◆−昨日で終わった時間旅行? 14。−氷紅梦無 (2008/11/25 19:52:17) No.33834
 ┣昨日で終わった時間旅行? 15。−氷紅梦無 (2008/12/3 19:15:28) No.33847
 ┃┗Re:昨日で終わった時間旅行? 15。はじめまして!−のこもこ (2008/12/3 22:09:11) No.33848
 ┃ ┗ありがとうございまぁすっ!−氷紅梦無 (2008/12/9 11:15:26) No.33867
 ┗昨日で終わった時間旅行? 16。−氷紅梦無 (2008/12/25 20:18:53) No.33888


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33834昨日で終わった時間旅行? 14。氷紅梦無 2008/11/25 19:52:17


『昨日で終わった時間旅行?』
十四。

「だからわざわざ助けたんだよ?」


 道すがら、青年からこの街の事を聞いた。

 この街は、秋海が住んでいる街である事。
 つまり、秋海は時間だけ移動して、場所としては移動していないという事。

 ゆっくりと外来語の割合が増えて行き、今では単語の七割以上が外来語……だが文法としての特性は日本語のままだという事。
 貨幣単位は変わっても価値自体はあまり変わらないので、数字だけ読めば秋海でも価値がだいたい判断できる事。

 そして、今日が十二月三十一日……大晦日である事。

 【フェスティバル】についても聞いた。
 十二月三十一日、大晦日。ロータリーの高度を合わせて繋げて作り上げる、街を貫く巨大な一本の道。その周辺一体を会場として年明けまで騒ぎ倒すという、まさしく街をあげてのお祭り。

 その証拠のように【フェスティバル】の会場である『道』の上空一帯は基本的に飛行車(空飛ぶ自動車の通称)の通行は禁止。線路の踏み切りのように渡し場を通るか、ロータリーよりも高度を下げてくぐるしかないらしい。しかも午後十一時から午前一時……つまり年越しの間は『道』の下を通る事も禁止されていた。

 どうやら年越しのイベントの為らしいが、どんなイベントなのかは『お楽しみ』と言って教えてくれなかった。

「まぁ、楽しみがあるのも良い事だよね」
「うー? ドウしました、シューミ?」
「ん? ……楽しみだな、ってさ」
「はい! もうスグ!」

 そんな事を言葉のつたない青年から聞いているうちに、ずいぶん【フェスティバル】の近くまでやって来たらしい。街の中心をうねりつつ貫く一本道、【フェスティバル】の会場へこれから降りるという人々と共に、会場に一番近いビルのエレベーターに到着した二人である。

 『道』の上空は飛行車通行禁止とはいえ、『道』以外のロータリーから続く屋上なのでギリギリセーフ、と考えられているらしい。秋海達が着いた屋上には先ほど循環バスが着地したし、タクシーらしき飛行車も近くをぐるぐると飛んでいる。会場への直通エレベーターがあるのならなおさら、といった所だろう。

 空を見上げれば、飛行車の通行が禁止されているためか、空の異物を気にせず大輪の花火が笑んでいた。腹の底に響くような轟音を連続でとどろかせ、白銀の柳が空になびく。カスミソウのように小さな、だが数の多い火花が二色に分かれて咲き乱れた。
 おぉ、と呟いた秋海の横で青年がくるりと身を回した。

「シューミ、【フェスティバル】を見てください!」

 片言から敬語混じりになった口調で声を上げた青年は、いつのまにか屋上の端、手すり付近で秋海に手招きをしていた。どうやらそっちから会場が見下ろせるらしい。確かに、下りてしまえば上からの情景とはそう見られないものだろう。
 エレベーターが当分来ない事を確認し、秋海もそちらへゆっくりと歩いていく。

 柵にもたれて下を見下ろす人達は同じくエレベーター待ちの人々で、暗い空の下に並び、下方からの明かりに照らされてぼんやりと微笑んでいた。
 秋海は、楽しいのはいい事だよねぇと思いつつ、青年の隣に並び、彼と同じように柵にもたれた。

