◆-君の日常10-Merry(12/13-19:56)No.5768
 ┗君の日常11-Merry(1/3-22:09)No.5909


トップに戻る
5768君の日常10Merry E-mail URL12/13-19:56

君の日常9

「アメリア!!」
「皆さん無事ですか?」
ワゴン車タイプの車から良く見知った顔が出てきた。
「みんな、来てくれたんだ」
リナが嬉しそうに笑うと、当たり前だろ、とみんな口々に言った。そしてすぐに戦闘体制を取った。
「ゼロスはあたしの後ろにいて」
「はい」
ゼロスが何故か嬉しそうに笑った。
僕に、背中を任せてくれるのですね。
ゼロスは心の中で漠然とそう思った。目の前で臨戦体制を取って前方を睨み付けるその姿は、さながら、首を天に向けて高くかがげた真紅の獅子のようだ。はるか前方を見据えて、天に駆け上がっていく獅子。そして時折自分を見つめるように優しい炎の赤い瞳で見返す。そんなイメージがゼロスの中にある。そして、リナが時折こちらに振り向くその瞳が、ゼロスは好きだった。
激しい爆発音で戦闘は開始された。ゼラスがさっきの扇子をもう一度ジープめがけて投げつけたのだ。今度は運転手の顔面にもろにぶつかり、カーブが切れずにそのままジープが横倒しになった。
「みんな、ここは人気が少ないわ 見せしめとしてこいつらを叩きのめしちゃおう」
リナがジープの中からはいでてきた集団に向かって悪魔の微笑みをした。ゼラスのまた従兄妹ぐらいにはうまい演技をしている。
「そのとおりです 深夜遅く何の罪もないいたいけな少女を襲うだなんて、日本政府が許してもこのあたしが許しません!!正義の鉄槌を受けなさい」
いつのまにか木のてっぺんでお決まりの指差しポーズを取って啖呵を切っているアメリアである。そして軽く宙をきって舞い下りる。地面につく寸前足を振り上げて、そのままジープから這い上がってきた戦闘員らしき男の顔面を蹴り上げて着地した。
「いいぞアメリア!」
ガウリイが持参してきた木刀で、複数の男どもと一方的に切りあいをしながら言った。
「はっ」
気合いで一戦するとまるで時代劇のちゃんばらのごとくガウリイの周囲にいた奴等が崩れ落ちていった。
「ガウリイばかりにいいかっこさせられんな」
ゼルガディスが、地面に転がっている石を何個か拾い、ジャグリングをはじめた。まるで周りの騒ぎなんか気にならないような態度でジャグリングする姿を見て複数の男が襲いかかってきた。どいつも狂暴そうな顔と、鍛え上げられた体、そして手には刃物が握られている。
ゼルガディスは鼻で笑うと宙に浮いている石を何個かつかみ、襲い掛かってくる男どもに投げつけた。それは手の甲ではじけ、続いて眉間に命中していった。苦悶の悲鳴を上げながら地面に倒れていく。
追いつめられ逆上したのか、ひとりの頭の悪そうな男が、ジープに積んである武器を取り出した。それはバズーカ砲だった。戦車でも一たまりもないとうたい文句にされているやつである。
「みんなっ散りなさい」
ゼラスが扇子を閉じて走り出した。その声にはじかれるように四方八方に飛ぶように逃げ去った。砲手はどこに打とうか一瞬迷ったようだが、夜の闇にきらめく紅茶色の髪が血の色にでも見えたのか、狂ったような声を上げてリナの方に向かって発射した。
「リナちゃんっ」
ゼラスが立ち止まり扇子をひらめかせようとかまえたが既に遅い。
「リナさん」
「リナっ」
仲間たちの声が次々にはじけた。
リナはとっさに呪文を唱えようと詠唱をはじめたが、覆い被さってきた黒い影に中断された。地面にリナが押し倒されるのと、爆発するのが同じタイミングだった。爆風の影響も、燃え上がる熱さも、リナには及ばない。すべて覆い被さっている影が引き受けているのだ。
月明かりの下で、リナが影の正体を知った時名前を呼ぶ事しかできなかった。
「ゼロス…」
「大丈夫ですかリナさん」
「あたしは平気 でも、ゼロス」
「僕は大丈夫です 僕の背中の皮は厚いですから」
微笑みかけながら、リナを助け起こすゼロスは俯いたっきり何も言わない従兄妹を心配そうに覗き込んだ。
「リナさん…?」
肩が震えているのが分かった。ただ黙って泣いているのだ。呼びかけた声が引き金になったのか、リナは顔を上げて訴えた。
「もう、こんな無茶しないでよ あんたに何かあったら、あたしは…」
真紅の瞳が、セロスを映し出している。その瞳が、ゼロスはたまらなく好きだ。自分だけがこうして映し出されている 、獅子が振り返った時、初めて見つめるのが自分である事が。
「大丈夫です 僕は」
そういった、ゼロスの語尾がわずかに震えた。そこには驚きの成分がいくらか含まれていた。リナが自ら抱き着いてきたのだ。苦手なナメクジ以外でリナが抱き着いてきたのは、初めての事だ。リナは、ゼロスの胸に顔を深く埋め、声を殺して泣いていた。
瞬間、突然自分の体が羽のように軽くなったのを感じた。体の隅々まで力がみなぎっていくのが分かった。
ゼロスはリナを抱きしめたまま念を凝らして、近くで戦っている敵に向かってエネルギー弾を打ち付けた。
見事鮮やかな弧を描いてエネルギー弾が、光速の速さで飛んでいき、はじけた。その音を聞いて、リナはびっくりして顔を上げた。
「……力戻ったんだ」
「リナさんのおかげですよ」
やっぱり僕には必要な方のようです。
「おっしゃっこれで互角以上よ! いけっゼロス」
リナが立ち上がって右手を腰に当て、左手がびしっと真っ直ぐ乱戦の最中をさしている。その勢いにつられてゼロスは乱戦の直中にかけていった。
「男って単純…」
リナの子悪魔みたいな微笑みを見た人は誰一人としていなかった。
かくて一方的に勝利を収めると、その日はそうそうに引き上げる事にした。

