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33973 | 紫煙の幻影 11 | とーる URL | 2009/3/27 19:09:39 |
―その場所― ゼロスに八つ当たりをしたリナの気が済み、 ミルガズィアとメフィを加えた一行は 火竜族の一派が集まっているという場所を目指した。 二人によればここからそう遠くはないらしい。 久々に会った二人と話をしていくリナ達と ミルガズィア達の背を見つつ、 リヴィはそれとなく辺りに目線をくばる。 確かにこの近くに気配はないのだが、 もう少し遠くの方に行けば竜族の気配がある。 しかしリヴィが気になっているのはそんな事ではなかった。 “場所” が問題だったのだ。 「(……何と言う必然だろうか……)」 偶然を超えた必然だろうか、 介入されての必然だろうかリヴィには分からなかった。 しかしどちらも同じである事に変わりはない。 「リヴィさん? どうかしました?」 「……え」 黙り込んでいたリヴィに気づいたのか。 ゼロスがひょいっと振り返って問いかけてくる。 リヴィは少しだけ目を見開く。 だが、すぐに首を振って微笑んだ。 「いいえ…少し考え事していただけですよ」 「そうですか?」 「はい、ありがとうございます」 「いえいえ」 ゼロスは一つ頷いて、また前を向いて歩き出す。 その後姿にリヴィは視線を向ける。 初めて会った時にはとても無表情で無感動で、 人間など分からないという様子だった。 なのに、こうして千年後には。 まさかこんなにも変わっているとは思いもしなかった。 魔族としての中身は変わっていない。 変わったのはその思考の有り方だ。 何を楽しみ、何を受け止め、何を行うのか。 ただ一つとして分からないのは、 何故わざわざその姿をしているのかだったが―― その疑問すらリヴィにとっては嬉しい事だった。 「見えてきましたわよ、リナさん」 「……あれなの?」 「そうだ。奴らはあそこを根城にしているらしい」 三人の声にリヴィは意識を思考から戻す。 そして目に映した。 前方に見えてきたのは一見すればただの洞穴。 けれど土にまみれて同化し、今にも崩れそうな石柱が 洞穴の横に二本見え隠れしている。 きっと、ここは神殿であると誰かに言われなければ ただの荒れ果てた遺跡にさえ見えるだろう。 草木は所々枯れ落ち、大地は所々えぐれている。 極めつけは神殿から少し離れた所に 浅いクレーターが出来ていた。 リヴィはその有様を見て胸の内に苦いものが浮かぶ。 ちらり、と気づかれないようにして ゼロスの横顔を見てみれば少し驚いたような顔をしていた。 「何よこれ。まるで戦いのあとじゃない?」 「それにしては古い痕跡だ。草木の枯れも最近ではない」 「荒れてんなぁ……」 怪訝そうにリナが周囲を見渡して言えば、 ミルガズィアも頷いて近くの枯れ枝に触れて眉をひそめた。 ふいに地上に大きな影が差す。 大きなはばたきの音のあと、声が轟く。 「貴様…リナ=インバースか!」 全員が上空を見上げれば、 何頭かの竜が旋回して地上に降りてくる。 その声が聞こえたのか神殿の中からも 何頭かの竜がすばやく外に飛び出してきた。 そしてリナを認めると何の言葉もなく闘志をたぎらせる。 ガウリイがリナをかばうように彼女の前に進み出た。 ミルガズィアが何事かを言おうとしているが、 この状態で何を言おうとしても彼らの雰囲気では 全てを打ち消し容赦なく攻撃をしかけるだろう。 何をしても無駄だと感じとったリナ達は 顔をしかめて戦闘態勢に入った。 ―― しかし、一同は目を見開いた。 緊張感が走り抜ける両者の間に 一人の子供が平気な顔をして入ってきたのだから。 