◆−蒼の記憶 12−フィーナ (2008/8/7 22:59:16) No.33631 ┣蒼の記憶 13−フィーナ (2008/8/26 00:19:30) No.33658 ┣蒼の記憶 14−フィーナ (2008/9/10 22:37:33) No.33686 ┣蒼の記憶 15−フィーナ (2008/9/21 22:10:30) No.33710 ┣蒼の記憶 16−フィーナ (2008/11/2 18:41:44) No.33794 ┗蒼の記憶 17−フィーナ (2008/11/2 22:49:31) No.33795
33631 | 蒼の記憶 12 | フィーナ | 2008/8/7 22:59:16 |
「しっかし、一体何を考えてんのかしらねー・・・・・・ここの領主って」 近くの食堂の魚介ソテーをひとくちほおばり、あたしはつぶやいた。 最近見つけたこの食堂、値段はそこそこなのだが、素材の味をうまくひきだしておりボリュームも申し分のない量となっている。 時刻はちょうどお昼どき、今頃の時間ならそれなりに混雑しているはずの状態 ・・・・・・なのだが、 しかし、いまいるのはあたしたちをふくむ、数名の客のみとなっている。 食堂のおばちゃんもやることがないのか、時折窓から外の景色を訳もなく眺めていたりする。 「なにか問題でもあるのか?」 向かいに座るガウリイのポークひれかつに狙いを定め、問い掛けてきた彼の視線に合わせつつ、右からのフェイントをかけた一撃に集中させる。 きいんっ! 鋭い音を立てて、必殺の一撃はふさがれた。 「事件解決のために、規制をかけるのはまだいいとして、犯人とおぼしき目撃情報が皆無に等しい今、警備を強化させても疑心暗鬼にさいなまれてひきこもり、客足だって途切れるに決まっているもの」 あたしがはなしているのは、一週間ほど前の変死事件についてである。 |
33658 | 蒼の記憶 13 | フィーナ | 2008/8/26 00:19:30 |
記事番号33631へのコメント 数日前、一人の男が裏路地で遺体となって発見された。 その男の評判はあまりよくない、いわゆる『チンピラ』とよばれるたぐいのものだったが、腕はそこそこだったらしく、用心棒の真似事もおこなっていたらしい。 そういったことをしていた以上、なんらかのことに巻き込まれたとしても、 聞こえは悪いが、この町以外でも割と珍しくない。 よくあることとして扱われる話題なのだが、発見されたときの状態が異様だった。 首から上は切り落とされ、両手足や胴体さえも切断されていたのだ。 その上、全身をファイアー・ボールのような火炎系の魔法でこれでもか、というくらい焼かれていて身元が判明するまでに手間取った。 かろうじて残っていた荷物で、男の素性がわかったのは収穫といえば収穫なのだが・・・・・・ こうしたど派手なことを行った以上、目撃情報が出てもいいはずなのに、なんの進展もないとなっては兵士たちもあせるわけである。 そこでここ、レイスン・シティの領主(ロード)マクベス・ランスロットは男の身辺調査と、重点的にこの町に立ち寄った傭兵や魔道士たちを、事件に関与した可能性があるとして、魔道士協会や傭兵のギルドにも協力を要請した。 その内容が、『アリバイのあるものも、注意を呼びかけ事件への危機感を改めるため魔道士協会および、傭兵ギルドに顔を出すものとする。なお、不服や不都合があるものは城へ足を運ばれたし』 と、いうものだった。 |
33686 | 蒼の記憶 14 | フィーナ | 2008/9/10 22:37:33 |
