へ参りますが、何か御用件でもあれば仰せつかります」 「なんもないわ。おやすみグレイス」 「お休みなさいませ」 あたしとグレイスは、そこで分かれて互いに逆の方向へ向かった。 |
32368 | Re:ハーレクインの狂言回し (9) | 蝶塚未麗 | 2006/3/15 19:27:36 |
記事番号32367へのコメント こんばんは、蝶塚です。 面白くなってきましたね。 >「グレイス?」 >「15分……」 で大笑いしたんですが、まさか巧妙な作戦だったとは。 しかもその動機が好奇心。 いや、それさえ本当なのかどうか分かりませんね。 なかなか油断のできない人物です。 身近にいたら迂闊に何も言えなくて怖いですね。 ゼロスの方もゼロスの方で、 >「ご丁寧に、宿屋のあたしの部屋にやってきてノックしてきたでしょ。そんな刺客いないっつの。油断させるつもりかと思いきや、全身白ずくめで、フードを目深に被ってるし!」 >「素顔を見られたくなかったんですよ」 >「思いっきり怪しかったわよ。あんたもいってたじゃない。『自分でも怪しいと思いますよ。普通ならこんな怪しい人間、部屋の中に入れたりしませんね』って」 >「入れてくれたじゃないですか」 >「廊下ではり倒すより、部屋ではり倒す方が、他人に迷惑かかんないでしょ」 >「なるほど」 のところではまだ気づかずにクスクス笑ってたんですが、 >「一回目、素顔を見られたくないってこそこそやってきた奴が、何で次は口上付きで颯爽と登場する訳?」 >「颯爽なんて言われると照れちゃいますが」 >「皮肉ってんのよ。脈絡なく木の上に現れて、『正義の鉄槌を下して差し上げます、覚悟!』とか何とか言って、飛び降りてきて」 >「格好良いじゃないですか」 >「着地に失敗しなきゃね!」 で、笑みが凍りつきました。 ゼロスだけでなくみんなのことを忘れていたとは。 確かに考えてもみればその方が自然ですけど、何らかの理由でゼロスがピンポイントに記憶消したとか勝手にそういうこと考えてたので愕然とさせられました。 これぞミスディレクションというやつですね!(何か違うよーな) この後一体どのように展開していくのでしょう。 記憶喪失の原因も気になって仕方ないです。 これぞまさしくエンタテインメントといったところ。 次回も楽しみにしています。 と、ここで前回同様、頂いた感想に対するコメントを是非是非入れたいし、実際にもう作ってしまったんですが、やたら長いのでデータの消耗を考えるとちょっと気がひけてしまいます。 というわけで律さんのフレンチジョークに対抗してこちらもネットで見つけたアメリカンジョークだけでも。 息子:お父さん、マヌケってなに? 父親:マヌケとは、自分の考えをわけのわからぬ長ったらしい方法で伝えようとするもんだからその話を聞いてる相手に自分のことをわかってもらえない人のことだよ。わかった? 息子:わからない。 「嵐が丘」はもうすぐ読み終えれそうです。 ご推察の通り、読んでてかなり疲れる作品です。 セイヤーズはスタンバイ状態。 それではこれで失礼致します。 |
32372 | Re:ハーレクインの狂言回し (9) | 律 | 2006/3/18 00:11:25 |
記事番号32368へのコメント こんばんは、律です。 感想ありがとうございます。 リアクションいただけると、本当に励みになります! >こんばんは、蝶塚です。 >面白くなってきましたね。 嬉しいお言葉です。 いい加減、長くなってきたので、もういつ飽きられるかひやひやです。 そういえば、あまりに本の話で興奮してしまって、お話につけてくださっているコメントにちゃんと感謝の意を表していなかった気が。 改めて申し上げますが、言うまでもなく、とても有り難く読ませて頂いております。 ただ、この先、続きを書いていく上で、墓穴に繋がるのが怖くて、ちょっと触れるのに勇気がいるんですよね。 しかし、敢えて触れたいところがありまして。 >ゼロスの方もゼロスの方で、 >>「ご丁寧に、宿屋のあたしの部屋にやってきてノックしてきたでしょ。そんな刺客いないっつの。油断させるつもりかと思いきや、全身白ずくめで、フードを目深に被ってるし!」 >>「素顔を見られたくなかったんですよ」 >>「思いっきり怪しかったわよ。あんたもいってたじゃない。『自分でも怪しいと思いますよ。普通ならこんな怪しい人間、部屋の中に入れたりしませんね』って」 >>「入れてくれたじゃないですか」 >>「廊下ではり倒すより、部屋ではり倒す方が、他人に迷惑かかんないでしょ」 >>「なるほど」 >のところではまだ気づかずにクスクス笑ってたんですが、 >>「一回目、素顔を見られたくないってこそこそやってきた奴が、何で次は口上付きで颯爽と登場する訳?」 >>「颯爽なんて言われると照れちゃいますが」 >>「皮肉ってんのよ。脈絡なく木の上に現れて、『正義の鉄槌を下して差し上げます、覚悟!』とか何とか言って、飛び降りてきて」 >>「格好良いじゃないですか」 >>「着地に失敗しなきゃね!」 >で、笑みが凍りつきました。 >ゼロスだけでなくみんなのことを忘れていたとは。 >確かに考えてもみればその方が自然ですけど、何らかの理由でゼロスがピンポイントに記憶消したとか勝手にそういうこと考えてたので愕然とさせられました。 >これぞミスディレクションというやつですね!(何か違うよーな) これはホントに嬉しかったです。 笑みが凍り付きましたか! 理想的な反応です。 ちなみに、『自分でも怪しいと……』云々は、第一巻でゼルガディスが言った台詞なんですが、気づかれました? >この後一体どのように展開していくのでしょう。 >記憶喪失の原因も気になって仕方ないです。 >これぞまさしくエンタテインメントといったところ。 >次回も楽しみにしています。 エンタテインメント……(響きに陶然としている) 思わず体温が上がるくらいに、嬉しいお言葉です。 目指す方向性はそちらです。 あとは、内容がそのお言葉に見合うよう、精進致します。 > >と、ここで前回同様、頂いた感想に対するコメントを是非是非入れたいし、実際にもう作ってしまったんですが、やたら長いのでデータの消耗を考えるとちょっと気がひけてしまいます。 >というわけで律さんのフレンチジョークに対抗してこちらもネットで見つけたアメリカンジョークだけでも。 > > >息子:お父さん、マヌケってなに? >父親:マヌケとは、自分の考えをわけのわからぬ長ったらしい方法で伝えようとするもんだからその話を聞いてる相手に自分のことをわかってもらえない人のことだよ。わかった? >息子:わからない。 > 受けました。 何が受けるって、身につまされるところが!! 私、とてもこのお父さんを馬鹿にできません。 それどころか実は、私の話に対する芸術的にさりげない苦言だったらどうしよう(笑) しかし、これの原文、和訳難しそうだなあ…… >「嵐が丘」はもうすぐ読み終えれそうです。 >ご推察の通り、読んでてかなり疲れる作品です。 >セイヤーズはスタンバイ状態。 頑張って下さい。 私もなんか読み応えのあるのいこうかなあ…… 今、インプットよりアウトプットに重心が傾いているんですよね。 なんだか貯金を食い潰している気分で。 セイヤーズはスタンバイですか。わーい♪ しつこく勧めた甲斐があります(笑) それでは失礼をば。 追伸 長すぎてはまずかろうとコメントを差し控える、蝶塚さんの大人さに感無量です。 見習わなきゃ。 ただ、もしも、せっかく書かれた文章が現存していて、ただ破棄するのが勿体なく思われましたら、話の続きの方で、名前にメアドを載せますので、お気が向いたときにでも送りつけて下さいませ。 読みたい……(本音) |
32384 | 幕間 | 律 | 2006/3/20 01:57:19 |
記事番号32333へのコメント < 幕間 > ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる 光が 駆け抜ける 闇が 通り過ぎる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる 朝をくぐり 昼を抜け 夜にもぐる 木々のざわめきを 水のせせらぎを 風のはためきを 追いかけ とらえて 後ろへ置き去っていく ―――落ちる―――落ちる―――落ちる 全てを見 聞き 感じる 世界中くまなく 網目のように神経が張り巡らされている 堕ちる太陽 走る牡鹿 火を噴く山 血を浴びる剣 荒れ狂う海 王冠を戴く女王 初めての産声 狼の遠吠え 少女の笑い声 爆発音 男の嗚咽 老婆の悲鳴 真空の絶対零度 喪失の絶望 砂漠の灼熱 破瓜の苦痛 子供の体温 渇いた餓え 全てが 流れ込む ―――落ちる―――落ちる―――落ちる この世に隠された世界の秘密を知る 誰も知らない全ての謎が明らかにされる 果てのない叡智と世界の真理を手中に収め 何もかもが一目でその存在の奥の奥まで見通せる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる 世界の底を突き抜けて落ちていく どこまでも落ちていく その先は 金色 母なる金色の海 闇よりも暗き堕ちたる王 たゆたいしもの ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる 全てを忘れる 溢れるほど流れ込んできた、森羅万象を瞬時に忘れる 脳裏を埋め尽くすのは思慕 狂わんばかりの郷愁 ただ恋い願う 還りたい (還りたい――――) 全てに忘れ去られた混沌 触れるもの全て己に呑み込み 永遠に他者を持たない たゆたいながら在りし日を夢見る 堕とされた魔王 (なんという孤独――――!) (還らなければ) 強烈な思慕に引きずられて 金色の闇に落ちていく 生まれ落つ前に微睡む羊水 滅びの果てに到る黄泉 全ては かつてその裡にあり いずれその裡に還る ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる ―――落ちる―――落ちる―――落ちる――― (まだだ!) 混沌の海へと身を投じる寸前 強烈な思惟が身を引き剥がす 何もかも振り払い 落ちていくのを妨げる 己の中に眠る思惟が目覚め 叫ぶ 思慕に駆られて 在るべき処へ還ろうとするのを妨げる (なぜ!) (これほど近くにあるのに!) 彼女の孤独はあまりに永い 他者に触れる一瞬を 彼女に捧げなければ 世界中に満ちる夥しい数の他者 彼女でないものを捧げなければ 自分一人では 瞬きほどの間も 彼女の孤独を癒すことなどできない (まだだ……!) ―――為すべきことをせよ! あたしは目を覚ました。 |
