◆−ただ、それだけの理由−セス (2009/8/20 17:45:06) No.34325 ┣ただ、それだけの理由 2−セス (2009/8/23 02:14:44) No.34333 ┃┣Re:ただ、それだけの理由 2−フィーナ (2009/8/23 17:03:36) No.34334 ┃┃┗Re:ただ、それだけの理由 2−セス (2009/8/24 19:28:02) No.34346 ┃┣Re:ただ、それだけの理由 2−kou (2009/8/23 17:56:23) No.34335 ┃┃┗Re:ただ、それだけの理由 2−セス (2009/8/24 19:30:46) No.34347 ┃┗ただ、それだけの理由 3−セス (2009/8/26 00:20:09) No.34354 ┃ ┗ただ、それだけの理由 4−セス (2009/8/28 15:04:20) No.34365 ┣ただ、それだけの理由 5−セス (2009/9/3 00:14:22) No.34394 ┃┣Re:ただ、それだけの理由 5−kou (2009/9/3 19:17:27) No.34395 ┃┃┗Re:ただ、それだけの理由 5−セス (2009/9/4 21:38:46) No.34404 ┃┗Re:ただ、それだけの理由 5−フィーナ (2009/9/4 00:17:49) No.34397 ┃ ┗Re:ただ、それだけの理由 5−セス (2009/9/4 22:06:32) No.34405 ┣ただ、それだけの理由 6−セス (2009/9/8 22:49:20) No.34426 ┣ただ、それだけの理由 7−セス (2009/9/11 19:07:09) No.34434 ┃┗Re:ただ、それだけの理由 7−フィーナ (2009/9/11 21:22:10) No.34437 ┃ ┗Re:ただ、それだけの理由 7−セス (2009/9/12 18:16:26) No.34449 ┣ただ、それだけの理由 8−セス (2009/9/12 19:30:02) No.34450 ┃┗Re:ただ、それだけの理由 8−フィーナ (2009/9/12 22:26:22) No.34453 ┃ ┗Re:ただ、それだけの理由 8−セス (2009/9/14 20:35:31) No.34461 ┗ただ、それだけの理由 8−セス (2009/9/18 00:56:25) No.34475 ┣Re:ただ、それだけの理由 8−ミオナ (2009/9/18 13:43:36) No.34476 ┃┗Re:ただ、それだけの理由 8−セス (2009/9/19 19:06:07) No.34479 ┣Re:ただ、それだけの理由 8−kou (2009/9/18 20:16:25) No.34477 ┃┗Re:ただ、それだけの理由 8−セス (2009/9/19 19:15:11) No.34480 ┗Re:ただ、それだけの理由 8−フィーナ (2009/9/19 23:49:53) No.34484 ┗Re:ただ、それだけの理由 8−セス (2009/9/20 17:59:38) No.34488
34325 | ただ、それだけの理由 | セス | 2009/8/20 17:45:06 |
はじめまして、セスと申します。 最近思いついて書いてみたものです。 某獣神官さんの話です。 色々拙い部分があって分かりにくいかも知れませんが・・・ ―――――――――― 冬の淡い陽光が、町からいささか離れた山の風景に緩やかに、降り注いでいた。この時期にこんな場所にわざわざ足を運ぶような物好きな人間などそうはいない。斬りつけるような冷風と、それになぶられる樹木の葉が鳴る音以外は、人の声はおろか、鳥のさえずり一つ、響かない。 冷え切った静謐な情景の中―― ふわりっ。 忽然と、虚空からにじみ出るように出現した影が一つ。 目をむくような異様な光景だが、周囲には人の姿などない。 「ええと、ここいらへん、ですよね・・・」 能天気な口調で言いながら、あたりを眺めているのは、先ほど出現した影― まだ若い男だった。せいぜいが二十歳前後ほどか。背は高からず、低からず。でっぷりと太っているわけではなく、ひょろりと痩せてもない。『中肉中背』という言葉そのままの体躯にまとうのは、神官たることを示す漆黒の法衣である。薄青い手袋をはめた手に携えるのは、赤い宝玉をはめこんだ杖だ。 顔立ちそのものは整っているが、これといって人目を引きやすい特徴に乏しい。印象に残るのは目鼻立ちよりは、むしろその白い面に浮かんでいる、おっとりとした微笑と、それを囲む、肩の辺りまでまっすぐに伸びる艶やかな黒髪ぐらいか。この若者が、実は獣王に仕えし高位魔族――闇に息づく人外の存在だと見抜ける者は、そうはいない。 「獣神官殿」 不意にかけられた声にあわてず騒がず、ゆるりと振り返る。 「あ、どーも」 白い面に浮かぶ微笑同様に、真剣みを根こそぎ欠いた口調で、呼びかけた相手に軽く会釈する。 女――こちらもまだ若い。二十代半ばほどであろうか。透き通るように淡い金髪は背中の半ばあたりまでさらりと伸びている。鼻梁の通った面長の顔の中で、墨を薄めたような灰色の双眸が、涼しげな印象を醸成している。 女性にしては長身の部類に入る身体は、宝石の護符をあしらった濃紺の衣服と皮手袋、漆黒のマント、と魔道士然とした装いに固められている。 「お待ちしておりました」 静かな口調で、淡々と告げる。年相応の闊達さや、覇気、活気といったものに乏しい――むしろ、泰然とした雰囲気が、まだ若い外見にそぐわない。まるで、老人が若者を演じているような――外見と雰囲気が合致していないような、ちぐはぐな印象を受ける。 「これから、目的の場所までご案内いたします。」 「いやー、すみませんね。」 「いえ・・・仕事ですから」 ともすれば、無愛想ともとれるひたすら淡々とした表情や口調にも、神官は気を悪くした様子はない。 「とはいっても、もともとは僕一人でやってるお仕事ですからね・・・まさか、あなたに手伝ってもらうことになるとは・・・」 「いえ・・・私も、写本の情報を耳にしたので、あなたにお知らせするべきだと」 ――写本。魔道士たちの間で単に『写本』という場合、こことは異なる世界からの、魔道に関する知識を集積した伝説の魔道書、異界黙示録(クレアバイブル)のことをさす。――実際の異界黙示録は、降魔戦争の際に滅び去った水竜王の知識の残留なのだが。 「いやあ、正直僕も助かります。」 神官はにこやかに笑んだまま、 「ただ・・・少し意外でした」 「?」 そのせりふを聞いて、薄い怪訝の色をにじませた表情を浮かべて神官を見やる。 「いえ・・・まあ、僕って魔族の中でも変わり者って噂されてますしね、あまり関わりたがる方がいらっしゃらないので」 「・・・はあ」 どう答えていいものか迷ってから、相槌を打つ。 「私は所詮、中級魔族にしかすぎません。上の方には従うだけです」 「はあ・・・なかなか生真面目な方ですねあなたは・・・」 神官は、間が抜けて見えるようにも見えるのんびりとした風情で相槌を打った。 ――魔法。本来、この世に有り得ぬはずの力。従来の物理法則をあざ笑うような、超越的な異能。野心のため、夢のため、保身のため――諸々の理由のために魔道関連の知識や道具を手に入れようとする人間は後を絶たない。 とはいえ―― 「何だって、人間はどこぞの邪教集団だろうが、貴族だろうが、分にすぎた力を求めたがるんでしょうね・・・結局は扱いきれずに、周囲を巻き込んで自滅するってパターンがほとんどなのに」 黒衣の神官は、いささか辟易したような表情でつぶやく。 「不可解です」 傍らにいた魔道士風の美女は、端的に答えた。冷ややかで怜悧そうな印象を受ける面差しには、何の感慨もにじんでいない。 「にしても・・・」 神官は、ぐるりと周囲―忍び込んだ屋敷の中、地下に作られた魔道研究室内―を見渡す。 「いかにも、お金かけてるって感じですね・・・さすがは貴族というか」 「はあ・・・」 本来金銭など必要ない魔族らしからぬ台詞に、女はいささか呆れたような声で応じた。 「・・・あ、ちょっとリナさん達に毒されてきちゃったかな・・・」 「は?」 自分の台詞がやけに人間くさいことに気づいてもらした独り言に、今度は間の抜けた声を漏らす。 「あ、いえ、こっちの話です、気にしないで・・・」 あはは、と意味のない愛想笑いでごまかす。 一見他愛のないやり取りに見えるが、その室内は常軌を逸していた。 一抱えほどもある太さを誇る、氷塊でこしらえたような、青みがかった透明なクリスタルの筒。その中に収められているのは――吐き気を催すほどの醜悪な異形たち。 上半身は人間だが、腰から下は木の根のような触手が緩やかにうねりながら伸びている女、ぬらぬらとした光沢を放つピンク色の肉塊に、仮面を貼り付けたように人の顔が備わっているもの、両腕を切り落として、変わりにいくつもの眼球を備えた触手を取り付けたような姿の男―― 常人が見れば即座に目を背けそうなおぞましい眺めだが、人の姿をした二体の魔は平然としている。 「さて、この屋敷のどこかにある、ということは間違いないみたいですが・・・どうしたもんでしょうか。いっそのこと、屋敷ごと焼き尽くす・・・ていうのも考えてみたんですが」 「ですがその場合、確実に写本を始末できたか確認するのが困難になります」 「そうなんですよねー、困ったもんです、はっはっは」 あくまでのんびりした笑顔でさらりと剣呑な案を口にする神官に、魔道士はやはり無機的な口調のまま、淡々と返答をする。 「うーん・・・おや?」 神官は不意に、何かに気づいたように首をかしげて 「・・・どなたです。そこにいるのは」 裡に異形を凝らせた透明なクリスタルの柱――その後ろにいるものに向かって呼びかける。 続 |
34333 | ただ、それだけの理由 2 | セス | 2009/8/23 02:14:44 |
記事番号34325へのコメント ほのかな衣擦れの音とともに、小柄な人影が歩み出る。 「・・・おや」 神官は、微かに目を見張る。 それはせいぜい十歳前後の少女だった。 透けるように明るい亜麻色の髪は、まっすぐに背中の半ばまで伸び、同年代の子供と比べてもやや痩せぎすな身体は、清潔だが飾り気のない白い病人服のような衣服をまとっている。アーモンド形の明るい緑の目は、不思議そうに神官と魔道士を見比べている。 まだあどけない面差しには、見知らぬ相手に対する恐怖や警戒など一片も浮かんではいない。 それどころか――表情というものがない。そもそも今まで気配を感知できなかったのは、殺気や敵意がないばかりか、気配そのものが生身の人間とは思えぬほどごく淡いのだ。 そして子供らしからぬ落ち着き払った様子より、一際目立つのは――細く尖った何か― 「角・・・?」 その額から生えている細く鋭い輪郭の突起物は、確かに角に見えた。 「・・・こんばんは」 神官は膝をついて子供と目線をあわせ、にっこりと笑って見せた。 「・・・おじさん、だれ」 「・・・おぢさん・・・」 少女の台詞に神官は若干顔を引きつらせた。悪気も悪意も一切含まないだけにかえって傷ついたらしい。 「・・・できれば、その呼び方はやめてほしいんですが」 「・・・ごめんなさい」 どこか茫洋とした無表情のまま、少女はわびる。 「・・・獣神官殿」 女魔道士は、神官の傍らに立ち 「この子供も・・・実験体のようですが」 「・・・でしょうね、ただどうしてこの子だけ、クリスタル・ケースの中に閉じ込められずに・・・」 「ねえ、お兄さんたちは誰?」 再び少女は問いかける。 「ええと、僕たちは・・・謎の神官と、謎の魔道士です」 「・・・」 勝手に謎の魔道士にされてしまった彼女が、何か言いたげな表情でこちらを見てくるのをにこやかに無視すると、不思議そうに首をかしげている少女に向かって 「ええと・・・お嬢さんの名前は?」 「名前?」 言ってまた不思議そうに首をかしげる。その仕草はどこか子犬に似ていた。 「名前・・・って固体識別番号のこと?」 「・・・はい?」 思わず、間の抜けた声を漏らす。 「ええと・・・その、識別番号っていうのは?」 「先生が、私につけた呼び方・・・」 「・・・ほう?」 神官は、微かに興味深げな声を漏らす。 この場合の『先生』というのは、おそらくこの少女やここにいる怪物を作り上げた魔道士のことだろう。 「・・・獣神官殿」 不意に、今まで黙していた女魔道士が口を開く。そして、その時には、神官もやや離れた場所から近づきつつある人の気配を察していた。 「・・・ここに来たところを捕まえて力ずくで聞き出しますか?」 