記事番号33631へのコメント どう考えても挑発している内容に傭兵はもちろん、一部の魔道士の怒ること怒る事。 とはいえ、マクベス公のあの文の内容、反感を買う反面、評価される部分もある。 それは事件の犯人が、魔道士か腕の立つ傭兵だという可能性。 もしくは、魔道士と傭兵が共犯として行動を共にしたことに目をつけたことである。 おそらくマクベス公が、魔道士と傭兵に目星をつけたのは、切り倒された男の切り口が鮮やかだったことと、火炎系統の呪文で黒焦げにした手口。 一番無難でオリジナリティがない推論だが、逆にいうと無難だからこそ犯人はこの手の方法を多くもちいる。 こうした手段でこられれば、犯人の尻尾がつかみにくいのである。 問題はマクベス公で、仮にも領主なのだから手段はどうあれ、 相手を炙り出すにしろ、まずは挑発にあおられた一般の相手に襲われないよう、自分の安全を考えてもいいはずなのだが、そういった対策をしようとしない。 流石に領主相手に、正面きって文句をいう輩はいまのところはいないが、いつそうなってもおかしくないじょうたいである。 とはいえ、この状況なら領主から依頼料をせしめることもできる。 ・・・・・・よし! 「そんじゃ、領主(ロード)んところにいきますか!」 |
33710 | 蒼の記憶 15 | フィーナ | 2008/9/21 22:10:30 |
記事番号33631へのコメント あたしの宣言に、ガーリックのきいたチキンソテーを口に運ぼうとしていたガウリイが、あたしに視線をむけた。 そして、きょとんとした顔をして小首をかしげる。 「・・・・・・なんで?」 大の大人、しかも男が小首を傾げても、いやに可愛く見えるのはなぜだろうか? ふとした小さな疑惑があたまをよぎるが、あたしはとりあえずガウリイに説明する。 「このまちのロードが、進展を見せないでいる事件に業を煮やして、 手がかりになるかどうかわからないけど、現場からの検証ではっきりしている『ばっさりと切り倒された胴体』と、『火炎系統の呪文で焼け焦げた体』から魔道士と腕の立つ剣士に目をつけたのはわかるわよね?」 「・・・・・・なんとなく」 パノンジュースでのどを潤し、パンにレタスとポークウインナーをはさんでかじる。 「わざわざ挑発するような内容にしたのも、相手を誘い込む手段としてもまずまずだし、魔道士協会と傭兵ギルドに協力を要請すればこの町にいる魔道士、傭兵の大まかな動きは把握できるしね」 「待てリナよ」 あたしのせりふをさえぎり、ガウリイは異を唱えた。 「なによ、ガウリイ」 ガウリイは海老グラタンについていたスプーンを、ぴこぴこふりつつ 「だったら別に俺たちがどうこうするより、ここのロードに任せておけばいいだろう? この町のことだからってことだけでもないが、おまえさんがなんでロードのところに行くのかがよくわからん」 彼にしてはなかなかうがった意見である。 あたしとしては、ガウリイがこの状態をキープしてほしいものだが、ガウリイの習性上それが不可能であるのはほぼ確実。 ・・・・・・無論、自慢できることではないのだが。 「この広報だと、ロード自身いらぬ恨みをかう恐れがあるのよ。 ただでさえ多くの連中が怒っているみたいだし、ロードは気づいていないのか何の対策もしていないみたいだし、だったらあたしたちが出向いて説明すりゃあいいのよ」 「なるほどな〜」 感心したようにこくこく頷くガウリイ君。 実を言うと本音としては、ロードを脅迫・・・・・・もとい、誠心誠意をもって話し合い、いまのロードの身がどれほど危険か説明して、そのお礼に金目のものをいただく・・・・・・というのを考えていたりする。 そんなことを考えていることを、おくびにもださず、サーモンのアスパラまきにフォークをぶっさして口に運ぶ。 「俺はまたてっきりお前さんのことだから、いきなり殴りこんでロード脅して、説明料とか称して金品を巻き上げるとか、金目のものをせしめるんじゃないかとおもったんだ」 「・・・・・・や、やーね。 ガウリイったら、いくらあたしでもそこまでやらないわよ」 「・・・・・・なんか今、微妙に間が空いたようなきがするんだが」 「気のせいよ!」 こいつ・・・・・・いらんとこだけ鋭いでやんの。 「とにかく、わかったんならご飯食べた後にロードんところにいきましょ」 |
33794 | 蒼の記憶 16 | フィーナ | 2008/11/2 18:41:44 |
