◆−初めまして;ぜるあめです。−なゆた(5/11-14:03)No.6774
 ┗贖罪の時T−なゆた(5/12-17:57)No.6777
  ┗感想です−丸丸(5/12-23:28)No.6779
   ┗きゃぁぁぁ!ありがとうございます−なゆた(5/13-13:18)No.6784
    ┗贖罪の時U−なゆた(5/13-13:35)No.6785
     ┗贖罪の時V−なゆた(5/14-13:05)No.6789
      ┗贖罪の時−なゆた(5/14-13:15)No.6790
       ┗Re:贖罪の時−ももへい(5/16-09:55)No.6800
        ┗ももへいさんへ−なゆた(5/17-12:52)No.6801
         ┗贖罪の時5−なゆた(5/17-12:57)No.6802
          ┗贖罪の時6−なゆた(5/17-12:59)No.6803
           ┗贖罪の時7−なゆた(5/17-13:05)No.6804
            ┗Re:贖罪の時7−ももへい(5/17-21:11)No.6806
             ┗贖罪の時8−なゆた(5/24-12:59)NEWNo.6855
              ┗Re:贖罪の時8−ももへい(5/25-01:05)NEWNo.6863
               ┗贖罪の時9−なゆた(5/25-16:49)NEWNo.6868


トップに戻る
6774初めまして;ぜるあめです。なゆた E-mail 5/11-14:03


えーと、初めまして。今まで何回か通っていたんですが、読んでいるうち
に自分でも書いてみたくなりました。
 と、いうわけで、一番すきなぜるあめをやってみようと思います。
 何分へたくそですが、よろしければ読んでください。




「死ぬまでに、孫の花嫁姿が見てみたいのう…」
 その一言がすべての始まりだった。

 セイルーン王国の現国王は、病が重く寝たきりになっている。その状態の
ままで、結構長く持っているのだが、やはり、弱気になってきているらしい。
 或る日、ポツリと呟いた。呟いただけならそこで終わっていたかも知れない
のだが、運悪く(良く?)一人の側近がそれを聞いてしまった。
 かれはそれを、王国の会議において発言した。
 発言をしているうちに熱が入り、拳を振るわせ、つばを飛ばしながらまく
し立てる。
「国王陛下とて人の親。いいえ、人の祖父。孫の幸せな姿を見てみたいと願う
のは自然な事ではないでしょうか。しかしながら、グレイシア様は何処とも
知れぬ空のした。そこで!アメリア様に一刻も早くご婚約をお願いし、仮にで
もよろしいですから、花嫁衣裳をまとっていただけないでしょうか!?」
 最後に、片足をいすの上に置き、片手を腰に、もう片方でびしぃ!とフィリ
オネル王子に指を突きつける。
「し、しかしのぅ。アメリアの気持ちも考えてやらんとのう」
 側近の剣幕にやや逃げ腰になりつつ、フィリオネル王子が反論する。が、あ
まりにも弱すぎた。それも、仕方がない。
 彼は娘二人にはとても甘く、特に結婚問題については本人の希望をなるべく
叶えてやりたいと、重臣達の持ってくる見合い話をことごとく断っていたのだ
。しかし、その結果、姉の方は万年行方不明。妹も行く先はわかっていても半
年ほどは気楽に帰ってこない時がある。
 さすがに、これには重臣達が悩んだ。王家の義務。つまりその子孫を残すこ
とが彼らのひとつの義務なのだが、"これでは永遠に嫁の貰い手がないのでは
ないか?"と、いう不安が頭をもたげてくる。
 それでも、いままではフィリオネル王子と、その弟殿下が何とか宥めすかし
てきたのだが、それも限界に近かった。近年、相次いで王位継承者が亡くなっていたのも悪かった。
「何をおっしゃいますか、殿下!これは国王の望みでもあるのですよ!!この
際アメリア様には、少し我慢していただいて、われらの持ってくる見合い話の
どれかを受けていただきます!!!」
「し、しかし、アメリアの幸せは・・…」
 さらに反論しようとしたフィリオネル王子の手を、両手でぐわしっと掴むと
、興奮で荒くなった鼻息を吹きかけながら、側近が叫ぶ。
「何を心配なさるのですか、殿下?!由緒正しい王家に嫁がれて、不幸になる
はずなどありません!!お任せください!!選りすぐりの物を選んでまいりま
す!!!」
 一気にまくし立てると、両手をぱっと離し、その他の重臣を引き連れて足早
に部屋を出ていった。
 後には、やや呆然としたフィリオネル王子が、娘にどう伝えようかと頭を悩
ませていた。

                             Go To Next

トップに戻る
6777贖罪の時Tなゆた E-mail 5/12-17:57
記事番号6774へのコメント

さてさて、結局アメリアもゼルも出てこないままプロローグが終わってしま
っていましたね。なゆた!これで本当にぜるあめのつもりか!!という、お
声が聞こえてきそうですが、今回はアメリアが登場します。・・・・一応。
 私の本命はゼルなんですが、いったいいつに出てくるんだろう?










