◆-金色の巫女〜開眼編・5-M(11/21-15:01)No.5667
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5667金色の巫女〜開眼編・5E-mail URL11/21-15:01

お久しぶりでーす。風邪まっさかり@Mです。
先日、名古屋の一泊旅行をしたら見事に風邪がぶり返しました(涙
会いたかった人も、会えた人も。
皆さん元気そうでよかったーってのが、唯一の幸い。
皆さんも、お体は大事にしてくださいね。


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金色の巫女〜開眼編

           5


 ぴんぽーん♪

 軽やかな音がして、少し時間差があって。
 そして、奥から聞こえてくる足音……。
「おかえりなさい、リナさん。ガウリイさん。
 ……それと、ゼルガディスさん」
 あたしは固まった。
「どうかしたのか、リナ?」
「う、ううん……なんでもない」
 ガウリイの問いかけに、ひきつった笑みを浮かべるあたし。
 いや……まあ、なんとなく判らなくもないんだけど。
 チャイムとか言うのを押すようにゼルガディスに言われたので、ガウリイとジャンケンして勝ったあたしが。面白そうだから押してみたら……。
 で、出迎えてくれたのが……。
 ……ひよこさんのアップリケのついた真っ白な割烹着。白い三角巾で頭をまとめるゼロス。
 高位魔族のくせに……。
 ま、まあ立場としては判るのよ。
 一応、一家の主夫(?)だし。食事を作るときは清潔にしないといけないし。
 でも……魔族って汚れたりするっけ?
「さあ、早く中に入ろうぜ」
「そうですよ、早くお入りください。
 レイナさんも、先ほどまでお食事も取らす。眠らずにお待ちしていたんですよ。
 流石に、疲れてうたた寝はなさってますけどね」
「うたた寝なんかしてたら、身体に悪くないのかあ?」
 まさか……手抜き?
 教育に手抜きをするなんて……誰が許したのかしらねえ?
 ゼロスちゃ〜ん?
「て、手抜きだなんてとんでもありませんよ!!」
 あたしの「必殺じろ・にっこり」つまり、顔は笑ってるけど目だけ笑ってないと言う技に、ゼロスがたじろぐ。
「すぐにリナさん達がおかえりになるのは判っていましたからね。
 それくらいなら大丈夫です。それに……」
「それに、なんだ?」
「夕食も召し上がらずにお休みになるレイナさんて……翌朝、ちょっと気が短くなるんですよね」
 ちょっとだけ困った様な、でも笑ってる顔をするゼロス。
 うむうむ。流石はあたしの子だけはあるわ。
 人間、腹ぺこでは凶暴化すると言うものである。
 そう。相手がゼロスの様な高位魔族であろうと、恐れたりたじたじにさせるくらいの気迫がなければ。
 この荒れた人間社会で生きていくのは難しいのである。
「それって……人間なのか? 本当に?」
 うっさいよ、ゼル!
「まあ、とにかく早くお入りください。
 ここは、リナさんやガウリイさんの家でもあるんですから」
 そう言ったゼロスと、ゼルガディスはとっとと中にはいってしまった。
 いや……別に照れくさいとか言うものが。ないわけじゃないんだけど……。
 新しく買ったブーツ脱ぐのに手間取ったあたしは、少し遅れる。
 律儀にも、ガウリイがつきあってくれるけど……。
「大分つかれてるみたいだな」
 ブーツを脱いだ、あたしの足。
 少しむくんでる……。
 けど、それは仕方ない。ずっと、長い間を眠っていたのだから。
「まあ……それなりに、ね」
 笑顔を作ってみる。立ち上がりながら、それでも……。
「無理はするなよ? お前さん、俺よりは体力ないんだから」
 アンタと一緒にされてくないってのが……正直な意見は意見なんだけど、だからって基本的な体格とか体力差なんかはどうしようもないのは事実で。
 ちょっと……悔しいかもしんない。
「どうかしたのか?」
「う、ううん……きゃっ!」

 とさ。

「セーフ……。
 だから、無理するなって言ったじゃないか」
 少し怒った様な、困ったような声。
 足を滑らせてしまって、ガウリイが抱き支えてくれる。
 大きな……身体。
「リナ?」
「ごめん」
 けど、あたしはガウリイから離れない。離れたくないから。
「どうした?」
 ガウリイの手が、あたしの髪をなでる。
 何度も、何度も。
 あたしは、この手に守られてきた。この手に、支えられてきた。
 太陽の様に暖かくて、まぶしい存在。決して優しいだけではなく、時には厳しいけれど。底知れぬ、闇の様な恐怖も持ち合わせてるけれど。
 ずっと、独り占めをしてきた。
「ごめん……」
 世界を滅ぼす。それは大罪。
 もし、それ以上の罪があるとすれば。
 今、この時かも知れない。
「俺は言うぞ、何度でも」
 あたしの気持ち、察してくれている。
 これも、罪。
 答えの判っている、求めている事を知っていて投げかける想い。
「俺はいたいから、リナの側にいるんだ。人のままで、いつまで側にいられるかは判らない。
 いつか、寂しくて『契約』をしてしまうかも知れない。それでも、せめてそれまでは『俺』のままで」
 ガウリイを信じてる。けれど、心は想いを裏切る。
 ウソではないと判っていても、心がどんどん氷結して行く。
 哀しくなる。
「リナと一緒にいるさ。とことんつきあうって言ったし。
 俺達を知ってる人が消えても、俺達の知ってる世界が消えても。
 空にある、星が。月が太陽が消えても、リナがいれば。
 それでいい」
「……くらげのくせに、すぐ忘れるくせに」
 世界よりも選んだこと、今だって後悔はしない。
 あの時に戻っても、何度でも選ぶだろう。あたしは。
「だから、何度でも思う事にするさ。
 俺はリナの『保護者』だって」
 あたしは、かつてその意味を取り違っていた。
 保護者であると言うのは、親のような感情だと思っていた。決して、あたしを一人の人間として見ないものだと。
 けれど、本当は違うのだ。
 保護者と言うのは、母となった今なら判る。
「お前さんが『リナ=インバース』である限り、俺はお前さんの『保護者』でいられる。
 そうだろ?」
「……うん」
「さ、行こうぜ。
 レイナが待ってる。ゼルも、ゼロスも、アメリアも」
「うん」
 手が触れなくても、視線が絡む事がなくても。
 いつだって、ガウリイは側にいる。それだけは判る。
 でも……きっと気付いてないんだろうな、こいつは。
 それだけで、あたしがどれだけ救われているのかって事。
 ちょっと……むかつく。
「遅かったですねえ、リナさん。ガウリイさん」

 ぎょっ!

 ガウリイの後ろで、今にも「ツッコミスリッパ」をかましてやろうとした。そのタイミングを見計らった様に。
 ゼロスがひょこっと顔をだす。
 あ……あんた、心臓に悪いことやってんじゃないわよ!!
「あ、リナさん。スリッパは戻しておいてくださいね。
 スリッパ一つと言え、無駄には出来ませんから」
 …………………………あんた、もしかしてスリッパの為に出てきたのか?
 完全に思考は主夫だな。
「リナママ、ガウリイパパ!」
 あたし達の姿をみつけると、脱兎のごとく駆け出して。飛びついてくるレイナ。
 くるくるの栗茶髪。これは、あたしの血よね。
 グリーンかかった青い瞳。これはガウリイの血かな?
 顔の造作といい、素早さといい……。
 うーん、いかにもあたし達の血を引いてるって特徴が如実に現れてる。
 極めつけは魔法だけど、これまでどうやって暮らして来たんだろう?
「ただいま、レイナ」
「もう! レイナだけおいてきぼりなんてつまんなーい!
 今度、魔族やっつける時はレイナもお手伝いさせてね」
 ………………は?
 あたし、一瞬目が点になって思考が止まる。
「悪かったなあ、けど魔族と戦うのは大変だぞー」
 何も考えてないガウリイのセリフ。どこか、遠くで聞こえる……。
「だいじょーぶ! レイナ、強くなるって決めたもん。
 リナママやガウリイパパを、守るの! で、ついでにゼロスも消していい?」
 強い、意志の光を宿した瞳。ころころと変わる表情。
 ついでに、おねだりをする時のぶりっこのポーズ……。
 誰が伝授したんだ?
 じゃなくて!!
「俺じゃないぞ」
 振り向いたあたしに、開口一番のゼルのセリフ。
 部屋の隅の方で、あぐらをかいて座っている。
 まあ、部屋がそんなに広くないって事もあるんだけど。
「ゼロス!?」
「はい、なんでしょう?」
 どう見ても物理的に無理だよな、ゼロスの体格じゃあ……と思える大皿を、一枚ずつ片手に乗せて。しかも軽々とキッチンから現れたりするゼロス。
 あんた……立派にウェイターになれるぞ。
「レイナに、一体どんな教育の仕方してるのよ!」
「し……仕方ないじゃないですかあ。リナさんやガウリイさんの事をお教えするには、まず世界観とかからお教え差し上げないと……」
「わあぁ、やめろ! リナ!!」
「リナママ、ふぁいとぉ!」
 ゼロスの首を絞めてるあたしを、ガウリイの止める声と。レイナの応援とが来る。
 あたしとしてはレイナのリクエストに応えてあげたいんだけど……。
 でも、どうせこの程度でゼロスがどうにかなるわけないし。
「料理が落ちる!!」

