◆−Which is real?[1]−石崎菰(5/19-00:04)No.6813
 ┣……わお。−庵 瑠嬌(5/22-17:00)No.6831
 ┃┗ありがとうございます☆−石崎菰(5/23-00:30)No.6834
 ┗Re:Which is real?[2]−石崎菰(5/23-01:28)No.6835
  ┣なんて素敵なゼロスさんっ♪−庵 瑠嬌(5/23-16:44)No.6840
  ┃┗感謝感激雨霰(笑)−石崎菰(5/25-23:41)No.6880
  ┗Which is real?[3]−石崎菰(5/25-23:27)No.6879


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6813Which is real?[1]石崎菰 E-mail 5/19-00:04


はじめまして☆
ここに書き込むのは初めてなんですが、私なんぞのような者が、果たしてここにいてもいいのでしょうか……(どきどき)
駄文です。お目汚しですー!( ̄Д ̄;)
こんなんでもゼロリナだったり……(本当か)

それにしても……明日考査の受験生が、こんなところで何してんだろう……

-------------------------------------------------

Which is real?[1]


それは、余りにも唐突すぎた、変化。
異変に気付いたのは、驚く程呆気無く。またそれ故に、あり得るべからざることだと、信じようと、した。
彼女の口から吐き出された言の葉は、それほどまでに、非現実めいていた。

『ゼロス……誰、それ?』

皆が声を失った。──たった一人、彼女自身を、除いて。
そして、もう一人。
『彼』自身を、除いて。



その瞬間、皆が凍り付いたように動かなくなった。
あたしは訳が分からず、今し方自分が零した言葉を、反芻してみる。
(ゼロス……誰、それ? って、言ったのよね……あたし)
朝食を済ませた後、アメリアがぽつりと思い出したように呟いた言葉に、そう言って返したのだ。
『今日はゼロスさん、来ませんでしたね。いつもは必ずリナさんの顔を見に来てたのに』
だって、その名前には、憶えがなかった。これまで17年間生きてきた中で、そんな名前の人間には、一度もお目にかかってはいない。
記憶力はいい方だから、名前を聞いても分からないのなら、まず、知らないと言っていい。
その……筈なのに。
今の目の前の仲間達の顔は、誇大描写でも何でもなく、真実、驚愕に歪んでいて、決して自分をからかっているなどという様子ではない。
「や、だなぁ……冗談、キツいですよ、リナさん……」
「アメリア……」
「いくらゼロスさんが流石にちょぉっとうっとぉしかったからって、そんな風に言わなくてもいいじゃないですかぁ」
「ちょっと待ってよ。本当に、あたしは……」
そんな人、知らない。
「ほら、黒髪のおかっぱ頭の、黒い神官服着た、『ヒミツです』が口癖の……」
そんな人、知らない。
「知らない……あたし、そんな人、知らない……」
そんな人、知らない。
「リナ。奴のこと、本当に、憶えててないのか?」
そんな人、知らない。
「ゼル、まで……なんで? 憶えてるも何も、あたし、そんな人……」
そんな人、知らない。
「俺だって憶えてるんだぞ? ゼロスのこと。本当に忘れちまったのか? リナ」
そんな人、知らない。
「だって、だってガウリィ……知らないんだもの……あたし、あたし……」
あたし、そんな人、知らない。
憶えてないんじゃない。忘れたんじゃない。
初めから、知らないだけ。
「嘘……」
アメリアが、呆然としたように呟く。
ゼルも、ガウリィも、困惑しきった表情で、あたしを見つめていた。
「なんで……? どうして、そんな顔すんのよ……皆……」
困惑しているのは、こっちなのに。
「知らないから知らないって言っただけよ? だって本当に知らないんだもの……憶えてないとか、忘れたとかじゃなくって、本当に知らないのよ!」
「リナ……」
「そうよ、リナよ! あたしはリナ=インバースだわ! どらまたで、盗賊殺しのリナ=インバースよ!? なのに……どうして!?」
どうして、『違う』の!?
「あんた達の知ってる『あたし』は、ゼロスって人のことを知ってる、でもあたしは知らない、知らないのよ!?」
どうして!?
「なんで……なんで『違う』のよぉ……」
じゃあ、あたしは、この『あたし』は……
「あたしは、一体、誰なのよ……?」
呟いて、自分自身をかき抱いた。
このままだと、『あたし』が何処かへ行ってしまいそうで。
『あたし』の中で、ゆっくりと、何かが崩れていくような気がした。
そして、どこか遠い処で──

──誰かが、残酷な微笑みを浮かべたような気がした──


-------------------------------------------------

はい、何故か続きます。
ゼロリナのくせに、ゼロスが出てきません。
いや、出てるといえば、出てるんですが……バレバレですね(笑)
しかもリナ、ゼロスのこと知らないし(笑)困ったもんです。
よろしければ、また続き読んでやって下さい。

次回、ゼロス君出ます……出なくても、無理矢理出します。

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6831……わお。庵 瑠嬌 5/22-17:00
記事番号6813へのコメント


 はじめまして。
 庵 瑠嬌と申します。これからよろしゅうお付き合い願います。

>
>はじめまして☆
>ここに書き込むのは初めてなんですが、私なんぞのような者が、果たしてここにいてもいいのでしょうか……(どきどき)

 わたくしがいるのですから、当然、あなたもいいと思います。

>駄文です。お目汚しですー!( ̄Д ̄;)
>こんなんでもゼロリナだったり……(本当か)
>
>それにしても……明日考査の受験生が、こんなところで何してんだろう……

 わたくしも受験生……でも、あなたのほうはその文章力から察するに、高校生ですか?

