◆−電子の海に生きる存在−みならい(7/22-02:42)No.7251
 ┗電子の海に生きる存在1−みならい(7/22-02:44)No.7252
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    ┗Re:電子の海に生きる存在3−ふっしゅ(7/22-15:44)No.7256
     ┗RE−みならい(7/28-05:39)No.7287


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7251電子の海に生きる存在みならい 7/22-02:42


はじめまして……
みならいといいます。
いつも楽しく読ませていただいております

…で、このたび投稿をさせていただくのですが……
一応……最終的にケイン×ミリイですが、
らぶらぶの要素は……無いです(爆)
おまけに、プラスαもあるので……
気にいらなっかったら許してくださいね……

では、
  電子の海に生きる存在(ひかりのうみにいきるもの)

楽しんでいただければ幸いです。

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7252電子の海に生きる存在1みならい 7/22-02:44
記事番号7251へのコメント

仕事を受け、解決する。
危険とは隣り合わせでも、いつもと変わらない平和な日々
このままいつまでも、この生活が続くはずだった。
そう、あの事件までは………

  ひかり     もの
――電子の海に生きる存在――
    −第一章−

「仕事がねぇ……」
      ユニバーサル・ネット
 ケインは、星間通信の依頼一覧に目を通しながらそうぼやく。

 もちろん、そこには山のような依頼があるのだが、依頼料が安すぎて赤字になりそうな

物や、犯罪まがいで受けられない仕事がほとんどであったのだ。

「仕事は見つかりましたか?」

 そのケインに、後ろから声をかける少女。

 この船の制御コンピュータである。キャナル・ヴォルフィードである。

 いや、この船の意志と言うべきであろうか。

「だめだ、少しは手伝ってくれよ。」

「そーですねぇ……

 C−29−BEなんてどうです?」

 指定されたファイルが開く

「貨物船の護衛か?

 イマイチぱっとしねぇなぁ……」

 ケインは、明らかに乗り気でない

「仕事選んでる余裕あるんですか?」

「ない……」

 実際問題、資金は底つきかけてたりするのだからしょうがない。

「仕方ねー……これにするか……」

 ケインが依頼を受けようとした時、通信が入った

『ケイン、今時間あるか?』
                   ユニバーサル・ガーディアン
 珍しく、いきなり本題から入ったのは、宇宙警察のレイル警部である。

「いんや、いそがしい」

『そうか、仕方ない。他を当たるとするか……邪魔したな。』

 レイルは、さっさと通信を切ろうとする。

「ちょっと待って下さい。何をそんなに急いでるんです?

