◆-世界で一番大嫌い2-Merry(9/3-20:54)No.4304
 ┣いきなりゼロリナ読み切り「月と風のノスタルジア」-Merry(9/4-09:23)No.4310
 ┃┣太陽と月の記憶-Merry(9/6-09:12)No.4330
 ┃┃┗金色の砂-Merry(9/6-19:36)No.4331
 ┃┃ ┣Re:月と風のノスタルジア・月と太陽の記憶・金色の砂-珠波 雅璃愛(9/7-15:37)No.4338
 ┃┃ ┗はじめまして-理奈(9/8-08:12)No.4349
 ┃┃  ┗Re:まとめて読んで下さった皆様に-Merry(9/8-09:27)No.4351
 ┃┣wanna be an angel(前編)-Merry(9/7-09:39)No.4334
 ┃┃┗wanna be an angel(後編)-Merry(9/8-09:20)No.4350
 ┃┃ ┗Re:wanna be an angel-理奈(9/8-14:07)No.4352
 ┃┣砂の壁-Merry(9/9-09:12)No.4381
 ┃┗帰る場所-Merry(9/9-22:18)No.4390
 ┃ ┣Re:帰る場所-三里桜架(9/10-00:27)No.4392
 ┃ ┗Re:帰る場所-理奈(9/10-06:50)No.4406
 ┗世界で一番大嫌い3-Merry(9/4-20:51)No.4313
  ┣Re:世界で一番大嫌い3-三里桜架(9/5-02:02)No.4319
  ┣Re:世界で一番大嫌い3-ねこざ(9/5-09:41)No.4321
  ┃┗Re:感想をいただいた方へ-Merry(9/5-10:30)No.4323
  ┣世界で一番大嫌い4-Merry(9/5-20:07)No.4327
  ┗世界で一番大嫌い5-Merry(9/8-21:24)No.4366


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4304世界で一番大嫌い2Merry E-mail 9/3-20:54

世界で一番大嫌い2

「まったく。毎度毎度おんなじねたでよくけんかできますね。」
休み時間になって、次の授業の場所に移動しているとき、アメリアがあきれたように話し掛けてきた。
「仕方ないだろ?向こうがからんでくるんだから。」
「リナさんも相手にするから。」
「とにかく先生が馬鹿にされるのは我慢できないんだ。」
「それ、もうびょーきですね。」
階段を降りながらアメリアがますますあきれたように話した。
「いいだろ別に、あの人は神様なんだから。」
「神サマぁ?」
そう、神サマ。
初めてこんな自分を
女の子扱いしてくれた人。
二年前のあの日、まだ、秋と冬の中間ぐらいだった季節のころ。あたしは母に頼まれて初めてフィブを迎えにいった。でも、その日は委員会で学校が終わるのが遅くなってしまって、急いでいこうと、一回の窓から降りようとしたとき。
「リナさん?!」
急に声をかけられて、思わず踏みはすしてしまう。声の主はアメリアのようだ。
「男の子じゃないんだから危ないですよ」
「ハイハイ」
ぶつけた腰をさすりながら私は立ち上がった。
まだ、このころは今みたいに長い髪の毛ではなかったんだっけ。
アメリアが小さくくしゃみをした。
「なに風邪?」
「わかんない。でも、風邪なんて引いてられません。」
そして幸せそうに微笑む。
「次の日曜日は初めてのデートなんです。」
“女の子”だ。
かわいい かわいい。
小さくて、守ってあげたくなるそんな女の子。
自分とは180度違う。
あたしはかばんから、水色のチェックの入ったマフラーを取り出すと、アメリアの首に軽く巻いてあげた。
「りな…?さ…ん?」
「風邪は引き始めが肝心だから。」
「ありがとうございます。」
嬉しそうに笑顔を見せてくれるアメリア。あたしの、大事な友達。
別に、この性格を怨むわけじゃないけどね。
首もとが少し冷やりとする感覚を覚えながら、フィブの待つ、保育園に向かった。
「すみません、インバースです。弟迎えにきました。」
フィブがいるはずの教室に一歩踏み込むと、よほど心待ちにしていたのだろう、フィブがあたしの足にしがみついてきた。
「リナ」
「フィブ、帰るぞ」
あたしはフィブの肩に手を置いていった。
「フィブ君の、お姉さんですか?」
すぐ近くで声がした。男の人の声だ。
声のしたほうを振りかえると、かなり身長のある若い男の人が笑顔で立っている。エプロン姿が何ともプリチーだ。エプロンの、チューリップ型のワッペンのところに、“ガヴリエフ”とはいっている。
「はじめまして。ガヴリエフです。」
保父さんだ。でけー。
「あ…っこちらこそ、いつもフィブがお世話になっておりま…。」
語尾は、あたしのくしゃみによってかき消された。
「風邪?!」
ガヴリエフ先生が、驚いたように聞き返してきた。
「いえ、そんなたいしたもんじゃないですよ。」
「よしっちょっときて」
そういうと、あたしの手を取り、ほかの教室に連れて行く。フィブも、私の手を握っていた所為で同じように引きずられるようにそこまで来た。
なかなかゴーイングマイウェイな人だ。
どうやらそこは、職員室みたいで、ストーブにあたしがあたっている間ガヴリエフ先生は、机の引き出しをごそごそと何かを探すように引っ掻き回している。
「ハイこれ」
手渡されたのは、黒色の革の手袋だった。
「手、冷たいでしょ。こんなのしかないけど、女の子なんだから体冷やしちゃだめだよ。」
あたしは心臓の鼓動が一段と高くなるのを感じた。
「はい」
うつむいてうなずいたのは恥ずかしかったのと、顔が赤くなっているのを見られたくなかったから。
その時からあたしは変わった。

「…っとまあただそれだけのことだったんだけど。すごく嬉しかったんだ。」
「ふーん」
「何さ、アメリア。」
「なに、ただ、その先生よりも、ゼロスさんのほうがリナさんにお似合いなのになあと思ったんです。…神サマって言うから、正義のために悪を討ち滅ぼしている方かと思ったのに…」
「そこでやつの名を出すとは、お前悪魔に魂売ったな?!」
アメリアに詰め寄って叫んだ。
「まーまーリナさんなりにがんばればいいじゃないですか。」
ぜんぜんこたえていないアメリアの声。
その台詞に、あたしはそのまま肩をおとした。
いきなり暗くなったあたしに不信感を抱いたのだろう、アメリアが心配そうに声をかけた。
「…リナさん?」
「こ…こういう事慣れてないから。自分がどうしたらいいのかわかんなくて。その…とまどってんだ。」
「で、結局二年越しですか。あなたほかのことには気が回るし、しっかりしていてかっこいい癖に、自分のこととなるとてんで疎いんですね。」
「それにさ七つの年の差は実際でかいと思う。社会人と学生、物の見方も考え方もきっと少しずつ違ってくるだろうし、なんか気持ちだけはしちゃって行動が追いつかないんだ。」
あたしの言葉に、アメリアは一瞬沈黙した後、アドバイスをくれた。
「あたしは男の人の気持ちははっきり言ってわかりません。でも、大人の男なら参考意見の一つも聞かせてくれるんじゃないですか?」
大人の…男。


「で、急に呼び出したかと思えば、僕に恋愛相談?」
あの後、ゼロスに連絡をつけて、放課後近くの喫茶店で会うことにした。そしてこうしているわけなんだけど。紅茶を優雅に飲んでいるゼロスの機嫌がなんか悪そうだ。
「わ…悪いかよ。」
「悪くはないですよ。便りにされるのは嬉しいですし、…けど残酷ですよ。好きな女の子にほかの男のこと相談されるなんて。」
こいつ…人が真剣に聞いているのにそうやってまたからかうつもり?
「な…なにいってんだ。人からかって面白がっているくせに。」
あたしはゼロスから視線を離した。
「本気ですっていったら?」
くすり、と笑いながらティーカップを置いた。
人がこんなに真剣に話してんのに!!
あたしはテーブルをたたくとゼロスをにらんだ。あたしの両眼には超新星の閃光が走ったに違いない。それを何事もないかのように平然と受け流すゼロス。そして言葉を続けた。
「イイ瞳。正直に言わせてもらうと、リナサンの思いは恋じゃない。単なる憧れです。」
「違うっ」
この瞳が恐い
「違いません」
自分の気付かない何かを見抜かれているようで。
この瞳がいっている。
「あなたは頼れる何かがほしかっただけなんじゃないのですか?」
“所詮、お前はガキなんだ”
あたしはゼロスの顔に思いっきり赤い紅葉を作った。
それでも平然とあたし見返すゼロスを見て心がなぜか痛んだ。
「そんなんじゃいつまでたっても“チャン”どまりですよ?」
あたしは席を離れた。
「どこ行くんです?」
「先生のとこ」
「へ?」
「あんたなんかに相談するんじゃなかった。」
あたしはそのままお金も払わずに喫茶店を飛び出して、保育園へと走った。
あんな奴、あんな奴
あんな奴、あんな奴
大嫌いだ!!
先生に会いたい
今なら言えるかもしれない
二年分のこの気持ち
あたしは保育園の門前でこっそりと中を覗き込んだ。
先生、まだいるよな。保父さんの仕事って遅くまでやってるって言ってたし。
ここまで来たのはいいが、なんて切り出せばいいんだ?!
「ええい、こーなったら女はド根性!!」
気合いを入れて、さあ入ろうとしたとき、背後から透き通るよな女の人の声がした。
「あのーすみませんそこ通して頂けます?」
「ご…ごめんなさい」
振り返っていたのは、夜の空を切り取ったかのような黒髪が大地に向けて真っ直ぐに伸び、体は糸杉のようにしなやかに伸びていて、顔は月が具現化したかのように清楚で美人な人だった。
「あら?あなた“リナちゃん”“リナちゃん”でしょ!?」
「え?あ…ハイ」
あたしの周りをぐるぐる回って子細にあたしを見る。
誰だろうこの人?
「ガウリィ君からよく聞いているわ(はあと)カッコよくて、弟思いの子だって」
「へ?」
ガウリィ先生のこと知っているの?と聞こうとしたら、保育園のほうから男の人の声がした。
聞き間違えるはずのない、ガウリィ先生の声だ。
「シルフィールっ遅かったじゃないか」
“シルフィール”
「あれ?リナちゃん」
先生があたしに気がついた。
「リナさんとおしゃべりしていたの(はあと)」
「あ、リナちゃんこの人」
先生の言葉を遮るようにシルフィールさんは続けた。
「私、シルフィールと申します。来年ガウリィ君の、お嫁さんになります。」
誇らしげに笑うその人の笑顔は痛いほど奇麗だった。
どくんっ…
心臓の鼓動が耳障りだ。
どうしよう、言葉が出ない。
目の前が暗くなっていく。そう言えば足元が揺らぐような気がした。
そのまま後ろに倒れそうになるあたしを、誰かが抱き留めてくれた。
優しい、この匂い。ゼロスだ。
「ゼロス」
「リナさんに、あなたたちのこと教えたら、オメデトウを言うって飛び出しちゃいまして」
「やだな、ゼロスそんなたいしたことでもないのに」
ガウリィ先生が頬を赤く染める。
ゼロスの行った通りだ。
近づけない。
所詮“リナチャン”。
先生にとってきっと自分はほかの園児と同じ存在なんだ。
“シルフィール”さん
この人には到底なれない。
なあんだ…
「先生…シルフィールさん」
やっとの思いで紡ぎ出す言葉。今自分の顔はいったいどうなっているのだろう。
きっと泣き出す寸前の顔をしているに違いない。
そして、無理して笑おうとして張り付いている笑顔。
なんて醜い表情をしてるんだろう。
「イツマデモオシアワセニ」
涙は出なかった。
なんだか急に目隠しされたみたいで、今まで見えていたものがどこかに行ってしまった。


