◆-はじめまして-Milk(9/21-05:23)No.4745
 ┣「ずっと・・・」その1-Milk(9/21-05:24)No.4746
 ┣「ずっと・・・」その2-Milk(9/21-05:25)No.4747
 ┣「ずっと・・・」(その3)-Milk(9/21-05:27)No.4748
 ┣Re:「ずっと・・・」-ほっとみるく(9/21-07:44)No.4749
 ┃┗ほっとみるく様ありがとうございます&はじめまして-Milk(9/22-07:34)No.4771
 ┣Re:はじめまして-Milk(9/22-07:35)No.4772
 ┃┗上のやつタイトル間違えました「白い雪の中で(前)」です-Milk(9/22-07:37)No.4773
 ┣白い雪の中で(中)-Milk(9/22-07:39)No.4775
 ┣「白い雪の中で(後)」-Milk(9/22-07:40)No.4776
 ┣白い雪の中で(後)-Milk(9/22-07:43)No.4777
 ┃┗読みました!-ちび☆(9/25-20:33)No.4868
 ┃ ┗コメントありがと! ちび☆さん-Milk(9/26-22:00)No.4899
 ┗約束の言葉1-Milk(9/26-09:40)No.4875
  ┣約束の言葉2-Milk(9/26-09:42)No.4876
  ┃┗約束の言葉3-Milk(9/26-09:43)No.4877
  ┃ ┗約束の言葉4-Milk(9/26-09:45)No.4878
  ┃  ┗約束の言葉5-Milk(9/26-09:47)No.4879
  ┃   ┗約束の言葉6-Milk(9/26-09:49)No.4880
  ┃    ┗約束の言葉7(最終章)-Milk(9/26-09:54)No.4881
  ┃     ┣すばらしいっっ!-ようこ(9/26-10:54)No.4882
  ┃     ┃┗ようこ様ありがとうございます-Milk(9/28-07:09)No.4939
  ┃     ┗感想です♪-マミリンQ(9/27-13:28)No.4915
  ┃      ┗マミリンQ様ありがとうございます-Milk(9/28-07:10)No.4940
  ┃       ┗Re:マミリンQ様ありがとうございます-マミリンQ(9/28-13:08)No.4946
  ┃        ┗Re:マミリンQ様-Milk(10/1-07:24)No.5003
  ┣はじめまして&すごく良いです-まるたんぼう(9/26-23:29)No.4904
  ┃┗まるたんぼう様 ありがとうございます-Milk(9/28-07:11)No.4941
  ┣約束の言葉の感想♪-ちび☆(9/29-11:26)No.4962
  ┃┗感想ありがとう、ちび☆さん-Milk(10/1-07:18)No.5001
  ┗はじめまして&約束の言葉の感想-ティーゲル(10/4-17:41)No.5082


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4745はじめましてMilk E-mail URL9/21-05:23

はじめまして+「ずっと・・・(ガウリナだと思う、多分)」前書き。

はじめまして皆様、Milkともうします。
いつもは、主に、とある特定の場所に生息してて、ここではずっと読み手
ばっかりだったのですが、皆様の投稿作品に刺激されて、今回、ず〜ず〜してくも、書いてみよう!
な〜んて、思って書きました。

ええっと、始めっから終わりまで、なんだかガウリナしてまふ。
しかし、メチャクチャ漬物石を、数十個積み上げたくらい,か〜なり重いといふ
内容のなんだかなぁ〜? な、お話ですが、ど〜か、心の広い方、読んでくださいね。

後・・・魔族ファンな皆様、始めに謝っておきまふ・・・・
ゴメンナサイ(一言)

では、では。よろくお願いします


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4746「ずっと・・・」その1Milk E-mail URL9/21-05:24
記事番号4745へのコメント
* ずっと・・・・ その1 *      Milk

◇◇ 相棒 ◇◇

「おい、リナ。浮遊の術でこんな崖下ってどうすんだよ?」
 あたしの腰にしがみついたままという、なかなか情けないポーズでこちらに
聞いてきたのは、旅の連れ、自称保護者のガウリイ君。
「いいから、あんたは黙ってしがみついてなさいよっ! 
 あんまウダウダ言ってっと、あんただけ一足先に、谷底まで行ってもらうこ
とになるわよ」
「・・・・・・・・・」ガウリイは沈黙した。
 ウンウン、こいつも、少しは学習能力がついてきたじゃないかっ!
 これも、あたしの日頃の教育のたまものよね(ハート)
 あたしと、おとなしくなったガウリイの二人は、両側が切り立った岩肌に挟
まれた谷間を、『浮遊』の術でひたすら降りてゆく。
 やがて──あたしの視界に、『あるもの』が映った。
 ああ・・・ 胸に、小さな痛みが広がって行くのが自分でも解る。
 シュタリ! 術を解いて地面に降り立ち、ゆっくりと、『それ』の方を見る。
 あたしの視界の先には、一本の立派な剣が地面に突き立っていた──

「おっ、リナ、ひょっとしてあの剣、魔法剣か?
 なるほど、だからこんなへんぴな場所へきたのかぁ、それならそうと初めに
言ってくれりゃあいいのに」
 気楽に言って、ガウリイはスタスタと剣の方へと歩いて行き、そのまま引き
抜こうとして・・・・
「ええぇぇええいっ! やめんかぁあああああっ!」(絶叫)
 ぼげぎょぉおおおおん。
 絶叫と共に放った子供の頭ほどもある石は、けっこうコミカルな音をたて、
まともにガウリイの後頭部へとクリーンヒット!
 う〜ん、今、片手に花持ってるせいで、両手が使えないのが惜しいっ!
 もし使えてたら、もっとでかいやつをお見舞いしてやったのに。ぶつぶつ。
「だっ、だだ・・・だだ・・
 な、何、すんだよリナっ! ふ、普通の人間なら死んでんぞ!」
「あんたは、じゅ〜ぶんに普通じゃないから別にいいのよ(断言)」
 抗議するガウリイに、冷たく受け流すあたし。
 ガウリイの声が多少震えとるところと、復活するまでに(こいつにしてはめ
ずらしく)そこそこの時間がかかっていたところからすると、今のは結構きい
たらしい。
 まあ、今回、同情してやる気など全くないが。
「それにねえっ! 『何すんだ』はこっちのセリフよっ!」
 あたしは、指をつきつけつつ、強い口調で言い放つ。
「へ? だって・・・・・オレ達は今、魔法剣を探してるんじゃ?
 これがそうじゃないのか・・・・・?」
 確かに今、あたしとガウリイは、つい最近まで旅の仲間だったゼルやアメリ
ア達とも別れ、二人で魔法剣を探している。それに、今、あたし達の目の前に
あるのは正真正銘の魔法剣である。それは間違いない──だが・・・・・・
 ふうっ・・・ あたしは小さなため息一つつき、口を開く。彼に向かって。
「まあ、あなたが言う通り、確かにそこにある剣は魔法剣よ。
 その剣はね、かっては、ある人の持ち物だったんだけど・・・
 今は──『彼』の墓標代わりなの・・・・・」
 答えたあたしの顔に、一瞬だけ、淋しげな苦笑が浮かんで・・・消えた。
 ガウリイが微かに息を飲む。
 ── そう、ここはかって、あたしが『彼』を失った場所なのだ ──

 持ってきた花をそえ、墓標代わりの剣の前に立ち、短い黙祷をささげる。
「彼は・・・この、土の下で眠っている人は、あたしの初めての相棒だった
の・・・・」
 ポツリ、ポツリと、振り向かぬまま、すぐ後ろにいるはずのガウリイに、
『彼』のことを説明して行く。
「あの頃、まだ、あたしはほんの駆け出しで、世間を甘く見てたトコもあった
し、けっこう無茶もしたし、危なっかしかったから・・・『彼』はそれを見か
ねて、あたしにいろいろと世話をやいてくれて・・・」
 そう、『彼』はあたしに本当に沢山のことを教えてくれた。
 旅に必要な知識、仕事の選び方、効果的な呪文の使い方に、戦い方・・・
 そして──
「じゃ、行こっか? ガウリイ」
 振り向いてガウリイに声をかけ、そのまま隣りに並ぶ。
「もう、いいのか?」
「いいのよ・・・もう、ここにきた目的はすんだから」
 言って、そのままゆっくりと歩き出すあたし。あわててガウリイも後に続く。
 ん? ふと、いきなし足を止め、後ろを振り返ったガウリイの口から、小さ
な呟きがもれた。
「・・・ああ・・・解ってるよ・・・」
「ど〜ったの、ガウリイ?」
 あたしの問いに、ガウリイは、再び、あたしの方へと向き直り、頭をぽりょ
ぽりょかきながら、
「いや・・・なんか、今・・・誰かが、リナは危なっかしいし、目を離したら
何するかわかんないから、絶対に目をはなすなっ! って、言ったような気が
してさ・・・ なかなか、マトを射たご進言だよなぁ〜全く」
 何やら、しきりに感心している。
「ど〜いう意味よっ!」
 思わず、ガウリイに向かって怒鳴りかけ・・・不意に、優しい気配を感じた。
 とても・・・とても懐かしい気配──
 あたしの視線の先では、墓前にそえられた小さな白い花が、谷を渡る風を受
け、かすかに揺れている。
 ・・・・・・・・
 そう言えば、あたしに合うまでずっと一人だったという『彼』は、最後の時
まで、残されるあたしのことを心配していたっけ。
 ──心配しないで、あたしは今、一人じゃないから・・・・
 一応、『こんなの』でも・・・まあ・・たまには、役にたつし・・・一度、
あなたにガウリイを合わせたかったから・・・だから、ここに来た──
 チラリと、自称保護者のくらげ君に視線を走らせながら、あたしは心の中で
つぶやいていた。

「浮遊(レビテーション)」
 ふわり。浮遊の術を唱え、あたし達は宙へと舞い上がる。
 ゆっくりとだが、しだいに、墓標が遠ざかって行く──
「なあ、リナ?」
「何、ガウリイ?」
「あの・・・墓の下に葬られているやつは・・・・お前とは・・・いや、いい
よ、何でもない・・・・」
 ガウリイは、あえてそれ以上、何も聞いてこようとはしなかった。
 最後にもう一度だけ、足下を見おろしてみる。
 もう、『彼』が眠る墓は、はるか下に位置していた。
 ── あたしは・・・・・もう、絶対に失いたくない ──
 谷間に差し込む光を受け、遥か下で小さく光る刀身と、今、あたしのすぐ近
くにいる自称保護者の顔を見ながら、あたしは、心の中で強く誓った。
 
 それが、たった一年前のことだった・・・・
 
 冥王を、魔王のカケラの一つを失い、魔族達は、再び覇王を中心とした巻き
返しをはかってきた。
 そして、こういうことに関しては、圧倒的に運の悪いあたしは、当然ながら
それに巻き込まれることになる。
 予想もしなかった、最悪の形で──

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4747「ずっと・・・」その2Milk E-mail URL9/21-05:25
記事番号4745へのコメント
             ◇◇ 契約の言葉 ◇◇

 なんで・・・?どうして、どうして・・・・・こんなことに・・
 それは、答えの無い問い。深い絶望が、あたしの全身を捕らえて行く。
「リナ・・・・・」
 目の前にいる『それ』が、ゆっくりとあたしの名を呼ぶ。
 あたしの、とても良く知っている優しい声で──
 聞きたくないっ! いっそ、耳を塞いで座り込んでしまいたかった。
 全身の震えがとまらない・・・・・
「おいで・・・・・一緒に行こう・・・・・」
 言って、『それ』があたしに手をさしのべる。
「止めてっ!」
 絶叫が口をついて出る。もう、とても耐えられなかった。『それ』の口から
出る言葉も、声も、今、目の前にある姿にもっ!
「どうしました、リナ=インバース?
 先程までの威勢は、いったいどこへ行ったんでしょうかね?」
 (くすくすくすくす・・・・・・)
 あたしの周囲を取り巻く多くの魔族達のその中で、からかうように声をかけ
てきたのは、覇王神官だった。彼の後ろでは、覇王グラウ=シェーラその人が、
酷薄な笑みを浮かべている。
 彼は、手で口元を押さえ、必死でかぶりを振るあたしの姿がおかしくてたま
らない。と、いった口調で、言葉を続ける。
「おやおや、あなたはずいぶんと薄情なんですね、彼の手を取ってあげればい
いじゃないですか、ずっと一緒に旅してきた仲間なんでしょ?
 それに、ずいぶんと私達も苦労したんですよね。『人間のままの姿』を残す。
と、いうのには。せっかく、あなたのために、彼を元の姿のまま残してあげた
んですから、もう少し嬉しそうにしてくれてもいいのに・・・・・」
 言って、とても嬉しそうに、楽しそうに笑う。笑みを浮かべているのは彼だ
けではない。この場にいる魔族達のほとんどが、あたしを見て、愉悦の表情に
浸っていた。
 きっと、彼等はあたしの心を染めあげる絶望を『喰って』いるのだろう。
 だが、今のあたしには、それらのこと全てが、ひどく遠くの出来事に感じら
れた。
 受けた衝撃と、たった今、目の前で起こったことを認めたくない想いとが、
あまりにも強すぎて・・・・・
「ガウリイ、ガウリイ、ガウリイっ!その姿は何なのよっ!ねえ、嘘でしょ?
 笑えない冗談は止めてっ!しっかりしてよ、これから先もあたしにずっと付
き合うって言ったじゃない!」
 声を限りに、狂ったようにして叫ぶ──目の前にいるガウリイの姿をしたモ
ノに向かって・・・・・叫ばずにはいられなかった。
 顔も声も、姿も、向ける眼差しさえ、あたしの知っているままの彼の姿だ。
だが・・・その身から感じられる気配は、すでに人間のものではなかった。
 ──彼はあたしの目の前で、魔にとりつかれてしまったのだから──

 あたし達はいつの間にか、覇王の計画にドップリ首まで巻き込まれ・・・気
が付いた時には、すでに、逃れられないことろまできてしまっていた。そして、
飛び込んだ先には、覇王神官や覇王を筆頭とした魔王腹心達も待ち受けてい
て・・・その結果がこれである。
 油断した・・・同じ覇王から生み出された覇王将軍シェーラが、人にとり憑
き支配する魔剣、『ドウルゴーファ』を操っていたことを考えたら、その同僚
たる覇王神官が、同じような術を使ってくる可能性もあったのに──
 あたしは・・・・・そのことを考えに入れてはいなかったのだ・・・・・・

 激しい後悔が胸にうずまく。
 巻き込んだのはあたしだ。でも、あたしはそれでも、彼に側にいて欲しく
て・・・・・

「いいじゃないですか、リナさんも一緒にこちらに来てしまえば」
 ふと、横から、あたしの知っている声がした。
 のろののろとした動作で、そちらの方を向いてみると、そこには、以前と変
わらぬ姿をしたゼロスが歩み出てくるのが見えた。
「お久しぶりですね、リナさん」
 ペコリ。あたしの方へ、頭を下げて挨拶してくる。
「・・・・・・・・」
「おやおや、まだ惚けるのは早いですよ? 別に、ガウリイさんは死んだわけ
ではないのですし、そんな顔をすることはないでしょう?」
 違う・・・・・たとえ、同じ顔と姿であったとしても、目の前にいるのは、
あたしの自称保護者のガウリイじゃないっ!
 長い付き合いだ・・・・・・そのぐらいは解る・・・・・解ってしまう今の
自分が、たまらなく、苦しく哀しかった・・・・・・・
「簡単でしょう? あなたさえこちらに来る、と言って下さればいいんですか
ら。
 僕らとしても、あなたにはぜひ、やって欲しいこともありますし・・・僕自
身も、あなたのことは気に入っていますからね。いや、全く、あなたは、この
ままここでアッサリ殺すにはおしい人間ですよ。まさか、この僕が人間に対し
て、こんな感想を抱く日が来るとはおもいませんでしたしねぇ。はっはっは。
 それに、何より、あなたはこれからもずっと彼と一緒にいれますよ、全ての
ものに滅びが訪れるその時まで、ね」
 にこやかに言って、ウインク一つするゼロス。
 そういうことか・・・・・もし、以前のような形でガウリイを『人質』にと
れば、冥王フィブリゾの二の舞にならないとも限らない。だが、この、生かさ
ず殺さず、そして、造られたものには逆らえない魔族としての特性のため、彼
を決して逃げ出すことのない状態においたとすれば、あたしをより操りやすく
なる。
 再び、『あの術』を唱えさせるつもりか?
それとも今度は、あたしの『神滅斬』を使って、北の魔王を繋ぎ止める水竜
王の結界でも破壊させるつもりかもしれない。あの結界は、魔族には手出しで
きないものだから。
あるいは、彼等にはもっと他の目的があるのかもしれないけど・・・
(そんなことのために・・・・・)
 あたしの心の底に生まれた感情が大きくなる。
 ゼロスは、相変わらず無反応なあたしの方へと視線を走らせ、
「おや? まさか・・・この期に及んで、僕達の敵にまわる。なんて言いませ
んよね、リナさん?
 そうなれば、あなたの手でガウリイさんを滅ぼすことになりますよ」
 ピクン。初めて、あたしはゼロスの言葉に反応を示す。
 あたしが・・・ガウリイを・・・・・滅ぼす?
 まさか・・・・・・
 フッ。知らず、あたしの口元に、小さな小さな笑みが浮かぶ。
『──?』
 全ての魔族に表情というものがあるのなら、おそらくこの場にいる魔族達は
例外なく、怪訝そうな表情を浮かべていたことだろう。
 彼等にも解ったはずだ。たった今、あたしの中にあった、『負』の感情の全
てが消えたことに。いや、『負』の感情だけじゃない。あたしの中から、急速
にあらゆる感情が消えて行く。たった一つの想いを残して──
「・・・リ・・ナさん・・?」
 めずらしくうろたえた声を出すゼロス。
「ゼロス・・・やっぱりあんた達には、わかんないんでしょうね・・・・・」
「あなたは・・・いったい、何を?」
「あんた達は、みごとにあたしをはめたつもりだろうけど、本当に、あたしが
何の準備もせずにこんなトコに来ると思ってるの?」
 不敵な表情を浮かべながら言う、あたし。
 ゼロスはそんなあたしの目の前で軽く目を見張り、はっとした表情をする。
「あなたは・・まさか・・・僕達と一緒に心中でもする気ですか・・・・・?
 言っておきますが、もし、仮にあなたが『あの術』を制御できたとして、万
が一僕達全てを滅ぼせたとしても・・・・・この辺り一帯、いや、この世界の
多くを消滅させた神魔戦争以上の破壊を引き起こすかもしれないんですよ?」
 そんなことは関係ない──
「逃げたければ逃げればいい・・・・・
 あんた達のことも、この世界のことも、もう・・・・・あたしにはどうでも
いいもの・・・・・」
 以前に、冥王の前で『あの術』を唱えた時は、ほとんど夢中だった。
 だが、今のあたしの中には驚くほど冷静な自分がいる。
 今からやろうとしていることが成功する確率は、1%も無いかもしれない。
それに、自分がこれからすることの結果は、十分、よく解っている。
 だが、それでも、あたしはやるだろう──
 もう、あたしは気付いているから、どうしても失えないものがあること
に・・・

 そして──あたしは、ゆっくりと呪文を口ずさむ。
「獣王様、お逃げ下さいっ!」
 重なるゼロスの悲鳴。
(今のリナさんは、冥王様の前であの呪文を唱えた時と同じ顔をしている)
 彼は気付いたのかもしれない、これからあたしがやろうとしていることに。
「何を言うゼロス? お前ともあろう者が」
 嘲笑混じりの覇王神官の声。続く、覇王や、他の魔族達のあざけり。
 あたしは一身に精神を集中させて呪文を唱えていく──
 『重破斬』では無い術。そして、成功する確率があまりにも低い賭け。でも、
あたしにはもう、失うものなんてなかった。
「くっ!」
 あせりの色をにじませて、ゼロスがあたしに攻撃をしかける!
 バシュっ!
 彼が放った攻撃は・・・あたしに届く寸前で霧散した。
 攻撃を防いだのは──剣を手にした、ガウリイ!?
「おまえ・・? どうしてっ!? 」
 驚きの声を上げる覇王神官。そう、それはありえないはずのこと。本来、一
度、魔に憑かれた者は人間の自我などたやすく失ってしまうのに。
「リナ・・・早くすませちまえよ」
 ニヤリ。支配を受けているだろうに・・・それでも、ガウリイはあたしに笑
みを向けてくれた──人間の時と同じ『ガウリイ自身』の笑みを。
 胸がつまる。彼も・・・今、戦っているんだ・・・・
 『おまえには、最後までつきあってやるよ』かって、あたしにそう言ってく
れた言葉を、彼は今も守っている。
 呪文が完成し、あたしは最後の言葉を口にのせた。
 それは、召還呪文。あたしの周りに金の光が溢れ出す。
 今、強大すぎる力が、この地に降臨しようとしていた──
 次々と、魔族達の姿があたしの視界から消えて行く。同時に、あたしのすぐ
近くにあった気配も・・・・・
きっと、『あれ』がこの地に出現しようとする時の、強大な力の余波に耐え
られなかったのだろう。
「・・・もう少しだけ・・・・・・待っててよ・・ガウリイ・・・・」
「・・ああ・・・」
 最後に透明な笑顔を浮かべて、ガウリイの気配が──消えた──
胸が──苦しかった。
 これは、ほんの少しの別れ・・・・あと少し・・・すぐに・・元のあなたに
あえるから・・・・・
 心の中でつぶやき、あたしは、ゆっくりと振り返る。
 もう、この場には、あたし自身と、これから降りてくる『もの』の強大な気
配しか存在しなかった。
 何匹の魔族が逃げたか、混沌に飲まれて死んだか、あるいは滅びたかは解ら
ない。
 それに、そんなことはどうでもいいことだ・・・・・・・

 ── 我を呼び出せし者よ・・・・・契約の言葉をのべよ ──

 目眩がする。あたしの頭の中に、直接声が響く。

 そして──
 あたしは・・・・・それに言葉を告げた。たった一つの願いを。


知っていたけど・・・
──それには、『代償』が必要なことも──
でも・・・あたしは、決して、後悔することは無かった。


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4748「ずっと・・・」(その3)Milk E-mail URL9/21-05:27
記事番号4745へのコメント
 「ずっと・・・」その3

       ◇◇ そして、彼女の願いは・・・ ◇◇

「目覚めてすぐに来ましたが・・・・
どうやら・・・僕は間に合わなかったみたいですね・・・・・」
 足下に目をやり、自嘲の笑みを浮かべてその男はつぶやく。
 丘の上に吹く風が、彼の黒髪を、そっとはためかせた。

 あたしは、一抱えほどもある荷物を持ちながら、一本道を歩いていた。
 時々手にした荷物さんからする、芳しい香りに、ついつい足を止め、そこら
の木陰で一休みをしたくなる誘惑に必死で耐える!
 くうううっ! これは、なかなか辛いっ! 辛すぎるっ!
 正に、人間、どこまで耐えられるかを試される試練に立ち向かうような気分
だわ。
 ああ、それでもこの荷物に手を出さないあたしって、なんて、偉いんだろぉ。
 我ながら、自分の我慢強さにひたすら感心しつつ、道を進むことしばし・・・
 ちょうど、家から数えて、三十七回目の誘惑と格闘している時、ふと、あた
しの目は、前を歩いてくる人影をとらえた。
 それは、片手に錫杖を持ち、切りそろえた黒髪に、黒い服を身にまとった、
一人の男だった。
すれ違う時、男と目が合う。
「──!」
 あれ・・・? なんだかこいつ、今、あたしの顔と姿見て驚いたよ〜な?
「あの・・・? 何か、あたしに用ですか?」
「いいえ、そんな用というほどのことはありませんが・・・・・
 あなたもひょっとして、この先に用事があるのですか?」
 一応その通りなので、あたしはコクリとうなずく。
「そ〜よ、丘の上までちょっとね。ひい爺ちゃんと、ひい婆ちゃんの墓参りに
行くところなんだけど」
「なるほど、それで、『その荷物』というわけですか」
 ニッコリ笑顔でうなずいて、ポンと一つ手を打つ男。
 あや、どうして今、あたしが抱えてる荷物がお供えモンだと解ったんだろ?
 まあ、別にいいや・・・・・そんなこたぁささいなことだし・・・
「ん、まあね、一応、ご先祖様は大切にしないと。んじゃ、あたしはこれで」
「ちょっと待って下さいよ」
 言って、そのままスタスタ行こうとしたあたしの背中に、待ったがかかる。
 何の用だ・・・・・いったい?
「もう少し、あなたに聞きたいことがあるんですけど」
「あのねえっ!こう見えてもあたしだって忙しいんだからっ!
 見ず知らずの謎な男と、ゆっくり長話してるヒマなんてないのっ!
 それに、我が家の家訓の一つに、『ニッコリ笑って近づいてくる、ですます
調でしゃべる奴は信用するな』ってぇのがあるのよ。ちなみにその後には『特
にそれが糸目の神官だったら、絶対に近づくな。生ゴミがうつる』という言葉
が続くんだけどね!(なんでだか、意味はよく知んないけど・・・・・)
あんたは正に、そのものズバリじゃない」
「・・・うっ・・・・」
 あたしの言葉に、目の前の男はまともにうめく。
「それ・・・ひょっとして、あなたのひいお婆さんとやらの言葉ですか?」
「うん、そう」(コクリ)
 ぶつぶつ・・・全く、あの人はよけいなことを・・・・・・
 何やら、意味不明な言葉をつぶやく男。何じゃ、こいつ?
 多少呆気にとられているあたしの前で、男はひとしきり、ぶつぶつとやって
いる。
 よし! 今の内にトンズラしよう。
 そう、心に決めて歩き出そうとした時──
「で・・・その、これからお参りに行くという、あなたのご先祖様達はどうい
う人生を送られたんですか?」
 ・・・・・・・・・
ここで、あたしは初めて、男の顔を正面から真っ直ぐに見つめた。
 こちらに問いかけてくる彼の笑顔は初めと変わらない。だが、なぜか、今の
言葉には、さっきまでとは違った物が含まれているような気がしたのだ。
 人の良さそうな笑顔。でも・・・・・そう、どこか、違和感を感じる。
自分でもうまく言葉にはできないけど・・・・
「ん・・・わかんないわ・・・まあ、所詮、『幸せな人生』なんて、本人がそ
れこそ最後の最後にしか判断できないものだから。
 でも・・・あたしは、あの二人は最後まで幸せだったと思うの。
 あたしのひい婆ちゃんって、死んでから、もう、けっこうたつんだけど、未
だ有名な人でね、そん中にはかなり悪名もあるけど・・・
でも、いつっもひい爺ちゃんが側にいて、最後の最後までトコトン付き合っ
てくれた。って、話だから・・・・・」
 謎の男は、静かに、あたしの言葉に耳を傾けている。
「子供が生まれて、その子が大きくなったら、また二人で世界中を飛び回って、
本当に、ひい爺ちゃんが先に死ぬまで一緒だったって聞いたわ」
 ちなみに、その時のひい爺ちゃんの最後の言葉が、
『先に行って待ってるよ・・』で、それに答えたひい婆ちゃんのセリフがまた
すごくって、『どうせ、あんたのことだからどっかで迷うんでしょうね。まっ、
その内あたしがきちんと迎えに行ってあげるから、心配しないでね(ハート)』
だったという。(なんだかなぁ)
でも・・・・・そう言った、ひい婆ちゃん自身も、それから、1カ月もしな
い内に、ひい爺ちゃんの後を追って逝ってってしまった・・・・・
『あいつは道が解んなくって迷っていると思うし、あんま待たせちゃ悪いしね』
 そう、最後の言葉を残して──
「なるほど・・・なかなか、たいした人達だったんですね、あなたのご先祖様
は」
 あたしの言葉を最後まで聞き終え、男は、ポツリと、そう感想を漏らした。
「じゃあ・・・そ〜いうことで」
 短く告げ、今度こそ、男から背を向けて、その場を後にするあたし。
 やばいっ! いつの間にかずいぶんと話し込んでしまった。そろそろ、手持
ちの料理が冷めてしまうっ! 
 そ〜なったら、話に聞く『あの人達』の性格からすると、墓の下から出てき
て文句を言いかねなぃぃぃぃいい。(ゾンビは嫌いだ)
「ああ、そうそう・・・・・」
 早足で立ち去ろうとするあたしの背中に、ふと、思い出したように、再び、
男が声をかけてくる。
 えええいっ、またかい! 今度は何だっ!?
「あによっ!」
 足を止めず、振り向きもせぬまま、それでもりちぎに(声だけは)答えるあ
たし。
「あなたのひいお婆さんは、ご自身や、あるいは、ひいお爺さんの体のこと。
それから、あなた達子孫に伝えた呪文とかありませんでしたか?
 世間様には出回っていないたぐいの話で・・・・・・・」
「無いわよそんなのっ!(即答)
 だいたい、ひい婆ちゃんは『魔を滅ぼす者(デモンスレイヤー)』の名でや
たら有名だけど、実際に、どういう手や術を使ったかは、生涯封印して誰にも
教えなかったんだもの。
 まあ、いつっも一緒にいたひい爺ちゃんは、全部見てはいるんだろうけど、
詳しいことは何一つ、よく覚えてなかったらしいからねっ!」
 言い捨てて、そのまま駆け出す。
 今度こそ、もう、絶対に相手にしないぞっ!
まあ、変なこと。と言えば、あの人達に関することって、変というか、突拍
子もないことの方が多いよ〜な気がするから、そんなこと、いちいち説明して
たら、日が暮れちゃう!
でも・・・そう言えば・・・・・
なぜか・・・二人とも、姿がほとんど変化しなかったと聞く──
亡くなった時も、とても、老人の姿には見えなかった。と、母ちゃんは言っ
てたっけ。
「・・・なるほど・・・・秘密は、墓の下まで持っていく。ですか・・・
 自分の子孫達を巻き込まないために・・・・
 本当に、身内には意外に甘い、あの人らしいですね」
 ──えっ? それは、どいう・・・・・?
「あなた! ひょっとして、実際にひい婆ちゃん達を知って・・・・?」
 まさか、男はどう見ても、いいとこ二十代にしか見えないのに──
 あわてて振り向いた、その視線の先には、すでに、謎の男の姿は無かった。
 ── それは、秘密です ──
 ただ・・・吹く風にまぎれて、そんな囁きが、あたしの耳に届いたような気
がした。

「んじゃ、ひい爺ちゃん、ひい婆ちゃん。あたしも旅に行ってくるね」
 まあ、これだけあれば、取り合いしてケンカすることなく食べられるだろう。
(あたしは、二人のすさまじい食欲を実際に見たことは無かった)
 一抱え分ほどの、二人の好物だった料理をお供えし、墓前に手をあわせる。
 今、あたしは、首もとと両手首、そして、お腹のところにそれぞれ魔力を増
幅するというタリスマンを。腰には、魔をも切り裂く魔法剣をさしている。ど
ちらも、三代前から伝わる我が家の家宝であり、同時に、一人前の証でもある
品だ。
きっと、いつかあたしも、ひい婆ちゃんに負けないくらいの活躍をするよう
になってみせるから。
 そう、心の中で、墓の下に眠るご先祖様達に告げ、クルリと背を向けて歩き
出す。

 ──あたしの旅のはじまりである。

 この時・・・・・あたしは知らなかった。空間を隔てた、精神世界(アスト
ラルサイド)から、あたしを見つめる姿があったことを──
 彼──先ほど、あたしがあった男は、本来の住処たる精神世界で、静かにあ
たしを見つめていた──
「なるほど。リナさん・・・・これが、『あの時』選んだあなたの選択。と、
いうわけですか・・・・・」
 魔族、ゼロスは自分自身に語りかけるかのように、言葉を紡いでゆく。
 今、自分が生きて存在しているのは、『あの時』あの場にいた魔族の誰より
も早く危険を察知し、回避行動をとれたからだ。
 それと・・・彼女の目的が、自分達魔族の滅び、ではなかったからなのだろ
う。
 だから、『滅び』ずに、『倒される』だけですみ、こうして復活もできた。
 あの時の、彼女のたった一つの望み、契約は・・・・・今も、その証が、連
綿と受け継がれている。例え、もう、彼女という存在が、すでにこの世にはい
ないとしても、だ。
 さっき話した子孫の少女は、彼女と自称保護者殿は、最後の時まで共にあっ
たと言った。
「心・・・魂だけは、どれほど強大な力でも、そう易々とは思い通りにならな
い。
 リナさん・・・体だけならともかく、一度、『魔』と融合してしまった魂は、
どのような力を用いても、完全に元の形に戻ることは難しいというのに・・・
 それに、契約を結ぶには代償、見返りが必要となる──
 あなたは知っていたはずだ、その意味を・・・・・でも・・・それでも、あ
なたは・・・・望んだのですね?」
 虚空に響く彼の問いに答えられる者は、もう、誰もいない。
「ずるい・・・ですね・・あなたは・・・・・・」
 それは──『魔』の多くを滅ぼし、そのまま逝ってしまった者への、ゼロス
の正直な感想であった。

 空間の壁を隔てた彼の視線のその先には『魔を滅ぼす者(デモンスイヤー)』
と呼ばれた少女と、彼女と一生を共に生きた剣士が、並んで静かに眠っている。

                ─ fin ─

***********************************

ど〜も、読んでくださった方、ありがと〜ございます!
ゼロス君、私の中では、ニコやかなのと、あ〜いうイメージが半分半分って
とこです。
なんとなく、彼にとってはリナちゃん「特別」な人間っぽくって、思い入れ
とかもあるんだろ〜な? と、思っておるしだい。
恋愛的なものについては、よくわかんないや・・・・・
「リナさん、他の方(魔族)にやらせるくらいなら、あなたは僕がこの手で・・」
って言うのは、なんとな〜く想像ついたりするのですが、それはちょっと悲しい
かも・・(TT)

冒頭の部分であった、谷間に突き立つ「魔力剣」これ見て、ここに葬られて
いるのが誰か、あっ、解った! と思った方、いらっしゃったらすごいです!
この部分は、私がとある場所で書いたスレーヤーズの創作(通称SS)の、その後
というか、もう一つのエピローグとかいうものにあたります。
こっちの話も、めっちゃ重いやつだったなぁ〜 そ〜言えば・・・
後、「契約の言葉」とその次の章も、はくじょ〜してしまうと今書いている
同じタイトルの話(やはしスレの創作で、なぜか、死ぬほど長い!)から、
一部設定パクってきてしまったぜっ! はっはっは・・・(乾いた笑い)

では、では。
ふつつかものでうが、これからど〜かよろしくお願いします。




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4749Re:「ずっと・・・」ほっとみるく 9/21-07:44
記事番号4745へのコメント
はじめましてっ。
お名前が似てる(?)ので何か勝手に親近感を持ったほっとみるくです。

おもしろかったですぅ〜^^。
でも・・・おばかな私、リナが何を願ったんだかわからない・・・。
ああ、本当におばか・・・しくしく。

それに、やっぱりその時、魔族みーんな(ゼロス以外)滅んでしまった
のでしょうか?