>
>それは、余りにも唐突すぎた、変化。
>異変に気付いたのは、驚く程呆気無く。またそれ故に、あり得るべからざることだと、信じようと、した。
>彼女の口から吐き出された言の葉は、それほどまでに、非現実めいていた。
>
>『ゼロス……誰、それ?』

 これ見た瞬間に、ゼロスさん大ショーック!!
 かと思ったのですが……このゼロスさん、すっごく強そうですわね。

>
>皆が声を失った。──たった一人、彼女自身を、除いて。
>そして、もう一人。
>『彼』自身を、除いて。
>
 その場に?いません……わよね。あら?
 アストラル、から……見てたんでしょうか?
 

>『今日はゼロスさん、来ませんでしたね。いつもは必ずリナさんの顔を見に来てたのに』

 来てたんですかぁぁぁっ!?
 わぁ、そんな日常の中で、突然の異変と言う奴ですわね。
 

>だって、その名前には、憶えがなかった。これまで17年間生きてきた中で、そんな名前の人間には、一度もお目にかかってはいない。
>記憶力はいい方だから、名前を聞いても分からないのなら、まず、知らないと言っていい。

 もしも、相手が盗賊だったら忘れていると思いますけど……。
 あ、でも、知らない→でも知っているはず→知っているはずなのに覚えていない→そこまできれいに忘れてしまったならそれは盗賊。
 なんて、論理展開、むちゃくちゃですものね。
 しかしリナさん……すっごく、きれいに忘れてますわね。
 十七年間を頭の中で回想し、それでも思い出さないとは。



>「や、だなぁ……冗談、キツいですよ、リナさん……」
>「アメリア……」
>「いくらゼロスさんが流石にちょぉっとうっとぉしかったからって、そんな風に言わなくてもいいじゃないですかぁ」

 うっとうしかったんですか……ゼロスさん。
 うぅん……今回のゼロスさん、少しダークっぽいと思っていたのですが……。
 早く、ゼロスさん、出してくださいませ。


>「ちょっと待ってよ。本当に、あたしは……」
>そんな人、知らない。
>「ほら、黒髪のおかっぱ頭の、黒い神官服着た、『ヒミツです』が口癖の……」
>そんな人、知らない。
>「知らない……あたし、そんな人、知らない……」
>そんな人、知らない。
>「リナ。奴のこと、本当に、憶えててないのか?」
>そんな人、知らない。
>「ゼル、まで……なんで? 憶えてるも何も、あたし、そんな人……」
>そんな人、知らない。
>「俺だって憶えてるんだぞ? ゼロスのこと。本当に忘れちまったのか? リナ」
>そんな人、知らない。
>「だって、だってガウリィ……知らないんだもの……あたし、あたし……」
>あたし、そんな人、知らない。
>憶えてないんじゃない。忘れたんじゃない。
>初めから、知らないだけ。

 そんな人、知らない。ですか……冷酷無比にきれいさっぱり、かけらも残さず記憶から抹消されてますわね。
 しかしガウリイさん……『俺だって憶えてるんだぞ』とは……自覚ありのクラゲさん(笑)。


>「あんた達の知ってる『あたし』は、ゼロスって人のことを知ってる、でもあたしは知らない、知らないのよ!?」
>どうして!?
>「なんで……なんで『違う』のよぉ……」
>じゃあ、あたしは、この『あたし』は……
>「あたしは、一体、誰なのよ……?」
>呟いて、自分自身をかき抱いた。
>このままだと、『あたし』が何処かへ行ってしまいそうで。
>『あたし』の中で、ゆっくりと、何かが崩れていくような気がした。
>そして、どこか遠い処で──

 そうか、知っているはずのことを知らない、って言うのは、実は凄く恐怖なんですのね。
 そうか……リナさんかわいそう……。
 誰なんでしょうね、リナさんの記憶からゼロスさんを奪ったのは!?

