◆−春が来た ー霧雨の午後ー side:Boy−十叶夕海 (2007/3/19 02:51:32) No.33038 ┣春が来た ー霧雨の午後ー side:Woman−十叶夕海 (2007/3/19 03:47:54) No.33039 ┣夏が過ぎ去る ー祈りにも似た歌ー side:Boy−十叶夕海 (2007/3/19 04:16:38) No.33040 ┣夏が過ぎ去る ー祈りにも似た歌ー side:Woman−十叶夕海 (2007/3/19 04:37:55) No.33041 ┣秋が深まる ー特別の存在ー side:Boy−十叶夕海 (2007/3/20 03:03:01) No.33044 ┣秋が深まる ー特別の存在ー side:Woman−十叶夕海 (2007/3/20 04:30:50) No.33045 ┣冬が去り終わる ー耳に残る言葉はただ一つー side:Boy−十叶夕海 (2007/3/22 05:58:59) No.33047 ┗冬が去り終わる ー耳に残る言葉はただ一つー side:Woman−十叶夕海 (2007/3/22 07:05:55) No.33048 ┗Re:冬が去り終わる ー耳に残る言葉はただ一つー side:Woman−。。。 (2007/3/31 22:16:56) No.33064 ┗実は・・・・・・・・・−十叶夕海 (2007/4/2 19:43:58) No.33070
33038 | 春が来た ー霧雨の午後ー side:Boy | 十叶夕海 | 2007/3/19 02:51:32 |
春が来た。 花が咲いて 小鳥達も盛んに歌う季節 一年中、温度管理のされた白い部屋に居る僕には関係ないことだけれど。 僕が、白い部屋を抜け出すのは、そんなに珍しいことじゃない。 幾ら、心臓が弱くても、 幾ら、定期的に投薬が必要でも、 そこは、健全な高校生。 あんな監獄モドキに、こもってられない。 あの日、霧雨にどうしても触れてみたくて。 少しづつ貯めていた薬とお金をディーパックに詰めて 姉が差し入れてくれた、ジャケットを羽織って飛び出した。 もう、戻るつもりは無かった。 だって、あと三回、大きな発作が来たら、おしまいだってコト聞いたから。 せめて、もう少し色んなものをみてから死にたいじゃない? だから、飛び出した。 別に、心でも良いとは思っていた。 あの人に会うまでは・・・・・・・・。 僕は、繁華街までどうにか来た時点で、力つきて、倒れた。 公園だったし、雨だったから、誰もいなかった。 やっぱり、入院も長いと体力ないね。 出るときは、霧雨だった雨も、土砂降りに 時刻も、午後から、翌日の午前中になっていた。 少しづつ少しづつ、意識が無くなって・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・途切れた. 次に、起きると、見覚えの無いベッドの上に居た。 配管もむき出しの恐らく倉庫としてたてられたそういう部屋に見えた。 『起きたの? 気分、悪くない? 坂上航くんだよな、大爺のデータベースの情報だし。』 となりに、タンクトップにパンツだけと言う 健康な高校生でも、かなり心臓に悪いと思う格好だった。 栗皮色の髪を背中まで伸ばして、あっちこっちにハネたパーマ髪。 ハシバミ色の鋭い目つきの体格のいい女性だった。 僕が、幾ら望んでも、手に入れられない健康的な身体の。 病院からの捜索を頼まれた人かって聞いたら、違うっていわれた。 『あたしは、奪う方だよ。 病院とは関係ない。』 僕は、渡りに船だと思った。 住み込ませてもらいたいってことを伝えた。 そしたら、怒られた。 だけど、僕は戻りたくなかった。 あの白い監獄に。 それから、僕は初夏が来るまでそこにいた 女性は、礼凪(らいな)さんと言うらしい。 それ以外は、何にも聞かないし。 それ以外は、何にも教えてくれなかった。 でも、僕は初めて、病院以外でそんなに長く過ごした。 ちょっとした料理と洗濯と掃除も教えてもらって、 しばらくすると、それが僕の仕事になった。 礼凪さんが、たまに仕掛けるセクハラモドキには ちょっと・・・ううん、かなり閉口したけど、 凄く凄く楽しかった。 ちょっとだけ、刺激的な毎日。 それが 日常になりかけた時、僕は、倒れた。 その瞬間、礼凪さんにいわれたことを想い出した。 (記憶喪失で、何処の病院かも解らないし、警察に連絡するのも嫌がった) これで終わりなのかな? ・・・・・・・・・・・・もう少し、もう少しだけ、過ごしたかったな。 |