「………これ、は……」

 正直に言おう。
 秋海は、見えた情景に呑まれていた。言葉を紡ぐのが無意味に思えたのだ。

 その光景は、言うなれば『大きな道』だった。
 ただでさえ巨大なロータリーをいくつも繋げて、街を貫く一筋の『道』にしてある……そう何度も聞いてはいたが、実際に見ると確かに道だとしか形容しようがない。
 こうする事を予定して建設を行ったらしい周辺のビルは、そろいもそろって途中口がぴったりの高さ。会場からエレベーターやエスカレーターを経由する事なくビル内に入れる。ロータリーにも継ぎ目はほぼ見えないし、その上にずらりと並んだ出店が元々は別のロータリーだった事を忘れさせた。
 幅の広い道の両端に夜店が並び、その明かりで道の形がはっきりと解るのだ。夜店の暖色系の光が下から走り、ビルは実際以上に高く見える。
 時折ある店の無い場所は、中心に街灯の立った広場。休憩所のような物なのだろう。

 ……その割にはベンチらしき物が見えないのはなんでかな?

 ふとそう思った秋海の横で、青年がエレベーターの方を振りむいた。
「あ、シューミ! きたのです、エレベーターが!」
「え? あぁホントだね」
「早くっ! ひとは多いです!」
 言いたい事だけ言った青年は、秋海が答えるよりも早くきびすを返し、光を吐き出す鉄の扉へと駆け出していた。
「んー……、走らない方が良いと思うんだけどな」

 大勢の人間が乗り込んで行くエレベーターへと、秋海もゆっくりと歩き出した。




 ぽぉん………と、人でぎゅうぎゅう詰めの箱の中に柔らかい音が響いた。

 重そうなゆったりとした動きで、しかし滑るように無音で分厚い扉が開いて行く。同時に飛び込んでくるのは、薄い闇と黄色がかった光。今も昔も変わらない、夜店特有の、月にも似た暖色。それに圧され、薄れ、黒と言うにはぼんやりとし過ぎた薄闇。

 駆け込んだ青年と少々離れて乗り込んだ為、秋海は真っ先にエレベーターから吐き出された。どやどやと散っていく人並みから少しだけずれ、奥に居るであろう青年を待つ。
 目の前を行きすぎる華やかな人々の服装は、数時間前までの『秋海の常識』から外れているが、もはや見なれている。理解できる事の無い言葉のざわめきも、そういうモノだと受け入れてしまえばどうという事は無い。そもそも内容が解っても解らなくても群集のざわめきとはどこでも同じなのだから。

 やがて全ての乗員を降ろし、エレベーターは空っぽのまま扉を閉じた。屋上やロータリーに戻ろうとする人々は居ないらしい。
 ……このお祭りは『年越し』の【フェスティバル】らしいし。確かに宵の口から家に戻る人はあまり居ないよねぇ。
 秋海はさっきの青年からの説明を思い返し、自分で納得してうなずいた。

 そこへ、若干力の無い青年の声がかかった。
「いました、シューミ……」
「やぁ」
 エレベーターは広かったが、定員オーバーだろうと判断していた。それでもまだ屋上には人が残っていたし、これからも増えるのだろう。そういう時間帯に当たってしまったのは不幸として割り切った。まぁ定員オーバーになっても扉が閉まればそれでいいと思ってしまうのは日本人の国民性らしく。
 奥のほうで人に圧迫された青年が疲れていたとしても少しも不思議には思わなかった秋海である。



「えーと。
 つまりは地図です」

 もみくちゃにされたダメージからは立ち直ったらしい青年は、そう言いつつリュックをあさった。
 やたらと長い時間をかけて取り出したのは、小さめのクリアファイルが一枚。リュックを背負いなおした青年が適当とも取れる無造作さで表面を叩けば、透明な面の中央を縦に一筋の光が割り、それをめくるように画像が広がった。
 クリアファイルの中でまず目を引くのはうねる長い筋。所々に小さな丸が書いてあるのは街灯だろう。幾つかに色分けされつつ、ファイルの端から端まで通っていた。左端の先にはオレンジのスペースが、右端の先には緑のスペースが繋がっていた。色違いのスペースにポツリと書かれた単語は、隣街の名前なのだろう。
 本当に【フェスティバル】のためだけの地図らしく、会場である『道』と両端にある夜店、道に繋がっているビル、あとは交通手段として巡回バスの航路と、『道』を横切る一本の線路ぐらいしか書いていない。