>
>──誰かが、残酷な微笑みを浮かべたような気がした──
>

 これって、ゼロスさんなのかなぁ……と、わたくしは思ったのです。
 そうなると、リナさんの記憶奪ったのはゼロスさんってことで、ゼロスさんってとっても意地悪……とおもって。
 でも、日常生活ではひょうきんらしいし……魔族さんってわかりません。


>はい、何故か続きます。
>ゼロリナのくせに、ゼロスが出てきません。
>いや、出てるといえば、出てるんですが……バレバレですね(笑)

 じゃあ、わたくしの考え……正解かな?
 続いてくれて、嬉しいです♪

>しかもリナ、ゼロスのこと知らないし(笑)困ったもんです。
>よろしければ、また続き読んでやって下さい。

 勿論、読みますわっ
 楽しみにしております(はぁと)

>
>次回、ゼロス君出ます……出なくても、無理矢理出します。

 次回……お待ちしております。ゼロスさん、出なくても、無理やりそういう風に、思考をゆがめます(←駄目)
 それでは、失礼をば……


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6834ありがとうございます☆石崎菰 E-mail 5/23-00:30
記事番号6831へのコメント

こちらこそはじめまして。
あんな駄文を読んで下さって、ありがとうございました〜(*^▽^*)

> はじめまして。
> 庵 瑠嬌と申します。これからよろしゅうお付き合い願います。

いえいえ、こちらこそ。

> わたくしも受験生……でも、あなたのほうはその文章力から察するに、高校生ですか?

そうです……高校生です……ホントに何やってんだか。
勉強しろっつの(笑)

> これ見た瞬間に、ゼロスさん大ショーック!!
> かと思ったのですが……このゼロスさん、すっごく強そうですわね。

強いっつーか、ある意味二重人格ですね。うちのゼロスは。

> その場に?いません……わよね。あら?
> アストラル、から……見てたんでしょうか?

正解ー☆ アストラルサイドから、ちゃんと見てました。

> 来てたんですかぁぁぁっ!?
> わぁ、そんな日常の中で、突然の異変と言う奴ですわね。

そうなんですよー! 毎日来てたんですっ(笑)
ゼロスの朝はリナを見なきゃ始まらない、みたいな!(爆)

> しかしリナさん……すっごく、きれいに忘れてますわね。
> 十七年間を頭の中で回想し、それでも思い出さないとは。

忘れてます……というか、忘れた訳ではないんですけどね。
まぁ、それは2話目以降に……(早よ書け)

> うっとうしかったんですか……ゼロスさん。
> うぅん……今回のゼロスさん、少しダークっぽいと思っていたのですが……。
> 早く、ゼロスさん、出してくださいませ。

二重人格ですからね、ゼロスさん。
表向きのゼロスは、やはりうっとぉしかったのではないかと(笑)
魔族なゼロスは、ダークです。……うちのはね。

> しかしガウリイさん……『俺だって憶えてるんだぞ』とは……自覚ありのクラゲさん(笑)。

まあ、それほど印象に残っていた、と、そういうことにしておきましょう(笑)

> そうか、知っているはずのことを知らない、って言うのは、実は凄く恐怖なんですのね。
> そうか……リナさんかわいそう……。
> 誰なんでしょうね、リナさんの記憶からゼロスさんを奪ったのは!?

誰なんでしょう……ふふ(謎)

> じゃあ、わたくしの考え……正解かな?
> 続いてくれて、嬉しいです♪

大正解ですね(笑)
続き……このコメント書き終わったら、仕上げます(爆死)

> 次回……お待ちしております。ゼロスさん、出なくても、無理やりそういう風に、思考をゆがめます(←駄目)
> それでは、失礼をば……

あ、ゼロスはちゃんと初めから出てますんで、御安心下さい(笑)
また懲りずに読んでやって下さいねー……(切実)

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6835Re:Which is real?[2]石崎菰 E-mail 5/23-01:28
記事番号6813へのコメント

続きですー。これで終わる……ハズだったのに。
なんだかまだ続きそうな予感……何故?

-------------------------------------------------

Which is real?[2]


