◆-優しい気持ち(1)-T−HOPE(9/26-22:19)No.4901
 ┣優しい気持ち(終)-T−HOPE(9/26-22:34)No.4903
 ┃┣Re:優しい気持ち(終)-三里桜架(9/27-00:20)No.4905
 ┃┃┗三里桜架様、ありがとうございます-T−HOPE(9/27-21:51)No.4928
 ┃┗切な〜い-水城守(9/27-21:54)No.4931
 ┃ ┗水城守様、ありがとうございます-T−HOPE(9/27-22:17)No.4933
 ┗二つの形見(1)-T−HOPE(9/27-21:58)No.4932
  ┣二つの形見(2)-T−HOPE(9/27-22:24)No.4934
  ┃┗二つの形見(3)-T-HOPE(9/28-09:49)No.4943
  ┃ ┗二つの形見(終)-T-HOPE(9/28-12:47)No.4945
  ┃  ┗まとめて-東智華(9/30-22:21)No.4988
  ┃   ┗東智華様、ありがとうございます-T−HOPE(10/1-22:37)No.5012
  ┗三人目の嵐(1)-T−HOPE(10/1-22:33)No.5011
   ┣三人目の嵐(2)-T−HOPE(10/1-23:38)No.5013
   ┃┗三人目の嵐(終)-T-HOPE(10/2-16:21)No.5031
   ┃ ┗やさしい気持ち、二つの形見あぁーんど三人目の嵐-理奈(10/3-07:44)No.5039
   ┃  ┗ありがとうございます〜-T−HOPE(10/4-09:50)No.5066
   ┗撫子-T−HOPE(10/4-09:58)No.5067
    ┣全部楽しみましたわ-庵 瑠嬌(10/4-17:44)No.5083
    ┃┗Re:全部楽しみましたわ-T−HOPE(10/5-10:11)No.5114
    ┣だぁぁぁぁっっ!!-ひなた(10/4-23:29)No.5108
    ┃┗Re:だぁぁぁぁっっ!!-T−HOPE(10/5-10:16)No.5115
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4901優しい気持ち(1)T−HOPE E-mail URL9/26-22:19
記事番号4835へのコメント
 使い回しですが・・・続きです。
 やっとゼロス君出てくるしーっ。

○○○○○○○○○○○

    優しい気持ち(1)


 村外れの小さな家。小さいながらも清潔に整えられた部屋のベッドの上に、華奢な体つきの少女が白い顔で横たわ
っていた。
 栗色の長い髪。珍しい、紅の瞳。愛らしい顔立ちの少女は、何の気配を感じ取ったか、ゆっくりと身体に負担をかけな
いように身を起こし……。
「…………!?」
「いやぁ、さっすが鋭いですね、リナさん。お久しぶりです♪」
「な…………っ」
 ベッドの上で、少女はざっと飛び下がった。
「ゼ……ゼロスっ!」
 紅の瞳が、枕元にいきなり現れた影のような男を見据えていた。
「……いやだなぁ。そんなに驚かれると、傷ついてしまいますねぇ」
 闇色の髪、夜色の瞳。細い月のような白い肌。
 日の光が似合わない色彩の男は、ニコニコ笑いながら少女に近づいた。
「だぁぁっっ。傷ついて、ぢゃぁないっ。
 あんたねぇ、危うく、あたしのか弱い心臓が止まるところだったじゃないのっっっ」
 一瞬前の、儚げな印象を何処か別空間へ放りこんで、少女ががなりたてた。
「はぁ……か弱い、ですか? リナさんが?」
「あによ。何か文句あるってーの?」
 鋭く睨まれて、男は、ふるふるとかぶりを振った。
「いえ……とんでもない。確かにか弱いですよね、“今の”リナさんは」
「…………!?」
 かつて――といっても、十年ほど前――盗賊殺しだのドラまただの魔を滅ぼす者だのと散々に呼ばれた少女、リナ=
インバースは、ハッとしたように目を見開いた。
 リナも既に二十九。到底少女という年齢ではない筈だが……十以上は若く見えた。まるで、時が止まっているように。
 けれど、永遠なんて存在しない。その場にいた二人とも、それをよく知っていた。
「……あんた、知ってるの?」
 リナの、静かな問い。
 魔王の五人の腹心の一人獣王に仕える神官、ゼロス。黒い僧衣をまとった彼は、かつてリナと見えた時と全く変わら
ない姿のまま、ゆっくりと頷いた。
「もっと早く気がついてもいい筈でした。
 あなたは呪文によって世界の因果律を狂わせ、強大な力を操った。その影響が、人間であるあなたの身体に及ぶで
あろうことを……」
「あたしってば、赤眼の魔王どころか、あぁんな存在の呪文まで使いまくってたしねぇ……あははは」
 あっさり笑い飛ばすリナに対し、ゼロスは、「はぁ」などととぼけた返事を返した。他に言い様がなかったらしい。
「ま、笑い事じゃないけどね。
 でも実際、もうどうしようもないことだわ。ここ数年、できるだけ呪文使わないようにおとなしくしてたけど、それでもどん
どん弱ってくの判ったし……寿命、ってやつでしょ」
「あの……リナさん」
 相も変わらぬニッコリ笑顔の獣神官が、すい、と、前に出た。
「僕と契約を……結びませんか?」
「いや」
 身も蓋もないほどすっぱりと、リナは言い切った。
 ゼロスが、笑顔のまま、それでも焦ったような雰囲気を漂わせる。
「あぁぁぁぁっ、あの、魔族になってくれというのではなくて、不死の契約なんですけどぉ……」
「いやだってば」
「重破斬唱えろなんて言いませんよぉぉぉ」
「そいでも、いやっ」
「リナさぁぁぁん……」
 困ったような笑顔で、ゼロスは、リナの手を取った。
 そして、ふと、真面目な表情になる。
「リナさん……一緒に滅んで下さい」
(……あのなぁぁぁぁ……)
 リナは、頭を抱えた。
 一応、それでも、こんなんでも、求婚の言葉……なんだろう、多分。
 魔族にとっては滅びが正義。どれ程そう見えなくとも、目の前の相手は、純魔族。それも、五人の腹心に次ぐ力を持
つ、上位魔族なのだから。
 けれど、判っていても、今のは力が抜けた。
「……まぁ、あんたに、『一緒に生きて下さい』なんて言われた日には、それこそ怖いけど……さぁ」
「リナさん。その言葉、僕としては、結構キツいものがあるんですけど」
 リナは、柔らかく微笑んだ。
「わぁかってるってばっ。……でもねぇ、正直なとこ、あたし、その申し出受ける気ないの。悪いわね」
「何故ですか?」
「んー……。なんとなく」
 がっくり。
 そう背後に擬音を背負って、ゼロスが肩を落とした。
「なんとなくって……何なんですか」
「いやー。あたしってば、これまで、結構好き勝手やってきたじゃない? どんな呪文唱える時だって、そう。
 そのツケがまわってきたところで、今さら後悔だなんて似合わないこと、できないし、する気もないからね。だから、わ
ざわざ不死になってまでこれからも頑張ろうだなんて、思えないんだわ」
「でも……」
 何か反論しようとしたゼロスに、リナは軽く頷いた。
「うん。そんなんでいーのかって気も、どっかでしてるけどね。あたしらしくないんだか、あたしらしいんだか……自分で
も判んない。
 で――あと、ね。あたしってば、どうしたって人間以外の者になれないから……」
「なってくれなんて、言いませんよ?」
「うん。あんたは言わないでしょーね。ただ、気分の問題よ。今先刻だって、あたしとゼロスの間には、ギャップがあった
じゃない?」
 きっぱり言い切るリナに、ゼロスは小さく溜め息をもらした。
「本当に……もう、後悔はないんですか?」
「ないこた、ないけど……」
 キラリン。
 ゼロスの、猫のように細められた柔和を装った瞳が光ったのを、リナは見たように思った。
「……あたしが“けど”って言ったの、聞こえてた?」
「えー……。駄目ですかぁ?」
「だぁからねぇ……」
 と、リナが何か言いかけた時。


