◆−ひさびさでしゅ−三剣 綾香(9/17-01:55)No.7823
 ┣いずみのそばで−三剣 綾香(9/17-01:59)No.7824
 ┃┗港への馬車は−三剣 綾香(9/21-01:35)NEWNo.7865
 ┣裏・もり−三剣 綾香(9/17-02:02)No.7825
 ┗かがやくまえに−三剣 綾香(9/17-02:06)No.7826
  ┣全部読ませていただきました!−P.I(9/18-01:07)No.7835
  ┃┗Re:全部読ませていただきました!−三剣 綾香(9/18-01:33)No.7837
  ┃ ┗読みたいでしゅっ!−P.I(9/20-22:29)NEWNo.7858
  ┃  ┗Re:読みたいでしゅっ!−三剣 綾香(9/21-01:33)NEWNo.7864
  ┗Re:かがやくまえに−NAOMI(9/18-01:08)No.7836
   ┗Re:かがやくまえに−三剣 綾香(9/18-01:41)No.7838


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7823ひさびさでしゅ三剣 綾香 9/17-01:55


久々に来てみたら
ツリーは落ちてるわ
管理人さんのお加減ハ悪くなってるは
大変みたいでしゅねー

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7824いずみのそばで三剣 綾香 9/17-01:59
記事番号7823へのコメント

こんにちこんばんわ。皆さんごきげんよう、綾香です。
今回は「輝き」の続きの「もり」の続き。
目指すはゼルアメなんですが、さてどうなることやら。
なにげにガウリナ風味が漂ってたりして……(^^;)>
今回の練習はナレーションだったりします。
むずかしいにゃ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「いずみのそばで」

「生きている森?」
「そうじゃ。別名“迷いの森”とも呼ばれておって付近の住民達が迷惑しておるそうじゃ」
リナ達と共に旅をしてから早7年。
すっかり女らしくなったアメリアは父王から話を聞かされていた。
「何と言う事でしょう!!付近の善良なる住民達を苦しめるとは言語道断!!それ即ち悪!!私がたちどころに成敗して上げましょう!!」
がたんっっ!!
椅子を蹴り倒しつつ立ち上がる、プリンセス・アメリア。……7年前とやっている事はあまり変っていない様だが、彼女は一応成人女性なのでお忘れなく。
「一応は余計です」
……ごめなさい。
しかし…どうやって森を成敗するつもりなんですか?
「正義の炎で!!」
正義のねえ…具体的には?
「私の熱く燃えたぎる正義の炎で悪を燃やし尽くすのです!!」
森林火災ですか?その方が近隣住民の迷惑なんじゃ…
ごす!!
「やかまし」
…す、すびばせん。
くすくすくす。
正義の炎を盛大に燃やしているアメリアの耳に笑い声が届く。
「――え?」
何年か前までは当り前のように聞いていた声。
聞けなくなってもう何年もたつ。
聞きたくて、会いたくて、眠れずに何度朝焼けを眺めた事だろう。
実際に今、耳にしてもすぐには信じられなかった。
どうか聞き違えではありませんように。
どこか脅えた瞳でアメリアは振り返る。
はたしてアメリアの視線の先に佇んでいたのは一人の青年だった。
記憶にある彼とあまりに違うその姿におそるおそる声をかける。
「ゼルガ…ディスさん…ですよね?」
問われた青年は苦笑する風情だ。
「ああ。……久しぶりだな、アメリア。元気そうで何よりだ。」
「はいっ」
ぐぁばっ
顔を洪水にしたアメリアに抱き付かれてゼルガディスは顔をあかくする。
「お、おい。おやじさんが見てるぞ。」
しかしアメリアはその言葉が聞こえていない様に今度は彼の頬に触れる。
「人間の身体に戻れたんですね!!」
そう。”レゾの狂戦士”ゼルガディスは今や完全に人の姿に戻っていた。
…ちっ
「ちっ?」
いや、個人的に前の姿の方が好みだったんで……
どかっ!!
「やかまし」
ご、こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛……
……二人揃って乱暴なカップルである。
「……たりなかったのか」
あああ、ごめんなさいごめんなさい!!
ただいまの発言は大変不適切でございました!!お詫びして訂正いたします!!
「よし」
やれやれ。
アメリアは初めて触れたゼルガディスの頬の柔らかさに新たな涙を浮かべる。
「本当に、本当に良かったです!!」
ぎゅうう!!!
「うぐっ……」
アメリアさんアメリアさん。ゼルガディスさん生身なんですから。
「今忙しいんです!!」
それ以上やるとゼルガディスさん死んじゃいますけど。
「え?あ、ああ〜!!ごめんなさいゼルガディスさん!!大丈夫ですか?!」
「あ…ああ。なんとかな。……しかし、お前は外見以外は全く変っていないみたいだな。」
涙を浮かべたままで謝るアメリアにゼルガディスは瞳を優しく和ませた。
その眼差しにアメリアは思わず顔を赤くして黙り込む。
ご、ごほん!!
ややわざとらしい咳払いにはっとなった二人の視線の先で、フィルは優しく微笑んでいた。
「さて、感動の再会が済んだ所で二人とも席につきなさい」
二人だけの世界から元の世界に戻ってくる二人の前にお茶が運ばれる。取敢えず場の雰囲気が落ち着きを取り戻したのを見計らってフィルは話を再開する。
「――とまあそう言う訳で、通り掛かった商人からの訴えでな、調査をしなくてはならんのだ」
「それを俺にやれ、と?」
「うむ。ゼルガディス殿にはそれなりの謝礼はお支払いいたそう。ついでにアメリアも連れていってくだされ。一応、正式な調査なのでな。」
ゼルガディスと共に行けるとあってアメリアは大歓喜。
「ありがとう父さん!!」
「おお〜っアメリア!!しっかり調査して来るのだぞ!!」
「はい!!父さん!!」
ひしっっ
抱き会う父娘に溜息などつきつつ、ゼルガディスは微笑んでいた。

旅は順調だった。
王都をでてはや一週間。アメリア達は森のほとりにある村に辿り着いていた。
「どうします?まっすぐ森に行って見ましょうか?」
「いや、村で情報を集めてからだ。」
「ですね…」
アメリアは溜息をつく。だいぶ疲れているようだ。
ゼルガディスはその事にちゃんと気が付いていて先に村に行く事にしたのである。
にくいねー、このこのっ!!
どかっ!!
「懲りん奴だな」
いたい……

村は至ってのどかだった。
「“迷いの森”のそばにあるにしてはなんだかのどかで良い所ですねー。」
カントリー風の家々にはさびれた風な所も無く村全体が暖かな雰囲気に満ちていた。
「こんな所に住めたら最高ですよねぇ」
「……確かに。」
何気ない呟きにはっきりとした返事が返ってアメリアははっとしたように顔を赤くする。
な、なにも私とゼルガディスさんが一緒に住むと決まったわけじゃ……ないのに……。
くすくすくす。
ゼルガディスは顔を赤くして黙り込むアメリアを面白そうに眺める。
「あーっ楽しんでますねゼルガディスさん!!」
ゼルガディスの視線に気が付いたアメリアはゼルガディスをぽこぽこ叩く。
「すまんすまん。別にからかうつもりじゃなかったんだがな」
もういいです!!ぷいっと顔を背けるとさっさと宿屋と食堂の二枚看板の家に向かって歩いていってしまう。ゼルガディスはその後ろ姿を愛しげに見送った。
「森の調査だって?!」
「はい。」
「なにか知っていたら教えてもらえないか?」
「精霊の森に悪さする奴の肩もってそんな事する人たちに、食べさせるものも、泊める宿もこの村にはないよ。」
それまで穏やかに話していた店主はその話しになったとたん警戒した目で二人を睨んだ。
「どういう事だ」
「どうもこうもないね。あんたら、森に悪さしようとした連中に頼まれたんだろ?」
「悪さ?」
アメリアの不思議そうな様子に何も知らないと判断したのか溜息と共に警戒を解く。
「大方“迷いの森”とでも聞いてきたんじゃないかい?」
確かめるような視線に肯く二人。
「その言葉はここじゃタブーだ、気をつけたほうがいい。この村じゃあの森をこう呼んでるんだ“精霊の森”とね」
村と森は互いに守り守られている。森で迷うのは悪巧みをしている連中だけだ。
「森の巫女様のお力で悪い奴等は森の外に追い出されるようになってるのさ」
「森の巫女?なんなんです?それ。」
同じ巫女であるアメリアが熱心に聞き返す。
店主は誇らしそうにこたえた。森を守り、村を守り、森の意志を伝える尊い方だと。
とにかく。
「あの神聖な森に悪さしちゃいけないよ。」
もう一度念をおすとそれをしおに店主はテーブルを離れていった。
「どうします?」
聞いてた話しとだいぶ違うような気がしますけど。
アメリアの言葉に頷く。
「取敢えず行ってみよう、森に。」
危険はないと店主も言っていた。森は子供の遊び場でもあると。