 数日後……・
 セイルーンの王宮の奥にある王族の私室の一つ。
 豪華だが、華美過ぎない家具に囲まれて一人の少女が空を見上げていた。
 清楚な白いドレスは、小柄な彼女の可憐さを引き立てている。肩より少し短めの漆黒の髪、活発に動く大きな瞳。もうすぐ17歳の誕生日を迎えるアメリアだ。
 いま、彼女はそのかわいらしい顔を憂鬱げにひそめ、晴れ渡った空を見上げていた。
「ゼルガディスさん、今ごろはどこにいるのかなぁ。もう、元に戻る方法見つけられたのかしら?」
 小さく呟いて、首を振る。彼と別れてもうすぐ一年になる。その間、気がつけば彼のことを考えていた。
「だめよ、アメリア!ゼルガディスさんだってがんばっているんだから!」
 がばっと顔を上げ、両手を握り締めて叫んだ。
 だだだだだっ、と窓に走りより勢い良く開ける。初春の少し冷たい風がアメリアの顔をなでて通りすぎて行く。眼下に広がるセイルーンの町並みを見て、大きく、そしてゆっくりと息を吸う。少し落ち込んでいた気分も一緒に吐き出すように、またゆっくりと息を吐き出す。
 そしておもむろに窓枠に上ると、両手を腰に当て、思いっきり叫んだ。
「そうよ!私の使命は正義を守ること!!今だ魔族の脅威が消えず、リナさんもガウリィさんも、……ゼルガディスさんもいない今、この都の正義を守るのは私しかいないわ!!皆さん!遠くの夜空から見守っていてください。このアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンが命をかけてこの世界を守って見せます!!!」
 …・・改めておくと、彼らの誰もお空の星になどなってはいないが、彼女は気にも止めていない。きっと、そのほうが演出効果があったのだろう。
 アメリアが空に向かって正義の味方の笑い方の練習をしていると、遠慮がちなノックの音が聞こえてきた。
「ほぇ?どなたですか?」
 窓枠から降りて、扉に近づきながらたずねると、これまた遠慮がちなフィリオネル王子の声が聞こえてきた。
「……あー、アメリア?ちょっと話しておきたいことがあるんじゃが…。い、いや、忙しいと言うなら別に良いんじゃが!」
「……??別に忙しくなどありませんよ。どうぞ、入ってください」
 いつも豪胆な父の、気弱な様子に驚きながらアメリアが言った。
 しかし、なかなか入ってくる気配がない。仕方なく扉に近づき自ら扉を開ける。そこには、なんともいえない困った顔をした父が佇んでいた。
「とーさん?何かあったんですか?とりあえず中に入ってください」
「う、うむ…・」
 いかにも気まずそうにフィリオネル王子が部屋に入り、置いてあった椅子にゆっくりと座る。そしてそのまま彫像のように動かなくなった。まるで時間を稼いでいるようだとアメリアは思った。
 いつも即断・即決・即実行のフィリオネル王子らしくない。彼の顔には珍しく苦悩の様子が見て取れる。額には脂汗まで滲んでいる。
「とーさん、何があったんですか?私にできることなら何でも言ってください!!正義のために、このアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンが全力を持ってお手伝いさせていただきます!!!」
 いつのまにか、再び窓枠に上ったアメリアが遥かな空をびしぃっ、と指差しながら叫んだ。そして「とう!」という掛け声と共に、部屋に向かって後方二回宙返り+ひねりをしながら飛ぶ。しかし、やっぱり着地に失敗して『げしゃっ』という鈍い音と共に顔から地面に激突した。
「あはは、また失敗しちゃいました」
 顔から落ち、なおかつ妙な音がしたのにむくりと起き上がると、頭をかきながら照れくさそうに笑った。
 そんな娘のようすを、慈愛にあふれる親の顔で見つめていたフィリオネル王子の表情が、何かを決心したように引き締まった。
 そして、座り込んでいるアメリアのそばに片膝をつきしっかりとその体を引き寄せる。
「とーさん???」
「……・アメリア、不甲斐ない父を許しておくれ」
「とーさん、一体なんのこと…・・?」
 フィリオネル王子は疑問と不安に少し震えている娘の体を少し引き離し、その両肩を優しく掴むと、その大きな瞳をじっとのぞきこむ。
「アメリア。セイルーンの現国王であるわしの父、つまりお前の祖父が長い間伏せているのは知っているな?」
「はい、お爺様とは数回しかお会いしていませんけど、とてもやさしくしていただきました」
「うむ……・」
 少しだけ、迷いの色がフィリオネル王子の瞳に浮かんだ。だが、それを押し切るように押し絞るような声を出した。
「……実はな、父が"死ぬ前に一度で言いから孫の花嫁姿を見てみたい"といったらしいのだ。しかし、今現在、グレイシアは行方不明。残る孫はお前しかいない。そして、今まで結婚問題を口にしていた重臣の一人がその父の言葉を聞いたらしくて、『これは国王の意思である』といって、おぬしに婚約者を立て、仮にでも結婚の誓いをさせようと言うんじゃ。わしもできる限り反論したのじゃが、最近のこともあって、都中のものが王位継承者について不安を抱いているらしい」
 アメリアがゆっくりと頷く。
 近年の王位継承者争いですでに二人が帰らぬ人となり、叔父も王位継承権を放棄した。そうすると、継承権の第二位にグレイシア、三位にはアメリアが繰り上がってくる。
 ここで、現国王が亡くなってしまっても、次にはフィリオネル王子がいるから心配はない。しかし、その次は?万年放浪の長女。いつまでも正義ごっこにかぶれている次女。王家の血は彼女達の代で途絶えてしまうのではないか?
 そういった不安が小さいながらも広がっていると言う噂をアメリア自身も聞いたことがある(正義ごっこかぶれ呼ばわりした相手は、その場でアメリアに悪とみなされ成敗された)。
「しかし、とーさん!好きでもない人と仮にとはいえ誓いなんか立てたくありません!!まして、巫女である私が神に嘘をつくなんて!!!」
 大きな瞳が見る見るうちに潤んでくる。
「…・そんなの、……そんなの正義じゃありません…」
 しゃくりあげながら、小さく呟いたアメリアの体をフィリオネル王子は優しく抱きしめた。そして、幼い頃にしたように、娘の黒髪を優しくなでる。
「…国民の不安はすなわち国の不安でもある。王家に対する不信は魔族の介入をたやすくするじゃろう。しかしな、アメリア。わしにはそなたの幸せが一番の望みだ。しばらくどこかに身を潜めておくという手もある。しばらくすれば、この話もなかったことにもなるかもしれん……。だから・・…」
 髪をなでるその手から、父の愛と王族たるゆえの苦悩が伝わってくる。娘を隠せばその非はフィリオネルに集中するだろう。しかしながら、彼は父としての感情を捨てきれずにこの結論を出したに違いない。
 やさしい父の言葉を聞きながら、アメリアはさっきの父の顔を思い出していた。憔悴して、目の下に隈さえつくっていた。恐らく、何とか重臣達を説得しようと駆け回っていたのだろう。父にはいつもの覇気がなかった。
 その想いに、アメリアは胸が熱くなった。父は誰よりも自分の幸せを考えていてくれる。そして、心の優しいアメリアにはそんな父を置いて、どこかに隠れることなどできなかった。
 フィリオネルから体を離すと、両目を拳でごしごしぬぐい、すっくと立ちあがった。赤くなった顔に無理に笑顔を作る。
「…いいんです。気にしないでください。王族たるもの国民の要望に答えるのは自明の理。私なんかの婚約でそれが叶えられるのなら、喜んでそういたしましょう」
「しかしな、アメリア……」
「とーさん。大丈夫ですよ。何もお見合いで結婚したからって不幸になるとは限りません。そのほうが幸せなのかもしれないじゃないですか。それに、私が身を隠せば、国の人達が更に不安になるでしょう?」
 にっこり微笑んだその顔は、誰が見ても無理をしていた。フィリオネルが痛々しそうにアメリアを見つめている。
「……それでお見合いの相手って、誰なんですか?やっぱり先に知っておいたほうが良いですよね」
 そんなフィリオネルを下からのぞき込む様にアメリアが尋ねてきた。父を心配させないよう精一杯気を張っている娘に、彼はもう一つ辛い事実を打ち明けなければならなかった。
「ん、ああ、・・。それがのぅ。どうも募集をしたとたん大量の返事が着たようで、一人に絞り込むことができなかったようなんじゃ。そこで、何とか絞り込んだ二十人の候補を招いて五日間かけて、大見合いパーティを開くようなんじゃ」
「だ、大見合いパーティ?」
「うむ、その二十人の若者達と、アメリアと、各国の婚約待ちの姫君達を招待して、せっかくだから各国の親善も兼ねて行うと言う企画がさっき通ってしまったんじゃ」
「そ、そんなアバウトな・・…」
 アメリアの顔があきれたように引きつっている。そんな娘にフィリオネルが照れくさそうに頬を掻いて見せた。
「……そのぅ、なんじゃ。候補が大勢いたほうがアメリアも気に入った相手が見つかるのではないかと、思うたそうなんじゃが・・…。
 その様子に、アメリアはふと気がついた。
 では、重臣達は故意に二十人もの候補を残したのだ。せめて、最低のラインで彼女に選択権が残るように。少しでも幸せな結婚を用意するために。
 "自分はこんなにも愛されている"そう痛感した。そして、それゆえに彼女はその見合い話を断れなかった。例え、心が別の人を求めていても・・…。
「とりあえず、パーティは七日後じゃ。それまでにドレスなんかを整えるようにしておこう」
 そういうと、フィリオネル王子は思い足取りで部屋を出ていった。
 扉がしまると、アメリアの心は光の届かない深海に沈んだかのように、重く、暗かった。
 王族などと言う地位は捨て去っても、あの人とともに歩んでいきたかった。その望みを、もはや過去形で思っている自分に気づき、その頬に大粒の涙が零れ落ちた。その涙をぬぐうことも泣く、アメリアはその場にくずおれた。
 近くに誰の気配もないことを感じて、恐らくは父が人払いをしたのだろう、アメリアは子供のように泣きじゃくった。
 何度も、何度も、好きな人の名を呼んで。けれど、その声はきっと彼には届かない。だからこそ彼女は泣けるのだった。彼女が泣いていることを知れば、彼はきっと来てしまう。不器用な優しさを持っているあの人は、照れながらも自分のために来てくれる。
 彼に迷惑をかけたくなかった。彼は今、自分のすべてをかけて旅をしているのだから。しかし……
「会いたい…会いたいです、ゼルガディスさん……」
 静かなセイルーンの奥に、彼女の嗚咽が小さく響いていた。

                      Go To Next


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 はい、やっと終わりました。次回はとりあえずゼルがディスが出てきます。
うーん、とりあえず最後はらぶらぶで終わらせるつもりなんですが、なんか、
長くなりそうだなぁ。

トップに戻る
6779感想です丸丸 5/12-23:28
記事番号6777へのコメント

はじめまして、丸丸です。
小説読ませていただきました!
わ〜いゼルアメですね♪私もゼルアメ好きなので楽しみです♪
今のところ、可哀想な展開ですが……これからハッピーエンドになると信じて
読み続けますのでがんばってください。