「ただいまっ、母さん!」
 バターンッと、元気にドアをぶち開けて、幼い少女の声が飛び込んできた。
「おクスリちゃんともってきたよぉ……って……あれ?」
 バタバタと駆けこんできた少女は、見知らぬ人間が家の中にいることに気づき、不思議そうに首をかしげた。
 十になるかならないか、だろう。
 漆黒の髪、母譲りの紅の瞳。同じく母の血を継いだ顔立ちは、十分に愛くるしい雰囲気を振りまいていた。
 リナが、にっこりと、母親の顔で微笑んだ。
「お帰り。ご苦労様」
「ただいまぁ……おきゃくさん?」
「そう。ほら、ご挨拶は?」
 促されて、少女は、にぱっと微笑んだ。
「こんにちは、おじちゃん。あたし、リナ。よろしく!」
「お……おじちゃん?」
 ゼロスが、一瞬、ぐらっと体を揺らした。それを意地悪い瞳で見ながら、リナ――大人の方の――が、軽く彼を小突い
た。
「ほれほれ。とっとと挨拶返しなさい。無視すんの、子供の教育上よくないんだかんねっ」
「え……こ、こんにちは、はじめまして、お嬢さん」
「あたし、リナよ」
「え……?」
 ゼロスの夜色の瞳が、一瞬、不思議そうに二人を見比べた。元々の方のリナが、小さく微笑んで、頷く。
「同じ名前なの」
「……ややこしいですよ、ちょっと。
 えーと、それでは、小さいリナさん。はじめまして。僕は、謎の神官ゼロス。ゼロス“お兄さん”と呼んで下さいねっ(はぁと)」
 どごんっ。
 リナの拳骨が、まともに上からゼロスの頭に下ろされた。
「い、いたっ、痛いですよ、リナさん!」
「どやかましいぃぃっ。なぁにが、謎の神官よっ。あたしの子に、妙なこと吹きこむんぢゃない!
 だいたい、誰がお兄さんだって? 千年以上生きてるじーさんのくせしてっ」
「いくらリナさんでも、じいさんはないですよっ」
「…………。……あー、判った判った」
 半分涙目で――当然演技だが――言うゼロスに、呆れたようにリナはぱたぱた片手を振った。
 そして、くるりと娘の方を振り向いた。
「ほんと、ご苦労様。じゃ、友達のところへでも、遊びに行ってらっしゃい」
「え? でも……ゆーごはんの、したくは?」
「そんなん、あたしがしとくわ。大丈夫よ」
「でも、母さんのからだ……」
 小さいリナは、少しだけ不安そうに首をかしげた。が、母親が、そんな少女に近寄り、頬を両手で挟んで顔をのぞきこ
んだ。
「だぁいじょぉぶだってばっ。あんたが持ってきてくれた薬もあるしね。今日くらい、あたしに作らせなさい。
 ――ゼロス。あんたも、食べてくんでしょ?」
 いきなり話をふられた獣神官は、細めた目で、「僕もですか?」などととぼけたことを聞いていた。
「そーよっ。あたしの、有り難くも勿体なくも手作りのおりょぉりっ。……食べない気?」
「いやー……いただきますけど、リナさん。毒なんて入れないでしょうね?」
 リナは、思わず半眼にした目で睨んだ。
「んなもん飲んだって、どーもしやしないくせに……。どうせなら、媚薬か何かでも入れてあげよーか?」
「そんなもの飲まなくたって、僕はリナさんが大好きですよ(はぁと)」
 ぼすっ。
 素早く飛んだ枕が、ニコニコ顔を直撃した。
「ったく。まともに相手したあたしが馬鹿だったわ。ほぉら、リナ。お馬鹿さんがうつる前に行った方がいいわよ」
「はぁいっ」
「……リナさん。それはちょっとヒドいですよ……」
 ぶつぶつ言うゼロスを尻目に、小さいリナはぱたぱたと駆け出していった。
「また、あとでね! ゼロスおじちゃん!」
「………………」
「夕飯までには帰ってくんのよ!」
「はぁい、母さん!」
 パタン。
 開いた時とは裏腹に、静かに扉は閉められた。
「…………。……可愛らしい、お子さんですね」
 ゼロスの台詞に、リナは誇らしげに笑って胸を張った。
「あったりまえでしょ、あたしの子なんだから!」
「……ということは、やっぱり胸は……」
 ごんっ。
「……何か言った、ゼロスぅ?」
「い、いぃえぇ、何にもっ。
 ……それにしても、ここ数日いなかったようですけど、あんな小さい子が、一人で何処まで薬を取りにいってたんです
か?」
「ん? あたしの実家。
 大丈夫よ、薬ができるの待ってたから遅くなっただけで、道程自体は一日で着く程度だから。それに、攻撃呪文の十
や二十は使えるよう、あたしがみっちり教育しといたかんねっ。
 ……って」
 はた、と、何かに気づいたように、リナは口を閉ざした。
「攻撃呪文の十や二十って……」
「ちょ、ちょぉっと待ちなさい!」
「はい?」
 何か言いかけるゼロスを遮って、リナの声がいきなり飛んだ。
 紅の瞳が、ぎんっ、と、相手を睨んでいる。
「あの子がここんとこいなかったの知ってるだなんて……あんた、もしかしなくとも、暫く精神世界面から覗き見してたで
しょう!」
 ゼロスは、頭をかいた。
「あ、気がついちゃいましたか? いやぁ、実はそーなんですよ。はっはっは」
「呑気に笑ってんじゃなーいっっっ」
 どげしっっっ。
 リナの飛び蹴りが、ゼロスに炸裂した。
「か弱い乙女が儚くも病床に伏してるってのに、そぉれを覗き見しようだなんて、天誅もんよっっっ!」
「……リナさぁん……何処ら辺がか弱い病人なんでしょぉ……」
「おだま……り……」
 なおも何か言いかけたリナだが、不意に、胸を押さえて崩れるように座り込んだ。
 ハッと真面目な顔に戻ったゼロスが、幾分慌て気味に手を伸ばしたが、リナは苦しげな微笑みを浮かべて首を振った。
「リナさん?」
「だいじょぉぶ。今、復活かけたから」
 ホッと一息ついて顔を上げたリナを、ゼロスはそっと抱き上げて、ベッドに戻した。
「……料理……僕が作りましょうか?」
「……結構よ」
 嫌そうな顔になったリナに、ゼロスは小さく微笑みかけた。
「はぁ、そうですか。……それにしても、リナさん、復活使えましたっけ?」
 リナは、肩をすくめた。
「シルフィールにたたっこまれたのよ。
 子供産んだ時点で、あたしの身体もうかなりヤバいの判ってたしね。すこしでも保たせるためにっつって」
「小さいリナさんのために、ですか? ……それでも、やっぱり……」
「契約はしないわよ」
 はぁ……と、深々とゼロスは溜め息をついた。
 リナは、幾分血の気が戻ってきた顔で、いつものように明るく笑った。
「あの子なら平気よ。そーゆー風に、このあたしが育てたんだから」
「そーですか……じゃ、今はこれ以上言いません。
 ……確かに、あなたがお作りになったお子さんだけあって、結構得体が知れないところありましたしねぇ……」
 とんでもない台詞に、リナは、一瞬、頬を引きつらせた。
「あたしが知ってる中で、一番得体がしれないよーな奴に言われたかないわね。
 だいたい……あの子がちょっと変になっちゃったのは、ぜっっったい、父親のせいなんだからっ!」
 途端、え? と言わんばかりに、ゼロスが目を丸くした。
「えーとぉ……リナさん、お子さんを一人でお作りになったわけじゃ……」
「できるかぁぁぁぁぁっっっっ!」
 ぜはぜはぜは。
 肺活量の限界に、図らずも挑戦してしまったリナは、肩で息をついた。
「……あーのねぇ。あんたら魔族と違ってあたしは人間なんだから。そんな妙な真似できるわけないでしょーがっ」
 ゼロスは、ぽんと手を打った。
「そういえばリナさんは、人間でしたね」
(……忘れるなよ、そんなこと……)
 突っ込みを入れたいところだったが、さすがにこれ以上体力を消耗したくない。そう思ってリナは、おとなしくすることに
した。
「そうすると、人間でいうところの父親とかいう代物がいる筈なんですよね?」
(……人間でいわなくとも、父親は父親のよーな気がするぞ、あたしは)
 なおも抑えて、こっくり頷く。
 ゼロスは、ふーむとばかりに考えこむ様子を見せた。が、リナにはどこまで本気だか、まるで判らない。
「……一緒に旅した連中の一人よ。髪の色から判んでしょ?」
 額を押さえて、それだけ言ってやる。
「と……ガウリィさんじゃ、ないんですね?」
 かつて、リナの保護者と名乗っていた青年の名前が出る。
「ガウリィなら、三年ほど前に、シルフィールと結婚するって言いに来たわよ」
「それはおめでたいですね。お祝いも差し上げず、失礼なことをしてしまいました」
「――あんたに祝われる方が、何かめでたくない気がするわよ」
 滅びを撒く魔族に、何が哀しゅうて晴れの門出を祝われねばならないのだろう? まぁ、一部、人生の墓場という意見
もあるらしいが。
「そうですか? ……と、ゼルガディスさんは……いまいち、髪の毛と言うか……」
 今度は、石人形、邪妖精と融合させられ、元の身体に戻る方法を探して旅をしていた青年の名が出る。
 が……彼の場合、髪も何もあったものではない。合成獣とされてしまっているため、髪が針金と化していたのだ。
「あー、ゼルはねぇ……。ま、ゼルなら、今頃アメリアを手伝ってんわよ。元の身体に戻るのは、さすがに少し諦めたみ
たいねー」
「成程。それは残念ですねー。僕としては、ゼルガディスさんには、あくまでも不可能に挑戦し続けてほしかったんです
が……」
「……あんた、どさくさ紛れに酷いこと言ってない?」
 疲れたように、リナは突っ込みを入れた。
「で……残るは……」
 ここまでくれば判るだろう。そう思ってリナは、ほんの少しそっぽをむく。
「アメリアさんですね!」
「………………」
 一瞬の沈黙。
 そして――。
「ゼぇぇぇ〜ロぉぉぉ〜スぅぅぅ〜っっっ」
 ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ〜〜〜っっっ。
 リナは、にこにこ笑いながらゼロスに近づき、いきなり首を締め上げた。
「うぐぐぐっ、リ、リナさんっ、く、く、苦しいですぅぅぅ〜っっっ」
 この期に及んでも笑った顔を崩さない――といっても、魔族は精神生命体なので、どの程度ダメージを受けているの
か判らないが――のは感心だったが、逆に、それがリナの怒りを煽っていた。
「お黙り! このスットコ神官!
 あんたいったい何年生きてんのよ。女同士で子供が生まれるかっ。
 あれは、あんたの子だぁぁぁぁぁぁっっっっっ」
 がくがくがく。
 リナは、一言言うたびに相手の体を揺さぶった。
「そ……そーだったんですかぁぁぁ……って……。
 ……えぇぇぇぇっっっ?」
 次の瞬間、ゼロスは大絶叫した。
「えぇってーのは何よ、えぇってーのは? まさか、このあたしに手ぇ出したの忘れてたとか言わないわよねぇ?」
 リナが、微かに頬を赤らめながらも、洒落にならない目でゼロスを睨んだ。
「忘れたとか言ったら、即座に神滅斬いくわよ」
「……安静は何処へ行ったんですか。
 いえ、勿論、忘れてなんかいませんよ。あぁんな可愛いリナさんを見られたんですから(はぁと)」
 みきめしっ。
「よけーなことまで覚えとらんでよろしいっ」
「だから痛いですってば。……って、そーじゃなくって、僕、一応これでも、魔族なんですよ!?」
「そのよーね」
 リナは、なおも締め上げたまま、あっさり答えた。
「魔族と人間で、子供なんて……あーっ、リナさん、浮気しましたねっ」
「なっ……」
 あまりの台詞に、思わずリナは、ゼロスの襟首から手を離してしまった。
「誰がよっ。だいったい、浮気ってのは出来上がってる男女がするもんでしょっ。あたしはあんたと結婚してるわけでなし、
責められる筋合いはないわっ」
「じゃ……しますか、結婚」
「何でそうなる……っ。……って、まさかあんた、そんで契約の話を蒸し返す気じゃないでしょーね?」
「いやだなー。……鋭すぎますよ、リナさん?」
 ゼロスは、にこにこ笑顔のままそんなことを言った。
 リナは、もう疲れ果てたように溜め息をつくと、くるりと振り向いてベッドに腰を下ろした。
「……確かに、あたしだって驚いたわよ。でも、生まれちゃったもんはしょーがないでしょ?
 後はしっかり育ててしっかりしつけるだけ!」
「あのぉ、魔族って、犬や猫じゃないんですけどぉ……」
 ぼそぼそっと何か言っているゼロスには構わず、リナはきっぱり話を続けた。
「だから、もしあんたがあの子を利用しようとかいうんだったら、それふまえてやってね。
 あの子は、このあたし、人間であるリナ=インバースから産まれて育てられたんだって」
「やれやれ……一番嫌な釘の刺し方をなさいましたね」
 苦笑する魔族に、リナは首をかしげた。
 別に、生の賛歌を歌ったわけでなし、かの正義感溢れる何処ぞの王族さんのように生命力満杯の台詞を言いまくった
わけでもない。
 何処ら辺が嫌だったのだろう、と――。
 が、ゼロスはそれに答える気がなかったらしい。
 にっこり、と笑って話題を変えた。
「ところで……そろそろ夕食の準備をなさった方がいいんじゃないですか?」
 この男が聞いたところで答えるわけがない。それを重々承知しているリナは、おとなしく頷いた。
「……そうね」

○○○○○○○○○○○
 
 前回の暗い雰囲気は何処へ?(^^;)
 ・・・な、話です。
 開き直ったリナちゃんは強いな〜・・・ってことですよね(笑)
  

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4903優しい気持ち(終)T−HOPE E-mail URL9/26-22:34
記事番号4901へのコメント

   優しい気持ち(終)


 夕食は和やかに始まった。
 郷里の姉ちゃんに仕込まれまくったリナの料理は、見目形味ともに申し分なく、問題などありようもない――筈だった
が。
「あのぉ……リナさん?」
「何? 何か問題ある? あんた、人間の料理食べられた筈だけど? 旅してた時も、パクパク食ってたじゃない」
 昔なら、食事中のリナにそんなことを喋る余裕はなかった。
 けれど、病気が、彼女の常人離れした食欲を奪い取っていた。もっとも、それでもなお、普通の人間の二倍程度は食
べている。
「いえ、お味はまぁ、非常に結構なんですけど……ね」
「じゃ、何よ。はっきり言いなさいよ」
「これ……何、入れたんです?」
「へ?」
 リナは、思わず、自分が食べているものに目を落とした。
 極々普通の調味料しか、今回は入れなかった。……ゼロスの分も含めて。
「普通の人間が食べられるものしか入ってないけど。魔族には食べられないもんでも入ってた?」
 聞いたことがないけれど、猫にまたたびのようなものでもあるのだろうか、と思い、リナは尋ねた。
「いえ、僕なら食べられるんですけどね。これ……普通の人間食べたら、痺れて一日二日ひっくり返ってますよ」
「はぁぁぁ?」
 慌ててリナは、ゼロスの分の料理をのぞきこんだ。
「どれ……」
 一口味見しようとした時のこと。
「あっ、母さんはたべちゃダメっ」
 慌てたように声を挟んだのは――。
 ぎぎぎぎぃぃぃっ。
 リナの首がゆっくりと軋みながら回った。
「……リぃナぁ〜……?」
「うっ……えとあの、そのぉ……あはははは」
「なぁにをしたのかなぁ……?」
「そのぉ……こないだ、おいしゃさんにおしえてもらった、しびれちゃうおクスリを……ちょびぃっと、だけ……」
「何であんたそんなことしたの!」
「だ、だってぇ……そこのおじちゃんが、おクスリきかないっていうから、ほんとかなぁ……っておもったんだもんっ。
 ついでに、おクスリつくるのためしてみたかったしっ。
 ちょっぴりおちゃめないたづらなんだもんっ(はぁと)」
 うふっ、と、両手を前に持ってきてブリっコポーズを取る、リナの娘。
「いやぁ、成程。さすがはリナさんの娘さんですね」
「納得すんな、それでぇっ。……ちょっといらっしゃい、リナ」
 びしっ、と、小さいリナは笑顔を強張らせた。
「う゛っ……おしおき?」
「あったりまえでしょ、ほら来る!
 あんたねぇ、試す時は相手を選びなさいって、あれ程言ったでしょーがっ。悪人にしなさい、悪人にっ! 悪人なら人
権ないんだから!
 ……って、そーいやぁ、ゼロスにもないか、人権?」
 ビシビシ娘のお尻を叩きながら、ふと、リナはそんなことを言った。
 ゼロスが、痺れ薬を無視して食べていた料理から顔を上げ、ちょっと困ったような笑顔を向けてきた。
「リ、リナさん?」
「えー、だってぇ、あんたってば魔族だしぃ……ないじゃん、人権」
「うぅっ。だからって……」
「おじちゃん、マゾクなの?」
 お尻を叩く手が止まったからだろう。結構けろっとした様子で、リナの娘はまじまじとゼロスを見つめた。
「あの、『いきとしいけるもののてきっ、ひゃくがいあっていちりなしっ、ガイチュウいかのしろものっ、いっそナマゴミとい
ったほうがいいものっ』とかゆー……マゾク?」
 ひききっ、と、ゼロスの顔がまともにひきつった。
「だ……誰が言ったんです、そんなこと?」
「アメリアおばちゃん」
「うっ……」
 その名にダメージを受けたものだろうか。ゼロスは黙り込んでしまった。
 小さいリナの方はといえば、興味津々で、初めて見るだろう純魔族の姿を眺めていた。
 ちょこちょこっと近づいて、むにっ、と、ゼロスの頬を引っ張ってみる。
「ふぅん……へんなのぉ」
「な……何がです?」
 さすがにこんな行動に出られるとは思ってもみなかったのだろう。ゼロスは、僅かに腰が引けていた。
「ちゃんとさわれるや。おじちゃん、ほんとのからだじゃないのに」
 刹那、ゼロスの瞳が鋭くなった。
「……判るんですか?」
「あぁ、言い忘れてたけど」
 先程のことなど何もなかったように食事に戻っていたリナが、そこで口を挟んだ。
「その子、負の感情の取り込みもできるわよ。精神世界面を渡るのは、どーも、まだ苦手みたいだけど」
 平然とした口調で、洒落にならない情報を伝える。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。それじゃ、ほとんど人間じゃないんじゃないですかっ」
「あたし、人間だよなぁんて言ってないもぉん」
 リナが、にっこり笑ってそう言えば、同じ名前を持つ娘も、
「あたし、フのカンジョウって、あんまりおいしくないからきらい。ごはんたべるほうがすきっ」
 にこにこ笑って言い切る。
「…………」
 唖然としたように黙ってしまったゼロスを見て、リナは悪戯っぽく微笑んだ。
「どーしたの? 鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔しちゃってっ」
「いえ……でも、よく、平気ですね」
「どんな子だって、“このあたしの”子であることには変わりないわ。
 それに……ね。最近、少しだけ思うのよ。本当は、たいして変わらないんじゃないかって」
 肩をすくめるリナには、柔らかく、それでいて今にも消えそうな笑みが宿っていた。
「……かわんないの、母さん?」
「そう……ね。どうだか判んないけどね。でも、背中合わせで同じところ目指してるんだと思うんだわ」
「…………?」
 首をかしげる娘を、優しい目で見る。
「難しいわね。でも、覚えておきなさい。
 ……あたし達人間みたいな生きようとする者は、今の、この真ん中から、一所懸命段を積み重ねてるのよ。空高くに
ある幸せな場所に辿り着くために。
 で、魔族は、滅びを望む者達はね。真ん中から段を全部崩して、一番下にある幸せな場所に帰ろうとしてるの。
 ――けど、ね。上と下は、本当は同じ場所なのよ」
 ゼロスは、黙ってその言葉を聞いていた。
   ――金色の魔王(ロード・オブ・ナイトメア)――
   ――全てのものの母――
   ――全てのものは、母へ、混沌へと還る――
「どっちにしろ、望んでいることは同じなのよ。――幸せに、なりたいの」
「母さんも?」
「勿論」
「あたしも?」
「当然」
「じゃぁね、じゃぁね……マゾクのおじちゃんも?」
 小さいリナの紅の瞳が、真っ直ぐにゼロスを見た。
 高位魔族である男は、実に人間らしく、軽く頭をかいてみせた。
「まぁ……多少ダメージ食らいそうな台詞でしたけど、基本的に、そう間違ってはいませんね」
「ふぅん……おんなじ、なんだぁ……」
 小さいリナは、嬉しそうに笑った。


