◆−こんばんは−とーる (2008/8/10 23:10:09) No.33637 ┣紫煙の幻影 0−とーる (2008/8/10 23:20:39) No.33638 ┣紫煙の幻影 1−とーる (2008/8/12 20:29:23) No.33645 ┣紫煙の幻影 2−とーる (2008/8/16 17:16:10) No.33649 ┣紫煙の幻影 3−とーる (2008/8/23 02:39:37) No.33656 ┣紫煙の幻影 4−とーる (2008/8/28 01:46:14) No.33661 ┣紫煙の幻影 5−とーる (2008/9/4 19:31:20) No.33679 ┗紫煙の幻影 6−とーる (2008/9/24 22:26:37) No.33720 ┗Re:紫煙の幻影 6−麻緒 (2008/9/25 21:48:40) No.33721 ┗こんにちは−とーる (2008/9/28 15:44:35) No.33728
33637 | こんばんは | とーる URL | 2008/8/10 23:10:09 |
初めましての方もそうでない方もこんばんは。 多少お久しぶりなとーると申すものです。 そろそろ新しい連載でも……と思っていたのですが 色々と考えた結果「やっぱり続きを書こう」と思い至り、 去年の暮れに完結し終了しました、ゼロスが主人公である 『紫煙の幻想』の続編を始めようと思います。 この続編は番外編で書こうと考えていたのですが やはり番外編では収まりきらない部分も増えてきてしまい、 新しく連載をするという形に事にしました。 今回の主人公はゼロスではないのでご了承下さい。 話は最終話の翌日から始まります。 前回と同じく不定期連載となってしまいますが どうか温かな目で見守ってやって下さい。 それでは。 とーる 『紫煙の幻想』を知らない方へ。 これは降魔戦争時代をベースとしたゼロスを主人公とする オリジナルキャラ、オリジナル設定満載の連載です。 その続編となるこの話は『紫煙の幻想』“その後”ですので 読んでない方は分からない部分が出てくると思います。 なのでご注意下さい。 |
33638 | 紫煙の幻影 0 | とーる URL | 2008/8/10 23:20:39 |
記事番号33637へのコメント ―プロローグ― 漂う海。 漆黒の混沌。 『ほう? 望まなければ、決して滅べぬのではなかったか?』 楽しげにくすくすと笑う、威厳ある声。 誰もが逆らえはしない母の声。 膝を突き頭を下げる。 確かに望んでいたというよりも、 この結果は妥協を許した結果でしょう。 厳かな空気。 神々しい雰囲気。 重い威圧感。 首筋を冷や汗が伝う。 言い訳など許されはしない。 『まあ、よい』 よい? 思わず顔を上げそうになって自制する。 何がよいのでしょうか…私は役目の途中で 混沌へと還ってきてしまいましたのに。 『まだ辿りついてはいない。あと少しの所だったがな』 ……どういう事でしょう……。 私は…私はこのまま、混沌に沈むのでは……。 『眠りにつくのだ。次に目醒める時まで』 めざめる――、とき? 『その時まで輪廻で眠れ。 次の世は先の世よりも自由はきくだろうからな』 自由? 私にやりたい事などありはしないのですが……。 『お前にとって千年は長いか? 短いか? 全てが変わりゆく中で変わらぬものもある』 一体それは 『それを見れば自ずと分かるだろう』 どういう 『分かる時がくる。眠れ、輪廻の中で。次に目醒めた時、分かるだろう』 一体、それは、どういう事なのでしょうか。 たゆたう混沌。 廻る輪廻。 また眠りにつく我が身。 そして、流れ、目醒め、時を知れば、意味を知る。 我らが全てを生みだせし母のご意志を。 我らが主である王のご意思が。 『ま! どっちにしろあんたもかなり不甲斐なかったから、 輪廻に入る前にお仕置きフルコースだけどねー♪』 NEXT. |
