◆−フェラーラの迷夢1−LINA改めCANARU(6/3-20:04)No.6960
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6960フェラーラの迷夢1LINA改めCANARU 6/3-20:04


「あのぉ・・・・・。旅の魔道士と傭兵の方ですか・・・?」
食堂で昼飯の争奪戦をしていたリナ、ガウリイ、ゼル、アメリアの一人の人物が声をかけてきた。


ここはセイルーンから程遠くない中堅国家フェラーラ。
大砲マニアの御領収アルフォソン・デステ侯と美貌の名高いルクレツィア・ボルジア・デステ公爵夫人がおさめる比較的平和な国である。
隣の公国、マントーヴァにはここの御領収アルフォソンの姉でもあるイザベッラが嫁いでいるということにもかなり大きな理由があっての事だろう。
「フェヘ・・・?あんた誰?」
年の頃なら14から15歳くらい。
あくまで外見上はそんなところだが、彼女の様子から若々しいと言った印象は受けられない。
おそらく童顔とはいえ相当な年増だろう・・・(苦笑)。
その他の特徴と言えば肩のあたりで跳ね上がった茶色に染めた癖毛。
顔かたちにに似合わない剣呑そうな眼差し以外これといった特徴も無い中肉中背の学生風の雰囲気である。
地味な黒い服と黒いバックが「いかにも:」と言った感じである・・・(汗)
その人物に向かい、リナはスパゲッティー・カルボナーラを頬張りつつ聞く。
「あ〜の・・・。アタシ、ハリイといいまして・・・。ここ、フェラーラの隣国のマントーヴァのミサガ・カレジオ(カレッジ)で・・・。魔道図書館の司書見習いの勉強してましてえ・・・・。」
フヌケた声でハリイは言う。
「あ・・・・。あの超ド三流カレジオかあ!!」
ガウリイが悪意なしにキツイ事を言う・・・。
そう。ミサガ・カレジオとはこのクラゲのガウリイにすら知れ渡っているくらいの
「超」が付くほどのド・三流・・・・。
最もなに食わぬ顔でそんな滅茶苦茶恥ずかしい学校名をあげるコイツもコイツである・・・。
「はい・・・。その超ド三流大学の学生やってますう・・・。」
屈託のない笑顔でそんなことを言うハリイ・・・。
別の意味でスゴイやつかもしれない・・・・。
「ところでお前・・・。(三流大学とはいえ)図書館司書と言ったな?」
ゼルがハリイに聞く。
大方キメラの体を治す文献について質問しようと言う魂胆だろう。
「はい・・・。パラケルススの怪しいホムンクルスの生成法とか・・・。他にもフリーメイソンの怪しい密議についてとか・・・。あ・・・。ヤベ。こういうこと言ったらあの団体って圧力かけてくるか人を暗殺するかしちゃうんだですよねぇ・・・。いや、実際音楽家のモーツアルトもオペラの「魔笛」その事に関連する秘密を暴露させちゃったからフリーメイソンにって・・・あ・・・。いけない。また余計なことを・・・。ほかにもファウスト博士とメフィストフェレスとかウィジャー版(西洋版コ○●リさん)とかの怪しい文献があって・・・・。結構楽しいですよ・・・・。」
どうやら・・・・。
三流図書館に配属されているらしい・・・・。
最も本人が(そういう趣味の持ち主で)満足しているんならしれはそれで良いかもしれないけれども・・・・(汗)
「でも・・・。個人的には「皇女アナスタシアは生きていたか!?」の方が・・・。」
「馬鹿なこと言ってるんじゃねえよ!!この愚妹!!」
どげらっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!!!
唐突に乱入してきた一人の若い男にマトモに蹴り倒され床に置いてあったバケツにマトモにどつきあいするハリイ・・・・。
「いでええええええええええええ!!!!!あにすんのさ!!リッキー兄貴!!」
起きあがりながら「兄貴」とやら・・・リッキーさんに抗議の声をあげるハリイ・・。
「うるっせ!!この愚妹!!」
またまた妹をどつきまくりながら言うリッキーさん。
なんとなく・・・・故郷の姉ちゃんが脳裏に過ぎるのはきのでいだろーか・・?
「すまねえなあ!!ウチのこの愚妹(アホゥ)が!!」
なおもハリイの頭を小突き回しながらリッキーさんがアタシたち に言う。
年の頃ならガウリイと同じくらい。
地毛はハリイと同じく黒髪であろうが一部にメッシュを入れたところが決まっている。
妹とは対照的な長身の美男とは言い難いがなかなかの好青年である。
ただ・・・。ちょっとヤンキーっぽいけれど・・・。
「いえ・・・。別にかまいませんよ。アタシも結構そういった傾向の本、好きですし。特にフリーメイソンなんていう正義とも悪とも分からない団体にはかなり興味があります!!」
アンタのそーゆー趣味が有るとは思わなかったわ・・・アメリア・・・。
「・・・・・・。」
さすがに返答に窮したのだろう・・・・・。
沈黙するリッキーさん・・・・。
「良かったな・・・。、ハリイ・・・・。お友達ができて・・・・。」
などと訳の分からないことを言い出す・・。

「で・・・。用件はなんなんだ・・・?」
少々疲れ果てた様子でゼル・・・。
まあ・・・。気持ちは分かるけどね・・・・。
「そうそう。三流大学の続き・・・だよな・・・?」
ガウリイ・・・・。違う・・・・。
しかも明け透けに「三流」を連発するとは・・・(苦笑)