 細く優しく歌われる子守歌が絶え、暫くして小さな扉が開いた。
「……眠っちゃった」
「いーんですか、リナさん」
 夜に、闇に溶けるような声で、ゼロスが問うた。
「何が?」
「先刻の……あの、例え話です」
「間違ってた?」
「……話自体は、ある意味正しいと思います。でも、魔族寄りな子にああいう話をしてしまって、かまわないんですか?
 今まで暮らしてきた中で身に付けた、魔族に対する拒否反応がなくなってしまうかもしれない。僕が魔族として連れ
ていってしまうかもしれないのに」
 リナは、小さく笑った。
「連れてくの?」
「いえ、それは……」
「別に構わないわよ、あたしは。
 それがあの子の選んだことであればね」
 闇を纏った男は、不思議そうに首をかしげた。
 それを目の端で捕らえながら、リナは微笑み続けた。
「多分、あの子は人間として生きてくの、難しいと思う。
 でもね。忘れないでほしかったんだわ、あたし。あんたはこのあたしが産んだんだよって、言ってあげたかったの」
「だから、リナ……ですか」
「そ。あたしと同じ名前。あたしがあの子にあげられる、最高の形見」
 くるっと紅の瞳が振り向き、真っ向から夜色の瞳をのぞきこんだ。
「あたしがあの子にしてやれることはもう殆どないから、あたしが死んだらあの子連れてってもいいよ。あの子一人じゃ
寂しいでしょ」
 それだけ言って、今度は悪戯っぽい笑顔になる。
「……でぇも。今はいや。あたしが寂しいから」
「リナさんが……死んだら、ですか?」
 ゼロスは少し顔をしかめたようだった。
「そ。そー長くはかかんないんじゃない」
「そしたら、僕が寂しいじゃないですか」
「へ?」
 珍しいものを見た――実際には聞いた――ような顔になって、リナは目を丸くした。まさか、生粋の魔族であるゼロス
にこんなことを言われるとは思わなかったのだ。
「……せっかく獣王様に長いお休みもらってきたっていうのに。そんなこと、言わないで下さいよ」
「…………。……獣王って……いったい……?」
 人間のもとへ行くという部下にあっさり長い休みをやる魔族。
 何だか妙――という気分になるリナだった。
(まぁ……こいつを造ったよーな奴だし……)
 リナは溜息をついて、そっと手を目の前の男に伸ばした。
「じゃぁ、まぁ……暫くここにいる?
 家族ごっこなんて今更柄じゃないことするのも馬鹿らしいけど、一生に一度くらいなら、意味ないことじゃないしね」
「……そう、ですね」
 細い月の光を宿したように白い手が、そっと、伸ばされた少女の手を握り返した。
 
 
   ――それは夢のように過ぎる時間。
   ――儚くて、そして……だからこそ、愛しいのだと
   ――明るい少女は死を前にして微笑んだ。
   ――優しい、優しい……記憶。
 
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎
 
 何か、ゼロスがめっちゃ優しいんで、違和感がありますね(笑)
 結構前に書いたからかなぁ・・・最近、極悪ゼロスっきゃ書いてないんで。
 あー、この後リナ殺さなくっちゃ・・・。
 というわけで、お気が向かれましたら続きも読んでやって下さると嬉しいです。
 ・・・とかやってるから、ツリー滅茶苦茶になるのね・・・ごめんなさいっm(_)m

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4905Re:優しい気持ち(終)三里桜架 E-mail 9/27-00:20
記事番号4903へのコメント
どうも始めまして! 三里桜架と申します。
『世界が生まれた日』から楽しく読んでいました!
で、その最終回のとき、「あぁ・・・・・・ゼロスの話が読みたいなー」
と思っていたんですが・・・・・・!
『優しい気持ち』もおぉぉぉぉっ!! 楽しかったです!!
ほとんどゼロス、「自分の知らないうちに自分の知らない所で彼女が子供を産んでしまい、自分だけ蚊帳の外の情けない
ぱぱ」か、「もとから当てにされてない男」ですねー・・・・・・。

・・・・・・あたし、何書いてるんだろ・・・・・・。

こんな感想しか書けませんが、とっても楽しんで読んでいたのは本当です!
これからもがんばってください!

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4928三里桜架様、ありがとうございますT−HOPE E-mail URL9/27-21:51
記事番号4905へのコメント
>どうも始めまして! 三里桜架と申します。

 はじめまして! 感想ありがとうございます!

>『世界が生まれた日』から楽しく読んでいました!

 あぁぁ、ありがとうございますぅ・・・ほんっとにっ。

>で、その最終回のとき、「あぁ・・・・・・ゼロスの話が読みたいなー」
>と思っていたんですが・・・・・・!
>『優しい気持ち』もおぉぉぉぉっ!! 楽しかったです!!

 そう言っていただけると、嬉しいです。かなり甘めの(当社比^^;)話になってるんですけどね。

>ほとんどゼロス、「自分の知らないうちに自分の知らない所で彼女が子供を産んでしまい、自分だけ蚊帳の外の情けない
>ぱぱ」か、「もとから当てにされてない男」ですねー・・・・・・。
>・・・・・・あたし、何書いてるんだろ・・・・・・。

 あはははは・・・・言われてみれば、そーですよね。
 いや、リナちゃん、ガウリィならともかくゼロスは頼らんだろーなぁ・・・と(何でそれでゼロリナなんでしょう、私・・・^^;;;)
 けど・・・情けないパパ・・・そーかも(笑)
 あの話の後に、「実は父親なんです」・・・で、娘にジト目で見られてたりするかも・・・(ヲイヲイ^^;)

>こんな感想しか書けませんが、とっても楽しんで読んでいたのは本当です!
>これからもがんばってください!

 ありがとうございます!
 何故だかわかりませんが(ホントにわからない^^;)まだ続きますんで、もしお気が向かれましたら、読んでやって下
さいませ☆

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4931切な〜い水城守 9/27-21:54
記事番号4903へのコメント

いつも楽しく読ませていただいてます。
初めまして、水城守です。
面白かったです。とっても。
何だかとっても切ない気持ちになって・・・。
早く続き書いてくださーい(笑)
リナの気持ち、ホントリナらしさが出てて、すごいなーって思います。
ゼロスはかっこいいし。リナちゃん(子)は、おちゃめだし。

ということで、次回も楽しみにしてます♪




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4933水城守様、ありがとうございますT−HOPE E-mail URL9/27-22:17
記事番号4931へのコメント

>いつも楽しく読ませていただいてます。
>初めまして、水城守です。

ありがとうございます。T-HOPEでございます。

>面白かったです。とっても。
>何だかとっても切ない気持ちになって・・・。
>早く続き書いてくださーい(笑)

そう言っていただけると、頑張れますぅ!・・・(単純なんです(^^;)

>リナの気持ち、ホントリナらしさが出てて、すごいなーって思います。
>ゼロスはかっこいいし。リナちゃん(子)は、おちゃめだし。

嬉しいです!
・・・ところでゼロス、かっこいいですか?(書いてる本人は、そう思ってなかったりして(汗)) 

>ということで、次回も楽しみにしてます♪

ありがとうございます! また書きますので、お気が向かれましたら読んで下さいね〜☆

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4932二つの形見(1)T−HOPE E-mail URL9/27-21:58
記事番号4901へのコメント
 最近ビター系書きすぎたせいか、砂糖が入りまくってるよーな気がします。
 もっとも、あくまで私にしては・・・なんですけどねぇ(笑)
 
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

    二つの形見(1)

 ぱたぱたと、台所で軽い足音がしている。
 窓から吹き込む風に栗色の髪をなびかせながら、窓際のベッドに半身を起こしていた十八程度に見える少女は、淡く
微笑んだ。
「……リナさん。ご気分、よさそうですね」
 そこへ、いきなり空中から声がかかった。
 が、少女は慌てず騒がず……ただ、紅の瞳で、声のした方を睨みつけた。
「……ちょぉっと、ゼロス? ここにいる間はそうほいほい空間渡るなって、言わなかったっけ?」
 少女がそういうのと同時に、影が、少女の横に下り立った。
 それは、闇色の髪、夜色の瞳の青年。
 にっこり、と、いかにも人の良さそうな笑みが、端整な顔に浮かべられていた。
「いやぁ……そうは言われましても、この辺りの人はあまり僕の存在に驚かれないようですし。
 ……何より、一秒でも長くリナさんの側にいたいものですから(にっこり)」
「…………。……あのね」
 少女は、疲れたように呟いた。
 と、声を聞きつけたのか、ぱたぱたと、台所から十歳ほどの幼い少女が駆け出してきた。
「あっ。父さんもどってきたんだー。ねぇねぇ、バターはぁ?」
「はい。ちゃんと買ってきましたよ。小さいリナさん」
 振り返って相変わらずにこにこ笑いながら、青年は、自分と同じ闇色の髪の子供に手の中の荷物を渡した。
「ありがとー。もーちょっとでできるからね。母さんも、まっててねーっ」
 喜々とした様子でそれを抱え直すと、母親譲りの紅の瞳の子供は、またぱたぱたと台所へ駆け戻った。
 リナは、それを見て小さく笑い……そっと、視線を窓の外の青い空へと移した。
「……ま、そんくらいなら、待てるかな……」
「リナさん……?」
 その視線の先に何を見ているのか。
 ゼロスはそっとリナの頬に手をあて、こちらを向かせた。
 暁の光と夜の闇が絡む。
「もうすぐだわね……」
「…………。……まだ、です。まだ……早いですよ」
 いつも飄々とした様子を崩さない相手が、珍しく強い口調で言う。リナは、少し目を見開き……ついで、笑みを大きくし
た。
「そーね。まだ、あの子の料理食べてないし……」
 ゼロスは、にっこり笑った。
「そーですよ。よりにもよってご飯食べないなんて、そんなのリナさんじゃありませんよね?」
 リナは、途端に笑顔を消し、半眼になってゼロスを睨んだ。
「……あんた、人のこと何だと思ってんのよ」
「そーですねぇ……。……それは秘密です、って、言ったら?」
「殴り飛ばす!」
 即答。そして、さらに拳を固める少女に、ゼロスは僅かにひきつった笑顔になった。
「いやですねぇ……言ったらって、言ってみただけですよ。
 そうですね。リナさんは、僕にとって――特別な、人間、ですね」
「ふぅん?」
 リナは、軽く首をかしげた。
「特別な、人間……ね。それって、どの程度特別なのか、聞いてみてもいい?」
「と、言われますと……具体的には?」
「そーねぇ……。……どのっくらいあんたの記憶に残しといてもらえるのか、かな?」
 僅かに考えこんだ後、いかにも名案と、リナは笑いながらそんな風に言ってみた。
 それを聞いたゼロスの表情に、一瞬、紗よりも薄い膜がかかった。
「――あなたの存在を忘れられる者が、早々この世にいると思いますか?」
「んー? でも、あんた、人間じゃなくって魔族だし。……この先、千年も二千年も覚えてたりは……」
「するに決まってるじゃないですか」
 心外です、と、ゼロスはリナの栗色の髪に指を絡めながら言った。
「忘れられる筈がないでしょう?
 リナさんほど凶暴で、目茶苦茶で、意地汚くて、周囲に負の感情を生み出させるのが上手くて……」
「をいっ!」
 リナが、ぎろっと睨みつける。
 が、ゼロスは、そのままリナの髪をサラサラと梳いていた。
「……あなたのように怖い人間なんて、たとえ一億年経ったって、忘れられませんよ……」
「あんたが、あたしのこと怖いなんて、思うわけないでしょーよ……」
(五人の腹心に次ぐ力を持つ高位魔族。……神滅斬でだって、簡単に滅ぼされてくれやしないよーな奴が、何言ってる
んだか?)
 心を素直にそのまま表した、憮然とした口調。
 ゼロスは、小さく声を立てて笑った。
「怖いですよ?
 ……何と言っても、あなたといると、僕が僕じゃなくなってしまうんですから、ね」
「……へ?」
 ゼロスはリナの髪から手を離し、柔らかく温かい頬に片手をあてた。
「……僕は魔族です。滅びを望む者、生きとし生ける者の敵――。
 ……なのに、あなたと共にここにいる僕は、まるで只の人間のようで……しかも、あなたに消えてほしくないと願った
りしてしまうんですよ?
 こんな……怖いことって、ありませんよ……」
 眠る猫のような瞳はそのままに、ゼロスの顔から笑みが消えた。
「……あなたは、僕の存在そのものに染み込んで、僕を変えてしまった。
 どうして……どうやって、忘れろというんですか、リナさん?」
 ――忘れ方を、教えて下さい……。
 囁く声は、珍しく真実の響きを帯びて、リナの耳に届いた。
「ゼロス……」
 リナが、戸惑うような声で闇色の存在の名を呼んだ、その時。