 青年は筋の中心から少し左寄りの位置に人差し指をつき、
「【フェスティバル】は広いのですよ。いまがここなので……そうですね、こっちに歩きたいのです」
 すーっと右端まで動かした。右端の緑のスペースを二回ほどつつき、終着点である『道』の端を拡大して見せる。
 ぷっつりと途切れる形の『道』の終わりは、拡大されても同じだった。長方形の一辺のようにすっぱりと切れ、その先はやはり緑色に塗られている。緑色の中に文字が浮かんでいたが、当たり前のように読めない。
「ここに何かあるの?」
「うー、ある……………………けれども、ぼくには、説明がやりたくないので」
「説明したくないの? 【フェスティバル】の『年越しのイベント』と同じ理由かな?」
「う、そう言うことも、できないという訳ではないのでした」
「じゃあ、楽しみがまた一つ増えたって事で良いかな?」
「はい。……ありがとうございました、シューミ」
「んー。何でお礼を言われたのか解らないから素直に言いにくいけど……どういたしまして、って言っておくね?」

 青年は一瞬だけ、何故か虚を付かれたような顔をした。
 だがそれもほんの一瞬だけで、またへらっと子供じみた笑顔を見せる。その笑顔は何かを誤魔化しているように見えたが、……色々隠して成り立つのが人間関係だしね、と気にしないようにした秋海である。
 そんな思考が回っているとは気付かず、青年は地図と現実の道の方角を合わせて進行方向を決定し、地図をリュックの中へと仕舞った。
「それでは、観光にっ!」
「出発ーっ!」
 青年が拳を突き上げた暗闇の空に、秋海もそろって左の拳を突き上げた。



 観光行軍が足を止めたのは、そう距離を行かない内だった。
 袖を引かれる感触に秋海が振り返れば、青年がとある屋台に目をむけていた。そして、提案を言葉に出して来る。

「シューミ、アレやりましょう!」
「………残金の心配は? あんまり持って無いんでしょ?」
「一回なら平気なのでしたっ! お米を考えると……あれ? あ、ご飯を考えると、三つずつぐらいが妥当なのです!」
「えぇと……遊べるのは三回ぐらいが限度って事?」
「イエス! あ、えーと、はいです。値段はけっこう同じですからー。
 ……う、シューミ、別のがいいのでしょうかね? ちがう時間らしく、わからないのですとか」
「うぅん。お祭りに来たらまずはやりたい物だから……丁度いいよ。どう違うのか興味もあるしね」
「そうですか? それじゃあ、はいです! 一個分なのでしたよ」

 青年から見覚えの無いデザインの硬貨を受け取り、秋海はうなずいて進行方向をずらした。

 秋海達がむかうのは、特に黄色い明かりがこうこうと点いた、客に硬貨と引き換えにライフルを渡している店。昔ながらの覆いの奥には棚が据えられ、燻し銀のライターやら尖ったロボットが描かれた箱やらぬいぐるみやらと無節操に置かれている。
 客はそれらにむかってライフルを構え、次々に発砲して行く。

 倒せば勝ち。

 ルール説明のいらない、昔ながらの射的屋だった。


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33847昨日で終わった時間旅行? 15。氷紅梦無 2008/12/3 19:15:28
記事番号33834へのコメント
『昨日で終わった時間旅行?』
十五。

「はは……うん、ありがとうね。助かった。…………あぁ、そういえばたまにくれた飴とかガムとかのお菓子って、射的で取ったの? 合流した時リュックが膨らんでて驚いたんだけど」