「実は・・・。仕事を頼まれて欲しいんだ。」
「まあ・・・。大方そんなこととは思ってはいたけれどもね。」
リッキーさんの切り出した言葉にアタシはあっさり言ってやる。
「へええ・・・。分かってるだなんて・・・。スゴイですねえ・・・。」
いや・・・。ハリイ・・・。マトモに感心せんでも・・・・。
「愚妹(アホ)!!普通このパターンじゃそうだろ!!」
「わかんねーよ・・・。兄ちゃん。サイン強請ってるのかもしんないし・・・。」
妹の馬鹿さ加減か屁理屈か・・・。
とにかく失望の表情をす、再び黙り込むリッキー兄ちゃん・・・。
「で・・・。仕事の内容は?」
とにかく・・・。そう切り出さないとこの兄妹相手では永遠に話は通用しないことを察しアタシから問いかける。
が・・・。
以外にも神妙な面もちでハリイが答えた・・・。
「ご領主様の奥方様・・・。ルクレツィア様の事です・・・。恐れながらも私、多少のコネでルクレツィア様の侍女頭にして従妹に当たるアンジェラ・ボルジア様のお付き役をしているのですが・・・・。」
・・・・・・・・。
ある意味・・・・。コネとは恐ろしいモノかもしれない・・。(だって。三流・・・。)
「「で・・・。コイツ(愚妹)の話によりゃあ・・・。どうもご領主のアルフォソン様と奥方のルクレツィア様、さらにはアンジェラ様ものお三方を巡ってなにやら良からぬ陰謀が巡らされているらしいんだ。」
リッキーさんが付け足す。
「で・・・。その三人の護衛・・・てわけね。」
アタシの問いにリッキーさんは深く頷いた。
かくして・・・。
「燃える正義!!そう!!天が呼ぶ!!地が呼ぶ!!このアメリアを!!アルフォソンさんとルクレツィアさんを守れと!!」
アメリアのコネも働き、アタシ達四人は「客人」と言う名目の「護衛」となったのだ。
ちなみに報酬のほうもかなりのもの。
さらに言ってしまえばその出所はハリイの貯金からだったということを付け足しておく・・。


「此方がアンジェラ・ボルジア様。で・・・。向こうのほうのテラスにいらっしゃるのがルクレツィア・デステ様です。」
何時になく事務的な口調でハリイが言う。
ちなみにリッキーさんは今朝早くどこかへ行ってしまったのでコイツはぶん殴られる心配が無く、堂々と馬鹿してられると言うわけである。
「へえ・・・。どっちもスゴイ美人ね・・・。」
アンジェラさんは漆黒の髪を大きく束ねた三つ編みを真珠を使って束ねている。
その瞳は透き通るようなエメラルド。
どちたかと言えば大ざっぱな顔の作りと健康的な浅黒い肌。
が、かえってそれが緑色の瞳を際立たせる。
一方、奥方のルクレツィアさんはまるで竹久夢二(笑)が描く大正ロマンの美人画のような繊細な雰囲気の女性。
淡い波打つブロンド・ヘアーを無造作に背中に流し、ふっくらとした瓜実顔にはやはり繊細な感じの目鼻立ち。
青灰色の目が色白の肌に生える。
同じような美人でもここまでタイプの違う人種は珍しい・・・。
「で・・・?ハリイさん・・・。アルフォソンさんは・・・・?」
「ああ・・・。あの方なら今いませんよ・・・。」
そうとだけ言って三流大学に行く支度を整え始めるハリイ・・・。
その後ろ姿を眺めつつ「やっぱり・・・。」と言った顔をするアメリア。
「命知らずなんですよ・・・。」
妙に寂しそうにアメリアは言った。



「ルクレツィアさん。」
寂しそうに佇んでいるルクレツィアさんにアタシは声をかけてみる。
「リナさん・・・。ですか・・・。」
寂しそうながらも優しい笑顔を向けてくれるルクレツィアさん。
「どうしたんですか?」
宮廷内で良からぬ事が(まあ・・・。そういった場合大抵は「お家騒動」とか呼ばれるけれども)
「ええ・・・・。夫・・・。アルフォソンの事を・・・。」
なおも心配そうに告げるルクレツィアさん・・・・。
まあ・・・。
怪しい企みが宮廷内で繰り広げられているともなると当然的な事だろう・・・。
「ところで・・・。そのアルフォソンさんとやらは・・・?」
なにやら落ち着かない様子のルクレツィアさんにあたしは声をなおも掛けてみる。
「ええ・・・。今・・・。弟君のジュリオ殿とイッポリート殿と出掛けています・・・。
どうも・・・。放浪癖が有るらしくって・・・。」
どうやら・・・。
ルクレツィアさんは政略結婚の典型「夫に省みられない妻」らしい・・・。
あたしのそんな思いを悟ってだろうか・・・?
ルクレツィアさんは苦笑しながら言う。
「いいえ。あくまで夫は・・・。大砲や魔術に夢中になって旅から旅へと赴く気ままな方ですが・・・。私はそれでもあの方のことを大切に思ってます。ただ・・・。」
それだから心配事も耐えないのであろう・・・。
「夕食時には夫もジュリオ殿もイッポリート殿も戻ります。その時にご紹介いたしますね。」とても優しい笑顔でルクレツィアさんはアタシに言った。


「どこ行ってたの!!ガウリイ!!」
護衛の任務をすっぽかして外出していたガウリイとゼルのうち、(当然のように)ガウリイをとっつかまえてアタシは怒鳴りっつける。
「リナ・・・。」
いつもならここで何らかの(と、言ってもクラゲ並の)自己弁論に走るはずのガウリイだが今日はなんだか様子がおかしい。
「ガウリイ・・・?」
思わずアタシは真剣に尋ねてみる。
「この任務・・・・。最悪の場合・・・おりるぞ・・・。」
いつもの彼らしからぬ発言にアタシは一瞬自分の耳を疑う・・・。
「ガウリイ・・・?」
どういう事・・・・?
「町で噂を聞いた・・・・。今回、何かがここの領主アルフォソン公の身に起きるとしたら・・・・。それはおそらく・・・。ルクレツィア婦人の仕業に違いがない。」
ど・・・どう言う事・・・・?
「ガウリイ・・・。あんた一体何を・・・・?」
「今までにルクレツィア婦人は二回ほど結婚している。しかし・・・。最初の夫は無理矢理ルクレツィアさんと離婚させられた・・・。」
「知ってるわよ・・・。かなりのスキャンダルとしてゼフィーリアでも有名だったし・・。」子供心にもかすかに覚えている事件。
最もガウリイがそんなこと覚えていたとは一寸意外だったが・・・。
「で・・・。二度目の夫は何者かによって暗殺された・・・。」
「何が言いたいの・・・。」
ここまで言われればガウリイの言おうとしている事は大方の想像がつく。
「ルクレツィアさんが・・・チェーザレ・ボルジアの・・・・。あの人の兄の差し金でアルフォソンさんを殺す・・・とでも・・・・?」
そう。
ルクレツィアさんの兄の名を知らない人間なんてこの近辺にはいないはずだ。
チェーザレ・ボルジア・・・・。
コイツがまたとんでもない野心家の兄貴だったりもする。
散々にルクレツィアさんを利用、すなわち「政略結婚」を強制し更には強大な利益を得ている怜悧な政治家である・・・・。
「リナ・・・・。危険すぎるぞ・・・。」
「ガウリイ・・・・。」
あたしはそうとだけ言う。
しかし・・・。
梃子でもあたしの意志は曲げられないと察したのだろう。
「はぁ・・・。」
とため息を付きつつガウリイは軽く頷くのだった・・・。


