◆−チェイン−人見蕗子 (2006/8/5 12:46:41) No.32684 ┣初めまして&お久しぶりです−人見蕗子 (2006/8/5 12:53:02) No.32685 ┃┣お久しぶりです。−れい (2006/8/7 21:28:03) No.32695 ┃┃┗お久しぶりです。−人見蕗子 (2006/8/9 17:01:08) No.32700 ┃┗お帰りなさいまし−美月 沙耶 (2006/8/9 01:25:36) No.32696 ┃ ┗お久しぶりです。−人見蕗子 (2006/8/9 17:05:34) No.32701 ┣チェイン:01−人見蕗子 (2006/8/5 12:54:08) No.32686 ┣チェイン:02−人見蕗子 (2006/8/5 12:55:29) No.32687 ┣チェイン:03−人見蕗子 (2006/8/5 12:57:04) No.32688 ┣チェイン:04−人見蕗子 (2006/8/5 23:37:14) No.32690 ┣チェイン:05−人見蕗子 (2006/8/5 23:38:48) No.32691 ┣チェイン:06−人見蕗子 (2006/8/9 16:48:54) No.32697 ┣チェイン:07−人見蕗子 (2006/8/9 16:51:35) No.32698 ┣チェイン:08−人見蕗子 (2006/8/9 16:53:04) No.32699 ┣チェイン:09−人見蕗子 (2006/8/9 22:21:42) No.32704 ┣チェイン:10−人見蕗子 (2006/8/10 14:07:53) No.32707 ┣チェイン:11−人見蕗子 (2006/8/12 00:30:04) No.32711 ┣チェイン:11−人見蕗子 (2006/8/12 00:30:08) No.32712 ┣チェイン:12−人見蕗子 (2006/8/12 00:31:37) No.32713 ┗チェイン:13−人見蕗子 (2006/8/12 00:32:46) No.32714 ┗あとがきという名の補足(蛇足?)−人見蕗子 (2006/8/12 11:01:06) No.32715 ┗初めまして!−じょぜ (2006/8/12 20:02:42) No.32717 ┗あ、ありがとうございます!−人見蕗子 (2006/8/12 22:20:48) No.32718
32684 | チェイン | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/5 12:46:41 |
Chain:0 ■マザー■ ようやく俺も終われる。 そう貴方は言ったけれど。本当にそれでいいの? 真っ白になれる。 それが、望みなのでしょう?消えるのではなく、戻りたかったんでしょう? 与えられた力を、返して。 どの位昔のことだっただろうか。わたしが、魔王と融合して「ダークスター」と化したのは。相反するふたつの巨大な力は暴走し、お互いに正気を失い、暴れ続けた。 でも、この坊やは神と魔の力を背負い込んだ。そしてわたし達と溶け合い、わたし達の意思となった。 ほんの一時だったけれど、おかげでわたしもわたし自身を取り戻すことができた。 だから、与えよう。貴方に、始まりを。 浄化され、消えようとしたその命のひとかけらに、わたしは手を伸ばした。彼の身体はもう、わたし達が食らってしまった。だから、新しい身体を作ってやらなきゃいけない。 わたしは彼の命を拾い上げ、小さな結界を作った。この中で、彼を再構築する。 ひとつの細胞がふたつに、4つに分かれ、元の形を目指して膨れ上がってゆく。 だけど、わたしには彼が再生するのを見届ける時間がないの。「ヴァルガーヴ」がこの身から去った時、わたし達は再び「ダークスター」という狂気になるしかない。 だから、この結界を託そう。薄青い、卵によく似た出来かけの彼を。 最後まで彼の名を呼び続けた、あの綺麗なお嬢さんに。 彼が戻ることで、何かが起こるかも知れない。 誰かが喜んで、誰かが傷つくかも知れない。 それでもわたしは、いや、わたし達は、彼を救いたいのよ。 |
32685 | 初めまして&お久しぶりです | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/5 12:53:02 |
記事番号32684へのコメント 出戻りの出戻り、「書き殴り」の産業廃棄物、人見です。 今回の小説「チェイン」は、過去に投稿した「抽象的トライアングル」の改訂版、というか何というか・・・。 TRYのその後、をすごく書きたいのに書けなくて忘れたフリをしていたのですが、今回DVDも出ちゃうということで、再挑戦させてください。 (細かい所覚えてないから、DVD出てからの方が良かったのでは・・・) はじめて「書き殴り」に来た時、私は田舎のアホウな女子高生でした。何故かもっと田舎に進学し、地元に戻り、就職し・・・。何故か今の私は無職です。まぁいいや。 私なりの決着が付けられるように、書かせてください。 |
32695 | お久しぶりです。 | れい | 2006/8/7 21:28:03 |
記事番号32685へのコメント こんばんは、ごぶさたしております。 覚えていらっしゃらないかもしれませんが、れいです。 抽象的トライアングルからもう4年なんですね! あの頃はまだ中学生だったのに、もう今は大学二年です。。 時間が過ぎるのは本当に早いですね。 こないだ高校の部活を見に行ったらその若さにやられました。笑 それはさておき。 チェイン、読みました。 TRYの最終話を見たときは、まだ小学生ということもあって「ヴァルよかった〜涙」とのんきに思っていましたが、 今考えてみると、卵(結界?)から孵ったら「よかったね〜」じゃあすまないよなぁ。。と今更ながらに思います。 そんなわけで、これからのヴァルとフィリアがどんな風にお互い接していくのか楽しみです。 実家に帰省して、ふと立寄った「書き殴り」で、ふきこさまにお会いできたのは本当に嬉しいです。もう「書き殴り」から目が離せません。笑 ではまた。 |
32700 | お久しぶりです。 | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/9 17:01:08 |
記事番号32695へのコメント れい様、お久しぶりです。 書き逃げるつもりだった所に、声をかけてくださってありがとうございます。 ヴァルガーヴのその後、っていうのを私はずっと考えていて、何度書こうとしても途中で分からなくなってしまっているのですが、今度こそは何かしら答えを出したいと思います。 お暇がありましたら最後までよろしくお願いいたします。 |
32696 | お帰りなさいまし | 美月 沙耶 | 2006/8/9 01:25:36 |
記事番号32685へのコメント お久ぶりです、お元気でしたか? また人見さんのお話が読めてうれしいです!今後スレイヤーズTRYのDVDも発売されるし、またドラゴンのにーちゃんに会えるし(彼よりだいぶ年を食ってしまいましたが…)私的にはうれしさ2倍です。何を言いたいのかよく分からない事書いてしまってすいません。 ではでは失礼しましたm(__)m |
32701 | お久しぶりです。 | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/9 17:05:34 |
記事番号32696へのコメント 美月さま、お久しぶりです。 本来なら戻ってこれるような身分ではないのですが、どうしても書きたいことが残っていたのでノコノコ出てきてしまいました、すみません。 声をかけて下さって嬉しかったです。 |
32686 | チェイン:01 | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/5 12:54:08 |
記事番号32684へのコメント Chain:01 ■月のなみだ■ こんな満月の夜は、心もち足元がふわふわする。 「満月はヒトを狂わせる」というけれど、そうではなくて。 ただ、彼の瞳に、よく似ている気がして。それで落ち着かない気がする。 でも、彼の瞳は憎悪と怒りを私に投げかけた。 月はなんて美しく静かなのでしょう。 そんな平穏を、私はあなたに与えることが出来る? フィリアはひとり、窓辺で月を見ていた。かたわらには、小さなバスケット。その中では小さな青い球体がひとつ。鼓動のように、かすかな光をゆるゆると放っている。 異界の魔王を封じ込め、ヴァルガーヴを滅ぼした。誰もがそう思ったとき、フィリアの手の中に、この球体が降りてきた。 ヴァルガーヴ。そう確信した。これはヴァルガーヴ・・・彼の、卵だと。 うす青くて、半透明で、こんな卵は見たことなかったけれど、そうに決まっている。 時間が経つにつれて、これが本当に卵なのか、そうだとしても本当にヴァルガーヴが戻ってくるのか、そんな不安が膨らんだ。 それでも、フィリアは奇跡を待つしかなかった。 巫女の位を捨て、祈るべき神を失ってはいたが、フィリアは今日もこっそりと祈る。どこかの神様に。 ヴァルガーヴが、生まれますように。 ヴァルガーヴの誕生を待ち望むのはフィリアだけじゃない。彼の部下であるジラスとグラボスも、彼女と生活を共にしている。獣人二人は、卵からヴァルガーヴが孵ると信じて疑わないらしく、時々卵に話しかけている。そんな時、フィリアは彼らの側ではなく扉に身を隠して会話を聴いていた。彼らの会話からは、フィリアが想像もしていなかったヴァルガーヴの姿を垣間見ることができて、それは嬉しいけれど悲しくもあった。 「親分・・・俺たち、ヴァルガーヴ様が戻るまでどうする?」 卵を入れたバスケットを前に、ふたりがぼそぼそと会話している。 ジラスの問いに、グラボスはうーんと暫く唸る。 「――そうだなぁ、ヴァルガーヴ様、言ったもんな。 『俺はガーヴ様を滅ぼされた復讐をすると決めたけど、もし俺が死んでもお前らは何もしなくていいから』って」 「・・・『何もしなくていいから。つーか復讐するな。頼むから。』って・・・ヴァルガーヴ様言ってた・・・」 ジラスが涙声で答える。 最後の戦いのとき、すでにダークスターと融合したヴァルガーヴに、ジラスが呼びかけた「ヴァルガーヴ様、優しい。だから帰ってきて!」という叫びは、本心からのものだったようだ。 (ジラスさんとグラボスさんがそんなに強くないから、復讐するだけ無駄だからやるな、って意味かしら。 それにしても、「復讐するな。頼むから。」なんて言い回しをするようなひとには見えなかったのに・・・) ヴァルガーヴの意外な一面を知って、フィリアは一瞬微笑む。 彼は、決して憎悪と怒りだけに突き動かされていた訳ではなくて、温かな気持ちも持っていた訳で。 でも、それを見せてくれたことは一度もなかった。 フィリアもまた、復讐の対象であったから。 それでも、フィリアは祈る。どこかの神に。空にある月に。 ほんとうは祈りなどなくても、再び始まりの足音が近付いていることに気づかずに。 |