 すぅ――――……と、音がわずかに遠のいた。集中した時の慣れ親しんだ感覚。指先の照準と視線がリンクする。
 薄暗い背後とオレンジの光に溢れた目の前との落差にふと微笑み、的にむけて心の中でごめんねと呟く。痛みを感じるかはともかく、やはり弾を当てる事に対して罪悪感が多少ある。みためが可愛らしいと言って差し支えないのだからなおの事だ。
 だが、そうする事しか出来ないのは事実。せめて一度だけで済ませたい。先ほどまでの様子見で弾の軌道や感覚は掴めた。後は決心と実行のみ。

 息を軽く吐き、止めた。
 『的』の中心線上、やや高めに狙いを定め、凧上げの時のひもを操るようにじわりと指先に力を込める。
 それはそのまま、弾丸へと発射許可を下した。


 ぱきん、と乾いた音がした。柔らかそうな見た目とは裏腹に硬質ガラスのような音を立てたそれはゆらゆらと揺れ、やがてゆっくりと後ろへと倒れた。


「……ふぅっ」
 真っ直ぐに伸ばした腕の延長のように構えられていた細長いライフルをおろし、秋海は息をついた。

 と同時に周囲のギャラリーからどっと歓声と拍手が湧き上がる。
 地元の夏祭りではよく山ほどの景品を取って妻に渡したりしていたが、いかんせんこちらではライフルの精度が違いすぎたり銃身が軽すぎたり弾が速いので放物線を描いて飛ばなかったりと差異が多すぎた。おかげで感覚を掴むのに時間がかかり、六発も受け取ったのに結局最後の一発しかまともに仕留められなかった。
 ……ちょっぴり不満だけど……、一つでも取れただけよしとしようか。
 うん、と頷いて屋台のおっちゃんから景品を受け取った。

 両手で抱えるのにちょうど良い、白っぽいアリクイみたいなぬいぐるみである。―――――……まぁ、アリクイにしても手足が短いし尻尾も長めなので体型的にはトカゲ似だが、もこもこしている毛皮は、妙に手に馴染む感触だった。
 黒いつぶらな瞳を真正面から覗きこみ、にっこりと笑ってそれを頭に乗せる。秋海的には肩車をしているつもりだが、ぬいぐるみの後足が短いので秋海が頭を抱えられているようにしか見えない。
 しかし、嬉しそうな秋海に周囲の人々もつられて笑ってしまう。 
 ひとしきりぬいぐるみを撫でまわし、ふと秋海は気付いた。
「あれ………あの子が居ない」

 気が付きはしたが、まぁ戻ってくるよね、とあまり気にせずぬいぐるみを軽く放り投げ、体の前で抱きなおした。




 そのころ、『あの子』こと青年は、

「えいっ」 ぱこかこんっ――――……ぽててっ

 順調に九、十個目の景品をゲットしていた。………まだ四つほどしか弾は使っていない筈なので屋台のおっちゃんが泣きそうだ。
 跳弾を狙っていくつかの小物をいっぺんに落とすとゆー夜店で披露すべきではないスキルを全開にして、青年はなんだかんだで楽しんでいるようで。ついでに軽めのおやつ確保でもと考えていたりする。軽いメロディーをハミングしつつ、ライフルに無造作に新たな弾を込めた。
 食品を主軸とした新たな獲物達に狙いをつけ、適当に引き金を引きながら呟く。

「んー。しゅーみはどっちに行ったのだっけ。……あ、あそこかな?」

 わ、と。
 歓声の上がった別の夜店を振り返った。


 あといくつぐらい取ろうかなー、とか屋台のおっちゃん泣かせな事を考えながら。




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33848Re:昨日で終わった時間旅行? 15。はじめまして!のこもこ 2008/12/3 22:09:11
記事番号33847へのコメント

はじめまして!氷紅さま!
のこもこというものです!
オリジナルのものでも、キャラクラーの個性がたっていて面白いです!
秋海さんめちゃツヨっ!
『青年』奏人だとおもうんですけど、射的スゴっ!
跳弾で商品次々ゲットして、屋台のおっちゃん・・・・・・商売とはいえ哀れな。
ロス・ユニの世界のサイ・エネルギーが、思わぬ形で出てるし。
果たして秋海は爆睡している息子と、溺愛している妻のいる時間率の日本に戻れるのか!?
楽しみにしています!!