「ほう…」
「へええ、本当に意志ある森なんですねえ」
森の入り口で二人は感嘆した。
優しい意志が森全体を包んでいるのを感じる。
森に入ると尚それが強まった。邪悪な気配など微塵もなくあるのはただ清涼な空気だけだ。
大きな魔力を伴った優しい意志、人の心を溶かすような穏やかな風情の森である。
「すごい…奇麗な森ですね…」
「ああ完全に誤解だった様だな」
ここは聖なる地だ、魔力の心得のある二人は感覚的に理解していた。
ざざっ!!
「え?」
突然茂みをかき分けて金色の髪をした小さな少年が姿を現した。
こちらも驚いたが少年はそれ以上に驚いたようだった。瞳を大きく見開く。
「誰?」
硬い声で問う。
「あたし達怪しいものじゃありません。ちょっとこの森の調査に来ていて…」
「アメリア!!」
ゼルガディスの制止は間に合わず、少年はアメリアの台詞に表情まで硬直させる。
「調査?…森の巫女に害成す者だね?!」
鋭い、問い。誰かをほうふつとさせるような。
「あ、ち、違います違います!!最初は調査で来たんですけど、なんだか訴えと事実が食い違っているみたいなんで真実追究の為森にやってきたんです!!」
慌てたように言い直し、次いで力強く拳を握り締めるアメリアに、少年はきょとんとした瞳を向ける。
蒼い蒼い瞳。誰かをほうふつとさせるような。
「迷っていたわけじゃないの?」
「ああ、あっちにあった入り口から入ってきた所だ。そういう訳で誤解を解く為にも俺達は真実を知りたいんだが」
森の巫女殿には会えないものか?
ゼルガディスの要請をじっと目を見詰めて聞いていた少年は不意ににっこりすると肯いた。
「うん、わかったよ。お兄さん達嘘付いてないよね。」
森の巫女に会わせる。そう言って歩き出した少年に付いていきながらアメリアは自己紹介をした。
「私はアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンと言います」
「え?!じゃあお姉さんがアメリア姫さまなの?!」
少年は――ロキと名乗った――ひどく驚いたようだが、それは彼女が王家の人間だからと言うわけではない様だった。
「じゃあ、もしかして…まちがってたらごめんなさいお兄さんはゼルガディス=グレイワーズさん?」
「なぜ俺の名を知っている?!」
驚愕する二人と対照的にロキは一気に緊張を解いた様子だった。
「なんだぁ!!先に名乗ってくれればよかったのに。」
そういって駆け出す。今まで進んでいたのとは違う方向へと。
「こっちです!!森の巫女も二人に会えば絶対に喜びますよ!!」
「ええ?!こっちじゃないんですか?!」
「そっち行くと森の外に出ちゃうんです!!」
「ええっ?!」
はは〜ん信用されてなかったんですねえ。
さりげなく森から追い出されるところだったようである
とにかく。
少年の勢いに引き摺られる様にして茂みを抜けると大木の側に一人の少女が佇んでいるのが見えた。
「お姉さん達はうんがいいです」
ロキが囁く。
その意味は直ぐに理解できた。
少女が歌い出したのだ。
心が洗われるような天上の聖歌。森に染み透るような静謐な歌声。
息をするのも忘れたように二人は聞き入った。
歌い続ける少女は栗色の髪を垂らし、飾り気のない白のワンピースを着ている。
軽く伏せるようにした瞳は深い深い森のグリーン。
がささっ
少女のすぐ脇の茂みから大きな鹿が姿を現す。ちらりとこちらを見た後、手を差し伸べる少女にとことこ近づきおとなしく首を抱かれた。
大樹の上に丸い虹が現れ、消える。
全てはあっという間の出来事のようだった。
二人は歌が止んでからも暫くぼんやりとしていたが、呼び声と共に少女に駆け寄っていく少年の姿に我に返る。
「ははさまーっ」
「ははさま、って…それじゃあの人ロキ君のお母さんなんですか?!」
とても彼くらいの子供がいる様には見えない、少女といって差し支えないほどの女性。
「ロキ!!」
息子の声に振り返った母親は同時に自分を見つめる二人にも気が付いたようだ。
思わずぺこりと頭を下げるアメリアをやや呆然としたように見つめる。
少年が何事か囁き、彼女は輝く様な笑顔を浮かべた。
「アメリア!!ゼル!!」
「「え?」」
思わず揃ってしまった声。顔を見合わせている間に、少女はロキの手を引き引きこちらにやってくる。
近くに立つとますます美しい少女に見えた。
紅い瞳栗色の髪。……紅い瞳?!
「目の色が…」
アメリアの呟きにああ、と少女は笑う。
「巫女してる時は目の色が変るの。」
あっさり答えて逆に質問してくる。
「で?二人はなんでまたこんな辺鄙な所にやってきたわけ?しかもおそろいで。」
「実はかくかくしかじかで……」
「……というわけだ」
あはははははは!!
宿屋での一件を聞いて少女は大笑いをした。そうして笑っている所はやはり母親には見えない、あどけない表情の少女だった。
「そ、そりゃあこの村でそんな事言ったら反感買うわよねー」
くすくすくす。
なおも可笑しそうに笑っていたがやがて笑いを収めるとゼルガディスに視線を移して微笑んだ。
「?」
「よかったね。」
「なにがです?」
少女の視線を気にしてアメリアが聞く。
「え?だから人間の身体に戻れて良かったね、と……」
「なんでそんなこと知ってるんだ……?」
呆然とした呟きに少女は怪訝そうに眉をひそめる。
くいくいっ
母親の手を引いてロキが助言をした。
「ははさまアメリアさんもゼルガディスさんもははさまのことわかってないんだよ、きっと。」
そう言ってにっこりと二人に笑いかける。
「あのね、ぼくの名前、ロキ=インバース=ガブリエフってゆうの」
え?
え?!
「ええーっ?!」
「な、なによ?なにそんなに驚いてるのよ?」
二人の驚愕を一身に浴びて少女は一歩引く。
「まさか…」
「まさか、リナさん、なんですか?!」
おそるおそるの確認に更に怪訝そうな視線を返しつつも少女――リナは肯く。
「……そうだけど?」
そこまでいってようやくわかったのかリナは苦笑する。
「やだな、あたしそんなに変った?」
会ってもすぐにわからないほどに。
見目は麗しく成長していたが、よくよく見れば身に纏う雰囲気は確かにリナのそれだった。
「あれー?お前らいつ来たんだ?久しぶりじゃないか。」
がさがさ。茂みを分かって男が以前とかわらぬ姿を見せる。片腕に栗色の髪と紅い瞳をした小さな女の子を抱いていた。
「ははさまー!!」
女の子は男の腕から滑り降りると一目散にかけてきてリナに飛びつく。
「久しぶりだなあ、ゼル、アメリア」
男――ガウリイが目の前に立ち、声をかけても二人は直ぐには反応を返せなかった。
「リナさん!!」
我に返ったアメリアは目に涙を浮かべてリナに飛びついた。
「おひさしぶりですぅ〜!ひどいですよ〜リナさんてば、ガウリイさんと結婚したことも、セイルーン領内に住んでることも全然知らせてくれないんですから〜」
半泣きのアメリアを抱き止めてリナは苦笑する。
「なるほど、そういうことか。こりゃあフィルさんのしわざね。あんた達、詳しいことは何も聞かされずにここに来たんでしょう?」
あたしが森の巫女してる事とかさ。
リナの言葉にゼルガディスは顎に手を当てる。
「詳しいこと…なるほどそういう事か。」
「そういう事ってどういう事ですか?」
そうそう皆わかんないんだからちゃんと説明をしてください。
「つまりだ。フィルは俺達を寄越す前にあらかじめ調査の人間を寄越したんだ。それも村の人間があそこまで過敏に反応した所を見ると、ごく最近のことだと推測できる。」
ふむふむ。で?
「まだ解らんのか。察しが悪いな」
へーへーすみませんですね。
で?
「フィルはこの森に危険がないことも、リナ達がここにいることも知っていたんじゃないかって事だ」
ははあ、知っていて黙っていた、と?
「そりゃそうよ、だってあたしは知らせたもの。フィルさんから森の巫女宛ての書状の返事として、だけど。」
「知ってて黙ってるなんてひどいです父さんてば!!」
「あんたを骨休めさせようとしたんじゃないの?」
「え……?」
ははあ、つまりこういうことですか。フィルさんは訴えに基づいて調査のものを村に差し向けた。
と、そこに偶然リナさん達がいることが解った。そこでフィルさんは調査という名目で次女姫と彼女のナイトを送り出し、かつての仲間と再開させようと計画した……。なかなか心憎い演出ですねえ。
一商人の訴えにわざわざゼルガディスを探し出して召喚したのはアメリアに息抜きをさせてやろうという親心だったのである。
「父さんが…?」
リナは自分に抱き着いたまま目を丸くするかつての妹分の頭を優しく撫でつつ肩を竦める。
「たぶん、そんな所でしょうね」
「ははさまはあたしの!!」
そのとき、足元から不満そうな声が上がった。
ウサギのぬいぐるみを抱いた女の子がアメリアの服のすそを引っ張っていた。
「この人はいいんだよファラ」
憤る肩を後ろから抱きとめ、小さな兄がさらに小さな妹を諭す。
「アメリア姫さまとゼルガディスさんなんだから」
母親譲りの紅い瞳が驚いたように兄を見上げ、ついで母親から慌てて離れたアメリアを見上げる。
「あめりあ、ひめさま?」
「はい。ごめんなさい、あなたのお母様をとるつもりじゃなかったんです」
女の子はぱっと顔を輝かせてアメリアに飛びついた。
「ふぁらね、ふぁらね、ははさまからあめりあ、ひめさまのおはなしきいたの」
「私の話?」
「ん!そいでね、みてみたかったの!!」
「会ってみたかった、でしょファラ」
「うん。あって、みたかったの」
母親の声に慌てて言い直すところが愛らしい。目が合うとにっこりする。
「ファラちゃんって言うんですか?」
「ふぁりる」
「ファリルちゃんなんですか。いくつなんです?」
「ふたつ」
「二つ?」
驚いた様にリナを振り返るゼルガディス。
視線を受けて心なしか誇らしげにリナは微笑む。
「賢いでしょー。あたしの子供たち。」
賢い、賢すぎる。だってちゃんと会話が成り立ってる。
世間の子供ってこの年じゃ、話すのがやっとで会話が成り立つ所まではいかないのに。
「お前の血はいったいどこへいったんだ?」
ゼルガディスのからかいの目にガウリイも苦笑する。
「さあなあ、ロキも小さい頃からやたらしっかりしてたからなあ。」
「そう言えばロキ君て何歳なんですか?」
「今年で六才になります。」
「六才?!」
二人はまた驚愕する。
見た目だけで判断するならこの兄妹は確かに六つと二つに見えなくもない。けれど中身は兄は十一、二才に、妹は五つ六つにしか思えなかったからだ。
両親も子供たちもまったく気にしていない様だったが。
「で、でもそうですよね。6つじゃないと計算が……」
「何の計算よ!!」
納得しかかるアメリアに顔を赤くして声を上げるリナ。
「お前らと別れてまだ7〜8年しか経ってないしな」
「しみじみ考え込まないでよぉ!!」
ばこばこ!!
ファリルの持っていたぬいぐるみでアメリアとゼルガディスの頭を叩く。
「あん、ふぁらのぉ〜ふぁらのぉ〜」
「あ、ごめんね、つい。」
「ひでえ母親だなぁ」
「五月蝿いよガウリイ!!」
そうしてじゃれている所はやっぱり、二児の母には見えず、アメリア達は顔を見合わせたのだった。

「ははさま、ふぁらおなかすいた!!」
元気な声に大人達は苦笑する。
「そう言えばもうお茶の時間なのねえ。」
歌ってたから気が付かなかったわ。
日差しに手をかざしながらリナは呟き、自宅への招きを口にする。
「寄っていってよ。急いで戻らなければいけない訳ではないんでしょ?」
「そーそー今日は泊まっていくといい」
仲良く微笑む夫婦の誘いをアメリア達はありがたく受けることにして、一行は村へと森を出ていった。

