◆−エルメキア帝国騒動記−sarry (2007/7/14 02:20:41) No.33221 ┣アニメ版ですね。この世界。−氷紅梦無 (2007/7/14 19:06:03) No.33228 ┃┗Re:アニメ版ですね。この世界。−sarry (2007/7/14 21:00:21) No.33229 ┣Re:エルメキア帝国騒動記−ガード・ワード (2007/7/14 23:38:46) No.33232 ┃┗Re:エルメキア帝国騒動記−sarry (2007/7/15 02:56:03) No.33234 ┣エルメキア帝国騒動記−sarry (2007/7/15 02:50:29) No.33233 ┣エルメキア帝国騒動記−sarry (2007/7/16 00:40:04) No.33238 ┣エルメキア帝国騒動記−sarry (2007/7/17 03:36:02) No.33250 ┣エルメキア帝国騒動記−sarry (2007/7/21 23:33:26) No.33265 ┣エルメキア帝国騒動記−sarry (2007/7/23 00:10:12) No.33271 ┣エルメキア帝国騒動記−sarry (2007/7/24 23:33:24) No.33284 ┗エルメキア帝国騒動記−sarry (2007/7/29 01:47:16) No.33288 ┗Re:エルメキア帝国騒動記−ガード・ワード (2007/8/19 00:53:31) No.33324
33221 | エルメキア帝国騒動記 | sarry E-mail | 2007/7/14 02:20:41 |
はじめましてsarryといいます。素敵なお話を読んでいて、私も書きたくなったので書いてみました。オリキャラと設定が多く、また長くなりそうなのですが最後までお付き合いいただけましたら幸いです。 ―――――――――― 大木の下で少年が二人眠っていた。とても良く似た二人で、髪の色の違いがなければ二人を見分けることは難しかったろう。最もそれは今のように寝ていたり、静かにしているときの話で、起きて話していればたとえ髪の色が同じでも二人を間違えたりすることは無かっただろう。向かって右側で寝ている金髪の少年――なぜか女物を着ている――は穏やかでのんびりとした気性。左側の黒髪の少年――こちらは男物を着ている――は気が強く激しい気性。容姿だけならそっくりの二人の少年は性格は正反対だった。だが、それゆえか二人はとても仲がよく、親友と呼べる間柄だった。 彼らはまだ知らない。これから十数年の後に降りかかる出来事も、その最中に大切なものを失くしてしまう事も。彼らは知らない。知らずに穏やかに眠っている。 ―――――――――― 1、沿岸諸国連合ビブレスト公国 その日はよく晴れていた。雲ひとつ無い晴天で、曇りがちなこの地方には珍しい。宿の主人の話では実に二週間ぶりの晴天だという。その晴天の下、ゼルガディスは酷く憂鬱そうにため息をついた。 彼は現在何の因果かセイルーンの第一王位継承者のフィリオネルと彼の次女アメリアの親子喧嘩に巻き込まれている。喧嘩して王宮を飛び出したアメリアが、たまたまセイルーン領内にいたゼルガディスを見つけてそのまま付いて来てしまったのである。おまけに彼の外見が外見なものだから彼は姫様を誘拐した不届き者ということになってしまった。そしてその誘拐されたことになってしまったアメリアはといえば彼の視線の先で元気に正義の口上を述べ、ひったくりを捕まえている。 ここは沿岸諸国連合の中の一つビブレスト公国。沿岸諸国連合の中でも一番小さな国である。主要産業は漁業。曇りがちなこの国では作物が殆ど育たないためだ。この小さな国には一つだけ有名なことがある。それば魔道の研究である。ここの魔道の研究は他国に比べ進んでいる。そのためゼルガディスはここに来たのだが残念ながら空振り。憂鬱に拍車が掛かっている。 「おい、いい加減にしろ!」 ふと、どこかで聞いたことのある声がした。声のしたほうを、ひったくりを引き渡したアメリアと共に見た。 「セラ、返して来い」 「この声って、ガウリイさん?」 「セラって、リナはどうしたんだ?」 顔を見合わせ、二人は声の方に向かった。 店の前で二人の男女が言い争っていた。女は十七、八くらい、背が高く、少し癖のある美しい金髪と今日の空のような青い瞳のやや男性的な容姿の美少女。格好からして旅の魔道士の様である。手にはシンプルだが金のかかった銀細工を持っている。そして彼女と言い争っている男は髪の色が金ではなく黒であることを除いてガウリイにそっくりだった。 「だって、これ絶対お兄様に似合うわ」 「だからどうした」 「酷いわ。まるでお兄様の為だけにあつらえたようなこれを返してこいだなんて。お兄様と顔はそっくりのくせに全然違うんだから」 「あの……ガウリイさん、ですか?」 言い争いを続ける二人に恐る恐るアメリアが声を掛ける。 「あんたたち、ガウリイを知っているのか!?」 「あなた方、お兄様を知っているの!?」 途端に言い争いをやめて二人はアメリアたちのほうに飛んできた。 「お兄様はどこ? ここにいるの!?」 飛んできた勢いのまま少女はアメリアに迫る。 「おい、落ち着いてくれ。確かに俺たちはあんたの連れに似た男を知っているが、二年近く前の話だ。今どこにいるかは知らん」 「そうなのか?」 「え、ええ。お役に立てなくて申し訳ないですけど……」 アメリアの言葉にため息をつくと男は少女の肩を叩いた。 「我が従兄殿は一体どこにいるのやら……。ああ、俺はキースフェルト=フェヴァリル。ガウリイは俺の母方の従兄だ。こっちの娘は……セラ。セラ=ガブリエフ。ガウリイの妹だ。今は一緒ではないとの事だが、一緒だった頃の詳しい話を聞かせてくれないか」 ―――――――――― 2、カフェにて 長いので立ち話ではということで、四人は近くのカフェに場所を移動した。ちなみにどさくさに紛れてセラはあの銀細工を購入している。 「そんなことが、あったんですのね」 大分要約してあったが事情を聞いたセラは呟く。 「それで、セラさんとキースフェルトさんはガウリイさんをどうして探してるんですか?」 「キースで構わない。何故探してるかといえば、そうだな光の剣絡みのくだらない騒動だ。俺はあっちの事情を詳しくは知らんが、あの光の剣にこだわっていたのは分家でな。分家がアレ絡みで何だかんだ難癖つけてくるのにガウリイが切れて光の剣持って家出しちまったんだ」 「本家はこだわってなかったのか?」 「ええ。アレは借り受けていたものですもの」 「どういう意味ですか?」 「初代から、アレは迷い込んできたものだからアレがあるべき所に帰るまで保管し、時に使うことがあっても必ずいつの日かあるべきところに返すこと。けして執着してはならない、って伝えられてるらしくてね。だから総じて本家の人間はアレに執着してない。分家も同じこと聞かされてるらしいんだが……。で、あいつが光の剣持って家出したのが――とは言っても家族公認なんだが――六年前なんだが、あいつ一度も連絡一つ遣さなくてな。今年のはじめごろついに伯父上の我慢の限界が来た。で、こうして俺とセラが探してる。最もはじめは俺一人のはずだったんだが……」 「あら。キースは、魔道の方はからきしなんだから私がいたほうがいいでしょう? それに私ももう我慢の限界でしたの。……でも、これでお兄様を探す手がかりが見つかりましたわ。あのリナ=インバースの足取りを追えばいいんですもの」 ―――――――――― 3、ゼフィーリア王国国境近く リナとガウリイは現在ゼフィーリア王国国境近くの街道を歩いていた。順調に行けば後二、三日でゼフィーリアに着く。 「あと少しでゼフィーリアかぁ」 郷里が近いからか、感慨深げにリナが言う。 「親御さんも驚くだろうな」 「でしょうね。旅に出てからはじめて戻るんだし」 思えばはじめて歩いた街道はここだったなと、旅に出た頃を思い出しながらリナは歩く。 「ん?」 「ガウリイ?」 突然立ち止まったガウリイに訝しげにリナは問う。 「いや、何かどっかで聞いたことあるような声がしないか?」 「え?」 ガウリイに言われてリナも耳を澄ませた。 「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「この声、ゼルとアメリア?」 声のする方を見ながらリナが呟く。だんだん声が近付いて来ている。声と共に上空から猛スピードで風の結界が迫ってくる。やがてリナたちの近くに風の結界は墜落した。と、ほぼ同時に男が一人飛び出してくると思い切りガウリイを蹴倒した。 「あれ、キース?」 しっかり受身を取ったガウリイはのんびりと言った。 「あれ、キース? じゃねーだろこのアホ! 六年一度も連絡遣さねぇってのはどういうつもりだこのバカ!!」 「あー、忘れてた?」 「忘れてたじゃねーだろこのボケ! しかも疑問系かよ!? 大体この六年何度お前の代わりに暗殺されかかったと思ってやがる!? 二十五回だぞ二十五回!」 「いや、でもキースなら一太刀も浴びねーだろ?」 「当たり前だ、お前俺を誰だと思ってる! 暗殺者を逆に仕留める位朝飯前だが問題はそこじゃねぇ!!」 ガウリイを揺さぶりながら怒鳴る男――キース――を呆然と見ていたリナだが、聞き覚えのある唸り声を聞いてそちらを振り返った。 「うう、まだ目が回ってます……」 「あいつ、よく平気だな」 「ああ、また制御に失敗しましたわ」 ゼルガディスとアメリア、それとリナの知らない魔道士の少女が一人。地面に座り込んでいた。 「ゼル、アメリア久しぶりね。……この子とあの男は誰?」 「あー、こいつらは」 「キース、あなたお兄様に何をしているの!」 ゼルガディスの言葉をさえぎってセラは叫ぶと走りよって行った。 「……お兄様?」 「まぁ、そういうことだ」 ゼルガディスは力のない声で言った。 ―――――――――― 4、エルメキア帝国へ 「そーゆー事情だったわけね。で、墜落してきたのは翔封界の制御ミス?」 「ええ。叔父様から魔力増幅装置を貰ったのですけど壊れてしまいましたわ」 「アレは試作品だと父も言ってただろう。大体、お前が翔封界の制御が下手のは昔からだろう」 街道から少し外れたところで、リナたちは話していた。 「で、これからあんたたちどうするの?」 「ガウリイ込みでエルメキアに戻る。ああ、あんたもな」 散々怒鳴り散らしてすっきりしたのか淡々とキースは言う。 「あたしも?」 「そりゃそうだろう。光の剣が元の世界に返ったのを見たのはあんただけだって話だし。その辺のことを説明してくれ。これは頼りにならんからな」 キースは久しぶりに再会した妹とじゃれ合っているガウリイを見て言った。 「でもガウリイさんとキースさんそっくりですよね」 「ああ、伯母上と母は双子でね。