◆−3月9日−優美象・静 (2006/9/30 08:35:45) No.32800


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328003月9日優美象・静 2006/9/30 08:35:45


流れる季節の真ん中で
ふとした長さを感じます……

 「ゼルガディスさん」
 「なんだ」

 愛を込めて(でも、大抵キモがられる)呼びかけているのに、いつもそっけなく返される。

 「もう春ですね」
 「だな」

 やっぱりそっけない。今のなんて、目が明後日の方向を向いてた。

 「春になるのって早いですね。ついこの前まで、木が寂しかったのに、もう桜が咲いてますよ」
 「そうだな」

 面白くもなさそうに言う。

 「でも、何故でしょうね。冬は短いのに、春はとても長く思えるんです」
 「……そうか?」

 抑揚のない声で返された。

3月の風に思いをのせて
桜のつぼみは春へと続きます……

 「あ、見てください。これ、まだつぼみですよ」
 「そうだな」

 僕の指さす先をちらっと見て、また地面に視線を戻す。
 ……地面なんか見て、楽しいですか?
 2人で桜を見る方が、楽しいですよ。

 「も〜う。さっきから何怒ってるんですか〜」
 「別に」

 そっと貴方の顔を覗き込むと、貴方はさっと目をそらす。

 「可愛いですね。これから咲くんですね。本格的な春は、まだこれからですもんね」
 「そうだな」

 その返事はさっき聞きました。
 ちょっとでもいい。共感してほしい。

 「4月になったら、たくさんの人が満開の桜を見て感動するんですね」
 「そうだな」

 そうだな、以外のことも言ってくださいよ。

瞳を閉じれば貴方が
まぶたの裏にいることで
どれほど強くなれたでしょう
貴方にとって私もそうでありたい……

 「でも、僕の本当の幸せは桜を見ることじゃないんです」
 「世界を混沌の海に帰すことか?」

 初めてまともな返事がもらえました。
 ……あんまり嬉しくない返事でしたけど。

 「違いますよ。確かに僕たち魔族の目的はそうですけど、僕が言ってるのは目的じゃなくて幸せのことです」
 「どっちも同じだろ」

 全然違いますよ。

 「で?お前の本当の幸せってのは何なんだ?」
 「こうして2人で季節の風物詩を見ることです」
 「リナやガウリイでもいいじゃないか」
 「いいえ。ゼルガディスさんじゃないとダメなんです」

 僕は真剣に答えたのに、貴方はフッと笑った。

 「随分と小さな幸せだな」
 「そういうゼルガディスさんは何が本当の幸せなんです?」
 「俺は……」

 いえ、本当は聞かなくても分かるんです。
 自分の身体を元に戻すこと、でしょう?

 「俺は、お前がしつこくなくなることだ」
 「僕が?人間の身体に戻ることじゃなくて?」
 「ああ」

 本気ですか?これは夢じゃないですよね?

 「ゼルガディスさんも小さな幸せですね」
 「ほっとけ」

 このとき、僕は初めて「夢」というのを持ちました。

 「僕は……1度でいいから人間になってみたかった」
 「何だ、いきなり?」
 「僕が人間だったら、ゼルガディスさんも受け入れてくれたかな……って。ほら、パシリ魔族とかいろいろ言われてきましたし」
 「人間でも魔族でも、しつこい奴は嫌いだ」
 「人間になれたら、しつこくないように、努力します」

 春は、2人で桜を眺める幸せ。
 夏は、2人で蝉の声を聞く幸せ。
 秋は、2人で紅葉狩りに行く幸せ。
 冬は、2人で雪景色を見る幸せ。
 貴方がいるだけで、僕は1年中幸せ。

青い空は凛と澄んで
羊雲は静かに揺れる
花咲くを待つ喜びを
分かち合えるのであれば
それは幸せ……

                              〜Fin〜


 ……なんぢゃこの長さはぁぁぁぁ!!
 短編のつもりなのに……普通に長いよ!?長すぎるよ!?
 あああ……私ってシリアス系は苦手だ……
 普段滅多にシリアスって書かないんだもん……
 ちなみにタイトルの「3月9日」は気まぐれでつけました(をい)。歌詞ほとんどうろ覚え……(汗)
 もっと修行しなきゃ……
 ではでは、失礼します。