32385 | ハーレクインの狂言回し (10) | 律 | 2006/3/20 01:59:43 |
記事番号32333へのコメント < ハーレクインの狂言回し > 彼女が髪を下ろしているところを見たことがない。 昨夜、意外に人間じみた一面を見せてくれた愛すべき我が同僚は、随従の鑑よろしく一片の非の打ち所もなく黒髪を結い上げ、見事に伸びたまっすぐな背筋を見せて歩いていた。 後ろ姿で何者かはっきり判る。 階下の食堂に降りるつもりか、階段へ向かう背中に、あたしは朗らかに声をかけた。 「おはよう、グレイス! 今から朝食? あなたにしちゃ遅いわね!」 「おはようございます。いえ、朝食はもう頂きました」 「そう? てっきり食堂に行くのかと思ったわ」 「それはその通りです。先ほど御前にお目覚め頂きましたもので。お召し替えはご自分でなさる御主義なので、その間に朝食を御用意しようという処です」 「そういや、いちいち部屋に持って行ってるんだっけ? あんたの御前様の習慣って変よね。お代わりできないじゃない」 「決まったものしか召し上がらないので、そのような支障はございません。もし何かあれば私がお持ち致しますし」 実際、ウイリアムと来たら、どういう家に生まれたのかと思う。 日常の雑多なことを全てグレイスに任せて、当然の顔をしている。この分だと、髭剃りまでやらせているんじゃないか。真実そうだと聞いてもあたしは驚かない。 あんな主人を持っては、グレイスもこまごまと働き者にならざるを得ないだろうと思う――昨日の店の予約は彼自身でやっていたようではあるが。 追いついて、グレイスの隣に並ぶと、彼女は、ところで、と話を切りだした。 「ところで、あの男はどうされたんです?」 「ああ、ゼロス? あいつの示唆には乗らないっていったでしょ。またつつかれるのも鬱陶しいから、尋問は早めに切り上げて、宿屋の外に放り出したわ」 「何が何でも聞き出すと仰ってませんでした?」 「あなたと話して気が変わったのよ。どうせ、どんだけ責め立てても糠に釘だしね。拷問するほどの話でもない。第一、睡眠不足は美容の大敵なのよ?」 「確かに」 そういって頷くグレイスは、年齢的にかなり気に懸かる時期に来ているだろうと思うのだが、なめらかで艶のある綺麗な肌をしている。 なるほど、それで若く見えるのだ。 昔から肌自慢だった口かも知れないが、よくその状態を維持している。あんなに働きづめに働いて、就寝前に手入れなどする余力が残っているのだろうか。 丸二日ほど歩きづめに歩いても街にたどり着けず、野宿が続いたことがあるのだが、少なくともそのときは入念な手入れをしている処など見ていない。 野宿が慣れているタイプには到底思われなかったが、その最中でも、ストレスの影ひとつ見せず、肌荒れもなければ化粧が濃くなることもなく、油を使ってまとめているだろう髪がにおうこともなく。 そういう点も、あたしが彼女に人間じみてない印象を受けていた理由のひとつだろう。 だが、昨日で随分そのイメージも変わった。 日付を越えても、また昨夜の話題を引きずって尋ねてくる辺り、結構気になっているようだ。その辺りも意外に若い女性らしい。 「また襲ってきたときには、今度は魔法で眠らせてから、頭からバケツいっぱい水ぶっかけて、夜通し野晒しにしてやるって脅しといたわ。当分、顔を出すことはないわね」 「それはそうでしょう。今の時節、濡れた体で戸外の風に一晩当たっていたら凍死します」 「でなきゃ脅しにならないでしょ。次は、このあたしに手を出すことの愚かさと恐ろしさをとくと味わって貰わなくちゃ……骨の髄までね!」 苦笑するグレイスに、軽く言ってのけながら、同時に昨日見た食堂のメニューを思い浮かべる。 何食べよっかなー。 なかなかロールパンが美味しいのよね。また四つ、五つ貰うのは決定。スクランブルエッグも甘過ぎなくて良かった。あとは、サーモンのフライとハム包みのチーズ焼き……野菜もいっとくか、アスパラガスの胡麻あえに、レタスとトマトのサラダ……そういやドレッシングが美味しかったわ。レシピ訊いとこ。 「何をお考えかは察しておりますが、この文脈で嬉しそうに笑み崩れないで下さい」 無表情に指摘するグレイスの言葉を聞き流しながら、機嫌良くあたしは食堂の扉を開ける。 途端、押し寄せてくる賑やかな喧噪の中、にこやかな声があたしを迎えた。 「おはようございます。今日はよく晴れて、すがすがしい朝ですね!」 カウンターやテーブルが並ぶ食堂内で、一番最初に目に飛び込んできたのは、ナイフとフォーク片手に食事中のおかっぱ頭のスットコ神官。 耳に入ってきたのは、なんともさわやかな朝の挨拶だった。 |
32386 | ハーレクインの狂言回し (11) | 律 E-mail | 2006/3/20 02:03:10 |