「父さんと母さん、らぶらぶー……」
 ぼすっ。
 リナは思いきり枕に倒れこんだ。
「り、リナっ。何、馬鹿なこと言ってんの!」
 料理をテーブルの上に乗せながらにこにこしている自分と同じ名の娘に、リナは叫んだ。
 ……おそらく、顔をしっかり赤くして言っても説得力は皆無だろう。
「えー? ちがうのぉ?」
「ち……」
「勿論、僕とリナさんはとっても仲いいですよ。見た通り、ね。
 ……おや。美味しそうですねぇ」
 素早くリナの口をふさいだゼロスが、やはりにこにこ笑いながらテーブルの上を見て満足そうに頷いた。
「うんっ。できたの。
 ……でも、邪魔だったら、あたし、もーちょっと……」
「だぁぁぁぁっっっ。邪魔じゃない! 離しなさいよ、ちょっと、ゼロス!」
 ベッドの上で、リナはじたばた暴れながらそう言った。が、ゼロスはそれを楽しそうに見ながら首を振った。
「駄目ですよ、リナさん。安静にしてないと。ほら、僕がちゃぁんと食べさせてあげますからね(はぁと)」
「やめんかっ!」
「父さん。母さん涙目になってるからやめてあげて」
 さすがに呆れたように、小さいリナが口を挟んだ。
 ゼロスは、顔だけ笑ったまま、渋々といった様子で手を離した。
「……仕方ないですね。それじゃ、続きは後で、ということにして……」
「何の続きよっ!」
「……言ってほしいですか?」
「…………。……いい」
「あたし、あそびにいってくるから。……ごゆっくりー」
「リナーっっっ」

 ――いつもの、風景だった。
 決して変わらないと……誰かが信じたくなるくらい。
 ……そうして、誰もが信じないくらい……。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 うあ・・・ほのぼの家族っ。
 こんなの違う〜〜〜っ。でも、私が書いたんですよね(爆)

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4934二つの形見(2)T−HOPE E-mail URL9/27-22:24
記事番号4932へのコメント

   二つの形見(2)


 カチャン。
 リナは、静かにフォークを下ろした。
 母親と同じ名を持つ娘は、それを見て、少し首をかしげた。
「……美味しくなかった?」
「美味しかったわよ。何で?」
「一人前しか食べてない……」
 病気が重くなってからも毎食きっちり二人前食べていた母親は、そう言われ、くすっと笑った。
「腹八分目でやめとこうと思ってね。
 ……これで、本当に、最後だし」
 カシャーンッ。
 小さいリナの手にしていたフォークが、床に落ち、硬い音を立てた。
「…………。……母さん……?」
 見つめる娘の瞳の先で、リナは、妙にゆったりとしたしぐさで椅子に背を預けた。
 その顔が白いのを――光の加減だと、幼い子は自分に一所懸命言い聞かせていた。
 カタン。
 椅子の鳴る音にふと見れば、ゼロスがいつの間にかリナの横に立ち、静かに、少女の姿のままの女性を抱き上げて
いた。
「リナさん……」
 気遣う夜色の瞳に、リナは少し笑った。
 本当に、魔族らしくないと――少し、おかしくなったのだ。
「何、変な顔してるのよ。……どーせ、気づいてたんでしょ?」
(あたしの、死期に……)
 ゼロスは、溜息をついた。
「気づきたくなんて、ありませんよ。そんなもの」
「母さん。うそよね、うそだよね、母さん!」
 まだ小さい身体にはちょっと大きめの椅子を滑り降り、小さいリナがバタバタと走りよってきた。
 ベッドに横たえられたリナは、そっと手を伸ばし、父親譲りの黒髪の頭を抱きこんでやった。
「だっから、あんたもねぇ……。判ってたことでしょ、いつかこーなるって」
「でも、それは、きょうじゃないもんっ」
「あのね……」
 困ったような表情になるリナに、その娘はしがみついた。
「やだやだやだっ。おいてっちゃやだ!」
 くしゃっ。
「リナ」
 すがりつく娘の頭を軽くかきまぜて、リナは、囁くような声でその名を呼んだ。
「……置いてったりしないわよ。
 あんたにはあたしの名前を――あたし自身をあげたんだから。置いてきようがないでしょ?」
 何か思い出すような柔らかい色を瞳に浮かべて、リナは続けた。
「あんたが生まれた時に、あたしはあんたに、あたし自身と……世界を、あげたの。
 なのに、何を泣く必要があるの? ……大丈夫よ」
「…………っっっ」
 それでも、幼い子供は母親をしっかりとつかまっていた。まるで、手を離したら逃げてしまう風船を抱くように。
 リナは、苦笑すると、紅の瞳をもう一人の愛しい存在に移した。
「……この子、お願い。あたしの名を形見にあげたあたしの娘だから……あんたに、形見として、あげる」
 ゼロスは、一瞬だけ瞳を伏せたようだった。
「リナさん。――まだ、間に合います。まだ……」
 ――僕と不死の契約を……。
 少女の消えゆく炎を知った時から、目の前の魔族が提示し続けている言葉。
 けれど、リナは、首を横に振り続けた。そして、今も。
「……ごめんなんて……言わない。
 あたしは……思った通りに、生きるの……」
「リナさん……っ」
 ゼロスの瞳が見開かれていた。
 柔和な印象が消え去り――本来の、魔族としての本性が垣間見える表情。
 それを目にし、リナは、心からの笑みを浮かべた。
「あんたが……そんな顔するのも、悪くは……ないよね。……本音で……本気で、あたしのこと見てくれてる……って、
感じが、する……」
「…………。……僕は、いつだって、ちゃんとリナさんを見ていますよ?」
 リナは、静かに瞳を閉じた。
「悪く……ないね。そーゆーのも……」
(人間と、魔族。でも……確かに、あたし達は、向かい合ってた――?)
 もっとも、相手がゼロスなだけに、いまいち確信が持てなかったが。
「……もし。運とアレの気紛れがあれば……また、会える……かも、ね……」
 ――でも、会えたって、どーせ、判んないんだろうけどさ……。
 下手したら、ゼロスに会った次の瞬間、殺されるかもしれない。
 今こうしてここで一緒にいられるのは、万分の一の幸運なのだろうから。
(それでも、いいかも……。会えないよりは、ね)
「じゃ……また、ね…………」
 その言葉を最後に……。
 栗色の髪と紅の瞳、この世に唯一の輝かしい魂をもって魔族を捕らえた人間の少女は……この世から、混沌へと、そ
の存在を移しかえた……。
 ――二つの形見を、この世に残して…………。

〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

 ・・・子供と母親の名前一緒にしたの、しみじみ後悔してます。
 書きにくいったらありゃしない(;;)

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4943二つの形見(3)T-HOPE E-mail URL9/28-09:49
記事番号4934へのコメント

二つの形見(3)


「……母さん? ……母さん母さん母さん……!?」
 紅の瞳を涙で濡らしながら、信じられないと、信じないと声にこめて、幼い少女が母親を必死で揺すっていた。
「……かあさんってばぁ……っ。……おきてよぉぉぉぉっっっ」
 泣き叫ぶ少女の傍ら、闇色の青年は、ただ……目の前の物言わぬ物体を見つめていた。
 人間の死体など、本来なら彼に何ら感銘を与え得ない筈だった。
 そもそも、彼にとって、魔王と五人の腹心、敵である赤の竜神以外の存在は、存在として対峙し得なかった。ただ
……利用し、滅ぼすべき対象。
(その……筈、だったんですよ……?)
 それを変えたのは、魔族でも神族でもない。たった一人の人間。
 か弱く命短く、本来なら路傍の石と変わりない者。
 なのに――いつしか、目が離せなくなった。
 手を伸ばし触れて捕らえて……それでも満足できなかった。いっそ殺して自分の中に取り込んでしまいたいと、
何度思ったことだろう?
 ……できなかったけれど。
 そう。あの温かさが、輝きが、消えると思っただけで、ない筈の心臓が潰れそうになるくらい重苦しい感情が生み
出された。耐えられないと、そう思ったから、気がつかれないような形でいつも守ってしまった。
 ――なのに……。
(……酷いですね、あなたは……)
 結局捕らえきれなかった、夏の蝶。秋が来れば逝ってしまう。
 がくっと、膝が崩れた。
(僕は……魔族なんですよ……)
 それでも、虚ろな瞳は少女から離れない。
(……だから。涙……なんて、持ち得ようがないんです……)
 乾ききった瞳が、彼の存在自体を焼き尽くしそうだった。
(人間のように泣けたら……もっと、楽に、なれるのでしょうか……?)
 吐き出しきれない感情の残滓が、澱のように溜まっていく。
 ゼロスは、固まった表情をやっと動かし……笑みに似た形を作ってみた。
 それだけのことに、途方もない力が必要だった。
(……限界、です……ね……)
 溜息のように息をもらして、即座に精神世界面に移動した。
 ない筈の感情が暴走して、そのままではどうにかなってしまいそうだったのだ。
(……あなたがいたら……どうしたらいいのか、教えてくれましたか……?)
 本来の世界、本来の姿でさえ耐えきれない――渦巻く想い。
(リナさん……助けて……下さい……)
 瞬く少女の幻を求め、姿を世界に具現化し、また精神世界面に戻り……。……幾度、それを繰り返しただろう?
 ――言ったでしょう? 教えて下さいと……。
 あなたの、忘れ方を…………。
(でなければ、僕は……壊れてしまいます……!)
 くすっ。
 ふと何かに気づいたように、彼は笑った。
「……もう、壊れてますね。あなたに染まり過ぎた……」
(それでもこのまま存在し続ければ、いつかあなたを見つけられるのでしょうか……?)
 ――そんな夢物語。信じてなど、いない。
 それでも。
「あなたが会えると言ったから。……あなたに染まりきった僕は、その言葉を信じるんです……」
 ――全ての母の元で抱かれし愛しい存在に囁きかけ、彼は瞳を開いた……。

 夜色の瞳に映るのは……荒廃した大地。
 ふと首をかしげた青年は、周囲をぐるりと見回して、納得したように頷いた。
 彼を中心に、半径数十キロ程の全ての存在が、滅びを与えられていた。
 いつもの笑顔を浮かべ、彼はちょっと肩をすくめた。
「やれやれ。この程度で済んだとはいえ……僕としたことが、ちょっと、つまらない真似をしてしまいましたかね」
 殆どのものが、一気に吹き飛んだような様相を呈している。
 彼の感情の爆発が、この場所に影響を及ぼしたのは想像に難くないが……これでは、負の感情がそれ程得ら
れなかっただろうことは見て明らかだ。
 どうせ滅びを撒くのなら、やはり負の感情が多く得られた方が得である。
「まったくもう……リナさんのせいですからね」
 ――獣王様に怒られたら、そういうことにしちゃいましょう。
 そんな結論を出すと、彼は、それ以上その場所には目すら向けず……姿を消した。

