◆−冬の館 1−メイメイ(3/17-13:14)No.6468
 ┣冬の館 2−メイメイ(3/17-13:20)No.6469
 ┣冬の館 3−メイメイ(3/17-13:25)No.6470
 ┣冬の館 4−メイメイ(3/17-13:32)No.6471
 ┃┗Re:冬の館 4−彩(3/17-18:12)No.6473
 ┃ ┗感想、ありがとうございます。−メイメイ(3/18-13:20)No.6476
 ┣乙女の純情−メイメイ(3/19-15:57)No.6478
 ┃┣Re:乙女の純情−彩(3/19-18:47)No.6479
 ┃┃┗月にかわって、ね ('-^)−メイメイ(3/20-15:10)No.6483
 ┃┣はじめまして☆−湊祈 渚(3/19-21:35)No.6480
 ┃┃┗こちらこそ、はじめまして☆−メイメイ(3/20-15:11)No.6484
 ┃┃ ┗ごめんなさい〜☆−湊祈 渚(3/20-20:55)No.6494
 ┃┃  ┗いえ、うらやましいと・・・−メイメイ(3/22-14:51)No.6509
 ┃┗ゼラスさまらぶらぶーっ−ひなた(3/22-13:40)No.6508
 ┃ ┗実はね・・・−メイメイ(3/22-15:11)No.6510
 ┃  ┗合い言葉は「ハナゲ」。−ひなた(3/22-19:32)No.6512
 ┃   ┗のろいの呪い?−メイメイ(3/24-13:06)No.6518
 ┗Someday My Priest Will Come−メイメイ(3/24-13:08)No.6519
  ┣うわーい☆−湊祈 渚(3/24-23:03)No.6522
  ┃┗こちらのアドレスでいらしてね☆−メイメイ(3/25-13:50)No.6526
  ┗また、きちゃった・・−彩(3/24-23:13)No.6523
   ┗いらっしゃいませ〜−メイメイ(3/25-13:57)No.6527


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6468冬の館 1メイメイ E-mail URL3/17-13:14


 どうも、はじめまして。ぺこり。
 インターネットはじめてまだ数カ月、なので、当然ここもつい最近知りました。
 みなさん楽しそうですね。
 はしで指くわえて見ていると、だんだんむずむずしてきちゃって、気がついたら自分も参加したくなっちゃいました。
 というわけで、初投稿させていただきます。
 いわゆる「ゼロリナ」ですね。
 だって、気に入っちゃったんだもん。



冬の館 1



 門はすべてを拒んで閉じられていた。
 閂がかかり、呼び掛けに答える者もいない。
 大きな屋敷だ。
 人里から離れたところにぽつりと寂しく建っている。
 彼は仕方なく屋敷を囲む塀に沿って歩いてみることにした。
 門を破ってもよかったが、穏便な使者である以上、それははばかられた。
 大きな屋敷のため、一周するにはかなりの時間をとられそうだ。
 庭はまだ残る雪にうっすらと白かった。だがおそらく、雪がなくとも、その庭はずいぶんと寂しいものにちがいない。ただ広々とした、人の手入れを離れて久しい庭。
 半周ほどしたところで、彼は突然足を止めた。
 目をこらす。
「……?」
 庭に、人がいた。
 たった一人で、ぼんやりとした風情で空を見上げている。
「……まさか……」
 彼は塀を越えて庭に入り、ゆっくりと庭に佇むその人に近付いた。
 キシ、キシ、キシ。
 雪を踏む音は耳に届いているはずだった。
 なのに、じゅうぶんに近付いても、その人は顔を空からはずさなかった。
「リナさん?」
 呼び掛けてもまだ空を見ている。
「リナさんでしょう?」
 着ている服は、彼の知るリナのものではなく、かわいらしいドレスで、髪型も、いつもは無造作にたらしたままなのが、今はきれいにリボンでまとめられている。薄く化粧までしているが、彼には見間違いでない自信があった。
 彼女はようやく顔を地上に戻した。
 そして、彼を見た。
 ごくありきたりの風景を目にとめるように。
「……あんた、誰?」
 ガクッ。
「……は?」
「あんた誰ってきいてんの」
「いや、そのー……」
 自分が誰だか、分からない?
 そんなはずは……。
 演技だろうか。
 だがリナの様子は、本当に彼のことが分からないように見える。
 こんなところにリナがいること自体、あり得ないことだし。
 どうもおかしい。
 ぽりぽりと頬をかいていると、焦れたように彼女は、
「名前言わないんなら、あたしが勝手につけるわよ」
「いや、僕にはゼロスっていう、ちゃんとした名前がありますから」
「最初っから素直に言えばいいのに。……で、何者なわけ?」
 問われてゼロスは、茶目っ気たっぷりに、
「謎の神官です」
 リナとおぼしき少女はとたんに頭を抱えた。
「きゅう〜〜」
「ど、どうしました?」
「なんでもないっ」
 強く言うと、しゃきっと頭をあげ、
「ちょっと悪寒が走っただけだから」
「寒いんですか? こんなところに上着も着ないで立ってらっしゃるから」
 ゼロスはさっきからこちらを見ている別の人物に気がついていた。
 その暗い視線に。
 その人物が急ぎ足でこちらへやって来つつあることにも。
「どうぞ」
 ゼロスは自分のマントをリナの肩にそっと乗せた。
「……あ、えーっと、ありがと」
 う〜ん。いつものリナからは、なかなか聞けない素直な感謝である。
「マルゲリータ」
 石の階段の上から、その男が声をかけた。叱責するように。
 リナがパッと顔を振り向けた。
「ナバール。何しに来たのよ」
「……いつまでも外にいるから。……風邪を引くぞ」
「う〜、そうね。あたし、寒いの嫌いだし」
「暖炉で暖まりなさい」
 リナ……いや、マルゲリータはどこか諦めたようにため息をついた。
「……そうする」
 階段を登る。
 すれ違う時、ナバールがリナの肩にかかるマントに手をのばした。
「薄汚れたマントだ」
 取り上げようとするその手を、マルゲリータは強く払った。
「やめてよ。……暖炉まで遠いんだから、その間に風邪引いちゃうじゃない」
 そしてそのまま行ってしまった。
 黒いマントがガラスの扉の奥に消えるのを見送って、ナバールがゼロスに顔を戻した。
「何の用だ」
「マルゲリータとは、随分情熱的なお名前ですね。こんな雪に閉ざされた屋敷には不似合いな程……」
「何の用だ」
「ああ、はいはい。えー、まずはこちらを御覧ください」
 ゼロスは一通の手紙を取り出した。
 受け取って素早く目を通したナバールは、不機嫌に眉をしかめた。
「おやじか……」
「はい。あなたがこちらへ移られてもう半年。そろそろ一人でいるのにも飽きているだろうから、話し相手になってほしい、……と」
「ふん。ようするにおやじの監視役だな」
「まあ、そう言ってお差し支えなければ、その通りです」
「私が今度、結婚するといったから、慌てて花嫁を品定めに来たというわけだ」
「……け、結婚?」
 嫌な予感がした。
「なんだ。それで来たんだろうが。おやじから聞いてないのか」
「はあ。僕が聞いたのは、一人きりの息子の話し相手……とだけで……」
「あのおやじがそんな殊勝なことを考えるものか。先入観なしに花嫁を見定めようって魂胆だろう」
「それで、その……花嫁はどちらに?」
「マルゲリータだ」
 やっぱり。
「先ほどの……?」
「そうだ」
 これは……。
 ゼロスはにっこり笑顔のまま考え込んだ。
 話がややこしくなってきたかもしれない。



 マルゲリータは暖炉のそばに椅子を持ってきて、冷えきった手足を炎に当てていた。
 不機嫌なのだろう。口をとがらし、ジッと炎に見入っている。
 だが、ふとひじ掛けにかけた黒いマントを見て、ひそめられていた眉が開いた。
 マントを取り上げ、肩の辺りを持ってかかげてみる。
 しばらくそうしてためすつがめすしていたが、やがて黒いマントをふさっと毛布のように自分の胸にかぶせた。
「……ゼ…ロ…ス…」
 響きを確かめるように名前を呼んでみる。
 マントはかすかに埃っぽいにおいがしたが、ゼロスのにおいはしなかった。



δδδδδδδδδδδδδδδδδδδ



ゼロスくんって、マント脱ぐことあるのかな。………まあいいや。
んで、マルゲリータ。
名前を考えるのって、苦手です。
ピザを食べたせいで、名前がこんなになっちゃって……。
長くなっちゃったので、ここで切りました。
このままずずいっと続きを読んでいただけると、うれしいです。

