◆−久しぶりの投稿です−とーる (2007/11/17 19:33:27) No.33445 ┣紫煙の幻想 29−とーる (2007/11/17 19:59:20) No.33446 ┣おめでとうございます。−星野流 (2007/11/18 00:16:17) No.33448 ┃┗Re:ありがとうございます−とーる (2007/11/19 19:46:32) No.33449 ┣紫煙の幻想 30−とーる (2007/11/19 20:17:58) No.33450 ┃┗合格おめでとうございますv−かお (2007/11/19 22:19:50) No.33452 ┃ ┗Re:ありがとうございます。−とーる (2007/11/22 19:54:31) No.33453 ┣紫煙の幻想 31−とーる (2007/11/22 21:19:50) No.33454 ┣紫煙の幻想 32−とーる (2007/11/24 01:28:41) No.33457 ┣紫煙の幻想 33−とーる (2007/11/26 20:38:34) No.33458 ┣紫煙の幻想 34−とーる (2007/11/29 19:12:30) No.33461 ┃┗おつかれさまですv−かお (2007/11/29 21:32:30) No.33462 ┃ ┗Re:いえいえ……−とーる (2007/12/2 20:41:26) No.33464 ┣紫煙の幻想 35−とーる (2007/12/2 21:04:46) No.33465 ┣おめでとうございます♪−無記名て事で☆ (2007/12/4 11:03:46) No.33466 ┃┗Re:ありがとうございます−とーる (2007/12/8 14:18:09) No.33467 ┣紫煙の幻想 36−とーる (2007/12/8 14:43:44) No.33468 ┗あとがき−とーる (2007/12/8 15:05:49) No.33469 ┗Re:あとがき−星野流 (2007/12/16 13:32:32) No.33471 ┗Re:ありがとうございました−とーる (2007/12/17 21:46:49) No.33474
33445 | 久しぶりの投稿です | とーる | 2007/11/17 19:33:27 |
多分、もう忘れられているかと思います……。 どうもお久しぶりですこんばんは、とーると申す者です。 こちらへ『紫煙の幻想』という小説を連載していました。 最後の更新から今までに更新が出来ないと分かっていれば しばらく休載すると宣言していたものを……。 私の明らかな注意不足でした。 『紫煙』を読んでいてくれた方に申し訳ない事をしました。 更新出来なかった1番の理由は世間一般で言ういわゆる、 私が高校3年生であるゆえの『受験』シーズンだったからです。 私が目指していたのは4大ではなく専門だったのですが 両親や教師との話し合い、テストなどが重なり大分苦戦しました。 やっとの事で受験も終わり、進路も無事第一志望に決まって こうして戻ってくる事が出来ました。 これからまた『紫煙』を更新していきます。 時期ゆえにまだまだ遅いスピードであるかとは思いますが その点を了承していただければ幸いです。 とても未熟ではありますがよろしくお願いいたします。 とーる 〜紫煙の幻想・28話までのあらすじ〜 獣神官ゼロスはある日リナとガウリイに疑問をぶつけられた。 『何故その姿をとるようになったのか』と。 ゼロスは話す必要はないと思いつつ過去を振り返った。 獣王に造られた直後、とある使命を受けたゼロス。 遂行するために金髪金眼の子供の姿になり、人間界へ降り立つ。 そこにデーモンが襲いきて排除しようとすると1人の青年が現れて デーモンを倒す。ルヴィリオと名乗った彼はゼロスが 記憶喪失だと勘違いし、村へ連れて帰り弟のように可愛がる。 彼の不思議な雰囲気と呪文を唱えずに発動する魔法にゼロスは戸惑う。 だが、彼がいない間に村を冥神官と冥将軍が襲ってくる。 2人の狙いはルヴィリオ。 一度は撤退したが、すぐに舞い戻る2人にルヴィリオは応戦する。 だが冥将軍を倒した事に冥神官は逆上し、ゼロスに攻撃を仕掛けた。 それを避けるため己の体を盾にしてルヴィリオは倒れる。 瞬間、膨大な魔力の渦が弾け飛びゼロスを巻き込んだ。 そこにいたのは5人の人間。 『賢者』と称される魔道士レイ、女魔道士のリオナ、剣士のガウリス、 魔道士のルヴィリオ。そして金髪金眼の子供ルイ。 5人は世界の混乱を止めるべく連合軍集うカタートへ向かっていた。 道中、ルイは義兄であるレイの中にある不安を感じ取る。 魔法を使うたびに深くなっていく“何か”が兄を侵食していると。 体調も優れず、倒れたルイを見たレイは単身カタートへ向かおうとする。 それに気づいたルイに言われて3人はレイを追い―――。 |
33446 | 紫煙の幻想 29 | とーる | 2007/11/17 19:59:20 |
記事番号33445へのコメント ―覚醒― 「レイ!何か答えなさいよ!!」 黙り込んでしまったレイに叫ぶリオナ。 しかしそれを抑えていたガウリスが、 等のレイが3人の方を見ていない事に気づく。 何を、と思い、さっと彼の視線を追うと 汗をびっしょりかいて木の幹にすがりつくルイの姿。 無茶をしてもここまで歩いてきたのだろう。 ルヴィリオもルイに気づいて眉を寄せる。 「……私は、この混乱を早く終わらせるためにも、 すぐにカタートに行かなければ―――」 ドォォオオン!! レイが静かに言いかけた時、すぐ近くで爆音が上がる。 はっと振り返ればブラス・デーモンの群れが ギラギラとこちらに目を光らせて低く唸っている。 ちっとガウリスが舌打ちした。 「ったく!こんな時に!!」 「邪魔なのよ、あんたら雑魚!!ガーヴ・フレアッ!!」 リオナが苛立ちをぶつけるように叫ぶ。 すぐさま呪文を詠唱して魔法を発動させる。 チュドォォン!! 群れの中に打ち込まれる光線。 しかし力を付けているのか一撃では 倒されずに咆哮を上げる。 