ガウリイは伯母上の生き写しだし、俺も髪の色を除いて母そっくりだからな。この色は唯一父から遺伝したものだ。伯母上と母の血は俺たちに濃く出てね。性格から剣の腕からすべてそれぞれの母から伝わったもので、そこにお互いの父の血は一切反映してない」 「母親からの遺伝ってことは……」 「伯母上もああだ。三文字以上になると人名も地名も覚えられない。副団長時代、母は相当苦労したらしい」 「副団長?」 「ああ。伯母上と母は結婚するまで騎士団の団長と副団長だったんだ。伯母上は立場上無理だけど母は今でも騎士団の人間に稽古つけてる」 「女性が騎士団の団長と副団長。さすがはエルメキアね」 エルメキア帝国の特徴を挙げるなら剣と魔道と識字率の高さと完全実力主義の四つが上がる。 ゼフィーリアが猛者の国ならエルメキアは剣士の国である。病弱な場合を除きエルメキアの子供は性別に関わりなく剣を習う。大抵は十二歳頃まで習い、それ以降続けるかは個人の自由。下手な剣士よりエルメキアの十二歳児のほうがよっぽど剣の腕が立つ。 魔道については、魔道士の数こそ少ないが、少数精鋭でエルメキアの魔道士は皆一流と証するにふさわしい。実践派より研究者肌のほうが多いが、剣の腕は皆あるので賊に襲われたりしてもあっさり追い返してしまう。ちなみにキースの父は研究者肌の魔道士である。 識字率の高さは剣を習う際、道場主が一緒に字を教えるからであり、病弱なものは家族や医師に習う。そのため他国で仕事を探す際、読み書きできるのでいい仕事を得ることが出来る。 最後の完全実力主義は読んで字の如く。出自や性別に関わらず有能なものが出世し、適正のあるものが配属される。たとえ貴族の息子でも無能なら役職にはつけないどころかクビになり、農家の息子でも有能ならば出世していく。女であっても試験に合格すれば騎士団に入団することも出来る。それがエルメキアだ。 「まぁ、そういうことだ」 「あのエルメキアの騎士団長の息子か。強いわけだ」 「さ、そろそろ行きましょ。このままじゃ野宿する羽目になるわよ」 「リナ悪いな、せっかく故郷に帰るとこだったのに」 「いいわよ別に。とーちゃんもかーちゃんもねーちゃんも逃げないもの」 こうして一行はエルメキアに向かって出発したのであった。 |
33228 | アニメ版ですね。この世界。 | 氷紅梦無 E-mail | 2007/7/14 19:06:03 |
記事番号33221へのコメント だってアメリアが敬語…って違う。まずは挨拶。 と、始めましてこんにちはー。 氷紅梦無(ひぐれむな)と申します。 ふいふいと読んでみたらしっかり造り込まれていそうで、コメントしようと思い立った次第です。 で。 えーと、確かにオリキャラは多いようですが、性格分けがキチンとしているので混同することは少なそうですね。 それに情景描写や説明文がさりげなくもしっかりと存在しているので、世界観にはすっと入って行けて楽です。 文章力ありますね。本や小説読むのお好きですか? …差し出がましいようですが、そんな貴方に一つアドバイス。 強調したい場面や台詞は一行空けたりして際立たせると効果的。 たとえば、キール君がガウリイを勢いのままに蹴っ飛ばしたりする所。 >声のする方を見ながらリナが呟く。だんだん声が近付いて来ている。声と共に上空から猛スピードで風の結界が迫ってくる。やがてリナたちの近くに風の結界は墜落した。と、ほぼ同時に男が一人飛び出してくると思い切りガウリイを蹴倒した。 ですが、 >声のする方を見ながらリナが呟く。だんだん声が近付いて来ている。声と共に上空から猛スピードで風の結界が迫ってくる。やがてリナたちの近くに風の結界は墜落した。と、ほぼ同時に男が一人飛び出してくると、 > >思い切りガウリイを蹴倒した。 > とかにすると意外性が。文章を変えずにメリハリ付けるには良いですよ。(と言いつつ僕は勝手に『、』を増やしてしまいました。すみません) 小説を読むのがお好きならば色々と参考にすると良いかもしれません。 sarryさんはキッチリと世界を造れる方のようですので、より魅力的になって頂けたらなぁ、と思ってこんなことを書きました。 このお話が長くなるのなら、これからも末永くよろしくお願いしますね? どーやらスレキャラに負けない個性的なキャラ達のようなので、楽しみにさせて頂きます。 では、またお会いできることを願って。 氷紅梦無でした。 それでは、またの機会に… |
33229 | Re:アニメ版ですね。この世界。 | sarry E-mail | 2007/7/14 21:00:21 |
記事番号33228へのコメント 感想ありがとう御座います!世界観を作りこむのは趣味みたいなものですが、褒めていただけて嬉しいです。 オリキャラたちですがこれから先、キースやセラよりキャラの濃い人たちが出てきてしまうのです。ある意味フィルさんのようなギャップの方が……。スレキャラを食わないよう注意してますがどうなることやら(苦笑)。 文章のアドバイスもありがとう御座います。どうにも私はバーっと一気に文を書くのが癖なのでああなっちゃいましたが参考にさせていただきます。 えーとそれからアメリアの敬語ですが、もともとスレイヤーズはアニメから入った人間なのでその影響かと。原作のアメリアもアニメのアメリアも好きですが。 これから大分長い話になる上、某パシリがそのうち出てくる予定とかなり登場人物が多く、人間関係もどろどろしてきそうですが完結までお付き合いのほどよろしくお願いします。 |
33232 | Re:エルメキア帝国騒動記 | ガード・ワード | 2007/7/14 23:38:46 |
記事番号33221へのコメント sarryさん、始めまして。ガード・ワードと申します。 長い小説が大好きなので気長に更新を待たせていただきます。 ガウリイの出身地はエルメキア帝国だったんですね。初めて知りました。 六年間二十五回も間違われて狙われていたキースフェルトさん、ご苦労様です。 エルメキア帝国、何だか色々と凄そうです。ゼフィーリアが魔道だったらこちらは剣術でしょうか? では、続きを楽しみに待たせていただきます。 |
33234 | Re:エルメキア帝国騒動記 | sarry E-mail | 2007/7/15 02:56:03 |
記事番号33232へのコメント 感想ありがとう御座います! ガウリイがエルメキア出身らしいという話を聞いたのでそう設定しただけなので本当にガウリイがエルメキアの出身かは分かりません。 キースはこの後も苦労しまくりです。まともな人が少ないので。 エルメキアは剣士を大量に輩出している国ですので、剣の国です。でも魔道士も少ないながらも有能な方がいます。キースのお父さんとか。 長い話でいまだ導入部ですがどうぞ最後までお付き合いくださると嬉しいです。 |
33233 | エルメキア帝国騒動記 | sarry E-mail | 2007/7/15 02:50:29 |
記事番号33221へのコメント 5、帝都アースガルドへ 一行がエルメキアに入るとそこには迎えの馬車が止まっていた。それ自体はいい。エルメキアに来る途中の魔道士協会でキースがガウリイを見つけた旨を連絡していて、その際に迎えの馬車を呼んだと言っていた。だが、誰が想像しただろうエルメキア帝国王室の紋章が入った馬車が待っていようとは。恐らくこの辺りの領主と思われる男性がガウリイに向かって、 「お久しぶりです、ガウリイ王子」 などと言って臣下の礼を取ろうとは。セラとキースに向かって、 「セラスティーア王女もフェヴァリル騎士団長もガウリイ王子のお迎え長旅御疲れでしょう」 とこれまたセラに臣下の礼を取り、キースと挨拶を交わすとは。 「さあお連れの皆様もどうぞ馬車へ。この領内では私の威信にかけて馬車を警護させていただきます」 何が何だか分からないうちに馬車に乗り込んだリナは馬車が動き始めて漸く我に返り問い詰めようとした。 「リナ嬢、今から説明する。……セラ、頼む」 「分かってますわ」 キースに促されてセラは風の結界を張った。ちなみにリナ嬢というのはキースが基本的に女性を呼び捨てにしないからだ。勿論セラのような例外もある。 「こいつらはエーギル伯――挨拶してきた領主のことだ――の言ったとおり王族だが、それを隠してたのには理由がある。けしてあんたたちを信用していないとかそういうことじゃない。命の危険があったからだ」 「命の、危険……?」 「ああ」 ガウリイの話だというのに話しているのはキースである。ガウリイには説明は無理だと皆分かっているので誰も突っ込んだりしなかったが。 「どういうことよ、それ」 「まあ、こいつは第二王子なんだが、第一王子、それとこのセラを含めて帝位継承権を持っているのが気に入らない王族というのがいる。で、そいつらは同時に光の剣も狙っていたから持ち出して家出したガウリイを探し出して殺し、光の剣を奪おうと考えていた。だからガブリエフ姓を名乗り、ミドルネームは省略した。ちなみにガブリエフというのは伯母上と母の旧姓で、本名はガウリイ=フィン=アルフレッド=エルメキア。セラはセラスティーア=フィイ=アンネ=エルメキア。セラは愛称だ。傭兵の妹がセラスティーアじゃおかしいからセラと紹介した」 「でも、私二人に会ったこと無いですよ?」 「セイルーンとエルメキアはあまり国交がありませんもの」 「で、何で他の王族は旦那たちが帝位継承権を持っているのが気に入らないんだ」 「一番の理由は伯母上が騎士団の団長だったとはいえ元はパン屋の娘だったからだろう。下賤の血が入ったものが帝位を継いでもいいものか、大体あの女の父親は当時の騎士団長自らスカウトしたにも拘らず、宮仕えは嫌だと断りパン屋を興した不届き物ではないか。それに帝王も帝王だ。王子の頃から魔道に現を抜かし、あまつさえ実践する。帝王としてあるまじき方で、何故先帝はあの方に帝位を譲られたのやら……。あの二人の子供たちよりよほど私の子供の方がよほど帝位と光の剣に相応しい。それがあちらの言い分」 「……そういえば、あんたがガウリイ蹴倒したとき二十五回暗殺されかかったって言ってたわよね、ガウリイの代わりに」 リナの指摘にキースは頷く。 「公式行事に第二王子がいないのは問題だからな。俺は髪の色を除いてこいつと瓜二つだから影武者をやってた。声も同じだからスピーチもやれる」 「ガウリイ、スピーチなんてできたの!?」 「気持ちは分かるが、原稿があるから大丈夫だ。……話を戻すぞ? 行事の為に一旦戻ってきたと勘違いした奴らが暗殺者を遣した。まぁ、勘違いしたのは数回だけでその後は俺自身を狙ってきたがな」 「え、でも狙いはガウリイさんですよね? 光の剣の持ち主の」 「ガウリイをおびき寄せる為だ。影武者をしていた従弟が死んだって聞けば流石に戻ってくるだろうってことだ」 「そして戻ってきたところを殺して光の剣を手に入れる、か」 「その通り。