しかし大見合いパーティーってのはすごいです(汗)
このへんのぶっとんだ発想はさすがセイルーンの大臣たちですね。
王家主催のねるとんですもん。

早くゼルが登場することを期待しています♪

ではでは失礼します。

トップに戻る
6784きゃぁぁぁ!ありがとうございますなゆた E-mail 5/13-13:18
記事番号6779へのコメント

 感想ありがとうございます!
 初めてこういうところに投稿させていただいたので、すっごく嬉しいです!
 任せてください。もう、絶対ハッピーエンドにして見せます。

トップに戻る
6785贖罪の時Uなゆた E-mail 5/13-13:35
記事番号6784へのコメント

セイルーンにおいてパーティが決定された日の翌日。
 とある町の、とある鈍器&陶器(主に壷)を売っている小さな店の中で、今
日も盛大な子供の泣き声と、情けない男の声、そしてやや甲高い女性の声が響
いていた。
「うぁぁぁぁぁぁぁん!!」
 火のついたように泣いているのは三歳くらいで、薄い緑の髪をした少年だ。
何か気に入らないことでもあったのか、その大きな泣き声で精一杯自己主張
をかましてくれていた。その横で赤い隻眼の獣人、グラボスが涙目で何とか
なだめようとしている。
「ああああ、ヴァル様泣かないでくださいよぅ!おいっ、ジラス!!何とか
しろよ!!」
 横にいる赤い狐に命令をする。黒い眼帯をした赤い狐、ジラスもすでに涙
目だ。
「そ、そんな無茶な!兄貴も協力してくださいよう(滝涙)!!!」
「ば、馬鹿言うな!俺はこの壷を磨いておけと姐さんから言われてるんだ!
だからヴァル様はお前の担当に決定したんだ!!」
「そ、そんなぁ!ズルいっすよ、あにきぃぃぃ・…」
「じゃあ、なにか。姐さんから言われていた仕事ができてなくて、叱られた
いのか?俺はいやだ。やられるならおまえだけで行け!!」
「うぇぇぇぇぇ!あにきぃぃぃ。そりゃないっすよぅ…・・」
「やっかましい!!俺に頼るな!!!とにかくヴァル様のお守りはおまえに
決定!!」
「ひっでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「うぎゃあああああああああああああああああああ!!」
 盛大に口喧嘩をしていた二人の声に驚いたヴァルが、更に大きな声で泣き
始めてしまった。
『ああああああああああああああ!!!』
 二人が絶望的な声を出した瞬間、背後のドアが勢い良く開いた。というよ
り、吹っ飛んだ。大声で泣いていたヴァルは、扉の吹っ飛ぶ音にびっくりし
て泣き止んでしまった。
 そして、奥から長い金髪の、すらりとした美女が出てきた。しかし、その
美しい顔は今は怒りに燃え、片手には棘付きメイスを握り締めている。
 この店の主人であり、さっきから二人が恐れている姐さんでもあるフィリ
アだ。
『ひぃぃぃぃぃ!!あ、姐さん!!』
 ふたたび、声をハモらせお互いにしっかりと抱き合う。その顔に浮かんで
いるのは間違いなく恐怖だ。
 そんな二人を、じろりと睨み付けると、手に持っていたメイスを杖のよう
にして床にたたきつける。めきゃっ、という音と共に床の一部が破壊されて
いるが、フィリアは気にした様子もない。
「……まったく、あなた達ときたら店の掃除と子守りも満足にできないなん
て。この間しっかり教えたでしょう!もう、まったくヴァルガーヴはあなた
達にどういう教育をしていたのかしら」
「い、いや、姐さん。別に俺達、子守りや店番のためにヴァルガーヴ様に拾
われたわけじゃぁ・・…」
「お黙りなさい!!」
 一喝したフィリアの目が一瞬危険な色に光る。
「はいぃぃぃぃ」
 涙を流しながらお互いに抱きしめあう。彼女は、今は美しい人間の女性の
姿をして入るが、その本性は黄金竜(ゴールドドラゴン)。もし本気で怒れ
ば、彼らなど一瞬で消し炭である。
「とにかくですね、あなた達にはもっと常識を知ってもらう必要があります。
明日からはもっと、もっと特別な強化メニューを作って差し上げますから、気
合を入れてやってくださいよ」
「き、強化メニュー?」
「ええ。ヴァルの子守り連続耐久24時間と、店の掃除"徹底的にきれいにな
るまで"をやってもらいます!」
「いままでとおんなじじゃねぇかよ!?」
 思わず突っ込んでしまったグラボスに、フィリアは意味ありげな笑みをむけ
た。
「同じ?いいえ、今までとはすこうし違います。もし、今いったことができな
ければ………・」
『で、できなければ……・・?』
 ごくり、とつばを飲み込む。
「グラボスさんは"再び大気圏三周コース"」
「ひぃぃぃぃっぃいぃぃい!!!!!!」
「ジラスさんには、"花火と一緒に炸裂してみようコース"が用意されています」
「………・あぅ」
 ぽてっ。
「うおい!ジラスよぅぅぅぅぅ!!!」
 ショックのあまり、卒倒してしまったジラスをグラボスが激しく揺さぶる。
が、ショックが大きかったためか、グラボスに振られすぎて目が回ったのか
(恐らくこっちだろう)、「きゅう」と小さく鳴いただけだった。
「と、言う訳で早速今日から………」
「邪魔するぞ」
 フィリアが、軽やかにワンステップ踏み出しかけた瞬間、玄関から男が入っ
てきた。
 白い貫頭衣に身を包み、フードを目深にかぶっているために目だけしか見る
ことはできない。しかし、世界広しといえどもこんな怪しさ大爆発な知り合い
は、一人しかいない。
「ゼルガディスさん!!」
「相変わらずだな、フィリア」
 低く笑うと、目深にかぶっていたフードをはずした。
 細い針金でできた銀の髪。耳はエルフのように尖り浅黒い肌は岩でできてい
る。しかし、その異様な風貌にかかわらず、その整った目鼻立ちは一種の美し
ささえ示している。彼の立ち振る舞いは、細い抜き身の刃を思わせるようで、
腕の立つものが見れば、すぐに彼が一流のものであることがわかるだろう。
「久しぶりだが、ちょっと頼みたいことがあってな」
 別れた頃から少しも変わっていない、キメラの青年は少々あせっているよう
に見えた。
「はぁ、私にできることでしたら。ですが、ゼルガディスさん。せっかくお会
いできたんですからお茶でも飲みませんか?ヴァルのことも紹介したいですし
・・…」
 フィリアがそう言うと、今まで少々放心状態だったヴァルがてってっと走っ
て来て、彼女のスカートを握ると、恥ずかしそうにゼルガディスを見た。それ
でも、瞳に走る好奇心の色は隠せずに彼を見上げている。
「あらあら、ヴァルもあなたのことが気になっているようね」
 くすりと笑うと、ヴァルの手を引きながらゼルガディスを奥の、私室へと案
内する。その後を、当然のようについていこうとしたグラボスとジラスだが、
にっこり笑顔で振り返ったフィリアに押しとどめられた。
「あなた達は壊れた扉と床の修理。それに、途中になってる店の掃除をやって
おいてもらいます」
「そ、そんな!床と扉は姐さんが……」
「………………何か文句でも?」
 一オクターブ低くなった声が、二人の反論を封じ込めてしまった。
「…・・なんでもないっす、はい(号泣)」

               Go To Next


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 え〜と、すみませんんんんんん!!ゼルを出そうと思ったんだけど、ついつい、
フィリア&グラボス・ジラスの会話が書いててすっごく楽しかったもんだから、
結構書き連ねてしまった。
 一応、最後に無理やりゼルガディス出してみたんだけど・・・・・・。
足りないっすよね、やっぱり。
 
 次回はゼロスを出すつもりなんですけど、さぁ、どうなるでしょうねぇ。

トップに戻る
6789贖罪の時Vなゆた E-mail 5/14-13:05
記事番号6785へのコメント

 ガンッ!
「おい、ジラス。お前このままの状況で満足なのか?」
 ドゲンッ!
「兄貴はなんか不満なんすか?」
 ぎーこ、ぎーこ
「いいかぁ?俺たちゃもともと裏の世界に生きていたやつらだぜ?それなのに、
何でこんなところでおとなしく子守りだの、店番だの、修理だのをやらなくちゃ
なんねぇんだよ?!」
 ガガン!ドン!
「おいらは別にいいっすけど。なんたって、姐さんは命の恩人だし、ヴァル様
はヴァルガーヴ様だし」
 ズガガガガン!
「それなんだがよう。ヴァル様は本当にヴァルガーヴ様なのか?俺達のことな
んて覚えてねぇしよぅ」
 カン!カン!カン!
「だからぁ、それは間違いないですって。おいら、この目ではっきり見たんで
さぁ」
 ダダダダダン!!
「だったら、ヴァル様だけ連れて逃げりゃぁいいじゃねぇか?!!なにも、あ
んな女なんかの言うこと聞く必要なんか!!!」
「何言ってるんすか、兄貴!!だいたい俺達ヴァル様になつかれてさえいない
んっすよ(泣)!!連れ去っても、ぜったい途中で泣かれます!!それに…・」
 ばん!!!!!(扉の音)
「うるさいわよ!!もうちょっと静かにやりなさい!!!」
『はい!すいやせん!!』
 扉と床の修理をどうやって静かにしろと…・・。なんて言う不満を口にしよう
ものなら、間違いなくメイスでドつかれる。彼らの直感がそれを告げていた。
 本人達に自覚はないのだが、立派に調教されてしまっている。
 ぎぃぃぃぃぃ…、ぱたん。
 ことさらゆっくりと(嫌がらせにしか思えない)扉を閉め、フィリアが奥へ
と引っ込んだとき、ジラスが小さな声でグラボスに耳打ちした。
「それにおいら達が、ヴァル様をさらったら、無事でいられると思えませんし
ね」
 泣き出しそうな顔でグラボスが頷いた。