32687 | チェイン:02 | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/5 12:55:29 |
記事番号32684へのコメント Chain:02 ■手と涙■ 静かすぎる。 月に見惚れるフィリアは、その異変に気づかなかった。 フィリアたちの住む小さな家は、周りに民家などのない静かな山の麓で、夜になれば静寂に包まれる。それでも、いつもは木々の葉ずれの音や、夜啼く動物たち、時には自分たちのこれからを真剣に考えているらしい獣人たちの論議する声、そして卵が鼓動のように点滅を繰り返す際にきぃんきぃんと耳鳴りに近い音を発する筈なのに、フィリアの耳には何も届かなかった。 彼女もまた、月に魅入られたのか。いや、違う。全ての音が漆黒の闇に吸い込まれたかのように、或いはフィリアだけがその闇に飲まれたかのように。彼女の心は穏やかだった。 だが、それを破るのもまた、闇だった。 「お久しぶりですね、フィリアさん」 扉が開く音も、足音もなく、突然背中から呼びかけられてフィリアは跳ね上がった。 「ゼ、ゼロス!!?」 あの戦い以来、一度も姿を現さなかった男が、今更・・・。ゼロスの目的を察し、フィリアは卵の入ったバスケットをぎゅっと抱きしめるとゼロスに向き直り、きっと睨み付けた。目の前の魔族は、相変わらず嫌味なくらいの笑顔。 「――お久しぶりね、ゼロス。勝手に人の家に上がりこんで、何のご用事かしら?」 恐れてはいけない、怯んではいけない。魔族は、命あるものの負の感情を食べるのだから。意識して毅然とした態度を取るフィリアに、ゼロスは苦笑する。 「おやおや、勘のよろしいフィリアさんなら、僕の目的なんてお見通しなんじゃないですか。――その、大事そうに抱きかかえたバスケットの中のモノを頂戴しに来たんですけど」 「ダ・メ・で・す!」 即答したフィリアの迫力に、向かい合って立つゼロスは思わず半歩引く。 「いやー・・・僕も獣王様の命令で動いてますから・・・頂いて帰らないと困るんですよ」 「あなたが困ろうが滅びようが私には関係ありません!! ――どうして今更、ヴァルガーヴが欲しいんですか!?私も、ジラスさんもグラボスさんも、ヴァルガーヴが再び生まれるのを待っているんです!! 魔族なんかの好きにはさせません!!」 内心、フィリアは焦っていた。ぱっと見へらへらしているだけのこの男が、どれだけの力を持っているかフィリアは見せつけられてきた。普段はリナ達にいじめられて泣き言を言ったりもするが、本性は眉ひとつ動かさずにヴァルガーヴを殺そうとする、魔族。本気を出されたら、勝つことはおろか逃げ出すことも出来ないだろう。ジラスとグラボスが加勢してもーー。 あのふたりは?この言い争いが聞こえないはずが無いのに、どうして現われない? 「ドラゴンとキツネとトカゲが待ってる、って言われてもねぇ。 奴らはヴァルガーヴの部下、と言っても、実際は何の力も与えられてませんから。 弱かったですよ。あなたの方が、強いんじゃないですか。竜族だしモーニングスターもあるし。まだ現役ですか?あの武器・・・」 「ふたりに・・・何をしたの!?」 フィリアが怯んだ瞬間、ゼロスは脚を大きく踏み出し、距離を一気に縮める。にこやかに閉じていた紫の瞳で見据えると、フィリアの肩がぎゅっと萎縮した。 「殺しちゃいませんよ、意味がありませんから。 あなたとゆっくり話がしたいんですよ、フィリアさん」 先ほどまで月を見ていた窓を背にしてゼロスに詰め寄られ、フィリアは身をよじるが肘が窓枠にがつん、とぶつかるだけ。逃げ場はない。 「これが、ゆっくり話ができる体勢ですかっ!?」 絞るように叫ぶフィリアの様子を眺め、逃げ出すことはないと判断したゼロスが数歩下がると、フィリアはその場にへたり込んだ。バスケットだけは硬く握り締めたまま。 その姿に、ゼロスは何故か苛々した。 「あなた方は、それを本当に卵だと思っているのですか?そこから、ヴァルガーヴが孵ると?すべてを忘れて、すべてをやり直すために? ・・・馬鹿げた妄想は止めてください。それが、希望って感情なんですかね」 「・・・あなたに何が分かるんですか・・・これは、ヴァルガーヴ・・・」 「卵なんかじゃありません。結界ですよ」 「け・・・結界・・・・?」 バスケットを覗き込むフィリア。球体に、ぼろぼろと涙が零れ落ちる。 フィリアの張り詰めていた糸が、切れた。その瞬間を狙っていたぜロスの手が、濡れた球体を無造作に掴む。 「か、返して・・・!!」 震える脚で立つことも出来ないフィリアは必死に手を伸ばす。 「フィリアさん、最期のヴァルガーヴの姿を忘れたんですか。ま、思い出したくないのも分かりますけどね・・・あの時のヴァルガーヴは、古代竜の身体にガーヴ様の力を備えた上、ダークスターとヴォルフィードと融合し、そこに僕とフィリアさんの神魔融合魔法が干渉した―――非常に不安定な存在だったんですよ。 これは『卵』なんかじゃなく、『結界』です。これが破れた瞬間に世界が浄化される可能性だって充分考えられる訳です。今度は世界の危機なんて、警告は無しですよ。 またあなたは自分の手で、世界を滅ぼす者を呼ぶのですか?」 返事は無い。 ヴァルガーヴの手がフィリアの手を掴み、ダークスターを召喚するゲートを開かせた―――今のフィリアの姿は、あの時によく似ているとふとゼロスは思った。 獣王はこの球体を持ち帰るように命じたが、此処で壊してしまっても同じことではないか。むしろ、彼女の目の前ではっきりと終わらせてしまった方が、彼女に下手な希望を与えなくても良いのではないか。 月の光を浴びて、うずくまるフィリアに聞こえないよう、囁く。 「・・・此処で死んでもらいますよ、ヴァルガーヴ・・・っ!!?」 キィィィィィン!!! 不意に手の中の物体が大きく点滅すると、次の瞬間悲鳴のように金属音をあげた。ゼロスの言葉に反抗するように、その音は彼を攻め立ててゆく。内部からばらばらにされるような、精神体に直接ダメージを与える音。 「う・・・うわぁぁぁぁぁ!!!」 「ゼロス!!?」 フィリアも鼓膜の破れるような甲高い音に耳をふさぐが、ゼロスが何故そこまで苦しむのかは分からなかった。鳴り止まない音に、悶絶するゼロスの手から『卵』が滑り落ちる。 「ああっ!!」 慌ててフィリアが腕を伸ばすが、『卵』はぴたりと空中で止まった。そして。 ぴしり、と音を立て、結界が破れた。青い光は柱となって燃え上がり、月よりも煌々と闇に沈んだ世界を嘲笑うかのようにどこまでも照らし出した。 |
32688 | チェイン:03 | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/5 12:57:04 |
記事番号32684へのコメント Chain:03 ■NOT A PERIOD■ ふ、と光は消えて、残像の残る目でフィリアは探した。卵から、いや、結界から出てきたものを。 部屋は再び闇と静寂に包まれた。扉に凭れ掛かるようにして苦しみ続けるゼロス。そして、それとは違う、獣に似た荒い吐息。 「誰・・・?」 フィリアの声に反応したのか、闇の中から何かが立ち上がった。 大きな窓から注がれる月光が照らし出したのは、翡翠色の髪を額や顔に張り付かせた青年。 「ヴァル・・・」 ヴァルガーヴ、と叫びたかった。しかしフィリアはその言葉を呑む。目の前の青年は、フィリアが長い間思っていた彼のイメージとは遠かった。ヴァルガーヴより長い髪をして、苦しげではあるけれどきょとんとした顔をして、額には角がない。 だが同時に見覚えがあると思った。古代竜の神殿で見た、彼らの記憶。虐殺された竜たちの中で泣く子供。あの子だ。そしてあの子は、ヴァルガーヴだ。 ならば、目の前に立つのはやはりヴァルガーヴなのか。 はっ、と己を取り戻したフィリアの眼に映ったのは、彼に向かって錫杖を構えるぜロスの姿。 「ダメっ・・・!!」 彼もすばやくゼロスに向き直ったが、額にぐっと錫杖の先が押し付けられる。 「――ゼロス、お前・・・」 歳相応だった表情に、たちまち険が滲む。その顔を見て、ゼロスは満足げに微笑んだ。 「記憶はあるみたいですね、ヴァルガーヴさん。お帰りなさいませ」 「・・・気色悪ぃ事言ってんじゃねぇよ」 やるのかコラ、と詰め寄る彼――ヴァルガーヴーーに、ゼロスは錫杖を下ろしてさらりと言った。 「戦ってもいいですけど、あなた死にますよ。魔族じゃなくなってますから」 「あぁ!?ふざけんじゃ・・・」 「角、無いですよ」 今度は錫杖の代わりに指で額をつつかれ、ばっと自分の手で頭を押さえ、撫で回す。確かに、ガーヴに救われた時に生えた角は跡さえ残っていない。 「魔力の源が浄化された以上、あなたはただの古代竜に逆戻りです。ガーヴの気も感じられませんし」 茫然自失のヴァルガーヴ、ぼんやりとふたりのやりとりを見詰めるフィリア。 参りましたねぇ、とゼロスが続ける。 「あなたも知っているように魔族も人材不足なので、あなたがガーヴの力を持ったまま出てくれば赤ちゃんだろうが何だろうがこっち側に来てもらうつもりだったんですけどねぇ・・・魔族じゃないんだから、もう、どうしましょうか?」 「俺が知るか!!」 「とりあえず、獣王様に報告ですかね」 座り込んだままのフィリアを一瞥し、ふっと闇に溶ける。 <あぁ、誕生祝いを忘れてました> 声だけが部屋に響くと、ころん、と床に何かが転がる。 おしゃぶり。しかも、ピンクの花柄の。 「ゼロス・・・喧嘩売ってんのかテメェ・・・」 とりあえず、いきなりゼロスと戦う羽目になるのは避けられた訳で、ヴァルガーヴは息を吐くとその場に座り込んだ。 ひどく疲れていた。心も、身体も、一度ひっくり返して混ぜ合わされたような、今まで抱いたすべての感情を一度に並べられたような。 だから、今は逆に落ち着いている。目の前に居るのが一度は心底憎んだ女だと気づいても、どうという気持ちはなかった。 「ヴァルガーヴ、なの・・・?」 「・・・あぁ、多分、な・・・」 フィリアの両手がヴァルガーヴの顔に伸びる。 温かい。 フィリアはヴァルガーヴは幻ではないことを確かめ、ヴァルガーヴはこの温かさは少し前にも感じたな、と記憶を辿る。 ようやく俺も終われる、と、自分が消えてゆくのを感じた時、 誰かの手が、救い上げてくれた。あの感じだ。 |
32690 | チェイン:04 | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/5 23:37:14 |