33039 | 春が来た ー霧雨の午後ー side:Woman | 十叶夕海 | 2007/3/19 03:47:54 |
記事番号33038へのコメント 春が来た。 花が咲いて 冬よりも、騒々しくなる季節。 奪ってばかりの私には関係のない季節の巡りだったけど。 私は、望んでこの稼業に居る訳じゃなかった。 私を苦労して育ててくれたお兄ちゃんを殺したヤツを始末したかっただけ。 物心ついたときから、お兄ちゃんしか私には居なかった。 そのお兄ちゃんを殺したヤツを始末した後も、ずるずるとこの稼業に居た。 誰かのものを奪う稼業に。 それ以外に、知らなかったから。 何処か、霧雨のように鬱陶しくもまとわりつくものだった。 何時かは、誰かに討たれて死ぬのかと思ってた。 それも悪くないと思ってた。 あの坊やに会うまでは・・・・・・・・。 その日の午後は、霧雨だった雨も、 日付が変わる頃には、土砂降りだった。 表のプログラマーの仕事とクラッキングで 気付いたら、日が暮れていたと言う有様だった。 腹も空いたが、あいにくカップ麺一個すらなかった。 土砂降りであっても 腹は空く。 朝まで待つなんてことはできなかった。 弁当と、幾つかのレトルト、ペットボトルのお茶と雑誌を買って 住居にしているアパートへショートカットする為に、公園を突っ切ろうとした。 ベンチに、誰か倒れているようだった。 何時もなら、無視してた。 間違いなく、一点も曇り無くそう言える。 だけど、その日は、気になった。 顔を覗き込むと お兄ちゃんに何処か似ている子供だった。 少なくとも、私よりは、十は年下の。 なんとなく、拾った。 拾って、ビルの住居として使っている部屋まで担いで帰った。 濡れた髪と身体を拭いて、着替えさせて、ベッドに放り込んだ。 捨てきれなかったお兄ちゃんの遺品を着せて。 随分細っこい身体だった。 大爺に、連絡したら、『坂上航じゃろ』と言われた。 この坊やは、病院を抜け出して来たらしい。 私は、その時切実に、空腹と眠気に襲われていたから、 とっと、弁当片付けて、シャワー浴びて、ベッドに潜り込んだ。 次に起きたのは、坊やの悲鳴みたいなので起きた。 『気分は悪くないです。 ・・・・此処何処ですか?』 なんて聞いて来た。 私のうちだってコトと、坊やを拾って来たことを告げると、 土下座でもしそうな勢いで、こう頼み込んで来た。 『事情はいえませんが、住み込みで仕事手伝わせてください』 もちろん、怒った。 子供をかまわないとは言え、ちゃんとした親と 弟想いの優しいお姉さんの居るようなヤツが、 此処に住むべきじゃない。 だけど、最後には折れてしまった。 なんとなく、お兄ちゃんに似ているから、だったのかもしれない。 それから、坊やは、初夏が来るまでいた。 坊やには名前しか、教えなかった。 極力、血の臭いは、外で落としてくるようにした。 少なくとも、汚したくはなかったから。 坊やは、病院以外で過ごしたのはそれが初めてのようで 小動物みたいに、わくわくしていた。 たまに、セクハラモドキを仕掛けたりして、 穏やかに時間は過ぎていった。 でも、限りがあるのは理解していた。 坊やに、大きな発作がくれば、病院に入れるしか無いだろう。 だから、日頃から、 (記憶喪失で、警察に連絡しようにも、嫌がったからしてなかった)と そんな風に、口裏合わせてた。 でもね、こんな血腥い稼業に似合わず、 少しでも、こんな穏やかな日々が 日常でも良いなんて思っていたんだよ? |