――その夜。
久しぶりの仲間との再開に興奮し、眠れないアメリアはそっと家を出て森へ向かった。
森は昼と夜ではがらりとその趣を変える。
昼間はただ静かな場所だった森も、夜となった今ではそこかしこで虫の音が聞こえ、獣達も遠くで鳴声を上げている。昼間とは違った意味で森は“生きて”いた。
森に入ったアメリアはなんとなく昼間見た大樹を目指して歩き出した。一度通った道なので迷いのない足取でさくさく進む。
ここが普通の森ならば、夜に一人ではいるのは危険なことだ。けれどここは精霊の森。
ここでは如何なる生き物も人間に危害を加えない、そのかわりに人間の側も植物以外の狩りは固く禁じられている。その話を聞いていた彼女は眠れぬ夜の散歩先をここに選んだのである。
引き寄せられるように道無き道を歩む。
さくさくさく
下ばえを踏み分ける音だけが続く。
「……にしても、驚きましたねえ」
はい?
「リナさんが巫女って言うのもびっくりでしたけど……あの二人が結婚して、しかもあんなに可愛らしいお子さんが二人もいたなんて。」
ほんとほんとびっくりですよねえ。
「……しってましたね?」
ご、誤解です!!
ロープロープ!!
「問答無用!!」
ほ、ほらあっちで水音が聞こえますよ。なにかいるんじゃないですか?
「言い訳は聞きたく……ってあれ?ホントだ」
ぜいぜい。
不意に聞こえた水音に引かれるようにアメリアは道をそれた。
水音がごく近くになる。アメリアはなにかの動物が水浴びでもしているのかと、そっと茂みから様子をうかがった。
「……あれ?ガウリイさんです」
煌煌と輝く満月に照らされた奇麗な泉。
透き通る闇の中で水浴びをしていたのはガウリイだった。
「あれ?」
見間違いかと目を擦る。
「ガウリイさんの目、碧色してます」
明るい月の光の中でガウリイの瞳は確かにいつもの蒼穹の蒼ではなく深緑の碧にみえた。
がさがさっ
アメリアから見て反対側の茂みを割ってタオルを持ったリナが歩いてくる。
黙ったまま泉の側まで来るとタオルを置いて泉に足を浸した。
蒼く光る月を眩しげに見上げる彼女の瞳もまた、深い深い森の碧。
白いワンピースが月の光をはじき、華奢な少女はまるで闇に浮かんでいるかのようにみえた。
「そろそろ上がりなさいよ。いい加減風邪引くわよ?」
彼に向かって軽く爪先で水を蹴りかけるリナ。
「そうだなぁ……――うりゃ!!」
「ちょ、ちょっと?!」
ぱしゃ…ん
ガウリイは何気ない素振りでざぶざぶと水際の少女に近づくと腕を掴んで水中に引きずり込む。
軽い水音。
水位はガウリイには胸のラインでリナにとっては深いらしく、一旦沈んでからすいっとガウリイの腕にすくいあげられた。
「もうっ何すんのよいきなり」
腕に腰掛けるように胸の高さに抱え上げられた少女は腕の持ち主に文句を言う。
彼女を水に引っ張り込んだ張本人は文句など聞こえない振りでにこにこと彼女を見上げる。
「まあまあ。水も滴るなんとかって言うじゃないか」
「あたしは、今更水を滴らせなくても十分いい女なの!!」
恋人達(とても一男一女をもうけた夫婦には見えなかった)はさやけき夜の中でじゃれ会っている。
「のぞきかアメリア」
突然声と共に肩を叩かれて彼女は思わず声を上げてしまう所だった。
あの二人のあんな場面を見ていたことが知れたらリナからどんな仕打ちを受けるか知れない。
かろうじて悲鳴を押さえて囁き返す。
「脅かさないで下さい!!…そんなんじゃありません」
「じゃあ何で隠れてるんだ?」
「そ、それは…」
二人が囁き合っている間にリナが歌い出す。
透き通った闇に、木々を揺らし更に透き通った声が流れる。
声は、大気の透明度を増し、月光を強める。やわらかなぬくみが肌に染み込むようだった。
「月の光って暖かいものなんですね」
光を受け止めるように手を差し伸べて囁きかけるアメリアは、清冽な月の光に照らされていつもよりも儚げに見える。
普段明るすぎるほどに明るい彼女の違う一面が垣間見えたような気がして、ゼルガディスは目を細め、思わず手を伸ばしていた。
いつの間にか月光は元のあえかな光に戻っていた。ゼルガディスは腕の力をそっと抜き、抱きしめていたアメリアを開放する。口元を両手で押さえながら赤い顔で微笑むアメリア。
岸に上がって泉の縁に腰掛け、歌い終えたリナが声を上げた。
「そこの二人!!」
「きゃあっ!!」
いきなり呼びかけられて思わず悲鳴が突いて出る。
「居るのはわかってるんだから出といでアメリア、ゼル」
アメリア達は顔を見合わせるとリナの手招きに引かれるように茂みを抜けた。
「何時から気が付いてたんですかぁ、リナさぁん」
やや赤みの残る顔でアメリアが聞く。
リナはゼルガディスにちらりと視線を向けたが、視線を逸らすゼルガディスに苦笑しつつ答える。
「歌い始めた時。」
歌を歌っている時、リナの意識は森の巫女であると同時に森そのものでもある。歌い出してしまえば森の隅々までもが彼女の手の内にあるといっても過言ではない。
「え?じ、じゃあ見てたんですか?!」
真っ赤な顔で詰め寄るアメリアの肩をぽんぽん叩いて悪戯っぽい視線をゼルガディスに投げる。
「ん〜?何を〜?ねーゼルぅ知ってるぅ〜?」
「のぞきはお前達のほうだったって訳か。昼間の意趣がえしか?」
「あんた達だって見てたでしょうが」
よくよく見るとそう言っているリナ本人も微かに頬を染めている。
こちらをからかう様に饒舌なのは照れ隠しの為らしい。
はたはたと顔を仰ぎながらアメリアは先ほど気が付いた事を聞いてみた。
「なんかガウリイさんも目が碧じゃありませんでしたか?」
リナさんも今そうですけど。
「ああ、満月だからよ」
こともなげにリナは肯く。
「リナはともかくどうしてガウリイの旦那まで目の色が変っちまうんだ?」
「だってガウリイは毎日森に来てるもの」
そんで毎日あの聖域で巫女の歌を聴いている。
「影響を受けないほうがおかしいってもんよ」
軽く小首をかしげてアメリアが問う。
「ガウリイさんって歌ったりはしないんですか?」
これには苦笑が返る。
「流石にそこまではね」
でもガウリイって元々歌は上手いわよ?
巫女の歌ではないけどね。
リナは悪戯っぽく微笑んで背後を振り返る。
「ね?」
振り返った視線の先では、衣服を着けて首にタオルをかけた格好のガウリイが歩み寄ってくる所だった。
「さあ?良く分からん。二人とも観念して出てきたんだな。」
「あたしが呼んだのよ」
近くで聞かなきゃ勿体無いじゃない。
折角の巫女の歌なのよ?
茶目っ気のある返答には苦笑が返った。
「ま、いいけどな。」
いい所で邪魔されたんじゃないか?
意味ありげな視線を受けてアメリア達は赤面しててんでにあらぬ方向を向いた。
「あら、だ・か・ら・こ・そ呼んで上げたんじゃないの」
ここってもの凄く人目があるのよ?
リナに指摘されてアメリアはきょろきょろする。
確かに。木々の影に、泉の向こうに、村人達が集まっている。
「も、もしかして見られてたでしょうか……?」
その言葉にリナがすいっとゼルガディスに流し目をやる。
「見られちゃまずいことでもやってたのかな〜ゼルちゃん?」
「ほっとけ!!」
くっくっく
拗ねたような返答にリナは笑いをこらえる様にして半泣きのアメリアの頭を撫でる。
「大丈夫よ。」
「本当ですかぁ〜?」
「ホントホント。あの人たちが来たのってあたしが歌ってからだもの」
つまり歌に惹かれてやってきた…と?でも森で歌ってた時は誰も居なかったような…?
「巫女達の歌を聞けるのはこの泉でだけだからな」
ガウリイも当然のように肯く。
「森の木の所でも歌ってたじゃないですか。」
あの場所は神聖な場所。人が入ることは基本的にできない。あそこで歌う巫女を目にできるのは森の動物達だけなのである。
「じゃあ私達あそこに入っちゃいけなかったんですか?」
「ホントはね。――でもあんた達は特別」
「特別?」
「森が許さなきゃあそこまでは入ってこられないのよ?」
たとえロキが案内したとしてもね。
微かに笑う。
「精進すれば森の歌が歌えるかもよ?」
さて、勢いを付けてリナが立ち上がる。
「何するんです?」
「歌うんだ」
ガウリイが答える。
リナはもう返事をしない。
こちらの声が聞こえていない様に泉の縁に立つ。
巫女の瞳はすでに森全体を見詰めているのだ。
一歩踏み出す。
「あ」
ぶない。
声を上げそうになってガウリイに止められる。
「?」
'見てればわかる'というように少女のほうを見る。
え……
白い少女は水面に降り立つ。
「リナ…さん…?」
少女はそのまま中央へと歩みを進める。
何も見ていない瞳に全てを映して少女は歌う。それは泣きたくなるほどに美しい光景、胸が痛くなるほどに優しい光景だった。
「…………」
声が出なかった。集まってきている人々の間からも、声はおろか衣擦れの音一つ立たなかった。
月の光は痛いほどに澄んで水面を鏡のように輝かせる。水面に写った森の木々が風のそれとは異なる動きでさやさやと音を立てる。

かたかた

ゼルガディスはふと隣を見る。
アメリアが震えていた。
場の静謐を壊さぬようにそっとやわらかな肩を抱き寄せた。
「どうした?」
小刻みに震えていたアメリアは肩を抱かれてほっと息を付いた。緊張で固まっていた肩を軽く上下させる。
ゼルガディスがそっと肩を放すと、びくっと反応して今度は逆にしがみついてきた。
「どうした」
微かに顔を赤らめながらも腕を振りほどかないままゼルガディスはもう一度囁く。
ぎゅうっとしがみついていたアメリアは、ほぉーっと大きな安堵の溜息を付いた後ゼルガディスを見上げて囁き返してくる。
「放さないで下さい」
「え?」
思っても見ない言葉にゼルガディスは今度こそ赤くなった。
その顔を見て自分がとんでもない事を言った事に気が付いたのか、アメリアの顔も赤みが増した。
「え、えと、あ、あの変な意味じゃないんです!森の意志が…その、怖くて…」
「怖い?」
「はい」
ゼルガディスは辺りを見回す。
リナの歌に増幅されたように、感じられる森の力は確かに強まっている。――しかし、怖いとはどういう意味なのか、首をかしげる。ゼルガディスに感じられるのは包み込むような優しい森の心だけだ。
「なにを脅えていたんだ」
ぴったりと身を摺り寄せている少女を腕の中に囲いつつ尋ねる。
「辺りに満ちてる力が私には強すぎるんです。」
そう言えば彼女は巫女だ。
きっと自分などよりも大いなる力に敏感なのだろう。その手の事には常人レベルでしかない自分にもここまで強く感じられるのだ、強すぎる力は彼女にはさぞかし辛いに違いない。縋るように自分を見つめてくる娘の視線が愛しくて更にぐいっと近くに引き寄せる。
しかし……
「それと、'放さないで'ってのはどういう関係があるんだ」
強く引き寄せられて一層胸にしがみついていたアメリアは、その問いに首だけをゼルガディスのほうに向ける。予想以上に近い位置にある彼の顔に嬉しそうに笑ってからもう一度抱き着き直してから口を開いた。
「なぜかはわかりませんけどこうやっていると、怖いくらいに感じられていた力が途切れるんです。月の光とか、リナさんの歌とか感じる余裕が出来るんです。」
ふわり
声無き声が心に届く。
“森を出て”
「リナ?」
“今のこの森の気はその子には強すぎるの”
意識の断片として心に直接語り掛けてくるリナの心。
「行こう」
そっと促すが少しでも離れるのがいやなのか単に動けないのか立ち上がろうとしない。
「抱いてってやれよゼルガディス」
側に来ていたガウリイが促す。
「歌の聞こえない所まで行けば取敢えず落ち着く筈だから」
ロキと同じだな。
ゼルガディスに抱き上げられたアメリアをガウリイは何かを思い出す様な瞳で見つめた。
リナが始めて泉で歌った時、小さなロキは引き付けをおこすほど大泣きした。森が怖いといって。
自在に森を駆け回り、時に歌を歌う片鱗すら見せる、今のロキからは想像できないが。
「先に戻ってる」
「気を付けていけよ。」
歌が聞こえなくなっても森を抜けるまでは足を止めるなとガウリイに言い含められて、ゼルガディスはその場を後にした。
ゼルガディスは急ぎ足で森の道を進みながら、腕の中のアメリアに囁く。
「気分はどうだ?少しは落ち着いたか」
「……」
「アメリア?」
アメリアは返事をしない。
なんだかぼんやりと空を見つめている。
“いそいで”
また声。
“森に連れて行かれるわ”
「連れて行かれる?」
どういう事だ。
“巫女のアメリアは森の気に反応しやすい。エネルギー源として取り込まれる危険がある”
「なに?!」
駆け出すゼルガディス。
「なぜそれを先に言わないんだ!!」
“ロキが行くから”
え?
「ゼルガディスさん!!アメリアさん!!」

ざっ!!

木の上から月光に光る金髪をひらめかせる少年が飛び降りてくる。
「こっちです!!先導します!!ついてきてください!!」
言うなり返事も待たずに背を向けて駆け出す。
走る先に木の蔓がのび、見る見るうちに行く手がふさがる。
思わずスピードが落ちかけるゼルガディスにウインクをしてそのままのスピードでロキは突っ込んでいく。
絡み合った蔓が一枚の壁の様相を呈しているそこに向かって挑むように叫ぶ。
「道を開けろ!!」
一瞬揺らぐように揺れただけで蔓は相変わらずそこにあった。
「どうやらおねーさんは本気で気に入られちゃったみたいですね」
追いついたゼルガディスを肩越しに振り返って不敵に笑う。
この状況の中ゼルガディスは思わず感心した。
こいつ、リナ=インバースの息子だ。
やさしげな外見に母親と同種の鋭さ、激しさを秘めている。
「一気にぶち破るから、しっかりついてきてね!!」
もう一度ウインクをなげて正面を向く。
「開けてくんないなら、ちから押しで開けるまでだよ!!」
いいでしょははさま?!
空に向かっての呼びかけに明確な答えが返る。
“許可っ!!――燃やさなければっ!!”
「はいっ」
「何をする気だ?!」
「下がっててください!!」
少年は軽く構えを取って呪文を唱え始める。
「呪文…?!」
こんな小さな子供が呪文を扱うのか?!
ロキは『力ある言葉』を解き放つ!!