くつり。
笑う気配。
深い闇に包まれたその空間に、より一層の闇がわだかまる。
「……以外と、呆気無いものですね……」
呟いて、心から楽しそうに微笑んだその横顔が、妖艶な程美しくて、彼女は、全身が総毛立つのを感じた。思わず、肩を抱く。
彼のこの人外の美しさは、いつだって、恐怖しか呼ばない。
いつものにこやかな笑みではなくて、本当の……魔族としての『彼』が垣間見えて、本能的に、恐いと感じてしまうのだ。
「悪趣味」
その恐怖を振り払うように、強い口調で吐き捨てた。……無論、心底そう思ってはいたので、自然と声を荒げたのは恐怖を払拭する為だけではなかったと思う。
「おや、気に入りませんでしたか?」
「気に入るワケないじゃない……なによあれ」
言って、目の前に広がる光景を眺める。
呆然と立ちすくむ、ガウリィ、アメリア、ゼル。そして……
彼等に囲まれて、うずくまりそうになりながら、震えているあれは……そう、『あたし』
栗色の髪、鮮紅色の瞳、白磁の肌の色……どこをとっても自分と全く同じ者が、そこにいた。
「あれは、何?」
「見ての通りですが?」
「……あたし、よね……あれ……」
「ええ」
「……じゃあ、この『あたし』は……?」
「『あなた』も、リナさんですよ」
なんの躊躇もなく、言い切る。いつもの微笑みと共に。
その仕種に何故か安堵を憶えて、リナは苦笑した。そんなことをしている場合では、ない筈なのに。
「説明くらい、してくれてもいいんじゃないの? 朝起きたらいつの間にかこんな所に連れ込まれてて、何がなんだかさっぱり分かんないわよ……おまけに、『あたし』がもう一人、だなんて……一体あんたが何企んでんのか、知る権利があたしにはあるわ」
教えてくれなかったら、問答無用で神滅斬よ、と脅しをかけるのも忘れずに。リナは、精一杯の剣幕で、ゼロスに詰め寄った。
「やれやれ……リナさんには、敵いませんねぇ……」
顔は正面の光景へと注いだままに。拍子抜けする程あっさりと、ゼロスは口を開いた。
初めから問われれば教えるつもりだったのか、それとも真実を告げて、その後のリナの反応をこそ必要としたのか──あるいは、その両方か。
「僕の記憶を持たないリナさんと、僕の記憶を持つリナさん……これがどういうことか、分かりますか?」
まるで謎掛けのような、問い。リナは、おそるおそる、口を開く。
「あたしは……あの『あたし』の記憶の一部って……こと?」
「ちょっと違いますね」
まあ、外れてもいませんけれど……そう前置きして、ゼロスはくるり、とリナに向き直った。
触れ合う、鮮紅と紫闇の視線。
「僕は、リナさんが欲しかっただけなんですよ」
「………………はぁ?」
ゼロスの口から放たれた言葉に、一瞬、頭が真っ白になったリナは、次の瞬間、自分でも間抜けだと思ってしまうくらいにすっとぼけた声を吐き出していた。
「……答えになってないわよ、それ」
「僕が何企んでるのか知りたいって言ったのは、リナさんでしょう?」
「う……いや、まぁ、それはそーなんだけどっ! 今聞いてんのは、何であたしが二人もいるかってことよっ!!」
顔を朱に染めたまま、ゼロスの襟首を締め上げながら、リナは自棄のように叫んだ。
「我儘ですねぇ……」
「うるさいっ! 先に話逸らしたのは、あんたの方でしょーがっ!」
「分かりました、今度はちゃんとお話ししますから、だから放して下さい、ね?」
「……本当に?」
「本当です☆」
にっこりと満面の笑みを浮かべながら、手をぱたぱたと振るゼロス。
うっ……胡散臭いっ……
この笑みに今まで何度となく騙されてきたリナの脳裏に、警戒音がけたたましく鳴り響いた。
でっ……でも……話聞かないとこれからの対策も立てようにないし……身の振り方も決まんないし……
だからといってゼロスにまんまとハメられるのは……はっきり言って──言わなくても、絶対御免だ。
そんなリナの葛藤を見抜いたものだろうか、未だリナに襟首を掴まれたままのゼロスが、ちょっと困ったような笑みを浮かべた。
「嘘なんか言いませんよぉ」
「信用できるかっ!」
「……本当です。僕はリナさんにだけは、嘘はつきません。真実を必ず告げると……誓います」
いや……魔族にンなこと誓われても……
言おうとしたリナはしかし、己を見つめたゼロスの、驚く程真摯な、深い闇色の瞳に、全てを飲み込んだ。
ほら、こうやっていつも、コイツに捕らわれていくんだ。
本気の見えない、この笑顔も瞳も。全部がきっと罠で、あたしはいつの間にか、そこから逃げられなくなってる。
きっと、ゼロスは本気じゃないのに。
「……嘘だって分かったら、神滅斬だかんね」
「はい」
嬉しそうに頷くゼロスは、本当にいつも通りのゼロスで。リナは溜息をつきながら、その手を下ろすしかなかった。