33040 | 夏が過ぎ去る ー祈りにも似た歌ー side:Boy | 十叶夕海 | 2007/3/19 04:16:38 |
記事番号33038へのコメント 夏が過ぎて去る。 仮退院の許可が絶対に下りない季節。 昔は帰れたのに、今は関係のない退屈な季節。 少しの興奮も僕の身体には、悪いから仕方ないけど。 礼凪さんのとこを発作を起こして、出てから数週間。 帰った時は、何時もは無関心な父さんと母さんも、 穏やかであんまり怒らない姉さんも、 皆に怒られた。 それが、少し嬉しかったのは、秘密。 礼凪さんが居なくて 寂しかったのも、秘密。 薬を飲んで、点滴受けて テレビを見るか本を読むかの刺激の無い毎日。 それがまた続くのかと思っていた。 だけど、ある日の午後、礼凪さんが、やって来た。 『いよ、少年。 初めまして、そして、こんにちは。 やっと、容態が安定したって、七海さんから聞いてね。』 ほら、これお見舞い。って、小玉だけど甘そうな実の詰った西瓜をくれた。 僕は知らなかったけど、礼凪さんは、コンピュータの分野では それなりに、有名なプログラマーということらしい。 そのせいもあって、父さんと母さんは、お見舞いを許したらしい。 『秋になったら、過ごしやすい穏やかな気候なところに、泊まりがけで行くか?』 もちろん、調子を見てだけどな。とか、 お前の両親には袖下代わりに未発表のプログラムを渡した。とか。 色んなことを話した。 それから、礼凪さんは、一週間に二度か三度、 何かを手みやげに、お見舞いに来てくれた。 それは、本だったり。 それは、珍しい玩具だったり。 礼凪さんが、来てくれると、 姉さんが来てくれたときとは、 少し違う、ドキドキ感とかわくわく感があった。 礼凪さんが、帰ってしまうと 何処か、胸に穴があいたようなもやもや感が、 そう強くない胸を占領した。 なんていうのか、それは解らない。 だけど、礼凪さんと過ごすのは、とても楽しかったんだ。 |
33041 | 夏が過ぎ去る ー祈りにも似た歌ー side:Woman | 十叶夕海 | 2007/3/19 04:37:55 |
記事番号33038へのコメント 夏が過ぎ去る。 暑くて、必要最低限の仕事しかしたくなくなる季節。 正直言って、一番閉口する季節だった。 航を、病院に返してから数週間。 坊やの家族を黙らせるのには、少々骨が折れた。 私の表稼業の一つの『オメガ』としての顔が無ければ、 もう少し、時間掛かったのかもしれない。 まぁ、七海ちゃんと言う、ほぼ同年代のお友達が出来たのも ひとつの収穫だと思えるだろう。 数週間ぶりに、みた航は、少し痩せていた。 だけど、私を見ると、嬉しそうに、笑顔を見せた。 こりゃ、航が居なくなって、少々寂しかった。 そう思ったことは、絶対に秘密だな。 話したら、それを種にからかわれそうな気がする。 『うわぁ、甘そう。』 お見舞いの西瓜を見て、そう喜んでくれたね。 泊まりがけでどっか行こう。っていうのにも、 『うん、京都とか、行きたいなぁ。』 もちろん、調子が良ければね。と、釘を刺すことも忘れなかった。 色んなことを話したね。 それから、週に二回か三回、時間を作ってお見舞いにしにいった。 大爺の曾孫捕まえて、若い子が好きそうなものを 手みやげに、苦労して選んで、持っていった。 本だったり、玩具だったり、 そんな他愛も無いモノも、航は、喜んでくれた。 たぶん、この時には、もう私は、 航のことを、愛していたのだと思う。 お兄ちゃんの代替え、だと思い込もうともしたけど、 違うそんな感情。 裏稼業では、命取りにすらなる感情。 それを押し殺して、航の病室に通った。 他愛も無く、 他愛も無く・・・・・でも、私が望んじゃ行けない世界。 だけど、渡ると過ごす時間は、どうしようもなく どうしようもなく、大切で、愛おしかった。 失いたくないと、思えるほどに。 それくらいに、航と過ごす時間が好きだった。 |