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6469冬の館 2メイメイ E-mail URL3/17-13:20
記事番号6468へのコメント

冬の館 2


「これ、ありがとう」
 マルゲリータがたたんだマントをゼロスに差し出した。
 その夜の夕食は、館の主人のナバールと、その婚約者のマルゲリータ、そしてナバールの父の監視役・ゼロスの三人で囲まれた。
「今度からは、ちゃんと上着を着て、外に出て下さいね」
 ゼロスはにこやかにマントを受け取った。
「そうする」
 マルゲリータもほがらかに応じたが、ふと顔を伏せ、囁いた。
「今夜、みんなが寝静まった後に、あんたの部屋に行っていい?」
「は?」
 マルゲリータはいよいよ声を小さくした。
「えーっと、だから、その、……あんたの部屋に行ってもいいかって」
「よろこんで……、と言いたいところですが……。マルゲリータさんには、婚約者がおありなのでは?」
 すると、わめきたいのをぐっとこらえたって顔で、
「返事は? イエスなの、ノーなの?」
 マルゲリータはナバールを気にしている。彼に知られたくないのだ。
 ゼロスも小さな声で答えた。
「わかりました。お待ちしてます」
 同時に、
「マルゲリータ。座りなさい」
 ナバールがきつい調子で彼女を席へ招いた。


 暗い地下室の床には、魔法陣が描かれていた。
「鍵のかけられた地下室とは、あまりに普通過ぎて面白くないですねぇ。……まあ、僕は仕事がはかどって楽ですけど」
 線は新しい。
 短くなった蝋燭。――そして。
「なるほどね」
 拾い上げた要の位置に据えられた石を、ゼロスはそっと元に戻した。
「わからないのは、なぜ僕だったか……でしたが……、ふむ……」


 夜更け。
 トントントン。
 ひそやかに扉が叩かれた。
 ゼロスが開けると、マルゲリータがするりと入ってきて、急いで扉を閉めた。
「いらっしゃいませ」
 ゼロスは彼女に椅子をすすめ、自分はベットに腰掛けた。
「夜食?」
 その部屋の小さなテーブルにはシチューとサンドイッチがおいてあった。どっさりと。
「ええ。食べますか? 夕食の時、あまり食が進んでなかった様ですが」
 マルゲリータは一人前きっちり食べていた。が、
「う……ん、実は……ね。でも、ナバールが食べさせてくんないし」
「僕はもう十分ですから、マルゲリータさん、いただいちゃって下さい」
「……じゃあ、いただきま〜す」
 遠慮なく食べはじめるマルゲリータ。シチューをひとくち口に運んで、
「冷たいわね」
「温めましょうか?」
 言うや、ゼロスが指を振った。とたんに、シチューから湯気があがる。
「へ〜、何したの?」
「魔法です」
「あんた、魔法が使えるんだ」
「ええ、一応」
 魔法が使えることへの関心は、すぐさま温かいシチューを口へ運ぶことへの集中にとってかわられた。あっという間にシチューを平らげ、サンドイッチも一気に彼女の胃袋におさまりつつある様子に、ゼロスは苦笑をもらした。
「実にあなたらしいですねぇ」
「んんんー!」
「おしゃべりは、お食事の後にしましょう」
「んっ」
 最後のサンドイッチをごくんと飲み込むと、マルゲリータはふうっと満足の息をつき、それから真顔でゼロスに向き合った。
「あんた、あたしのこと知ってんの?」

「……えーっと、まあ、その方はマルゲリータという名前ではありませんが、」
「その人の名前は? どういう人? あんたとの関係は?」
「名前は、リナ=インバース、魔道士です。僕との関係は……、そうですねぇ、いっとき御一緒に旅をした、というところでしょうか」
「リナ……」
 口の中でその名前をころがして、ふと考え込むマルゲリータ。
「僕からも質問してもいいですか?」
 マルゲリータは顔をあげた。
 口紅が落ちている。さっきの食事の時、一緒に食べたらしい。
 まだ化粧に慣れていないのだ。
「なに?」
「あなたは、ナバールさんを愛していますか?」

「い、いきなりな……」
 マルゲリータは顔を赤らめてたじろいだ。
「いえ。どうなのかな〜、と思ったものですから」
「ど、どうなのかな〜って……あんた」
「どうなんですか?」
 たたみかけられてマルゲリータは躊躇したが、すぐに口をとがらせて答えた。
「……わからない」
「わからない?」
「だって、出会いも恋愛も喧嘩もプロポーズも、全部抜きでいきなり結婚よ。約束したんだって言われったって、憶えてないんだもん」
「憶えていない?」
「そ」
 こっくり。
「……そんな約束も、ナバールのことも、」
 マルゲリータはさらに声を落とし、
「……自分が何者かも」
 ゼロスはゆっくりと足を組み換えた。
「やっぱり、記憶喪失でしたか……」
「川に落ちたらしいわ。真冬の寒空に。心臓が停まらなかったのが奇跡だって」
 まるで他人事のように言う。
「……なるほど」
「あんた、あたしのこと知ってるんでしょう?」
「ええ」
「じゃあ」
 マルゲリータは自分自身に囁いた。
「あたしは本当はリナなのね」
 ゼロスは一応たずねてみた。
「僕が嘘をついているとは思わないのですか?」
「だってあんたはあたしを一目見てすぐに『リナ』と呼んだじゃない」
「他人のそら似ってこともありますが」
「あいつのプロポーズ、あたしがオッケーするとは思えないのよねー、あんな暗いタイプ。ゼロスの方がまだましって気がするし」
 とたんにゼロスはがっくりと肩を落とした。
「どーしたの?」
「……いえ、記憶喪失はいいなー、と」
「なによ、それ。こっちは人生の岐路なんだかんね」
「……そうでしたね。それであなたは、僕があなたのことを知っているか確認したくて、わざとマントを持ち去ったわけでしたか」
「……ばれた?」
「ええ。――僕に話し掛ける口実にしたかったんですね」
「そうよ。ナバールはあたしが他人と会うのをすっごく嫌がるから」
「のようですね。ですが、……恋心ゆえの嫉妬というわけでもなさそうですし……」
「どうして? こんな可愛い娘、つかまえといて」
「……まあ、確かに、可愛らしいですよ……」
「なに、その、子供をあやすような言い方はっ」
「子供をあやすなんて……、本心ですよぉ」
「ほんと?」
 ゼロスは大きくうなずいた。
「本当です」
「ならいいわ。それで? なんで嫉妬じゃないってわかったのよ?」
「えー、僕がリナさんに――あの、二人だけの時はリナさんと呼んでいいですか?」
 リナはうなずいた。
「僕がリナさんにマントをかけて差し上げた時の、彼の表情です」
 リナはきょとんとした。
「もしかして、あんた、それを見たくてあたしにマント、貸してくれたの?」
「はい」
 なぜかリナは不機嫌に口をとがらせて、わずかにうつむいた。
「……あ、っそ」
 だがすぐに思い直して、
「んで、あんたはここに、何しに来たの?」
 それにゼロスはにっこりと、
「それは、秘密です」
「ううう……」
 リナは頭を抱え込んだ。
「どうしました?」
「なんか、頭痛が……」
 だが、唐突に立ち上がって。
「よし。これで心置きなくプロポーズ白紙撤回宣言できるわ」
「白紙撤回ですか?」
「当然よ。まだこんなにうら若い乙女が、こ〜んな北の果てって館で朽ち果てる運命と知ったら、観客は涙を振り絞っちゃうわよ」
 するとゼロスは、にっこりと微笑んだまま、言った。
「でも、ナバールさんは、あれでもれっきとした王子様ですよ」


「やめて〜〜〜〜〜っっっ!!!」
 星が煌々と輝く冬空に、乙女の悲鳴がこだました。


δδδδδδδδδδδδδδδδδδδ


簡単な謎掛けになっちゃったかな。
自分が深く話を作ってないからいけないんだけど。まあいいや。

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6470冬の館 3メイメイ E-mail URL3/17-13:25
記事番号6468へのコメント