「・・・いえ、それはやめておきましょう」 物静かな外見とは裏腹に、淡々と強引なやり方を口にした女魔道士に静かに首を振って立ち上がり、少女を見やって人差し指を口に当てて 「あ、お嬢さん。僕たちがいたことは秘密にしておいてくださいね」 幾度か目を瞬いた後にこくん、と素直に頷いた少女に微笑み、魔道士とともに虚空に姿をかき消した。 「・・・何をしている」 研究室の扉を開いて横柄な表情と口調で問いを投げかけたのは、一人の男。 年齢は、40歳前後ほどか。どこか鼠に似た貧相な面相と体格の持ち主で、魔道士然とした身なりをしている。服装そのものは、悪趣味と呼べるほど派手ではないが、それなりに金がかかっているらしい。しかし、それをまとった当人と比較すると服を着ているというより服に着られてしまっている、という印象のほうが強い。 「・・・いえ、何も」 少女は、短く応じた。男を見上げるその幼い顔は、怯えている様子は微塵もないが、同時に媚びへつらうような様子も覗えない。どうもこの少女は何を考えているのか読み取れない。 「何もしていないなら、何でこんなところで突っ立ってる?」 「・・・物音を聞いたような気がして。見に来たけど気のせいだったみたいです」 「だったらさっさと戻らんか!」 「・・・はい」 怒鳴りつけられても、顔を歪めるどころか眉一つ動かさず素直に従った。 「獣神官殿。・・・これからどうなさいます」 物理世界と表裏一体の精神世界にて。 「うーん・・・どうしましょうかね・・・」 「あの・・・どうしましょうかって何か考えがあって、あの場を引いたわけではないのですか」 「いやあ・・・はっはっは」 「・・・」 「ま、それはとにかく少し気になることがあったんですよね・・・あのお嬢さんのことなんですが。さっきも言ったようにどうしてあの子だけ、ケースの中に入れられていないのか、それと・・・」 「それと?」 「あの子・・・感情らしい感情が感じられなかったんですよね、微塵も。単に表情を殺しているだけってわけじゃなくて」 「はあ・・・しかし、そんなことは」 「まあ、これは・・・あくまで個人的な興味なんですけどね」 「・・・」 「まあ・・・もう少し色々調べてみましょうか、具体的にどういう研究なのか、これが終わったらすぐに別の仕事が・・・てわけでもないですしね」 「・・・分かりました」 続 |
34334 | Re:ただ、それだけの理由 2 | フィーナ | 2009/8/23 17:03:36 |
記事番号34333へのコメント 初めましてセスさん。フィーナといいます。 原作を思わせる描写や、魔族なのに人間くさいゼロスと、女性魔族のいかにも魔族らしい人間に対する興味のなさとの対比が印象深い話ですね。 感情の動かない少女の謎は、これから明らかになっていくのでしょうが、ゼロスの魔族としての冷酷さが見れそうで楽しみにしています。 この少女が物語のカギでしょうか。どんな秘密が隠されているのか。 クリスタルケースに閉じ込められるわけでもなく、実験体としての彼女に、それとも『角』にみえる何かにでしょうか。 > そして子供らしからぬ落ち着き払った様子より、一際目立つのは――細く尖った何か― >「角・・・?」 > その額から生えている細く鋭い輪郭の突起物は、確かに角に見えた。 >「・・・何をしている」 > 研究室の扉を開いて横柄な表情と口調で問いを投げかけたのは、一人の男。 > 年齢は、40歳前後ほどか。どこか鼠に似た貧相な面相と体格の持ち主で、魔道士然とした身なりをしている。服装そのものは、悪趣味と呼べるほど派手ではないが、それなりに金がかかっているらしい。しかし、それをまとった当人と比較すると服を着ているというより服に着られてしまっている、という印象のほうが強い。 この男が先生でしょうか。 研究のためなら人を攫って実験台にしてもいいと思ってるんでしょうかね・・・この男は。 それとも背後に研究のスポンサーがいるのかも。いくら魔道士が貴族とはいえこれだけ大規模の研究を人目につく表の場所でやるなんて。 研究が危険なものほど人目につかない洞穴などで行うのが一般のはずなのに。 長々と感想になっていないかもしれませんが、今後の展開を楽しみにしています。 女性の魔族と、少女の『名前』も気になりました。 |
34346 | Re:ただ、それだけの理由 2 | セス | 2009/8/24 19:28:02 |
記事番号34334へのコメント フィーナさん、感想ありがとうございます。 ゼロス君は、リナたちと漫才やってるときも好きですが、魔族らしい冷酷な面も好きなので、そこらへんうまく・・・書けるかどうか分かりませんが、やってみます。 |
34335 | Re:ただ、それだけの理由 2 | kou | 2009/8/23 17:56:23 |
記事番号34333へのコメント 初めまして。セスさん、kouと申します。 ゼロスが主役ですか?リナ達と出会ってどのくらいの時が流れているんでしょうか? > それはせいぜい十歳前後の少女だった。 >透けるように明るい亜麻色の髪は、まっすぐに背中の半ばまで伸び、同年代の子供と比べてもやや痩せぎすな身体は、清潔だが飾り気のない白い病人服のような衣服をまとっている。アーモンド形の明るい緑の目は、不思議そうに神官と魔道士を見比べている。 こらだけ見ると全く無関係の作品ですけれど、吉永さん家のガーゴイルという作品を思い出しました。 > まだあどけない面差しには、見知らぬ相手に対する恐怖や警戒など一片も浮かんではいない。 >それどころか――表情というものがない。そもそも今まで気配を感知できなかったのは、殺気や敵意がないばかりか、気配そのものが生身の人間とは思えぬほどごく淡いのだ。 > そして子供らしからぬ落ち着き払った様子より、一際目立つのは――細く尖った何か― >「角・・・?」 > その額から生えている細く鋭い輪郭の突起物は、確かに角に見えた。 >「・・・こんばんは」 > 神官は膝をついて子供と目線をあわせ、にっこりと笑って見せた。 >「・・・おじさん、だれ」 >「・・・おぢさん・・・」 > 少女の台詞に神官は若干顔を引きつらせた。悪気も悪意も一切含まないだけにかえって傷ついたらしい。 たしかに、魔族は趣味に合わせて姿を変えているでしょうからね。おじさんじゃなくてお兄さんと呼ばれるべき姿をとっているつもりでしょうね。 >「・・・できれば、その呼び方はやめてほしいんですが」 >「・・・ごめんなさい」 > どこか茫洋とした無表情のまま、少女はわびる。 >「・・・獣神官殿」 > 女魔道士は、神官の傍らに立ち >「この子供も・・・実験体のようですが」 >「・・・でしょうね、ただどうしてこの子だけ、クリスタル・ケースの中に閉じ込められずに・・・」 >「ねえ、お兄さんたちは誰?」 > 再び少女は問いかける。 >「ええと、僕たちは・・・謎の神官と、謎の魔道士です」 >「・・・」 > 勝手に謎の魔道士にされてしまった彼女が、何か言いたげな表情でこちらを見てくるのをにこやかに無視すると、不思議そうに首をかしげている少女に向かって >「ええと・・・お嬢さんの名前は?」 >「名前?」 > 言ってまた不思議そうに首をかしげる。その仕草はどこか子犬に似ていた。 >「名前・・・って固体識別番号のこと?」 >「・・・はい?」 > 思わず、間の抜けた声を漏らす。 >「ええと・・・その、識別番号っていうのは?」 >「先生が、私につけた呼び方・・・」 >「・・・ほう?」 > 神官は、微かに興味深げな声を漏らす。 > この場合の『先生』というのは、おそらくこの少女やここにいる怪物を作り上げた魔道士のことだろう。 まぁ、名前をつければ情がわくとから賢い方法と言えば賢いかな? >「あ、お嬢さん。僕たちがいたことは秘密にしておいてくださいね」 > 幾度か目を瞬いた後にこくん、と素直に頷いた少女に微笑み、魔道士とともに虚空に姿をかき消した。 彼女には、それが普通ではないことだとわかるかどうか、少し疑問ですね。 >「・・・何をしている」 > 研究室の扉を開いて横柄な表情と口調で問いを投げかけたのは、一人の男。 > 年齢は、40歳前後ほどか。どこか鼠に似た貧相な面相と体格の持ち主で、魔道士然とした身なりをしている。服装そのものは、悪趣味と呼べるほど派手ではないが、それなりに金がかかっているらしい。しかし、それをまとった当人と比較すると服を着ているというより服に着られてしまっている、という印象のほうが強い。 イメージとしては三流だな。魔道士としてはともかく人間としては人間性は三流以下だけど >「・・・いえ、何も」 > 少女は、短く応じた。男を見上げるその幼い顔は、怯えている様子は微塵もないが、同時に媚びへつらうような様子も覗えない。どうもこの少女は何を考えているのか読み取れない。 >「何もしていないなら、何でこんなところで突っ立ってる?」 >「・・・物音を聞いたような気がして。見に来たけど気のせいだったみたいです」 >「だったらさっさと戻らんか!」 >「・・・はい」 > 怒鳴りつけられても、顔を歪めるどころか眉一つ動かさず素直に従った。 喜びも悲しみもないか………。こりゃ、コピーホムンクルスだったりして 以上kouでした。え〜と、続きを楽しみにしています。 |
34347 | Re:ただ、それだけの理由 2 | セス | 2009/8/24 19:30:46 |
記事番号34335へのコメント kouさん、感想ありがとうございます。 > ゼロスが主役ですか?リナ達と出会ってどのくらいの時が流れているんでしょうか? 原作終了後、ぐらいかなとおーざっぱに考えています。 |
34354 | ただ、それだけの理由 3 | セス | 2009/8/26 00:20:09 |
記事番号34333へのコメント 「要するに、クリスタルケースの中に入っていた実験体たちは制御できない『失敗作』ってことですか」 女魔道士の報告を聞きつけて、神官はつぶやくように言った。 ちなみに本来物質的な食事など必要ない身なのだが、なぜか薄青い手袋をはめた手にはうっすらと湯気を伴った芳香が漂うティーカップを握っていたりする。 「はい」 しかし、眼前の女魔道士はそんなことには頓着していない様子だ。 酔狂ともいえる言動にはもはや慣れてしまったのか、あるいは未だに呆れているが、それをポーカーフェイスで隠しているのかは判然としないが。 ただ淡々と書類でも読み上げるような口調で説明を補足する。 「どうも、あの実験体たちは人間を素材にしているようですが、実験によってあの姿になった後、理性を完全に消失して破壊衝動のみが残って手に負えなくなったようです」 「なるほど」 頷いてティーカップを口元に運ぶ。 「その理由は明確には解明していないようですが、魔道実験によって肉体が変容する際に苦痛と快感が同時に発生します」 「ほう」 「その感覚に人間の精神―人格や記憶、理性が耐え切れずに崩壊してしまい、発狂してしまったのではないか・・・という仮説が組み立てられているようです」 「なるほど・・・それで、制御に失敗した実験体たちは、始末するなり、ケースの中に仮死状態にして閉じ込めておいた・・・というわけですか」 「はい」 冬の淡く白い日差しがあえかなぬくもりを伴って降り注ぐなか、その話題はあまりにも殺伐としていた。しかし、それを口にしている二人の口調には、悲壮感が欠落していた。まるで天気の話題でも口にしているように――人間の生死などさして重要ではないとでもいうようにごく淡々としていた。 「それで・・・あの子は成功例だと?」 「それが・・・理性は保っているものの、厳密には成功例ではないそうです」 「・・・といいますと?」 「本来は実験体は、主の命令をきく程度の理性を残しつつレッサー・デーモンやブラス・デーモンよりも高い戦闘能力を有するようになる・・・と。しかしあの子供は、戦闘能力そのものはさほど高くない。ただ外見的変化は頭部の角のみ。後は肉体が傷を負った場合、その回復力が優れていることと、いくつか特異な知覚を備えるようになったようです。暴れることはなく命令にも素直に従うので、とりあえずケースの中には閉じ込めておかなかった・・・と」 「・・・ほう」 「ただ獣神官殿がおっしゃっていた、感情が欠落している理由については不明です」 「・・・そうですか」 頷いて、甘く芳醇な香気を上げる細緻な細工を施された白磁の器に視線を落とす。その中身――紅玉を砕いて溶かしたようにくっきりと澄んだ深い紅の液体をゆっくりと飲み干した。 「しかし、制御に失敗したってことは・・・やっぱり写本は不完全だったってことですね」 「そのようです。私が調べていて見つけたのは、実験ノートと、いくつかの覚え書き程度で写本は発見できませんでした」 「いえ・・・ご苦労様でした」 微風になぶられるしなやかな黒髪を掻き上げながら、神官はねぎらいの言葉をかけた。 「というわけで・・・あなたもお茶いかがです」 「は?」 神官の一言に、彼女は珍しく目を点にして呆けた声を漏らす。 いつの間にやら、その手には先ほど彼が飲んでいたものとは別のティーカップが握られて、それをにこやかに勧めていたりする。 彼の柔らかな微笑と湯気を上げるティーカップを見比べながら 「・・・獣神官殿」 「はい?」 「何を考えておいでですか?」 「何って・・・調査ご苦労様ですってことで」 「・・・」 会話がかみ合っているようで微妙にかみ合っていない。 重い徒労感めいたものがこみ上げてくるのをこらえながら、珍しく深々と嘆息した。 「あの・・・本来私たちにそんなもの無意味のはずでは・・・」 「まあ、そういわずに」 「・・・」 それ以上反論するのは無意味だと悟ったのか、あるいは単に疲労が蓄積してきたのか。 あきらめきった様子で、差し出すティーカップを受け取る。中身は香茶のようだ。 無言で中身を口に含む。普段は、人間の中に混ざって人間のふりをしている場合でもない限り、絶対に行わない行為である。 当然だ。精神世界からこちらに具現化した存在――真の意味での『肉体』などもっていないのだから。 「それじゃあ・・・と、そういえばさっきあなたがおっしゃっていたあの子の特異な知覚っていうのは」 「ああ、それは・・・」 その問いに、常と変わらぬ事務的な口調で返答すると、神官はほう、と軽い感嘆の声をもらし 「それじゃあ・・・ちょっとあのお嬢さんにもお手伝いしてもらいましょうか」 続 |