33044 | 秋が深まる ー特別の存在ー side:Boy | 十叶夕海 | 2007/3/20 03:03:01 |
記事番号33038へのコメント 秋が深まる。 作物が実り、 木の葉が色染まり、散っていく。 四季の中では、僕にとって一番過ごしやすい季節だ。 だけど、少しだけ嫌いな季節。 秋に入った。 どんどん、気温が下がってかなり過ごしやすくなった。 時折、病院の前の道路を駆けていく小学生の服も 半袖のものから、長袖に、その上にコートと厚着になっていった。 それに、半比例するみたいに、僕の病状は、悪くなっていた。 肺にも、何か細菌が入ったらしい。 俗にいう、院内感染。 病院側は、隠そうとしたけど、礼凪さんが、裏からリークしたらしい。 らしいというのは、病院が騒がしいことと、病院の前の報道陣のことを 不思議に思った僕が、姉さんに聞いたら、 「誰かリークしたみたいよ、マスコミに。 ま、そのおかげで、他からの治療が入って来てるからね。」 だって、聞いたから。 あの春の生活の中で、礼凪さんの仕事がそう言う関係だって思ったから。 だから、そうだと思った。 でも、礼凪さんは、あんまり来なくなった。 一週間に一回どころか、二週間に一回来るかどうか。 しかも、すぐに帰ってしまうんだ。 なんでだろう? よく解んない。 解んないと言えば、礼凪さんへのキモチ。 礼凪さんが、病院の前で、誰か男性に道案内したり、 看護士のお兄さんに、話しているだけでも、 胸がギューって、苦しくなる。 礼凪さんと話してると、 頭がぐらぐらして、ぶっ倒れそうになる。 どっちも、病気の発作とは違う。 心臓の方で、倒れそうになる発作のときも、 肺の方で、吐血をするときも、 全然、まったく、違う。 礼凪さんの時のは、 苦しいんだけど、苦しくない、 なんなんだろう、このキモチ。 今度、礼凪さんが来たら、聞いてみようかな。 『・・・・・・・・・・×××っ。 航、悪い、用事想い出した、今日は帰る。』 礼凪さんが、来た時に、『これって、どういうこと?』って聞いたら、 彼女は、茹で蛸でもそこまで赤くならないだろうって それぐらいに、顔を真っ赤にして、全速力で、病室から居なくなった。 その後すぐ、来た七見姉さんに、同じことを聞いたら、 うわ、礼凪さん、気の毒だわ。って言ってから、 悪戯っぽく、こう言った。 『航は、きっと、礼凪さんのことが好きなのよ。』 嘘だと、思いたかった。 だけど、すっと、それは胸にしみ込んだ。 礼凪さんのことが大好きだって。 それが、僕にとっての真実だって。 次に、礼凪さんが来た時に、 ちゃんと告白しようって心に決めた。 だけど、それ以降、礼凪さんは、病室に来なかった。 来ないまま、十一月終わりに近づいていったんだ。 雪も降った。 もう冬になっちゃった。 ねぇ、礼凪さん、なんで来てくれないの? |
33045 | 秋が深まる ー特別の存在ー side:Woman | 十叶夕海 | 2007/3/20 04:30:50 |
記事番号33038へのコメント 秋が深まる。 収穫の季節で、 紅葉に、木々が染まっていく季節。 過ごしやすいけれど、あたしは一番嫌いな季節。 自分が奪うことしか出来ないものだと、思い知らされるから。 秋に入った。 涼しくなって、やっとまともに活動が出来るようになった。 ビルの前を騒がしく、通っていく大学生どもの服装も、 タンクトップみたいなのから、長袖とかブーツ姿が増えて言った。 寒いと言う割には、足とかだす馬鹿は、減らないけれど。 季節が進むに連れて、航は少しづつやつれていった。 調べてみたら、院内感染だった。 血を頻繁に吐くようになった。 あたしは、マスコミにリークした。 多少、まともな治療はされたようだった。 だけど、航は、どんどん症状を悪化させていった。 好きだと思ったヤツは、絶対に、あたしの側から居なくなる。 航も、そうなって欲しくない。 だから、お見舞いにも行かないようにしていた。 ・・・・・・だけど、『好き』だってことを自覚してしまったせいか、 一週間に一度とか、つい、訪れてしまう。 