***********

うーわ。はた迷惑な奴ですねぇ(笑)
勿論ゼロスがぶっ壊しまくったところには、いくつも街があったんですよ〜。
私、今まででこれほど可哀相な人の殺し方したことないです。
八つ当たりの意識すらなく消されちゃうなんて・・・ゴメンナサイですよねぇ(^^;)

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4945二つの形見(終)T-HOPE E-mail URL9/28-12:47
記事番号4943へのコメント

二つの形見(終)

「さて。……小さいリナさんを、置いてきちゃいましたね」
(それに、リナさんの肉体も)
 ふっと、目当ての場所に下り立つと……相変わらず眠ったように微笑む、彼にとって特別な少女が、花に覆われていた。
 淡紅色のたおやかな……何処か眠る少女に似た花。
 ――『撫子』って言うのよ。
 淡く微笑みながらそう言った少女が、彼の思い出の中にいた。
 ――結構好きなんだ。……らしくない?
 恥ずかしげな表情すら鮮明に蘇る。
「……小さいリナさんが摘んできたんですか」
 母親を、好きだった花で送ろうと……?
 けれど、それを為した筈の少女は何処にもいない。
「…………?」
 その時。
 ガグォォォォォッッッ。
 爆音が聞こえ、ゼロスは開け放たれたままの扉から外を見た。
 ここから見える山の中腹が燃えている……ようだが……。
「……暴爆呪?」
(……えーと……まさか……?)
 素早くその場へと移動する……。
 ……と。
「にげちゃだめぇっっっ。ふぁいあー・ぼぉるっ! ふれあぁ・あろぉっ! ついでにでぃむうぃんっっっ!」
 聞き慣れた幼い声が響いていた。
 その前を、必死になって逃げていく、盗賊団……らしき、人間達。
(……ちょっと……)
 さすがにゼロスも驚いた。
 驚いている間にも、次々に盗賊達はやられていき……。
「おわったぁぁぁぁ……」
 何処かがっかりしたような声で少女が言った時、盗賊団のアジトらしきその場は、見事に廃墟と化していた。
「……お見事ですけど、何やってるんですか、小さいリナさん?」
 すとっと背後に降りてゼロスが尋ねると、黒い髪のリナは、驚いたような顔で振り返った。
「あ……父さん。なんで、もどってきたの? 母さん、しんじゃったのに」
「何で……と、言われましても……一応、僕、あなたの父親らしいですし」
(リナさんの遺言ですし……)
 少しだけ困った顔で、ゼロスは頭をかいてみせた。
 もっとも、それがなければおそらくこの奇妙な子供のことは放っておいただろうと、彼自身も判っていた。
「……それよりも、何してるんですか?」
「とーぞくいぢめ!」
「はぁ……」
 胸を張り、空をぴっと指差して言い切られ、さすがにゼロスもリアクションにつまった。
「……母さんしんじゃって、かなしいし、くるしいし、さびしいし……どーしたらいいかわかんなかったから、とりあえず、て
きとーにぶつけてみることにしたの。
でも、フツーのひとにやつあたると、母さんたぶんおこるから……アクニンなら、ジンケンないから、母さんもおこらない
んだよ」
 強い感情を宿した子供の瞳は、母親そっくりの暁の光。
(似てますよねぇ……)
 ――あんたに、形見として、あげる。
 囁く声が、風に乗って何処かから再び届いた気がした。
「……ま、こうやって負の感情を生み出し続けてくれるのを見ていれば、多少、退屈は紛れますよね……」
「……は?」
 まだ幼い子供は、きょとんと首をかしげた。
(リナさん。僕は、あなたしかいらない。あなたの代わりなんて……絶対に、いりません)
 ……でも。
(……形見なら……仕方ないと、受け取りますよ……)
「……小さいリナさん。僕と――来ますか?」
 大きな紅の瞳をのぞきこむと、彼と同じ闇色の髪を持つ少女は、暫く迷ってから、こくんと頷いた。
「……母さんのおそーしきしたら、ね」
「そうですね」
 二人は、小さく笑った。


 消えてしまった、少女の形見は二つ。
 娘に与えられたのは、少女の持つべき名。それによって開かれる世界……。
 恋人に与えられたのは、少女の欲した生を生きる娘……。
 抱きしめて、彼らは生きる。
 ……再び、少女に巡り合うまで…………。


********

はた迷惑な父娘でした(^^;)
ゼロス、ちびリナちゃんがリナちゃんに似てるって言ってるけど・・・やってることからすると、ゼロスだって同じじゃ・・・。
・・・にしても、リナ、本当に生まれ変わるんでしょうか・・・?
書いてる私にしても・・・まぁ、いいや。
続きがまだ(何でだろう^^;)ありますので、もしお気が向かれましたら・・・読んでくださると嬉しいです☆

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4988まとめて東智華 E-mail URL9/30-22:21
記事番号4945へのコメント
すっごい良かったです。
感動しました。
リナとゼロス一途で良かったです。
リナが本当にお母さんって言う感じで儚げで切なかったです。
これからも頑張ってください。
それからあのお願いなんですがリンク張らせていただいても構わないでしょうか。
駄目でしょうか?

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5012東智華様、ありがとうございますT−HOPE E-mail URL10/1-22:37
記事番号4988へのコメント
>すっごい良かったです。
>感動しました。

ありがとうございますっっっm(_)m

>リナとゼロス一途で良かったです。

リナはともかく、ゼロスが一途でどーする・・・と、思ったりもしたんですけど(^^;;;)
そう言っていただけると嬉しいです。

>リナが本当にお母さんって言う感じで儚げで切なかったです。
>これからも頑張ってください。

にゃ〜、本当に、嬉しいですねぇ。ありがとうございます。

>それからあのお願いなんですがリンク張らせていただいても構わないでしょうか。
>駄目でしょうか?

ぜんっぜんオッケーです。
あんなところでよろしければ、いっくらでも。
それと・・・こちらからもリンク張らしていただいてよろしいでしょうか? 

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5011三人目の嵐(1)T−HOPE E-mail URL10/1-22:33
記事番号4932へのコメント
 かなり・・・滅茶苦茶な話になってしまいました(^^;)
 きちんとした終わり方させるには、前回で切ればよかったのかなぁ。
 というわけで・・・ちょっと消化不良な代物になるかもしれません。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

   三人目の嵐(1)

「……あんた、誰?」
 栗色の髪の少女は、目の前に立つ自分と同じ顔の存在に問いかけた。
 つぶらな紅色の瞳が印象的な愛らしい顔。清楚で華奢な体つき。背格好も含め、髪の色をのぞけば、瓜二つと言っ
ても大袈裟ではないくらい、二人はよく似ていた。
「……それは、あたしの台詞よ?」
 栗色の髪の少女に向かい、黒髪の少女は余裕を持った笑みで応じた。その手には、しっかり、栗色の髪の少女の
お目当てである盗賊団のお宝が握られていた。
「…………。……あんたが、ここの盗賊団、潰したの?」
 二人の背後では、いまだぷすぷすと燃えている森の木々と、痛みに呻く盗賊どもの声が、見事な効果を上げていた。
 黒髪の少女は、にっこりと笑った。
「そーよ。ちょっぴし路銀が足りなくなってたからねー」
「なぁんてことしてくれんのよっっっ」
 栗色の少女は、目を思い切りつり上げて怒鳴った。
「ここの盗賊団は、あたしが潰す筈だったのにっ。こいつらは、あたしのストレス解消と懐をあっためるとゆー役を務める
ためにここにいたのよ!? そぉれを横からかっさらうだなんて、竜破斬もんよっっっ!」
 黒髪の少女は、ふと、目を見張った。
 それに気づかない様子で、栗色の髪の少女は、ぶつぶつと何か言っている。
「……ったく。せぇっかく他の連中が気づかないように、眠り、かけてきたってのに……」
 黒髪の少女の瞳がさらに見開かれ、顔に、何か戸惑うような色が浮かんだ。
「……“あの人”の気紛れ……?」
「ちょっと? 何、言ってんのよ?」
 口をとがらす栗色の少女の顔を見て、黒髪の少女は困ったような笑顔になった。
(……似過ぎてる)
 今、彼女が心に思い浮かべる人に。
 ――顔だけなら、まだ偶然で片付けて潰すつもりだったけど……。
「……あなた、名前は?」
 聞くと、栗色の髪の少女は、ぎっと相手を睨んだ。
「人の名前聞く時は、まず自分からってー法律知んないの、あんたは!?」
 黒髪の少女は僅かに迷った後……手の中のお宝を、突き出した。
「……只で譲ってあげよっかなぁ〜、なぁんて思ったんだけど……」
「なんっでも聞いてちょーだいっ(はぁと)」
 お目めキラキラ神様お願いポーズで、見事に豹変した少女はにっこり笑った。
 黒髪の少女はくすくす笑い出す。
「……やっぱし、これが一番効くのも同じねぇ……」
「何言ってんの?」
「あー……うぅん。で、あなたの名前、なぁに?」
 重ねて問われる台詞に、栗色の髪の少女は何やら嫌そうな顔になった後……あさってを見て、はっきりと答えた。
「あたしの名前はねぇ……『リナ』よ」
 ずしゃっ。
 黒髪の少女は、見事にひっくりこけた。
「……い、幾ら何でも……ご都合主義な…………」
(これも“あの人”の気紛れだとしたら、いったい、この世界って、どーゆー……)
「……オーバー・アクションねぇ……」
 半眼になって、何やら苦悩する黒髪の少女を睨んだ、リナと名乗る少女は、やれやれと首を振った。
「あ、でも、あたし、あの勇名高きリナ=インバースとは別人だかんねっ。
 ……まぁ、美貌と実力を兼ね備えた天才美少女魔道士なんてそうそういないから、間違えても不思議はないけどねっ」
「……間違えやしないわよ」
 何処か疲れたような口調で、黒髪の少女は言った。
「……てぇことは、最近この辺りで盗賊団潰しまくって、リナ=インバースの再々襲来とかって噂されてんのは、あなた
ね」
「とーぜんぢゃないっ! 世の中にあたしみたいな実力の持ち主が、そーそーいるとでもおもう!?」
「…………。……ついでに、性格もね……」
「……なぁんですってぇ!?」
「おぉっと……」
 黒髪の少女は、ひょいと後ろに飛び下がった。
 どうやら、エルフ並の聴力も……リナ=インバース並のものがあるらしい。
 少女は、また、くすくす笑い出した。
「なぁるほど。……なかなか楽しい人みたいね、あなた」
 リナが、ふふんと笑う。
「あんたほどじゃないわよ。……何者なの、いったい?」
「そーねー……」
(どー答えるのが、一番いーかなぁ……)
 考えながら、少女は口の中で何やら呟いた。
「ちょっと!?」
 リナがつめよろうとする……と。
「それは秘密……ってことで。火炎球!!」
 ずばぁぁぁぁんっっっ。
 少女がリナとの間に叩きつけた火炎球が爆裂し、もの凄い熱と音がその場を一瞬支配した。
「な、何すんのよ、あんたぁぁぁぁっっっ!」
 叫ぶリナが、ふと、気配を感じて飛びのいた。その爪先に、お宝のつまった袋が落ちる。
「……この取引じゃ、ちょっとこっちが損だから……その分の代価、そのうち、貰いに来るわねー……」
 炎の向こう側から響く少女の声。
 リナはぎりっとそちらを睨んだ。
「……どーでもいーけど……火ぐらい消してけぇぇぇっっっ!」


 黒髪の少女は、実のところリナと名乗った黒髪の少女のすぐ側でその台詞を聞きながら、きゃらきゃらと笑っていた。
「やー、ほんっと、こんっなもんに、こんっなとこで会えるなんて……あたしってばラッキー!
 やっぱし、あたしの日頃の行いが、天に通じたのねっ」
 その声は、リナには聞こえない。
 少女が今いるのは、彼女達が今までいた世界と紙一重の位置に存在する、精神世界面だった。
 黒い髪の色以外、紅の瞳を初めとして、髪一筋までも、先程彼女が対峙していたリナという少女と瓜二つの姿を持つ
彼女は……。
「……こっちも、名乗ってもよかったんだけどねぇ」
 世界を隔てた向こうでまだ何やら喚いている栗色の髪の少女を見ながら、黒髪の少女はまだ笑っていた。
「説明、ややっこしーんだもんな」
 ――リナ=インバースです、なぁんて名乗ると……。
「ま、信じてもらえもしないだろーし?」
 “あの”リナ=インバースとも違うしね。
 呟く少女の脳裏に浮かぶのは、今、目に映っている栗色の髪の少女ではない。それより僅かに年上に見える……け
れど、それ以外は全く変わらない、彼女の母親。
 ――リナ=インバース。
「母さんの名前を譲られたんだから、あたしだってリナ=インバースでもいい筈だけどねー」
 ……名乗るとなると、なかなか厄介だったりする。
 なにせ、彼女の母親は、色々な意味で非常に有名すぎた。
 本人と思われるのも面倒で嫌だが、売名行為と取られたりしたら……非常に不愉快だ。
 もっとも、それだけ、リナの名を借りた売名行為が多いということだ。
 ……こちらの方面で、リナ=インバースが現れたという噂をとある人物から聞いた時は、やはり、完璧に売名だと思っ
たのだが……。
「ほんっと……面白い」
 にっこり笑って、リナの名を継ぐ少女は、リナと名乗った少女に背を向けた。
「……さすが、おばちゃんからきた情報よねぇ……」
 彼女の脳裏に、数日前の情景が浮かんだ――。