記事番号32684へのコメント Chain:04 ■ no title ■ 闇から闇を渡り、獣王の元に報告に向かっていたゼロスは、ふと覚えのある気配を感じ取って姿を現した。寝静まった安宿の一室にすっと滑り込み、枕を抱えて眠りこける気配の主――リナーーを覗き込む。 「困りました・・・」 「んん・・・・」 異変を感じたのか、小さく呻いてリナは眼を覚まし。眼と鼻の先にニコ目のおかっぱが浮遊しているのを見るなり絶叫した。 「っぎゃぁぁぁー!!!って、ゼロス!!?」 「あ、お久しぶりです。リナさん。今回の旅はおひとりなんですか?」 「そ、そうだけど・・・こんな時間に乙女に何の用事よッ!!」 寝癖だらけの赤毛に手ぐしを入れながら、不機嫌に問いかける。 「困ったことになりまして・・・」 「だから、何!!?」 「卵が孵りました」 ・・・一瞬、リナの脳内は?マークで満たされ、しばしの沈黙の後、それがフィリアが拾い上げたヴァルガーヴ(らしい)卵のことだと気づいた。 「――で、何が出てきたの?」 「これから獣王様に報告しなきゃいけないんですけど・・・なかなか思い通りにはいかないものですねぇ・・・」 あぁ気が重い、と、リナの問いを完全に無視したまま、困り顔のゼロスは闇に溶けた。 「な・・・なんだっつーのよ・・・・・?」 安眠妨害されたあげく、疑問を残され、寝付けなくなったリナが闇に向かって溜め息をつく。 あの戦いが終わった後、リナは故郷の姉ちゃんに戦いの結果を報告しに、ガウリィは先祖代々の剣を失ったことを報告しに自分の故郷に、アメリアはセイルーンに、ゼルガディスは魔導書を探しにと4人はばらばらになり、今までなら自然に4人組に戻っていたのに、今回はしばらく時間が経っても誰とも再会しなかった。 姉にこっぴどく絞られ(向こうは愛情表現のつもりらしい)、そのダメージから立ち直れていない姿を見られなくて良かったとは思うが、どうにも調子が戻らなかった。盗賊いぢめに勤しんでもあと一歩のところで金目のものは奪えず、路銀も尽きそうな時に、目の前に現われたのがゼロスとは・・・。 ついてないなぁ、と口に出そうとして、ふと思いついて呪文を唱え、ライティングの灯りで地図を見る。 「フィリアの家・・・近いじゃない」 やっぱあたしってついてる!!とたちまち機嫌を直し、ベッドに潜り込む。 卵から生まれたのが何なのかは気になるが、明日の朝一で出発すれば、夕方にはお腹一杯フィリアのもてなしにありつける訳だ。 (ヴァルガーヴの卵、に見せかけて、出てきたのがガーヴだったら困るけどね) そんな魔族も想像しなかった考え行き着き、リナは苦笑しながら再び眠りに落ちた。 |
32691 | チェイン:05 | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/5 23:38:48 |
記事番号32684へのコメント Chain:05 ■Over The Distance■ 「い、今の光は何ですかっ!!?」 「大丈夫か姐さん!!」 床にぺたりと座り込み、見詰め合ったままヴァルガーヴの頬に手を差し伸べたフィリアとされるがままのヴァルガーヴの硬直を解いたのは、バタバタと駆け込んできた獣人たち。ふたりとも大きなタンコブを作っている。 『ヴァ・・・ヴァルガーヴ様!!?』 部屋に飛び込んだふたりは、ヴァルガーヴを見るなりその勢いで彼に飛びついた。 「ヴァルガーヴ様、生きてた!!戻ってきてくれた!!オレ嬉しい!!」 「オレだって嬉しいに決まってんだろジラス!!うう・・・ヴァルガーヴ様・・・」 巨大な愛犬に押し倒された飼い主状態のヴァルガーヴ、感動というか興奮している部下をさておいて、かたわらで呆然としているフィリアにぼそっと問いかける。 「あんたとジラスとグラボスって・・・どういう集まりだ、コレ。 つーか前から聞きたかったんだが、何でジラスがあんたに懐いてるんだ、お嬢さん」 「ちょっと・・・あなたがダークスターに飲み込まれた後で色々あったんです・・・」 答えながら、無意識で自分の巨乳を両手で覆い隠すフィリア。 「姐さんと、親分と、オレと、一緒に待ってた。ヴァルガーヴ様のこと。ヴァルガーヴ様が戻ってくること」 首に抱きついたジラスの言葉に、ヴァルガーヴはふと苦笑する。 「――『ヴァルガーヴ様』は、もう居ねぇよ。 お前らには難しいかも知れんが、俺は本来竜族で、ガーヴ様に救われて魔族になった。 でも、此処に戻ってくる時に、俺は魔力を失っちまったらしい。 ガーヴ様の力を失った今、あの人から貰った「ヴァルガーヴ」の名前も、返さなきゃならないから、な」 「・・・だからヴァルガーヴ様、少し違うんですね。角が無いし、髪長いし、雰囲気も・・・」 ジラスよりも賢いらしく、大筋を理解したグラボスが答える。 「まさかお前らが俺のこと待ってるなんて思わなかったけどな。 もう、お前らは自由なんだから、好きな所へ行っていい・・・つーか、行ってくれ。俺自身のこともよく分かんないから、お前らの面倒まで見てる余裕が無いんだ、正直言って」 俺はガーヴ様みたいな力を持たないから。お前らにしてやれる事なんて何も無いから。 そんな事は無いと思うけど、俺のようにはなって欲しくないから。 そっけない言葉に隠された本音を、けれど付き合いの長い彼らは察知したらしく、ヴァルガーヴにしがみつく腕に更に力を込めて号泣している。 「ヴァ、ヴァルガーヴ様・・・じゃなければ、何て呼べばいいんですか?」 「ヴァル、でいい。本名だから」 『ヴァル様ぁぁぁ・・・・』 「だから『様』も要らないっての・・・」 主従愛に溢れる様子を見つめながら、フィリアもそっと「ヴァル」と呼んでみる。聞こえないように。そして、思ったのは。 (魔族って、情緒が欠けてるとは感じてましたけど、ネーミングセンスまで無いんですね) ふたりの獣人にもみくちゃにされながら、嬉しそうなヴァルをフィリアは見つめ、その視線がふとぶつかった瞬間、彼の顔が曇ったのを彼女は見逃さなかった。 (まだ、私の前では「ヴァルガーヴ」なのね) 彼を最初に突き動かしたのは、自分たち古代竜を滅ぼした黄金竜への復讐心。それが、ガーヴとの出会いで少しずつ形を変え、最後には世界の浄化へと目的が変貌したのだから。 彼が古代竜に戻った以上、どれだけの憎悪をフィリアに向けるのか。 そしてヴァル自身も、穏やかだった風が一瞬で嵐に変わったような感情の昂りに恐れを抱きながら。 再び動き出した時間は、誰にも止められない。 |
32697 | チェイン:06 | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/9 16:48:54 |
記事番号32684へのコメント Chain:06 ■キャンドル■ ようやくジラスとグラボスを引き剥がすと、ヴァルは何やら考え込み、 「鏡、あるか?お嬢さん」 とフィリアに問いかける。 「か、鏡、ですか?」 えっとえっと、と周りを見渡し、ベッドサイドの手鏡を慌てて渡す。 鏡に映る自分の姿をまじまじと見つめ、「俺だ。」とつぶやいたヴァルに、フィリア達の視線が急に冷たくなる。 「ゼロスの野郎の言葉は疑ってかかるのが俺の信条なのに、鵜呑みにしちまった・・・ けど、今回に限っては嘘じゃねぇ、か」 懐かしい顔だ。黄金竜に砂漠の果てまで追われ、ガーヴと出会った時の、間違いなく純粋な竜族だった時の姿。 「――ヴァル、だな。やっぱり」 久しく忘れていた名前を口に出してみる。 自分の目で確認してみて、改めて自分はもう魔族ではないことを思い知る。 (俺にはもう、ガーヴ様の名を継ぐ資格が無い) ガーヴが滅んだ時、ヴァルガーヴだけが復讐を誓った。彼以外のガーヴの部下達には、それが出来なかった。純粋な魔族は、支配者を失ったら他の上級魔族の支配を受ける。「復讐」という観念自体持ち合わせていないだろう。生身の身体を持っているヴァルガーヴだけが、ガーヴの遺志を継げた。だが、ヴァルはもう魔族ではない。 自分の一族を滅ぼされた復讐心から始まって、ガーヴの敵討ちから世界の浄化という極論にまで暴走した挙句、このザマだ。 (俺が竜族に戻った時点で、ガーヴ様の遺志を継ぐものは居ないんだ) 復讐するものが居なくなれば、その恨みは終わるしかない。 肉体は魔族だったことなど無かったかのように、ふたたび命あるものとして動き出した。なのに、記憶だけは残っている。はっきりと。 だから、覚えている。目の前の黄金竜の娘に抱いた、怒りと、憎しみと、苛立ちを。 (俺が生き延びなきゃ、お嬢さんは救われたのにな) ヴァルガーヴだった時でさえ、フィリアが黄金竜と知ってからは彼女に対して憎悪をむき出しにした。古代竜に戻った今、彼女にどう接すればいいのかヴァルは躊躇った。 とりあえず、シンプルな疑問を投げかける。 「ジラスとグラボスは何となく分かるが・・・何故お嬢さんが、俺を待っていた?」 「卵、だったから」 「――え?」 この位の卵だったんです、とフィリアは両手の指で円を作る。 「戦いの後に風が吹いて、白い羽根と一緒に、青い球体が降りてきて・・・私、それがヴァルガーヴだって感じたんです。 だから、いつかヴァルガーヴが生まれるんだと思って、それをジラスさんとグラボスさんと一緒に待ってたんです!」 「卵・・・?」 おぼろげな記憶を辿っても、ヴァルは自分が狭い殻の中に居たとは思えなかった。母親の胸の中のような、温かくて、明るくて、清らかな場所だった、気がする。 「卵だから・・・私たち、あなたが赤ちゃんになって出てくると思って、だから私が責任持って育てようと思って・・・。 こんな、こんなでっかいのが出てくるなんて思ってなかったんです!」 「でっかいのって・・・悪かったな・・・」 フィリアの後ろでジラスとグラボスもうんうんとうなずいているのを見て、ゼロスの置いていったおしゃぶりが只の嫌がらせではなかったことにヴァルは初めて気づいた。 (責任持って、か) 古代竜を滅ぼした責任か?ヴァルガーヴだったら口に出したな、とヴァルは浮かんだ言葉を飲み込んだ。今は、フィリアを精神的に追い詰める気にはならない。 (俺も、一応魔族に染まってたのか) 知らず知らずのうちに負の感情を引き出して食い物にしていたのかと思うと、胸焼けがした。 もし、フィリアたちの想像していたように、自分が赤子として生まれていたら? 記憶も無く、魔族の力も失っていれば、フィリアの子供として幸せになったのだろうか。苦痛とか、憎悪とか、虐殺とか、そんなものとは縁の無い幸せな子供に。 でも、それを育てるフィリアは? (自虐的だな) 一生、罪の意識を背負って生きていくことになる。それが彼女が言った「責任」とイコールなのかも知れない。 ならば、この状態で生き返ってまだマシなのだろう。 (離れればいいんだ) さっきはジラスとグラボスに離れろと言ったが、自分が立ち去った方が簡単だとヴァルは考え直し、けれど身体は鉛のように重かった。 抗いがたい眠気に襲われてヴァルが床にごろん、と仰向けになると、空の高みに上りつめた満月が見えた。綺麗だな、とつぶやいて、それも久しく忘れていた感情だと気づく。 あぁ、やはり此処にも月があるわ。 眠そうな顔で月を見上げるヴァルを見詰め、フィリアは思った。 やがてふたつの金の瞳が閉じられ、呼吸が浅く、規則正しくなる。 (子供みたいな、顔して。私より若いんじゃないかしら。「お嬢さん」なんて呼んでおいて) 巫女という位に甘えて、澄ました顔をしているのが仕事だと思い込んでいた自分の愚かさを、ヴァルガーヴの瞳は見透かしていた。だから、「お嬢さん」と呼んだのだろう。侮蔑を込めて。 それでも、あの目で見詰められ、呼び掛けられると、魂が燃えるのを感じた。 フィリアはふと振り返り、所在無げな獣人たちに向かって唇に指を当て、静かに、のジェスチャーをする。 そして金色の髪を耳にかけ、ヴァルにくちづけした。 |