 仕事の内容くらい言ってもいいじゃないですか」 

 キャナルが、レイルを呼び止める。

『受けるか、受けないか。そっちが先だ。

 一刻を争う仕事なんだが。今のところ頼めるのがアンタ達しかいない』

「裏は何だ、お前が正直なんて気持ち悪いだけだぜ?」

 ケインは、レイルに疑いのまなざしを向ける

『しかたないさ。それだけやば過ぎる仕事だ

 だが、依頼人はしっかりしているし、宇宙警察経由の依頼だ。』

「わかりました。受けましょう」

「キャナル?!」
             フェイズ・ドライブ ポイント
『助かる!そこから一番近い相転移航法可能域は?』

「122−63−5A5です」

『わかった、そこで落ち合おう。』

 通信が途切れる。

「キャナル、どういうつもりだ?」

「あの、レイル警部の慌てよう。普通じゃなかったですからね……

 U・Gの仲介なら、依頼人もしっかりしてますから

 なにより、引っかかるんです。何かが……」

「……わかった。請けちまった物は仕方ねぇ。

 どんな仕事だろうとやってやるさ。」

 ケインの顔に迷いはない。

「ケイン、ごはんできたわよ?」

 ミリィがコクピットに入ってくる。

「キャナル、ソードブレイカーをレイルとの待ち合わせの場所へ。」

「はい、マスター」

 ケインは席を立つ

「仕事見つかったの?」

「ああ。で、今日の昼飯は何だ?」

 操縦室の扉が締まり、二人は見えなくなる。

「針路変更、目標122−63−5A5……」

 ソードブレイカーの転進が完了すると、キャナルは椅子に座り、何処からともなく文庫

本を取り出す。

 その本を見つめるキャナルの顔が、しだいに険しくなっていく。

「思ったより、大変なことになりそうね……」



 8時間後

「ドライブアウトを感知。時間通りです。」

 一隻の船が虚空から現れ、接近してくる。

「船籍確認、レイル個人の船です。

 ハッチ接続完了。」

 しばらくして操縦室のドアが開く

「レイル。早速だが、依頼の内容を聞かせてくれるか?」

 ケインがそう切り出す。

「これから話すことは一切他言無用でたのむ。

 チレーン星系第3惑星を知ってるか?」

「最近、開発の始まった新興の惑星ですね。」

 キャナルがフォローを入れる

「そこの、新開発の衛星型防衛システムが暴走した。

 その停止、もしくは破壊が今回の依頼だ。」

「それだけなの?」

 ミリィがレイルに問いかける。

「ええ、で、その報酬は口止め料込みで50000……どうです?」

「50000か、破格だな……」

「悪い話じゃないはずだ、お前らならな……」

 レイルは、疑いのまなざしのケインを見返して言う

「50万クレジット。それで請けましょう。」

『ごっ…ごじゅうまん!』

 キャナルの提示した額に、ケインとミリィの声が見事に重なる。

「前金で20万、残りは仕事が完遂した時に振り込んで下さい。

 あと、私達について一切の情報を公開しないこと、

 この二つが条件です。」

「キャナル。いくらなんでもそれは」

「欲張りすぎってものよ?」

 あまりのことにケインとミリィは慌てた声で言う。

「仕事の内容からすればこれでも安いくらいです。

 どうです?レイル警部?」

「わかった。」

 レイルは承諾する。

「おい?!正気か?」

「この際、もみ消すことが一つ二つ増えた所で変わらんし

 資金に糸目はつけなくていいからな。それくらいかまわんさ」

 そう言って肩をすくめる。

「ここまで出すんだ。解っているとは思うが。

 この衛星は普通じゃない。

 対艦隊用の兵装に、新開発のエネルギー装置でエネルギー切れがない」

「なんだ?その新開発って」

 ようやくいつもの調子を取り戻したか、ケインが問う。

「お前のそのバンダナと同じ、サイ・エネルギー収集装置だ

 とは言っても対象が一個の星の住民全員だからな。桁が違うさ。」

「住民を退避させるとかできないの?」

 と、ミリィ。

「死角は惑星の裏側ですが、下手にそっちから近付くと、星ごと撃ち抜かれる恐れがあり

ますからね。近付くことも、出ることもできないのが現状です。」  

「それで全部か?まだなんか言い忘れてないか?」

「全部話した。

 (下手に隠すとキャナルさんが恐いんでね)」

 最後はケインにだけ聞こえるように言う。

 妙に納得するケイン。

「じゃあ、頼んだ。うまくやってくれよ?」

 そう言って、レイルはソードブレイカーから去っていった。





「目標到達まで、あと2時間です」

 ソードブレイカーは、すでにチレーン星系ヘ到着し、通常航行を行っている。

「ですが、主砲の射程内へは一時間半で到達します。」

「はぁ?何だそりゃ。」

 ケインの顔が、疑問で彩られている。
       アンチプロトンキャノン
「衛星の主砲“反陽子砲”の射程はおよそ1000万km

 このソードブレイカーでも、突入してから到達するまで、20分かかります」

「サイ・バリアじゃ防げないのか?」

「この出力ですからね。直撃で一回。

 そうでなくても、3回は耐えられないでしょう。」

「どうすんの?打つ手無しじゃない」

 ミリィが言う。

「全波長迷彩でレーダーをごまかして接近して、

 発射にかかるロスタイムの間に機能を停止させます」

「うまく行くの?」

「いままで、保障のあった仕事ってありましたか?」

 キャナルはしれっと答える。

「ま、そういう事だ。

 だが、キャナル。何でこの仕事を請けたんだ?」

 少し間を置いて、キャナルは答える

「精神力収集装置。悪夢を生み出す元になりかねません……」

「まさか、あいつが復活するの?!」

 ミリィの上げた声に、キャナルは目を伏せ、ケインは黙り込む。

「確かめる為には、行くしかないな。」

 ソードブレイカーは迷彩を掛け、慣性航行で衛星の射程に突入する。
  
 緊張した沈黙が支配する


 5分……


 10分……


 15分……


 そして20分。

 ヴィーーッ!

 突然、けたたましい警告音が響く。

「どうしたっ!」

「ロックされましたっ!

 高エネルギーの円周加速反応!主砲が稼動してます!」

「高速機動!主砲の死角に入る!」

「だめです!振り切れません!」

「うそぉっ!!」

「サイ・バリア展開!フルパワーだっ!」

カアァッ!

 眩い光



 衝撃の変わりに訪れたのは……声。

『そこに、だれかいるの?』

 ――?

 小さな少年が現れる。

『おねえちゃん、だれ?』

 ――私はキャナル……キャナル−ヴォルフィード。あなたは? 

『ぼく?ぼくは……なんだろう?』

 ――彼方は…自分が何か分からないの?

『うん、でも……おしごとはわかってる。

 わるいひとがきたらやっつけるんだ。』

 ――悪い人?

『うん、でも……ぼくがうごくと、みんないやなかおするんだ……』
 
 風景は変わり、あたりに倒れる人々

 それはまぎれもなく、惑星上の人々の姿。

『どうしてなの?』

 ――それは……あなたが動くと、みんな凄く疲れるから……

『ぼくのせいなの?ぼくがわるかったの?

 だったら、ぼく、もうしない。そしたらみんな、いいかおしてくれる?』

 ――ええ、きっとしてくれると思うわ。

『でも、ぼくはとめかたしらないんだ……

 おねえちゃん、ぼくをとめて!』


 再び光に包まれる

「――ナル!キャナル!」

 ケインの声。サイ・バリアが消失しているのが解る。直撃だったようだ。

「ケイン、どうしました?」
          スタンバイ
「プラズマ・ブラスト用意!一気にあいつをふっとばす!」

 何故か、キャナルは驚愕する。

「それは待って下さい!ミリィ、あのアンテナが狙えますか?」

「どうしたってんだ、キャナル?」

「後で話します!ミリィ、できますか?」

 ミリィへと振り返り、キャナルは言う。

「おっけい!一つ貸しよ!

 リープ・レールガン発射!」

 虚空を駆ける弾丸は、はじけて空間を削り取る!
 
「アンテナ消滅!衛星のエネルギーレベルが低下していきます!」


『ありがとう……』

 不思議な声が、響く


 完全に沈黙した衛星の側に、ソードブレイカーは浮かんでいた

「キャナル、何で急に壊すな、なんて言ったんだ?」

「そうよ、なんか様子が変だったし。」 

 ケインとミリィがキャナルに詰め寄る。

「えっと、あの……声が、あの衛星の声が聞こえたから……」

 珍しく、ハッキリしない口調で答える。

「なんて言ってた?」

「『僕を止めて』……と、言ってました。」

「そうか……仕事は終わったが、どうする?