 パタン。
 準備中の札のかかったレストランのドアが、いきなり開いた。
「すみません。もう終わって……。……あら」
 テーブルを拭いていた栗色の髪の女性が振り返って、少し驚いたように目を見張った。
「ちびリナじゃないの。どうしたの?」
 ちびリナと呼ばれた黒髪の、十五歳程度の少女は、少し拗ねたように唇をとがらせた。
「ルナおばちゃん。その、ちび……っての、やめてよー」
 が、おばちゃんと呼ばれるには少々若く見える女性は、そんな抗議には頓着しなかった。
「十五年くらい前からぴったり成長止めた姪に、そんなことを言う資格があると思うの?」
 リナは、う゛……と、つまった。
 もっとも、それを言うなら、
(二十年以上も、まっっったく姿が変わらないおばちゃんて……何なの?)
 そう思っても、口にはしない。命が惜しい。
 そんな思いを、気がつかないのか無視しているのか、黙々とテーブルを拭いていたリナの伯母は、全部終えてから
やっとリナをきちんと振り返った。
「……で、何の用なの?」
「え? うーんと……おばちゃん、どーしてるかなぁ……なんて」
 笑うリナを、ルナは呆れたような顔で見た。
「……暇そうねー……」
「うん、暇! すっっっごい、暇!」
「――平和ね……」
 ぽつりとこぼれた言葉に、リナは不満そうな顔になった。
「おばちゃん。あたし別に魔族じゃないから、世界滅ぼそうとなんてしてないけど……」
「当たり前でしょう?」
 にっこり。
 柔らかい微笑みに、リナの足が、一歩、退けた。
「……わたしの姪の分際でそんなものになってそんなことをやらかしたら……真っ先に滅ぼしてあげるわ♪」
「う゛ぅっっっ……」
 顔にひきつった笑みを張り付けて、リナはじりじりと視線を避けるように後ずさった。
「や、やんないよー。……それに、父さんも、今、かなり暇そうだしー」
 何かやってるんだったら、それ見て暇つぶしとかするんだけどねぇ……。
 少女のしみじみとした様子に、向かい合う女性は心底呆れた表情になった。
 リナが“父さん”と呼んでいるのは、赤眼の魔王の五人の腹心に次ぐ力を有する獣神官だ。それの行動が暇つぶし
……とは……。
「つまり、何? あんたはわたしに、何か暇つぶしのネタを貰いに来たわけね?」
 リナは、パンと手を打ち合わせ、身を乗り出した。
「うん、そう! 何かある!?」
 ルナは目を細めた。
 彼女の逝ってしまった妹そっくりの姪の瞳が、キラキラと輝いている。
 小さく溜息をつくと、軽く額を押さえながら答えた。
「……あるわよ、一応」
「なになになぁに?」
 わくわくと背中に背負って、リナは身を乗り出した。
「……南の方で、『写本』が出たって」
「…………。……『写本』……って……!」
 リナの紅の瞳が鋭くなった。
「異界黙示録の? 本物?」
「さぁ? わたしは知らないわ。……ただ、どうやら、かなり厄介な代物らしいわね」
「……ふぅん……。成程……」
 リナは、くすくす笑った。
「この情報、父さんに流せば父さんも喜ぶし、あたしも暇つぶしできるし、おばちゃんは……余計な厄介事を押しつけら
れる、と」
 ルナは、軽く肩をすくめた。
「わたしは別に、自分の身に降りかからない限り、厄介事なんてどうでもいいわ。
 ……ま、でも、暇な姪が邪魔しに来なくなるのは、有り難いかしらね」
「…………。……おばちゃん、ひどーい……」
 リナはジト目でルナを睨んだ。
「……ま、いーか。ありがとねー、おばちゃん」
 ペコリと頭を下げて、身をひるがえそうとする姪を見て、ルナは、「ちょっと」と呼び止めた。
「……もう一つ、面白い情報があるわ。同じく南で……幽霊が出てる、って」
「ゆーれーっ?」
 すっとんきょうな声をあげたリナに、ルナは、小さく頷いた。
「そ。それも、とっても馴染み深い幽霊。
 ……盗賊殺し、ドラまたリナ=インバースが、またまた再び現れた……ということよ?」
 ………………。
「…………。……何それ」
 完全に不機嫌そうな表情で、リナは呟いた。
 その怪しげな呼称を冠される、自分と同じ名の存在を、リナはよぉぉぉく、知っていた。
 彼女に名と世界を残し、逝ってしまった……母親だ。
「どっこの馬鹿よ。母さんの名前騙ってるのは!?」
 がしがしっと、これは父親譲りの黒髪をかきむしった。
「リナ=インバースを名乗っていいのは、今はあたしだけだっつーのっ! えぇい、見つけ出して、張り倒しちゃるっ!
 ……おばちゃーん、情報、ありがとねーっ」
 母親譲りの顔を怒気に染めると、黒髪のリナは……闇に紛れ、姿を消した。

 それを見送ったルナは、小さく唇をつり上げ、目を伏せた。
(……事態が再び動き始めた……わね)
 これからどうなるか。
 ――“リナ”。あんたは、知ってる……?


(……おばちゃん。幽霊、見つけたよ)
 よもやまさか本物……ということはないと思うが……。
 彼の……金色の魔王のくそいーかげんさ――ではなく、非常なる寛容さを考えると、可能性はゼロではない。
「まっ。本物じゃないとしても……見てて暇つぶしになりそーな人間ってことには変わりないよねっ」
 にっこり。
 父親譲りか、はたまた母親譲りか――。
 傍迷惑な性格の一端を言葉に秘めると、リナは、空間を渡っていった……。

△△△△△△△△△△△△△△

 えーん・・・さすがに同じ名前三人もいると、対処に困ります(;;)
 元リナ、ちびリナ、そっくりリナ・・・。
 某恋愛シュミレーションゲームかっっっ。
 何か妙な風に話が転がってますけど、お気が向かれましたら読んでやって下さいませ。

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5013三人目の嵐(2)T−HOPE E-mail URL10/1-23:38
記事番号5011へのコメント
原作の一部分をかなりパクってしまいました。
うーーー。・・・の割に、わけわからないものになってます(死)

△△△△△△△△△△△

   三人目の嵐(2)

 栗色の髪の少女が、緊張を孕んだ表情で彼を振り返った。
 その前には、彼女が敵対する存在。
(……本当に、そっくり、ですよね)
 目の前の存在か、それともこの状況か。どちらともつかないまま、彼は心の中で呟いた。
 ありえないと判っていても、時は再び繰り返すのかと自問したくなる。
 ――だから、彼は、あえてその流れに乗った。
「……暴爆呪!」
(これを見た“あなた”は、どういう反応を示しますか……?)
 ただ、それを確かめるためだけに……。

『……あんた……さてはレイ=マグナスでしょっ!』
 彼の圧倒的な力を見せつけられ、自分は魔力を封じられた状況で、“彼女”は、まるで恐れすら見せずにそう言い放
った。
 ――それが、“彼女”、リナ=インバースだった。
 魔族に対しても竜族に対しても、勿論、人間に対しても。常に自分の流儀を崩すことなく、その強い意志で未来へと
進んでいく。たとえ力及ばずとも……。……そんな、存在だった。
(……さて、では、あなたは?)
 目の前の少女は、真っ正面から彼を見据えていた。
「……あんた……」
 彼は、常と変わらぬ笑顔のまま、そんな少女に対した。
「……リナ=インバースでしょっ!」
 ずでっ。
 演技ではなく、半分以上本気で彼はひっくりこけた。
「……ど……どこをどうつついたら、そーいうりくつがわき出てくるんですか!?」
 身を起こし、胸を張る少女に向かって言う。
「んっふっっふ。簡単なことよ。
 あたしの知ってる限り、暴爆呪を使うことのできた人間は、レイ=マグナスとリナ=インバースのみ。
 けど、さすがに千年以上前の魔道士が噂にもならずにこんなとこふらふらしてるとも思えないしね。
 とすると、残るはただ一人。すなわち、リナ=インバース!」
「あのですねぇ……リナ=インバースって、女性じゃありませんでしたっ!?」
「何言ってんのよ! そんくらい、根性いれれば何とかなる!
 ……ついでにあんた、かなり女顔だしー……性転換しても大丈夫っ!」
「性転換って、何なんですか! だいたい、それって、いったい、どんな根性ですっ!?」
 ひきつった表情で叫びながら、彼は、裏で微笑んでいた。
(……成程、ね。あちらのリナが『暇つぶしくらいには絶対なる』と言った言葉……どうやら、嘘ではなかったようですねぇ)
 目の前の少女は、彼の求めるリナではない。
 ……万が一、その魂が同じであっても、記憶がない以上は、別人だ。
 けれど……。
(ま、とりあえず付き合ってみても、損はないでしょう……)
 ――とりあえずは、ね。
 そう呟きながら、彼は、いつもと変わらぬ人の良さそうな笑みを浮かべ、相手に対し続けていた……。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 あぁぁぁ・・・だから、なんでこーなるのでしょう?
 ついでに、何でこの人(じゃないけど)名前出さなかったかなぁ。
 あくまで謎の存在である、という認識のせいかもしれません。・・・あんまし意味ない(−−;)
 ちなみにこの話、転生に意味はない・・・ということを言いたかった筈・・・なんですが・・・失敗してますね(爆)

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5031三人目の嵐(終)T-HOPE 10/2-16:21
記事番号5013へのコメント

  三人目の嵐(終)


「……ということみたいですよ。ゼラス様」
 手の中の宝玉に移し出された映像を示しながら、黒髪の少女は、目の前の玉座に座る女性ににっこりと笑いかけた。
 金の髪のその女性は、小さく肩をすくめる。
「成程……。……面白いこともあるものだわね。
で? お前が只でその情報をもたらす筈もあるまい? 今度は何が欲しい?」
「さっすが、ゼラス様! 話が早いですねっ。
……えーと、手下にできそうな魔族はこの間いただいたし、馴染みのとこで魔法書売ったのは先々月だし……。
……魔法剣かなにか、いただけると嬉しいですっ(はぁと)」
 にこにこと、何処から取り出したか算盤なぞを持ちながら笑う、黒髪のリナ。
「……そういうところは、実に、あのリナ=インバース似だな……」
「そーですかー?」
 自分の魔力で適当に作った魔法剣を手渡しながら、獣王ゼラス=メタリオムは、呆れたような口調で言った。
 そんな相手に対し、リナは、魔法剣をチェックしながら、上の空で答える。
「……何でか知らないけど、父さんもよくそう言いますねー。
……うん。これなら、捨て値でさばいても、あのそっくりさんに譲っちゃったお宝さんの分くらいは軽く取り戻せるわっ」
 嬉しそうに剣に頬ずりするリナの目に、ハートマークが浮かんでいる。
「……それは、言うだろうな……」
「あはは……。
ま、じゃ、有り難うございました。また情報仕入れて持ってくるんで、そん時はよろしくーっ」
 ひらひらと手を振りながら、それでもしっかりと魔法剣を抱え、リナは宙に浮かんだ。
「……あの一行、どうもセイルーン方面に向かうみたいなんで、今度はセイルーン名物のソフトクリームでもお土産に
買ってきますねーっ」
 しゅんっ、と、見る間に髪と同じ色の闇に溶け、消えた少女。
 見送る金色の髪の女性は、深々と溜息をついた。
「……あーゆーところは、ゼロスに似たわけね……」
 呟きながら、少女が置いていった宝玉に目をやる。
 映し出されるのは、栗色の髪の生気にあふれた少女。
 かつてこの世に在った者に瓜二つな……不可思議なる存在。
「お前が本当にあの者の生まれ変わりなのか……知ることができる者は、そう、いないでしょうね……」
 確実にできると知れていたのは、今はもう滅んでいる冥王。
 七分の一である封印中の赤眼の魔王様、赤の竜神の一部である赤の竜神の騎士……彼等になら、できるのだろう
か?
 ……どちらにせよ、誰も真実を語らない。
「……語られる必要も、ない……か」
 たとえ生まれ変わりだとしても、同じだけの輝きを放てなければ待ち受ける運命は偽者の場合とさして違いはない。
「運命は、これから切り開かれるもの……?」
 低い声で言うと、獣王は、小さく笑った。
「……我ながら、らしくないわね。こんな台詞……」
(ともあれ、世界は回り始める……)


 “リナ”の名を持つ、三人目の娘。
 ――新たなる、嵐の時が来るのか……?