でもでも、おもしろかったですよー。
最期の言葉もいかにも2人らしいし・・・。
2人が死んじゃうのは寂しいですが・・・幸せだったのなら良かったねぇ〜
と、しみじみ思ってしましました^^。

んでは、とても短い感想でしたが・・・。

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4771ほっとみるく様ありがとうございます&はじめましてMilk E-mail URL9/22-07:34
記事番号4749へのコメント
ほっとみるく様感想ありがとうっ!

>はじめましてっ。
こちらこそ、はじめまして。 m(_ _)mです。

>お名前が似てる(?)ので何か勝手に親近感を持ったほっとみるくです。
あっ、ほんとだ。びっくり!
これから、時々沸いて出てくると思いますが、よろしくお願いしますね。

>おもしろかったですぅ〜^^。
ありがとうございますぅぅ (嬉しいっ!)

リナちゃんの願い事は、一言で言うと、人間のガウ君を返して。です。

原作小説で覇王将軍シェーラが持ってた魔剣、
ドゥルゴーファは人にとりついて、その人を魔族にしちゃってたイメージで
覇王神官が、自分でそ〜いうの作って、ガウ君に取り付かせたから、ガウ
君が魔族化しちゃったよぉ〜 みたいに書いたもんで、
「ずっと・・・・」の中では、覇王神官を殺さないと、ガウ君は魔族の操り人形。
んでも、覇王神官を実際に殺しちゃうと、取り付かれた魔族ごと、ガウ君も
滅んでしまいますから・・・・・・

一度、魔族化しちゃったら、普通のほ〜ほ〜では、そうそう、元には戻ら
ないから、だから、リナちゃんはL様呼び出してまで、無茶なことした。と、
いう設定。

結局、ガウ君のために見境ないリナちゃんが書きたかったのかも?
私って・・・・(^^;

>それに、やっぱりその時、魔族みーんな(ゼロス以外)滅んでしまった
>のでしょうか?
ど〜でしょう、ひょっとしたら、何万年後くらいには、ひょっこし復活して
たりして?
ああ、いいかげんだぁ〜 >自分

>最期の言葉もいかにも2人らしいし・・・。
二人はどこまで行っても、リナとガウリイ?
ずぅ〜っと、幸せモードでいて欲しいです。

では、また。 本当に、ありがとうございましたっ!

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4772Re:はじめましてMilk E-mail URL9/22-07:35
記事番号4745へのコメント
ああ・・・また、こんな暗い話を・・・・・・・

一応、リナの過去と、それから、フィブリゾにさらわれたガウリイを助けに行く
途中にお話。
こんな話ですが、読んでやってもいいぞ。という、心の広い方。感謝、感謝
です。


********************************

「白い雪の中で(前)」 〜 リナの思い出 〜


   ◇ プロローグ ◇

 最近、あたしは良く眠ることが出来ない。
 夜、ベットに横になっても、様々な思いがあたしの胸を締め付ける。

 .....お〜いっ! リナっ! 夢の中で、誰かがあたしを呼んでいる。
 あたしの知っている声。
 振り返り、そこにあった懐かしい顔に、あたしは思わず駆け出していた。
 今のあたしとほぼ同じ年齢の、あの頃のままの変らない『彼』。
 『彼』の名を何度も呼び、そのまま『彼』の腕の中へと飛び込む。
「リナ、おまえ大きくなったなぁ」
 腕の中のあたしを高く抱え上げ、微笑みながら『彼』は言った。
「へへんっ、もう、あなたに子供扱いはさせないわよっ!」
 得意気に言うあたし。
「そうだな、リナ。ところで、オレの言ったこと覚えているか?」
「ん?」『彼』はあたしに、本当に沢山のことを教えてくれた。
 今の『彼』の言葉は、その中のどれを指すのだろう?
 思い出せなくて首をかしげるあたしを見て、苦笑しながら、『彼』は続ける。
「まぁいいや、リナ行こうぜっ!」
 言って、あたしの手を取り駆け出す『彼』。『彼』に続くあたし。
 その時、ふと、あたしの頭に、金髪の人の良さそうな青年の顔が浮かび上がった。
だめだっ、あたしは『彼』と行くことはできないっ!
 気付いた時には、もう、『彼』の手を離していた。
「リ..ナ?」振り返った、『彼』の悲しそうな表情に胸が痛む。
 .....でも、あたしは言わなければならない。
「ごめん、あたし、行かなきゃいけない所があるの。今のあたしは.....」

 がばっ! あたしは、ベットの上に体を起こす。
「夢.....か」
 夢の中で言えなかった、自分でもまだ表現できない感情も込めて、あたしは
その言葉をつぶやいていた。

◇◇◇◇◇

 夕闇が薄くかかった空からは、ゆっくりとだが、白いものがちらほらと降っ
てくる。
「雪だな」
 あたしの旅の仲間の一人、ゼルガディスがポツリとつぶやく。
「でも、どうします。さすがに、雪が降る中では野宿は辛いし。
 それに、野宿となると、ラーシャート達魔族に襲われやすくなるのは確実だ
し。
 まあ、襲う魔族の方は、ど〜せ神経ってもんが無い生き物だから、雪が降ろ
うとちっともかまわないし、寒くもないんでしょうけど.....」
 さりげなく、ヒドイ事を言いながら答えたのは、やはり、あたしの仲間の一
人のアメリアであった。
 あたし達は今、サイラーグへと向かう旅の途中である。
 冥王にさらわれたもう一人の仲間、自称あたしの保護者、ガウリイを助ける
ために。
 途中、あたしを襲ってくるラーシャートの追撃をなんとかあしらいつつ、あ
たし達はすでに、行程の半分ほどを制覇していた。ここは、サイラーグのある
ラルティーグ帝国との国境付近の山中である。当然、こんな辺境のあたりには、
いくら街道筋とはいえ、宿や食堂といったものはほとんどない。
「だが、この山奥では村も無いだろう? かと言って、次の街まではあと丸一
日くらいかるし...野宿以外は、方法がないんじゃ....」
「ゼル、アメリアちょっと、こっちについてきて」
 ゼルガディスの言葉をさえぎり、あたしは、街道をはずれて山中へと歩き出
す。
「お、おい、リナ、この夕闇の中、そんないきなり街道をはずれたりしたら道
に迷うぞ」
「そ〜ですよ、リナ。ゼルガディスさんの言うとおりです」
 あわてて、あたしを止めようとする二人。
 まあ、断じて、街道をはずれると危険である。とは言わないあたり、あたし
の事を良く知っているといえる。
「いいからついてきて、この先には確か、村があるはずだから」
 振り返りもせずに言って、あたしはもくもくと歩き続ける。
 しかたなく、後をついてくる二人。
 どれほど歩いただろうか? やがて、あたし達の目の前には村の明りが見え
てきた。ああ、変っていない、あれから.....

               * * *
  「ねえ、本当にこっちでいいの?」
  「ああ、間違いない。この先に村がある。そして、盗賊団のアジトはさら
  にその先だ」尋ねるあたしに、答える『彼』
  「でも、こんな山奥に?」
  「あのなあ、リナ、盗賊団のアジトが町中にあっても、しょうがないだろ。
  とにかく、今回の仕事はその盗賊達を倒すこと。
  そうすりゃ、いつもの様に、お宝あさりでも何でも好きにしてくれ」
               * * *

「ほう、本当に村があったとは」
 村の明りを目にして言う、ゼル。 
(こらっ、おまいは人の言うことを信じてなかったんかい)
「じゃ、宿屋はこっちよ」
 どこか、淋しげな苦笑を浮かべ、あたしは二人を宿屋へと案内した。


               ◇◇◇◇◇

「おい、リナ」 
「..............」
「リナっ!」
 へ? 宿で食事をしている最中の出来事である。丁度、考え事をしていたの
で、あたしは今まで、ゼルに呼ばれていた事に気付かなかったのだ。
「あ、ああ、ゼル。何よ、いったい」
「あのなあ、さっきからずっと呼んでたんだぞ、オレは。
 まあ、いい、ちょっとおまえに聞きたい事があるんだが」
 あきれた様に言うゼル。その目が、食うことばっかりに夢中になってるんじ
ゃないっ! などど言っていたりする。
「おまえ、なんで、こんな山ん中に村があること知ってたんだ?
 一軒しかない、この宿屋の場所も知っていたみたいだし」
 (ちくっ)ゼルの言葉に、少し胸が痛む。
 しかし、そんな動揺を表には出さずに、あたしは答える。
 そう、これは二人には関わり合いの無いことなのだから、ヘタに心配させる
事などない。
「あ、ああ、あのね、前にあたし、ここに来た事があるのよ」
「そう言えば、リナ。この村に向かってからずっと、何か元気がないじゃない。
前にこの村に来た時、何かあったとか?」
 (ギクッ)アメリアって、時々するどいっ! さすが巫女。
 内心ギクっとした、あたしの心中を知ってか知らずか、アメリアは何やらゼ
ルと目配せしながら続ける。
「さては」
『あなた(おまえ)、前にこの村に来た時に、また騒動起こしたんだろうっ!』
「でわぁあああっ! あんたら、人のこと何だと思ってんのよっ!」
 声すらハモらせて言う二人に、あたしは思わず絶叫した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「と、とにかく、あたしは少しそこらを見て来るから、あんた達は先に休んでいて」
 おすすめセット7人前と、スープ3種類、デーザート6皿を片付けて、すっ
かり満腹になった後、あたしは言った。
「でも、リナ、あなた一人じゃ危ないわ」
「そうだ。アメリアの言うとおりだ」
 あたしをつけ狙う、魔族の事を心配してか、言う二人。
 二人の気持ちはありがたいが......
「大丈夫よ、すぐ帰ってくるから、ちょっと一人になりたいの」
 二人を安心させるために、ワザと笑顔を作って、あたしは答えた。
「だけど.....リナ..」なおも言い募るアメリア。
「わかった、気をつけて行ってこい」
 あたしの言葉を、わりかしあっさり承知するゼル。
「ゼルガディスさんっ! あなたは、リナを一人で行かせて心配じゃないんで
すか?」 非難の声を上げるアメリア
「だがな、アメリア、誰だって一人になりたい時はある。
 それに、誰だって、人に言いたくない事の一つや二つは持っているんだ」
 アメリアではなく、あたしをジッと見据えつつ、ゼルは静かにつぶやいた。
 その言葉に、アメリアは弾かれたような、ハッとした表情であたしを見る。
「リナ、ガウリイさんのことは......あなたのせいじゃ..」
「じゃ、行くわ」
 アメリアが全部言い終わる前に、あたしは入り口のドアから出ていく。
 ごめんね、二人とも、ガウリイのこともあるけど...あたしは..

              ◇◇◇◇◇

 外に出ると、空から降ってくる雪の量は、さっきよりも、さらに増していた。
 もう、大地の上にはうっすらと積もってさえいる。
 あたしは、寒いのは大大大嫌いだが、今は、この寒さが、とてもここち良か
った。
 村の広場を抜けると、村の周囲を囲ってある柵が見える。その柵のすき間か
ら、あたしは村の外へと出て、森の中に向かう。
「そうだ、手ぶらじゃさびしいもんね」
 森の中で、ふと足を止め、ポッっとあたしはつぶやいた。
 手袋をはずし、そこに咲いている小さな白い花をつんでいく。あたしは、こ
の花の名前を知っている。
  
            * * *
  「リナ、ちょっとこっちに来いよ」
  「何?」
  「この植物カムスは、葉をフレッシュで(生で)そのまま使うと、シビレ
  薬の原料になるんだ。けど、ドライで(乾燥させて)適量を使えば、安眠
  薬の原料にもなるんだぜ。で、花の部分は......」
  「花の部分は?」おうむ返しに問うあたし
  「ほら、こうして使うんだよっ!」
   言って、あたしの頭に、何個か花をかざる。
  「ち、ちょっとぉ」
  「そうすると、ちょっとは女らしく見えるぜ、まあ、ガキだけどな」
  「(ムカ)ひょ〜っとして、あたしのことからかってる?」
  「おうっ、もちろんっ!」(バキッ) 
  「お、おまえなぁ、何も殴るこたぁね〜だろうが」言って『彼』は笑った
            * * *

 花束を手に持って、あたしはさらに森の奥深くへと入って行く。しばらく行
くと、ふと、森が途切れる。あたしの目の前には、切り立った崖と、断崖が広
がっていた。
 目的の場所が近づいてくる。あたしの中に様々な感情、いや、感傷が生まれ
る。だが、行かなければいけない。ここまで来たのだから。
「浮遊っ!」
 術を使って、断崖絶壁を谷底まで降りて行く。
 谷底には、右手には洞窟が、そして、左手には大地に突き立つ一本の剣があ
った。
 ゆっくりと、その剣のところまで歩いて行く。それが、墓標代わりであるこ
とを、あたしだけは知っていた。剣には、こう、名が刻まれていることも。
  『魔法剣士レオンここに眠る。〜リナ=インバース〜 』と

            * * *
  「どひぃい〜い お助けけぇええ」盗賊達の声があたりにこだまする
  「えいっ、火炎球っ」ちゅど〜ん、ばご〜んっ!
   かくして、あたしの放った火炎球は、盗賊達のアジトにトドメをさした
  のであった。
  「ひゃぁっ、ある、あるお宝さんっ(ルン)」
   あたしは、盗賊達のため込んだお宝を前に歓声を上げた。
   ああ、『盗賊いぢめ』って、なんてオイシイ。
  「誰だっ!」(びくっ)突然かかった声に、あたしはあわてて振り向く。
  「何だ子供か.....」
   あたしを見て、男はつぶやいた。見たところ、十六、七の男だ。短く刈
  り上げた黒髪と、整った顔立ちが精悍なイメージを与える。
   そっちだって、子供同然の年じゃないっ! あたしは内心反論する。
  「っと、待てよ、と、言うことは、おまえが外にいる盗賊達をぶちのめし
  たのかっ!」
   一瞬、考えこんでから、男は、ようやくその事に気付いた。その口調に
  は、ありありと『まさか?』という思いがうかがえた。
   へへぇ〜ん、どうだっ恐れ入ったか(得意っ!)
  「そうよ」得意気に言うあたし。
  「こんな、見たとこ十二、三の女の子がなぁ〜」
   男は半信半疑ながらも、しきりに関心したしぐさでコクコクうなずいた。
  「ま、いいや、お嬢ちゃん。オレ、そのお宝、もらっていくから」なぬ?
  「ちょ、ちょっと待て〜ぃ」
  「ん?」あたしの抗議の声に、男はさも意外そうに振り向く。
   こ、こいつは〜っ! なんて、ずうずうしいやつっ!
  「ここにいた盗賊達を倒したのは、あたしなんだからっ! 当然、このお
  宝はあたしのよっ!
   だいたい、人の物横取りしようなんて、ずうずうしいわねっ!」
  「お、おいおい。何も全部よこせっ!って言っているわけじゃないんだし、
  少しくらい、分けてくれてもいいじゃないか。
   それに、ずうずうしいのはお互い様だぜ」
   あたしの剣幕に、多少たじろぎつつも、男はきっぱし反論してくる。
  「だめっ! 全部あたしのっ!」
  「.............」
   言い張るあたしの言葉に、男はしばらく考えこんだ後、口を開いた。
  「で、お嬢ちゃんはこのお宝をぶんどって、どうするんだ?」
  「ふんっ、当然、無くなった路銀の足しにするに決まってんじゃん」
   何、当り前の事聞いてんだ、こいつは?
  「あのなあ......」
   しょ〜がね〜な。と、言った口調で、男は、わざとらしくため息なんぞ
  をつきつつ続ける。
  「おまえみたいな子供が、ど〜やってそのお宝を、現金と交換するんだ?」
  (ぴきっ)か、考えて無かった〜っ! あたしは、思わず氷つく。
    確かに、子供が魔法道具屋に行って、『このお宝、換金お願いしますぅ』
   と言っても、『お嬢ちゃん、家の物をかってに持ち出しちゃいけないよ』
   と、軽くあしらわれるか、最悪、『こんな高価な物、いったいどこから盗
   んできたんだっ! この悪ガキ役人に突き出してやる』と言われる場合さ
   えある。
  「で、だ?」
  ニヤ、ニヤと笑いながら、男は、あたしにダメ押しをする。
  「オレが、自分のルート使って換金してやるから、このお宝山分けな?」
  その提案に、あたしは、うなずくしかなかった。(くそうっ!)

  「ほらよっ! これが、お宝の代金だ」
   男が金貨の入った、袋をあたしに渡す。
   近くの魔法道具屋(どうやら、店の主人は男の知り合いだったらしい)
  に、換金してもらった後、食堂でのことである。
  「でも、ちょっと少ないんじゃない?」
   山分けって言ったのにぃ、三分の一くらいしかないじゃないか。
  「ふん、手数料も入っているんだよ。イヤならやらんぞ」
  「わ、わかったわよ〜っ! この金額でいいわ」
   ここで、これを取り上げられては、明日には路銀の残高がゼロになるっ!
   あたしは、しぶしぶ納得した。
  「ところで、おまえ、いくら路銀が無いからって、十三の女の子が、盗賊
  襲って金かせごう、なんて、考えるか、普通」
   サラダをつつきながら、男は言った。
  「だって、あの場合しょうがないじゃないっ! お金欲しかったしぃ
   この年じゃまだ、仕事の依頼とかもほとんど来ないし。
   盗賊倒して、お宝ぶんどったって、近所の人達から感謝こそされ、盗賊
  以外からは、苦情なんてこないし」
   あたしの答えに、男は、あきれた様な、ある意味関心した様な不思議な
  表情を浮かべる。
  「おまえって、いったい....
   ど〜ゆ〜育ち方すりゃそういう性格になるんだ?
   まあ、いいや、おまえの名前は?」
   男の言葉に、多少ひっかかるとこはあるが、まあいいや。
  「人に名前を聞く時は、自分から名乗るのが礼儀っ!」
  「ヘイ、ヘイ。わたしが悪うございました」
   あっ、なんだか、(つくづく、口の減らないガキだな)って言葉が聞こ
  えた様な気がするぞ。
  「オレの名前はレオン、年は十六歳だ」
  「あたしは、リナ、リナ=インバース。さっき話したとおり十三よ」
  「ふ〜ん、十三にしては、ちょっと、ちっこくね〜か(ポソ)」
  (コケン)あたしは、とっさに手にしたお皿をレオンに向かって投げつけ
  ていた。(もちろん、皿の中味はきちんと食べてある)
 
   これが、あたしと、レオンとの出会いだった。
             * * *
 
 レオン、あれからもう、3年以上になるんだ......
「時間がたつのって、ずいぶん、早いね.....」
 墓前に花をそえながら、あたしは小さくつぶやく。微笑もうとして、そのま
ま失敗してしまい、つい、苦笑いになってしまった。
 雪は少しも止む気配をみせず、彼の墓標を白に染める様に、次々と降り積も
ってゆく。
 その一つが、あたしの頬に落ち、溶けて消えていった。


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4773上のやつタイトル間違えました「白い雪の中で(前)」ですMilk E-mail URL9/22-07:37
記事番号4772へのコメント
あうぅぅぅうううう! ごめんなさいっ!
上の発言タイトル間違えてますっ!

正しいタイトルは「白い雪の中で(前)」です。

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4775白い雪の中で(中)Milk E-mail URL9/22-07:39
記事番号4745へのコメント

    “白い雪の中で(中)”     〜リナの思い出〜
                        Milk

 あたし以外、誰もいない谷底にも、雪は静かに積もって行く。
 こんな人気の無い場所では、ハッキシ言ってラーシャートに襲ってくれと、
言っている様なもんである。
 でも、あたしは、あの村に立ち寄ってしまった以上、この場所に来ずにはい
られなかった......
 たとえ、罪悪感を感じてしまうことが解っていたとしても。
 この場所にいると、レオンとの様々な出来事が思い出される。
 そう、彼はあたしにとって初めての仲間、初めての相棒だったっけ...

            * * *
  「ちょっと、あなた何であたしについてくるのよっ!」
   それは、さっきの食堂を出てからしばらくの事。彼、レオンはまだあ
  たしの隣にいたりする。
  「何でって? その質問に答えてもいいけど、おまえこの後どうするん
  だ?」
反対に、レオンの方が尋ねてくる
  「ど、どうするって、とりあえず、あてがあるわけでもないし。
   とにかく、郷の姉ちゃんに言われたとおり、そこらを見て歩くわ」
  「ふ〜ん、じゃ、この街道を歩いてるって事は、次の街まで行く気なん
  だ。悪いことは言わないが、今日はさっきの村まで戻って、明日出発し
  た方がいいぞ」
   忠告する彼。だが、人の言葉にあっさり素直に従うあたしではない。
  「こんな、何も無い村、目的の盗賊団を倒したら、もう、用もないわよ。
   あたしは、さっさと次の街に行って、おいしい名物料理でも食べるわ」
  「じゃ、オレも付き合うわ」
  「ど〜して、そうなるのよ」
   この時、あたしは彼にジト目を向けたが、すぐに、彼が一緒にいてく
  れた事に感謝することになった。
 
  「はひぃ、お腹すいたよぉ〜」
   街道をひたすら歩きながら、あたしはつぶやいた。
   ああっ、もう、頭くる〜っ! この街道には次の街までメシ屋や宿屋
  というものが全く無かったりしたのだ。
   しかも、辺りは、はや薄暗くなっていたりする。
  「ほれ、言わないこっちゃない.....
   とにかく、今日はここで野宿すんぞ。 ほれ、さっさと準備だ」
  「えぇ〜」レオンの言葉に、あたしはまともに不満の声を上げた。
  「こんな所で、野宿なんてやだよ〜。次の街まで行く〜」
  「おまえがそう言うんなら、オレは別にいいぞ、次の街に着くまで夜通
  し歩いても」
   げっ.....そんなにあったのか、次の街まで。
おもわず絶句するあたし。
   一方、そんなあたしをよそに、レオンはテキパキと野宿の準備を進め
  ていく。(パチ、パチ)たき火のはぜる音。いつの間にか、おいしそう
  なスープの匂いまでする。
  「ほら、これ食えよ、おまえの分だぜ。どうせ、食料も持ってないんだ
  ろう?」
   言って、レオンはあたしにスープ入りのカップを渡した。
   レオン.....。
   どう見ても二人分はあるスープの入った鍋と、渡されたスープを見て、
  思わず、心の中でつぶやく。彼は、多分、旅に備えてあたしが何の準
  備もしていない事を知っていたから...だから、心配してついてきて
  くれたんだ。
  「ふん、せっかくだから食べてあげるわよっ!(ありがと)」
   心の中で感謝しつつも、憎まれ口をたたき、あたしはスープを受け取る。
  「おうっ、いっぱい食べて、ちったあ大きくなれよ。ガキ」
   やはり、憎まれ口で切り返すレオン(くそうっ!)

  「さっきの、お宝の換金についてもそうだけどさ、おまえってさぁ、行
  動力はあるんだが、つくづく後先考えんやつだな。
   旅をするには、次の街までの行程とかを調べるのは、常識だぞ?
   それに、おまえみたいな子供が一人で旅するには、世間はそんなにや
  さしくできてないんだ」
   レオンのお説教が始まった。言われっぱなしとは腹が立つが、イタイ
  所を突かれているので、言い返せない。
  「まっ、いいか、一応オレが旅に必要なことを、ひととおり教えてやる
  よ」
言って、レオンはにっこり笑う。
 
   ──それ以来、あたし達はいっしょに旅を続けた。
             * * *

 その言葉通り、レオンはあたしに様々は旅の知識を教えてくれた。
 それだけじゃなく、まだ、駆け出しだったあたしに、冒険の技術も、そして....
戦い方も教えてくれたっけ。
 彼は一流の剣士で、同時に魔法も使いこなせる魔剣士だった。

              * * *
  「おい、リナ。明りくれ」
ある、地下迷宮の中でレオンがあたしに言う。
   (バゴ)急いで『明り』の呪文を唱えようとした、あたしの頭をあわて
  てレオンが殴る。
  「でっ! 何すんのよレオンっ!」
  「おまえな〜っ、ちった〜、頭使えっ!
   おまえ、今、『明り』の光球をオレ達の頭上に出そうとしただろっ!
   この暗い場所でそんな事したら、敵に格好の目印になるだろうがっ!」
  「じゃあ、ど〜しろっていうのよっ!」
  「いいか、『明り』の術は剣の先に灯すことっ、そうすれば、消したい時
  は、その剣を鞘にしまうだけで OK だっ!」
   何も、殴んなくってもいいじゃん(ぶち、ぶち)
              * * *
 
 (くす)あたしは、思わず苦笑をもらす。
 今のあたしなら、レオンがあたしを殴ってでも止めようとした事がわかる。
 ほんの些細なミスが命取りになることもあるのだから・・・

              * * *
  「ねえ、ねえ、レオン。あたしそろそろ路銀が乏しいんですけど...」
  「オレの方もだ」
   あたしの言葉に同意する彼。こ〜いうときは、
  「なあ、リナ?」 「何?」
   あたし達は、お互いに視線を交しながらニッコリ笑った。
  『こう〜いう時は、やっぱし、盗賊いぢめよねっ(だな)』
   よしっ、OK。と、いうわけで、あたし達はさっそく盗賊いぢめ、もと
  い、路銀かせぎを始めることにしたのだった。

  「火炎球っ!」 「氷の矢っ!」 ちゅど〜ん、バシュッ!
   あたしとレオンの呪文を唱える声が、盗賊達のアジトに響き渡る。
   呪文を逃れてこちらにやってくるヤツは、レオンの剣が次々と切り伏せ
  てゆく。
彼と盗賊達とでは勝負にさえならない!
  「まあ、これで、あらかたかたずいたかな?」
  「そ〜ね、結構、弱っちかったわね」
  「ああ、だが、リナ、油断はするなよ」
  「わかってるって、レオンも案外心配性なんだから」
   レオンの言葉に思わず苦笑するあたし。しかし、不意に背後から殺気が
  現れる。
  「リナっ!」レオンの叫び声。
   とっさに、あたしは手にしたショートソードで相手に切りつけ──
   おそらく、盗賊達の生き残りだろう、男が、ゆっくりと地面に倒れた。
  「あっ.......」(カラン)
   思わず、ショートソードを地面に落とし。その場に膝をつく、
  「リナ、リナ、どうしたんだっ?」
   あたしの肩を揺さぶるレオンの声も、今のあたしの耳には届かない。
   あたしが、直接人を殺したのは、この時が始めてだった....