32698 | チェイン:07 | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/9 16:51:35 |
記事番号32684へのコメント Chain:07 ■Ring my bell■ 地図上では丸一日は覚悟していたフィリアの家への道のりだが、タダメシと好奇心に動かされたリナは陽も上がりきらないうちに宿を発ち、セイルーンへ手紙を出すと猛スピードで北を目指し、昼過ぎには玄関の前に立っていた。 手土産も約束も無いがそんなことは構わず、リナは拳を握り・・・ノックしようとした扉が、勢いよく開いた。 「ほら、行くぞジラス!!」 「姐さん・・・姐さんへの恩は一生忘れない!!」 「ど、どうしたんですか急に・・・」 『どうかお幸せにー!!!』 フィリアの声を振りきり、転がるように外に飛び出してきたふたりにリナは見覚えがあった。 「あ。ドジラス」 「うわっっ!!リナ=インバース!!?」 相変わらずバケモノを見るような視線を向けてくる。この野郎、と逆に睨みつけてやると、二人の背に大きな風呂敷包みが乗っているのに気づいた。 「あんたら、どっか行くの?引越し?」 「ここはヴァル様と、姐さんと、ふたりきりにしてやるべきなんだ・・・」 「あ、生まれたのヴァルガーヴなんだ」 もちろんリナの脳内では、青い髪の目つきの悪い赤子がフィリアの胸の中でバブバブ言ってる姿。 「オレ、全然気づかなかった・・・姐さんの気持ち・・・」 「・・・フィリアとなんかあったの?ついに厄介払いされた?」 「・・・姐さんと、ヴァル様が、キス、した」 赤ん坊のほっぺにチュッ、とするフィリアを想像し、 「へぇ・・・そんなに可愛くなるもんかしらねぇ・・・?」 プレゼント代わりにあたしもちゅー位してやろうかな、と冗談のつもりで言うと、 「御二人の邪魔しやがったら許さないからな!!」 とグラボスにものすごい勢いで凄まれる。 「な、なんなのよ・・・」 そういえば、聞いたことがある。子供が生まれた家は衛生上の問題でペットが追い出される、と。遠くなってゆく獣人たちの背中に、リナは勘違いした同情の視線を送った。 「フィリア、お久しぶりー」 開けっ放しの扉から中に入ると、ぽかんとしたフィリアが居た。 「あ、リナさん!!」 「昨日ゼロスに会って、卵が孵ったって聞いたから、さ。ヴァルガーヴ、なんでしょ?」 「一応は・・・」 「あたしにも抱かせてよ」 フィリアはリナの勘違いに気づいたが、訂正する気にもならず、 「――まだ眠ってますけど。抱きたければどうぞ」 と寝室の扉を指す。それをそっと開いたリナの足がビクッ!と止まる。 「こ、こ、こ、こここれって・・・・」 ベッドで眠るのはほよほよの赤子・・・ではなく、ガラの悪そうな兄ちゃんだった。髪は長いし、角は無い。でも、見覚えはある。ありすぎる。 「・・・出てきたんですもの、コレが。卵から」 「で、出てきたって・・・だってこーんな小さい卵で・・・・え!?どういうコト!!?」 フィリアは不機嫌そうに首を横に振る。 「私にも分かりません。ゼロスはひとりで納得して消えるし・・・あ、魔族ではなくなったからヴァルガーヴじゃなくてヴァルなんですって」 「わ、分っかんないなぁ・・・」 「私だって一晩考えっぱなしです。ヴァルは昨夜から眼を覚まさないですし・・・」 「起きてる」 そっけなくつぶやくと、ヴァルの目がぱっと開いた。 「お、起きてたんですか!!?いつから!?」 「すげぇな、あんたの存在感は」 前髪をかき上げながらヴァルは身を起こし、こいつの気配で起きちまった、とリナを指差した。 「――お久しぶり。存在感って、それ、褒めてんの?」 「どうかな」 両者とも不敵な笑みを浮かべる。火花が散るほどの鋭い視線を交錯させて。 「ゼロスに卵が孵ったって言われたから来てみたんだけど・・・あんたを抱き上げてほっぺにちゅー、って気分にはならないわ」 「・・・ゼロスに会ったのか?」 「昨日ね。いや、今日なのかな?真夜中に乙女の寝室に侵入してきたわよ」 「獣王に報告しなきゃ、ってとっとと消えたくせに、リナ=インバースに寄り道か・・・」 不意にヴァルの眉間に皺が刻まれ、アイツも終わってるな、と思ったが口には出さない。 「とにかく・・・、あたし、お昼ご飯まだなんだけどな☆」 黙りこんだヴァルをさて置いて、妙な緊張感ただよう会話に入り込めないでいるフィリアに向かってリナは甘い声を出した。 何故か顔色を悪くして台所に向かうフィリアを、ヴァルが追いかける。 「なぁ、あいつら・・・グラボスとジラスは?」 「あ!・・・追いかけるの忘れてました・・・」 「え?」 「リナさんと入れ替わりで、出ていっちゃいました・・・」 「な、なんで!?何処へ!?」 「さぁ・・・」 俺がどこでも好きな所へ行けって言ったのを真に受けて!?ヴァルは自分の言葉の足りなさを後悔した。 俺もとっとと、そう考えた瞬間、鼻先に3枚の皿を突き出された。 「すみませんけど、これ、テーブルまでお願いします」 あとフォークとティーポットとカップも。にこっとフィリアに微笑まれ、無言の圧力を感じたヴァルは言われるままに台所と居間のテーブルを往復しながら、今のが母親面ってやつか、と考えた。 「――壮絶・・・」 初めて見るリナの食事シーンに、ヴァルは思わずつぶやく。自分の皿の料理は全く減らないのに、もう一口も食べられない気持ちになるには何故だ。 「ヴァル・・・おいしくないですか?」 「いや・・・」 フィリアに不安げに尋ねられるが、分からない、というのが彼の率直な感想だった。こんな風にきちんと皿に盛られて調理されている食事を、最後に摂ったのはいつのことだったろうか。魔族になってからはガーヴが時々ディナーの真似事なんかをしていたが、その食事に味は無かった。砂を噛むような。長い時間の果てに取り戻した感覚に、ヴァルはまだ戸惑っている。 ありえないスピードで食べまくるリナだが、聞く耳はあるらしい。ヴァルと同じくリナを見ているだけで胃が膨れてきたフィリアが昨晩のことをざっと話すと、リナはふーんと答えてようやく手を止めた。温んだ香茶を一気飲みする。 「ん・・・だから角無いし、髪長いし、何となく目つきの悪さ3割減だし、ヴァルガーヴじゃなくてヴァルなんだ」 正面に座ったヴァルをしげしげ見詰め、ウィンナーが刺さったフォークを彼の眼前に突きつける。 「――ヴァルガーヴの記憶、あるわよね」 「ああ・・・全部、覚えてるさ。 リナ=インバース。俺を、どうしたい?」 「――どういう意味?」 「俺は、世界の危機の張本人だぜ?それだけじゃない・・・あんたをガーヴ様の仇だと狙った・・・憎くねぇのか?」 「・・・ヴァル?」 フィリアがヴァルの瞳の色が変わったのを察知する。昏い輝き。ヴァルガーヴの、眼だ。 一瞬の沈黙を破ったのは、リナだった。 「話題、古っ!!!」 「・・・・え・・・・?」 「あのさー・・・あれから何年経ってるか知ってる?2年よ2年!!今更世界を滅ぼそうとしてゴメンナサイとか言われてもこっちが参るわよこの浦島太郎!! ヒトの命は短いの。2年も恨んでる暇は無いわ!!強いて言えば初めて戦ったときに蹴られたのがムカツクから一発殴らせろ!」 「充分恨んでますよ、リナさん・・・」 「一番腹立ってたのがそこかよ・・・」 「――ね。こんなこと掘り返してたらキリないじゃない」 仁王のごとく怒り狂っていた表情が、一転、笑顔に変わる。 「時間、っていうのは、残酷だけど優しいわよ。恨みも憎しみも薄まってゆくから。 魔族になって、止まった時間の中に居たあんたには分からないでしょうけど。 これから、分かるわよ。きっと」 「リナさん・・・。私、誤解してました・・・てっきり『このエロ腰!!』って罵るか、『土下座して靴をお舐め!!』とか強要するかと思」 リナ渾身の一撃が、フィリアの側頭部に見事にヒットした。 「な、何するんですかリナさんっっ!!」 「余計なことするのが蛇足!!」 きゃあきゃあと言い合う女ふたり。蚊帳の外のヴァルは、リナを見つめている。 (やっぱ、すげぇ女だな) ヴァルは、続けて言うつもりだった。今度はフィリアに向けて。 「俺の一族を滅ぼしたのは黄金竜だけど、あんたは関係なかった。何も知らなかった。だが、あんたの一族をぶっ殺したのはこの俺だ」と。 本当なら、俺がこの首をあんたに差し出すべきだった、お嬢さん。俺には後に続く者なんか居ねぇし、そうすれば、復讐はここで終わる。だから、殺せ。 それを口に出してしまったらーー取り返しはつかなかったはずだ。 (過去の感情に囚われていたのは俺だけか) 全てが静止すれば平穏が訪れると思っていた。でも、実際は澱みにはまって抜け出せないでいた自分が居た。時間は流れていたのだ、リナたち人間にとっても、竜であるフィリアにとっても。 あの時に自分が突きつけた残酷さを昇華したから、フィリアは自分の前で笑っているのだ。ヴァルガーヴだった時は、泣かせることしかできなかった。 (俺にも、分かるのか) 全て見透かしたような揺ぎ無い彼女の声を、ヴァルはふと信じてみようと思った。 |
32699 | チェイン:08 | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/9 16:53:04 |
記事番号32684へのコメント Chain:08 ■ガールズトーク■ 「あのさーフィリア。さっきドジラスが言ってたんだけど・・・キス、したの?」 「あー・・・アレ見てたから出てっちゃったんですか!」 「したんだ!!」 「・・・しました」 「あんのムッツリスケベ・・・無理矢理されたの!?」 「あの・・・逆です」 「・・・・・・逆?」 「私から、無理矢理っていうか眠ってる隙に、しました」 「・・・あんたって・・・ヴァルのこと・・・」 「これ以上聞かないで下さい。生ゴミと同じこと言っちゃいそうです」 「秘密?」 「――です」 「あっそ」 |