 けれど……真実は、誰も、知らない――……。




 うわぁぁぁ……なぁんかキリが悪いです。
 こんなことなら、前のとこで切っちゃえばよかったなぁ。
 ただ、前のとこでリナが、生まれ変わったら……とか言ってたものだから、じゃぁ、と思ってしまったのでした。
 あ、でも、この新しく出てきたリナが元のリナの生まれ変わりって保証はありません。 それを知っているのはL様の
みっ(多分……(^^;)
 この先のこの子の運命は、生まれ変わり云々に関わりなく、彼女自身がつかみ取るものでしょう。……と、ゼロス君
とか判ってくれてるといいですね〜(笑)
 にしても、書くのに苦労しました。三人目まで出すとっ。
 元リな、ちびリナ、そっくりリナ……あぅあぅ(;;)
 某恋愛育成ゲームじゃないんだから……何だってこんな同じ名前……。
このまんまじゃ三人目がちゃんと動かない〜・・・とゆー理由で、このお話はこれで凍結いたします。
ここまで読んでくださった奇特な方に感謝!
・・・いきなり再開する可能性が皆無じゃないあたりが、私のいいかげんさを物語っているのでした(笑)

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5039やさしい気持ち、二つの形見あぁーんど三人目の嵐理奈 E-mail 10/3-07:44
記事番号5031へのコメント
よかったですぅ〜〜〜〜!!!!とくにリナとゼロスのラブラブシーンは!
リナは、死んでしまったけど自分の娘と愛するゼロスに見守られてとても幸せだったとおもいます。三人目のリナの登場には、ちょっとおどろきました。でも私としては、リナの生まれ変わり・・ってのは、ちょっといやですねぇ。いくら生まれ変わりだとしても別人なのだから。そしてもし生まれ変わりだとしても前のリナと同じ輝きをもたなければ偽者と同じ。もしリナと同じ物を持つ者をもとめるのだったらリナ自身を生き返らせるしかない。あのドラマタリナ・インバースは、一人しかいない、特別な存在だと私は、思ってます。ってなにを言いたいんだろう私は。
ちびリナちゃんは、とってもかわいかったです。母親の死にもめげずにがんばってるすがたがとてもたのもしいです。
とゆーわけでめちゃくちゃなレスですが、とてもたのしかったです。こんないい作品をかいたあなたに拍手。

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5066ありがとうございます〜T−HOPE E-mail URL10/4-09:50
記事番号5039へのコメント
 読んでいただいて、有り難うございました!

>よかったですぅ〜〜〜〜!!!!とくにリナとゼロスのラブラブシーンは!

 ・・・いや、甘すぎたかなぁ・・・とか思ったんですけどね(^^;)

>リナは、死んでしまったけど自分の娘と愛するゼロスに見守られてとても幸せだったとおもいます。三人目のリナの登場には、ちょっとおどろきました。でも私としては、リナの生まれ変わり・・ってのは、ちょっといやですねぇ。いくら生まれ変わりだとしても別人なのだから。そしてもし生まれ変わりだとしても前のリナと同じ輝きをもたなければ偽者と同じ。もしリナと同じ物を持つ者をもとめるのだったらリナ自身を生き返らせるしかない。あのドラマタリナ・インバースは、一人しかいない、特別な存在だと私は、思ってます。ってなにを言いたいんだろう私は。

 私も、リナはあれで幸せだっただろうなぁ・・・と。
 ゼロスはともかく(笑)リナには幸せになってほしいんですよぉ。
 三人目は・・・私も書く気なかったんですけどね。
 なんでかなぁ・・・と、突き詰めて考えたら・・・凍結したはずの続きが出てしまいました(死)
 つまるところ、ゼロスがいけないんです・・・多分。

> ちびリナちゃんは、とってもかわいかったです。母親の死にもめげずにがんばってるすがたがとてもたのもしいです。

 いえ・・・頑張ってるというか・・・むにゃむにゃ(笑)

> とゆーわけでめちゃくちゃなレスですが、とてもたのしかったです。こんないい作品をかいたあなたに拍手。

 ありがとうございますぅぅぅ・・・(;;)
 読んでいただけただけでも、嬉しかったです!

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5067撫子T−HOPE E-mail URL10/4-09:58
記事番号5011へのコメント
 凍結した筈なのにぃ・・・(;;)
 暴走したキャラクターがさらに暴走して・・・終わってます。
 だから、きっと、多分、ゼロス君がいけないのです・・・。
 ちなみに、最初の方にでてくる「リナ」は三人目です。はい。

〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

    撫子

 周囲に人々の呻き声が満ちる。
 その中に仲間の声を聞きつけ、栗色の髪の少女は目の前の存在をキツく睨みつけた。
「よもや……あんたが魔族だった、なんてねっ」
 別行動をしていた少女が、爆音を聞きつけて駆けつけた時には、目の前のこの男以外、全て、あるいは傷つき、ある
いは命奪われて倒れていた。
 村一つ、ほぼ完全に吹き飛ばした黒髪の僧侶の格好をした魔族は、人間のふりをしてまとわりついていた時と何ら変
わりない、人の良さそうな笑みを浮かべ続けていた。
「そうですよ? 今までご存じなかったんですか、リナさん。
 いやー、困りますね。ちゃんと気づいてくれなくては……」
 呑気な口調に、怒りが膨れ上がりそうになった。
 その怒りに、必死に恐怖を紛らわす。
 そんなリナを面白そうな目で見ると、魔族は軽く一礼した。
「僕は、獣神官ゼロス。獣王ゼラス=メタリオム様に仕える者の端くれです」
「端くれ……ねぇ……」
 リナは、ちょっと俯いていたが、やおら顔を上げると……。
「竜破斬!!」
 ゼロスはそのまま動かず、小さく呪文を唱えた。
 ふしゅっ。
 見る間に赤光は闇に溶け、消えた。
「そんなもの当てないで下さいよー。当たっちゃったら痛いじゃないですか」
 リナは唇をかんだ。
 どう考えても、端くれの筈はない。
 しかし……こんな魔族が、何故……。
「……何が目的で、あたし達に近づいたの?」
 尋ねると、ゼロスはちょっと肩をすくめた。
「いえ、別に、あなた“逹”に近づく気はなかったんですけどね。あなたがあんまり似てらっしゃるように見えたものですか
ら」
「魔族に?」
 リナは、少し嫌な顔になった。
 ゼロスは唇の端を軽くつり上げた笑いを浮かべた。
「違います。僕が唯一興味を覚えた、人間に……ですよ。
 ま、そんなことはどうでもいいですね」
 錫杖の先が、つ、と、リナを示した。
「今の僕は、獣神官として、あなたを滅ぼしてさしあげるためにここにいるのですから……」
 リナの顔が、強張った。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。あたしを滅ぼすためって……じゃ、この村の有様は、どういうわけよ!?」
「これも、お仕事の一環なんですよ。……だから、秘密です。
 ――そんなことより……始めてもよろしいですか?」
「…………。……あたしを、殺すのを?」
 身構えながら言う少女に、ゼロスは喜々とした表情で頷いた。
「抵抗するな、なーんて言いませんから、ご安心を。
 だって……それが、あなた達人間というものなのでしょう?」
 ――そろそろお仲間も回復する頃ですから、構いませんよね?
 笑いながら言われた台詞に、鳥肌が立つのを押さえこみ、リナは少し笑ってみせた。
「構うっつったって、どーせ、あたしを殺す気なんでしょーが?」
「ま、そーですね」
 にっこり。
 笑った魔族に向かって、不意に背後から光が走った。
「烈閃槍!」
 当たるか……と思った瞬間、ゼロスの姿は闇に溶けた。
 同時に、呪文を放ったリナの仲間が吹き飛ばされる。
「いやー、惜しかったですね。
 でも、その呪文じゃ、当たってもあんまり意味ないと思いますよー?」
 にこにこ笑いながら再び空中に現れたゼロスの錫杖の先に闇が集っていく。
 リナは、それが放たれると同時に横っ飛びに逃げた。
「覇王氷河烈!!」
「崩霊裂!」
「烈閃槍!!」
「黒妖陣!」
 四方から放たれる呪文。
 が、ゼロスは微笑を浮かべたまま、あるいは空間を渡り、あるいは無効化し……呪文を放った人間をあっという間に
吹き飛ばした。
「邪魔なんで殺しちゃおうかとも思うんですけど……どーしましょうね?」
 リナが睨みつける先で、ふと、闇色の視線が周囲を見回し、リナに視線をとめて笑った。
「させないっ! 獣王牙操弾!!」
 呪符を借りて放たれた呪文。
 けれど、ゼロスはあっさり錫杖でそれを切り裂いた。
「……くっ」
「あなたは……この程度、ですか」
「あのねっ」
 何処か興ざめしたとでも言いたげな口調に、リナはかちんときて怒鳴った。
「あんたがあたしに誰を重ねてるか知んないけど、あたしはあたしなのよっ!?
 あたしはあたしにしかできないことがあるし、それをやるのっ!
 魔族なんかにごちゃごちゃ言われる筋合いはないわっ!」
 ゼロスは、その言葉に僅かに笑みを陰らせたように見えた。
 ふと、視線が何処か別の何かを探す。
「……そうですね」
 呟かれる声は、何故か寂しげだった。
「あの人はこの世にただ一人。たとえ生まれ変わったとしても……それは同じこと。
 ……ま、二人もいられては、こちらの身も保ちませんからね」
 最後の一言は、苦笑まじりに放たれた。
「……というわけで、今度こそ本気でいきましょうか?」
 すっと、ゼロスが動いた。
 ――何が、というわけなんだっ。……などと、リナが突っ込む暇もない。
「くぅ……っ」
 反射的に腰の剣を抜き放った。
 一応、魔法剣ではあるが……無銘のもの。はっきりいって、高位魔族に通じるとも思えなかった。
 それでも……。
「……無駄ですよっ」
「だとしても……あたしは、最後まで諦めないっ!」
「……そうでしょうね……」
 放たれたゼロスの魔力を紙一重で躱し、リナは剣を構えて真っ直ぐに突っ込んだ。
 ゼロスの腹に、吸い込まれるように刀身が埋まり……。
「……なっ……まさか……」
 何処か動揺したような声。そんな魔族に、
「「崩霊裂!!」」
 同時に背後から放たれた二重の呪文がぶち当たった……。
「くっ……うあぁぁぁぁぁっっっっ!!」
 とっさに飛びのいたリナの視線の先、蒼い火柱の中……闇色の魔族は崩れていった。
 最後の一瞬……リナを認めた闇色の瞳は……果たして、何を見ていたのだろう――?


「……これで、終わったの?」
 火柱が消えた後、リナは、ぽつんと呟いた。
「それとも……まだ……」
 まだ生きていて、一時退いただけなのではないか……。
 かなりの高位魔族のようだったため、リナは警戒を解かぬまま周囲を見回した。
 ……と。
「……!?」
 気配を感じ飛びのいたリナの目の前、ゼロスが消え失せたその場所に、いきなり花が降ってきた。
 淡い淡紅色の――。
「……撫子?」
 一つや二つではない。
 たとえて言うなら、風呂桶一杯分一気にひっくり返したような分量だった。
「花言葉は、追慕、哀悼……だってさ」
 不意に聞こえた声に、ぎくっとして振り返ると、後ろに黒髪の少女が一人立っていた。
「あんた……っ」
 以前、一度だけ会った、髪の色以外、彼女と瓜二つの少女。
 リナの仲間も驚いたように二人を見比べていた。
「何で、あんたがここに……」
「……死んじゃったからね」
 細い指が差す先は、花に埋もれていた。
「だから、撫子で送ってあげようかと思って」
「……死んだって……」
「忠告、しとけばよかったんだけど……」
 すい、と、リナの脇をすり抜け、黒髪の少女は花に埋もれた場所まで行くと、地面に落ちたままの剣を取り上げた。
「あ、それ、あたし……の……?」
 何やら形状が違う気がして、リナは語尾を濁した。
 確か、剣だった筈。それが……闇の塊のように見えるのは、目の錯覚だろうか。
「偶然って怖いって……知ってたけどさ。よもや、あなたがこの剣持ってるなんてね」
 少女の手の中で、闇は一瞬揺らめき、消え失せた。
「あーっ。何すんのよ、あたしの剣をーっっっ!」
 黒髪の少女は、ふふんと鼻で笑った。
「あれ、魔族の一種だけど。それでも欲しい?」
「…………。……え?」
 リナの顔が、少し引きつった。
「ついでに、獣王の力もこもってたから……えーと、“彼”を、つなぎ止めることができたの。そこに二重の崩霊裂でしょ?
 さっすがに保たなかったみたいねー」
「ゼロスは、死んだの?」
「混沌に帰っちゃったわ。
 ……ま、魔族の最終目的は滅びなんだし、いーんじゃない?」
 お気楽な口調だが、何処かに哀しみが込められているようで、リナは首をかしげた。
「あんただって……魔族じゃないの?」
「あたし?」
 黒髪の少女は首をすくめた。
「違うよ。魔族に組みしたら、一番最初に滅ぼしてあげるって言われてるから……魔族には、ならない」
 ――誰に滅ぼされるのか、と、リナは問うたが、少女はただ笑うだけだった。
 リナは、鋭い視線で黒髪の少女を見つめた。
「あいつがあたしを通して見てたのって……あんたなの?」
 少女はあっさり首を横に振った。
「ううん。母さん」
 小さな笑みが、その頬に浮かんでいた。
「……撫子が好きだった、あたしの大好きな、母さん」
 だから撫子を降らせたのだと、くすくす笑いながら少女は言った。
「……どんな人だったの?」
 最後の瞬間、ゼロスが見ていたのはその人だった気がした。
 魔族を、そこまで惹きつけた人間――。
 好奇心がわいた。
 けれど、黒髪の少女はその問いに首をかしげ、答えようとしなかった。
「聞いてどうするの? あなたはあなたなんでしょ?
 ……ま、なろうったって、なれるよーな人じゃなかったし」
 ――この世にただ一人の人。
 ゼロスと同じことを言うと、足元の撫子を一輪だけ手に取り、もう一度リナを振り向いて笑った。
「……あなたもね。これから大変だろーけど、精々頑張ってね。でないと、見てるこっちもつまんないしっ」
「どーゆーことよっ!?」
 リナがつめよろうとする……より、早く、
「それは秘密です」
 笑いながら、少女の姿は闇に溶けた……。