「まったく、もぅ。人が見てないとすぐに手を抜くんだから」
「いや、しかし、大工仕事を静かにやれと言うお前にも問題ありだと思うぞ」
 扉を閉め、戻ってきたフィリアに、小さくゼルガディスが突っ込む。が、も
のの見事にその発言は無視されてしまった。
「……リナに似てきたな(ぼそっ)」
 これはきいたらしい。肩が小刻みに震えている。
「自覚もあるんだな…・(さらにぼそっ)」
 ああ、肩が落ちた。が、恐るべきスピードで精神的復活を果たす。
 さすが、竜族!人よりも立ち直りが早い。
「ヴァル、いらっしゃい」
 フィリアがちょいちょい、とヴァルを手招きすると、子犬のように彼女の前
に駆け寄っていく。
「さて、改めて、ゼルガディスさん、このこがヴァルです。ヴァル、ゼルガデ
ィスさんにご挨拶なさい」
「うん。んと、はじめまして、ヴァルです」
 やや、舌足らずな口調で言うと、ぺこりと頭を下げた。その仕草が、なんと
も子供らしくてかわいらしい。
 ゼルガディスはヴァルの前で片ひざをつくと、視線をあわせた。
「ああ、ゼルガディスだ。よろしくな、ちっこいヴァル」
 くしゃり、とその頭をなでてやる。
 途端に、ヴァルの顔から緊張した色が消え、喜びでいっぱいになる。
(愛されているんだな)
 ゼルガディスはそう感じた。素直な反応が、見ているものの心までも和ませる。
 その様子が、今は遠くにいる少女を彷彿とさせ、少々心苦しくもあったが・…。
 そんな二人を、母のような、姉のような顔で見ていたフィリアが、ぱんっ、
と手を打ち鳴らした。
「さぁ、挨拶は終わりましたね。ゼルガディスさん、お茶はいかがですか?
この間とっても良い葉が手に入ったんです」
「ああ、しかし、ちょっと急いでいるんだが・・…」
「お茶も飲めないくらい?ですか」
「いや…・、そうでもないが」
「じゃ、掛けて待っていてください。今、お茶とお菓子を持ってきますから」
 くるり、と振り返ると台所へと姿を消してしまった。
 ゼルガディスが、顔に苦笑いを貼り付けたまま、立ちあがり、歩き出そうと
した時、ふいに背中に抵抗を感じた。
 振り返ってみると、ヴァルが彼のマントの端を握っている。ゼルガディスと
視線が合うと、にぃっと笑った。どうやら、相当気に入られたらしい。
 その笑顔を見たとき、彼の頭の中で何かが疼く。
(なんだ?)
 ほぼ無意識と言っても良いほどの状態でヴァルを抱き上げる。
 更に強い既視感。
(前に…。どこかで・…?)
 ヴァルがうれしそうに彼にしがみついてきたとき、頭痛と共に過去の情景が
フラッシュ・バックする。
 そのあまりの激しさと急速さに、意識が暗闇に落ちそうになった。耳に響く
声がなければ彼はその場でうずくまってしまっていただろう。
「ぜ・・る・らです、さん」
 ヴァルが一生懸命、彼の名を呼ぼうとしていた。しかし、彼の名前は難しい。
しかも覚えずらい。三歳程度の幼児には酷と言うものだろう。
 くすり、と小さく笑うと一生懸命名前を言おうとしているヴァルの、泣きそ
うになっている顔をのぞきこんだ。
「呼びにくいんだったら、ゼル、でいい。男の子がこんなことくらいで泣くん
じゃない」
 こつん、と指先で額をつつくと、ヴァルは「うん!」と返事をしてにっこり
と笑った。
「ゼル・・にィ」
 ずるっと足を滑らせかけた。まさか、記憶がなくなっているとはいえ、あの
ヴァルガーヴに兄ちゃん呼ばわりされるとは思わなかったのだ。
 が、ヴァルはその呼び方が気に入ったらしく、耳元で何回も「ゼルにぃ」と
繰り返している。
「やれやれ。まぁ、いいか」
 溜め息をついて、ヴァルをおろそうとしたがくっついて離れない。まるで、
蛸のように両手両足を絡ませて、ぴったりくっついてくる。どうも、"離れない"
というルールの彼なりのゲームらしい。子供は、時に自分ゲームを創るものだ。
 何とか引き剥がそうと試みたが、小さいとはいえ古代竜(エンシェントドラゴ
ン)の末裔である。キメラではあるが、腕力は普通の人間のゼルガディスに引
き剥がせるはずがない。
 諦めて、ヴァルをくっつけたまま椅子に座る。
 そのとき、湯気の出ているティーカップ三つと、ポット、クッキーの入った
お皿をお盆にのせたフィリアが帰ってきた。
「お待たせしました・・…。ぷっ」
 ゼルガディスとヴァルを見た瞬間、小さく吹き出した。
「フィリア、笑ってないで何とかしてくれないか?」
 ちょっと自分が情けなくなって、ゼルガディスがフィリアをじろりとにらむ。
が、フィリアは鼻でふふん、と笑うとちょっとからかう目になった。
「良いじゃないですか、ゼルガディスさん。親子みたいですよ。いつか、
アメリアさんとの子供ができたときのための予行演習ということで、ねぇ(はぁと)」
「ねぇ(はぁと)、ぢゃない!ど、どうして俺とアメリアに子供が…・」
 速攻で否定したのだが、その顔はすでに耳まで真っ赤である。
「そんな、真っ赤になるほど照れなくても良いじゃないですか。お二人はすで
にラブラブなんでしょう?」
「な、な、ななななな(混乱中)」
「リナさんからも色々と聞いてますよ」
「き、き、えええ、あ?なななん、ななななにを…(錯乱中)」
「冗談です(はぁと)」
 ………・ぷちっ(リミットブレイク!)
「フィぃぃぃぃぃリぃぃぃぃぃアぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「きゃぁぁぁぁぁ!ちょっとからかっただけじゃないでしかぁ!!(滝汗)お、
落ち着いてください。ヴァルが怪我しちゃいますぅぅぅ!!」
 ちらり、と横を見ると、肩にしがみついて、困惑したように二人を見比べている。
 仕方なく、椅子に座りなおす。
「ちっ。本当に性格がねじ曲がってきたな。まったく、巫女と言うのは性格が
特有じゃないとなれないもんなのか?」
「うっ。そこまで言います、普通?」
「思ったことを言ったまでだ」
 ツーん、と横を向く。よほど根に持ったらしい。
(ちょっと、調子に乗りすぎたかしら)
 何とか気まずくなった空気を取り戻そうと、明るい声を出す。
「そういえば、ゼルガディスさん。あれから他の皆さんはどうしてるんですか」
「さぁな」
 短い返事に一瞬ひるむ。
「さぁな、って。本当に知らないんですか?」
「ああ、あれから会ってないからな。でも、リナとガウリィは一緒に新しい魔
法剣を探すとか言ってたから、今もいっしょに行動してるんだろう」
「アメリアさんは国に帰ったんですか?」
「…・・ああ」
 むっつりと答える。さっき冷やかされたのがかなり答えているようだ。
「えっと、一緒にセイルーンに行くんじゃなかったんですか?」
 あの、最後の戦いのさなかの約束。短い会話。
 彼らは確かに約束をしていた。しかし。
「行ったさ。すぐに出てきたけどな」
「どうしてですか?私はてっきりお二人はいっしょに行動するものと思ってま
したのに」
 わけがわからないと言う顔でたずねるフィリアを、横目で見ながらゼルガディス
が大きく溜め息をついた。
 他人に説明するのは面倒だが、彼女は聞くまで引きそうにない。内心、
やりたくないと叫んでいる言葉をおし殺し、自分でも考えたくないことの
説明にかかった。