 ぴた。

 ガウリイの一言で、あたしは手を離す。
 ちっ……運のいいやつ。
「運のいい奴って……お前の基準は飯か?」
 ゼルのつぶやきは、聴かなかった事にする。
 そのゼルは、やっぱり携帯食料を食べている。
 あんまり美味しくなさそう……。
「ちぇぇ〜」
 残念そうなレイナの声に、あたしは未来への希望の光が見えた様な気がする。
 うんうん、人間。やっぱりしぶとく生きなきゃね。
「どちらにしても、親の事を聴きたいのが子供の性ですよ。
 ゼルガディスさんが、オリジナルさんの事を知りたいように」
 うーみゅ……。
 ゼルの事を持ち出されると、そう言う意味では弱いな。あたし。
 オリジナルの事、まあ隠すような事は何もないけど。結局隠してるって負い目でもあるのかも知れない。
 そう言えば、アメリアも初代だとかって言うアメリアの事。えらく気にして……て。
「アメリアは?」
 さっきから、どーも誰かいないと思っていたんだっけ。
「アメリアさんなら、まだお休みですよ。
 よほど、お疲れなのでしょう」
「そうね……起こさないであげて……ってぇ。
 アンタはいきなり何を食ってるかなぁっ!!」

 どげし!

「何すんだよ、痛いじゃないか!」
 ガウリイの抗議は無視!
「何すんだよは、こっちのセリフよ!
 何をいきなり食べ尽くしてるのよ!!」
 一枚5人前はあろうかと言う大皿の料理は、すでにほとんどが原型をとどめない……どころか、ほとんどが消えていた。
「俺だって腹減ってるし、レイナだって腹減っただろうし……」
 ぶつぶつと言うガウリイの上で、きょとんとした顔でレイナがあたしを見上げている。 あたしの一撃を食らってものびないガウリイもすごいが、椅子代わりのガウリイに衝撃が与えられても。のほほんとしてるレイナも、なかなか良い度胸をしている。
「レイナはいいのよ! まだ子供だしね。
 でも、あんたは大の男でしょーが! 話が終わるまで待てんのか、お前はー!!」
 これで食いっぱぐれたら、本気でグレるぞ。あたしゃ……。
「まあまあ、リナさん。
 食事はまだありますから、そんなに怒らないでくださいよ」
 言いつつ、ゼロスは新しい大皿料理を持ってくるのだった。

          ◇

 闇の中、一筋の光が走る……。
「リナ様?」
「起こしちゃった? 悪かったわね」
 小柄な身体が起き出す。
 まだショックが残っているらしく、顔色がいまいちよくないのは……。
 決して、部屋の暗さの為だけじゃないだろう。
「申し訳ありませんでした」
 言いながら、いきなり土下座をするアメリア。
 ちょ、ちょっと、そんな事しないでよ!
「何を言っても、言い訳でしかありません。
 少しでもお役に立つ為に、海を渡ってきたのに……」
「ああいうのは、初めてだった?」
 今のアメリアは、多分。何を言っても慰めにはならないだろう。
 時間はかかっても、ショックから抜け出すには自力でやるしかない。
 でも、それはきっと。アメリアの成長につながる筈だから。
「はい……と言うよりは、『魔族』そのものを見たのが初めてなくらいで。
 実体をもてないゴーストくらいだったら、本国にもいない事はありませんが。
 でも、ゼロスとか。あの黒い人影とかは……。
 記録も、ほとんどが消失していますし」
 どうやら、長い時の中で『魔族』と言う存在は。別の概念へと移項してしまったらしい。
 人を、町。国。大陸クラスで絶望の渦に招いていたモノは。
 今や、その存在すら人に認めさせるのを困難な状態になっている。
 ……あたしのせいだけど。
「記録なんてあるんだ?」
「はい。けど、ほとんどは失われていますし。それに……」
 それに?
「私のとーさ……父は、普通の人なんです。
 私やリナ様、ゼルガディスさんやレイナさんの様な魔力を持っているとか、知識があるわけでも。魔族を見た事さえありません。
 ですから……あまり、私が『こういう事』にのめり込むのを好ましく思っていないらしくて……」
 あたしのいた時代でも、魔族なんて遠いおとぎ話よりは近くて。けれど、現実と言うには遠かった。
 まあ……あたしの周りでは、異常に魔族の発生率と言うか。遭遇率は高かったけど。
 それはともかく!
 つまり、『極フツー』の父親としては、こういう……ちょっと世間様から離れた事に興味を持つ事はうれしくないぞーって事になる……のかな?
 なんかむっとする……。
「リナ様、明日。大使館へおつきあいいただけませんか?」
 戻りたくないんじゃないの?
「はい、今は……でも。魔族の驚異が判った以上、私はここでのんびりとしてるわけには行きません。
 一刻も早く、対策を練らなくては!」
 おお、流石は超合金娘。
 復活の早い事×2。
 まあ……空元気だろうけどさ。
「その為には、父にリナ様を会わせる必要があります。
 幾ら父とは言え、本物のリナ様を見れば。幾らなんでも……」
 不安、恐怖、慟哭……。
 入り交じる感情を見て、あたしはアメリアは。この時代のアメリアが、個人的にそんなに恵まれていないのではないかって気がした。
 確かに、地位も名誉もお金もあるみただけど。周囲の、身内運は悪いみたい。
 アメリアが一人でここにいるって時点で、そんな気がする。
 誰にも頼る事が出来ず、誰にも相談する事さえ出来ず。
 あるかどうかも判らない伝説を頼りにするしかなかったアメリア……。
「判ったわ、でも一つ条件があるの」
「条件……ですか?」
「そう。あたしだけじゃなくて、ガウリイとレイナと、ゼルも一緒に連れていって欲しいのよ。
 まあ、ガウリイやレイナは置いておいて。ゼルは後から忍び込んででもついてくる可能性があるから。それなら、最初から一緒の方がいいでしょ?」
 そう言う意味では、ゼルガディスもよく似てる。
「ゼロス………………さんは、いいんですか?」
 アメリア……悪い事は言わないから、ゼロスを見直すのはやめた方がいいわよ。
「あれは……放って置いても大丈夫でしょ。
 それに、少なくともあたしの敵ではないしね」
 ゼロスは……そう。『あたし』の敵ではない。
 では誰の敵かと言えば……よく判らない。
「けど、ゼルガディスさんは……」
 アメリアの瞳に、影が宿る。
 けれど、それは一瞬の事だった。
「判りました。
 明日の朝、車を手配しておきます」