 ここでもう少し様子を見るか?」

 ケインはそう提案する。

「いえ、もう何も感じませんし……

 ここから早く離れた方がいいでしょう。」

「わかった。」

「キャナル!さっきの貸しなんだけど!」

 ミリィが話に割り込んでくる。

「な、なんのことです?」

「とぼけたって無駄よ!ちゃんと記録は取ってあるんですからね。

 早速だけどさぁ……」 

 いつのまにかミリィのペースに巻き込まれ、誰も声の事にはそれ以上触れなかった。



 一週間後

『おねえちゃん!!助けて!!』

 あの声が、また、響き渡る。

「どうしたの?」

 チョコケーキ片手に、ミリィが動きを止めたキャナルに声を掛ける。

「あの子が、助けを求めているんです!

 行かないと!」

「ちょっと、落ち着いてよ!あの子って、この前の衛星……?」

 すぐさま、ソードブレイカーのエンジンがうなりを上げる。

「どうしたっ!何があった?」

 ケインがコクピットに飛び込んでくる。

「ケイン!キャナルが……」

 ミリィの声にケインはキャナルを見る

 明らかに、キャナルはいつもの冷静さを失っている

「――急ぐのか?」

「はい」

「……わかった!理由は後でじっくり聞かせてもらうぜ!?
 フェイズドライブスタンバイ
 相転移航法用意!!」

 そして、ソードブレイカーは光を越える



 キャナルは、目的地まで、終始無言だった。

「フェイズアウトします」

 通常空間へと、滑り出る。

「なんだ?こりゃぁ?」

 辺りには屑鉄としかいいようのない塊が、無数に漂っていた。

「遅かったの?」

 ミリィがつぶやく。

 惰性でそのまま航行を続けるソードブレイカー

 沈黙が辺りを支配する

「!!前方に微弱な信号を感知!

 信号、増幅します!」

『・・お・・ちゃ・・』

 かすれて、ほとんど聞き取れない音声が、スピーカーより流れる

「なんだ?これは……」

「あの子です!間に合った?」

 ソードブレイカーは、信号の発振地点に急行する。

 そこには、すすけて汚れた銀の球体が浮かんでいた。

『おねえちゃん……来てくれたんだね……』

 ケインとミリィにはスピーカーを通して、キャナルには直接声が届く

「どうしたの?これは一体?」

『よくわかんない……ふねがいっぱいやってきて……

 やめてっていったのに……だれもやめてくれなくて……』

 たどたどしい声が。必死に説明しようとする。

 だれも、声が出なかった。

『ぼくはもういらないって、いわれたんだ……

 ぼく、なにかわるいことしたの?』

 純粋なる、疑問

「いいえ、あなたは悪くないわ……」

 キャナルが、答える。

『よかっ……た……』

 カァッ!!

 激しく眩い光が空間を塗り潰す!!!

 轟音と衝撃が過ぎ去った後には、何も残ってはいなかった。

 呆然とする3人 

「どうして?!どうしてあの子が死ななくちゃならないんです!?

 あの子は言われた事をしてただけ!