あたしとゼロスはそのまま保育園の近くにある公園に行った。あたしはぶらんこに座りゼロスはその囲いに腰を下ろす。
「ショックでしたか?」
あたしはすぐにはこたえないで、夕暮れの空を見上げ、そして俯いていった。
「知ってたんだな。」
「ええ」
「じゃあ笑ってたろっ」
なぜか声が荒くなる。怒鳴っても仕方ないのに。
「浅はかな子供の思い込み違いの恋愛ゴッコに」
あたしは地面を蹴りつけて爆発しそうなこの思いをゼロスにぶつけた。
「そーだよ、どうせ何もわかってないよ。笑えよ、笑えったら!!。」
「笑いません」
いつになく真摯なゼロスの言葉にあたしは言葉をのみこんだ。
「僕はリナさんの、ばか正直なところも、一途さも、全部好きですから。」
あたしの正面に立って、あたしの瞳を覗き込むように言った。
「笑わない」
あたしの髪を一房つかんで言う言葉が、なぜか心地よかった。
そしてそのままあたしの頭をなでたかと思うと、抱きしめた。
口惜しかった。
ゼロスに愚痴って、わめき散らす自分が。
なのに
不安でしかないこいつの存在が
この時はなぜか安心できて
不覚にも心地よく感じてしまった。
「やっぱ、お前嫌いだ」

つづく



ここまで読んでくださった皆様ありがとうございます。
次ぎはいきなりゼロリナ短編も、「3」といっしょにのせるかもしれません。

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4310いきなりゼロリナ読み切り「月と風のノスタルジア」Merry E-mail 9/4-09:23
記事番号4304へのコメント
月と風のノスタルジア


満月が煌煌と輝く夜。闇の深さは今が一番濃いときではないだろうか。
部屋の主はそこで静かに朝がくるのを夢の中で待っている。
炎が燃え上がるような赤い髪をした少女。彼女を静かに見下ろすひとつの闇よりも漆黒の影。月明かりが窓から差込、照らし出されたのは闇の中から生まれたような黒衣の神官。
糸のような細い目を静かに眠る少女にむけた。
少しの間、音が消えたような感覚に彼は襲われた。
起こさないように、彼は優しくルビーを溶かしたような少女の髪を一房すくった。
髪に触れ、彼女の生の賛歌が胸の奥まで届いてきそうな気がした。
そんな事になれば、自分はただ苦しいだけなのに。自嘲気味に影は笑った。
「う…ん…?」
少女は起きてしまったようだ。
「ゼロス…?」
彼女はつぶやくように影の名前を呼んだ。
まだ半分寝ているのか、瞳がきっちりと開かれていない。
「起こしてしまいましたか…」
「どうしたの?ゼロス、こんな時間に?」
「いえ、ただ…」
少女が鸚鵡返しに聞き返した。
「月があまりにも奇麗だったので、リナさんは何をしていらっしゃるのかな。と思ったんです。」
彼は笑ったが、その笑顔があまりにも儚くて、消えてしまいそうで、リナはびっくりしたようにベッドから起き上がった。
「せっかく起きてしまったのですから、月でも見に行きませんか?」
リナは肯いた。断れば、このままゼロスが闇に融けてしまいそうだったからだ。
リナはゼロスに近づいた。そしてそのまま彼は、リナをマントで包んだ。
次の瞬間、リナの前にあったのは、質素で、清潔感漂う宿屋の部屋ではなくて、あたり一面草木の茂る小高い丘だった。ちょうどそこは開かれていて月がよく見える。手に届きそうだ。
「奇麗ね。」
少女の呟きに、影は肯いたが、その夢心地の返事からもわかるように、月を見てはなく、それを見上げて奇麗とつぶやく少女を見ていた。ゼロスにとっては、太陽よりも、輝かしくて、月よりも奇麗で、星よりも美しい存在。
それがリナ=インバース。
リナは、彼の手を解くと、その近くに腰を下ろした。そしてゼロスも隣に座るように促した。
2人はただ黙って、寄り添うように月を眺めたり、風の声を聞いていた。その沈黙を破ったのはリナがくしゃみをしたからだった。
「どうぞ、これを着て下さい。」
ゼロスがマントを脱いでリナの肩にかける。
季節は雪がちらついてもおかしくないころ、人間が、夜中に薄着でいれば寒く感じても何ら不思議なことではなかった。
リナはおとなしくそのマントにくるまった。あるはずのない、ゼロスのぬくもりが残されているとでも言うように。
「月に魔力があるって人間は言いますよね?」
突然のゼロスの言葉に目をいっぱいに見開いて視線を向けるリナ。
「実は、本当のことなんですよ。」
興味深そうに、瞳を光らせるリナに満足したのか、そのまま言葉を続ける。
「とくに、魔族にそれは作用するんです。あるはずのない力を満月の晩だけ使えるようになるとか」
「あんたもそうなの?」
「ええ。僕は人の能力を増幅してしまう力が使えてしまうんです。」
「じゃあ、あたしがあんたの側でドラグ・スレイヴなんか打ったらすごいことになりそうね。」
彼女の瞳が、ルビーの中に炎が揺らめいたかのような不思議な美しさを感じさせた。
「いいえ、僕が増幅してしまうのは、人間の、いわば、闇の部分。隠れた欲求とかを増幅してしまうんです。」
その事に、不思議にリナは納得してしまった。自らが闇より造られし者が、他人の闇を拡大する、筋がとおっている気がした。
「じゃあ、あたしの闇の部分も増幅するって事?」
「そうなりますかね。」
その言葉に重なるように風が吹きぬけた。リナの髪がゆれ、それが風に乗って、かぐわしい花の香りと、草木の匂いがして、ゼロスは一瞬自分を失いかけた。思わず、リナの肩に手を回し、自分のほう引き寄せる。
「ゼロス…?」
ゆれるような声で、我に返る神官。つぶやくように謝罪してその手を放そうとすると、そのまま少女は首を振り、自分から寄り添っていった。
「この方があったかい。」
ゼロスは苦笑した。人間同士ならそれもありえるだろう。しかし自分は魔族で、ぬくもりなどとは無縁なのに。心を読んだのか、表情に出ていたのか、リナはゼロスの心境を読み取ると、微笑みながらいった。
「不思議ね、なぜかぬくもりを感じるの。」
リナを見つめて微笑むゼロスの顔は、今にも消え入りそうで、それが恐くなったリナは、彼の正面に回り覗き込むようにして顔を見た後、首に手を回し抱き着いた。
「リナさん?」
彼女から香る花の香りに、理性が失いそうになるのを必死でこらえる。
「なんで、そんなに消えてしまいそうなの?」
そう、本当に消えてしまいそう。…違う、闇に融けてしまいそう。
人が、いつか故郷を懐かしんで、帰って行くのと同じように、闇から生まれし者が、漆黒の闇に帰るのだろうか。
そんな表情をされたら、敵としてあったとき、あなたを、
ラグナ・ブレードで、切り裂けない。
抵抗できないじゃない。
「生の賛歌が、強く感じられるからでしょうか。」
「誰も歌ってないわよ?」
耳元で、熱くささやきあう。吐息が耳に当たりこそばゆい。
「もともと、この世に生きているものはすべて、生の賛歌を歌っているのです。気も、草も、花も鳥も、小さな虫も。」
ゼロスは、リナを抱きしめる手を少しだけ強くした。
「われわれ魔族は、その程度では、何らダメージを及びませんが、“生きたい”と、とてつもなく強く願うものが側にいると、その生の賛歌が増幅され、僕たちにダメージを与えてくるのです。もちろんダメージといっても、微々たる物ですが。」
「…その、強く願うもの…ってあたしの事?」
ゼロスは黙って肯いた。
リナはただ黙って、ゼロスの胸に顔を埋めている。そうすれば、鼓動と、血潮が聞こえてくるかのように。あるはずのないものが、存在しているかもしれないという万が一の希望に賭けて。
こうしていれば、ますますゼロスがげんなりするのはわかっている。でも、こうしている事で、風が、地表の端をめくり息を吹き込むように、ただれた傷を癒す事ができるとでも言わんばかりに。
しばらくして、彼女は離れた。そして、つぶやく。
「なぜか、懐かしいと思った。こうして、ゼロスが側にいて、月を見ている事が。ほかの誰ともこうした事はないのに。…どうして?」
「僕も、そう思っていました。…おかしいですね、僕の場合、絶対ありえない事なのに。」
限りのないノスタルジア。
お互いに魂を呼び合っているようだ。
「…母なる海にいたときの記憶でしょうか。」
どこか、誰も知らない場所で、2人は出会っていたのだろうか。
僕は、その時でも、あなたをかけがいのない存在と思っていたのでしょうか…?
「ゼロス」
「何ですか。」
「風って、歌を歌っているって聞いた事ある?」
「いえ、ありませんが」
なぜ、急にリナがこんな事を言い出したのかわからないゼロスは、いぶかしそうに聞き返した。
「伝説を歌っているんだって。…あしたには、あたしたち2人の事も風が歌うのかな?」
「さあ、どうでしょう」
そう返事しながらも、ゼロスは思った。
もし、本当に、風が歌うのなら、今のこの気持ちをただ一人の愛しい少女に伝えてほしい。
あなたの側にずっと居たいのです。
たとえ、この体を
失うような事があっても。
世界で一番遠いあなたの側に。

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4330太陽と月の記憶Merry E-mail 9/6-09:12
記事番号4310へのコメント
月と風のノスタルジアを読んでからのほうが、一層わかると思います。