34365 | ただ、それだけの理由 4 | セス | 2009/8/28 15:04:20 |
記事番号34354へのコメント 少女は、無言で緑の両眼を瞬かせる。 眼前で微笑しているのは、この間研究室で会った二人組のうちの一人だった。しなやかで艶やかな黒髪は肩の辺りで丁寧に切りそろえてある。深い色合いの髪に縁取られた白い顔は、おっとりと柔らかい笑みを形作っている。 彼女にとってそれは、見慣れない表情だった。普段接する機会のある人間といえば、彼女が『先生』と呼んでいる魔道士と、彼の何人かの助手のみ。 いずれも彼女のことは、『魔道実験体』と見なしており――それ以上でも、それ以下でもないのだ。研究者にとっては実験動物を『もの』と認識するのが当然であり、実験動物に対等な関係で話しかけたり、笑いかけたりすることなど、考えもすまい。 「お嬢さん、僕はあなたにちょっとお願いがあってきたんですが・・・」 「・・・お願い?」 小首をかしげながら、鸚鵡返しにつぶやく。 「はい。『先生』が一番執着している場所を探してほしいんですが・・・」 「・・・?」 「できるんでしょう?あなたは、相手の思念を『視る』ことができるんですから。それから場所に漂う残留思念も読み取ることができるんでしたよね」 「・・・どうして知ってるの?」 問いかけた声にも表情にも驚愕の気配は含まれない。 抑揚そのものが欠け落ちてしまったように、ひたすら平坦なままだ。 「ええまあ、この間僕と一緒にいたお姉さんがいたでしょ?あの方に調べてもらったんですよ。実験によってうまれた能力のうちの一つだって」 「・・・あの人は一緒じゃないの?」 「ええ、今は・・・ちょっと。それよりも、やってくださいますか?」 「・・・」 しばし考え込むように黙してからこくん、と頷く。相変わらず無表情のままだが、容貌そのものは幼いながらも整っていて愛らしいといえるだろう。――その額に生えた角、実験によって生まれた異形の部分さえなければ。 「・・・こっち」 言ってひたひたと歩き出す。 「・・・そうだ。お尋ねしていいですか?」 その後ろをゆったりとした動作でついていきながら、世間話でもするようなてらいのない口調で言い出す。 「・・・何?」 「あなたは・・・どうして何も感じないのですか?」 「・・・?」 軽く後ろを振り返り、少女は表情のない幼い顔を向ける。 「感じるって・・・何を?」 とぼけているわけでもふざけているわけでもない。本当に相手が問うていることが理解できない、という風に問い返す。 「何を・・・て悲しい、とか辛いとか・・・」 「・・・分からない」 「・・・はい?」 「悲しいとか、辛いって言うのがどういうことなのか、分からない。言葉の意味は知ってる。けど、実際に感じてみたことがないの。・・・もしかしたら、昔は感じていたのかもしれないけど。私が覚えていないだけで」 「・・・ほう」 神官は、微かに眉をひそめる。いつもにこやかな笑みを崩すことのないその顔に、淡い困惑めいた翳りが落ちている。 「魔道研究の実験体にされたことに対しても、何も感じていない・・・と?」 「感じるって・・・普通の人だったら何を感じるの」 「・・・まあ、辛い、とか憎いとかそういうのですかね・・・」 「そう・・・なの?私にとってはそれが当たり前だから・・・」 (・・・なるほど) 神官は、この少女がどうしてこうなってしまったのか、おぼろげに理解した。 ――虐待同然の魔道実験。庇護者と呼べるものもおらず、実験動物として軟禁され続ける日々。 無意識のうちに感情そのものを切り離してしまうというのは、陰惨で過酷な環境で正気を保つための自己防衛ではないだろうか。 あるいは、実験による『発狂』を免れたのも、ありとあらゆる感覚を遮断させることによって、だろうか。 何ら感情を抱くことができなくったのは、この少女にとって不幸なのか。――それとも幸福なのか。 人ならざる自分には判断がつかない――しかし。 (あの人たちは、どう思うんでしょうかね・・・) ふと以前共に旅していた人間たちのことを想起する。 ――リナ、ガウリイ、ゼルガディス、アメリア―― 喜怒哀楽のすべてが枯れてしまったように、泣きも怒りも笑いもしないこの子供を気味悪がるのか。それとも・・・哀れむのだろうか。 (あの人たち、結構お人よしというか、甘いところがありますからね) そう思いながら、ふいに別の相手のことが脳裏を掠める。 ルーク=シャブラニクドゥ。 自分では御せない憎悪、憤怒、哀惜、悔恨――諸々の激情に身をまかせ、己の魂の裡に封じ込められていた、この世界のすべての魔を統べる王と同化した男。 憎悪を断ち切ろうとして断ち切れなかった。闇の種族たちの主となりながらも、人としての感情を残して苦しんでいた。 少なくとも、そんな苦しみはこの少女には無縁のものだろう。 ならば、この少女は不幸というよりも――幸福なのだろうか。 「・・・お兄さん」 「・・・あ。はい、何です」 いつの間にか、取り留めのない考えに沈んでいたことに気づいて、意識を現実に引き戻す。 「ついたよ」 「ええと・・・ここですか」 地下に設けられた数多くの研究室。 そのうちの一室――取り立てて別の研究室と変わった実験道具や、研究資料が置かれているわけではない。 「ここのどこです?」 「・・・あれ」 すいっと少女は細い指先を天井に向ける。 天井の中央に据え付けられているのは、水晶のような宝珠だ。 どうやら明かりの魔法がかけられているらしく、その透明な球体は淡く柔らかな白光を放っている。 「あれが・・・いや、もしかして・・・」 つぶやくと、すい・・・と薄青い手袋をはめた手をかざす。――その途端。 あたかも見えざる手によって取り外されたように、その宝珠ははめ込まれていた天井からはずれる。そのまま水の中を沈んでいくように緩やかな速度で落下して――神官の手の中に収まった。 傍らの少女が相変わらず表情を待たないまま、不思議そうに眺めているのを尻目に手にした宝珠をしばらく観察し 「なるほど・・・メモリー・オーブですか」 得心がいった、という風につぶやく。 おそらく、写本の知識をメモリー・オーブにそのまま複写した後に、写本のほうは処分したのだろう。そして、ここにカムフラージュのために設置したのだろう。 「これが、一番執着しているもの・・・なんですね。ほかの研究資料や、実験道具よりも」 「・・・うん」 神官は、メモリー・オーブに手をかざしたまま、まぶたを閉ざしてしばし沈黙する。―何かを読み取ろうとするかのように。ややあって目を開き 「なるほど・・・確かに中身は写本ですね」 言ったその途端。 ぱきいいんっ! 鼓膜に突き刺さるように高く鋭い破砕音。 同時に、まさしく水晶を割り砕いたかのように、透けるような色合いの破片が白々と煌めきながら四散した。 「さて・・・これで写本の始末は済んだことになりますね」 さして力をこめたとも思えぬのに、いともたやすくメモリー・オーブを粉々に粉砕した神官は、平然たる口調で独白を漏らした。 続 |
34394 | ただ、それだけの理由 5 | セス | 2009/9/3 00:14:22 |
記事番号34325へのコメント 注.一部人が死ぬ描写があります。 苦手な方はご注意ください。 ―――――――――――――――――――――― ぽっ! 勢いよく音を立てて、びっしりと文字や何かの計測値が書き込まれていた紙が燃え上がる。澄んだ茜色の炎が黒ずんだ紙面を容赦なく食らい尽くしていく。 「な・・・何だ、君は!?」 線が細く神経質そうな、いかにも研究者然とした風貌の魔道士が、驚愕と困惑をあらわに叫ぶ。 「何をやっている!?」 「あなたたちの研究資料の処理を」 淡々と答えた女はまだ若く、二十代の半ばほどに見える。その長身にまとうのは宝石の護符をあしらった濃紺の衣服、漆黒のマントと一目で魔道に携わる者と知れる装いだ。 だがこんな女は、研究員のなかにはいなかったはずだ――突然の事態に対する驚愕と焦燥に濁った脳内でそんなことを考えながら、 「ふ・・・ふざけるなっ!なんだか知らんが・・・」 と青白い顔を憤怒に紅潮させながら、涼しげな表情で佇立する女に跳びかかる。要は呪文を唱える間さえ与えなければいい。相手は女が一人。押さえ込んでしまえば勝ちだ―そんな風に思ったのだろうか。 「・・・どいてくれ」 その声はあくまで静かで、殺意や敵意をはらんで高揚するような響きはない。 すっ・・・と皮手袋をはめた手が舞の動作のように優雅な動きで男に向けられる。 ざしゅっ 「・・・が・・・は・・・」 厚い布を乱暴に切り裂いたような不快な音。 それが、なでるように触れた女の指によって自分ののど笛を正確に掻き切られた音だと理解するまもなく、男はその場にくず折れた。 そのまま白目をむいて、断末魔に抗うように痙攣を始めた。 それを冷ややかに眺める女の整った顔や長い金髪には、返り血の一滴もかかっていない。 「これで、写本以外の研究資料・・・実験結果を記したノートや覚え書きはすべて消去したことになるな・・・」 独白する表情にも声色にも、先ほどの殺戮による興奮など一片もにじみ出ていない。ただの事務仕事を終わらせたようにしごく淡白である。 写本以外の資料にも、いくらか写本からの引用が書き記されているため、念のために処分しておくように――今回の任務で、一応上司(?)にあたる獣神官から命じられたことを済ませ、早々と立ち去ろうとしたその刹那 「さて・・・獣神官殿のほうは・・・」 「ダム・ブラス!」 不意に、ひび割れた声で紡がれた呪文と共に、弦を離れた矢のごとく光球が女に向かって放たれる。 「・・・」 あわてず騒がず、軽く横跳びに避ける。あたったところでさして害はないのだが。 ごがっ! いともたやすく避けられた一撃が、破砕音と共に室内に透明な砕片を飛び散らせた。 「き・・・貴様、何者だ!?」 「返答する必要はない」 おそらく、ここの研究員の一人だろう、先ほどの攻撃魔術を放った男に女は冷ややかに言い捨てた。 「いいから答えろ!そしてどこから入ってきた!?」 「・・・」 女は冷ややかな沈黙でそれに応じた。 たとえ本当のことを説明しても、理解も信用もできまい。 ぐるううおおっ・・・ 「・・・!?」 不意に、獣がうなるがごとき重低音を聞きつけて、女と研究員は同時に音の発生した方向に視線を向け 「な・・・」 研究員が絶句する。 先ほど自分が放った魔法――それがもたらした結果に気づいて。 それは、異形を凝らせた透明な柱――実験体を収めたクリスタルケースを破壊してしまったのだと。 ぐるううおおおっ 半ばほどを粉砕されたケースから、実験体が自由を求めてもがいている。 「ま・・・まずい・・・」 顔をこわばらせ、研究員が呪文を唱え始める。が―― ぐるううううおおおっ 放った咆哮に、いったいいかほどの力がこめられていたのか。 咆哮――否、物理的破壊力を伴った特殊な超音波は、狙ってなのか、偶然なのか、他の異形が収められたケースを次々と破砕し始める。 割り砕いた硝子を撒き散らしたがごとく、砕片が清かなきらめきを放ちながら、あちこちに飛散する。 水晶の雨が降りつけるようなその眺めは、幻想的にさえ見えただろう。 