冬の館 3



 よけいな人間がやってきた。
   ――なんで半年も経って様子を見にくるんだ。
 おやじが何かに気付いたのかも知れない。
   ――遅いよ。
 計画に抜かりはないはずだ。
   ――おやじ失格だぞ。
 あの時は手順に不馴れで失敗したが。
   ――実の息子の心がわからないとは。
 もう一度やってやる。
   ――俺のことをわかる人間は一人もいないんだ。
 待っていろ。
   ――待っていろ。
 誰よりも大きな力を手に入れて、城へ帰還してやる。
   ――俺を認めないやつらをひざまずかせてやる。



「あんた、第一王位継承者なんだって?」
 リナ、――いや、ナバールにとってはマルゲリータが、たずねた。
 朝食の後、ナバールは一人書斎に引っ込んで分厚い書物に没頭していた。
 いつものことだったが、ゼロスと話をつけた翌朝、リナはすぐさま人払いされていた書斎へ足を踏み入れた。
「どこで知った?」
 ナバールはリナの姿を認めた時、すぐに読んでいた本を閉じていた。背表紙も向こうを向いていて、それが何の本なのか、古い本ということ以外、リナにはわからなかった。
「ゼロスが教えてくれた」
 ナバールは舌打ちした。
「……よけいなことを」
「ねえ。なんでそういう大事なこと、教えてくれなかったの?」
「それは……」
 ナバールは一瞬視線を巡らせ、
「お前が記憶喪失で……、自分のことを先に思い出してほしかったからだ」
「だったらもっと、ヒントがほしかったわね」
 ナバールは自分のことも話さなかったが、マルゲリータについても何も話してくれなかったのだ。
 ナバールの視線が落ちた。
「……」
「ねえ、第一王位継承者が、なんだって数人の召し使いだけのこんな館に一人でいるの?」
 リナとしては、こんなこと質問してないでさっさと婚約破棄の話をつけたかった。けれどもゼロスから、記憶を取り戻す手伝いをするかわりに聞いてくれと頼まれたのだ。
 彼には彼の仕事があるのだということだった。
 ナバールは顔を上げなかった。沈黙がおりた。
「……答えたくないなら……」
「弟がいるからだ」
「弟?」
「優秀な弟が……。決まりではわたしは第一王位継承者だが、おやじや重臣達は、弟の方が相応しいと思っている。言わなくてもわかるさ」
「……そう…」
 リナは特に言葉はかけなかった。
「それから……、あのさ、落ち込んでる時に悪いんだけど、……えっと、婚約のことだけどさあ。白紙に戻してほしいのよ」
 ナバールがキッと視線を上げた。
「なぜだ? 王位継承権を失った男には用はないか」
「そんなことは関係ないわ。記憶を取り戻すのが先だと思うからよ。本当にあんたとあたしは婚約したのかも知れない。でも、今のあたしには同意できない。……そういうことなの」
「マルゲリータ。君は記憶を失った自分にまだ戸惑っているんだ。そのうちにゆっくり思い出す……」
「でも、あたしはあんたのことを思い出したいって、思わなかった」
「……」
「あんたは何が好き、とか、何に興味がある、とか、何が苦手、とか……。こういうことを言うと傷付くかも知れないけれど、でも、あたし、知らなくてもかまわないと思った」
「……おまえも……?」
「え?」
「……」
 ナバールは机に両肘をつき、両手の中に顔を埋めた。
「……ごめん……ね。……でも、自分に嘘をつくことできないし……」
 リナが言いかけると、
「一人にしてくれないか」
 リナはあやういものを感じたが、言われた通りに部屋を出ていった。
 ナバールはいつまでも顔を埋めていた。


「なるほど……。相応しくあろうと努力しないで、拗ねちゃったというわけですね」
 ゼロスは人の心理を、あっさり簡単にまとめた。
「あんた、そんなミもフタもない言い方を」
「でも、そういうことですし」
「まあ、確かにそうだけど……」
 リナは遠くへまなざしを投げて、
「……努力したって手に入らないものだってあるのよ」
「いえいえ。努力すれば、その人に相応しい分だけ手に入るんです。望んだ通りでないのが、気に入らないと言うだけで」
 リナはうなった。その通りかも知れない。それこそ、思いっきり気に入らないけど。
「……。――んでさ、あたしの方は約束を果たしたんだから、今度はあんたが果たす番よ」
「そうでしたね。記憶を取り戻すお手伝い……。――まあ、いろいろ考えたんですが、もう一度川に落ちるってのはどうでしょう?」
「はあ?」
「おんなじショックを受ければ、案外すんなり思い出すかも知れませんよ」
 ゲシイッッ。
「本気で取り組まんかい! 人が重苦しいやつからあんたの知りたいことを聞き出してきてやったってのにっ」
「……けっこう本気なんですけど」
「なお悪い!」
 パコーン。
「うん、いい音(はあと)」
「あの、リナさん……、とっても痛いんですけど」


 マルゲリータが笑っている。
 昨日やって来たばかりの人間と、楽し気に笑談している。
 そう言えば、あんなふうに自分に微笑みかけてくれたことがあったろうか。
 彼はマルゲリータのほほえみを見たことのない自分に、激しい劣等感を覚えた。
 自分だけを見つめるようにしむけたつもりの小娘すらも、思う通りにならない。
 どこかがさつな女だった。
 魔道士なぞ、みんなそんなものだろう。
 もともと心など求めていなかった。
 (本当に?)
 躊躇は不要だ。
 

 夕食後、リナの部屋にナバールがやってきた。
「マルゲリータ。今朝の話だが……。よく考えたんだが、確かに、記憶の戻らないお前に、記憶を失う前の約束を強制するのは、よくなかったかもしれない」
「じゃあ……」
「いったん白紙に戻そう」
「いったん?」
 きれいさっぱり白紙、ってのがリナの希望だったが。
「ああ」
「わかった、それでいいわ」
 ナバールの気持ちの整理もある。時間のかかる問題だし、ここは譲ろう。
「……これを飲みなさい」
 ナバールはグラスをテーブルに置いた。
「気持ちが落ち着く」
 あたしは落ち着いてるわ、飲んだ方がいいのはあんただと思うけど。
 とは、さすがにリナは言わなかった。
「ありがとう」
 ナバールが出ていった。
 リナはしばらくグラスを見つめた。
「やっぱ、やめとこ」
 オンナのカンが、ひしひしと飲んじゃいけないと告げているのだ。
 リナはグラスの中身を窓から捨てて、ベットに潜り込んだ。
 外は、雪になれない暖かな雨が降り始めていた。


「いけませんねえ、リナさん」
 暗闇に、その笑みが見えそうな機嫌のよいささやき声が響いた。
「仕掛けられた罠には、かからないと。――でなくちゃ、どんな罠なのか、わからないじゃないですか」


δδδδδδδδδδδδδδδδδδδ


はい、次で終わりです。

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6471冬の館 4メイメイ E-mail URL3/17-13:32
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冬の館 4


 地下室に明かりがともっている。
 暗くほのかな明かりが、点々と規則正しく並び、それは大きな円を描いていた。
 その円の中心に、ぐっすりと眠りこんだリナが横たえられた。
 暗い炎を赤く反射する、対角線に置かれた四つの石。
 ナバールは人一人運んできた疲れに大きく息をつき、隅の花台くらいの狭いテーブルに本を広げた。素早くその本の一節を確認する。
 引かれた線を確かめ、置かれた蝋燭や石の位置を点検し、それからおもむろに自分も位置につくと、本に書かれた言葉を紡ぎ出した。
 陰陰とした声が地下室にばらまかれた。
 だが、……何も起こらない。
 ただ蝋燭がジリジリと短くなっていく。
 ナバールは焦り、本のページを急いで繰った。
 アイテム。手順。言葉。
 視線が文字と目の前の現実を往復する。
 どれも書いてある通りにやった。
「なぜだ!」
 ナバールは台に両手をついた。
「………もう一度だ…」
 髪をかきあげる。
 気を取り直してもう一度、最初からくり返そうとページを押さえた時。
 ――カツン。
 乾いた音がこだました。