 何も解らなかっただけなのに!!」

 キャナルの叫び

「落ち着けキャナル!落ち着くんだ……」

「どうっ……してっ…………」

 うつむき、震えるキャナルの問いに、答える者はいなかった。




「じゃ、行ってくるぜ?」

 ケインはそう言ってソードブレイカーから降りていった。

 あれから一週間。

 一行は休暇とメンテナンスを兼ねて、近くの星の衛星港に来ていた。

「あら?ケインったら通信機忘れてる……

 ミリィ、届けて来てくれません?」

「いいわよ。」

 ミリィはキャナルからブレスレットを受け取ると、ケインを追って船から下りる。



「さてと」

 キャナルはその姿を変える。
 ユニバーサル・ネット
「星間通信局にハッキング開始……成功

 業務用専用回線に侵入……目標の社内通信コントロール……掌握

 全社屋のドアロック。社長室へ直接通信開始……」

『はあぃ、社長さん』

 ここは、UEC……宇宙に名だたる大企業……の社長室である。

「な、何だね君は?この回線に何処から入った?」

『さあ?それより社長さん。お話があるんですけど?』 

「私は、話すつもりはない」

 そう言ってスイッチに手を伸ばす。

『無駄です。この回線は切れません。

 あ、逆探知もできませんし、助けを呼んでも誰も来ませんよ。』

「……何が望みだ」

 ドアが開かないのを確認し、椅子に座り直してから。スーツの男は言う。

『ですから、少しお話を。

 この前の、衛星型防衛装置について、聞きたい事がいくつかありまして』

「ど!何処でそれを?」 
 
『質問しているのは私です。

 あの星に人工知能を搭載しましたね?』

「ああ、その事は報告を受けている。」

『まともな教育も施さず。あのような装備の星に搭載する危険は考えなかったのですか?』

「開発期間が足らなかったんだ。期間をオーバーする訳には行かなかった。」

『未完成であったなら、何故にすぐに廃棄したのですか?』

「不良品である事が、ばれる訳にはいかなかったんだっ!」

『あれには意思があったのです。それをそんな理由であなたは消したのですか・・・』

 今までと打って変わり、威圧感が辺りを占める。 

「ま、待て!何をするつもりだ?」

『そうですね……とりあえず、あなたの会社には消えてもらいましょうか?』

「や、やめてくれ!社員に罪は無い!」

 男は感じていた、この言葉に嘘はないと。

 それだけの事はやってのける力を持つ相手だという事を。

『それでは、あの衛星に関係する全データを凍結させてもらいます

 それと、私に関するうかつな詮索は、今度こそ身を滅ぼしますよ?』

 通信が切れる。

「社長!大丈夫ですか?」

 ドアを開け、秘書が呆然とする社長に声を掛ける。

「あ、ああ、私は大丈夫だ。」

 今になって、額に浮いた脂汗に気付く

「研究所から、極秘プロジェクトの全データに不思議なプロテクトが掛かっていると

 連絡がありまして、現在原因について調査中です。」

 それを聞いた社長の顔が、見る見る青ざめる。

「い、今すぐ調査を中止しろ!この件については何も無かった事にするんだ!いいな!」

「はぁ……?」

 初めて見る社長の様子に疑問を感じつつも、秘書は部屋から出ていった。



 ミリィは宇宙港のロビーを抜け、ケインの姿を探す

 見覚えのあるマントが、繁華街を進んでいくのが目にとまった。

「ケイン、忘れ物!」

 呼び止められ、ケインが振り替える

「ん?あ、わりぃな、わざわざ届けてくれたのか?」

 ケインは、ミリィの差し出すブレスレットを受け取りながら言った。

「……ちょっといいか?」

 言って指差す先は、1軒のパブ

「いいけど……昼間っから飲むの?」

「んなわきゃねーだろ。ちょっと話があるだけさ。」 

 そう言って、店の中へと入り、ミリィもそれに続いて入った。



「ご注文は?」

「コーヒーを、ブラックで」

「私はアップルティーを」

 一番奥の席、人目につかない席に、ケインとミリィは向かい合って座っていた。

「……で、話って何なの?」
 
「――最近のキャナルの事なんだが……お前、どう思う?」

 ブレスレットを手の中で玩びながら、ケインがそう切り出す。

「どうって?どういうこと?」

「いや、どうも最近、調子が悪いって言うか。元気がないって言うか……

 そうは思わないか?」

「そう言われれば……そんな感じも……」

 ミリィも、思い当たる節がいくつかあるようだ。

「でな、キャナルは、今いろんな意味で不安定になってんじゃねえかと思うんだ。」

「不安定?」

「ああ、本人に言ったら、絶対に否定するとは思うがな……

 具体的には、さみしいんだよ、仲間がいないことが」

「どういう事……?私たち仲間じゃないと思われてるの?」

「そうじゃない。存在としての仲間だ

 意思のあるロスト・シップ、もういないんだったよな……」

「あっ……」

「今までは、目的があったからな。そんな事感じなかっただろうが。

 いざ目の前から目的が消えると……」

「やるべき事が見つからない。目標がない……」

 ケインはゆっくりと首を縦に振る

「おまけにこの前の事件だ、どうやらあれがとどめだったらしい。」

「……どうなるの……」

 不安そうな声を出す

「正直、わからねぇ……

 キャナル最悪の道を選ぶとも思えねぇが、たとえどうなったとしても

 俺達に止める事はできねえだろうな……」

 沈黙の後に、ミリィが言う

「もし……もしもよ。そうなったら……どうするの?」


「……させねぇよ。それが仲間だろ?」


「……そうよね!あたし達が支えなきゃね!」


 お互い、自分に言い聞かせるように言って、その話は終わった。

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7253電子の海に生きる存在2みならい 7/22-02:46
記事番号7252へのコメント

 最近、キャナルが一人でボーっとしている事が多くなった。
 ケインの言う通り、何かが変わり始めているのだろうか?
 もしそうならば、私たちはどうなっていくのだろう。
 動き出した日常は、今も止まることなく、変わり続ける……


  ひかり     もの
――電子の海に生きる存在――
    −第二章−

 ――異変は、始まっていた――

 ミリィは、薄暗い廊下を歩いていた……

 宇宙空間では昼も夜もないが。人が生活する以上、夜と昼のサイクルは必要なのだ。

 ソードブレイカーでは、夜間は照明の光量を落とす事にしている。

「まったく、変なところで凝り性なんだから……」

 キャナルいわく“地球での満月の夜程度の暗さ”らしい

「この明るさが、かえって不気味なのよねぇ……」

 ぶつぶつ愚痴りながら、歩いていると

 ふと、視界の隅に動く物を捕らえた。

 が、振り向いても、何も見当たらない。

「きっと何かの見間違いよね……」

 そう自分に言い聞かせ、そそくさとミリィは自分の部屋へと帰った。

 ――異変は、始まっていた――



「はぁ?ゆーれいだぁ???」

 ケインはそう反応した。

「そう!もう3回も見たのよ!