「さて…ここにいる火竜族はリナさんを狙っている。 それはリナさんを排除すれば、害なる存在が いなくなるという事でいいんだね?」 静かに問いかける金髪碧眼の子供。 火竜族達は何も言わなかったがリヴィは返事を訊かなかった。 答えなど態度ですでに分かりきっている。 にっこり、と可愛らしくリヴィは微笑むと 手を虚空に伸ばす。 音もなく出てきた杖を掴むとくるりと回して、 トンと軽く地面につく。 たったそれだけの動作。 しかしたったそれだけの動作で周囲の空気が震えた。 びくり、と目を見開く火竜族達。 彼らは何に気づいたのか。 震えに気づきながらもリヴィは何も口にはしなかった。 ただ多少の呆れを含んだ声色で、彼らに言い放つ。 「ちょっとお仕置きの時間にしよう」 NEXT. |
33974 | 紫煙の幻影 12 | とーる URL | 2009/3/27 19:45:17 |
記事番号33973へのコメント ―威圧― 火竜族の者達は何も言えなかった。 たった一人の子供を前にその視線に威圧されていた。 子供はただ杖を地に打ちつけただけだというのに、 その瞳や言葉気配に圧倒されてしまったのだ。 とてもあどけない幼きその姿からは、 まるで想像もつかないほどのプレッシャーが放たれる。 強いプレッシャーに気づいたリナ達も、 後ろで唖然としながらリヴィを見つめている。 十歳ほどの子供が放とうとして放てるものではない。 「だいたいね」 リヴィは呆れたように溜息をつきながら 手にした杖をくるくると回す。 「考える事が出来る生き物は、学習するものなんだよ。 学習するから少しずつ成長していけるからね。 動物だって人間だって、種族は違えどそれは同じ事だよ」 くるくる。 くるくる。 手の中で遊ばれているように軽く回される杖。 宝玉は仄かに赤く光り始めていて、 リヴィに回されるたびに光が円を描く。 呆れから悲しげな表情をしてみせたリヴィは 深く深く溜息をついてみせた。 「過ちと知ってなお進み続けるのは矜持か意地か、 それとも愚か者か。さて、君達はどれに当てはまるのかな?」 杖を回すのをぴたりとやめて、 ゆっくりと静かに微笑んでみせるリヴィ。 ひゅんっ! 軽い音を立てて杖を空へと振り上げた。 その姿はまるで、今まさに、 断罪の刃を振り下ろそうとするかのような。 「―― この場所を選んだのは本当に残念な選択だよ」 微笑んだままリヴィは杖を地に強く打ちつけた。 瞬間、広場全体が紅の色を帯びた風によって完全に隔離される。 閉ざされた広場はまさに結界そのもの。 「なっ……!!」 「これは!?」 一言の呪文もなしに行われた不可思議な魔法に リナ達からは思わず驚きが喉から漏れる。 特にゼロスは、笑顔など忘れさるほどだった。 リヴィはゆるりとした緩慢な動作で火竜族を眺める。 「さて? ここにいるのは幹部の下あたりだね? ……リモード君、イシュティル君、ベンセイオ君、 フェカーノ君、ジヴィレット君、それに……」 一匹ずつ杖で示しながら、次々と名前を挙げていくリヴィ。 凛とした声に硬直していた火竜族の瞳の中に、 いよいよ畏怖の色が混じり始めた。 存在感に耐え切れなくなったのか 一匹の竜が硬直を振り切ってリヴィに向かい火炎を放つ。 「リヴィ!!」 はっと我に返ったリナ達だがすでに遅く。 火炎の渦がリヴィに襲い掛かり、 姿を呑み―― 込もうとするより早い動きで リヴィは杖を地に打ちつけた。 「風豪の断絶」 ゴォオオオオウッ!! 火炎の渦とリヴィの間に風の壁が吹き荒れて、 渦の行く手を阻む。 ゼロスは思わず開眼してリヴィの背を見つめる。 小さい背はかつての背を思い出させるだけでなく、 かつてかけられた声まで聞こえそうになる。 