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33867ありがとうございまぁすっ!氷紅梦無 2008/12/9 11:15:26
記事番号33848へのコメント

 えー、今回はこの長いのをお読み頂きありがとうございました。
 あまつさえコメントを頂けた事、心より感謝いたします。

 では返レス行きます。

>はじめまして!氷紅さま!
>のこもこというものです!
 どーも始めましてのこもこさん。氷紅梦無と申します。
 いやー、読んで下さっている方が居られた事に驚きつつ感謝感激雨あられ。超☆スローペース更新で年を越さないと終われない事確定ですが、見捨てずにお願いいたします。

>オリジナルのものでも、キャラクラーの個性がたっていて面白いです!
 ……あー、これ実はオリジナル物という訳ではないですよ?
 「ロストユニバース」の世界観を借り、外宇宙への進出はしていても、まだヴォルフィードが発掘されていない頃、ということにしています。だから精神力とか出てくる訳ですね。
 国によっては植民地(星?)確保に躍起になっています。日本は平和っぽいけどどうしているんだろう? 見えないだけで植民地開拓を推し進めてるんでしょうか。

>秋海さんめちゃツヨっ!
 僕の趣味ですね。つかみどころが無くて軽めのノリなのに実力はあるという。
 この体術自体は家……親から受け継いでるし、一種自己流に近いはずなのに、なんでこんなに汎用性高いんでしょう?

>『青年』奏人だとおもうんですけど、射的スゴっ!
 はい、奏人で正解です。そっちも読んで下さったようでありがとうございます。まだ名無しなので青年としか呼びませんが。ここは時間軸、および青年的には「ここから始まる時間旅行!」の前なので、奴はまだ睦に会ってません。

>跳弾で商品次々ゲットして、屋台のおっちゃん・・・・・・商売とはいえ哀れな。
 射的の弾でそんなにうまく跳弾するのかって疑問は感じないで下さい。
 おっちゃんの哀れは食料品をこまごまと置いた事。箱菓子の多さで選ばれたのです。

>ロス・ユニの世界のサイ・エネルギーが、思わぬ形で出てるし。
 思わぬというか何というか。前述の通りこれはロスユニの世界観なので。この先にもちょろっと出てきます。かなり先ですが。

>果たして秋海は爆睡している息子と、溺愛している妻のいる時間率の日本に戻れるのか!?
 そして戻る先の時間ではまだ息子は生まれていないという!

 いやその……実はこの物語、大半が秋海の回想なのです。わかりづらいですが。

『息子が生まれる数日前→超未来に飛ばされて、色々やって帰って来た日』の事を、
『息子が時間を飛ばされて、彼に会って帰って来た日』―――……つまり「ここから始まる時間旅行!」の終了後に思い出しているのです。

 故にこの話は続編であるにもかかわらず前回よりも時間軸は前であり、しかしその結果はやはり前回の後に帰結する。ゼロでありUであるというややこしい事になっています。

 ……すみません、馬鹿馬鹿しいほどわかりづらいですね。文章力が足りないよぅ……。

>楽しみにしています!!
 頑張りますので待ってて下さい!(笑
 長いです! 掛かる時間も内容も!