記事番号32333へのコメント < ハーレクインの狂言回し > 朝食のことを考えて上々だった気分が、急激に低下するのが自分で判った。 頬に薄ら寒い笑みが浮かんでいることを自覚しながら、ゆっくりとした足取りで、あたしはゼロスが席に着いているテーブルに近づく。 「やるといったことはやるのよ、あたしは――昨日の言葉通り、ずぶ濡れで夜晒しにしてあげる。覚悟はいいわね?」 この男がここまで馬鹿だとは思わなかった。 もっと分かり易い言葉で脅すべきだっただろうか? いや、考えるのは無駄だ。 よくも、わざわざ飛んで火に入ってくれたもの。 お望み通り、この先二度と、あたしの頭を悩ますことのないよう、心おきなく始末をつけてやろうじゃない。 全く――折角、良心のささやきに耳を傾けて、昨夜はほとんど無傷で解放してやったというのに! 背後で、グレイスが低い声で「お抑え下さい。朝から乱闘騒ぎでは宿屋の心証を害します」などとささやいているが、そんなの知ったこっちゃない。 問答無用で呪文を唱え始めるあたしに、ゼロスはしかし狼狽えず慌てず、落ち着いてずず、とお茶を啜った。 「また襲ってきたら、容赦はしないというお話でしょう。あなたが泊まっている宿屋の食堂で朝食を頂くことが、襲撃に当たるんですか?」 「もっともな御指摘です」 昨夜からずっとゼロスを危険視するような発言をしていたくせに、グレイスが見事な身の翻し方を見せて、重々しく賛同する。 ちゃっかりしてる奴……まぁ、彼女の職業上の価値観として、無駄にいざこざを起こすのは極力避けたいんだろうけど。 だが、確かにゼロスは「やって来た」だけで「襲ってきた」わけではない。 ――脅し文句のつもりで言質を取られたか。 あたしは呪文を唱えるのを止めた。 得たり、と笑みを深めるゼロスに、こめかみがまた大きく波打つ。 朝一番から、つくづく腹立たしい気持ちにさせてくれる……心の底から苛立ちながら、嫌そうな顔でゼロスに近づいた。腕を組んでテーブルの傍らに立ち、底の読めない笑顔を見下ろす。 「じゃあ、何しに来たのよ?」 「ニュースをお伝えしに」 「何の」 ゼロスは宥めるように苦笑して、答えるかと思いきや、間を持たせるように、わざとらしくお茶を一口またすすった。いちいち癇に障る男である。 横目でちらり、とグレイスを見やり、ねめつけるあたしの眼差しを、顔色ひとつ変えずに受け止める。そして、さらりと答えた。 「リナ・インバースが、ゼフィーリアの将軍位につきました」 それは初耳だ。 確かに、なかなかのニュースである。 ルシタニアの役から、しばらく噂を聞くことがなかったが、まだゼフィーリアにいたのだろうか。しかし、戦争が終わってもう3年もたつのに、今更、将軍に任命されるとは。 だが、そろそろ、ルシタニアも落ち着いてきておかしくない頃ではある。 休戦条約が破棄されるのだろうか。 ――そういったことも考えられることからすると、確かに大ニュースである。 などと、あたしが素早く考えを巡らした瞬間、隣から冷ややかな声が聞こえた。 「面白いことを仰いますね」 「グレイス!?」 あたしは、心の底から驚いた。 気が付いたら、グレイスが、ゼロスの襟首をつかんで、椅子から持ち上げるように片手で吊し上げている。 彼女がこんな振る舞いをすることも驚きだし、全くあたしの目に留まらなかった早業にも、度肝を抜いた。 「あなた、何し――」 「リナ・インバースが、将軍位に任命された? ならば、ここにいるのは誰だというのです……!?」 ゼロスは、喉元を締め上げられながらも、まるで調子を失うことなく苦笑した。 視線をこちらに流し、からかうような口調で言う。 「それは、当人がよくご存知でしょう……。ああ、怒らないで下さい! いや、実は僕も驚いたんですよ。大した引っかけですよねえ。しかし、思い当たる節がない訳じゃありません」 「ふざけるのもいい加減に」 「怖い顔ですね! ほら、あちらは大変驚いている様子じゃないですか。無理もありませんけど」 「あんたの言う通りだけど、その喋り方は止めてゼロス。人の神経を逆撫でしたいわけ?」 いっそ、楽しげにすら聞こえるゼロスの言葉を断ち切って、あたしはこめかみを叩いて事態の理解に努めた。 なんだか判らないが、グレイスは驚愕し、そのあまりか逆上している。 何を勘違いしていたのか。前もって良く言ってあった筈なのに、誤解したまま了解していたのだろうか。 それで、何か計算違いでも生じているなら、気の毒だが、誤解をそのままにする訳にもいかない。改めてもう一度言っておく必要がある。 あのゼロスの様子から見ると、奴の目論見通り動いている気がして、本当に業腹なんだけど! ぎりぎりと、見たこともないような形相でゼロスをにらみつけるグレイスの肩を叩き、こちらに顔を向かせてあたしは言い聞かせるように言った。 「グレイス、あたし最初にちゃんと言ったでしょう。かの高名なデモン・スレイヤー、リナ・インバースはあたしの姉。よく似ているけど勘違いしないで、って」 「嘘です」 「嘘じゃないわよ」 あたしとグレイスの様子を観察するように見ているゼロスが、いやに満足げに見えて腹が立つ。 いまいち、すっきりしない気分ながら、今更ながらもう一度、雇い主に自分の名を名乗った。 「あたしは、キーラ・インバース。リナ・インバースとは別人よ」 **** ようっやく、ここまで来た…… そろそろ飽きられているかも知れませんが、次回はわりと種明かしもあるし、話も転がります! さすがに、彼らも宿屋に引きこもってばかりはいませんからっ!! どうか! どうか、見捨てないでください! プリーズ! ここまで付き合って下さっている方なんて、もう画面の向こうのあなたくらいしかいないよ! ちなみに、「幕間(空白が多くてすみません、ごめんなさい。確信犯です)」が意味不明でしたら、 三年ほど前、リョウコの名でこちらに投稿した、「ロード・オブ・ナイトメア」というものを読んで下されば、多少、私の表現したいことが判って頂けるかもしれません。 本当は、そんな長い話じゃないんですよ。 細かく切ってるから、そう見えますけど。 どうか、うんざりしないで(してても)、堪えて続きも読んで頂ければ幸いです。 |