 なんかふわふわーってしてて!追いかけてもすぐ消えるんだから!」

「お、追いかけたんですか?!」

「もちろん!」

「あのなぁ……威張って言うようなもんじゃないと思うぞ。」

「それに、この船の何処にもそんな存在は感知できませんし……」

 キャナルはこの船自身なのだから、その気になれば船内の事は手に取るように解るので

ある。

「じゃ、これは何なのよ……」

 そう言って、ミリィは愛用のポータブルコンピュータの映像記録を引っ張り出す

 そこには、確かに、謎の人影が写っていた

「うそっ……!!」

 信じられない出来事に、キャナルは少なからずショックを受けたようである。

「こいつは……一度しっかり調べた方がよさそうだな……

 さっそく、今夜から張り込んでみるか……」

 ケインはそういって、黙り込んでしまった。



「出なかったな……」

「ええ、出なかったわね……」

 二人とも、目の下に隈をこさえて、とても眠そうだ。

 結局謎の人影は現れず、朝まで張り込む羽目になったのである。

 各自、自分のシートでぐったりとしていたとき、ふいに入り口が開く

 とてとてとてとて

「ねぇ、まま知らない?」

 ケインの顔を覗き込み、小さな女の子は言った。

「いや?そう言われても……?」

 ケインは、そう答えた 

「うーん……おじゃましました。」

 丁寧にぺこりとお辞儀すると、女の子はとてとてと部屋から出ていった。

「いまの……だれだ?」

「さぁ……?」

 ただただ、今起こった事を理解しようとする二人。

 しかし、極限の寝不足の頭では、考えをまとめるなど出来はしなかったのであった。



「おはよー……」

 眠そうな顔をしたまま、ミリィがコックピットへとやって来た。

「おう……」

 答えるケインも眠たそうである。

「何ですか?二人して!もう昼過ぎですよ?」

 キャナルが頬を膨らませながら言った。

 張り込みを始めて5日、収穫はゼロだった

『…………』

 ケインとミリィが、キャナルをしげしげと見つめている。

「私の顔に何か付いてます?」

 キャナルがそんな二人に呆れた様な口調で言う。

「いや……お前を見てると、

 なんか言わなきゃなんない事があったような気がしてな……」

「あっ、あたしもなのよ!なんだったっけ……?」

 二人が考え込んでしまい、沈黙の降りるコックピット。

「だぁぁぁっ!わかんねぇっ!!」

 ケインが頭を掻き毟る。

「思い出せないなら、そうたいしたことじゃないんですよ」

 キャナルが、そう言ったとき、扉が開いた。


「いたぁっ!」


 その瞬間、視線が来訪者に集中する

 小さな、女の子。

 飾り気の少ない白のワンピースを着て、ポニーテールがゆれていた。

 ケインとミリィは思った、この子を見た事がある。そして誰かに似ている……と

 唐突に、その女の子は走り出す。

 ふわりと飛びあがり、それを反射的に受け止めるキャナル。

「ままっ!」

 しっかりとキャナルを抱きしめる。

 あ然ととするケイン。呆然とするミリィ。そして、硬直するキャナル……

 ……その中で、最初に反応できたのはミリィだった。

「ケイン……あんたキャナルにまで手ぇ出したの?」

 ジト目で見つつ、言う。

「何でそうなる……」

 ぎぎぎっと、首だけミリィに向け、ケインは言った。

「お…大方、母親がキャナルに似てるんだろ?

 どっからか迷って来たんじゃねぇのか?」

「どっかからって、何処から?」

 ちなみにここは宇宙空間、一番近くの星へも数光年離れている。

「キャナルは、なんか知らないか?」

 答えに詰まったケインは、キャナルに話を振る。

 キャナルはゆっくりと振り向き、困惑に満ちた表情で言った

「この子……ホログラフです……」



 キャナルの腕の中ですやすやと眠る女の子。

 どう見たって立体映像には見えない。

「システムをチェックした結果、メモリに不明領域ができてました……」

 キャナルは、静かに話し始めた。

「投影装置も私の物の流用のようです。ですが、優先権を取られちゃったみたいですね」

 女の子は、キャナルの服をしっかり握って放さない

 ゆえに、キャナルは女の子を降ろす事ができず抱いたままなのだ

「ようするに、この子はキャナルの分身なわけ?」

「おそらくは……でも、私の方からの干渉が一切できないんです。

 あんまり認めたくありませんけど……バグが出たのかもしれません……」

「だいじょうぶなのか?そんな状態で……」

「ええ、システムの方の損傷はたいしたことありませんし、活動に支障は出ませんから。

 ――それよりもこの子、この船に置いてあげてもいいですか?」

「俺はべつに構わないが……」

 ケインは、そう言いながらミリィに目で合図を送る。

「あたしも構わないわ。大勢の方が賑やかでいいんじゃない?」

 キャナルが礼を言おうとした時。腕の中の少女が目を覚ました。

「おはよー……まま」

 そういってキャナルに抱き着く。

「ねぇ、キャナル。この子の名前は?」

「――そう言えば……なんて名前なの?」

 キャナルは、腕の中の少女にそう問いかける。

「なまえ?わかんない……名前ってなに?」

「ええと…自分の事を表す言葉よ」

 そう説明してあげる。

「おにぃちゃんも名前持ってるの?}

「ああ、ケインって言うんだ、よろしくな」

「おねぇちゃんも?」

「ミリィよ、よろしくね!」

 しばらく何か考え込むと、顔を上げて女の子は言った。

「……まま!私も名前ほしい!」

 唐突な反応に、キャナルはしばらく考える。

「そうですねぇ……“クリーク”って言うのはどうです?」

「くりぃく……?わたしクリーク。よろしく!」

 女の子……クリークはそういってにっこりと笑った。



 …………

 ケインは、コックピットに入ろうとして思わず立ち止まる 

 ゆり椅子の上で、キャナルがクリークを膝に座らせ、本を読んでいた。

 記憶のどこかにあるような、そんな光景につい見とれてしまったからだ。

「あ、ケイン。おはようございます」

 そんなケインに、キャナルが声をかける。 

「おう、おはよう。」

 言って、ケインは自分の席へと座り、苦笑を浮かべている自分に気付く。

 悪い気はしなかったが。その意味は自分でも分からなかった。

「ミリィはまだみたいだな。」

「もうすぐ来ると思いますよ?」

 他愛ない日常の会話。平和である。

「まま、ここはどうするの?」

 クリークが本をキャナルに差し出す。

「ここはね……こう、こう、こうやると……ほら外れたでしょ?」

「すっごーい!!」

 キャナルの鮮やかな手並みに、クリークは目を輝かせている。

「なにしてるんだ?」

 ケインが気軽に問いかける。

「ええ、ちょっとセキュリティの外し方を教えてたんです」

 さらりとそう答える。

「……そうか」

 何処と無く虚しいものを感じ、ケインの目は虚空を見つめていた。

「おはよー」

「おはよう!ミリィお姉ちゃん。」

「おはようクリーク。……どうしたのケイン?」

 どちらとも言えない方向を見て、ケインはぶつぶつ呟いている。

 よく聞けば『現実なんてこんなもん…ふふふ…』とか繰り返してたりして。

「……?」

「お姉ちゃん!これ見て!」

 首をかしげるミリィに、クリークが本を差し出す。

 ミリィはそれを覗き込んで……

「キャナル……なぁに教えてんのよ……」

 思いっきり座った目でキャナルを見ながら、言った

「やっぱり、こういう生活していると必要になってきますから……

 中途半端よりもキッチリやっておいた方がいいですからね」

 ミリィは、クリークの肩に手を置いて言う

「真っ直ぐ育ってね?」

「……どういう意味ですか?」

 妙に悟ったような顔のミリィと、腰に手を当て青筋立てているキャナル

 うつろな目のケインに囲まれて、クリークがきょとんと佇んでいた。



 コンコン!