「魔族を召還なさろうとしてらっしゃるのですか?」
「お前は!」
 黒い神官が、降りてくる階段の途中の踊り場に立っていた。
「無理ですよ。その方法では」
 あまりに驚いたため、ナバールは花台を引き倒した。本が落ちた。革の表紙に金で『黒魔術』と文字が押されている。
 ゼロスは父親の監視役だ。ごまかさなければ。おやじに告げ口されたら終わりだ。
「まさか、魔族を呼び出すようなまねなど…、これは魔術の研究で……」
 ゼロスはゆっくりと階段を降りてきた。一段ごとにつく錫杖の音が、カツン、カツン、と近付いてくる。
「僕はどちらでもかまいませんよ。単なる魔術の研究でも、魔族の力を借りて王位を乗っ取ろうと言うのでも、僕は興味ありませんから」
 ついにゼロスが、間にリナを挟んでナバールの正面に立った。
「それから、あなたが魔族を飢えた野生動物くらいに思ってらっしゃるとしたら、それは間違いです。生け贄に人間の女性を捧げたくらいで、魔族がすんなりあなたのしもべになるなんて、ありえませんよ」
 まあ、もっとも、とゼロスは続けた。
「そのやり方でも、声くらいは届きましたがね」
 そしてしゃがみ込み、
「リナさん」
 軽くリナの肩を揺する。
「起きて下さい。いつまでも冷たい石の床の上に転がっていらしたら、本当に風邪引いちゃいますよ」
 ゼロスはナバールが妙なまねをしない様視線で制するということもせず、まったく無防備に見えた。
 ナバールの手は震えていた。
 目まぐるしく思考が空転する頭で理解できたのは、このまま黙ってなされるがままでは破滅する、ということだけだった。
 とうとうナバールの手が冷たい短剣の柄を探り当てた。
 それを握りしめたとも、足を踏み込んだとも意識する前に、ナバールは短い刃をゼロスに向けて振り下ろした。
 もちろん、手ごたえはなかった。
 ガッ!
 倒れこんだナバールが慌てて起き上がる。床にぶつかった衝撃で短剣を取り落としていた。
 蝋燭の光がかろうじて届くかどうか、という闇との境目に、リナを抱えたゼロスがいた。
 どうやって逃れたのか。
 その時になって、ようやくナバールの心に、ゼロスに対する恐怖が芽生えた。
「ゼロス?」
 ゼロスの腕の中で、目をさましたリナが声を上げた。
 それから自分がどういう状態か気付き、
「うわああ、下ろせー、下ろしてよ、ゼロス!」
 真っ赤になってもがいたが、
「裸足では、床、相当冷たいと思いますよ」
 クシュッッ!
 くしゃみの反動でそのままゼロスにしがみついてしまった。
「ナバールさんは、魔族を召還するのに足りない御自分のキャパシティーを、リナさんで補ってたんですね。……いやあ、それでようやく納得がいきましたよ。魔族は他にもたーくさんいるのに、なぜ呼び出されたのが僕だったか。普通の人はあまり魔族の名前など知らないはずですし」
「あ、あたしがあんたを呼んだっての?」
 ゼロスはにっこりと言った。
「無意識でしょ? うれしいですね」


 いつもの服に戻ったリナは、ゼロスと雪道を歩いていた。
 来た道を振り返っても、もうあの冬の館は見えない。
 昨夜の雨で雪はずいぶん解け、ちょろちょろと水になって流れていた。
「それであんたは、魔族を呼び出せる程の魔力を持った人間が誰なのか、確認に来たというわけ?」
「まあ、そう言うことですね。呼び出せるからどうと言うことはありませんが、一応知っておかないと」
「ふ〜ん」
 道の先に視線を送ってうなずいたリナは、何かを見つけて足を速めた。
 自分のひざに手をついて、見下ろしていると、真後ろに追い付いたゼロスが言った。
「ふきのとうですね」
「春が来るんだわ」
 リナは微笑んで、その可憐で逞しい花をいつまでも見つめた。
「……ところで」
 ゼロスの口調がかわった。
「ずっとお聞きしたかったのですが、リナさん、いつごろ記憶を取り戻してらっしゃいました?」
 見下ろすリナの背中がこわばった。
「……え゛?」
 ゆっくりとリナが起き上がる。
「……いつごろって、だから、あの時、あいつが召還に失敗して……、そいでもって、あんたの、……その、腕の中で、目をさました時に……」
「こちらをちゃんと見て、おしゃっていただけますか?」
 リナはずっとゼロスに背中を向けていた。
「だ、だから……」
 おずおずとリナが振り返る。
 ちらりと見やると、ゼロスがニコニコっと実に楽しそうに微笑んでいるのだ。
「いやあ、僕はてっきり、最初にナバールさんが召還に失敗した時には、すでに……」
「だあああっ! さっきよさっき。さっきあいつが失敗した時だってば!」
「あれ、そうだったんですか。と言うことは、リナさん、記憶喪失になっても僕のことは覚えていて下さったわけですね」
「……グッ……」
「でしょう?」
 リナはぎゅうううっと言葉につまり、
「……、……だったら何よ……」
 開き直ってゼロスを上目遣いに睨み付けた。
「リナさんお寒くありませんか?」
 突然ゼロスが話題をかえた。
「……ちょっと、寒い、かな」
 本当は熱かったが。――何となくそう答えてしまった。
「じゃあ」
 ゼロスがリナの肩を引き寄せ、
「行きましょうか?」
 リナの歩幅にあわせて歩き始めた。
「あんたとくっついてたって、ちっともあったかくないわよ」
 リナはぶつぶつとつぶやいたが、黒いマントごと肩にまわされたゼロスの手は、けっこう居心地がいいかもしれない、と思ったりしたのだった。


【おわり】

もっと、ちゃんちゃんバラバラやるつもりだったけど、無理ね。書けないわ。
それから、もうちょっと個個人の心理とかを書き込んでもよかったけど、そうすっと長くなるし、自分が辛いし、パパパパッと切り上げちゃった。……から、……分かりにくかったかしら。
さて、リナちゃんはいったいいつから記憶を取り戻していたんでしょうね。……ふふふ。
最後まで読んで下さって、ありがとうございました。

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6473Re:冬の館 43/17-18:12
記事番号6471へのコメント

うわーい!ゼロリナ、ゼロリナ(はあと)
ううーん!最後の方ちょっちラブラブですね!
リナちゃん記憶喪失!ああっ!
なんて燃える(?)シュチュエーション!
パソコンの前で、ひとりでころがってしまった。(変なやつかな?)
やっぱりリナちゃんは、無意識でもゼロス様のことを思っているのね!
はうううう〜〜〜。
ああ、すばらしい!

以上、彩の短くてわけ分からん感想でした。

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6476感想、ありがとうございます。メイメイ E-mail URL3/18-13:20
記事番号6473へのコメント

>うわーい!ゼロリナ、ゼロリナ(はあと)

うわーい! 感想、感想(はあと)
本当にありがとうございます。
わたし、インターネット始めるまでは、ゼロリナなんて知らなかったんですの。
でも、知ってしまったら、もうそれなしでは……。(笑)

>ううーん!最後の方ちょっちラブラブですね!

入れなきゃね。やっぱり。

>リナちゃん記憶喪失!ああっ!
>なんて燃える(?)シュチュエーション!

も、燃える? わたしはなんて御都合主義なんだろうと、自分で情けなかったんですが……。
でなきゃ、リナちゃん、こんな台詞やあんな台詞を吐いてくれないだろう、と……。
でもあんまりかわらなかった気もするし……。
燃えていただけて、嬉しいですわ。


>パソコンの前で、ひとりでころがってしまった。(変なやつかな?)

いえ、わたしもここのページで、よくころがってますわ。それはもう、盛大に。
わたしのものでもころがっていただけて、光栄です。

>やっぱりリナちゃんは、無意識でもゼロス様のことを思っているのね!