32390 | ハーレクインの狂言回し (12) | 律 E-mail | 2006/3/21 15:39:58 |
記事番号32333へのコメント < ハーレクインの狂言回し > 取り敢えず、グレイスを刺激しまいと、ゼロスに水を取りに行かせて場所を外させると、あたしはグレイスと、テーブルの隣あった椅子に座った。 少々、騒ぎめいたものになってしまい、カウンターの内側から、懸念を帯びたおっちゃんの目が投げかけられているが、そこは完璧に無視。他に客がいないのを良いことに、じっくりここで話をすることにする。 腰からひねって横を向き、彼女の肩に手を置いて、真っ正面から目を見つめて、穏やかな口調で言った。 「あたしを雇ったのは、キーラ・インバースがリナ・インバースと同一人物だと思ったから?」 「……貴女が、リナ・インバースでないわけがない……そうでなければ、なぜゼロスが」 「ゼロスも、驚いたって言ってたわよ。昨日まであたしにちょっかいをかけてたのも、あたしをリナ・インバースだと勘違いしてたからじゃない?」 あたしはため息をついて見せた。 「実は少なくないのよね。間違えて声をかけてくる連中って。また、あたしが黒魔術を得手にしてるもんだから! でも、さすがに人の名前騙って仕事を受ける趣味はないわ。だから、あなたにもちゃんと言ったでしょ? リナじゃないわよって」 「信じられなかったから、雇ったのです」 「そう? 最初、あなたはあたしのことをキーラさんって呼んでた。でも、ゼロスが現れてからは名前で呼ばなくなったわ。彼のせい?」 グレイスは、その瞬間、はっきりと頬を歪めた。 癇性に寄せられた眉に、下手な刺激を与えたかと、軽く焦る。落ち着いて、乱れのない人間だと思っていたのに、案外脆い。世の中、そういうものかも知れないけど。 忌々しげに、グレイスは呪いの言葉を吐いて、ゼロスを罵った。 「そうか――あの悪魔! 騙したのか……あいつが現れた途端、私は確信してしまった! 忌々しい、疫病神め……!」 「酷い言われようですね。思い込んだのはあなたの勝手でしょう」 「ゼロスッ! あんた、なんって最悪のタイミングで戻ってくんのよ!?」 「お水をどうぞ」 ゼロスは、空とぼけて、水をなみなみと満たしたグラスを、礼儀正しく差し出す。当然、グレイスが受け取るわけがない。 火に油って言葉を知っているのか? 口調まで一変させているグレイスは、あたしを乱暴に振り払ってゼロスに向き直り、ぎりぎりと睨みつけた。明らかな怒りと憎しみの気配に、振り払われた拍子に椅子から転げ落ちるのを辛うじて堪えたあたしは、思わずぞっとして椅子の背もたれを掴む。 本当に、人が変わっている。 あたしさえ威圧する、この濃厚な気――修羅場の経験に乏しいお世話係なんて、冗談じゃない。百戦錬磨の戦士に匹敵する。そして、それだけの敵意をまともに浴びて、かけらも平静を崩さないゼロス。 二人とも、今まであたしの前では十二単の猫を被っていたとしか思えない。 衝撃に呑まれて、つい口を挟むのを忘れ、あたしは二人のやりとりを見守った。 「貴様の目的は何だ、ゼロス……! 言っておくが、私はあの方の命を」 「簡単に馬脚を現すようでは、器が知れるというものですよ。よろしいんですか? あんまり僕と遊んでいるようでは、当座のご主人様がお困りになるのでは?」 優雅にゼロスは、食堂の出口を掌で指し示した。 戸の方に姿を現したウイリアムが、朝っぱらから極めて快活な足取りで、近づいてきている。こんな時間に、彼の姿を目にするとは珍しい。朝食が待ちきれなくなったのか。確かに、少しのんびりし過ぎていたかもしれない。 グレイスの反応を確かめると、彼女は瞬時に普段の顔を取り戻し、先程までが嘘のように忠実で有能な、模範的随従の権化と化している。 空恐ろしい変わり身の早さである。 (まぁ、女は役者って言うけど……) ウイリアムは、湯も使ったのか、白い肌が心なしか上気している。少し湿った感じの髪をきちんと梳かしつけ、こざっぱりした風情である。思い出した。この男、朝食の前に風呂に入るのだ。 緊迫したムードをまるで知らずに闖入してきた人間特有の傍若無人さで、彼は遠慮会釈なしに彼特有の言葉の奔流をぶつけてきた。 「私を飢え死にさせる気かい、グレイス! 朝、容赦のない君の囁きに深い眠りから引きずり出されても、私が一日を健やかに過ごせるのは、そのあとの君の心づくしの手当てによるものだというのに! 湯はとってもいい温度だったよ、用具にも何の不足はない。ありがとうグレイス。言葉が足りないか? それとも叫べばいいか? 何でも言ってくれ! 満足するまで感謝と称賛を積み上げてやる。