眉間にしわを寄せたレイがスッと手をかざす。 びくり、とルイは震えた。 目を見開いて兄の姿を瞳に映す。 「―――邪魔をしないで下さい」 カタートに行かなければ。 この戦争を終わらせるため。 人々の幸せな世を壊されぬため。 仲間を守るために。 私は何としてもカタートに。 そのためならば……! 「黄昏よりも昏き―――」 ドクンッ。 「っ!?」 脈打つ鼓動に息をつめる。 思わず呪文詠唱を断ち切って胸に手を当てた。 高鳴る燃えるような鼓動が止まない。 強く強く脈を打つ。 ここにいるのが自分ではないような感覚が起きる。 くらりと眩暈さえ起こった。 咆哮を上げて迫りくるブラス・デーモンに レイはギリッと奥歯をかみ締めた。 「黄昏よりも昏き者、血の流れより紅き者…時の流れに」 ドクンッ。 「っ…埋もれし、偉大なる汝の名において」 ドクンッ。 「…我…ここに闇に、誓わん……我らが」 ドクンッ。 「前に…立ち、塞がりし全ての」 ドクンッ。 身が引き裂かれるような痛みが襲いきて、 ルイは胸を押さえてしゃがみこむ。 痛い、痛い、痛い。 「あ……あぁっ…あ…ぅ、っ!」 レイが詠唱を唱えるごとにくろいものが大きくなる。 くろくてあかいやみが、大きくなる。 耐えきれない激痛にルイはかすむ視界でレイを見た。 侵食していく。 どんどん深い奈落の底へと。 「愚かなる者に…我と汝が力もて」 ドクンッ。 「等しく滅びを与えんこと―――」 ドクンッ!!! 「……駄目ぇぇえええええっ!!!!!!!!!!!」 『愚かなる者全てに、我、滅びを与えよう』 レイの口から漏れる言葉。 その“声”にブラス・デーモンの群れがザッと後退する。 風はないはずなのにレイの髪がザワリとなびく。 立ち尽くすレイを、リオナとガウリス、 ルヴィリオは半ば呆然と見やった。 静かに伸ばされる手が虚空から現れた杖をつかむ。 長い骨のような棍の先に、深紅の宝玉がついた錫杖。 ゆっくりと開かれたレイの瞳がより紅みを増した。 それはまるで血の色。 『―――ふ……久方ぶりの世か』 レイは小さく口元を緩ませて、己の持つ錫杖を眺めた。 そして空を仰ぐ。 『心地よい負の感情が満ちているな』 ルイはか細い呼吸で地に倒れこんだ。 そのせいか押さえ込んでいた嗚咽が酷くなる。 ぼろぼろと涙が溢れ出た。 兄はもう、いなくなってしまった。 どこにもいなくなった。 「ま、まさか……?」 「お前は……」 『光栄に思うがいい、人間よ。 我が意識の覚醒に居合わせた事を』 バサリ、と深紅のマントを振るう。 『我が7分の1の意識――― 赤眼の魔王シャブラニクドゥの覚醒の場に居合わせた事を』 レイ=シャブラニクドゥは凄絶なる微笑を浮かべた。 NEXT. |
33448 | おめでとうございます。 | 星野流 E-mail | 2007/11/18 00:16:17 |
記事番号33445へのコメント 初めまして。星野流と申します。 第一志望の専門学校に合格とのことで、おめでとうございます。 紫煙の幻想はまだ読んだ事がまだなかったので0から読ませて頂きました。 ゼロスは元々ゼラスと同じような容姿になっていたのですね。 それが、ルヴィリオさんと同じ容姿になるようになったと。 質問させていただいてもよろしいでしょうか? ゼロスとルヴィリオさんが出会ったのは降魔戦争の真っ最中で合っていますか? それとも、戦争前でしょうか。 どうかお教え下さい。お願いします。 これからも末永くお付き合い下さい。 |
33449 | Re:ありがとうございます | とーる | 2007/11/19 19:46:32 |
記事番号33448へのコメント こちらこそ初めまして。星野さん。 作者のとーると申します。 最初から読んでいただけたのですか? 本当にありがとうございます。 はい、そうですね。 ゼラスとの容姿は違いますが初期ゼロスは それを真似しての金髪金眼です。 2人が出会ったのは、降魔戦争真っ最中です。 本来ゼロスはそれ以前に造られていたのでしょうが 今回の小説ではゼロスの容姿とその部分だけは 変えさせていただきました。 セルネル、ラルトフも完全にオリジナルですしね。 ありがとうございます。 こちらこそ宜しくお願いいたします。 とーる |
33450 | 紫煙の幻想 30 | とーる | 2007/11/19 20:17:58 |
記事番号33445へのコメント ―その子供― 「そんな―――レイ……」 「ま、おう?レイが……魔王だとっ!?」 リオナとガウリスが息を呑む。 ぎゅっと杖をにぎるルヴィリオは 目の前に悠然と立っている影を見据えた。 かつてスィーフィードに、その身を 分断されし魔王―――シャブラニクドゥ。 “伝説”と言えた頃はまだ良かったのかもしれない。 目の前で、仲間が魔王だと知らされるよりは。 『―――ほう?』 何かに気づいたように一同から目を離す。 魔法は錫杖を軽く振った。 そしてちらりと木の陰を見やる。 「……っく…ぃ、ちゃ……」 『なるほど』 地にうつぶせに倒れたままぼろぼろに泣くルイの姿。 その姿を目にして、魔王は肩眉を上げた。 『おもしろい』 ふと暗い笑みを浮かべる魔王。 ルヴィリオはそれに眉をひそめた。 ……“おもしろい”? ……一体何が“おもしろい”と? 不可思議なその様子にルヴィリオは口をつぐんだ。 ぜえぜえと喘ぐルイに魔王はじっと見つめる。 『我が影響下におかれたか』 「ぅ、くっ……」 『それほどこの子供はこの人間に近しかったのだな』 「おにぃ…ちゃ……」 『兄…か』 す、とルイに一歩近づく。 だがその2人の間にルヴィリオは割り込んだ。 眉をひそめたまま杖を魔王へと向ける。 その様子に魔王は興味深そうに目を細めた。 『子供が心配か』 「……ルイに、何をする気だい」 『何を……?』 魔王が妙に不思議な笑みを浮かべる。 それは嘲笑するような。 まるで心底呆れているような。 あらゆるものが混ざったような笑みを。 ルイはぎゅううっと強く胸元を掴みながら、 涙でぼんやりとかすむ視界で魔王を見上げる。 そして悟った。 気づいているのだ。 