  .........
  どのくらいの間、惚けていただろう。気が付くと、あたしの目の前には、
  レオンの心配気な瞳があった。
  「リナ、大丈夫か......。ごめん、オレのせいだ。
   こんな事に、おまえを付き合わせちゃいけなかったんだ。まだ、十三の
  女の子のおまえを.....」
   レオンには、何故あたしがショックを受けているかが、解っているよう
  だった。でも、あたしは、今まで呪文を使って盗賊達に同じ事をしてきた
  のだから。これは、あたしが自分の意思で行動した結果なのだから。
   レオンのせいじゃない。
  「大丈夫よっ! さあ、とっととお宝を回収しに行きましょうか?」
   わざと、元気良く答えるあたし。
  「ああ、そうだな。行こうぜ、こっちだ」
   言って、レオンはあたしの手を取り駆け出した。
   何故か、その手は、とても暖かく感じられた。
              * * *

 何故か、レオンは言葉にしなくても、あたしの気持ちをよくわかってくれた
っけ......
それに、以外と心配性で、面倒見も良くって。

              * * *
  「ねえ、ねえ、威力はあたしの方が上なのに、どうして同じ魔術でもレオ
  ンの方が、相手をいっぱいぶっぱなせるの?」
  「呪文なんてのは、用は使い方しだいさ。
   『呪文を使える』ってのと、『実際に役立たせる』ってのは、ある意味
  別問題なんだ。
   せっかく強力な術が使えても、役に立たなきゃ宝の持ち腐れ。
   まっ、おまえは、飲み込みが早いから、実戦を重ねていけば。すぐに、
  応用できる様になるよ」
   そう言いながら、レオンはあたしの肩を叩いた。

  「ていっ!」(カキン)
   あたしのショートソードの一撃は、彼が手にした魔剣によってあっさり
  とはじかれる。
  「リナ、その剣技じゃあ実践では役にたたんぞ」
   くそう、確かにレオンの剣にあたしは手も足も出なかった。
   スピードや技なら互角かもしれない。しかし、パワー以前に、経験や駆
  け引きといったものに、あたしは遥かに劣っている。
  「そう悔しそうな顔すんなよ、リナ、おまえは筋がいい、それに、魔法と
  組み合わせて使う、有効な剣技をこれからちゃんと覚えればいいだろ」
  「よお〜し、やってやろうじゃないっ!」
  「おうっ、その息だ」
レオンがうれしそうに答えた。
              * * *

              * * *
  「う〜ん、頭がいたひよ〜」
   あたしは、たちの悪い風邪をひいて、すっかり寝込んでしまった。
  「ほら、ほら、コレ飲んだ飲んだ」
  「うげ〜、グロイい〜、苦い、まずいぃ〜」
  「とにかく、これが一番風邪には良く効くのっ! オレが調合したんだか
  ら間違い無いっ!」
   結局、レオンはあたしに最後まで、その薬を強引に飲ませた。
   とてつもなく苦痛だったが、おかげで風邪はあっという間に治った。
              * * *
 
 あたしは、ふと、目の前にある魔法剣に目を向ける。
 あたしの上に降る雪は、あたし自身の体温のせいか、すぐに溶け、消える。
 しかし、彼の墓標の上にはしだいに積もっていく。
 剣に手を触れる、冷たいっ。その冷たさが、彼がもうこの世にいないことを、
あたしに、あらためて実感させた。

              * * *
  「ふ〜ん、リナの故郷はゼフィーリアにあるのか」
  「そうよ、あなたは?」
   あたしの問いに、レオンは一瞬、寂し気な微笑を浮かべる。
  「オレは...もの心ついた時から、一人だったから...
   だから、故郷がどこかもよくわからん」
  「ひょっとして、聞いちゃいけないことだったかな」
   あたしは、気まずそうな口調で言った。
  「別にいいさ、それに今は扶養家族が一人いるからな。
   寂しがってられる状況じゃないし、とっとと稼がないとな」
   言って、ニカっと笑うレオン
  「ち、ちょっと、それってあたしのこと?」
  「自覚があるなら、もう少し食費を抑えてくれ(キッパリ)」
   こ、こいつは〜、時々、にくったらしいやつ。
   しばしの沈黙の後、再び、レオンが唐突につぶやく。
  「...そう、今は、おまえがいてくれるもんな」
   レオンの、その表情を見て、あたしは何も言えなくなってしまった。
              * * *


「レオン.....あなたはいつも、とても優しかった...」
 そして、とても暖かかった。 ── 今なら解る ──
 空を踊る雪と風を見つめながら、あたしは、小さくつぶやいた。
 彼がいなくなってから、今になっても、まだこんなに胸が痛むのは、あの時
のあたしにとって、彼がとても大きな存在だったからだ.....
 彼の優しさは、ただ、優しいだけのものではなかった。本当にいつも、あた
しのことを考えてくれていたから。

              * * *
  「いいかリナ、よく聞け」
  「.........」(ハア、ハア)
  「リナっ、しっかりしろっ!」
   肩で息をしているあたしに向かって、レオンの叱咤の声が飛ぶ。
   今、あたし達は追われていた。それも、ただの追っ手ではない、相手を
  殺すことを専門とした『暗殺者(アサシン)』達に。
   しかも、さっき、彼等の短剣をうけたあたしの体は、消耗が激しかった。
  例えかすっただけで、すぐにレオンが手当してくれたとはいえ、その刃に
  は毒が塗ってあったから......
  「こうなったら、ここで二手に分かれよう」
   彼の提案に、思わずあたしはハッとした表情になる。
   この状況でも、彼だけなら逃げることはできるだろう、でも、レオンは
  多分......
  「レオンっ! そんなっ、それじゃあなたが...(ムグッ)」
   思わず大声を発しかけたあたしの口を、あわててレオンが塞ぐ。
  「バカッ! 声が大きいっ!
   リナ、よく覚えとけ。お互いが生きのびる可能性があるなら、例え納得
  いかない方法でも、それに賭けるしかねえんだよっ!
   いいな! オレは付いててやれないけど、ちゃんと待ち合わせ場所まで
  こいよっ。それで、二人で、オレ達を利用したあげくに始末しようとした、
  依頼主に思い知らせてやろうぜっ!」
   言って、レオンは素早く、身を隠していた路地裏から飛び出し、暗殺者
  の一人に短剣を投げつける。
   そこまでが、あたしが目にしたことだった。あたしは、彼とは反対側の
  路地へと飛び出したから.....
   きっと、彼は一人で追っ手を引き付ける気だ。あたしのために。

   剣と魔法の攻撃音が聞こえる。しかし、後ろを振り返る余裕はない。
   ここで立ち止まってしまえば、今のあたしの状態では、足手まといにし
  かならないっ!
   彼の思いに答えるためにも、あたしは、自分にできることをすることに
  した。 ──殺気の一つが、あたしの後をつけてくる。

   街外れにある小さな小屋に忍び込み、あたしはペタンと膝をついた。
   落ち合うはずの場所、しかし、レオンはまだ来ていない。
   彼が、追っ手の大部分を相手にしてくれたおかげで、あたしはなんとか、
  ここまでたどり着くことができた......
   そのまま、じっと膝を抱えて夜を過ごす。
   敵に追われ、命の危険にさらされる恐怖。そして、今、隣にいないレオ
  ンのことを思うと、とても眠ることなどできなかった。
   今夜、あたしは、旅に出てから初めて、夜の闇の深さと恐さを知った。
  
  (バタン)ドアの開く音に、警戒と期待の色をにじませて振り向く。
  「レオンっ!」
  「おわっと、いきなりどうした? リナ」
   顔を見るなり飛びついてきたあたしを見て、何故だか、レオンは唖然と
  した様な顔をした。
  「このバカッ! ど〜してもっと早く帰ってこないのよぉっ! あほぉ
  っ! たくっ、何かあったかと、一瞬、思ったじゃないっ!」
   あたしは知っている、彼は、暗殺者のほとんどを返り打ちにしたのだろ
  う。この場所を知られないために。
   レオンの服からは血の匂いがした.....
   彼は次々と憎まれ口を叩く、あたしの頭をなで、
  「そっか...心配させたみたいだな.....ごめん」優しい声で言う。
  「ふんっ! 別にっ!」
   照れのために、そっぽを向いてしまったあたしの耳に、彼が小さくつぶ
  やいたのが聞こえた。
  (なんだか、こういうのも、悪くないな)

   何時の間にか、もう、朝になっていた。
   この時、あたしは、昨夜の重かった心が、嘘の様に軽くなっていること
  に気付いていた。
              * * *


 きっと、彼はずっと一人だったから、あぶなっかしく見えた(実際あぶなっ
かしかったけど)当時のあたしを、放っておけなかったんだ。
 今、あたしは一人じゃない。仲間がいる。だけど、仲間を心配する思いは良
く解るつもりだ.....今、ガウリイは、あたしの隣にはいない、だから。

「レオン...今、あたしには仲間がいるわ。
 アメリアって言う子はね、なんとセイルーンのお姫様なのよっ! 
 それにね、あの子は正義のヒーローおたくで...........」
 あたしは、仲間のアメリアの事を次々とレオンに紹介していく。
「次に、ゼル、彼はある魔道士にキメラにされてしまって、元に戻る手段を探
して、旅を続けているの...........」
 さっきと同じように、今度はゼルを紹介する。
「それに、ガウリイ...彼は..」
 ふと、ガウリイの所で、あたしは不意に言葉を詰まらせる。
 罪悪感が胸を締め付ける。
 ごめん、レオン・・・
あたしは、心の中で彼に詫びた。
 本当は、あの村の近くで夜にならなければ、あそこで雪が降ってこなければ、
あたしは、ここにあなたが眠っていると知っていながら、あの、街道からはず
れた村にも立ち寄らず、サイラーグへと急いで旅を進めただろう。
 ガウリイを早く助けに行きたかったから。
 あなたには、あんなに沢山の事を教えてもらったのに、あんなに、あなたは
優しかったのに......
──あたしは、この場所を通りすぎて行こうとした。
 
「重破斬.....」
ポツリとつぶやく。
「結局、あなたの言ったとおりだった。あの術は人が使うには、強大過ぎる力
だわ」
 そう、ガウリイがさらわれた理由を、あたしはうすうす感づいていた。
 おそらくは、あの術のせいだ.....
 かって、復活した魔王のかけらであるレゾ=シャブラニグドゥにこの術を使
って、倒したことを後悔はしていない。あの時は、ああするより他に方法が無
かったから。だけど......

              * * *
  「おおい、リナ、こんな時間まで何やってるんだ?」
   宿屋の一室でのこと。
   夜更けにレオンが、まだ起きているあたしに向かって尋ねた。
   ちなみに、部屋は彼と一緒だったりする。
   初めは一人部屋を頼んだのだが『お嬢ちゃん一人じゃ心配だから』と、
  宿のおかみさんに言われ。結局レオンと『兄妹』ということにされて、二
  人一室になってしまった。
  (何故、『兄妹』かというと、レオンが『そうでも言っておかないと、ヘ
  タすりゃオレは人さらいと間違えられる』と言ったからである)
  「う〜ん、ちょっと新しい呪文の研究をしてんのよ。
   昔、ディルスの王宮で手に入れた情報から、この世界の魔王シャブラニ
  グドゥ以外の魔王の力を借りた呪文ができないかな? と、思って」
  「ふ〜ん、『赤眼の魔王』以外の力ね〜」
   気の無い調子でうなずく彼。ムッ、信じてないな。
  「そうよっ! ヘタしたらあの『竜破斬』以上の呪文になるかもしれない
  わよっ!」
  「そう言えば、おまえ、あの黒魔術最強の『竜破斬』の術も使えるんだよ
  な。つくづく、末恐ろしいと言うか、全くたいしたヤツだよ」
   言いながら、あたしに感心した様な笑顔を向けた。
   レオンは、よくあたしを誉めてくれる。
   ず〜っと、郷の姉ちゃんにかなわずに、コンプレックスを持っていたあ
  たしには、それがとても嬉しかった。
  「まっ、とにかくもう寝ろよ。明日は、オレが受けてきた仕事があるし、
  それに、子供ほもう寝る時間だぞ」(ムッ)
   あたし達の仕事はレオンが受けて、仕事をする時は二人一緒である。
   だから、一人分の依頼料しかもらえないのは腹立たしいが、確かに、あ
  たしはまだまだ依頼を選べるような年じゃない。
   それに、レオンがあたしの実力を考えて依頼内容を選んでくれているこ
  とも、(彼は口にはしないが)実は知っていた。
  「たく、いつもいつも人の事、子供、子供って言って、あんま口うるさい
  男はモテないわよっ!」
   子供扱いされてムクれるあたし。
一方、レオンはあきれた口調で言う。
  「あのなあ、十三歳はリッパな子供だと思うぞ、世間でもな。
   それと、オレのことよりも、おまえ、自分の心配しろよっ。その性格じ
  ゃあ、嫁には行けんぞ。
   まあ、あと五、六年しても、もらい手がなかったら、しゃ〜ない、オレ
  がもらってやってもいいぞ」
   完璧にからかわれている。あたしは、レオンに一発張り手をくらわせて、
  ベットの中に潜り込む。
  「もう、寝る(ムス)」こうなったら、ふて寝してやるうっ!

  「まあ、オレは気が長いし、待っててやるから早く大きくなれよ」
   優しくつぶやく彼の言葉を、あたしは夢の中で聞いたような気がした。
す〜す〜す〜
  「まっ、まだまだ子供だしな.....」
   彼は苦笑しながら、あたしの毛布をかけなおしてくれた。

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4776「白い雪の中で(後)」Milk E-mail URL9/22-07:40
記事番号4745へのコメント

    “白い雪の中で(中)”     〜リナの思い出〜
                        Milk

 あたし以外、誰もいない谷底にも、雪は静かに積もって行く。
 こんな人気の無い場所では、ハッキシ言ってラーシャートに襲ってくれと、
言っている様なもんである。
 でも、あたしは、あの村に立ち寄ってしまった以上、この場所に来ずにはい
られなかった......
 たとえ、罪悪感を感じてしまうことが解っていたとしても。
 この場所にいると、レオンとの様々な出来事が思い出される。
 そう、彼はあたしにとって初めての仲間、初めての相棒だったっけ...

            * * *
  「ちょっと、あなた何であたしについてくるのよっ!」
   それは、さっきの食堂を出てからしばらくの事。彼、レオンはまだあ
  たしの隣にいたりする。
  「何でって? その質問に答えてもいいけど、おまえこの後どうするん
  だ?」
反対に、レオンの方が尋ねてくる
  「ど、どうするって、とりあえず、あてがあるわけでもないし。
   とにかく、郷の姉ちゃんに言われたとおり、そこらを見て歩くわ」
  「ふ〜ん、じゃ、この街道を歩いてるって事は、次の街まで行く気なん
  だ。悪いことは言わないが、今日はさっきの村まで戻って、明日出発し
  た方がいいぞ」
   忠告する彼。だが、人の言葉にあっさり素直に従うあたしではない。
  「こんな、何も無い村、目的の盗賊団を倒したら、もう、用もないわよ。
   あたしは、さっさと次の街に行って、おいしい名物料理でも食べるわ」
  「じゃ、オレも付き合うわ」
  「ど〜して、そうなるのよ」
   この時、あたしは彼にジト目を向けたが、すぐに、彼が一緒にいてく
  れた事に感謝することになった。
 
  「はひぃ、お腹すいたよぉ〜」
   街道をひたすら歩きながら、あたしはつぶやいた。
   ああっ、もう、頭くる〜っ! この街道には次の街までメシ屋や宿屋
  というものが全く無かったりしたのだ。
   しかも、辺りは、はや薄暗くなっていたりする。
  「ほれ、言わないこっちゃない.....
   とにかく、今日はここで野宿すんぞ。 ほれ、さっさと準備だ」
  「えぇ〜」レオンの言葉に、あたしはまともに不満の声を上げた。
  「こんな所で、野宿なんてやだよ〜。次の街まで行く〜」
  「おまえがそう言うんなら、オレは別にいいぞ、次の街に着くまで夜通
  し歩いても」
   げっ.....そんなにあったのか、次の街まで。
おもわず絶句するあたし。
   一方、そんなあたしをよそに、レオンはテキパキと野宿の準備を進め
  ていく。(パチ、パチ)たき火のはぜる音。いつの間にか、おいしそう
  なスープの匂いまでする。
  「ほら、これ食えよ、おまえの分だぜ。どうせ、食料も持ってないんだ
  ろう?」
   言って、レオンはあたしにスープ入りのカップを渡した。
   レオン.....。
   どう見ても二人分はあるスープの入った鍋と、渡されたスープを見て、
  思わず、心の中でつぶやく。彼は、多分、旅に備えてあたしが何の準
  備もしていない事を知っていたから...だから、心配してついてきて
  くれたんだ。
  「ふん、せっかくだから食べてあげるわよっ!(ありがと)」
   心の中で感謝しつつも、憎まれ口をたたき、あたしはスープを受け取る。
  「おうっ、いっぱい食べて、ちったあ大きくなれよ。ガキ」
   やはり、憎まれ口で切り返すレオン(くそうっ!)

  「さっきの、お宝の換金についてもそうだけどさ、おまえってさぁ、行
  動力はあるんだが、つくづく後先考えんやつだな。
   旅をするには、次の街までの行程とかを調べるのは、常識だぞ?
   それに、おまえみたいな子供が一人で旅するには、世間はそんなにや
  さしくできてないんだ」
   レオンのお説教が始まった。言われっぱなしとは腹が立つが、イタイ
  所を突かれているので、言い返せない。
  「まっ、いいか、一応オレが旅に必要なことを、ひととおり教えてやる
  よ」
言って、レオンはにっこり笑う。
 
   ──それ以来、あたし達はいっしょに旅を続けた。
             * * *

 その言葉通り、レオンはあたしに様々は旅の知識を教えてくれた。
 それだけじゃなく、まだ、駆け出しだったあたしに、冒険の技術も、そして....
戦い方も教えてくれたっけ。
 彼は一流の剣士で、同時に魔法も使いこなせる魔剣士だった。

              * * *
  「おい、リナ。明りくれ」
ある、地下迷宮の中でレオンがあたしに言う。
   (バゴ)急いで『明り』の呪文を唱えようとした、あたしの頭をあわて
  てレオンが殴る。
  「でっ! 何すんのよレオンっ!」
  「おまえな〜っ、ちった〜、頭使えっ!
   おまえ、今、『明り』の光球をオレ達の頭上に出そうとしただろっ!
   この暗い場所でそんな事したら、敵に格好の目印になるだろうがっ!」
  「じゃあ、ど〜しろっていうのよっ!」
  「いいか、『明り』の術は剣の先に灯すことっ、そうすれば、消したい時
  は、その剣を鞘にしまうだけで OK だっ!」
   何も、殴んなくってもいいじゃん(ぶち、ぶち)
              * * *
 
 (くす)あたしは、思わず苦笑をもらす。
 今のあたしなら、レオンがあたしを殴ってでも止めようとした事がわかる。
 ほんの些細なミスが命取りになることもあるのだから・・・

              * * *
  「ねえ、ねえ、レオン。あたしそろそろ路銀が乏しいんですけど...」
  「オレの方もだ」
   あたしの言葉に同意する彼。こ〜いうときは、
  「なあ、リナ?」 「何?」
   あたし達は、お互いに視線を交しながらニッコリ笑った。
  『こう〜いう時は、やっぱし、盗賊いぢめよねっ(だな)』
   よしっ、OK。と、いうわけで、あたし達はさっそく盗賊いぢめ、もと
  い、路銀かせぎを始めることにしたのだった。

  「火炎球っ!」 「氷の矢っ!」 ちゅど〜ん、バシュッ!
   あたしとレオンの呪文を唱える声が、盗賊達のアジトに響き渡る。
   呪文を逃れてこちらにやってくるヤツは、レオンの剣が次々と切り伏せ
  てゆく。
彼と盗賊達とでは勝負にさえならない!
  「まあ、これで、あらかたかたずいたかな?」
  「そ〜ね、結構、弱っちかったわね」
  「ああ、だが、リナ、油断はするなよ」
  「わかってるって、レオンも案外心配性なんだから」
   レオンの言葉に思わず苦笑するあたし。しかし、不意に背後から殺気が
  現れる。
  「リナっ!」レオンの叫び声。
   とっさに、あたしは手にしたショートソードで相手に切りつけ──
   おそらく、盗賊達の生き残りだろう、男が、ゆっくりと地面に倒れた。
  「あっ.......」(カラン)
   思わず、ショートソードを地面に落とし。その場に膝をつく、
  「リナ、リナ、どうしたんだっ?」
   あたしの肩を揺さぶるレオンの声も、今のあたしの耳には届かない。
   あたしが、直接人を殺したのは、この時が始めてだった....

  .........
  どのくらいの間、惚けていただろう。気が付くと、あたしの目の前には、
  レオンの心配気な瞳があった。
  「リナ、大丈夫か......。ごめん、オレのせいだ。
   こんな事に、おまえを付き合わせちゃいけなかったんだ。まだ、十三の
  女の子のおまえを.....」
   レオンには、何故あたしがショックを受けているかが、解っているよう
  だった。でも、あたしは、今まで呪文を使って盗賊達に同じ事をしてきた
  のだから。これは、あたしが自分の意思で行動した結果なのだから。
   レオンのせいじゃない。
  「大丈夫よっ! さあ、とっととお宝を回収しに行きましょうか?」
   わざと、元気良く答えるあたし。
  「ああ、そうだな。行こうぜ、こっちだ」
   言って、レオンはあたしの手を取り駆け出した。
   何故か、その手は、とても暖かく感じられた。
              * * *

 何故か、レオンは言葉にしなくても、あたしの気持ちをよくわかってくれた
っけ......
それに、以外と心配性で、面倒見も良くって。

              * * *
  「ねえ、ねえ、威力はあたしの方が上なのに、どうして同じ魔術でもレオ
  ンの方が、相手をいっぱいぶっぱなせるの?」
  「呪文なんてのは、用は使い方しだいさ。
   『呪文を使える』ってのと、『実際に役立たせる』ってのは、ある意味
  別問題なんだ。
   せっかく強力な術が使えても、役に立たなきゃ宝の持ち腐れ。
   まっ、おまえは、飲み込みが早いから、実戦を重ねていけば。すぐに、
  応用できる様になるよ」
   そう言いながら、レオンはあたしの肩を叩いた。

  「ていっ!」(カキン)
   あたしのショートソードの一撃は、彼が手にした魔剣によってあっさり
  とはじかれる。
  「リナ、その剣技じゃあ実践では役にたたんぞ」
   くそう、確かにレオンの剣にあたしは手も足も出なかった。
   スピードや技なら互角かもしれない。しかし、パワー以前に、経験や駆
  け引きといったものに、あたしは遥かに劣っている。
  「そう悔しそうな顔すんなよ、リナ、おまえは筋がいい、それに、魔法と
  組み合わせて使う、有効な剣技をこれからちゃんと覚えればいいだろ」
  「よお〜し、やってやろうじゃないっ!」
  「おうっ、その息だ」
レオンがうれしそうに答えた。
              * * *

              * * *
  「う〜ん、頭がいたひよ〜」
   あたしは、たちの悪い風邪をひいて、すっかり寝込んでしまった。
  「ほら、ほら、コレ飲んだ飲んだ」
  「うげ〜、グロイい〜、苦い、まずいぃ〜」
  「とにかく、これが一番風邪には良く効くのっ! オレが調合したんだか
  ら間違い無いっ!」
   結局、レオンはあたしに最後まで、その薬を強引に飲ませた。
   とてつもなく苦痛だったが、おかげで風邪はあっという間に治った。
              * * *
 
 あたしは、ふと、目の前にある魔法剣に目を向ける。
 あたしの上に降る雪は、あたし自身の体温のせいか、すぐに溶け、消える。
 しかし、彼の墓標の上にはしだいに積もっていく。
 剣に手を触れる、冷たいっ。その冷たさが、彼がもうこの世にいないことを、
あたしに、あらためて実感させた。

              * * *
  「ふ〜ん、リナの故郷はゼフィーリアにあるのか」
  「そうよ、あなたは?」
   あたしの問いに、レオンは一瞬、寂し気な微笑を浮かべる。
  「オレは...もの心ついた時から、一人だったから...
   だから、故郷がどこかもよくわからん」
  「ひょっとして、聞いちゃいけないことだったかな」
   あたしは、気まずそうな口調で言った。
  「別にいいさ、それに今は扶養家族が一人いるからな。
   寂しがってられる状況じゃないし、とっとと稼がないとな」
   言って、ニカっと笑うレオン
  「ち、ちょっと、それってあたしのこと?」
  「自覚があるなら、もう少し食費を抑えてくれ(キッパリ)」
   こ、こいつは〜、時々、にくったらしいやつ。
   しばしの沈黙の後、再び、レオンが唐突につぶやく。
  「...そう、今は、おまえがいてくれるもんな」
   レオンの、その表情を見て、あたしは何も言えなくなってしまった。
              * * *


「レオン.....あなたはいつも、とても優しかった...」
 そして、とても暖かかった。 ── 今なら解る ──
 空を踊る雪と風を見つめながら、あたしは、小さくつぶやいた。
 彼がいなくなってから、今になっても、まだこんなに胸が痛むのは、あの時
のあたしにとって、彼がとても大きな存在だったからだ.....
 彼の優しさは、ただ、優しいだけのものではなかった。本当にいつも、あた
しのことを考えてくれていたから。

              * * *
  「いいかリナ、よく聞け」
  「.........」(ハア、ハア)
  「リナっ、しっかりしろっ!」
   肩で息をしているあたしに向かって、レオンの叱咤の声が飛ぶ。
   今、あたし達は追われていた。それも、ただの追っ手ではない、相手を
  殺すことを専門とした『暗殺者(アサシン)』達に。
   しかも、さっき、彼等の短剣をうけたあたしの体は、消耗が激しかった。
  例えかすっただけで、すぐにレオンが手当してくれたとはいえ、その刃に
  は毒が塗ってあったから......
  「こうなったら、ここで二手に分かれよう」
   彼の提案に、思わずあたしはハッとした表情になる。
   この状況でも、彼だけなら逃げることはできるだろう、でも、レオンは
  多分......
  「レオンっ! そんなっ、それじゃあなたが...(ムグッ)」
   思わず大声を発しかけたあたしの口を、あわててレオンが塞ぐ。
  「バカッ! 声が大きいっ!
   リナ、よく覚えとけ。お互いが生きのびる可能性があるなら、例え納得
  いかない方法でも、それに賭けるしかねえんだよっ!
   いいな! オレは付いててやれないけど、ちゃんと待ち合わせ場所まで
  こいよっ。それで、二人で、オレ達を利用したあげくに始末しようとした、
  依頼主に思い知らせてやろうぜっ!」
   言って、レオンは素早く、身を隠していた路地裏から飛び出し、暗殺者
  の一人に短剣を投げつける。
   そこまでが、あたしが目にしたことだった。あたしは、彼とは反対側の
  路地へと飛び出したから.....
   きっと、彼は一人で追っ手を引き付ける気だ。あたしのために。

   剣と魔法の攻撃音が聞こえる。しかし、後ろを振り返る余裕はない。
   ここで立ち止まってしまえば、今のあたしの状態では、足手まといにし
  かならないっ!
   彼の思いに答えるためにも、あたしは、自分にできることをすることに
  した。 ──殺気の一つが、あたしの後をつけてくる。

   街外れにある小さな小屋に忍び込み、あたしはペタンと膝をついた。
   落ち合うはずの場所、しかし、レオンはまだ来ていない。
   彼が、追っ手の大部分を相手にしてくれたおかげで、あたしはなんとか、
  ここまでたどり着くことができた......
   そのまま、じっと膝を抱えて夜を過ごす。
   敵に追われ、命の危険にさらされる恐怖。そして、今、隣にいないレオ
  ンのことを思うと、とても眠ることなどできなかった。
   今夜、あたしは、旅に出てから初めて、夜の闇の深さと恐さを知った。
  
  (バタン)ドアの開く音に、警戒と期待の色をにじませて振り向く。
  「レオンっ!」
  「おわっと、いきなりどうした? リナ」
   顔を見るなり飛びついてきたあたしを見て、何故だか、レオンは唖然と
  した様な顔をした。
  「このバカッ! ど〜してもっと早く帰ってこないのよぉっ! あほぉ
  っ! たくっ、何かあったかと、一瞬、思ったじゃないっ!」
   あたしは知っている、彼は、暗殺者のほとんどを返り打ちにしたのだろ
  う。この場所を知られないために。
   レオンの服からは血の匂いがした.....
   彼は次々と憎まれ口を叩く、あたしの頭をなで、
  「そっか...心配させたみたいだな.....ごめん」優しい声で言う。
  「ふんっ! 別にっ!」
   照れのために、そっぽを向いてしまったあたしの耳に、彼が小さくつぶ
  やいたのが聞こえた。
  (なんだか、こういうのも、悪くないな)

   何時の間にか、もう、朝になっていた。
   この時、あたしは、昨夜の重かった心が、嘘の様に軽くなっていること
  に気付いていた。
              * * *


 きっと、彼はずっと一人だったから、あぶなっかしく見えた(実際あぶなっ
かしかったけど)当時のあたしを、放っておけなかったんだ。
 今、あたしは一人じゃない。仲間がいる。だけど、仲間を心配する思いは良
く解るつもりだ.....今、ガウリイは、あたしの隣にはいない、だから。

「レオン...今、あたしには仲間がいるわ。
 アメリアって言う子はね、なんとセイルーンのお姫様なのよっ! 
 それにね、あの子は正義のヒーローおたくで...........」
 あたしは、仲間のアメリアの事を次々とレオンに紹介していく。
「次に、ゼル、彼はある魔道士にキメラにされてしまって、元に戻る手段を探
して、旅を続けているの...........」
 さっきと同じように、今度はゼルを紹介する。
「それに、ガウリイ...彼は..」
 ふと、ガウリイの所で、あたしは不意に言葉を詰まらせる。
 罪悪感が胸を締め付ける。
 ごめん、レオン・・・
あたしは、心の中で彼に詫びた。
 本当は、あの村の近くで夜にならなければ、あそこで雪が降ってこなければ、
あたしは、ここにあなたが眠っていると知っていながら、あの、街道からはず
れた村にも立ち寄らず、サイラーグへと急いで旅を進めただろう。
 ガウリイを早く助けに行きたかったから。
 あなたには、あんなに沢山の事を教えてもらったのに、あんなに、あなたは
優しかったのに......
──あたしは、この場所を通りすぎて行こうとした。
 
「重破斬.....」
ポツリとつぶやく。
「結局、あなたの言ったとおりだった。あの術は人が使うには、強大過ぎる力
だわ」
 そう、ガウリイがさらわれた理由を、あたしはうすうす感づいていた。
 おそらくは、あの術のせいだ.....
 かって、復活した魔王のかけらであるレゾ=シャブラニグドゥにこの術を使
って、倒したことを後悔はしていない。あの時は、ああするより他に方法が無
かったから。だけど......