そうそう。

>はうううう〜〜〜。
>ああ、すばらしい!
>
>以上、彩の短くてわけ分からん感想でした。

感想、本当にどうもありがとうございました。
ああ、図に乗っちゃいそうですう。

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6478乙女の純情メイメイ E-mail URL3/19-15:57
記事番号6468へのコメント

また来てしまいました。
魔族って、どういう思考回路してんのかな〜、とか、ちょっと考えたもので。


『乙女の純情』


 あの日だった。
 あの日と言ったらあの日だ。女性ならピンとくるでしょ。
 だから、リナには、悔しいかな手も足もでなかったのだ。

 一人で出歩いたのがいけなかった。
 だからって保護者と一緒に歩いてても、結果は同じだったろうけど。


「あてっ」
 街の広場を歩いていて、突然リナは何かにぶつかった。
「誰よっ、人にぶつかって……、あれ?」
 そこはけっこう大きな街で、その中央にある広場も広々と大きく、そしてたくさんの人がそれぞれの目的地目指しててんでに歩いていた。――さっきまでは。
 リナは広場を素早く見回した。
 誰もいない。
 こつ然と人の姿が絶え、噴水が水を吹き上げるのをやめ、飛んでいた鳩もいなくなっている。
 見上げた遥かな空は、春の爽やかな青空ではなく、鈍いような暗い青。
 リナは大きく息を吐き、腰に手をあてて言い放った。
「いったい、あたしになんの用よ!」
「なかなか勘がいいな」
「まあね、おかげさまで。慣れちゃったってとこ?」
 油断なく辺りの気配に目を配る。
 と、背後ですううっと黒いものがわだかまった。
 人の姿をしている。ってことは、けっこう高位魔族だったりするらしい。
 ――ヤバい。
 これは本気でヤバいと思った。
 よりによってこんな日に。あとちょっとで終わりなのに。もうちょい後にしてくれれば……。
 男どもにはわからないかもしれないが、あの日、というのは、ある瞬間突然始まって、ある瞬間ぴたりと終わるというわけじゃない。
 つまり、100あった力がその瞬間に0になり、0だったものがとたんに100に戻る、というシロモノではないのだ。
 魔術、使えない訳じゃない。だたパワーがね。増幅の呪文をつければなんとかなるかもしれないけど、一瞬の勝負だったりすると、そんな手間ひまかけてらんないのよ。
 リナはなんとか退路を見つけることを考え、思考を巡らしたが、
「そっちばかり気にしてちゃ、命取りだよ」
 いつの間にか、右手に新手がにやにやと立ちはだかっている。
「そうそう。油断しちゃいけないよ」
 今度は左手にも。
 3匹もの魔族を、今の状態で相手にできるとは、さすがのリナも思わなかった。
 だからって、最後の瞬間まで諦めるつもりには、毛頭なれなかったけど。
 しかし現実問題、これはキビシい。
 余裕で立つ三匹の魔族の圧倒的なプレッシャーにジリジリと後退していると、
「ありゃりゃ、間に合いませんでしたか」
 のほほ〜んとした声がした。


「ゼロス!」
 いきなりゼロスが、リナと魔族達の間に割り込むように姿をあらわした。
「間に合わなかったって、なによ!? だいたいこいつら、わたしに何の用なの!?」
 急いでゼロスの背中に喚くように問いただして、すぐさまリナはそれどころでないらしいことを悟った。
 ゼロス、けっこうまじににらみ合ってるのだ。三匹の魔族と。
「だ、大丈夫なの?」
「いや〜、無理だと思います」
「無理って、……、たった三匹の魔族じゃない」
 ゼロスはハッキリ言って、かなり強い。
「それが、……このお三方だけじゃないんですよ」
「なんだか知らないけど、あんた、きっちり責任とりなさいよね!」
「せ、責任ですか……」
「そうよ!」
「もともとリナさんのせいなんですがね」
「あたし?」
「そうなのよ」
 その声は、全く別のところから聞こえた。
 たった一声で十分にぞくっとするほど美しい、女性の声だった。
「あなたね、リナちゃんって」
 ふわりと空間が揺れ、声から想像する姿を裏切らない、絶世の美人が姿をあらわした。ゼロスの正面に。
 すらりと立つその姿は、嫌味な程胸があって、補正下着ですかってほど腰がくびれてて、それなのに、上品で優雅だった。
 そして、リナちゃんと呼び掛けながら、彼女のおそろしいほどまばゆいまなざしは、ゼロスにだけ注がれていた。
「初めまして〜、て仲良く挨拶、って感じでもなさそうね」
 とリナ。
「どうするぅ? ゼロス?」
 リナの台詞は無視された。
「どうする、と言われましても……」
「そうなの。あなたに選択の余地はないの」
「ちょっと待て!」
 リナはぐいっとゼロスの肩を引いた。
「ちゃんと説明してよね。わたしだけ話が見えないじゃないっ!」
 肩を引かれても、ゼロスはリナを振り返らず、美女から視線をはずさなかった。
「いやあ、……この前リナさんに引き止められた時、実は獣王様からもお呼びがかかってましてね」
 リナはふと記憶を探った。
 そう言えば、くだらないことでゼロスを引き止めた覚えがある。あまりにくだらなくて、どういう理由で引き止めたんだか、思い出せなかったが。
「ちょっと、……遅れちゃったんですよ。それで……」
 でもそれって、かなり前の話だぞ。
「叱られちゃったっての?」
 何を今さら。
「はあ、……リナさんを消しちゃおうという話になって……」
「そ、そんな理由で人の生死を簡単にきめないでよね!」
 魔族にとっては十分な理由かもしれないが。
「ゼロス。反対の理由は?」
 獣王が優雅に首をかしげて問う。
「利用価値です」
 ゼロスはあっさりそう言った。
 ……利用価値っ!
 びっくりした。
 いっつも自分を利用するゼロスが、そう考えてるってことはわかってたけど、ハッキリとそれを言われると……。
 自分でもびっくりするくらい、……びっくりしたのだ。
 ショックを受けている自分に。
 獣王はわずかにうなずいた。
「そうなの?」
 そして目を細める。
 その瞬間。
「……っっ」
 声を上げる間もなかった。
 気がつけばリナはぐっと腕をひねりあげられ、魔族の鋭いカギ爪に細いのどをさらしていた。
 美女の出現に気を取られてすっかり忘れ果てていた三匹の魔族にリナは捕らえられ、あとは獣王がその気になれば、命は終わりという状況だった。
 しまったあ。
 ゼロスの『利用価値』って台詞に動揺して、そこをつかれた。
「ゼ、ゼロス……?」
 さすがに声が震えていた。
「あっけないわねぇ。あまり利用価値は感じないけれど」
「ゼロス!」
 リナは声を震わせない様、精一杯お腹に力を入れて呼び掛けた。
「あんたのへまのせいなんだからね。後で覚えてなさいよ!」
 もう憎まれ口をたたくしかなかった。
「あらまあ、元気なこと」
 獣王はころころと笑い、
「さあ、ゼロス。どっちをとる? わたしのお仕置きと、リナちゃんのお仕置き」
 ゼロスはほとんど迷わなかった。
 獣王のそばに歩み寄ると、すっとその場に膝をつく。
 獣王はにっこりと微笑むと、立ちなさい、と手ぶりで命じた。
「わたしはね、あなたが人間をどう扱おうと、ちっともかまわないのよ。わたしをないがしろにしない限りはね」
「リナさんには何もしてませんよ」
 何もしてないって、何よ。何もしてないって。
 十分何かしてるじゃないのよ、この状況はっっ!
「そう?」
 獣王がゼロスの首に両腕をからめた。リナからはゼロスの表情はまったく見えなかった。後ろ姿だったから。そのかわり、獣王の表情は嫌って程よく見えた。
 彼女は、その時初めてリナを見たのだ。
 絶対の優位者のほほえみを浮かべて。
 彼女の手が、ゼロスの頭をなぜる。
 ゼロスが獣王の腰を引き寄せるようにして……。
 そして――
 思わずリナは顔を背けた。
 そして石畳を睨み付けた。睨み付けてないと、にじんでくるのだ。
 こんなところでひざまずかされている自分をみじめだとは思わなかった。ただ何かを失った様な、えぐられるような痛みを感じていた。
「今日のところは許してあげるわ。お嬢ちゃんを送ってあげなさい」
 その台詞と同時に、軽いめまいがした。
 そして。
 リナは、広場の喧噪の中にいた。
 子供が買ってもらったお菓子を手に駆けていく。
 パン屋のウインドウには、焼き立てのパンの載ったトレイが並べられていく。
 誰かが鳩にえさを投げ、わっと羽ばたきが起こった。
「リナさん、大丈夫ですか?」
 ゼロスがまだ膝をついているリナに手を差し出した。
 リナは堅く唇を結んでゼロスを見上げた。そして差し出された手を。
「平気よ」
 声が堅い。
 リナはゼロスの手をとらずに立ち上がった。
「もしかして、……怒って…らっしゃるんですか?」
 ゼロスは本当に、まさか、と思っているようだった。
「別に」
 そっぽを向く。
「怒ってますね……」
「怒ってないってばっ」
 怒ってなどいない。今見た出来事には、まったく腹をたてていない。
「リナさん?」
「あんたの上司って、いつもああなの?」
 物凄い美女だなんて、あれが魔族のとる姿だと思うと、腹立たしいくらいだ。
「まあ、そうです」
 ゼロスって、いつもあんな美女と一緒にいるんだ。
「あんたが自分よりちょっとばかりあたしを優先したことが、そんなに気に入らない? 心の狭い上司よね」
 するとゼロスは一瞬きょとんとし、それから苦笑した。
「気がつかなかったんですね?」
 はあ?
 何にだろう。
 気がつかなかった。リナは気がつかなかった自分に、ひどく動揺した。
 自分だけわからなかった。
 さっきのやり取りに何が含まれていたのだろう。
 そして、リナはさっきから自分を苦しめていることを口にした。
「……どうせ…あたしは…お子さまよっ」
「いえ、そうでは……、これが魔族のやり方ですから」
「あっそ」
「で、僕はリナさんのお仕置きを取ったんですけど」
「へ?」
 ぱちくり。
「ですから、後で覚えてなさい、と……。おっしゃいましたよね?」
「ゆったけど……、あんた、……それを、取った?」
「そうですよ」
 あっけらかんと言われて、リナは呆然となり、それからゆっくりとゆっくりと顔を赤く染めた。
 それって、どういう意味?
 考えて、考えるまでもないような気がして。
 いや、でもさっきのやり取りは……。
 あれ?
 混乱。
 それより、魔族のやり方って……、
「魔族って、いったい、どいういう考え方をしてんの?」
 わからん。
 ぷいっと顔を背け、それだけ言うと、さっさと歩き出す。
「人間とは違うでしょうね」
 ゼロスがにっこりと追ってきた。リナはちらっと振り返り、しばし足をとめた。
 ゼロスが追い付く。リナは隣に並んだゼロスの腕に、自分の腕をからめた。
「訳してくれなきゃわからないわ」
「つまり、成功報酬、ですよ」
「成功報酬?」
「それはもう、大変だったんですよぉ、今回のお仕事は。だから、ごほうび、と」
「あたしは景品かっ!」
「まあまあ」
 リナはするりとゼロスの腕から抜け出した。そしてゼロスに指を突き付けて宣言した。
「お仕置きよ。あんたは自分のお家に帰る! そしてあたしが呼ぶまで、二度と顔を出さない!」
「ええー?」
 ゼロスが大きな抗議の声をあげた。
 でも。
 乙女の純情をもてあそんだ魔族には、このくらいのお仕置き、軽くって涙が出るってものよね。