「リナさん」
ゼルガディスが運転をして、ワゴンタイプの車で帰る途中、ゼロスがリナの背後から耳元で甘い声を出してささやいた。
「ひょうっ」
奇声を発してのけぞるリナに、いつもの何か企んでいそうな微笑をしながら、お決まりの指立てポーズを取って話をはじめた。
「約束、覚えていますよね」
「……なんのことかしら?」
リナが、つんっとそっぽを向いてとぼけてみせた。
「そ…そんな リナさんが、僕とどうしてもデートをしたいとおっしゃった初めての日じゃないですかっ」
語尾に重なる様にして、痛そうな響きが車内にこだました。
「だれが、どうしてもデートをしたいって?」
ゼロスが腹部を押さえながら、涙目で首を振った。
「ぁ…の、思い出しました リナさんは荷物持ちとして僕をつれていってくれるはずでした」
「そうよ、記憶は正しく覚えておかなくちゃね ゼ・ロ・ス」
リナの言葉に、まるで車内中に雪が降ったかのような冷たさが舞い下りてきた。
「尻に敷かれてるな、あれは」
運転席でぼそっとつぶやくゼルガディス。幸いにして誰の耳にも届かなかったようだ。
「そうだ、リナ」
ガウリイがぽんと手を叩いて、リナの方に振りかえった。
「なによ」
「あしたひまか?」
「ガウリイさん 僕の目の前でリナさんとデートの約束をしようだなんていい度胸ですね どっちがリナさんにふさわしいのか…」
ゼロスの言葉は、脳天に直撃したスリッパ攻撃で粉砕された。もちろんやったのはリナである。
「デートじゃないぞ アメリアにはもう声をかけてあるんだ ……その、シルフィールがな この間のお礼に、ケーキを焼くから食べにこいって」
ほんのり頬を赤くしているガウリイに、リナはいたずらっ子のような表情を浮かべていった。
「べつにぃ あたしは何もしてないし ガウリイ独りでいってきた方がいいんじゃないの? シルフィールだってその方が喜ぶだろうし」
「なっなにいってんだよリナっ」
「そう思うわよね アメリア」
「私もそう言ったんですけど ガウリイさんがどうしてもっていわれるし、シルフィールさんのケーキっておいしいって評判なんですよ」
ケーキ
おいしい
評判
この三つの単語がそろってしまえば、おいしいものに目がないリナは逆らう事ができない。あっさりと前言を翻していった。
「いくわっガウリイ あたしってば本当にいい友達を持ったわ」
「リ…リナさん明日は仲良く僕と一緒に学校を帰ってくれるはずじゃ…」
「じゃ、明日の放課後いけばいいのね」
全然話を聞いていないリナである。
ゼロスはがくりと肩を落として、のの字なんか書いている。
こうしてあわただしい日々が過ぎ、週末となるのだった。