ふいにリヴィが振り向き、 ゼロスに向かってにっこりと笑った。 「後ろにいてね」 「……っ!」 昔かけられた言葉とほぼ違わぬ言葉だ。 荒れ狂う風に炎がかき消されると同時に防壁は消える。 すでに幾度目になろうか、 リヴィはまた杖をくるりくるりと回した。 「さて……お仕置きの内容はどうしようか」 ことんと首を傾げるリヴィだが、 ゼロスは今までの行動全てがお仕置きになっている気がした。 現に火竜族はすでに硬直を通りこして、 畏怖を宿していた瞳が恐怖に変わりつつある。 「竜族だから浄化なんて効かないだろうし、 ただの魔法を使った所で……ね」 しかし、最初のように周辺に向けて放っているのではなく、 綺麗に火竜族達だけに向けられていた。 「魔族ならいくらでもお仕置き内容が浮かぶけど」 そら恐ろしい事を言われてゼロスの口元がひきつる。 ちらりと視線を向けるリヴィと視線がかちあう。 くすりと笑われ、ゼロスは確信犯だと伺えた。 「―― やっぱりここは主犯に来てもらおうかな」 答えをもらうまでもなく、 リヴィは簡単な解決策を見つけたらしい。 くるくると回していた杖を振り上げて地を打った。 トン! 「ちょっと話をしようか、アルバロディス君?」 地面が赤く光り輝き、影が現れる。 光が収まったそこに呆然と座り込んでいたのは、 白いローブをまとった金髪の男だった。 NEXT. |
33978 | 紫煙の幻影 13 | とーる URL | 2009/3/31 22:48:40 |
記事番号33973へのコメント ―お仕置き― 「なっ…な……?」 「ア、アルバロディス様!!?」 口をぱくぱくと開閉させる男に、 火竜達は束の間硬直を抜け出して男のもとへと急ぐ。 己の部下達を見回し、辺りを見回す男の姿は 多少…いや、ずいぶん滑稽に見えてくる。 ふいにミルガズィアが声を上げた。 「アルバロディス!?」 「……そ、その声はまさか、ミルガズィア!?」 ぎくりと肩を動かしてミルガズィアを見やる男。 怪訝な顔をしてメフィが問う。 「おじさま? お知り合いですの?」 「うむ。アルバロディス……今は火竜族の重鎮だが 私が長になる前からの付き合いで旧知の中でもある」 「ミルガズィアがいるという事は、ここはドラゴンズ・ピークか!? 何故、私がそんな…いや何故お前達がここにいるのだっ!? リナ=インバースはどうした!!」 「い、いやあの、それが――」 唖然としていたアルバロディスは我に返る。 戸惑い、慌て、うろたえながら怒鳴ったアルバロディスに 部下達は困ったような泣き出しそうな声を出す。 立ち上がって砂埃を払い落とすアルバロディスに、 リヴィは声をかけて注意を向かせた。 「アルバロディス君」 「? 何なんだ、この無礼な子供は?」 「ひっ」 上司の冷たい声に部下達は震える。 先ほどの威圧感の恐怖を思い出したようだった。 くすり、と笑うリヴィ。 ゼロスはその笑みに嫌な予感が走る。 「学習も出来ず、無闇に芽を摘もうとする君の行いこそ 私はとても無礼なのだと思うけどね」 「なっ……」 それは明らかすぎる挑発。 顔をかっと燃え上がらせてアルバロディスはリヴィを睨む。 何とかそれを静止しようとする部下達だったが リヴィに視線を向けられて黙り込む。 たじろいで後ろへと下がりつつある部下の様子に アルバロディスはまったく気づかない。 「ミルガズィアさん、あいつ、いつもあんな風?」 「む……まあ、潔癖な男でな。認めた者くらいにしか それなりの態度はとろうとせんのだ」 思わず呆れたように問いかけるリナに、 ミルガズィアは苦りきったような顔で答える。 「思い込みも激しいようですわね」 溜息をついて呆れるメフィ。 