◆−紫煙の幻想 23−とーる (2006/12/8 23:07:10) No.32936 ┣紫煙の幻想 24−とーる (2006/12/24 23:54:30) No.32959 ┗紫煙の幻想 25−とーる (2007/2/12 01:30:06) No.32991
32936 | 紫煙の幻想 23 | とーる | 2006/12/8 23:07:10 |
―現れた5人― 「ルイ…ごめん…ね……?」 その瞬間ルヴィリオの体から膨大な魔力の渦が弾け飛び、 辺り一面とゼロスとを巻き込んだ。 「ちょっと!ルヴィったら聞いてるの!?」 「うん、聞いてるよ。またガウリスが君のから揚げを 横からとったんだろう?」 「ルヴィ、お前まったく聞いてないじゃないか…… 今のはリオナが俺のハムをとったんだ」 「同じ事じゃないですか。はぁ……毎度毎度、食事のたびに 本当に私達は恥ずかしいですよねぇ?ルイ」 「レイ、何か言ったかしら」 「あーあ……お兄ちゃんてば、もう……」 「まぁいつもの光景だね」 そこは変わらぬ森の中だった。 ただ少し今までと違っているのはラルトフとの戦いで えぐれてしまった大地が元に戻っている事と、 土に埋もれていた神殿が綺麗になっている事だけだった。 そして目の前に座った5人の男女が 繰り広げている微妙な会話が、まったくもって 先ほどまで戦闘があったという空気をぶち壊していた。 その1人は先ほど混沌に落ちたはずのルヴィリオ。 1人は漆黒の長髪に赤眼、その色と同じローブを身にまとう男の魔道士。 1人は輝くみつあみの金髪に、腰に剣を携える男の剣士。 1人は濃厚な栗色の長髪に手首などに魔道具をつけた女の魔道士。 そして最後の1人は、金髪を1つにくくった少年だった。 剣士と女の魔道士はソーセージがどうだの 魚がどうだのといがみ合いながら、 呆れて口をはさんだ男の魔道士を睨み、 隣の少年は呆れながらも楽しそうにくすくすと笑っていた。 「グガァアアアッ!!」 ふいにそんなにぎやかな雰囲気を切り裂いて 暗い雄たけびが森の中に響いた。 そして茂みから飛び出してきたのは3匹のレッサーデーモン。 火炎が1匹の口から吐き出された。 ゴゥ!! 4人はくつろいだ様子から瞬時に散開する。 するとリオナと呼ばれた女魔道士が怪訝な顔で悪態をつく。 「まったくもう!!食事の時くらいは少しでいいから 静かにしていてほしいものよね!!」 「ほんとだよな。俺もまだ食べかけだったんだぞ」 またもや始まるおとぼけの会話。 それにまたも呆れてレイと呼ばれた魔道士が肩を落とす。 「そんな事言っている場合じゃないでしょう、2人とも」 「たった3匹だからすぐ終わるよ、レイ。 少しだけ待っててね、ルイ」 苦労を背負い込んだような彼の背中をぽんぽんと叩き、 ルヴィリオは杖を軽く構えてレッサーデーモンを見やる。 しかしふいに振り返って、にっこりと笑んだ。 ルヴィリオが見せたその笑顔は ゼロスに向かって見せていたものと、 まったく同じ種類の笑顔だった。 「うん、大丈夫……分かってるよ」 唯一ルヴィに頷いたルイだけが 4人から少し離れた場所へと取り残された。 その顔は恐怖とは違い、また別のもののように感じる、 硬く強張った表情が浮き上がっていた。 まるで何かの予兆を見たかのように。 NEXT. |
32959 | 紫煙の幻想 24 | とーる | 2006/12/24 23:54:30 |
記事番号32936へのコメント ―見えぬ前兆― 「はあーあ、まったく……雑魚ってこれだから!」 「そうだな」 ため息をつきながらリオナが一度髪を手で梳いて、 また高い位置で1つにくくる。 その手つきはとても慣れていて、ほんの数秒で終わる。 ガウリスも剣を鞘に収めながら2,3度頷く。 「もう」 「まぁまぁ落ち着いて」 「ルヴィ!」 トン。 ルヴィは杖の先を地面に打って倒れ伏した レッサーデーモンを、さああっと灰へと化した。 それを見たリオナが肩をすくめる。 「ふぅ……いつもルヴィはマメよねぇ。 いつもデーモン倒すたびにそんな事やってんだもの」 「だってこんな所に屍があったりしたら誰だって嫌だろう? まぁ、スィーフィードの神殿の前じゃなかっただけ、 心境的に良かったけれどね。僕としては。」 「………………………まぁそりゃそうだろうけど……………………。」 リオナが微妙な顔をしながら言葉を紡ぎ、 にっこり笑う彼から目線を外すかのように振り返る。 そして隠れていた木の陰から出てきて レイのそばにかけよるルイを見て首を傾げた。 いつもならば、落ち着いて自分達の元へ来るというのに。 「…………。」 「ルイ、どしたの?何か表情強張ってるわよ?」 「えっ……そう、かな?…あ…多分、最近こんな事が 多いから、ちょっとだけ疲れちゃった、のかも?」 ひょいっと近づいたリオナにびくりとルイが肩を揺らす。 少し歯切れ悪くなりつつもルイがそう苦笑すると それにレイが神妙な顔をして同意した。 