続く 


---------------------------------------
リナ:「ぼけ」
ぐさっ!(><)
リナ:「どじ」
ぐさぐさっ!(><)
リナ:「まぬけ」
ぐさぐさぐさっ!!(><)
リナ:「まーだ息があるみたいねえ・・・
   じゃあ、次は・・・・・」
やめて、おねがいぷりーず・・・しくしく(涙)
リナ:「あに言ってるのよ!やっと治りかけた風邪を、何の因果か知らない
   けど。思いっきりぶり返しなんぞさせやがったマヌケ相手に、手加減
   なんてしてあげる義理はないわ(きっぱし)
うえーん。僕、何もしてないもーん!(><)
リナ:「何もしてないのが悪いんでしょ?」
うっ・・・
リナ:「最近、HPの更新だってさぼってるじゃない」
さ、さぼってるんじゃなくて。おとなしく寝てるだけですぅ〜。
リナ:「やってないのは事実でしょーが」
うう・・・そうです。
しくしくしくしくしく・・・
ガウリイ:「いい加減にしておけよー。
     あんまりいじめると、出番減るぞー」
リナ:「あら、ガウリイ。
   いいのよ!『悪人に人権はない』んだから」
悪人じゃないですー。
猫ですー(><)
ガウリイ:「おいおい・・・。
     それなら・・・」
リナ:「ん?なにそれ・・・・・ってぇっ!?
   あんた、どっからこんなものを!?」
ああ、それは書きかけの原稿・・・
う・・・リナに見られてしまった・・・(汗←命の危機を感じてる
リナ:「ちょっと!あんた・・・こんな・・・こんな・・・」
ガウリイ:「じゃ、そーいう訳でリナもらってくから」
・・・ガウリイ、真っ赤になったリナを持ち上げて去ってしまった。
どーでもいいが、どこから書きかけの原稿持ってきたんだ?
恐るべし、ガウリイ=ガブリエフ・・・
とりあえず、命の危険は去った・・・
ああ、よかった(ほっ)
ガウリイ:「あ、そうだ。
     早く書いてくれよな。じゃ」
ぎぎくぅっ!!
・・・・・・いきなり、背後から現れないで欲しいよぉ〜(@@;

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5683Re:金色の巫女〜開眼編・5E-mail URL11/24-22:17
記事番号5667へのコメント
風邪はだいぶ治りました@Mです。
ぶい!
しかし、気管支炎は辛いです。あう(><)
最近になって、直接メールで感想とかのお手紙をもらえるようになりました。
少しですけどね(^^;
こういう事があると、すっごく×2嬉しくなって。
人様の感想もまだなのに、更に続きを書きたくなります。
単純(^^;


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金色の巫女〜開眼編

          6

 朝と言ったら、朝ご飯!
 人間、ものを食べなくては生きていられないものだったりする。
「なんだかな……」
 マーマレード・トーストを一かじり。
 うん、美味しい!
 お肉と野菜のサンドイッチと入れ違いで、オレンジ・ジュースで流し込む。
「どうかなさったんですか? ゼルガディスさん」
 昨日のことがあったからなのか、アメリアの中からは。ゼルガディスに対する嫌悪感みたいなものが消えていた。
 全部消す。と言うわけには行かないんだろうけど、それでもかどが取れたのはいいことだと思う。
「おまえ達、この状況を見てなんとも思わないのか?」
 あたしはガウリイの、ガウリイはあたしのご飯を狙いつつ。一応、ゼルのことも気にかけてみる。
 いや、別に他意はないんだけど……多分。
「何か問題でもあるんですか?」
 アメリアは、なんとかあたし達の繰り広げる戦い(?)の合間を縫って。食事を奪取しようと努力してるんだけど、どうやら。なかなかおかずまでは入手できないみたい。
「美味しい事が、何か問題なの?」
 まあ、食べてないゼルの目からみたら。どんなかなって思うけどさ。
 ちょっとガウリイ! あたしの目玉焼きさんに手を出そうなんて、いい度胸してるじゃないのぉっ!
「食わないから、要らないのかと思ってさ」
 ええい、真面目な顔してるくせに目だけ笑ってるじゃないのよ!
 絶対、わざとに決まってるぅっ!!
 こうなったら、天地が許しても。あたしが許さん!
「どうでもいいから、話すか食事をするか。どっちかにしろよ、お前ら……」
 記憶に残ってるのと、そっくりそのままで。
 ゼルガディスは、あたし達に力なく言う。
 あたしとガウリイとレイナと言えば、当然といえば当然だけど。
「俺が悪かった。食事をやめて、俺の話を聴いてくれ……」
 ふっ……食事中のあたし達を相手に。まともな会話を期待するほうが間違いってモンよ!
 ちょっとだけ、悲しくなったりするけど……さ。
「で、何がいいたいわけ?」
 一応きりのいいところで、それでもガウリイからご飯を死守しながらゼルの話を聞いてやる体制にはいる。
 おおぉっ! あたしってば、大人になったじゃない♪
「なんか違うと思います、リナ様……」
 むっ、アメリア!
 あんた、あたしに逆らうつもり?
「い、いいえ……そんなことは……あ。はは……」
 妙に額に汗を流すアメリア。
 こいつも人生経験少ないなあ、あたしが何をすると思ってるんだろう?
「俺は、リナ=インバースとガウリイ=ガブリエフは。魔族に対抗出来る唯一の存在だと聞いていたし。その手助けをするために、初代アメリア姫とゼルガディスは存在していたと今でも思ってる。
 だから、魔族と敵対関係にあるし。悪いことは許さないと聴いていた……つもりだ」
「……それで?」
 ごっくん。
 あたしは手に持っていたトースト。ガウリイはサンドイッチ。
 そして、レイナがピラフを同時に飲み込む。
「俺だとて、世間が平和ならば無用な争いをするつもりはない。そんな暇もないからな。 だが、さっきからどうしても気になることがある」
 なによ。回りくどい言い方して?
「魔族の作った飯は、本当に人体に無害なのか?」

 ぎぴゅ。

 あ、妙な音がして。飲み込もうとしていたアメリアが固まった……。
 まあ、ガウリイやレイナは大丈夫だろう。そういう事、考える性質じゃないし。
 ある意味、ゼルの言うことはすっごく正しいけどさ。
「おい……」
「あの……」
 んな顔しなくったって、大丈夫だって。
 で、実際の所はどうなの? ゼロス?
「おいリナ!」
「リナ様ぁ〜……」
 ああ、うっさいな。ゼルは。
 で、何を口の中のもの飛ばしてるのよ。さっさと拭きなさいよね、アメリア。
 レイナが真似したら、どうするつもりよ!
「大丈夫ですよ。ちゃんと、普通の食料を使ってますから」
 笑いながら、それでも大皿の料理を運ぶ手を休めないゼロス。
 ほんとーに高位魔族としてのプライド。どっかに捨ててきたな、こいつ……。
「ほっ……」
 安心したアメリアが、ようやく口の中身を飲み込む。
 うーん、レイナが真似したら困るなあ。
 けど、アメリアが安心するのは。まだ早かったようである。
「で、その金はどこから入手したんだ?
 まさか、魔族のお前が。銀行に口座など持ってるわけはあるまい?」
 銀行って、確かお金を預けるところよね?
 けどさあ……。
「いえいえ。ちゃんと、銀行からもらってきますけど?」
 もらってくるって……どうやって?
 まさか、ゼロスがまっとーに働いてもらったお金を。本当に真面目に銀行に入れてたり、普通の人間みたいな生活送ったりしたら……。
 泣くぞ、お前の上司が。あたしじゃないけど。
「ですから、大っぴらですと恥ずかしいので。こっそりと」
 いつもの『それは秘密です』ぽーずで、ゼロスが白状する。
 ゼルは「やっぱり」という顔だし、アメリアは飲みかけのミルクを吹き出した。
 ああ、もったいない……けど。それ以上に、ちゃんと片づけてよね。
「いけません、ゼロスさん!」
 だむっ!
 テーブルに足をかけ、乗り出したアメリアが叫ぶ。
 先に掃除すればいいのに……。
「正義の炎を心に宿し、今すぐまっとーな人間になるんです!
 リナ様から、大事なお子様を預かる。いわば、あなたは『育ての親』なんですから。レイナさんの教育に恥ずかしくない態度を取るべきです!!」
 そーれーは……ちょっとどころじゃないくらい。無理だと思うぞ、アメリア。
「何か問題でもあるのかあ?」
「あるのかあ?」
 とぼけた顔したガウリイとレイナ。
 ゼルは、心底ゼロスの料理を食べなかったことをほっとしてるらしい。
「ガウリイ様! 銀行からこっそりお金を持ってくるということは、盗みです。犯罪です!
 そんな事、たとえお天道様が許しても。正義を愛する、この私が許せるわけないじゃないですか!」
 すっごく説得力はあるけどねえ……。
 とりあえず、オムライスをぱくついたりしてみる。
「なんで、そんなに落ち着いてるんだ? リナ」
 ゼルの顔は、おもいっきり不振そうだったりする。けど、あたしが何を出来るって言うのか聴きたいわよね。
「それなら言うけど、人生は奇麗事だけじゃ済まないわ。そうでしょ?
 ゼロスも、何か言い分があるなら言ってみなさいよ。無駄でしょうけど」
 そう。熱血少女アメリアと、無類の頑固者ゼルの二人を相手に。説得なんて事は、簡単には行かないのである。
「はあ……では。
 僕……というより、リナさんのお子さん達が。一定のところに定住できないのが、まず問題だったわけです。
 定住しなければ、旅から旅です。災いも呼びますしね。
 そうなれば、人から信用なんてされません。
 信用がなければ、人の中で生きることは出来ません。物品や金銭の貸し借りも、またしかりです。
 何より、リナさん達のお子さんは。皆さん人なんですよ。ご飯を食べなければ、休まなければ。そして、病気や怪我で死んでしまうことだったあります。
 それを回避させるためには、今の世界で僕だけが生きるならばともかく。リナさんではありませんが、確かに奇麗事だけではいきられなかったんです」
 ふむふむ……確かに、筋はとおってるような気が。しないでもない。
「魔族が一緒にいて、狙われないわけないじゃないですか!」
 だむっ!
 テーブルを踏み直すのはいいけど、壊さないでよね……。
「では聴きますが、アメリアさん。
 私達は、一体どなたのために。このような極東まで来る羽目になったと思いますか?」
 にっこりと笑ったゼロスが、アメリアに語り掛ける。
「そ、それは……」
 思うところでもあるのか、アメリアが思わずゼルに助けを求めている。
 けど、ゼルも明後日の方向を向いて助けるつもりはない。と言うよりは、この話題からは逃れたいらしい。
 ちょっと待ってよ、それって……。
 もしかして、ゼルとアメリアの……?
「もちろん、あっさりと。きっぱりと。はっきりと。
 ここで言うつもりはありませんが……いかがですか?」
 それって、脅迫って言わない?
「いえいえ。僕は、直接何も言ってはいませんよ?」
 けどさ。
 にっこり笑うって事は。「余計な事をいったらただじゃ済まさない」って事じゃない。 
 そりゃあ、直接は何も言ってないけどさ。
「脅迫なんて。レイナさんが覚えてしまったら、リナさんに怒られるようなことをするわけないじゃないですか」
 だから、あんたは笑ってるフリして笑ってないんだし。
「せ、正義は……正義は……」
 アメリアは、何やら思考の袋小路にはまってしまったらしいし。ゼルは、何も聴かずにみなかった事にする事にしたみたい。
 ……だから、あんた達は。
 あたし達の子供に、一体何をしたって言うのよぉっ!