ただし――この場にそんな感想を抱くものはいなかったが。 「ひ・・・ひい・・・」 この事態をもたらした張本人は、蒼白になった顔を動揺に引きつらせて、 「に・・・逃げ・・・」 ぐるううぉ・・・ 最初の一匹はすでに自力でケースの残りを破壊したらしい。開放された歓喜を表すように咆哮して、ゆらりと頭を振る。 ぎょろり、と異形の双眸――その視線の先が研究員に据えられる。 「ひ・・・」 瞬間―― 巨体にそぐわぬほどの敏捷さで、研究員に跳びかかり、易々と下敷きにする。 「ひいっ!」 研究員は命を危険にさらされた者特有の、引き攣れたような声をあげ 「や・・・やめ・・・」 じゃぐりっ。 研究員の言葉はその音に中断された。 柔らかな肉を噛みちぎられる――咀嚼音。 「ぎ・・・がああああっ!」 生きながら血肉をがつがつと貪り食われていく者の、耳を覆うような最大級の絶叫。 「・・・」 酸鼻を極めた光景を前にして、女は悲鳴を上げるどころか眉一つ動かさぬ。 「扱いきれずに、周囲を巻き込んで自滅する・・・か。あの方のおっしゃっていたとおりになったな」 さしたる感慨もにじませずにつぶやいた後、その姿はぬぐったように忽然と掻き消えていた―― 「さーて、お仕事終了っと♪ベルナさんのほうはどうなんでしょうかね」 「・・・ベルナさんって?」 傍らにいた少女がつぶやくような声で尋ねる。 「ああ、一緒にいたあのお姉さんのことですよ、いやあ、なかなか実直な方でして・・・て。それよりお嬢さん、ありがとうございました、おかげで助かりましたよ」 「・・・?」 少女の顔には相変わらず表情はない。しかし、アーモンド形の目の中で緑の瞳がどこか困惑するように揺れ動いていた。言っている意味が分からない、という風ではない。 どちらかというと今までそんな風にお礼を言われたことがないので、どう対応したらいいのか分からない、という風に。 「・・・どう、いたしまして」 それでも、ややあって少しぎこちなく答えた。 「それでですね、僕は一応借りはきちんと返さないと気がすまないんですよね。ですから、何かリクエストとかあります?たとえば死にたいっていうならなるべく苦しまずに滅ぼして差し上げますが」 悪びれぬ笑顔を微塵も揺るがさずに、神官はさらりと剣呑なことを言ってのける。しかしその笑顔を見上げる少女の顔はなおも表情が欠けたままで、恐怖や嫌悪は浮かんでいない。 「・・・特に死にたい、とは思ってない」 「そうですか・・・じゃあ、実験体のままでも生きていたいと?」 「・・・ううん」 再度少女は首を振る。 「生きたい・・・とか、死にたいとか・・・思ったことがないの」 「え・・・ああ、なるほど」 そもそも自殺というのは死という断絶によって自分が今いる苦境から逃れたい、という思いがあるからだ。 だが、喜びも悲しみも分からないこの少女には、そうした望みすらないらしい。 何ら感情を持たぬものは、何ら望みを持つこともできない。 生きる望みも、滅ぶ望みも―― 「うーん、困りましたね」 そう言いながらも神官の表情は、常と変わらぬ太平楽な笑顔だった。 ただ――感情を忘れてしまった少女を見やる時、淡い翳りが落ちているように見えた。 困惑なのか。躊躇なのか。あるいは――憐憫なのか。 その時―― 「獣神官殿」 忽然とその場に現れたのは、女の姿をした魔だ。 「やあ、ベルナさん。どうでした、首尾は?」 「研究資料はすべて消去しました。ただ・・・」 「ただ?」 「処理の最中に、人間が妨害のために放った魔法がクリスタルケースを破壊し、開放された実験体たちが暴走しています」 「おやおや、大変ですね」 微笑を1ミリとて揺るがせず、神官は言う。 相変わらず台詞と、表情や口調がかみ合っていない。 「じゃ、用もなくなったことだし、お暇(いとま)しましょうか」 「はい」 淡々と頷く女性に満足げな微笑を向けた後、神官は異形の少女に目を向ける。 「それで・・・あなたはどうなさいます?」 続 |
34395 | Re:ただ、それだけの理由 5 | kou | 2009/9/3 19:17:27 |
記事番号34394へのコメント どうも、kouです。セスさん。 夏休みも終わってもまだまだ暑いですね。 >「な・・・何だ、君は!?」 > 線が細く神経質そうな、いかにも研究者然とした風貌の魔道士が、驚愕と困惑をあらわに叫ぶ。 魔道士というと、戦闘系の魔道士を想像してしまうのがスレイヤーズファンの欠点でしょうか? それとも、わたしだけでしょうか? >「何をやっている!?」 >「あなたたちの研究資料の処理を」 > 淡々と答えた女はまだ若く、二十代の半ばほどに見える。その長身にまとうのは宝石の護符をあしらった濃紺の衣服、漆黒のマントと一目で魔道に携わる者と知れる装いだ。 まぁ、魔道関係者だな。魔道に携わる人間じゃないけれど > だがこんな女は、研究員のなかにはいなかったはずだ――突然の事態に対する驚愕と焦燥に濁った脳内でそんなことを考えながら、 >「ふ・・・ふざけるなっ!なんだか知らんが・・・」 > と青白い顔を憤怒に紅潮させながら、涼しげな表情で佇立する女に跳びかかる。要は呪文を唱える間さえ与えなければいい。相手は女が一人。押さえ込んでしまえば勝ちだ―そんな風に思ったのだろうか。 それが人間ならそうだったんでしょうけれどね。 彼女が本当に女性なのかもあやしいですし………彼女は呪文を唱える理由もありませんしね >「・・・どいてくれ」 > その声はあくまで静かで、殺意や敵意をはらんで高揚するような響きはない。 魔族にとって人間は餌か虫でしか無い。いちいち殺気を出す理由にもならないんでしょうね。 >ぐるううおおっ・・・ > >「・・・!?」 >不意に、獣がうなるがごとき重低音を聞きつけて、女と研究員は同時に音の発生した方向に視線を向け >「な・・・」 > 研究員が絶句する。 >先ほど自分が放った魔法――それがもたらした結果に気づいて。 >それは、異形を凝らせた透明な柱――実験体を収めたクリスタルケースを破壊してしまったのだと。 >ぐるううおおおっ >半ばほどを粉砕されたケースから、実験体が自由を求めてもがいている。 >「ま・・・まずい・・・」 > 顔をこわばらせ、研究員が呪文を唱え始める。が―― > >ぐるううううおおおっ > >放った咆哮に、いったいいかほどの力がこめられていたのか。 > >咆哮――否、物理的破壊力を伴った特殊な超音波は、狙ってなのか、偶然なのか、他の異形が収められたケースを次々と破砕し始める。 >割り砕いた硝子を撒き散らしたがごとく、砕片が清かなきらめきを放ちながら、あちこちに飛散する。 >水晶の雨が降りつけるようなその眺めは、幻想的にさえ見えただろう。 >ただし――この場にそんな感想を抱くものはいなかったが。 >「ひ・・・ひい・・・」 > この事態をもたらした張本人は、蒼白になった顔を動揺に引きつらせて、 >「に・・・逃げ・・・」 > ぐるううぉ・・・ > 最初の一匹はすでに自力でケースの残りを破壊したらしい。開放された歓喜を表すように咆哮して、ゆらりと頭を振る。 > ぎょろり、と異形の双眸――その視線の先が研究員に据えられる。 >「ひ・・・」 > 瞬間―― > 巨体にそぐわぬほどの敏捷さで、研究員に跳びかかり、易々と下敷きにする。 >「ひいっ!」 > 研究員は命を危険にさらされた者特有の、引き攣れたような声をあげ >「や・・・やめ・・・」 > > じゃぐりっ。 > > >研究員の言葉はその音に中断された。 >柔らかな肉を噛みちぎられる――咀嚼音。 >「ぎ・・・がああああっ!」 > 生きながら血肉をがつがつと貪り食われていく者の、耳を覆うような最大級の絶叫。 まぁ、自業自得と言えばそれまでですね 以上kouでした。行事の多い九月になりましたがまだまだ暑い日々ですね。 それに、インフルエンザがまた流行しているらしくセスさんも体調には気をつけてください |
34404 | Re:ただ、それだけの理由 5 | セス | 2009/9/4 21:38:46 |
記事番号34395へのコメント > どうも、kouです。セスさん。 > 夏休みも終わってもまだまだ暑いですね。 kouさん、コメントありがとうございます。 > 魔道士というと、戦闘系の魔道士を想像してしまうのがスレイヤーズファンの欠点でしょうか? > それとも、わたしだけでしょうか? ま・・・まあ、原作15巻でもリナが、「世間一般ではモンスターや悪党をぶっ飛ばす呪文バカ」と認識している人も多いっていってましたしね・・・彼女が言うと説得力ないけど(笑 >>「何をやっている!?」 >>「あなたたちの研究資料の処理を」 >> 淡々と答えた女はまだ若く、二十代の半ばほどに見える。その長身にまとうのは宝石の護符をあしらった濃紺の衣服、漆黒のマントと一目で魔道に携わる者と知れる装いだ。 > まぁ、魔道関係者だな。魔道に携わる人間じゃないけれど > それが人間ならそうだったんでしょうけれどね。 > 彼女が本当に女性なのかもあやしいですし………彼女は呪文を唱える理由もありませんしね まあ、まさか魔族だなんて考えもしなかったでしょうし・・・ >>「・・・どいてくれ」 >> その声はあくまで静かで、殺意や敵意をはらんで高揚するような響きはない。 > 魔族にとって人間は餌か虫でしか無い。いちいち殺気を出す理由にもならないんでしょうね。 人間がハエや蚊を叩き潰すのに、いちいち罪悪感を感じないのと同じような感じなので・・・ > まぁ、自業自得と言えばそれまでですね 人体実験って普通に殺すよりえげつないことですから・・・ > 以上kouでした。行事の多い九月になりましたがまだまだ暑い日々ですね。 > それに、インフルエンザがまた流行しているらしくセスさんも体調には気をつけてください ありがとうございます、kouさんも体には気をつけてくださいね。 |
34397 | Re:ただ、それだけの理由 5 | フィーナ | 2009/9/4 00:17:49 |
記事番号34394へのコメント こんばんはセスさん。 遅くなりましたが、感想を書かせていただきます。 > 最初の一匹はすでに自力でケースの残りを破壊したらしい。開放された歓喜を表すように咆哮して、ゆらりと頭を振る。 人の記憶をなくし、実験台となってしまっても生物としての感情は宿るんですね。 >「扱いきれずに、周囲を巻き込んで自滅する・・・か。あの方のおっしゃっていたとおりになったな」 > さしたる感慨もにじませずにつぶやいた後、その姿はぬぐったように忽然と掻き消えていた―― 彼女からしてみれば、人間の生態の一部を、少しだけ確認したていどのものですね。 ゼロスがいっていた言葉だったから覚えていたのであって、それがなかったらとどめておく必要のないこととして報告はしても覚えてはいなかった。 >「それでですね、僕は一応借りはきちんと返さないと気がすまないんですよね。ですから、何かリクエストとかあります?たとえば死にたいっていうならなるべく苦しまずに滅ぼして差し上げますが」 この辺がゼロスが他の魔族と変わっている部分なんですよね。 他にも変わり者の魔族はいると思いますけど、高位魔族であるはずのゼロスの魔族らしからぬ言動に、ベルナが困惑するのは無理ないとおもいます。 > 何ら感情を持たぬものは、何ら望みを持つこともできない。 > 生きる望みも、滅ぶ望みも―― 防衛手段として、少女が感情を消したのはやむをえないこと。 すべての滅びを望むゼロスからしてみると、この少女の存在は彼からしてみたら『珍しい』んでしょうか。 お役所仕事を終え、獣王のところへ報告に戻るんですね。 この少女が、この先どんなことを言い、ゼロスはそれにどう答えるのか。 セスさんの話の続きを楽しみにしています。 |
34405 | Re:ただ、それだけの理由 5 | セス | 2009/9/4 22:06:32 |