              * * *
  「おおい、リナ、こんな時間まで何やってるんだ?」
   宿屋の一室でのこと。
   夜更けにレオンが、まだ起きているあたしに向かって尋ねた。
   ちなみに、部屋は彼と一緒だったりする。
   初めは一人部屋を頼んだのだが『お嬢ちゃん一人じゃ心配だから』と、
  宿のおかみさんに言われ。結局レオンと『兄妹』ということにされて、二
  人一室になってしまった。
  (何故、『兄妹』かというと、レオンが『そうでも言っておかないと、ヘ
  タすりゃオレは人さらいと間違えられる』と言ったからである)
  「う〜ん、ちょっと新しい呪文の研究をしてんのよ。
   昔、ディルスの王宮で手に入れた情報から、この世界の魔王シャブラニ
  グドゥ以外の魔王の力を借りた呪文ができないかな? と、思って」
  「ふ〜ん、『赤眼の魔王』以外の力ね〜」
   気の無い調子でうなずく彼。ムッ、信じてないな。
  「そうよっ! ヘタしたらあの『竜破斬』以上の呪文になるかもしれない
  わよっ!」
  「そう言えば、おまえ、あの黒魔術最強の『竜破斬』の術も使えるんだよ
  な。つくづく、末恐ろしいと言うか、全くたいしたヤツだよ」
   言いながら、あたしに感心した様な笑顔を向けた。
   レオンは、よくあたしを誉めてくれる。
   ず〜っと、郷の姉ちゃんにかなわずに、コンプレックスを持っていたあ
  たしには、それがとても嬉しかった。
  「まっ、とにかくもう寝ろよ。明日は、オレが受けてきた仕事があるし、
  それに、子供ほもう寝る時間だぞ」(ムッ)
   あたし達の仕事はレオンが受けて、仕事をする時は二人一緒である。
   だから、一人分の依頼料しかもらえないのは腹立たしいが、確かに、あ
  たしはまだまだ依頼を選べるような年じゃない。
   それに、レオンがあたしの実力を考えて依頼内容を選んでくれているこ
  とも、(彼は口にはしないが)実は知っていた。
  「たく、いつもいつも人の事、子供、子供って言って、あんま口うるさい
  男はモテないわよっ!」
   子供扱いされてムクれるあたし。
一方、レオンはあきれた口調で言う。
  「あのなあ、十三歳はリッパな子供だと思うぞ、世間でもな。
   それと、オレのことよりも、おまえ、自分の心配しろよっ。その性格じ
  ゃあ、嫁には行けんぞ。
   まあ、あと五、六年しても、もらい手がなかったら、しゃ〜ない、オレ
  がもらってやってもいいぞ」
   完璧にからかわれている。あたしは、レオンに一発張り手をくらわせて、
  ベットの中に潜り込む。
  「もう、寝る(ムス)」こうなったら、ふて寝してやるうっ!

  「まあ、オレは気が長いし、待っててやるから早く大きくなれよ」
   優しくつぶやく彼の言葉を、あたしは夢の中で聞いたような気がした。
す〜す〜す〜
  「まっ、まだまだ子供だしな.....」
   彼は苦笑しながら、あたしの毛布をかけなおしてくれた。

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4777白い雪の中で(後)Milk E-mail URL9/22-07:43
記事番号4745へのコメント
白い雪の中で(後) 〜 リナの思い出 〜
Milk


  「重破斬っ!」
   ドゴゴゴォ〜〜っ! あたしの放った呪文が大地をゆるがし、爆音があ
  たりにこだまする。
  「くっ.....」ここまで消耗が激しいとは。
  「おい、リナっ、しっかりしろっ! おい」
   予想を遥かに超える魔力と体力の消耗に、あたしはその場に倒れ込む。
   気を失う最後の瞬間、レオンがあたしを抱きとめてくれたことを感じた。

  「う...ん」
  「眼が覚めたか、リナ、良かった」心配そうなレオンの声。
   ふと、気が付くと、そこは見知らぬ小屋の中だった。
  「ここは...、あたしは、あれから.....」
  「リナ、起きれるようなら、ちょっと表に行こう」
   あたしの問いには答えず、彼はあたしを支えながら、小屋の外へと出る。
  「..........」
   目の前に広がっている光景を見て、あたしは思わず絶句した。
   さっきまで、海岸だった部分が大きくえぐれ、巨大な入り江と化してい
  た。たとえ、黒魔術中最強の破壊力を持つという『竜破斬』を使ったとし
  ても、ここまでの破壊力は到底出せないだろう。
   これは.....。
  「.....ひょっとして、あたしの呪文がこれをやったの」
   無言のままレオンがうなずく。
   そのあまりの破壊力に、あたしは小さなめまいを感じた。
   海に向かって吹く風が、あたしの髪の一房を揺らす。
   この時始めて、あたしは生態エネルギーの使いすぎにより、自分の髪が
  銀に染まっていたことに気付いた。

  「リナ、この呪文はもう使わない方がいい」
   あたしをじっと見据えて、静かな口調でレオンが言った。
  「でも.....この威力は『竜破斬』以上よ(もったいない)」
  「だからこそだ.....」重い口調で言う彼。
   その眼を見て、あたしには何となく彼の言いたい事が解った。
   この術の存在を、あたし達は魔道士協会には報告しなかった。
   この力は、人が用いるには余りにも大きすぎる力の様な気がしたからだ。
              * * *

 降り続ける雪と、夜の闇が、あたしの表情を隠してくれる。
 不完全版ならともかく、『金色の魔王』の正体を知った今、あたしにはあの
術の完全版を制御できる自身が無い。
 だけど、ガウリイを見捨てるわけにはいかない、絶対に。
 今、あたしの中には、誰にも言えなかった思いがある。
 危険を承知で、でも、何も聞かずにに付いてきてくれた。ゼルにも、アメリ
アにも言えない事がある......。
「レオン、あたしは、もしかしたら怖いのかもしれない。
 もしかしたら、あの呪文を暴走させて、世界を『無』へと帰してしまうかも
しれない事が..... そして、ガウリイを無事に助けられるかどうかとい
う事が、それを考えると、時々、たまらなく不安になる時がある。だから..
 それは、考えても、仕方の無い事なのかもしれないけど.....」
 だけど、誰かに聞いて欲しかったのかもしれない、だから、今、あたしは、
レオンに合いにきたのかもしれない。

 夕方に降り始めた雪は、もう、かなり積もっている。谷底は、一面、白の世
界に覆われていく。そう言えば、彼を失った日も、雪が降っていた。
 それは、あたしにとって初めての親しい者の死、『仲間の死』だった。

              * * *
   それは、もうすぐあたしが十四歳の誕生日を迎える頃の事。レオンが、
  ある仕事の依頼を取ってきた。
  「今度の依頼は盗賊退治だっ! おまえ、そういうの得意だろ?」
  「まあね.....」
   レオンの言葉に、多少引っかかりつつもうなずくあたし。
   今回の依頼は、地方領主に頼まれた、辺境に出没する盗賊団の討伐であ
  る。
  「でも、何で、そのロードは自分とこの兵を出して討伐しないの?」
  「辺境にまで出す兵力は無いんだと、それだけ人手不足なんだろ。
   それに、その盗賊団には召還術を使う魔道士がいるらしいんだ。だから、
  そこら辺にいる自警団では、歯が立たないとか......。
   まっ、いくら召還魔術が、一応、高位魔術になるとはいえ、レッサーデ
  ーモンの一、二匹を召還するのがせいぜいみたいだから、オレ達の敵じゃ
  あないだろう」
  「そ〜ね」実際その通りなので、気楽に言うレオンにあたしはうなずいた。

  「確かに、この村の先に盗賊達のアジトがあるのよね?」
  「ああ、情報によるとな」あたしの言葉に答えるレオン。
   次の日、あたし達は、例の依頼、盗賊達を倒すため、ラルティーグ王国
  国境付近の街道をはずれた場所にある、名もない村に来ていた。
   その村にある一軒しかない宿屋に泊り、明日の準備と作戦会議を行う。
  「じゃ、今日は前祝い代わりにたっぷりうまい物でも食って、ぐっすり寝
  て、明日、その盗賊団のアジトへ向けて出発だ」
  「きゃ〜 レオン、太っ腹っ!(ハート)」
  「自分の分は自分で払えよ(ボソ)」ムッ、前言撤回っ!

  「おい、リナ、まだ起きているか?」
   夜(例によって二人同室である)それぞれベッドに入り、しばらくして
  から、レオンは突然、あたしに尋ねてきた。
  「うん。どうしたの?」
  「おまえとは、けっこう一緒に旅したなぁ。って、思ってさ」
  「そうだね」
  「おまえ、この先どうするんだ?」
  「う〜ん、まだ考えてないなぁ〜。旅を始めたのは、とりあえず、あちこ
  ちを見て廻るのが目的だったから」
  「ふう〜ん、じゃあ、いつかは郷に帰るのか?」
   その口調が淋しげな事に、あたしは気付かなかった。
  「まあ、一度は帰るけど、今はまだ、レオンとこうして旅してる方が面白
  いからいいや、いろいろと覚えられるし」
   あたしの答えに、レオンが安堵したように息を飲む。
  「おまえさあ、今はまだ荒削りだけど、きっとその内、並ぶ者の無いほど
  強力な魔道士になると思うぞ。ひょっとしたら、あのレイ=マグナスや、
  赤法師レゾ以上の.....」
  「へえ、あたしの事。結構、買ってるんだぁ」
   レオンがあたしを評価してくれている事が、とてもうれしかった。
  「ま、おまえがそうなる頃には、オレも超有名な魔法剣士として活躍して
  いる予定だけどな」
   きっと、レオンなら、それも現実になるかもしれない。と、あたしは思
  っていた。彼の実力なら。
  「じゃあ、超一流の魔剣士と魔道士である、あなたとあたしが組めば、こ
  の世のお宝はみぃ〜んな、あたし達の物ねっ!」
   元気良く答えるあたしに、苦笑しながらレオンが言う。
  「そうだな、そうして、おまえと世界中旅する毎日も、おもしろいかもな、 
   そして.........」
  「そして、何?」
   急に黙ってしまった彼に、あたしは聞き返す。
  「その先は、いずれ話すよ....。ま、子供に話しても仕方ないからな」
   またかいっ!
  「もうっ、いつもいつも、いっつ〜も、人の事、子供扱いすんのね、あん
  たはっ!」
  「今は、まだ、おまえは子供でいいんだよ」
   あたしの怒りに、涼しい顔で彼は答えた。
              * * *

 この時のあたしは、彼が側から居なくなるかもしれない事があるとは、
カケラも考えていなかった。まだ、子供だったあたしは、この日々がずっ
と続くものだと信じていた。

              * * *
   その日は、朝からどんよりとした雲が立ちこめていた。
   この季節なら、ひょっとして山中では雪になるかもしれない。
   あたしとレオンは、早く仕事を済ませて、あったかい宿で休むことを心
  に決めていた。
  「さて、この崖の下の洞窟がヤツ等のアジトっていうわけか」
  「ああ、だが、こう、何か変だ.....」
   変? そう言えば、妙に静か過ぎる。大勢の盗賊達が巣くっているアジ
  トなのだから、もっと人の気配がするはずなのに。
  「とりあえず、下に降りてみましょうっ! 詳しい事はそれからってこと
  で」あたしの言葉にレオンがうなずいた。よしっ!
  『浮遊っ!』
   声すらハモらせ、あたし達は崖下へと降りて行った。

  「うっ......」
   そこには、あたし達が予想もしなかった凄惨な光景があった。
   おそらくは盗賊達のものだろう。たちこめる血臭。そして、おびただし
  い数の物言わぬ骸。(ウッ)
   その場であたしは、こみ上げる吐き気を抑えるので精一杯だった。
  「リナ、急いで引き返した方がいい」あたしを気づかいつつ言うレオン。
   ここにいては危険なことを、本能的に感じ取ったのだろう。その額には、
  冷や汗が浮いている。
   だが、あたし達が逃げるよりも早く........
  「そうは、いきませんな...」奇妙にカン高い声が聞こえた。
   その『声』は目の前にある洞窟から響いてきた。

  「...魔族」レオンがポッリとつぶやく。
   その言葉にあたしは目を見張る。
   洞窟から出てきたものは、全身が灰褐色の液体で型取られた様な人型を
  している。実際に目にしたのは初めてだが、それは正に、『魔族』としか
  形容しようがない、異形の姿だった。
   おそらく、盗賊達を皆殺しにしたのはこいつだ。
  「で、だ。なんで魔族がここにいるんだ」
   あたしを庇うような格好で剣を構え、レオンは魔族とたいじする。
  「別に、ここにいた魔道士に召還されたから、この地に現れたまでだ」
   確か、盗賊達に雇われていた魔道士は召還魔術を使うと聞いた。
  「じゃあ、オレ達とは関係ないな。失礼させてもらう」
  「そう言うわけにもいかんな、その魔道士の望みは、ここに来る敵の抹殺。
  我を偶然呼び出したはいいが、力足らずに我を支配できず、最初の犠牲者
  となった愚かな男だが、最後の願いくらいはかなえてやらんとな」
   言って笑う魔族。こいつは、自らが殺した盗賊達の恐怖では満足せず。
  今度は、あたし達の負の感情を『喰う』つもりなのだ。
   もはや、こいつとの戦いは避けられない。
  「リナ、魔族には普通の精霊魔術は効かないっ! 精神系の魔術か黒魔術
  を使えっ!」
   緊迫したレオンの声に答える変りに、あたしは呪文を唱える。
  『烈閃槍』
   同時に発動したあたしと彼の呪文が、魔族へと向かう。
   ばしゅっ! あっさり、左手の一振りで呪文を無効化させる。
  「なっ」思わず声をあげるあたし。
  「リナ、ボ〜っとしてるんじゃないっ!」レオンの叱咤の声が飛ぶ。
   しかし、その声にも焦りの色がにじんでいた。
   彼の足手まといにはなりたくないっ! その思いであたしは次の呪文
  を唱える。
   しゅんっ、あたし達に向かって繰り出されるエネルギーの固まりを、な
  んとか呪文を詠唱しながら避ける。
   あたしは、レオンに目配せをする。
  「黒妖陣」まず、レオンの呪文が裂烈する。
   魔族は、なんとかこれをかわす。
  「冥王降魔陣っ!」
   彼の呪文を避けた魔族の軌道を読んで放ったあたしの大技は、もののみ
  ごとに魔族に命中し。そして、レオンの手にした魔力剣が、その魔族をま
  ともに貫いていた。
  『やった』期せずして、あたし達の勝利を確信した声がハモる。
   そこに、一瞬の油断が生まれる。
   次の瞬間、あたしは信じられない物を見る。
   ざしゅっ! 魔力剣を腹に突き立てたまま、魔族の手が、レオンの体を
  まともに貫いていた。
  「あっ...」あたしは、その場で膝をつく。
  「ふふ、まさか人間風情にこれほどのダメージを負わされるとはな。
   だが、こ程度の魔力剣では、我にとどめをさす事はできなかった様だ
  な」
   レオン...そんな、ウソ....。
   彼は、右手に剣を持って倒れたまま動かない。
   魔族はゆっくりと、あたしの方に近づいてくる。
  「ふふ、感じるぞ、おまえの悲しみと絶望を、だが、安心するがいい、お
  まえもすぐに男の後を追わせてやる」
   今のあたしには、何も考えられなかった。もう、レオンはいない、いつ
  もあたしを助けてくれた、やさしい彼はいないんだ。
   魔族があたしに向けて、手をかざすのが見えた。その動作が、ひどくゆ
  っくりに感じられる。
  「リナっ! 何してるっ! 戦えっ!」突然のレオンの叫び。
   同時に、最後の力を振り絞り、彼は手にした魔力剣を魔族に向かって投
  げつけた。
  「ぐおっ!」魔族の苦痛のうめき声
   彼の声に、あたしは、無意識のままに呪文を口ずさみ....
  「竜破斬っ!」
   今度こそ、あたしの呪文が、魔族を無へと帰した。

   いつの間にか、雪が降っていた。辺りの気温が急激に冷え込む。
   しかし、今のあたしにはそんな事は、気にならなかった。
  「レオンっ、大丈夫? ねえ? コラッ返事しなさいよっ!」
  傷ついた彼を抱え、あたしは必死で呼びかける。もう、手の施しようが
  無いことも解っていた。まだ、微かにでも息があるのが奇蹟なのだという
  ことも.....だけど、呼びかけずにはいられなかった。
  「..リナ、よくやったな....。ケガ...無いか?」
   彼はあたしに向けて、微かに微笑んだようだ。その顔に、胸が締め付け
  られる。自分の方がよっぽど重傷なのに、あたしの心配をしている..
  「........」あたしの耳元で彼は、ある言葉を囁いた。
   その言葉に思わず涙ぐみそうになる、彼は自分が死のうとしていること
  を知っているのだ。
   そして、彼の体から力が抜けていった。
   あたしが抱える体が、どんどん冷たくなっていくのは、降る雪のせいだ
  けではない。
  「ダメ、行かないでっ! あたしが大人になるまで待っていてくれるんじ
  ゃなかったのっ! 二人で世界中を旅するんじゃないのっ、レオンっ!」
   あたしの呼びかけにも、もう、彼は答えない。
   次々と、涙が頬をつたわり、滴となって彼の顔へと落ちる。
   あたしは、そっと彼に唇を寄せた。
   あたしにとって、初めてのキスは、血と死の味がした。
   雪は一向に止む気配を見せず、あたし達の上へと降り積もる。

   〜 おまえが、大人になるまで待っててやれなくてゴメンな 〜
  
   それが、彼の最後の言葉だった。
              * * *

 リナが、あいつが泣いている.....。
「泣くな...」そう言って、肩を叩いて安心させてやりたい。
 今、オレがいなくなれば、あいつは一人になってしまう。
 それが、レオンにはとても辛い。
 一人残される孤独を、自分は誰よりも良く知っていたから。

 不意に、リナの唇の感触を感じた。自分が感じる事のできた最後の感触
だった。
 もう、体が動かないことが、もう、あいつに何もしてやれないことが、
ひどく悲しかった。

 リナは強い、そして、これからもっと強くなるだろう。それは、わかる。
だけど、誰かがついててやらなけりゃ、ダメなんだ...あいつはっ。
 『重破斬』.....あいつがあの術を唱えた時、解ったことがある。
 きっと、まだ、本人は気付いていない。だが、いずれは気付くだろう。
 リナの持つ力、あの力はあまりにも強大すぎる。そう、本来、人間が扱
うには、大きすぎる力になるかもしれない。
 強すぎる力は、さらに別の力を引き寄せるだろう.....。
 その時、あいつを、一人でいさせたくはなかった。

 (パアっ)光が弾ける様に、目の前に、ある光景が広がった。
 そこには、彼のよく知っている人間がいた。
「リナ.....」思わずつぶやく。
 ずっと一人だった彼にとって、誰よりも大切になった存在。
 ふと、そのリナは、彼の知っているリナよりも、背が高いことに気付く。
 表情もやや、大人びているし、瞳にも冷静さと知識がうかがえる。
 もう、子供ではないリナ.....
 そして、彼女は、隣にいる人物と楽しそうに笑っていた。

「ああ...」胸に安堵と、少しの悔しさが広がる。それは、彼がかなえ
られなかった未来だから。
 でも、彼女は一人ではないのだから。
「あいつを、頼む。あいつは、強いけど、あぶなっかしくて、気が短くて、
思いついたら止まらないんだ。だから、側に誰かが必要なんだ」
 聞こえないとは知りつつも、彼はリナの隣にいる存在に向かって言わず
にはおれなかった。
 
 そうして、レオンの意識は闇に飲まれていく。だが、もう、彼の最後の
心残りは消えた。もう、心配はいらない。
 最後に、リナの隣にいた人物が降り返るのが見える。
 彼は長い金の髪をしていた。



◇ エピローグ ◇

「じゃあね、レオン。あたし、もう行かなきゃ」
 気付くと、大分時間がたってしまった。そろそろ、ゼルとアメリアが心配し
ている頃である。

 もうすぐ、あたしは十七歳になる。レオンの年を追い越してしまう。
 彼の墓標に背を向けて、ゆっくりと歩き出す。七歩、八歩...十歩目の地
点で立ち止まり、降り返る。
「レオン、ありがとう」
 今の、あたしの迷いを聞いてくれて。そして、三年前に言えなかった分も込
めて、あたしは言った。
 ふと、あたしは今一番、レオンに言いたいことが何なのか気付いた。
「レオン、あたしは、行かなきゃいけない。もう、二度と、大切な仲間を失わ
ないために」
 ガウリイ....。冥王に囚われているはずの、自称保護者の姿を思い浮か
べる。彼を助けなければいけない。
「今度いつこれるか解らないけど、サイラーグから生きて帰ってこれたら、い
つか必ず、ガウリイも連れてくるから」
 言って、あたしは『浮遊』の術を唱え、その場を後にする。
 この頃になって、ようやくあたしは雪と風の冷たさを感じられる様になった。

「けっこう、降ったものね」
 村への道を急ぎながら、あたしは一人つぶやいた。
 雪はもう小降りになってはいるが、積雪は、ブーツの底が、積もった雪の中
に沈むくらいにはある。
 あたしは、ふと、こちらに向かってくる気配に気付いた。
 ん? 何か、聞き覚えのある声がするぞ。
「きゃっ、イターイ」(すてん)
 アメリアが雪の上に、けっこう盛大に尻餅をついた。
 それを、手を貸して助け起こすゼル。
「ほら、アメリア大丈夫か? 雪で滑るから気をつけろ」
「はい、でも、出てってから結構たつのにまだ戻らないなんて、ひょっとして、
リナに何かあったのかもしれないし」
「ああ、だが、おまえの足元も心配だぞ? ほら、また転びそうになる」
 再びバランスを崩したアメリアを、あわてて支えるゼルガディス。
 その様子に、ふと、あたしは数年前のレオンと自分の姿を思い浮かべた。
 
「あ〜っ、リナっ! いったい今まで何処行ってたんですか?
 私とゼルガディスさんに、さんざん心配かけてっ!」
 アメリアがあたしの姿を見つけ、駆け寄って来ながら言う。
 う〜ん、やっぱり心配かけちゃったか。まずったなぁ
 きっと、二人とも、あたしを心配して探しに来てくれたんだろう。
「もう、用事は済んだのか?」
 問うゼルに、あたしは静かにうなずいた。
「リナ......?」不意にアメリアが口ごもる。
「どうしたの? アメリア」
「ううん、何でも無い」尋ねるあたしに、かぶりを振る彼女。
(リナが一瞬、泣いている様に見えたなんて、私の気のせいだわ、きっと)
 
「じゃ、とっとと宿に戻りましょうかっ!」(ドン)
 言って、景気づけにアメリアの背中をたたく。
「リナ、ひょっとしてこの寒い中、ず〜っと外に居たの?」
 自分では気付かなかったが、すっかり冷え切っていたあたしの腕の冷たさに、
アメリアは驚きの声を上げた。
 その質問を 苦笑でごまかし、みんなで宿への道を歩きながら、あたしは、
改めて二人の仲間の顔を見る。
『じゃあオレも、何も聞かないことにするか.....』
『みんなでガウリイさんを助けに行く。それで十分じゃありませんかっ!』
 そう言って、あたしについてきてくれた二人の気持ちが、あたしには、とて
もうれしかった。
 あたしは今、一人じゃない。必ず、みんなを死なせたりはしないっ!
(大切な仲間の死、あんな思いは、もう、たくさんだった)
 そして、必ずガウリイを助け出す。
 あたしは、心の中で強く決意した。

 一瞬、レオンの顔にガウリイの顔がダブる。
 あれ、変だな? あの二人、あんま似ているとこなんてないのに?
 ふと、あたしは思い出していた。
 (くす)思わず、苦笑をもらす。そう言えば、二人ともあたしのことを子供
扱いしていたっけ。
「リナ、早くっ!」
「リナ、早くこいっ! 置いてくぞっ」
 あたしを呼ぶ二人の声がする。
「今行くわよっ!」
 答えてあたしは雪道を駆け出す。
 この村に来る前の、重かった心が、今は少しだけ軽くなった様な、あたしの
中で何かが、吹っ切れた様な気がした。

あたし達は、もう、サイラーグまであと半分ほどの距離まで来ていた。
そして、いつの間にか雪は止んでいた。


  - Fin -

****************************************************************

はいっ! 終わりです!
な、なんか、かぁ〜なり重いかも?
ちなみに、これを書いたのはSP12巻を読む前だった・・・
は、ははははは・・・・・

で、これが「ずっと・・・・」の冒頭に続いていたりします。オイオイ(^^;

次回は、ガウリナ(でもやっぱし長いけど・・・・・)をUPする予定。

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4868読みました!ちび☆ E-mail URL9/25-20:33
記事番号4777へのコメント
はじめまして、ちび☆です。

お話、読みました!
何と言うか……凄く、いいですね。どちらの話も、じーんときました!

●「ずっと・・・」
最後のゼロスとリナ達の曾孫たる娘さんの会話がお気に入りです!
なかなかいいコンビではありませんか!
……それと、お馬鹿な私は分からなかったのですが、リナがあの方に捧げた代償って何ですか?

●白い雪の中で
「ずっと・・・」の中で出てきた墓に眠る人の話ですね。
旅を始めてすぐのリナ、多少世間知らずのところがあって可愛いです!
リナに様々な事を教えてくれたレオンの回想が現在のリナの心境とシンクロしているところは、そのシーンがすんなり頭に思い描けました(感動!)。

短く拙いレスで申し訳ありません。
次作を楽しみにしています!

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4899コメントありがと! ちび☆さんMilk E-mail URL9/26-22:00
記事番号4868へのコメント
>はじめまして、ちび☆です。
Milkです。コメント、ありがとう。 感謝、感謝です。

>お話、読みました!
>何と言うか……凄く、いいですね。どちらの話も、じーんときました!
きゃ〜、じーんときたって、言っていただけて、すごく嬉しいです。
ありがとうございますっ!

>●「ずっと・・・」
>最後のゼロスとリナ達の曾孫たる娘さんの会話がお気に入りです!
>なかなかいいコンビではありませんか!
リナの血と性格が、きっぱし遺伝してたりして・・・?
ガウリイの血筋は、どこに行ったんだろう?

>リナがあの方に捧げた代償って何ですか?
ぎくっ! ぜ〜ぜ〜ぜ〜 (い、痛いところを・・・・)
え、ええと〜ご、想像にお任せします(ハート)

と、いうことは置いておいて、いや・・・本気で、これにはいろいろと
考えてみたんですけど、以下のようなとが考えられるのではない
かと・・・
1) かって、魔王と竜神が戦った神魔戦争の時代。二つの力のぶつ
かり合いによって、この世界の中心のほとんどは、消滅してしまいま
した。んで、今回、L様を召喚したことにより、この世界の歪みは、さ
らに大きくなって、リナはこれから先一生、その歪みを正すために
自分の全ての魔力を費やした。
2)リナもガウリイも、すでにマトモな人間の体ではなくなってしまった。
んで、死んだ後に、人間としての魂はまともな形で転生できるとは、
限らないし、また、来世も保証されない。
ヘタをすると、二人とも、魔族の場合と同様に肉体の寿命がくる
と同時に、魂は消滅、あるいは、混沌の海行き。と、いうこともある。

>●白い雪の中で
>「ずっと・・・」の中で出てきた墓に眠る人の話ですね。
はいっ! 実際に書いたのは、こっちのが先だったりします
しかも・・・ああ、スペシャル12巻のPB攻防戦。あれ、読む前だったんですよ、実は・・・
う〜ん、ちょっぴし(いや、ほんとにちょっとか?>自分)違和感が。
どうか、気にしないで下さいね。お願いですぅ!