自分には、あまり縁がなかったことだったけど、 女子学生が、恋して、パニックになるっていうのはこんな感じなのかもしれない。 ・・・・・・・・『鮮血のライナ』とか呼ばれた女の思考じゃないよな。 一般人みたいに、おたおたしちまうなんて。 でも、悪くないんだよな、こう言う感情。 『ねぇねぇ、礼凪さん。 僕さ、ライナさんのこと考えると、 胸がギューってなったり、するんだけど。 これって、どういうことかな?』 その日も、1週間ぶりに、航の病室に見舞いに訪れた。 そしたら、開口一番これだ。 おもわず、混乱して、 あんまり上品じゃない言葉を言って、病室を飛び出してしまった。 エレベータホールで、エレベータを待ってたら、 航の姉の七海が来た。 顔が赤いわよ。っていわれて、事情を話したら、 航ちゃんのこと好き?って聞かれてしまった。 たぶん、もっと顔が赤くなったから、 答えなくても、七海には、答えてしまったも同然だろう。 それから、航が来る前よりも、仕事に打ち込んだ。 表裏関係なく、何かを吹き飛ばしたいかのように。 十一月も終わりに近づいて来た。 やがて、葉っぱも落ち、雪も降った。 十一月のあたまに、あの質問をされてから行っていない。 行っても、どんな顔をすれば良いのか解らない。 なぁ、航。 なんで、あたしなんかを好きになった? |
33047 | 冬が去り終わる ー耳に残る言葉はただ一つー side:Boy | 十叶夕海 | 2007/3/22 05:58:59 |
記事番号33038へのコメント 冬が去り終わる。 全てを拒絶しているようだけど だけれど、春を待っているそんな季節。 どこか、礼凪さんに似ている季節。 だから、今、冬は少しだけ好き。 病院のロビーにも クリスマスツリーが、飾られた頃。 ほとんど、一月ぶりに、礼凪さんが来た。 僕が、何時告白しようか、迷ってると 『少し早いけどな、クリスマプレゼントだ。』 って、あんまりキレイじゃない包装の包みをくれた。 ちょっと古い型だったけど、パソコンだった。 それでも、ショップに行けば、6万以上はしそうなものだった。 『なら、お前が就職して、これの半額を少しづつ返してくれれば良い。』 くしゃくしゃって、子供にするように 僕の頭を礼凪さんは、頭を撫でてくれた。 それで、なんとなく、告白のタイミングを逃してしまった。 だけど、礼凪さんが、珍しく優しく微笑んでいたから、 それで、どうでも良くなった。 あと、そのパソコンで、日記を書き始めた。 自分以外は、多分見ないヤツ。 それからは、また一週間に二回ペースで、お見舞いに来てくれるようになった。 だけど、どうにも告白できない。 礼凪さんに、上手くはぐらかされてる気分。 でも、そういうどっち付かずだけど 礼凪さんと過ごせる時間が何よりも嬉しかった。 でも、お正月が終わった頃だったかな。 僕は、ICUに入った。 いわゆる、集中治療室ってトコ。 ちょっと、血を吐き過ぎたのと、 大きな発作のせいで、意識不明になったから。 礼凪さんと出会ってからは無かったけど、 それまでは、季節に一回はあった日常。 それも、僕がちょっと無茶してと言うのがほとんど。 だから、最近は、姉さんからも、呆れられていた。 『航、キモが潰れるぐらい吃驚したぞ。』 って、礼凪さんが、言ってくれた。 軽口みたい口調だったけど、顔は真っ青で、息も上がりきっていた。 急いで来たのが、バレバレって感じ。 すんごく嬉しかった。 こういうのが、ずっとずっと続けば良いな。 だけど、それ以降、自分の病室よりも、 ICUにいるほうが、長くなっていった。 礼凪さんの顔も、それに比例して、苦いモノになっていった。 『近くの城址公園の桜並木、咲いたら見に行こう.』 『結局、旅行にも行けてないだろ? ドコ行くか、決めとけよ。』 とか、僕を励まそうとしてくれる。 だけど、なんとなく解ってた。 僕の身体、もう限界なんだってこと。 自分の身体だもん。 自分が一番よく解ってる。 