魔王は、自分の事に。 『何を、する気だと?今更何をするまでもない』 「ど、どういう事よ!?」 魔王の言葉にリオナが叫ぶ。 ガウリスも苦渋の顔でスラリと剣を抜く。 だがルヴィリオは杖を構えながら、 何故かとてつもない不安に襲われた。 魔王の周りを取り巻く瘴気にあてられたのではない。 何かを大きな事を見落とした。 それが何なのか、 それは何の事なのか―――。 『この子供は、我が意識の残留が植えつけられている』 ……今、何を言った? ルヴィリオ達は言葉の意味を探した。 けれど思考とは別に、ひやりと冷や汗が流れる。 理解は出来ないはずなのに 言葉の意味を理解してしまう自分達がいる。 その事に言葉をなくす。 強く魔王を見上げていたルイの瞳が、 瞬間、小さく揺らぐ。 涙の奥の澄んだ瞳が哀しげに。 『よほどこの人間はその子供を大事にしていたのだな。 気づかないか?子供は我が思念の残留に蝕まれている』 はっきりと告げられた言葉。 ルヴィリオ達は愕然と立ち尽くした。 「そんな―――ルイ、まで……?」 「一体、どういう事だ!!何故そんな事に!!」 「……今までの体調の不良は……」 『この人間は子供に瘴気を与え続けていた』 うろたえるルヴィリオ達に 魔王はさも満足そうな表情を浮かべる。 世界に満ちた負の感情もまた己に力を与えるが、 こうして目の前にいるか弱き人間達から 新たな負の感情を得るのは願ってもない事。 人間は脆い。 脆いゆえに言葉一つで感情が揺れる。 魔の者に力を与えるのだ。 さらに魔王は続けようと口を開く。 「―――ちが……違うよ」 ぜえっ…と荒い呼吸と一緒に かすれた声がその場に放たれた。 はっと、一同はルイを振り返った。 ガタガタと震えながらも木にすがりついて、 ルイはゆっくりと立ち上がる。 ただ静かにそれを見やるだけの魔王。 「おにい、ちゃんは僕を… むし、ばんでなんか、ないっ……!」 『……ほう。我が近くにいても精神を保てるか』 感心したような声色で魔王はルイを見下ろす。 とたん、ルイの肩がびくりと大きく揺れる。 木を強くつかんでいたはずの手が急に力をなくした。 「……ぅ…うっ……」 「ルイ!!」 我に返ったルヴィリオは崩れ落ちる ルイの身体を慌てて受け止める。 荒い呼吸を繰り返しつつも、ルイは魔王を睨む。 「おに…ちゃ…は…お前が…… お前が、けし、たんだ……っ!」 『……ならば兄の元に行かせてやろう?』 「うぁ……」 魔王はルイに向かって錫杖を向けた。 ドクリと脈打つ鼓動にルイは目を見開く。 いやだ、いやだ、いやだ―――!!! 酷い頭痛の中に、 優しく微笑む兄の姿が刹那、よぎった。 NEXT. |
33452 | 合格おめでとうございますv | かお URL | 2007/11/19 22:19:50 |
記事番号33450へのコメント こんにちわ。お久しぶりです。とーるさん。 入試だった、ということでお疲れさまでした! あと第一志望への合格、おめでとうございますっ! これからもまだ大変でしょうけどがんばってくださいねvv >紫煙 どんどん、展開がクライマックスに近くなってきましたねv とうとう覚醒してしまったレイ=マグナス=シャブラニグドゥ! 公式設定では大切な人が人同士の争いで殺されてしまったがため。 となってますけど、このあたりはオリジナルですねv どきどきしながらみておりますv また、ルヴィリオがどう彼らとかかわっているのか。 というのも大変に気になるところですv 初めのころはてっきり彼は獣王ゼラス=メタリオムの関係者か何かかな? とおもってましたので(実話 ともあれ、寒くなってきましたので。あまりむりせずに気をつけてくださいね。 それでは、感想になってない感想でしかもかなりお久しぶりですが (でも毎回みてますよvコメントしてないだけで←読み逃げしてる人) 合格しました。ということなのでお祝いの言葉をかねてのコメントですv それでは、失礼しますねv ではではv ほんっと風邪には十分に気をつけてくださいね・・・何か流行ってるみたいなので・・・ |
33453 | Re:ありがとうございます。 | とーる | 2007/11/22 19:54:31 |
記事番号33452へのコメント どうもこんばんは、かおさん。 こちらこそお久しぶりなとーるです。 ありがとうございます。 どうにかこうにか一歩前進となりました。 これからも頑張りすぎずに頑張っていこうと思います。 (これ、とある人にそう言われました……/苦笑) はい、後半に入ってクライマックス目前です。 正直スレイヤーズは中学校に入ってからというのと かおさんのサイトで知って再熱したので、SPの あとがきで明かされた公式設定しか持っていないんです。 色々とサイトを見ていればおのずと分かりますが(笑) 『紫煙』はもう、オリジナル満載となっているので レイ=マグナス=シャブラニクドゥの覚醒などに関しては 全てそうしていこうと思っていました。 >獣王ゼラス=メタリオムの関係者 実は本格的に書き始める前のプロットのような用紙には 『ゼラスと関係がある』と書いてありました(笑) 構想上、結局は違うようにしてしまいましたが……。 いえいえ、ありがとうございます。 何せ……私もL様漫遊記を読み逃げしてるので(待て) もちろんサイトの方にも時々お邪魔してますよ。 かおさんもお身体をお大事にして下さい。 それでは。 とーる |
33454 | 紫煙の幻想 31 | とーる | 2007/11/22 21:19:50 |