「おらああああああああ!!!!!!愚妹!!お前!!死ね!!」
「ふううんだ!!私だってねえ!!アンタのことにーちゃんだなんて認めてないもん!!」 図書館内でやたらと楽しそう(?)に戯れる(?)リッキーさんとハリイ。
「いいのか・・・?図書館でこんなに楽しそうにして・・・。」
ゼルが呆れたように言う・・・。
「とにかく!!オマエが今回ぶ壊したOPACは最新式だったんだぞ!!これ以上被害を増やしたらアルフォソン様にどつきまわされんのは俺なんだぞ!!」
リッキーさんの絶叫。
「OPACって・・・。OPECの事か・・・・?」
さっきまで寝てたと思ったらいきなり起きあがって的外れなことを言うガウリイ。
ちなみに彼の頭脳には『図書館=寝るところ』と言う非常によく分かるようでいて実体的にはかなり非常識な概念がインプットされているらしい。
「馬鹿・・・。OPECは石油輸出国際機構Organization of Petroleum Exporting Countriesの省略形よ!!」(かく言う私も当初間違えたBY 作者。)
「OPACっていうのは最近投入された魔術のシステムで・・・。簡単に本の在処を検索できるシステムなんです。まあ・・・。カード目録のデジタル版ですね。」
言ってアメリアもハリイが壊し損なったOPACをいじくりだす。
「に・・・。しても・・・。なかなかのモノだな。フェラーラ公国の図書館の蔵書は・・・。」
言ってゼルもなにやら物色しだす。
「まあ・・・。アルフォソン様がご趣味でいろいろ集めてますし・・・。」
言ってカード目録の整頓をしだすハリイ・・・。
「おい!!愚妹。おまえ・・・。そんなことも出来ないのか!?」
やたら滅多ら手際の悪いハリイの整理の仕方に文句をつけるリッキーさん。
「いいじゃん。別。」
「・・・・。そんなことだからな・・・。十九になっても嫁のもらい手がないんだよ・・・。」
そういえば・・・。
この辺のフェラーラやお隣のマントーヴァ公国では平均17から18が適齢期って言ってたっけ・・・・。
「一生兄貴のスネ囓ってるから・・・。いい・・・。」
仲のいい(?)兄妹である・・・(苦笑)。
「とにかく・・・。ただで泊めてもらってるのもナンだし・・・。ハリイ・・・。アタシもカード目録の整理手伝うわ。」
言ってアタシもカードを手にした・・・。
自分が・・・・。
とんでも無いことの目撃者になるとも露知らずに・・・・。

(続きます。)

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6961フェラーラの迷夢2LINA改めCANARU 6/3-20:06
記事番号6960へのコメント