 その時、玄関からチャイムの音が鳴った。


続く

----------------------------------------------
あれ、どしたの通りすがりのゼルちゃん?
ゼルガディス(以下:ゼル):「お前なあ……『ゼルちゃん』はやめろ、『ゼルちゃん』は!
             所で、俺の出番が少ないようだが?」
これから増えるけど?
ゼル:「番外編の時も、鳴動編の時も少なかった気がするが?」
そう? けど、君がいてくれないと困るんだけど……。
ゼル:「どうせ、人のことを『シリアスになった時にコメディに修正する為の。便利なアイテム』くらいにしか思ってないんじゃないか?
   HPにUPしようとして、別のシステムを使おうとしたら失敗したくせに」
……まあ、まちがっちゃいないけど。
確かに、まだftpさえ使えないっつーか。勉強してる暇さえないけどさあ。
もしかして、この開眼編の話の冒頭のあたりが気にくわないとか?
ゼル:「(無言)」
もしかして、自分が初代じゃないとか。リナ達に置いてかれたとか。
アメリアと仲良くできなかった事が悔しいとか?
ゼル:「(更無言)」
んでもって、現代になったらやけに面倒くさそうな話になってるわ。ろくな魔法が使えないわ、傍観編ではまったく出番がないわ、鳴動編で端役みたいな扱いをされてむかっとしてるけど。番外編での『彼女』の事を思うと真っ向から言えないなーと思ってるとか?
ゼル:「(無言のまま退場)」
ふっ、口で僕に勝とうなんて。百年早いかもしんないさ……多分。
ゼル:「(十分距離をとってから)ボム・ディ・ウィン!」
うどわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!<吹き飛ばされる、僕。しかし、手にはしっかりパソコンとACアダプターが握られている(笑)

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5767金色の巫女〜開眼編・7E-mail URL12/13-18:40
記事番号5683へのコメント
お久しぶりです。
ここしばらく、HP関係の事で作業をしていたので。更新やら続きやらが遅れまくっています。
いや、早くやんないと行けないんですけどぉ……(汗
HPを作るにしたって、サーバーのメモリを増量させないといけないとか。
一つのサーバーでなんともならなくなったら、別のサーバーに手を出さないといけないとか。
で、それをやるには勉強しないといけないとか。
そう言った事があります。
んでもって、僕は今回初めてその事を知りました(てへ)
FTPって……むつかしい……

では、気を取り直して「金色の巫女〜開眼編・7」行きます。
前回のは、6でした(^^;


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金色の巫女〜開眼編


          7


 道を遮るくらい、大きな車。
 ふむふむ、これが車って奴?
 エンジンに燃料が送り込まれて、小爆発を繰り返す事によってエネルギーを供給されるもので。それに伴い、熱を生じさせるわけだけど冷却装置とか言うもので温度を調節する事によって。安全性を確保してる……と、こういう訳か……。

 くぃっ。

 おや?
 あたしは、息苦しさを覚えて振り向く。
 なーにやってんのよ。ゼル!
 いきなり、人の首根っこつかまないでよね。
「何をしてるんだ、お前は……」
 何してるって……言われても。
 たらりと、汗なんか流れたりしてる。
 ガウリイ、レイナはすでに乗り込んでおり。アメリアは、運転手らしい初老のお爺さんを相手に。何か話をしている。
「だってぇ……」
 上目遣いで見てみるけど、ゼルってばすごーく機嫌悪いらしくて。あたしの言う事なんて聴く耳も持たなかったりするし。
「置いてかれてもいいなら、俺は構わないがな」
「あーら、あたしがいなくて困るのは。どっちかしらね?」
 鋭い眼光が交差し、あたしは一瞬だけ忘れた。
 目前の彼が、あたしの知るゼルがディスではないのだと言う事を……。
「リナぁ、早く乗らないと置いてかれるぞー」
「かれるぞー♪」
 あたし達の。
 いや、実力的にはどーでもいいんだか。一種即発状態だった緊張感を、見事に消し去ってくれたのは。
 言うまでもなく、ガウリイとレイナだったりした……。
「リナ様、ぜ……ゼルさん。そろそろ出発しますので、お早めに乗って下さい」
 流石に「ゼルがディス」が禁忌である以上。アメリアも大手を振って「ゼルガディスさん」とは呼べないのだろう。
 なんとも複雑そうな顔してるなあ、二人とも。
「判ったから。そう急がせないでよ」
「お嬢様は、車にご興味がおありですかな?」
 乗り込もうとしたあたしの前で、運転手のお爺さんがドアを開けてくれながら、そんなことを言った。
「ええ、まあ……」
 一応、あたしの正体はまだバレていない。
 今、ばらすのは得策ではないとアメリアが判断したのだろう。
「アメリーナ姫様の大切なお客様でしたら、いずれお会いする事もございましょう。
 その時は、是非ごゆっくりごらんくださいませ」
「あ、ありがとう……」
 なんてゆーか。
 ちょっぴし罪悪感がないと言ったら嘘になる。
「見ろよ、リナ。
 家の中みたいだぞ♪」
「だぞ♪」
 何がおもしろいのか、レイナはガウリイの言葉を繰り返す事を楽しんでいる。
 普通、こういう癖って5歳から8歳くらいの子供がやるんじゃなかったっけ?
 けど、二人がはしゃぐのも通りと言う奴で。
 車の中は、車と限定されてる中においては広い方……なんだろうと思う。
 ゆっくりと乗っている車が動き出すと、次第に他の車の通っている道へとさしかかってきたから。それは判った。
「ねえ、アメリア……。
 ちょーっと大きくない? この車……」
 なんか……恥ずかしいんだけど、あたし。
 それはゼルも同じらしくて、明後日の方向を向いて。いっこうにこちらを見ようとはしない。
「ええ、私もそう思うんですけど……。
 セイルーンの見栄みたいなものでして……」
 言いながら、アメリアは車に備え付けてある冷蔵庫から幾つかのビンを取り出して。何種類かのジュースを出す。
「ありがと。
 けど……ほんとーに不思議な光景よね……」
 車の窓から見えるのは、灰色に覆われた町並み。
 まるで虚像か何かのように林立する樹木。その足下を、不思議な格好をした人々が歩いている。
 あたしの記憶にある、町並みとはあまりにもかけ離れすぎた光景で。
 なぜか……。
「ほら、リナ」
 ん?
 突如として差し出された、目の前のサンドイッチ。
「これ、あたしが作った奴じゃない」
 せっかく出かけるのだからと、台所を借りて簡単な食事を作ったのだ。
 もっとも、ゼルやアメリアには緊張感がないって言われたけど。
「少しくらいは食わないと、元気出ないぞ。
 せっかくアメリアが出してくれたジュースだって、全然飲んでないじゃないか」
 ……ったく、この脳味噌わたあめ男は。
 どうして、あたしの気持ちにこうも敏感なんだろう?
 なんで、あたしが。落ち込んでるとは言わないけど、少し。
 ほんの少しだけ、おとなしくしたくなる時に限って。こうやって声をかけてくれるんだろう。
 結構ながいつきあいだけど、こればっかりは。いかに天才美人魔道士のあたしでも……わかんないや。
「食わないなら、俺がもらうぞ?」
「何いってんのよ! 食べるに決まってるじゃない。
 あたしを誰だと思ってるのよ。んで、誰がそのサンドイッチを作ったと思ってんのよ。あんたは!!」
 ガウリイの手から、あたしの作った卵のサンドイッチをひったくると。
 そのまま、あたしは口の中に押し込んだ。
 アメリアやゼルガディスは、あきれたようにあたし達を見ているし。レイナは、目の前で何が起きているのか判ってるのかいないのか。にこにこと笑っている。
 あたしは、少しだけ気持ちが軽くなった。