>リナに様々な事を教えてくれたレオンの回想が現在のリナの心境とシンクロして
>いるところは、そのシーンがすんなり頭に思い描けました(感動!)。
違和感なく、受け取ってもらえたみたいで良かった・・・・・
(一安心)
レオンはかなり、自分でも書いててお気に入りになったキャラの一人です。
ストーリィ上は、どうしても仕方なかったけど、死なせたくは無かったです、正直言って。

>短く拙いレスで申し訳ありません。
いえいえ、レス本当に嬉しかったです。
どうも、ありがとうございました。

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4875約束の言葉1Milk E-mail URL9/26-09:40
記事番号4745へのコメント
これは、ガウリナだと胸張って言えると思ふ・・・多分・・・
あっ、直接行動に移ってる表現がほとんどないので、状況(特に5章と最終章)
深読みしていただけると、ラブラブ度がいくぶん上昇します。

これも、また、某所にUPした長いお話ですが、どうか、読んでやってください
ませ。
ちなみに、続編もあるのですが・・・・・
これは、あまりにも長すぎて、今のとこ、自分のHPにしか載せらんない状況
かも?
ううううう・・・なんとか、ならんだろうか・・・

**********************************
* 約束の言葉1 * 〜 優しい日々 〜
         Milk

「さぁーてっ! おいしい、おいしいゴハンがでっきましたっ! (ルン)」
あたしはエプロン姿に鼻歌まじりで夕食を作っていた。
うーん、われながら、なかなかいい出来だわっ! こりゃ。
ふっふっふ....ガウリイ、早く帰ってこないと、みぃーんな食べ
ちゃうからね。
(コンコン)ふいに、玄関のドアを叩く音がした。
おや? 帰ってきちゃったかぁー しかたないっ、あいつにもこの夕食をめぐん
でやるか。
「あっ、ガウリイお帰りぃー。夕飯の用意できてるわよっ!」
ドアが開き、入ってきた人影に声をかけようとして、台所から振り返り.....
 ──!!
思わず、そこにあった予想外な顔に目を見張る。
「よっ、リナ。ちょうど街でバッタリ会っちゃってさ」
「ひさしぶりだな、リナ=インバース」 「お久しぶりです、リナさん」
いつもどおりの陽気なガウリイの声に重なるようにして、あたしの知っている
2つの声が部屋の中に響いた。
2人の方も、あたしを見て、顔に複雑な表情を浮かべる。
彼等とこうして顔を合わすのは、かれこれ1年ぶりにもなるだろうか?
そこには、ルークとミリーナ二人の姿があった。

 .......とうとうきたか。あたしは、内心で小さくつぶやいていた。
 彼等があたし達に会いに来たということは、すなわち、それだけ事態が進行し
ていることを示している。
 あたし達の間の空気が、わずかに張り詰める。
「まっ、二人とも入ってメシでも食ってけよ」
あたし達の間に走った一瞬の緊張に気付いているのかいないのか......ガウリ
イは、お気楽な笑顔で言いいながら、玄関から、奥にいるあたしの方を覗き込み、
「リナ、もう、飯できてるっていったよな? さっき。
オレ、も〜腹減っちゃって腹減っちゃって」
 ふうっ。彼の言葉にため息一つつき、思わず苦笑を浮かべるあたし。
まっ、確かに、すきっ腹を抱えたままでは話もまとまらんだろう。
それに、どうやら、長い話になりそーだし..........
「はいはい、ガウリイ。じゃ、運ぶの手伝ってよ」
「オッケー。台所にあるやつだろ? おっ、こりゃあうまそうだな」
言ってさっそく、料理ののった皿を運び始めるガウリイ。
「おいっ! 今はそんな場合じゃないだろっ!
 オレ達は急ぎの話があって........」
「わかりましたリナさん。では、詳しいことは食事の後で。と、いうことで」
「...................(沈黙)」
 何やらもんくを言いかけたルークだが、ミリーナの言葉と同時に口をつぐんだ
のであった。う〜ん、相変わらずミリーナにはとことん弱いやっちゃな。
「オッケー、ミリーナ。じゃ、とびっきりの料理をご馳走するわっ!」
あたしは、笑顔にウインク1つつけて彼女に答えた。

「え〜っ! おまえの料理なんて食べられるのかっ!?」
さも、意外そ〜な声と表情で叫ぶルーク(ムッ)
そ〜いうこと言うかおまいはっ!
とりあえず、その場ではあえて彼に何にも言わずに、あたしは、ガウリイと料
理のまつ厨房へと足を向ける。
当然、ルークの先程のセリフに対する報復なんぞを考えつつ....
ふっふっふ......後で覚えてろぉ〜、やられたら10倍返しくらいは
してやんないとね(ハート)。

「こらっ、ガウリイっ! つまみ食いすんじゃないっ!」
「(ムグムグ)いーじゃないかっ、1つくらいっ!」
「だぁーっ、そー言ってる間にも、また1個食べたわねっ!
そーいうことすると、あんただけ、これから3日間料理ヌキよっ!」
ビクッ! ばたばた あたふた......
ガウリイは、あたしの言葉にまともに顔色を変え、皿からつまんで食べかけて
いたスズキのパイ包みの一欠けを、あわててポケットに隠していたりする。
おひ....ポケットからこぼれてるぞ.....パイ生地。後でおまいが床掃除しろよ。
ひたすらテーブルに料理を運ぶガウリイと、台所に引っ込んで盛りつけをして
いるあたしの姿を、すでにテーブルについているルークはあきれた顔をしながら、
ミリーナは複雑な表情を浮かべたまま眺めていた。

◇◇◇◇◇◇

 あたしの隣では、さかんにガウリイが、ナイフとフォークと口とを同時に動か
している。
「どう、ミリーナ?」
「とてもおいしいです。リナさんってずいぶんと料理上手だったんですね」
「だろ? オレも正直言って、初めて知った時はずいぶんと驚いたもんだが」
ミリーナに続いてガウリイもあたしの料理を誉めちぎる。
ふふふんっ! (得意っ!)
こ〜見えてもこのリナ=インバース、姉ちゃんにみっちり仕込まれたおかげで、
家事は万能なのだっ! しかも、この1年の間に、料理の腕も、洗濯や家計のやり
繰りに、八百屋や魚屋での値切り方にいたる部分まで、さらに磨きがかかってい
る。
 魔導士辞めても、明日からだって家政婦で食っていけるぞ。
 まあ、人に仕えて、頭下げることも必要な仕事は........あたしにゃあ到底続
けられんが。
「おい......」
 あ〜あぁ。どっかで恨みがましい声と視線がするなあぁ〜 どこだろぉ〜?
「ガウリイ、このサラダまだ、台所に残ってるから追加持ってきて」
「おしっ」早速、席を立つガウリイ。
「おい」
「ミリーナ、このスープもなかなかいけるわよ。遠慮しないで食べてね(ハート)」
「あら、本当に。でも、普通のムールスープじゃなみたいですね、これ」
 おおっ! さすがはミリーナっ! この微妙な隠し味に気付くとはっ!
 せっかく腕によりをかけて作っても、ガウリイじゃあそんなことはまったく気
付いてくんないもんな〜。(ちょっとものたんない)
「まぁ〜ね。ちょっとした秘密があんのよ」
「おいっ! リナ=インバースっ!」
「ほら、リナ。サラダの追加持ってきたぞ」
 言って、ガウリイはボールに山盛りのサラダをテーブルに置く。
「ありがとガウリイ。まだまだ料理はたっぷりあるかんね」
「おうっ! 食べるぞっ!」
 夕食のテーブルを囲んで、あたし達は幸せそのものの食事タイムを過ごしてい
た。
......唯一人、ルークを除いて......
「だぁああああああっ! 無視すんなぁぁぁあああっ!」
 あっ、とうとうルークが切れた。
「なんで、オレだけテーブル追ん出されて、こんな場所なんだよっ!」
「仕方ないでしょ、席がちょうど3つしかなくなっちゃったんだから」
 さらりと言ってやる。
そう、ルークは今、あたし達から離れた、光も満足に届かない部屋の隅の床の
上に、ゴザ1枚で座らせられているのだ。(しかも、即席木箱テーブル)
「なくなった............って、あんたが、いきなし呪文で、元々4つあった椅
子の一つを粉砕したんだろーがっ!」
「人聞きの悪い。ちょっと口が滑って、『振動弾(ダムブラス)』の呪文が出ちゃった
だけじゃない。よくある、不可抗力ってやつよ(ハート)。
それに、この家の居住権はあたしとガウリイにあるんだし、まさか、あなたは
ミリーナにそこに座れ。なんて言わないでしょ?
だったら、当然、そこはルークの指定席に決定よっ!」 笑顔で彼に答える。
ちなみに、ミリーナは無反応。ガウリイは時々、気の毒そ〜にルークの方をチ
ラリと見てはいるが..........あえて何も言わず、食事に専念していた。
「なっ......ど〜いう理屈だっ、それはっ!
 それにっ! オレの夕食っ! 皿とフォークとナイフの他に、なんで、油と水と
塩とコショウしか出されてないんだよっ!」
「だって、あなた、あたしの作った料理なんて食べたくないんでしょ?」
あたしは思いっきり、意地の悪い笑みを浮かべて言う。
「ぐっ.....お、おまえ、ひょっとして、かなり根にもってるのか....?」
「べぇ〜つにぃ〜、ああ、このシチューはおいしいな(ハート)」
わざとらしく、いい匂いのするシチューをルークの方にチラリと見せつける。
「おい.....リナ、そこまでやるか.....おまえ」
あきれたようなガウリイの声は、このさい無視。
ふっ、このあたしの料理をけなした報いよっ!
さ〜て、ど〜する? ルークくぅん?
しばし、あたしの勝ち誇った瞳と、心底『何か』に耐えて拳をにぎりしめてい
るルークの視線とがぶつかり合い、
そして.....
その後、素直に謝ったルークに気を良くしたしたあたしは、彼にも夕食をめぐ
んでやることにしたのであった。
ああっ、我ながら心が広いなぁ〜
うーん、やはり、目の前にあるご馳走と空腹、そして、ミリーナと同じテーブ
ルにつくという誘惑には勝てなかったか。
「なんで、コイツが作ったモンがこんなにうまいんだよぉおっ!
 チクショオオォォォォォオオっ!」
悔しそうな表情で、それでも食事をがっついているルークを、ガウリイはしみ
じみとした同情の目で見ていた。

  ◇◇◇◇◇◇

「ほい、ミリーナ」
「どうもありがとうございます」
ハーブティを渡したあたしに、礼を言って受け取るミリーナ。
彼女はコクリと一口お茶を飲み、そして、しばしの沈黙が部屋の中に落ちた。
 ちなみに、居間にいるのはあたし達二人だけである。
男性陣は、まだ、食堂のテーブルで、酒を飲みながら、
「うおぉぉぉっ! いったい、オレの愛はいつになったら届くんだぁああっ!
 シクシクシク......」
「......おまえはまだいいじゃないか、ルーク......
 リナのやつなんて、最近、ちっともオレの言うこと聞いてくんないんだぜ....
 オレっていったい、何なんだろ......? とか、時々思うぞ.....本気で....」
「だぁぁああっ! ミっ、リィイイーーナァァアアっ! うおおおっ!」
「ふうっ......オレ、どこで人生踏み外したんだろ....」
 などなどのうっとーしい会話を、えんえんと繰り広げている。
 なんか、この会話の内容って、ロクでもない上に、聞いてるこっちが悲しくな
るよ〜な? まあいい、それはさておき。
 食堂から聞こえてくる、酔っ払い二人の会話は無視して、あたしはミリーナの
方へと向き直り、
「でも、話しからすると、どうやらずいぶんと大変な展開になってきたみたいね」
「ええ.......」
「とりあえず、急がないと」
 あたし自身も紅茶を一口すすり、厳しい瞳で宙を見据えながらつぶやく。
 それほど、食事の後で、ルークとミリーナの二人が告げた会話の内容は、とこ
とん大ごとだった。
 対応は早いに超したことはないだろう....... ん?
 考え込んでいたあたしはふいに、こちらをみつめるミリーナの視線に気付いた。
 何だろ? あたしと目が合った時、一瞬、目を伏せたような気が?
「どしたの、ミリーナ?」
「確かに、事態は急を要するでしょう。ですが.........」
「ですが、何? 」おうむ返しに尋ねる。
「........本当に、明日の出発でいいんですか?」
「だって、急がなきゃ、それだけ事が悪化するだけじゃない」
「それで、あなたは後悔しないの?」
 ───!! それは........
「しないわ。あたしの辞書に、そんな言葉なんてないもの」
 きっぱりと答える。それでも、表情がやや固いものになってしまったが.....
 再び、部屋に満ちるしばしの沈黙の時。
 そして──
 ミリーナは、小さな苦笑を浮かべながら口を開く、
「今日、一年ぶりにあなた達に会って........正直、驚きました」
「驚く?」
「ええ......あなたがあんなに、エプロン姿が似合うとは思わなかったし、あ
の料理もとてもおいしかったです。
 それに何より........お二人とも、変わりましたね、とても自然で.....」
 あたしを見つめるその瞳は、とても優しかった。
「................」
 あたしはただ、無言のまま、ミリーナの言葉に耳を傾ける。
「さっき、リナさんは『後悔しない』と言いましたね。でも、わたしは、少しだ
け、ここに来たことを後悔しています。
 ......わたし達は、あなた達二人の日常を壊しにきたんじゃないか。って....
 それと、これから先のことは、よく、考えてから決めて下さい。
 迷いや未練があるようでは、とても、勝てる戦いではありませんし」
 .....................
 そっか.....ミリーナは気付いてたんだ。だが......あたしは、逃げない。
「何言ってんのよっ! このまま魔族達の好きにさせてたら、それこそ、世界が
どうなるかっ!
 もしそんなことになったら、のんきに盗賊いぢめもしてらんないし、お宝あさ
りも出来ないし、世界の名物食べ歩きっ! も、出来なくなっちゃうじゃない」
 わざと明るい声で言いつつ、景気づけに、ミリーナの肩をポンと叩く。
「なんだか、あなたならではのセリフですね。それって.......」
「ま、ね」
 苦笑混じりの笑顔で言うミリーナ。そんな彼女に、あたしも、笑顔で答えた。
「じゃ、ミリーナ。話しはまとまった所で、今夜は、あたし達の方も少し飲みま
しょっか? たまには、女二人で飲むのもいいもんでしょ?」
「そうですね」
 そうと決まれば話しは早い。あたしは早速、台所に行って、ワインとグラスを
取ってきた。
(ガウリイが飲むのを楽しみにしていた、とっておきの一品であるが......
 ま、いっか)
 時には飲みたい夜もある..........

                 ◇◇◇◇◇

「よおリナ、そろそろ寝ないか? 明日は出発するんだろ?
 だったら、いろいろ準備とかもしなきゃならんし........」
「おーい、オレは何処で寝ればいいんだ?」
 いったい、いつきていたのか? 居間の入り口にはガウリイとルーク二人の姿
があった。
「あ〜い、ガウリイ。あっ、ミリーら、部屋に案内すっから、ちょっろついれき
て。ほ〜ほ〜、ルーク、あんたはこの部屋のソファれれも寝ててねぇ〜」
「おいおい、リナ、大丈夫か? おまえ、あんま酒に強くないのに、こんなに飲
んで..........」あきれた口調で、ガウリイ。
 彼の足元には、ワインの瓶が数本、すっかり空になって転がっていたりする。
 も〜、大丈夫らってぇ〜 あたしは彼にハタハタ手を振って見せる。
「へ〜き、へ〜き、はら、行こ。ミリーナ」
 (コクリ)あたしの言葉に頷きながら、おとなしく後をついてくるミリーナ。
 始めて見たが、彼女は酔うと口数がさらに少なくなり、今のレベルまで飲むと、
もう、完全に、首を振る程度の意志表示しかしなくなる。
「こっちらよ、ミリーナ」 (コクリ)
「あっ、かいらん気ぉつけてね」 (コクコク)
「ミリーらはも〜ねる? それろも、まら飲む?」 (プルプル)
 う〜ん、ちょっと、おもしろいかも。

「この部屋使ってれ、それじゃ〜」
「まって下さい.........リナさん」
 2階の客間まで案内し、その場を後にしようとして──唐突に、それまで無言
を通していたミリーナの声がかかった。 はにゃ、何らろ?
「.........大切なら.........時には、素直にならないと......
 言わなければ、伝わらないこともありますよ」
 ──!! (トクン)心臓が跳ねる。 酔いが引いてゆく......... 
「わかって......は、いるわ。じゃあ、ね、おやすみ」
 そのまま、彼女から背を向けて歩き出す。
「おやすみさない。リナさん」
 ミリーナの声と視線とを背中に感じた。
 だが..........あたしは振り返ることなく歩いて行く。
 やがて、(パタン)背後で、ドアの閉まる小さく固い音が、廊下に響いて消え
ていった....

 ふうっ、知らず小さなため息が漏れる。
 あたしは、予備の毛布片手に、再び階下に降りて行った。
 なんでオレ一人だけこんなソファで......などと、ぐちぐち言っているルー
クに、部屋が無いから諦めろ。ミリーナをソファに寝かせるよりはいいだろう。
と、説得して、強引に毛布を押し付ける。
 彼は、しぶしぶながら、ソファに横になり......そのまま、あっという間に眠
ってしまった。(それだけ寝付きがいいならブチブチ言うなよ........おまひ)
「じゃあ、リナ、オレ達もそろそろ寝ようぜ」
 ガウリイは、あたしの方に顔を向けつつ言ってくる。
「うん、でも、あたしはちょっと酔いを覚ましたいから.......お風呂でも入っ
てから寝るわ。あなたは先に寝てて」
「ああわかった」
「おやすみ........」
 ガウリイも居間から出て行く。さて、あたしは..........
 先の言葉は心の中で小さくつぶやき、あたしも、居間を後にする。
「ムニャ、ムニャ........ミリィーナぁあ.......」
 今夜に限っては、ひたすらノー天気な寝言をほざいているルークのことが、心
底うらやましく思えた。ああ......こいつって......悩みが単純でいいなぁ〜

 熱いお湯につかって汗を流し、自分の部屋に戻ってくると、そこにはガウリイ
が待っていた。
「あれ? あなたはもう寝たんじゃ?」怪訝な顔で問いかけるあたし。
 ガウリイは、口元にわずかな苦笑を浮かべつつ、ゆっくりと近づいてきて....
 そのまま、あたしの頭を自分の胸にかるく押し付けた。
「なっ、なな、いきなし何すんのよガウリイっ!」
「おまえ........何、悩んでんだ?」
 一瞬、ハッとした。ああ..........  やっぱり、彼にもばれてた、か.....
「何でもない。って言っても、通じないわよね」
「あたりまえだろ。ほら、言ってみろよ。とことん聞いてやるから」
「ん.........」
 そ、だね.......確かに、あたし一人の問題じゃない..........
 あたしは......ゆっくりと、口を開く──

 夜の闇の中、ふと、今日のミリーナの言葉が、脳裏に浮かんで消えていった。

                 ◇◇◇◇◇

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4876約束の言葉2Milk E-mail URL9/26-09:42
記事番号4875へのコメント
この章から、いきなし重くなったりして・・・・

***********************************

    * 約束の言葉2 *         〜 優しい日々 〜
                        Milk

             ── 1年前 ──

『こっ、降魔戦争の再現んんんんっ!』
 あたしとルークの絶叫が、街道に響きわたる。
 ついさっき、お久しぶりっ! に再開した竜族の長老ミルガズィアさんから、い
きなし聞かされた話しの内容は、それほどとんでもないものだったのだ。
 叫びこそしなかったが、ルークの隣にいるミリーナも、一気に表情をこわばらせ
ている。
 ただ一人........ガウリイだけは、平然と(ぼ〜っと)しているが......
(そもそも、『降魔戦争』なんて、文字数の多い出来事覚えているんだろうか?
こひつ)
「声が大きいぞ」
 あたし達をたしなめるミルガズィアさん。
 だぁあああっ平静な顔で言うなぁあっ! これで騒がず、いつ騒ぐぅぅうっ!
 (ぜ〜、ぜ〜)
 だが.......確かに、これは、そうそううかつに他の人間に知らせられるような
内容ではない。
「それは........本当なの?」
 あたしの、問いに、ミルガズイアさんは静かにうなずいた。
 
 暖かい日差しが降り注ぐ真っ昼間なのに.........一筋の冷たい汗が、あたしの
頬を流れ落ちる。
 ──『降魔戦争』──
 今から約1000年前.......冥王(ヘルマスター)フィブリゾが引き起こした戦い。
 それは、魔族達と、神族だけでなく、人間や竜族やエルフ族などの、この世界に
生きる全ての者達をも巻き込んだものであったと言う。
 その中で目覚めた、7つに分かたれた魔王のカケラの内の一つは、水竜王を滅ぼ
し、今なお、北のカタート山脈の氷の結界の中で動きは封じられているものの、こ
の世界の、魔族達の頂点に君臨しているという........
 それが、今再び、今度は覇王(ダイナスト)の手によって引き起こされようとしてい
る?
「とりあえず、ここ(街道沿い)じゃあ何だから.........
 もっと......そうね、何処か落ち着ける場所を探して......
 詳しい話しはそれから。って、ことでいいですか?」
 あたりに素早く視線を走らせ、次いで、ミルガズィアさんに目で小さく合図する。
 この場所では、万が一、誰かに聞かれる心配もある。
「よかろう」彼は、一つ、小さくうなずく。
 (隣にいるエルフのメフィさんは、ロコツに不満そうな顔をしたけど)
「じゃあ、みんなもそれでいいわね?」
 今度は、仲間達を見回す。
 あたしと視線が合うと、彼等は、いっせいにうなずいた。

 どうやらすでに、あたし達は引き返せない所まできてしまったようだ。

                 ◇◇◇◇◇

「で、だ...... これからどうするんだ?」
 ルークが、テーブルについたあたし達に問いを投げかける。
 ある宿屋の一室でのこと。ミルガズィアさんから、現在解っている状況と情報と
を一通り説明してもらった後、あたし達人間組みは、一旦、彼等と別れて遅いお昼
ご飯を住ませ、そのまま、2階に部屋を取り作戦会議を開いているのだ。
「.................」
「おいっ! 聞いてんのかっ!? リナ=インバース」
「えっ、あわわっ? 一応、聞いてはいたわよルーク」
「その『一応』って何だよ........
 おまえなあ! 『あんな話し』を聞かされた後で、よく、ボケてられるよなっ!
 ひょっとして、頭の中味が、ガウリイの奴に似てきたんじゃないのか?」
 うるさいっ! ヤなこと言うなぁああああっ!
 ついさっきまで、多少の考え事してたから、ちょっと対応が遅れただけじゃない
かっ!
 ふうっ。あたしは、小さなため息一つつき........みんなを見回す。
「とりあえず.........あたしは、動かないわ。今はね」
「なっ!」 
 あたしの言葉に、気色ばむルーク。ミリーナは、真剣な表情のままこちらを伺っ
ている。
 そして.......ガウリイは、腕を組んだまま、あたしの隣で沈黙を続けていた。
「どうしてだよっ! 早く手を打たないと、取り替えしのつかないことになっちま
うじゃねえかっ!」
 ルークが席を立ち、あたしの胸ぐらを掴みかねない勢いで抗議する。
 その肩を、不意に誰かが掴む。
「ガウリイ、何だよっ!?」
「落ち着けよ、ルーク。
 まあ、オレにはいまいち何が起っているかはよく解らんが........それでも、今、
何かやばいことが起っている。と、いうことは理解できた」
「じゃあっ!」
 今度はガウリイにつめよるルーク。しかし、ガウリイは、彼ではなく、あたしの
方へと顔を向け、
「でも、リナは、何か考えあるんだろ?
 そうじゃなきゃ、いつも真っ先に動くおまえさんらしくないもんな」
 !! ルークは、その言葉に弾かれたような表情をし──
 しばし、あたしとガウリイの顔とを交互に見つめた後、
「ちっ!」
 小さく一つ舌打ちして、おとなしく自分の席についた。
 場が静まりかえる。みんなの視線が、一斉に集中する中──
 あたしはゆっくりと、自分の考えを語り出した。

               ◇◇◇◇◇

「じゃ、気を付けてね二人とも」
 あたしとガウリイは家の前に並んで、ルーク&ミリーナの出発を見送っていた。
 これから、あたし達は、彼等二人からの連絡をこの家で待つことになるだろう。
「ええ、リナさん、ガウリイさんの方こそお元気で」
「まっ、こいつに付き合うのは大変だと思うが、耐えろよガウリイ」
 おいっ! 人を指差していらんこと言うなっ!
「ミリーナ、多分、ルークを連れてるのは恥ずかしいとは思うけど.......
 がんばってね(ハート) ど〜しても我慢出来なくなったら、道端に捨ててきて
もいいから(あたしが許すっ!)」
「おい、おまえっ!」
「出来るだけ努力してみます。リナさん」
「シクシク.........ミリーナぁ」
 冷静に答えたミリーナに、ルークは涙をあふれさせたのであった。

 あれから........
 あたし達は、各国を回って魔族達の動向を探るチームと、一箇所にとどまって、
ミルガズィアさん達と連絡をとるチームとに、パーティを分けることにしたのだ。
 
 ミルガズィアさんは、実際に『降魔戦争』を体験し、生き残っている数少ない存
在だ。だから、魔族達の動きから『何か』を一早く気付くかもしれない。
 また、竜族やエルフ族がどう動くかも気になる...........
 それらの情報をえるために、彼に、自分達の居場所、もしくは連絡方法を明確に
しておく必要がある。と、あたしは主張したのだ。
 それに、例え、魔族達の動きを掴めたとしても、今のままのあたし達では、高位
魔族に対する決定的な手段がない。
 まだ、あちら側には、シェーラを超える力を持った超強力な存在が、現在、4匹
は確実に、元気に動き回っているのだ..........
 ここらで、こちとしても少しでもパワーアップしておく必要がある。
 そのための、時間が欲しい.........
 そして........
 この間から、心の隅に引っかかり続けている、シェーラが最後に浮かべた『笑
み』魔族達の狙いが本当に『降魔戦争の再現』ならば、あの『笑み』の意味はいっ
たい?
 それとも、まだ、1000年前の降魔戦争について.......あたし達が知らない
ことでもあるのだろうか?
 誰にも言ってないが──あたしは、そのことを調べるためにも、ここに止まる必
要があったのだ。

 あたしとガウリイが見守る中で、旅立つルークとミリーナ二人の背中はしだいに
小さくなり..........やがて、消えて行った──
 あたしは、くるりと、隣にいるガウリイの方へと振り返り、
「じゃあ、ガウリイ。あたしもちょっと出かけてくるわ」
「へ? おい、どこ行くんだよリナ?」
「まっ、詳しいことは帰ってきてから話すから。と、言うことで『翔封界っ!』」
「おい、待てっ!」 (ガシッ!)
「うわぁあっ、ガウリイっ! いきなしヘンなトコ掴むなぁああ〜」
 風の結界の中に乱入してきたガウリイに、思わず蹴りをかます。
「こっ、こら、リナ止めろっ! 落ちるるうううううううううっ!」
 ありゃ? つい、足でゲシゲシやっちゃったけど......よく考えると、もうここ
はお空の上だわ。
 しかも、この高速飛行中に落とされたとしたら........
 ガウリイは、まともに顔が引きつっていたりする。
「あっ、あはは........ごめんねガウリイ。
 ここは一つ、素直に落とされてちょうだい(ハート)」
「嫌だぁああっ!」
 かくして、ガウリイはますます力を入れて、こちらにしがみついてきたのであっ
た。(ちょっと待てぇええ! その手を離せっ!)

「で.......何で、あんたはついてきたのよ......」
 腰にしがみついてるガウリイに(こいつは器用に空中で、あたしにしがみつく位
置を変更したのだ)ジト目を向けながら尋ねるあたし。
「あのなあっ! おまえを野放しにしたら、世間様に迷惑だろうが」
「ど〜いう意味よっ!」
「今までの自分の行動、振り返ってみろっ!」
「う゛っ..........」
 そ、そ〜きたか。
「な、何よ........その、『自分の行動』すらまともに覚えてないあんたに、言わ
れたくないわよっ!」
「オレは少なくとも、おまえが、目を離したスキにトラブル起しまくることだけは、
きっと、一生忘れね〜ぞ」
 .........ああ.......な、なんか、こいつに『一生忘れない』とまで断言さ
れてしまうのって.......お、思いっきし悲ひい...........
「わ、わかったわよ.....ついてきたければ、勝手についてくればいいじゃない」
 ふんっ! 言って、あたしはそっぽを向いた。
 別に、ガウリイを連れてってもいいんだけど......う〜ん、なんかややこしく
なりそ〜な気がするなあ。

                ◇◇◇◇◇

 あたし達が、ミリーナ達を待つの家のわりかし近くには、実は、エルフの隠れ里
があったりする。
 この前、ミルガズィアさんが別れ際に、あたしにだけコッソリとその場所につい
て教えてくれたのだ。
 見えたっ! 背の高い森の木々に隠れるようにして、その村はあった。
 シュタリ。村の中央、広場のような場所に、あたし達二人は着地する。
 ザワザワザワ.........エルフ達の、好奇と怪訝そうな、そして、微かな憎しみ
混じりの視線が集まる。
 無理もないか........彼等がこんな山奥に、隠れるようにして住まなきゃならな
くなった原因は、あたし達人間の方にあるのだから。
 そんな、あたしの内心を知ってか知らずかガウリイは、
「よっ、こんちは」
 などと、片手を上げて、気楽に挨拶なんぞしてるけど.......
「人間達が、この村に何の用だ」
 見た目、中年男性程度(実年齢はおそらく300歳以上)の男エルフが、あたし
に尋ねてくる。
「いやあ、オレは何となくリナについてきただけだが.......」
「今、この村に、黄金竜の長老、ミルガズィアさんがいらっしゃると聞きました
が?」ガウリイのセリフは無視して告げる。
 ──!! ざわざわざわ
 あたしの言葉に、まともに顔色を変える、その場にいるエルフ達。
「なっ、竜族の長老とどういう関係だ.........おまえは?」
「詳しいことは、ここでは言えません。
 ただ、彼にリナ=インバースが来た。と、言っていただければ、全てご理解いた
だけるはずです」
「わ、解った。少しそこで待っていろ」
 そう言い残し、多少慌てながら、始めにあたしに言葉をかけた男が、広場から走
り去って行った。
 後に残された何人かのエルフ達も、皆、けげんそうな表情であたし達を見ながら、
遠巻きにしている。
 (つん、つん)おや?
 袖を引かれて振り返って見ると、ガウリイの物問いたげな視線とぶつかった。
 その顔にはハッキシと、『いったいど〜なってんだ?』と書いてある。
 あたしは、ニヤリと笑みを浮かべて、
「まあまあガウリイ。多分、も〜すぐ状況がハッキシするから.....それまで、待
っててよ」
「でもなぁ、何だか雰囲気悪いぜ、ここ。
 それに、オレ達はあんま歓迎されとらんみたいだし.......」
「そうね。エルフ達の中には人間を憎んでいる者も多いから........
 最悪、人間なんて誰それの仇だっ!とか叫んで襲ってくる可能性もあるわね」
 (ふうっ)おや?
 彼は、あっさり答えたあたしの言葉に、わざとらしくため息なんぞを付きつつ、
片手で頭を押さえながら、
「そ〜いうことが解ってて、あえて、こんなトコにくるとは.........
 おまえさんって、つくずくトラブルが好きなんだな」
「もう! そんなに心配しなくても大丈夫よっ!
 あくまでそれは、『最悪』の場合のことなんだからっ!」
「いいや、そ〜も言っておれんよ〜だぞ」
 えっ!? シャッシャシャシャ!!
 見えない『何か』が、あたしのすぐ横を通り過ぎる。
 これは、風の刃! 『風牙斬(ブラムファング)』の術っ!
「ふぅ〜ん、そ〜くるわけね」トーンを下げた声でつぶやく。
 あたしの隣ではすでに、ガウリイが剣を抜きはなっている。
「人間なんてこの村から出て行けっ!」
「そうだっ! おまえ達のような野蛮な生き物が、この村に入ることは許されない
っ!」
 どこからか声が上がり、それに続く、そーだ、そーだの合唱が聞こえる。
「おい、どうするリナ? ここで騒ぎを起しちゃまずいんだろ?」
 小声でボソボソ言ってくるガウリイに、やはし小声で、
「ええ、もし、そ〜なったらこの先、ややこしくなることは確実だから.......
 ギリギリまで何とかしてみるわ。それでダメなら........」
「ダメなら、何だ?」
「実力行使あるのみよっ!」
「やっぱりな.........そ〜言うと思ったよ.....」
 呆れた口調で、ガウリイはつぶやいた。
 あたしは、こちらを見つめるエルフ達を正面から見つめ返して、口を開く。
「あのねえっ! 人のこと『野蛮』だの何だの言ってくれるけど......
 こうやってイキナシ、攻撃呪文をぶちかますそっちは、野蛮じゃないとでも言う
わけ?
 そもそも、あたし達がまだ何もしないうちから、ただ、『人間』である。ってい
う理由だけで、どうこう言われる筋合いなんてないわ」
『なっ! 何だと』
 痛い所をつかれて、言葉につまるエルフ達。
 ふん、悔しかったら言い返してみろっ!
「おい、リナ.......それって、逆効果なんじゃ........
 お〜いおまえら、一つ忠告しておくけど、リナには逆らわん方がいいぞぉ〜」
 うるさいっ! ガウリイはしゃべらんでよろしいっ!
 険悪なムードが広場に満ちる。
 だが、まだ、誰も襲ってこないのは........あたしとガウリイが放つ、気に押さ
れているからだ。しかし、それもいつまで持つか.........
 あたしにした所で、人間よりも遥かに魔力に優るエルフ達相手に、呪文合戦なん
てしたくないんだけどなぁ〜。しゃ〜ない。手持ちの切り札を出すか。
 あたしは、一歩、エルフ達の方へと進み、わざとあっけらかんとした口調で、
「この村に、メフィさん。って言う人がいるでしょ?」
「ど、どこでその名前を........?」
 いきなり、あたしの口から出た名前に驚き、誰かが尋ねてくる。
 おしっ! こっちの話に関心を示したっ。 後は、話の持って行き方しだいっ!
「う〜ん、ついこの前、彼女がミルガズィアさんと一緒に行動してる時に、あたし
達は会ってんのよね。
 それだけじゃない、あたし達はそこで、ミルガズィアさんにいろんな話を聞いた
わ........そう、今、おそらく魔族が企んでいるだろうこともね」
『!!』 今度こそ完全に──エルフ達が目を見開く。
 その顔に浮かんでいるのは驚愕の表情だ。
「う、嘘を言うな.......」掠れた声が、何処かから聞こえる。
「嘘だと思うなら、ミルガズィアさん本人か、もしくは、メフィさんに聞いてみれ
ばいいじゃない。
 言っておくけど、あたしは、竜族の長老に用があってこの村に来た。
 それを、あんた達エルフが事情も聞かずに無理やり追い出す........って、言う
のは、ちょっちまずいんじゃないかな? って、思ってね.......」
 肩をすくめつつ言ってやる。
 先程までの殺気が嘘のようにひいて行く──
 変わりに、どの顔も皆、とまどいの表情でこちらを見ている。
 彼等にも解るのだろう、今、魔族達が何やら企んでいるこの時期に、協力者であ
る竜族の長老と、ゴタゴタを起すのはまずいことが。
 それを知っていながら、あえて、あたし達に襲いかかってくるよ〜な奴は、まず
いまい。
 ふうっ、これでどうやら、この場でのゴタゴタは回避できそ〜である。
「まっ、ガウリイ。ざっとこんなもんよ」
 隣にいる、自称保護者の肩に手を置きながら、あたしは笑顔で言った。

                ◇◇◇◇◇

「来たか.......人間の娘よ」
 不意に、人(エルフ)垣の向こうから、聞き覚えのある声がした。
 この声は?
「ああっ、あんたは!」 
「........はい、あたしは来ました。ミルガズィアさん」
 あたしとガウリイは、こちらに近づいてくる彼の姿を見て、同時に口を開いてい
た。
 あたしとミルガズィアさんの静かな視線が、一瞬だけ、交錯する。
「どうしても、確かめたいことがあるんです」
 彼の顔を正面から見つめて言う。
「ついて来るがいい」
 くるりと背を向けて歩き出した彼の背中を追って、あたしと、とまどい顔のガウ
リイが後に続いた。

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4877約束の言葉3Milk E-mail URL9/26-09:43
記事番号4876へのコメント
    * 約束の言葉3 *      〜 優しい日々 〜
                        Milk

 ── 異界黙示録(クレアバイブル) ──
 数々の異界の知識が書かれている(と、世間一般では言われてる)魔道書。
 しかし、実際は、ちょっと違っているよ〜な気がする。
 以上、説明終りっ!