ICUのベッドでも、身を起こせなくなった。 その時には、もう、二月も終わっていた。 桜とか、梅とか、それの開花情報も、時々流れた。 『元気になれよ。 ・・・・・・・・・約束破るなよ、男だろう?』 礼凪さん、ごめんね。 それは、守れそうにない。 それから、あまり時間を置かずに、 一番の、そして、最後の発作が来た。 心臓がばくばく言ってる。 ちょうど、礼凪さんが来てたときだった。 礼凪さんが、ナースコールを押そうとしたけど、 その前に、腕を引き寄せて、耳打ちした。 礼凪さんが、一番大好き。愛してるって。 『・・・・・・・航、元気になって、もう一度聞かせ・・・・・』 その声と、看護婦さんと医者の声を聞きながら、僕は意識を失った。 それが、僕の最後の記憶。 礼凪さん、元気になっていえなくてごめんね。 だけど、言わないで、終わるのはイヤだったから。 僕ね、礼凪さんに出会えて幸せだったよ。 それにね、礼凪さんには、 泣き顔よりも、 笑い顔のほうが、 似合うと思うんだ。 だから、笑って礼凪さん。 笑ってて欲しいな、礼凪さん。 バイバイ、ごめんね。 本当に、大好きだったよ・・・・・・・・ |
33048 | 冬が去り終わる ー耳に残る言葉はただ一つー side:Woman | 十叶夕海 | 2007/3/22 07:05:55 |
記事番号33038へのコメント 冬が去り終わる。 寂しくて一人で居たくないと そう涙なく泣き叫ぶ子供のような季節。 どこか、坊や似ているようなそんな季節。 十二月に入ってしばらく、 坊やの衝撃的な質問から、 仕事にカッコつけて、 一切、お見舞いにいってなかったので、 ほぼ一月ぶりに、お見舞いにいった。 一緒に暮らしていた頃、 欲しいと言っていたパソコンを片手にだ。 仕事で使っていて、今は使っていないのを、 あたしが自分で、ラッピングした。 『うわ、すんごい、ラッピング。 ・・・・・・え、パソコン、貰っていいの?』 最初は、うだうだ言っていたけど、 就職してから、返せば良いって言ったら、 嬉しそうに、パソコンを抱いていた。 それは、年相応というよりは、 少し、幼い感じで、微笑ましかった。 それから、また、週に何回か、お見舞いにいくようになった。 仕事で、心がささくれだっても、 航に会うだけでも、 すーっと、癒されて言った。 大好きな時間だった。 お屠蘇気分も、ようやく抜け始めた頃。 そんな頃に、七海から、連絡がきた。 航がICUに入った。と言われた。 その電話を受けた時、 クラッキングをしていた。 思わず、警備プログラムに引っかかりそうになった。 でも、超特急で、仕事を終わらせ、次の日、病院に言った。 本当は、仕事が終わってすぐ行きたかったけど、 家族でもないのに、夜中に行っても追い返されるだけだ。 ・・・・・・・その日ほど、時間が過ぎるのが遅く感じた日は無かった。 航は、酸素マスクは付けていたけど、それなりに元気そうだった。 『へへへ、礼凪さんが、心配してくれるなら、倒れるのも悪くないかも。』 そんなことを言うぐらいに、調子は良さそうだった。 少なくとも、その時は。 でも、そのあと、普通病棟よりも、ICUに居る時間が 段々、長くなっていった。 『うん、いいね。 何時もは、病室からだけど、ことしは木下で見たいなぁ。』 『あ、そうだね。 京都に行きたいな、それか温泉。』 たぶん、私は笑顔では居なかっただろう。 だけど、励まし続けた。 信じたくなかった。 また、ぬるま湯みたいだけど心地いい日常が戻るって思ったから。 大爺からの情報で、それも崩れたけど。 梅が咲く頃には、もう航は、ベッドから身を起こすことも出来なくなっていた。 『ごめんね、礼凪さん。』 そう言っていた。 約束なんかどうでも良い。 生きてくれ。 ただ、生きてくれればいいんだよ。 それから、十日もしないうちに、 最後になった、発作が来た。 ちょうど、私が、お見舞いに来ているときだった。 ナースコールを押そうとした私の腕を 信じられない力で、航は引いた。 