 小さな村の村外れの墓地。
 小さな墓石に向かい、一人の少女が跪いていた。
 供えられているのは、一輪の撫子。
「……母さん。まだ、“そこ”にいる?」
 囁く声は、風に乗る。
「まだいるなら……父さん、そっちにいったから。よろしく」
 黒髪の少女リナは、それだけ言うと、小さく溜息をついた。
「……ゼラス様、怒るかな」
 ゼロスが滅んだのは、完璧なる偶然の産物だった。
 よもや、あの少女が、以前ゼラスに作ってもらってリナが売り払った魔法剣を手にしていた、とは……。
 そこそこの魔族が剣の形を取った上に、ゼラスの魔力、リナの魔力――つまるところ、ゼロス自身の魔力と同じもの
――がのせられていた。そんなものをくらえば、さすがにゼロスといえど無事では済まない。
「ま……でも、父さん、あれで結構満足そうだったし……」
 この世界で、以前通りの愛しい人間に出会うことは無理と悟った時、ゼロスは……心の奥底で滅びを願ったのかもし
れない。
「人間じゃないから……長い時をずっと、母さん忘れられずに存在し続けなきゃいけないし、ね」
 混沌に戻れば、全て忘れて一からやり直せるのかも……しれない。
「あたしは、まだ、嫌だけどね」
 “あの”リナも、そこそこ面白そうだし、他にも探せば暇つぶしはたくさんあるだろう。
「……そう。“まだ”ね」
 言うと、リナは、すっと立ち上がった。
「だから……また、来るね。母さん……父さん」
 そして――少女の姿は風に紛れ、何処かへ……消えた…………。

〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

 凍結宣言した途端に話が浮かんでくるって……何事でしょう?
 まー、よくあるけど……捨てた途端に復活するのは。
 ムーサイの悪戯か……ってほど高尚な話、書いてないですね〜。かなり図々しい言い種でした(^^;)
 にしても、キャラクターが暴走して続いた話、結局キャラの暴走で終わりました。
 どーも……ゼロス、死にたかった(殺したかった?)らしいです。
 最初、そんな予定微塵もなかったにもかかわらず、書けない話をいじくっているうちにいきなり死んでました(笑)
 多分、リナがゼロス亡き後一人頑張ってくという図は浮かんでも、本気でリナが好きなゼロスがリナ亡き後生きてくの
は……浮かばなかったらしいです。ほんと、ボクが書く男って、未練がましいの多いなぁ(−−;)
 ……で、死にたいらしいのは判ったんですけど、三番目じゃそう簡単にゼロス殺せないし。仕方ないので、妙なアイテ
ムでっち上げる羽目になりました。
 ちゃんと殺してやったんだから、安らかに成仏して下さいませ(笑)
 ちびリナがこれからどーなるかは判りません。その辺で暇つぶししてるだろーな。
 ……本当は、ガウリィとかも出してみたかったんですけど、力及ばないのでやめました。
 とにかく、これで終わり……です。よかったよかった。

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5083全部楽しみましたわ庵 瑠嬌 10/4-17:44
記事番号5067へのコメント

 おもしろかったですわ。
 あの、小さいリナさんが、本当に、ゼロスとリナさんに似ていて……。
 二人の子供、という感じがしましたわ。
 双方の性格を引き継いでいて。
 
 リナさんが死んでしまうところは、とても哀しかったですわ。
 目が思わずうるんでしまいましたの。
 さすがにこぼすのは、何とかこらえましたけれども……。

 でも、ゼロスが死んだときは、思わず呆気にとられました。
 まあ、結構、リナさんに寄りかかってましたし、確かに後追い自殺でもしそうですわよね。
 また、リナさんの生まれ変わりの手で……というのが、またゼロスらしい……。
 実は、満足してお亡くなりになったんでしょうね。
 小さいリナさんも、ずいぶんと、いい性格になりましたし。
 ああいう人って好きです。
  
                                                     庵 瑠嬌でした……。

 

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5114Re:全部楽しみましたわT−HOPE E-mail URL10/5-10:11
記事番号5083へのコメント
> おもしろかったですわ。
> あの、小さいリナさんが、本当に、ゼロスとリナさんに似ていて……。
> 二人の子供、という感じがしましたわ。
> 双方の性格を引き継いでいて。

 ありがとうございます〜。
 いえ・・・ちびリナ、ゼロスの性格引き継がせすぎたかな、と、ちらっと思いはしたんですよ(笑)
 何か、ほとんど魔族・・・。
 
> リナさんが死んでしまうところは、とても哀しかったですわ。
> 目が思わずうるんでしまいましたの。
> さすがにこぼすのは、何とかこらえましたけれども……。

 そう言っていただけると、とても嬉しいです。
 もっとも、ご飯食べてから死ぬあたり、私の中のリナ像がどんなものだか・・・(^^;)

> でも、ゼロスが死んだときは、思わず呆気にとられました。
> まあ、結構、リナさんに寄りかかってましたし、確かに後追い自殺でもしそうですわよね。
> また、リナさんの生まれ変わりの手で……というのが、またゼロスらしい……。
> 実は、満足してお亡くなりになったんでしょうね。

 あ、やっぱり・・・。
 かなり無理がある展開なのはわかってたんですけどねぇ。
 これ以外の展開だと、どーっっっしてもゼロスが動こうとしなかったんです(;;)
 ホントは、もうちょっと別の話書くつもりだったんですけど・・・ゼロスなんかキライだ(今だけ^^;)
 確かに、本人(?)は、満足してるんじゃないかなぁ・・・と思います、はい。

> 小さいリナさんも、ずいぶんと、いい性格になりましたし。
> ああいう人って好きです。

 あはは・・・私が小さい頃から書いてくと、キャラクター、何故かひねくれるみたいです(笑)
 まぁ・・・あれだけの性格なら、長生きするでしょう、多分(笑)
 ここまで読んできて下さって、有り難うございました。
 次はもー少し・・・ゼロス君魔族に戻してあげたいです。
 その折、お気が向きましたら、また、読んで下さいね。

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5108だぁぁぁぁっっ!!ひなた E-mail 10/4-23:29
記事番号5067へのコメント
こんにちわぁっっ!!全部読みましたぁっっ!!
なひなたです。

・・・かなしいようかなしいよう・・・・しくしくしく・・・・。
なんかゼロスくんとか、ちびりなとか、めちゃめちゃかわいそうじゃないですか?
これもリナが強烈すぎたせいでしょーか・・・。
まぁ、それも運命でしょう(冷)ってことで、あきらめますか。

悲しかったけど、めちゃんこおもしろかったですっっ!!
こんなすばらしぃものをありがとうです☆

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5115Re:だぁぁぁぁっっ!!T−HOPE E-mail URL10/5-10:16
記事番号5108へのコメント
>こんにちわぁっっ!!全部読みましたぁっっ!!
>なひなたです。

 ありがとうございますぅぅぅ・・・。

>・・・かなしいようかなしいよう・・・・しくしくしく・・・・。
>なんかゼロスくんとか、ちびりなとか、めちゃめちゃかわいそうじゃないですか?

 いえ、ゼロスは本人があー動きたがったんで・・・これ以上は、何とも(^^;)
 ちびリナは・・・むぅ。可哀想といえば、可哀想かなぁ。
 でも、あの子、あの時点で既に三十歳くらいに(人間の年齢でいえば)なってますから・・・きっと、元気に立ち直ってく
れるでしょう。・・・多分。

>これもリナが強烈すぎたせいでしょーか・・・。
>まぁ、それも運命でしょう(冷)ってことで、あきらめますか。

 そんなところかもしれません。
 リナのいない世界のゼロスを思いつけない私がいけないとも言いますが・・・(死)

>悲しかったけど、めちゃんこおもしろかったですっっ!!
>こんなすばらしぃものをありがとうです☆

 そう言っていただけると嬉しいですぅ・・・ウルウル。
 ここまで読んで下さって、有り難うございました。
 また・・・お気が向かれましたら、よろしく〜。

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5111はぁ〜理奈 E-mail 10/5-03:19
記事番号5067へのコメント
こんにちは、またまた理奈です。

思わずさいっしょから読み直してしまいました。いいぃですねぇ〜、よかったです〜〜。ゼロス様亡くなりましたか。でも彼にとっては、これでよかったんでしょうね。これから何千年もリナを忘れないように生きていくのは、ちょっとつらいでしょうね。だからリナのもとへいけて満足でしょう。

すっごいよかったです。また投稿した時は、是非読ませていただきます。
では、では。

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5116Re:はぁ〜T−HOPE E-mail URL10/5-10:20
記事番号5111へのコメント
>こんにちは、またまた理奈です。
>思わずさいっしょから読み直してしまいました。いいぃですねぇ〜、よかったです〜〜。ゼロス様亡くなりましたか。でも彼にとっては、これでよかったんでしょうね。これから何千年もリナを忘れないように生きていくのは、ちょっとつらいでしょうね。だからリナのもとへいけて満足でしょう。

 うぅっ。嬉しいです〜。
 ゼロス君は・・・そーですね。多分、満足してるだろうと思います。
 でも、混沌にリナがいて、意識あったら、多分、怒られてるだろーな(笑)
 情けないって・・・(^^;)

>すっごいよかったです。また投稿した時は、是非読ませていただきます。
>では、では。

 有り難うございました。
 また・・・の時、お気が向かれましたら、よろしくー。
 ・・・って、この後すぐだったりするあたり・・・(笑) 

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5140読みました〜☆はる 10/5-23:39
記事番号5067へのコメント

T−HOPE様へ

初めまして、はるといいます。いつも読ませていただいていて、はじめての
感想です。
何度読んでも面白い!!すごいですね。長編って難しくないですか?
私は小説書いたことないから、なんだか難しそうに感じちゃう。

撫子の花、私も大好きなんです。私、ちょっとお花とかしてて、たまに生けるんです撫子。
可愛くて、赤くっても清楚って感じだなー。
ゼロス死んじゃって、悲しいけど、かっこよかったし(笑)
また、次も楽しみにしてます。

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5149Re:読みました〜☆T−HOPE E-mail URL10/6-09:14
記事番号5140へのコメント
>初めまして、はるといいます。いつも読ませていただいていて、はじめての
>感想です。

 はじめまして、T-HOPEです。
 感想有り難うございます!

>何度読んでも面白い!!すごいですね。長編って難しくないですか?
>私は小説書いたことないから、なんだか難しそうに感じちゃう。

 人によると思いますが・・・私、短い方が難しいです(^^;)
 というより、枚数制限されると途端に書けなくなりますね。書き散らす、という感じなんで。

>撫子の花、私も大好きなんです。私、ちょっとお花とかしてて、たまに生けるんです撫子。
>可愛くて、赤くっても清楚って感じだなー。

 ・・・本人、えーとどんな感じの花だっけ、などと思いながら書いてました(爆)
 花言葉使うの好きなんですよ。
 で、ついつい・・・。
 も少しお勉強します、はい。

>ゼロス死んじゃって、悲しいけど、かっこよかったし(笑)

 そう言っていただけると嬉しいです。
 何となく、自分で見ると、何故私の書くゼロス君はこんな駄々っ子なのっ、ということになってますから(笑)

>また、次も楽しみにしてます。

 ありがとうございます〜。
 またお気が向かれましたら、よろしくお願いしますね。