「開いてるぜ?」

 ノックの音にケインが何気なく返事をする。

「ケインお兄ちゃん……ちょっといい?」

「クリーク?めずらしいな、どうしたんだ?」

 沈んだ顔のクリークに違和感を感じつつ。ケインは自分の部屋に招き入れる。

 クリークはしばらく話そうとしてはやめ、また話そうとするのを繰り返す

 ようやく思いきったか、口を開いた。

「あのね……クリークのパパは、ケインお兄ちゃんなの?」

 ごすっ

 思わず頭から壁に突っ込むケイン。

「子供って、パパとママが居ないとできないんでしょ?」

「ど…何処でそれを……?」

「宇宙通信局のね……育児講座なの」

 やや顔を赤らめるクリークを前に、しばし、ケインは考え込む。

「キャナルはなんて言ってた?」

「まだ話してないの……」

「そうか……それならキャナルと一度きちんと話ししてみろ

 俺のところに来るのは間違いだぜ?」

「でも……」

 うつむいたままそう答える。

「こういう事はちゃんと話し合った方がいい

 何なら、一緒に付いて行ってやろうか?」

「!」

 手やら首やら振りまわして、必死に拒否を表すクリーク。

「ひ、ひとりで行くからいいよ!」

 あわてて、部屋から飛び出す少女に、ケインが後ろから声をかける。

「がんばれよ!」

「うん!」

 振り返り、笑顔でクリークは答えた



「まだ……ね……」

 ぽつりと、だれとにもなくキャナルは呟く。

 そこへ、入り口の開く音。

「ママ!」

「クリーク……どうしたの?そんなに慌てて……」

 そう言って、自分の娘……クリークを見つめる。

 先程までの深刻そうな影は何処にも無い。

「あのね……私のパパは?」

 キャナルはちょっと困った顔をする。

「パパはね……いないの……」

「死んじゃったの?」

 キャナルは、クリークを抱き上げ椅子へと座る

「いいえ、貴方に父親はいないのよ……」

「……パパがいないのに、私がいるの?

 それって、私がみんなと違うから?」

 不安そうな顔をするクリークを、キャナルはそっと抱きしめる。

「まったく同じ人なんていないの

 他人と違う事を恥じる必要はないわ」

「ママは……パパがいなくてもいいの?」

「ええ、ケインやミリィ、そしてクリーク……貴方がいるわ

 みんな大切な私の家族よ」

「なら、私もパパいらない」

「いや、要る要らないじゃないんだけど……」

 苦笑しつつキャナルが言う。

「自分は自分、そして、その自分を大切に思ってくれる人がいる事を忘れないでね?」

「うん」

 その答えを聞き、静かに立ち去る影があった事を、二人は知らない。



「あれ?クリーク……キャナルは?」

 ミリィがコックピットに入ると。キャナルの代りにクリークが座っていた。

「調べ物してる。私はお留守番なの。

 ミリィお姉ちゃん、ママに用があるの?」

「特に用があるって訳でもないんだけど……

 そうだ!あたしの部屋に来ない?」

「え…?でも留守番してないと……」

「どうせ、あたしが食べ物持ち込まないか見張ってるんでしょ?

 と言う事は、クリークがあたしと一緒に居れば問題ない訳よね?」

「解ってるんなら止めた方がいいと思うんだけど……?」

 クリークは、やや呆れたような顔をする。 

「ふっ!それがポリシーっていうのよ」

「そうなの?」

「……クリーク、ここはつっこむ所よ」

 ミリィは、良く解らないといった表情をするクリークの手を取る

「まぁいいわ。行きましょ」

 そう言って自分の部屋へと向かった

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7254電子の海に生きる存在3みならい 7/22-02:48
記事番号7253へのコメント
いままで長い時をすごし、その争いに満ちた日々が終わった時
私に残った物は何なのだろう?
いずれ訪れる未来……
それは私の望んだ物なのだろうか?

  ひかり     もの
――電子の海に生きる存在――
    −第三章−

 コックピットのドアが開き、ケインがゆっくりと入ってくる

 だが、其処にはだれも居なかった

「キャナル」

 彼は、小さい頃から連れ添った相棒の名を呼ぶ

「何ですか?ケイン」

 返事とともに、ケインの背後へふわりと少女が現れた

「次の仕事だが、輸送船の護衛だったよな?」

「ええ、3日後に出港予定の“まわるクジラ”の護衛ですけど……それが何か?」

「運送会社の情報と、航路に現れるっていう海賊の情報を調べておいてくれないか」

「わかりました。でも?どうしてです?」

「いや、ちょっと気になってな……」

「そうですか…それじゃ、さっそく調べておきます」

 言って姿を消すキャナル

 終始振り返らず。そのままの姿でケインは呟いた
      ・・・・・・・・・・
「いつから、調べ物程度で姿を消すようになったんだ?」


『貴方が今度の護衛の人ですな!