まぁ、俺が片っ端から返り討ちにしたからその企みは失敗し続けてるが」 「皆さんもお兄様の旅仲間ですし、否が応にも巻き込まれると思いますわ。御迷惑を掛けることになり心苦しいのですが……」 「気になさらないでセラさん! 私たちは正義の四人組です! 仲間が命の危険にさらされている以上協力して悪を倒すのは当然! 正義の名の下に悪の退治を手伝いましょう!!」 「そう言っていただけると嬉しいですわ」 アメリアの言葉に感極まった様子でセラは言う。リナとゼルガディスは顔を見合わせて、 「また始まった……」 「正義の四人組は止めて欲しいんだが……」 「って、ガウリイてめぇなに寝てやがる! お前の話だろうが!!」 「んあ?……いや起きてようとは思ったんだが」 「思ってても行動がともなわねぇと意味ねぇだろうが! 大体お前は昔から……!!」 「あー、昔なんかあったっけ?」 ガウリイのあまりにもぼけた一言にキースは肩を落とした。 「……まぁ、当面の問題は伯母上がゼルガディスの名前を覚えられるかだな」 キースの言葉に、リナ、アメリアゼルガディスがこける。 「おい、ガウリイの暗殺問題はいいのか?」 「ああ、証拠がないんでな。相手はあれでも王族だから証拠もなしにあれこれ聞けないのさ。ガウリイが帰ればそのうち尻尾出すだろうしな。それよりも伯母上が名前を覚えられるかが問題だ。……まぁまず無理だろうが」 「流石にセイルーン王女のアメリアさんの名前は覚えてると思うんですけど……」 「忘れてたら外交問題だぞ、幾らなんでも」 「……名前だけなのか?」 「ああ、あんたの外見なら伯母上は気にしないと思うが」 「“綺麗だし、格好いいじゃないの”とか言うと思うぞ、母上は」 「お父様もアーサーお兄様――第一王子です――も気にしないと思いますわ」 「まぁ、帝位狙ってる奴らは色々言ってくるだろうが」 「あ、それはそうとリナさん。お父様たちに事情を説明するときに心理描写や情景描写はいりませんわ。素早く、お母様にも分かりやすく説明してくださらないと話が一週間たっても終わりませんわ。きっとお父様とアーサーお兄様が脱線させてしまうもの」 昨夜、ガウリイとの出逢いの話をリナから聞いたセラだったがあまりにも長かったのでそう頼んだ。やや腑に落ちないようだがリナは同意した。 ―――――――――― 6、王宮にてその一 馬車に揺られること五日。漸く王宮にたどり着いた一行は、一足先に馬車から降りて正装に着替えたキースに先導されて帝王の私室へ向かった。そこに妃と第一王子、それとなぜかキースの母がいる。 「キースフェルト=フェヴァリルエルメキア帝国騎士団長、ガウリイ第二王子、セラスティーア第一王女と客人と共にただいま帰還いたしました」 扉の前でキースが言う。少し間があった後、入室を許可する声が聞こえた。洗練された動作でキースが扉を開けると、ガウリイ、セラ、リナたちの順に中に入った。一番最後にキースが部屋に入ると扉を音を立てずに閉める。 部屋の中央にいる壮年。彼がエルメキア帝王だろう。赤みの強い少し癖のある茶髪にガーネットのような瞳を持つ苦みばしった好男子である。背はすらりと高く、均整の取れた体つき。 その彼の向かって右側には車椅子に乗った青年。彼が第一王子のようだ。中央の壮年とそっくりの髪と瞳をしている美男子である。足の長さからして立つことが出来ればガウリイと同じくらいの背であろう。 一方左側にはよく似た二人の女性が立っている。二人の顔はガウリイとキースにそっくりで、壮年の傍に立っている女性はシンプルで品のいいドレスを着ており、その隣に立っている女性はキースの正装に近い格好をして帯剣している。ドレスの女性が妃、帯剣してる女性がキースの母だろう。二人とも長身で、中央の壮年の鎖骨の辺りまで背がある。 「ガウリイィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!」 四人の観察をしていると、いきなり叫んでガウリイに抱きついた人影があった。 「だあぁ、何しやがるくそ親父! 離せ、俺を絞め殺す気か!」 人影の正体は中央の壮年――現エルメキア帝国帝王――だった。 「出て行ったきり六年も連絡しないで!! パパがどれだけ心配したと思ってるんだ! 君を暗殺しようとする奴はいるし、まぁもっともそれは殆どキースに行ってるけど、パットによく似た美人さんだから変態に襲われて貞操奪われてないかと思うとパパは、パパは……!!」 「ええい、ガウリイは男だ、男に貞操もくそもあるわけないだろうこのオオボケバカ帝王! いい加減離さんとガウリイが窒息するぞアイザック! 六年振りとは言え見苦しい上に変態は貴様だ!!」 帯剣した女性は一気に叫ぶと鞘ごと抜いた剣で思い切り帝王をぶん殴った。 「痛いじゃないかリジー! 大体変態ってどういうことだよ!!」 ガウリイを開放すると帝王はリジーと呼ばれた女性に向き直って言った。 「そのままだ、自覚がないのか! 子供の頃パットに似てるからという理由でフリルのドレスを始めとした女物を着せていたくせに! しかもその格好で肖像画まで描かせたじゃないか! 今でも眺めて悦に入ってるような奴は変態で十分だ!!」 「まあまあ、叔母上落ち着いてください」 二人が言い争っているうちにやって来た第一王子が言う。その後ろには妃が微笑ましそうな顔をして立っている。 「何が落ち着いてくださいだ、大体お前もこれ同類だろう! 特別に誂えたメイドたちち同タイプのエプロンドレスを着せて喜んでいたくせに何を人事のように言っているんだ!!」 「いやだな、覚えてたんですか?」 「おまけにアーサー、お前は家のケイシーにその様子を記憶球に記録させただろう! 動画という時点でお前はこの馬鹿より変態だ!!」 「……ガウリイ、あんた大変だったのね」 隣でうずくまっているガウリイにリナは聞いたことのないような優しい声で言う。 「ガウリイさん……」 「あんな肉親はいやだな」 「伯父上も母さんも落ち着いてください。客人の前ですよ」 心底疲れた様子でキースは言った。 「お兄様は愛されてますわね、相変わらず」 「こんな愛され方は嫌だ……」 ―――――――――― 少し短いですが、今回はここまでです。 |
33238 | エルメキア帝国騒動記 | sarry E-mail | 2007/7/16 00:40:04 |
記事番号33221へのコメント 7、王宮にてその二 自己紹介 言い争っている三人を微笑ましそうに見ていた妃はリナたち三人を見ると、 「ごめんなさい。騒がしいでしょう? 元気なのはいいんだけど、ね」 少し困ったように微笑した。ガウリイによく似た笑い方である。 「そうだ、紹介するわね。……ほらガウリイ、いつまでも拗ねてないの」 「母上……」 「だって仕方ないわ、アイザックとアーサーだし、リジーも怒りっぽいから。そんなところばっかりキースも似ちゃったしね」 「あの、止めないんですか?」 「大丈夫よ、ただのじゃれあいだから。あの子が本気になったらアイザックはよけられないもの」 アメリアの問いに笑って妃は答える。とは言うものの、三人の様子はじゃれあいというにはいささか過激である。 「私はパトリシア=エルメキア。ガウリイの母です。あっちで今どつかれたのが夫で現エルメキア帝王のアイザック=ファル=シド=エルメキア。車椅子に乗っているのが長男のアーサー=フェル=レジナルド=エルメキア。最後に彼女はエリザベス=フェヴァリル。私の双子の妹でキースのお母さんよ。……それと、私や妹のことはパットとリジーでいいわ。私の嫁ぎ先がたまたま王宮だっただけで元はパン屋の娘だし」 「リナ=インバースです」 「アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンです」 「ゼルガディス=グレイワーズ……です」 「リナちゃんとアメリアちゃんとゼルディガスくんね?」 「……ゼルガディスです」 「……ゼロガディスくん?」 「お母様、ゼルガディスさんですわ」 「ええっとゼ、ゼル……」 妃――パット――はゼルガディスの名前が覚えられないらしい。ガウリイの物覚えの悪さは彼女譲りだとリナたち三人は実感した。 「それより伯母上、そろそろ三人を止めて本題を」 「……本題?」 きょとんとした顔で聞き返されたキースは非常に疲れた顔をして、 「光の剣のことです」 「そういえば、昨日リジーがそんなこと言ってたような……」 「俺、説明できないぞ?」 「誰がお前に説明させるか! お前が説明出来ないくらい百も承知だ!!」 ―――――――――― 8、王宮にてその三 光の剣 じゃれあいを強制終了した後、本題であるところの光の剣の話をリナから聞き終わると帝王――アイザック――は真面目な顔をして一言、そうかと言った。 「そうかって……」 「あれもとより借り物。だからこそ国宝として所有を明らかにしなかった。明らかにすれば返すことが難しくなるからな。……まぁ、正体が魔族だというのには驚いたが元の世界へ帰ったのならばこれ以上障りはないだろう」 アイザックはいたって真面目に言う。第一印象があれだったリナたちは驚いているが、もともと彼は妻と次男さえ絡まなければまともな人物で、政治手腕も長けている。 「障り?」 「道中セラやキースから聞かなかったかね? 光の剣を持って出たガウリイを狙う連中がいることを」 「聞きました。あなたの子供たちが帝位継承権を持っていることに不満を持っている人間がいることも」 「そうだ。光の剣はもうないと言ったところで連中は納得するまい。嘘だと考えるだろう。……そこで、頼みがある。キースの仕事を手伝ってくれないか?」 「仕事……? 騎士団長の仕事を?」 「ああ、それは表向きでね。キースは父上直属の諜報員なんだ。王宮内の不穏な動きや不審な事件を調査するのが本当の仕事」 リナの疑問にアーサーが答える。彼も基本的には真面目な人物らしい。真面目だからこそ、壊れるときはえらく壊れるのだろう。 「……頼まれて、くれるかね?」 そうアイザックに問われ、正義の口上を述べようとするアメリアを制してリナは、 「言っておきますけど、私への依頼料は高いです。それでもいいのなら」 「ああ、それでも構わん」 アイザックはリナの返答に満足そうに笑う。こうしてリナたちはエルメキア王室のお家騒動の渦中に飛び込んだのだった。 ―――――――――― 9、ロキ=キャン=レオン=エルメキア ガウリイは王宮を自室に向かって歩いていた。一人ではなくリナも付いてきている。一人でも平気だというガウリイの意見は、命の危険があるためあっさり却下された。ちなみにアメリアたちはセラとキースに王宮を案内されている。 「別に一人でも平気なんだけどな」 「なに言ってんのよ。あんた狙われてるんだから一人で歩いてたら危ないでしょうが」 「俺より、兄貴のほうが危ないと思うんだけどな。