ガウリイも頬をかりかりとかきながら頷く。 「力の差ぐらい分かってもおかしくないと思うがなぁ」 周りで交わされる会話を聞きつつ、 ゼロスはリヴィから視線を外せずにいた。 姿形は違えどその存在感を一度感じてしまえば、 もう子供が誰であるかなど疑問に思う余地はなかった。 頭をよぎるのは疑問ばかりだが、 それでも何故か納得してしまうのだ。 彼が悠然とここにいる事を。 もうだいぶ癖になってしまっているのか、 くるりと軽く杖をまわすリヴィ。 「そうだね、ちょっと悪夢でも見てくるかい?」 「悪夢?」 リヴィは回していた杖を空へと放り投げ遊ばせる。 光の円を描いていた杖はそのまま空へ飛び、 目の前に落下してきた瞬間に手に取る。 そして力強く地を打った。 「幻影の霧霞」 ブワッ!!! 宝玉から飛び出した淡い紅の霧が、 その場にいた竜達を次々と取り込んでゆく。 何とか避けようとしたアルバロディスも呑み込まれ。 その場にはしばしの静寂が訪れた。 もう一度、今度は軽くリヴィが杖で地を打つと 広場を囲っていた紅の風が消え、元の空気が戻ってくる。 さわりと木々がないだ。 「さてと」 ようやくリナ達の方へ完全に振り向いたリヴィは すっきりとした表情をしていた。 晴れ晴れともしている。 「しばらくの間はあのままにしておこう。 すぐに終わらせたらお仕置きじゃなくなるしね?」 にっこりと笑うリヴィだが、 その笑顔は子供のものではなく大人のものだ。 ここまできてリナはリヴィが出会った時の 子供らしさがない事にやっと気がつく。 「リヴィ……あんた、何物なの?」 「ん?」 リナが神妙な顔で問いかける。 それにリヴィはくすりと笑って口を開く。 「多分ルナさんと同じような感じじゃないのか? 二人の気配ってそっくりだしな」 そして名乗るより先にガウリイがさらりと言う。 ぴしりっと硬直するリナ。 首を傾げるミルガズィアとメフィ。 冷や汗を垂らしつつ苦笑するゼロス。 ほけほけとしたガウリイ。 耐え切れなくなったリヴィは思わず楽しげに笑い出し、 その後にリナの絶叫が森の中へと響き渡った。 NEXT. |
33984 | 紫煙の幻影 14 | とーる URL | 2009/4/11 17:29:03 |
記事番号33973へのコメント ―正体― 絶叫し終えたリナは顔をさああっ! と青ざめさせる。 リヴィはリヴィで未だに笑いが収まらないのか くすくすと続けている。 「ね、ね、姉ちゃんと同じっ!?」 慌てだすリナを見て、無理矢理ながら 笑いを引っ込めたリヴィはこほんと一つ空咳した。 そしてリナ達に向かって微笑む。 そして杖で地を打つとその場に柔らかなシートが敷かれ、 大きく丸いテーブルとティーセットが現れた。 「立ち話も何だからね。座って話そう」 いそいそとお茶の用意を始めるリヴィに戸惑いながらも それぞれおもむろにテーブルの前に座る。 全員のお茶を淹れ終えると、リヴィは一つ息をついた。 「とりあえずちゃんと名乗っておくね。私はリヴィ。 リヴィオル=セストルーク」 「……!」 ふいにゼロスがぴくりと片眉を上げる。 それに気づいて、嬉しそうにリヴィは笑う。 ゼロスは聞いたすぐそばから本名の意味が分かったのだろう。 リヴィの名前に何が隠されているのかが。 「ミルガズィアさんとメフィさんは知らないみたいだね。 リナさんのお姉さん……ルナ=インバースは “赤の竜神の騎士” (スィーフィード・ナイト) だよ」 ごぶばっ!!? 「げほごほごほげほごほほっ!!!」 「ごほごほごほっ!!」 飲みかけていた紅茶を思いきり噴き出す二人。 咳き込みながらぎぎぎ、とリナに視線を送るメフィに リナは青ざめたまま小さく頷く。 ミルガズィアは口元を拭きつつ冷や汗を垂らす。 