遠慮はいらない。しかし、そのあとが良くなかった。髪は自分で乾かして(褒めるところだよ!)、しばらくのんびり詩集でも読んでリリカルな世界に遊んでいたんだがね。やはり、昨夜の夜更かしはさすがの君にも影響を与えたか?」 この男、いつ息継ぎしてるんだろう。 「いつまでたっても、朝食が来ない!」 「申し訳ございません、御前。お詫びの言葉もございません」 「とんだ暴君だと思っているんだろう、外聞の悪い! しかしだね、ここに降りるのにまさか、バスローブというわけにもいくまい。自力でひと揃い服を取り出したが、頭の中では無言で着合わせを非難する君の顔が浮かんでならない。惨めったらしく、紫と青灰色のネクタイを並べて、朝から悶々とする羽目になった。哀れと思わないかね? ご覧の通り、結局緑にした訳だが」 「大変、よろしいかと存じます」 「信じるよ。まあいいさ。たまには、人と顔をつきあわせる朝食も悪くはない。何と言っても、顔を見ろとそこなレイディに主張したばかりでもあることだし! ここに給仕はいるか? それとも、あそこの紳士に向かって要求をがなり立てればいい? 教えてくれ、郷に入っては郷に従う。作法とあれば、逆立ちでワルツを踊りながら注文して見せよう」 「手前がお持ち致しますので、お席について頂きさえすればお手を煩わせるには及びません」 「判ったよ。その鉄壁の無表情にはうっとりするね!」 その無表情が憤怒に燃えた先ほどの一場面を見せてやりたい。 一礼してグレイスが注文をしにカウンターへ去ると、今日も朝から舌が絶好調な御前は、気楽な調子で、水を片手に立っているゼロスにも声をかけた。 「ようやっと椅子から解放されたようだね。正直似合わんこともないと思っていたんだが、本人としては不都合も多かっただろう。おめでとうと言わせて貰うよ。相変わらず好かれてはいないようだが」 「残念ながら。いい加減、ここは尻尾を巻いて退散することにします」 「悪くない手だ。押して駄目なら引いてみろともいう。帰るなら、その水を貰っていいかな? 喉が渇いているものでね」 「どうぞ。僕はここで失礼します」 愛想よく答えてグラスをウイリアムに渡すと、ゼロスはきびすを返して、あたしたちに背を向けた。 このまま去ろうというつもりらしい。 だが、あたしもここで簡単に逃がすつもりはない。 面倒事の種が去ってくれるのは有り難いと言えば有り難いが、好きなように引っかき回してくれた挙げ句、何ごともなかったように立ち去られたのでは、あたしの気が済まない。 気に懸かることもある。 あたしは椅子から立ち上がって駆け寄り、後ろからゼロスの右肩を掴んだ。 「待ちなさい、ゼロス! あんた一体、何が目的なの。何がしたくて、グレイスにあんな話を伝えに来たわけ?」 「疑うなら、調べたらいかがです。すぐに間違いかどうか判りますよ」 「嘘じゃないだろうとは思うわよ。どうせ、いずれ知れることでしょ。でも、ここでわざわざグレイスに伝える理由がわからない」 「いいところを突きますねえ」 肩越しに振り返って、ゼロスが笑う。 力を込めて目の前の顔を見据えるあたしに向かい、人差し指を唇に当てて、愛嬌たっぷりに片目をつむった。 「もちろん、それは秘密です」 重ねて問いつめようと口を開く暇も与えず、ゼロスはたちまちあっさりと姿を消した。 しっかり肩を掴んでいたはずのあたしの手は、気づけば簡単に外されている。 あたしは不審さに顔をしかめた。 |
32435 | Re:ハーレクインの狂言回し (12) | 蝶塚未麗 | 2006/4/6 11:24:03 |
記事番号32390へのコメント こんばんは、ようやくレスできます。大学からです。 まさかそんなトリックが仕掛けられていたとは。 確かに最初名前が出てこないんで怪しんだんですよ。 でも冒頭に「ゼロリナ」って書いてあったから……つい。 別にゼロリナだからってゼロスとリナを最初から登場させなきゃならないなんてルールはないのに。 森博嗣のとある長編を連想しました。 携帯で読んだ時は、記憶喪失というのは「あたし≠リナ」のトリックを隠すためのミスディレクションかと思ったんですけど、改めて読み返してみるとそれだけではなさそうな気がします。 それに幕間の詩(素敵です)の存在が引っかかるし、グレイスさんの正体(特に、『当座』のご主人様)も…… ここから話が大きく展開していくわけですね。 続きが楽しみです。 それでは短いですが、これで失礼いたします。 |
32455 | Re:ハーレクインの狂言回し (12) | 律 | 2006/4/11 23:28:20 |