33645 | 紫煙の幻影 1 | とーる URL | 2008/8/12 20:29:23 |
記事番号33637へのコメント ―夢想― 「……ゆ…夢にまで見るとは……」 飛び跳ね続ける鼓動を落ち着けるよう胸を押さえる。 柔らかな黒髪をゆらし、少年はゆっくり起き上がった。 ふと落とした目線にシワだらけのベッドシーツが目に入った。 昨夜はピンと張り詰めてとても清潔だったのに。 起きるまでの間、夢にどれだけ酷くうなされていたのかが 容易に分かるほどの乱れぶりだ。 息をついて目を閉じる。 その瞬間、瞼の裏で眩い金色が弾けたような気がして 慌てて目を開ける。 カーテンの隙間から差し込んできた朝陽が顔に当たったらしい。 もう一度だけ深く息をついた。 もそもそとベッドをだるそうに降りて顔を洗い、服を着替えて 身支度を調えると手荷物を持って部屋を出る。 食堂のある一階に降りると、すぐに宿屋の女将が少年に気がついた。 「おや! 早起きなんて偉いねぇ、うちの息子にもちゃーんと 見習わせたいもんだよ。お姉ちゃんはどうしたんだい?」 「お姉ちゃん朝に弱いんです」 「あれま。じゃあ先に朝食にしとくかい?」 「うん」 にこやかに話しかけてくる女将に笑顔を返し、 渡されたメニューを一通り見て告げる。 「クレムスの塩焼きセットお願いします」 「はいよ。コレ飲んで待ってておくれ」 「ありがとうございます」 テーブルに置かれたサービスのジュースにお礼を言うと 女将は笑って厨房へと入っていった。 こくりと一口飲むと濃厚な甘みが広がる。 絞りたてなのだろう。 窓の外に目を向けていると、ざわざわと人の声が増えてくる。 食堂にも宿泊客が次々と降りてきて良い匂いが満ちてきた。 「おまたせ! たくさん食べておくれよっ!」 目の前に置かれた料理からは、ほこほこと暖かな湯気がたっている。 女将は快活に笑い別のテーブルへ料理を置きに行く。 パリッとこんがり灼けた皮の下から、真っ白な身が出てくる。 ふぅふぅと冷ましながら口に運んでみると、丁度良い塩加減が 魚の新鮮な旨みを引き出していた。 「おはよー……」 かけられた声に少年が目線を上げると、 眠たそうな女性がぼんやりしながら目の前の席に座った。 「おはよう」 「んー」 本人的にはきちんと整えたつもりなのだろうが、 ポニーテールにしている黒髪は括った部分が少し乱れている。 ぼんやりしたまま女性は朝食を食べる少年を見やる。 「……あんたってホント朝早いわよねー。眠くないの?」 「だってちゃんと寝てるから。お姉ちゃん寝れてないの?」 「何言ってるの、ぐっすりよ。そりゃもう気持ち良いほどぐっすり。 ちょっと朝は起きられないだけで」 「方向音痴だもんね」 「ねぇ? 朝ちゃんと起きられないのに方向音痴関係ないと 思うんだけど? ねぇ?」 不満げな表情で少年をジト目で見やる女性。 しかし少年はまったく気にする事なく朝食を取り続けている。 「にしても、いつもより早いんじゃない?」 「ちょっと夢見て」 「へぇ、夢? どんな?」 首を傾げて続きを促す女性をちらりと見やる。 どんな夢なのか。 感想を口にすればどうなるのだろうか。 いや、こんな事を考えているのも空恐ろしい。 少年はわざと言葉を濁した。 「……ちょっと、ね」 「何よそれ」 不満そうに唸る声には申し訳ないが、この際無視させてもらうしかない。 そう考えた少年はせっせと朝食を食べつくしにかかる。 何せ朝になったばかりだというのに背筋が薄ら寒い。 これ以上は夢の話をするべきではないのだ。 それに言ったとしても女性に理解を求める事は出来ないだろう。 「そういえばさ、リヴィ? どうしてゼフィーリアなの?」 「リュフィお姉ちゃんもOKしたでしょ? 迷子になって、 ない路銀目当てに盗賊に襲われそうになってた時」 「うっ!」 「美味しいレストランあるって聞いて。行きたいなって思ったんだ」 「……ん? それって……」 リュフィが少年が言ったことに何か言おうとした時、 彼女のお腹からグーッと大きな音がする。 思わずくすっと微笑んだリヴィ。 照れ笑いしながらリュフィは朝食を注文の声を上げた。 骨が残る皿にフォークを置きリヴィは窓の外の晴れ渡る空を見上げて、 先日ぶつかってしまった神官を思い出した。 NEXT. |
