◆−君のためにできること(14巻ネタバレ注意です)−穂波(8/1-00:00)No.7314


トップに戻る
7314君のためにできること(14巻ネタバレ注意です)穂波 E-mail 8/1-00:00


えーと、タイトルにも書きましたが、一応、セレンティアの憎悪、ネタバレ注意な話です。でもって、ルーミリです。
では、よろしければどうぞ。
---------------------------------------------------------------------

 宝物のような、女だった。

「ルーク!」

 銀色の髪、指の間を流れる感触が、好きだった。

「らぶらぶじゃありません」

 白い肌、さわるのが怖いほど滑らかで、ふれずにはいられないほど熱かった。

「人を殺すことが、いいはず無いでしょう!!」

 薄い唇、初めて重ねたときの気持ちは、今も覚えている。

「私も人間よ。そして、あなたも」

 翡翠の瞳、見つめられると落ち着かなくて、でも見つめていたくて困らせた。

 そばにいたかった、それだけでよかった、それだけが全てだった。

 手を伸ばせる距離で、ふりむいてくれればよかった。


 ごとん。
 鈍い音ともに、肉塊が転がった。特に何の感慨もなく、それを剣先で転がし、足の下でさっきからやたらとうるさい奇声をあげる男の目の前に突きつける。
「オデノ、オデノ、アジガァァァァ!!」
 耳障りな声をあげて、男は自分の足を取り戻そうと手を伸ばす。
 ザシュッ!
 俺は地面に突き立てた剣をゆっくり引き抜くと、そのまま足下でもがく男の首筋にあてた。
「うるせぇよ。勝手に動くんじゃねぇ、っていっただろ?」
 腕を切り落とされた男は、ガクガクと頷いた。
 俺はことさらゆっくりと、その首筋に刃を埋める。
 男の絶叫が、耳障りだった。
「聞こえないみてぇだな……動くなっていってんだよ」
 ずぷり、ずぷり……。
 いつの間にか、足下の男――ザイケル――は動かなくなっていた。
「おい」
 剣先で頭をつつくと、ごろりと転がった。
「ちっ……質問は、あっちにするか」
 片足で這いずるように移動する、ゾードの姿を追いながら、俺は小さく呟いた。


 出会えたことが、ひとつの奇跡。

 眉を寄せて考え込むような表情、怒ったような冷たい眼差し、慎重な足取り、ピンと伸びた背筋、白くて綺麗な脚、呪文を紡ぐ真剣な声、苦笑するやわらかい瞳、ブーツを手入れする横顔、小指の爪の、微かな傷跡すら鮮明で。

「ルーク」

 俺の名前、呼ぶときの震える睫。

 髪の間から覗く、綺麗なうなじ。

 月光に照らされた、肢体のやわらかさも。

 当たり前のように、そこに、在ったのだ。

 俺を変える、ただ一人の女。

 どんな至宝よりも贅沢な存在だと、わかっていたのに。


 白い花。
 昔、彼女に一度だけプレゼントしたことのある花を、俺はそっと墓標に手向けた。
 石造りの墓に手をあてると、おもったよりそれは暖かかった。最後まで優しかった、彼女のように。
「ミリーナ、ごめんな」
 きっと、今の俺を見たら、彼女は悲しむだろう。
 そんなこと、よくわかっていた。
「でも、俺……止められねぇよ」
 だって、隣にミリーナはいない。
 俺を制止し、導いてくれた彼女は、もういない。
 白い墓標にあてた手のひらが、痛いほど熱くなる。
「なぁ……あの時みたいに、怒ってくれよ。ひっぱたかれても構わない、顔を見たくないってくらい嫌われても、かまわねぇから!!」
 だから。
「俺を……ひとりにしないでくれ」
 声にこたえてくれる筈もなく。
 白い墓標は、ただ、俺の前に厳然と、現実を突きつけていた。


 もう、いない。

 どこにも、いない。

 たったひとつの宝物。

 奪った奴等が憎くて、憎しみが彼女の願いすら塗りつぶしてしまう。

 どれだけ血を流しても、胸の底からわきあがる黒い声。

 仲間だった奴らの声も、正論も、黒い声を止めることはできない。

 彼女に伸ばすべき手は、もう届かない。

 こんな手で、彼女に触れることはできない。

 わかっていても、止められなかった。


「――この場所――!
 ……おぼえてる……?」
 リナの声に、俺はハッとした。
 木の扉。
 ミリーナが、最後の言葉を俺に告げた場所。
 紫色の唇が、苦痛にうなされている筈なのに、ゆっくりと優しい言葉を紡いだ。
 蒼白な顔、そして、徐々に熱を失っていく身体。
 それでも最後まで、ミリーナは俺に微笑みかけた。
 目の前のケレスを殺しても、彼女はもどらない。
 黒い声は消えない。
 そんなこと、よくわかっていた。わかって行動に移した。
 けれども。
(ルーク)
 ミリーナが、囁いた気がした。
「……………………っ……!」
 俺は剣を引き、その場を走り去った。 


 たったひとりの、女だった。

 黒い声は、完全に消えるわけではないけれど。

 彼女と過ごした時間は、嘘じゃないから。

 彼女の願いを、望みを、叶えられなかった全てを。

 俺が、代わりに果たそう。


「……なぁ、ミリーナ」

---------------------------------------------------------------------
ルークのミリーナへの想いがどうしても書きたくて、書かせていただきました。
しかし、ネタバレって言うか、もろ引用在りますね(^^;)
ミリーナの最後のセリフは、新刊で明かされるかもしれませんし(というか、是非明かして欲しいですが)、それぞれ想像なさっていると思いまして、はっきりとは書きませんでした。
では、ここまで読んで下さりありがとうございました。