「……ってぇと、なに? あの『あたし』は、このあたしの身体に、あんたが創ったかりそめの記憶を植え付けた存在って、こと?」
「まぁ……簡単に言ってしまえば、そうですね。記憶と言うより、リナさんの精神体のコピーそのものなんですけど」
「で、今のあたしは、身体から引き離された精神体だけの存在だ、と」
「いやぁ、大変だったんですよぉ。いくらコピーするだけとはいえ、そこから僕に関しての記憶を全部消さなきゃいけなかったんですから……結構苦労したんですよ。僕と言う要素を抜いて記憶を矛盾なく再構成したり、ガウリィさんに怪しまれないように、僕の魔力の痕跡を、完全に抹消したり……」
「『いやぁ、大変だったんですよぉ』じゃなぁいっ!!」
がくがくがく
再びゼロスの胸倉をひっ掴んで、これでもかと言わんばかりに締め上げる。相手は精神生命体なのだから、あまり意味がないようにも思えるが、まあ、気分というものなのだろう。
「勝手に身体から引き離されて、おまけに身体には別の精神体入れられて! 今度は何の計画なのよ!! さあ吐け、今すぐ吐けえぇっ!」
「あ……あの、別に腹心の方々の計画とかではなくて……これ、僕の独断なんです、けど……」
「………………え?」
「だから……僕がそうしたかったから、っていうのが、理由といえば理由なんですけど……さっき言ったじゃないですか。リナさんが欲しかっただけだって」
「欲しかったって、あたしは……」
物か、と言いかけて、気付いた。ゼロスが魔族だということに。
玩具ってワケ……アイツの……
「……で、戻れるの?」
「は?」
「は?、じゃないわよ。あたしは身体に戻れるのかって聞いてんの」
「それはまあ……もともとリナさん御自身の身体なんですし……身体に近付けば、自然に、同化しようとする働きが起こると思いますけど……戻るおつもりなんですか?」
──戻れると、思っているんですか?
言葉の裏に隠された、意図。手放すつもりなどないという……その、意志。
口には出されなくとも、感じ取れた。互いに精神体であったからこそ、その想いが容易に通じたのか。
変わらない笑み。いつも通りの、にこやかな。変わったのは、その……纏う空気。
彼の周りにわだかまる闇──それは、彼の存在そのもの──が、濃くなった。
いつの間にか放していた手を、ゼロスに掴まれる。はっとする程、冷たい人外のそれ。気を取られた一瞬に、易々と、彼の胸に引き込まれた。
「逃がしませんよ……やっと、手に入れたのに。僕を……僕だけを見てくれるリナさんを……」
耳元で、切なげに囁かれた言葉。余りにそれが苦しそうで、リナはまたしても、口にしかけた文句だの愚痴だのを引っ込めるしかなく。
代わりにするりと口から零れたのは、さっきからどうしても解けなかった、疑問。
「ねぇ、あんたさ……どうして、わざわざこんな手間暇かかるようなコトしたの?」
「え……」
「精神体のコピーなんて代物が創れるんなら、いっそのこと、記憶なんか消さないで、そのコピーを手元に置いておけば良かったじゃない。どうせ、本体と同じなんでしょ?」
「……コピーは、コピーにしか過ぎませんよ……少なくとも、僕にとってはね。本当の『リナさん』には、及ぶべくもありません。だから──です」
「でも、記憶を消す必要なんてなかったんじゃない?」
「あれは……僕からのほんの置き土産程度なんですけどね」
突然の記憶の喪失……そして生まれる、彼女の不安と恐怖。
突然の彼女の変化……そして生まれる、仲間の困惑と懐疑。
それらを味わってみるのも、また一興かと思っただけ。ほんの、気紛れ程度の物だった。そう言い切るその微笑みは、魔族のものに相違なく。リナは、無意識の内に、僅かに身体を強張らせた。
気紛れで、人間などどうにでもできると……誇張でなく、大言壮語でなく、それだけの力を真実持つが故の、自信。
触れた部分から、伝わってくるそれらに、リナは改めて、自分がとんでもない存在に捕まってしまったのだと、実感した。実感して──それでも、どうしようもないくらいに捕らわれてしまっている自分と、どうしたって変わらない自分の想いに行き当たるだけで。
冷たい腕に抱き締められたまま、くすくすと、呆れたように笑うことしか、出来なかった。
そんなリナの笑い声を耳元に心地良く感じながら、ゼロスは、そっと心の中で一人ごちた。

(それに……僕を知り、見つめてくれるリナさんは、二人もいらない……いらないんですよ)

闇が、二人を包み込むように、よりその深みを増して──
そして……何も見えなくなった。


-------------------------------------------------

はい、一応2話目です。
これで終わってもいいんですけどね……ホントは。
でもなんだかお互いにお互いの気持ちに気付いてないしー、あのあとコピー(仮)のリナはどーなったんだか分かんないしー……
なので、もしかしたら、3話目も、書くかもです。
いや、ちゃんとラストまで考えてあるんですよぅ。ただ、長くなりそうで……(苦笑)下手すると、2話目より伸びそうな……どーしましょう(笑)
多分……いやきっと……書く、かな? ……どーだろう……

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6840なんて素敵なゼロスさんっ♪庵 瑠嬌 5/23-16:44
記事番号6835へのコメント


 こんにちは、庵 瑠嬌でございます。 
 ゼロスさんのあまりに素敵な魔族ぶりに、表情が壊れそうで周囲が怖いですわっ……!(ここは図書館←汗)


>続きですー。これで終わる……ハズだったのに。
>なんだかまだ続きそうな予感……何故?

 いっくらでも続いて結構ですっ。このリナさんとゼロスさんって……非常に好みですわ。


>まるで謎掛けのような、問い。リナは、おそるおそる、口を開く。
>「あたしは……あの『あたし』の記憶の一部って……こと?」
>「ちょっと違いますね」

 自分が本体じゃないかもしれないって……あんまり、そう簡単に口にしにくいでしょうけど……。
 そういう仮定をちゃんとまともに考えるところが、リナさんってやっぱりどこか冷静な人ですわね。
 しかし、あのゼロスさんが、単なる記憶の一部を手に入れるだけで、満足する性格とは思えないでしょうが、リナさん(笑)。


>触れ合う、鮮紅と紫闇の視線。
>「僕は、リナさんが欲しかっただけなんですよ」
>「………………はぁ?」
>ゼロスの口から放たれた言葉に、一瞬、頭が真っ白になったリナは、次の瞬間、自分でも間抜けだと思ってしまうくらいにすっとぼけた声を吐き出していた。