33649 | 紫煙の幻影 2 | とーる URL | 2008/8/16 17:16:10 |
記事番号33637へのコメント ―ゼフィーリア― 「お姉ちゃん、ゼフィーリアってどんなとこ?」 「そうねぇ……。ああ、プラズマ・ドラゴンを包丁一本でしとめる人が たくさんいるわよ」 「すごいね。包丁一本だと僕はシーサーペントが精一杯だよ」 「……そうなんだ。」 ゼフィーリアへの街道を歩きながらリヴィとリュフィは そんな会話をほのぼのと続ける。 すれ違う人がその会話にぎょっとしてリヴィを見やる。 だが、彼はにこにこと笑顔を浮かべているだけでまったく気にしていない。 むしろ隣を歩くリュフィの方に冷や汗が伝っていた。 ちらりとリヴィを見下ろしてみると、朝は悪夢を見たらしく 真っ青な顔をしていたのに今は機嫌がいい。 思えばおかしな事だらけだとリュフィは思う。 ほんの十歳の少年が一人旅をしていて、あっさりと数十人もの 盗賊を追い払い、とりあえず家はどこなのかと聞いてみたら答えはなく 『ゼフィーリアに行きたい』などと。 それでも王都まであと少しという場所に来るまで疑問に 思わなかったのは、リュフィがゼフィーリアでそんな人を 多く見てきたからだった。 さすがに見た事もない魔術を使っていたのには驚いたが。 「でもお姉ちゃんの家はサイラーグなんでしょ?」 「そーよ。着々と復興してるわ」 「何でゼフィーリアに住んでるの? ……もしかして迷子になって路銀が つきて途方にくれてた時に、僕がしたように助けてもらったとか?」 ぎくりと動く肩。 あからさまな動揺にリヴィはくすくすと笑った。 「あっ見えたわっあれがゼフィーリアよっ」 ぎくしゃくと腕を上げてリュフィは前をびしっと指す。 リヴィがその先を見ると、少し先に街道と町とを隔てる壁が見えてきた。 壁の遠く向こう側に城が建っている。 「……あれがエターナルクイーンが治める国か」 「? 何か言った、リヴィ?」 ぽつりと呟いたリヴィにリュフィは首を傾げる。 しかしリヴィはにっこりと笑って、首を横に振った。 「何でもないよ」 二人は外壁で許可を得て、ようやくゼフィール・シティへと 足を踏み入れた。 街中できょろりと辺りを見回したリヴィは、 店先で果物の陳列をしている男に目を止めて話しかけた。 「すいません、リアランサーっていうレストランはどこにありますか?」 「お、坊主は観光か? リアランサーはここを真っ直ぐいった広場を 右に曲がって二つ目の角を左に曲がった所だ。店の脇に武装した奴らと 魂抜けたような奴らがずらーっといるからすぐ分かるぞ」 「ありがとうございます」 「おう、そうだ。リアランサーにはすげぇ人がいるから良かったら 会ってきな」 「……すごい人?」 それは会わないようにしていた人。 今まで会わなかった人。 今まで会おうともしなかった人。 存在だけは知っていて、それでも姿を見ようとはしなかった。 ―― “今まで”は。 「坊主は勘が良さそうだから、店に行けばそれが誰の事か分かるさ。 ほれ、りんご持っていきな」 真っ赤に熟れたりんごをリヴィの手にぽんと乗せて、 男は楽しげに笑った。 それにつられたリヴィも微笑んだ。 「ありがとうございます」 もう一度男にお礼を言って待っていたリュフィとその場を 後にすると、リュフィが少し拗ねたような声を出した。 「ちょっとリヴィ。何で私に聞かないの?」 「お姉ちゃん、リアランサーまでの道分からないかなって」 「な」 ちょこんとリヴィが首を傾げてみせる。 すると、拗ねていたリュフィは憤慨したようだった。 腰に手をあてて踏ん反りがえる。 「分かるわよっ! 私はそこでバイトしてるんですもの!」 「……何でエルメキアの近くにいたの?」 「…………仕入れの途中で」 「迷子になったんだね」 「………………私クビは決定だわね」 遠い目をしながらリュフィは乾いた声で笑った。 道中でも見てきたがどうやらリュフィの方向音痴は そこまで酷くないものの、目的地の場所が遠くなるほど 迷いやすくなるらしい。 リュフィによるとそれは生まれ持ったものであったらしく どうにも直しようがないという。 土地勘をすぐに掴めるリヴィにはその辛さが分からない。 ふと目線をずらすと行列が見えてきた。 NEXT. |