記事番号34397へのコメント >こんばんはセスさん。 >遅くなりましたが、感想を書かせていただきます。 フィーナさん、こんばんは。 >> 最初の一匹はすでに自力でケースの残りを破壊したらしい。開放された歓喜を表すように咆哮して、ゆらりと頭を振る。 >人の記憶をなくし、実験台となってしまっても生物としての感情は宿るんですね。 一応、原始的な感情とかは残っているんじゃないかな、とおーざっぱというか、いい加減に考えています。 >>「扱いきれずに、周囲を巻き込んで自滅する・・・か。あの方のおっしゃっていたとおりになったな」 >> さしたる感慨もにじませずにつぶやいた後、その姿はぬぐったように忽然と掻き消えていた―― >彼女からしてみれば、人間の生態の一部を、少しだけ確認したていどのものですね。 >ゼロスがいっていた言葉だったから覚えていたのであって、それがなかったらとどめておく必要のないこととして報告はしても覚えてはいなかった。 彼女は、基本的に人間の生死には無関心というか、たいていの魔族ってこんな風に冷淡かな、と思って書いたので。 >>「それでですね、僕は一応借りはきちんと返さないと気がすまないんですよね。ですから、何かリクエストとかあります?たとえば死にたいっていうならなるべく苦しまずに滅ぼして差し上げますが」 >この辺がゼロスが他の魔族と変わっている部分なんですよね。 >他にも変わり者の魔族はいると思いますけど、高位魔族であるはずのゼロスの魔族らしからぬ言動に、ベルナが困惑するのは無理ないとおもいます。 彼女は冷徹だけどまじめでもあるのでゼロスの妙に人間くさいところに、やや呆れ気味で接している感じです(笑 >> 何ら感情を持たぬものは、何ら望みを持つこともできない。 >> 生きる望みも、滅ぶ望みも―― >防衛手段として、少女が感情を消したのはやむをえないこと。 >すべての滅びを望むゼロスからしてみると、この少女の存在は彼からしてみたら『珍しい』んでしょうか。 >お役所仕事を終え、獣王のところへ報告に戻るんですね。 >この少女が、この先どんなことを言い、ゼロスはそれにどう答えるのか。 >セスさんの話の続きを楽しみにしています。 > ありがとうございます。この感情を忘れてしまった女の子をゼロス君がどうするのか、ちょっと悩んでいるのですが(おい)こうして感想いただけるのはとてもうれしいので、気合い入れて書きます。 |
34426 | ただ、それだけの理由 6 | セス | 2009/9/8 22:49:20 |
記事番号34325へのコメント 「・・・え」 少女は困惑したような声を漏らして立ちすくむ。 彼女が今まで育ったこの環境を考えてみれば無理からぬことではある。 研究の実験体として扱われ続け、誰にどんなことをされてもそれを悲しいとも悔しいとも感じることなく、ただ淡々と受けとめるばかりの日々。 人間らしいすべてを剥奪されたまま、復讐心や自殺願望を抱くこともなく、ただ路傍に転がる石のように、そこに在るだけ―― どこにも彼女の意思が介在する余地などなかった。 「・・・どうして、そんなこと聞くの?」 どこか途方にくれたように言って、眼前の男女を見比べる。 だが、魔道士風の女性は黙したまま神官と少女を眺めるのみ。きれいな女性だと思ったけれど、女性らしい色香や物柔らかさより、どこか静かな冷ややかさのほうが目立つ。色素の薄い金髪と、灰色の瞳のせいで余計冷ややかな印象が増していた。 神官のほうは出会った時と変わらない、飄然たる風情の微笑を浮かべているのみ。整った、どこか造りものめいた容貌。切りそろえられた漆黒の前髪の下、両眼は柔らかに細められている。 「さっき言ったでしょう?一応借りは返さないと気がすまないって」 「・・・でも」 いつもは人形じみて表情のない顔に、困惑の色があらわになっている。 「分かりませんか?自分がどうしたいのかが」 言われて素直に頷く。 「そうですか・・・」 言って神官は苦笑する。 「・・・獣神官殿」 不意に魔道士風の女性――ベルナが口を開く。 「実験体が何匹か、こちらに向かってきています。まだ距離はありますが」 「・・・ええ。そうみたいですね」 そう答えながらも、神官の表情や口調には緊張感などない。自制心で押し殺しているわけではなく、単にないのだ。 「さて、じゃあここはちょっと騒がしいし、少し移動しましょうか」 そういって、少女の肉の薄い掌を握る。 ――その姿があたかも水面にたらしたインクが拡散して溶けるように、虚空に輪郭をにじませ、掻き消えたのは次の瞬間だった。 外は青みがかった薄闇に満たされていた。 ふわりっ。 陽炎のごとく空間が揺らめき、そこからにじみ出るように顕われたのは、三人の人影。 「さて・・・と。おや・・・」 出現した場所は、どうやら研究室のある屋敷からやや離れた場所に設置された、古めかしい教会の屋根の上。 幸い周囲には、教会より高い建築物はなくその光景を目撃した人間が大騒ぎをする・・・ということはなかった。 もっとも――かりにあったとしても、今はそんなことを気にしていられる状況でもなかったが。 「なんだか、大変なことになってますね・・・」 ごおおんっ! 轟然たる爆音が夜の大気を揺るがした。 半壊した屋敷からぞろぞろと蠢きながら出てくるのは、無数の異形たち。あるものは、短い刃のような牙をひらめかせて近くにいた人間に躍りかかって貪り喰らい、あるものは、無数の触手を鞭のごとくしならせて、たまたまその場に出くわした人間を紙切れのようにいともたやすく両断した。 爆音。 悲鳴。 怒号。 つい先ほどまでの冷たくも静穏な夜気が、絶叫と轟音、熱気と血臭に汚濁されつつあった。 黒に近いほど濃い藍色の闇の中、飛び散る血と肉片、爆発に伴う炎が色鮮やかな花のように映えて見えた。 「・・・」 ベルナのほうは変わらず冷ややかに高みから俯瞰するような、どこか超然たるポーカーフェイスを崩すことはなかった。 少女のほうも相変わらず表情が欠落した愛らしい顔をゆがめることはなかった。自分の痛みにすら無感動になってしまった彼女の中には、悲嘆どころか恐怖すら摩滅してしまっているのだろう。 「さて・・・どうなさいます、死にたいっていうなら、瞬時に滅ぼして差し上げます。もし生きたいというなら、ここから離れた町か村に連れて行って差し上げますが」 「・・・・・・」 再度問われて、少女は沈黙する。表情が欠け落ちたような空虚な眼差しの中にかすかな人間性の残滓――ごく薄いが困惑と躊躇の色をにじませて。 「分からない、今まで自分で何をしたいって思ったことがなかったから」 「・・・そうですか」 抑揚のない、悲壮感が欠落しきった声音に神官は淡く苦笑する。最もその微笑には苛立だしげな気配は浮かんでいない。 「まあ、気長に待つことにしますよ。滅ぼすのは一瞬で終わりますし、今は獣王様へのご報告のほうが先ですかね」 「・・・」 ぴくり、と柳眉を動かしたのはベルナだったが、 (まあ、この方の奇矯な言動は今に始まったことではないしな・・・) という諦観をこめて軽く嘆息を漏らした。 続 |
34434 | ただ、それだけの理由 7 | セス | 2009/9/11 19:07:09 |
記事番号34325へのコメント 注.やや残酷描写があります。 苦手なかたはご注意ください。 ―――――――――――――――――――― 「――以上で報告を終わります」 「ご苦労だった。二人とも」 今回の任務の経過や結果について簡潔にまとめて述べ終わると、主は鷹揚に頷いてねぎらいの言葉をかけた。 「獣神官殿」 報告を終えて立ち去る途中、ベルナが声をかける。 「何です?」 「あの少女に会いに行かれるのですか」 「あ、あなたも行きます?」 「・・・いえ、そういうことではなくて」 がくん、とどこか疲労したように肩を落とす。 「あの少女は、町から離れた小屋にいるんでしたね」 「ええ・・・それが何か」 「いいえ・・・随分気にかけていらっしゃると思って」 「物好きな、と正直に言ってくれていいんですよ。ま、面白いもの見つけたな、と思いまして・・・思えばリナさんたちと会った時もそんな感じでしたし」 「は?」 「あ、いえ・・・まあとにかく、自分でも酔狂だとは思いますけどね・・・」 言ってあの少女の眼差しを思い起こす。 生身の人間の目というより、人形の眼窩にはめ込まれた宝玉のように無感動な眼差し。 喜びも悲しみも――生物としての矛盾を振りまくこともなく、ひたすら空っぽな、虚無そのもので満たされたようなまなこを。 空間を渡って、目的の町に到着した途端、感覚に触れた違和感に彼は軽く眉をひそめた。 すぐに違和感の正体に気づく。それは町全体に漂う感情の色だった。 「おや・・・」 不安、恐怖、憤怒――すなわち生きとし生けるものが発生させる負の感情。 しかし、それらは特に珍しいものではない。人間が――否、一定以上の数の生物が生きていく以上、必然的に衝突は避けられず、それに伴って憤怒や悲嘆、時に殺意すら沸き起こる。 精神体たる魔族は、特にそれらを敏感に察知することができる――獣が鋭敏な嗅覚で獲物を探し当てるがごとく。 しかし―― (・・・?) この間より、明らかに負の感情が色濃く顕われている。通りを行き来する人間の表情を見やると、平静を装いながらも微かにこわばっている。たとえ表情を完全に装うことができたとしても、魔族を欺くことまではできないのだが。 (この間の騒ぎの影響がまだ残っているんでしょうかね・・・?けれど・・・) そしてその中に、いささか異なる感情――歓喜が潜んでいる。それも明るい喜びではない。いびつに捻じ曲がった優越感をにじませた、どこかほの暗い熱を伴った喜悦。 (まさか・・・) ふとあることに思い当たり、進む速度を速める。そして―― 目的の場所にたどり着いたとき、そこには人だかりができていた。 「・・・あ、なんだあんた?坊さんか」 こちらに気づいた男の一人が、そういってどこか剣呑なものを潜ませた視線を投げかける。赤みがかった薄茶の髪に美醜どちらでもない容貌。服装そのものも特別に高級でも貧相でもない。街中ですれ違ったとしてもさほど印象に残らないような、良くも悪くも平凡な外見である。 ただ今、その手に携えられているのは、濡れ濡れと赤い液体が滴り落ちる――大降りのナイフ。 そして―――― 「・・・何をしてらっしゃるんです?」 神官は静かな口調で問いただした。 「何って・・・見れば分かるだろ?この間町を襲った化け物の残党を退治してるんだよ」 言って足元に転がっているもの――小柄な少女の身体を足先で軽くつつく。小さな顔ややせぎすの身体にあちこち穴がうがたれたその様子は、子供好きでなくとも目を背ける痛々しさだ。さらりと伸びる癖のない亜麻糸を束ねたような毛髪は、穴から噴き出す液体で赤黒く汚れていた。 そして額から伸びる角も。 「・・・化け物?」 「ああ。見れば分かるだろ?こんなのが人間なわけあるか」 「・・・もしその子が本当に怪物なら、あなたたちは返り討ちにあってると思いますが。普通の人間に退治できるようなものじゃ・・・」 「今はまだおとなしいが、何かの弾みで凶暴化して襲うかもしれん。今のうちに念のため殺しておいたほうがいいんだよ!」 ぬけぬけと言い放つその表情にも口調にも、自分がやっていることに羞恥を覚えている様子はない。他の男たちも同様だ。皆一様に目がぎらつき、頬が紅潮しているがこれは恐怖や羞恥のせいではなく、加虐による興奮のせいらしい。 (・・・なるほど、要は大義名分の下、八つ当たりをしているわけですか、この間の事件の) 何の前触れもなく亀裂が走った、平穏な日常生活。レッサー・デーモンやブラス・デーモン以上の戦闘力を備えた醜悪な怪物たちに対する恐怖がぬぐいきれていないのだろう。 では、それを忘れるために、何をすればいいか? 責任を取らせようにも、あの怪物を作った魔道士たちは怪物の急襲を受けて既に全員死亡している。それでも誰かに責任を取らせたい。 額に角のような突起物を生やしている異形の少女は、そんな彼らの憂さ晴らしの格好の的だったろう。 先ほどゼロスが指摘したように、町を襲った怪物たちと違い凶暴性もなく、戦闘能力もない。だが、そんなことは彼らにはどうでもよいのだろう。 ただ適当に理由をつけて、自分よりも弱く脆い誰かを、なぶって痛めつけることができればいいのだ。 胸中にくすぶる苛立ち、不安、恐怖を嗜虐心へと転化させて、ぶつけたい。 そうすることで、自分たちが安心できるから。『自分より下の存在』を見下す優越感、それに伴う歪んだ安堵感を手に入れることができるから。 「・・・くだらないことを」 「あ?・・・っておい!?」 男が声を荒らげた時には、神官はその少女に歩み寄っていた。ぼろ切れのような有様で無残に横たわるその小さな身体にしゃがみこみ、傷の具合を調べる。 刃物や鈍器でできた無数の傷は、普通の人間ならば命を落とすようなものだ。しかし、実験によってうまれた回復能力ゆえか、致命傷にはならなかったらしい。あるいは、傷がすぐ治ることで『やはり、こんな化け物をほうっておくわけにはいかない』という大義名分の裏でうごめく嗜虐心をよりそそったのかもしれない。 「あんた、何する気だ!?その化け物を助けようっていうんじゃ・・・」 「――――放しなさい」 荒々しく自分の肩をつかんだ男に、神官は静かに言った。 決して大きくなく鋭くもないその声音――その裏に潜む冷ややかな憤激に気がつかなかったらしい男はなおも 「お・・・おい、坊さんさっきも言ったとおりそいつは、ガキの姿をした化け物・・・」 ぽじゅっ! 男の言葉をさえぎったのは、滑稽を通り越して喜劇的とさえいえそうな快音だ。 「・・・え」 男はどこか呆けたような声を漏らして、自分の腕を眺める。 男の指先から手首の部分がいきなり消失していたのだ。 ずたずたの肌色の布きれのような皮膚が、微風を受けてひらひらと翻り、その下にあるぬらぬらとした光沢を放つ薄紅色の肉とそれに包まれていた生々しいほど白い腕骨があらわになっている。 先ほどの音が、何かによって肉や骨が破裂した音だと悟ったその瞬間――ようやく激痛が駆け抜ける。 「ぎ・・・・ああああああっ!」 身も世もない絶叫をほとばしらせながら、男は無様に転倒した。 「な・・・」 他の男たちは突然の事態に理解が追いつかないのか、呆然とそれを眺めている。 「いてえ・・・いてええよおっ!」 「・・・痛いですか?」 ごろごろと地面を転がしながら、吼えるように泣き叫んでいる男に、場違いなほど静かな声がかかった。 ゆったりと立ち上がった神官が、穏やかな口調で問いかけたのだ。 「て・・・てめえ、今何を・・・」 ようやく我に返ったらしい男たちは、携えた刃物や鈍器を構えて―― 「ぎえっ!」 「ぐえっ!」 そろって情けない悲鳴を上げて転倒した。 不可視の刃で抉られたように、手足や腹に穴をうがたれた男たちは鮮血と共に小さな肉片をあたりに撒き散らした。 一人平然と佇む黒衣の神官は、近くにいた、手が吹き飛んだ男に歩み寄る。 「虫けらみたいに、なぶられる気分はいかがです?」 その口調はあくまで丁寧で、声音も鼓膜に触れるように柔らかく、相手を刺激するような棘はない。 だからこそ――男は、背筋に氷を当てられたような感覚に顔を引きつらせた。 続 |