「貴方がリナ=インバースさんですか?」
その人・・・ここフェラーラ公国のご領主アルフォソン・デステ侯がアタシ達の食堂に尋ねてきたのはお食事バトルの真っ最中だった。
と言っても勘違いしてもらっては困る。
いくらアタシ達四人がいつも食事時は争奪戦を繰り広げるからって人の家、ましてや公国の主のお城でお世話になっているというのにそんな野暮な真似はしない・・・。
バトルっを繰り広げているのは「雇われ人」のアタシ達じゃなく、「依頼人」のコイツ等である・・・。
「おい!!こら!!愚妹!!おにーさまは常日頃苦労してるんだ!!ちっとは労りの心を持ってその肉よこせ!!」
「何をほざくか!!妹のために死ねええええええええええ!!!!!!」
おい・・・こら・・・。
リッキーさんとハリイの兄弟ゲンカはご領主が来ていることに気付くことなく続く・・・。
「あの・・・・・・・。」
遠慮がちにアメリアが二人の方を指さす・・・。
「いつもの・・・事ですわ・・・・。」
苦笑しながらルクレツィアさんが答える・・・・。
この人もこんなに若くて綺麗なのに苦労しているよーである・・・。
「で・・・?そちらは・・・・?」
状況を理解しているのかいないのか・・・。
ガウリイがサラダに手を伸ばしながらルクレツィアさんとアルフォソンさんの後ろのに控えている二人の男を指さす。
「こちらが夫の次兄、ジュリオ殿。此方が末弟のイッポリート殿です。」
ルクレツィアさんが二人を順番に紹介する。
ジュリオさんの方は軽やかな金髪にヴァイオレットの瞳。
みったくれこそなかなかなものだがいかにも「遊び人」と言った 雰囲気である。
一歩弟のイッポリートさんは長兄のアルフォソンさん同様、どちらかと言えば厳めしい顔立ち。
個人的に言えばアルフォソンさんやイッポリートさんみたいな人間の方が「気品」というものを感じられるのでおつき合いしやすい。
「あなたがあの(滅茶苦茶強調!!)リナ=インバースさんですか・・・。」
何とも言えなく嫌みな口調でアタシの方を見ながらいうジュリオさ・・・いや・・・ジュリオ。
「そうですけど・・・・。」
寛大にもアタシは低調に(丁重に)殺気を込めながら答える。
しかし・・・・。
そんなアタシの態度も意に介さず・・・・。
「本当に胸なしのロバーズ・キラーなんですねえ・・・・。」
ムカ!!
なんつー嫌みなあんちゃんなの!!
これが雇い人の弟じゃなかったら攻撃呪文の一、二発ぶっぱなしてやるところだぞ!!
「ジュリオ兄さん!!」
大慌てで弟のイッポリートさんが兄のジュリオを睨む。
その様子は「アタシを恐れたから」ではなく心底申し訳なさそうな態度。
・・・・・・同じ兄弟でもどーしてこー違うんだろう・・・。
(最も・・・・。後ろの方では全く持って同類の兄妹の醜い争いが続く・・・・。)
「ともかく・・・・。ここフェラーラの領主一族を巡ってなんらかの陰謀を企てている奴がいるんです・・・。是非とも夫と皆様を守って下さい・・・。」
ルクレツィアさんが再度アタシ達に言う・・・・。
「『守って下さい』ですと?義姉上?」
ジュリオが嘲るようにルクレツィアさんに言う。
「貴方と今まで結婚してきた男は・・・・。全て破滅したと言うではありませんか!!大方今回も貴方の兄上、チェーザレ殿の策略ではないのですか・・・?」
本当にイヤな奴!!
その言葉にうつむくルクレツィアさん・・・・。
なるほど・・・・。確かに彼女は今まで野心家の兄の命令で二回も政略結婚をしてきた身である・・・・。
だからって・・・・。
彼女に咎が有るはずではないのに!!
「ジュリオ!!」
アルフォソンさんがジュリオを睨む。
「コレは失礼。お気にさわりましたか、偉大な兄上。」
あからさまに馬鹿にしたような態度・・・・。
いくらなんでもルクレツィアさんが可哀想・・・・・。
カカカと馬鹿笑いしながら去っていくジュリオ。
いつもは無感情(ボーっとしている)ガウリイまであからさまに不愉快そうな表情でその後ろ姿を見送っている。
「なんて奴だ・・・。」
ゼルが憎まれ口をきく。
「昔からあーなんです。」
アメリアも同調する。
「すみませんでした・・・・・。」
「貴方が謝ることは無いわよ、ルクレツィアさん・・・。それにしても・・・・。酷いこと言う奴ね!!」
「もう・・・。慣れましたわ・・・・。」
言って微かな微笑みを浮かべる。
「義姉上・・・・。気にすることはありませんよ。」
イッポリートさんがルクレツィアさんを慰める。
「一応我々も警備を増強してます。何とぞご助力を願います。」
言ってアルフォソンさん、イッポリートさん、ルクレツィアさんも去っていく。
「それにしても・・・・。あのジュリオって奴!!腹立つな!!」
珍しくガウリイまでそんなこと言う。
「ほーんとよね!!出会い頭に人のこと『胸なしロバーズ・キラー』だなんて!!」
「いや・・・。それは本当の事だぞ!!リナ。でもよー普通あーんな綺麗で優しいルクレツィアさんに対してそんなこと・・・て・・・リナ・・・・・・?」
ファイアー・ボールの詠唱・・・・。
ずずず・・・と下がっていくゼルとアメリア・・・・。
かくして・・・。
未だに兄妹仲良(?)く戯れている リッキーさんハリイをも巻き込んでガウリイはお空に舞い上がったのだった・・・・・・・・。

「リナさん・・・。ジュリオ様の事・・・・。気にしてるんですか・・・?」
傷口をさすりながらいつの間にか復活したハリイがアタシに聞いてくる。
「うん・・・。まあ・・・・。気にしてること言われちゃ怒らずにはいられないでしょ・・・?最も雇われ人って身分が邪魔して思いっきりぶっとばしてやること出来ないけど・・・。」
思わず本音を零すアタシ・・・・。
そんなあたしの肩にポン、ポンと手を置くハリイ・・・・。
こーされてみると一応コイツもアタシより年上なんだなーと感じたりもする・・・。
「大丈夫・・・・。あーゆー奴には一応ヘイコラしといて後で思いっきり寝首かけば良いのよ・・・・・・。」
う・・・・・・。
出刃包丁持ってそーゆーこと言われると滅茶苦茶説得力がある・・・・・。
「愚妹!!!!!!!!!(アホゥ!!!!!)。」
リッキーさんの飛び蹴りがハリイの後頭部に直撃する・・・・・。
どげらしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんんんんんんんんんんんん!!!!!!!!!
滅茶苦茶痛そうな音が辺り一面に木霊する・・・・・。
「いだあああああああ!!!!!何するのさ!!リッキー!!!前頭葉ぶっ壊れちゃったらどーしてくれるのさ!!」
何故後頭部を蹴られて前頭葉・・・・・・・・・????????
「うっせー!!元々壊れてるモンがどーしたらそれ以上壊せると言うんだ!!」
・・・・・かなり残酷だが尤もな意見である・・・・・・。
「大体なあ!!『寝首かく』なんて卑劣な発想!!どこから来るんだ!!」
「フン!!織田信長だってアル意味明智光秀に寝首かかれったって言っても過言じゃないわ!!第一本能寺の変じたいそもそも夜討ち、朝駆けで・・・・。」
どげらしゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!
「俺はお化けと説明が大嫌ぇなんだ!!そ・れ・にだ!!どーで殺(や)るんだったら『寝首かく』なんて卑劣な手段じゃなくって堂々と飲食物に毒薬ぐらい盛らんかい!!」
こ・・・・こひつら・・・・・・。
かなり危ない・・・・・。ボーダーラインすれすれ・・・・じゃないか・・・・?
「リナさんと良い勝負ですね・・・。」
アメリアがゼルに呟き、ゼルが頷く・・・・。
おまいら・・・・そりゃーどーゆー意味だ・・・・。
「なーリナ・・・・。」
忘れ去られた存在のガウリイが声を掛けてくる。
「何・・・?ガウリイ・・・・。」
「毒殺って卑劣じゃあなくって正々堂々としてるのか・・・・・?」
聞いてくるなよ・・・・・。そんなこと・・・・・・・。