32704 | チェイン:09 | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/9 22:21:42 |
記事番号32684へのコメント Chain:09 ■ no title ■ 「――という訳で、ヴァルガーヴは魔力だけを失い、ガーヴに拾われる前の状態に戻ってしまったようなんですが・・・どうします?」 「ゼロス・・・いつから私に嘘をつけるほど偉くなった?」 「どういう意味でしょうか、獣王様」 「誤魔化すのは無意味よ。お前は私の腹心である以前に―――私が創り上げた存在にすぎないのだから。 私は命じたはずよ、『結界』から何が生まれるか確認しろ、と。 なのにお前はなぜ『結界』を壊そうとした!?」 「・・・予想外の何かが、現われてからでは遅いのでは、と」 「それは命じられた時に反論すべき言葉よ。 一度承諾した以上、お前は命令に従うほか無い。――なぜ、私を裏切るような真似を?」 「・・・『卵』をこっち側で処理したら・・・フィリアさんが納得しないでしょう。 何が現われるか分からないから、なんて説明したって、彼女が折れるとは思えないーー」 「出てくるのは古代竜の坊やじゃないかもよ、って脅かしてしまえば、あの娘の感情を糧とすることができるのに? お前は、奪いたかっただけだろう。娘の前から、あの坊やの影を」 「・・・僕が、イキモノみたく嫉妬に苦しんでると? 冗談じゃありませんよ、そろそろフィリアさんの反応にも飽きてきた、それだけです」 「飽きる、ねぇ・・・。 ゼロス、お前に次の命令を与える。坊やの目の前で、あの黄金竜の娘を殺しなさい」 「――意味は、ありますか」 「今はまだだ・・・けれど、時期を見てあの娘を殺せば、坊やはまた魔に堕ちるかも知れない。大切なものを失っては復讐を誓ってきた、愚かで愛しい坊やなら」 「・・・そこまでして、ヴァルガーヴが欲しい理由が僕には分からないのですが、獣王様」 「理由? 一度は神と魔の相反する力をその身に宿し、更に異界の魔王と接触した、その記憶が、どれだけの役に立つか分からないの?神官を名乗る、お前が」 「・・・・・・・」 「ゼロス、お前に謹慎を命じる! お前は命ある者たちに関わり、人間くさくなりすぎたわ。少し頭を冷やしなさい。 ――リナ=インバースの次は、竜族の女に焦がれるとは。もう見ない振りは終わりよ。 私だって、お前を失いたくないのに――」 |
32707 | チェイン:10 | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/10 14:07:53 |
記事番号32684へのコメント Chain:10 ■Not Still Over■ 待ちわびた夜がやってきて、ヴァルは静かに窓を開けた。昨夜は澄んだ輝きを放っていた月は厚い雲に覆われてしまい、夜の闇はひときわ濃いものになっている。夜風が柔らかく吹き込む隙間を、猫のようにするりとくぐり抜けた。 一緒には、居られない。フィリアにどれだけの決意と覚悟があるのかは分からないが、ヴァルは離れるのが最善の手段だと考えた。 昨晩戻ったばかりのヴァルはこの場所がどこなのか知らなかったが、風の匂いがそれを教えてくれた。かつて古代竜の神殿があった場所、自分たちの終焉の地がほど近い場所に、フィリアの家はあった。風に誘われるようにヴァルの足は北へ北へと向かい、しかし彼は思い出した。 最後の故郷へと戻っても、もう何も無い。虐殺の跡を封印された神殿を、一族の血が染み込んだ大地を、ダークスターと融合したヴァルガーヴは、跡形も無く破壊した。 引き返す道も、帰り着く場所も無い。そうやって自分で自分を追い詰めなければ、「世界の浄化」なんてできるはずが無かった。振り向いて、甘えることが無いように、一族が眠る地を壊滅させたというのに。また終われなかった俺は、どうやって生きればいいのか。 その考えに気をとられていたヴァルは、今度は彼女の気配に気づくことができなかった。 「どこ行くのよ」 闇に溶けた木立の中から小柄な影が動き出し、ヴァルの前に立ちはだかる。 「ヴァル・・・あんたとふたりで話がしたいの」 「お嬢さんには聞かせられない話を、か」 彼の答えに、リナは無言でうなずいた。 「フィリアを、これ以上傷つけないで」 「――分かってる。だから、離れるんだ」 それは駄目、と今度は首を横に振るリナ。 「フィリアは、あんたを待ち続けた。だから、もう何処へも行かないで。 だけど、これ以上自分の一族を振りかざしてフィリアを追い詰めないで」 「・・・それは・・・」 それが出来れば、苦労はしない。だから一緒に居られないんだ、なぜすべて見透かしているはずのこの女が無茶を言う? 「フィリアは、自分の一族があんたの一族を虐殺した過去に苦しんで、あんたの怒りを、苦しみを救うために、すべてを捨てた。巫女を捨て、卵からあんたが生まれたら、残りの人生全部をあんたに捧げると決めていた。 ――フィリアは痩せたわ。分かるでしょう?苦労したのよ。それでも、誰にも頼らないでフィリアはあんたを待った。 だから、もうお嬢さんと呼ばないで。側にいてあげて。 あんたは弱いから、フィリアの曲がらない強さが怖いんでしょう。だからいつも、フィリアから逃げるんでしょう。 それが一番フィリアを傷つけるのよ。あんたの言葉じゃなくて、その態度が、いつもフィリアを追い詰めるのよ。話し合うこともせずに、どうして逃げ出すの!?」 「――誰が弱いって?」 「・・・ヴァルガーヴ、あんたの本音は、どこにあったの?」 「話題が古すぎるんじゃなかったのか」 「矛盾した主張で、子供の我儘で、世界全部を犠牲にして心中するつもりだったんでしょ。あんたは、どうしたかったの。本当に、命あるものの真の幸福が永遠の平穏にあると思ったの?もうあんたみたいに虐殺におびえる子供が泣かないようにしたかったの? それとも、すべては我儘だったの?自分が死にたいために、ひとりで逝くのが嫌で世界と心中しようとしたの? ――あんたは、分からなくなったんでしょう。一族の仇とか、ガーヴの仇とか、誰かの痛みのためにたったひとりで戦い続けて、自分を見失ったんでしょう? 復讐という自分で背負った荷物に潰された、それがあんたの弱さよ」 「――違う・・・」 ズキン、とヴァルの額が痛んだ。ガーヴから与えられた魔力の証、角のあった所が。 暴走してゆく自分を、止めることが出来なかった自分が、確かにあの時居た。どうすれば楽になるかだけを求めた。それすらも、リナは見透かしていた――。 耐え難い頭痛に、ヴァルはその場に崩れ落ちる。リナの声が、頭上から降り注ぐ。 「本来なら一度しかない命を、あんたは失っては手に入れてきたから、忘れてしまったのかもしれないけど。 死ぬために生まれてくる訳じゃないでしょう、あたしたち命あるものは」 「・・・俺は、どうだろうな」 痛む頭を抱えたまま、ヴァルはつぶやく。最初の生は、自分が生まれたときから戦いは始まっていた。追われ、殺されるかもしれない恐怖と黄金竜への憎悪だけが、すべてで。魔族となってからは、ガーヴの残党として魔族に追われ、その中でガーヴの仇を追い続けた。ダークスターと融合してからは「世界の終わり」を望み・・・今回は? 終わらなかった世界に、再び生まれることが出来た自分がどうすればいいのか、ヴァルは戸惑っていた。自らの終わりだけを求めて暴走した自分に、今更、何が。 リナはヴァルの隣に腰を下ろすと、彼の髪をくしゃくしゃに撫で回した。嘘のように、痛みが引いた。はっ、と顔をあげたヴァルに、リナは笑いかける。生意気な小娘が、と抱いた怒りも消えてゆくのが分かり、その笑顔は反則だ、とヴァルは思う。 「あたし、前にも言ったわよね。生きてくってことは、前に進むことだって。 でも、あの時言う言葉じゃなかった。あの時のあんたは・・・生きては居なかったから。 今は、分かるでしょう?前に進まなきゃ、生きてるのが勿体無いってこと」 「――あんたは、強いな」 「・・・リナ=インバースは、ドラゴンもまたいで通る最強の魔導士で、心も、身体も、いつも強くなきゃいけなくて。 そんな自分が重荷になる時もあるわよ。けど、あたしは潰れないわ。ひとりじゃないから。 あんたは、ひとりで錆びた武器をふりかざして戦い続けたけど、それじゃ続かない」 「・・・だから、お嬢さん、か」 「そういうこと。死ぬために生まれる訳じゃないし、離れるために出会う訳じゃない。それが生きてくってことよ」 「・・・まだ、俺には掴めないな」 「手伝ってくれるわよ、フィリアが」 「あんたは、駄目なのか?」 「――あたしに手伝えっての!?何で?」 「惚れてるから」 その揺るがない強さが、俺を引き付けるから。 予想外の直球を投げられ、リナは冗談でしょ、と笑い飛ばすタイミングを完全に逃した。 「な、な、な、な、な・・・何言ってんのよ唐突にー!! フィリアはどうすんのよフィリアは!!」 「――お嬢さんは関係ないだろ」 「フィリアはあんたのことが・・・好きらしいわ・・・」 「――冗談だろ」 「それはあたしが言いたいわよ・・・何か、フィリアの気持ちを察してドジラス達出て行ったみたいだし、本気でしょ」 「――仮にそれが本当だとしても、お嬢さんが俺を好きだって話と、俺があんたを好きだって話は別だろ? そしてあんたにはガウリィの旦那が」 「そこまで分かってて・・・あえてあたしに言う?」 「前に進め、って言ったのはあんただよ、リナ=インバース」 「・・・リナでいいわ」 ヴァルガーヴの時とは違う、生意気そうな笑顔を向けられ、リナは不機嫌そうにモテる女は辛いわー、と返してやった。 「ガウリィの旦那と、俺と、ゼロスと・・・ゼルガディスも、か?」 「最初は、ね。・・・ゼロスは・・・どうなのよ・・・」 「・・・俺としては、滅んでくれた方が有難いんだけどな。――困るだろ?」 「あ、あたしは別に!!?」 「魔族に惚れ込んでもろくなことねぇぞ。ガウリィの旦那にしとけ、な?」 「だーかーらーあたしは違うって!! つーかあんたもあたしのこと好きなんでしょ!?」 「旦那あってのリナ=インバース、だからな。あんたと俺じゃ、潰し合うだけだろう。 ――相手がお嬢さんでも、そうなっちまうと思ったんだけどな」 「フィリアは、大丈夫よ」 多分、根拠は無いけど。思わず続けてしまったリナに、適当に喋ってんのかよ!とすかさず突っ込んでしまったヴァル。 「あんたも、結構染まってきたわね・・・」 「はは」 「――戻りましょうか」 空の上は風が強いらしく、朧な月が闇の隙間を縫うのが見える。 「そうだな」 リナに言いくるめられた訳ではないが、それが当然のような気になった。行きとは違い、けもの道を月がかすかに照らしている。 「フィリアには、内緒にするからね。今のこと」 「ああ」 「・・・あのー、あんたの告白は、聞き流す方向で・・・・」 「あ、もう一つ言ってもいいか」 「――もう、何でも言いなさいよ!!」 ようやく切り出した話の腰を折られて、リナは呆れたように叫んだ。ヴァルの顔が真剣なことに気づかず。 「正義って、何だ」 問いの重さに、ぞくりとする。 「――それはアメリアに聞いて。今朝手紙を出したから、仕事ほっぽり投げて飛んでくるわよ」 「あんたの答えは?」 「――悪人に人権は無い、それがあたしのモットーで正義」 「・・・論外」 「あ・ん・た・ね・・・調子に乗るんじゃないわよっこのエロ腰がぁぁ!!!」 大人気なく掴みかかってきたリナを、可愛いけどヒデェ女だな、とヴァルは笑い飛ばし、リナは真っ赤になりながらガキが生意気言うんじゃないっ!と鉄拳で返した。 |