 ……しかし、以外に秋海の愛妻ぶりって伝わるもんなんだなぁ……。

 氷紅梦無でした。
 それでは、またの機会に……

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33888昨日で終わった時間旅行? 16。氷紅梦無 2008/12/25 20:18:53
記事番号33834へのコメント

『昨日で終わった時間旅行?』
十六。

「うん。あーゆーの得意なんだよ、ぼく。………キミのほうも、でっかいの持ってておどろいたよ」




「あ、シューミはっけんっ」

 もう一回勝負をいどむ軍資金もなく、射的屋のそばでアリクイもどきのぬいぐるみを弄っていた秋海の元に、別行動をしていた青年の声がかかった。
 顔を上げた秋海だが、人波の壁がある現状のために青年の姿は見えなかった。しかし秋海は射的屋のそばから離れて人の流れの中を歩き出す。
 秋海は、もう青年の位置ならつかんでいるのだ。

 決して誰にでも出来るわけではないが、人ごみの中で見失った人を探す時、連れの気配や歩幅や呼吸の間などをつかんでおいて、それで探したほうが早い。本当に誰にでも出来るはずがないが。
 元々は格闘技術についてきた副次効果だったが、こういった祭りの中でも妻の位置を確実につかめるので重宝していた。
 彼女はしっかり者のくせに方向音痴なわけでそーゆーところが非常に可愛らしく――――……人ごみではぐれてしまった時の涙目の妻を思い出し、若干幸せな気分になった秋海である。

 まぁそれはともかく、秋海自身は青年の方向と距離を適当につかんでいたので、むこうが探しあぐねているなら自分が行こうと思っていた。だが、むこうも自分と同じく視覚のみに頼らない判別方法があるらしい。

 ……はぐれにくい組み合わせだなぁ。

 むしろはぐれるという事が出来なさそうな組み合わせだと秋海は思い直した。自分と青年が相手を見失う事があるのなら、それはどちらかが本気で隠れようとした時だろうと思う。

「うん、……こっちも発見」
 あげた声が途中でつまり、呼び名が無いのが少し不公平に思えた。
 そういえば彼を呼ぶ時はどうすればいいのだろうと今更ながら思う。話しかけるだけならば適当に声をかければすむのだが、遠くにいる人を呼ぶのは名前が一番手っ取り早い。
 ……んー、あんまり別行動しない方が良いのかなぁ。少なくとも話しかけられる距離には居た方が良いかもね。
 とりあえず今後の行動方針を立てたところで、ようやく目視で確認できた青年に並んで歩き出す。

「どう? 景品とか取れた?」
「うん、いっぱい! シューミは………取れたんだ」
 トーンが落っこちた最後の一言は、腕の中の白いアリクイもどきを言っているのだろう。秋海は笑い、
「まぁ、これ一つしか取れなかったけどね」
「うー……そんなでっかいコを取れてるんならじゅーぶんだと、ぼくは思うんだ」

 青年はそう言いつつコートのポケットを探り、白い袋を取り出した。秋海の知っている物とは違ってガサガサという音がしないが、どうやらビニール袋に近いらしい。ばさりと振ると以外に大判で、アリクイもどきがすっぽりと入ってしまうほどだ。
「はい」
 と差し出してきた所を見ると、ぬいぐるみを入れるために取り出したようで。

「すっごく白いし、汚れるのもかわいそうだよね」
「あぁ……、ありがとう」
 礼を言って袋を受け取り、汚したりしないように白い体を入れる。背中を丸めた姿勢で入れたため、短い四肢で腹部をかかえるような姿勢になった。つぶらな瞳とあいまってちょっと微笑ましい。

「あ、ねぇ、あれは何のお店?」
「う? えと………、タイヤキ。ないぞーがアズキの魚」
「んー、その言い方は直接的で解り易いけど若干怖いね。
 ……あっちは?」
「うー……、あ、たこ焼き。ちっちゃいタコに小麦粉とかをまぶして、鉄板ではさんでじゅーって」
「………。それはたぶんタコ煎餅の事だよね? 江ノ島辺りで売られてた気がするんだけど」