トップに戻る
6790贖罪の時なゆた E-mail 5/14-13:15
記事番号6789へのコメント

「あのなぁ、あんた一応、俺達の身辺調査をしたんだろぅ?」
「はい。結構皆さん調べやすい経歴の方達でしたので、助かりました」
「調べやすいって・…。まぁ、そうだな。で、アメリアの調査結果は?」
 まだわけがわからない。が、とりあえず記憶を頼りに列挙してみる。
「アメリアさんは、結界内でも最大の白魔法王国セイルーンの第二王女。
婚約者なし。珍しいですね。現在、王位継承権は第三位。白魔法と精霊魔法、
そして少々の黒魔法の使い手。父譲りの体術を使い、素手で魔族をぶっ飛ばす
正義おたくの超絶プリンセス。愛らしい顔からは想像できないが、正義のため
ならすべてを破壊できる、使用法厳重注意の爆弾娘・…」
「もう、いい。」
なぜかぐったりした様子で、ゼルガディスがさえぎった。
「で、俺は?」
「えぇ!!聞きたいんですか?!」
「いや、さっきのを聞く限り気は進まんが、とりあえず言ってくれ」
「わかりました。ゼルガディスさんは、通称"白のゼルガディス"。それ以前
は"レゾの狂戦士"。"邪妖精"と"石人形"のキメラ。赤法師レゾ(結構有名ら
しいですね)の片腕と言われ、彼の目的のためなら手段を問わない。はむかう
者には女子供でも容赦はしない、残虐非情な魔剣士。高度な精霊魔法と黒魔法
の使い手で、剣の腕も一流。しかし、赤法師の噂が途絶えてからは、彼もまた
消えた。最近では、どこかの塔でぬいぐるみを着ていたとか、女装コンテスト
に出ていたとか、怪しい噂しか聞こえてこない。立ち入り禁止の根暗魔剣士・・…、
って、ああ!!ゼルガディスさん、しっかりしてください!!」
 ふと気がつくと、小刻みに震えながらテーブルに突っ伏している。かなり、
ショックが大きいようだ。
「……・えええと、結局どうしてなんですか?」
 首だけが持ち上がった。
(こわひ!!)
「本当に、わからんのか?」
 その不気味な声に、内心かなりびびりながら大きく頷く。
 ゼルガディスはゆっくりと体を起こし、お茶を一口すすった。
「アメリアの現王位継承権は?」
「えっと、第三位?」
「そう。で、現国王は病弱。彼が死ねばアメリアの父であるフィリオネル王子
が国王になる」
 こくり、とフィリアがうなずいた。
「そうなると、アメリアの王位継承権も自動的にあがり、第二位になる。
ここで問題なのが、そのときに第一位になる予定の第一王女だ。彼女は元々
放浪癖があるようで、めったに国に帰ってこない。そうすると、国民の期待は
アメリアに注がれることになる」
「あ……!」
「わかっただろう。次期女王、もしくは国王の妃の周りに、俺みたいな後ぐら
いところがある男がいると、政治が乱れる。しかも、俺は見ての通りだしな。
そこを魔族に付け込まれたらセイルーンはおしまいだ」
 他人事のように言いきる。その様子があまりにも冷静なので、逆にフィリア
のほうがいらいらしてきた。
「そんな!!あなたはそれで良いんですか?!アメリアさんが、あなたを嫌って
いるわけじゃあないんでしょう?」
 ばんっ、と机をたたいて立ちあがった。瞳が興奮できらきらと輝いている。
そんな様子を、冷めた目で見ながら、驚いて目をみはっているヴァルに机の上
のクッキーをとってやる。
「もう一つ理由がある」
「もう一つ?何ですかそれは?!」
 ずずいっとみをのりだす。その口調には、半端な答えを許さない強さが現れ
ていた。
「……俺は成長しない。いや、一応してはいるんだが普通の人間に比べると、
ひどくゆっくりだ」
「だから!!」
 フィリアがいらいらと両手を組む。腕の中でまどろみ始めたヴァルを抱きな
おし、ゆっくりとした口調で言った。
「今はいい。だが、いつか俺の知っているやつらは死んでいく。そのとき、
俺はほとんど変わっていないだろう。それがわかっていて、特定の誰かと
いようとは思えないんでね」
 その、静かな口調に強い悲しみが混じっているのを感じ取り、フィリアは
罪悪感にうちひしがれた。
「…・・すみません。勝手なことばっかり言って。私ったら、なんてデリカ
シーのないことを…・」
 椅子に座りなおし、ゼルガディスの腕の中で完全に眠りに落ちてしまったヴァル
を見る。
 ヴァルガーヴ。一人で生きていく辛さはきっと彼のほうが良くわかるに違い
ない。だが、今は彼にはフィリアがいる。ほぼ、同じ寿命を持つ、同じ竜族の
フィリアが。しかし、ゼルガディスには?まさか、好きな相手にキメラになっ
てくれなんて言えないだろう。彼の、孤独願望にはれっきとした理由があった
のだ。
 ふと、気がついた。最初に彼を見たとき、なんだか焦っている様に見えたの
はアメリアや仲間の年齢だ。ガウリィは元々年上だが、リナやアメリアとはも
うすぐ同い年になってしまう。そうなるのがどんなに怖いのか、竜族のフィリ
アにも分かる。彼女もまた、永きを生きるものだから。
「それでだ、フィリア。頼みたいことがあるんだが」
「あ、はい。何ですか」
 物思いにふけっていたのを、呼び戻される。目の前には真剣な目をしたゼル
ガディスがいた。
「俺はこの9ヶ月、いろんなところに旅をしてきたが、こちらの世界には魔法
に関する研究もお粗末で、全く役にはたたん。しかし、竜族の遺跡には何か
あるかもしれん」
「そうですねぇ。ず〜と、昔に放置された研究とかもあるらしいですから」
 神殿で習った知識を呼び起こしつつ答える。
「そこで、頼みなんだが。そう言う神殿の位置と、あと分かればでいいから
その研究内容。分かる限りピックアップしてくれないか?」
「なるほど。時間短縮ですね。分かりました、すぐにリストを作りますわ!!」
 勢い良く立ちあがると、紙とペンを出すべく階段を駆け上がっていく。
「お、おい、フィリア!ヴァルは?!あの二人に預ければいいのか?!!」
「すいませんが、しばらく見ていてください!!ジラスさんとグラボスさんが
近寄ると、そのこ泣いちゃうんです!!!」
 早口に言ってしまうと、二階へと引っ込んでしまった。そして、なんだか
すさまじいほどの本が落ちる音が聞こえてきた。恐らく、昔の資料でも探して
いるんだろう。
 腕の中のヴァルを見ると、そんな音にはお構いなしですやすやと寝ている。
さすが竜族というしかない。
「子守りは俺かぃ・…」
 なんだか利用されているような気もしたが、寝ている子供を見ているとどう
でも良くなってしまった。
「…・・子供か」
 自嘲気味に呟いたとき、ちくり、と胸を指す記憶がよみがえる。
 さっき、急激によみがえった記憶。
 あれは…・・、何だったのか、ゼルガディスが思い出そうとした瞬間。
「おやぁ、ゼルガディスさん。いつの間にお子さんなんて作ってたんです?
アメリアさんに言っちゃいますよ?」
 背後からのんびりした声が聞こえてきた。
 気配のなかったところからいきなり声をかけられて、驚いて振り返ると、
やっぱりあいつが立っていた。
 おかっぱ頭の、万年笑顔のお役所魔族。黒い神官服に身を包んだ神出鬼没の
獣神官!
「ゼロ(むぐ)!!!!」
 思わず叫びそうになった口を、両手でふさがれてしまった。
「やめてください!ヴァル君が起きちゃうじゃないですか!!私、彼に嫌われ
ているんですから!!」
 そっと、両手を離した。
 ゼルガディスは、一つ息をつくとじろりと、下からゼロスをにらみつけた。
「誰が俺の子だ。しっかり名前まで知っているくせに」
「あれぇ、ばれちゃいまいた?もうちょっとからかえると思ったのに」
 ぺろり、と舌を出す。相変わらずふざけたやつだ。
「で、何のようなんだ?フィリアなら二階にいるぞ」
 あごで階段を指しながら、冷たく言い放つ。
 が、ゼロスは一向に消える気配がない。ゼルガディスがいぶかしんでいると
、ゼロスがにっこりと笑った。
「いいえ、今回はあなたに用があるんです」
「俺にはない。失せろ」
 すっぱりと言うと、ゼロスが泣きそうな顔になった。
「そんなぁ、せめて聞いてくださいよう」
「ヴァル・…。起こすぞ?」
 ゼルガディスが小さなこえでおどしをかけると、ゼロスが「ふぇぇぇ」
という、妙な声を出して宙に逃げた。
 ゼルガディスが見上げる。一瞬彼と視線があった。その顔は、いつもの笑顔
ではなく、魔族の顔だった。
「あなたにかけられている、ある枷が外れかかっています」
「……枷?何の事だ?」
「それは、秘密です(はぁと)」
 はじめて聞くことに、少々驚きながら宙のゼロスはにらみつける。が、
ゼロスは人差し指を口に持っていくと、おなじみに台詞を言っただけだった。
「ただ、それが外れればあなたの力は飛躍的に伸びます。ですから…」
 すい、と宙を降りてきてゼルガディスの目を覗き込む。
「ゼルガディスさん。魔族のお仲間になりませんか?」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 やっと、ゼロスが出てきましたね。しかし、ヴァルってばかわいい!
 自分で書いててはまってしまった。情けない。
 しかし、やっとゼロスもでてきましたね。一体いつになったらゼルとアメリアは合えるんでしょうか。
書いている私がわからなくなりそうですね。
 次回は、いつになるかわかりません。
 私だって速く書きたいんですけど、学校がぁぁぁぁぁぁ(泣)
 まあ、気長に見てやってください。
 
・・・・・・・・・・それにしても、最近ぜろりなが多いような?

トップに戻る
6800Re:贖罪の時ももへい E-mail URL5/16-09:55
記事番号6790へのコメント

はじめまして、なゆたさん。

オールキャストで、とっても面白いです。
子供のヴァルがゼルになつく…。かわいい。

お忙しいようですので、続きはむりせずにどうぞ。
ではまた。

トップに戻る
6801ももへいさんへなゆた E-mail 5/17-12:52
記事番号6800へのコメント

 はい、とっても忙しいです。
 しかしなぜか土日の間に三作も書いてしまいました。
 一体何をやっているんだ!!わたしぃぃぃぃ!!
 このままでは進級が危ないかもしれません。
 まぁ、いいです。私、要領だけはいいらしい(友達談)
 と、いうわけで、今度は本当に一週間くらい無理です。絶対に。