そして、一言。 『礼凪さんが一番大好きだよ。愛してる。』 息が止まったかと思った。 そして、航は二度と目を覚まさなかった。 その後はよく覚えてない。 気付いたら、大爺がいた。 航の葬式が終わった後、倒れたといわれた。 一週間、眠り続けてた。って。 その時の夢に、航が、出て来たような気がする。 『僕ね、礼凪さんに出会えて幸せだったよ。』 『礼凪さんには、泣き顔よりも、笑い顔のほうが、似合うと思うんだ。』 『だから、笑って礼凪さん。』 『笑ってて欲しいな、礼凪さん。』 『ごめんね、約束果たせなくて。』 そんなことを言われた気がした。 でもね、航。 私に、笑うことの大切さを想い出させてくれたお前が お前が、居ないのに、どうやって笑えば良い? 誰の為に、笑えば良いんだ。 それから、私は、元の『鮮血のライナ』と呼ばれる女に戻っていった。 航の死を忘れたかったのかもしれない。 そうじゃないのかもしれない。 だけど、仕事にのめり込んだのは事実だった。 |
33064 | Re:冬が去り終わる ー耳に残る言葉はただ一つー side:Woman | 。。。 | 2007/3/31 22:16:56 |
記事番号33048へのコメント 今晩は、 今回はこんな素晴らしい作品に 及ばずながらもコメントさせて頂きます 実は、毎回楽しみに待っておりました そのわりにはコメントが遅かったのは、アシカラズです;; 春夏秋冬で 完結させている話の長さや、 航と礼凪のそれぞれの視点から描かれる構成 めっさ素敵ですね!! >冬が去り終わる。 > >寂しくて一人で居たくないと > >そう涙なく泣き叫ぶ子供のような季節。 > >どこか、坊や似ているようなそんな季節。 最後の別れの季節なのに、全然悪いイメージを持っていなくて 切なくもあり、凄く前向きでもありますね >一緒に暮らしていた頃、 > >欲しいと言っていたパソコンを片手にだ。 > >仕事で使っていて、今は使っていないのを、 > >あたしが自分で、ラッピングした。 > >『うわ、すんごい、ラッピング。 酷ぃ・・・思ってても言っちゃダメですよねェ まァ、相手が礼凪さんだから 言うんでしょうけども > ・・・・・・え、パソコン、貰っていいの?』 > >最初は、うだうだ言っていたけど、 > >就職してから、返せば良いって言ったら、 > >嬉しそうに、パソコンを抱いていた。 > >それは、年相応というよりは、 > >少し、幼い感じで、微笑ましかった。 礼凪さんは航の気持ちが解っているみたいですね 遠慮の止めさせ方が上手いです >たぶん、私は笑顔では居なかっただろう。 > >だけど、励まし続けた。 > >信じたくなかった。 > >また、ぬるま湯みたいだけど心地いい日常が戻るって思ったから。 凄く必死なのが分かります 緊張感が伝わってきますね >ナースコールを押そうとした私の腕を > >信じられない力で、航は引いた。 > >そして、一言。 > >『礼凪さんが一番大好きだよ。愛してる。』 > >息が止まったかと思った。 今まで言えなかった航の気持ちを、最後の最後で 力を出し切って伝えたって感じです >その時の夢に、航が、出て来たような気がする。 > >『僕ね、礼凪さんに出会えて幸せだったよ。』 > >『礼凪さんには、泣き顔よりも、笑い顔のほうが、似合うと思うんだ。』 > >『だから、笑って礼凪さん。』 > >『笑ってて欲しいな、礼凪さん。』 > >『ごめんね、約束果たせなくて。』 > >そんなことを言われた気がした。 航視点の時の、航の想いが ちゃんとこういう形で 伝わっていたんですね >でもね、航。 > >私に、笑うことの大切さを想い出させてくれたお前が > >お前が、居ないのに、どうやって笑えば良い? > >誰の為に、笑えば良いんだ。 読んでる間、本当に鳥肌が立って 本当にビックリです あぁ本当に驚いた では、これからも頑張って下さい 応援しております。 それでは |
