◆−Traveler―第15話―−白昼幻夢 (2007/7/30 16:01:48) No.33292


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33292Traveler―第15話―白昼幻夢 2007/7/30 16:01:48


Traveler―第15話―

「ほら、アナシャが変な薬作ってる間にレストレィ達魔物倒しちゃったよ」
「あ、残念ね。・・・?なんで皆暗くなってんのかな?」

デスと名乗る騎士から、人間界の滅亡が近いこと、この世界の少女が一人人間に連れ去られたこと、さらにはその少女とサディアのつながりのことを知った一行は愕然としていた。人間界にも、この世界にも大変なことが、すでに起きているのだ。だがそれは、とても漠然とした問題であり、彼ら達にはあまりにも大きすぎて手に負えないくらい混沌とした出来事であった。
「サディアちゃんの・・・あの召喚術、アリューさんも同じくらいの力を持っていたって・・・大婆様は言ってたよ。どの精霊使いも使いこなすことの出来ない秘儀の召喚術も、彼女は覚えたんだって・・・だから、四人の騎士の亡骸も、彼女は守ることが出来たんだよ・・・その時彼女は一度人間界に出ていた。二度目に出たのは、四つ森巡りをして遊んでいたとき。精霊と友達のような彼女は、簡単に人間界へ出られる・・・だけど、それ以来彼女は帰ってこない・・・そして今、彼女に瓜二つのあなたがいる・・・」
フォートは再びサディアを見上げた。
黒髪の少女は何も言わず、ただ一点を見つめるばかりである。その目は何を見つめているのか、彼女自身すらわからなかった。それも当然である。今まで何も知らなかったことが、まるで溢れんばかりの湯水のごとく目まぐるしく記憶の中に刻まれていく。新しく記憶がつくられるごとに彼女の頭の中では、何かが捨てられていた。それが何なのかさえも、少女にはわからなかった。ただ、彼女の心には自分を知りたいという思いと、これ以上何も知りたくないという思いの二つがせめぎ合っていた。

「・・・サディアさんは『自分』を知るために、ここまで来たのですよね?」
今のサディアの心境にとっては、ギーアの質問は不意なものだった。少女は一瞬ためらった様子だった。
「・・・ええ。この力が、何故自分にあるのか知りたかったから・・・その答えが、この世界にあると思ったから・・・だけど、知らないまま、あの村で過ごしていたほうが、よかったのかもしれない・・・で、でも、もうここまできたのに・・・ごめんなさい・・・」
サディアは下を向くと、皆から一人離れて遠くの木陰に座った。

(せっかく、来たのにねぇ・・・それがこんな結果なんて・・・)
(かわいそう・・・)
(もっと何か、続きは無いのか?何かもっと・・・いい話ってのは・・・?)
(続き・・・といえばあるのですが、これはもっと彼女を苦しめる結果になると思いますので・・・)
(そうかも・・・しれんな。だが、あれを破壊できるのはもはや彼女しかおるまい・・・)

少女は暗い木陰に座ると、うずくまって少し泣いた。泣けば泣くほど、自分が今までどんなに苦しかったかわかるのだ。その感情は次々とあふれ出てきていた。やがてそれは、彼女の思いとなり、少女は今まで思いもしなかったその言葉を口にした。
「・・・帰りたい。もう・・・もういやだ・・・帰りたいよ・・・」