 なんか、今度のときにはツリー沈んでそうですね。

トップに戻る
6802贖罪の時5なゆた E-mail 5/17-12:57
記事番号6801へのコメント

「こ、これは・……」
 手元にある資料に再び視線を落とす。
「間違いないわ。これなら、もしかして……」
 そう呟くと、その資料を持ち下へ向かうべく、扉を開けた。


「ゼルガディスさん。魔族のお仲間になりませんか?」
「断る」
「ああ!そんな身もふたもない!!」
 まだ、宙を飛んでいるゼロスが、ゼルガディスの返事に再び情けない声を出した。
「もし、今仲間になってくれたら洗剤一年分!さらに某有名ホテルの特別ご優待券!!その上、あらいずみ○い先生のイラスト付きサイン色紙!!!を、お付けしますよ」
「お前は、新聞の勧誘員か」
 洗剤も、ホテルの優待券も、魔族になってしまったらたいした意味を持たないのではないか、とも思ったが、面倒くさいので黙っていた。
「まぁ、そうなんですけどね。うーん、じゃぁ、どうしたら仲間になってくれますか?」
「ならん!!」
 誠心誠意を込めて否定したのだが、ゼロスは無視と決め込んでいるらしい。
「ああ、そうだ!要するに、あなたが人間であることにこだわる原因をなくせば良いわけですね」
「……なぜそうなる」
 なんだか、異常にうれしそうに言われて背筋に寒気が走る。嫌な予感がする。体にはしる悪寒を押さえながら、ゼロスを睨み付ける。
「何をするつもりだ?」
「アメリアさん…」
「!!!!」
「やっぱり、顔色が変わりましたね。あなたもずいぶん甘くなったものだ。昔は誰がどうなろうと、あまり気にしないようにしてらしたのに・・…」
 愉快そうに笑うゼロスの裾を乱暴に掴むと、もどかしげに引き寄せた。
 胸倉を掴み、にっこり微笑んでいるゼロスに、低い声をかける。
「何のつもりだ」
「ご想像の通りですよ。彼女が死ねば、あなたの人間に対する思いも少なくなるでしょう?」
 こともなく言いきる神官魔族に、ぎりっと、唇をかみ締める。胸倉を掴む腕に更に力を入れる、が、ゼロスは特に苦しそうでもない。
「あいつに何かしてみろ。どんな手を使っても貴様を殺してやる!」
「それこそ、望むところです。私を殺せるほどの力がほしいのなら、魔族の仲間になるしかありませんよ?」
「貴様・…!!」
 怒りで目の前が真っ白になる。今、彼を殺すことのできない自分の力がもどかしかった。人にあらざる体を手に入れても、魔王の手下の、その部下さえも倒せないことの苛立ち。
 心の中で、彼を変えた人物への怒りも湧き上がってくる。
(レゾ!!こんなになっても、人間は魔族には勝てんのか?!)
「今、お仲間になってくださるんでしたら彼女は殺しませんけど・…?」
 悪魔の誘惑。
 断れば彼女の命なく、受け入れれば二度と会えない。
 迷いは一瞬。
 願うのはただ一つ。
「俺は……」
 ゼルガディスが答えを返そうとした瞬間・…
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!生ごみ魔族ぅぅぅぅ!!!!!」
 空をつんざくフィリアの叫び声が響いた。女性の金切り声は耳に響くものだが、竜族のは更に特別らしい。
 二人して耳がキーンと鳴ってしまった。くらくらする頭の上に、更にフィリアの声が響いてくる。
「何をやっているんですか!はっ!またヴァルを魔族にでも引き込もうなんてことを考えてるんじゃあ!!いいかげん諦めなさい。ヴァルは、今やれっきとした竜族!!生ごみ魔族ごときの、三文勧誘になんてなびきませんわ!!」
「…・・な、生ごみ」
 未だ、フィリアの金切り声のショックから立ち直れないのか、ゼロスが弱々しく呟いた。
「そもそも、あなたヴァルに思いっきり嫌われているんだから、いいかげん諦めたらどうなの?!大体あなた達魔族と言うのは……」
 さらに、フィリアが畳み掛けたとき、ゼルガディスの腕の中で眠っていたヴァルが目を開いた。
『!!!』
 フィリアとゼロスが同時に固まった。
さっきの勢いもどこへやら、顔面蒼白で脂汗をだらだら流して、ゼルガディスの腕の中のヴァルを凝視している。
 そんな様子を気がついていないようで、ヴァルは眠っていた目をこすった。
 そして、ゆっくりと視線をめぐらせる。その視線が、フィリアの上を素通りし、ゼロスの上で止まった瞬間!ヴァルの顔が思いっきりゆがんだ。
 目に涙が盛り上がってくる。すでに鼻を鳴らし、泣ける準備はいつでもOK!!という感じだ。
「ヴぁ。ヴァル君も起きちゃったみたいですし、今日はこの辺で失礼します!!ゼルガディスさん、また会いましょう!!」
 慌てて言うと、宙に掻き消えた。
「お、おい!ゼロス!!」
 まだ、返事をしていないのに!!
 彼の消えた宙を見つめ、何度も名を呼んでみるが空しく響くだけだった。
 そんな様子をフィリアとヴァルが呆然と見つめている。が、そんなことを気にかけている余裕はない。
「くそっ!」
 がんっ、と机を叩く。
 このままではアメリアの命が危ない。
 身を焼きつくほどの焦燥感に駆られながら、頭はめまぐるしく働き出している。
 アメリアを守ること。
 それが第一。そうすると……
「ゼルガディスさん・…?」
 ゼルガディスの、異常なあせり方を見て怪訝な表情を浮かべている。
「また会いましょうってどういうことですか?まさか、あんな生ごみ魔族と、何か契約でも結ぼうとでも?」
 フィリアの顔に疑惑のまなざしが浮かんでる。ゼルガディスのあせり方を、何か別のものと重ね合わせてしまったらしい。
「まさか、そんな馬鹿なことじゃないさ」
 安心させるように、そして、少々自嘲気味にゼルガディスが呟いた。
 その視線が、フィリアの持っている本のうえで止まる。かなり古く、そこに書かれている文字はゼルガディスにさえ読めないほど古い。
「それは?」
「え?ああ、今調べていたんですけど。もしかしたらこれであなたがキメラにされた過程が。上手く行けば解除法も見つかるかもしれません」
「何!!どういうことだ!!」
 思はぬ答えにゼルガディスが声を荒げた。
 腕の中のヴァルが驚いてゼルガディスを見上げている。
 そんなゼルガディスに、フィリアは満足げに微笑むとゆっくりといすに腰掛けた。
 そしてぬるくなったお茶を入れなおすと、一口すする。
「はぁ。叫んだ後のお茶はおいしいですわね」
 その、のんびりした様子に、今度はゼルガディスがいらいらと声をかける。
「フィリア。今俺はそんな悠長な気分じゃないんだ。さっさと説明してくれないか」
「まぁ。落ち着いて座ってください。チョット長くなりそうですから」
 座るまで、話すつもりはないらしい。
 仕方なく、腰を下ろすと半眼になってフィリアを睨み付ける。
「座ったぞ。話せ」
「そんな睨まなくても。どうしてアメリアさん、こんな短気な人がいいのかしら?」
「ふぃぃぃぃぃりぃぃぃあぁぁぁ」
「はいっ!ごめんなさい!しゃべりますぅぅぅ!」
 我慢の限界が近いらしいゼルガディスの気迫に、やや逃げ腰になりつつ、目の前の本について語り出した。

                             Go To Next


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 前回4を入れるの忘れてましたね。
 はい、今回が5です、確か。

トップに戻る
6803贖罪の時6なゆた E-mail 5/17-12:59
記事番号6802へのコメント

「この本は降魔戦争以前に書かれたものなんですが、この頃、竜族はある研究をしていました」
「ある研究?」 
 こくりと、フィリアが頷く。
「魔族の本体が精神世界にあることはご存知ですよね」
「ああ、高位の者になるほどあっちから来るのは容易らしいな」
「そうです。そして、その精神世界にある本体を攻撃するためには、こちらにきている分身を、ちまちま攻撃しなくてはなりません。そこで、竜族は考えました。"もし、その精神世界に自由に行き来できるようになれば。そして、本体に直接攻撃できるようになれば"と。理由は単純ですが、これにより研究が進められました。精神世界に関するあらゆる研究が」
「・・…しかし、失敗した」
「そうです。成功していれば今ごろ魔族なんていませんから。しかし、その研究は思わぬ成果をあげたんです」
「思わぬ成果?」
 怪訝に問い返すゼルガディスに、フィリアはゆっくりと頷いた。
「それは、魂に関係することです」
「魂・…」
「そうです。この本によると過去に亡くなった者の魂を呼び出し、会話することが可能になったと言うんです」
「なるほど。それで、レゾを呼び出し、俺の体を変えた方法を、あわよくばその解除法を聞き出そうと言うのか」
 フィリアが頷いた。
(しかし、あのレゾが素直に教えるだろうか?性格の悪さは超一級品だったからなぁ)
 ぼんやりと、昔レゾと過ごしていた頃のことを思い出していると、フィリアの困ったような声が聞こえてきた。
「それで、ちょっと困ったことがあるんですが・・…」
「困ったこと?」
 問い返すと、フィリアが困ったように頷いた。
「ええ、一つは呼び出すものに連なる血縁者の血が少々必要なんですが、彼の血縁者がどこにいるのか分からなくて…」
「俺がいる」
「え?」
 首をかしげるフィリアに、ゼルガディスは薄く笑った。
「調べられなかったのか?俺はレゾの子孫だよ」
「……えええぇぇぇぇぇぇ!!そうだったんですか!」
 身をのけぞらせつつ驚いている。
 ここまで大きく驚かれると、かえって面白いな、と思いつつ、再び頷いて見せる。しばらく、何やらぶつぶつ言っていたが、納得したのか、同意のしるしに頷いて見せた。
「もう一つあるんですが・……」
「なんだ?」
 そういうと、フィリアはしばらく黙り込んでしまった。
 こちらの顔色をうかがうように、ちらちらと見る。
「言え」
 ことさら冷たく言うと、フィリアが溜め息をついて口を開いた。
「そのぅ。これに載っている地図が古すぎて、位置を特定できないんです。私の知識ではちょっと分かりかねるんです」
 申し訳なさそうに言うと、目の前の本を開いて、地図の乗っているページを示す。
 確かに、現在の地図とは違う。おそらく、降魔戦争の影響で地形が変わったり、結界内、外の変化の度合いが違ったりしたためだろう。今の地図とはかなり違うが、資料があれば自分でもわかるだろうと思った。
「大丈夫だ。これくらいなら自分で調べられる」
「ええ!!分かるんですか!!じゃぁ、早速……」
 資料を探しに行きましょう!と言いかけるのを、ゼルガディスが手で押しとどめた。
「いや、いい。急な用ができたんで、調査は後回しにする」
 その意外な言葉にフィリアが目を見張った。
 彼の目的は、何事にも優先されることだったはずではなかったのか?
 それを後回しにする用とは、一体?
 瞳だけで問い掛けると、ゼルガディスが、ゆっくりと空を見上げた。
「セイルーンに行く」
「何かあったんですか?」
 脳裏によみがえるのは、ゼロスの言葉。
『また会いましょう』
 背筋に冷水を流されたような悪寒が走る。
「……アメリアが危ない」
 呟かれた言葉は、鉛のように彼女の心を重くした。