「リナさーん!!どこ行くんですか?」
夜の夜中。
人々が寝静まろうとしたときに廊下からのアタシの気配に気付いたのだろう。
アメリア、ゼル、ガウリイが勢揃いしている。
「その格好からして・・・・。盗賊いじめじゃなさそうだな。」
普段の服装からマントとショルダー・ガードをとったアタシに向かってゼルが言う。
「ええ。邪魔になるだけですしね。」
と答えるアタシ。
「どこ行くんだ?」
ガウリイ・・・。言いたいことは分かってる。
「付いて来るなら武装は解いてね。しつこいようだけど邪魔になるだけだから。」
完全武装の傭兵の服装をしているガウリイに向かってアタシは言う。



「一体全体・・・。どーしたって言うんですか?」
再度問いかけてくるアメリアに対してアタシは答える代わりに一枚の紙切れを渡す。
「これって・・・・?」
「昼間・・・・。ハリイとリッキーさんの手伝いをしたときに発見したのよ。」
図書館の目録カードと同様の大きさの一枚の紙切れ。
『Aへ。今夜裏庭で待つ。』
とだけ書かれた何者かのメッセージカード。
「あからさまに怪しいですね・・・・。」
アメリア。
「そ。そいつがもしかして『お家騒動』をたくらんでいる奴かもしれないって考えてね。」
言ってアタシは再度アメリアからカードを受け取る。



闇夜に二つの人影・・・・・。
「リナさん・・・・。違ったんじゃないですか・・・・?悪趣味ですよ・・・・。アタシ達・・・・。」
アメリアが言う。
「くだらん・・・・。俺は帰るぞ。」
ゼルが言い放ち去りかける。
しかし、アメリアが何故か素早くそれをおさえる。(何故?)
「なーリナ・・・・。どーゆー事だぁ・・・・?」
のほほんとした口調でガウリイ・・・・。
「どーも・・・・。アタシ達・・・・。『覗きご一行様』になっちゃったみたい・・・ね・・・。」
思いも寄らない事の展開に少々とまどうアタシ・・・。
そう・・・・。
カードに記された「A」と言う人物は・・・・・。
他ならぬルクレツィアさんの従妹のアンジェラさんだったのである・・・・。
「アンジェラさんがイッポリートさんと恋人同士だったなんて・・・。一寸意外・・。」『悪趣味』とかなんとか言いながらちゃっかり感想を述べるアメリア。
まあ・・・。
確かにアンジェラさんはどことなーく軽薄そうだしイッポリートさんよりむしろジュリオとくっついた方が似合いという雰囲気がある・・・・。
「そーでもなさそうだぜ・・・・。」
アメリアの一言に珍しくガウリイが言う・・・。
そう言われてみれば様子がおかしい・・・・。
勿論、それが「お家騒動」を企んでいる人間の取るような行動、と言う意味で「おかしい」と言っているのではないことをあらかじめ付け加えておく。
「ふざけるんじゃないわよ!!」
耳を付くようなアンジェラさんの声・・・・。
それに対してイッポリートさんはなにか言っているようだがこの距離からでは聞き取れない・・・・。
さらに激しい口調でアンジェラさんの声が聞こえる・・・・。
「あんたの全てよりもあたしはドン・ジュリオの眼差しを選ぶわ!!!」
あ・・・やっぱり・・・・。
なんて言ってる場合じゃない・・・・・。
どーやら・・・・。
アンジェラさんを巡ってイッポリートさんとジュリオは三角関係だったらしい・・・。
んでもって・・・。
たった今イッポリートさんはフられてしまったらしい・・・・・。
悪いところを見ちゃったかな・・・・・・?
などという思いに駆られつつアタシ達四人は寄宿舎に戻った・・・・。
無論・・・・。
捜査の方も振り出しに戻った、というわけである。



「おはよーごぜーますぅ。」
ハリイが朝食を盛りながら挨拶をしてくる。
「ねえ、ハリイ・・・・。一寸聞きたいんだけど・・・・。アンジェラさんとイッポリートさんとジュリオって・・・・。」
アタシの問いかけを察してだろう。
頷くハリイとリッキーさん。
「タブーですよ。」
念を押すようにハリイが言う。
「そりゃあまあ・・・。タブーだろうな。領主の二人の弟がそんなことになってるだなんて。」
ゼルが分かり切ったように言う。
その横でリッキーさんとハリイがまたまた掛け合い漫才をやってるんでちっとも様になってはいないのだが・・・・・・・。



ルクレツィアさんは今日も一人で窓辺に佇んでいる・・・・。
従妹なのだからアンジェラさんももう少し気を使ってあげても良いとは思うのだが・・・。
あくまで彼女は軽薄な女性なのである・・・・・。
「アルフォンソさんはルクレツィアさんの事をとっても大切にしているんですが・・・・。それ以前に政治の事の方を優先しなくちゃならない身分なんです。」
アメリアが言う・・・・。
「でも・・・・。いくら何でもルクレツィアさん・・・・。」
とても寂しそうな彼女の後ろ姿。
いままでも散々政治に利用されてきたのにこんな思いをしなきゃならないなんて・・・。 そんな彼女にジュリオの奴がとやかく因縁をつける。
いくらなんでもそりゃーちょっとやりすぎだろ・・・というくらい・・・。
「やな奴・・・・。」
有る意味・・・・。
ハリイの言う「寝首をかく」、リッキーさんの言う「薬殺」という行為を奴にしたところでどこからも(アンジェラさん意外)苦情はこないんじゃないだろーか・・・・?
まあ・・・・。悪人に人権なんて無いんだし・・・・・。