暗い木陰で泣いている少女のそばに、一人の少女が歩み寄ってきた。その少女は、静かに、そっと近づくと、うずくまっている彼女の近くに腰を下ろした。
「ごめんね・・・あたしが連れて来さえしなければ・・・」
フォートが言った。その声は重く沈んでいる。いつもの、明るい青い少女の調子ではなかった。
その言葉に、黒髪が顔にまで被さって泣いていた少女は首をふった。
「・・・そんなこと・・・ない。あの村にいたら、私は普通の人間として一生を終えていたかもしれない。でも、ここに来たから・・・あの力の正体が・・・わかったの。きっと・・・あの人が私の・・・」
「おそらく、その通りでしょう」
その声に少女二人は顔をあげた。見上げると、あの優しげな眼差しの青年がすぐそばまで来ていた。
「あなたの考えている通り、間違いは無いでしょう・・・。ですが、あなたの旅の答えではありません。『自分』を知りたいと思う強い意志・・・過去にも、あなたと同じような者達が、自分を知るためにこの世界へやって来た・・・しかし、それらは全て不幸な結果に終わっています」
ギーアは黒髪の少女の肩に手を置いた。
「・・・強い意志を持った眼・・・それが、あなたでした。この者なら、『自分』を見つけ出せるのではないかと・・・。事実、あなたは誰からも疎まれてはいません。私がいなくても、あなたの周りにはあんなにたくさんの仲間がいます。ね、そうでしょう?」
サディアはうなずいた。
「・・・青き森のアリューの周りにも、精霊という仲間がたくさんいた・・・その子であるサディアさんも、また同じように仲間がいて、母と同じ力を持つ・・・その力の正体が判明しました」
少女二人は顔を上げて彼を見た。
「・・・今のあなたの心境からすると、言うべきものではないかもしれません・・・。グリンフィルトへ帰りますか?」
「・・・いいえ、私は帰りません。答えがまだ出ていないのですから・・・」
黒髪の少女はすっと立ち上がって言った。
「貴女は本当に強い・・・。今宵、この森で妖魔達の宴会が行われるのですが、私達は客人として招かれています。その際に灰色の賢者から、私を含めて貴女に話があると承っております」
「何の話・・・でしょうか?」
「おそらく、「力」・・・についてでしょう。それと、もう一つ。これはノイスさんも含めてなのですが、古代兵器についても語られるそうです」
「あたしも行っていいかなぁ・・・?」
青い髪の少女が口をきいた。
「・・・アリュー、ということに関すると、青き森も関係しますからね・・・まぁ、いいでしょう。他の皆さんには精々宴会で騒いでもらいましょーか・・・」
「・・・あの狼の兄ちゃん、夜強そーだね…からまれないようにしなきゃ・・・」

そして、夜。妖魔の森の広場には、たくさんの妖精と妖魔達の影が集まっていた。
「宴なんて久しいわね。ちょっと前まで四つの森の騒動があったから・・・」
「それは過去のことだろ?今は今を楽しめよ」
「うおーっ!血が叫ぶぜーっ!」
「・・・叫びすぎ」

横目で見ながらギーアは話を続けた。
「あなたの力は、失われた血の妖精族、つまり“ロストエルフ”が使用していたものに似ているのです。」
「ロストエルフ・・・?」
「はい。古代の妖精族です。大昔に滅んでしまったと言われているので“ロストエルフ”(失われた妖精)と呼ばれております。しかし、その妖精の血を引くものはたった一人、生存していたのです。それが・・・」
「・・・それがアリューさん?」
「そうです。青き森のアリューは、ロストエルフの末裔なのです。血は薄まっているものの、彼女は“精霊石”を使用し、精獣を召喚することが出来たそうですから・・・」
「精霊石?」
「あなたが持っている石のことですよ、サディアさん。その中に精霊の力が封じられているのです。自分が使用できる精霊が一目でわかるようなものですが・・・」
「この透明な石に閉じ込められた、色のついた石が・・・?」

「フォート〜。一緒に飲もうぜ。サディアも来いよ」
少し声が高くなった、人狼が二人の少女を呼んだ。サディアは首を横にふった。
「未成年だから、私は飲めないよ」
「あ?妖精と人間の年は違うのか。フォートはもう飲めるだろ?」
青い少女は首をかしげた。
「そりゃ、飲めないことはないけど・・・」
人狼の影が近づいてきた。
「じゃ、来いよ。ほら来いってば」

ルガネフに引っ張られていく青い少女を、ギーアとサデイアはその姿を見届けた。
「・・・予想通り、狼に連れて行かれましたね。話を戻しますが。ロストエルフはその透明な石、つまり水晶石を“力の源”とし、精霊との会話を試み、その石に彼らの力の一部を封じることで、いつでも力を借りられるようにしたのです。精霊石は彼らとの契約の証ですね」
「私は精霊たちに話しかけてはいませんけど・・・?」
「おそらく、精霊の方からあなたに話しかけたのでは?この妖精界には、ある特性の精霊の強い場所が何ヶ所かあります。あなたは知らないうちにその場所をめぐり、精霊の力を借りられるようになったのでしょう。ちなみのこの「妖魔の森」は闇の精霊が強く働く場所です。周りにかなりいるようですね」
「そうですね、さっきから私も感じていました。・・・あ。ここに紫色の模様があります。これは「闇の精霊」の契約の証かしら?」
「そうでしょう。見たところによると、炎・水・風・地・光・闇の6つの精霊と契約を交わしたようですね」