太陽と風の記憶

あの時のことは夢だった。
そう、きっと夢。
じゃなきゃ、あの人はそんなに弱い人じゃないもの。

「すっごい砂漠ねぇ。」
炎が燃えるように鮮やかな髪を持つ少女が、感嘆の息を漏らした。ここに、ダークスターの武器、ガルヴェイラがあるといううわさを聞きつけて。
仲間たちと共に砂漠の砂の海を渡る。そして、凍えるような夜になり、キャンプを張った。
寝付けないのか、少女は、一人、焚き火の番をしている。都合よく見つけたオアシスの水面に、自分と、焚き火だけが明るく照らし出されていた。
いつか、夢で見たようだ。少女は思った。
砂しかない、砂の国。
“生きているものすべてが、生の賛歌を歌っているのですよ”
とある高位魔族が言った言葉。
滅びを司り、生の賛歌が苦痛である彼らだからこそその歌を聴けるのだろうか。もし、そうだとしたら、なんて矛盾した世界なのだろう。
星を見上げる。
降り注いできそうなほどの星の数に圧倒される。半分から上すべてが星の海。
確かに黙っていれば、長い歌を歌っているようにも思える。
でも、それは、消えては生まれる命の歌声。
「どうしたんですか。リナさん」
虚空から声をかけられる。そんな事をするのはたった一人しか知らない。
「ゼロス」
その声に合わせるように、闇が形を取った。漆黒の塗れたような髪は肩のところで切り添えられて、闇から生まれたことを証明するかのような黒衣の神官服。糸のような瞳は、今日は開かれ、宵の開けるときのような深い色をたたえていた。
「眠れなくて…」
柄じゃないと、リナは苦笑する。
「それだけじゃないでしょう。」
その、宵の開けるときのような深い色の瞳で見つめられると、すべてを見透かされているような気がしてこちらが恥ずかしく感じてしまう。
「僕を待ってた。違いますか?」
ゼロスにはかなわないわね。そうつぶやくとリナは笑った。こんな笑顔も似合うな、と魔族はふと思った。リナは、ゼロスに隣に越しかけるようにいった。
「生きているものはすべて生の賛歌を歌っている、て、この前言っていたでしょ?あたしも、聞けるかなって思って」
「リナさん自身強く歌ってますよ。良く耳を澄まして下さい」
いわれた通りに耳を澄ますリナ。聞こえるのは、砂漠を抜ける風の音と、仲間のかすかな寝息だけ。
「聞こえないわ」
ぷっと頬を膨らます。子供みたいなしぐさに、思わず苦笑してしまうゼロス。
「当たり前のように歌ってますからね、リナさんの場合。…じゃあ、こっちにきてみて下さい。」
差し出されてゼロスの手を、リナがつかむと、そのままゼロスは自分のほうに引き寄せた。バランスを崩し、そのままゼロスに重なるようにたおれ込む。
「ちょっと、ゼロス!」
「し…っ耳を澄ましてみて下さい」
言いたいことを我慢して耳を澄ました。しかし、音がないように感じた。心臓の鼓動、草の息吹、砂のささやき、風の歌、星星の合唱。聞こえていたはずのものがここにはなかった。
「ゼロス…?」
腕に抱かれたまま、少女は闇に問い掛ける。
「わかりましたか。僕の周りにはそういう歌がないんです。」
リナは、ほんの一瞬、星が瞬くのより短い間、悲しそうな色を瞳に浮かべた。それもすぐに引っ込み、かわりに、優しい炎が、ルビーのような瞳に宿った。
「…あたし、なんで旅をしているのか、わかったような気がしたわ。」
ゼロスはただ、黙ってリナの言葉を待った。
「最初は姉ちゃんが言ったから、旅をしていた。だけど、途中で、それが変わっていたのね。」
ふふっと、小さく笑う。普段はみれない、彼女の隠れた一面だ。
「空と、風と、この大地の、歌を忘れないように旅をしているんだわ。そうしないと、あたしたち人間が生きていけないのよ。絶望に、取り付かれてしまって。」
リナは、ゼロスから離れて、風に身を任せた。体をなでていく風が、こんなにも心地よかったのは初めてだ。
「……生きることは旅立つこと。…いや、旅立つことは生きること。
風に向かい目指すは死の山。そは恐るべき山。
何故生ある者の進軍をはばむのか。
苦労の多いことよ
風に歌い、波にもまれ
砂の手紙を見失う
小さな虫とてそは同じ。
生きるとは何とつらき事よ。
いや、生きるとはなんのすばらしきことよ。
では、どうして生きるのか。
これはちと難しい。
では、誰のために生きるのか?。
世に言う王侯貴族のためにか?。
…あの、気の優しい、風変わりな王子様のために生きて死ぬのも悪くはない。」
「何の歌ですか?」
「郷里の姉ちゃんがよく歌っていた歌。昔の、多くの国々を巻き込んだ戦争のときに、ある国の王子様に忠誠を誓った、やがては高い地位にまで上り詰めて吟遊詩人が歌った歌だって。」
リナは風の歌を聴くように、黙って耳を澄ました。
「…あたしはね、誰のために生きるとか考えたことなかった。…今なら考えてみてもいいかもしれない。」
「どなたのために生きるのですか?」
「それはね…」
ゼロスは黙って先を促した。
「秘密よ」
2人の視線が絡み合い、やがてそれが苦笑に変わった。


翌朝、何事もなかったかのように少女は元気に挨拶をした。
「おっはよう、みんな!」
それはまるで、太陽のように。きらきらと強く自ら光を発しているように。
「おはようございますリナさん。」
仲間たちの返事に融けるような声でゼロスはこたえた。そして少しさびしそうに笑った。
太陽の出ているときは、あんなしおらしいところ、見せてくれないんですね。
それはまるで夢のように。
そうですね。この人は弱くはありませんから。
昨日のことは泡沫の夢かも知れませんね。
さびしそうに笑うゼロスを見て、リナは少し首をかしげる。
どうして、そんなさびしそうに笑うの?
「どうしたのよゼロス」
「いえ、リナさんがあまりに食べるので、太らないかなと思いまして。」
「っな…なんですって!!このスットコ神官!!」
人が心配したのに。
いつもの、ゼロスよ…ね?
そうよ、昨日のは夢だったんだわ。
現実にあったことだけど、夢の領域に入ってしまうこと。
だって、あんなに優しくないもの。
あんなに優しく抱きしめてくれないもの。
あんなに、消えてしまいそうじゃないもの。
このひとは、弱くないもの。
そう、…夢だった。



ここまで読んで下さって、ありがとうございます。(涙)こんな、何が言いたいのかわからない文章に…。文章にうまく表現するのって難しいですよね。(もしかして私だけ??)もうちょっと、色彩感のある文章が書きたかったなあ。では、「世界で…」の新作であえるといいですね。(とか何とか言いつつ、この続きかいてしまいそうだ。)

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4331金色の砂Merry E-mail 9/6-19:36
記事番号4330へのコメント
金色の砂

ここにいるんです。
聞いて下さい。
そっと語り掛ける。
ここにいるんです。僕。

「あつい…」
何度いっただろう、この台詞。砂漠を歩いているのだから、あたり前かもしれないけど、言わなくては気が済まないほどだ。汗が、滝のように流れ落ち、はるか地平線の彼方では、ゆらゆらとかげろうが上る。
どこまでも続く金色の砂。
「ゼロス、あんたなんでそんなに涼しそうな顔してんの?」
「僕は、魔族ですから」
時々忘れてしまいそうになる事実。
そう、こいつとあたしは敵。
今は違っても、遠くない将来絶対に命をかけ合う存在。
「あ…そう…あ…あれ?」
リナの視界が一転する。視界が、だんだん暗くなってきて、体が宙をまうようだ。後ろに倒れそうになる少女を、ゼロスは難なく支えた。仲間たちの安否を気遣う声がした。
「リナさん、最近よく眠れてないみたいですよ」
心配そうな顔をしている仲間たちにゼロスはこたえた。驚きが、波紋のように仲間たちの顔に宿る。無理もない、この少女は眠れない何てこと今までなかったのだ。魔族に命をねらわれ、その追手から苦し紛れに逃げた夜でも。平気で寝ていた。それなのに。
何があったんでしょうね。
自分のひざを枕として気を失っているリナの顔を見ながら、ゼロスはその顔に不安を浮かべる。
仲間たちは、近くにオアシスがないか探しに行った。前のキャンプ地まで戻るのは不可能だったからだ。
うなされているみたいですね。
リナの顔が苦痛に歪むのを見て、ゼロスは目をそらした。彼女の苦しむ姿を見るのはいやだった。たとえ、負の感情を食事にしているとしてもだ。
「フィリアさん」
仲間たちから留守を頼まれた竜族の巫女にゼロスは話し掛けた。彼女はゼロスのことを嫌がっていて、少し距離を置いて座っている。
「僕はこれから、リナさんの夢の中に入ってみます。留守番頼みましたよ。」
フィリアが肯くのを見て、ゼロスはその意識をリナの夢の中にあわせた。
ここは、どこでしょうね?
あたり一面金色の砂に覆われた砂漠が広がっている。そして空と思しきところは漆黒の闇に覆われ、月どころか星一つなかった。それなのに、視界は昼間のように利く。音のない夢。
とにかく、リナさんを探しましょう。
あてもなく、ただ歩きつづけると、砂漠に、うずくまるように座っている人影が見えた。あのひとだ。
「リナさん」
走って近づいて、その名前を呼んだ。しかし、少女は顔を上げても、ゼロスには気がつかない。
「しっかりして下さい。」
両手で、小さいかを優しく挟んで、こちらに向けた。じっと食い入るように彼女を見つめる。しかし、反応はない。
「リナさん?」
彼女の瞳は、ルビーのような奇麗な瞳をしていたはずだ。しかし今は、どういう事だろう。くすんだ安物のルビーのような濁った色をしていた。
「…いや」
「はい?」
ささやくようなリナの呟きにゼロスは聞き返した。
「…こわい…死ぬのは恐い…あの人を殺さなくてはいけない」
「ちょっと?リナさん!!」
リナの声がだんだん大きくなっていく。
「殺さなくては、…あたしが死んでしまう……死ぬのはいや。でも、あの人を殺せない!!
でも…殺さないと、大切な仲間が失われてしまう。………それもいや!!……もう、誰も…」
大粒の涙が、真珠のような輝きを放って、その雪のように白い滑らかな肌を滑り降りていった。
「失いたくいない……あたしを殺そうとするあの人も、……大事な仲間も…」
リナは絶叫する。
「あたしのために、死んでほしくないの!!」
思わず、ゼロスはその華奢な体をかき抱いた。リナはそのまま静かに涙を流している。
もう、僕は後戻りできませんね。
すみません獣王様。
僕は…
ゼロスは、リナを抱いている腕に力を込めた。こうすることで、不安が取り除ければいいのに。
「リナさん、聞いて下さい、お願いします。」
正気に戻っていないことを承知の上で、彼は言葉を続けた。一言一言、大切に言葉を選びながら。
「ここにいます。僕はここにいます。」
僕は気がついてしまった、自分の気持ちに。
「きっと…ずっと…そばにいます」
“敵”になれないことに。
「あなたのそばにいます」
僕は…
ゼロスはそっと、リナの抱いている手をゆるめた。さすがに苦しいだろうと思ったからだ。
リナは、涙を溜めた目で、しかしいつものように輝かしいルビーの瞳でゼロスを見上げ、首に腕を巻きつけると、そのままゼロスに抱き着いた。
「ありがとう…ゼロス」
耳元でつぶやくリナの声が、涙に震えていた。しかし、そこには悲しみではなくて、喜びが混じった声だった。
あなたのことが…
ゼロスは、そっと自分の胸から、リナの顔をはがすと、リナの頬に軽く唇をこすらせた。
……好きなんです。


現実世界に戻ってきたゼロスは、その穏やかなリナの寝顔を見て、安堵のため息を吐いた。
人は、強くて弱い。
そして脆い。
彼女が例外であるはずがない。
でも、僕はずっとそばにいたいのです。
あの、闇に透けるようかに見えた、あの夜の時のあなたも、太陽の下で輝くあなたも。
それを併せ持つあなたのそばにいたいのです。




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4338Re:月と風のノスタルジア・月と太陽の記憶・金色の砂珠波 雅璃愛 9/7-15:37
記事番号4331へのコメント
Merryさんは No.4331「金色の砂」で書きました。

 初めまして!!Merryさま。珠波 雅璃愛と申します
 
 本当に綺麗な文章で、どうやったらこんなに綺麗に(文章を)書けるの〜?とか思いました。
 読み終えて、冗談抜きに、目が潤んでました。

 「世界で一番大嫌い」のほうも、楽しみにしています。(ちなみに、私は長男派です。)

 それでは、短い上に、どうしょうもないコメントで、すみません。

                        9・7 珠波 雅璃愛

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4349はじめまして理奈 E-mail 9/8-08:12
記事番号4331へのコメント
 はじめまして、Merryさん。理奈といいます。いつも楽しませていただいてます。
あなたが書く作品は、とても好きでいつも「ああ、Merryさんみたいな
小説書きたいなぁ」なんて思い私も書いて見ました。投稿するかは、わかりませんけど。ちなみに私もゼロリナが大好きです。
 これからも読ませていただきます。がんばってくださいね。

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4351Re:まとめて読んで下さった皆様にMerry E-mail 9/8-09:27
記事番号4349へのコメント
ありがとうございます。
やっぱり、読んでくれている人がいると嬉しいものです。
まとめてレスするなんて、本当は失礼かもしれませんが、忙しいので、勘弁して下さい。
とりあえず、読んでくれている皆様に、感謝の意味も含めて、次回予告。
「世界で・・・」のほうは、とりあえずこのまま突っ走ります。
「月と風のノスタルジア」シリーズ(勝手に命名した)は、とりあえずあと二三話で終わりって感じかな。多分ゼロリナラヴラヴモードに入るかなぁっと。
WANNA BE AN ANGELのほうも読んで下さい。一応続いていますよ。
それでは。