『ダグ・ハウト』!!

ずぅんっっ!
重い地響きと共に地面が揺れ、蔓が力なく垂れ下がった。
「――……!!」
ロキは言葉を失って呆然とするゼルガディスを緊張した表情で振り返り、急かす
「道は開きました。急いでくださいゼルガディスさん!!もう時間が余り残っていません!!」
はっとして腕の中のアメリアを見下ろすと半ば閉じた瞳からは光が失われつつあった。
ぞくり。背が震える。冷たいものが背を這い上がってきているように。
このまま愛しい娘が失われるのではないかという冷たい予感が頭をよぎる。
「アメリア!!」
「ついてきて!!」
再び駆け出すロキとゼルガディス。
そのまま一気に森の外へ転がり出る。次の瞬間ロキが三人の周りに魔力結界を敷くいた。
包み込まれるような森の気配が途絶える。
「ようすはどうです!!」
肩で息をしつつロキが問うてくる。
「……大丈夫だ。」
茫洋としていた瞳に力が戻り、アメリアは半ばきょとんとして辺りを見回し、次いで自分がゼルガディスに抱かれている事を知ると赤面しつつそっと彼を見上げてきた。
「あの……ゼルガディスさん…?」
「なんだ」
「何が…どうなったんでしょう?」
「?!覚えていないのか?!」
「?はい。」
アメリアは泉の側を離れる辺りからの記憶がはっきりしないらしい。――無理も無いが。
ゼルガディスは腕の中のアメリアを降ろさないままロキを見やる。
「たすかってよかったです。すみません、アメリアさんが家を出たのに気がつくのが遅くなってしまって……」
危険に晒してしまいました。

ぺこっ

几帳面な仕種で頭を下げる。
「どういう事なんだ、これは。」
先刻の、まるでアメリアがアメリアでなくなるような恐怖を思い出して思わず抱く腕に力を込める。
「アメリアさんは森の気にどうちょうして魔力を吸い取られていたんです」
「魔力?」
「そう。魔力とは即ちせいしん力」
根こそぎ奪われれば死に至る。
「森は生きているんです。森は生きる糧として人の想いや魔力を吸収しているんです」
同調が深い人が時たま命を奪われる事もある。
そう言う人を指して呼ぶのだ“森の守り人”と。
「森に殺されかかったって事か?」
昼間はあんなにも穏やかな表情を見せておいて。
先程だってあんなにも優しい光景を映しておいて。
森は人を喰っているって言うのか?
自らの力を守る為に?
危険がないどころじゃない、俺は何を見ていたんだ。
人を喰う森。うかつに踏み込んだ自分が悔やまれた。
「わかっていてやっているのか、リナは」
「ははさまは全部わかってるよ」
実際アメリアさんを見張るように言ったのもははさまだもの。
「わかっているならなぜ排除しようとしない!なぜのんきに巫女なんてやってるんだ?!」

「………」

「アメリア?」
腕の中でアメリアが身じろぎする。
「こわかった……」
「思い出したのか?」
「はい……森の中にいる間中見えない何かが私の中の力を吸い取っているのを感じました。力が抜けて頭がぼんやりして……」
言葉を切って一つ体を震わせる。
ゼルガディスは思わずその頭をそっと撫でていた。
「そうか……」
「でもね、ゼルガディスさん。本当に怖かったのはそのことじゃないんです。本当に怖かったのは」
本当に怖かったのは、『怖いと思えなかった事』だ。
そう言ってアメリアは涙を落とす。
森に取り込まれそうになった時、不思議なほど恐怖は感じなかった。
体がだんだん冷たくなっていき、視界が危うくなっていってもまるで当り前の事に様に受け入れている自分がいた。
なんの疑問も浮かばなかった。森の糧とされそうになっているというのに、だ。
森から出て、ロキの結界に包まれるまで、その事にすら気がつかなかった。
「それじゃあリナたちも…森の糧とされているというのか?本人はそうと気付かないままに」
「それはありません」
ゼルガディスの呟きに明確な答えが返る。
幼い声には不釣り合いなほど理性的な瞳。
「“調和”と“同調”はちがうんです」
調和者は森の巫女と呼ばれ、同調者は森の守り人と呼ばれる。
魔力を振るう者と維持する者。
違いとはそれ。

「その時やっと、リナさんが私達の事を側に呼んでくれた本当の理由が分かりました」
「本当の理由?」
そう、彼女らがリナの元に呼ばれた理由は一つ。
「リナさんの側があの森で唯一安全な場所だったんです。」
リナの力が及ぶ唯一無二の安全地帯。
アメリアが森を歩いていたあの時、水音が聞こえなければアメリアはすんなりと森に取り込まれていただろう。
アメリアとゼルガディスが茂みから覗いていたあの時、リナが呼び出さなければアメリアは恐怖の内にその命を落としていただろう。
ゼルガディスが森から抜け出そうとしたあの時、ロキが二人に出会えなければきっとアメリアは持ちこたえる事が出来なかっただろう。
今までの森の守り人と呼ばれた人達がそうであったように。
リナは、森の聖域に苦無く入り込め、また満月の森に呼ばれてしまったアメリアとゼルガディスが“調和者”なのか、“同調者”なのか、注意深く見守っていたのだ。
――多分最初に聖域で会った、二人の前に立ったあの時から。
「――借りが出来たな。また」
あの二人には借りばかりがたまってゆく。
失わずに済んだ愛しいぬくもりをもう一度抱き寄せた。
「アメリア……無事で良かった」
「ゼルガディスさん……」
そっと伏せた瞳に優しく口付ける。
合成人間だった昔にはする事が出来なかった事だ。
岩の体では小さな姫君を壊してしまいそうだったから。
もう一度今度はその薔薇の唇にキスを落とす。

ふふふっ

子供の笑い声が重なった。
「そうしているとちちさまとははさまみたいです」
はっとして体を離す二人を好奇心の瞳でロキは見ている。
「ぼくしってます」
そういうの“らぶらぶ”って言うんですよねっ♪
嬉しそうに聞かれて、思わずアメリアとゼルガディスは赤くなった顔を見合わせ苦笑をした――

おしまひ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
うーんちょっと当初の予定とは話が違ってしまった……
ここまで読んでいただいてありがとうございましたの綾香です。
軽く甘く穏やかな話を目指していた筈なのに……
ナレーションもいまいちだったし……
目標は前半しか達成でき無かったです……
ほろほろほろ(泣)
「もり」では優しい森にしたので
「いずみのそばで」は残酷な森にしよう…などと思った訳ではないんです、当初は。
書いてる内にほのぼの系でいくとなんとなく話が締まらないなあなんて思ったのが運のつき。
途中変更したらかえって締まらない作品になっちゃいました。
心残りだようぅ……
でも折角書いたし、わたしの実力をご覧頂く意味も込めて載せます……
今仕事が忙しいんでここで載せなきゃ永遠に載せないまま終りそうなんです……
ああ……でも、心残りなんだぁ……!!

うるうる
綾香 拝

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7865港への馬車は三剣 綾香 9/21-01:35
記事番号7824へのコメント

皆さんこんにちこんばんわ。お久です!!という前にお会いできました。
三剣 綾香です。
今回はガウリナファミリー編のラスト!!って感じでかいてみました。
あまり含みのない、本気で軽いお話に仕上がっていると思います。
シルフィールが出したくて書いたのに、最初の方しか出てきていないという……^^;
ガウリナ、ゼルアメ、そんでシルフィールとロキとファリル。
子供を除けば無印メンバーほぼ勢揃いのお話です。
そんでは。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『港への馬車は』

軽い足取で町を駆け抜けるのは紅い瞳の少女。
好奇心に満ちた瞳で辺りを眺めながらもその足は止まることがなかった。――ここはセイルーンシティである。

「こら!!」

突然響いた声にシルフィールは思わずびくりと立ち止まり、声を振り返った。

どんっ
「きゃあ」

身体を反転させた瞬間、走り込んできた少女とぶつかってしまったのだ。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?ちょっとよそ見をしてしまって……」
突然聞いた声に聞き覚えがあるような気がして思わず振り向いてしまった。突然立ち止まってしまった為に少女とぶつかってしまったのだ。
しかしぶつかった少女は、彼女の詫びなど聞いてはいない様子で、また走り出そうとしていた。

「だいじょうぶです。それじゃあ」
軽く頭を下げて駆け出そうとした少女の襟を掴む手があった。
「やあんはなしてってば!!」
ぢたばたぢたばたっ
少女は紅い瞳を睨むように光らせる。
「こら!!ちょこちょこあっちこっち行くなってば」
手の持ち主は慣れた様子で抗議を無視する。

え…?

シルフィールは思わず瞬きをした。
二人に見覚えがあるような気がしたからだ。

少女の紅く輝く瞳に。
少年の流れるような金髪に。
何より二人の雰囲気に。

「ガウリイ様…?」

その呟きを耳にして目の前の二人は騒ぎを一旦収める。
「なんで知ってるの?」
栗色の髪を束ねた少女は不思議そうに見上げてきた。
「じゃ、じゃあやっぱりガウリイ様なんですか?」
シルフィールの目の前に居る二人はどう見ても子供に見える。
少女は五つ六つ、金の髪蒼い瞳の少年はせいぜい十くらいにしか見えなかった。
「小さくなっちゃったんですか?」

……………

呆然とした呟きに沈黙が降りる。――と、

きゃはははははは!!

少女の笑い声が返された。
子供特有の甲高い声が響く。
「おもしろい!!お姉さんおもしろい人だねえ!!」
「こら、失礼だろそんなに笑ったら。知らないんだから仕方ないじゃないか。」
少女の襟を放して(今まで掴んだままだった)少年はぺこりとこちらに頭を下げる。
「ごめんなさい失礼な事言ってしまって。」
僕はガウリイ=ガブリエフではないんですけど、実は…
少年の言葉の途中で隙を突いた少女が再び走り出す。

「じゃーねーおねーさーん」

「あ!!こら!!もう帰るって言ってるだろう?!」

少年の制止にも止まる気配はなく、元気に口答えしてくる。
「ひぐれまで好きに見てきていいっていってたもん!!」
「だぁぁっ!!ちがーう!!日暮れまでには帰って来いって意味なんだよあれは!!」
「しらなーい」
少年はもう一度シルフィールに会釈して少女を追い始めた。

二人を唖然として見送ったシルフィールは溜息を付いて後にくすくすと笑い出した。

「それは笑われますよね」
リナとガウリイが小さくなったなんて、いくらなんでも突飛過ぎる発想だ。子供に笑われても仕方ないかもしれない。
「でも、あのお二人を見ているようでしたわね。」
ガウリイの事を知っている様子でもあったし。

もしかしてあの二人は…?
そうだとしたら素敵だ。シルフィールは素直にそう思っていた。

……追いかけてみましょうか?
今なら追いつけるかも知れませんし。
そう思いながら振り返ったシルフィールは次の瞬間信じられないものを目にする事になった。

『レイウィング』!!

可愛らしい声で力ある言葉が叫ばれ、先程の少女が空中を飛んでこちらへ逃げてきたのだ。
少女は五つか六つ。魔法が使えるような年ではない筈だ。なのに……!
少女は制御の難しいレイウィングを見事に操っていた。

「うそ……!!」

「へへーんだこれで追いつけないでしょうー?」

得意げに笑いながら少女が飛び去ろうとした、その時。

『マジックシール』!!