記事番号33445へのコメント ―残留思念― 「あああああああああああああああああああああっ!!!!!」 ブワッ!! 胸を押さえて甲高く叫ぶルイの身体から 大量の瘴気が溢れ出す。 その気の濃厚さにルヴィリオは耐えきれず、 思わずルイを離して後ずさる。 強すぎる瘴気に辺りの木々が音を立てて枯れていく。 「くっ……」 「ルヴィッ!」 1つに結わえられていた金髪が解けて 瘴気の風にザワザワとなびいた。 見開かれた瞳はいつもの澄んだ金眼などではなく、 禍々しくらんらんと光る、紅の瞳。 「ああああああ!!」 絶叫とともに振りぬかれた腕から衝撃波が放たれた。 ばっとリナスが手を突きつけて叫ぶ。 「エア・ヴァルム!!」 バシィン!! 3人の前に現れた風の壁が衝撃波を防いだ。 ルイの身体が瘴気の渦に引きずられるようにして ゆっくりと空中へと浮き上がる。 それをじっくりと眺め。 くすりと魔王は満足そうに笑んだ。 『さて、我はそろそろカタートへ行くとするか。 ……レイ=マグナスとして』 「!?貴様、レイの身体で何をする気だ!!」 魔王の言葉を聞きとがめ、ガウリスが怒鳴る。 それに魔王が少しだけ首を傾けた。 さも、当然だというように。 『もちろん、戦争を終結させるのだ。 そう―――水竜王ラグラディアとともにな……』 「あ…あんた、まさかっ!!」 「水竜王様を……!?」 言葉の意味を寸分違えずに気づいた リオナの顔がさっと青ざめる。 ぎゅうっとルヴィリオは杖を握り締める。 しかしそれには魔王は何も答えない。 ただ、3人に向かって微笑を浮かべた。 それはとても見慣れたもの。 “レイ=マグナス”が浮かべていたものに それは良く似た表情で。 慈愛と憂慮が混雑した笑みを。 魔王はそれをとても良く真似てみせた。 『「私は一足先にカタートに向かいます。」』 「まっ……」 「うぁあああああっ!!!!!」 アストラル・サイドへ身を沈める魔王を すぐに追おうとしたルヴィリオ。 しかしルイが放った衝撃波によって阻まれる。 爆音とともに土煙がたつ。 『どうしても私を止めたいと思うのならば、 その残留思念を始末して追って来る事ですね』 丁寧な“レイの口調”でそう言い、 魔王はその場から音もなくかき消えた。 楽しそうな笑い声の余韻を残して。 悔しさに一同は歯を喰いしばる。 しかしその心境には浸らせてはくれない。 「ああああああっ!!!」 チュドドドドッ!!! 次々とルイの放つ衝撃波が辺りに飛散する。 あきらかに暴走した力。 こうなってしまう前に魔王はルイに錫杖を向けた。 あの時ルイの中にある思念を強めたのだろう。 ルヴィリオ達の動揺と、混乱と、 戸惑いの負の感情を喰らうために。 “食事”をするために。 「どっ、どうするのよ……? ルイに攻撃なんて出来るわけないじゃない!!」 悲痛な声でリオナが叫ぶ。 それはガウリスにもルヴィリオにとっても同じ。 魔王に乗っ取られたレイに続いて この上、ルイまでも。 けれど自我をなくして暴走するルイは 容赦なく自分達へと力を振るう。 ただただ、沸き起こる力を振るう。 目の前にいるのが誰なのかも分からず。 瘴気を振りまきながら。 「く…そ……!!」 「っ……!」 ガウリスとルヴィリオも苦しげに 飛んでくる衝撃波を交わして止める。 剣先を、杖先を、ルイに向ける事はできない。 たとえ魔王の残留思念に乗っ取られていても。 身軽に衝撃波を避けていたルヴィリオは 先程よりも強く強く杖を握りしめた。 そしてルイを見据えながら杖を振るう。 「風豪の断絶!」 ゴォウッ! 強く荒れ狂う風が3人とルイの間に壁を作る。 ルヴィリオは杖を構えながら リオナとガウリスを振り返った。 その時の表情は、 風にあおられる黒い髪のせいで良く見えない。 「2人はこのまますぐカタートに行ったレイ…… いや、魔王を追って。ルイは私が止めるから」 「ルヴィ、何言って!?」 「……ルヴィ?」 「私ならルイを止められるから。 でも魔王は―――私には止められない」 淡々と言われるリオナとガウリスは戸惑う。 だが真剣な言葉にすぐに頷く。 瞬時にリオナはガウリスの腕を掴み、 地を蹴ってレイ・ウィングで飛び去った。 ルヴィリオはそれを最後まで見送った後で、 防壁を断ち切ってルイを見据えた。 決意した瞳でドン、と地に杖をつく。 抑えきれない感情をぶつけるよう。 NEXT. |
33457 | 紫煙の幻想 32 | とーる | 2007/11/24 01:28:41 |
記事番号33445へのコメント ―知っていた― ルヴィリオは目の前に瘴気をまとわせて 空中に浮かぶ子供を見つめた。 元々、ルヴィリオとレイはただ単に 顔見知り程度の関係だった。 何度か2人で手を組んで、協会がらみの事件や 他の依頼をこなしているうちに気が合うようになり。 だが互いに仲間として旅をする性格ではなく、 思わぬ再会をする事の方が多かった。 そして―――1年ほど前に再会した時。 彼は金髪金眼の笑わない子供を連れていた。 今の時勢に子供連れで旅をするなど危なすぎる。 子供が眠った後の酒場でルヴィリオが話を聞くと、 デーモンに襲われた村の唯一の生き残りらしい。 絶望して崖を飛び降りようとした所を見つけ 一緒に連れて来る事にしたという。 ルヴィリオは確かに子供を不憫に思った。 しかし同時に『賢者』と名を馳せるがゆえに 各地で戦闘に身を投じる彼と一緒ではと不安がよぎった。 レイもそれは考えていたようで、 子供を助けた直後は色々と考えていたらしい。 それなのに何故か“連れて行かなければ”とも 不思議なほどに強く思ったという。 ルヴィリオはそれを聞いた時首を傾げたのだが―――。 「……何故レイが、ルイを “連れて行かなければ”ならなかったのか……」 暴走したルイが放つ衝撃波が荒れ狂い、 あちこちで爆音を上げる。 そのたびに髪やマントが激しく乱れるが ルヴィリオはまったく気にしない。 すっ…と静かに瞳を閉じた。 「レイもルイも……気づいていたんじゃないのかい?」 カタートに行かせないで、 兄ではなくなると泣いて懇願したルイ。 あんなにも可愛がっていたのに 突如手離そうとしたレイ。 不安からレイと行動を共にし。 笑わない子供の面倒を見て。 レイの知り合いだという ガウリスやリオナと出会い。 5人で旅をして。 子供の失われた表情が戻ってきた事に 一番兄としてレイが喜んで。 瞳を開けて子供を見上げる。 紅の瞳がいつもの金の瞳と重なった。 最近揺れ動く事が多くなった瞳と。 「ああああああ!!!」 また、衝撃波が地を打つ。 自我を失くして使う力にコントロールは利かない。 ただただ溢れるままに暴走する。 