34437 | Re:ただ、それだけの理由 7 | フィーナ | 2009/9/11 21:22:10 |
記事番号34434へのコメント こんばんは。セスさん。 >「あの少女に会いに行かれるのですか」 >「あ、あなたも行きます?」 >「・・・いえ、そういうことではなくて」 > がくん、とどこか疲労したように肩を落とす。 さすがはゼロス。変わり者なのは伊達じゃない。 >「今はまだおとなしいが、何かの弾みで凶暴化して襲うかもしれん。今のうちに念のため殺しておいたほうがいいんだよ!」 > ぬけぬけと言い放つその表情にも口調にも、自分がやっていることに羞恥を覚えている様子はない。他の男たちも同様だ。皆一様に目がぎらつき、頬が紅潮しているがこれは恐怖や羞恥のせいではなく、加虐による興奮のせいらしい。 こういった人間はいるんですよね。 抵抗しないものをいたぶって悦に入ってる。 >胸中にくすぶる苛立ち、不安、恐怖を嗜虐心へと転化させて、ぶつけたい。 > そうすることで、自分たちが安心できるから。『自分より下の存在』を見下す優越感、それに伴う歪んだ安堵感を手に入れることができるから。 あるいみ魔族よりもタチが悪い。 >「虫けらみたいに、なぶられる気分はいかがです?」 > その口調はあくまで丁寧で、声音も鼓膜に触れるように柔らかく、相手を刺激するような棘はない。 > だからこそ――男は、背筋に氷を当てられたような感覚に顔を引きつらせた。 ゼロスは、いつものように言ってるんでしょうね。 その場にそぐわない、にこやかな笑みをうかべて。 |
34449 | Re:ただ、それだけの理由 7 | セス | 2009/9/12 18:16:26 |
記事番号34437へのコメント >こんばんは。セスさん。 どうも。フィーナさん、感想ありがとうございます。 >>「あの少女に会いに行かれるのですか」 >>「あ、あなたも行きます?」 >>「・・・いえ、そういうことではなくて」 >> がくん、とどこか疲労したように肩を落とす。 >さすがはゼロス。変わり者なのは伊達じゃない。 おかげで、彼女は精神的疲労が蓄積されていってます(笑 >>「今はまだおとなしいが、何かの弾みで凶暴化して襲うかもしれん。今のうちに念のため殺しておいたほうがいいんだよ!」 >> ぬけぬけと言い放つその表情にも口調にも、自分がやっていることに羞恥を覚えている様子はない。他の男たちも同様だ。皆一様に目がぎらつき、頬が紅潮しているがこれは恐怖や羞恥のせいではなく、加虐による興奮のせいらしい。 >こういった人間はいるんですよね。 >抵抗しないものをいたぶって悦に入ってる。 どうしようもない人間っているんですよね、 普段は『善良な一般市民』って顔してる人で。 >>胸中にくすぶる苛立ち、不安、恐怖を嗜虐心へと転化させて、ぶつけたい。 >> そうすることで、自分たちが安心できるから。『自分より下の存在』を見下す優越感、それに伴う歪んだ安堵感を手に入れることができるから。 >あるいみ魔族よりもタチが悪い。 スレイヤーズ本編で、 『魔族より人間のほうが、残忍かも・・・』と思ったもので。 >>「虫けらみたいに、なぶられる気分はいかがです?」 >> その口調はあくまで丁寧で、声音も鼓膜に触れるように柔らかく、相手を刺激するような棘はない。 >> だからこそ――男は、背筋に氷を当てられたような感覚に顔を引きつらせた。 >ゼロスは、いつものように言ってるんでしょうね。 >その場にそぐわない、にこやかな笑みをうかべて。 > 魔族モード、うまく書けたか、気になってます・・・ |
34450 | ただ、それだけの理由 8 | セス | 2009/9/12 19:30:02 |
記事番号34325へのコメント 「な、な・・・」 先ほど一人の子供をなぶっていたときの傲然たる態度はぬぐったように消えうせ、男はみっともなく引きつり歪んだ表情で、眼前の神官を呆然と眺めるしかなかった。 「今のご気分はどうですとお聞きしたんですよ、僕は」 再度問いかけた漆黒の法衣を纏った青年の微笑は、相変わらずこの凄惨な場にそぐわぬほど柔らかいままだ。鬼のようでも悪魔のようでもない、にこやかな笑顔の形に彫り刻まれた人形のように。 「ひ・・・ひいっ・・・」 のどから出るのはかすれた声ばかりだ。 他の男たちも、同様に負傷を追って転倒しているが、傷の痛みに耐え切れずに失神している。たとえ目が覚めても、苦痛に泣き叫ぶ以外はできないだろうが。 すっ・・・と神官の手袋に包まれた手が伸びる。――そのさきは、先ほど見えない力で手首を吹き飛ばされた腕だ。 引きちぎられたように無残な有様の腕の、手首から先が途切れたあたりを、そっと撫でるように触れる。普段は皮膚に覆われている部分の、今はむき出しになった肉に―― 「があああああああああっ!!」 次の瞬間、最大級の絶叫が開いた男の口からほとばしる。こらえきれない激痛に、たまらずのた打ち回る。 「おやおや・・・大丈夫ですか?」 絶叫を上げさせた張本人は、あくまで柔らかに問いかける。 先ほど傷を突いた手にはなぜか一点のしみもない。先ほど男の腕が間近で破裂した際も、肩で切りそろえた髪や、身にまとう法衣の黒さに鮮やかに映える白い面には、返り血一滴ついていない。 だが、男にはそんなことを疑問に思う余裕などなかった。 脳裏を占めているのは、じわじわとなぶられる苦痛と、自分の生命そのものが危険にさらされる本能的な恐怖のみ。 だから―― 「やめ・・・やめてくれ!悪かったよ、俺が悪かったよ!だからやめてくれ・・・俺はまだ死にたくなんかない!」 「・・・死にたくない?」 引き攣れたような声で発した命乞いの言葉に、神官はゆるり、と首をかしげた。 「・・・死にたくないとおっしゃるのですか?あなたは」 「そ・・・そうだよ、誰だって自分が死ぬのはいやに決まってるだろうが!」 「・・・」 神官は黙したまま、静かに男を見据えている。 自身の苛立ちや不安を紛らわせるため、一人の子供を平然と、贖罪の山羊(スケイプゴート)にして踏みにじった男を。 塵芥(ちりあくた)のように矮小で脆弱な存在の癖に、途方もない残虐性を内包した人間。 いつかは消失する自分の脆い『生命』に何よりこだわっているくせに、平然と他者の生命を踏みにじる、醜悪な矛盾を撒き散らす存在。 「・・・そうですか、分かりました、殺しはしません」 「え・・・?」 まさか命乞いが聞き入れられるとは思っていなかったのか、男は一瞬ぽかんとする。 その表情が安堵へと変わるより早く、神官は続ける。 「ただし・・・死ねない苦痛というものを味わっていただきますが」 口元に浮かぶ微笑はそのまま、ゆったりと笑みに細められていた両眼を開く。 切れ長の目の中の、髪と同じ色合いの黒曜石のような瞳があらわになる。 ――その、瞬間。 「・・・ひっ」 男は、凝然と固まった。 それまで、笑みに細められた目を開いただけで、笑顔の印象ががらりと変わっていた。 ――血も凍るような微笑、というのはこんな表情をいうのだろうか。 口元は相変わらず柔らかな笑みの形のままに、その漆黒の双眸は刺すような冷光を灯している。 魔族の特性――生命という、矛盾を秘めたおぞましい存在に対する冷ややかな侮蔑と嫌悪をこめた、闇色の眼差しが。 人はこんな目をしない。できない。 「あ・・・あ・・・あ・・・」 もはや意味のある声を発することさえできないでいる男に、人の姿をした、人ならざる神官は淡々と不吉な宣告を口にする。 「はじめます」 ――――次の瞬間、肉が爆ぜて割れる音と、ひび割れた絶叫がその場を満たした。 肉がちぎれる。肉がこげる。 だが、激痛に比して出血の量は驚くほど少なかった。絶対に死なないように、細心の注意を払っての拷問――否、虐待だった。 耐え切れずに意識が朦朧とする。すると、次第に回復していく――あるいは、神官が何かの術で治癒させているのかもしれない。そしてまた、苦痛が始まる。その繰り返しだ。 ――男の精神が耐え難い苦痛と恐怖に崩壊し、発狂するのは時間の問題だった。 その場の男たちに全員同じ『処置』を施し終えてから、ようやく我に返る。 「あ・・・えーと・・・」 どこか困ったように、ぽりぽりと頬をかく。 「えーと、何か・・・やりすぎちゃったかな・・・」 間が抜けているようなのほほんとした口調でつぶやいた。 「あ、えと・・・とりあえず・・・」 言って少し離れた場所で、仰臥している少女に歩み寄る。 「あれ・・・治ってる・・・ああ、自己治癒能力でしたっけ」 小柄な身体に刻まれた傷は既に驚異的な速さでふさがっていた。 「えーと・・・とりあえずこれで借りは返したってことになるんですかね」 「――こんなところで何をしておる?」 聞き覚えのある声は、後方から聞こえた。 続 |
34453 | Re:ただ、それだけの理由 8 | フィーナ | 2009/9/12 22:26:22 |
記事番号34450へのコメント こんばんはセスさん。 ゼロスさん(おもわずさんづけ)今回は、魔族の本性をむき出しで人間たちを圧倒していますね。 >脳裏を占めているのは、じわじわとなぶられる苦痛と、自分の生命そのものが危険にさらされる本能的な恐怖のみ。 生命の危険を感じたら、人に限らず命ある存在は恐怖しますよね。 > ――血も凍るような微笑、というのはこんな表情をいうのだろうか。 >口元は相変わらず柔らかな笑みの形のままに、その漆黒の双眸は刺すような冷光を灯している。 >魔族の特性――生命という、矛盾を秘めたおぞましい存在に対する冷ややかな侮蔑と嫌悪をこめた、闇色の眼差しが。 いくらおちゃらけていようが、やっぱり魔族なんだなぁ。 リナたちのまえでは、その本性をあらわにすることはめったにありませんが。 > 肉がちぎれる。肉がこげる。 > だが、激痛に比して出血の量は驚くほど少なかった。絶対に死なないように、細心の注意を払っての拷問――否、虐待だった。 > 耐え切れずに意識が朦朧とする。すると、次第に回復していく――あるいは、神官が何かの術で治癒させているのかもしれない。そしてまた、苦痛が始まる。その繰り返しだ。 > > ――男の精神が耐え難い苦痛と恐怖に崩壊し、発狂するのは時間の問題だった。 ラウグヌト・ルシャヴナ 屍 肉 呪 法 って・・・・・・おーい。ゼロス(汗 > その場の男たちに全員同じ『処置』を施し終えてから、ようやく我に返る。 全員にかけて我にかえるとは・・・ >「あ・・・えーと・・・」 > どこか困ったように、ぽりぽりと頬をかく。 >「えーと、何か・・・やりすぎちゃったかな・・・」 > 間が抜けているようなのほほんとした口調でつぶやいた。 もしかしなくてもやりすぎデス。 男たちは自業自得とは言え、ご愁傷様デス。 >「――こんなところで何をしておる?」 > 聞き覚えのある声は、後方から聞こえた。 この御声はまさか獣お・・・ 短いですが、続きを楽しみにしています。 |
34461 | Re:ただ、それだけの理由 8 | セス | 2009/9/14 20:35:31 |
