◆−光への憧憬 外伝 trickor treat †その日の彼ら†−十叶 夕海 (2006/10/28 16:02:03) No.32845 ┗光への憧憬 外伝 trickor treat †その日の彼ら† U−十叶 夕海 (2006/10/31 23:30:21) No.32851
32845 | 光への憧憬 外伝 trickor treat †その日の彼ら† | 十叶 夕海 | 2006/10/28 16:02:03 |
光への憧憬 外伝 trickor treat †その日の彼ら† 十月末日。 この日は、ハロウィン。 オレンジと黒のカラーで、街は溢れ帰っていた。 ジュリと神影の二人は、そんな中を珍しく自動車で、目的地に向かっていた。 運転席に、神影。 助手席に、ジュリ。 後部座席に、十数本単位で、パウンドケーキやステッキキャンディなどが、山のように積まれている。 運転席の神影は、山高帽に、黒の燕尾服に、赤字の裏打ちの黒いマント。 助手席のジュリは、黒のハイネックワンピースで、丈は足首まで覆うほど長いものに、淡い色のショールというもの。 「・・・私が運転すると言ったのだけど?」 「主の運転は、恐い。 それなら、免許取り立てだろうと、私が運転した方がいいだろう? ・・・・・そう言えば、朔摩も、呼びつけておいたのだったな?」 「・・・・・・・・・・・・・・・確かに、秋の隠れ里特集の時に、乾を乗せたときは、乾思い切り固まっていたもん。」 「主、巴朔摩も、呼びつけておいたのだったな。」 「・・・・・・・ああ、うん。」 そんないつものような、掛け合いをしつつ、目的地の近くのコインパーキングに駐車し、山ほどのお菓子を持って、そのビルに入って行った。 知り合いである乾や天春がいる、雑誌の編集部が入っているビルに。 「HappyHalloween。 天春か、乾、いる?」 「編集長なら、奥っすよ。 って、お久しぶりっす、ジュリさん。」 「溯摩も、お久しぶり。 trick or treat?」 「?」 編集部として使っている部屋に入ると、お昼時なのか、答えた少年以外居なかった。 その少年も、店屋物らしきラーメンを啜っていた。 染めた金髪に、ジーパンに革ジャンと言う服の十代後半の少年は、巴 溯摩という。 約十ヶ月前の事件の被害者の一人だ。 「お菓子かイタズラか?ってこと。 ハロウィンしたことない?」 「ねぇよ。」 「とにかく、お菓子くれるか、報告してくれるか、イタズラさせて。」 「主、朔摩、凍っているぞ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで?」 「一応、俊がいうには、20歳ぐらいまでは、『ドキドキの思春期』で、いろんなトコロが元気らしい。」 「どいうこと?」 「さあな。」 長く生き過ぎると、いろんな意味で、鈍くなるものらしい。 というか、常識から外れると言う方が正しいのかもしれない。 「そーいうもんなの、朔摩?」 「そー言うもんです、ジュリさん。 ・・・・・・・俺の方は、それなりにやってますよ。 まだ、姉貴のことは、完全にふっきれてねぇですけど。」 「そっか。 ・・・・・・・・ああと、これ、こないだの葡萄のお礼だって、親御さんに渡して。 クッキーは、あんたにね。」 カボチャのパウンドケーキ一本とプレーン・セサミ・ココア・ナッツのクッキー入りの袋を 朔摩に投げ渡す。 「無理にね、想い出にしなくても良いんだよ、朔摩。 私も、あのことは、まだ想い出に出来ちゃ居ないからね。」 「・・・・・・・ありがとうございます。」 「HappyHalloweenって、とこだね。」 「魔女と吸血鬼。 なかなか、粋だな。」 「残念だな、天春、主のは、占い師だ。」 「魔女だと、かなり皮肉でしょうよ、ヴァチカンにとって」 ジュリと神影がその部屋に入ると、天春が、大変珍しくデスクに座り、仕事をしていた。 そのデスクの前に置かれた応接セットで乾も、パソコンで作業をしていた。 ジュリの言葉を理解した乾は、そのことを問う。 「なんで、ヴァチカンに皮肉なの?」 「・・・・・だって、『銀髪の魔女』として、ヴァチカンの禁書室・・・『子宮(シオウル)』に残ってるから。 あの魔女狩り時代に、合わせて、三十回。 今のトルコに逃げる前の80年間に十回以上、火あぶりになってるし、 それだけのことと、非公式ながら、十字架騎士団を一つ潰したのも、原因かしらね。 教皇にも、口伝で、1980年ぐらいまで伝わっていたし。」 「・・・・・・・・・ジュリさんって何者?」 「・・・・・・秘密♪。 謎は、女の最高のアクセサリーだもの。」 「ジュリちゃん、trickor treat?」 「ああと、今年はパウンドケーキとクッキーとステッキキャンディを・・・」 話を逸らすためか、天春が、そうジュリに聞く。 確かに、乾が、知るのは少しヤバいと思う情報ではある。 しかし、お菓子を取り出そうとしたジュリが反応するよりも早く、天春はジュリを抱き上げる。 「小父さん的には、お菓子よりも、イタズラが良いな。 