「なんだ・・・・?愚妹。にーちゃんに何か言いたいことがあるんなら言って見ろ。」
いつものごとく図書館で仲良く煩く騒ぐハリイとリッキーさん。
そんなまっただ中ぐっすりと熟睡するガウリイ。
ひたすら文献を探し求めるゼル。
最新システムで遊ぶアメリア。
よく言えばいつもと変わらない平和な日々。
悪く言えば全然進展のないどーしょもない時間が刻々とすぎる。
そう・・・・。
あくまでその時間までは・・・・・・。


(続きます)

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6962フェラーラの迷夢3LINA改めCANARU 6/3-20:07
記事番号6961へのコメント

(今回の掛け合い・・・。詳しくは哲学ファンタジー小説『ソフィーの世界』をご覧になってくらはい。by作者。)

「ナンだと!!この理想フェチのアホンダラ!!」
朝もほよからリッキーさんの怒鳴り声。
「何を言うか!!経験主義者の冷徹兄貴!!」
ハリイも負けじと言い返す。
「なんだなんだなんだ・・・・?」
ゼルが言いながら出てくる。
「また・・・・。兄妹喧嘩です・・・・。」
アメリアが呆れきったように言う。
「あたしは断固デカルト派よ!!」
「アホ抜かせ!!俺は断固とロックを支持する!!理想なんつー説明じみた事は俺は大嫌ぇなんだよ!!わーったか!!この愚妹!!」
どーやら・・・・。
良く理解こそはできないが喧嘩の原因は本当にくだらない「考え方の違い」のよーである・・・・。
「なあ・・・。リナ・・・・。コイツ等・・・・。仲いいのか・・・?悪いのか・・・?」ガウリイが聞いてくる・・・。
「まあ・・・・。喧嘩するほど仲がいいっていうしねえ・・・・。」
実際アタシと姉ちゃんだってそんなに仲が悪いとは思えないし。
「何さ!!かけ算できないヤンキー・にーちゃんが!!」
ハリイの悪態・・・・。
「ナンだと!!てめ!!やっぱりおめぇみてーな愚妹は幼いうちに殺(や)っとくべきだった!!」
リッキーさん・・・・。
もしかしたらこの二人・・・・。本当は滅茶苦茶仲が悪いのかもしんない。
しかも「近親憎悪」ってやつだろーな・・・・。こりゃ・・・。
そう言えば近親憎悪と言えばジュリオとイッポリートさん。
「おめーみてーな愚妹は幼いうちにコインロッカー・保育にしとくべきだったんだ!!わーっとるんか!!このアホンダラ!!」
「ひっでええええ!!もう傷ついた!!図書館司書なんてもーやってらんね!!」
おいこら・・・・。
人が考え事している側から騒ぐんじゃない!!
「やってらんねー」とその言葉通りさっさと図書館から去っていくハリイ。
残されたリッキーさんに図書館利用者の皆様の冷たい視線が容赦なく襲いかかる・・・。
「あはは・・・・。アレ、ウチの妹・・・・。元気いいだろ?」
こめかみの辺りにうっすらと冷や汗を浮かばせながらリッキーさんは必死で自分に向けられた非難の眼差しを反らそうとするのだった・・・・・・。


「あれ以来・・・・。ナンの動きもないわね・・・。」
あたしは誰とも無く「お家騒動」について言う。
「まあな・・・・。俺達という監視役が登場した限り大っぴらに動くことも出来ないんだろう。」
ゼルが尤もなことを言う。
「けれども・・・。ずーっとこのまんまだったらみすみすルクレツィアさんが犯人にされちゃう事だって有るかもしれませんよ?」
アメリア。
「ジュリオの事ね・・・・・。」
あの男ならやりかねない。と、言うよりもルクレツィアさんを貶めて楽しんでいる気配すらうかがえるし・・・・。
「でもよ・・・。犯人の手がかりすら無いんだろ?」
ガウリイが痛い一言を付いてくる。
その時だった・・・・・。
「リッキー兄ちゃああああああああああああああああああんんんんんんん!!!!」
ハリイは絶叫しながら戻ってくる。
「ハリイ?どーした?」
妹の尋常ではない様子に気が付いたリッキーさんが尋ねる・・・。
「み・・・・見ちゃったんだよ!!イッポリート様が・・・・ジュリオ様を・・・・。」



重傷を負ったジュリオが宮殿内に運び込まれてきたのはそれからすぐの事だった・・・・。
ハリイの話を総合すれば・・・・。
普段はご領主アルフォンソさんの姉上、イザベッラさんが嫁いでいる隣国マントーヴァに勤めているイッポリートさんだが。
今日はルクレツィアさんに用事があってずっとフェラーラに居たという。
が、ルクレツィアさんとの用事を済ませたその帰り・・・・つまりはハリイが目撃したその場面・・・・・・・・。
偶然ジュリオと出会ったイッポリートさんが部下達に『ジュリオの目を潰せ!!』と命令したと言う・・・・・。
無論、その理由は分かり切っている・・・・・。
『アンタの全てよりもアタシはドン・ジュリオの瞳を選ぶわ!!』
あのアンジェラさんの一言だろう。
「リナさん・・・・・。どうするんです・・・?」
「・・・・・・。参ったわね・・・・。」
そうとしか言いようがない。
この事件をきっかけにジュリオが『お家騒動を企んでいるのはイッポリートとルクレツィアだ』などと吹聴しはじめたからである・・・・・・。