「・・・すべての精霊と契約を交わしたか。さすがは、失われた血の末裔・・・いや、サディアの努力だろう」
今まで沈黙を守っていた灰色の老人が口を開いた。
「四大精霊、サラマンダー、ウィンデーネ、シルフ、ノーム・・・。対極にあるウィル・オー・ウィスプとシェード・・・。おぬしはそれらのさらに上を行く精獣と契約を結んだ・・・つまり、「紅き鬣の獅子」、「蒼き淵の人魚」、「碧の尾の鳥」、「荒ぶる橙の巨神」、「輝く瞳の獅子」、「闇に巣食う花」達と契約を交わしたのじゃな。その証拠に、お前さんの精霊石には、紅のルビー、蒼のアクアマリン、紺碧のサファイア、橙のトパーズ、緑のエメラルド、紫のアメジストが宿っておる。・・・まだアメジストは結晶化していないな。六つの力全てがそろった時、それらはつながって六つ星を描き、お前の真の力が発揮される」
灰色の老人はそこまで言い切ると、黒髪の少女をじっと見つめた。その眼はひどく透き通っていた。サディアは、どこかで見たことのある眼だなと思った。
「・・・真の力、ですか?」
「そうじゃ。古代の妖精の民が使っていた力が、お前の中に眠っている。その力が覚醒したとき、失われた血の妖精族の故郷にたどり着く。その力が解放されるとき、あの光は永遠の眠りにつく・・・。そろそろ古代兵器の話をしようかの」
「では、ノイスさんを呼んできますね」

サディアが宴会の側に近づくと、フォートが駆けてきてサディアにしがみついた。
「えーん、狼のお兄ちゃん酔ってるよう。絡んでくるよぅ」
「ふぉ〜と。おれのふぉ〜と」
「ちょっと、飲みすぎじゃないの!控えてってあれほどいったでしょ!?」
「う〜ん、なんかちっちゃい声が聞こえるけど、姿が見えないぞぉ」
「小さくて悪かったわね!」
「マオイ、放っておけ。酒が入ると狼は変わってしまうんだ。特に今日は満月だからな」
「あーあ、もう・・・兄貴といいルガネフといい、そろいもそろって女誑しなんだから・・・」
「何だって?オレのどこがそう見えるんだ!」
「兄貴はこの前サディアを口説こうとしていたし、ルガネフはフォートに絡んでるし・・・そろいもそろっておバカさん」
「おいあんな酔ってるヤツと一緒にするなよ!」
「レストレィは平常な時女の子を口説いたのかにゃ?」
「それも、戦っている最中にな」
「おいシーガ!余計なこと言うな!」
「まあ、お2人とも血気盛んなようでいいじゃない。お姉さまが惚れ薬作ってあげようか?」
「いらん。この前お前の薬飲んだ奴が三日間寝込んだって話聞いた」
「そ、それはたまたま失敗しただけよ。でもこれは効くわよ。じゃーん、アナシャ特性の酔い覚まし!」
「何でもいいから、この狼のお兄ちゃん何とかしてよ〜」

「・・・あ、あの、ノイスさん」
「何だい?」
「灰色のおじいさまが呼んでいるの。古代兵器についてお話があるって・・・」
「そうか。ちょうどいい時に呼んでくれたね」
二人は灰色の老人のもとへ向かった。