辺りはすでに衝撃波のせいで荒野化している。 空気は瘴気に満たされていて。 ドンッ! 杖を地に打ちつけてルヴィリオは叫んだ。 「君達は心の底で知っていたんだろうっ!? 暴走する前に止められるのはルイだけだと!! レイが暴走したら止める事は出来なくなると!!」 ぷつ、と暴風が止んだ。 はぁっ…と肩で息をつきながら子供を見る。 手を大きくかざした子供は、 時を止めたかのように微塵も動かない。 まるで白昼夢のように流れる静寂。 ふいに。 草木の枯れた地にぽたりと一滴の雫が落ちた。 雫は次から次へと落ちてくる。 見開いた禍々しい紅の瞳から雫が湧き起こり、 押し出された雫は小さな頬を滑り、 地に落ちてくる。 「あ…ぅあ……あああっ……」 「まったく君達兄弟は世話を焼かせてくれるね? こんな馬鹿らしい兄弟喧嘩…もうこりごりだよ」 酷く優しく微笑んだルヴィリオは 空へ高く杖を振り上げた。 苛立ちではなく想いを吹っ切るかのように。 「でもそう言う私も馬鹿だね…… 嘘は言っていないけど本当の事も言ってないなんて」 ルイを止められる。 それはもちろん嘘ではない。 嘘ではないが―――。 ルヴィリオは深くため息を吐いた。 「まぁ、方法は聞かれてないからね」 振り上げた杖を振り下ろして強く地を打った。 その紫の相貌で子供を見据え。 口を開いた。 「我はここに想う……暁に光り輝きし、 我が意思の源…スィーフィードよ―――」 NEXT. |
33458 | 紫煙の幻想 33 | とーる | 2007/11/26 20:38:34 |
記事番号33445へのコメント ―スィーフィード― 「我はここに想う……暁に光り輝きし、 我が意思の源…スィーフィードよ―――」 静かにルヴィリオがそう唱える。 すると手にしていた杖の宝玉の色が、漆黒から 鮮やかな紅に色が変わりゆき暖かな光を放つ。 ゆるりと空を仰いだルヴィリオの瞳も それを灯したかのように紅が宿った。 瘴気が満たしていた場に ふわり…と穏やかな風が舞う。 「ぁっ…あ……あう…っ」 風に吹かれるたびにルイが苦しげな声を上げた。 「我はここに願う……永久の暁に身をゆだねし、 我が意志の主…スィーフィードよ」 「くあ…っあ……!」 「我はここに在りし者……汝が意思を宿し器 ―――名をルヴィリオ=セールクスト ……我を現す名、スィーフィード・プリーストなり」 “赤の竜神の神官”。 その名や存在を知る者は この世に皆無だと言っていいだろう。 かつて魔王と戦い、滅びを受けた竜神。 その力と意思がその身に眠り、 赤竜の剣を使える者は“赤の竜神の騎士”…… スィーフィード・ナイトと呼ばれる。 そしてスィーフィード・プリースト。 意思だけがその身に眠り、その意思により 法則と平衡する力を使う事を許されている存在。 その影の存在を世が知れば人は騒ぎ出し、 魔はひたと隠していようが危機とする。 それゆえプリーストは常に存在を影に隠す。 レイ達に出会う前の、 必要以上に他人と関わらずにいたルヴィリオのように。 「あああ…くっ……うあ……」 紅の柔らかい帯のようなものに包まれ、 空中で静止していたルイがゆっくり地上へ降りてくる。 やがて足が地面につくと力が抜けたように座り込む。 1つルヴィリオが歩を進めた。 びくん、と肩が揺れた反動でルイは ゆるりとルヴィリオを見上げる。 涙でぐしゃぐしゃになった小さな顔と瞳が ふと細くなり安らいだ。 「我が名、我が存在の真の名を持って 我―――魂に純粋なる意思を満たさん」 トン、と地をついた杖の宝玉の光が強く増す。 「我、かの者、 ―――我が身に封じる事を真に願う」 キィン!! 鋼同士を強く打ち鳴らしたような音が響いた。 ルイを包んでいた紅の帯が収束し、 風を舞い立てて身体の中へと吸い込まれる。 完全に帯がルイの中へ収まると 虚ろになっていた紅の瞳の奥から徐々に金色が浮き出てくる。 瞳が元の金の瞳に戻ると、ぎこちなく首が傾いた。 「……ルヴィ、おに…ちゃん……?」 「待たせてごめんね、ルイ」 「ううん…僕は、大丈夫だよ……」 夢現の狭間に漂う表情でルイは微笑む。 それに、ずきりとルヴィリオの胸が痛んだ。 「大事な……こと…だま、ってて、ごめん…なさ……」 「うん。リオナとガウリスがカタートに行ったよ。 一緒にレイを止めに行こうね」 その言葉にくしゃりと小さく顔を歪めて ルイは泣きそうになる。 魔王として覚醒した兄を倒すのではく、 目の前の彼は止めに行こうと言う。 不可能だと本能は告げる。 ―――けれど、それでも、願いたいのは。 もう一度。 向けられる、優しい笑みが。 名を呼んでくれる凜とした声が。 見つめる、暖かな紅の瞳が。 頭をよぎる刹那の記憶。 「ごめ…なさい……ルヴィお兄ちゃん… ごめんな、さい……」 「もう謝らなくていいんだよ、ルイ」 「ごめんなさい……我侭言ってごめんなさい……っ」 「これは嘘つきな私の我侭だよ」 杖を静かに、トン、と地を打たせる。 ふわりと光がルイを包みこんで身体が薄れていく。 消えていく身体は紅の気の塊となって、 ゆっくりとルヴィリオの身体の中へ吸い込まれた。 『ごめん…な、さい……』 ふっと宝玉と瞳の中から紅の光が消える。 がくっ!と力を使い果たしたように地に膝をつくルヴィリオ。 肩で深く息を整えようとしながらぐっと胸をつかむ。 今はまだおさまりはしないだろう痛みに。 きつい、悼みに耐えようとした。 NEXT. |
33461 | 紫煙の幻想 34 | とーる | 2007/11/29 19:12:30 |