                            Go To Next

トップに戻る
6804贖罪の時7なゆた E-mail 5/17-13:05
記事番号6803へのコメント

「一体何があったんですか?ゼルガディスさん」
 もくもくと旅装を整えているゼルガディスに、フィリアが問いかけた。横で、ヴァルが名残惜しそうな顔をしてゼルガディスを見つめている。
 そんな二人に、目もむけず返事を返す。
「ゼロスがアメリアを狙っている」
「どうしてですか?!」
「わけは言えん」
 そっけなく答えながら、あまり多くない荷物を担いだ。
 ここからだと、せいるーんまでは半月近くかかるかもしれない。そう思いながら立ちあがる。
「そんな!せめて理由くらいは…!!」
 今のも出て行きそうなゼルガディスのマントを掴む。何せ、フィリアは竜族だ。ゼルガディスの力では引き剥がせない。
「離してくれないか?フィリア。本当に時間がないんだ」
 不機嫌な顔を隠そうともせずに、フィリアをにらにつける。かなり、本気でいらだっているようだ。
「一人で行くつもりですか?」
「ああ、これは俺の問題だ」
 冷めた口調で言いきると、フィリアの手が弛んだ隙にマントを奪い返す。
 そしてそのまま玄関をでようとしたとき、
「待ってください!!私もいきます!!」
 決意を秘めたフィリアの声が響いた。驚いて振り返ると、興奮のため尻尾を出してしまっているフィリアが、目を輝かせている。
「何をいっているんだ。今回の相手はゼロスなんだぞ?竜族が束になってもかなわなかった、獣神官なんだ。おまえはおとなしくここにいろ!」
 ちらりと彼女の横に目をやる。ヴァルが驚いたようにフィリアを見上げている。
「おまえには守るものがいる。無茶をするべきじゃない」
 フィリアが、ヴァルを見下ろす。その瞳に迷いの色があらわれる。
 しかし、次の瞬間にはもう一度、ゼルガディスを正面から見つめた。
「私は神に仕えるもの。生きとし生ける者を守ると言う使命があります。それに・…」
「それに?」
「あなた達から教わりました。仲間を守るという事の大切さを・…。だから、止めたって無駄です。私、もう決めちゃいましたから!」
「しかし…・」
 何とか説得しようと、口を開きかけたときには、すでに彼女は行動を開始していた。
 隣にある店の方に駆け込んで行ってしまったのだ。
「グラボスさーん。ジラスさーん。私しばらく出かけてきますから店番よろしくお願いしますねぇ」
『え!お出かけですか、姐さん!!』
「……何でそんなにうれしそうに言うんですか?」
「いいえ!!そんなことないっす!なぁ、ジラス!!」
「へい!別に姉さんがいないと、いつでもサボれるなぁなんて思ってやいません!!」
「へぇ?まぁ、いいでしょう。私が帰ってくるまでしっかりやっておいてくださいよ。……もし、何か問題を起こしたら、そのときの覚悟はしておいてくださいね(はぁと)」
『へい!!』
 とか言うやり取りが、扉越しに聞こえてくる。何とかこの隙に出て行こうと、玄関に手をかけた瞬間。足が動かなくなった。
 下を見ると、ヴァルが両足にしがみついている。ゼルガディスと目が合うと目が合うと、にっこりと笑った。
「竜族の、無言の連携プレイか……」
 その笑顔を、悪魔の笑みだ、と思いながら、ゼルガディスが呟いた。


                        Go To Next



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 最後はちょっと短くなってしましました。
 しかし、本当に時間がないぃぃぃぃ!!
 どうして、私こんな学校選んだんだろう?
 
 さて、愚痴はそれくらいにしておいて、そういえば、ジラスって、グラボスのこと
”親分”って、呼んでたんですな。いかんですな、うろ覚えでやってちゃぁ。
 
 それにしても、もう7回も投稿しているのに、いまだに贖罪の意味が出てきていません。
さあ、誰の、誰に対する贖罪のときなのでしょうか。わかった人は当ててみてください。
商品は、出ませんけど。

トップに戻る
6806Re:贖罪の時7ももへい E-mail URL5/17-21:11
記事番号6804へのコメント

こんにちは。前回からとても楽しく読んでいます。

> しかし、本当に時間がないぃぃぃぃ!!
> どうして、私こんな学校選んだんだろう?

し、進級を優先した方が人生にとっていいですよ…

>さあ、誰の、誰に対する贖罪のときなのでしょうか。わかった人は当ててみてください。

うーん、全然分らない!
それでは、学業優先でごゆっくりどうぞ。

トップに戻る
6855贖罪の時8なゆた 5/24-12:59
記事番号6806へのコメント

 やっと、おわったぁぁぁぁぁぁぁ!!
長かった、この一週間。先生には怒られる。夜はゆっくり寝られない。終わったと思った土日にはバイト。
つ、疲れた。何か目の下のくまが痛々しい。
 と、言うような状態で書いたので、文章が多少おかしいかもしれませんが、どうぞ。
 読んでやってください!