ってことで、ジョリジョリ〜。」 「ぎゃあぁ、ヤメくすぐったい。 ってか、微妙に痛い、ヤメろ、天春。」 そして、その無精髭付きの顔で、ジュリに頬ずりする。 地味だが、微妙に痛いのだ。 しかし、見た目は、姪っ子か娘に、頬ずりしているようにしか見えない。 「あの男も変わったな。 あの事件の後は、まだ、ギラギラしていたのだが。」 「あの、神影。 あれは、いつものことなのかな?」 「・・・・・ああ、お前は初めてか。 十数年前、主が、天春のしごとを受け始めた頃からの、秋の風物詩だな。」 「風物詩って。 アレ、毎年なの?」 「そうだ。 だから、今日誰もいないだろう?」 「・・・・・・なるほど、この日だけ嫌に皆意欲的なのは、このせいか。」 などと、神影と乾は、のほほん会話している。 神影は、勝手知ったるなんとやらで、勝手にコーヒー入れて、ソファに腰掛け、やれやれというふうに、していた。 「うわぁぁ、何処触っている、エロ親父。 ・・・・・のほほんとお茶していないで、助けろ、野郎共!!」 ジュリも、いろいろと壊れるそんなハロウィン。 ちなみに、ジュリが持ってきたお菓子は、他の編集員達が、持ち帰りおいしくいただきましたとさ。 乾も、パウンドケーキを持って帰った。 まあ、そんなお話。 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 無精髭でジョリジョリが、書きたかったのです。 このときだけ、吸血鬼の反応速度を超える天春なのでした。 というわけで、ハロウィン話です。 光への憧憬シリーズとしては、もう少し真面目なのを書く予定なのです。 だから見捨てないでください。 それでは、また。 |
32851 | 光への憧憬 外伝 trickor treat †その日の彼ら† U | 十叶 夕海 | 2006/10/31 23:30:21 |
記事番号32845へのコメント 「放せ、天春。 お菓子、あげないぞ、解放しないと。」 その一言で、天春は、抱きついた時と同様、吸血鬼の反応速度を上回る速度で、飛び退く。 つくづく、純粋な人間なのか、疑いたくなる親爺である。 閑話休題(それはさておいて)。 今の騒ぎの間に、紅茶をいれた神影と乾。 朔摩も、誘おうとしたのだが、役割分担なのか、外に出ていたようで居なかった。 「そういや、ジュリちゃん。 ハロウィンって、そもそもなんだったけ?」 「・・・・・・・天春。 お前、情けなくて、酒と甘いものと女性に眼が無くて、セクハラ親爺だろうと、仮にも一応きっと多分恐らく、オカルト雑誌の編集長だろう?」 「それに、結構そう言うオカルト現象に遭遇している割には、危機感や知識があまりにも無さ過ぎるねぇ。」 「天春さん、一応、一般人でも知っているようなことです。」 「うっ。 だってよぉ、此処三年は、乾が全部チェックしちまうし。 その前八年は、ジュリちゃんや神影が、チェックしちまってるから。 あんまし、知識ねぇもん。」 天春のそんな情けない言葉に、ジュリは、嘆息一つ。 頭痛でもするのか額に手を当てて、俯いている。 「簡単に行くぞ。」 ハロウィンとは。キリスト教の諸聖人の日(万聖節)の前晩(10月31日)に行われる伝統行事で、諸聖人の日の旧称の『All Hallows』のイヴ(前夜祭)であることから、Halloweenと呼ばれるようになった。 ケルト人の収穫感謝祭がキリスト教に取り入れられたものとされているようね。 ケルト人の1年の終りは10月31日で、この夜は死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が出てくると信じられていた。これらから身を守る為に仮面を被り、魔除けの焚き火を焚いていた。 家族の墓地にお参りし、そこで蝋燭をつけるという地方もある。墓地全体が、大きなランタンのように明々と輝いてね、アレは結構綺麗だ。 日本のお盆の迎え火、送り火にも似ているかもしれないね。 或いは、大晦日参りかな。 最近は、31日の夜に、黄色いカボチャをくりぬいた中に蝋燭を立てて「ジャック・オー・ランタン」を作り、魔女やお化けに仮装した子供達が「トリック・オア・トリート(Trick or treat. お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ)」と唱えて近くの家を1軒ずつ訪ねる。家庭では、カボチャの菓子を作り、子供達は貰ったお菓子を持ち寄り、ハロウィン・パーティーを開いたりする。 これが、最近風かな。 ま、わたしは、楽しければ良いから、こういう行事に便乗してるんだけど。 「だからこそ、毎年、十五年欠かさず、こういうお菓子の類いを作って持ってくるの。」 ジュリは、喋り疲れたのか、少し温くなった紅茶で唇を湿らせている。 「それにしても、作り過ぎじゃないかね? 主、小さな菓子店並みの量を作っているようだが。」 「・・・・・半分は、俊の店においてもらっているし。 残りは、此処で配ればちょうど良い。」 「ジュリさんのお菓子、おいしいしね。」 