33656 | 紫煙の幻影 3 | とーる URL | 2008/8/23 02:39:37 |
記事番号33637へのコメント ―初対面― リアランサーへの道を尋ねた男の言った通りだった。 店の横にはガッシリとした鎧を纏う兵士や黒いマントを羽織る 魔道士達がずらりと並び、その横を魂が抜けたような顔で ぞろぞろと帰り行く行列がある。 帰る行列からはぶつぶつと「あっさりと……」「自信失くした……」 「包丁一本…剣士辞めようかな」「必殺技がたかが木の枝で……」などと、 まるで呪詛のように聞こえてくる。 「あーらら。あの人達がいかに歴戦だとはいえ、 まだだーれも勝った事なんてないのに」 リュフィはその光景を見慣れているらしい。 行列に聞こえないようにぽつりと小さく呟いた。 二列に並んだ人々の横をリュフィとリヴィは歩いて店へと入る。 がやがやとしていてにぎやかなものの喧騒などはなく、 店の中はとても良い雰囲気で満ちていた。 トレイを持って厨房から出てきたウエイトレスが二人に気づいて にこやかな顔をして近寄ってきた。 「いらっしゃいませー…って、リュフィじゃないの! あんた今頃戻ってきたの? すでにクビになってるんだけど」 「はう! やっぱりですか!?」 「当たり前でしょう」 呆れたようなウエイトレスにリュフィは涙を流す。 するとカウンターの横にあるドアから一人の女性が入ってきた。 カラン、という音にリヴィは振り向く。 肩上で切りそろえられた紫黒の髪と黒い瞳。 リヴィはその女性を見て一瞬だけ微笑む。 女性はそれに気づかず、リュフィを見て目を見開いた。 「あら、リュフィじゃない」 「ああっルナさーん! 私のクビどうにかなりませんかっ!?」 縋りつくリュフィに溜息をつくルナと呼ばれた女性。 えぐえぐと目を潤ませて、リュフィは祈るように見上げている。 しばし考えたあとで、ルナはすっと店の外を指差した。 「あれ全部…そうね、リュフィの実力なら三十分。 その間にちゃんと終わらせてきたら店長に言ってあげる」 「やってきますー!!」 リュフィは猛然と立ち上がって店を出て行く。 リヴィはリュフィがバイトする理由を聞いてはいないが どうやらそこまでしてもバイトを辞めたくないらしい。 ルナはその場に残ったリヴィを見る。 するとふと目を見張った。 しかしすぐに、空いていた奥のカウンター席へ案内する。 ルナからメニューを受け取るリヴィ。 その姿にルナは少し複雑そうに微笑みながら訊く。 「……あなた、もしかしてあたしと同じ? 気配がそっくり」 その言葉にリヴィはメニューから視線を上げる。 ルナの顔をじっと見て首を横に振った。 そしてにっこりと笑う。 「……いいえ。残念ながら私はスィーフィード・ナイトでは ありませんよ、ルナ=インバースさん」 「あら? そうなの?」 「私はリヴィオル=セストルーク。貴女の対の存在です」 「え」 リヴィの言葉に絶句するルナ。 はっと我に返ると慌ててついっと周りを見回す。 だが、どの客達もウエイトレス達もこちらを気にしていない。 ほっとルナは嘆息する。 そして苦笑してリヴィに言った。 「バイト……早く上がらせてもらうわね。話がしたいわ」 「ええ、だから私もようやくここまで来たんです」 ルナはメモ帳を取り出してサラサラと家の住所を書く。 綺麗に紙を破るとリヴィに手渡す。 そして丁寧に注文を聞くとオーダーをしに厨房へ戻っていった。 