33070 | 実は・・・・・・・・・ | 十叶夕海 | 2007/4/2 19:43:58 |
記事番号33064へのコメント > >今晩は、 > >今回はこんな素晴らしい作品に > >及ばずながらもコメントさせて頂きます こんばんは、ありがとうございます。 > > > >実は、毎回楽しみに待っておりました > >そのわりにはコメントが遅かったのは、アシカラズです;; > >春夏秋冬で 完結させている話の長さや、 > >航と礼凪のそれぞれの視点から描かれる構成 > >めっさ素敵ですね!! そう言うときもありますです。 構成は、とあるお題サイトを見ている時に、こうしたら面白いと思い。 > >>冬が去り終わる。 >> >>寂しくて一人で居たくないと >> >>そう涙なく泣き叫ぶ子供のような季節。 >> >>どこか、坊や似ているようなそんな季節。 >最後の別れの季節なのに、全然悪いイメージを持っていなくて > >切なくもあり、凄く前向きでもありますね 別れになると、覚悟はしてなかった。 別れになってしまったけれど、大好きなのには変わりない。 そういうことです。 > >>一緒に暮らしていた頃、 >> >>欲しいと言っていたパソコンを片手にだ。 >> >>仕事で使っていて、今は使っていないのを、 >> >>あたしが自分で、ラッピングした。 >> >>『うわ、すんごい、ラッピング。 >酷ぃ・・・思ってても言っちゃダメですよねェ > >まァ、相手が礼凪さんだから 言うんでしょうけども パソコンって、箱無しだとラッピングし難いですから。 > >> ・・・・・・え、パソコン、貰っていいの?』 >> >>最初は、うだうだ言っていたけど、 >> >>就職してから、返せば良いって言ったら、 >> >>嬉しそうに、パソコンを抱いていた。 >> >>それは、年相応というよりは、 >> >>少し、幼い感じで、微笑ましかった。 >礼凪さんは航の気持ちが解っているみたいですね > >遠慮の止めさせ方が上手いです そう、長くもないけど、短くもない付き合いですから。 > >>たぶん、私は笑顔では居なかっただろう。 >> >>だけど、励まし続けた。 >> >>信じたくなかった。 >> >>また、ぬるま湯みたいだけど心地いい日常が戻るって思ったから。 >凄く必死なのが分かります > >緊張感が伝わってきますね 何度も、奪って来た幸せだったけど、自分の手に入ったからには守りたいと。 > >>ナースコールを押そうとした私の腕を >> >>信じられない力で、航は引いた。 >> >>そして、一言。 >> >>『礼凪さんが一番大好きだよ。愛してる。』 >> >>息が止まったかと思った。 >今まで言えなかった航の気持ちを、最後の最後で > >力を出し切って伝えたって感じです ですね。 航は、後悔したくなかったから、最後の最期で。 > >>その時の夢に、航が、出て来たような気がする。 >> >>『僕ね、礼凪さんに出会えて幸せだったよ。』 >> >>『礼凪さんには、泣き顔よりも、笑い顔のほうが、似合うと思うんだ。』 >> >>『だから、笑って礼凪さん。』 >> >>『笑ってて欲しいな、礼凪さん。』 >> >>『ごめんね、約束果たせなくて。』 >> >>そんなことを言われた気がした。 >航視点の時の、航の想いが > >ちゃんとこういう形で 伝わっていたんですね ええ、形にならないような形で、伝わってました。 > >>でもね、航。 >> >>私に、笑うことの大切さを想い出させてくれたお前が >> >>お前が、居ないのに、どうやって笑えば良い? >> >>誰の為に、笑えば良いんだ。 > > >読んでる間、本当に鳥肌が立って 本当にビックリです > >あぁ本当に驚いた > > > >では、これからも頑張って下さい > >応援しております。 > >それでは ありがとうございます。 ・・・・・・・しかし、後もうひとつ、〆の種明かしのお話が残ってます。 まともな文章風味で、書いてるので遅れてますが。 それでは。 > |