記事番号33631へのコメント マクベス公がいる城は、レイスン・シティを見通せる小高い丘の上に存在していた。 「なあ、リナ」 「なによ」 城の兵士に内容と手続きを済ませ、城の一室に案内されてからのことである。 「本当にロードんところに殴りこむのか?」 「あれは言葉のあやよ!ただこうして話し合うだけに来たんだから」 あたしのセリフにガウリイは尚も首をかしげ、 「それでもお前さんのことだから、相手が下手なこと言ったら暴れそうだな、と」 「あ〜の〜ね〜、んなことしたら下手すりゃあたしたち立派なお尋ね者になっちゃうじゃない! いくらあたしでもそのへんの分別ぐらいわきまえてるわよ!」 「いやー、でもなんかこのへん妙な感じがするからさ」 さらりといった言葉に、あたしは声のトーンを落とす。 「・・・・・・なによ、その妙な感じって」 「それがよくわからん。いくつもの気配がまざりあったような感じがするんだが、時々薄くなったりして場所がつかめん」 「じゃあ、その気配ってこの部屋にもしてるわけ?」 彼はかぶりをふり、 「と、いうより建物自体からだとおもう・・・・・・なんつうか、そこに人の気配がしているのに誰もいない感じで」 ・・・・・・ちょっと、それって 「間違っても幽霊とかいわないでよね」 「おおっ!」 やおらポンっと手をたたき、謎が解けたかのような晴れやかな顔で、ガウリイはこういいやがった。 「そうそう!ちょうどそんな感じの表現が近いぞ!」 「んな事を、うれしそうな顔でいうな〜!!」 ぼぐしいっ! 「ぐえぃっ!?」 あたしのはなったスクリュー・キックは、ガウリイを地面に沈めたのだった。 こんっこん そんなこんなのやりとりを繰り広げていると、ドアをノックする音が響いた。 「どうぞ」 促してはいってきたのは、一人の兵士だった。 「ロードから許可が下りた。ここからは自分が案内する」 年のころは三十の半ばといったところか。鉄仮面に覆われよくみえないが、無駄に生やした不精ひげが印象に残りそうなおっちゃんである。 「おれ・・・・・・いや、自分はジェイク・ヴォーク」 「あたしはリナ、リナ=インバースよ。それととってつけたように言い直しても気にしないわよ」 「じゃあ気兼ねなく崩せて話せるな」 「ガウリイだ」 「道は結構歩くから疲れたら言ってくれ」 「このくらい平気よ」 「そうか?」 あたしの歩調に合わせてか、ジェイクのおっちゃんはゆっくりとあるきだした。 「・・・・・・へえ」 面白そうな声を上げたのはおっちゃんで、興味深そうにあたしたちをみる。 「あんたらかなり腕が立つな」 「おっさんもな」 あたしたちを先導する形で歩いていたおっちゃんは、さらりとあたしとガウリイの力量を見抜いたのだ。 だらだらと歩いているようにみえるが、いつ襲われても対処できるように隙がない。 このおっちゃん、かなりの使い手だ。 「あんたらのことは、下の連中が蜂の巣をつついたように大混乱に陥っていてよ」 その時の様子を思い出したのかくつくつとわらう。 「天下の天さい魔道士のリナ=インバースが、ここに来た目的はなんだと 皆血相変えて逃げ出そうとする始末で、その場の混乱を鎮めるのに苦労したんだぜ?」 「そりゃあ、あたしほどの美少女天才魔道士が来たなら大騒ぎになるのは無理もないわね」 「あんた、噂以上にいい根性しているな。 小耳にはさんだ話じゃ天さいの「さい」は「才能」ではなく「災害の」『さい』だそうだ」 「のわんですってえ〜〜!?」 をのれ、誰だ!?このあたしを地震・雷・火事・おやじの天災ワードに位置づけるとは!!? 「話がそれたがまあいい、それで案内していて暴れられたら困るという理由で志願するのがいなくてな。 あんたらを案内するのを辞退する連中をどうにかするためっつうか、おれがそこまでいわれるあんたに興味がわいて志願したわけだ」 「なんっか、引っかかる言い方ね〜」 「気にするな。ただの好奇心さ」 「あ〜、でもその時の現場の様子、なんかわかる気がする」 「ガウリイ、余計なヤジは災いのもとよ」 ドスの利いたひくいあたしの声に、感じるものがあったのか、ひたりと口をつぐむ。 「よく躾がされてるじゃねーか、ガウリイのボーズ」 「そりゃ飼い犬と主人の関係だから」 「・・・・・・・・・・・・」 冗談のつもりでいったあたしのセリフに、おっちゃんは沈黙した。 