 ゼロスさん……よくぞおっしゃってくださったぁっ!と、思わず喜びました。
 まぁ……リナさん、そこまで意外に思わなくてもいいとは思いますけど……。
 ちょっとゼロスさん、可哀想。
 

>「我儘ですねぇ……」
>「うるさいっ! 先に話逸らしたのは、あんたの方でしょーがっ!」
>「分かりました、今度はちゃんとお話ししますから、だから放して下さい、ね?」
>「……本当に?」
>「本当です☆」
>にっこりと満面の笑みを浮かべながら、手をぱたぱたと振るゼロス。

 一、欲しいって思って連れてきちゃったゼロスさんのほうが、十分にわがままです。
 二、首しめられた状態で、にっこりと満面の笑みを浮かべるなんて、ある意味もっと怪しまれるだけじゃありません?
 以上、この会話においてわたくしがいだきました感想でございます。
 

>うっ……胡散臭いっ……
>この笑みに今まで何度となく騙されてきたリナの脳裏に、警戒音がけたたましく鳴り響いた。
>でっ……でも……話聞かないとこれからの対策も立てようにないし……身の振り方も決まんないし……
>だからといってゼロスにまんまとハメられるのは……はっきり言って──言わなくても、絶対御免だ。

 すっごく……信用ない、ゼロスさん(笑)。
 まぁ、しかたありませんわね。二重人格ですし。
 いやぁ、すごい反応。というか思考。面白いです。


>「嘘なんか言いませんよぉ」
>「信用できるかっ!」
>「……本当です。僕はリナさんにだけは、嘘はつきません。真実を必ず告げると……誓います」

 嘘はつかなくても、いつも本当のことを言うにしても。
 知ってても黙っているってことが……甚だしくあるような気がするのは、わたくしの、ゼロスさんに対する不信の致す偏見なのでしょうか。


>ほら、こうやっていつも、コイツに捕らわれていくんだ。
>本気の見えない、この笑顔も瞳も。全部がきっと罠で、あたしはいつの間にか、そこから逃げられなくなってる。
>きっと、ゼロスは本気じゃないのに。
>「……嘘だって分かったら、神滅斬だかんね」
>「はい」
>嬉しそうに頷くゼロスは、本当にいつも通りのゼロスで。リナは溜息をつきながら、その手を下ろすしかなかった。

 リナさん……ゼロスさんのお相手って、すさまじく疲れそうですわね……。
 いや、なにかものを聞くたびに、こんな手続き(違う)しなければならないなんて。
 ゼロスさん、もう少し、信用してもらえるよう振舞った方がいいのではないかしら……。そうしちゃったら、こちらが少々つまらないのも事実ですが(笑)


>「いやぁ、大変だったんですよぉ。いくらコピーするだけとはいえ、そこから僕に関しての記憶を全部消さなきゃいけなかったんですから……結構苦労したんですよ。僕と言う要素を抜いて記憶を矛盾なく再構成したり、ガウリィさんに怪しまれないように、僕の魔力の痕跡を、完全に抹消したり……」

 悪びれませんわね。
 普通、被害者にここまで丁寧に事情説明して、苦心したところまでまたまたご丁寧に説明して、同意を求めるようなこといいますか?
 ゼロスさんだから、しょうがないとは思いますけど(笑)。


>「は?、じゃないわよ。あたしは身体に戻れるのかって聞いてんの」
>「それはまあ……もともとリナさん御自身の身体なんですし……身体に近付けば、自然に、同化しようとする働きが起こると思いますけど……戻るおつもりなんですか?」
>──戻れると、思っているんですか?
>言葉の裏に隠された、意図。手放すつもりなどないという……その、意志。
>口には出されなくとも、感じ取れた。互いに精神体であったからこそ、その想いが容易に通じたのか。

 戻す気ないなら、体に戻ることできるーなんて、言わない方が、リナさんもっと割り切れるんじゃないですかー?
 ゼロスさんって、そう言うとこ不親切ですわよね。
 ……別の言い方をすると、いじめっ子……?


>「あれは……僕からのほんの置き土産程度なんですけどね」
>突然の記憶の喪失……そして生まれる、彼女の不安と恐怖。
>突然の彼女の変化……そして生まれる、仲間の困惑と懐疑。
>それらを味わってみるのも、また一興かと思っただけ。ほんの、気紛れ程度の物だった。そう言い切るその微笑みは、魔族のものに相違なく。リナは、無意識の内に、僅かに身体を強張らせた。
>気紛れで、人間などどうにでもできると……誇張でなく、大言壮語でなく、それだけの力を真実持つが故の、自信。

 なんて言うか……ゼロスさん、魔族さん……ですねぇー……。
 でも、なんかんだいって、掌中におさめないと、安心できないなんて、実力でリナさん口説き落とす自信がない証拠ですわっっ。
 もう少し、根性で……。あう……ゼロスさんのキャラではないですね。
 リナさん手に入れるだけで満足せずに、他の面でも楽しもうとするところが、性格の悪さモロ見えで好きです(はぁと←をい)