          ◇


 お世辞にも、あんまし雰囲気のいい所とは言えないなあ……。
 それが、あたしの直感的な感想だった。
「いいですか、皆さん。
 この方々は、あたしにとって。ひいてはセイルーンにとって大切な方々です。
 決して。決して粗相のない様にお願いしますよ!!」
 後で聴いたところによると、あたし達の乗っていた車はリムジンとか言うもので。少なくとも、今いる日本て国では滅多にお目にかかれないと言うより。乗ってる奴がいたら迷惑この上ないと言う、かなりやーな車である事は判った。
「いいですか、絶対に!!
 怒らせないで下さいね!」
 ちょっと……、なんで強調するのよ。
「いえ、なんでもありません!
 とにかく、私はとうさ……父に会ってきます。
 何が起きているのか、事の次第を報告し。対策を練ろうと思っています」
「それはいいんだけど……もし、あたしの考えがはずれてるなら言って欲しいんだけどさ。
 もしかして、お父さんに会うの……本当は……」
 イヤなんじゃないの?
 あたしは、言葉を全部紡ぐ事は出来なかった。アメリアが、先に察してくれたからだって言うのもあるんだけど。
「いずれは、通らなくてはならない道です。
 今、仮に逃げる事が出来ても。
 それに、一刻も早く対策を練る必要があるんです。
 幾ら父でも、本物のあなた様を見れば。きっと、あたしの言っている事が正しいって。正義だって判ってくれます」
 言葉の割には、元気がない。
 けど、あたし達にそれ以上を言う権利はないのだ。
 なぜなら、これはアメリアとアメリアのお父さんの。親子間の問題なのだから……。
「それでは、また後ほどお会いしましょう」
 言いながら、アメリアはさっきの運転手さんによく似た格好をしたお爺さんに案内をされつつ。この場を去った。
「皆様は、こちらへどうぞ」
 愛想も何もないメイドさんが、あたし達を先導してくれる事になった。

 おかしい。
 あたしは、奇妙な違和感を感じていた。
 それはゼルも同じらしくて、気がぴんと張りつめているのが判る。
 ガウリイは、レイナを抱っこしてる関係もあるからなのか。傍目から見て無理しない程度には、はしゃいでいる。
 何が、と問われると判らない。
 かなり古いのだろうと思われる、壁や天井にある細工された彫刻や絵画。
 隅のあちこちに置かれた飾り。それは綺麗だとは思う。
 自然の光をふんだんに取り入れる様に設計された、ステンドグラスの張り巡らされた天井からは。七色の光が廊下を照らしている。
「こちらでお待ち下さい」
 そうだ、あたしには思い当たる事があった。
 ずっと相手が人だと思っていたから出てこなかったんだけど、これは。
 まるで殺気を空間全域に、薄くのばした様な。
「ねえ」
 あたしの問いかけに、不愛想どころか無表情なメイドさんが。
 無情にも出ていってしまった。
 そりゃあ、あたし達はアメリアの「大切なお客様」とは言われたけれど。名乗りさえあげないけれど。どこの馬の骨とも知れないんでしょうけど!!
 せめて返事くらいして欲しいわよね……。
「リナ」
「何?」
 調度品に囲まれた部屋。
 アンティークの重厚な作りのサイドボード。その上に乗る、一見からして価値あると思われる食器の数々。
 壁にかけられた絵。天井からさがるシャンデリア。
 部屋の中央にでんとある、ソファ・セット。
「ちょっと、一体何を……」
 あたしが目を見張ったのも当然と言う奴で。
 いきなり、ゼルは重そうな。中央も中央に鎮座しているテーブルを片手でひょいと持ち上げると。そのまま、二つに割ってしまった……。
 知らないぞぉ、弁償問題になっても。
 あたしは関係ないからね!
「そんな事より、これを見ろ」
 いつの間に、合成獣化したのやら。ゼルは、そのまままっぷたつにしたテーブルを。向かい合うソファに、簡単に落とした。

 ひゅるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ………………がこっ!

 ずいぶんと小さな音に聞こえたけど、それだけ。その空間がここから低い所。深い所にあるからだ。
「なんだぁっ!?」
 驚いた顔をしたガウリイが、目を丸くしている。
 レイナも、目をまんまるにしている。
 ほんと、よく似てる……じゃなくて。
 どうして、いきなりソファがなくなって大きな穴になってるわけ!?
「……なるほど。
 これが、セイルーン流の歓迎の方法ってわけか……」
 ぎりぎりと音がしそうな勢いで、ゼルガディスの中に暗い炎が見えた。
 そんな気がした。
「待って、ゼル」
「何を待てと言うんだ!!」
 あたしの制止がなければ、絶対に今すぐ部屋を飛び出しただろうゼルガディス。
 裏切られたと言う痛みが、あたしの中にもダイレクトに伝わってくる。
 けど、よく考えてみて。
 アメリアが、あの子がこんな事を許すと思う?
 黙って見逃すと思うの?
「彼女の……知らない事だと。それを信じろと言うのか?」
 少し、炎が静まった。
 けど、まだ炎は消えたわけじゃない。
「それを、確かめに行けばいいじゃない。これから」
 ぎゅっと自らの拳を握りしめ、何か。ゼルは考え込んでしまったらしい。
「おい、リナ!!」
 ん?
 今度は何よ、ガウリイ……って。それは。
「鉄格子……?」
 慌てて、あたしはドアに駆け寄る。けど、びくともしない。
 なるほど……どうやら、この部屋はセイルーンの裏の歴史を作ってきた部屋。とでも言うのでしょうね。
 あたし達は、大切なアメリア姫様に群がる害虫って所か……。
 気にくわない。
 あたし達は、そのアメリアに呼ばれて来たって言うのに。
「壁が……」
 ご丁寧にも、今度はどこかで歯車の回る音がして。そのまま、壁が押し迫ってくる!?
 どーゆう作りだ、この家は!!
「俺が……」
「待って。
 ゼルは早く人間の姿に戻って。時間、かかるんでしょう?
 ガウリイ!」
「おう!」
 あたしの呼び声に答えて、ガウリイがあたしの側に近寄ってくる。
 抱っこしていたレイナをあたしにわたし、そのまま。懐から短い棒の様なものを取り出す。
 そう。昨日、町中で出した棒と同じものだ。
 棒を青眼の構えをして、呼吸を整えると。次第に、棒は光を帯びてきた。
 そのまま、気合い一閃。
「てぇやぁっ!!」