記事番号33445へのコメント ―神と魔― 祭壇を壊してくれないか、と依頼されたのは 少しばかり滞在していた隠れ里での事。 最初訪れた時、余所者のルヴィリオの姿を あからさまに怪しいという目で見てきた。 それは村長ばかりでなく村人も。 その夜、仮宿で寝ていた所を殺されそうになった ルヴィリオが逆に撃退して逃したら、 頑なな態度が朝とともに急に一変した。 人とはこんなものだったろうかと思ってしまうほど。 ルヴィリオはその依頼を簡単に承諾した。 すでに断る事さえ面倒だったのだ。 きっと以前の自分だったならば眉をひそめ そんな事を出来るはずがない、断固拒否しただろう。 説教すらかましていたともルヴィリオは思う。 けれど何も感じなかった。 実際に崩れかけた神殿を見ても。 中にいる“気配”に気づいても。 心に何の感情も浮かんではこない。 薄々は気づいていた。 ルヴィリオは時間を潰す為に 適当に森の中を歩きながらそう考えた。 『スィーフィードの意思』を持つ自分に、 『シャブラニクドゥの残留思念』を取り込んだのだから。 そう、“神”と“魔”。 この身にあるのは魔法ではない。 伝説の神魔融合のようになど 上手くはいかないだろうと分かっていた。 思わず苦笑してしまうルヴィリオ。 「……まさかここまで上手くいかないとは、 私もさすがに思わなかったな」 例えば、今までプリーストである事から 意思の主を呼び捨てていたが、 思念を持った時から『様』を付けねば思うように 魔力がコントロール出来なくなった。 例えば、相反する力が大きすぎて魔法を使うたびに 魂が少しずつ少しずつ、削られていく。 例えば、魂が削れるほどに身体がゆらめき、 自我が消えそうになる。 例えば、例えば……と数をいくつ挙げてもキリがない。 キリがなさすぎて、ルヴィリオは自分が ここに“在る”のかさえ時々分からなくなる。 けれど立って歩かねばならないと強く戒めるのだ。 覚醒した彼をカタートへ行かせ、 その後を2人に追わせ、一緒に行こうと言った。 だから何としてもカタートへと向かわなければならない。 近づくたびに本体の力を感じて暴走しそうになる 己の身体と精神を無理やり支えつつ。 ……だから時間がかかった。 目と鼻の先にカタートがあるこの場所まで やって来るのに1年近くもかけて。 「―――神?そういえば感謝して崇めていた。 ―――魔?とてつもなく憎い……」 立ち止まり、ルヴィリオは声に出した。 風もないのに髪とマントがざわめく。 相貌が鮮やかな紅と、沈んだ紅に変わる。 まるでオッドアイのように。 けれど全ては一瞬の事。 ルヴィリオが瞬きすると何もかもが収まった。 ざわめいていた髪もマントもぴたりと落ち着いて、 瞳もいつもの紫苑色へと戻る。 「憎いのに…認めている……」 ふと、彼は顔を上げる。 辺りの空気が変わった事に気がついたのだ。 それが普通の人間ならば 気がつかないようなかすかな違和感。 アストラル・サイドが開いた。 そしてそこから“気配”がこの世界へ降り立った。 それも、かなり高位に位置する “気配”が。 ルヴィリオは眉をひそめたが、 己の“気配”を消して“気配”の方へと近づいてみる。 と、向こう側の茂みからレッサーデーモンが いきりたちながら咆哮しているのが見えた。 相手にもならないと思い、関わらずにいようと すっとルヴィリオはきびすを変えそうとして ―――思わず杖を地へついた。 ちゅどんッ!!! レッサーデーモンの標的になろうとしていた “気配”は怪訝そうにしている。 思わず歩みを進めたルヴィリオは、わざと茂みの音を立てた。 「こんな所まで逃げ込むなんて。 まったく野良は手間をとらせてくれるよね」 そんな嘘をついて、“ルイ=マグナス”の姿と 寸分違わぬ“気配”の前に姿を見せた。 NEXT. |
33462 | おつかれさまですv | かお URL | 2007/11/29 21:32:30 |
記事番号33461へのコメント こんにちわ。と〜るさん。 最近連続してアップされてるので嬉しいかぎりですv でもほんっと無理は禁物ですよー(汗 けっこう打ち込みって体力つかいますからねぇ…… (数年前よく一日一個うちこみできてたよなぁ・・と今は思う人…) 何かついにほんとうに終わりに近づいてきている気配なのでひとまず感想をばv >ゼロスくんv ついに!ついに初めのころのシーンに突入ですねv というか、やっぱり!? という思いがひしひしとv ゼロスの姿はルイ君の姿と瓜二つだったのですか!? というところが素直な感想ですv 瓜二つ…とまではいかなくても、雰囲気とか似てるのかなぁ? というような感覚だったんですけどね。 >神魔融合 さすがになかなか上手くはいかない。というのはあるでしょうね。 しかし、ルヴィさん…スィーフィードの神官だったんですか… それにはかなりびっくり仰天です。 何だか今後の展開がよめなくなってきておりますv ほんっと、あまり無理せずに、のんびりまったりと頑張ってくださいねv 追伸: ふと、一から見ようとおもったら過去ログから探し出すのけっこう大変ですし… そろそろ、34にもなったので著者別リストに登録はいかがでしょうか? (そうすれば一気にみられますしv) それでは、感想になっておりませんが、とりあえずコメントまでv では失礼しますのですv byかお |
33464 | Re:いえいえ…… | とーる | 2007/12/2 20:41:26 |
記事番号33462へのコメント どうもこんばんは、かおさん。 今までずっと更新出来ずに溜まっていた分なので それほど苦にはなっていませんよ。 実はここでかおさんの小説にコメントするより以前に かおさんのサイト『宇宙のごみ箱』を知っていまして 良くお邪魔させていただいていました。 もちろん今でも小説を読ませていただいているのですが。 >ついに初めのころのシーンに突入 はい、ようやくここまで書けました。 1話1話が短くなってしまい、書き始めた当初の頃に 予定していた話数よりも多くなってしまったので 長くなってしまいましたが(汗) そうですね、瓜二つというよりも“そのまま”なんです。 子ゼロスの容姿をより正確に描写しなかったのは この部分を最後に書こうと思っていたからなんですよ。 実は当時ルヴィの対であったスィーフィード・ナイトも 話に出そうと思っていたのですが…ボツにしてしまいました。 機会があれば番外か何かで書こうと思ってます。 >著者別リスト 私も登録した方がいいかなと考えていた頃なんです。 とりあえずあと数話でこの連載もようやく完結となるので、 全て終了した時に登録しようと思っています。 またのコメントありがとうございます。 ではでは。 とーる |