32711 | チェイン:11 | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/12 00:30:04 |
記事番号32684へのコメント Chain:11 ■アンダンテ■ 「おはよ・・・今、何時?」 「あ、リナさん。おはようございます、って言うかもうお昼です」 「・・・あたしの朝ごはんは・・・?」 「お昼ごはんで我慢してください。リナさんが寝坊なんて珍しいですね」 二晩連続の夜更かしが響いて、とは言えず、リナはんー、と大きく伸びをした。明るい光の中で見る簡素な作りの室内は、しんと静まっている。 「・・・そーいやヴァルは?」 「出掛けましたよ」 「出掛け・・・・って外出てんの!!?」 昨夜の説得が全く効かなかったのか!!とひとり焦るリナに、フィリアはいたずらっぽく問いかける。 「帰ってこなかったり、すると思います?」 「ど、どうかな・・・・」 「私は信じてますから」 にこっ、と微笑んだフィリアは女神のごとく美しかったが、同時にものすごい威圧感が漂っていた。 「ホント、あんたは強いわ、フィリア」 「リナさんに比べたら、まだまだ」 「そっかな・・・あたしなんて結構かよわいんだけど・・・。 で、どこ行くって出てったの?ヴァルは」 リナの問いに、フィリアの笑顔が含み笑いに変わる。 「図書館、ですって」 「へー、図書・・・ってアイツ字ぃ読めんの!!?」 「意外ですよね。 丘を南に下ると小さな街があることを教えたら、「かつては俺たちの暮らした土地だから、読めるような文献があるかも知れない」って」 「――ゼルみたいなこと言って」 「ゼルガディスさんは魔導書の探し方、尋常じゃありませんよ!立ち入り禁止の書庫に穴開けたりして・・・そういえば、今回は皆さんご一緒じゃないんですね」 「あの戦いから、なーんか皆タイミング悪くてね・・・ばらばらのままよ。 あ、でもセイルーンに連絡したから、アメリアは来るかも。赤ん坊の誕生と、勘違いして飛んでくるわね、きっと」 正義って何だ――低く問いかけたヴァルの真顔を思い出し、来てくれなきゃ困る!とリナは内心祈った。 ちょうど、昨夜リナと言い争いをしたあたりの樹の上で、ヴァルは持ち帰った本を読んでいた。なだらかな丘の向こうにはフィリアの家が見える。 「逃げるな!」と自分に釘を刺したリナは今頃怒り狂ってるかな、とも思うが、図書館に行きたいと告げたときのフィリアの吹き出しそうな笑みを思い出すと、あの家で本を開く気になれなかった。 (俺が本読むのがそんなに意外か?) 実はかつて古代竜の神殿に仕える神官のはしくれだったので常識とか教養は一応持ち合わせているのだが、頭の悪いヤンキーにしか見えないヴァルガーヴしかしらない彼女たちにとってみれば、彼が読書してればそりゃ笑えるだろう。 不機嫌そうにページをめくるヴァルの手がふと止まった。生い茂った草をかき分け、走ってくる馬の足音が聞こえる。枝の上に立ち上がると、ドレス姿で白馬に跨る黒髪の少女が目に入った。 (アメリア嬢の到着か・・・) ヴァルが樹から飛び降りると、その気配を察した馬の脚が止まった。不思議そうに辺りを見回したアメリアの目に、ヴァルの姿が飛び込んだ。 「――っきゃあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 「え・・・・・?」 「嫌あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 自分の顔を見るなり、絶叫しながら全速力でフィリアの家に突進していくアメリア(を乗せた馬)を、ヴァルは呆然と見送るしかなかった。 一方、家の中のリナとフィリアは聞きなれた濁点ボイスが近付いてくることに気づき、相変わらず元気ねー、と玄関に迎えに立つ。が。 バーン!!!と扉をぶっ壊して中に飛び込んできたのは、白馬の顔が先だった。 『う、馬!!?』 「フィリアさーん!!!大変ですー!!!」 馬の背から飛び降りたアメリアはその勢いでフィリアに抱きつく。その表情は今にも泣き出しそうになっている。 「お、お久しぶりです・・・どうしたんですか?アメリアさん」 「そ、そこで・・・見ちゃったんです・・・ヴァルガーヴさんの霊を!!!」 「・・・・霊?」 「ここって、古代竜の最後の住処だったんですよね・・・やっぱり、ヴァルガーヴさん成仏できずに懐かしい場所に戻ってきちゃったんですよ!!」 プルプルするアメリアの頭上で、リナとフィリアは顔を見合わせる。 「それって・・・・」 「ええ・・・本物ですよね」 「ふたりとも、何で冷静なんですか!!?こう・・・髪をばーって垂らして・・・何か言いたげな顔して・・・・あぁぁぁ・・・・」 アメリアの恐怖に震える様子を破壊された玄関から覗き見ていたヴァルは、どんなタイミングで顔を出せば彼女が気絶しないで済むか、考え込んだ。 |
32712 | チェイン:11 | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/12 00:30:08 |
記事番号32684へのコメント Chain:11 ■アンダンテ■ 「おはよ・・・今、何時?」 「あ、リナさん。おはようございます、って言うかもうお昼です」 「・・・あたしの朝ごはんは・・・?」 「お昼ごはんで我慢してください。リナさんが寝坊なんて珍しいですね」 二晩連続の夜更かしが響いて、とは言えず、リナはんー、と大きく伸びをした。明るい光の中で見る簡素な作りの室内は、しんと静まっている。 「・・・そーいやヴァルは?」 「出掛けましたよ」 「出掛け・・・・って外出てんの!!?」 昨夜の説得が全く効かなかったのか!!とひとり焦るリナに、フィリアはいたずらっぽく問いかける。 「帰ってこなかったり、すると思います?」 「ど、どうかな・・・・」 「私は信じてますから」 にこっ、と微笑んだフィリアは女神のごとく美しかったが、同時にものすごい威圧感が漂っていた。 「ホント、あんたは強いわ、フィリア」 「リナさんに比べたら、まだまだ」 「そっかな・・・あたしなんて結構かよわいんだけど・・・。 で、どこ行くって出てったの?ヴァルは」 リナの問いに、フィリアの笑顔が含み笑いに変わる。 「図書館、ですって」 「へー、図書・・・ってアイツ字ぃ読めんの!!?」 「意外ですよね。 丘を南に下ると小さな街があることを教えたら、「かつては俺たちの暮らした土地だから、読めるような文献があるかも知れない」って」 「――ゼルみたいなこと言って」 「ゼルガディスさんは魔導書の探し方、尋常じゃありませんよ!立ち入り禁止の書庫に穴開けたりして・・・そういえば、今回は皆さんご一緒じゃないんですね」 「あの戦いから、なーんか皆タイミング悪くてね・・・ばらばらのままよ。 あ、でもセイルーンに連絡したから、アメリアは来るかも。赤ん坊の誕生と、勘違いして飛んでくるわね、きっと」 正義って何だ――低く問いかけたヴァルの真顔を思い出し、来てくれなきゃ困る!とリナは内心祈った。 ちょうど、昨夜リナと言い争いをしたあたりの樹の上で、ヴァルは持ち帰った本を読んでいた。なだらかな丘の向こうにはフィリアの家が見える。 「逃げるな!」と自分に釘を刺したリナは今頃怒り狂ってるかな、とも思うが、図書館に行きたいと告げたときのフィリアの吹き出しそうな笑みを思い出すと、あの家で本を開く気になれなかった。 (俺が本読むのがそんなに意外か?) 実はかつて古代竜の神殿に仕える神官のはしくれだったので常識とか教養は一応持ち合わせているのだが、頭の悪いヤンキーにしか見えないヴァルガーヴしかしらない彼女たちにとってみれば、彼が読書してればそりゃ笑えるだろう。 不機嫌そうにページをめくるヴァルの手がふと止まった。生い茂った草をかき分け、走ってくる馬の足音が聞こえる。枝の上に立ち上がると、ドレス姿で白馬に跨る黒髪の少女が目に入った。 (アメリア嬢の到着か・・・) ヴァルが樹から飛び降りると、その気配を察した馬の脚が止まった。不思議そうに辺りを見回したアメリアの目に、ヴァルの姿が飛び込んだ。 「――っきゃあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 「え・・・・・?」 「嫌あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 自分の顔を見るなり、絶叫しながら全速力でフィリアの家に突進していくアメリア(を乗せた馬)を、ヴァルは呆然と見送るしかなかった。 一方、家の中のリナとフィリアは聞きなれた濁点ボイスが近付いてくることに気づき、相変わらず元気ねー、と玄関に迎えに立つ。が。 バーン!!!と扉をぶっ壊して中に飛び込んできたのは、白馬の顔が先だった。 『う、馬!!?』 「フィリアさーん!!!大変ですー!!!」 馬の背から飛び降りたアメリアはその勢いでフィリアに抱きつく。その表情は今にも泣き出しそうになっている。 「お、お久しぶりです・・・どうしたんですか?アメリアさん」 「そ、そこで・・・見ちゃったんです・・・ヴァルガーヴさんの霊を!!!」 「・・・・霊?」 「ここって、古代竜の最後の住処だったんですよね・・・やっぱり、ヴァルガーヴさん成仏できずに懐かしい場所に戻ってきちゃったんですよ!!」 プルプルするアメリアの頭上で、リナとフィリアは顔を見合わせる。 「それって・・・・」 「ええ・・・本物ですよね」 「ふたりとも、何で冷静なんですか!!?こう・・・髪をばーって垂らして・・・何か言いたげな顔して・・・・あぁぁぁ・・・・」 アメリアの恐怖に震える様子を破壊された玄関から覗き見ていたヴァルは、どんなタイミングで顔を出せば彼女が気絶しないで済むか、考え込んだ。 |
32713 | チェイン:12 | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/12 00:31:37 |