無意味にフェラーラ城下をぶらつくあたしとガウリイ。
無論「デート」なんて洒落たモンではない。
名目上は単なる「聞き込み」。しかし実体を考えればただ単に無目的に城下をうろついている魔道士と傭兵と言うことになる。
ついでに言うとアメリアとゼルはお留守番である。
「やー!!リナさん!!ガウリイさんじゃないですぁ?こんな所でデートですか?ははは!!奇遇ですねえ!!」
こ・・・・この緊張感の無い朗らかな声と笑いは・・・・・・・。
あたしはぎぎぎ・・・と首だけ回して後方を見やる・・・・。
やはり・・・其処には予想通りの人物・・・もとい魔族が立っていた。
「お!!ゼロス!!」
ガウリイが気軽になれ合う。
「デートですか?」
ゼロスが聞いてくる。
「違うわよ!!」
速攻で否定するあたし・・・。おい!!棄てられた子犬みたいな目でこっちを見るな!!ガウリイ!!
「そーゆーアンタこそ!!こんな所で何やってるのよ?」
話をうまくすり替える。
「その事なんです。実はゼラス様のご命令で『人間世界の勤労を一つやってきて感想を述べよ』などと言われてしまいまして・・・・。今アルバイトしてるんです。」
どーゆー命令だ・・・・・?
しかもアルバイトする魔族って・・・・一体・・・・・・?
「で、ナンのバイトしてるんだ?」
ガウリイが聞く。
「ぢつは・・・・。家出人 の捜索なんです・・・・。」
困り果てたようにゼロスが言う。
それにしても・・・・・。ずいぶん地道なアルバイトをしてるよーな気がするぞ・・・。
アタシは・・・・・。
「家出人?」
あ!!こら!!馬鹿!!クラゲ!!聞くな!!
「ええ。ここ、フェラーラのご領主、アルフォンソ公の姉上が隣国マントーヴァに嫁いでいらっしゃることは知ってますね?」
「一応ね。で、それが?」
「知らない。」
アタシとガウリイの声が見事にハモる・・・・・。
「で、その姉上イザベッラ様の旦那様のご兄弟・・・つまりはイザベッラ様の義理のご兄弟にあたるお方が何を不満に思ったか急に家出してしまったんですよ。コレが。」
「なるほど・・・・。そのコネでここの国にいるんじゃないかな・・・なんて思ったわけね。」
「そーです。で、リナさん達は?」
一応ゼロスも王家に関わる仕事をしているのならちっとはフェラーラのお家騒動に関係することを知っているかもしれない。
そう思いアタシは一部始終を彼に話してみる。
ちなみにこの間ガウリイが道のド真ん中で立ったまま居眠りしていたことを付け加えておく。
「・・・・。恐らく・・・・。もうじき尻尾を覗かせますよ・・・・。その『お家騒動』の犯人は。アンジェラさんとやらを見張ってなさい。」
一部始終を聞いたゼロスはそうとだけ言って立ち去っていく。
「ゼロス?人捜しは?」
如何にも「帰りかける」と言ったその様子にあたしは一応聞いてみる。
「もう見つかったも 同然ですよ。」
いつものにこやかな笑みでゼロスは答える。
「一寸!!どーゆー事!!?」
「それは秘密です。」
またこのパターンかい・・・・・・。
かくして。
アタシとガウリイ、アメリア、ゼルは他になすすでもなくゼロスの言った事を実行するようにしたのだった・・・・・・。



イッポリートさんが逮捕されて丸三日たつ。
その間、ジュリオはなんとか目の視力こそはとりとめたが、かなり深い傷跡が顔に付いたのだった。
それもほっぽとけば治る程度だという。
まあ・・・・。世の中そんなモノである。
しかし。
当のアンジェラさんにはそんなことになった事に対する反省の態度はまったく見当たらない。
それどころか「厄介者」のジュリオを避けていることは明々白々である。
もともと軽薄そうな人だったし・・・そんなものかな・・・・。
問題は奥方のルクレツィアさんの方だ。
見るからにして窶れきっている。
目線も虚ろで痛々しい。
アルフォンソさんは辛うじてルクレツィアさんを労る事が出来るくらいである・・・・。が・・・・。
ある日。事件は起こった。
いつものように政務のため城を出発したアルフォンソさんに数人の暴徒が襲いかかってきたのだった・・・・。
幸いにも大事には至らなかったがアルフォンソさんは負傷をした。
「イッポリートさんは牢屋に居るの?」
アタシはリッキーさんに聞いてみる。
「ああ。誰もがイッポリート様の事を犯人だと思って単たんだが・・・?」
困惑気味に答えるリッキーさん・・・・。
間違いない。犯人は「あの人」に違いない!!