セラは魔法が使えるけど、兄貴は使えない」 「……アーサーさんって昔から歩けないの?」 「いや、昔は歩けたぜ。本人は助かっただけで十分だって言ってるが」 「助かっただけって、アーサーさんもじゃあ……」 「ああ。あの時は死ぬんじゃないかと思ったがな」 沈黙が二人の間に下りる。 「おや、ナイトじゃないのは久しぶりに見るね」 後ろから、面白がるようなテノールが聞こえた。 「……ロキ」 「やあ、久しぶりだねガウリイ」 振り返った先には男が一人立っていた。背はガウリイより頭半分ほど高いその男は身なりからして王族のようだ。前髪と襟足がやや長い金髪、アイスグリーンの瞳を持ち、非常に整った顔立ちだが狡猾さと酷薄さ、冷酷さと強い飢餓感がにじみ出ている。あまり進んでお付き合いしたいタイプではない。 「六年ぶり、いや六年と三ヶ月ぶりか。元気そうだね」 「あんたも、元気そうだな」 「まあ、ね。もっとも、君の妹やナイトには目の敵にされ続けてきたけど」 冷たく嗤いながら、こつこつと足音をわざとらしく立てて男――ロキ――はガウリイだけを見つめながら近づく。隣にいるリナのことはまるきり無視して。リナは何かを言おうとして言えなかった。ロキの発する雰囲気に呑まれて声が出ない。 ガンッ!硬いものがぶつかる音が響く。ロキがガウリイを壁に向かって思い切り突き飛ばしたのだ。壁に手をつき、痛みに顔を顰めるガウリイの顔をロキは覗き込む。 「ああ、やっぱり君が一番いい顔をするよ、ガウリイ。君と君の妹の性別が逆だったらよかったんだけどね」 君の妹は可愛くないよと、酷く愉しそうにロキは付け足す。 「君の妹とは相性が悪くてね。道具でしかなくてもあの娘と結婚して子供を作るのはぞっとしない。想像しただけで気分が悪くなるよ」 「なら、想像しなければいい」 覗き込んでくるロキをにらみつけてガウリイは言う。 「その通りだ、君の言う通りだよガウリイ。本当に残念だよ、君が男に生まれてきたことが。君の妹だと気分が悪くなる想像も、君に置き換えるといい気分になるよ、実行できないのが残念なくらいね」 「……本題は何だ?」 「帝位継承権、僕に譲ってよ」 「第二帝位継承権でいいのか?」 「でも、実際のところは君が第一帝位継承者だろう? 半身不随のアーサーが帝位を継ぐことに難色を示してる奴らは多い。君の妹は君がいる以上帝位継承は無理だろうし。帝位継承権を譲ってくれたら僕はアーサーを押しのけて帝位に付く、絶対にね。……ああ、心配しなくても君もアーサーも君の妹も追い出したりなんかしないさ」 「そんなにこの国が欲しいのか?」 「欲しいよ。欲しくてたまらない。この国どころか結界の中も外も僕のものにしたい」 「……たとえ世界全てを手に入れたとしても、あんたの飢餓感は癒えないんじゃないか?」 ガウリイのその言葉にロキは目を見開くと、狂ったように嗤い出した。 「君は記憶力が悪くて思考が苦手なくせに――いや、だからこそかな?――寄り道もせず真っ直ぐ答えを見抜く。君の瞳は全てを見抜いているよガウリイ。君が意識するしないに関わらず、ね。君が女なら何が何でも手に入れるんだが、男同士じゃスキャンダルにしかならない。非常に、残念だ」 そう言うとロキは耳元で何事かを囁き、ガウリイから離れる。 「じゃあ、また後で」 酷く満足そうに嗤いながら、ロキはその場を立ち去って行った。 「……今のロキって奴」 「ロキ=キャン=レオン=エルメキア。帝位を狙っているうちの一人だ」 ―――――――――― 10、捜査会議 夕方、キースとリナたち四人はキースの父の研究所にいた。王宮内では盗聴されかねないからだ。キースの父は敷地内に結界を張っているので侵入者があればすぐに分かる。ちなみに研究所の主であるキースの父は現在地下でなにやら実験をしているらしくこの場にはいなかった。 リナは先程のロキとの邂逅をキースたちに話した。 「……早速会ったか」 「なんか凄く嫌そうな言い方ですね」 「実際嫌なんだから仕方ない。あの男は昔からガウリイにえらく執着しててな。まぁ、あの男は帝位は狙っていても光の剣はどうでもいいみたいだったが」 「なら、あんたに暗殺者は送ってきてないのか?」 「ああ。あの男は一目で俺だと見抜いたからな。だが、あの男がガウリイの足取りを追った可能性はある」 「光の剣に興味がないのに?」 「ガウリイに執着してるからだ。自分の手で殺して剥製にするくらいやりかねないぞ、あの男は」 「剥製って……」 「あの男の部屋は剥製だらけだぞ? 執着した生き物全て剥製にしたようだ。流石に人間はなかったがな」 「何でそんなこと知ってるんだあんた?」 「何、本人に見せられたのさ。本人の口振りからセラとガウリイも見せられたようだが」 そう言ってちらりとガウリイを見るキース。ガウリイは見られていることにも気付かず、何事かを考えているようだった。 「命を狙ってる奴の中で一番性質が悪いのがロキだ。あとは欲深い小物ばっかりだから悪知恵はそれなりにあっても詰めが甘い。決定的とは言えないまでもいくつか証拠は掴んでる。だが、ロキは違う。あの男はまずぼろを出さない。事実、ガウリイに対して怪しい動きを見せるが証拠は掴ませない。はっきり言って他の王族連中はどうでもいい。ガウリイが戻ってきたことに焦って確実に決定的なミスをする。それよりも要注意なのが……」 「ロキってわけね」 「そういうことだ。マークするのはロキだけでいい。ロキの動向に注意を払ってくれ」 キースはそう言うと立ち上がった。 「さあそろそろ王宮に戻るぞ。今夜の夕食会にはロキも出るし、小物たちも出てくる。せいぜい連中を焦らせてやれ。……そうだ、リナ嬢。あんたも気をつけたほうがいい。アメリア嬢と違ってあんた三年もガウリイと旅してたんだ。狙われる可能性がある」 「あんた誰に物言ってんのよ。あたしが暗殺者ごときに負けると思ってるの?」 「まさか。ただ小物連中はともかくロキは狡猾だからな、忠告だ。頭の隅にでも留めておいてくれ」 いやに真剣な声で言われたリナはロキのことを思い返して神妙に頷いた。 |
33250 | エルメキア帝国騒動記 | sarry E-mail | 2007/7/17 03:36:02 |
記事番号33221へのコメント 11、夕食会 王宮での夕食会が始まった。帝位を狙っているという他の王族たちはガウリイの客人であるリナたち――特にゼルガディス――をじろじろと見ていた。揚げ足を取ろうとしているのが見え見えである。ただ一人、ロキを除いて。他の王族たちがガウリイやリナたちに皮肉や当て擦りを言ってやり込められるのを冷笑を浮かべて見ている。帝位を狙う王族の中で、彼だけが異質だ。 「伯父上、一本取られたようですね」 言いくるめられた髭の男――名をサムソンという――にロキは嗤いを含んだ声で言う。 「ガウリイの客人は伯父上たちより頭も口も回るらしい。……しかし、我が従弟ながら実にバラエティーに富んだ交友関係を築いているね。悪名高い女魔道士に合成獣の魔剣士にセイルーンのお姫様。お姫様を除いたらまず僕たち王族が知り合ったりしない人種だ」 そう言って、酷く面白そうにロキは嗤う。だが、アイスグリーンの瞳は冷たく凍えたままだ。 「ああ、合成獣と言えばキース」 「……何でしょう、ロキ様」 「君の父は今は確か合成獣の研究をしていたね? それも分離なんていうマイナーなことを」 「ええ。専門ではないので詳しい事は分かりませんが」 「何でそんなことを研究してるんだろうね? 合成獣の研究なんていうのは合成することを研究するのが主だっていうのに」 「……私は父ではありませんので」 「そうだろうね。なら君は息子としてどう思う? 需要がない分離なんていう研究をしている父親を。彼がその研究の過程で必要になって開発している魔力増幅装置のほうが何倍も需要があるのにそちらには取り立てて興味のない姿を」 「非常に父らしいと思います。手付かずの分野の研究が好きな人ですから、すでに何人もの研究者がいる魔力増幅の分野には興味がないのでしょう。それに、分離についてもまったく需要がないわけでもないようですから」 「優等生の答えだね。だから僕は君が嫌いなんだよ、つまらないから。それに、君僕のこと死ぬほど嫌いだろう? 僕と同席してるときにはおくびにも出さない。可愛くないよね、同じ顔でもガウリイは全身で嫌いだって主張してるのに」 ロキはちらりとガウリイを見る。酷く機嫌の悪い顔をしているのを確認して口の端を吊り上げる。 「隠せるくせに隠さないよね、ガウリイは。その気になれば幾らでも欺けるのにね、君が客人にしたように」 「あたし、欺かれた覚えはないわ」 リナがロキを見据えて言う。紅い瞳はきつい光を帯びてロキを睨み付けている。 「おや、そうかな? 君たちは知らなかったんだろう、ガウリイの身分を。特に君は三年も一緒にいたのに聞かされなかったんだろう? 君はガウリイが王子だと知る前、どれだけガウリイのことを知っていた? 殆ど何も知らなかったんじゃないのかな?」 「自分を狙う存在がいる以上仕方ないわ。確かに殆ど何も知らなかったけど、 話したくない過去は誰にでもあるもの 、気にしてないわ」 「君も優等生の答えだ。でも、納得してないんじゃないかな? 三年も一緒にいたのにって」 「……本心よ。ちゃんと納得してる」 「言い方を変えようか。君の理性は納得している。宿の壁はそう厚いわけじゃないだろうし、どこに刺客がいるか分からない以上打ち明けることは出来なかっただろう。仕方ない、自分だってガウリイに言ってないことの一つや二つあるしお互い様だって。でも、感情は納得していない。どうして教えてくれなかった、三年も一緒に旅してきたのに。そんなに自分は信用できない人間に見えたのかって」 「……」 リナは言い返せなかった。確かに、ロキが言った通りだったからだ。 「……あなた、何が楽しいんですか、人を傷つけるようなことばかり言って! 人を思いやる正義の心がないんですか!!」 アメリアが叫ぶ。ロキの言動に我慢できなくなったらしい。 「正義の心……? ははっ。面白いことを言うね、お姫様は。自分の身内を蹴落としても帝位に付こうとする輩に君の考えてるような正義の心があるとでも?」 「悪だと認めるんですね?」 「僕は僕の正義を貫くだけさ」 「身内を蹴落としても帝位に付くことが正義だと?」 「お姫様には悪に見えるだろうけどね。……視点を変えれば善悪が逆になることは幾らでもあるし、価値観は人によって違うからね」 そう言うとロキは会話を打ち切る。後は食事会が終わるまで誰に話しかけられても一言も話さなかった。 ―――――――――― 12、深夜の訪問者 血塗られたような月が夜空に浮かんでいる。エルメキアは夕食はゆっくり時間を掛けて食べる。食事会となればさらに時間を掛けるため、食事会が終わったときにはすでに深夜になっていた。 