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4334wanna be an angel(前編)Merry E-mail 9/7-09:39
記事番号4310へのコメント
WANNA BE AN ANGEL(前編)


世界中に言いたいの。
私はあなたのもの。
今なら、天使にだってなれる。

少女が次に気がついたのは、とあるオアシスだった。太陽は、地平線につこうとしていて、空は、夜が独占しようと範囲を広げていた。
目を開けると、心配そうに覗き込む仲間の姿があった。そんな姿を見て、リナは少し嬉しくなった。
「大丈夫、もう大丈夫よ。何ともないもの。」
体を起こそうとすると、夜の闇を切り取ったような髪を肩より少し短く切って、うちまきにしている、リナよりも少し年下の少女が、リナの肩をつかむとそのまま押し倒した。
「まだ寝てなきゃだめです。リナさん、ゆっくり休んで下さいよ。最近強行軍だったから行かれがでたんですよ。」
アメリアの優しさに、今は甘えることにして、そのままでいた。ほかの仲間たちは安心したのか、焚き火の近くで夕食の準備に取り掛かっていた。アメリアも、リナの顔を見て安心したのか、そのまま夕食の準備に取り掛かっていった。
そのいつもと同じような、楽しい、騒ぎの中に誰かが足りなかった。フィリアが、落ち着いてなべの火加減を見ている。いつもなら、ここであいつの茶々が入るはずなのに。
ゼロスは、どこに行ったのだろう。
いないのは、いつものこととはいえ、少しさびしかった。
さっきまで見ていた夢を思い出す。
絶望に取り付かれていたあたしを、優しくて、力強い手がすくってくれた。あたしの名前を温かい声で呼んでくれた。
それは…誰?
覚えていない。とても大事なことだったのに。
「おや?気がつきましたか?」
リナの目の前に、宙に浮いたよく知っている魔族が姿をあらわした。
「ん…さっき。」
2人の視線が絡み合う。
リナは、ゼロスの視線がいつもと違うことに気がついた。いつもは、その闇色の瞳に、冷気の刃が潜んでいるかのようなのに、なぜか、今は優しい炎の光が宿っているかのようだ。
どうしちゃったのかしら…このスットコ神官。
そんなリナの考えなんかお構いなしに、ゼロスはリナのすぐ横に降りると、ひざをついて、リナの額に手を当てた。
「熱はないみたいですね。」
「ゼロス…?」
何だろう、このひとこんなに優しかったっけ?
…あの時の夜以来ね。
「起きれますか?」
「うん。でも、アメリアがもう少し寝ていたほうがいいって。」
「それは残念」
軽くため息を吐くゼロスが、本当に残念そうにしているので、思わずリナは聞き返した。
「夕焼けが奇麗なんで、一緒に見に行こうと思ったんです。…ふたりっきりで」
“ふたりっきりで”という言葉が、なんだか熱っぽく語っているので、リナはなんだか急に恥ずかしくなってきた。
こいつって、こんなに情熱的だっけ?
こいつも暑さにやられたんじゃ…。
「何いってんのよ」
顔が赤くなっているもを見られたくなかったからリナはゼロスから顔をそらした。
「動かなきゃ平気ですね。」
何を思ったか、ゼロスはリナを軽々と持ち上げて、そのまま空間を移動した。ゼロスがリナを攫っていくのを、偶然目撃したアメリアは、持っていた拾ってきたばかりの薪を地面に落とした後、ガウリィが今のことを見ていないか、確認して、見ていないようだったので安堵のため息を吐いた。
「ちょっと…ゼロス!!」
リナは恥ずかしさを紛らわせるために、ゼロスの腕の中で暴れまわった。
「痛いですよ、リナさん。…それより夕日が奇麗ですよ。」
物理攻撃なんてきかないはずなのに、ゼロスは痛がっている振りをする。
なんだか人間らしくなりすぎじゃないの?
リナはそう思いながら、ゼロスにいわれた通りに夕日を見た。
地平線に半分ばかり埋まってしまっている太陽。紅茶を薄く入れたような色がリナとゼロスを染め上げる。あたり一面の砂が黄金色に輝くほんのわずかなときだ。
しばらく見とれていたが、後ろから騒がしい声がして、はっと意識を現実のものに戻す。
仲間たちの騒ぎ声だ。てっきり遠いところに連れてこられたのかとも思ったがなんてことはない歩いてこれる距離に移動したのだ。しかし…こんなところをみんなに見られたら…カッコ悪いなんてものじゃない。
「ねえ」
もう片方の手も、ゼロスの首に巻きつけて、振りかえったとき、ゼロスの顔が一番に目に入ってきた。
こいつって、こんなにカッコよかったっけ?
夕日を黙ってみているゼロスの顔がとても輝いて見えた。
目が離せなくなってじっと見ていると、ゼロスが気付いて苦笑した。
「何をそんなに見つめているんです?」
「あ…いえ…その」
なぜか顔が赤くなる。心臓の鼓動も断然早くなった。
ゼロスに、聞こえてしまいそう。
この心臓の鼓動が。
そのころ、アメリアはそろそろ夕食の支度が終わりそうなので、リナを見つけようとしていたがどこに行ったのかわからないし、それに誰かに手伝ってもらうということをすれば、ゼロスが抱きかかえていったことを説明しなければならなくなってしまう。そんな事が知れればいずれガウリィに知れてしまうので、ここは何としてでも一人で探さなくてはならなかった。
「リナがいないな」
す…鋭すぎますゼルガディスさん。
アメリアは顔を引き攣らせながら、事の次第を旨く誤魔化したが、一緒に探してくれることになって、アメリアとしては甚だ困る結果となってしまったのだ。
このオアシスの外とも考えられますよね。
アメリアは何気なく近くの茂みから外に出ようとした。すると前方に人影が見える。何だろうと、そのまま足を進める。茂みが開かれ、そこで目にしたのは、リナがゼロスに抱きかかえられたまま見つめあっている2人だった。
はっ…こ…この状況は…。
あ…あの、ゼロスさんの熱い視線といい…。
あたしってば、邪魔者?!
とりあえず引き返して出直してこようと一歩後ろに下がったアメリアは、派手な音を立てて木の枝を踏んでしまった。しまった、と思ったがもう遅い、ゼロスが不機嫌そうな顔をしてこちらに首だけ振りかえっている。リナは、恥ずかしいのか、顔をアメリアに見せようとしない。
…こ…こわいです…ゼロスさん。
そんな…こんな恐い顔
初めてみます。
恐怖におののくアメリアは、ゼロスにしか聞こえないような小さな声でしかしはっきりと訴えた。
「こ…このことは、誰にも言いません。…私の正義を愛する心に誓って」
それが聞こえたのか、ゼロスはいつものにこにこ顔に戻り、何でもないようにアメリアの横を通っていった。横を通りすぎるとき、リナから、助けて、という声がしたが、それにはこたえることはできなかった。
「どうしようもありません。私が殺されてしまいます。」
アメリアはそうこたえた。あながち嘘では無い気がして、アメリアとしては今後、馬に蹴られないように努力しなければならなかった。
ゼロスがみんなの前に姿をあらわしたのだろう。歓声というか悲鳴というか、よく分からない声が日の沈んだ空に響いた。


「…気持ちい…」
リナはオアシスで水浴びをしている。男たちは茂みの外で、過ごしているし、アメリアも、フィリアも今はいない。男たちのいるところに戻っていた。
一人、月の光を浴びながら、水浴びするのがこんなに気持ちのいいものだとは思わなかった。
どうしたんだろうあたし。
ゼロスを見ると、なんだか心臓の鼓動は早くなるし。
顔は意味も無く赤くなるし。
病気かな。
ふと、夕焼けを見たときのゼロスの横顔が目に浮かぶ。
また、顔が赤くなる。
どうしたんだろう。
「ところで皆さん、最後の武器のこと…」
突然目の前に現れたスットコ神官に、リナは声にならない悲鳴を上げて、水の中に身を隠した。誰も覗かないだろうと安心しきって、タオル一枚すら巻いていない。
どうやらゼロスは、リナのタリスマンに頼って、空間の座標をあわせたようで、ちょうどリナの脱いだ服の上に浮いている。
「あ…その………」
状況に気がついたのか、ゼロスはほんのり顔を赤くしたが、暗闇の所為でぜんぜんわからない。
「い……」
いいもの見せてもらいました。と言おうとして口をつぐんだ。こんな事を言えばリナに滅ぼされてしまうかもしれない。
「失礼しましたっ」
とりあえず、そういってその空間から移動した。いなくなるまで、リナは体を隠すように水の中に入っていること意外にできたのは赤くなっている顔を見せないように俯いたことだけだった。
「な…なんだったの?」
リナの呟きを、静かに月は聞いていた。


「はあ…驚きました。」
とっさに移動したためさっきいたところからさほど距離は隔たっていないはずだ。耳を澄ませば、水のゆれる音が聞き取れる。
ぬれる、炎が燃えたような髪。
華奢な肢体。
ゆれる、ルビーのような瞳。
すべてを独占したい。
魔族の性とはいえ、時々自分が押さえられなくなってしまう。さっきなんか良い例だ。
張り倒されるではすまないのに。
それでも理性を失ってしまいそうな自分をよく引き止められたと思う。
じゃなければ、あの場で…。
もう考えるのはよしましょう。
ゼロスは深いため息を吐くと、アストラル世界に帰っていった。


後編に続く。


ああっとうとう書いてしまった。(爆)なんて怪しい小説。もう、壊れてますね。私。…戻れると良いなぁ。
ここまで読んで下さったかたがた、ありがとうございました。早いうちに後編をあげたいと思いますので、見捨てないでください。

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4350wanna be an angel(後編)Merry E-mail 9/8-09:20
記事番号4334へのコメント
ああ、私ってば一人でこんなに書いて…。ツリー早く沈んでしまいそうですね。すべては私の所為かも…

WANNA BE AN ANGEL(後編)