               ◇◇◇◇◇

「本当にここにも、『異界黙示録』に通じる『道』があるんですか?」
「そうだ.....」
 あたしの手を引きながら答えてくるミルガズィアさん。
 かってと同じように、あたしは、彼に歪んだ空間の中を案内されていた。
 ──『異界黙示録』のオリジナルの元へと──

「でも、本当に、エルフや竜族は、『異界黙示録』の力を使うんですか?」
「.......仕方あるまい。そなたも知っているだろう?
 魔族の力はあまりにも強力だ...........」
 でも.........それでいいのだろうか? ──本当に──
 これから、異界黙示録を使いに行くあたしも、ハッキシ言って、人のことなどど
〜こ言えた義理は全くないのだが......... 
 しかし.........
 かって、ゼロスはあたしに、写本の処分をしている彼が、異界黙示録のオリジナ
ルの方を処分しない理由を、
『竜達は、異界黙示録の魔道技術を利用しようとはしないから、わざわざケンカを
売ってまで、あえてどうこうする必要はない』と聞いた。
 だが、もし、竜族がその力を利用する気になったとしたら.........
 いいや止めよう。あたしはかぶりを振る。
 ミルガズィアさんは.......きっと、解っている.......
 これは、その上での決断だ。
 だから、あたしが口を挟む問題じゃない。
 
「着いたぞ」
 ミルガズィアさんの言葉に、思考を中断して前を見る。
 何もない空間──だが、そこには、確かに『異界黙示録(クレアバイブル)』が存在して
いることが解る。
「ありがとうございます。ミルガズィアさん。
 でも.........エルフの村の人達の反対を押し切って、どうして、人間のあたし
をここに案内してくれたんですか?」
 あの日、エルフのメフィさんと共に現れたミルガズィアさんは、魔族達の企みを
阻止するために、竜族とエルフ族が手を組んだことを話してくれた。
 そして──あたしにだけ、教えてくれた内容があるのだ。
 エルフ達の隠れ里のこと。そこには、かって、竜の峰(ドラゴンズピーク)にあった物
と同様に、あの『異界黙示録』へと至る道が存在していること。
 彼等が、その力を使い、魔族達に対抗しようとしていることも........
 人間達を嫌っていた村のエルフ達は、当然、あたしが『異界黙示録』に触れるこ
とにいい顔をしなかった。
 だが、ミルガズィアさんが『全て、自分が責任を持つ』と保証してくれたため、
あたしはこうして、ここに来ることが出来たのだ。
「................」
 彼は、あたしの問いにしばし瞑目し、やがて、ゆっくりと口を開く、
「今、世界では『何か』が起きようとしている..........」
 あたしは、無言のままコクリとうなずいた。そう、それは間違いないだろう。
「確かに、人間は........我ら竜族に比べれば肉体の強靭さ、生命力に劣り、エル
フ族に比べれば、魔力に劣る、短い命の生き物だ.........
 だが......おまえは.......ゼロスの実力を知ってなお、抵抗することを諦めなか
った.........ガーヴとも恐れず戦った。
 そして、あの、冥王フィブリゾにすら負けることは無かった。
 わたしは、おまえのその力を信じてみたいのだ」
 いや......あのぉ〜確かに、やつら(魔族)に負ける気なんて全然ないけど、そ
こまで、入れ込んでもらうとちょっと.......
 特に、冥王なんて、あっちのポカでお亡くなりあそばしたよ〜なもんだし....
「まあ、出来るだけご期待に添えるよう、努力はするけど.......
 これからあたしが『異界黙示録』に聞きたいことが、必ずしも、あなた達の役に
立つこととは限らないとしたら?」
「いいや、それでも構わんよ。
 魔族が動き出したこの時期、その中心となっている覇王の将軍シェーラを、そな
た達は倒した。
 わたしには、それが、これから先、意味のあることに感じるのだ。
 そなたの存在が、成したことが、これから何をもたらすのか.........
 それを見届けるためにも、そなたには、必要な知識は全て与えておいた方が良い
と、判断したまでだ」
 なるほど.......それだけ、見込まれてる。って、ことか.......
 自然と、顔に笑みが浮かぶ。挑戦的な笑みが──
「わかったわ」
 言って、あたしは、異界黙示録の方へと向き直り、それに触れ──
 ── 心の中で、問いを投げかけた ──

               ◇◇ 余談 ◇◇  
   あたしが、異界黙示録の所から帰ってくると、ガウリイはノンキにお昼寝の
  真っ最中だった。
  (コラアっ! 人がさんざん苦労してんのに、くつろぎきってるんじゃない
  っ!)
   目覚まし代わりに、ついつい、攻撃呪文の一つもぶちかました所、心の狭い
  エルフ達は、あわてて飛び出してきて──
  『ほら見たことか、人間など、野蛮きわまりない』(ムカっ!)だの、
  『こんな凶悪な人間には、貴重な異界黙示録に触れさせるわけにはいかない
  っ!』(ムカムカ)だの、etc,etc.......... と、散々言ってくれた。
   う〜ん、つい、思わず、ええぇぇぇぇぇ〜〜いっ! うるさぁ〜いっ!
  とか、怒鳴りそ〜になったのだが......
  (いいじゃないか、ガウリイなんだから別に.......いつものことだし....)
   あわててあたしを取り押さえたミルガズィアさんが、彼等に謝り倒してくれ
  たおかげで、エルフ達は渋々ながら納得したのであった。
   最も、あたしは後で、ミルガズィアさんから散々お説教をくらったけど...
  (面白くないっ!)
   ええぇええいっ! これもみんなガウリイのせいだぁあっ!
                ◇◇◇◇◇ 

「ねえ、ガウリイ、あんたいったい昼間はどこに行ってんのよ?」
「いやぁ〜、ちょっとな」
 良く晴れた朝。食事が終わって、一息ついた席でのこと。
 ここ数日、繰り返されてる質問に、ガウリイのやつはやはり、いつもと同じよ〜
な答えを返した。
 最近、あたしは、家の地下室に篭っていろいろと研究したり、エルフ達の隠れ里
まで出向いて、いろいろな情報やら異界黙示録の知識やらを仕入れてきているのだ
が.........ここで、問題になるのはガウリイ君。
 こいつに、情報収集なるものは絶対にできっこないっ!(断言)
 異界黙示録のトコまで連れて行ったとしても....あんな、異空間も同然のところ
で迷われたりした日にゃぁ........ハッキシ言って、ど〜しょ〜もないぞ。
 よって、彼は、ルーク達と別れてこの家に住んでから、ず〜っとヒマを持て余し
ていたはずなのだが........
 どぉ〜やら、毎日、どこかに出かけているらしいのだ。あやしいっ!
 尋ねても、ハッキシ答えないし......ますますあやしいっ!
(いや、ひょっとしたら、自分の行動を、上手く説明できないだけとか、単に覚え
てないだけかもしんないけど............ありえないことではない)
「まあ、いいわ........あたしは、ちょっと出かけてくるから」
 言って、玄関のドアから出て行くあたし。
「おおわかった。くれぐれも、オレがいないトコで問題起こすんじゃねぇ〜ぞ」
 ドアが閉まる直前、背中から、ガウリイの声が聞こえた。
 ええいっ! うるさいやいっ!
 
 とりあえず、『翔封界』の呪文を使って家から離れ──
 シュタリっ! 適当な場所に着地する。そこで、しばらく時間をつぶした後。
 そろそろいいかな?
 ぶつぶつぶつ........
 『探査』の呪文を唱えて、さらに、待つことしばし.......
 呪文の効果が発揮され.......『反応』が──あったっ!
 ふっふっふっふ.......自然と笑みがこぼれる。
 さぁ〜て、ガ〜ウ〜リィ〜、今日こそどこで何してるか、ハッキリさせてもらう
かんねっ!
 心の中でつぶやき、あたしは、再び『翔封界』の術を唱える。
 反応が移動している方向──ガウリイが持つ、魔法剣の魔力波動が示す位置へと。

 『反応』は、あたし達が暮らしている家から少し離れた位置にある、森の中へと
入って行った。
 あたしは、『翔封界』の高度を十分調節し、慎重に後をつける。
 何しろ、ガウリイの気配を読む力はケダモン並っ!
 以前、歩いて後を付けた時には、気配を察知され、あっさりと巻かれてしまった
のだ。(くそうっ!)
 まあ........だまぁああって、後を付けて行ったもんだから、あっちに敵と判断
されて、待ち伏せくらって不意打ちっ! とか、されなかっただけマシだけど....
「しっかし、どこ行ってんだろ〜 ここんとこ毎日、毎日、あのアンポンタンは?」
 何げに、つぶやきが口から漏れる。
 別に、ガウリイがどこで何しようと、彼の勝手、と言えばそれまでなのだが。
 う〜ん、何となく、気になるなぁ〜 今まで、こんなことなかったし。
 などなど、とりとめなく、考えていると──
 不意に、今まで動いていた『反応』が止まった。
 ど〜やら、目的地についたみたいだけど........
 あたしは、飛行の術を解除して地面に降りる。
 見回すと、辺り一面にうっそうとした木々が生い茂っている。
 ど〜やら森の、かなり深い部分のようだが? 
 時々、熊だの、兎だの、猪だのを、『おみやげ』と称して持ってきてくれてたか
ら、まあ、ガウリイがこ〜いう場所に通っている。とは、想像ついたが。
 こんなトコに、いったい、何のよ〜があるんだろう?
(案外、ただ単に、食料を調達しにきただけだったりして)
 え? 突然、すぐ近くで人の声が聞こえた。
「あっ、あんたは?」続く、意外そうな声。
 ガウリイの声だっ! 間違いない。
 あたしは、声の方へと急いで足を向ける。
 どうやら、あたしよりも先に『誰か』が、彼の前に現れたらしい──

                 ◇◇◇◇◇

「どうして、あんたがいきなし、ここに現れるんだ?」
「人をボウフラか何かみたいに言うのは、止めて欲しいものだな、人間の男よ」
「..........いや、その.....悪気は全くないんだけど.....」
 困ったように、ガウリイは答えた。
 .........いったい、何をやっとるんだ、こいつは?
 でも、ガウリイ以外の、もう一人の方の声って......?
「で、リナなら、今日は出かけてていないぞ。
 ややこしい話なら、オレじゃなくて、あいつが担当のハズじゃあ?」
「いいや、わたしは、今日は、おまえに話があってここに来た」
 まさか.......ミルガズィアさん? でも、どうして、彼がガウリイに?
「リナじゃなくて、オレに?」
「そうだ」
 言って、ミルガズィアさんは静かにうなずいた。

 なぜだかは.......後になって思い出してみても、よく解らないが......
 あたしは、素早く、そこらに生えてる大木の影へと身を隠し、息を潜めた。
 すぐ近くでは、人間姿のミルガズィアさんと、ガウリイの二人が対峙している。
「オレに話とは何ですか?」
 ミルガズィアさんの顔を見ながら言うガウリイ。
 そんな彼を、ミルガズィアさんは、手で制すると、
「まあ、そうあせって、話の先を急ぐことはないだろう。
 わたしは一度、おまえの方とも、よく話してみたかったしな」
 ゆったりとした口調で告げる。
「いや、でも、オレは特に話す内容なんて........(それほど、覚えてないし)」
「別にそれでも構わんよ、ただ、わたしがそなたを知りたいだけだ。
 ところで、こんな森の中で、そんな格好をして入ってくる所を見ると......
 剣の稽古でもしに来たのか?」
「ん? まあな」
 片手で頭をポリポリ掻きながら、ガウリイは答える。
 ちなみに、ガウリイは今、利き手には抜き身の剣を持ち、背中には何かの荷物が
入った袋、身体にはいつものライトメールを身に付けている。
「それは、おまえなりに、これからの魔族達との戦いを考えてのことか?」
 いいや、ガウリイにそんな『先を見越して』なんて考え、ないと思うぞ......
「それとも..........あの、娘のためか?」
 えっ! ──!! あたしは思わず、木陰で息を飲む。
「まあ、しゃ〜ないだろ。リナは言い出したら聞かないから.......
 それに、オレは、あいつの保護者だしな」
「なるほどな」
 わずかに苦笑を浮かべるミルガズィアさん。
 そっか..... そ〜だったんだ........
 ........なんとなく.......嬉しかった.....
 ──彼なりに、あたしのことを考えてくれてることが──
「しかし、おまえは、いや、おまえ達はなぜ、共に旅をしているのだ?」
「いや.........まあ、成りゆき上.....なんとなく...かな?」
 困ったように首をかしげつつ答える。
「だが、おまえはそのせいで、大変な目にあったこともあるだろう?
 冥王に捕らえられたことさえ.......」
「そ〜いえば、そんなこともあったよ〜な?」
 おひおひガウリイっ! そ〜いうことを何故、そ〜も簡単に忘れられるっ!
 きっと、ミルガズィアさんもさぞや呆れて.........あれ?
 あたしの予想に反して──ミルガズィアさんは、ただ静かに、正面からガウリ
イの顔を見ていた。
 その瞳が、さっきまでとは違うっ!
 探るような、厳しいような眼差しだ.......まるで、相手のわずかな変化も見逃
すまい、とでもするかような.......  どうして?
「いいや、そなたは覚えているはずだろう?
 少なくとも、そのことで、仲間がどのような思いをしたかは」
 えっ? それは、どういう.......? あたしの頭に疑問が浮かぶ。
 そして──変わって行く、あたしの目の前で、ハッキリと。
 ガウリイの表情が──
 
                 ◇◇◇◇◇

「どうして?」
 低い声が、うつむいたガウリイの口から漏れる。それは問いだ。
 いったい、今、何が起こっているのだろう? 
 ガウリイは、剣の腕だけは超一流だが、記憶力も知識も認識力も皆無で、人の話
はロクに聞いてないは、いつもボケをやらかしては、あたしにどつかれていたはず
だ。 それなのに........
「おまえやあの娘を見ていて何となく、な。
 まあ、半分は、おまえ達人間が言うところの『勘』と、いうやつだが.......
 わたしも、ダテに長生きはしとらんよ」
「なるほど、さすがは年の項。って、やつですか......」
 苦笑を浮かべつつ、顔を上げるガウリイ。
 その表情は、いつものノホホ〜ンとしたものではなかった。
「確かにオレは、そのことで、あいつが心配したことも、その結果、光の剣が無く
なってしまったことについて、責任を感じていることも知っている。
 いくらオレだって、それぐらいは解っている。
 だが........それは、言ってどうなることじゃあない」
 あたしは軽く目を見張る....彼も、ちゃんと考えいるんだ。と、いうことに....
 キツパリとした口調で言ったガウリイと、ミルガズィアさんの視線とが交錯する。
 しばしの間、その場に沈黙が訪れる。
 ザザザザザザザ......ザワザワ..........
 森を渡る風のざわめきと、木々の葉ずれの音だけが、やけに耳に残った。
 あたし自身もただ、木陰に隠れて、状況を見守るだけしかできないでいた。
 やがて──最初に口を開いたのは、ミルガズィアさんの方だった。
「おまえは、それほどあの娘が大事か? 
 あるいは、それをするのは、おまえ自身のためなのか?」
 あたしの位置からでも、ハッキリと──ガウリイが息を飲むのが解った。
 トクン。自分でもよくは解らないが、小さく心臓が跳ねる。
 なんとなく、居心地が悪い。
 だけど.....あたしの足は、凍り付いたようにその場から動けなかった。
 この先の言葉を、知りたいような、知りたくないような不思議な気持ちがした.. 
「なぜ、そんなことを聞く?」低い、低い声。
 ガウリイの声には、わずかな苛立ちが混じっていた。
「わたしは、あの人間の娘に興味がある」
「リナに? 何でまた.........あんた、竜だろ?
 まあ、竜にだっていろいろな趣味はあると思うが.......リナだけは、やめとい
た方がいいと......」(おひっ! おまい、絶対何か勘違いしとるぞ)
「そういう意味での興味ではない(キッパシ)」
 きっぱし否定するミルガズィアさん。
 ほれみろガウリイ......って、つっこんでる場合じゃないよ〜な?
 あああああっ! いつの間にか話題がズレとるっ! おそるべしガウリイっ!
「まさか、人間があれほど高位魔族と関わり合いを持ち、それをはねのけ、なおか
つ、未だ生きていられるとはな........
 例え、我ら竜族といえども、そんなことが出来る者はおらんよ。
 だからこそ、それを可能としたあの娘や、その仲間であるお前達という存在には
興味がある」
「いつも無茶苦茶で、出会った時から信じられないことばかりが起こって。
 それで時々、こっちが予想もしないようなスゴイことをやってくれて....
 まあ、それこそがリナなんだろうけどな........」
 どこか、遠い目をしながら答えるガウリイ。その顔には、小さな笑みが浮かんで
いた。
「それが、先程の問いに対する、おまえの答えでもあるのか?」
「ああそうだ」
 自分のことが話題に出ているというのに──あたしには、全く、意味が解らなか
ったが...... 目の前の一人と一匹には、意味が通じているらしい。
 ガウリイはミルガズィアさんの問いに、何のためらいもなくうなずいた。
 ミルガズィアさんは、そのまましばらくガウリイを凝視していたが、
「おまえの言いたいことは、思いは、だいたい解った........
 では、こちらから、最後にもう一つだけ質問がある」
「まだあるのか?」
「そうだ.......これで、本当に最後だが........
 おまえはこれからもあの娘に付き合う、と?」
「まあな。そのつもりだ」
「だが.........それは、今のままでは、いつまでも続けられることではないぞ」
 ──!! 
 その瞬間──
 ガウリイが息を飲み.......
 ──なぜか...... あたしは、胸の奥が痛かった。


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4878約束の言葉4Milk E-mail URL9/26-09:45
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   * 約束の言葉4 *         〜 優しい日々 〜
                           Milk

 15歳の時──
 ガウリイと出会ってから3年.........
 あたしは、いつの間にか──18になっていた。

                 ◇◇◇◇◇

「.................」
 ガウリイは、軽く目を見開いて、ミルガズィアさんを見つめていた。
 きっと、あたし自身も、同じような顔をしているだろう........
「おまえは、あの娘の『保護者』だと言った........
 だが、あの娘だとて、いつまでも保護者の手が必要な、おまえが考えているよ
うな、子供のままではいてくれまいよ」
 身体が動かなかった。聞きたくはないのに、あたしの耳だけが勝手に情報を拾
って行く。
「それは.......」
 掠れた声で、ガウリイがつぶやく。
「おまえ自身も解っているだろう?
 いつか、あの娘も、自分自身で一生の相手を選ぶ日がくるかもしれないと。
 人間とは、本来、そうやって種族を残していくものではないのか?」
 ガウリイのまなざしが宙を泳ぐ。ミルガズィアさんから視線をそらしたのだ。
 ミルガズィアさんの言葉は、さらに続く。
「『子供』の内はまだいい。
 だが........人が、最後に選ぶのは、『保護者』ではないのではないか?」
 ── 止めてっ! ──
「止めろっ!」
 あたしの声にならない叫びと、ガウリイの声とが森の中に響いた。

                ◇◇◇◇◇

 さっきまでは感じなかったが、冷たい風が、あたし達を取り巻いている。
 その冷たさのせいだろうか? あたしの身体は、微かに震えていた。
「なぜだ.......? なぜ、あんたは、そんなことをオレに言うっ!」
 めずらしくも、吐き捨てるような口調で言い放つガウリイ。
「わたしは........1000年前の『降魔戦争』を知っている......」
 それは、解っている。彼は、あの戦争で絶滅させられかけた竜族の、数少ない
生き残りなのだ。
 ミルガズィアさんは、目の前にいるガウリイを通り越した、どこか遠くを見な
がら言葉を紡いでゆく。
 ガウリイも、木陰で隠れているあたしも、ただ......無言のまま 、その話に
耳を傾けていた。
「あの、リナ=インバースと言う人間の娘..........
 まだ、わたし自身の想像に過ぎないが........あの娘は、きっと、これからも、
魔族達と関わりを持ってくるだろう。
 そして......もし、魔族達にとって、わたしの想像通りの役目を果たす者だと
すれば..... 出来るだけ、心のスキになるようなことを与えたくない。と、思
ったまでだ。
 まあ、あるいは、あの娘ならば、それとは全く逆のことをしでかしてくれる可
能性もあるわけだが........念のために、な」
 それはっ! あたしの内心に、少なからぬ動揺が生まれる。
 やっぱり、ミルガズィアさんは、『あのこと』について、『あたし』のことを
疑っていたんだ。
「わたしは、それほどあの娘と関わり合いがあるわけではない。
 だが、ゼロスに踊らされようが、ガーヴに襲われようが、冥王の計画に巻き込
まれようが、諦めることをしなかったあの娘だが.......
 おまえがさらわれた時だけは、冷静さを欠いていた。例え、本人に自覚があろ
うと無かろうと、それは、わたしの目から見た事実だ。
 だから、今日、わたしはお前に問いにきた.........
 これから先もずっと、あの娘について行く覚悟はあるのか?
 そして、いつか、変わらねばならない時が訪れたとしたら、その時おまえはど
うするのだ?」
 その瞬間、あたしは確かに見た──ガウリイの瞳の中に、とまどいが生じたの
を。
 ビュゥウウウウ..... 吹きすさぶ風に散らされて、何枚かの葉が、地面に舞
い落ちる。
 長いようでいて、短い時間が過ぎて行く──
 やがて........
 ガウリイが口を開く。その動作が、ひどく、ゆっくりとしたものに感じられた。
 ──そこまでが限界だ......
 聞きたくないっ! 壊れてしまう──今までの、毎日が.....
 たまらずに背を向けて、その場から走り去る。
 気配を感じてか、ガウリイとミルガズィアさんがこっちを振り向く。その姿が、
視界の隅に映る。だが、もう、そんなことはどうでも良かった。
 ただ.......少しでも早く、この場から逃れて......そうして.....
 もう、自分自身でも──よく──解らなかった。何もかもが.........

                 ◇◇◇◇◇

 それからしばらくは、何も無かったよ〜な日々が続いた。
 まあ......あくまで、『表向きは』だけど.......

 カチャリ、カチャカチャ。
 食卓に、ナイフとフォークの音だけが虚しく響く。
「ねえ、ガウリイ?」
「ん〜 何だ?」
「別に.......特に何でもない......」
「そ〜か......」
 カチャ、カチャ........
 ああああっ! 何か、おもいっきし気まずいっ!
 あれ以来──
 あたしがあの場にいたことに、気付いているのか、忘れたかはしらないけど、
ガウリイは何も言ってはこなかった........
 だから、まあ、あたしの方がど〜こ〜言うのも不自然だし......と、そのこと
には、触れないでいるのだが.........
 ふうっ。知らず、小さなため息が漏れる。ど〜しよ〜これから........ 
 いくらなんでも、これからずぅ〜っと、この何だかわけわかんないけど気まず
い雰囲気が、持続し続けるのもヤだし......
 チラリと見たあたしの視線の先には、人の悩みなんぞ知らんと、ガウリイが
黙々とナイフとフォークを動かしている。
 ムカムカっ! ええええいっ! 人が悩んどるのに、ノンキにパクパク食べて
るんじゃなぁ〜いっ!
「テイっ!」
 怒りのあまり、ついつい、ガウリイの皿の一つから、ソーセージさんを強奪す
るあたし。う〜ん、これも、乙女の心理ってやつよね(ハート)
 はりゃ? ここで、あたしはふと、あることに気付いた。
 あれ........おかしいなぁ〜 ガウリイが何も抗議してこんぞ。
 あたしは、よくよく、彼の方を見てみて──
 ぶっ! 思わず、飲みかけのコーヒーを吹き出す。
「ちょっ、ちょっとガウリイっ!
 あんた、いつまでナイフとフォークをカチャカチャやってんのよっ!」
 こっ、こいっ......ひょっとして今まで、皿が空いてからもずぅ〜っとそのま
ま、無意識にナイフとフォークを動かし続けていたとか......?
「へ? あ、ああ..........」
 あたしの言葉に、ようやく我に返るガウリイ。やっぱし、ヘンだこいつも...
「でも.......リナ......
 おまえの方こそ、今、吹き出したのって.......ひょっとして、コーヒーじゃ
なくって.........ソースじゃないのか?」
 げっ! い、言われてみれば.......
 コーヒーにしてはやけにまったりしてるなぁ〜とは、思ったけど.......
 あたし達二人は、互いに顔を見合わせ、
『はああぁぁぁぁ〜........』
 全く同時に、深い深いため息をついたのであった。
 な、なんか、けっこうヤバイかも.......

                 ◇◇◇◇◇

「ふわぁあああ」
 あたしは、盛大なあくびをついた。ああ、にぇむいよぉおおお〜
 最近、ど〜も良く眠れなくっていけない。
「う〜ん、これは一つ、ストレス解消代わりに、いっちょう、盗賊いぢめにでも
行こうかなぁ〜?」
 なんぞと、ついついグチの一つもこぼしつつ、気分転換に家の外まで出てみる。
 今の今まで、地下にある研究室に篭っていたせいか、外を吹く新鮮な風はとて
もここち良かった。
 今、あたし達が暮らしている家は、他の人家が密集している地点から少し離れ
た、小さな丘の上に建てられている。
 家の表に立つと、ちょうど、丘を取り巻くようにして畑が、そして、そのさら
に向こうには、小さな村とちょっとした街が眼下に見える。
 おや? 家の裏手までまわった所で、あたしはふと、足を止めた。
 そこには、普段は洗濯物と、一本の木が生えているだけなのだが.........
 見ると、その木に寄り掛かるよ〜にして、ガウリイが眠っていた。
 にやり。ちょびぃ〜っとばかし、意地の悪い笑みを浮かべるあたし。
 一旦家の中に戻り、今度は忍び足で彼の側まで近づいて行き──
「誰だっ!」 (びくっ)
「うをぁああ。いっ、いきなし、脅かさないでよガウリイっ!」
 気配を感じたか、あたしが近づききる前にすいかの声が上がる。 
 ちちちちちっ、勘のいい奴めっ!
「なんだリナか.....そ〜いうお前の方こそどうしたんだ? そんな驚いて?」
「いっ、いやぁ〜ちょっとね。はっ、ははははははは......」
 乾いた笑い声なんぞをあげつつ、手にした瓶をあわてて後ろに隠したりする。
 ちぇっ、せっかく『浮遊』の術で木の上に上がって、そっから、コショウでも
ふりまいてやろっかな〜? なんて、思ったのに...... ぶつぶつ......
「なんかひっかかるが、まあいいや.......」
 あたしに探るよ〜な眼差し向けつつ言うガウリイ。
 ギクッ! こいつって、つくづくいらんトコでスルドイ......
「こっちこいよリナ、いい天気だぜ。
 地下での怪しい実験とかも、今は、一段落ついたんだろ?」
 言って、わずかに横にずれ、木陰の下にあたしのスペースを空けてくれる。
 おひ......なんだ、その『怪しい実験』ってのは?
 まっ、まあ、時々、意味もなく爆発したり、間違ってモンスターとかがホコホ
コ出てきたりしてるから......怪しくないとは、いわんが.......
 でも.......そ〜だな、ここ数日、こいつとマトモに話してないし......
 これは案外いい機会かもしんない。
「んじゃ、あたしも一休みさせてもらうわ」
 彼に笑顔で答えつつ、あたしも草の上に腰を下ろす。
 初夏のおだやかな風が、あたしの髪を優しくなでて行った──