くすり、とリヴィは笑むと周りの客達の会話に耳を傾かせた。 しばらくしてルナが料理を運んできた。 まさにその瞬間、バタンと店のドアが開いた。 二人でドアの方に振り向く。 するとそこには肩で息をついているリュフィ。 満身創痍ではないものの、疲れた様子で立っている。 少しだけ髪や服が焦げていたり切れていたりした。 「ルナさぁああああん、三十分以内で終わらせましたぁああああ!!!」 「そ。じゃあ約束だから店長に言ってあげる」 「あっ! ありがとうござ」 「クビになったリュフィがようやく帰ってきましたって」 「ええええええっそんなああああああああ!!!!!!!!!」 ショックを受けて座り込むリュフィ。 誰もがからかっていると分かるだろうに真に受ける姿に、 他のウエイトレス達や客も呆れたように微笑んでいる。 どうやら彼女は“昔の自分”とはまったく違って、 人間関係は良好なようだとリヴィは思う。 最も、リヴィは自分から関わろうとしなかっただけなのだが。 NEXT. |
33661 | 紫煙の幻影 4 | とーる URL | 2008/8/28 01:46:14 |
記事番号33637へのコメント ―使命と思い― ルナ達のお情けでバイトの再採用が決まったリュフィと別れ。 昼食を食べ終えたリヴィは、渡されたメモにしたがって そこに書かれた住所へと足を進める。 数人に尋ねながら歩いていくと雑貨屋が目に入った。 看板に『インバース商店』と書かれた店先に、 黒髪の若い男が火のついていない葉巻をくわえて座っている。 年齢を判断しかねる見た目だ。 「すみません」 「お、らっしゃい。坊主は見ねぇ顔だな?」 人懐こい笑みを浮かべる男。 つられてリヴィはにこっと微笑んだ。 「ルナさんに用が会ってリアランサーに行ったんです。 バイトを早く上がるから先に家に行っていてくれと言われまして」 そう言いながらリヴィはメモを見せる。 男は少し驚く。 しかしリヴィの年端に合わない言葉遣いは気にしなかった。 「おお、ルナに用事かぁ。坊主みたいな奴が用事たぁ珍しいな」 「そうですか?」 「ルナに用事があるって来るのは、ほとんど勝負を挑みに来る奴か 国や神殿のお偉いさんばっかりだからな」 苦笑して肩をすくめる男にリヴィは苦笑する。 スィーフィード・ナイトであると隠していない身では仕方ないだろう。 男に招かれて家の中へ上がるとルナの母親であろう 優しそうな栗色の髪の女性が紅茶を淹れてくれた。 こくりと口にする。 まるでリヴィの好みを知っていたかのような飲みやすさ。 思わず女性を見上げるとふわりと微笑まれる。 しばらくしてルナが帰ってくるとルナの両親は 二人を居間に残して店先へと出て行った。 「さて……改めて自己紹介するわ。あたしはルナ=インバース。 赤の竜神の騎士(スィーフィード・ナイト)よ」 「私はリヴィオル=セストルーク。 赤の竜神の神官(スィーフィード・プリースト)です」 その言葉にルナは大きく息を吐いた。 それもそうだろう。 リヴィが名乗ったその名。 それは今まで表に出てこなかった名なのだから。 ルナ……スィーフィード・ナイトの影の存在。 スィーフィードの意思のみをその身に宿し、法則に平行する力を 使う事を許された唯一の存在。 世が知れば人は騒ぎ出し、魔はひたと隠していようが危機とする。 それゆえプリーストは常に存在を隠すのだ。 今までは。 「―― どうして、今?」 「実は私は、前世でそうとは知れず魔族に殺されて」 「は!? プリーストが!?」 「ええ」 驚くルナにリヴィは軽く頷く。 この様子ではルナはスィーフィードの記憶は持っていないようだ。 記憶を持っていれば何をして殺されたのか分かったであろうに。 しかしながら、それをくわしく話す気はなかった。 「混沌に還った後」 びくりとルナは肩を震わせた。 記憶は持っていなくとも存在は知っている。 「……あの御方がわざわざ輪廻に入れて下さって」 「そっそうなのっ」 「ええ……」 ここでお仕置きされたと言っても記憶にないルナは 混乱するだけだろうと推測をつけリヴィは簡潔にそう言う。 