乾が、そう言うと同時に、ジュリは、『言われるとは思ってなかった』とでも言うように、真っ赤になった。 それを見て、天春が、 「シンボルとかってどんなんだ?」 と、フォローを入れ、何が在ったか乾が気がつかなかった。 「そうそう、ハロウィンのシンボルは・・・・・」 助かったとでも言うように、ジュリは再び語り出す。 そうそう、ハロウィンのシンボルは、恐いとか、人間に取って恐ろしいものが多いわ。 そうね、どちらかと言えば、死とか、黒魔術をイメージしそうね。 メジャーなモンスター系だと、幽霊、魔女、コウモリ、黒猫、ゴブリン、バンシー、ゾンビ、魔神、私達吸血鬼やフランケンシュタインかな。 文学作品のも結構あるわね。 ま、多少、人間に認知されてるから、アレで済んでるのかもしれないけど。 ハロウィン前後の時期には、これらのシンボルで家を飾り付けるわね。 黒とオレンジ色が伝統的なハロウィンの色である。さらに、カボチャやカカシ等のように秋の要素をもつシンボルがある。 黒は、『死』。 オレンジは、『収穫』 そう言う意味だったと思うわ。 「ジャック・オー・ランタン(Jack-O'-lantern)」(南瓜提灯)は、オレンジ色のカボチャをくりぬき、刻み目を入れ、内側からろうそくで照らしたもの。 一番、想像しやすいシンボルである。英国とかでは、今でも、カブを使っているが、アメリカ国民は、刻みやすいカボチャを、移民早期から使っているわね。 そのほうが、後からシチューにして食べたりできるしね ハロウィンを祝う家庭では、カボチャを刻んで怖い顔や滑稽な顔を作り、悪い霊を怖がらせて追い払うため、ハロウィンの晩、家の戸口の上り段に置くの。 日本で言うなら、こどもの日に、菖蒲やアヤメを玄関先に吊るすのと意味はほとんど一緒ね。 「まあ、こんなところ。 魔術的な意味も、あるようだけど。 同じ自然教のわりには、ドルドイド系とはあまり仲良くなかったせいか知らないわ。」 そう言って、ジュリは、話を締めくくる。 この間、約二十分足らず。 その間に、出したお菓子―パウンドケーキとクッキー二袋。 全部、男三人(神影含む)の胃袋に消えて行った。 ・・・神影に胃袋があるかどうかはさておいて。 「・・・・・それじゃ、天春。 もう一つ、面白い話を私がしよう。」 「珍しいね。 神影が、自分から進んで話すなんて。」 「・・・・・・乾、激しくバカにされているような気がするのは私だけかな?」 「き、気のせいだろう。」 「実際、珍しいことには変わりないぞ、神影。」 「・・・・・・・・・・二人とも、そんなに命の狩り手と仲良くしたいか。」 神影が珍しく、積極的に何かしようとしたのを見て、乾は褒めたつもりで、そう言ったが、彼はそう取らなかった。 少々、乾の背筋に少し寒いものが走った時、天春が、フォローを入れたが、フォローになっていない。 「・・・・ハロウィンだから、ジャックのお話?」 「そうだ。」 「じゃ、話してね、神影。」 その昔ジャック・ウィルという鍛冶屋の男がいたが、口は巧いが汚く素行も最悪だった。今の、チンピラか詐欺師のような男だ。 彼が死んでから、 死者の門へ着いたとき、天国へ行くか地獄へ行くかを選定する担当天使を騙し、 生き返るんだ。 しかし生き返っても彼は、前の通り反省もせず最悪の男のままだったので、 また死んだとき死者の門で、待ち構えていた担当天使の上司・聖ペトロにこう言われた。 「お前はもはや天国へ行くことも、地獄へ行くこともまかり通らん」と暗い闇の中を漂うことになってしまった。 それを見て哀れんだ悪魔が、地獄の劫火から、轟々と燃える石炭を一つ、ウィルに明かりとして渡した。その明かりは、時々、現世に種火のような弱い光を投げかける。それから、夜中に不思議な光が見えるとき、哀れなジャック・ウィルの話になぞらえて「種火のウィル」「ウィル・オー・ザ・ウィスプ」或いは、ジャックの角燈「ジャックオーランタン」と、そう呼ばれるようになったんだ. 「と言う訳。 『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』とかで、『ジャックオーランタン』とかのほうが、有名になったようだけどね。」 そうして、しばらく雑談が続く。 日が暮れる頃に、朔摩に、『もうそろそろ、終業になりますよ。』言われるまで、他愛のない話が続いていた。 この後に、ジュリが他の編集員などにお菓子を配った。 終わる頃には、六時を過ぎ、外は真っ暗になっていた。 「そんじゃ、乾、ジュリちゃん、神影、朔摩も。 俺が、夕飯驕ってやるよ。」 という、天春の一言で、その日は、夕食をその五人で取った。 そんな、日常の一コマだけど、確かにハロウィンの日だった。 貴方にも、HappyHalloween? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ というわけで、真面目なハロウィン講座の締めくくりです。 此処まで呼んでくれてありがとうございました。 それでは、また。 |