日暮れの喧燥をすり抜けて澄んだ声が呪文を唱えた。
するとまるでその声に断ち切られたかの様に少女を取り巻く風の結界が割れ、少女が空中に放り出された。

やぁ―――――――――――――――

叫び声を上げながら少女は屋根ほどの高さから真っ直ぐ落っこちてくる。
「危ない!!」
辺りの人々は目を覆った。もちろんシルフィールも。

―――――――――――ぽすっ。

少女が叩き付けられる音にしては軽いその音に、シルフィールはそっと両手を下ろした。
少女は無事だ、男の腕に受け止められたようである。
「おまえなあ。ちょっと乱暴だそ。」
怪我でもしたらどうするつもりだったんだ。
男は目をぱちくりさせる少女を腕に乗っけたまま肩越しに後ろを振り返った。
「ちゃんと計算してたもん、大丈夫よ。ちゃんとあんたが受け止められるようにさ」
声と同時に人垣が割れて栗色の髪の美しい女性が姿を現した。

ほぉ〜っ

騒ぎのなかに現れた美男美女の二人に、周囲から溜息が漏れ聞こえる。
「そんなもんじゃないと思うんだがなあ……って、あれ?シルフィールじゃないか?」
呆れたように溜息を付いた男は、呆気に取られてこちらを見ている彼女にようやく気が付いた。
「あっれー?ホントだー。シルフィール、おっひさしぶり♪」
軽く片手を上げて挨拶をしてくる二人をシルフィールはまじまじと見詰めてしまう。
「あの…ガウリイ様と、リナさん…ですよね?」
ガウリイはわかる、十年前の記憶と殆ど変らないその姿で。

けれど…
「リナさん…なんだか凄く変られましたね。奇麗になられて…」
久しぶりに会ったリナは格段に美しくなっていた。
手足はすらりと伸び、バランスの取れた華奢な体つきをしている。自慢の髪はますますつややかさを増しているようだ。
幼さの抜けた表情には、神秘的な雰囲気と不思議な色香が漂う。造形の美しさもさる事ながら、その内からの輝きが彼女を彩り、世にも希なる美人に仕立てていた。

絶世の美男子といっても過言でないガウリイと並んでも全く遜色がない。それどころか、完成された一枚の絵の様に調和された感すらある。嫉妬や羨望を感じる事ができないほどに完膚なきまでにお似合いの二人になっていた。

「そ、そう?……なんでか皆そういうのよねー、あたしそんなに変ったかな。」
小首をかしげる仕種すら人を惹き付ける。

「自覚がないって罪ですよねえ…」
はふ
シルフィールは溜息を付いてしまう。
「シルフィールだって相変わらず楚々としてて奇麗じゃないの」

「なにお互いに誉め合ってるんだか」
ガウリイが呆れたように呟いた。――もちろん二人に聞こえない様にではあるが。

「ちちさまこの人だれ?だあれ?」
ガウリイの腕の中から上がったその声にシルフィールは微笑む。
「お二人のお子さんですね?かわいいですわ。もしかしてあの男の子も息子さんですか?」
子供たちのやり取りは昔の二人を見ているようで懐かしかった。
そう言われてはリナとガウリイは苦笑するしかない。

「やっぱり父さん達の知り合いだったんだね」
人込みを掻き分けて少年が歩いて来る。
「ロキ、ご苦労様」
リナに労われてロキは肩を竦める。
「まあね。だけど母さん」
「ん?」
「ファラに魔法教えるの、やっぱりまだ早かったんじゃない?」
どこにでも飛んでっちゃうから危なくてしょうがないよ。
息子の訴えにリナはおんなじ仕種で肩を竦めてみせる。
「しょうがないでしょ。戦闘になった時ファラにできるのは巻き添えにならない様に逃げる事だけだもの。」
逃げる手段は必須でしょうが。
「それになぁ、おまえだって十分ちょこちょこ飛んで歩いてたぞ」
場所が森だったから大事にはならなかったけどな。
「そ、それは……そうだったけどさ」
父親に指摘されてロキは顔を赤らめる。

それにしても目立つ一家である。揃って立っているだけで注目を集めているのがわかるのだ。
刺さるような好奇の目にシルフィールは溜息を付く。
「皆さんここじゃなんですからわたくしの家にいらっしゃいませんか?」
辺りはすでに薄暮の闇に覆われている。にもかかわらず一向に減る様子のない視線にシルフィールは耐えられなくなってきていた。
注目を集めている一家はそれを毛ほども気にしてはいない様だったが。

「やっぱりここにいたんですかぁ」
突然声が割り込む。
人垣がさっとわかれる。声の主は先ごろ婚約の儀を済まされたばかりのプリンセス・アメリアだった。
その後ろに婚約者の君もいる。

リナは軽い調子で答える。
「はい、アメリアゼル。おっ久しぶりぃ〜」
「おー、お前らも久しぶりだなあ」
「あーアメリア姫さまだぁ」
「相変わらず元気そうねえ。あんたたちも」
「はいっ」
「ところでアメリア、さっきのやっぱりってのはなんで?」
「人だかりがしてるとそこに必ずリナさん達が居るんですもん。」
「べつに暴れてる訳じゃないんだけどねえ。」
リナは理由がわかるだけに苦笑いだ。
他の三人は本気で気にしていないらしくきょとんとしている。

いまや辺りは祭りの賑わいの様相を呈していた。
人々の目にはこう写っていた。
美しいこの家族はどこかの国の王家の人間か名のある貴族に違いないと。
国の第二王女アメリアが未来の夫君と共に迎えに出ている事実も彼らの妄想を裏付けているようだ。
流石に王族の方々は違う、と言う声高な囁き(笑)。

「迎えに来てくれたんでしょ?早く行きましょ。」
リナが溜息と共に促した。
どうやらリナは周囲の無遠慮な視線を気にしていないのではなく我慢していただけらしい。

「はい!!――あ、シルフィールさん。リナさん達今日は王宮に宿泊されるんですけど、シルフィールさんも一緒にいかがですか?」
にっこりと振り向く。王族の姫君らしい心配り。
シルフィールは苦笑する。
「わたくしはご遠慮いたしますわ。王家の方にご迷惑をおかけしては叔父に叱られてしまいますもの」
「いいじゃないシルフィール。せめて夕食くらい付きあったって。」
グレイさんにはあたしからゆったげるし。
断りを述べるシルフィールにリナが重ねて誘う。
「でも……」
戸惑った表情を見せるシルフィールにロキが近寄ってそっと囁いた。

「一緒に来たほうが良いですよ」

「え?」
驚いて見下ろすとロキはこちらを見ないまま、シルフィールにしか聞こえない声で再び囁く。
「このまま僕らと別れると、お姉さん皆に取り囲まれて質問攻めにあいます。一緒に来たほうが良いです」
ね?
にっこり。
最後の所でこちらを見上げて笑ってみせる。

改めて周囲に目をむけると、確かに凄い人だかりである。それに見知った顔もいくつかある。このままリナ達と別れればこの人だかりによってたかってもみくちゃにされるのは目に見えて明らかだった。
「わかりました。お供しますわ、皆さん」
諦めと共にシルフィールは肯いた。
同時に周囲から残念そうな溜息が漏れる。
危ない所でしたのね……
危機を脱したのを感じてシルフィールは安堵の溜息をもらした。


王宮の門をくぐっても王宮の建物までは暫く歩かねばならない。

歩きながら自己紹介をしあい、シルフィールと子供たちはすっかり仲良くなった。
ロキは期待のこもった瞳でシルフィールを見上げた。

「シルフィールさん。」

「はい?」

「僕と父さんって見間違えるほどそっくりなんですか?」
わくわくと見詰められてシルフィールは微笑んだ。
ロキを見ていれば、父親を深く尊敬しているのがわかる。その父親に似ていると言われるのが小さな息子にとって誇らしい事なのだろう。
「ガウリイ様のお小さい頃はこうだったのだろうな、と思うほどに良く似ていらっしゃいますわ」
「大きくなったら僕も父様のように……っと、違うや。父さんのようになれるかなあ?」
「はい。きっとなれますわ」

微笑み交わす二人に、幼い娘の手を引くリナから茶々がはいる。
「頭の中身まで父様の様になったら困るけどねー♪」
「おまえなぁ……」
隣から彼女の夫の溜息交じりの声。
「事実だもーん」
「じじつー?」
「“本当の事”って意味よ」
「ふーん。じじつだもんねーちちさまぁー♪」
ぽふっ
抱き着いてきた娘を肩の上に掬い上げながらもう一度溜息のガウリイだ。

「あんまり余計な事を教えるんじゃない。」
「良いじゃない、そうじゃなくてもこの子ロキよりものんびり言葉を覚えてるみたいだし」
ファリルと同い年の頃のロキは、かなりの語彙力を持ち、大人顔負けの攻撃呪文まで操っていた。
そんなロキと比べるのがそもそも間違いなのだが(呪文が使えるだけでも十分凄いし)、それでもリナは心配らしい。

彼女の言葉の覚えが遅い原因は明らかだ。
ガブリエフ家の男二人が寄って集って少女を甘やかしているからである。
父親の保護者体質は息子にもしっかり受け継がれているのだろう。

「リナさんも苦労なさっているんですねえ…」
シルフィールはそう言いながらくすくすと笑う。
「まったくよ。うちの男ども来た日には……」
「でもお幸せそうですわ」
くすくす笑いで指摘され、ふと顔を赤らめる。
そんな所は昔とあまり変っていない様だ。
「ま、まあね」
あさってのほうを見てしぶしぶという振りと共に認める、その姿が愛らしい。
その姿に笑みが深くなる。
姿が変っても中身は昔のままだ。それがなんだか嬉しい。

「けど、結婚なさった事くらいわたくしにもしらせていただきたかったです。」
「私も同じ事言いました。水臭いですよね、リナさんてば。」
リナは苦笑だ。
「うちの両親にも事後承諾だったんだもの、知らせてる暇なんてなかったのよ。」
だから子供たちの顔見せにも来たじゃない、それで勘弁してよ。
「事後承諾って……まさかリナさん、ガウリイ様を押し倒したんですか?!」

ずべっ!!

リナがその場に転ぶ。
「なんでそうなるのよ?!」
「あら、違うんですか?」

じゃあ、なんで?

軽く聞いた言葉には沈黙が返ってきた。
「あ、あの……?」
とまどった声を上げるシルフィールにガウリイは苦笑を向ける。
「オレのほうの事情でちょっとな」
どういう意味でしょうか?
気にはなったがリナの瞳に痛そうな光が宿るのを見て口に出すのは控えた。

代わりに疑問を口にして話題を変える。
「今回こちらにいらしたのは、お子様達を照会してくださるためだったんですか?」
シルフィールが気を使ってくれたのがわかってリナは微笑む。

「それが一つ」
「一つ?他にもあるんですか?」
不思議そうなシルフィールの前でリナとガウリイは微笑んだ。
「今回はフィルさん直々のご招待なのよ。それが二つ」
「父さんじゃなくて、セイルーンとしての正式な招きなんです。」
セイルーンとしての招き?
「どういう事です?」
「そのうちわかります」
うっすらと頬を染めてアメリアが言葉を遮る。
「リナさんが出張っていらっしゃるようなごたごたが起きたと言う話は聞いてませんけど……」
言われたリナは苦笑するふう。
「あたしが関わるのは何もごたごただけじゃないのよ。――いまはね。」

「ははさまお歌歌うの!!」
「お歌?」
「もうすぐアメリア達の結婚式があるのよ」

「リ、リナさん!」
「いいじゃない、直ぐにわかる事だしさ。」
顔を赤くして抗議するアメリアと、この話題に入ってから一度も振り向かないゼルガディスを笑って見やりつつリナは種明かしをし始めた。

「結婚式ですか!?」
話を聞いてシルフィールは驚く。
確かに、婚約の儀を済ませた二人は結婚式をするのには支障がないと言えばない。
けれど、王族の結婚式と言うのは何年も前から準備を重ね、国内国外を問わず大々的に知らせを出した後、さまざまな仕来りの下執り行われるものなのではないだろうか?
リナ達のような一般人と違い、王族のアメリアには電撃結婚のような事は許されないのではないだろうか?