「な、なるほど。リナ殿の周りに魔族絡みの事件が多いのも それなら確かに頷けるな」 「で……ですわね……」 「そこで納得されるのもアレだけどね……」 がっくり肩を落としてリナは溜息をついた。 そして今度はリヴィに視線を移すミルガズィア。 「ではガウリイ殿が言った同じとは――」 「ああ、それは少し違うんだ」 ぱたぱたと手を振って リヴィは続けられようとした言葉を否定する。 ガウリイは “同じ感じ” と言っただけで 断言したわけではないのだから。 それにしてもとリヴィは苦笑する。 隠していないとはいえよくそこまで気づけるものだ。 傭兵として養われたものか、 魂に刻まれた感覚かは分からないが。 「 “赤の竜神の騎士” とはその身にかの竜神の意思と力を宿し、 “赤竜の剣” を扱える人間を指す。それはリナさんが 一番分かっているよね?」 「そりゃもちろん」 過去の色々を思い出したのかリナはぶるりと体を震わせる。 「私はそうじゃないんだ。私のこの身にある竜神のものは かの意思のみ。だからカオス・ワーズを必要としない、 法則に平行する力を使える」 「それじゃあ一体、貴方は……?」 おそるおそる問いかけてくるメフィに リヴィはにっこりと微笑んだ。 「私は、ルナ=インバース、現 “赤の竜神の騎士” の対である、 “赤の竜神の神官” (スィーフィード・プリースト) と呼ばれる存在」 ごぶふうっ!!! ミルガズィア達と一緒にリナも紅茶を噴き出した。 唖然とする姿を想像していただけに 思わずリヴィはきょとんと首を傾げてみせた。 ゼロスも三人の反応に疑問を持ったのかぽかんとしている。 げほげほと咽ながらミルガズィアが顔を上げる。 「で、では貴殿がそうなのか!?」 「えっと―― 存在を知っていたのかい? 秘匿していたよ?」 世間に一言も知らせる事はなく常に正体を隠し、 影で存在してきた“赤の竜神の神官”。 知る者は皆無。 ―― で、あるはずなのだが。 目を瞬かせるリヴィにミルガズィアは 難しい顔で重々しく頷いてみせた。 「降魔戦争当時の “赤の竜神の騎士” 殿から一度だけ訊いた事がある」 「でもおじさま、エルフの間では有名ですのよ!?」 「あたしは…ディルスでその存在が書かれた文献見た事あるわ ……と言っても、数行だったけどね」 リヴィは思いもよらない発言にただただ驚いていた。 人と深く関わろうとしなかった前世までの自分。 深く信頼していた仲間にさえも打ち明けなかった真実。 それがごく一部とはいえ知られていた? ふと思い出す。 執拗に自分に会いたがった対の存在を避けていた事。 たまたまエルフの村一つを助けた事。 ディルスに立ち寄った時がある事――。 終結している、目覚めた千年後。 「ああああああああああああああああああああ」 全てを創造せし金色の母からあの時言われた事が、 今ようやく分かったのだった。 『次に目醒めた時、分かるだろう』 NEXT. |
34005 | 紫煙の幻影 15 | とーる URL | 2009/5/9 18:22:38 |
記事番号33973へのコメント ―意味― 夜になり、リナ達は近くの村へ戻ることになった。 リヴィは一緒に行くのを断り、その場に残るという。 首を傾げたものの明日の朝にまたここで 落ち合うことを約束してリナ達は帰っていった。 リヴィは近くの木へ寄りかかって口を開く。 「何と言おうか迷ってたよ」 おもむろに苦笑するリヴィの瞳は広場へと向けられている。 かさりと木々の葉が揺れた。 「でもね」 「どうして戻っていらっしゃったんですか?」 少し棘のある声が、続こうとした言葉をさえぎった。 枝葉を揺らしながらリヴィが寄りかかっていた 木の上から影が飛び降りる。 