つづく

トップに戻る
5909君の日常11Merry E-mail URL1/3-22:09
記事番号5768へのコメント
君の日常11


「遅い…」
リナは、待ち合わせ場所の駅前でまっているのだが、一向にゼロスの姿が見えない。もうかれこれ十分も待ち合わせの時刻から経っていた。いつもは時間通りに来るのに、今日に限ってこないなんて。リナは少しだけ心配した。
人の群れがいっせいに階段から降りてきたのが見えた。電車が着いたみたいだ。これにのっていなかったら電話してみるつもりだった。
やっぱりこない。どうかしたのだろうか…それとも、すっぽかされた?
不安が渦巻きながら、彼の家にダイヤルを入れた。ベルが十回鳴った。誰もでない。すぐにきって、ゼロスの携帯電話にかけてみた。電源が切られていた。
胸の奥から込み上げてくる不安と、怒りにどうしようもなく駅で待っていると、リナの持っているPHSに電話がかかってきた。フィルからだった。
「なにかあったの?」
「……至急帰ってきてくれ ゼロス君は、そこにはこない」
「断言してるってことは、フィルさんはゼロスの行方を知っているって事ね」
「ああ、いいから、手後れにならないうちに頼むよ」
何かトラブルに巻き込まれたのは明白だったので、リナは、不安に胸を締め付けられながら帰宅した。


「ゼロスが、殺された?!」
家に帰ると、全員そろっていて、思い思いの姿勢で、ダイニングルームのソファーに腰を下ろしていた。リナは、フィルから聞かされた事実が重くのしかかってくるのを自覚して、それが支えきれないかのように、床にへたり込んだ。アメリアが、悲しそうな表情を押し殺して、リナを立ち上がらせた。
「ど…どういうことよ…」
ソファーに腰掛けながら、リナは平静を装いながら聞き返した。その声は力なく、自信に満ちた声は震えていた。
失われたものの大きさを、失ってから気がついた。もっと早く気がつくべきだったのに。リナは、何も知覚する事ができず、ただ、頬を伝わる熱い潤いだけが知覚できる唯一の事だった。
「今日の新聞を見て下さい」
アメリアがそっとリナに差し出したのは、この家でいつも取っている新聞で、世間一般的に言えば二大新聞のうちの一つだった。
「学院の理事長殺される 理事長の座をめぐっての争いか?! 骨肉の争い 犯行は姪一家か?!」
新聞の見出しに大きく書かれている事に、リナは不信感を抱いた。姪…?それはあたしの事だろう…犯人はあたし?そんなばかな
「どうやら、仕組まれたようだな、殺されたと見せかけてわれわれを社会的に葬るらしい」
ゼルガディスが腕を組んだままリナに説明した。つまり、叔母一家を殺害した罪にリナたちを問い、社会的地位を下げた後料理する事にしたようだ。
「じゃぁ、ゼロスは生きているのね?!」
「きっと生きていますよ」
「大丈夫だぞ そんなことでころされるやつなもんか」
「ガウリイにいわれたらゼロスもおしまいね」
「リナ、それはないだろう」
リナは微笑んだ。
よかった、大事な仲間がいて。
この人達がいなかったら、あたしはきっと窒息してしまっていただろう。
「しかし、早くしないと本当に殺されてしまうかも知れんしな」
「もう一度、ゼロスの携帯に電話をかけてみるわ」
リナは自分のPHSを取り出して、ダイヤルした。今度はベルが鳴ってすぐにつながった。用心して声を押し殺していると、聞きなれない男の声がした。
「叔母一家は生きている しかし、それもお前達の行動次第だ あす、自衛隊の演習場に来てもらおう」
一方的にしゃべると、男の通信は途絶えた。
「どうします?」
「うかつに動いたら本当にゼロス達を殺されるわ…明日までまとうか…」
リナのしっかりとした声に安心したのか、みんなが肯いた。