 雲一つ無い抜けるような青空と、眼下に広がる一面の、まだ、青い穂をつけた
小麦畑。
 そんな風景を、あたし達はしばしの間、無言で眺めていたが.......
「なあ、リナ?」
 唐突に、ガウリイが口を開く。
「ん、何? ガウリイ......」
「お前さ〜、これから先どうすんだ?」
 彼の問いに、わずかに首を振ってから答える。
「わかんないわ.......
とりあえず、魔族達が何か企んでる。ってこと聞かされちゃったし、まあ、正
直、あたし自身、あんま関わり合いになりたくはないんだけど.....
 シェーラを倒しちゃった以上、もう、後には引けないしね。
 それから、あんたの剣のこともあるし........
 まあ、こっちはすでに、上手くいけば何とかなりそ〜な目星だけはついてる
けど」
 そっから先は、言葉には出さず、心の中だけで続ける。
 それだけじゃない。あたしは、もう、知ってしまったから........
 異界黙示録が語った1013年前の真実。かって、冥王(フィブリゾ)が起こした、
あの戦いの目的を──
「そっか.......」
 ポツリとつぶやき、ガウリイは一度言葉を切り........
 やがて、思い出したように聞いてくる。
「おまえって........今、いくつだったっけ?」
「あのねえっ! この前18って言ったでしょっ! もう忘れちゃったの」
「て、ことは、もう3年になるのか......おまえと旅するようになってから」
「まあね」
 ん? 何だ、その、しげしげとした目はっ!
「なんか、あんま変わったよ〜な気がせんのだが.......
 ...........ほとんど育ってないみたいだし(ボソ)」
「うるさいっ! よけ〜なおせわよっ!」
 これでも、これでもねぇ〜、ちゃ〜んと日々成長してんだからっ!
 おまいはいったい、何が言いたいんだぁああっ!
 思わず、キレかけるあたし。だが..........
「そう、だよな........もう.......3年、おまえも、そろそろ、先のことを考
えなきゃいけない年、だよな........」
「ガウリイ.....?」
 透明なまなざしでこちらを見つめてくるガウリイ。その表情を見て言葉につま
る。
 話の先が見えない。いったい、彼は何が言いたいのだろう?
「それに、おまえは郷にちゃんと家族がいるもんな。オレとは違う........
 ずっと、里帰りもしてないみたいだし........
 きっと、このままってわけには、いかないんだろうな........」
 ガウリイは、まるで自分自身に言い聞かせるかのように、言葉を紡いで行く。
 なぜか、その顔がひどく悲しげに見えた。
「ちょ、ちょっと待ってよ......」
 声に戸惑いが混じるのが、自分でも解る。だが、構わず続けるガウリイ。
「この前、竜族のお偉いさんに言われたよ。
 このままじゃあ、いつまでも続けられない。って........
 オレも、それから......自分なりに、ずっと考えてたんだが.....
 リナ? おまえは、今起こってるゴタゴタが全部片付いて、オレの剣も見つか
ったら........ 
 そしたら......その後は、どうしたいんだ?」
 ──!! あっ...... それは........
 言葉につまる。解らない──
 正直──その先を、今まで、考えたことすらなかっことにようやく気付いた。
「わ、解んないわよっ! そんなこと、今はまだ.........
 第一、そぉ〜いうあんたこそ、ど〜すんのよっ!」
「オレは、おまえの保護者で、もともとおまえには、トコトン付き合ってやるつ
もりだったが。だけど.........」
「だけど......?」
 ガウリイは、一瞬、チラリとあたしに視線を走らせ、
「どうもイマイチ、実感が無いんだが......
 もし、これから先......おまえが、旅を止めたくなったり、あるいは、好きな
やつが出来たとしたら、その時は、しょうがないんじゃないかな。って......」
「何言ってんのよっ!」思わず叫んでいた。
 ムカムカムカムカムカ〜っ! 何でだかは、自分でも全然解んないが、無性に
腹が立ったのだ。
 あたしは、ガウリイにびしぃいいっ! と、指をつきつけ言い放つ。
「あんたねぇっ! 今の言い方だと、なんか、まるっきしあたしが薄情もんみた
いじゃないっ!
 そりゃあ、乙女の永遠の夢、玉の腰っ! とかあったりしたら、あたしも多少
は考えるけど.........
 でも、今まで、ずうっと一緒に旅してきた人間に、いきなし、『あんたはもう
いらないから、はい、さよなら』なんて、そ〜アッサリと言えっこないでしょう
がっ!
 第一、そんな先のこと、魔族がなんかやってくれて忙しいこの時期に、いちい
ち考えてらんないわよっ!」
 ふんっ。どうだっ! ガウリイっ! まだ何か言うことは......って....?
 初めこそ、ガウリイは、あたしの剣幕に押されていたのだが。
「ど、どうしたの.........? な、なんか、こわい目しちゃって」
「オレだって解ってるっ! そのぐらいはっ!」
 びくりっ! 予想もしなかった厳しい声に、一瞬、身体がすくむ。
 今まで──あたしに向かって、彼がこんな風に怒鳴ることは、めったになかっ
た。
「...............」
 思わず、目を見張る。
「ああ、オレだって、おまえがそんなに仲間に対していいかげんだとは、思って
ないさ。
 それに、おまえを守るのはオレの役目だって、ずっと思ってた。
 他の奴にそれが出来るとは思わないし、ゆずる気だってないっ! これから先
もずっとだっ!」
 だったら........ そう、思い、あたしは言葉を続けようとして──
 だが、ガウリイの方が早かった。
 彼は、一瞬だけ、寂しい笑みを浮かべると、視線を落として続ける。
「でも.......仕方ないだろ、人の気持ちだけは、どうしようもないんだ。
 いつまでもこのままじゃいられないない以上、もし、おまえがそうしたい。っ
て、言うなら、オレにはしょうがないじゃないか......
 元々、おまえの将来を縛る権利なんて、オレには、保護者には無いんだから...
 それに、おまえが一度決めたら、後には絶対に退かない。って、ことは、オレ
が一番よく解ってる」
 違っ......ガウリイ...それは........
 何か、言わなきゃいけないのに、上手く言葉が出て来なかった。
 ガウリイは、少し、表情を和らげ、とまどっているあたしの肩に手を置き、
「リナ.......そんな顔すんなよ。
 何も、今日、明日、さようなら。って、わけじゃないんだ。
 少なくとも、ちゃんと、今のゴタゴタが終わるまでは付き合うから。
 それと、まあ、確かに、まだ色気とかは足りないが、おまえももう、そろそろ
『お年頃』ってやつなんだから、これからはちゃんと先のことも考えろよ。
 いつまでも旅して、攻撃呪文と盗賊いぢめに精を出してる、今のままじゃまず
いだろ?」
 優しい声で告げる。
 そんな........ あたしが聞きたいのは、そんな言葉じゃない。
 喉の奥が乾く。
 解ってる。それは、ミルガズィアさんに言われた言葉を、ガウリイなりに考え
た末で出した結論なのだ。
 だけど........あたしは........
「さて、と........
 オレもそろそろ、晩飯の材料でも調達してくっかな」
 言って、そのまま、あたしに背を向けて歩き出す。
 
 ペタリ──
 彼の後ろ姿が、消えた瞬間。あたしは、その場に膝をついていた。
「いったい、何が........どうして......?」
 口から漏れたつぶやきは、すぐに、風に吹き散らされ.......消えて行った。

                 ◇◇◇◇◇

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4879約束の言葉5Milk E-mail URL9/26-09:47
記事番号4878へのコメント


  * 約束の言葉5 *       〜 優しい日々 〜
                         Milk

 ──いつか、変わる日がくる── 
 ミルガズィアさんは、そう言った。
 そして.........ガウリイはもう、決めてしまった。
 これから先の、あたし達の関係を........
 ただ.......あたしだけが、変わらないまま、答えを出せないでいる。
 
 いつの間にか、穏やかでここち良かった風に、冷たいものが含まれてくるよう
になっていた。
 そろそろ、夕方になる。
 .........あたしは........いったい.......?
 しだいに赤に染まっていく景色を見ながら、あたしは、自分自身に問いかけて
いた。

 そして──
 ふと、気付いた.......
 まだ、あたしは、何も言ってはいないことに.........

                 ◇◇◇◇◇ 

 コンコン。一応、ノックしておいてから、あたしは、部屋の住人の許可を待た
ずにドアを開ける。
「リナっ! どうしたんだ......こんな夜に」
 いきなし部屋に入ってきたあたしの顔を見て、驚きの声を上げるガウリイ。
「ん〜、ちょっと話があってね。いい?」
 まあ、昼間、あんなことがあったし.....夕食ん時も、けっこう気まずかったか
ら.......まさか、あたしが尋ねてくるとは、思っていなかったのだろう。
「あっ、ああ、別に構わんが........」
 やや戸惑いがちに、返事をしてくるガウリイの前を通り過ぎ、あたしは、勢い
良くベットの上に腰を下ろす。
 一方、ガウリイは、あたしと向かい合うような格好で椅子に座る。
「で、話って何だ?」
「ふうっ......」
 こちらに聞いてくるガウリイに、わざとらしく肩をすくめて、ため息なんぞつ
いて見せたりする。
「ガウリイぃ〜前から言おうと思ってたんだけどぉ........
 あんたって、ホント、甲斐性がないわよねぇ〜」
「はぁ?」
 あたしの言葉に、ガウリイの目が点になる。
「初めのころはわずかにあった、傭兵の自覚とかも、最近では完っ全にどっかへ
行っちゃってるしぃ。
 人の話はロクに聞いてないは、めずらしく、たまぁ〜に聞いてたとしても。す
ぐ忘れるわ.......」
「おひ.........」
 ジト目で抗議する彼に構わず、話の先を続ける。
「いったいそれで、どうやって稼いで行くつもりなんだか.........
 これじゃあ、先が思いやられるってもんよね。ウンウン」
 腕を組みつつ、一人でコクコクうなずくあたし。
「いったい........何が言いたい......おまえは.....?」
「まっ、しゃ〜ないから、これからもちゃ〜んと、このあたしが面倒見てあげる
わっ!
 せいぜい感謝しなさいよっ!」
 言うだけ言ってそっぽを向き──
 チラリ、と横目でガウリイを見て見ると.......
「...........」ポカ〜ンとしている。
 やっぱし.......あたしの言葉の意味を理解出来ていない。
「だぁあああっ! 
 だ・か・らっ! あんたは、あたしがいつまでもこのままってわけにはいかな
いっ! って考えてるみたいだけど.......
 あたしは別に、これから先も、このままで一向に構わない。って、言ってんの
よっ!」
「........へ? でも、それって......もしかして......?」
 うっ....... 
「う、うっさいわねぇっ!
 あたしの相棒の席は、ずぅ〜っと空けといてあげるからっ!
 あんたは黙って、これから先も、あたしの保護者をやってりゃいいのよっ!」
 叫ぶように言って、あわててガウリイから視線を反らす。
「.............」
「.............」
    ・
    ・
    ・
 しばし、部屋の中に妙な沈黙が満ち──
「ち、ちょっと、何赤くなってんのよっ! ガウリイ」
「そっ、そぉ〜いうおまえこそっ!」
「そ、そんなこと、あっ、ああ、あるわけないじゃない! 
 ど、どぉ〜してあたしが、あんた見て、赤くならなきゃいけないのよっ!」
 そっ、そ〜よっ! きっと、部屋の中がやけに暑く感じるのも、さっきからな
んか、よく解んないけど息苦しいのも、みんな気のせいよっ! 
「オ、オレだって、オレだってなぁ〜
 まさか、おまえの顔見て、赤くなる日がこようとは.......」
「なっ、なによ、それってど〜いう意味っ! 第一っ.......」
 それから、口ゲンカ? は、さらにえんえんと続き.......

「あんたなんて、あんたなんてねえっ! (ムグっ)」
 ふと、とうとつに──
 さらに文句を言いかけたあたしの口を──ガウリイが手でふさぐ。
「ふぐぁ〜! ふぁにふんふふ!」(コラっ! 何すんのよっ!)
 ガウリイは、あたしの抗議を全く無視して(後で覚えてろよっ!)、こちらに
チラリと視線を走らせ、
「ふぅっ........でも.......何でまた........ぶつぶつ....
 オレだって......めずらしく、ここ数日は......いろいろと考えたのに......
 まっ、しゃ〜ないよな.......捕まっちまったもんは、今さら.....」
 何やら一人で、意味不明の言葉をつぶやく。
「ぬぅ〜! ぬぅ〜ぅ! ふぁふぁくふぁなふぇっ!」
 (う〜! う〜っ! 早く離せっ!)
「いいから、おまえは少し黙っててくれ。
 おまえに口を開かれると、こっちがやりにくくってしょうがない」
 へ? 『やりにくい』って、何が?
 思わず、口を塞がれた恨みも忘れて、つい、しげしげとガウリイの顔見るあた
し。いつの間にか、彼の手は、あたしの口から離されていた。
 あたしの目の前で──ガウリイが、わずかに苦笑を浮かべた。
 と、思った瞬間──
「まっ、こういうことさ」
 声と同時に──あたしの身体は、彼の腕の中にあった........

 ........なっ......... 
 トクン。心臓の鼓動が聞こえる──

     ・
     ・
 何すんのよっ!......そう、言って、はり倒すことも、攻撃呪文をお見舞いす
ることも、できたのに......
 なぜか、この時──
 あたしがとった行動は......その、どちらでも無かった──
 
「..............」
 自分でも無意識に、小さな、小さなつぶやきが口からもれる.......
「ああ、解ってる。約束するよ........」
「どうせ......あんたのことだから.......すぐ、忘れちゃうんじゃない?」
「忘れないよ、絶対に」
「ん.......」
 あたしは......そのまま ──それからしばらくの間──
 それ以上、何も言うことができなかった。

 その夜から──
 ゆっくりと.........『何か』が変わって行く......

                 ◇◇◇◇◇

 それから......あたし達は、いろんな話をした。

「ねえ、ガウリイ?」
「ん〜 何だ、リナ?」
 隣りにいるガウリイが、こちらに顔を向ける。
 いつの間にか、ランプ代わりにと、あたしの作った『明かり(ライティング)』の光球
も、ずいぶんと小さなものになっていた。
 初めは、まばゆい光を放っていたそれは、今では、オレンジ色の微かな光だけ
を、あたし達の頭上へと降り注いでいる──
「どうして『あたし』なの?」
「ああ........そのことか.......
 だって、おまえのメンド〜は、オレにしか見れんだろ?」
「どういう意味よっ!」
 ったく、ぶつぶつ.........
「だからっ! あたしが聞きたかったのは.........」
「どうした、リナ? 急に黙りこくっちゃって?」
「.........あんただって.......郷や......帰る場所....あるんでしょ?
 .....会いたい人や.....待っててくれてる人とか......いないの?」
 ひょっとして、すでに忘れたとか.......?
(ちょっぴし、ありそうで恐いけど......こいつの場合)
「........そっか.......おまえには今まで、オレのこと話してなかったっけ」
 言って、少しだけ......寂しそうに笑う。
「別にいいわよ。話したくなければ」
「いいや......そうだな......おまえ、には、話しておくよ。
 例え、この先、本当にオレ自身が忘れてしまったとしても......
 せめて誰かに──おまえぐらいには、知っておいて欲しいもんな......オレの
今までのこと」
「ちゃ〜んと覚えておいてあげるわよ。ずっとね」
 あたしとガウリイは、互いに顔を見合わせ、小さな苦笑を交わす。
「少し長くなるけど、いいか?」
 彼の言葉に、あたしは小さくうなずいた。

                 ◇◇◇◇◇

「はあぁぁぁぁっ!」
 気合いの声が、裏庭に響く。
 それに続く、刃が風を切る、いく筋もの音──
 すさまじい早さで繰り出される剣げきは、その刃先すら、常人の目で捕らえる
ことが不可能なほど鋭かった。
 今日は、朝からずぅ〜っと、一人でえんえん剣を振り続けているのに、だ。

 最近、ガウリイは、昼間はもっぱら剣の稽古にいそしんでいた。
 ミルガズィアさんに何やら頼み込み、時々、人型をした若い竜達を何人かよこ
してもらい、彼等との模擬試合などもしてたりする。
 しかし....... いくら人間の姿をしてるとはいえ、複数の竜から一斉に攻撃さ
れても大丈夫って.........すでに、人間技ではないんじゃなかろ〜か?
 
「ふうっ」
 ガウリイは、ひとしきり剣の稽古を終え、そのまま乾いた土の上に座りこみ、
「ていっ!」 ゴケェェェ〜〜ン!
 あっ、かなり景気のいい音がした(ハート)
「こっ、こらリナっ! いきなし、何するんだおまえはっ!」
 頭にたんこぶなんぞを作りつつ、あたしが投げた剣(一応、鞘つき)を片手に
抗議する。
「まあまあ、細かいことは気にしない」
 片手ハタハタ振りつつ受け流すあたし。
「........もし、自分が同じことされたら.......絶対に、手か足か、攻撃呪文で
お返しするくせに........(ボソ)」
「あに、ガウリイ? 何か言った(ギロ)」
 あたしのまなざしに、ガウリイはあわてて、あさっての方を向きつつ、視線を
そらす。
 しかし........もちろん、その頬を流れる一筋の汗を、あたしは見逃さなかっ
た。
「まあいいわ、とにかく、その剣使ってみて?
 あんたが持ってた魔法剣を解析して、その上にさらに、魔法処理を施したもの
だから........
 切れ味も、使い勝手も、段違いに上がってるわよ。
 まっ、それでも、まだまだ試作段階だけどね」
 言って、得意げにウィンク一つするあたし。
 ガウリイは、早速、剣を抜いて品定めなどをしている。
「ほらっ!」
「うわわっと、今度は何だ?」
 短く声をかけ、再び、手にした品物をガウリイに向かって投げつける。
 あたしが投げたタオルは、一瞬、ふわりと宙に舞い、見事に彼の顔面に着地し
た。
「じゃ、そっちの方が一段落ついたら、家の方へきなさいよ。
 お茶の用意ができてるから」
 言って、そのままクルリときびすを返すあたし。
 暖かい風が、一瞬だけ、あたし達を取りまき、晴れた空の中へと上って行った。

                 ◇◇◇◇◇

「う〜〜〜んっ」
 あたしは思いっきし、のびをする。
 家の裏庭でのこと。
 ポカポカポカポカ(別に誰かを殴っているわけではない。念のため)
 暖かい日差しが、あたしの上へと降り注いでいた。
 あぁ〜 日差しも風も気持ちいいなぁ〜
 
 最近、まあ、近くの盗賊をいぢめ.....もとい、退治したり。なんだかめっきし増
えた野良デーモンのたぐいをペチ倒したり。などと、事件ともいえない程度のことし
か起きない、平和な日々が続いていた。

 つい、手にした魔道書片手に、首をコキコキ動かしてみたりする。
 なんか、少し、肩凝ってるかもしんない.........
 あたしは、異界黙示録からの知識を元に、1000年前に失われた神聖呪文や、
新たな魔法や魔法道具(マジックアイテム)等の開発、今まで比較的敬遠しがちだった、防御、
回復系呪文を覚える。などなど...........
 『これから』のことに対する準備を、いろいろと進めていた。
 まあ、それなりに、体も動かしてるから.........運動不足ではないのだが....
 (でも........あれはあれで、筋肉痛の原因になりそ〜だけど........)
 それからもちろん、魔法剣についても独自に研究を行っている。
 ── エルメキアソード ── 相手の精神をも傷つけることが可能な魔剣。
 多分........後、少しで、完成するはずだ.......
 あたしは、心の中でつぶやいていた。

 す〜す〜........あや?
 ど〜やら、あたしはいつの間にか、穏やかな日差しにつられて眠ってしまった
よ〜だ。
「う.......ん」
 なんとなく気配を感じて、ゆっくりと目を開いてみる。
 そこには、とっても良く見慣れた顔が一つ転がっていたりした。
 あ〜、なんか幸せそ〜に寝てるなぁ、こいつ。
 クスリ。その、あまりに平和そうな顔を見て、驚くより先に.......思わず、
苦笑が浮かぶ。
 あ......なんか、あたしもまだ眠いや.......
 も〜ひと眠りしぃよぉ〜 
 眠気の残るぼんやりとした頭で、そんなことを考えつつ......
 あたしは再び、穏やかな眠りの世界へと落ちて行く──
 少し前に、眠っているあたしを見て──ガウリイが、全く同じ感想をもらした
ことなど知らずに.........

 す〜す〜 く〜く〜
 規則正しい二つの寝息が、丘の上を吹く風に運ばれて行く──
 その中に、緑の香りが含まれていた。

                  ◇◇◇◇◇

 時が流れる── 
 穏やかで、ゆるやかな時間が.........

 それと同時に、あたしの中で不安も育って行く......
 いいや、止めよう。あたしはかぶりを振る。
「お〜い、リナ?」
「待って、今行くから」
 玄関からあたしを呼ぶガウリイに答えておいて、歩き出す。前を見て。

「ガウリイ、お待たせっ!」 バンっ!
 元気に言い放ち、彼の背中を勢い良く叩く。
「いって〜なぁ〜 おまえっ。も〜ちょっと優しくできんのか?」
「うっさいわねっ! ぐたぐた言わないのっ」
「たく........」
 しかたねぇ〜な、こいつは。と、ガウリイの表情は、思いっきし言っていたり
するが.........あたしは、あえて無視した。
 
 その顔を見ながら思う。
 大丈夫だ.........まだ..........
 そう──全ては、あたしの思い過ごしかもしれないのだから.......

                 ◇◇◇◇◇
 

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4880約束の言葉6Milk E-mail URL9/26-09:49
記事番号4879へのコメント
あうあう、まだ、も〜ちょっと続きます・・・
長くって、ごめんなさいぃっ!

***********************************

   * 約束の言葉6 *       〜 優しい日々 〜
                         Milk

 ざざざざざざざざ.......
 深い森の中──あたしの、下生えの枝と草をかき分ける音だけが、辺りに響く。
 この『森』というのは、実は、けっこ〜戦いにくい場所である。
 森自体が持つ濃密な気配が、人の気配を隠してしまう。と、いうこともあるが、
これだけ木々が入り組んでしまうと、行動に制限が加わるし(足場が悪くて動きに
くいっ!)、うかつな攻撃魔法も使えない。
 ヘタに炎系の魔術なんぞ使おうもんなら、森ごと丸焼けになるおそれすらある。
 う〜ん、それにしてもこの森は、背の低い木々や下枝が多いなぁ〜
 これじゃあ、マントさんに穴が空いちゃう........
 などと、考えていた時──ふと、足下に違和感を感じた。
 え? しまった、トラップだっ! 
 あわててその場を飛び退くあたしの右頬を、何かが掠める。
「チッ!」
 舌打ち一つして、腰のショートソードを抜き放ち、今度は、注意深く神経を研ぎ
澄ませながら進む。
 ヒュン。シュ、シュンっ!
 ある地点まで進んだ所で、何本かの矢が一斉に降り注ぐ。
 だが、甘いっ! これは、ある程度予想ずみっ!
 向かい来る矢を、あるいは剣ではじき、あるいは身をかわして、そのことごとく
から身を守る。
「さぁ〜て、お次は、何でしょ〜ねぇ」
 ニヤリ。知らず、口元に笑みを浮かべつつ、あたしはつぶやいていた。

 落とし穴から始まって、飛び道具に、竹槍、などなどなど........
 けっこ〜出てくる様々なトラップを回避しつつ、あたしは、森の中を進んで行く。
 ど〜やら、ゴールは近そうだけど? そう.....思った瞬間。
 いきなし、宙にたくさんの短剣が踊りだし──
 一斉に、あたしに襲いかかってきた。 
「あやややゃゃっ!」
 ど〜やら、木の枝に隠れるよ〜にして、短剣を全部ロープで結んで配置しておい
て、敵が目的の位置まで来たら、少し離れた場所から手元のひもを引っ張れば、一
斉に、襲いかかる仕組みらしいが.........
 ええいっ! そこまで凝ることないのにっ!
 しかも、こちらが少しでも気を緩めるタイミングを見計らって、攻撃してくると
はっ!
 あたしは、体制を崩しながらも、なんとか転がるようにして、左に避け.......
 しまった!
 気付いた時には、もう遅かった。
「うわっ!」
 いきなし地面が盛り上がり──あたしは、まともにバランスをくずしていた。
 カチャン。思わず、手にしたショートソードを取り落とす。
 地面に埋め込まれていたロープは、がっちりとあたしの右足を捕らえたまま、し
だいに、その高さを上げて行く──
「くううっ!」
 足をロープに捕らえられ、半分以上逆さ吊りの体制になりながらも、あたしは必
死で懐をまさぐる。
 ザシュ! ドサッ......!
 手にした短剣は、みごとに、あたしを捕らえたロープを切断した。
 しかし........あたし自身は、まともに、背中から地面に叩きつけられてしまう。
 .......うっ........
 ちょっと、打ち所が悪かったかな? 腰がいたひよぉ.......(シクシク)
 だが、メソメソしとる暇はない。
 不意に、向かって右手の茂みが微かに揺れる。そこから、わずかに漏れてくる気
配........
「そこかあっ!」
 叫びつつ、手にした短剣を投げつける。
 手応えは...........無いっ!? さては、もう移動したかっ?
 あたしは痛みをこらえつつ、ショートソードと短剣を回収し、素早く、その場を
後にする。
 
 早足で森の中を駆け抜け........ふと、少し開けた場所に出た。
 ど〜やらここには、罠の気配はないみたいだけど?
 その場所は、ちょうど、木々のつながりが切れ。ポッカリと空いた空間には、空
から直接、遮られることのない日差しが差し込んでいた。
 そして、その真ん中には、まるで他の木々から距離をとってでもいるかのように、
たった一本だけ........ 大きな木が生えている。
 ちょっと休憩した方がいいかもしんない。ずいぶんと、走り詰めだったし.....
 心の中でそうつぶやき、空間全体を見渡せると同時に、身を隠すこともできる、
中央の大木の根本まで移動する。
「ふうっ........ でも、あと少しであたしの勝ちね」
 無意識の内に、あたしの口からつぶやきがもれる.........と、その時──
「リナ。ざんねんでした」
 コツン。あたしの頭に何かが当たる軽い感触。
 驚いて、あわてて上を振り仰いでみると。
 そこには、木の枝片手にガウリイが、意地の悪い笑みを浮かべていた。

「ああああああぁぁぁぁぁ〜〜っ!」
「油断大敵。って、な」
 あたしの意味を成さない叫びに、涼しい顔で答える木の上のガウリイ。
「ところで、リナ、背中から落ちた時、大丈夫だったか?
 それから、おまえ.......
 剣の稽古ん時の、左に避ける癖はだいぶ直ったみたいだけど、まだ、こ〜いう罠
とかの時は、やっぱし同じ方向に逃げるパターンが多いから、そっちも治しといた
方がいいぞ」
 言いつつ、木の枝から飛び降りてくる。
 うっうっうううううう。言い返せないところが、ちょっぴし悲しい。
 
 実は、今までの罠はみんな、実戦を想定した模擬訓練なのだ。
 今、あたしは毎日寝る前に、ガウリイ相手に剣の稽古をつけてもらっているのだ
が、それでは、まだ足りない部分がある。と、いうわけで、より実践的な訓練も、
こうして時々行っていたりする。
 これは、その一つで、一番初めにあたしの頬をかすめたのは、よくしなる木の枝。
 飛んできた矢は、矢尻の先をつぶしてあるし、短剣とかも木製で、まあ、目にさ
え当たらなければ、例え、まともに命中したところで痛いだけ。と、いう代物であ
る............
 で、罠を仕掛けたのはガウリイで........彼を見付けて降参させるか、 無事、
この森を抜け出せればあたしの勝ち。罠にマトモに引っかかるか、日暮れまでに抜
け出せなければガウリイの勝ち。と、いうルールだったのだが..........結果はご
らんの通りである。
 あ〜ああ、後、も〜ちょっとだったのにぃ〜
 まさか、ここでこいつが待ち伏せしていたとは........ど〜りで、気配がしなか
ったわけだ....... くそうっ!
「まっ、魔法ナシでこ〜いうのなら、オレにも勝ち目があるさ」
 くやしがっているあたしを見て、嬉しそうに笑うガウリイ。
 くううううっ! 今度は、絶対に魔法アリの模擬訓練をこいつにやらしてやるう
ぅううっ! あたしは、固く心に誓っていた。
 それにしても、くやしいいいいいいいぃぃぃいっ!

 森からの帰り道──
「でも.......まさか、あんたに、あんな起用な罠が仕掛けられるとは思ってなか
ったわよ。正直、あたし........」
 二人で並んで道を歩きながら、あたしが、隣りのガウリイに話かける。
 実は、このことを知ったのは、あたし自身、ルーク達と別れて、二人で暮らし初
めてからなのだ。
 ある時、この森で剣の訓練してたガウリイを呼びにきて.......
(けっこ〜いろんな罠を作動させ.........まあ、その大部分は回避したのだが)
 みごとに、落とし穴の一つに落ちてしまった。と、いう、ちょっぴし情けない過
去の出来事があったりする.........
 ど〜りで、剣の稽古しに行くのに、いろいろ荷物を持ってきてたわけだ.....
(ちなみにこいつは、その時、矢も短剣も、ホンモンを使ってたから......かなり、
物騒である)
「ん? まあ、最近、めずらしくあんま事件とかないし、それに、これから大変そ
〜だから、少し訓練でもして鍛えておくかな。と、思ってな。
 昔、傭兵時代に、こ〜いう罠とかかなりやらされたし........
 それに、子供の頃から、こ〜やってカンとか鍛えてたから、あんまたいしたこと
じゃないよ。
 作り方とかもそ〜だけど、避け方なんか、けっこ〜身体が覚えちゃってるから自
然に身体が動くんだ」
「子供の頃から.......って......
 じゃあ、あんた......こ〜いうこと、昔からやってたわけ?」
「ああ」
 あたしの言葉に、あっさりきっぱしうなずく彼。
「おひ.........」
 これって.......子供がやることでも、させることでもないと思うぞ、絶対。
 おそるべし、ガブリエフ一族.......
 まるほど。ど〜りで、野生のカンが育つわけだ。ウンウン(納得、納得)
 ど〜やら、光の剣士(も〜無いけど)の末裔も、なかなか楽ではないよ〜である。
 
 まあ.........うちの姉ちゃんの教育受けとるあたしも、人のことは言えんが。
            
 などなど、たわいもないことを話ながら、今日も、あたし達は並んで家路につく。

                ◇◇◇◇◇

 ある、秋の夕暮れ時──

 サァササササァ......
 丘の上の家まで続く帰り道。両側一面は小麦畑が広がっていた。
 山から吹き下ろす風が吹くと、麦達はいっせいに波打ち、頭をたれる。
 まるで、金色の海のように──
 
 ふと.......なんとなく、隣りを歩いているガウリイの顔を、チラリと盗み見る。
 彼の髪は夕日に染まり、金茶色に見えた──
 小麦の海と沈みゆく夕日。金と赤、2色に彩られた不思議な光景。 
 道に伸びる、2つの長い影──
 あれ.......?
「ど〜したの、ガウリイ? 
 なんか、急に立ち止まって、こっちをしげしげ見たりして?」
 あたしは後ろを振り返り、不意に、足を止めた彼に向かって尋ねる。
「いや.......特に、どうというわけじゃあないんだが......」
「ん?」
 疑問符を浮かべたあたしを見て、ガウリイは、わずかに苦笑を浮かべた。
「なんか........いいもんだな、こ〜いうのも。って、思っただけだよ.......」
 言って、あたしの頭に。ポンと手を置く。
 .............. 
 夕日の影響で、あたし自身の栗色の髪も、真紅に染まっていた。
「さっ、帰ろうか、オレ達の家に。早く、メシ食いたいしな」
「そ〜ねっ! じゃ、急ぎましょっ!」
 彼にとびっきりの笑顔で答えつつ、その腕を取り、そのまま勢い良く駆け出す。
「おっ、おい、待てよリナ」
 突然、引っ張られて、やや慌てた声を出すガウリイ。
「ほらほら、きっちしついてくるっ!」
 苦笑混じりのあたしの声が、小麦畑にこだまする。
 今まで畑で働いていた人達も、そろそろ家に帰り始める時刻だ。
 その中の何人かが、あたしの視界に入る。

 いったい彼等に、今のあたし達はどう見えているのだろう?
 ──ふと、そんな考えが.....
 あたしの頭に浮かんで.......消えていった──

                 ◇◇◇◇◇
 
 今日は、朝から雪だった。
「ふうっ......しっかし、よく降るもんねぇ〜 こう、次から次へと」
「仕方ないだろ、冬なんだから......」
 思わず、ため息なんぞつきつつ愚痴るあたしに、さめた声で答えるガウリイ。
 えええいっ! そんなこと解っとるわいっ!
「あのねえガウリイっ! あたしが言いたいのは、もっと別のことよっ!」
 キッ! ガウリイの方にきつい視線を向けて言い放つ。
「じゃあ、結局、何が言いたいわけだ......おまえ?」
 ふっ、そんなこと決まってる。
「寒いっ、不便、滑る。この3重の害悪は許しがたいっ!
 だから、あたしの前で雪なんて、降るんじゃなぁああいっ! って、ことよ」
「それって、単に、わがままなだけじゃ......(ボソ)」
 うるさいガウリイっ!
 ......子供の頃、はしゃいで外を飛び回り、何回滑って転んだことか。
 その度ごとに、姉ちゃんにバカにされたり........ 
 いたずらして、雪ん中に、奥深く沈められたり(あん時は、死ぬかと思った。マ
ジで.......)と、今まで、雪に対して、ロクな思い出がないし......
 そもそも、寒いのが大嫌いなあたしにとって(暑いのも嫌いだけど)この季節は、
思わず『火炎球(ファイヤーボール)』をぶっ放してしまうほど苦手なのだっ!
 これだけ揃ってて、降り続ける雪見て、『あら、ステキ(ハート)』なんて、言
える奴がいたら、そっちの方がおかしいやいっ!
 そ〜ガウリイに告げたところ、一応、こいつは、それ以上何も言い返してはこな
かった。
 なんか、変わりに、ひたすら首傾げてるけど........