 出店の前にいる人波で、何を売っているのかはよく見えない。せいぜい湯気から暖かい食べ物系かそうでないかを見分けられるぐらいだ。
 故にノボリや看板、出店特有の垂れ下がった屋根などに書いてある文字から判断するしかないのだが、前提条件として秋海は文字が読めない。よって青年に通訳してもらう事になるのだが、青年は青年で秋海に通じる言葉がつたない。
 とは言え、最初の単語を並べたような状態からは格段に成長を遂げているので、後は固有名詞を間違えなければ済むようなレベルにまで来ている。
 今の会話で必要なのは確実な固有名詞であるが、後から付け加える説明のおかげで大した混乱は起きていない。逆に秋海が名詞の間違いを指摘できる程だ。

「あ、あれは何? あの黄色い屋根に赤い字の」
「えーっとね、……………んー……、学校の、給食。それをだすところ」
「給食屋? ……へぇ、そんなのが出来たんだ」
「けっこう古いよ。開店……んー、五百年目だって」
「……。それ、もしかしてその一軒しか無い超マイナー店舗なんじゃないかな……」
「超マイナーてんぽ? …………、うんと、そうかも。【フェスティバル】でも一軒しか知らないし……」

 しばしの沈黙。二人そろって白い息だけを数回つき、その分だけの距離を進む。
 なんとも形容しがたい沈黙を破り、秋海がまた夜店を指差した。

「あぁ、あれは何かなっ」
「あ、あれ? お面を売ってるとこだねっ。ホログラムだから、つけてる人の表情を再現してくれるんだよっ」
「へぇ、それは素直に凄いなぁ」
 若干無理にはしゃいでいるあたり、いたたまれないと感じたのは二人ともだったらしい。








「あ。――――……ねぇ、シューミは、いっぱい食べるほう?」
 青年がふと思い出したようにそんな事を聞いてきた。ちょうどソースの匂いのする屋台のそばを通った時だったので、文字通り本当に思い出したのだろうが。
「……えぇと、食事の量で良いんだよね? それなら結構食べる方」

 わりと細身の部類に入る秋海だが、不思議なほどによく食べる。
 男性は基本的に皮下脂肪は薄いものだが、秋海は体脂肪率が成人男性の平均に比べても極端に低く、その代わりの体積は筋肉が占めている。そのせいで消費エネルギー量が段違いであり、彼は見事に『やせの大食い』となっている。

 ……まぁ、『燃費が悪い』とも言える気がするけどねぇ。

 秋海自身の家族は父、秋海、姉……と、母親を除いた家族が全て体術を修めていた為、基本的に大食い家族だった。
 それ故にあまり食事量を気にする事はなかったが、学校生活の中で『不思議な物を見る目』で見られたことは幾度となくある。成長期で大飯食らいの男子の中で浮くほどなのだからよっぽどだろう。
 男子だからこそ浮く程度で済んだが、女性である姉はどれだけ奇異の目で見られたのだろうか、と今さらながらに思う秋海である。

「あ、おんなじ。ぼくも、けっこう食べるほう。……じゃあ、やっぱりこのくらい残してせーかい、かな?」
 言いつつ青年が開いた財布の中身はよく見えない。実際の金額を聞いてみる。
 返って来た答えにいっそ納得した。

 秋海とて、自分が祭りの場……物価が高い場所で飲み食いの全てをまかなうとどれだけの金額が必要かは把握している。しかも、青年が自己申告通りに秋海と同等の食事が必要ならば、それの×二。
 青年の歩き方等を見ていると明らかに何か体術を修めており、秋海と似たような理由で食事量は多めだろう。つまり自己申告にもそこまで狂いがあるとは考えにくい。それに、秋海に解るように青年にも秋海の技量は測れるはずだ。その秋海と同等の食事量と言い切るのだから、彼もやはり『やせの大食い』と見て間違いない。
 それを考えると、青年の持つ金額は妥当と言えた。夜通し続く祭りとなればなおさらだ。

 そこまで考え、秋海は口を開いた。
「うん、正解か……ねくしっ」
 途中でくしゃみが混じって変になった。今さらながらに風の冷たさに当てられ、秋海は軽く鼻の下をこする。無意識に近い動きだったが、横を見ると青年がえらく驚いた顔をしていた。
「…………。ど、どうかした?」