 まだまだ若いのにフリーで仕事しとるとは……いやぁ!たいしたもんだ!』

 白い髭を貯えた“まわるクジラ”の船長が豪快に笑いながら言った

「おじいさんこそ、まだまだ若い人には負けないって感じですよ?」

 キャナルがそう切り返す

『お嬢さんにそう言ってもらえるとはありがたいね!

 それじゃ、よろしくたのむよ?!』

 通信が途切れ、モニターには大きな輸送船が写っている

「運送会社には問題になるような点はありませんでした。

 ですが、海賊の方がちょっと気になるんです」

「なんだ?」

「U・Gの討伐隊が2度ほど返り討ちに遭ってます

 旗艦を落とされて統率が無くなったところを叩かれたようですね」

「2回もか?」

「ええ、全く同じ状況です」

「よっぽど油断してたか……もしくは……」

「遺失宇宙船……まだあるの?」

 ぽつりとと呟くミリィに無言で頷くキャナル

 大きな輸送船が、ゆっくりとその船体を虚空へと滑らせる

「仕事の時間だ。いくぜ」



 予定の航路を半分ほど消化し、一行は問題の宙域へと差し掛かっていた

「そろそろだな……

 キャナル。レーダーに反応はないか?」

「船影は見えません。ですが、もうすぐ小惑星帯を通過します」

「待ち伏せするなら、そこって訳ね」

「先行して、様子を見た方がいいな……」

 出力の上昇と共に、軌跡を残してソードブレーカーは小惑星帯に向かう

「――別に、異常はなさそうですね……」

 周囲には無数の隕石が浮かび、動く物は何もない

「そうだな」

 ――ざわり

 えもいわれぬ悪寒がケインの背筋を流れる!

「サイ・バリア展開!!」

どぉがぅっ!

 展開されたバリアの表面で、数百の光がはじける!

「輸送船は無事か?!」

「無傷です!」

「一体、今のは何だ!」

「……恐らく……トラップです」

「罠ぁ?」

「ロスト・ウエポンの一種だと思います

 大きなエネルギー源から順番に、自動で攻撃するようになってるんだと思いますけど……」

「罠の位置は分かるか?」

「ええ、さっきの攻撃の時に確認しましたから」

「片付けておいた方がよさそうだな……できるか?」

「全部一度に破壊しないといけませんから……

 クリーク、手伝ってくれる?」

「はぁい

 ミリィお姉ちゃん、ちょっと膝貸してね」

 言ってクリークは、ひょこんとミリィの膝の上に飛び乗る

「ちょ、ちょっと」

 クリークの指がパネルを滑る

「ママ、準備いいよ。」

「OK…いくわよ、3、2、1」

 閃光が宙を駆け、一瞬遅れてあちこちで爆発が起こる

 爆発が収まった後には、きれいさっぱり惑星帯は無くなっていた



「結局、これが海賊の正体だったって訳か?」

「なんだ、そういうことか……」

「いえ、何千年も動作したままでいられるとは思いません

 おそらく、ここに罠を設置した船がいるはずです」

「どうあっても、ロスト・シップが出てくるのねぇ……安心して損した……」

 がっくりとコンソールに突っ伏すミリィ

「来たよ!」

 巨大な船影が空間を揺らめかせ現れる!

「でかいな……」

「見たことのないタイプです……」

 話を割って数条の光が降り注ぐ!

「考えるのは後だ!、あの船を沈めるぞ!」



「いやにあっさり沈んだわね……」

 宙に漂う船の残骸を眺め、ミリィがぽつりと呟く

「考えてみれば、敷設用の船にまともな兵装がしてある訳ありませんでしたね」

「まぁ、これでここいらの海賊騒ぎも収まるだろ?

 キャナル、護衛に戻るぞ!」

「はい   あっ!」

 ぐにゃりとキャナルの姿が歪み……掻き消える!?

「どうしたっ!」

「ちょっと!キャナル!冗談は……」

 ディスプレイが切り替わりキャナルが現れる

『ははは……エラーが出ちゃった』

 しーん

「キャナル……

 どういう事か……説明してもらおうか……?」

 ディスプレイを見つめ、ケインが問う

「あ、あのですね…えと……」

「……メモリ不足でプログラム処理が追いつかなくなったんだろ?違うか?」

「えっ!……知ってたんですか?」

「ちょっと!」

 ミリィの声に二人の視線が集まる

「私の……私のせいなの……?」

 見れば、クリークが、青ざめた顔で震えていた

「違う!……違うわ、貴方のせいじゃない」

「……どうするんだ、このままじゃまずいだろう?

 時間もないしな……」

「そこまでわかってたんですね……

 そうです……もう、思考能力も低下してるんです……

 このままでは、後3日持ちません……」

「やだ!ママが消えるんなら私も……!」

 クリークが叫び、ケインはキャナルに向き直る

「自分の言ったことを忘れたのか?

 “自分を大切に思ってくれる人がいる事を忘れるな”だろ?

 お前は一人じゃないんだ。

 必ず、二人とも残る方法を見つけるんだ」

(同じ孤独を味わせるな……)

「はい……

 でも…どうしましょう?」

 コクピットに沈黙が降りる

 長い、長い沈黙の後

「……ああっ!もう!ソードブレイカーが2台あればいいのにぃっ!」

 ミリィが沈黙を割って頭を抱えた

「今……なんて言った?」

「え?いや…ソードブレーカーが2台あればいいんじゃないかなって……」

「それです!……なんで今まで気付かなかったのかしら……?」

「できるの?そんな事……」

「自動修復装置に細工すれば……新しくコアブロックを創れます!」

「やったじゃない!これで万事解決ね!」

「あ…でも……資材が……創ってたら間に合わない……」

「おいおい、しっかりしてくれよ……

 俺達の周りに浮かんでるのは何だ?」

「さっそく作業開始ね!」

ピーッ

「“まわるクジラ”から通信が入ってます」

「やべ、忘れてた……」



 あの後、戦闘のためのマシントラブルということで、護衛の仕事は途中で下りることとなった。

 船長の計らいで、違約金は払わないですんだが、報酬は半分になってしまった……

「仕事の方はこれでいいが、どのくらいかかる?」

「えっと……資材の質が悪いんで……30時間ほどでしょうか?