あのお仕置きフルコースがあり、覚えていれば面倒だからと 前世で封じていた記憶を全て解除されてしまった。 今ではスィーフィードの事からあの御方の事まで思い出せる。 「そ、それで。前世は不甲斐なかったから現世では ちゃんと働くようにと言われてね」 「……大変ね」 「公にいた君ほどではないけれどね……」 「……どっちもどっちよ。あたしは面倒な事は妹に押し付けてるし」 遠い目をしながるルナは乾いた笑い声を上げる。 だが、リヴィはその魂に受けたお仕置きフルコースを 繊細に思い出してしまって嘘でも笑う事は出来なかった。 また目の前に金色が弾けた気がした。 とても眩い光が。 ルナとの対面を果たし、これからも暇が出来れば会う事を約束して 紅茶を飲み終えたリヴィが立ち去ろうとする。 するとルナが何かを思い出したように呼び止めた。 「急ぎの用事がないなら妹に伝言を頼んでいいかしら?」 「妹…ああ、リナ=インバースさんだったね」 ルナが頷く。 「またヴラバザード派がリナにちょっかいかけようとしてるらしいのよ」 「……ふぅ。反省しないね、ヴラバザードは……仕方ないね。 分かった、伝えるついでに私からちょっとお仕置きしておくよ」 「ありがとう。じゃ、また」 「ええ、また」 “また”。 それは前世で一度も使わなかった言葉だと、 リヴィはゼフィーリアを出てしばらくしてから気がついた。 NEXT. |
33679 | 紫煙の幻影 5 | とーる URL | 2008/9/4 19:31:20 |
記事番号33637へのコメント ―眷属達― ゼフィーリアを出てしばらく街道を歩いていく。 リヴィはきょろりと辺りを見回して、人通りを確かめる。 誰も通りかからない時を見計らって近くの森の中へと道をそらす。 街道から目が届かない場所までくると、 ようやくリヴィは立ち止まった。 「さて……」 リヴィは虚空に手を伸ばす。 すると手の中に鮮やかな紅の宝玉のついた杖が瞬時に現れた。 しかしその素材は木ではなくオリハルコン。 前世で使っていた木製の杖を今はあの青年が使っている。 彼がどうしてあんな姿をとっているのかは分からない。 だが、彼がそれを選んだのならリヴィに何かを言う権利はない。 「リナ=インバースさんはどこにいるかな?」 トンと軽く地に杖先を打ちつける。 すると宝玉から光りが灯り一つの筋を作った。 示された先は――。 「……セイルーン、か」 リヴィは頷いてくるりと杖を軽く回す。 そしてもう一度トンと地を打った。 「移転」 瞬間。 宝玉からその色と同じ鮮紅の光が溢れてリヴィを包む。 「とりあえず、近くの森にでも降りようか」 風が吹いた刹那。 リヴィの姿は森の中から消えていた。 セイルーンへと続く街道。 その森の中にふっと大きな鮮紅の光が虚空に灯る。 そしてその中から出てきたのはリヴィ。 音を立てる事もなく地に降り立つと、光は唐突に消えた。 歩き出そうとしたリヴィはふと立ち止まる。 獣の唸る、吠える耳障りな声が聞こえたのだ。 そしてそれに混じって女性と少年の声が。 きびすを返してリヴィは方向を変えた。 しばらく行くとはっきり声が聞こえてくる。 どうやらレッサーデーモンの群れに襲われているらしい。 木々の間から目線を送ると金髪の女性が水色の髪の少年を庇いつつ メイス形状のモーニングスターをぶん回している。 しかし相手は下級とはいえデーモン。 簡単には倒れず、何度も立ち上がってくる。 それにキレたのか、女性は口を開いて大きく息を吸う。 嫌な予感を覚えたリヴィはトン、と地を打った。 ちゅどんッ!! いきなり倒された全てのデーモンに女性と少年は唖然とする。 リヴィは手の中から杖を消す。 そしてわざと音を立てて二人の前に姿を現した。 「大丈夫ですか?」 「……え?」 「たちの悪い野良デーモンに襲われたみたいですね」 リヴィは首を傾けて言う。 