「そうですね……デーモンが多発しすぎています。 近隣の村や町も恐怖に覆われてますし」 「現況は分かってるがなぁ。どうにもこうにもって感じだぜ」 「だから、私達がこうしてここにいるんだろう? 早くカタートに出向かなければいけないよ。 ね?『賢者』さん」 「ルヴィ……その呼び名は止めてほしいんですけど」 どうやってもからかいにしか聞こえない声色。 疲れたようにレイはがっくりと肩を落とす。 しかしそれでもルヴィの言う事は正しい。 ここ最近……いや、数年前から治安は劣悪なものになっている。 2つの国が他の国を巻き込んで起こし、命を奪い国を滅ぼし、 ただ無闇に繰り返しているとしか見えない悲惨な戦争。 ただ見ているだけでは分からぬ人には到底起こせぬ被害。 多発するデーモンの群れ。 この事態に種族は違えど、生き残る者達は連合軍を立ち上げた。 その中でレイは唯一戦乱の中生き残った『賢者』として、 そしてルヴィ達もその仲間として連合軍に力を貸す事を決め、 水龍王ラグラディアの聖地であるカタート山脈へと 向かっている途中だったのだから。 「なぁ、ルイ、お前ほんとに平気なのか?」 「もう大丈夫だって!ガウお兄ちゃん」 「ん、ならよし!」 ぐしゃぐしゃと自分と同じ金髪の頭を撫ぜながら ガウリスはにっこりと笑んだ。 その笑顔をじっくりと見てからルイは知らずに 握り締めていた手のひらをゆっくりと開く。 「さて……そろそろ行こうか? このままだと次の村につくまでに日が暮れてしまう」 「もうそんなに経って?ああ、急がなければ。 ほら3人とも、おいていきますよ」 「ルヴィもレイもちょっとくらい待ちなさいよね」 ふと周りに和やかな雰囲気が漂い始めるが ルイの表情からはまだ固さが抜けきれていなかった。 それに、ただルヴィだけが気づいて首を傾げた。 警鐘にはまだ気づかない。 NEXT. |
32991 | 紫煙の幻想 25 | とーる | 2007/2/12 01:30:06 |
記事番号32936へのコメント ―深いくろ― やっぱり……あれは嘘なんかじゃなかったんだね……。 ぎゅっと胸の辺りの服をつかんで奥歯を噛み締める。 前を歩き続ける兄の……レイの後姿を見つめてルイは思った。 いつの頃からだったろうか? 兄が魔法を使うたびに大切な何かが失われていくような 心が冷えていく薄気味悪い感覚に気づいたのは。 不安を感じているのは自分だけだ。 周りの仲間は誰1人として気づかない。 “賢者”と呼ばれる兄でさえも気がつかない。 募る焦燥感。 恐怖を感じているのは自分たった1人。 一言でも……たった一言でもいい。 魔法を使わないで、そう言えたらいいのに。 「……、………っ…………!」 だけど言おうとしても言えなくなる。 何かに押し付けられるような威圧感が襲ってくる。 くろいくろいくろい―――くろいなにかが。 それがきっと、兄を侵食するものだ。 「どうしましたか?」 「……!」 気がつけば宿屋のベッドの上で、 兄が心配そうに顔を覗き込んできていた。 「やはり疲れていたみたいですね……。ルイ……。 すみません、先を急いで」 「な、何言ってるのお兄ちゃん? 今は急いで行くのが当たり前でしょ?」 「ですが」 「僕は大丈夫だから早くカタートに行かなきゃ。ね?」 本当は違う。 行きたくない、行かないで、そう言いたかったのに。 だけど今起こっている世界の混乱をどうにかして 止めたいって本当に兄は思っているから。 もちろんそれは兄だけじゃない。 「……そうですね、ルイ」 「そうだよ」 お父さんとお母さんが、村の人がみんな レッサーデーモンの群れに殺されて。 森に遊びに行ってた僕は殺されなくて1人になって。 死にたいと思って崖の方に歩いていったら ちょうど旅をしてた兄が僕を見つけて。 そして僕を連れて広い世界をずっと旅しながら 僕の知らない事をたくさん教えてくれて。 ガウお兄ちゃん、リオお姉ちゃん、ルヴィお兄ちゃんと 旅の途中で会って仲間になって。 魔法も何も使えない役立たずだった僕の事も みんなはちゃんと心配して守ってくれて。 みんな大好き。 僕はみんなが大好き。 終われるならこんな酷い世界を早く終わらせたい。 ―――でも、それで兄がいなくなる気がして。 ただ怖い。 とてつもなく、それが怖い。 怖い怖い怖い怖い怖い。 「……ねえお兄ちゃん」 「何です?」 「平和になったら、みんなとまた色んなとこ、 ……旅が……したいな、僕」 「そうですね。必ず行きましょう。 まだ行った事ないのはどこらへんでしたか……」 「ちゃんと……約束……してくれる?」 「不安ですか?約束しますよ、もちろん」 ゆびきりげんまん。 これも兄が教えてくれたこと。 破っちゃいけない約束。 消えないで、 いなくならないで、 ふかいくろのなにかに、 とらわれないで―――。 強く声に出せたらいいのに。 NEXT. |