>触れた部分から、伝わってくるそれらに、リナは改めて、自分がとんでもない存在に捕まってしまったのだと、実感した。実感して──それでも、どうしようもないくらいに捕らわれてしまっている自分と、どうしたって変わらない自分の想いに行き当たるだけで。
>冷たい腕に抱き締められたまま、くすくすと、呆れたように笑うことしか、出来なかった。

 リナさんは、やはりゼロスさんが好きなんですのね?
 でも、ゼロスさん、ちゃんと分かっているんでしょうかねぇ……?
 リナさんだって、ゼロスさんが本気で執着してると思わないで、単なる玩具扱いだ、としか思ってないみたいですし……。
 難儀なカップルですわねえ……。


>はい、一応2話目です。
>これで終わってもいいんですけどね……ホントは。
>でもなんだかお互いにお互いの気持ちに気付いてないしー、あのあとコピー(仮)のリナはどーなったんだか分かんないしー……

 やっぱり、気づいてませんかお互いっ!そりゃよくありませんよ。
 らぶらぶはっぴーえんどまでいきましょうっ!
 コピーリナさんも、あのままじゃ、よくないと思いますわ。
 ガウリイさんと幸せにしてあげるなり、それとも、元のように戻すなり、してあげないと人権保護団体が……(なにもいわないって)
 いや、要するに、三話目読みたいだけなんですけど。


>なので、もしかしたら、3話目も、書くかもです。
>いや、ちゃんとラストまで考えてあるんですよぅ。ただ、長くなりそうで……(苦笑)下手すると、2話目より伸びそうな……どーしましょう(笑)
>多分……いやきっと……書く、かな? ……どーだろう……

 書いてください。悩んでいるなら、書く気もあるわけでしょう?
 わたくし読みたいです〜〜〜っ!影に日向に願っておりますわっ。
 それでは、失礼をば……。
 

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6880感謝感激雨霰(笑)石崎菰 E-mail 5/25-23:41
記事番号6840へのコメント

> こんにちは、庵 瑠嬌でございます。 
> ゼロスさんのあまりに素敵な魔族ぶりに、表情が壊れそうで周囲が怖いですわっ……!(ここは図書館←汗)

こんにちはっ!
毎回レスありがとうございますー☆


> いっくらでも続いて結構ですっ。このリナさんとゼロスさんって……非常に好みですわ。

なんとかあと1、2回で終わりそうです(笑)
これが終わったら、ここで発表(というほど大層なモノでもないんですけど……)したい話がありますので、そっちのほうに取り掛かろうかと思ってます。


> 自分が本体じゃないかもしれないって……あんまり、そう簡単に口にしにくいでしょうけど……。
> そういう仮定をちゃんとまともに考えるところが、リナさんってやっぱりどこか冷静な人ですわね。

私のリナさん像は、『どんな極限状態でも、常に沈着冷静な人』です。これが基本になってます。
しかしゼロスがからむと例外(笑)


> しかし、あのゼロスさんが、単なる記憶の一部を手に入れるだけで、満足する性格とは思えないでしょうが、リナさん(笑)。

しません。ずぇったい、しません(断言)


> 一、欲しいって思って連れてきちゃったゼロスさんのほうが、十分にわがままです。
> 二、首しめられた状態で、にっこりと満面の笑みを浮かべるなんて、ある意味もっと怪しまれるだけじゃありません?
> 以上、この会話においてわたくしがいだきました感想でございます。

はう……ぐうの音も出ない(笑)
でも、そこがゼロスさん☆(謎)


> 嘘はつかなくても、いつも本当のことを言うにしても。
> 知ってても黙っているってことが……甚だしくあるような気がするのは、わたくしの、ゼロスさんに対する不信の致す偏見なのでしょうか。

あ、全然偏見じゃありませんよ、事実です☆(ひでぇ)


> 悪びれませんわね。
> 普通、被害者にここまで丁寧に事情説明して、苦心したところまでまたまたご丁寧に説明して、同意を求めるようなこといいますか?
> ゼロスさんだから、しょうがないとは思いますけど(笑)。

そうです、しょうがないんです。
私のゼロスさん像って、こんなんです、やっぱり……(笑)


> 戻す気ないなら、体に戻ることできるーなんて、言わない方が、リナさんもっと割り切れるんじゃないですかー?
> ゼロスさんって、そう言うとこ不親切ですわよね。
> ……別の言い方をすると、いじめっ子……?

きゃー、いじめっ子ー!
好きなんですよぅ、いじめっ子ゼロスさん(笑)


> リナさん手に入れるだけで満足せずに、他の面でも楽しもうとするところが、性格の悪さモロ見えで好きです(はぁと←をい)

ここ、書いてて一番楽しかったです……


> やっぱり、気づいてませんかお互いっ!そりゃよくありませんよ。
> らぶらぶはっぴーえんどまでいきましょうっ!