 ……何かおかしい事でもしたっけ? 風邪が根絶されるにはもう二、三百年ぐらいは掛かったと思うし、まだくしゃみは珍しくない筈なんだけど。
 内心首をひねった秋海だが、青年の答えは、

「……シューミも、くしゃみするんだ……」

 やけに呆然としたこの口調はさすがに秋海も受け流せなかった。
 秋海は溜め息をつきつつ、

「あのね……。僕を何だと思ってるのかな君は? 僕だって風邪ぐらいひくんだよ?」

 秋海としては自分が(やらかす事はともかく)体質的に人間から外れた覚えはないので、このあたりはしっかり指摘しておきたい。怒りよりは悲しみのほうが強いが。
 そもそも、秋海は十一月の半ばから十二月三十一日の夕方まですっ飛ばされているのだ。深まって行く冬の寒さは一ヶ月でケタ違いになる。秋海自身、今現在の防寒装備はコートぐらいで、手袋もマフラーも持ってきていないのである。気温差に慣れる事はできても対抗する事は無理だ。
 ――――……それでも長時間屋外に居てくしゃみの一つですんでいるのは体力由来の力技だと思われるが。

「え、あ。……ごめんなさい、シューミ」
 秋海の台詞を聞き、青年はぺこりと素直に頭を下げた。さすがに失礼過ぎたと思ったらしい。
「………ん。素直に謝ったから許す」
 秋海の言葉を聞いてほっとしたように頭を上げた青年は、ついでに背中からリュックを下ろした。射的で取ったらしい景品で若干膨らんで見えるそれをごそごそあさり、たっぷりの時間をかけ、三度ほど中身を落っことし、ようやく目当てらしい物を引っ張り出した。
「これ、貸しだします! 貸すだけで、あげられないけど」

 差し出されたのは真っ白いマフラーだった。

「あ、ありがとう」
 大人しく受け取る秋海だが、やけに強調されていた『貸しだし』が気になった。あげられない訳でもあるのだろうか。
「これ、シューミの時代じゃぜったい売ってない。だから、持って帰るのはだめ」
「そうなの? ………見た目は変わらないんだけど」
「こーすると変わるよ」
 青年は言いつつマフラーの端についたタグをこする。

 すると、ピッという音と共に空中にパネルが飛び出した。……いや。うっすら透けて見えるあたり、立体映像なのだろう。
 青年はパネルに表示されている三本のバーを無造作ともとれる動きでいじった。

「え? う、うわっ」

 珍しく驚いた声を上げたのは秋海だ。
 青年がパネルをいじると共に、マフラーが純白から黄緑色へと変わってしまったのである。腕の中にある物体の色が変わっていく様は正直不気味である。さすがに驚いた。
 少々楽しそうな顔をしている青年は、秋海が驚いたのが楽しいのかくすくす笑い、三原色……赤、青、黄の色味や濃淡を決めるバーに指を当て、
「シューミは何色がすき? 色だけなら、何色でもいーよ」
「あ、柄とか模様はマフラーに固定なんだね。で、色が変更可能という事で良い?」

 青年がうなずくのを見て、秋海は少々ほっとした。『色だけ』と指定をつけるという事は、柄は変わらないらしい。柄まで所有者がいじれてしまうと、マフラーの製作側が企業としての創意工夫が入りづらい。
 それはなんと言うか………おもしろくない。

「うん。今、僕が持ってるのはコレだけだけど、チェックとか、しましまとか、絵がかいてあるのも売ってるよ。一キロぐらい先だっけ、服の店群……。
 あ、手編みのために毛糸もあるし、色が変わらないのもあるからね」
「へぇ……」
 いまだにコロコロと色が変わるマフラーを改めて撫でると、柔らかく軽く暖かい。素材としても品質が上がっているようだ。
 それはともかく……

「えぇっと、そろそろ僕が弄って良いかな? ……君、僕の上着が黒だって忘れてるよね?」

 どうも青年の色彩感覚は当てにならないという事を理解した秋海である。


◆◇◆