それに、はっと我に返る女性と少年。 「あ、ありがとう」 「いいえ……さすがに森の中でレーザーブレスは、と思いましたので」 苦笑するリヴィに女性は顔を赤く染める。 近づいてみれば女性と少年が人間ではなく変身した竜だと分かる。 しかも女性の方は伝言に関係ありそうな気配をし、 少年はとても希少な気配だ。 気配と言った所で、記憶を持っている今のリヴィには 二人がどの眷属かすぐに分かるのだが。 「そ、そうですね。私とした事がつい……」 焦る女性の後ろから少年が出てくる。 「悪いな…助かった」 「たまたま通りかかっただけですけどね」 「おい、フィリア。何か礼をした方がいいだろ」 少年の見た目はリヴィと同じくらいの年齢だったが、 やはり同じようにその見た目に似合わぬ言葉遣いで話す。 リヴィの話し方に驚かないのはそのせいだろう。 そうして少年が女性を見上げると女性は大きく頷いた。 「もちろんよ、ヴァル。私達はこれからセイルーンに行くのですが、 そこでご飯をおごるというのはどうでしょう?」 きっと二人は昼食がまだなのだろう。 少し前にリアランサーで食べてきたリヴィはまだお腹は 空いていないものの断るのも失礼だと思い、同意する。 そしてフィリアとヴァルと名乗った二人とともに セイルーン・シティへと向かう事になった。 セイルーンへと入り食堂を目指して歩いていくと、 ざわざわと広場がにぎわっている。 何か見世物でも行われているのかとリヴィは思ったが 周りの野次馬達の煽る声からしてどうやら喧嘩のようだ。 「インバース・ロイヤル・クラーッシュ!!」 ドゴゴリュッ!! 痛そうな音がした。 NEXT. |
33720 | 紫煙の幻影 6 | とーる URL | 2008/9/24 22:26:37 |
記事番号33637へのコメント ―再邂逅― 「この生ゴミぃ!!」 「何ですかでっかいトカゲのフィリアさん!?」 先ほどからこのやり取りの繰り返しだ。 ヴァルは呆れた顔、栗色の髪の少女と金髪の剣士は 慣れたような顔で二人を眺めている。 リヴィは内心楽しげに眺めていた。 フィリアとは会ったばかりでよく分からないが、 それ以上にゼロスは見ていてとてもとても面白い。 出逢った頃…約千年前とはまったくの別人だ。 これは彼にとって良い変化だと言ってもいいのだろうかと リヴィは小さく苦笑する。 女魔道士にこてんぱんにのされた男達は警備兵に突き出された。 そしてパンパンと手を叩いて埃を払っている所に 少女とフィリアの目がばっちりと合ったのだ。 「リナさんっ!」 「フィリアじゃないの!! 何、どしたの!?」 「ええ、今日は――」 そして気づいたのだ。 リナの後ろ金髪の剣士、その横に黒衣の神官がいる事に。 そして始まる多大な口喧嘩。 リナの大暴れを見学していたギャラリーは 今度は二人の喧嘩を野次馬している。 賭けをするような声も聞こえてくるが喧嘩する二人には まったく聞こえていないのだろう。 「ヴァル、そろそろ止めないとフィリアさん見境なくすのでは?」 「……それもそうだな」 盛大な溜息をついてヴァルはヒートアップしたフィリアを止めに入る。 それにゼロスがきょとんと首をかしげる。 そして、やおら納得顔をするとぽんっと手を叩いた。 「ああ、ヴァルガーヴさんですか。記憶をお持ちなんですねぇ」 「……ちっ。ヴァルガーヴじゃねぇよ、ヴァルだ」 ぜぇぜぇと肩で息をつくフィリアを下がらせながら ヴァルは苛立たしげに舌打ちする。 なるべくゼロスを見ないようにして背を向けた。 くすくすと笑うゼロスはふいにリヴィに気づく。 目があって、にっこりと微笑むリヴィにつられたのか ゼロスもにっこりと完璧な微笑み返した。 瞬間、笑いのツボに入るリヴィ。 「(あっ、あんな顔、私っ……)」 しかしそれは表にはせずに内にしまいこむ。 完璧な子供の顔で頭を下げた。 「こんにちは、神官様」 「こんにちは。ええと……この間の子ですよね?」 「はい、覚えててくれたんですね」 嬉しそうに答えるリヴィに苦笑するゼロス。 