いきますよー、ラストはらぶらぶです(笑)砂吐きそうなくらい甘くする予定(笑)


毎回、御感想ありがとうございます。
最後まで見届けていただければ、非常に嬉しいです。
それでは☆

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6879Which is real?[3]石崎菰 E-mail 5/25-23:27
記事番号6835へのコメント

3話目、余りに長かったので、分けました(^_^;)
なんでこんなに長くなったかな……この話。
本当は1話、長くても2話で終わるはずだったのに。
……だからプロット立てるの苦手なんだってばよ(滅殺)

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Which is real?[3]



                    描かれた夢の終焉。
           そして、紡がれた幻と、捕らわれた現が……ひとつになる。



宿のベッドに深く身を沈めて、静かに溜息をついた。そして、吐息と同時に、また、その単語が……いや、名が、滑り落ちる。
「……ゼロス……」
リナは、まるで幼子が初めて言葉を覚えた時のように、また、それが何より面白い言葉遊びであるかのように、ただただ、その名を口にし続けた。──そうすることで、何かを掴もうとするように。
あれから──3日。
リナは、自らの中の異変に、気付き始めていた。
理由など……分からない。けれど、初めてその名を口にした時から、呟く度に、自分の中で、何かが変わっていく感覚が強くなっていく。……そう、『何か』が。
「ゼロス……」
ほら、また。
胸の奥が締め付けられるような想いに、リナは両手で顔を覆いながら、ひたすらにその名前を呼び続けた。
「ゼロス……っ」
苦しい。こんなにも苦しい。
心の最奥。自分でも覗くことの出来ない深い処で、その『想い』が渦巻き、あたしを苛んでいる。
辛くて、苦しくて、哀しくて……そしてどうしようもなく、愛しくて。
何が、なんて分からない。知らないんだから。でも、今あたしが感じているこの焦燥にも似た気持ちの原因ならば、分かる。
……あなたを、知らない自分が悔しくて。
あなたの記憶がないのに、あたしの心は、まっすぐにあなたを求めていて……乖離した記憶と感情が、すれ違い、ぶつかって、だんだんとあたし自身を蝕んでいくのを感じる。
助けて。
「ゼロス……っ!」
逢いたい。
「逢い……た、い……」
あなたに。
「ゼロ、ス……ぅ……」
逢いたい、触れたい、その声を聞きたい。
『リナさん』
ほら、記憶がなくても、心は知ってる。この身体は、憶えている。あなたの深くて、柔らかいその声を。
あたしを何度も呼んだ、その声を。
逢って、触れて、その声を聞いて、そして、そうしたら、あたしは──
「言わなきゃ……いけないこと、ある、の……」
苦しい。この想いが。まるで渇ききった大地が一滴の水を渇望するように、あたしは、あなたのことをこんなにも狂おしく求めている。
「だから……逢いたい……」
いつの間にか、両の瞳から涙が零れ出していた。頬を濡らす涙を拭うこともせずに、ただひたすらにリナは、願っていた。
心の底に眠る存在に、出逢うことだけを。
ひた向きな、強い想い。
それが、この創られた夢を断ち切る鍵だとは、決して知ることなしに。
リナは、意図することなく、心のままに、再びその名を口にした。
「ゼロス……!!」

それが、引き金だった。



「何故……?」
それは、決してあり得るはずのない、光景。
あってはならない、光景だった。
目の前で、手に入れたはずの少女が、徐々に、その姿を変じ始めていた。……いや、変わるのではなく……消えていく。ゆっくりと、だが、確実に。
「リナさん……っ!」
この空間──精神世界面において、ゼロスが創り上げた、檻。彼以外の何者の干渉をも受け入れることのない、閉ざされた空間。たとえ彼以上の力を持つ……そう、それが仮に獣王であったとしても、この空間に干渉することなど、出来るはずがなかった。
なのに、眼前で、リナは確実に、ここから逃れようとしている。
伸ばした腕も、既にリナを捕らえることは出来ない。……行ってしまう。
薄れゆく姿で、リナは、呆然とするゼロスに向かって艶然と微笑んだ。
「あたしの、勝ちね……ううん、『あたし』たちの、勝ちだわ」
「リナさん……?」
「呼んだ、から……あの『あたし』が、あんたと逢うことを願い、あんたを呼んだ。あたしはその想いに引き寄せられる……同じ想いは、互いを呼び合うわ。だから、あたしは還れる……」
「リナさん……どうして……?」
「逢いに来て。いつもと同じように、あたしに逢いに来て。そうしたら……」
そうしたら、あんたの敗因を、教えてあげる。
囁かれた最後の言葉は、ゼロスの脳裏に直接響いて……そして、完全に、その空間から、リナの気配は消え去った。

馬鹿ね……

愉しげに、それでもどこか哀しい声音で、ぽつりと最後に呟いて。


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はい、3話目です。
本当はこの後にまだ続くんですけど、これを入れると結構長くなるので、切りました。
でもこれだけだと短いんですよねぇ……困ったものです。
ゼロスさんの敗因、簡単ですよねぇ(笑)
でもゼロスさんは、リナが自分のこと好きだって気付かなかったから、見事にハマったわけですが(笑)
リナじゃないけど、『馬鹿ね……』です。まさに。

さーて、さっさと最終話書くか……