33465 | 紫煙の幻想 35 | とーる | 2007/12/2 21:04:46 |
記事番号33445へのコメント ―竜を滅せし者― さわりと風が凪ぐ。 崩れ落ちた神殿の前には何もなく。 ただ、風に木々が音を立てた。 目の前に片膝をついた己の部下から目を離し、 ゼラスは顎にゆっくり手を添える。 数日前、冥王から計画遂行に邪魔な人物がいると聞いた。 もしかすると計画の1番重要な部分に関わりを持ち、 下手をすれば失敗させかねないとも。 「―――その者は冥神官、冥将軍と相討ち……か。 確かに相当な力を持っていたようだが……」 ゼラスがそう零すと部下は何も言わずに頭を下げた。 ちらり、とその姿を目にして肩をすくめる。 フィブリゾもこんな事に人員を裂くとは、と 少しだけ不満を持ちたくなる。 だが、自分に関係があるわけでもないと思いなおす。 どちらにしろそんな面倒な人物がいたなら、 結局いつかはこうするべきなのだ。 計画を潰されるわけにはいかないのだから。 今まさに大詰めの所で。 「分かった、フィブリゾには私から言っておこう。 ―――また外が騒がくなってきたな。しずめてこい」 下がっていいと手をひらりと振る。 一言返事を残し、部下はもう一度頭を下げて 闇色の虚空へと姿を消した。 もう一度ちらりとその場を見るゼラス。 眉を少し寄せて首を傾げた。 自分の気のせいだろうか。 具体的にはどことは言えないが何かが変わったような。 「あいつ…あんな性格をしていたか……?」 数百メートル先に飛ぶ大量のドラゴン達の群れの 咆哮が轟いて空気が盛大に震えた。 大小様々な大きさの体躯を眺めていると、 ひとしきり咆哮して両翼をはためかせこちらへ飛んでくる。 何度かこの命令を実行してきたが、 良くもあれほどの数を集めたものだ。 数秒それを見つめた後、 ぴっと人差し指を真っ直ぐ立てる。 腕を伸ばして左から右へ―――虚空を薙ぐ。 まるでその線を静かになぞるかのように ドラゴン達の間で次々と爆音が上がっていく。 煙を避けてなお突き進む群れにもう一度。 さらにその後ろを飛ぶ群れにもう一度。 浮遊した場所からは一歩も動かず。 右腕を払うだけで彼は自分へと向かい来る ドラゴン達をその動作だけで倒していく。 命令通り、空中から地上へ“しずめて”いく。 彼は最初から一言も発さない。 淡々と命令を実行する。 ただ心のない少しの笑みを顔に乗せて。 翼を傷つけた最後のドラゴンを見据えた。 ぴっと軽く指を振ると瞬間、ドラゴンの片腕が飛んだ。 「くぅ……ドラゴン…スレイ、ヤー、めが……!!」 その苦々しげな言葉に彼は初めて肩眉を上げる。 ドラゴンスレイヤー…“竜を滅せし者”。 彼の趣味にはあまりそぐわなかったが、 やはり何も口にしない。 ドラゴンは意識を失い地上へと落ちていった。 それを見届けた後、彼はふぅっと息を吐く。 これでひとまず命令遂行完了だ。 主の元へ戻ろうとするとその主から声が届いてくる。 『魔王様がお前を呼んでいる。すぐに向かえ』 「分かりました」 行き先を主の場所からその主の元へと変更する。 場所はカタートの洞窟に作られた神殿の中にある一室。 アストラル・サイドを渡って部屋に降り立つ。 目の前の人物を目にし、肩膝を追って頭を垂れる。 目を細めて目の前の人物は微笑んだ。 つややかな漆黒の長髪にとても深い紅の瞳。 派手すぎない落ち着いた赤のローブに身を包んだ若い男。 計画の為に人間の身をそのままにした魔族の王…… 赤眼の魔王シャブラニクドゥ。 「さて、ゼラスから多くの報告がきていますよ、獣神官ゼロス。 とても素晴らしい働きぶりですね」 「恐縮です」 「これをお渡しします。受け取って下さい。 ―――私の同胞の者達の力が込められています」 ゼロスは差し出されたものを受け取った。 首、腰、両手首に付けるデモンブラッドのタリスマン。 「異界にいらっしゃる魔王様方のですか?」 「ええ。頑張って下さいね」 「……ありがとうございます、魔王様」 にっこりと笑みを浮かべたゼロスは魔王を見上げた。 そして一礼をすると立ち上がりその場を辞した。 その姿はただの1人の青年。 肩で切りそろえた暗めの紫髪に紫苑の相貌。 黒い神官服に、手にした宝玉のついた安そうな杖。 顔に浮かぶのは害のなさそうな笑み。 その姿を見ても魔王は何も言わなかった。 NEXT. |
33466 | おめでとうございます♪ | 無記名て事で☆ | 2007/12/4 11:03:46 |
記事番号33445へのコメント うひゃ〜!! 受験生さんだったんですね。 お疲れ様です。 第一志望に決まって良かったですね♪ これから続きを読みに行ってきますv |
33467 | Re:ありがとうございます | とーる | 2007/12/8 14:18:09 |
記事番号33466へのコメント どうもこんにちは、お久しぶりです。 はい…因果なもので(?)高3などをしております。 確かに誰もが1度は通る道とは言いますけれど とてつもなく実感しましたね……(苦笑 ありがとうございます。 これでとりあえずは一安心です。 コメントありがとうございました。 とーる |
33468 | 紫煙の幻想 36 | とーる | 2007/12/8 14:43:44 |