自室に戻ったガウリイはベッドに入らずに椅子に腰掛けていた。獣油を灯してないので明かりは月明かりだけ。瞑目し、神経を研ぎ澄ましてガウリイは辺りの気配を探るが気配は一つしかない。それを確かめたガウリイは瞑目したまま、 「いるんだろう? 何の用だ――ゼロス」 「いつから気付いてました?」 「王宮に付く頃」 「凄いですね、ほぼ最初から気付いてたとは」 ガウリイが目を開けると、向かいの椅子にはおかっぱ頭の獣神官、ゼロスが座っていた。何を考えているのか分からない笑みを貼り付けて。 「気付いていたなら何故リナさんたちに言わなかったんです?」 「そのほうがいいと思った。何の用だ?」 「気付いているんじゃないですか、ガウリイさん。僕が如何してここにいるのか。わざわざ気配を探ってから呼んだくらいですから」 「……王宮に、魔族の気配がした。今はお前さん以外いないようだが、あの魔族に何かあるんだろう?」 「ええ。流石ですね、彼は随分上手く気配を消してたようなのに気付くとは」 「関わる機会が多いからな。嫌でも分かる」 ガウリイの言葉にゼロスは苦笑する。確かにガウリイが魔族と関わった回数は尋常ではない。大抵人間が関わる魔族はレッサーデーモンくらい。せいぜいが下級魔族までだ。だのにガウリイはリナと共に赤眼の魔王の欠片を二回倒し、腹心全員と出会い生きている。確かにそれだけ多く関わっていればそれこそ腹心クラスでないと気配を消していても気付くのかもしれない。とても人間業ではないが。 「あの魔族に何がある」 「……ガウリイさん、僕と手を組みませんか? 悪いようにはしませんよ」 「事情も知らないで魔族と手を組める奴はいないと思うぞ」 「それもそうですね。ガウリイさんが存在に気付いた魔族は名をアムリタといいます。彼は冥王様の配下だった中級魔族で、一応今は覇王様の配下なんですけどちょっと暴走してるんですよ」 「そいつを排除しに来たのか」 「まぁ、そんなところです。この前の一件で覇王様は弱体化してしまいましたし、シェーラさんが滅んでしまって手がこっちまで回らないようで押し付けられちゃったんですよ」 中間管理職の辛いところです。冗談めかしてゼロスは言う。 「魔族の名前が不死薬か。誰が付けたのか知らんが悪趣味だな」 「ええ、本当に。で、ですね。アムリタさんはこの国の王室を乗っ取る気なんですよねぇ。……正直困るんですよ。今の状況は魔族には分が悪い。北の魔王様しか復活している魔王様はいませんし、冥王様、魔竜王様は滅びて、覇王様は弱体化。獣王様と海王様しかまともに動ける腹心の方はいないんです。そういう状態で神族に目を付けられる様なことをされると」 「俺に手を組まないかともちかける理由はそれだけか?」 「そう思いますか?」 「思わないから聞いてるんだ。アムリタとかいう奴を排除するくらいならわざわざ俺と手を組む必要はないだろう?」 「それは手を組むと言っていただいたら説明します」 「断ったら?」 「ガウリイさんは断らないでしょう?」 そう言ったきり、二人の間に沈黙が下りる。互いに相手の考えを推し量るように見つめあう。 先に視線を外したのはガウリイだった。ゆっくり目を閉じると一言、 「分かった。手を組もう」 と言った。 ―――――――――― 13、密談 ゼロスは満足げに笑う。 「僕がガウリイさんと手を組もうと考えたのはアムリタさんの最終目的があなただからです」 「俺が? 何故? 魔法が使えるわけじゃないただの剣士の俺を?」 ガウリイの言葉にゼロスは人差し指をピンと立てて 「それは」 「秘密です、か?」 「台詞を取らないでくださいよ。……まぁ、そんなところです」 「俺を囮にする気か?」 「うーん、それがない訳じゃないですけど、どっちかって言うと護衛ってところでしょうかね。ガウリイさんにちょっかい掛けられると困るんです。だからガウリイさんの傍に僕がいるってことでアムリタさんを牽制しておきたいんですよ」 「何故俺にちょっかいを出されると困る? これも秘密か?」 「ええ」 ゼロスの返事に不満そうな顔をするガウリイ。だが、すぐに割り切ったのか表情を変える。 「俺に手を組まないかと言ったのは護衛しやすいようにか」 「でも、それだけじゃ芸がないですよね」 「何をする気だ?」 「ガウリイさん、僕に誘拐されてください」 真剣に、それでいて楽しそうにゼロスは言った。 「……誘拐?」 「正確には狂言誘拐ですけどね。ガウリイさんは僕に誘拐された後、適当にアムリタさんに攫われたような演技でもしてください」 「適当にって、随分いい加減だな」 「こういう計画は柔軟さが大事なんです。で、その演技の様子を記憶球に収めてアムリタさんが送りつけたように偽装してこちらに運びます。当然大騒ぎになりますよね? けど、アムリタさんは何もしてない。そうやって王宮とアムリタさんが混乱している中、僕が何食わぬ顔をしてリナさんたちとコンタクトを取ります。その後はまぁ臨機応変に。僕としては焦りと混乱で勝手に自滅してくれるとありがたいんですけど」 「……分かった」 「じゃあ、早速やりましょうか。部屋中を争ったようにぐちゃぐちゃにして、血痕も必要ですよね。ガウリイさんが無傷で中級魔族に捕まるのは無理がありますし。ああ、怪我はちゃんと治しますから大丈夫ですよ」 ガウリイとゼロスは二人で部屋中を荒らした。椅子や机をひっくり返し、花瓶を割り、ベッドを切り裂く。ある程度荒らしたところで、血痕を残す。斬妖剣では切れすぎるのでごく普通の魔力剣でゼロスが斬り付けることにした。 「そうだ、聞きたいことがあるんです」 「何だ?」 「如何して馬鹿な振りをしてるんです? あそこまで物覚えが悪いわけでも、思考が出来ないわけでもないでしょう?」 「俺は……次男だからな」 「なるほど。では、いきますよ?」 ガウリイの言葉に納得すると、ゼロスは魔力剣を振り下ろした。 ―――――――――― 14、一つ目の記憶球 翌日。荒らされたガウリイの部屋と血痕に王宮中は大騒ぎとなった。血痕の大きさからして命に関わるほど出血したわけではないようだったが、だからと言って生きているかは分からない。すぐにガウリイ捜索のため騎士団が動いた。 そんな最中。一つ目の記憶球が王宮に届いた。見つけたのはケイシー=フェヴァリル。キースの父であり、合成獣の研究者である彼は王宮魔道士でもある。ガウリイの失踪と言う事態に緊急招集された彼は長身なエルメキア人の平均を大きく下回る身長のため、視界に入りにくい為かしょっちゅう人とぶつかる。記憶球を見つけたのは十数回目にぶつかったときだった。 アイザックの執務室の近く。思い切りぶつかって飛ばされたケイシーは花瓶を載せた台に手を付いた。 「あれ?」 指先に何かが当たった。不思議に思ったケイシーはそれを取り上げる。 「記憶球? 何でこんな所に?」 ケイシーには、その記憶球が事件に関係あると感じられた。自分の感を信頼しているケイシーは記憶球を落とさないようしっかりと握ると、アイザックの執務室に急いだ。 ケイシーのその間は正しかった。早速再生した記憶球の映像には鎖で繋がれたガウリイの姿が映っていた。 『魔族が、いる。気をつけてくれ』 ぐったりとした様子のガウリイは気力を振り絞った様子でそれだけを言った。映像が切れるその前に、ガウリイはもう一度、 『ア……リ……』 と言った。声が所々聞こえず何を言っているのか分からない。 「ア……リ……っていうのはガウリイを攫ったやつの名前ね」 映像が切れるとリナはそう言った。 「ああ、一足遅かったみたいですね」 「この声、ゼロス!」 リナの声にあわせるようにゼロスが現れた。事を起こした張本人はけろりとした顔でリナたちの前に姿を現したのだった。 |
33265 | エルメキア帝国騒動記 | sarry E-mail | 2007/7/21 23:33:26 |
記事番号33221へのコメント 15、獣神官ゼロス 突然現れたゼロスに、アイザックたちは動じなかった。 「おや、驚かれないんですね?」 「何、帝位や光の剣を狙ったものが魔族と手を組んだりしたことがないわけではない。まぁ、実際に見るのは初めてだが」 「なるほど。……確かにこういうお家騒動にちょっかい出す方は多いですからね、アムリタさんのように」 相変わらず何を考えているのか分からない笑みを浮かべつつ、ゼロスが言う。 「アムリタ……? それって、さっきの!」 ゼロスの言葉に気付いたリナが声を上げる。その様子にゼロスは満足げな顔をした。もっとも僅かな変化だった為、リナたちは見逃している。 「ええ。ガウリイさんが伝えようとしていた魔族の名前ですよ、リナさん」 「さっき、一足遅かったって言ったわね? どういう意味?」 「そのままの意味ですよ。アムリタさんには困ってるんです、勝手なことばかりされるんで」 ゼロスはそう言うとアムリタについて説明し始めた。昨夜、ガウリイに説明したのとほぼ同じことを。ほぼというのは一つ言っていないことがあるからである。 「……で、何企んでるの?」 「企んでるって……」 「あんたが何の見返りもなく情報をくれるとは思えないわ」 「これは取引ですよ。リナさんたちはガウリイさんを助けたい、僕はアムリタさんを排除したい」 「利害関係が一致してるってわけね」 「そういうことです。手を組みませんか?」 ゼロスの言葉に、一同は顔を見合わせる。やがてアイザックが一つ頷くと、 「分かった。……正直魔族と手を組むというのは妙な感じがするが、これも息子のため。手を組もう」 と、言った。 ―――――――――― 16、魔族アムリタ 不味いことになったと彼――アムリタ――は思った。自分は何もしていないというのに目的の人物が消えた。さらに何が起きたのかを把握しないうちにやってきた獣神官ゼロス。あまりいい状況ではない。ただでさえ、ターゲットの従兄がこちらに気付いている節があるというのに、この上ゼロスまで出てきたとなれば彼の分は限りなく悪い。 本来ならここで引くべきであるがしかし、彼にはそれが出来ない理由があった。――すなわち、契約である。彼は王宮内に入り込むために、帝位と光の剣を狙う王族と契約を交わしていた。内容は帝位と光の剣を手に入れるための邪魔なものの排除。一度した契約を破棄できるのは契約者のみ。彼は自分の都合のいいように契約――たとえば一方的に契約破棄が出来る――をしなかったため、いまさら逃げ出すことも出来なかった。実に詰めの甘い魔族である。 「こうなったら、いったん王宮を離れてあの男を捜すか……。それにしても、一体誰があの男を?」 その行動がゼロスの思う壺だったりするのだが、アムリタは気付かない。気付かないで行動を開始した。 ―――――――――― 17、彼と彼の会話 「だから言ったのに、魔族がいるって。まあ、でも言わなくても気付いていたようだったけどね。だとしたら、わざと捕まったのかな? 