 きん、きん。
 がこ。

 かなり間抜けな音をして、そのまま。扉に人が通れるくらいの穴があいた。
 思った通り、扉の中には金属が仕込まれていた。
「ガウリイパパ、すっごーい!」
「流石だな……」
 冷や汗を流しなら、ゼルは「敵でなくてよかった」とつぶやいている。
 ま、確かにね。
「喜ぶのは後!
 早く出ないと、この部屋にぺしゃんこにされちゃうわよ!」
 あたしの声に答えて、ガウリイ。レイナ。ゼルが、この変な部屋から飛び出す。
「ね、ね、ガウリイパパ。
 レイナがもちょっと大きくなったら、今のやり方教えてね!」
 それはそれは嬉しそうに、レイナがガウリイに飛びつきながらおねだりをしている。
 うむうむ、流石はあたしの子。
 将来有望だわ(はあと)
「これから、どうする?」
 普通の人の姿に戻ったゼルは、多少は苦しいのかも知れない。
 息をつきながら、あたしに意見を求めてくる。
「まず、アメリアを探しましょう。
 これが、あの子のやった事だとはアリの触覚ほども思わないけど。少なくとも、あの子の周囲にいる奴らは関係してるはずだわ」
 もしかしたら、アメリアのお父さんとか言う人がやったのかも知れない。
 そこまでは言わずに。
「けど、この建物の中には一般人もいるはずよ。騒ぎにはしたくないわ。
 極力見つからない様に探すのよ。いいわね?
 とりあえず、ゼル。浮遊の術くらいは使えるわね?
 ガウリイとレイナは一階の中から。ゼルは二階から上に上がってちょうだい。
 あたしは、最上階から見て行く事にするわ」
 ゼルがうなずき、あたし達は来たのとは反対の方向へと進んで行った。
 そこには非常口だろうか?
 なぜか魔法による結界がなされてあるが。あたしを相手に、この程度のレベルでは笑いさえ引っ込んでしまう。
 警報も兼ねていたのだろう力も霧散させて、そのまま裏口へと飛び出る。
 もちろん、警戒は怠らない。
「塔……ね。
 手はずはいいわね?」
 ガウリイとゼルがうなずいた。
 あたしは、意識を集中させる。
「レビテーション!」
 誰かが追ってくるかとも思ったけれど。考えてみたら、あの部屋の仕掛けを簡単に脱出する様な人間を相手に。無謀な事は出来ないのだろう。
 ゆっくりと遠ざかる大地を見下ろし、あたしは。
 ガウリイが壁をくりぬいて、ゼルがあいている窓から。
 それぞれ、侵入するのを見ていた。
 そして、ある程度の高さまで来た時。どうして、ここにアメリアの大使館があるのかを知る事となる。
 流石に、長い歴史は伊達ではないと言う事なのか。
 この土地だけではなく、あっちこっちに魔力を感じる建物がある。
 恐らく、普通の人には判らない程度の微妙な力で。それがこの「場」を形成しているのだ。
 かつてのセイルーン王国と同じ六亡星(ヘキサグラム)を描いている。
 まあ、あたしには全然関係ないけど。
 ゼルは……まあ、大丈夫だろう。
「父さん、あなたは間違っています!!」
 およ?
 上の階に上るに従って、聞き覚えのあるイントネーションと台詞と声が、あたしの耳に届いた。
「何を馬鹿な事を言ってるんだ、アメリーナ!!」
 対する声は……よしよし、フィルさんではないな。
 これなら、まだマシかもしんない。
「そんなの、お前をたぶらかしてるちんぴらに決まってるだろうが!」
 けど、勢いだけではフィルさんなみね……。
 ちょっとだけ、萎縮しちゃうわ。
「お会いになれば、いかに父さんと言えど判ります。
 あの方こそ、古文書に伝わる我らが救世主リナ=インバース様とガウリイ=ガブリエフ様なんです!!」
 悲痛なほどの声を聴いて、あたしは……。
 あたしは、そんな事を言ってもらえる人間じゃないのに。
 あたしの行った事は、結果的に人類を助ける事にはなった。けど、追いつめる事でもあるのに。
 決して、正しいとは大手を振って。胸張って言える事ではないのに。
 アメリアだって、きっと知ってしまえば。あたしをなじるのに。
 けど、まだ言えない……。
「アメリーナ、いかにお前がまだ若くても。夢や幻を現実と重ねてはいけない。
 お前の気持ちは判るが、そんな事はあるはずないのだよ」
 それまでの激しい口調とは打って変わり、アメリアのお父さんらしい人の声が。優しいものになった。
 アメリアの肩に両手を置き、きっとまなざしも柔らかくなっているのだろう。
「けど、父さん。
 リナ様は。ガウリイ様は本当にいるんです!
 黒い悪魔のゼロスさんも、ゼルガディスさんも!!」
 今にも泣きそうな声で、アメリアが肩を震わせている。
「お前の大切な方々は、丁重にお帰りいただいた。
 もう、こんなお遊びはやめて。そろそろ本国へ帰ったらどうだね?」
「そんな……!!」
 アメリアの瞳に、悲しみの涙が現れた。
「よく言ってくれるわよね!」
 あたしは、我慢できずに言っていた。
「り、リナ様……」
 きょとんとした顔で、アメリアがこっちを見ていた。
 一緒にいた男。アメリアのお父さんは、体が動かない。
「な、これは一体……」
 焦った声を出すおっちゃん。
 けど、あたしは許してあげる気はない。
「影縛り。相手の肉体を、精神世界を経由して身動きをとれなくする技……よ。
 悪いけど、テーブルの上にあったペーパーナイフ借りたわ」
 窓枠に座ったあたしは、視線をおっちゃんからそらさない。
 おっちゃんには、あたしの姿は見えてない。完全なる死角となっているけれど、あたしの視線による重圧だけで判るだろう。
「リナ様……どうして、ここへ?」
「窓からに決まってるじゃない。魔術で、ここまで上ったのよ。
 それはともかくとして、セイルーンでは。呼ばれて現れた訪問客を、罠で殺すのが礼儀だー。
 なんて、言わないわよねえ?」
 あたしの言葉に、アメリアの両目が開いた。
「父さん!?」
 おっちゃんは、何も言わない……。
 多分、言えないのだろう。
 魔術で縛られいるからではなく、娘の前で言わなくてはならないと言う事で。
 そうこうしてる間に、下の階からは賑やかな音が聞こえてくる。
 ……ちっ、誰か見つかったな?
「アメリア!」
 あたしの声に、アメリアがびくりと反応する。
「ガウリイ達が見つかったわ。皆を先導して、先に行って。
 出来るわね?」
「あ……」
「ここなら、脱出口くらいあるでしょ?」
 まあ、仮になくてもゼルがなんとかするでしょうし。
「……はい、リナ様」
 何かと決別するような、そんな表情で。
「アメリーナ……」
「父さん」
 おっちゃんの手から肩を外し、アメリアがそのまま一歩下がる。
 すると、タイミングを見計らった様に現れるガウリイ、レイナ、ゼルガディス。
「貴様は、ゼルガディス!?」
 流石に伝説などは煙たくても。ゼルの顔とか名前は判っているのだろう。
「すまん、見つかった」
「どうしたんだ、アメリア?」
 飛び込んで来たものの、三種三様の反応に。あたしは思わず頭痛を覚える。
「いえ、なんでもありません。ガウリイ様……」
 ったく、ゆーちょーな事やってないで欲しいわよね。
「アメリア、皆をお願い」
「リナ様……」
「リナ」
 心配そうな顔で、ガウリイがこっちを見てる。
 大丈夫よ、あたしが。この程度でやられるわけないじゃない。
「判った。早く……な」
 まだ訳が判っていないらしいゼルを引きずるガウリイと、その前に立って先導を始めるアメリア。
 ぐずぐずしないでよね、あんまり時間もないし。
「ダーク・ミスト」
 あたしの『力ある言葉』によって、周囲に光りさえ射さない暗闇が訪れる。
 これで、おっちゃんにかけられた影縛りも効力を失うけど。別に構わない。
「あなたに、聴きたい事があるの……」