記事番号32684へのコメント Chain:12 ■彼女の理由■ 「ヴァルガーヴさん・・・先ほどは失礼しました・・・」 アメリアの勘違いに笑いを堪えるだけのリナとフィリアにヴァルは氷点下の視線を送り、ようやく自分が生身であることを説明してもらったアメリアは真っ赤になって謝った。 「ヴァルでいい・・・別に気にしてねぇよ・・・」 「ホントは結構傷ついてんでしょ?相変わらずナーバスな男ねー」 「あんたは黙ってろ、リナ・・・」 「でも、卵から出てくるのは赤ちゃんだと思ってたから、びっくりしました・・・」 「そーよねー。あたしも手ぶらで来ちゃったからおねーさんがほっぺにちゅーしたるわ!とか意気込んで来たら、コレでしょ。びっくりよ」 「リナさん、そんなこと考えてたんですか!?」 「わ、私も飛び出してきたので手ぶらなんですけど・・・ちゅーとか・・・」 いらないいらない。と呆れた顔で手をひらひらさせるヴァル。その表情が不意に険しくなる。 「――あんたに聞きたいことがあるんだ、アメリア」 「ちょっと、ヴァル・・・!?」 突然本題に踏み出そうとするヴァルをリナは慌てて止めようとするが、 「はい?何でしょう」 何も知らないアメリアは無邪気に答えてしまう。 「――正義って、何だ」 また昏い瞳をしている。フィリアは身を硬くした。リナは苛立ちを押さえる。まだコイツは同じ場所でぐるぐる悩んでるのか――。 「正義、ですか・・・?勧善懲悪!です」 「その正しさってのは、誰が決める?」 「誰、って言われると・・・神様、ですかね?私は巫女なので・・・」 「じゃあ、神様って何だ」 「・・・ヴァルガーヴ、じゃなくて・・・ヴァル、さん?」 「ヴァル、あんたいい加減に・・・」 「神様は、本当に正しいことしか言わないのか!? ――神様は、ひとりじゃないだろう?アメリア、あんたが信仰する神と、お嬢さんの信仰する神と、俺の信仰する神は、違う神様だ。そして、それぞれの神はそれぞれの正しさを主張する。 だから、俺の一族は火竜王を信仰する黄金竜に滅ぼされた。あっちの神が、俺たちを悪としたからだ。でも、俺たちは何も悪くなかった。 大勢の神様がいて、適当なこと言ってるなら・・・神様が正しいと、言えるのか?」 俯いたのは、アメリアではなくフィリアだった。昨日の約束を守りなさいよエロ腰!!とリナは内心毒づく。 しかし、アメリアは動揺することなくヴァルを見詰めている。 「神様は、私たちが創るんです」 「・・・・え?」 「それぞれの神様が、信仰してくれる人々の正義を肯定するのは当然です。同じ土地に住み、同じ種族として生きてゆくためには、共通の正義が必要なんです。 それぞれの神様はそれぞれの土地と、そこで生きる者のためにあって・・・本当の神様は、もっともっと遠いところに座すんです、きっと」 「本当の、神様・・・」 思わず反芻したヴァルの目の前に、アメリアは指で三角形を作る。 「神様にホンモノもニセモノもないと思いますけど・・・魔族にはヒエラルキーがありますよね?多分、神様もそんな感じなんじゃないでしょうか。 で、私が信じるのは神様と勧善懲悪!それが私の正義です!!」 ガツンと言い切るアメリアに、ヴァルは苦笑するしかなかった。 「あんた・・・これ、読んだことあるか?」 「いいえ・・・?」 先ほど読んでいた本をヴァルがテーブルの上に置く。その背後に立つのは怒り心頭のリナ。 「ちょーっと表に出てくれるかしら、ヴァル・・・」 「今度は俺が、質問される番か・・・」 「質問、じゃなくて詰問よッ!!こっち来い!!」 リナに引きずられて外に出て行くヴァルを、アメリアは呆然と、フィリアは不機嫌そうに見送る。 「・・・すみません、アメリアさん・・・。ヴァルも、何だか悩んでいるみたいで」 「フィリアさんこそ・・・大丈夫ですか?」 「ええ。もう、大丈夫です。 ――何の本、なのかしら」 埃っぽい表紙を指でなぞると、題名が浮き彫りになっているのが分かった。ぱらぱらと捲っていると、間からスペード型の葉がひらりと落ちた。 そのページを読み始めたフィリアの顔に、驚きが広がる 「私にはその文字、読めません・・・何が書いてあるんですか?フィリアさん」 それは、ひとつの物語だった。今のやりとりを描いたような。 「そんな神さまうその神さまだい。」 「あなたの神さまうその神さまよ。」 「さうぢゃないよ。」 「あなたの神さまってどんな神さまですか。」青年は笑ひながら云ひました。 「ぼくほんたうはよく知りません、けれどもそんなんでなしにほんたうのたった一人の神さまです。」 「ほんたうの神さまはもちろんたった一人です。」 「あゝ、そんなんでなしにたったひとりのほんたうの神さまです。」 「だからさうぢゃありませんか。わたくしはあなた方がいまにそのほんたうの神さまの前にわたくしたちとお会ひになることを祈ります。」 *「宮沢賢治全集7」(筑摩書房)より引用 |
32714 | チェイン:13 | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/12 00:32:46 |
記事番号32684へのコメント Chain:13 ■ガールズトーク■ 「ああ・・・お茶がおいしい・・・」 「全っ然変わってないわね、フィリア。羨ましいなー」 「リナさんは、もうお母さんですもんね」 「えっ、見た目で分かっちゃう!!?子連れじゃない時は天才美少女魔導士気分なのに!!」 「言われなきゃ子持ちだとは思えませんけど、さすがに美少女は詐欺です・・・。 そういえば、今日は娘さんは?」 「留守番。面倒見てくれて助かるわー、ガウリィの」 「・・・娘さんが、面倒見てるんですね・・・」 「遅くなってスミマセン!!急に公務が入っちゃって・・・!!」 「アメリア!!そんな大っきいお腹して走っちゃダメでしょうが!!」 「3人目の余裕です!」 「いや、Vサインされても・・・危ないモノは危ないから」 「もうすぐ生まれそうですねー。アメリアさん、3人目おめでとうございます」 「や、改めて言われると恥ずかしいです・・・フィリアさんは全然変わらないですね」 「外見だけは、って感じですね」 「リナさん、今日はお一人ですか?」 「うん、娘が旦那のお守りしてるから」 「相変わらずなんですね、ガウリィさん」 「そうそう、相変わらずクラゲよ。アメリア、あんたの所は?婿養子がんばってる?」 「ゼルガディスさん、結構楽しそうにやってますよ。政治、向いてるみたいです」 「――フィリア、あんたの所はどう?」 「どうもこうもないです。半年、手も握ってません」 「きっついなー。 ・・・そんなんだったら、何でヴァルと別れたのよ?」 「私も、聞かせて欲しいです。どうしてヴァルさんと別れて、他の神様を信仰する黄金竜の方と結婚されたんですか?」 「――ヴァルとは、ずっと一緒に居たかったんですけど・・・ちょっとした問題があって、一緒に居られなくなっちゃいました」 「あたし達としては、その問題を聞かせて欲しい訳よ」 「それは、ちょっと・・・」 「フィリアさん、顔真っ赤なんですけど・・・そういう感じの問題なんですか!!」 「まさか、フィリアの口から下ネタが聞ける日が来るとは思わなかったわ・・・」 「ちょっ・・・違います!!そんな下品な問題じゃありませんッ!!! ・・・今は後悔してるんですから、放っておいてください・・・」 「そんなに駄目なんだ、今の旦那さん」 「同じ黄金竜ですけど、信仰する神が違うだけであんなに面倒だとは思いませんでした。あのひとは慈善事業のつもりだったのかもしれませんね・・・謎の壊滅を遂げた火竜王神殿の生き残り、最初っからそんな私を哀れんだだけだったのかも。優しいだけの、腑抜けです」 「フィリア・・・キャラ変わってる」 「今だったら「お嬢さん」なんて言わせないのに・・・。 私が間違っていたんです。あんなに彼を待ったのに、私から手を離してしまったんだから・・・」 「アイツをひとりにしとくのも不安だしね・・・またどっかで何かと融合してないわよね?」 「アレは若気の至りみたいなものだと思いますけど・・・。 ――ヴァルに、会いたいです」 「ヴァルさんなら・・・今ウチに居ますけど?」 『・・・ええー!!?』 「一月ほど前に、傭兵の仕事で負傷されたみたいで療養してたんですけど・・・そのままここで、近衛兵の真似事みたいなお仕事をお願いしてます。 とは言ってもヴァルさんは魔導士じゃないので、どっちかって言うと雑用を・・・」 「アイツもやることのネタが尽きてきたのかしら・・・」 「誰か呼びに行かせましょうか?」 「え!?ど、どうしましょう・・・私老けてないですか!?疲れてないですか!!?」 「フィリア・・・あんたまだ人妻なんだからね・・・」 「不倫はいけませんよ!!フィリアさん!!」 「別れます!!」 『即決!!?』 「別れますけど・・・ヴァルは、許してくれるでしょうか?私から別れたようなものなのに・・・私から、また一緒になって欲しいだなんて」 「ヴァルにも、イイ女が居るってことは考えてないの?」 「リナさんがガウリィさんとラブラブな以上、大丈夫です」 「・・・フィリア、何か誤解してない?」 「誤解、じゃないですよ」 「ヴァルさんとリナさんって・・・何かあるんですか!?」 「ないないないない!! ――言うだけ言ってみれば?今言わなかったらまたタイミングが合うのはいつになるか分かんないわよ。・・・まぁ、あんたらあと6〜700年生きるんだろうけど・・・ あたしたちの見てる前で、ちゃんとケリつけて欲しいわ!」 「わ、分かりました・・・言います!!私からプロポーズします!!」 「・・・あたしがずっと前に言ったこと、ヴァルが覚えてりゃ楽勝よ」 「何て、言ったんですか?」 「――離れるために出会う訳じゃない。それが生きてくってことよ、だったかな」 「何度出会っても、いいですよね?」 「離れたままよりは、ね」 |
32715 | あとがきという名の補足(蛇足?) | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/12 11:01:06 |