見た目ほど間抜けじゃないしね、ガウリイはさ」 ここはロキの私室。部屋中に彼が執着した動物の剥製が飾られている。ロキは自室に呼んだキースに話していた。キースは部屋の端に立っている。 「魔族がいることに気付いていたのですか?」 「気付いてたよ。君は、気付かなかったのかい?」 「妙な気配がするとは思っていましたが……」 「魔族だとは思わなかったわけだ」 ゼロスが現れてから数時間たっている。容疑者であるロキとガウリイ捜索の責任者であるキースも魔族が関わっていることを知らされていた。それを踏まえての会話である。 「ああ、言っておくけど僕じゃあないよ。帝位を手に入れるために僕は誰の手も借りないし、借りる気もない。こういうのは自分の手で手に入れないと意味がないんだよ。それに、魔族に排除させたら剥製に出来なくなってしまうかもしれないしね」 「……ガウリイ様を剥製にする気ですか?」 「したいよ? ここに置くのはどうかな、ホワイトタイガーの横は。……まぁ、今ガウリイのことを剥製にしたら流石に不味いよね。僕が帝位を継いだあと、何かあってガウリイが死んだら剥製にしたいな」 「何故、そこまでガウリイ様に執着を……?」 「さあね、何故だと思う?」 酷く面白そうに、それでいて不機嫌そうにロキは嗤って言う。 「魔族は何を考えてガウリイを攫ったんだろうね? どうせ誰かと契約してるんだろうけど二度手間だよ、その場で殺してしまえばいいのに。それにガウリイは次男だよ? 幾ら周りが好ましく思ってなくてもアーサーが長男で第一帝位継承者だ。やるならアーサーが先だし、いっそのこと全員を殺してしまうほうが手っ取り早い。なのに何故ガウリイを? ……まあ、がんばってガウリイと実行犯を見つけることだね、キース。それが君の仕事だろう? 僕の話はこれでお仕舞いだが、君はまだ話を聞かなきゃならない人たちがいるんじゃないかな?」 「……ええ。では、私はこれで失礼します」 一礼してキースは部屋を出て行く。一人自室に残されたロキは、何を考えているのか窺えない目で部屋中の剥製を眺めていた。 ―――――――――― 18、グングニル男爵領ヘル その頃誘拐されたことになっているガウリイは、エルメキアの西南のはずれ、砂漠に面した土地であるグングニル男爵領ヘルにいた。エルメキアの中で一番小さく不毛な領地である。領民も少なく、同じ西南に位置し、砂漠に面した土地であるアングルボサ子爵領フェンリルに比べると面積に差があるとは言え1/3である。 そんな不毛で貧しい土地に建つ一軒の古びた洋館。そこの一室でガウリイは暇をもてあましていた。すでに洋館の中はすべて見て回った。食料は一週間分はあったので、食事は先程済ませてしまっている。そうすると何もすることがない。ガウリイは読んだりしないだろうがここには本や、チェス盤のような暇を潰せるものもない。この場所に連れて来たゼロスは夜にならなければやってこないという状況では暇をもてあますのも仕方ない。 「あー、暇だ」 誘拐されたことになっている以上、ガウリイはこの洋館から出ることは出来ない。出ようとしても、ゼロスがご丁寧にも魔法を掛けて開かないようにしてしまったので魔法の使えないガウリイは外に出られないのだ。 「今頃大騒ぎだろうな、王宮。……心配してるだろうな」 窓から王宮のほうを眺めて呟くガウリイ。そのまま何か面白いものはないかと窓の外を眺めるが、何の変哲もない砂漠近くの土地でしかなかった。 「もう一回、歩き回るか」 ガウリイは窓から離れるともう一度洋館をを歩き回ることにした。夜はまだまだ遠い。 |
33271 | エルメキア帝国騒動記 | sarry E-mail | 2007/7/23 00:10:12 |
記事番号33221へのコメント 19、考察 リナたちはアイザックの執務室を辞した後、セラの自室に来た。ちなみにゼロスはやることがあると言ってこの場にはいない。彼女の部屋は年頃の娘らしい装飾品や古びたぬいぐるみと、相反するような魔道書が整然と置かれている。 「セラさん、大丈夫?」 「ええ、大丈夫ですわ。帝位を狙っているものが多い以上、こういった事態は想定していましたから。……まさか、魔族がお兄様を攫ってしまうとは思いませんでしたけど」 アメリアの問いにセラが毅然とした態度で答えた。顔色がやや悪いが、それは仕方ないだろう。 「まあ、そうだろうな。……しかし、何故アムリタとかいう魔族は旦那を連れてったんだ?」 「帝位を狙ってる誰かと契約して、邪魔なガウリイさんを排除したんじゃないんですか?」 「なら、まず第一帝位継承者を襲うべきよ。あるいは継承権を持つ人間を皆殺しね。……セラさんを敬遠したのは魔法を使えるから――まあ、理由としては弱いけど――としても、そこで如何してガウリイを襲うの? 第一帝位継承者のアーサーさんは歩けない上に魔法も使えない。魔法は使えなくても剣の腕が超一流のガウリイよりずっとやりやすいはずよ」 「にも拘らず、如何してお兄様を攫ったのか。……何か、お兄様でなければいけない理由があるのかしら?」 セラの言葉に、うーんとリナが唸る。 「やりにくいガウリイをわざわざ攫っていった以上、何か理由があるはずなのよ。ちっとも思いつかないけど」 「ゼロスの奴なら何か知ってるかもしれんが、あいつが素直に教えるとは思えないしな」 「嘘は言わないけど本当のことも言わないもんね、あいつ」 「何か心当たりはありませんか?」 アメリアの問いに、セラはしばし考える。 「……心当たりといえるかどうか分からないんですけれど」 「構わないわ。今は情報が必要なの」 「母方のお祖母様が、けしてお兄様に魔道の知識を与えるなと。他の何を教えても実践させても、魔道やそれに関することを絶対に教えても実践させてもいけないと言っておりました。だからお兄様、魔道に関することはたとえ常識の範疇でも殆ど知らないんですわ」 「だが、よく聞き入れたな。あんたらの母は平民の出だろう?」 「ああ、それはお祖母様がかつて神殿の巫女頭を勤めていたからですわ。あまり神殿は発言力が強くはないんですけど、お祖母様は巫女としてとても有能な方でしたから」 「けど、如何してガウリイさんを魔道から遠ざけようとしたんでしょう?」 「そこまでは分かりませんわ、お祖母様に聞かないければ。けれど、肝心のお祖母様自体がどこにいるか分からないし……」 「え? パットさんの実家にいないの?」 きょとんとしたリナの問いに、セラは困った顔をして 「ええ。お祖父様が亡くなったのを気に気ままな一人旅に出てしまいましたの。時々手紙は来るんですけれど、どこにいるやら……」 「おい、あんたらの祖母じゃもう七十は過ぎてるだろう。大丈夫なのか?」 「それが、不思議と何とかなっているようなんですの」 「じゃあ、おばあさんに聞くのは無理ね」 リナは肩を落として言った。 「何か、手がかりになりそうな気がするんだけどねぇ」 ―――――――――― 20、リアランサー ところ変わって隣国ゼフィーリア。この国の王都ゼフィール・シティの食堂『リアランサー』に、リナたちの話題に出てきた人物がいた。――すなわち、ガウリイたちの祖母である。かつて巫女頭を勤めていただけあり、老女は神聖さを感じさせる品のいい外見をしている。顔立ちも彼女の娘や孫を見れば分かるように非常に整っていた。 そんな老女は現在『リアランサー』にて同店のウェイトレス、ルナ=インバースが挑戦してきた自称勇者をあしらっているのを楽しそうに見学していた。ちなみにそんな老女の周りには綺麗になった皿が何十枚も積み重なって塔になっている。ガウリイの食欲は老女譲りらしい。 「やれやれ、最近の若い人は元気で命知らずねぇ。並じゃなくても人間が勝てる相手じゃないのにね、あのお嬢さんは」 ニコニコと暫く見学していた老女はルナが自称勇者を片付けたのを見計らって、 「ああ、ウェイトレスさん。このデザート十皿追加ね」 老女の言葉に、注文を受けたルナ以外がこけた。 やがて注文したデザートを運んで来たルナを、老女は呼び止めた。 「何でしょう?」 「実はね、私もあなたに用があるんですよ。赤の竜神の騎士さん? 私の孫について」 「あなたのお孫さんについて?」 訝しげなルナに老女はうっすらと笑って、 「ええ、あなたもどこの誰とまでは知らなくとも存在自体は知ってるんじゃないかしら。その身に相反する二つの欠片を宿した者のことは」 「……!」 老女の言葉にルナの目に驚愕がはじけた。その存在のことは知っている。事情により、今までもこれからも手を出すつもりは無かったが。 「何かの拍子にあちらの欠片が目覚めてはと私は孫から魔道を一切遠ざけてたの。その甲斐あって何とか今まで欠片は均衡を保ち、目覚めることは無かったわ。そう、あなたの妹、リナ=インバースと出会うまではね」 事の重大さにルナは言葉を失う。そんなルナの様子に老女は困ったように笑った。 「ああ、そんな顔をしないで。まだ、どちらかの欠片が目覚めたわけじゃないから。あなたもそんな気配は感じてないでしょう? ……あなたの妹は優れた魔道士で、その上トラブルを呼び寄せる。風の噂の全てが真実というわけではないでしょうけれど、それでも彼女の周りにはそれこそ普通は体験しないようなトラブルが起きる。そしてここ数年、彼女と共に旅をしていた孫も当然その渦中にいた」 「そのせいで、均衡が崩れかけていると?」 「直接確認したわけじゃないけど、その可能性は高いわ。そして、ちょっかいを掛ける魔族がいる。……まあ、魔族のほうも下手に手を出してもしもう一つの欠片が目覚めては厄介だということで手を出さないのが主流のようだから、そちらは魔族たちに任せておけばいいわ。けど、問題なのは……」 「神族、ですね」 「そう。どうかあなたの力で押しとどめてはくれないかしら。赤の竜神の騎士のあなたなら神族も耳を傾けるでしょう」 老女の頼みをルナは断らなかった。いや、断るという選択肢は始めからない。万一、あちらの欠片が目覚めたならどうなるかよく分かっているからだ。たとえこちらの欠片が目覚めたとしても、あちらの欠片を内包していることには変わりはない。爆弾を起爆させるつもりはルナには無かった。 ―――――――――― 21、夜の洋館 夜になった。ガウリイが夕食を取っている最中にゼロスはやってきた。 「何か変わったことはありましたか?」 「ない。暇で死にそうだった」 「まあ、そうでしょうね。王宮は大騒ぎでしたよ」 「だろうな」 「……アムリタさんが動き始めました。契約した方共々、この場所を特定できずにかなり焦っているようです」 白々しい会話を切り上げ、ゼロスは言った。 「そうか。それはそうと、契約してるのはロキじゃないだろうな」 ぽつりとガウリイは言う。 「如何してそう思うんです?」 「あいつは自分の手でやり遂げなければ気が済まない性質だ。魔族と契約はしないだろうさ。