「そんなことが出来るんですか?」

「フィルさんはやるつもりらしいわよ?」
その為に呼ばれたのだ、とリナは答える。

何でもここ数年、リナ達一家はセイルーンの田園地方に居を構えていたのだが、末のファリルがどうやら旅に耐えられる程度に成長したので、また旅に出る事にしたのだそうだ。
結界の外の世界を見て回ろうと思う。そう連絡した所、アメリア達が(たぶんアメリアのほうが熱心だったろうが)同行を申し出たらしい。
だが、正式な婚約式を経てしまった二人にはもはや自分の独断で旅に出るような事は許されない。
そこでフィリオネル国王は、二人の結婚式を行い新婚旅行として、また国の将来のための勉強と称して二人の旅を許可しようと言い出したのだ。

「あいかわらず無茶する人だよなぁーフィルさんてさ。」
「電撃結婚にすればお供も揃わないし新婚の二人の邪魔も少ないだろうって事らしいわよ」
「そ、そんなこと……」
「違うの?フィルさん手紙でそう言ってたわよ?」
「と、父さんてばぁ〜なんて事言うんですぅ〜」

王族の、しかも第二王位継承者に対するものとしてはいささか常軌を逸した采配にシルフィールは驚きを通り越して呆れてしまった。
現国王は豪気な気質で知られているが、ここまでとは………

「じ、じゃあリナさん達はアメリアさんたちを迎えにいらしたんですか?」
「それもあるけど、それだけじゃないのよ。」
「それだけじゃない?」

父親の腕の中からこちらへ手を伸ばしてくるファリルを抱き取りながらリナは肯く。
「ファラが言ってたでしょ?歌を歌うって。」
「歌…ですか?」
「そ。しきたりなんだってよ?セイルーン王家の。」
お祝いの歌という事なのだろうか?
それでもなぜその役がリナに振られるのかがわからず、シルフィールは戸惑う。

「精霊の森と言うのをご存知ですか?」
唐突に隣でロキが問いを発する。
「ええ、一応……」

精霊の森とは、強い魔力によって意志を持った不思議な森だと聞いた事がある。
セイルーンにあると言う話を聞いたような気もするが、不確かだった。
そう答えたシルフィールにロキは肯いた。
「精霊の森には、森の意志と魔力を司る巫女が居るんです。」

巫女は歌によって森と語り合い、歌によって森を守る。

歌…って、え?
「え、じゃあまさか…」
「はい。」

にっこり。

ロキは誇らしげに片手でリナを示す。
「王家の人間が婚姻をする時、“森の巫女”が祝福の歌を贈る習わしがあるんだそうです。で、お察しの通り母さんが、当代の“森の巫女”なんですよ。」

つまりはそういうことなのだ。
結婚する王族の姫君に、森の巫女が祝福の歌を贈る。
その習わしのためにリナ達、と言うよりもリナは呼ばれたのだ。
そもそも旅立ちの連絡をしたのもアメリア達の結婚の時期を把握しておく必要があったからなのだ。

だが,幼い娘を抱いて微笑む彼女からはその片鱗も感じられない。
シルフィールは純粋に驚いていた。

「シルフィールさん」
声もないシルフィールに気を取り直したアメリアが声を掛ける。
「あの、もしよければ私達の結婚式に出席してくださいませんか?」
シルフィールはその言葉にまた驚いた。

「そんな、王族でも貴族でもないわたくしが第二王女の結婚式に出るなんて…」
恐れ多いと断ろうとするシルフィールの手をはしっとにぎってアメリアは言い募る。
「急な話ですみません。でも元々シルフィールさんには私達の結婚式にご出席いただくつもりだったんです!!」
だって、一緒に旅をした仲間じゃないですか。
なかば縋るような視線でこちらを見詰めるアメリアにシルフィールはいつの間にやら笑みを浮かべていた。
嬉しかった。王家の姫が自分を仲間だと言ってくれた事も、自分にも祝って欲しいのだと願ってくれた事も。

「わかりました、出席させていただきます。わたくしも心から祝福を差し上げたいですもの。」

で、式はいつなんですか?
何気ないその問いに、ロキとファリル以外の全員から“やれやれ”と言うようなリアクションが返る。

「え?え?どうしました?わたくし、なにか可笑しな事でも言いました?」
シルフィールは思わずきょろきょろと辺りを見回してしまう。
「あ、いいえそうじゃないんです。式なんですけど、じつは……」

明日なんです。

「え?いつですって?」
聞き間違いかしら?
「ですから、式は明日なんです。」
半ば呆れたような力ない声が教えてくれる。

アメリアはやれやれと言うように首を振る。
「父さんが無茶な人だって言うのは重々承知してましたけど、今回のこれは飛びっきりですよねぇ……」

ふっ

あらぬ方を見て溜息をひとつ。
「そう言う訳で、準備もありますし今夜はこのまま王宮に泊まっていってください、シルフィールさん。」
そう言われても驚き続きですっかり毒気を抜かれたシルフィールは肯くのがやっとだった。


――明けて翌日。

宮殿内は大騒ぎだった。
やれ衣装だ、会場整備だ、お客様はどうなった、舞踏会の準備はどうなったと侍女侍従たちが廊下を走っている音がここまで聞こえてくる。

ガウリイ達男性陣も夜の明けきらない頃からたたき起こされ、上から下まで散々に洗い擦られた挙げ句に正式な衣装を着せられて、すっかりくたびれていた。
元気なのは子供たちだけだ。

「式は正午からなんだろ?なんで今からこんなカッコしなきゃならないんだ。」

帯剣を禁じられてガウリイは不満そうだ。
「すまんな、ガウリイ。だが仕方ないだろう、女の支度には時間がかかるものと相場は決まっているじゃないか。」
そう言うゼルガディスはまだ支度半ばだ。豪奢なマントや冠などは式の直前に着けるとかで比較的楽な格好をしている。
それを見て居るからこそガウリイは不満なのだ。

やや青みの強い紺色の式服に身を包んだガウリイはもう一度溜息を付いた。
同時にゼルガディスも胸の内でこっそり溜息を付く。
“何をやっていても様になる奴だな”
溜息を吐く仕種すらも人目を引く。
今日の主役を取られない様に頑張らなくては。

「――アメリアのためだからな。」

「なにか言ったか?ゼル」
「いや?なんでもない」

くすり。
笑いを漏らしたゼルガディスをガウリイは不信そうに見返した。

「ちちさまーっ」

ばたんっ!!

勢い良く扉を開けてファリルが飛び込んで来る。
彼女も可愛らしいピンクのドレスを着せられている。
そのまま飛びついてくるのを受け止めて、ガウリイは微笑んだ。
「どうした?」
不満そうな顔はどこへやら、優しく娘の頭を撫でた。
「ははさまとシルフィールさん準備できましたって!!」
嬉しそうに報告する向こうに追いかけてきたらしいロキの姿が見える。子供たちは女性陣の準備状況を偵察しに行っていたのだ。
「ファラ!!そういうカッコしてるしてる時くらい大人しくしとけってば!!」
黒い式服を見事に着こなす長男が扉によりかかってあまり効果のなさそうな注意を投げる。
その後ろからやっと準備を終えた女性陣が入場しきた。

ゆっくりと入ってきたリナは巫女の正装。シルフィールはシックな濃紫のドレスだった。
とたとたと座っているガウリイの前まで歩いてきたリナは、くるっと回ってみせると心なしか嬉しそうに夫の顔を覗き込んだ。

「似合う?ガウリイ。」

彼女の着ているのは深い碧のゆったりとした巫女の衣装である。本来森の巫女の色は白なのだが、結婚式の時に限り碧の衣装が用意されるのだ。
これも習わしである。

「ああ。――転ぶなよ。」
眩しげに見上げた直後にそう言ってからかうガウリイにリナは不服そうにする。

「ちゃんと誉めてくれたって良いのに。」
「そうですよ?ガウリイ様。女性が着飾ったら誉めなくては。殿方の勤めですもの。」

「とっても奇麗で、どきどきします。」
寄りかかった扉から身を起したロキがにこにことシルフィールを見上げた。

「先の思いやられる息子だな」

ゼルガディスがぼそりと呟く。
「にいちゃま、ファラは?ファラは?」
ちょこちょこと走り寄って可愛らしくしななど作ってみせる妹に、ロキはあま〜い微笑みを見せた

「とっても可愛いよ、ファラ」
「どきどきする?」
「ああ、どきどきするよ」

「大丈夫なのかあの兄妹、ほっといても。」

ゼルガディスがまたぼそりと呟く。
リナは苦笑だ。
「ちょっと危ないかなーとか思うけど、ま、大丈夫でしょ。」

横目でちろっとガウリイの顔を盗み見て囁く。
「少しは息子を見習って奥さんを誉めなさい」
ふっと笑って肩など引き寄せつつガウリイも囁き返す。
「水を滴らせる必要もないほど、お美しい奥さんをこれ以上誉めるにはどうしたら良いんだ?」
いってこっそりとキスを贈る。

「それに」
「それに?」

くすぐったそうに微笑んでリナは上目遣いにガウリイを見る。
「女って誉めると奇麗になるんだろ?お前にこれ以上奇麗になられると、オレは心配でしょうがないよ」
「やきもちやきねぇ」

くすくすくす。

顔を見合わせて笑いあう。とそこに呆れたような声が割り込んだ。
「父さん母さん、今日の主役はアメリアさんとゼルガディスさんなんだよ?わかってる?」

はっとしてガウリイから体を離しつつ見やれば、ロキが溜息でも吐きそうな風情でこちらを見詰めていた。
見ればその場の全員が二人の様子を観察していたらしい。侍女たちが慌てて視線を逸らすのが見える。

夫婦のじゃれあいも、傍目には清く美しい巫女に言い寄る青年貴族の図にしか見えない。
彼女らの妄想を掻き立てそうな妖しい構図だ。

「「はーい」」

息子に訳知り顔でお説教され、両親は素直に返事をしたのでした。


やがて、呼びに来た侍従にゼルガディスが引っ張って行かれ、暫しの後。

正午の鐘と共にようやく式は始まりを告げた。

巫女でもあるアメリアは、式の初めに俗世に戻るための儀式を執り行う。
神官長の祝福の言葉と共にアメリアは巫女から普通の女性に戻り、いよいよ婚姻の儀式へと移っていった。

スイフィードの像の前、設けられた祭壇のまえでゼルガディスが待つ。
純白のドレスを纏ったアメリアは鮮やかに裾を裁いて進む。

「きれいだね、アメリア姫さま」
ね?おにいちゃま。
「そうだね、でも」
ははさまはもーっときれいだったよ?