記事番号32714へのコメント 終わった・・・私も真っ白に燃え尽きましたよ、ええ。こんなオチですが、「チェイン」完結です!!終わって良かったー!!途中、夏風邪ひくわバイトの面接落ちるわ、ヘロヘロだったよ・・・。 最初に書いたように、この小説は5年ほど前に「抽象的トライアングル」という私のセンスの無さを露呈するタイトルで書き始め、未完のままだった「ヴァルガーヴのその後」の物語を再構成したものです。正直別物です。 書き直しを決意したはいいものの、着地点を決めずに書き出してしまい・・・後半打ち切りの決まった連載漫画みたいな展開になってしまいました・・・。全体的にキャラクターの扱いが酷いんですが、ゼロスとか途中退場だよ!!ありえない!!注意書き付けた方がいいですよね・・・この小説はゼロスファンは読まないで下さい。あとガウリィとゼルファンも読まないで下さい。出てこないから!!ガウとゼルは最初は出す予定だったんですが、あんまり長くなるのも嫌だったので登場人物も思いっきり絞ってしまいました。 何が書きたかったか、はもちろん「ヴァルガーヴのその後」、なんですが。実は裏テーマがあって、「ゼロ→フィリ→ヴァル→リナだけどゼロ→リナでゼラ→ゼロ、もちろんガウリナ、ゼルアメは前提で全員片思い逆走ラブストーリー」が書きたかったんです。ハ●クロみたく・・・。 あと、ヴァルリナ書きたかった。実は私、ずっとこちらでヴァルフィリ書いてたけど、フィリア苦手だったんです。私は思考がヴァルガーヴに近いので、お綺麗なお嬢さんに苛立ってたのかも。 しかし・・・私、会社辞めるとき先輩方に、「あなたのようなお嬢さんがやる仕事じゃなかったのよ」って言われて。マジで。わ、私23だよ!!?やさぐれてるよ!!?こんなイキモノでも社会に出れば「世間知らずのお嬢」だったらしく・・・それで、フィリアも「お嬢さん」って言われてるけど本当はそこまでお高い訳じゃないんじゃない?と考え直し、結果フィリ→ヴァル→リナだけどヴァルフィリ、という訳分からんところに辿り着いちゃいました。 私はいつも細かく書き込んでしまうので、今回状況説明などはサラッと流してみたんですが・・・全然盛り込まれてなかったらスミマセン本当に自己満足です。 なので、書かなかった部分の補足など少々。 「チェイン」・・・タイトルと各サブタイは、大好きな歌い手さんの曲タイトルです。作中にも歌詞を意識した部分はたくさんあります。が。正直サブタイはいらなかった。 曲のタイトルが「チェイン」で、多分チェーンのことだろうなと思ったので「Chain」表記にしました。連鎖、繋がってくって感じで、タイトルは内容と合わせられた、と満足してます。 「Chain:0」・・・「抽象的(以下略)」では、「わたし」=L様でしたが、今回はヴォルフィード(だっけ?ダークスターの半分。神様の方)です。L様って世界全体みたいなものだから、ヴァルガーヴがダダこねた位じゃ動かないだろう、と考え直しました。 「Chain:04」・・・ゼロ→リナ。・・・分かんないよね。 「Chain:05」・・・ジラスとグラボスは、どこへ行ってしまったのかしら・・・(他人事)彼らも本筋に必要なくなっちゃったんで、はみ出していただきました・・・すみません。 「Chain:06」・・・フィリ→ヴァル。ただ、フィリアのヴァル(ヴァルガーヴ)への感情は、本当に恋愛感情なのかは疑問。普通の場所で出会った男女と、不安定なつり橋の上で出会った男女は後者の方が恋に落ちやすい、っていう、そんな「魂が燃える」感じだったのかも。 「Chain:08」・・・ふたりっきりになるシーンを書いてないのに、女ふたりのトーク。この時点では、リナはヴァルの気持ち知りません。 「Chain:09」・・・ゼロス、ホントごめん。一応ゼラ→ゼロ、または母の心子知らず。実はガーゼラ前提で、ヒトの心を持つガーヴに惹かれたゼラスがヒトっぽくゼロスを創っちゃって、自己嫌悪に陥っているという・・・こんなの誰も気づかない設定だよ!!だからこの謹慎のあと、ゼロスは性格変わってリナたちの前に姿をあらわす脳内設定です。 「Chain:10」・・・ヴァル→リナ。ヴァルリナ書きたかったんです!!あと、ヴァルを守るのはフィリアだけど、導くのはリナなんだろうな、という希望。 「Chain:11〜12」・・・ヴァルアメ、という私の趣味大爆発。いえ、嘘です。かーなーりー唐突に出てきましたが、「銀河鉄道の夜」とヴァルガーヴは合うなーと考えていたので。「銀河〜」は代表的な童話なので読んだことある方は多いと思いますが、実はかなり意味不明かつ思想的に盛りだくさんな作品で、学生時代にコレで卒論書いたのですが、「ほんとうの神様論争」の部分には恐ろしくて触れられず、主人公の孤独をぐるぐる解説する論文を書きました。だから、「神様」についてもやり遂げたかったので、唐突だけど作中に出せて幸せです。あと、「銀河〜」は著作権フリーになってるから引用しやすいかなーと・・・ 神様とか正義についてヴァルとフィリアが直接話し合うのは、また傷つけあうことだと思ったので、その手の話のプロ(?)、アメリアを呼んでみました。 あと、ヴァルが古代竜神殿の神官だった、ってのは私の妄想です。なんか、長い髪をポニーテイルにして眼鏡かけて読書でもして欲しいの!!ヴァルには!!(夢みすぎ) 「Chain:13」・・・書かなかったんですが、ヴァルが戻ってきてから10年後位に、リナとフィリアがセイルーンを訪問して、女三人トーク。です。 最初はヴァルフィリにする予定がなかったので、ヴァルガーヴの怒りや憎悪や悲しみを昇華したヴァルとフィリアのその後、をがっつり描く気にはなれず(ホントこの小説、私以外の需要あるのかな・・・)、3人の会話で「その後」を埋めてみました。 ヴァルとフィリアはその後しばらくはふたりで暮らしたけど、「問題」で離れることになり・・・。「問題」は、フィリアは子供が欲しかったんだけどヴァルは自分の血を残す気は無いって断って、どうしても普通に結婚して、母親になりたかったフィリアが前々から声をかけてきた黄金竜と結婚してしまった。ってことです。私個人の意見なんですが、ヴァルとフィリアの子供、っていうのは、それこそ「自虐」というか、それは違うんじゃないかなーと思いまして。雑種になっちゃう!とかじゃなくて、滅ぼしたものの血と滅ぼされたものの血、っていうか。 それで結婚してみたものの、ヴァルが忘れられないフィリアにとって見れば夫は「腑抜け」以外の何者でもなく、子供作る気にもならないし、ってことで。フィリアさん、寺○しのぶみたいになっちゃいました。(「東京タワー」の) このラストは、昔私がこちらに書かせていただいた「影」(だったかな)に繋がりそう・・・と、ふと気づきました。こんな所にも、チェインが。 私が納得するための小説を、書かせていただいてありがとうございました。もう思い残すことはありません・・・仕事、探そっと。 2006.8.12 人見。 |
32717 | 初めまして! | じょぜ URL | 2006/8/12 20:02:42 |
記事番号32715へのコメント 人見さん、初めまして。 昨年ヴァルフィリサイトを立ち上げたじょぜという者です。 書き殴りさんには三年前から投稿してまして、その後サイトを作ってしまいました。 まだ投稿する以前から、投稿後も、人見さんの書かれるヴァルフィリのお話がとても好きで、特にギャグが最高でした。 「元気よくお見合いに行こう」と「ヴァルリナは成立するか?」と「形見」に、何回笑ったかわかりません。 ヴァルリナは〜のヴァルとリナがそのまんまの性格だったのが笑いながらもすごい! と思いました。似た者同士だからくっつきそうだけどくっつかないだろうなーとうなずきながら読んでました。 そしてサイトのほうでも書いてしまったのですが、「初恋」がものすごくツボにきました。Sad Endですが、私がTRYのその後を考えたとき、やっぱりこうなるのかなあと漠然と考えていたストーリーそのままだったので。 「魔法が解ける瞬間は〜」というくだりがとてもとても好きです。 一度、直接感想を書きたいと思っていたのですが、私がネットをやりだした頃にはすでに人見さんも(そしてももじさんも)書き殴りさんには来られなくなっていて、本当に残念でたまりませんでした。 のて、今回の投稿には、おお! と胸躍らせて最後まで読ませていただきました。 ゼロ→フィリ→ヴァル→リナだけど、ゼロリナでゼラゼロで、というのがイイです! うまく言えないんですが、TRYの中心だった四人の関係は確かにこんな感じだったかと。 ゼロスがリナにもフィリアにもふらふらして甘ったれてるのがいい(笑)。 ヴァルリナが書きたかったとのことですが、私もフィリ→ヴァル→リナっていうの好きです。TRY中のヴァルはフィリアよりリナだったと思います。もうやたらリナの名前連呼してるし(笑)。最初はガーヴがらみで付け狙ってたんだろうけど、少しずつリナ本人に惹かれるものがあって、そしてフィリアに対しても憎悪だけでない複雑ななにかがあって、二人の女に挟まれて苦悩するヴァルっていいなーと思います。 ラストの会話で「影」を私も思い出しました。あれも好きです。いったん別れて、もう一度再会してやり直す、こういうエンディングもこの二人にはアリだと思います。 人見さん的にはヴァルフィリはプラトニックがお好きなのかなあと推測しますが、このお話のその後で、できれば彼ら二人の子どもが生まれてくれればいいな、と読み手としてはそんな思いを抱きました。 前々から憧れてた人見さんの新作が読めて、こうして感想を書く機会ができたことを心から嬉しく思います。 それでは、また投稿されることがありましたら、楽しみに読ませていただきます。 |
32718 | あ、ありがとうございます! | 人見蕗子 E-mail | 2006/8/12 22:20:48 |
記事番号32717へのコメント じょぜさん・・・好きです!(いきなり何言ってんだ、私) 実は、じょぜさんのサイトを数ヶ月前から覗かせていただきまして、さっきもメルフォ送信したのでびっくりしました!! 最近、じょぜさんの自己紹介ページに私の名前がももじさんと並んでいるのを発見してぶっ飛びました・・・ももじさんは私もお会いできなかったのですが、神がかり的なヴァルフィリですよね、あのギャグセンス。私なんぞと並べないで下さい〜と泣き言を送ってしまいました。じょぜさんのヴァルガーヴかっこいいな〜と思いながら愛読させていただいてたので、もう、なんで私!?って感じです; 最後まで読んでいただいて、ありがとうございます・・・。そして過去の作品も見ていただいたんですか!!? 当時はネットデビューしたての女子高生だったので、ネチケなどもよく分からず、勢いだけで書いてます・・・。正に若気の至りなので、じょぜさんが挙げてくださった「初恋」もどんな話だっけ?と読み返すのにえらい勇気が要りました;今回の作品は異常に暗いので、機会があったらまた、オモシロイのも書いてみたいなーと思いますが・・・じょぜさんのコントシリーズにはかないません!! ヴァルフィリはプラトニックか・・・私、エロ好きですよ!!ってそういうコトじゃないですよね;古代竜と黄金竜の雑種って、どんなんよ!?とか考えたら分からなくなってしまって・・・。ヴァルリナかヴァルフィリで、濃ゆいの書きたいです(笑) あ、私何度かHN変えてまして、何て名前だったか忘れてしまったんですが(オイ)、「混沌の館」さんに掲載してもらっている「水鏡」にはヴァルフィリの結婚生活書きましたので、よろしければ・・・ あぁ、じょぜさんの目に留まるとは思ってなかったので動揺してます!読んでくださってありがとうございました。 |