世界中に言いたいの
私はあなたのもの
今なら
天使にだってなれる


「リナさーん」
自分を呼ぶ声に我に返った燃えるような赤毛を持つ少女は、泉から出ると、手早く衣服を着た。
「何?アメリア」
茂みの向こうにいるであろう仲間たちに聞かせるように少し声を張り上げた。
「遅いですぅ。ゼロスさんがきて、重要な情報を教えてくれるそうなんですが…」
ゼロス
その言葉に、自然と顔が赤くなる。
どうしたんだろう…あたし。
もしかして、これって…
「ごめんごめん。もう着替えたからこっちきてもいいよ」
仲間たちが、焚き火の周囲に集まり、思い思いに腰掛ける。リナは、アメリアとフィリアの間に座るように腰掛けた。今日はなんだか、ガウリィの隣や、ゼルガディスの隣には座りたい気分ではなかった。それに、フィリアの隣にいれば、ゼロスも寄ってこないだろうと思ったのだ。
「実はですね…」
ゼロスが、みんなに説明しながら、さりげなくリナの隣に座った。しかも、アメリアとリナの間に。
しまった
リナとアメリアが思った。
リナは、顔が赤くなるのが見られるのがいやだったのだが、アメリアとしては、さっきのあの状況を生で見てしまったのが、トラウマとなって、ますますゼロスに苦手意識を持ってしまったのだ。
そんな…ゼロスさん。これって、邪魔するなって事ですよね。
ヘビの生殺しですぅ
アメリアは心の中で涙を流しながら、ゼロスの説明に耳を傾けた。
「この近くに、遺跡があるんですよ。異世界黙示録級の遺跡でして、調べてみる価値はあると思うのですが。」
みんなを見渡すように説明しているが、やはりちらちらと隣に俯いて座るリナに視線を送っている。当のリナは、説明をどうやら聞いていそうに無いほど、顔を赤くしていた。
「どうしたんですか?リナさん」
ゼロスが、リナの顔を覗き込むようにしてみている。突然のアップに、リナは、でっかかった悲鳴を飲み込み、トマトのように顔を赤くして、吸い込まれるようにゼロスの闇色の瞳を見つめた。
時間が、止まっているようだった。
「リナさん、具合悪いんじゃありませんか?」
フィリアが、ゼロスを押しのけるようにしてリナの顔を覗き込んだ。
違います…フィリアさん…リナさんは…
アメリアは、リナの心境を理解してはいたのだが、それを言うことはできなかった。
「リナさん休まれたほうが…」
心配そうに覗き込んでいるフィリアに少し、いや、かなり顔を引き攣らせて、ゼロスがフィリアの後ろに立っている。この状況を間近で見ているアメリアは、冷や汗を流しまくっていた。
「僕が、寝袋までお運びしましょうか。」
既にリナを抱き上げた状態でいけしゃあしゃあと言うゼロス。リナは抵抗らしい抵抗ができないまま、みんなの注目を浴びて、焚き火の近くにすでに準備してあった寝袋まで運ばれた。
この…感じ…
もしかして…
「ねえ、ゼロス」
リナはゼロスに抱えられたまま、彼にしか聞こえないような、小さな声でつぶやいた。
「夢の中で、あたしを助けてくれたのって…」
「僕です。わかっちゃいましたか?」
「ありがとう」
なぜか涙が出てきた。それは、悲しみの涙ではない、嬉しくても泣けるのだと、リナはその時わかった。
ゼロスは、みんなに見えないようにそっとリナの頬にくちづけた。優しく触れたその唇が、リナに痛いほどゼロスの気持ちが伝わってきた。
そんままリナは寝袋に入ると、なぜか安心した気持ちで眠りに就けた。
あたしのそばには、いつもあの人がいてくれる。
そして、あたしは、あの人が好き。
世界中に言いたい。
あたしは、あなたのもの。


次の日、リナは、朝露の残る時刻に一人目が覚めた。昨日早く寝てしまった所為かもしれない。顔を出したばかりの太陽を見ながら、リナは砂地に腰を下ろした。空には、まだ夜がかすかに残っていて、わずかな星たちが生命の歌を歌っていた。
空を見上げてくすりとリナは微笑んだ。
そういえば、生の賛歌について教えてくれたのは、あの人だった。
オアシスに住む小鳥たちが、朝を告げる歌を歌い始めた。
“今日の予報では、太陽が一億降るでしょう。”
太陽の光をたたえる鳥たちの歌。
息が詰まるほどの眩しさね。でも、あの人に恋をしたから、世界がそう見えても可笑しくはない。
世界中に言いたい。
あたしは、あなたのもの。
今なら天使にだってなれる。
「おはようございますリナさん。」
「おはようゼロス」
虚空に現れた愛しい人に声をかけた。今日は何も言わないでもゼロスは隣に座った。
「ねえ、ゼロス」
「なんですか?」
「あなたの口からすべてを知りたいの。」
海の深さ、空の高さ、青の謎。
すばらしい不思議に満ちたこの世界。
何でもなかったことが、不思議に見える。
あなたに、恋をしたから。
「じゃあ、海の青さから話をしましょうか…」
あたしに、知っている限りのことを教えてくれる、あなたの口調が好き。
あたしを優しく包む、その目も好き。
何より、あたしに居場所をくれた、あなたが好き。
世界中に言いたいの、
あたしはあなたのもの。
楽園にたどり着いたの。


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4352Re:wanna be an angel理奈 E-mail 9/8-14:07
記事番号4350へのコメント
またまた読みました。あぁ〜、ゼロス様がすてきすぎぃ!
リナ、かわいすぎぃ〜!!どんな風にしたらこんなすばらしい
作品が書けるのでしょうか?よぉ〜し!決めた!私も投稿しよう。
Merryさんの作品におとるかもしれないけど一生懸命書いたやつを
投稿したいと思います。その時、感想を聞かせてください。では。

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4381砂の壁Merry E-mail 9/9-09:12
記事番号4310へのコメント
砂の壁


彼らは、その日、遺跡の前にいた。ゼロスがもたらした情報が本当なら、ここに、ダークスターの最後の武器が隠されているはずだ。燃えるような赤毛の少女は、その遺跡を見渡した。砂の雨を浴び、いつ朽ち果てても可笑しくないような建造物。所々ひびが入り、中にはかけてしまっているところもある。何の物質でできているのだろう煉瓦よりも柔らかくて、金属よりも冷たい。ライティングを灯して、一歩その中に踏み込むと、砂と、かび臭い匂いがした。こういう遺跡特有の匂い。少女は嫌いではなかった。わずかな明かりだけを便りに、彼らは、奥へと足を運んだ。
30分ばかり歩いたところで、道が三つに分かれていた。普通なら、仲間で固まって一緒にいくのがダンジョン探索の定石というものだ。しかし、彼らはプロである、三方向に別れる事にしたが、問題が生じた。
ゼロスとフィリアである。
いつものようにお互いを貶めあっているのにあきれたのか、少女は、フィリアに、ガウリイと一緒にいくようにいった。
「でも。そうするとリナさん…」
「大丈夫だって」
本当は、ただゼロスのそばにいたいだけ。
ゼロスとフィリアの喧嘩にあきれたわけじゃない。
「じゃ、いこっゼロス」
右の道へ早足でリナは歩いていった。その後に続くようにゼロスは歩いていった。その、リナを見つめる目に、限りない慈しみを込めている事に、誰一人気がつかなかった。
「僕なんかでよかったんですか?」
「あたしじゃだめなわけ?」
願ったりかなったりですよ。
そう言おうとした言葉を寸前で飲み込んだ。彼女に知られてはならない。
この想いを。
きっと、彼女が困るだろうから。
魔族なんかに好かれてしまっては。
2人はただ黙って歩きつづける。それでも、居心地はよかった。
時折出てくるモンスターも、片手であしらえるほどよわっちいもので、本当に武器があるのか不安になりかけてきたころ、前方に、大きな、いかにもという扉があった。
リナは駆け寄ると、その扉に手をかけようとして慌てて引っ込めると後ろに飛びのいた。リナのいたところから、爆発音と煙が出てきた。
誰かが攻撃してきたのだ。
ゼロスも慌てて駆けつけて、身構える。
天井から、リナの手に持てそうな大きさの、白い球体が降りてくる。リナの頭の高さぐらいに降りて来たそれは、体を輝かせたかと思うと、強風を拭きつけた。
リナは吹き飛ばされ、したたかに腰を地面に叩き付けた。痛みのあまり一瞬息が詰まる。
前方を見れば、さらに攻撃しようと、球体が今度は赤く輝いた。
くるっ
そう思って、防御体制に構えると、それはこないで、かわりに、ゼロスの悲痛な叫び声がした。
「ゼロス?!」
がくりと膝をつき、うずくまるようにして悲鳴を上げている。ゼロスに半端な攻撃は通じない。
これは…精神攻撃?!
リナにそれが聞かないのも道理だ。リナは走りよりながらエルメキアランスを放ったが、バリアが張られているのか、瞬時に打ち消されてしまった。
魔法が効かないのなら…
リナは、腰に差してあった短剣を跳躍しながら抜き放つ。その勢いを利用して切りかかったが、刃が、球体の表面に触れようとした瞬間、見えない壁が行く手を阻み、剣先から火花が飛び散った。
その間にも、ゼロスは着々と滅びの道を歩んでいる。リナは、ドラゴンもまたいで通るほどの鋭い眼光で、その球体を睨み付けると、短剣をしまいながらゼロスに駆け寄った。
回復しようと思ったのだが、ゼロスの肩に手を置いたとき、その方法が分からない事に気がついた。
人間なら、回復魔法で大丈夫だ。しかし魔族は?精神体である彼に何をすればいいのだ?
“僕たちは、生の賛歌でダメージを受けるのです”
いつか話してくれた言葉がよみがえった。生の賛歌…?それに対になるものは…。
彼女は天恵を受けた。
あの日の夜、生の賛歌に気付かせてくれたとき、ゼロスは、みずからの周りには一切の音はないといった。しかし、リナは聞けてしまったのだ。ゼロスが奏でる、魔族特有の滅びの歌を。いや、闇の賛歌といったほうがいいかもしれない。おそらく、魔族には聞けない音なのだろう、そして人間である自分にこそ聞く事ができたに違いない。
リナは、彼の耳元で歌おうとして、口をつぐんだ。
彼をこのまま見捨てたほうが、仲間のためではないのか?
そういう考えがリナを捕らえた。
この人は、あたしを殺すだろう。
それを阻止しようとする気の優しい仲間たちも、なんのためらいもなくこの人は殺すだろう。
仲間のために、ほうっておくか…。
いや、
助けよう。
あたしは、この人を好きになってしまった。たとえ、この人が、あたしを単なる道具としてしか見ていなくても。
好きな人だから助ける。
それで許してくれるよね。
みんな…。
リナは彼の頭を抱えるように抱きしめ、耳元でこの間、聞いた闇の賛歌を歌った。
好きなの、あなたが…。
リナは自分の思いを込めながら歌う。
あなたは、この世で一番遠い人
母なる海にいたときから、あなたに恋をした。
繰り返すメロディーをささげるように歌うリナ。その、魂にそっと、そっと…
あなたとの、隔たりが、砂の壁であってほしい。
脆く崩れ去る砂の壁なら、あたしが叩き壊してしまうから。
突然リナは、苦しくなって、ゼロスから離れた。喉に何かが引っかかるような不快感があったので咳をすると、そのまま血を吐いた。
手には、真紅の血が滴り落ちている。どうやら、闇の賛歌は人間には歌っていけないもののようだ。その生命力を吸い上げる、まさに闇の歌。
それでも、リナは歌いつづけた。手が汚れてしまったから、ゼロスの頭は抱きしめる事ができなかったけど、それでも、彼に聞こえるように一音一音はっきりと声に出した。気を失うまでずっと。
リナが気を失う寸前、ゼロスは気がついたのか、リナを支えると、アストラル世界に移動した。次の瞬間、黒い錐が、球体を真っ二つにしていた。
まさか、リナさんがあの歌を歌えるとは。
ゼロスは、滅び行くとき、遠い昔、自分が作り立てで、たやすく力がなくなってしまっていたとき、彼の上司が力の回復にと歌っていた歌だ。その歌は、魔王とその腹心たちにしか歌えない代物で、人間であるリナが、その歌を理解する事も、歌う事も不可能であったはずなのに。
僕と長くいた所為でしょうかね。知らず知らずのうちに、僕特有の“匂い”を覚えてしまったのでしょう。
それとも、僕とは対極にいるリナさんだからこそわかったのかもしれませんね。
この世で一番遠いあなたですものね。
種族の違いがなければ、あなたを誰にも触れさせてりはしないのに。
でも、僕が人間だったら、リナさんとは会わなかったでしょうね。
ゼロスは、抱え込んでいる少女の口の端についていた血を舐めて拭き取った。
そしてそのまま自分の唇を、リナの唇に合わせた。
離れた瞬間、彼女は気がついたらしく、目を開けた。自分を見つめるゼロスに、彼女は、安堵のため息と共に、瞳を涙で潤ませながら抱き着いた。
「よかった、ゼロス、無事だったのね」
「おかげさまで」
「よかった、貴方がいなくなってしまったら、あたしは…」
リナは、涙に震える声をはっとつぐんだ。どさくさに紛れてなんて事を口走っているのだろう。リナはそう思ったのだ。
「僕も、嬉しかったです。リナさんが気がついてくれて。このままだったらどうしようかと…」
あくまでも儀礼的に返すゼロスの台詞に、リナの両眼に、超新星爆発の閃光が、走った。
「それ、どういう事?獣王の命令から、あたしが無事でなきゃ困るから?貴方の本心じゃないのでしょ?」
自分は、こんなに真剣なのに。
「誤解です。本心ですよ。僕は…リナさんが」
好きなんです。
リナの耳元で熱くささやいた。
激昂の反動か、耳たぶまで赤くしたリナは恥ずかしくなって、そのまま俯いた。
ゼロスは、リナの後頭部に手を置き、自分のほうに向かせた。そしてそのまま2人の視線が絡み合った。