記事番号33445へのコメント ―エピローグ― 僕はふぅと息を吐いて空を見上げてみる。 どこまでも青く青く、雲はない。 うーん…あれから千年ちょっと経ちますけど…… 偶然って本当にすごいですねぇ……。 次の街での名物料理の事を話す、 前を歩く2人の姿を見やってしみじみ思う。 何せ、リナ=“インバース”さんと ガウリイ=“ガブリエフ”さんっていうんですし。 彼らの遠い子孫なんでしょうね、きっと。 顔が同じですから。 人間の…何でしたっけ、先祖返りでしたっけ? アレみたいな感じなんでしょうかね。 まぁ、苗字が違うという事は、 きっとそういう事だったんでしょうけれど。 彼女達に会った時は本当に驚きましたよ。 もちろん悟られないようにしましたが。 ―――そう、まるで一瞬の出来事。 彼が死んだ時その身から不完全に融合した スィーフィードさんの意思と魔王様の思念が 魔力となりはじけ飛んで僕に直撃した。 その強い意志によって垣間見た彼の過去。 最も正が負に冒された時の記憶。 気づけば彼の姿をとってゼラス様の元へ戻り、 かつ魔王様の元にまで行きましたし。 何の衝動だったか本当に分かりかねる所はありますね。 まぁもしくは人間的に言えば “知りたかった”……というのかもしれません。 魔族の僕には本来まったく必要のない、 むしろいらないものなんですけど。 そこまでして赤の他人を想ってしまう“感情”。 そこまでして何かを守ろうとしてしまう“感情”。 そこまでして奮い立ち戦ってしまう“感情”。 この姿をとればそれが分かるのかも しれないと…無意識に考えた? たとえその時がそうなのだとしても 今だって確信を持って言う事など出来はしません。 でもこれは僕が何だかんだと言いつつも 彼女達に関わってきた、今だからこそ 言える事なのかもしれませんけどね。 頼みもしないでも彼女達はその儚い“感情”を 僕にとても強く見せつけてくれましたから。 それにただの人間がここまで深く 僕達魔族に関わってくるとは正直思っていませんでしたよ。 何せそのおかげでリナさんは『あの御方』の事までも 全てではないとはいえ理解しちゃいましたし……。 しかも…畏れ多い事に降臨まで……。 確かにクレアバイブルの所まで行くようにしましたが…… 異世界の魔王様方のごたごたさえ…ぶつぶつ。 「どうしたんだ、ゼロス? リナが遅いからおいてくって言ってるぞー」 「へ?ああ…すみません」 にっこりと笑ってガウリイさんに答える。 きょとんとした顔で首を傾げるガウリイさんは 食事時意外は彼にあまり似てませんね。 何故だかリナさんはものすごく似てますけど……。 どんっ!! 街道を向こうから走ってきた子供が ふいによろけて僕にぶつかる。 ぱっと顔を上げた子供は酷く慌てた顔をした。 「あ…っ、ごめんなさい、神官様っ!」 「僕は大丈夫ですよ。気をつけて下さいね」 「はい!」 その子供は大きく1つ頷くと、 また僕達が歩いてきた道の方へ走っていく。 ……さて、早く行かないとリナさんのご機嫌が 急降下して斜めになりかねませんね。 追いついたガウリイさんともども、 ドラグ・スレイブはさすがにご遠慮願いましょう。 「それにしても驚いたな…… どうしてあんな格好をしてるんだろうね? 思わず転びそうになってしまったよ」 3人が道の先に見えなくなった後で ゼロスにぶつかった子供は振り向いて首を傾げる。 見かけの年齢に似つかわしくない表情と動作。 柔らかそうな黒髪が揺れて大きな碧眼が煌く。 「だけどちょっと嬉しいかな」 くすくすと子供が笑う。 「あっ!こんなトコにいたぁっ!?」 「お姉ちゃん」 「お姉ちゃんじゃないでしょ!」 ぜぇぜぇ息を切らしながら走ってくる黒髪の女性に 子供がにっこりと可愛らしく微笑む。 だが女性はじとりと子供を軽く睨んだ。 「ったく!あんたがいきなりゼフィーリアに 行ってみたいって言うからついてきてるのにっ!!」 「ごめんなさい」 「あーもう。てこてこ先行かないでよ」 「お姉ちゃん方向音痴だもんね?」 「だぁぁあああっ!!もーこの子はーっ!!」 女性が頭をかきむしった。 子供はまたくすくすと楽しそうに笑って、 女性に聞こえないくらい小さく呟いた。 「どんな人なのかな。今度の私の対になった人は」 END. |
33469 | あとがき | とーる | 2007/12/8 15:05:49 |
記事番号33445へのコメント どうもこんにちは、とーると申す者です。 ゼロス連載『紫煙の幻想』はこれにて完結です。 私の文章力不足で表現や場面的に分かりにくい所や 矛盾している所が多くなってしまいました。 そして連載途中で受験という現実に引き戻されて 休止のような事態になってしまい、 このような長い期間に渡ってしまいました。 『紫煙』は書いているうちに何かと裏設定などが 多くなってしまったという久しぶりの連載小説でした。 都合上、表に出し切れなかった部分もありますので 時間があれば『番外編』という形で短編などを 書きたいとも思っています。 レイとルイの出会い、レイ達とリオナ、ガウリスとの出会い、 最後の最後に出てきた子供の事など……。 そんな更新を見つけた時には、 時間つぶしにでも読んでいただけると嬉しいです。 見切りをつけずに最後までお付き合いいただき、 ここまで読んでくださった皆様方ありがとうございました。 また皆様方にお会いできれば幸いです。 本当にありがとうございました。 とーる |
33471 | Re:あとがき | 星野流 URL | 2007/12/16 13:32:32 |
記事番号33469へのコメント 紫煙の幻想完結、おめでとうございます。 お久しぶりです。およそ一ヶ月ぶりです。この間パソコンが発火しました。 ルヴィリオさんがスィーフィード・プリーストだったことにも驚かされましたが、正反対の魔王の残留思念を取り込んだことにも驚きました。 しかも、スィーフィード・プリーストは前世の記憶も残っているんですね。 今まで過ごしてきた記憶が詰まっているという事は、人生悟りきったような感覚でしょうか。子供なのに。 番外編も読ませてもらおうと思っております。 おつかれさまでした。 |
33474 | Re:ありがとうございました | とーる | 2007/12/17 21:46:49 |
記事番号33471へのコメント どうもお久しぶりです星野さん。 こんばんは、とーるです。 発火は怖いですね…もう調子は直ったのですか? 私のPCもこの前ブチッと行きましたので……。 はい、ようやく一区切りつける事が出来ました。 根気良く最後までお付き合い下さいまして ありがとうございます。 子供の事やその他の番外編も少しまとまった時間が ある時に打ち込んで更新していこうと思っているので 待っていてもらえると嬉しいです。 コメントありがとうございました。 とーる |