「自衛隊演習場なんかにこさせて何やる気かしらね?」
「大方最終決戦をかねた、俺達の力を見るためだろう」
ゼルガディスがリナの質問に、周りを警戒しながら答えた。富士山麓自衛隊演習場の人気のないフェンスの近くで今こうして話しをしている。さすがに正面からでは一般人は入れてくれないだろうと、こうしてわざわざ忍び込もうというのだ。
あれから、また謎の男からの電話があり、赤い旗の下に叔母一家がいるという事だった。ただ何もなく広がる土気色の風景に、リナは目を凝らした。
赤い旗が立っている。
「赤い旗だっ」
リナが一目散にはたに向かって駆出した。その後をアメリアが追う。深いきりの中でようやく旗がはっきりと分かるところまで来て、リナは走る速度を落とした。
「誰も…いない?」
「どうしたんですか?リナさん」
アメリアがリナの背中にぶつかりそうになるのを寸前でよけて尋ねた。
「ゼロス達がいない」
「え?そんな…」
アメリアがリナの背後から身を乗り出すと、確かに旗の下には誰もいない。アメリアが言葉を続けようとした時、空から何かが降ってくる気配に気がついた。
「リナさんっ」
アメリアは声と共に後方に飛びのき、リナもそれに習った。轟音とすさまじい量の土砂が舞い上がるのが同時だった。
「まずいな、赤い旗はミサイルの着弾点だったんだ」
ガウリイが舌打ちをした。
「ミサイルくらい俺達はどうって事はないが、無防備なゼロス達が本当にこの旗の下にいたとしたら」
ゼルガディスが言おうとする言葉をアメリアはひじをつついてとめさせた。リナがくらい表情で地面を見つめていたのだ。
「助け出すわよ 当然でしょ?こんなところで死んだら、叔母様きっと化けて出るもの」
生者の怒りより死者の怒りの方が怖いとリナは言いながらあたり一面に広がる赤い旗の下にいるはずの人たちを探した。
「まったく、素直じゃないんですから」
アメリアがぽつりと言った独り言に三人で目を合わせた後、リナの後を追った。
「おいっリナ、手分けして探すぞ 俺とガウリイで探すからそっちはアメリアとリナでいいな」
「分かった」
ひっきりなしにうってくるミサイルをよけながら泥塗れになってリナたちは走った。
そこにいるはずの大事な人たちを探しながら。

「演習は無事進んでおります」
今回の演習の司令官を務めている人が、偉そうにいずに座っている小さな子供に向かって敬語を使った。ここは、総司令部のテントの中である。何も知らない自衛官達は小さな子供に敬語を使っている司令官を、怪しげな目で見ていたが、理由の知っている高官達は、機嫌を損ねないよう必死におべっかを使っていた。
「そう、いい感じじゃない うまくいったら大蔵省に自衛隊の予算を上げてもらうようにいっといてあげるよ」
女の子と見まごう程の美貌の子供が司令官を鼻で扱うほどの人物なのである。日本の影の支配者、冥王フィブリゾ。戦前から富みを蓄え、戦後にいたってはその恐るべき知謀と、組織力でいつのまにか日本の黒幕になりおおせてしまっている。彼の一言で総理大臣の首が飛ぶかきまるのである。年齢不詳、不老不死の妙薬でも飲んでいるのか外見は十歳の子供にしかみえない。
司令官が頭を下げて礼を述べているところに伝令が入ってきた。そっと、司令官に耳打ちした。それは恐るべき情報だった。
「民間人が入り込んでいると?」
「はい、十代後半の少女達と、二十代前半ぐらいの青年たちです」
数秒間考えた後、命令を出した。
「いち早く民間人を保護しろ丁重にだぞ」
その命令を遮るようにフィブリゾは言った。決して大きな声ではなかったが、周囲に重圧をかけるのには十分だった。
「そのままにしておきなよ」
フィブリゾが何をいっているのか分からなかったらしく、司令官が馬鹿みたいに聞き返した。
「そのままにしておけって僕はいったの たまには動く標的も必要でしょ?」
伝令は司令官と、フィブリゾの2人の顔を交互に見詰めている。ここで、フィブリゾのゆうことをきかなければ、即座に司令官の首は飛ぶ事になる。司令官は迷っている暇はなかった。
「そのまま攻撃せよ 民間人の安全は考えるな」
「上出来だよ」
いいながらフィブリゾは自分専用の回線を使ってある命令を下していた。
「ブラックベレーを投入しといて」
ことさら命令は司令官に聞こえるように言った。ブラックベレーとは、自衛隊とはまた別にある陸戦部隊のプロの集団である。人を殺す事もいとはない集団で、この部隊を投入するのは戦後二回目の事だった。一回目は学生運動が盛んだった頃。機動隊に紛れてブラックベレーを投入し、たくさんの学生を殴り倒してきたのである。その命令を出したのもフィブリゾ自身だ。そして今回も。
「そこまで重要な人物なのですか?」
きいてからしまったと思った。フィブリゾは干渉されるのを極端に嫌う。司令官の肝が冷えた。
「知らなくてもいい事だよ でも、教えといてあげよう入り込んだ民間人は生体兵器になるよ 世界最強のね」
自分の言葉に酔いしれているのかフィブリゾがくすくすと笑い出した。時折双眼鏡を覗いてリナたちの動向を確かめていた。