そのころ、ゼルガディスとアメリアは、さっきの爆発音を聞きつけて駆けつけているところだった。先頭をアメリアが走っていたのだが、これまたタイミング悪く、リナとゼロスの視線が微妙に絡み合って、みつめあっている最中だった。
ま…またしても。
あたしってばタイミングわるーい!
しかも、今度はゼロスさんだけでなくリナさんまであんなに熱い視線を…。
急に立ち止まって、ゼルガディスに引き返すように身振り手振りで説得するが、意味が分からなかったらしく、アメリアの制止も聞かず、ゼルガディスは声を出した。
「何しているのだ?アメリア?さっさと進め。」
暗闇のダンジョンで、ましてや、ゼルガディスの位置からは、前方にどういう光景が広がっているかなんてわかりっこないのである。
アメリアはまたしても、ゼロスに睨まれてしまったのでした。

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4390帰る場所Merry E-mail 9/9-22:18
記事番号4310へのコメント
帰る場所


見た事もない風景
そこが帰る場所
たったひとつの命に帰りつく場所


無事遺跡探索を終えた彼らだが、うわさは嘘だったらしく、あんな苦労にもかかわらず得たものは、たったひとつの腕輪。何の変哲もない単なる腕輪のようなのだ。彼らはがっくりと肩を落とし、次の街を目指したのだった。

「あーたいくつぅ。」
遺跡探索の疲れを癒すために、たどり着いた街でゆっくり一日過ごす事にした一行は、それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。燃える炎のような赤毛の少女は、自分に割り当てられた部屋のベッドで、退屈そうに寝転がっていた。
外は、太陽が眩しいほど輝いていて、空は、海の青さを映すかのように深い青さを示していた。雲一つない。生の賛歌を大合唱しているのを感じる。
ゼロスと一緒にいたかったのだが、彼は今はいない。どこにいってしまったのだろう。おそらく、魔族としての仕事をしにいったのだろうけど。
「今日はリナさん(はあと)」
空間が歪み、目の前に黒衣の神官が現れた。漆黒の髪は肩で切り揃えられていて、闇から生まれた証のような黒衣の神官服。昼間の明かりで見る彼の瞳は、闇色の中に、紫水晶の美しい輝きが宿っていた。
奇麗な瞳。
リナは、吸い付けられるようにその瞳を見詰めた。
「お暇なら、散歩でもいきませんか」
リナのベッドの横に腰を下ろして、リナの髪を一房すくうゼロス。
「いいわよ。ひまだし」
ゼロスはにっこりと嬉しそうに目を細めて笑うと、リナの手を取って宿屋から出た。その姿は微笑ましい恋人同士のようだった。
「ちょっと、ゼロス?!」
「いやですか?」
「嫌じゃないけど…その…えっと…」
恥ずかしそうに俯きながらぶつぶつとつぶやく。その姿に、ゼロスは嬉しそうに微笑むと、リナを、とあるお店に連れていった。そこは、街一番の仕立て屋だった。
「ゼロス…?」
「リナさんって、長旅ばかりであまり普通の服もってないでしょ?僕のおごりですから、似合う服作ってもらって下さい。」
「でも、長い間ここにいられないのよ?」
「僕が空間をちょっと移動して取りにいきますから」
「まぁ、そういう事なら」
恥ずかしそうに顔をそらしていたリナは店員にいわれるように体の寸法を測っている。
続いて訪れたのは、この街で有名の名物料理フィッシュアンドチップスのスタンド。白身ざかなをから揚げにしてお酢をかけて、ジャガイモのフライを一緒にのせてある。これもゼロスのおごりで、リナは、嬉しそうにそれをほおばっている。その手を引いて、ゼロスは、そのまま歩きつづけている。
「どこいくのゼロス?」
「それは秘密です。」
まるで、恋人同士のようだ。
こうしていると、敵である事を忘れてしまいそう。
ずっと、時がとまればいいのに。
こんな幸せなときなのに。


「すっごーいきれーな眺め。街が一望できるのね」
ゼロスに連れてこられたのは、街の展望台にもなっている小高い丘だ。リナは、その柵によりかかり、そよ風に気持ちよさそうに吹かれている。ゼロスは、そのリナの笑顔を見てまぶしそうに見つめた後、何気なくリナの背後に回り、後ろから抱きしめた。
「ゼロス」
「しばらく、このままでいさせて下さい」
ゼロスのそのささやく言葉が、少しだけ切なかった。
体温なんて感じないはずなのに。
それでも、ゼロスの体は温かかった。
聞こえないはずの、鼓動。
リナだけには聞こえた。
どうしてだろう、こうしていると、なぜか懐かしい。
まるで帰ってきたような気がする。
いつかの夜もそう思った。
母なる海にいたときもこの人と一緒にいたんだ。
だから、こんなにもこの人が懐かしいのね。
「ねぇ、ゼロス」
「なんですか」
耳元でささやく言葉は、少しだけ、こそばゆかった。
「あたしが母なる海に帰ったときも、そこで一緒にいる事また、できるかな。」
「大丈夫です。母なる海で過ごす時間は、ここの何千年が一瞬のようだといわれてますから。もし、先にいってしまってもさびしくなんてありませんよ。」
ありがとう。そうつぶやいた言葉は、風に乗り、そして融けて消えた。
もし、生まれ変わるなら、この人のそばにいさせて下さい
声を聞かせて下さい。
この人に闇が降りかかるときは、光のもとに連れていってあげたいのです。
僕の願いを聞いて下さい、すばらしいあの方。


あたしの帰る場所、それはゼロスの隣。
僕の帰る場所、それはリナさんの隣。



おわり

ようやく終わりました。本当は、短編のはずだったんですが、せっかく作った設定だしもったいないと思って、そのまま書いちゃいました。結局長いし。本当にここまで読んでくれた方ありがとうございました。感謝感激です。
この次のゼロリナは、学園ものか、ギャグにしようか今考え中です。こんなのが読んでみたいという方がいらっしゃれば、(いるかな?)それにこたえようかとも思っています。
本当にありがとうございました。

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4392Re:帰る場所三里桜架 E-mail 9/10-00:27
記事番号4390へのコメント
どうもです! 三里です!
一連のシリーズ、楽しんで読みました!
何が楽しいって、アメリアの不幸でしょう!
現場を目撃してしまった姿が哀れと言うか滑稽と言うか・・・(笑)

次回作、楽しみにしています!
がんばって下さい!

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4406Re:帰る場所理奈 E-mail 9/10-06:50
記事番号4390へのコメント
ああ、なんて言ったらいいのでしょうか。読み終えたあと感動していました。ほんとうによかったです。ゼロスとリナの思いが伝わってきました。すっごくよかったです。

>
>ようやく終わりました。本当は、短編のはずだったんですが、せっかく作った設定だしもったいないと思って、そのまま書いちゃいました。結局長いし。本当にここまで読んでくれた方ありがとうございました。感謝感激です。
>この次のゼロリナは、学園ものか、ギャグにしようか今考え中です。こんなのが読んでみたいという方がいらっしゃれば、(いるかな?)それにこたえようかとも思っています。
私は、読んでみたいです!Merryさんが書いたのならなんだって読みたいです。
それでは、また。


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4313世界で一番大嫌い3Merry E-mail 9/4-20:51
記事番号4304へのコメント
世界で一番大嫌い3

告白もしないままに、先生への想いは
不完全燃焼のまま終わりを告げた。
気分的には割と元気。
ただ、空気の抜けた風船みたいに
行き場のないこの思いが
地面すれすれで浮いている感じ
正直言うと、先生を本当に
好きだったかさえあやふやで…

やはり、「憧れ」だったのだろうか

「インバースせんぱあい(はあと)」
翌日、あたしは何事もなかったかのように装いながら、学校へ行くと、下駄箱のところで、後輩の女の子達数人に呼び止められた。手には、手紙がぎゅっと握り締められていた。
「これっあたしの気持ちです。受け取ってくださあい(はあと)」
「え…その。うけとれって…」
女子校のお決まりというか、「かっこいい」女の子に、手紙を送るというやつである。あたしは受け取りたくもないんだけど、なぜか最近は強引な子が多くて、そのまま押し切られてしまう。今日も、押し切られて受け取ってしまった。
「元気いいですね。朝から。」
いっしょに登校してきたアメリアが慣れたもので、平然と言った。
あの子達、何か間違っているよな。
そう心の中でつぶやきながら、下駄箱を開けると、甲高い笑い声と共に、彼女の台詞が聞こえてきた。
「おーっほっほっほっほっほ。相変わらずおモテになること。女に。」
やたらと語尾を強調している。嫌な奴だ。
「ほら、私の場合なんて言うの?このナイスバディがかもし出す女らしさ。リナと違って、男がほっとかないのよね」
背中に光かがよく様なものをしょっているかのようにしなをつくって話す。目が遠くを見詰めてるし。自己陶酔もいいとこだ。なんか危ない奴だよなあ。
「ほう…よくいった」
あたしはナーガの背後からそっと近づいて、上着をめくり上げた。そこから隠していた大量の手紙が足元に音を立てて落ちていった。宛名には、「ナーガお姉様(はあと)」なんてのもあって、あたしよりすごい数もらっているようだ。あたしは下駄箱のほうに、ナーガを追いつめて、問い詰める。
「なんか出てきたけど、何かな?凛々しいナーガさん」
「だ…男女問わずもてるのよ」
あたしから視線を逸らして言うナーガ。
「あの、仲がよろしいのは、わかりましたけど…」
アメリアの遠慮がちなその一言にふたりではもって反論する。
「仲よかねーよ」
「場所と人目を考えたほうが…」
はっと我に返って周りを見ると、登校してきた生徒たちがあたしたしを取り囲むようにこの光景に注目している。なんかハートマークが空中に飛んでいるのは気のせい?