記事番号32435へのコメント >こんばんは、ようやくレスできます。大学からです。 こんばんは! 律です。 わざわざ大学から! ありがとうございます♪ 上の作品を見ると、今はもう、新居の方にもパソコンの出来る環境が整ったのでしょうか。 家でパソコン使えないと不便ですよね。 >まさかそんなトリックが仕掛けられていたとは。 >確かに最初名前が出てこないんで怪しんだんですよ。 >でも冒頭に「ゼロリナ」って書いてあったから……つい。 >別にゼロリナだからってゼロスとリナを最初から登場させなきゃならないなんてルールはないのに。 >森博嗣のとある長編を連想しました。 とある長編。もしかして、アガサ・クリスティの某作品をもじった題名の奴でしょうか。 一人称で何が出来るっていったら、地の文で嘘を吐けることですよね。 正真正銘、(私なりのとはいえ)ゼロリナなのは、本当なんです。 もともと、前もっての断りだけのつもりだったのに、引っかけになってしまいましたが。 >携帯で読んだ時は、記憶喪失というのは「あたし≠リナ」のトリックを隠すためのミスディレクションかと思ったんですけど、改めて読み返してみるとそれだけではなさそうな気がします。 >それに幕間の詩(素敵です)の存在が引っかかるし、グレイスさんの正体(特に、『当座』のご主人様)も…… >ここから話が大きく展開していくわけですね。 >続きが楽しみです。 さりげなく、幕間を褒めてくださってありがとうございます・・・(三跪九叩頭礼) ようやく、物語全体の構想が固まってきました。 >それでは短いですが、これで失礼いたします。 ありがとうございました♪ しかし、実はですね。 「お知らせ」にも、書いたのですが、一旦、このシリーズの連載は止まります。 折角、毎回読んで下さって、コメントまで付けて下さって、続きを楽しみとまでいって頂いたのに、本当にすみません。 自分でも、残念でなりません。 ただ、三月中旬までの半月、ここまで書けたのは、本当に蝶塚さんからコメントをいただけたからです。 書き直さなきゃと思うに至るほど、真面目にストーリーを練る気になれたのも、引いては蝶塚さんのおかげです。 久しぶりに、きちんとお話が書きたくなりました。 いつ、またこちらに投稿できるか分かりませんが、そのときに、もしも蝶塚さんがこちらにいらして、私の話を読んで下さったら、それより嬉しいことはありません。 ほんっとうにありがとうございました! メールの方も感謝感激です。 これからお返しいたしますね! |
32456 | お知らせ | 律 | 2006/4/11 23:30:11 |
記事番号32333へのコメント こんばんは、律です。 読んで下さっていた方には、大変申し訳ないのですが、このシリーズの連載を止めます。 最初、あまりに何も考えずに始めてしまったことが、今になって大きく響いてしまいました。 ここまで書いてきて、大体書きたいことやストーリーはようやく定まってきたのですが、それに従って、ちょっとこの構成では、持たないだろうことがはっきりしてきました。 改めて、構成し直してから、頭から書き直そうと思うので、ほんっとうに、読んで下さっていた方には申し訳ないのですが、途中でシリーズを止めさせて頂きます。 いずれ、時間を見つけて、きちんと書ききろうかと思いますので、ご容赦下さい。 私は読み手としては個人的に、連載を中断させたままにされると、名作駄作関わらず、すっきりしなくて好きじゃないので、いざ書き手としてこのような真似をするのは、本当に不本意なのですがっ・・・!面目ない! 今度、載せるときも、多分題名は変えないかと思います。 これだけ、構成がなんぞとほざいておきながら、全然変わってなかったり、かえってめためたになってたりしたら、笑って下さい。 それでは、またお会いできましたら。 |
32464 | Re:お知らせ(+メールのこと) | 蝶塚未麗 | 2006/4/14 11:44:56 |
記事番号32456へのコメント こんばんは、蝶塚です。 「ハーレクインの狂言回し」中止ですか。 すごく気に入ってた作品だけに残念です。 実は私自身連載止めてる身なんで、あまり偉そうなことは言えないんですけど、作品をいいものにするためという理由なら全然悪くないことだと個人的には考えています(プロだと商売になるので話は別ですが)。 > 私は読み手としては個人的に、連載を中断させたままにされると、名作駄作関わらず、すっきりしなくて好きじゃないので、いざ書き手としてこのような真似をするのは、本当に不本意なのですがっ・・・!面目ない! 未完でもいいものはいいと思っていますが、基本的には同感なんですが、上記の理由で耳にグサっときました。 まさかそこまで計算の内ってことは……ないですよね? 後、メールのことですが、 >メールの方も感謝感激です。 >これからお返しいたしますね! これを見る限りどうやら届いたようですね。 よかったです。 でもこちらには返信こないんですけど、すでに送られました? 別に強制したり焦らしたりする意図はないんで、送られていないならそれでも一向に構わないんですけど、もしすでに送られているとしたら、もしかしたら何らかのトラブルが発生しているのかも知れません。 特に、大学のメールアドレスなんてものを使うのははじめてですので、こちらの方にトラブルが起こってるんじゃないかと心配です。 もし、すでに送られたというのであれば、お手数ですが、携帯の方(あちらは届一回届きましたので)に話題ごとにでも分割して送って直して頂けないでしょうか。 あるいはそれがご面倒だというのであれば、いつになるか分かりませんが、別のメールアドレスを取得することがあると思いますので、またその時にでも。 トラブル発生したんならもういいや、と思われるのであれば、それはそれで構いません(できれば読みたいと思っていますが)。 それでは、これで失礼いたします。 メールについての連絡、ここでしてよかったんでしょうか?(しといて何だ、って話ですけど)。 |