PS。ももへいさま。
 励まし?どうもありがとうございます。何とか無事に終わりました。
かなり、疲れてますけど。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 頬を切る風が冷たい。眼下には、永遠に続くかと思われるような海が広がっている。青く、澄んだ命の源。
 空が近い。下に流れていく雲が、この空の高さを物語っている。
 竜の姿に戻ったフィリアがゼルガディスとヴァルを乗せて飛んでいるのだ。
 フィリアは、ちらりと背中を振り返った。
 彼女の髪に固定されたヴァルがゼルガディスに寄り添うような形で眠っている。さっきまで、空を飛ぶ、と言うことに興奮して騒ぎすぎたためだろう。
 ゼルガディスは、フィリアが見つけた本を真剣に見ている。しかし、あの本は竜族の文字で書かれているから、彼には読めないだろう。恐らく、地図でも見て位置の見当をつけているのではないだろうか。しかし、その落ち着いた様子が、フィリアには気になった。
 アメリアの命が狙われていると、知ったときのあのあせりようはなんだったのか。
「ゼルガディスさん。何でそんなに落ち着いているんですか?」
「そう、見えるか?」
 本から視線を上げもせずに答えた。特に表情は変わっていないし、声も落ち着いている。
「とっても、そう見えます」
「俺がセイルーンにつくまで、アメリアは無事だからな」
「……………・ええええええええええええええええ!!!!」
 空をつんざくフィリアの叫び。この間のより大きかったかもしれない。
 しかし、ヴァルは目を覚ます気配もない。
 ゼルガディスはそのエルフのような耳から耳栓をとると、皮袋にしまった。どうやら、ヴァルにも耳栓を施しているらしい。
「ど、どうしてそんなこと知ってるんですか!!?」
 動揺で声が震えている。が、さっきよりもいくらかは静かだ。
 ゼルガディスは見ていた本を閉じると、それも落とさないようにしっかりと腰に結びつけた。
「ゼロスの目的は俺だからな。俺の目の前でアメリアを殺そうとでも思っているはずだ」
 淡々とした口調で、呟いた。
「だから、俺がそこにつくのを待っているんだろうな」
「じゃ、じゃぁ。どうしてあの時あんなにあせっていたんですか?なんだか一刻の猶予も無いみたいなこと言ってませんでした?」
 不信に目を据わらせてゼルガディスを睨みつけた。
 しかし、ゼルガディスはそんなフィリアの視線を受け流すと、さらりと答えた。
「2週間以内にセイルーンにつけなかった場合、ゼロスがアメリアを俺の前までつれてきて殺す可能性が強かったからな」
「え!じゃぁ、結構余裕あるんですか?」
「今のところな」
 平然と答えた。
………………ぷち!
「じゃあ、何で移動の半分は飛ばなきゃいけないんです!!飛ぶのって結構体力使うんですよ!!それなら、下を歩いても一緒じゃないですかぁ!!!!!!」
 目に涙をためながらフィリアが叫んだ。
 移動すること3日目。これまで、日中の半分はフィリアが飛んでいた。下に降りれば、彼女は体力のほとんどを使っているのでそのまま宿へ。と言う感じだった。そのおかげで、ゼルガディスが考えていたのよりも二倍のスピードで移動できている。
 そのかわり、働いているのもフィリア一人だけだった。
 今までの苦労と、疲労は一体なんだったのか。悲しくてむかついてくる。
「一体あなたは私のことなんだと思ってるんですか!!!」
「・・…便利な乗り物(ぼそ)」
 がくんっと、高度が一気に落ちた。フィリアの目が死んじゃっている。
「………じょ、冗談だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 急激な高度低下に、必死でフィリアにしがみつきながらゼルガディスが叫んだ。
 その言葉に、フィリアの目に生気が戻った。何とか体勢を立て直すと、再びゆっくりと上昇する。
 先程まで飛んでいた高度に戻ると、フィリアとゼルガディスは大きく息を吐いた。二人とも目にはすでに涙がたまっている。
「こんな時に、妙な冗談言わないでください!」
「悪かった」
 肩で息をしているゼルガディスが素直に謝った。空の上では彼女に逆らわないほうがいい。
 ゆっくりと呼吸を整えると、今の騒ぎでも目を覚まさないヴァルの髪をそっとなでる。
「フィリアには感謝しているさ。おかげで、予定以内に行けるかどうかの博打をしなくて済んだんだからな」
「博打?」
 首をめぐらせてゼルガディスを見てみる。ヴァルの髪をなでながら妙にぼんやりとした目をしている。
 なんだか、自殺を覚悟した人みたいだ、と思って、ぶるぶると首を振る。
(彼には生きる目的があるんだから、そんなこと有るはず無いわよね)
 しかし、巫女の予感が告げている。彼は何かをするつもりだと。
 そんな物思いを立ちきるかのような、静かなゼルガディスの声が聞こえてきた。
「セイルーンは白魔法国家だ。あの国自体が一つの結界になっている。あそこなら、魔族の力は半減する。そこなら、まだ望みはあるかもしれん」
 ほら、彼は諦めてなんかいない。
 その思いに安心する。同意のしるしに頷いて見せると、彼は安心したように微笑み小さくあくびをした。このところ、寝不足らしい。
「悪いがちょっと眠らせてもらうぞ」
 そういうと、ヴァルと同じように体を固定すると、小さく寝息を立て始めた。
 その様子にフィリアが小さく笑った。
「ゼルガディスさんって、寝顔がかわいい」
 視線の先には、ヴァルと一緒に丸くなっているゼルガディスの子供のような寝顔があった。


トップに戻る
6863Re:贖罪の時8ももへい E-mail 5/25-01:05
記事番号6855へのコメント

>長かった、この一週間。先生には怒られる。夜はゆっくり寝られない。終わったと思った土日にはバイト。
>つ、疲れた。何か目の下のくまが痛々しい。
> と、言うような状態で書いたので、文章が多少おかしいかもしれませんが、どうぞ。
> 読んでやってください!

おつかれさまでした。

フィリアの店ではあせりまくっていたゼルガディスが、フィリアと
飛行中はなぜかおちついている。
予定以内に行ける、とは何なのか?

なぞがいっぱいです。

まずは疲れをとってから、ゆっくりで構いませんので、
どうか続きを読ませてやって下さい。それでは。

トップに戻る
6868贖罪の時9なゆた E-mail 5/25-16:49
記事番号6863へのコメント

 最近、眠ると夢を見る。
 遠い、昔の夢。
 いつの頃か覚えていない。
 まだ、両親が生きていた頃の夢。
 世界のすべてが新鮮で、そのすべてがなぞに包まれていた時代。
 彼は、その夢の中で過去を思い出す。

 ざわざわと、大人たちが騒いでいる。
 家で一番大きな部屋を使って、パーティが行われているのだ。
 今日は自分の誕生日。確か、4歳になるはずだ。
 しかし、大人たちの興味は主役であるはずの彼には無く、今日来るはずのある人物にあるらしい。
 父も、母も、その人を歓迎するために忙しい。
 彼には面白くない。
 今日は、彼が主役のはずなのに。
 ふてくされたまま、ぶらぶらと中庭に出る。
 一面の赤いバラが、夕闇に染め上げられて、いっそう妖しく輝いている。
 その、バラの放つ香気にやや酔いながらてくてくと歩いていく。
 目的は無かった。
 ただ、自分を無視する大人たちに中にいづらかったのだ。
 しばらく、ぼんやりとそのバラを眺めていた。
 ふっと、気がつくと、傍に誰かが立っていた。
 赤い色の服が目に飛び込んできた。
 バラの色だ、と彼は思った。
 ゆっくりと視線を上げると、そこには穏やかな微笑を保った、二十代半ば頃の青年が立っていた。
 その瞳は硬く閉じられたまま、けれど顔は彼のほうに向いている。
 彼を見たとき、少年はなぜだか分からない親近感が沸くのを感じた。
 だから、青年が家へと向かおうとしたとき、思わずそのマントの端を掴んだ。
 青年が、驚いたように振り返る。
 自分に関心をもってくれたことが嬉しくて、にっこりと微笑みかける。
 青年が、静かに彼を抱き上げた。
 青年の顔が近くにある。
 嬉しくて、その首にしがみついた。
 一瞬、彼の表情が凍りついた。
 その全身が硬直する、が次の瞬間にはもとのやわらかな物腰に戻った。
 遠くのほうで、彼らに気づいた大人たちが何かを言っているのが聞こえる。
 恐れ多い? やはり身内? 信じられない?
 よく分からない。
 怪訝な顔を青年に向けると、青年は彼を安心させるように微笑んだ。
 そして、周囲に群がってきた大人たちに言ったのだ。
「はじめまして。この子の曽祖父にあたるレゾです」
 ざわめきが遠くに広がる。
 彼は、自分の曽祖父?と言う人物を見つめた。
 やっぱり、よく分からない。
 けれど、その名は耳に残った。
「れ・・ぞ・・?」
 それが、初めての出会いだった。

 ずきんっ!どこかが痛む。
 心かもしれない。
 ただ純粋にレゾを慕っていたあの時代。無垢であり、幸せだった遠い昔。
 この間、ヴァルを抱き上げたときにフラッシュ・バックした記憶の数々。
 懐かしくて、でも思い出すのが辛くて、心の奥深くにしまっていた記憶。
 彼の慕ったレゾはもういない。
 その身に魔王を宿し、心までも食い尽くされた男。
 ずきんっ!痛みがひどくなる。
 ゆっくりと目を開けると、目の前には金色の髪。
 ここは、フィリアに背中の上。
 眠っている間に夢を見たのだ。
 頭を振りながら体を起こすと、また、ずきんっ!
 今度は間違い無い。心ではない。
 痛むのだ。前髪に隠れている右の瞳が。何か異物が入り込んだように、ずきずきと断続的に痛む。
 そっと、右目に手を当ててみる。特に腫れている様子は感じられない。
 夢を見始めた頃から、少しづつ痛みがひどく、間隔が短くなってきている。原因はわからない。あるいは、ゼロスの言っていた"枷"に関係しているのかもしれない。
 押さえた右目から、涙が一滴零れ落ちた。
 その涙が、痛みのせいなのか。それとも、失われた過去に対するものなのか、彼には分からなかった。ただ、流れ落ちる涙をぬぐいもせず、見つめる先は一つだった。
―セイルーン―
 そこにいるはずの少女。
 明るく、ひたすらに自分を信じてくれた少女。彼女の天真爛漫さにどれだけ救われたか分からない。水筒につけたブレスレットを取り出す。別れのとき、泣きながら渡された彼女のトレードマークの一つ。
 彼女を救うためならば、魔族でさえもたばかれる。かけがえの無い少女。
「・………アメリア」
 呟きは、風にかき消されて流れていった。


                  Go To Next


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 はい、ゼルガディス編。一応終わりです。次回からは再びアメリアが出てきますが、
ちょっといつもより元気がないかもしれません。
 しかし、ゼル編ってもっと短くする予定だったのに,何でこんなに書いてしまったんだろう(汗)
やっぱり突っ込み役がいると書きやすくていかんなぁ。た,楽しすぎる。

 そう言えば,友達とある約束をしたんだが,彼女はここに来れたのだろうか?

 PS最後になりましたが,ももへいさん。いつも感想ありがとうございます!!
  あなたの励ましに支えられつつ,思いっきり趣味に走った毎日を過ごしておりまする。
  一体何話で終わるのか,本人にもわかっておりませんがどうぞ最後まで付き合ってやってください。
  
 あああああああああああああ!!早くラヴラヴなところが書きたいぃぃぃぃ!!
                ・・・・・・・・・ああ、つい,本音が。