それにリナが胡乱気に問いかけた。 「何よゼロス、あんたその子と知り合いなの?」 「いいえ。ここに来る途中でぶつかってしまった子です」 「僕の不注意で転びそうになったんです。フィリアさん達とは街道沿いの 森で会いまして、ここまで一緒に。僕はリヴィといいます」 ぺこり、と頭を下げるとリナは肩をひょいっとすくめた。 「へぇ、そうなの? あたしはリナ」 「俺はガウリイ。よろしくな、リヴァ」 「リヴィです。……あの、リナさん、という事は……貴女が リナ=インバースさんですか?」 首をかしげて問いを返してみる。 するとリナは首を傾げた。 そしてきょとんとしながら問いかけた。 「あたしの事を知ってるの?」 「リナ、お前さんドラマタって有名じゃないか」 スパーンッ!! スリッパの良い音が辺りに響く。 かなりの早業。 彼女の手すら見えなかった。 その事にリヴィは思わずくすりと声をたてる。 それに、こほんっ、と一つ空咳をするリナ。 そしてリヴィに目線を合わせるようにしゃがんだ。 こうして、自覚なしに子供に優しく出来る所は美点だろう。 「で。あたしは確かにリナ=インバースだけども?」 「貴女に伝言を預かってきました」 彼女の澄んだ紅の瞳を真っ直ぐに見つめながらリヴィは言う。 “彼女”とは少し違った色。 だがとても綺麗だとリヴィは思った。 曲がった事が嫌いな、強い意志を持った瞳だ。 「あたしに伝言?」 「はい」 にっこりとリヴィは笑んだ。 「貴女のお姉さんから」 瞬間。 ずざぁっと青ざめたリナは何事かをわめきながら ガウリイの後ろに隠れて彼にすがりつく。 お姉さんという言葉に心当たりのあるようなフィリアと、 首を傾げるのはゼロスとヴァルとガウリイ。 それを見てゼロスは知らなかったのだろうと検討をつけた。 「貴女のお姉さん…スィーフィード・ナイトのルナ=インバースさんから」 ゼロスの顔が引きつった。 NEXT. |
33721 | Re:紫煙の幻影 6 | 麻緒 | 2008/9/25 21:48:40 |
記事番号33720へのコメント とーる様、こんばんは。 久しぶりに小説を拝見し、一人でにやけています(かなり怪しいですが・・・) やっぱり、リナにとって姉ちゃんは鬼門のようですね。 >「あたしに伝言?」 >「はい」 >にっこりとリヴィは笑んだ。 >「貴女のお姉さんから」 >瞬間。 >ずざぁっと青ざめたリナは何事かをわめきながら >ガウリイの後ろに隠れて彼にすがりつく。 ↑その光景が目に浮かんできます。笑 >お姉さんという言葉に心当たりのあるようなフィリアと、 >首を傾げるのはゼロスとヴァルとガウリイ。 >それを見てゼロスは知らなかったのだろうと検討をつけた。 >「貴女のお姉さん…スィーフィード・ナイトのルナ=インバースさんから」 >ゼロスの顔が引きつった。 そして、リヴィはゼロスの反応をみてきっと楽しんでいますよね。 私も楽しいです!! 次回の更新を心待ちにしています!!!! |
33728 | こんにちは | とーる URL | 2008/9/28 15:44:35 |
記事番号33721へのコメント どうも麻緒さん、こんにちは。 『幻想』を終えてしばらく間を置いてはいましたが こうしてまた続きを始める事にしました。 >リナにとって姉ちゃんは鬼門 一生涯、ルナはリナが唯一勝つ事ができないでしょう。 もちろんそれは過去にお仕置きされてきた畏怖の根底でもあり、 姉として尊敬している相手だからこそですね。 >リヴィはゼロスの反応をみてきっと楽しんでいますよね。 >私も楽しいです!! はい、その通りです。 ゼロスの姿や性格などに驚きつつ、からかっております(笑 変わったのはゼロスだけではなくリヴィもですね。 前世は人をからかうような性格ではなかったので……。 楽しんでいただけて嬉しいです! これからも読んでいただければ光栄です。 コメントありがとうございました。 とーる |