32471 | Re:お知らせ(+メールのこと) | 律 | 2006/4/16 23:11:57 |
記事番号32464へのコメント > >こんばんは、蝶塚です。 こんばんは、律です。 >「ハーレクインの狂言回し」中止ですか。 >すごく気に入ってた作品だけに残念です。 >実は私自身連載止めてる身なんで、あまり偉そうなことは言えないんですけど、作品をいいものにするためという理由なら全然悪くないことだと個人的には考えています(プロだと商売になるので話は別ですが)。 >> 私は読み手としては個人的に、連載を中断させたままにされると、名作駄作関わらず、すっきりしなくて好きじゃないので、いざ書き手としてこのような真似をするのは、本当に不本意なのですがっ・・・!面目ない! >未完でもいいものはいいと思っていますが、基本的には同感なんですが、上記の理由で耳にグサっときました。 >まさかそこまで計算の内ってことは……ないですよね? あははははは!(否定しろよ) や、いえいえいえっ、計算はしていないです。もちろん。そんなまさか。 何年か前、滞りつつ連載を完結させたあとに、シリーズものが途中で止まると苛々する、といった趣旨の感想を頂いたことがあって、そのときに「ああああごめんなさいすみません」と思った気持ちがまだ残っているんですよね。 思い返せば、自分も、かーなーり、気になるタイプなのに、同じことをやるところだったわ!と。 こんな、この先どう転がるか自分でも分からない話を、時間を割いてわざわざ目を通してくださった方に、最終的にがっかりとか不満とかマイナスに類する気持ちを抱かせてしまったら、なんだか、恩を仇で返したようなものという気がして。 といっても、まあ、おっしゃる通り、お金を取ってる訳じゃなし、結局は私が書きたいから書いているだけなので、なんだかんだ言いつつ、全ては自分の都合で決めるのも確かなんですが。 大体、必ず完結させてやる!と思ったら、書き上げるまで外に出せませんしね。 今回に関しては、いきなり行き当たりばったりに書き始めたことに、ちょっと反省しながら、でも書きたかったのは事実だし、と思いまして。 何はともあれ、せめて、多少の誠意は見せたいかなあ、と。 それで、一応のお断りとして、お知らせを載せました。 本来の計画としては、春休み中に適当にオチを付けて書き上げるつもりだったのですが・・・だんだん我を忘れ始めてしまいました。 >後、メールのことですが、 > >>メールの方も感謝感激です。 >>これからお返しいたしますね! > >これを見る限りどうやら届いたようですね。 >よかったです。 >でもこちらには返信こないんですけど、すでに送られました? >別に強制したり焦らしたりする意図はないんで、送られていないならそれでも一向に構わないんですけど、もしすでに送られているとしたら、もしかしたら何らかのトラブルが発生しているのかも知れません。 >特に、大学のメールアドレスなんてものを使うのははじめてですので、こちらの方にトラブルが起こってるんじゃないかと心配です。 >もし、すでに送られたというのであれば、お手数ですが、携帯の方(あちらは届一回届きましたので)に話題ごとにでも分割して送って直して頂けないでしょうか。 >あるいはそれがご面倒だというのであれば、いつになるか分かりませんが、別のメールアドレスを取得することがあると思いますので、またその時にでも。 >トラブル発生したんならもういいや、と思われるのであれば、それはそれで構いません(できれば読みたいと思っていますが)。 > だああああっ、まだ送っていません! ご心配かけたようで申し訳ないっ。 大学メールって、確かに慣れないと不安ですよね! ここは、「これから送りますね」ではなく、「書きますね」というべきでしたっ・・・! しかも、メールをさておいてお話に感想がついてたりなんかしたら、もしや、という気分にもなりますよね。ああなんて気の回らない私。 大丈夫です。 まだ送っていません。 そうですね。大学メールの方に送ったあと、携帯の方にも一応ご連絡差し上げます。 こうすれば、不安になられることもないでしょう! >それでは、これで失礼いたします。 >メールについての連絡、ここでしてよかったんでしょうか?(しといて何だ、って話ですけど)。 私の感覚では、問題ないんじゃないかと思います。 「お知らせ」へのコメントのついでに付け加えたと考えれば、あってもなくても大差ない感じですし。 それではでは。 最後まで、本当にありがとうございました! |
32511 | Re:お知らせ | こだち | 2006/5/18 20:44:30 |
記事番号32456へのコメント スレイヤーズとはすっかり疎遠になって、書き殴りに訪れるのもかなり久しぶりでしたが、小説を拝読させていただき、すっかり夢中になってしまいました。楽しく懐かしい時間をありがとうございました。 物語の展開や、会話がとてもよく出来ていてとても面白かっただけに、残念でなりませんが、再連載されるのをとても楽しみにしています^^ その日までここには毎日欠かさず見に来ねば・・・ww |