隣で幼い兄妹は囁きあう。
それを耳にしてリナは苦笑する。
「やっぱり息子のほうが口が上手い様よ?どうするガウリイ?」
「先行き不安だなあ」
答えるガウリイもやはり苦笑。
「いやぁ有望有望。」

くすくす。
微かな笑い声と共にリナは言い返した。

式は滞りなく進んで行く。

そして式の終り。客たちはぞろぞろと神殿を出て神殿のやや奥にある記念樹の前に移動した。
神官長の目配せに答えてリナが進み出る。

庭師以外は国王ですら近寄る事を許されない神聖な記念樹にリナは恐れげもなく近寄り、幹に手を掛けた。
くるりと振り返ったリナの瞳が鮮やかに色を変える。
済んだ紅から深い碧へと。
場を埋める客たちから微かな溜息がもれる。

「当代の巫女はまた美しい」

「抜けるように色が白くて」

「儚げな雰囲気がまたなんとも言えないですな」

誉め言葉とはこんなにバリエーションがあったのかとガウリイは嫉妬するより先に感心してしまう。
一つ二つ覚えとくとリナも喜ぶんだろうけど、などど気のない事を考えていた。

そんな些細なざわめきもリナが歌い始めると潮が引くよりはやく消えていった。

空気の質すらも変えてしまうようなやわらかな、静寂の歌声。
新しい道を歩み始める若い二人に贈る、神聖なる巫女の歌。
二人に対する巫女の心が周りを囲む人々の心にも届く。

“あたしの可愛い妹分。アメリア、貴女がいつも笑っていられるように”
“どうか、どうか幸せに”

“あたしの大事な二人目の仲間。ゼルガディス、貴方が常に前を見て歩めるように”
“精一杯の祝福と、祈りを”

言葉ではなく心が、そっと相手の心にしみこむ。
押し付けがましくなく、でも確かな力をもって。

歌が止んでも暫くの間動くものはなかった。
フィルでさえも我を戻すのに時間を要した。

アメリアは嬉しそうに微笑みながら、ぽろぽろと涙を流した。
ゼルガディスはそんなアメリアの肩をそっと引き寄せた。
彼らが常々感じていたよりももっと深く、リナは彼らの事を思っていてくれた。その事が今の歌ではっきりと伝わってきた。
何の衒いもなく、掛け値なしの心でリナは彼らの幸せを祈ってくれたのだ。――どうか、誰よりも幸せに、と。

こんなに嬉しかった事は初めてかもしれません。
涙を押さえながらアメリアは囁いた。
リナさんに、ここまでの祝福をもらって結婚できる私達はとんでもなく幸せ者ですよね?!
目を赤くしながらもにっこりと自分を見上げる妻を愛しげに見やってゼルガディスは肯く。
常日頃、斜に構えたような所のある彼にしては珍しい反応だった。
あそこまで純粋な心を見せられては、彼も素直に反応を返すしかなかったのだ。


瞳が元の澄んで輝く紅色に戻る。ゆったりとした動きで新しい夫婦に歩み寄る。
「リナさん!!」
ぱっとアメリアが飛びつく。
「ありがとうございます!!」

もっと、もっとなにか言いたかった。
お礼の言葉も、感じた事も、もっといっぱい言いたかった。

でもどの言葉もリナの心に準じる重さを持つものはない様に感じられた。

だから抱き着いた。
自分は歌う事が出来ないけれどこの心が少しでもリナに伝わる様にと。

リナは優しく抱きしめ返して頭を撫でる。
「アメリア、抱き着く相手間違ってるんじゃな〜い?」
そしてちょっと悪戯っぽくゼルガディスを見やった。
「ねー?ゼルガディス?」
ごめんね花嫁取っちゃって。
優しいからかいにゼルガディスは苦笑する。
「まあ、いいさ。」
あんな歌を聴かされたらな。

微笑みを返してリナはもう一度アメリアの頭をなで、囁いた。
「幸せにならなかったら、承知しないから。」
「はい……!!」
いつもの口調に込められた優しい思いが今はわかるから。
アメリアは抱き着いたまま深く肯いた。


――翌日
この日は昨日にも増してあわただしかった。
セイルーンの第二王女夫妻が新婚旅行に出立する日だったからだ。
何の前触れもなく執り行われた結婚式だっただけに、見送る人の数もそう多くはない。
けれど見送る人々の顔からは笑みが絶えなかった。
――これは新しい門出なのだ。

港に向かう馬車は二台。子連れの若い夫婦と、昨日夫婦になったばかりのどこか初々しい夫婦がそれぞれ乗っている筈だ。
彼らが向かう先に何があるのかはわからないが、今はただ祈る。
―――――――幸せに、と。

おしまい

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
てなわけでファミリー編ラストでした。
もともとファミリー編は“軽い話”を合い言葉に書き始めたものだったので、
最後の最後で軽く出来たかなぁと思います。
ファミリー編書いててわかったのは「軽い話」と「内容のない話」は違うんだという事。
内容のある軽い話って非常―に難しかった。
ラストの話はわりと軽く出来たと思いますけど、そのぶん内容がないよう……ってギャグじゃないんですが。
森の巫女にまつわる話は残す所後一本。
裏「もり」の続編があります。内容はそこそこある分そこそこ重めの話になりそう。
読みたい人はいるのかしら……。
と、いうところで後書きも長くなってきたので私は退散します。

では。
綾香 拝

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7825裏・もり三剣 綾香 9/17-02:02
記事番号7823へのコメント

こんにちこんばんわ綾香です。
今回はちょいと毛色の違う「あなざぁすとぉりぃ」をやってみました。
「もり」は結局軽い話になりましたが、当初はおも〜い話にする予定でした。
折角書いたので一応投稿してみます。
切なくなる様なお話を目指しています。
ガウリナといえばガウリナですけどあまあまって言う感じは無いかもしれません。
苦手な方は避けた方が無難かもしれませんよ?
……では。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
もり 初期構想より

穏やかでやわらかな空気に包まれた森。
かつては精霊の森と呼ばれ、今は迷いの森と呼ばれるそこ。
杖を突いた老人が森の入り口に佇む。
「わしです。導いてください、森の巫女よ。」
色褪せてみる影も無い白髪も昔は見事な金髪だった。
『男のくせになんでこんなに奇麗な髪なのー?!』
かの人はそう言って自分の髪を撫でたものだった。
遠い昔の優しい記憶から老人は首を振って抜け出す。
毎日森を尋ねる。それは子供や沢山の孫達に囲まれて暮らす彼の、長年続いている日課だった。

老人は森に入る前に森の巫女に祈りを捧げる。
森の巫女。森を外敵から守り、村に実りをもたらす、森の、村の守り神にも等しい聖女。
彼女の力によって森の外側の部分は外敵を防ぐ魔力の迷路となっていた。
村に住む者だけが森に入る事が出来、森の最深部に入る事が出来る者は更にごく限られた人間だけだった。
老人は杖を突きながらゆっくりと進む。
昼間の森は静けさに包まれていた。
森を包む穏やかな力、それは巫女の心。
明るく、ある意味でとても激しい気性の持ち主である巫女からはすぐには想像でき無い様な、穏やかに調和した空間がそこにあった。
老人は立ち止まり、空を仰いで目を閉じる。
やわらかな空気に包まれ、そうして目を閉じていると、遠い日、共に旅をしたあの日がまるで昨日の事のように感じられた。
彼の人は……強く優しい輝きを秘めた紅い瞳と強い意志で、世界を駆け巡るまるで風のような人だった。
華奢なその姿からは考えられない程の、凄まじいばかりの呪文を操り、瞬く間に敵を駆逐する女神。
彼女は彼にとっての誇りだ。長い年月を経た今でも尚。
もう一度首を振って老人は再び歩き出す。…森の奥へと。
森の深部に近づくにつれて辺りを霧が覆い始める。それは彼の人のものではではない、森の魔力の成せる業。
巫女の導き無くしては一歩たりとも進む事のかなわない、濃密な白い闇が周囲を閉ざしていた。
見慣れた霧を一瞥し、迷わぬ足取で彼は歩みを進める。
通いなれた道だ。
もう何年も――何十年も。
歩き続ける彼の前で、唐突に霧が途切れる。振り返れば霧がまるで切り立った崖のように森の深部を取り囲んで見える事を老人は知っていたが、振り返りはしなかった。
森の中心には大きな球体をしたものが一つ、淡い輝きを放っていた。
「また…会いにきたよ」
彼は宙に浮かぶ球体を見上げて微笑みかける。
透き通った球体の中に人影が見える。
ひざを抱える様にして眠るその人こそ森の巫女――リナ=インバースだった。

遠い昔、この村を訪れた自分達。
森に出没する魔物を退治して欲しい。確かそんな依頼だったはずだ。
当時は精霊の森と呼ばれていた森で、自分達はデーモンの大群と対峙することになった。
一行はリナ=インバースと彼女の夫ガウリイ=ガブリエフ、そして当時まだ5才だった息子のロキの三人。もちろん幼い我が子を危険に晒したくなど無い。両親はロキを村長に預けて出たのだが、小さな息子は単身、両親の後を追ったのだった。
――今思えば、幼子には予感があったのかもしれない、このまま別れればもう二度と母親に会えないのではないかという恐怖にも似た予感が。
デーモンは強かった。いにしえより森を守り続けてきた森の魔力をデーモン達はその身の内に取り込まみ、力をつけてしまっていたからだ。
夫もそして息子も傷つき、倒れようとしたその時、少女は自分を切望する森の声を聞いた。
そして彼女は決断した。
森の魔力の礎となってデーモン達を駆逐するしかこの場を切り抜け、愛するものを救う手だてはないと。
――たとえ二度と夫に抱かれる事が出来なくても、幼い息子を二度と抱いてやれなくても。
彼らが生き延びる事こそを彼女は望んだ。
そして。
彼女を取り込んだ森は魔力を増し、並み居るデーモン達を掃討し、辺りを迷いの森へと変えた。
二度と悪しきものに侵入されない様に、――自らの内に取り込んだ少女を逃さない様に。
残された剣士とその息子は村に留まった。
自分達の為に森の奥で眠り続ける少女を見守る為に。
その時からだ、雨の日も風の日もどんな嵐の日でも毎日欠かさず森を尋ねるようになったのは。何年経っても幼いままの愛妻を夫は黙って見つめ続け、幼子だった息子はやがて少年へと成長し、日々の出来事を母親に話して聞かせるようになった。
何年か過ぎたある時、二人は少女の眠る球体の前で泣いている赤子を見つける。
栗色の髪と不思議な瞳をした女の子、当時リナが身篭っていた二人目の子供――ファリル。
光の加減で紅から深い碧へと彩りを変える瞳はおそらく森の魔力の影響だろう、取り込まれていても尚、我が子を守ろうとした母の愛が起した奇跡だろうとセイルーンから来た黒髪の女魔法医は語った。
それからまた時は流れる。ゆっくりとだが確実に。
見詰める瞳が三対になっても、その視線の位置がだんだん高くなっていっても、眠る少女だけはまるで縫い止められたかのようにその時を止めてしまっていた。