【おわり】



あああ〜〜〜。
もうわたしったら、なんだってこんなにリナちゃんをいぢめてんだろ〜〜〜。
気分はすっかり獣王様。
ああ、楽しかった。(あぶね〜) 
みなさま、怒らないでね。(逃げ腰)
ではでは、最後まで読んで下さって、ありがとうございましたぁ〜〜〜。
そいでもって、……感想とか、いただけると、とっても嬉しいです。

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6479Re:乙女の純情3/19-18:47
記事番号6478へのコメント

こんにちわ!
彩です!うわ〜こんどは『あの日』ねたですか?
男にわからぬこの苦しみ。はうはう。
うに〜ほんとにリナちゃんいじめられてますね〜。
ちょっとゼロゼラぎみかな?
リナちゃんけっこういいめみてるし、たまにはいいですよね。
と、思ったんですけどやっぱり最後はリナちゃんのほうが、優勢ですかー?
最後ちょっと苦笑がもれたです〜。

以上、短くてすいませんです〜。

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6483月にかわって、ね ('-^)メイメイ E-mail URL3/20-15:10
記事番号6479へのコメント

>こんにちわ!

こんにちわ。彩さん。
感想、ありがとうございます。

>彩です!うわ〜こんどは『あの日』ねたですか?
>男にわからぬこの苦しみ。はうはう。

いえ……、『あの日』でなきゃ、リナちゃんがあっさり捕まるような状況、創りだせなかったんです。
でもほんと、苦しい時はとことん苦しいんですよね、あの日って。
なのに水泳の授業で百メーター泳がないと通知表が『1』になると脅されたこと、ありました。体冷えるとよけい辛いのに……。

>うに〜ほんとにリナちゃんいじめられてますね〜。
>ちょっとゼロゼラぎみかな?
>リナちゃんけっこういいめみてるし、たまにはいいですよね。

た、たまには……。
やみつきになったらどうしよう……。

>と、思ったんですけどやっぱり最後はリナちゃんのほうが、優勢ですかー?

リナちゃんが最後までなされるがままってことは、やっぱりないでしょう。

>最後ちょっと苦笑がもれたです〜。
>
>以上、短くてすいませんです〜。

いえ、そんな。
感想ありがとうございます。
とってもとっても、うれしかったです。

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6480はじめまして☆湊祈 渚 3/19-21:35
記事番号6478へのコメント

はじめまして!湊祈 渚と申します。
はじめてコメント書くのでちょっと緊張してまふ(笑)
とっても楽しく読ませていただきました。やっぱりゼロリナは
いいですね♪ゼラス様いい感じです・・。
乙女の純情はリナの視点からでしたけど、ゼロス君の視点から
書いてもおもしろいかもしれませんね・・(何いってるかな私は)
また次のメイメイさんの小説楽しみにしてます!!
がんばってください☆

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6484こちらこそ、はじめまして☆メイメイ E-mail URL3/20-15:11
記事番号6480へのコメント

>はじめまして!湊祈 渚と申します。

はじめまして!
で、あの、なんとお呼びすればよいのかしら……?

>はじめてコメント書くのでちょっと緊張してまふ(笑)

わたしもそうでしたが、一度この壁をクリヤーすれば、あとはもう……、ずるずるっと……(笑)

>とっても楽しく読ませていただきました。やっぱりゼロリナは
>いいですね♪ゼラス様いい感じです・・。

とことんわたしの好みを入れまくりましたから、ゼラス様には。
自分が一番楽しかったかもしれないってくらい。

>乙女の純情はリナの視点からでしたけど、ゼロス君の視点から
>書いてもおもしろいかもしれませんね・・(何いってるかな私は)

……ギクッッ
ゼロス君視点……ですか……。
そ、それは、……むずかしい、かも。
わたし、女の子が好きなんです。女の子を書くのが。
だから男の子は……ましてゼロス君は……。
ゼロス君って、どういう思考回路してんだろう……。う〜ん。

>また次のメイメイさんの小説楽しみにしてます!!
>がんばってください☆

く〜〜!
楽しみにされてしまったっっ。
あの、ゼラス様で暴走してもいいですか?
今、気分はゼラス様なんですよ、わたし。

でわでわ。
感想、ありがとうございましたっ!

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6494ごめんなさい〜☆湊祈 渚 3/20-20:55
記事番号6484へのコメント

ごめんなさい、メイメイさん!
確かに私の名前読めませんよね・・・。
私の名前は‘みなき なぎさ’と読みます。
湊→みなとを変換すれば出てくると思います。当て字がいけなかった(^_^;)
もっと読みやすい名前にしとけばよかったかも・・・。
あと、私のこと好きなように読んでくださってかまいません。
呼び捨てでもいいですから!
・・・それとゼラス様、ぜひぜひ暴走させてください(はぁと)
楽しみにしてますから(^-^)

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6509いえ、うらやましいと・・・メイメイ E-mail URL3/22-14:51
記事番号6494へのコメント

みなき なぎさ様。

わたしのほうこそ、言葉が足りませんでした。
お名前、漢字一つ一つは読めても、重なるとどうお読みすればいいのかしらと思ったのです。
素敵ですよね。湊と渚。海のそばにお住まいですの?
わたしは名前を考えるのが大変苦手で、自分のハンドルネームすらこの体たらく・・・。ああ、湊祈 渚さんのセンスがうらやましい。

『冬の館』では、マルゲリータはピザを食べたせいと書きましたが、ナバールさんの方は、たまたま目についた『ぞうのババール』だったりします。

ではでは。

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6508ゼラスさまらぶらぶーっひなた E-mail 3/22-13:40
記事番号6478へのコメント

はじめまして♪ひなたと申しますっ読ませていただきました(はあと)

ゼラス様がすっっごく良い味だしてるとおもいました♪
私、ゼラス様も大好きなんですよね〜っえへ(照れ)
とくにゼロスといちゃいちゃしてるのとか好きですーっって、もちろんぜろりな大好きですけどね(笑)
と言うことで・・・ちょぉっとツボでした(笑)きゅーん←?
また読ませて下さいね♪でわでわっ

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6510実はね・・・メイメイ E-mail URL3/22-15:11
記事番号6508へのコメント

ひなたさま

わ〜〜いい!! 
ファンなんです。サイン下さいっ

>はじめまして♪ひなたと申しますっ読ませていただきました(はあと)

えへ。実は、はじめてじゃないんですの。
しばらく前に、『地球の王様』の再掲示をお願いした「かっくいいゼロス君を見たい一心の乙女」って、わたしですのよ。ほら、「ハナゲ」の。(笑)
ごめんなさいね。
いろいろと事情があって、ハンドルネームがかわってしまいましたの。

>ゼラス様がすっっごく良い味だしてるとおもいました♪
>私、ゼラス様も大好きなんですよね〜っえへ(照れ)

わたしもなの。自分がやりたい役は、リナちゃんじゃなくて、ゼラス様だったりするのです。そしてゼロス君を顎で使ってやるんだっっっ!