「・・・ノイスか。まあそこに座りなさい。これから話すことは誰にも話してはならないし、一度しか言わぬ。とても大きな、そしてとても悲しい話なのだ。心して聞くがよい」
「はい・・・」
老人は透き通った眼をノイスに向けた。
「・・・・・古代の人間は、高度な文明を築いていた。現在では考えられないほどの文明をな。だが、力は大きくなりすぎた。彼らは文明の力を戦争に向けたのじゃ。力には力、その愚かな考えがさらに悲劇を呼び、人間達は滅びる寸前であった。その時、一部の人間達は神に救いを求めた。願いは聞き入られ、神は天空の民を戦士としてつかわした。また、人間の世界に住んでいた、ごく少数の妖精の民や魔界の民の者が、戦争意欲を失わせるために暗躍したとの噂もある。争いは一応終わりを迎えたが、戦争の惨劇と思われるものが残ってしまったのじゃ。それがニュークルなのだ。争いから生まれ争いを生み出す、何の価値もない遺物じゃ。もはや力を失った人間にはそれを破壊することは出来ず、天空の民も、戦争が終わると同時に自分達の住処へと帰っていた。残された力は、古代妖精族の民。彼らは自分達の森の奥深くに石の塔を建て、そこにニュークルを封印した。封印の鍵となる「ニュークルの剣」と「ニュークルの環」は彼らが作ったものじゃ。・・・ヒカリの思い出の品々じゃな・・・・・」
「・・・「ヒカリ」とは?」
「ニュークルは、ある人間が基となり作られたものなのじゃ。それゆえその古代兵器には、人間の思考が働いているのだ」
「つまり・・・「ヒカリ」という人間を材料として古代兵器を作り上げたと・・・?」
「そうじゃ。・・・わしの孫だったよ・・・・・。死んだ後、亡骸は愚かな科学者達の手によって見るも無残なものに変えられてしまった・・・」
「・・・・・」
「わしはヒカリを救えなかった。だから今、あの科学者達の汚れた手から解放してやらねばなるまい・・・ヒカリを利用するものすべてに死を、滅びを、滅亡をわしは与える。ヒカリを眠らせてやらねばなるまい・・・」
「・・・ガトルティーゼさん。あなたは古代妖精族から、永遠の命を貰い受けたのですね?」
「少し違うな。わしは「ニュークル」の番人としての命をもらった。ラルカリアの奥深くで眠っていたが、失われた血の波動を感じ、眼を覚ました。目の前には一人の少年が立っていた。彼が言うには、地下に眠る四人の騎士の番人をやってくれないか、とのこと。わしは「環」を守るにはちょうどいい場所と思い、そこで待つことにした。いつか古代兵器を破壊しにくる者が現れる日まで・・・。そうそう、わしは「期限付き」の命をもらったのじゃ。番人の役目が終われば、わしの命とて終わりを迎える。わかったかな?黒き翼の主よ」
「大体は理解しました。さて、これから進むべき道は・・・」
ギーアが言いかけた。だがその時フォートが叫んだ。
「…長老様からの伝風だよ!「…終焉の四人の騎手の一人と思われる不審者、ヒーザーの広場に出現。なお、広場は荒野と化している。同じく、機械兵と思われるもの、教国の人間と思われるもの多数いる気配あり。すぐに向かわれたし…」だって!」
「それなら先にヒーザーに向かわねばなりませんね。みなさん、」
ギーアは背後で騒いでいる妖精達に向かって叫んだ。
「今日はなにぶんかなり体力を消費しましたから、明日に備えてゆっくり休んでくださーい!」
「へ?あした?あしたはむりだろ。このちょうしじゃみんなふつかよいだぜ〜」
「・・・あなたが一番酔っているではありませんか。それでも近衛部隊隊長ですか」
「うるせぇ・・・はやくおれのふぉーとかえせ」
「あなたが連れてきた部隊から、一人減っていませんか?」
「せてぃえはいるぞ・・・べうるも、さっきまでいたぞ・・・」
「?「さっきまで」ということは、今はいないのですか?」
「いねぇよ。あいつはひとりがすきなんだろ。うたげもいやそうだったし」
「・・・アナシャさんとミアさんもいなくなってますね」
「そいつらはおれのぶたいじゃねぇよ」
「とにかく、あなたはさっさと寝たほうがよいですよ!」
ギーアがさっとその人狼に手を向けると、人狼はその場に倒れ眠り始めた。
「夢見の魔法をかけました。私を夢を喰らう者だとお忘れだったのでしょうか?さて、あの三人を探しに行きますか」

★WAIT SEQUEL★