軽い音を立てて地に足をつけた青年。 けれど振り返らずに広場へと目を向けている。 逆にリヴィは目線を青年の背へと移動した。 気づいているだろうが頑なな雰囲気を崩そうとしない。 けれど態度は拒絶とも違う。 「ゼロス」 「何ですか?」 その証拠に呼びかけると返事をした。 「私だって戻ってくるつもりはなかったよ」 ぴくりとゼロスの肩が揺れる。 ゆっくりと空に浮かぶ満月をリヴィは見上げた。 そう。 ここに帰ってくるつもりはまったくなかった。 混沌の中に深く沈んで、もう目覚めることのない 永遠の眠りにつくのだと信じていたのだ。 目覚めないことを願ってさえいた。 けれどそんな安穏たる結果は許されなかった。 「今後は私もきちんとこの使命を全うしなければならないからね」 「…… “赤の竜神の神官” としてですか?」 「世にも珍しい “赤眼の魔王” の残留思念を持った、 “赤の竜神の神官” としてのね」 「!?」 頑なだった雰囲気を一瞬で消し去り、 ゼロスが驚愕の顔つきをしながら背後を振り向く。 目を見開いて呆然とリヴィを見やった。 しかしすぐに我に返る。 気まずそうに視線を泳がせた。 「あの時、魔力の本流に呑まれて私の記憶を見たんだろう? 私の身にはまだアレは残っているよ。あの時よりは 精神力が強くなって自我が消えることはなくなったけれどね」 「……そう、ですか」 「報告しなかったんだね」 「っ」 思わずリヴィが嬉しげな声で言った。 すると、ゼロスはむっと顔をしかめてまた背を向けてしまう。 まるで子供がいじけて黙りこむような姿だ。 答えてはくれないと知りつつ、 リヴィはどうしても訊いてみたかった。 「ねぇゼロス。どうしてその姿?」 それともゼロスは答えるのだろうか。 同じ言葉を投げるのだろうか。 あの時と同じ瞳をしながら、どこか苦しげに、 どこか焦るように “意味などない” と。 やはりゼロスは答えずに沈黙を保つ。 苦みが強い微笑みをこぼしてリヴィはまた月を眺めた。 今夜は月光が太陽のようにとても眩く輝いている。 「―― 意味など、ありませんよ」 ともすれば聞き逃しそうな呟きを落とした。 「意味などあるわけないでしょう? 僕がどんな姿をとろうが 意味などありません。誰を対象にして姿を変えようが、 何かを知りたくてこの姿になったのか。……それとも…… 貴方は全てに対して、意味が欲しいですか?」 静かな言葉。 ゼロスには先ほどのいじけた様子などまったくなかった。 もちろんその雰囲気には動揺も焦燥もなく。 目を瞬かせたリヴィは、くすくすと笑ってしまった。 「いや、必要ないよ。私にとっては君の姿が全ての答えだから」 「……そうでしょうとも」 ゼロスはくるりと振り向く。 ついっと杖先をリヴィに向けてみせた。 「けれど、都合の良い勘違いをなさらないで下さいね? 僕は―― 魔族なんですから」 リヴィの中にあるものをゼロスは上に報告しない。 しかしそれはリヴィのためでも何でもない。 命令されれば報告し、 “何か” あれば対処をする。 もちろん魔族の自分として。 最初から分かりきっているという表情で リヴィは簡単に一つ頷いてみせた。 「もちろん」 「なら構いませんよ。貴方が誰であろうとね」 リヴィオル=セストルークであろうと、 ルヴィリオ=セールクストであろうと。 “赤の竜神の神官” であろうと、 “魔王の残留思念を持つ者” であろうと。 正確にゼロスの言葉を受け止めたリヴィはもう一度頷いた。 未だアストラル・サイドへと帰ろうとはせずに、 ゼロスは木の上へと移転する。 その木に背を預けるリヴィ。 ゆっくりと過去を思い出しながら月を見上げた。 もう痛むことのない瑕を感じながら。 NEXT. |