>とくにゼロスといちゃいちゃしてるのとか好きですーっって、もちろんぜろりな大好きですけどね(笑)
>と言うことで・・・ちょぉっとツボでした(笑)きゅーん←?

まあ、そう言っていただけて、たいへん光栄ですわ。

>また読ませて下さいね♪でわでわっ

わたくしも、ひなたさまの『地球の王様・・・』楽しみにしてます。
ではでは。

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6512合い言葉は「ハナゲ」。ひなた E-mail 3/22-19:32
記事番号6510へのコメント

メイメイさまへ♪

>わ〜〜いい!! 
>ファンなんです。サイン下さいっ
えうーっ、そう言ってくださるとすっごく幸せーっっ
(書くの遅すぎだけど)←ダメ人間。
私なんかのサインをもらうと呪われちゃいます(笑)ので、危ないです、気をつけてくださいね♪


>えへ。実は、はじめてじゃないんですの。
>しばらく前に、『地球の王様』の再掲示をお願いした「かっくいいゼロス君を見たい一心の乙女」って、わたしですのよ。ほら、「ハナゲ」の。(笑)
はにゅーっっ。そうでしたんですか・・・あのメール、とぉぉっても面白かったです(笑)
専門用語がステキな感じでした(笑)どうもですーっっ。

>ごめんなさいね。
>いろいろと事情があって、ハンドルネームがかわってしまいましたの。
はーいっ、それではこれからもよろしくですね♪
仲良くしてやってくださいな☆

>わたくしも、ひなたさまの『地球の王様・・・』楽しみにしてます。
>ではでは。
楽しみにされるようなもんでもないような気がしますが・・・(笑)
でもうれしいです♪
脳みそとろかせながら書いてますっ。もう少しおまちくださいまし。←待たせすぎ。

でわでわっっ♪失礼しましたーっっ。

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6518のろいの呪い?メイメイ E-mail URL3/24-13:06
記事番号6512へのコメント


ひなたさま

>>わ〜〜いい!! 
>>ファンなんです。サイン下さいっ
>えうーっ、そう言ってくださるとすっごく幸せーっっ
>(書くの遅すぎだけど)←ダメ人間。
>私なんかのサインをもらうと呪われちゃいます(笑)ので、危ないです、気をつけてくださいね♪

それって、のろいの呪い? って、いえ、冗談です。(笑)

>はーいっ、それではこれからもよろしくですね♪
>仲良くしてやってくださいな☆

こちらこそ、仲良くして下さいね。

>>わたくしも、ひなたさまの『地球の王様・・・』楽しみにしてます。
>>ではでは。
>楽しみにされるようなもんでもないような気がしますが・・・(笑)
>でもうれしいです♪
>脳みそとろかせながら書いてますっ。もう少しおまちくださいまし。←待たせすぎ。

わたしなんて、脳みそ沸騰ぎみ。だからほら、また調子に乗って投稿してんの。
いつまでこの沸騰が続くのか? 謎です。

ではでは

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6519Someday My Priest Will Comeメイメイ E-mail URL3/24-13:08
記事番号6468へのコメント

調子に乗って、また来てしまいました〜。
タイトルよ〜く読んでね。(念のため)


『Someday My Priest Will Come』


「はー。平和よねー」
 リナはほけーっと窓の桟に預けた腕に顎を載せ、無意味に流れていく雲を目で追った。
 その表情はとても平和を満喫してるという風情ではない。
 なぜって……、それは――。


「あんたね、この程度の代物が30もするなんて、そりゃ詐欺よ!」
 リナはとある店先でとある商品を物色し、当然値切り交渉を始めたのだが、今日はなぜだかとてつもなく気合いが入っていた。
「詐欺って、あんた、よく見てんの? 80だよ、80! 30じゃ原価割れだよ」
 店の人も、値引きの最低ラインを大きく下回る要求をされては、反撃に出るでしょう。
「だめね。25。それ以上は一銭たりとも出せないわ」
「70! もう捨て値だよ!」
「わかった。じゃあいらない」
 リナはあっさり商品を返すと、すたすたと店を出た。
「すんだのかー?」
 ガウリイがのんびりと聞いてきた。
「やめた。たいした商品でもないのに、むっちゃくちゃ高いんだもん」
 道行く人が振り返るくらい大声で答えるリナ。
 やっぱりね、という顔をしたのはアメリアだった。
 何を思ったのか、突然リナがダッシュして突っ込んだその店は、『手芸屋さん』。
 どう考えても、リナが入るような店じゃない。
 さっきまでリナの対応にあたっていた店員が、店先に塩を撒いた。
 それはもう、リナが入ってからというもの、客が即座に退散し誰も入ってこなくなっちゃったのだから、これは営業妨害以外の何ものでもないだろう。しかも店の前でのさっきの暴言。
 アメリアは店員を目の隅に捕らえたまま、ふと呟いた。
「またおかっぱ……」

 これで何人目だろう。
 昨夜の盗賊いぢめでは、下っ端の男がリナの集中砲火を浴びてたし、泊まった宿屋では食事を運んでくれた男があることないこといちゃもんつけられてたし、それから……。
 とにかく、最近リナにひどい目にあわされる男達の共通項目は、黒髪とおかっぱ。
 リナは交渉不成立に御機嫌ななめでどすどすと歩いていく。
「なあ」
 ガウリイがアメリアに耳打ちした。
「リナのやつ、あの日か?」
 ゲシッッ。
「ちがうっっ!」
 実に素早い反応だった。
「確かに、常軌を逸しているように思うが……」
 ゼルガィスも腕を組んで考え込む。
 三人は100メートルは離れてリナの後をついていく。
 と、先の方で角をまがったリナが、突然肩を震わせはじめた。
「おい、やばいんじゃないか?」
「ああ」
 あの様子は、なにやら呪文を唱えている格好だ。
「いかん! リナの暴走を食い止めろ!」
「リナさーん! ここは人通りが多いんですよーっ!」
 三人は制止の言葉を口々に叫び、リナに駆け寄った。
「なにすんのよ、あんた達!」
 アメリアはリナの口を塞ぎ、ガウリイとゼルガディスは左右からリナを押さえる。
 じたばたじたばた。
「おちつけ、リナ」
「はなせー!」
「いったいどうしたっていうんですかっ?」
 アメリアは取りあえずリナが呪文の詠唱は止めたんで、手を放した。
 リナはぷいっと視線を流した。
「別に」
 自分でも理不尽なことをしている自覚があるらしい。
 やれやれ、とアメリアは顔を上げて、おや? っとなった。
 さっきリナが呪文をぶっぱなそうとした方向に、なにやら神官の集団がいるのだ。
 別に不思議なことではなかった。そこは神殿前の大通りだったのだから。
「……」
 リナがようやく暴れるのを止めたんで、男達も手を放す。
 その時だ。
 リナの目が何かを捕らえ、キラリと光った。
 そして、人生最速のダッシュで駆けていった。
 まただ、と追おうとした三人は、とたんに足をとめた。