 そのまま、ガウリイはひとしきり首を傾げていたが、やがて(思考を放棄した
か)、笑顔をこちらに向け、
「まっ、でも、たまにはいいじゃないか。朝から雪が降ってたって、さ」
「いったい、何がいいっていうのよ......」
 彼にジト目を向けつつ、言うあたし。
 ガウリイは椅子から立ち上がると、窓辺にいるあたしの隣りまで歩いてきて、
「こ〜いう寒い日は外にも出れんし、たまには2人して、家でのんびりヌクヌクし
てよ〜ぜ」
 あたしの肩にポンと、手をのせ続ける。
「リナ........いろいろ忙しいのは解るけど、息抜きも、たまには必要だろ?
 ど〜せなるよ〜にしかならんのだから、時には、何も考えずにくつろぐのもいい
もんだぞ」
 くすり。苦笑が、あたしの顔に浮かんだ。
 どうやら今回は、ガウリイの言葉が正解のようである。
「へぇ〜〜」
 言って、しげしげとガウリイの顔をのぞき込む。
「な、なんだよ......いったい?」
「いや〜、あんたにしてはめずらしく、そんなにマトはずれじゃないセリフを言う
なぁ〜 な〜んて、思ってね」
「........おひ......それは.....ど〜いう意味だ....?」
 別に、言葉そのまんまの意味で受け取ってもらって構わないぞ。
「さて、と.......
 じゃ、今日はこれから何しましょっか?」(クルリ)
 あたしは、隣りにいる彼の方へと向き直り、問いかける。
「決まってんだろ?」
言って、彼は、小さな笑みを浮かべ・・・そのまま、そっと、あたしの肩を引き
寄せる。

 窓の外では、雪が静かに積もっていた。
 
                 ◇◇◇◇◇

 気楽な旅もいいけど、こ〜いう生活もなかなか悪くないかも?
 などと思っている内に、いつの間にか、かなりの月日が流れ去って行った。

 そして──
 この家で暮らし始めてから1年──

 あたし達の、のどかな暮らしとは反比例して........
 国々に広がる不安。とどまる気配を見せない、デーモンポコポコ発生事件。増加
する人々の変死。しだいに人前に姿を見せ始めた、異形の者達。
 ──いよいよ魔族達の動きが活発になってきて、エルフ達の村でも、竜達も警戒
を深めて行く中。
 あたし達の前に、再び、ルークとミリーナの二人は姿を表したのだった。
 リアルな各地の、シャレにならない情報を持って──

 ──その瞬間──
 あたしは、この、穏やかな生活が終わりを告げたことを知った。

                 ◇◇◇◇◇

 再開した、ルーク&ミリーナの話を聞いた後。
 あたしはその場で、明日の出発を、みんなに告げた──

 その夜、あたしの部屋で....... てっきりもう、先に眠った。と、ばっかり思っ
ていたガウリイは、あたしを待っていた。
「なあ......おまえ........何、悩んでんだ?」 
 あたしを軽く抱き寄せた、ガウリイの声が、頭上から聞こえてくる。
 トクン....... 心臓が、小さな音をたてる。
 こ〜やって、彼の胸に顔をうずめることに、この1年で、いつの間にか慣れてし
まっていた自分に、改めて驚く。
 まあ、慣れない初めの内はあわてまくって、『なにすんのよぉぉぉおっ!』とか
叫びつつ、攻撃呪文やら、スリッパ攻撃やら、蹴りとかかましてたりしたけど....
 いや〜、つい。テヘ。 
 これも、乙女のは・じ・ら・い。って、やつよね(ハート)
(ガウリイ、ゴメン.......)
「何でもない。って言っても、通じないわよね」
 きっと.......こいつには、隠し事は通じないんだろ〜な。
「あたりまえだろ。ほら、言ってみろよ。とことん聞いてやるから」
 やっぱし、ごまかされてはくんないようだ。
 事態が動き出してしまった以上、知らないふり、も........もう、おしまい、な
のだろう...........
「ん.........」
 そ、だね.......あたし一人の問題じゃない..........
 そして──
 あたしは......ゆっくりと、口を開き──語り出す。

 この1年間、あたしがずっと抱え続けていた、心の闇の正体を。

                 ◇◇◇◇◇

************************************
一応、この次でラストです。
ここまで、読んでいただけた皆様。本当にありがとうっ!


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4881約束の言葉7(最終章)Milk E-mail URL9/26-09:54
記事番号4880へのコメント

   * 約束の言葉7 *         〜 優しい日々 〜
                         Milk

「ガウリイ.........もう一度、旅に出ることが決まった以上......
 あんたには、言っておかなきゃいけないことがあるわ........」
 ..........言いたくは.......なかった。出来れば一生。
 でも.......もし、最悪のことを考えた場合..... 一番危険なのは、彼なのだ。
 そうである以上──ガウリイには、知る権利がある。
「.............」
 ガウリイは、無言のまま、あたしの言葉に耳を傾けてくれている。
 あたしは......それに、少しだけ、救われたような気がして、言葉を続けて行
く。
「..........もし........あたしが、あの『レゾ』のように......
 魔に乗っ取られてしまったら.......そうしたら........お願い..........」
 我ながら......情けない。とは、思うけど....
 とても、その先の言葉は、ガウリイの顔を見て言うことは出来なかった。
 胸に、顔をうずめたそのままで、彼に最後の言葉を告げる。
「..............」
 あたしの背に回された、ガウリイの手がこわばる。
 彼の動揺の気配が、そのままあたしへと伝わってくる。
「.......どうして........?」 掠れた声。
 問いが、ガウリイの口からもれた。
 あたしは、ゆっくりと、彼から自分の体を離し、そのまま、顔を上に向ける。
 とまどいの表情でこちらを見ている彼と、目が合った。
「あなたは........多分、忘れちゃったと思うけど......
 今から.......1014年前、魔族達と、この世界に生きる全ての者達が戦っ
た、『降魔戦争』っていう、大戦争が起こったの.......
 この戦いを起こしたのは、この前滅びた冥王フィブリゾなんだけど、この戦争
も、戦いも、全ては、ある目的のために行われたのよ」
「.......目的.......って?」
「人の心の内に封じられた、魔王のカケラの一つを呼び覚ますこと......よ....」
 それは、異界黙示録があたしに語った真実。
 今は『北の魔王』と呼ばれ、1000年前から氷の中で眠り続けている存在が、
まだ、人であった頃の名を『レイ=マグナス』と言う──
 あの、『竜破斬』の生みの親であると同時に、比類無き魔道の才能と魔力をよ
うした存在。
 かって、竜族の長老ミルガズィアさんは、あたしに言った。
 赤の竜神がかけた魔王の封印は、人の心、と、いう、不安定なものを核として
かけられているため、完全なものではない。何かの拍子に弱まることもある
と.....
 封じられた存在は、滅びこそしていないが、この世界に力を現すすべが無くな
ってしまう。かって、この地に張られていた神封じの結界のために、あたし達が
住む地域では、1000年の間、神の力を用いた呪文。神聖呪文が使えなかった
ように......
 おそらく、レイ=マグナスが魔王の力を借りた呪文、竜破斬を生み出した時。
すでに、彼の内にあった魔王の封印は綻び初めていたのだろう........
 そして.......冥王は.......気付いたのだ......魔王のカケラを持つ人間に──

 異界黙示録は、あたしに教えてくれた──
 魔王の封印は、赤の竜神の最後の力。すなわち、神の魔力でかけられている。
そして.......魔力(チカラ)に劣る人間では、この封印に影響を与えることなど不可
能だと........
 だが.......赤の竜神にも誤算があった。
 光と闇。神と魔の力は互いに打ち消し合う。それは.......たとえ、赤の竜神
の力といえど、例外ではない。また、神は魔の力を使うことができず。同時に、
魔は、神の力を使うことができない。
 しかし.......『呪文』を生み出した人間には、できるのだ。それが.......
 そして──時には、人間の中にも、神や魔の予想を超えるほどの力を持ったも
のが生まれてしまう。と、いうことを──
 ........今から3年前に目覚めた、2つ目の魔王のカケラが眠っていた男、レ
ゾもまた.......すさまじいばかりの魔法容量(キャパシティ)を持っていた。
 それだけじゃない。彼が、魔王として目覚めた直接のキッカケは.......?

 あたしは、異界黙示録に尋ねた──
 1000年前の情報と、3年前.......かって、自分がこの目で見た事実から
組み立てた予想とを。
 もし........赤の竜神が想定した以上の魔力を、外部的な要因によるものも含
めて、魔王のカケラを宿した人間が行使した場合..........封印に影響は無いの
か? と──
 まず、考えられないが............
 ──ありえないことではない──
 そう、異界黙示録は答えた。

 ミルガズィアさんは疑っている。あたしが、封じられた魔王のカケラの内の一
つではないかと。
 そして、あたしは..........ずっと、疑問に思っていた。
 別に、襲って欲しいわけじゃぁないが........
 なぜ、──例え、『あの計画』の大本である冥王が滅びたとしても──魔族達
は、『重破斬』を使うことのできる、あたしを放っておくのだろうか? と。
 それだけじゃないっ! 覇王の元で、今回の一連の騒動を引き起こしていた覇
王将軍シェーラが、なぜ、ああもアッサリと滅びたのか? 最後に、あたしに笑
みを見せながら.........
 
 それら、全てのことを合わせた時、導き出される答えとは.........

「よ〜わからん」
 ベテっ! ガウリイの、ミもフタもない一言に、あたしは、そのまま、床に激
突したのであった。いたひよ〜
「だぁあああああっ! あんたねえっ! ここまで、条件をいろいろ説明してお
けば、出てくる結論は一つしかないでしょ〜がぁっ!」
 その場で、床の上に膝をつきながら、抗議するあたし。
 まあ.......あんまし、自分でも認めたくないけど.........
「でも、わからんもんは、しょ〜がないじゃないか」
 アッサリ言うなよ......... ったく、こひつは.......
「だ・か・らっ! ........もしかしたら........ これから先の魔族達の動き
しだいでは、あたしが魔王になっちゃう可能性もある。って、ことよ.........
 まあ、それは、あくまでも最悪の可能性だけど........」
 重い口調で告げたあたしとは対照的に、ガウリイは、気楽に腕なんぞ組みつつ、
「深刻な顔して何だと思えば...........
 いいじゃないか、盗賊殺し(ロバーズキラー)だの、ドラマタだの、破壊神だの、自
然保護団体の天敵だの、すでに、これだけいろいろ言われてるんだから、今更、
その中に『大魔王』の呼び名が加わったって。そんなに、気にすることないと思
うぞ。ウン。
 第一、人目、というか、外聞を気にするなんて、全くおまえらしくないぞ、リ
ナ」
 あっさりと言って、あたしの肩に手を置いたりしている。
 ............おひ................ 
 もしもし.....なんか、論点がずれてるんですけど?
 思わず脱力しつつ、彼にジト目を向けるあたし。
 ああ........あたしも、ここまで脳ミソが無かったら、今、悩むこともなかっ
たんだろーな。なんぞという、ラチもない考えが、一瞬、脳裏をよぎる。
(それはそれで、かなり、イヤかもしんないが)
「な、なんだよリナ。その目は......」
「なんだ、じゃないわよ.........ったく..........」
 ふうっ。小さく一つため息をつきつつ、あたしは、床から身を起こし、ベット
の上へと腰を下ろす。
「いいわ、あなたにも理解できるように、もっと単純で簡単に、もう一度説明す
るから..........」
「ほいほい」
 気楽に言い、部屋の隅に置いてあった椅子を持ってきて、あたしの前に座るガ
ウリイ。
 なんだかなぁ〜 こいつと話していると、全てが単純気楽に思えるぞ。
「今、魔族達が何だかやってるのは、あなたも知ってるわよね?」
「ああ」
「んで、魔族達は今、約1000年前の降魔戦争の時と同じことをしてるわけ。
だから、その目的も多分同じと考えられる。と、いうわけよ。
 ここまでは、いいわね?」
 コク、コクうなずいているのを確認して、あたしはさらに話の先を続ける。
「結局、その目的というのは、人間の中に封じられた魔王のカケラの一つを呼び
覚ますことで.........
 魔王が封印されている人間は、封印の効力が弱まるに従い、強い魔力が現れる
ことと、その魔力を使う度に、ますます封印が弱まり、また、同時に、身の内に
ある魔王の影響を受けやすくなる仕組みになっているの。
 つまり、魔族達から襲われたりして、しょっちゅう『魔』と関わっていたり、
常人並以上の強い力を使えば使うだけ、神の力は弱まり、封印は脆くなるわ。
 そして............それこそが、魔族達の狙いでもあると思うの」
「て、ことは、結局どうなるんだ?」
 彼の言葉に、あたしは、一呼吸おき、肩をすくめて答える。
「なんか.........魔族達の動きや、様子から察するに........
 もしかしたら........あたしの中にも、その魔王のカケラとやらが封じられて
て、それで、その封印を解こうと、今、魔族達はやっきになって、計画をちゃく
ちゃくと進めている。って、ことかもしんない。
 と........いう、話よ.......... 解る? その意味が?」
「.....................」
「わ・か・っ・た・の? ガウリイ」
 再度、尋ねたあたしに、ガウリイは、唖然とした口調で言う。
「あ.......ああ、まあ、大体は........でも..........それって.......」
「まあね.........信じらんないほど、大事(オオゴト)な話よ。これは。
 もし........本当に、あたしの中に魔王のカケラがあるとすれば.......
 魔族達が動き始めている以上──すでに、封印がゆるみ初めている可能性もあ
るし........
 なんか、ミルガズィアさんの話では、あの冥王は、人の輪廻を『視る』力を持
っていたらしいわ.........まあ、あいつは、もういないけど、もし、あいつと
同じ種類の力を持った魔族がいたとしたら。
 たとえ、あたしが一度死んで、生まれ変わっても、また付け狙われる。
 文字どおりで、死んでも逃がさない。的状態になるかもしんないわね」
 それだけじゃない。もし、他の誰かが、このことを知ったとしたら.........
 あたしを狙う存在は、魔族だけではなくなるかもしれないのだ。
「さて、ガウリイ? ここであなたには、2つの選択肢があります」
 さすがに、話の重大性に気付いたか。その顔に、やや、驚きの色が見てとれる
彼に向かって、指を2本立てて見せる。
「まず、その1 あなたは........ここで、全てを忘れて舞台から降りる。
 今なら.......まだ、あなただけなら降りれるはずよ。
 次、その2 万が一の時、あたしを止めるために、これからも付き合う.....
 さて、どっちを......」
「オレは、その3 おまえにトコトン付き合って、これからも保護者を続ける。
 を、選ばせてもらうよ」
 ...............
 ガウリイが、あまりにも、アッサリ即答したため.......
 一瞬──言葉の意味が、すぐには、つかめなかったが。
「い.......いいの....? それで.......
 な、なんか、3秒で、これから先の人生決めちゃって」
「いいも何も.......おまえなぁ。
 魔王のカケラうんぬんの話も、まだ、おまえだ。って、決まってるわけじゃな
いんだろ?
 だったら、何も問題ないじゃないか。どうせ、今までだって、トラブルごとの
一つや二つ、いつも抱えてたわけだし」
「で........でも.......
 もし。このことが、世間様に知られれば.......きっと、人間達だって、あた
しの敵にまわるかもしれないのに.........?」
 そうなれば、ガウリイにだって危険は及ぶ。それに、もし『万が一』が、本当
になった場合は、これ以上危険なことなんてないっ!
 そんな可能性のある人間と、これから先ずっと付き合うなんて、考えられない
ことだ。そう........普通の人間ならば.......
 だが──
「おまえなら大丈夫だよ。それに、そんなことは、絶対にさせない。
 だから.......いいじゃないか。今のままで、ずっと.........
いつか約束しただろ、リナ?
 これから先も、ずっと.........おまえに付き合う。って」
 あ............
 まだ、覚えてて.....くれたんだ。
「................」
 ──言葉につまる。
 正直言って.......とても、嬉しかったから..........

                  ◇◇◇◇◇

 窓から、淡い、月の光が差し込んでくる──
「なあ.......リナ?」
「ん?」
 すぐ近くで感じる気配と、淡い光だけを頼りに、彼の方へと顔を向ける。
「また........いつか........
 ゴタゴタが、何もかんも全部終わったら.......」
「終わったら?」
 おうむ返しに尋ねるあたし。
「また、この家に、帰ってこれたらいいな」
 ...............
「そ........だね..........」
 そう........いつか、また。きっと──
 あたしの髪を優しくかき上げる、彼の手のぬくもりを感じながら──
 あたしは、心の中でつぶやいていた。

 窓の外では、優しい夜風が、木々の葉をなでて行く。
 夜空に瞬く星々と、木々の葉ずれのささやきとを感じながら、あたしは、穏や
かな眠りへと落ちていった。
 夕方よりも、だいぶ軽くなった心と.......安堵の思いを胸に抱きながら.....

                 ◇◇◇◇◇

 次の日──

「じゃあ、出発っ!」
 あたしの号令いっか、目的地に向かって歩き出すあたし達。
(まあ、ルークは、二日酔いでガンガンする頭を押さえつつ『大きい声出すな』
だの、『おまえが仕切るな』だのと、ぶつぶつ言ってたけど.........
 で.....おまけに、ミリーナに白い目で見られていたことも、付け加えてお
く)
「でも、リナ? これからどこ行くんだ?」
 あたしと並んで歩きながら、ガウリイが聞いてくる。
「あんたねえっ! また、人の話を聞いてなかったのっ!?
 さっき説明したのに.........もうっ!
 特別にもう一度だけ説明してあげるけど.......解んないんだったら、あんた
は、黙ってついてくればいいのっ!」
「わかった、そうする」
 あたしの言葉に、アッサリうなずくガウリイ。
 はい。素直で結構。
「とりあえず、ディルスに行って、それから、ラルティーグ王国内にある街に行
くから.........
 それから先のことは、まあ、目的地についてから、おいおい考える。って、こ
とで.......」
 歩きながら、これから先の予定をざっと説明していく。
 でも.....いつまで、こいつが覚えていられるかは謎だが.........

   あたしは......一度しか言わない。側にいてよ──ずっと.......
   ああ、解ってる。約束するよ.........
   どうせ......あんたのことだから.......すぐ、忘れちゃうんじゃない?
   忘れないよ、絶対に

 ふと、脳裏に、言葉と共に、『あの時』あたしが選んだ選択が浮かび上がる。
 本当のところ──
 あたしはまだ、あの時、自分でも、恋や愛と言った感情はつかみきれていなか
った。
 だが.........
 ──あの時──
 あたしには、失いたくないものがあることに、気付いたから........
 
 とにかく、今は、各地でいろいろやってる魔族達の動きを潰してゆくことっ!
 そして──いつかは、この計画の大本魔族とも、対決しなければいけない日が
くるかもしれない。
 だが..........負ける気も、死ぬ気もなかった。
 魔族達の計画。と、やらを、徹底的にぶちのめすっ!

 もう、あたしは..........そう、決めていた──
 人間や、多くの生き物達や、この世界のためだけではない。
 何よりも──
 あたし自身の未来のために──

 カチャリ。
 あたしのポケットに納められている鍵が、小さな音をたてた。

 ──あたしの帰る家の鍵だ──
 2つあるこの鍵のもう1つは、今、ガウリイが持っている。

                〜 約束の言葉 <了>  Milk 〜

********************************

一応、これでラストです。
この話書く時の目的、ラブラブで行こうっ! を、ちょっとは果たせたかな?
(心配・・・)

ちなみに、この続きで、リナ達が魔族達の陰謀? に立ち向かうっ!
みたいな話で続編があるのですが・・・・・
ハッキシ言って、気が遠くなるくらい長いです。
ははははは、自分でも、こんなん書くか? おまえは? と、つっこみいれる
くらい、長い上にくらいっ!

一応、HPに順次のっけてこっかな?


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4882すばらしいっっ!ようこ E-mail 9/26-10:54
記事番号4881へのコメント
読ませて頂きました♪ しかし…、すっごいですね。
めちゃめちゃ本格的じゃないですかあ。
ガウリイとリナのらぶらぶもすごく自然だったし…。
わたしも今ちょっと書いてるんですけど、どうしたら自然に二人をらぶらぶにするか、と言うことに気を遣いっぱなしです。
わたしまだまだだったわ…。精進いたします。
素敵なお話ありがとうございました♪

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4939ようこ様ありがとうございますMilk E-mail URL9/28-07:09
記事番号4882へのコメント
ようこさん、始めまして。Milkといいます。

コメントありがとうございます!
時刻を見てみると・・・す、素早い・・・嬉しかったです。とっても。

>ガウリイとリナのらぶらぶもすごく自然だったし…。
そう言っていただけると、すっごく嬉しいです。

今、ようこさんもガウリナ書いてらっしゃるんですか?

もし、ここにUPする予定があるなら、楽しみにしてますっ!
ガウリナは読んでて幸せ(ハート)

この二人って、すでに、一緒にいるのが幸せ。二人で1セット。
みたいなとこがあるから、わたしもいっつも、もどかしい思い
させられてたりして。
う〜ん、本気で、早くくつっいて欲しいような、でも、変わってしまう
のも少しさびしいような?
複雑・・・・

>素敵なお話ありがとうございました♪
こちらこそ、コメントありがとうございました。

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4915感想です♪マミリンQ E-mail 9/27-13:28
記事番号4881へのコメント
はじめまして、マミリンQと申します♪

すごくシリアスで奥が深かったです!!
読みごたえありました〜〜。
それにラブラブでしたし。(はぁと)

どうもありがとうございました♪


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4940マミリンQ様ありがとうございますMilk E-mail URL9/28-07:10
記事番号4915へのコメント
はじめまして、マミリンQ様。

コメント、ありがとうございます。

>すごくシリアスで奥が深かったです!!
>読みごたえありました〜〜。
きゃ〜、嬉しい。
そう言っていただけると、本当に、くうううっ! やったあああ!
と、ディスプレイの前で、思わず握りこぶし作ってしまうくらいに嬉しいです。

>それにラブラブでしたし。(はぁと)
この話の中で、実は、二人共、キスシーンも書いてなければ
「愛してる」はおろか、「好き」の一言すら言わせていないという・・・・・・
それでも、ラブラブに感じ取っていただけて良かった。

(ハッキシ書いてないけど、想像しだいでは、実は危ないシーンとかもあったり
しますけど・・・は、ははは(^^; ご、ご想像にお任せします)

>どうもありがとうございました♪
こちらこそ、ありがとうございました。

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4946Re:マミリンQ様ありがとうございますマミリンQ E-mail 9/28-13:08
記事番号4940へのコメント
あまり長くなるとどうかと思ってしまうので、これだけでも!

>(ハッキシ書いてないけど、想像しだいでは、実は危ないシーンとかもあったり
>しますけど・・・は、ははは(^^; ご、ご想像にお任せします)

そうでしたか、やはり。(邪笑)
おバカな私は具体的なものが必要なのですが、(ニヤリ)
想像は始めると止まることを知りません。(爆)

うふぅ、うふふふふふふ。(邪)

では!!

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5003Re:マミリンQ様Milk E-mail URL10/1-07:24
記事番号4946へのコメント

>>(ハッキシ書いてないけど、想像しだいでは、実は危ないシーンとかもあったり
>>しますけど・・・は、ははは(^^; ご、ご想像にお任せします)
>
>そうでしたか、やはり。(邪笑)
書けないようなことを、想像して下さっても一向にかまいませんよ(ニヤ)

>想像は始めると止まることを知りません。(爆)
ラブラブな二人を、いっぱい想像してくださいね。
ちなみに、Milkはすでに壊れています。

>うふぅ、うふふふふふふ。(邪)
ふっふふふふふふふふふ(ニヤニヤ)

だって、ラブラブを書いてみたかったんだもん!

では、また。

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4904はじめまして&すごく良いですまるたんぼう E-mail 9/26-23:29
記事番号4875へのコメント
ここに書き込むのも、コメントするのも初めてです。

う〜ん、とにかくなんか書かないと・・・(^^ゞ

まず、すごく良かったです。(^_^)
今まで色々な人の話を読んだ中で、一番ありがちな展開じゃないかと思えてしまいます。
この2人のつかず離れずの具合がちょうど良いというか、さりげないというか、何とも言えません。
読み終わった瞬間「これやっ!」なんて思ってしまいました。
自分自身では現時点で求めうる最高のものじゃないかと感じました。

えと、まだ続きがあるんですよね?
今後も期待してます(^_^)

それではご縁がありましたらまた(^_^)/~

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4941まるたんぼう様 ありがとうございますMilk E-mail URL9/28-07:11
記事番号4904へのコメント
はじめまして、まるたんぼう様。

「約束の言葉」にコメントありがとうございました。

>まず、すごく良かったです。(^_^)
どうもですっ! とっても、嬉しいです♪

>読み終わった瞬間「これやっ!」なんて思ってしまいました。
(*^^*) (*^^*) テレテレ
なんだか、この部分読んでて、ディスプレイの前で顔がニマニマ
しまくっております。
そこまで入れ込んでいただけると、書いたこっちの方も、良かった〜
って、ほんとうに思います。

この二人って、もう、お互い一緒にいることが当たり前みたいな関係に
なってしまっているから。
この際、誰かが、がつぅぅぅぅ〜〜んと、言ってやらないとっ!
いけいけミルガズィアさん、ミリーナ、もっと言ってやれぇ〜っ! 私が許す!
とか、書いてる途中に思いつつ、つい、暴走しそうになった記憶が・・・・

>えと、まだ続きがあるんですよね?
>今後も期待してます(^_^)
うっ・・・・・これ、やったらめったら長いんですよ・・・・実は・・・・
(ツリーを3回くらい沈ませないと、終わらないかも? (^^; )
あの家から出たリナ達と、魔族達のドンパチの行方は?
んで、リナとガウリイはこの先どうなってゆくのか?
みたいな話なんですが、あ、あまりにも重くって・・・・・・すでに、行き着くとこ
まで行ってる! みたいな感じかも?

い、一応、HPの方にはすでにいくつかUPしてますので、気が向いたら、覗いて
やって下さいませ。

>それではご縁がありましたらまた(^_^)/~
はい。
コメント、本当にありがとうございました。

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4962約束の言葉の感想♪ちび☆ E-mail URL9/29-11:26
記事番号4875へのコメント
どうも、ちび☆です。
遅くなりましたが、感想ですっ!

いきなりエプロン姿のリナちゃん(ラブリー♪)、いいですねぇ。
鼻歌まじりに夕食作るとことか、「お帰り」の科白。
何かいきなり所帯じみている気がするのは私だけ?(でも可愛い♪)
でも口の減らないルークに対する仕打ちとかはリナらしくって大笑いしました!
ルーク君、不幸っ♪
(この科白は某TRPGの某見習い騎士君に対する決めセリフ調でお読みください……って、知らなかったら訳わかんないですね(^^;)

で、最初の明るい雰囲気から一転、シリアスになってしまいますよね。
もう、気になって気になって。
そして少しずつ明かされていく、リナ達の過去。
ミルガズィアさんの言葉をきっかけに、これからの未来像を描いた2人。
それぞれに自らを鍛えながらも、楽しい毎日が過ぎていって。
そんな幸せそうな生活の中、密かに立ち込めていく暗雲……。
はらはらどきどきさせられっぱなしでした。もう、素晴らしいですっ!

最後の、「2人が帰る家」のくだりがものすごく好きですっ!
……ちゃんと帰って来れますよね、2人とも。
という訳で、続きの「契約の言葉」楽しみにしてますっ!
頑張ってくださいね♪(特大はぁと)

あぁ、長くて素晴らしい話に短くてくだらない感想で申し訳ないです(笑)。
それではっ☆

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5001感想ありがとう、ちび☆さんMilk E-mail URL10/1-07:18
記事番号4962へのコメント
ちび☆さん、感想ありがとうございました。

>いきなりエプロン姿のリナちゃん(ラブリー♪)、いいですねぇ。
>鼻歌まじりに夕食作るとことか、「お帰り」の科白。
>何かいきなり所帯じみている気がするのは私だけ?(でも可愛い♪)
↑の部分を書いている時の、私の頭のイメージが、リナちゃん達の新婚生活♪
きっと、本人意識してなくっても、幸せ(ハート)だったんじゃないかな。
けっこうリナちゃんって、家庭的な部分もあるような気がしません?

>ルーク君、不幸っ♪
>(この科白は某TRPGの某見習い騎士君に対する決めセリフ調でお読みください……って、
>知らなかったら訳わかんないですね(^^;)
私はTRPGの方は読んでないけど、小説の方は読んでますよ。
まあ、ルークだからいいかな〜って・・・・
(ああ、ルークファンの方、ごめんなさい・・・(^^; )

>で、最初の明るい雰囲気から一転、シリアスになってしまいますよね。
>もう、気になって気になって。
ちょっぴし意表を・・・・と、いうことで、冒頭にあれを持ってきました。
ちなみに、1章でリナちゃんを抱きしめたガウ君が、過去シーンの間で、
リナちゃんにボコボコにされていた。
とかなってたら、ギャグだな・・・・・(それは、あんまりなよ〜な気も?)

楽しんでいただけたみたいで良かった!

>最後の、「2人が帰る家」のくだりがものすごく好きですっ!
>……ちゃんと帰って来れますよね、2人とも。
さぁ〜て・・・・(ニヤリ) ←意味不明の笑い。

とりあえず、すんごく苦労しそうですね。2人とも。
がんばってもらいましょうっ!
(鬼か? >自分)

続編、がんばって書きますので、気長に付き合ってくださると、
とっても嬉しいです。

コメント本当にありがとうございましたっ!

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5082はじめまして&約束の言葉の感想ティーゲル 10/4-17:41
記事番号4875へのコメント
ども、はじめまして。ティーゲルと言うものです。いや、いいですわこれ自然な感
じで。
たしかにあの二人あれぐらい刺激しないと進展しない・・・・・・
おもわずHPまで「契約の言葉」読みに行っちゃいました♪
他の人も書いてましたが、ほんと二人は家に帰れるんでしょーか?(なんか道に迷
っているよーだ・・・・・)
短くて(しかも遅くて)恐縮ですが、これにて感想終わります。(契約の言葉その
9がすごく気になるぅ〜!!)