「あーもう、きりがないっ」
無限に広がるように見える演習場を走ってかれこれ小一時間は経っただろうか。ずっと走りどうしだが、リナたちの息は切れていない。しかし、楽をしたいと思うのは一緒のようで、リナはきょろきょろとあたりを見回した。
「仕方ないですよはやくしないとゼロスさんたちが」
立て続けに降り注ぐ轟音と土砂に、2人は大声を出して会話をしている。2人とも泥にまみれて衛生的とはいえない格好になっているが、いたって無傷である。
リナは近づいてくる戦車に目をつけ、軽く助走すると、走っている戦車に飛び乗った。ハッチを叩いて、中にいる人を呼び出す。
「お役目ご苦労様っ」
リナはかるがる男をつまみあげて、放り出した。同じように戦車を運転している男も放り出すのに一分とかからなかった。
「一度戦車って運転したかったんだっ」
リナがアメリアにも来るように手招きをして、戦車に入り込んだ。


「ふぐっ」
ゼロスは自分の額にかかる冷たいしずくによって目を覚ました。見た事もない風景が視界に広がっている。どこかの洞窟の中でしょうか。ぼんやりと考えながら、手を動かそうとしたが、動かない。そう言えば口にも何かが挟まっていてうまくしゃべれない気がする。
あ、そうでした。昨日の早朝訳の分からない珍入者にとらえられたんでしたっけ?
ゼロスは指先に力を入れて集中すると、火で焼ききったように手を縛っているロープがほどけた。同じように足のロープも解いた後、タオルで作られた猿轡も外す。あたりを見回すと、まだ意識が回復していない自分の母親が同じような格好で横たわっている。ロープを解いて猿轡をはずして軽く母親の頬を叩いた。
「ん…?ゼロスもう朝なのかしら?」
「母さん寝ぼけてないで、僕たち昨日さらわれたんじゃないですか?」
「ああそうだったわね 暇だったからついてって見ようと思ったのが間違いだったかしら?」
服についた埃を払い、隠し持っていた扇子り出して、優雅にゼラスは起き上がるとすたすたと洞窟から出ていった。その後を追うようにゼロスが続く。
「いい天気ねぇ」
霧が深く立ち込めた外の景色にゼラスはそう評した。
「こんな天気だと、煙管で一服って感じなんだけど」
「それはまた後にして、ここはどこなんでしょう?」
「天国でもなさそうね」
何気なく扇子を後方に放り投げると、うめき声の後黒いベレー帽をつけた戦闘員が倒れた。
「さすが母さん」
「一度やってみたかっただけよ」
扇子を拾い上げて、ゼラスはベレー帽を手にとって確かめると、軽くしたうちをした。
「どうしたんですか?」
「やっかいね 地獄の方がもっと良かったかもしれなくてよ」
「この景色じゃそうかもしれませんね」
「このベレー帽ブラックベレーのものよ 奴等が出てるって事は、ここにいる人物の抹殺を図ってるって事かしら」
「大変な事ですね」
この親にしてこの子と言うべきだろう。全く動じず、ゼロスが答えた。
「この敷地から出るのが目的だけど…とすると…」
「僕たちがこんな目にあっているのだから、リナさん達もおんなじ目にあっているという事ですか?」
「察しがいいわね とりあえず合流したほうがよさそうね」
ゼロスはリナと真っ先に再開したいものだと思いながら歩き出した。
昨日一緒に買い物にいけなかった事を悔やんでいるのである。
しばらく歩き続く手見慣れた人影を見出した。
「ガウリイさんに、ゼルガディスさん」
ゼロスはこの時ほど運命の女神をののしった事はなかった

つづく

次で最後だと思います。長くなりましたけど、ここまで読んで下さった方々ありがとうございました。