 ボクウッッッッ!
 リナの拳が見事に腹に食い込んだ。
「あ……うう。リナさん、痛い御挨拶ですよ、それは」
 ゼロスがお腹を押さえてうずくまる。
「あんたが来るとひどい目に遭うってわかってて、『まあ、なんてお久しぶりなの、ゼロスさん、御機嫌いかが?』(← お嬢様っぽく)なんて悠長なこと、言えるかっ」
「ひどい目って、……そ、……そうでしたっけ?」
「そうよっ!」
 本当に痛がってるのかこの男? 悪ふざけにつきあってるつもりじゃないだろうな。
「ところでリナさん、目、潤んでますよ」
「hっ!」
 実はリナの目は潤んでいた。
「こ、これは、こ、こ、……あんたを殴った拳が痛くてっ」
「治して差し上げましょう」
 しゃがんだまま、リナの手をとる。
 ば、ばか者!
 それじゃ何かみたいじゃないかっっ!
「あんたに治せるわけないでしょうがっ」
 リナはゼロスの手を振払った。
「ひどいなー、リナさん。そのくらいの事できますよ。何かを白状してもらおうって時、飴と鞭の併用がコツなんですから」
「悪魔」
「その通りです」
 とにっこり。
「さて、御挨拶もすんだところで、今日はリナさんにとっておきのい〜い話を持ってきたんですよ」
 ゼロスは何やら懐から紙を取り出した。
「何がいい話よ。あんたが持ってくる話でろくな話、ないじゃない」
「まあまあ、これを見て下さいって」
 ゼロスは地面にその紙をスルスルっと広げた。
 誰が見るもんか、とそっぽを向いたものの、やはり気になる。
「しょーがないわねー」
 リナは話だけは聞いてやるって露骨な態度でその紙を覗き込んだ。
「ここです」
 ゼロスが紙の一点を示した。そのせいで、ゼロスの手が押さえていた紙の端が巻あがった。
 リナは仕方ないってそぶりで自分もしゃがみ、巻きあがった紙を広げ、その端を押さえた。

 人々が遠巻きに二人の様子を見やりつつ、足早に過ぎていく。
 そりゃそうだろう。
 いきなり往来のまん中で膝突き合わせ、紙を両方から押さえつつ何やら相談を始めた一組の男女。
 一人は神官、一人は魔道士。
 怪しすぎる。
「わたし、なんだか嫌な予感がするんですけど……」
 アメリアが呟いた。
「大丈夫だ。そう感じているのはお前だけじゃない」
 とゼルガディスが請け合った。

「いかがです?」
「う〜ん」
 腕を組んで考え込むリナ。
「確かに、興味ひかれるわねー」
「でしょー?」
 リナはなおも考え、ついっと紙を取り上げた。
「考えとくわ。ってことで、これ、あずかっとく」
「差し上げますよ」
「あっそ」
「ここまでは、だいたい人間の足で五日ってとこでしょうかね」
「まだ行くと決めたわけじゃないわよ。どーせあんた、よからぬことを企んでるんでしょ?」
「僕の事、よくお分かりですね」
 にっこり。
「とーぜんよ。何度煮え湯を飲まされたことか。これで学習しなきゃ間抜けってもんよ」
 ゼロスは立ち上がった。
「では。僕は一足先に行って、リナさんの御到着をお待ちしてますから」
 リナも立ち上がった。
「行くと決めたわけじゃないってゆってるでしょ」
「そうですか? でも、お待ちしてますから」
 ゼロスはそういうと、さすがに人目が多いと思ったのか、手を振って細い路地へ入っていった。たぶん、そこで消えたんだろう。
 見送ったリナは、もう一度紙を詳細に眺めた。
「あいつさえなんとか出し抜ければ、悪い話じゃないのよねー」

「なんか、リナさん、自分からゼロスさんに利用されてるって気がします」
 アメリアが、ぶつぶつと紙に話しかけるリナを眺めつつ、呟いた。
「大丈夫だ。そう思っているのはお前だけじゃない」
 もう一度、ゼルガディスが請け合った。
 

 それからリナの黒髪おかっぱ男いぢめが、ぴたりとやんだことを付け加えておく。


【おわり】


可愛いリナちゃんにするつもりだったのに、暴れる暴れる。
もう手の施しようがなくって……。
ではでは。最後まで読んで下さって、どうもありがとうございました。
いただいた感想って、また次を書きたくなる麻薬のようなものだと、前回しみじみ思いましたわ。 

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6522うわーい☆湊祈 渚 3/24-23:03
記事番号6519へのコメント

こんばんわ〜☆ 湊祈 渚です。
また メイメイさんのゼロリナ小説が読める!というわけで喜びの舞を
犬といっしょに踊ってしまいました〜(笑)
にやつきながら読んでたらしく両親に‘何がそんなに楽しいのよ’
とあきれられました。こんなに楽しいのにね!
タイトルって‘いつの日か私の神官がくるでしょう’ってことですよね(?_?)
ゼロスがリナの所有物(?)っていう感じでいいです☆

えっと 私は海の近くには住んでいません。でも住みたいなとは思ってます。
名前はほめられたのはじめてなんでうれしいです☆

また次の小説楽しみにしています。それと・・HPもってらしゃるんですよね?
今度遊びにいってもいいですか?って許可もらう前に行っちゃうかも
しれませんが(笑)
それではまた・・・。      





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6526こちらのアドレスでいらしてね☆メイメイ E-mail URL3/25-13:50
記事番号6522へのコメント

湊祈 渚さんへ

早いですね。感想つけて下さるの。
びっくり。

>また メイメイさんのゼロリナ小説が読める!というわけで喜びの舞を
>犬といっしょに踊ってしまいました〜(笑)

まあ、踊っていただけて嬉しいですわ。わたしはいつも、猫と踊ってます。

>にやつきながら読んでたらしく両親に‘何がそんなに楽しいのよ’
>とあきれられました。こんなに楽しいのにね!

よかったわ、楽しんでいただけて。

>タイトルって‘いつの日か私の神官がくるでしょう’ってことですよね(?_?)

ディズニーの『白雪姫』の主題歌、♪ Someday My Prince Will Come(邦題は『いつか王子様が』) ♪ です。

>ゼロスがリナの所有物(?)っていう感じでいいです☆

しょ、所有物……。

>また次の小説楽しみにしています。それと・・HPもってらしゃるんですよね?
>今度遊びにいってもいいですか?って許可もらう前に行っちゃうかも
>しれませんが(笑)

どうぞ、いらっしゃいませ〜。
って、実は、渚さんのコメント見て慌ててしまった。
ここからいらしても、きっと期待外れな代物だからです。
準備中だったんですのよ。大急ぎで仕上げましたので、今回このレスにつけましたアドレスで、いらして下さいね。
前回までのだと、本当に別物が待ってますから。

ではでは。

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6523また、きちゃった・・E-mail 3/24-23:13
記事番号6519へのコメント

またきちゃった・・・
こんにちわメイメイさん!
彩です!
ゼロリナ・ゼロリナ・・
メイメイさんの小説でスレキャラ(ゼロスとリナ以外)がでたの初めてですね!
可愛いリナちゃん・・・。
みんなが一度は書こうと思うんですよに〜。
リナちゃんの涙・・・つぼです〜〜・・・・・・・・
もっと泣いて!(私は変態じゃないですよ!)
はっ!ゼロス様!
リナちゃんになにを!
なにをもってきたんですか?
やっぱり、リナちゃんが興味あるほど怪しい(?)もんですか?
きになったりして∞∞∞∞

メイメイ様が感想かくとまた、書いてくれるそうなので感想また書いちゃったです〜しょうもないもんを・・・(子供っぽいしい、友達によると。)

以上です〜。
それにしても感想っきまくってます。
私は小説かきませんので、感想かきまくろう計画(なんだろう?)を発動させたのです!
はっ!
なに書いてんだ!
彩でした。

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6527いらっしゃいませ〜メイメイ E-mail URL3/25-13:57
記事番号6523へのコメント

彩さんへ

こんにちは。
またまた感想、ありがとうございます。

>ゼロリナ・ゼロリナ・・
>メイメイさんの小説でスレキャラ(ゼロスとリナ以外)がでたの初めてですね!
>可愛いリナちゃん・・・。
>みんなが一度は書こうと思うんですよに〜。
>リナちゃんの涙・・・つぼです〜〜・・・・・・・・

一度は書こうと思うもの、なんですか、リナちゃんの涙って。
本当はもっと可愛くしたかったのに、ちっともならなくて、あれが精一杯でしたわ。

>もっと泣いて!(私は変態じゃないですよ!)

いや、あやしい。(笑)

>はっ!ゼロス様!
>リナちゃんになにを!
>なにをもってきたんですか?
>やっぱり、リナちゃんが興味あるほど怪しい(?)もんですか?
>きになったりして∞∞∞∞

それは追求してはいけません。
わたしが知りたいくらいですから。

>メイメイ様が感想かくとまた、書いてくれるそうなので感想また書いちゃったです〜しょうもないもんを・・・(子供っぽいしい、友達によると。)
>
>以上です〜。

ありがとうございました〜。
最近脳みそ沸騰状態。
感想いただくとよけい沸騰しちゃって……。
やばい……。

ではでは。