続く


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さて……と、ここをこうして、これが……だから……(ぶつぶつ)
謎の女性:「あのぉ〜……」
これが、こうで……タグがこうだから………………
謎の女性:「すみません、ちょっとよろしいでしょうか?」<ひきつり笑い
で……そうすると、ここの所はこれで……
謎の女性:「いいかげんにしてください」<ちゃぶだい返し
え?え?え? 一体、どこからちゃぶ台が? なんで僕もひっくり返ってるの!?
謎の女性:「細かい事はさておき、少しよろしいでしょうか?」<にっこり
えーと……今、FTPの研究してるんだけど……
しかも、いまいちうまくいってないんだけど……
謎の女性:「お話、よろしいですか?」<顔は笑ってるが、手には魔力の光が宿っている
………………はあ……どうぞ。
謎の女性:「私の出番、まだですか?」
ええと…………………………あなた、誰?
謎の女性:「それ、本気ですか?」<手には魔力の光。さっきより強い
じょ、じょーだんですう(はあと)
ちゃんと覚えてるって…………。
けど、実際もーちょっと出番ないよ。下手すると、開眼編じゃ出番ないくらい。
謎の女性:「どーしてですか?」
移動の距離と時間の関係。人間に、一瞬で……な所まで移動は出来ないよ。
それに、そろそろ……だし。
謎の女性:「切り上げるのって、出来ません?
     ほら、彼女の権力を使えば……」
あんまし、某政府を酷使するなって(苦笑)
それに、彼女自身にはそんなに権力ないんだよ。一応裏の地位だしね。
謎の女性:「ああ……そうでしたね。
     それで、あのこの表向きの地位はなんですの?」
んーと、一応貴族の侯爵令嬢って所かな?
おとーさんが外交官っつーか、政府のお偉方やってるくらいの。
まあ、おとーさんの地位。そんなに高いわけじゃないんだけど。<お茶の支度をする
謎の女性:「まあ、確かにそうですわね」
あ、お茶いるー?
謎の女性:「いただきます。ここでは、そんなに紅茶の需要が多くなくて……。
     皆さんは気をつかって、なるべく紅茶を下さるのですが。
     今では、コーヒーの方が多く飲むようになりましたわ」
そっかー、割と平和に暮らしてるんだねー。

(以下、延々とお茶のみ話が続く)

謎の女性:「オチがありませんわ」
ごもっとも(笑)

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5828金色の巫女〜開眼編・8E-mail URL12/25-23:50
記事番号5767へのコメント
めりーくりすまぁす♪ ご来場の皆様
日頃は、Mの駄文をごらんいただきましてありがとうございます。
クリスマスと言う事ですので、にうばーじょんUPします♪
っつーか、すでに出来てはいたんですが……。
と言うわけで、続きです。


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金色の巫女〜開眼編


          8


 暗闇の中、姿の見えない恐怖に脅えながら。逃げ出したい衝動にかられながら、それでも彼は逃げることが出来ない。
 そりゃあ、周囲を魔術の暗闇で覆われたら逃げられないよな……。
「き、聴きたい事だと!?」
 ひっくり返った声で、彼は気丈にもきちんと声を出そうとしている。
 幾らセイルーンの関係者とは言っても、意外に逆境に強いタイプなのかしらん?
「そうよ。
 何を考えてるの? セイルーンの関係者ならば、かつての記録を見ることも出来るでしょう。幾ら長いときが立ちすぎてるとは言っても、魔法のかけらも残ってないわけでもない。
 それなのに、そこまで……あたしを排除しようとする理由を聴きたいのよ」
 もしかしたら。
 これはショックが大きすぎるからなのかも知れないけど、ちゃんと話が出来るのならば聴かなくちゃもったいない。
 どうやら、廊下から先は誰か……ゼロスかゼルあたりが結界でも敷いてくれたらしく。まだ少しは時間があるみたいだしね。
「あたしが消えれば……死ぬことが出来れば、どうなるか判ってるでしょう?」
 それは、決して不可能ではない。
 だけど、それを試すだけの無知な者も度胸のある者もないだろう。
 まだ、早すぎる。
「アメリーナは、私の娘だ」
 息をのみ、つばを飲み込み。手を握りしめる音を聴いた。
 そんな、気がした。
「セイルーンの記録には、『初代アメリア姫はリナ=インバースによって殺された。そして、いつかリナ=インバースによって捧げられる生け贄となる運命』だと言われている。
 私はセイルーンの婿養子だが、それでもアメリーナの父親だ。
 娘が生け贄になると判って、わざわざ明け渡す親がどこの世界にある!?」
 一気に言い切って、神経の糸が切れたのか。座り込むアメリアのお父さん。
 ふむふむ……そうか、確かに娘が殺されると判ってて渡す親なんて。滅多にあるもんじゃないっつーか、あるわけないよね。
 だったら仕方ない……って。
 あれ?
「ちょっと、何それ?」
「な、何とは……」
 もう言いたいことがないのか、声が震えるアメリアのお父さん。
「あなた、今『アメリアはあたしに殺された』って言ったでしょう?」
 それだと矛盾が起きてしまう……。
「あ、ああ……」
「それは本当なの?」
「どういう事だ!?」
 こっちが聴きたい事なんだけど……。
 だって、あたしがアメリア達と別れた時。アメリアは、ゼルとまだ結婚すらしていなかった。だから、あたしはアメリアとゼルの子孫の存在だけでも大変驚いた。
 あたしの知らない間に、子供が出来ていたと言う話はあり得ない。
 そんなめでたい話。あたしが聴きたくなくても、絶対にアメリアは喜んで教えてくれる。
 そう、信じてる。
 祝福して欲しくて、きっと幸せで。
 ゼルだって、そう。照れくさい方が上かも知れないけど、それでも幸福で。
 きっと黙ってなんていられない。
「あたしが封印されてから、アメリアは子供を産んだのよ。
 だから、あたしはアメリアを殺す事は出来ないわ。
 それなら、アメリアを殺したのは……誰?」
「う……嘘だ……」
 信じられないのは、まあ無理もないだろう。
 どういう訳かは別として、ずっと『娘がリナ=インバースに殺される』と思っていたから。伝説から遠ざけようとしていた。
 多分、養子とは言っても多少はセイルーンの血を引いているのだろう。少しくらいは予感めいたものがあったのかも知れない。
 けれど、あたしが目覚めてしまった……。
「信じなくても構わないわ。
 あたしは、事実を言うだけだから……」
 ドアの外に、何人もの気配を感じる。きっと、セイルーンの関係者だろう。
 もしかしたら、魔法兵なのかも知れない。
 微量だけど、魔力を感じるから。
「あたしは、アメリア達を傷つけない。
 約束するわ、リナ=インバースの名において。
 無事に、返してみせるって」
 それがアメリアのお父さんに、とは限らないんだけど。
 それは、言わない方が華だろう。
 アメリアが帰るべき所は、アメリアが決めるべき事だもの。
「だから、借りるわ。
 今のあたしには、皆が必要なの。
 ……人間として」
 言い放ち、あたしは窓から飛び降りる。
 同時に聞こえてくる悲鳴にも似た叫び……内容は予測つくけど。それを背後に聴いて、あたしは最後の台詞はいらなかったかなあと思う。
 だって……。
 だって、まるであたしが。