教室についてからも、アメリアは笑うのを止めようとしなかった。
「人気者はつらいですね。」
「人事のように言うんじゃねえよ」
ナーガとはもりながら言う。
「人の不幸ほど面白いものってありませんよね。」
鬼。
「気ィ取り直して下さいよ。体育会と学園祭のときの写真を見せてあげますから。」
アメリアが、小さなアルバムを三冊ほど出すと、あたしたちに手渡した。ほとんどの被写体があたしとナーガって言うのもなんだかなー。
「やっぱり、リナさんのガクラン姿って、決まってますよね。」
体育会のときは応援団長をやらされたんだっけ。それで、なぜか対抗するかのように敵の応援団長はナーガだったりした。
「ナーガさんも様になってますよ」
次のページをめくると、あたしとナーガが並んで写っている写真だった。学園祭のときの劇の終わった後にとったやつで、2人で王子様の役をやっている。
「これ反応がすごかったんですよね。」
アメリアが笑いながら行っていたが、急に笑うのを止めて真剣な表情をすると、言葉を続けた。
「ねえ、リナさんあなたたちにとって見れば、あの子達は困ったチャンかもしれませんけど、人間無い物ねだりで、女子校だからこそ異性としての対象を望んでしまうんでしょう。本気じゃないにしても、特に目を引くあなたがたお2人の存在を、心の支えにしている人も居ます。当分憧れのままで居て下さいね。」
「アメリア」
こんな台詞を言われてしんみりするようなあたしたちではない。すこしは…しんみり来たけどさ。
「それをいいことに書くし撮り写真を奴等に売るんじゃねー」
「ちっ」
憧れ…かぁ。
一目あいたくて様子をうかがってみたり
優しくされたら嬉しくなって
そしてまた、追いかける。
“あなたのは、恋じゃありません”
ゼロスの言葉がよみがえる。
心が痛い。
っったくぜろすのヤロー
恋と憧れの違いなんて分かるわけねえだろオイ。
「でも、劇って言ったら去年のが最高ですよね」
アメリアの台詞に我に返った。
「竹取物語だっけ?」
いつのまにか増えているギャラリーからの声だ。
「そうです」
アメリアお得意の指差し。
「帝役のリナさんと、かぐや姫役のナーガさんが最初っからけんかを始めたアレです。」
「その話は止めようぜ」
「何言っているんですか。ゼロスさんとの運命の出会いじゃありませんか」
瞳を輝かしているアメリア、だめだ…今この子に何を言っても。
「りーなーもともとゼロス様は私が先に目をつけていたのよー」
背後から取り付くように抱き着いてくるナーガ。なんか口から魂が出てあたしを縛り付けてるんですけど。
ナーガお得意の魂攻撃だよ。魂ってどういう形していると思う?と人に聞くと、10人中8人くらいまでが“この形”って言うであろうその物を口から吐き出しているんだよね。ちょっと白くてもやもやいってて、顔がナーガの顔をデフォルメしたのがついていて。
やっぱ、お前人間じゃないよ。
「お前わざとやってるだろ?」
「おもしろいですから」
アメリアが即答する。
くそおっ何が運命だっ
こっちにとっちゃ迷惑極まりねーっての
運命とやらが実在するんなら、もっとましなやつと出会わせてもらいたかったね。

つづく

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4319Re:世界で一番大嫌い3三里桜架 E-mail 9/5-02:02
記事番号4313へのコメント
どうもです!
三里です!
『世界で一番大嫌い』新作読ませていただきました!
うるうる・・・楽しみにしてたんですよ〜!
読み切りの方も楽しく読ませていただきました!
今回はこちらの方の感想だけで・・・(すみません、夜遅くって眠いんですぅ(-_-;)

>「ほら、私の場合なんて言うの?このナイスバディがかもし出す女らしさ。リナと違って、男がほっとかないのよね」
確かにナイスバディですね。

>背中に光かがよく様なものをしょっているかのようにしなをつくって話す。目が遠くを見詰めてるし。自己陶酔もいいとこだ。なんか危ない奴だよなあ。
今更今更。

>「ほう…よくいった」
>あたしはナーガの背後からそっと近づいて、上着をめくり上げた。そこから隠していた大量の手紙が足元に音を立てて落ちていった。宛名には、「ナーガお姉様(はあと)」なんてのもあって、あたしよりすごい数もらっているようだ。あたしは下駄箱のほうに、ナーガを追いつめて、問い詰める。
>「なんか出てきたけど、何かな?凛々しいナーガさん」
>「だ…男女問わずもてるのよ」
>あたしから視線を逸らして言うナーガ。
同じ次元の争いですぅ。

>アメリアの遠慮がちなその一言にふたりではもって反論する。
>「仲よかねーよ」
いっしょにハモッて仲のよろしい。

>「人の不幸ほど面白いものってありませんよね。」
>鬼。
同意しますが・・・。(私もきっぱり宣言する質です)

>背後から取り付くように抱き着いてくるナーガ。なんか口から魂が出てあたしを縛り付けてるんですけど。
やった! お初のたましい君だ!


楽しませてもらいました。
いやー、やっぱりおもろいです!
ちょっと気になったんですが、リナ、やっぱり髪の毛切っちゃうんですか?

最後になりましたが。
感想と言う割には変で不愉快な所もあると思いますが(ーー;)
続き、待ってまぁ〜す!(最後にはそればっか)

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4321Re:世界で一番大嫌い3ねこざ E-mail 9/5-09:41
記事番号4313へのコメント
ふとおもったんんですが、リナ長身バージョンですか?
1・2・3では背が高いという表現はなかったと
おもいますが。 

女の子達にきゃあきゃあ言われてるけど。


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4323Re:感想をいただいた方へMerry E-mail 9/5-10:30
記事番号4321へのコメント
読んで下さってありがとうございます。
身長のことは、問い詰めないでください。
一応考えていることとしては、高くもなく低くもなくって感じですかね。そうじゃないと、ゼロスとつりあわなそうだし。
次ぎは、ゼロリナになると思うので、「4」期待していて下さい。
それでは短いですが。

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4327世界で一番大嫌い4Merry E-mail 9/5-20:07
記事番号4313へのコメント
世界で一番大嫌い4


その悪夢は、去年の文化祭から始まった。
あたしは、1−cで、劇をやることになっていて、その時も同じクラスだったアメリアと、ナーガも相変わらず一緒につるんでいて。
劇は午後空だって言うのに、アメリアが役者全員に衣装を着せた。帝役だったあたしは、その衣装に身を包み、たくさんのギャラリーに囲まれ、少しうんざりしていた。
熱いし、着方が変なのか苦しいし、それに、たくさんの人に長時間見られているのは精神的に結構こたえるものがあった。
「なあーアメリア、これ脱いでもいいだろ?」
小道具の扇子で扇ぎながら窓側に座る。
「何言ってるんですかリナさん、劇はもうすぐ始まりますよ。」
「だったらこんなの午前中から着せとくなよ」
アメリアが、お決まりの指差しポーズを取って力説した。
「リナさん、これはすべて、あなたと一緒に写真を撮りたいという夢見る純情な乙女のために行っているのです。夢をかなえてあげる。それはすなわち正義といわずとしてなんというのですか?!」
「へーへー。それでもう一人の犠牲者はどうした?」
「それでしたら、ガウリィ先生が連れてきた美容師を連れてどっかいちゃいましたけど。」
「あのかっこうで?!」
「ええ。」
ナーガはかぐや姫役だから、当然十二単着用である。目立つことこの上ないだろうな…。
「髪結ってくれるって行った人だっけ?」
「しかもすごくいい男みたいですよ」
「しょうがねえなぁ」
ハートマークを飛ばして暴走しているナーガの姿が思い付き、ちょっと不安になる。何も起こってなければいいけど…。
「ちょっと、探しに行ってくるよ」
「リナさんは休んでていいですよ。本当に疲れているみたいだし。」
「平気平気、そっちの準備頼むよ」
あたしはギャラリーの埋める教室の入り口をかき分けて出ると、とりあえずそこら辺を探してみることにした。どうせすごい人だかりができているだろうしね。
しかし、廊下を歩いていると、いるやつすべてあたしに振り返る。やっぱ目立つなあこの格好。
「あ、先輩こっちでナーガ見なかった?」
「ナーガなら、さっき、自分の着物のすそふんで、転んで頭まで打って、今ごろ保健室。」
あのバカ。
「例の人も保健室なの…。」
やばい…
目が、回る…視界も何か暗くなってくるし…。
うわ…立ち眩み…。
後ろに倒れる私を、誰かが支えてくれたみたいだ。
その人があたしに声をかける。
「あなたが、リナ=インバースさんですね。」
誰…?
あたしは急速に戻りつつある意識を総動員して、その人物の顔を見た。
「はじめまして。ゼロス=メタリオムです。あなたのことはガウリィさんからよーく聞いています。」
宵の暗さを再現したかのような黒髪は、肩で切り揃えられていて、それとは対照的に透けるように白い肌。瞳は糸のように細い切れ長で、どこかオリエンタルな雰囲気がある。
日本人の顔じゃないわね。
「それより大丈夫?顔色悪いですよ」
「あ…すみま…」
声がうまくでない。
そうだ、あたしこの人に抱かれているんだっけ。
「あれ?このむすびかたは…」
この人が…
「着付け直してあげますよ」
そういって、軽々とあたしを抱き上げる。
まわりで取り巻きにしていたギャラリーの声が一段と上がった。
「なっちょ…着付け直しって、あんた男だろ?…長髪だけど。」
「任せて下さい。これでも僕は着付け上手なんです。」
「そういう問題じゃねぇー。乙女の柔肌に触るなぁー」
あたしを抱えているって言うのに、平気そうにあたしを教室まで運んだ。
「とにかく、こんなんじゃ本番まで持ちませんよ。」
「え?」
「多分きつすぎるんですよ」
「リナさん」
抱えて運び込まれたあたしを見て、アメリアが驚いたように声を上げた。
「はいっそこのあなた着物脱がすの手伝って下さい。それからそっちの場所開けて。」
「たすけろっっアメリア」
しかし、アメリアはあたしの言うことなんかぜんぜん聞いていなくて、床に下ろされたあたしの着物を手際良く脱がさせた。
「この着物じゃ、悪代官ゴッコできませんね。」
「お前は正義の味方じゃないのか?!」
ゼロスはそんなあたしたちのやり取りを見て可笑しそうに笑っている。
「それだけの元気があれば、舞台にも十分立てそうですよ。」
あたしは半分脱ぎ掛けの姿で、椅子に腰掛けてこちらを見ているゼロスのほうを向いた。
「あっ…結構艶ぽいですね。」
あたしの乱れた着物姿を見ていっているのだろう。
「まあ、安心して下さい。上から下まで責任もって、この僕が決めて差し上げます」
にやりっと不思議な自信に満ちた悪魔のような笑いをした。
あ…
あんたのその目が一番信用ならねーんだよ!!


「はい、出来上がり(はあと)どおです?着ごごちは?」
あたしはあれから本当に着付けをされ、髪は結われ、歴史の資料集とかにのっていそうな帝スタイルにされてしまった。
「上々…といいたいところだがっ」
いかんせん、なぜかこいつってばあたしにべったりくっついてくるんだものなー
今もあたしに背後から抱き着いているし。
「っだーあんまり近よんじゃねぇー」
「だって、やっと、理想の髪質に出会えたかと思うと嬉しくって…」
「あ?」
ゼロスはあたしの正面に回ると、両手であたしの頬を優しく包み込んだ。
「ガウリィさんの話通りのようです。そのさっぱりした性格から、このつやめく髪質まで、すべて僕の好み(はあと)」
「ちょ…」
「火曜日弟さん迎えに行ってるんですよね」
「あ…」
あたしの瞳を覗き込むように話す。
その時、ナーガのいかれた台詞が、教室の入り口から聞こえた。
「ゼロスさまー(はあと)ああっ一目あなたにあいたくて、恋の奴隷になりましたぁー」
「偶然ね。その日も僕は定休日でしてね。毎週火曜日に会えるのを楽しみにしていますよ」
いきなりそのままあたしの頬に自分の唇を軽く触れさせた。


え…

え…?!
「りぃぃぃぃぃなあぁぁぁぁぁぁっっっっ」
「ぜぇぇぇぇろぉぉぉぉすぅぅぅっっっっ」


…っとまあ、こんな調子で劇もすごいものになり、
唯一心安らげる火曜日も、ゼロスに邪魔されまくって、まさにあいつは悪魔だよ。
その後抱き着かれている写真は撮られるは、ナーガに八つ当たりされるわで…。
調子がよくて、自信ありげで。
とにかく苦手。
あんな奴
会ったことない。
存在自体強烈だし。
「お前も人にからんでないで、直接奴のところにいけよ。魂しまっとけって。」
「まっ」
ナーガは自慢の髪をかき上げるといった。
「それはこっちの台詞でしょう。あんたこそ、あの先生追っかけていればいいのよ。」
「先生来年結婚するんだ。」
「いるのよねぇ、ほかの女に取られ…」
そこまではっきり言わなくても…。
先生か。今日火曜日じゃん。
先生にどんな顔して会えばいいかな。
あーでもあの笑顔を見るのはつらいかも。
またゼロスに
みっともない自分を見せるのもやだし。
「まあさーそんなときもあるっていうしぃ」
ナーガが何かを言っているようだ。
はっそういえば、土曜日、わざわざ仕事休ませてまで、相談にのってもらったんだっけ。
「人間は経験が物を言うって言うしぃー」
それなのに喧嘩ふっかけて、ぶん殴って、
捨てぜりふに“相談するんじゃなかった”だなんて。
「私の意見を言わせてもらうと…」
その上ふられたあかつきには、アフターケアに愚痴まで聞いてもらって、
不覚にも肩借りちまって、どんな女だよ自分。
「っだーどんな顔をしてゼロスに会えばいいんじゃ!!」
「ええーいその舌ぬいてくれるぅ」
ナーガがいつになく暴走している。どうして??