 なんとかなります。クリーク、どんなデザインがいい?」

 二人でカタログ(といっても実際には設計図なのだろうが)を覗き込み何やら盛り上がってたりする

 先程までの雰囲気はどこへいったのか、ケインとミリィはそっちのけである。

「いいの?仕事は必ずやり遂げるんでしょ?」

「うっ…まぁ、非常事態だしな。」

「なんだかんだ言っても甘いんだから」

 ミリィはそう言って、くすくすと笑う。

 言い返す言葉も無く、ケインは笑って部屋を出た。



「じゃ、クリーク 」

 なんとか、コアブロックが完成し、いよいよクリークが移動するという運びになった。

 現在、メインブロックを増設しているソードブレイカーが不格好なのは……言わない約束である

 クリークの姿が霧散し、ディスプレイに現れる。

「どう?そっちの調子は?」

「ばっちりだよ!ママの方は?」

「だいじょーぶ!問題ないわ。」

「ちょっとまて……」

 どこと無く疲れた声を出したのはケイン

「俺の方が問題あるぞ……」

「あれ?クリーク、そっちのアンプ動いてる?」

「えっ…?あれっ?止まってる!」

「お、おいっ!」

「だ、大丈夫ですよ。

 いつもよりちょーっと疲れるだけですから、ね、ケイン?」

「こんじょーだよ!ケイン兄ちゃん」

「お前らなぁ……」

「修理できないの?それ?」

「……時間かかりそーですねー……これは……

 下手をすると数ヶ月単位ですよ……」

「なんとかなんねえか?

 このままじゃ、仕事どころじゃねえぞ?」

「艦の機能を低下させれば何とかなります

 具体的にはエンジンを止めるとか……」

「それって、意味ないじゃない……」

 ミリイの呆れたような声

「しかたねぇ……どっかに船を降ろして、しばらくは地上で仕事するか……」

「そーね、私もしばらく無理できないみたいだし、ちょうどいいかも。」

「そーですね……って、今の発言は何です?」

「何って……そのまんまなんだけど?」

 一瞬流れる沈黙

「まさか……おっ、おめでたっ!?」

「なにぃっ!!相手はどこのどいつだ!」

 すかーん

 突如騒然となるコクピットに、そう快な打撃音が響き渡る!

「あんた以外に誰がいるってのよ……」

 静かな台詞とは裏腹に、しっかり耳まで真っ赤である

「え?本当におめでたなんですか?

 そ、それにあなた達、いつのまにっ……」

「いや、別に大見得切って言うもんでもないし……なぁ……」

 頭をさすりつつ、ケインが言う

「まぁ、いいですよ、本人同士が納得してるんなら」

「ママ、すねてる」

「ちがいますっ!!

 ……それじゃ、目的地はノーマッド星系ブラフマーでいいですね」

「そうだな、あそこならゆっくりできるしな……」

「報告もしなくちゃ、ね?」

 うなずくケイン。

「ねえ、ケイン兄ちゃん」

「なんだ?」

「できちゃった婚?」

 椅子から滑り落ちるケイン

「ああっ!アリスに顔向けできないっ」

「お〜ま〜え〜ら〜っ」



 ゆっくりと、船は宙を駆ける

 目指すは故郷、凱旋の道は遥か彼方まで続く

 自らと、自らの大切なもののため

 進む道は、きっと明るいだろう




エピローグ

8ヶ月後

「じゃ、行ってくる」

 ケインは、町で警備の仕事をしていた

「いってらっしゃい。気を付けてね」

「ああ、お前も無理すんなよ」

 最近では、日常の会話となった受け答え

「はぁ……じっとしてるのもねぇ……」

「言うなよ、俺だって宇宙を飛び回ってる方が性に合ってんだ

 ……ところで、あの二人は何してる?」

「何だか、二人してこそこそやってる。」

 ミリィは、最近目立ち始めたお腹を触りながら答えた

「結局、あの時の報酬は押さえられちまったしな……

 ま、怠けぐせは付けないに超した事はないか」

 振り返り車へと向かうケイン

 ミリィはそれを見送った後、扉を閉め家へと入る

「いたた……

 まったく、元気のいいのは父親譲りかしら?」

 口ではそんな事言いながら、顔にはやさしい微笑みが浮かんでいた

 その微笑みは、新たなる命へと向けられた物か、それとも……?



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7256Re:電子の海に生きる存在3ふっしゅ E-mail 7/22-15:44
記事番号7254へのコメント

はじめまして。
ふっしゅといいます。

やった!ケイン×ミリィネタだっ!!と、おおはしゃぎしてました。
しかし・・、ケインとミリィの子供ができるとわ・・・・。(笑)

続きを楽しみにしています。
がんばってください。

でわ。


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7287REみならい URL7/28-05:39
記事番号7256へのコメント


>はじめまして。
>ふっしゅといいます。
はじめまして!御返事遅れてすみません

>やった!ケイン×ミリィネタだっ!!と、おおはしゃぎしてました。
甘くないのにあんな結末で……

>しかし・・、ケインとミリィの子供ができるとわ・・・・。(笑)
(笑)
一応、伏線はあったんです……2章の始め辺りに

>続きを楽しみにしています。
>がんばってください。

現在、自前のHPで連載中です。
輪をかけて勝手な展開ですが(笑)

最後になりましたが、読んでいただきありがとうございました。