 人間ジャナイミタイジャナイ。

 地面に降り立つあたしは、虚空へと苦々しい思いを向ける。
「あんたに言われる覚えなんて、全然ないわよ!」
 きっと、傍目にはマヌケに映るんだろーなー。これ。
 そうだよな、あたし以外には見る事も聴くことも出来ないんだもんなあ……。
「もういいわよ。
 あたしは、あんたに関わってる暇なんてないんだから」
 そう。
 あたしは、気を取られてる暇なんてない。
 だって、明日にはすべてが始まってしまうから……。
         ◇
「リナ様、ご心配申し上げました!!」
 目をきらきらと輝かせ、アメリアがあたしの前に仁王立ち……。
 いや、そこまで。心の奥底から心酔してます! って顔されても、ちょーっとばかり困るんだけどなあ……
「だいじょーぶだった? リナママぁ」
 てとてとと現れたレイナが、あたしに抱きつく。
 ひょいと抱き上げてやると、その瞳には心配そうな光が見える。
「あったりまえじゃない!」
 にこやかに答えるあたしに、同じくにこやかな微笑みでガウリイが続ける。
「大丈夫さ、レイナ。
 お前のママは、世界で一番強いんだから。
 ……で、手荒な真似はしなかっただろうな?」
 何の心配をしてるんだ、何の。
「馬鹿なこと言わないでよね、そんな無茶苦茶な事して。おたずねものなんかになりたくないわよ!」
 そんな暇はないんだって。
「けどなあ、リナだしなあ」
 もう……苦笑するしかないじゃない。
「それにね、レイナ。
 あんたのパパは、世界で一番剣が上手で一番強いけど。
 あんたのママ。このあたしは、この世で一番強いんだから。
 大丈夫よ」
 頭をなでてやると、レイナが嬉しそうな顔で。ぎゅっとあたしを抱きしめる。
 多分……レイナは。
 レイナは、まだ両親が死んだことが怖いのだ。
 いや、死を恐れない人なんていないし。あたしだって怖い。こればっかりは、どれだけ時間をかけてもなれる事なんてない。
 自分の知らない所で、自分の知ってる誰かが死ぬかも知れない。
 それが怖い。
 だから、あたしやガウリイの姿が見えないと怖いし。出来る限りそれを忘れていたい。
「リナママ、大好き!」
 顔が見たい、声が聴きたい、触っていたい。
 感じていたい。
 その存在を、忘れたくない。
「おいおい、それじゃあ俺はいいのか?」
「ガウリイパパも!
 レイナ、リナママもガウリイパパも大好き!
 だから……どこにもいっちゃやだ」
 ガウリイが差し出した手にひかれ、レイナが。あたしからガウリイに抱っこされる。
「レイナ、世界で一番強いパパと。この世で一番強いママがどっかに行っちゃうなんて事、あるわけないだろう?
 レイナに黙って、どこかに行ったりしないよ」
「……うん!」
 ガウリイ。
 忘れたのかな?
 まあ、ガウリイだからその可能性は高すぎて何にも言えないんだけど。
 けれど、あたしは保証出来ない。
「リナ様、お怪我は?」
 親子(?)の語らいに水を差したくなかったのか、アメリアが聴いてくる。
「あたしは大丈夫よ。それと、お父さんも」
 まあ、真っ暗な所に置いてきたから。家具か何かにつまずくことくらいはあるかも知れないが。
 んなのは、あたしの知った事じゃないもん。
「あ、ありがとうございます!」
 知ってるのだろうか、アメリアは?
 セイルーンの記録では、事実無根ではあるものの。長い間、あたしがアメリアを殺して、よみがえったらセイルーンの巫女姫……つまり、現在のアメリアも生け贄として差し出されると言う話があるのを。
 一体、どうしてそんな話になったんだろう?
「リナ様、どうしてここがおわかりになったんですか?」
 今更と言えば今更だが、アメリアが聴いてきた。
「ガウリイに魔法用具を持たせてあるのよ。それを使って『探査』の魔法で、ガウリイ達の居場所を探したってわけ。
 あ、念のために結界張って置いたから。しばらくここはばれないわ」
 まあ、きっとこういう場所は秘密の場所の部類で。アメリアとかくらいしか知らないかも知れないんだろうけど、念には念を入れすぎる事はないだろうし。
「あ、はい。
 では、こちらへどうぞ」
 アメリア達がいたのは、どうやら隠し部屋の類だったらしい。
 あたしは、ちょっと裏技を使ったのでそのあたり。よく判っていなかった。
「ねえ、アメリア。
 レイナに何かもらってっていい?」
「え……」
 汗をだくだくと流して、アメリアが答えに窮している。
 まあ、ゼロスから聴いた話では。あたしのいた時代ですら魔法用具はとんでもない高値がついていたけれど、それに時代と言うスパイスがかかって。それこそ天井知らずなものらしい。
「……はい、どれでも好きなものをお持ち下さい」
「リナ……」
 なによ、ゼル。
 言っておくけど、お説教なら聴かないわよ!
 あんただって、さっきから本を片っ端から読みあさってるくせに。
 一冊でも持ち出したら、笑って指さしてやる!
「いや、この程度の本ならば持ち出す必要もない」
 ……じゃあ、あんたの満足する本があったら持ち出すつもりだったんかい。
「お前さん、この程度のアイテムが本気で使えると思ってるのか?」
 あら、鋭い事を言うわね。
「ゼルガディスさん、そんなに馬鹿にしないでください!!」
 ……ま、まあ。そんなにアメリアもムキにならないで。
 ほらほら、にっこり笑ってくれないと。また吹き飛ばしちゃうぞー。
「り、リナ……」
「リナ様、それはちょっと……」
 なによー、ちょっとしたジョークじゃない。
 そんなに一生懸命逃げようとしなくったってさあ……。
「と、とにかく。
 セイルーン本国ならまだしも、この極東にある程度のアイテムじゃあ。残念だが実戦には使えないぞ。アメリア」
「……そうなんですか?」
 ええ、そうよ。
 アメリアには悪いけど、あたしやガウリイ。ゼルガディスくらいのレベルになると。この程度のアイテムでは護符にもならないの。
 でも、レイナにはある程度役に立つはずよ。
「そうなんですか……」
 そんなに落ち込まないでよ。
「アメリアだって、ほら。実戦には使えないかも知れないけど、宝石としては綺麗じゃない?」
 う……。
 あんましフォローになってないかもしんない……。
 しっかし、これだけのものがここに集められてるのもすごいとは思うけど。セイルーンの本国って、これよりすごいの?
「ああ。この程度のものなんぞ、道ばたの石ころくらいにしか思えん」
 おおっ!?
「もっとも、俺の情報は古いがな……」
 それって……もしかして、まだ初代が城にいた頃の記憶……とか?
「……ふっ」
 ずいぶんとお茶目さんになったじゃないの……ゼル!!
「あの、リナ様……ゼルガディスさんも……。
 あんまり暴れないでくださいませんか?」
 ちょっと諦めを含んだ顔で、アメリアが言ったりしてる。
「やめろ、リナ!!」
 そこら中にある、大小さまざまな剣をなげつけ。すれすれの所で交わすゼル。
 ふふん、あたしから逃げられると思ったら大間違いよ!
「そりゃっ!」
 あたしの投げた、短剣がゼルの服を壁に縫い止める!
 ふふん……あたしの勝ちね!
「お、俺が悪かったから……リナ」
「甘いわね。あたしが許すと思ってるの?」
 ふっふっふ……。
 この程度で許しちゃ、あたしがあんたに受けた数々の苦しみははらせない!「リナ様、ゼルガディスさんに何かされたんですか?」
 アメリアの目が、きらりんと光る。
 よっしゃぁっ!
 これでアメリアは、あたしの味方よ。
「アメリア……。
 あたしは、あたしは……ゼルに……。
 言えない。言えば、あなたも巻き込んでしまうわっ!!」
「……ゼルガディスさん、あなた一体。リナ様に何を!?」
「お、俺は……何もし……て……な」
 くすくすくす……。
 アメリアに首根っこねじ込まれれば、いかにゼルでも苦しいわよねー♪
「で、何されたんだ?」
 目だけ笑ってない笑顔で、ひょいと現れるガウリイ。
「初めて会った頃、乙女のおなかに蹴り入れた」
「……お前なあ、しれっと答えるなよ。
 もう時効じゃないのか?」
 あら、あたしは「いつ」かは言ってないわよ。嘘じゃないもの。
「甘い! ガウリイは甘すぎる!
 あのねえ、乙女のおなかに蹴り入れたりするなんて事。
 何年たっても時効なんてないわよ!」
 今気づいたけど、あたし。蹴り入れられた報復ってやってなかったのよね。
 時々やってやろ。
「まあ……ゼルの顔も面白いけど、放っておくと危ないんじゃないか?」
 うーん……まあ、そうかもね。
 心優しいあたしは、合成獣化して紫色に変色したゼルを助けるべく。アメリアを止めてやるのだった。
 ふふふ……これでゼルに貸しが一つね(はあと)
「アメリア、ゼルの様子見ててあげてね。
 あたしはガウリイとレイナと物色するから」


続く