記事番号34453へのコメント >こんばんはセスさん。 こんばんは、フィーナさん。 >ゼロスさん(おもわずさんづけ)今回は、魔族の本性をむき出しで人間たちを圧倒していますね。 できるだけ魔族っぽく描写してみようと思ったので、そういっていただけると嬉しいです >>脳裏を占めているのは、じわじわとなぶられる苦痛と、自分の生命そのものが危険にさらされる本能的な恐怖のみ。 >生命の危険を感じたら、人に限らず命ある存在は恐怖しますよね。 この男たちの場合『他人を傷つけるのは平気だけど、自分が傷つけられるのは絶対ヤダ』というタイプなので・・・リナがいじめる盗賊に近いかな、と。 >> ――血も凍るような微笑、というのはこんな表情をいうのだろうか。 >>口元は相変わらず柔らかな笑みの形のままに、その漆黒の双眸は刺すような冷光を灯している。 >>魔族の特性――生命という、矛盾を秘めたおぞましい存在に対する冷ややかな侮蔑と嫌悪をこめた、闇色の眼差しが。 >いくらおちゃらけていようが、やっぱり魔族なんだなぁ。 >リナたちのまえでは、その本性をあらわにすることはめったにありませんが。 こういう彼は書いていて楽しかったです(←趣味悪い) >> 肉がちぎれる。肉がこげる。 >> だが、激痛に比して出血の量は驚くほど少なかった。絶対に死なないように、細心の注意を払っての拷問――否、虐待だった。 >> 耐え切れずに意識が朦朧とする。すると、次第に回復していく――あるいは、神官が何かの術で治癒させているのかもしれない。そしてまた、苦痛が始まる。その繰り返しだ。 >> >> ――男の精神が耐え難い苦痛と恐怖に崩壊し、発狂するのは時間の問題だった。 >ラウグヌト・ルシャヴナ > 屍 肉 呪 法 って・・・・・・おーい。ゼロス(汗 あ、いや屍 肉 呪 法じゃなくて、正気を失うまで痛めつけたんです。 あれは確かに『死ねない苦痛』を味わうことになるけど・・・ >> その場の男たちに全員同じ『処置』を施し終えてから、ようやく我に返る。 >全員にかけて我にかえるとは・・・ >>「あ・・・えーと・・・」 >> どこか困ったように、ぽりぽりと頬をかく。 >>「えーと、何か・・・やりすぎちゃったかな・・・」 >> 間が抜けているようなのほほんとした口調でつぶやいた。 >もしかしなくてもやりすぎデス。 >男たちは自業自得とは言え、ご愁傷様デス。 因果応報、というにはちょっと悲惨かもしれません。 >>「――こんなところで何をしておる?」 >> 聞き覚えのある声は、後方から聞こえた。 >この御声はまさか獣お・・・ >短いですが、続きを楽しみにしています。 ありがとうございます。やっぱりこうして感想いただけることが一番嬉しいです。ちなみに、最後の声、あれは・・・ どずっ! (虚空から現れた黒い錐に貫かれ、沈黙) |
34475 | ただ、それだけの理由 8 | セス | 2009/9/18 00:56:25 |
記事番号34325へのコメント 振り返った神官は、声の主を目にした。 「あ・・・」 神官は、微かに目を見張る。 見覚えのある一組の男女の姿。 一人は、その長い金髪を背に流し、青い衣服の上には、皮鎧のようなものを帯びている中年の男。 やや線の細い面長の端正な顔に漂うのは、冷厳たる無表情――しかし、注意深いものなら、そのポーカーフェイスのなかに隠し切れない緊張の色を含んでいることを見て取ったかもしれない。 もう一人は、やはり癖のないしなやかな飴色の髪に、弓形の眉。大きな琥珀色の瞳が印象的な、愛らしくも勝気そうな容貌の若い娘だ。 すらりと伸びるしなやかな肢体に纏うのは、色鮮やかな青い衣装とやや奇妙な意匠(デザイン)の純白の鎧である。 しかし彼女の場合何より人目を引くのはその白い鎧ではなく、鮮やかな飴色の髪からのぞくぴんと尖ったような形の耳―― 「ミルガズィアさん・・・それに、あの時のエルフのお嬢さん、何であなたたちがこんなところに?」 「それはこちらの台詞だ。パシリ魔族よ」 「・・・その呼び方、やめてくださいって申し上げたはずですが」 無表情のまま淡々と言う男――ミルガズィアに、神官は若干引きつった表情で答えた。 「ええと・・・ちょっと仕事の事後処理みたいなもので・・・あなたたちは?」 「・・・この間の事件で大量発生したデーモンどもの掃討のため、人間たちの町をあちこち回っていてな。高位の魔族の瘴気を感じてそれをたどったところにお前がいた」 神官が表情を引きつらせながらも一応返答すると、ミルガズィア――人の姿をとった竜の長は用心深げな表情で答える。 「しかし・・・事後処理といったがこれは一体・・・」 言って周囲を見渡す。 そこには幾人かの男たちが倒れていた。 全員死んでいるわけではない証拠に衣服の上からでも胸が緩やかに上下しているのが見て取れる。しかし、虚ろな目を宙に据えてけたけたと調子の外れた笑い声をもらしたり、ぽかんと開いた口から涎を垂れ流している様子は、もはや精神そのものが崩壊して廃人同様になってしまったことを示している。 「死んではいませんよ、一応」 数人の男たちを廃人同様にした当の神官は、涼しげな微笑で淡々と言う。 「・・・なぜ、このようなことをした?」 「・・・ええと、それが自分でもよく分からないんです」 「何?」 思わずいぶかしげな表情で問い返すと、青年の姿をした魔はぽりぽりと妙に人間くさいしぐさで頬をかいてみせる。 「ええと、まあ・・・たいした理由じゃないんですけどね、ちょっと気に入らなかったというか」 「・・・」 たいした理由じゃない。 発狂するまで痛めつけた理由をそんな風にさらりと言ってのける神官を見て、ミルガズィアは滅多に感情をあらわにしない顔を微かにしかめる。 「あ、ええと・・・そうだ、ミルガズィアさん、ちょっとお願いがあるんですが」 「・・・魔族のおぬしが頼みごと、だと?」 言っていぶかしそうに眉根を寄せる相手に、ぱたぱたと手を振りながら 「いやあ、たいしたことじゃないんですけどね。こちらの・・・」 言って、いつの間にか意識を取り戻した少女に目をやり 「お嬢さんを預かってほしいんですが」 「何?」 言ってミルガズィアは、額に角のような突起物を備えた異形の少女を眺める。 「これは・・・」 「この子はね、人間の魔道士によって実験動物にされたんですよ、この姿を見れば一目瞭然でしょ」 「・・・ならば、魔族のお前がなぜこの娘を助ける」 「借りを返すため、でしょうかね。それと・・・少し珍しかったからでしょうか」 「・・・?」 黄金竜の長は、訝しげな色を深めた。 「ま、人間が絶滅危惧種の珍しい動物を保護しようとするのに近い感じですかね」 「・・・」 ミルガズィアは、ほのかに目を眇めて眼前の神官を見据える。 常と変わらぬ微笑を貼り付けたその白い面は、いくら詳細に観察しても内面をうかがい知ることはできなかった。 「ま、あなたたちが引き取らなかったら、いずれ愚かな人間たちに迫害されるか、見世物にされるか・・・ろくな目にあわないでしょうね。人間ってのは脆弱なくせに残虐――矛盾だらけの存在ですから」 「・・・どうする、メフィ」 緊張と恐怖がない交ぜになったやや硬い表情で傍らに控えるエルフの少女――メフィに尋ねてみる。 「私は・・・別にかまいませんわ、おじ様」 エルフの娘が、幼い異形の少女を見やるその表情には嫌悪や侮蔑、嘲笑はない。むしろ、同情――否、共感めいた感情さえ含まれているように見えた。 エルフ族は以前、人間から魔道の実験材料として虐待を受けていた時期がある。この少女の境遇は、かつての自分の種族たちと似ている――そう思ったのかもしれない。 「・・・あ、の・・・」 不意にそれまで人形のように黙然としていた少女が口を開く。 「お兄さん・・・が、助けてくれた・・・?」 相変わらずその幼い面差しには、理不尽な暴力を受けた恐怖も憤怒もなければ、助かったという安堵感も浮かんでいない。しかし―― 「一応、そうなりますね。最も僕個人がああいう連中が気に入らないっていうのもありますが」 「・・・」 てらいのない口調で答える神官を、少女は黙して見据える。まるで、かけるべき言葉を捜しているように。ややあって 「・・・ありがとう」 相変わらず抑揚をもたない細い声で。 ややぎこちなくではあるが、礼の言葉を口にする。 それを聞いた神官の口元が微かにほころぶ。それを目にした黄金竜の長は (心を持たないはずの存在(もの)が、随分本物らしい表情をするようになった) と内心でつぶやいた。 それは、いつもの仮面を貼り付けたような微笑とは少し異なっていた。かといってあからさまな冷笑や嘲笑とも違う、淡く柔らかな苦笑―― 「・・・魔族に礼などいうものではありませんよ。僕はただ借りを返すためと、気に入らない連中を痛めつけただけ。つまり僕自身のためにやったことですから」 苦笑をにじませた柔らかな口調でそういうと、黒衣の神官はふわり、と虚空に姿をにじませるように掻き消えた。 終 |
34476 | Re:ただ、それだけの理由 8 | ミオナ | 2009/9/18 13:43:36 |
記事番号34475へのコメント こんにちは。ミオナです。 だだ、それだけの理由。 楽しませていただきました。私もゼロスを主役にした作品を書いていますが……。 すごい。と、素直に思いました。 人間は矛盾だらけ……。 中々、痛いところを付かれた気がします。 次回作を楽しみにしてます。 |
34479 | Re:ただ、それだけの理由 8 | セス | 2009/9/19 19:06:07 |
記事番号34476へのコメント こんばんは、ミオナさん。 >だだ、それだけの理由。 >楽しませていただきました。私もゼロスを主役にした作品を書いていますが……。 >すごい。と、素直に思いました。 >人間は矛盾だらけ……。 >中々、痛いところを付かれた気がします。 >次回作を楽しみにしてます。 ありがとうございます。 最初こういう暗めな話はスレイヤーズにあわないかな、などと思っていたのですが、こうして感想いただけたので、安心するやら嬉しいやら・・・ |
34477 | Re:ただ、それだけの理由 8 | kou | 2009/9/18 20:16:25 |
記事番号34475へのコメント こんばんわ。kouです。 レスは久しぶりですね。セスさん。 > 振り返った神官は、声の主を目にした。 >「あ・・・」 > 神官は、微かに目を見張る。 わたしは、てっきりゼロスの上司かなぁと考えていました。(つまりは、ゼラス様) > > 見覚えのある一組の男女の姿。 > 一人は、その長い金髪を背に流し、青い衣服の上には、皮鎧のようなものを帯びている中年の男。 > やや線の細い面長の端正な顔に漂うのは、冷厳たる無表情――しかし、注意深いものなら、そのポーカーフェイスのなかに隠し切れない緊張の色を含んでいることを見て取ったかもしれない。 何しろ、自分の種族を壊滅に追い込んだ原因ですからねぇ。ゼロスは……… >もう一人は、やはり癖のないしなやかな飴色の髪に、弓形の眉。大きな琥珀色の瞳が印象的な、愛らしくも勝気そうな容貌の若い娘だ。 > すらりと伸びるしなやかな肢体に纏うのは、色鮮やかな青い衣装とやや奇妙な意匠(デザイン)の純白の鎧である。 ザナッファーアマーですね。たしかに、アニメ版のデザイン(あれは不完全版ですが………)も、奇妙だしね。 > しかし彼女の場合何より人目を引くのはその白い鎧ではなく、鮮やかな飴色の髪からのぞくぴんと尖ったような形の耳―― 要するにエルフと言うことですね。 >「ミルガズィアさん・・・それに、あの時のエルフのお嬢さん、何であなたたちがこんなところに?」 >「それはこちらの台詞だ。パシリ魔族よ」 リナが冗談半分で言った台詞ですね。本気で言うなよ。 さすが、竜族の中では愉快なミルさんと評判なじいさんだけはあるわ……。 >「・・・その呼び方、やめてくださいって申し上げたはずですが」 > 無表情のまま淡々と言う男――ミルガズィアに、神官は若干引きつった表情で答えた。 そりゃ、パシリ魔族と言われて喜ぶ奴はいないわな。 >「死んではいませんよ、一応」 一応………ただし、ほとんど死んだも同然なんだと思いますが………。 ゼロスのブラックサイド全開ですね。 > 数人の男たちを廃人同様にした当の神官は、涼しげな微笑で淡々と言う。 人間には理解できない笑みだな。 >「・・・なぜ、このようなことをした?」 >「・・・ええと、それが自分でもよく分からないんです」 わからないでやったんかい!! >「何?」 > 思わずいぶかしげな表情で問い返すと、青年の姿をした魔はぽりぽりと妙に人間くさいしぐさで頬をかいてみせる。 そりゃ、聞き返すわな………。 魔族とはいえ、意味も無く………というか意味もわからずにするとはねぇ。 >「ええと、まあ・・・たいした理由じゃないんですけどね、ちょっと気に入らなかったというか」 >「・・・」 > たいした理由じゃない。 > 発狂するまで痛めつけた理由をそんな風にさらりと言ってのける神官を見て、ミルガズィアは滅多に感情をあらわにしない顔を微かにしかめる。 そりゃ、たいした理由じゃないなら発狂するまで痛めつけるかと突っ込みたいな。 >「あ、ええと・・・そうだ、ミルガズィアさん、ちょっとお願いがあるんですが」 >「・・・魔族のおぬしが頼みごと、だと?」 > 言っていぶかしそうに眉根を寄せる相手に、ぱたぱたと手を振りながら >「いやあ、たいしたことじゃないんですけどね。こちらの・・・」 > 言って、いつの間にか意識を取り戻した少女に目をやり >「お嬢さんを預かってほしいんですが」 >「何?」 > 言ってミルガズィアは、額に角のような突起物を備えた異形の少女を眺める。 そりゃ、魔族から子供の保護を頼まれるなんて、あえて言うならリナが盗賊の命を助けるような物ですから………。 ………ちょっと違う気がするるる………。 >「これは・・・」 >「この子はね、人間の魔道士によって実験動物にされたんですよ、この姿を見れば一目瞭然でしょ」 >「・・・ならば、魔族のお前がなぜこの娘を助ける」 たしかに、魔族なら別段助ける理由なんぞ何一つ無いはずだもんな。 ボランティア精神なんぞ今日日人間だってろくに持ってないのに >「借りを返すため、でしょうかね。それと・・・少し珍しかったからでしょうか」 >「・・・?」 > 黄金竜の長は、訝しげな色を深めた。 >「ま、人間が絶滅危惧種の珍しい動物を保護しようとするのに近い感じですかね」 微妙にやなたとえですけれど、皮肉めいたたとえでもありますね。 >「・・・」 > ミルガズィアは、ほのかに目を眇めて眼前の神官を見据える。 > 常と変わらぬ微笑を貼り付けたその白い面は、いくら詳細に観察しても内面をうかがい知ることはできなかった。 魔族の思考回路なんぞ理解できるとしたらそれは、むしろ哀しいことだと思ふ。 >「ま、あなたたちが引き取らなかったら、いずれ愚かな人間たちに迫害されるか、見世物にされるか・・・ろくな目にあわないでしょうね。人間ってのは脆弱なくせに残虐――矛盾だらけの存在ですから」 >「・・・どうする、メフィ」 > 緊張と恐怖がない交ぜになったやや硬い表情で傍らに控えるエルフの少女――メフィに尋ねてみる。 まぁ、これだけ言われて無視するなんぞできんわな。人情的に………。 二人とも人じゃないけど………。 >(心を持たないはずの存在(もの)が、随分本物らしい表情をするようになった) > と内心でつぶやいた。 > それは、いつもの仮面を貼り付けたような微笑とは少し異なっていた。かといってあからさまな冷笑や嘲笑とも違う、淡く柔らかな苦笑―― 人間味がある………これは皮肉にしかならない表現ですね。 >「・・・魔族に礼などいうものではありませんよ。僕はただ借りを返すためと、気に入らない連中を痛めつけただけ。つまり僕自身のためにやったことですから」 > 苦笑をにじませた柔らかな口調でそういうと、黒衣の神官はふわり、と虚空に姿をにじませるように掻き消えた。 > > >終 え〜と、ただ、それだけの理由 十二分に、楽しませていただきました。 ゼロスのいろんな面を見せていただいてありがとうございます。 個人的には、ゼロスはなんとなくひょうひょうとしていますがいじりやすいキャラでもありますが、このゼロスは違った一面を見せてくれました。 次回作を楽しみにしております。以上、kouでした。 |
34480 | Re:ただ、それだけの理由 8 | セス | 2009/9/19 19:15:11 |
記事番号34477へのコメント > こんばんわ。kouです。 > レスは久しぶりですね。セスさん。 こんばんは、kouさん。 >> 振り返った神官は、声の主を目にした。 >>「あ・・・」 >> 神官は、微かに目を見張る。 > わたしは、てっきりゼロスの上司かなぁと考えていました。(つまりは、ゼラス様) あ、やっぱりそう思われましたか。 >> 見覚えのある一組の男女の姿。 >> 一人は、その長い金髪を背に流し、青い衣服の上には、皮鎧のようなものを帯びている中年の男。 >> やや線の細い面長の端正な顔に漂うのは、冷厳たる無表情――しかし、注意深いものなら、そのポーカーフェイスのなかに隠し切れない緊張の色を含んでいることを見て取ったかもしれない。 > 何しろ、自分の種族を壊滅に追い込んだ原因ですからねぇ。ゼロスは……… あのわりに、リナの発言を真に受けてパシリ呼ばわりしてますが・・・(笑 >>もう一人は、やはり癖のないしなやかな飴色の髪に、弓形の眉。大きな琥珀色の瞳が印象的な、愛らしくも勝気そうな容貌の若い娘だ。 >> すらりと伸びるしなやかな肢体に纏うのは、色鮮やかな青い衣装とやや奇妙な意匠(デザイン)の純白の鎧である。 > ザナッファーアマーですね。たしかに、アニメ版のデザイン(あれは不完全版ですが………)も、奇妙だしね。 >> しかし彼女の場合何より人目を引くのはその白い鎧ではなく、鮮やかな飴色の髪からのぞくぴんと尖ったような形の耳―― > 要するにエルフと言うことですね。 >>「ミルガズィアさん・・・それに、あの時のエルフのお嬢さん、何であなたたちがこんなところに?」 >>「それはこちらの台詞だ。パシリ魔族よ」 > リナが冗談半分で言った台詞ですね。本気で言うなよ。 > さすが、竜族の中では愉快なミルさんと評判なじいさんだけはあるわ……。 >>「・・・その呼び方、やめてくださいって申し上げたはずですが」 >> 無表情のまま淡々と言う男――ミルガズィアに、神官は若干引きつった表情で答えた。 > そりゃ、パシリ魔族と言われて喜ぶ奴はいないわな。 > >>「死んではいませんよ、一応」 > 一応………ただし、ほとんど死んだも同然なんだと思いますが………。 > ゼロスのブラックサイド全開ですね。 >> 数人の男たちを廃人同様にした当の神官は、涼しげな微笑で淡々と言う。 > 人間には理解できない笑みだな。 >>「・・・なぜ、このようなことをした?」 >>「・・・ええと、それが自分でもよく分からないんです」 > わからないでやったんかい!! >>「何?」 >> 思わずいぶかしげな表情で問い返すと、青年の姿をした魔はぽりぽりと妙に人間くさいしぐさで頬をかいてみせる。 > そりゃ、聞き返すわな………。 > 魔族とはいえ、意味も無く………というか意味もわからずにするとはねぇ。 >>「ええと、まあ・・・たいした理由じゃないんですけどね、ちょっと気に入らなかったというか」 >>「・・・」 >> たいした理由じゃない。 >> 発狂するまで痛めつけた理由をそんな風にさらりと言ってのける神官を見て、ミルガズィアは滅多に感情をあらわにしない顔を微かにしかめる。 > そりゃ、たいした理由じゃないなら発狂するまで痛めつけるかと突っ込みたいな。 >>「あ、ええと・・・そうだ、ミルガズィアさん、ちょっとお願いがあるんですが」 >>「・・・魔族のおぬしが頼みごと、だと?」 >> 言っていぶかしそうに眉根を寄せる相手に、ぱたぱたと手を振りながら >>「いやあ、たいしたことじゃないんですけどね。こちらの・・・」 >> 言って、いつの間にか意識を取り戻した少女に目をやり >>「お嬢さんを預かってほしいんですが」 >>「何?」 >> 言ってミルガズィアは、額に角のような突起物を備えた異形の少女を眺める。 > そりゃ、魔族から子供の保護を頼まれるなんて、あえて言うならリナが盗賊の命を助けるような物ですから………。 > ………ちょっと違う気がするるる………。 ・・・あ、何か近いかも(ヲイ) >>「これは・・・」 >>「この子はね、人間の魔道士によって実験動物にされたんですよ、この姿を見れば一目瞭然でしょ」 >>「・・・ならば、魔族のお前がなぜこの娘を助ける」 > たしかに、魔族なら別段助ける理由なんぞ何一つ無いはずだもんな。 > ボランティア精神なんぞ今日日人間だってろくに持ってないのに >>「借りを返すため、でしょうかね。それと・・・少し珍しかったからでしょうか」 >>「・・・?」 >> 黄金竜の長は、訝しげな色を深めた。 >>「ま、人間が絶滅危惧種の珍しい動物を保護しようとするのに近い感じですかね」 > 微妙にやなたとえですけれど、皮肉めいたたとえでもありますね。 >>「・・・」 >> ミルガズィアは、ほのかに目を眇めて眼前の神官を見据える。 >> 常と変わらぬ微笑を貼り付けたその白い面は、いくら詳細に観察しても内面をうかがい知ることはできなかった。 > 魔族の思考回路なんぞ理解できるとしたらそれは、むしろ哀しいことだと思ふ。 >>「ま、あなたたちが引き取らなかったら、いずれ愚かな人間たちに迫害されるか、見世物にされるか・・・ろくな目にあわないでしょうね。人間ってのは脆弱なくせに残虐――矛盾だらけの存在ですから」 >>「・・・どうする、メフィ」 >> 緊張と恐怖がない交ぜになったやや硬い表情で傍らに控えるエルフの少女――メフィに尋ねてみる。 > まぁ、これだけ言われて無視するなんぞできんわな。人情的に………。 > 二人とも人じゃないけど………。 > >>(心を持たないはずの存在(もの)が、随分本物らしい表情をするようになった) >> と内心でつぶやいた。 >> それは、いつもの仮面を貼り付けたような微笑とは少し異なっていた。かといってあからさまな冷笑や嘲笑とも違う、淡く柔らかな苦笑―― > 人間味がある………これは皮肉にしかならない表現ですね。 >>「・・・魔族に礼などいうものではありませんよ。僕はただ借りを返すためと、気に入らない連中を痛めつけただけ。つまり僕自身のためにやったことですから」 >> 苦笑をにじませた柔らかな口調でそういうと、黒衣の神官はふわり、と虚空に姿をにじませるように掻き消えた。 >> >> >>終 > > え〜と、ただ、それだけの理由 十二分に、楽しませていただきました。 > ゼロスのいろんな面を見せていただいてありがとうございます。 > 個人的には、ゼロスはなんとなくひょうひょうとしていますがいじりやすいキャラでもありますが、このゼロスは違った一面を見せてくれました。 > 次回作を楽しみにしております。以上、kouでした。 ありがとうございます。 唐突に思いついた話で、オリキャラがうまくいかせてなかったりと未熟な面もあって 「しまったあああっ!」 などと頭抱えてたりしますがこうして楽しかったという感想をいただけたことはやはり嬉しかったです。 |
34484 | Re:ただ、それだけの理由 8 | フィーナ | 2009/9/19 23:49:53 |
記事番号34475へのコメント セスさんこんばんは。 ゼロスのダークな魅力とか、たのしませていただきました。 獣王様ではなかったんですね。たしかにミルガズィアさんもメンフィスも見知った相手。 終わり方も自然に受け入れられて、改めて文才あるなぁ。と、感心しました。 >「・・・魔族に礼などいうものではありませんよ。僕はただ借りを返すためと、気に入らない連中を痛めつけただけ。つまり僕自身のためにやったことですから」 この部分は、リナたちから少なからず影響を受けているのかもしれませんね。 ただ、それだけの理由。 完結お疲れ様でした。 |
34488 | Re:ただ、それだけの理由 8 | セス | 2009/9/20 17:59:38 |
記事番号34484へのコメント >セスさんこんばんは。 フィーナさん、毎回コメントありがとうございます。 >ゼロスのダークな魅力とか、たのしませていただきました。 >獣王様ではなかったんですね。たしかにミルガズィアさんもメンフィスも見知った相手。 ミルさんとメフィ、この二人を出したのは 「まあ、ドラゴンやエルフなら人間と比べて異物を排除しようとする動きは少ないし、預かってくれるんじゃないかな・・・」 などといい加減な感じで考えてまして。 あのまま死なせるってのは後味が悪い感じがして。 >終わり方も自然に受け入れられて、改めて文才あるなぁ。と、感心しました。 ああっ。そんな言葉いただいたら、調子に乗って舞い上がったあげくにコケてしまうかも(笑 >>「・・・魔族に礼などいうものではありませんよ。僕はただ借りを返すためと、気に入らない連中を痛めつけただけ。つまり僕自身のためにやったことですから」 >この部分は、リナたちから少なからず影響を受けているのかもしれませんね。 >ただ、それだけの理由。 >完結お疲れ様でした。 ありがとうございます。ギャグがほとんどなく、ところどころ残酷描写とかあったりして暗めな話になりましたが、こうして感想をいただけたのは本当にうれしかったです。 |