「ボーズ・・・・・・尻に敷かれるのも悪くはねーが、たまには頭使えよ」 「おれだって頭使うときぐらいあるぞ」 「うそつけ!てめーは飯のときでさえも、人の話を聞き流すようなやつじゃねーか!」 そうそう、ガウリイの場合ご飯のときはほとんど本能の赴くまま動いているのが実情。 ・・・・・・ん? 先ほどとは別の引っかかりを感じ、目の前のおっちゃんに視線を配る。 「おっちゃん」 「なんだい、嬢ちゃん」 あたしのいいたいことを察したのだろう。 「おっちゃん、もしかしてガウリイと知り合い?」 ひげ面の口元には、野太い笑みが浮かんでいた。 「・・・・・・だとしたら?」 |
33795 | 蒼の記憶 17 | フィーナ | 2008/11/2 22:49:31 |
記事番号33631へのコメント 「おっさん誰だっけ?」 シリアスな雰囲気をぶちこわしたのは、ほかならぬガウリイ自身であった。 「あ・・・・・・あんたねえ、ガウリイ。こういう場合あんたが覚えていなくても義理でも『何であんたがここに!?』とかいわなくちゃだめじゃない!」 「そういうもんなのか?」 「そういうもんなのよ」 無責任にいいきるあたし。 この世界では言い切ったものが勝つ。 あたしがきめた。 今決めた。 「・・・・・・てめえ、相変わらずの記憶力皆無かよ」 げんなりした調子で呟くジェイクのおっちゃん。 相変わらずということは、昔とそんなに変わっていないということか。 「覚えていないんだったら思い出させてやろうか?てめえがやらかしたマル秘事件簿を」 「マル秘事件簿?」 興味を引かれ、鸚鵡返しにいうあたしに、おっちゃんはにたりとわらった。 「おうよ!たとえばこいつが駐屯場で上官にせがまれ」 「わあああーーっ!!!!?」 さえぎるように大声を上げ、ガウリイはおっちゃんのくちを塞いだ。 「・・・・・・その様子じゃ、俺のことも思い出してくれたようだな。ガウリイのボーズ」 「ジェイク・・・・・・隊長」 うなだれたガウリイに、おっちゃんはにやにや笑いながら付け足した。 「もう隊長じゃねえから『元』がつく、それにしても髪のばしてたから名前聞くまで気づかなかったぞ」 「隊長は・・・・・・あんまり変わりませんね」 「前より色男になっただろう」 「そうじゃなく、無遠慮でデリカシーのないところがとくに」 おっちゃんの腕がするりとガウリイの首をとらえた。 「そんな減らずぐちをたたくのは、この口か?」 「隊長!それ以上顔近づけたらセクハラで訴えますよ!?」 「ほほーう?それがてめえの希望か、ならお望みどおりしてやるよ」 「やめてください!」 ぐぎぎぎぎ、と、音をきしませ必死の攻防を見せるガウリイとおっちゃん。 「やめろといわれて、やめるおれさまじゃねえ! おれより身長がでかくなってんのは癪にさわるが、よくみりゃ今も綺麗な顔立ちしてるんだからてめえが男でも問題ねえっ!」 「俺は大有りです!」 「やめんか、アホ二人!」 すぱーんっ!! すぱこすぱこすこんっ!! 「ぬああっ!?」 「うおっ!?」 低次元な争いへ発展する空気を察して、あたしの伝家の宝刀スリッパ・クラッシュが炸裂した。 「いきなりなにするんだ!リナ!?」 早く復活したガウリイは、抗議の声を上げた。 「『何するんだ』じゃないわよ! あんたたちの不毛な争いを見るほどあたしは人間できてないの!あんたも襲われかけたんだから抵抗ぐらいしなさいよ」 「抵抗ならしたが、あの人相手じゃ下手な抵抗したら余計火に油注ぐだけだからあれでも頑張ったんだぜ?」 「だったら手加減せずに、抵抗せんかい!」 「なにをそんなにピリピリしてるんだ?」 「してないわよ」 急に顔を近づけられて、あたしは一瞬ひるんだ。 「・・・・・・な、なによ」 「わかったぞ!」 「なにがよ」 内心の動揺を押し殺す。 「リナ、おまえさんさては『あの日』だな!」 「いっぺん死んでこ〜い!」 どごりゅっ! デリカシーぜろの発言に、あたしのたまりにたまった怒りの一撃は、再度ガウリイを沈黙させたのだった。 |