……誰かを唆すくらいはしそうだけどな、あいつは」 「確かに、直接会ったわけではないですがそういうタイプのようでしたね」 「だから、ロキじゃないだろうと思った。だったら誰が魔族と契約してるかといえば、どいつもこいつも契約してそうな気もする。まあ、お前さんは誰が契約してるのかぐらい分かってるんだろうけどな」 「ええ、まあ。結構ドロドロしてますよ?」 ガウリイの言葉に苦笑してゼロスは言った。 「ドロドロね。そりゃそうだろうな。ついでに食事してきただろう」 「あ、分かります?」 「分かるさ、それくらい」 暫く、沈黙が続いた。部屋にはガウリイが食事をする音だけが響いている。 「目立った動きはないんだな?」 「ええ、当分はこんな感じでしょうね。アムリタさんたちがいつぼろを出すかによって違いますけど」 「それじゃ、早いとこぼろを出して欲しいもんだな。暇で死にそうな上に体も鈍りそうだ」 「まったくです。……そうだガウリイさん、アムリタさんが誰と契約しているか知りたくありませんか?」 「そりゃ知りたいが、教えてくれるのか?」 「ええ。アムリタさんは二人の人間と契約しています。一人はあなたの伯父であるサムソンさん。もう一人は――」 もう一人の名を声を潜めてゼロスは言った。それを聞いた瞬間、ガウリイの顔から血の気が引いた。 「それは、本当なのか?」 「本当ですよ。あの人からも強くアムリタさんの気配がしますから、まず間違いはないでしょう」 ガウリイから立ち上る負の感情を喰らいながら、ゼロスは笑って肯定した。 ―――――――――― 22、王宮の夜 王宮では残った二人の帝位継承権保持者が攫われないようにと騎士団による警備が敷かれた。だが、リナはこの警備は必要ないと思った。 「……確かに、リナ嬢の言う通りだ。恐らく敵の狙いはガウリイだろう」 詰め所にいた警備責任者であるキースはリナの考えを肯定した。 「だが、だからといって何もしないわけにはいかないし、敵の狙いがガウリイだと気付いていることに感付かれたくない。無意味なようだが無意味じゃないのさ。気付いてないと安心すると警戒が薄くなってぼろが出るだろうからな」 「まあ、そうなんだけど。何で魔道士が一人もいないのよ?」 「この国は魔道士の数が少ない。それに、魔道士ならあんたがいるだろう。下手に魔道士を配置してもあんたの足を引っ張るだけだろし、騎士も必要最低限だけしか配置していない。敵わないと思ったら手を出さないであんたに助力を頼むよう通達はしてある」 言外に騎士団の人間は足を引っ張らないというキース。だが、リナはあまり信用できないと思っている。人間、パニックになると冷静に判断できないものだ。 「まあ、いいわ。……それより、何か手掛かりあった?」 「あればこうして不要な警備はしてない」 「それもそうね」 「そっちもか」 「ええ、手詰まりよ。ゼロスも何考えてるかよくわかんないしね」 「ゼロス……? ああ、手を組んだ魔族か」 「そうよ。協力するとかいった割には殆ど情報遣さないのよ、あいつ」 「だが、プレッシャーにはなるんじゃないのか?」 「それだけじゃ割に合わないわよ」 リナの物言いにキースは微笑した。 「何笑ってるのよ」 「いや、あんたがそういう人間でよかったと思ってな」 「どういう意味?」 「そういう物怖じしない人間だからこそ、ガウリイはあんたに気を許したんだろう」 「……でも、ガウリイは何も話してくれなかったわ」 「命の危険があったんだ、仕方ないさ。それに、あいつのことだから話してないことに気付いてなかったのかもな」 「……ありそうで怖いわね、それ」 頭を抱えたリナにキースは柔らかく笑った。 「ま、さっさとあのバカを見つけて文句の一つでも言ってやれ。あいつは肝心なところでぼけることが多いからな」 「そうね、そうするわ」 そう言うとリナは詰め所から出て行った。心なしか表情が晴れやかである。 「まったく。あのバカはどこで何してるんだか。……飯食って平和に寝てるんじゃないだろうな?」 ぼやいたキースの言葉は一部を除いて真実を言い当てているが、それを知らないキースは心底面倒そうにため息をついた。 まだ宵の口。夜が開けて日が昇るまでの、恐らく何も起きないことを見越した警備は始まったばかりである。 |
33284 | エルメキア帝国騒動記 | sarry E-mail | 2007/7/24 23:33:24 |
記事番号33221へのコメント 23、ケイシー=フェヴァリル ケイシーは王宮魔道士である。但し、非常勤だが。彼は自分の研究に忙しく、常勤している暇がないのだ。こういった非常事態を除いて彼は大抵自分の研究所にこもっている。 そんなケイシーは今日も今日とてその低い身長で大勢の人間とぶつかっていた。朝から人数を数えるのが馬鹿らしいくらいの人間とぶつかったケイシーはよろけた所を息子に支えられた。 「父さん、またぶつかったのか?」 「うん。みんな僕のこと視界に入らないんだよね」 「母さんより小さいもんな」 「言わないでよ、それ」 キースの言葉に、ケイシーは頬を膨らませる。背が低いだけでなく童顔の彼は、そんな子供っぽい仕草がよく似合う。 「えっと、そちらの方は?」 キースの隣に立っているゼルガディスのほうを見て、ケイシーは首を傾げる。 「ああ、こいつはゼルガディス=グレイワーズ。ガウリイの友人だ。……そうだ父さん、相談に乗ってやってくれないか? 見て分かると思うが、こいつは父さんの専門だしさ」 「いや、それは不味いんじゃないか?」 状況から遠慮するゼルガディス。しかし、キースもケイシーも気にしなかった。 「いやあ、大丈夫だよ。一応王宮に来てるけど、はっきり言ってやることないんだよね。魔族は専門じゃないし、下手に手出ししたら足引っ張っちゃうし。実は詰め所で論文書く気だったし」 「それでいいのか? 自国の王子が誘拐されたんだぞ?」 「まぁ、そうなんだけどね。でも、彼は大丈夫だと思うよ?」 のんびりとケイシーは言う。どことなくその言葉には説得力があった。 「何もすることがなくて悶々としてるのはよくないよ? それよりは何か別のことをして気を紛らわせたほうがいいしね」 「……確かに、そうかもしれん。よろしく頼む」 「うん、こちらこそ」 ―――――――――― 24、合成獣の分離 ケイシーとゼルガディスは王宮魔道士の詰め所にいた。キースは仕事があるというので別れている。 「合成獣の研究ってさ、みんな合成することしか考えてないんだよね。でも、それっておかしいと僕は思うんだ」 ケイシーは言うと、詰め所の戸棚から箱に入った二色の積み木を取り出した。何故ここにそんなものがあるのかは不明だが、昔から置いてあるらしい。箱から積み木を取り出して、ケイシーは二色の積み木を混ぜて塔を作る。 「合成獣って言うのはようはこういうことだよね。二つ以上の違うものを混ぜて何か別のものを作る。……でもね、みんな作るだけ作って後片付けをしないんだ。作ったら作りっぱなし。それって間違ってると思うんだ、ちゃんと後片付けをしないと。この塔なら、ちゃんと色別に分けて箱に仕舞う。そんな当たり前のことがこの分野ではないがしろにされている」 そう言うとケイシーはゼルガディスを見据えた。 「君の場合は、喩えるなら積み木を接着剤で固定されているみたいだ。普通はね、こういう風に簡単に――とは言ってもなかなか大変なんだけど――取り崩して箱に仕舞うことが出来る」 「だが、俺の場合は難しいと」 「うん。とても強い魔力で合成されているみたい。まず、一筋縄ではいかないだろうね。分離出来たとしても、完全にとは言えない。どこかしらに君と合成させたものが名残として残る。分離させたほうも同様にね。……君を分離することは可能だよ。ただ、それには接着剤になっている魔力より大きな魔力が必要なんだ。まぁ、君みたいな場合でなくても合成獣を分離するには、かなり魔力が必要なんだ。だから僕は今魔力増幅のほうにも手を出している」 「……仮に、俺を合成している魔力より高い魔力があれば分離することは出来るんだな?」 「うん。君の場合は、合成してる魔力が大きいだけで特殊な方法で合成されたわけじゃないからね。僕も分離は三種類までは成功してるから」 「そう、か」 「ごめんね、現時点じゃ何の役にも立たなくて」 「いや、そんなことはない。今まではただ闇雲に方法を探しているだけだったからな。これからは魔力の増幅を重点に置けばいいと分かっただけましだ」 「魔力増幅の手立てが見つかったらいつでも訊ねてきてね。分離してあげるからさ」 ケイシーの言葉に、ゼルガディスは頷いた。 ―――――――――― 25、証言の中身 その頃、キースは忙しかった。ガウリイを誘拐した件ではないが、光の剣を狙い、暗殺者を送り込んでいた件で数人の王族の決定的な証拠を掴んだのだ。本命ではなかったが、憂いは一つでも多く絶っておいたほうがいい。アイザックの耳に入れたキースはその場で王族たちを拘束、尋問するように命じられた。 「で、何であんたがここにいるんだ?」 「いやぁ、ちょっと興味がありまして」 尋問を行う小部屋にて、キースはなぜかいるゼロスに冷たい目を向けた。ちなみにゼロスが魔族だと知っているのはゼロスが姿を現した際にアイザックの執務室にいたメンバーとキースのみである。そのほかの人間には魔族に詳しく、ガウリイと付き合いのある神官と紹介してある。 「これから尋問する奴らに、魔族が絡んでるのか?」 「多分、ないと思いますよ。声くらい掛けられたかもしれませんけど」 「なら、如何して立ち会うんだ?」 「それは秘密です」 いつものようにぴんと人差し指を立てて、ゼロスは言う。 「ですが、あなたたちにとって不利な理由で立ち会うわけではありませんから安心してください」 「……余計な口は出さないでくれ。いいな?」 「ええ、分かってます」 ゼロスの返事に嘆息すると、キースは部下に一人目の王族を呼んでくるよう命じた。 それから数時間後。全員の尋問を終えたキースは、小部屋で調書をじっと睨んでいた。 「全員に声を掛けたのか、あの魔族は……。マメというか、暇だな」 「効率が悪いですねぇ。声の掛け方も下手ですし」 横からゼロスが口を挟む。 「この調子だとガウリイ以外の王族全員に声を掛けたかも知れないな」 「おや、親兄弟にも声を掛けたと考えてるんですか?」 「口では何とでも言える。……俺だって好きで疑ってるわけじゃないが、諜報員なんてやってると、どんなことでも疑って掛からなきゃならない。大体、他の王族だってあいつとは血縁だ」 「それもそうですね。しかし、キースさんも大変ですね」 「あんたに同情してもらってもな」 「これからどうするんです?」 「とりあえず、残りの王族たちに聞いて回るさ。契約した疑いのある奴を絞り込む」 「僕に聞かないんですか?」 「……ある程度絞り込んだ後に意見を求めることはあるかもしれない。