「アルフォンソ!!」
泣きながらルクレツィアさんがアルフォンソさんに駆け寄る。
「どうしたんです?ルクレツィアさん!!」
アメリアが大急ぎでルクレツィアさんに続く。
「リナ!!一体どうしたって言うんだ・・・・?」
ガウリイがあたしに聞いてくる。
「ついに犯人が動き出したのよ・・・・。」
アタシは静かな口調で言う。
腕から血を流したアルフォンソさんを抱えるようにしながらルクレツィアさんは此方を見る・・・。
「一体誰が・・・・?貴方・・・?見ませんでしたか・・・?」
ルクレツィアさんの問いかけに首を横に振るアルフォンソさん。
「当然だ。当事者が出てくるわけは絶対にありえんしな。」
ゼルが言う。
「リナさん・・・・。あたしは元々信じていませんでしたが・・・・。犯人はイッポリートさんじゃ無いって事ですよね・・・?」
アメリアが聞いてくる。
「まあね。確かにイッポリートさんは・・・・。と、あること(アンジェラさんのこと)がきっかけでジュリオ(さん)を傷つけたけど・・・・。ソレとこの件に関しては無関係よ。」
あっさりアタシは言ってのける。
まあ。実際イッポリートさんは牢屋の中に居るんだし・・・・・。
「人を使ってやる、っと言うことも出来るだろ!!?」
ジュリオがムキになってアタシの一言に食ってかかってくる。
「そーでしょうね。けど。アタシがあらかじめ犯人を知ってる、と言ったらそんな事もはや関係なくなるわ。」
多少のハッタリだがまんざら嘘ではない事をアタシが言う。
無論、一同の視線は此方に集まる。
「リナ・・・・。それは本当か?」
ゼルがアタシに聞いてくる。
「ええ・・・。犯人は貴方よ!!アンジェラさん!!」
ビシっとアタシはアンジェラさんを指さす!!
「ちょ・・・一寸待ちなさいよ!!何処にそんな証拠が有るのよ!!」
マトモにあわてた様子でアタシに反論するアンジェラさん。
「証拠ならあるわ!!」
言ってアタシは図書館で発見したアンジェラさんの頭文字入りの暗号・・・・。
そう。すなわち「覗きご一行様」になりはててしまった原因のカードを」差し出す。
「おい・・・。リナ・・・それって・・・ムギャ!!!」
余計なことを言いかけるクラゲの口にピザ・トーストを丸ごと放り込んで黙らせる。
「これって・・・・・。」
まさかイッポリートさんとジュリオの事件が有る手前、あの夜の出来事は言えないであろうアンジェラさん。
さあ。どーする?
「犯人はこの人です。アタシじゃありません。」
あ・・・・。
やっぱり予想通りの展開・・・・。
軽薄女アンジェラさんはアッサリと(アタシが睨んだ犯人)、ジュリオを指さしたのだった・・・・・。
「ちょ・・・一寸まて!!」
マトモに焦るジュリオ。
「アタシ、耳にタコが出来るくらい聞かされたんです。この人、『いずれ兄を暗殺して自分が領主になる』とか『何かあったら全部ルクレツィアのせーにすれば良い』とかいっつもいってました。無論アタシは一切関与してません。いいえ。むしろ必死で止めました!!でも・・・この人ったら訳の分からない幻想に取り憑かれて!!きっとその事を察したイッポリート殿は命を賭して止めようとして・・・・・・。」
なかなかの名演技でペラペラとジュリオの犯罪を告白するアンジェラさん・・・。
アンタはサスペンスドラマで主人公に追いつめられてペラペラと己の犯罪を白状する真犯人か・・・・?
たいがいそーゆー場面は何故か断崖絶壁の荒波砕ける海だったり、有名温泉を保有する山中だったりするのがお約束である・・・・。
最も最後の最後の場面で大判小判を目の前に己等の悪行を告白しあう悪代官と悪徳商人と言うのも捨てがたい・・・・。
たいがいそーゆー時の商人の名前は「大黒屋」で・・・て・・・。
そんなことはどーでもよろしい!!
「ま・・・待て!!俺は兄上が襲われた時刻、此処にいたんだぞ!!ぢーしてそんなことができるんだ!!」
なおもがなり立てるジュリオ・・・。
大上際の悪い奴。
「貴方さっき言ったでしょ。『人を使ってやる、っと言うことも出来るだろ!!?』ってね。」
アタシの一言に簡単に引っかかったジュリオは完全に沈黙する・・・・。
かくして・・・。
フェラーラ公国のお家騒動事件はアッサリ解決された。
ちなみに。
アンジェラさんの一言によりイッポリートさんが釈放された事を簡単に付け加えておく・・・。


「ふー・・・。事件解決でな・・・。」
よっぽど気に入ったのだろう。
あの時あたしが口の中に押し込んだピザトーストと同じモノを食べながらガウリイが言う。
「悪人が犯人だと言うのは大昔からのお約束です!!」
嬉しそうにアメリア。
「まあ・・・。これでルクレツィア殿とアルフォンソ殿も平和な生活が送れるだろう。」
ゼルが最もな感想を述べる。
「有り難う。助かったぜ。これで俺とハリイも役目を果たせたってモンだ。やっと平和な日常が待ってるぜ。」
貯金を全額アタシ達の依頼金に回され元気のないハリイに比べて楽しげなリッキーさん・・・。
「果たして・・・・。それはどーでしょーか・・・?」
リッキーさんの一言に唐突にかかるゼロスの声・・・・。
「僕の依頼は果たしましたよ。それではランシェさん、シノーさんご機嫌よ。」
そう言ってやけにアッサリ去っていくゼロス・・・。
その額に微かな冷や汗が見えたのは気のせいだろうか・・・・・?
ともあれ・・・。ハリイとリッキーさんの様子がマトモにおかしい・・・。
強いて言えば・・・そう・・・。
『姉ちゃんにニラまれた時のアタシ』状態!!である・・・。
ゼロスの後に残された人物、ランシェさんとシノーさんの特徴を端的に述べよう・・・。
ランシェさんはかなりの長身にガタイの良い黒髪、浅黒い肌のなかなか爽やかな印象を与えるガウリイより4〜5歳くらい年上の青年。
強いて言えばリッキーさんをどことなく彷彿とさせる・・・。
一方シノーさんは背丈こそあれどもとっても色白のやせ形。
なかなかの整った顔立ちの美青年だが根暗なそーな印象と虚弱体質っぽいところがそれを半減させてしまう・・・。
さらに言えば・・・・。剣呑そーな眼差しの吊り目がハリイをどことなーく彷彿とさせる・・・。
「やほーー!!ランシェさん!!シノーさん!!」
アメリアが二人に声を掛ける。
「知り合い?アメリア?」
アタシは思わず聞いてみる。
「ええ。フェラーラの隣国、マントーヴァのご領主様の弟君です。最もランシェさんとシノーさんの下二人の弟さんと妹さんと言う方には会ったこと有りませんけどね。」
家出人の兄弟・・・・・。
マントーヴァのご領主の・・・・・・・まさか・・・・・・・。
「久しぶりだなあ・・・・。リッキー・・・。ハリイ・・・。」
兄であろうランシェさんがリッキーとハリイに言う・・・・。
「そーだよ・・・。リッキー・・・。ハリイ・・・。せっかく一緒にウィジャー板(西洋版コ●●リさん)やろうと思ってたのに・・・・。」
根暗なことを言うシノーさん・・・・。
「このヤンキー!!不良娘!!礼儀は知らねえ、家出ははする!!にーちゃんもう恥ずかしいぞ!!」
「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ・・・・・・・。」
『うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!?????」
かくして・・・・。
リッキーさん、ハリイさんがランシェさんシノーさんのぎったんぎったんに叩きのめされるのに見送られながら・・・・。
アタシとガウリイ、ゼル、アメリアはフェラーラを後にしたのだった。
めでたしめでたし。
(じ・えんど。)