「あーえれー目にあった。ナーガの性格どうにかならんのか。」
なーんて平然な顔を作る練習してる場合じゃないんだよ。
あたしは手鏡を見ながら思った。目的地の保育園の教室の入り口からは絶対見えない死角部分の壁に、寄りかかってみている。
まあ、告白したわけじゃないし。
気まずいも何も普通にしてりゃいっか。
だから、それが難しいんだって。
あたしは気を取り直して、教室の入り口に立った。すると、フィブの声がした。
「あのねー先生」
フィブの視線にあわせてしゃがみこむガウリィ先生。
「きょうはね、リナがきてくれるんだよ」
「そう、いいね優しいお姉ちゃんで。」
フィブの手を優しく握り、温かい笑顔でフィブのことを見ている。
やさしい…
優しい先生
その笑顔は、あの人のためのもの。
嬉しかった日々も
もう戻ってこない。
先生がこっちに振り向いた。
「リナちゃん、いらっしゃい」
「あ…どうも」
「もうずいぶん日が短くなってきたね。」
「ええ…かなり」
何してんだろう、目が合わせられないなんて。
「じゃあ、気をつけて帰らないとね。」
優しい、いつもの笑顔を見せてくれる先生。
ああ…そうか。
「ほら、空の色が夕闇に変わっていく。」
窓のほうを振り返っている先生の後ろ姿を見て、なんだか安心してしまった。
変わらない笑顔
変わらない先生。
先生のこういう感じがとっても好き
安心させてくれる人。
「先生…いつまでもこのままでいて下さいね。」
こんなところに憧れていたのかもしれない。
言葉は自然に出てきた。
「リナー」
あたしの足元でフィブが両手を挙げて訴えている。
かわいい。
「あ、ごめんごめん、かえろっか」
「だめー」
「え?」
「ゼロス、きてないよっ」
「あ…」
ゼロス…
そう言えばいつもならとっくについてる時間
もしかして事故とか?!
嫌、ゼロスに限ってそんな。
事故のほうがよけそうだし。
そこまで考えてはたっとあたしは考えるのを止めた。
あーあ、
結局、火曜日にあいつが居るのも
当たり前になってやんの。

“僕はリナさんのこと好きだから笑いませんよ”

ゼロスの言葉がリフレインする。
あー難だか心なしかきまずー。
みっともないとこ見せてしまった。
強がってた分余計あの時は、感情がもろに爆発したって言うか。
その分あいつの言葉に安心できて。
矛盾しているよな、普段あれだけ嫌っておいて…
……ゼロスは、どう思っただろうか。
うっわー照れくさい。
「ちょっと皆さん聞いて下さいよ!!」
突然あたしの後ろに会った教室のドアが開かれて、うわさの人物が登場した。
「あーリナさんだ、リナさんだ(はあと)。僕、リナさん欠乏症なんです。」
そのまま急に抱き着いてきた。いつもより、腕の力が強い。
ちょ…
「ゼロス遅かったじゃないか。」
「これでも車とばして来たんですよ」
ちょっと待て。
お前なんでそんなに元気なんだ?!
「兄さんたらっ、僕はひごろ休み過ぎとか突然言い出しましてぇ。せっかくの火曜日に店の大掃除をやらせるんです。もう、信じられませんよ!!」
ひ…人が真剣に悩んでいるって言うのに…
「さ、リナさん(はあと)、帰りましょうか(はあと)」
こいつはーっ
なめとんのかあ?!
「ええいっうっとおしい!!信じられねえのはお前のほうだ!!」
渾身の力を込めて肘鉄を食らわす。それは見事に決まり、ゼロスが後ろに倒れた。
…て、…え?おい…
「な…なんだよお前っっっ、いつもならこれくらいよけるだろ?!」
あたしは慌ててゼロスの胸元をふん掴み揺さぶった。
調子狂わされっぱなしじゃないかー!!
「フフフ、気に入ってもらえましたか(はあと)」
背後からあいつが声をかけてぽんと肩に手を置く。
「製作日数約一ヶ月。夜の添い寝もばっちりな、等身大ダミーゼロス君3号(はあと)一緒のお布団で寝てあげてね(はあと)」
良く見ると、あたしがつかんでいるのは人形だわ。
「お…お前な。普通人が、…その、あんな態度…よ…」
「何が?」
あたしから手渡された人形を眺めてほつれてないか、確認しているゼロス。
「っだから!」
「なんですか?」
細い切れ長の目を、もっと細くして笑顔を見せる。
…「気にしてません」って顔してる。
「なんですか?その冷め切った目。」
「べっつにー」
あたしはゼロスからダミーちゃんを取り上げた。
わざとなのか、それとも本当に気にしていないのか
とことんマイペース
あたしは笑った。そしてそのままダミーちゃんをサンドバックにした。
とにかくこいつも変わんない
こんな時すごくほっとする
「あの…さっ、先週の土曜日は悪かったよ。一方的に怒って、八つ当たりして。その…お詫びも何もできないんだけど、反省してます。」
ぺこっと、ゼロスに向かってお辞儀をした。
顔を上げても、ゼロスの反応はない。
「あの…」
あたしが言葉に詰まっていると、ゼロスは、瞳を開いたままあたしに笑顔を見せた。はじめてみた。ゼロスの瞳の色って、宵の開ける直前の色をしているのね。
「もういいです。気にしないでください」
あたしの頭をなでた。
「ゼロス…そりゃ、どうも」
「でも、そうですね。せっかくだからお礼してもらいましょうか。」
「え?!」
「買い物に行きたかったんですよね。うん、日曜がいいですね。」
一人でクックっクと笑いながらつぶやいている。
まさか…
「デートきまりですね(はあと)」
え…
ええぇぇぇぇぇっっっっ!?
つづく

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4366世界で一番大嫌い5Merry E-mail 9/8-21:24
記事番号4313へのコメント
世界で一番大嫌い5

そして恐怖の日曜日が訪れた。
あたしは、待ち合わせ時間より少し早い時間にきて、あいつがくるのを待っていた。
しかし…何か人の目がちらちらとあたしを見ているような気がするんだけど…。
きなれないこの服の所為もあるのかなあ…。
大体あいつが着替えさせるから!!
そう、一時間ほど前のこと、部屋で着替えていたところにあたしの妹の一人である、ルナが入ってきて、あたしの服装にこんな事を言ってきたのだ。
「ふーん、へーそんな格好で行くつもり?ああそう、別にいいけどさあ。」
その時あたしは、Tシャツに、GパンにGジャンというめっちゃ普段着の格好で行こうとしていたんだけど。
「悪ィかよ」
「ああ、悪いな」
そこまできっぱりはっきり言わなくても…
「お前今別にいいって」
「知らんなあ」
そういって、あたしの服を脱がせにかかった。
「あたしに任せときな、後悔はさせねえから。」
「それ悪役の台詞だろっ」
あっという間に着替えさせられてしまった。
ワインレッドのハイネックのセーターに、それと同じ色のカーディーガン、黒のタイトなミニスカート。
「おお、似合う似合う」
「ルナ…お前楽しんでるだろ」
「楽しむ?失礼な面白がっているだけさ。」
こ…こいつ…
「もー脱ぐ!」
「果たして脱げるかな?」
「お姉ちゃん」
また、あたしの部屋のドアが開いて、今度入ってきたのは、もう一人の妹ミリーナ。
「うわぁどうしたのぉ!?すっごくきれー(はあと)にあってるわ(はあと)」
お目目きらきらさせて力説している。
「着替えちゃもったいないよ。」
「そっ…そっか?」
ここまで誉められちゃ、着替えられないよな。
ミリーナには弱いんだよあたし。
「うわぁ、リナ、ちゃんと女の人に見えるぅ」
あたしの弟の一人、ルークだ。こいつ…あたしをなんだと…
手直にあったダーツを取り、ルークに投げつけた。当然すべて外すようにきちんと投げてるけどね。
得意のダーツの刑に処したところで、ルナからそろそろ時間ではないのか?といわれ外に出た。
「デートなんだろ?そんくらいのサービスしてもバチはあたんないさね。」
こうして妹に追い出されたのさ。


ったく、サービスってなんだよ
…そう言えばこういう風に、人と待ち合わせするのって、初めてだよなあ。
「落ちつかねえ…」
「あれ?そんなに僕がくるの待ち遠しかったですか?」
いきなり背後からあたしの耳元でささやく。
見なくてもわかるあのスットコ美容師だ。
「人の背後にわいて出るんじゃねぇー」
奴の首をつかんで上に持ち上げる。
「ひゅひゅひゅ、ひぇれやしゃんふぇふゅふぇ(はあと)」(くくく、照れ屋さんですね)
「はやかったですね、いつ来たんですか?」
「…電車、ちょうどいいのなかったんだよ」
「だから、僕が車で迎えに行ってあげるって言いましたのに。」
「お前の運転こえーんだよ」
見掛けに依らずスピード狂なんだこれが。
何かゼロスがさっきからにやにやと笑っている気がするんだけど。
人の顔じっと見てるし。
「何だよ」
「服」
「え?」
「ワインレッド似合いますね。リナさんにぴったりです。」
あたしは恥ずかしくなって、顔をゼロスからそらした。
「これは…その。着替える時間が…」
まだにこにこ笑っていやがる。背後からでもなぜかわかってしまう、あいつの表情。
「あーっもう、そのにこにこ笑い止めろよな!!」
「だって(はあと)こーんなにかわいい娘、連れて歩けるかと思うと嬉しさのあまりつい…」
あたしは恥ずかしさを紛らわすために思いっきりゼロスを殴り飛ばした後歩き出した。
「ひどいです。リナさん。殴ることはないでしょう。しかもグーで…」
「くだらんこというから。」
「手が早いんですから。取りつく島もありませんよ。」
あたしは、やりすぎたかなって思ってちらっと振りかえる。
そこには、最高の笑みを見せてくれるゼロスがいて…。
あっという間にあたしの手を取ると連れ立って歩き出した。
「さ、いきましょう」
「ちょ…なにはりきってんだよ」
「だって、僕に会うためにおしゃれしてきてくれたのでしょ?うれしくて(はあと)」
ゼロスの着ていた黒いコートが、マント見たくなびいた。そして、本当に嬉しそうに笑っている笑顔。それが、なんだか絵を見ているような気がして、不覚にもかっこいいと思って、見とれてしまった。
つづく