あんたたちは嘘は言えないらしいからな」 「賢明ですね」 ゼロスはそう言うと小部屋から出て行った。 「さて。行動開始、だな」 ―――――――――― 26、魔族との会話 夜になった。月は雲に隠された暗い夜。王族たちの自室の一つに魔族がやってきた。 「ガウリイは見つかった?」 「いえ、まだ……」 「何を悠長なことを言ってるんだい? まったく、誰がガウリイを連れ去ったんだか。それすら分からないのかい?」 呆れたように、部屋の主は言う。 「申し訳ありません」 魔族はひたすらに謝り続ける。 「あのゼロスとかいう魔族も色々と動いてるし、こうなったら手段は選んでられないね。いいかい、早くガウリイを見つけるんだ。それと、ガウリイを連れ去った奴も。……但し、僕が君と繋がってることはばれないように。サムソンを捨て駒として利用してくれよ?」 「分かりました」 魔族はそう言って、この部屋を後にした。後には部屋の主が一人残った。 それから暫く。ゼロスは三度ガウリイの元に訪れた。 「焦って動き出しましたよ。ちなみにサムソンさんは捨て駒だそうです」 楽しげにゼロスは告げる。 「……そうか」 対して、ガウリイは沈痛な面持ちで答えた。 「信じたくないですか?」 「当たり前だろう」 「でも、気付いてたんじゃないんですか? あの人が契約してるって」 「……」 黙り込むガウリイ。ゼロスはそんなガウリイを眺めながら、彼の負の感情を喰らっている。 「ああ、ガウリイさん」 不意に、ゼロスは真面目な声で言う。普段貼り付けている笑みも消え、細められている目も見開かれている。 「これから起きることは、あなたにとって耐えられないことになると思います。ですが、自分を強く持って、闇に飲まれないでくださいね? 事情が事情なので」 「……ゼロス?」 「お願いしますよ、ガウリイさん」 それだけ言うと、ゼロスは再びいつもの笑みを浮かべ、去って行った。 「どういう、意味だ?」 一人残されたガウリイは、怪訝そうな顔でゼロスの真意を考えていた。 |
33288 | エルメキア帝国騒動記 | sarry E-mail | 2007/7/29 01:47:16 |
記事番号33221へのコメント 27、捨て駒 サムソンが死んだ。自室で、右手に握った短刀で心臓を一突きして死んでいるのをサムソン付きのメイドが発見した。偶然その場に居合わせたキースは、メイドに口止めするとリナたちを呼びに行かせる。 「自殺、ではなさそうだな」 死体を観察してキースは呟く。短刀を持った右手は順手だった。自分に向けて刺すのなら順手ではなく、逆手のほうが自然。それだけでなく、明らかに短刀が付けたものではない傷が心臓付近にあった。この傷なら恐らく即死だったろう。即死した後短刀で心臓を一突きするなど、たとえ人外であっても無理である。その点を踏まえて、キースは他殺だろうと考えた。 キースは死体の傍から離れ、部屋中を見回す。と、机の上に一通手紙が置いてあるのに気付いた。 「遺書、か。芸の細かいことだ」 吐き捨てるように言うと、キースは偽の遺書に目を通し始めた。 「おいおい、それはないだろ……? 救いがねぇぞ、畜生が」 目を通し終わったキースは、二度三度と見返すと天を仰いだ。 偽の遺書にはサムソンが帝位と光の剣を狙って魔族と契約し、魔族に命じてガウリイを攫い――但し、どこに監禁しているかは書いていない――、獣神官ゼロスが関わってきて急に恐ろしくなり、そして罪の意識に耐えかね自殺すると言う内容が書かれていた。 「本当に、死んでるわね」 「ああ。冗談ならよかったんだが」 キースが嘆息するのと同時、部屋の扉が開き、リナたちがやってきた。キースはやってきたリナたちに事情を説明し、偽の遺書を見せた。 「どうやら、この男は捨て駒にされたようだな」 「そのようだ。……この偽の遺書には二つの嘘と、一つの真実が含まれている。それが何か、分かるか?」 「一つ目の嘘は、自殺するという文章ね。死体の状態から見てこれが嘘なのは明らかよ。……最も、簡単すぎるけどね。二つ目の嘘は、この男がガウリイを攫わせたということよ」 リナの言葉にキースは頷いて、 「罪の意識に耐えかねて死ぬんだぞ? 遺書に監禁場所か、あるいはガウリイの生死を書くはずだ。実際、俺も罪の意識に耐えかねて遺書残して死んだ奴は何人も見てきたが、遺書に詳細な罪の告白を書いている。にも拘らず書いていない。……書きたくても書けなかったんだ。サムソンも、サムソンを捨て駒にした奴も、ガウリイを誘拐していない。していない以上、監禁場所なんか知るはずないんだ」 「じゃあ、一体誰がガウリイさんを攫ったんです?」 「さあな。だが、ゼロスなら知ってるんじゃないか? あいつがここに現れたとき、なんて言ったか覚えてるか?」 ゼルガディスの言葉にアメリアは考え込む。 「ええと、確か一足遅かったと」 「そうだな。その次は?」 「リナさんにどういう意味か聞かれて、言葉通りだと答えてました。それと、ガウリイさんが伝えようとしていた魔族の名前がアムリタだということと、アムリタという魔族に困っていると言うことを言ってましたよね?」 「あいつが言ったのはそれだけだ。あいつは一言もアムリタという魔族が旦那を攫ったとは言っていない」 ゼルガディスの言葉にあっとアメリアは声を上げる。 「何が一足遅かったのかは知らん。だが、一足遅かったと言われた上、旦那が名前を伝えようとした魔族が勝手なことをして困ってると言われた俺たちはその魔族が旦那を攫ったのだと勘違いした。……この場合の勝手なことというのはここの王族と契約したことなんだろうさ。嘘は言っていないが真実も言っていない」 ゼルガディスは苦々しげに説明を終える。 「いやぁ、ばれちゃいましたね」 相変わらず胡散臭い笑顔を貼り付けて、ゼロスはその場に姿を現した。 ―――――――――― 28、ゼロスの種明かし 「ええ、ガウリイさんを誘拐したのはアムリタさんでも、捨て駒にされた彼でもありません。というより、厳密な意味での犯人なんていないんです、これは僕とガウリイさんの仕組んだ狂言誘拐ですから。……痛っ。何するんですか、リナさん。今、そのスリッパに魔力篭めて叩きましたよね? ……説明しろって、これからしますよ。アメリアさんもメガホンしまってください。生の賛歌なんて聞かされたら説明出来なくなりますよ? ……食事会の後に、僕はガウリイさんに呼ばれまして、この王宮に魔族の気配がすると言われました。気付いているならこれ幸いと事情を説明して協力を願ったんです。……え、何時からいたか? 皆さんが王宮に付く頃からです。ガウリイさんにはほぼ最初から気付かれてしまいましたけど。本当に、あの人の感は侮れないですよ。……で、ですね、僕としてはガウリイさんにちょっかい掛けられると困るんで護衛というか、ガウリイさんの近くに僕がいることをアピールしてアムリタさんを牽制するつもりだったんですけど、それじゃあ四六時中張り付いてないといけないじゃないですか。で、狂言誘拐というのを提案しました。自分は何もしていないのにガウリイさんが誘拐されたら、焦って自滅してくれるかなぁと思いまして。……手抜きって。まあ、そうですけど。でもこれ本当は僕の仕事じゃないんですよ? アムリタさんは元冥王様配下で、現覇王様配下ですから。あっちは今そこまで手が回らないからって尻拭いを押し付けられたんです。そんな仕事にやる気が出るわけないじゃないですか。……本来の仕事だってお役所仕事じゃないか? それは否定しませんけど。まあ、それはともかく、完全に自滅したわけじゃないですけど、尻尾を出してくれましたから良しとしましょう。……ガウリイさんのところに連れて行け? そりゃ、構いませんけど。なら善は急げってことで、早速行きますか? ……そうそう、一足遅かったというのは記憶球のことですよ。あれが見つかる前に現れる予定だったものですから」 ―――――――――― 29、再会 ぼんやりとしていたガウリイの頭に、スリッパと回し蹴りがお見舞いされた。 「痛てぇ。……あれ、リナとキース? ゼルとアメリア、ゼロスも。どうしたんだ?」 「どうしたんだ? じゃないでしょうが!」 「どうしたんだ? じゃねぇ!」 あまりにも暢気なガウリイに、リナとキースが異口同音に叫ぶ。 「ああ、実はサムソンさんが捨て駒として殺されまして」 「……そうか」 にこやかに告げるゼロスに、ガウリイは顔を顰めて答えた。 「で、お前さんたちがここに来たってことは何か考えがあるんだろう?」 一度頭を振ったガウリイは、気を取り直してリナに聞く。 「当然でしょ? あたしを誰だと思ってるのよ?」 不敵にリナは笑って答える。 「自称天才美少女魔道士」 「自称は余計よ!」 そう言ってリナはガウリイの頭をスリッパで叩く。大袈裟に痛がるガウリイを尻目に、リナは自分の作戦を説明し始めた。 ―――――――――― 30、ガウリイの帰還 ガウリイがヘルにある洋館から王宮へと自力で帰還したのはその日の日没だった。ガウリイは体調が優れないと言ってすぐに自室に引っ込むが、誰もそのことを怪しまなかった。 「ガウリイが無事戻ってよかったよ」 アーサーは笑みを浮かべて目の前のリナに言う。 「ええ、本当に」 「けど、今日は良いことと悪いことがおきるね」 「悪いこと?」 「伯父上のことさ」 「……ああ」 「幾らガウリイが戻ってきても、素直に喜べないよ」 「確かに、そうですね」 「……そういえば、他の人たちは?」 「アメリアはセラさん、ゼルはケイシーさんのところに。キースはまだ仕事があるそうです」 「そうか。……それにしても、キースも大変だね。ガウリイのことと伯父上のことで今頃てんてこ舞いなんじゃないかな?」 「ええ、そうみたい」 「……そういえば、ガウリイのそばについてなくていいのかい?」 「本人が一人にしてくれって言うんで。きっと疲れてるんだと思う」 リナのその言葉に、アーサーが反応する。 「そうなのかい?」 「そうなんです」 「そうか」 アーサーは一人頷く。そしてふと辺りを見回すと、 「ああ、リナさん。済まないが用事を思い出してね。これで失礼するよ」 そう言って、リナの前から立ち去る。後にはリナ一人が残る。暫くアーサーの消えた先を見つめていたリナは、やがて踵を返して立ち去った。 |
33324 | Re:エルメキア帝国騒動記 | ガード・ワード | 2007/8/19 00:53:31 |
記事番号33288へのコメント お久しぶりです。 話が大きくなりましたね。初から大きい気がしますけど。 ガウリイにスィーフィードとシャブラニグドゥがいるんですか。 身体的に参りそうですね。それとも、相殺されてなくなるのでしょうか。 主犯が誰かも気になりますが、お祖母さんとルナの行動も気になります。 ルナが来てリナやゼロスの反応が楽しみです。 次の回も楽しみに待っています。 |