老人は想いの海から抜け出しもう一度球体に眠る少女を見上げた。
空よりも蒼い瞳の輝きが優しく彼女の体を包む。
その魔力の強さ故に森に取り込まれた少女。
長い時の流れの中でも少しも変る事の無い華奢な体。
開かれる事はない閉ざされた瞳、言葉を紡ぐ事はない小さな唇。
ただ包み込むような想いだけが、時を経ても尚彼の身を包んでいるのがわかるだけだった。
「今日、四人目の孫が生まれたよ」
出来ることならば巫女よ、貴女にも抱いて欲しかった。
応えの無い事はわかりきっている。
彼は長年の習いで、少女に語って聞かせているだけだ。
語り終えた老人は疲れた足取で来た道を戻り始める。
振り返ってもう一度微笑んだ。
「ここへ来るのも今日が最後かもしれない。明日はもう…来る事が出来ないかもしれないから」
少女を一人で残しては逝きたくなかった。出来る事ならこのままここに留まって最期の時を迎えたいと…思った。
溜息と共に老人は再び霧の壁に向かって歩き出した。
霧に入る刹那、まるで彼を引き止めるかのように音が聞こえた。
――ぃん
「え?」
――いぃん
「………」
振り返った彼の目に、かすかな振動を繰り返す球体が飛び込んでくる。
りん――いぃん。
鈴の鳴るような涼やか音が辺りに満ちた。
そして。
ぱきぃぃぃん
薄氷が割れるような音と共に少女を取り囲んでいた球体が割れた。
しゃらしゃらと降る破片と共に少女の足が草地を踏む。
何十年もの間決して開かれる事の無かった紅い瞳が再び世界を見詰めた。
視線がこちらに向く瞬間、彼は反射的に顔を背けた……変ってしまった自分を恥じて。
久しぶりに、本当に久しぶりに聞く彼女の声が耳に染み込ように響く。
「何でそっち向いちゃうの?」
歩み寄ってくる気配。
「ねえ」
ひょいっとしゃがみ込んで、下を向いている彼の顔を見上げた。
ああ、
彼は思う。
紅い瞳だ。記憶にある通りの、美しい輝きを秘めた、紅い、瞳。
骨張った手がそっと彼女の髪に触る。
手触りも、髪のにおいすらも記憶のままの美しい髪。
「わしは…年を取りすぎてしまった」
ぽつり、彼は呟く。
その言葉に少女は覗き込んでいた身体を起して憤慨したように答える。
「どんなに時がたっても、どんなに姿が変わっても、あたしにあんたがわからない訳無いでしょうが」
強い輝きは不意に優しく和む。
それは森を包んでいた空気と同質のもの。
老人はゆるゆると身を起す。
落ち窪んだ蒼い瞳には涙が溢れていた。
少女は手を上げてその涙をそっと拭うと、一歩離れて両手を広げた。
「?」
にっこり
少女は微笑む。
「もう二度とあんたを抱いてあげる事は出来ないと思ってた」
適わない望みだと。
「でも、あたしたちはまた会う事が出来た。だから何よりもまずあんたを抱かせて?」
「わしは…」
ふらり。よろめく様に一歩踏み出した彼の背を少女は慈しむように抱きしめた。
「あんたに会えて嬉しい。立派になっててくれて嬉しいわ。ありがとう――ロキ。」
老人の瞳に新たな涙が浮かんだ。
その場にしゃがみ込み、母の胸に顔を埋めて、彼は泣き続けた。
遠いあの日、母に抱かれて泣いたあの日のままに。
「……かあさん」

「お久しぶり、ガウリイ」
リナは森の入り口にしゃがみ込んでいた。
「ずいぶん…ちいさくなっちゃったのね」
小さな、長身だった彼のものにしてはあまりに小さなその墓標に向かって、そっと苦笑する。
花を供えてそっと石を撫でる。かつて彼が彼女にそうしたように何度も何度も、優しく。
「ごめんね…来るのが遅くなっちゃった。あたし、随分寝ちゃったみたい」
ふふっ
軽く声を立てる。
「ロキがね、あたしを迎えてくれたのよ」
さっき、そっちへ行ったから誉めてやってよね。
やわらかな笑みはちょっと困ったような苦笑にかわる。
「みんな、そっちへ行っちゃったね。」
ガウリイもロキもファリルも。
へへへっ
どこか気が抜けたような遣る瀬無さげな声で笑う。
「でもね」
笑みを消して。
「あたし後悔してないよ」
地面の下に眠る相棒が愛した深遠なる瞳に一筋の影を孕ませて囁く。
「あの時はあれしか方法が無かった。」
大切なものを守る為に必要な事だったと今も信じてる。
孫や曾孫達、ロキの最期を看取った顔ぶれをみて、そう確信した。
だから後悔はない。
「でも……」
小さな墓標を両手で包み込むように抱きしめる。
出来る事なら、
「出来る事ならもう一度だけ」
あんたに頭を撫でてもらいたかった。
「『無茶するな』ってしかって欲しかったよ、――ガウリイ」
ぽたり。
透明な滴が一粒供えた花の上に落ちた。

穏やかな光が森を照らし、静謐な空気が辺りを包んでいた。

「――じゃあ、あたし、行くね。」
リナは愛おしむような視線を墓標に投げかけて立ち上がる。
「あたしはまだ世界を見終わっていないもの。」
立ち止まる訳には行かない。あたしはあたしらしくどんな時でも前向きにいくの。
――それで良いんだよね?ガウリイ?
ふわりっ
暖かい風がそっとリナの髪を撫でた――。

おしまい

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
と、言う訳でシビアな「もり」をお送りしました。
リナを待ってるのはガウリイにしようかロキにしようかちょっと迷ったんですけど、結局ロキにしました。ガウリイにするとなんとなくラストがしまらないような気がしたもんで……
「世界を見終わっていない」というセリフは表裏どちらでもラストに使っていますが、込められた思いは全く違います。同じ言葉でも使い方でここまで違う意味になるんだなぁなんて日本語の奥深さを思い知りました。
表の「もり」ではじつは音楽を使った野菜の促成栽培をモチーフに巫女の役割を設定しました。
今回の裏の「もり」のモチーフは吸血桜だったりします。最後の一滴まで吸収し尽くすような植物の獰猛さが書きたかったんですけどあんまりうまくいってませんねぇ…。
「いずみのそばで」ではアメリアが間一髪で難を逃れてますけど、もしかしたらこうやって眠っていたのはアメリアだったかもしれません。
ただ、リナのほうが雰囲気が安定した話になるので彼女に出張ってもらいました。
ちなみにリナは大体90年余の間、巫女してた計算で動かしてます。
ラストは子孫達に囲まれて暮らすリナにしようかとも思ったんですけど、そっちのほうが返って哀しいかなーと思いまして、また旅に出てもらいました。
やっぱ面影を追い求めて生きるリナよか、辛くても先を見つめていきるリナのほうがらしいですもんね。
これを表にしなかったのは、ここまでやると流石に可哀相かなあと思ったからです。結婚するまで苦労して結婚した後がこれじゃあ、神も仏も無いってもんですよね。軽くした為に何やらシリーズ物の様相になってますけど、その方が気分良く読めますねえ、やっぱり。

なんだか後書きが長い……
では。
綾香 拝。



……やっぱり暗いかなぁ……。







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7826かがやくまえに三剣 綾香 9/17-02:06
記事番号7823へのコメント

こんにちこんばんわ
綾香です。
前に書いた「輝き」にまつわる番外編です。
謎は謎のままのほうが少しは深みのある作品になってくれるかも……。と思って削除した所なんですが、
「きになる」という声を頂いたのでちょっとまとめてみました。
「輝き」に好印象もっておられる方はちょっとつまんないかもしれません。
でも書いてしまったからには勿体無いんで一応載せます。すみません。
こればっかりだなぁ…最近。
ガウリナです。
そんじゃ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

輝く前に 「輝き」創作メモより

ふと、目が覚めた。
いけないいけない、何時の間にか居眠りをしていたみたいだ。
手の中から落ちかかっていた編み棒を取り上げて溜息などついてみる。

ぽかぽかと優しい日差しの窓辺での編み物は、考え事をする時のあたしの癖だ。
暖かい空気に包まれていると、長い事物思いに沈んでいる事が出来ないから。
今日は一年で一日だけ、自分が過去を振り返る事を許した日だ。

そう、ガウリイと別れた日――

あたしはガウリイと別れたこの町にその後も留まっていた。もう4年になる。
ガウリイが遠くに行くまでの仮の宿りとして借りたこの家にこんなにも長くいる事になるとは思ってなかった。

別れようと決心したきっかけは…確かシルフィールの一言だった。
悪名高いあたしといる事はガウリイにどんなメリットがあるのか、そう彼女はあたしに聞いたのだ。

そう、探していた剣が見つかってもあたし達は別れなかった。
共に旅を続ける中で彼はふと言ったのだ、『愛してる』と。
彼はあたしを好きだと言い、あたしもあいつを好きだと思った。
他の誰が悪名高くあたしを罵ろうと本当に大事に思う人たちが……この人がわかっててくれればそれでいい。――そう思ってた。

だけどシルフィールの言葉はあたしに思わぬ衝撃を与えた。悪名高いあたしといて、ガウリイはなにかデメリットを被ってるんじゃないか、そんな考えが浮かんだのだ。
それでも、まだその時は別れようなんて思い付いてなかったけどね。
……だけど一度考え付いたその事は、それ以来常にあたしの心のどこかに付きまとっていた。
…やだな。こんな後ろ向きな考え、あたしらしくない。なんて落ち込んだりもした。

あんまり気になったんで本人に聞いた事もある。
あたしといていやだと思う事はないのか、って。
そしたらあいつの答えはこうだった。

あたしが無茶するもんでそばにいなかったら返って心配だ、側にいて知らない奴になにか言われるよりも、自分の知らない所でお前さんがどうにななっちまうほうが辛いよ、と。

やさしくキスして抱きしめて、そうしてガウリイは囁いた。
変な気をまわして離れようなんて考えるなよって。

うん。

あたしそのとき素直にそう答えた裏で、こっそり思ってた。
それってつまり他の誰かに何か言われた事があるって事なんだな、って。

ある時、旅先でたまたまガウリイの伯父さんって人に出会った。あたしはその時までガウリイにも家族とか家とかがあるってことを失念してた。
家宝の剣持って旅してたガウリイは、光の剣の勇者の家の、次期継承者ってのだった。……本人は候補だ、って言ってたけど。
その場で彼はあたしを伯父さんに紹介こうした。

最も信頼出来る相棒で、――オレの大切な人です。

伯父さんはかなり驚いたようだったけど、その場では騒ぎにならず、あたしたちは町を出ると言った伯父さんとその場で別れた。

夕暮れ間近に買い物に出たあたしは、物陰からの声に呼び止められた。ガウリイの伯父さんは町を出ずにあたしに声をかける機会を狙っていたのだそうだ。
引っ張って行かれた食堂であたしは聞かされた、ガウリイの家のこと、ガウリイのこと、――彼の許婚のこと。

伯父さんは別れてくれないかと言った。
あたしに関する噂を全て信じる程馬鹿ではないつもりでも、火の無い所に煙は立たないだろうし、外聞もある。そういう者と共に旅をしていると言うだけでガウリイの一族内での評価が下がる。このまま旅を続ければいずれガウリイは跡継ぎの座を追われるだろう、と。
その言葉に唐突にシルフィールの言葉が重なる。そもそも、ガウリイにはちゃんと許婚が故郷にいるのだと言うし、あたし達は永遠に旅を続ける事など不可能だろう。
その時、あたしといるとそれだけで彼は一族から恥さらしとして非難され、家を継ぐ事が出来なくなる。

一族の男として生まれたからには、ガウリイだって跡取りとして認められる人間を志しているはずだ。それをむざむざ潰すつもりはないだろう。
そう、こんこんと諭すように伯父さんは言葉を繰り返しながら去っていった。

ガウリイは…家を継ぎたいのだろうか……?

それから幾日かが過ぎ、ふとあたしの故郷の話が出た時に聞いてみた。
家を継ぐのは貴方の夢?…と。
「ああ、まあそうかな、夢だったかな」
小さい頃から目指していたしなぁ

夕日を眺めながら呟くように言葉をつなぐ彼の姿に、伯父さんの言葉に、シルフィールの問いに、あたしは決断を迫られた。
夢や目標のある人がこんなあての無い旅をいつまでもしてちゃいけない、彼の足枷を取ってあげなくちゃならない。――別れよう、唐突にそう思った。
魔族との戦いも日々熾烈なものになりつつある。元々無関係なガウリイはそろそろ開放して上げなきゃならない時期。――待っている人がいるガウリイなら、尚の事だ。

一人でもやっていける。
手紙の言葉はウソじゃなかった。…でもホントでもなかった。
ガウリイという存在はあたしの中にしっかりと浸透してもうあたしの一部と言っても良かった。
ガウリイと別れた自分がどうなるのか、想像するのが怖い。
いたみ、と一口に言ってしまうにしてはあまりにも激しい衝撃。
手とか足とか失った人って、きっとこういう気持ちなんだろうと思う。
深い喪失感。

もちろんガウリイには内緒で計画した。

そんな事言おうものなら血相変えて止めた上に毎晩寝ずの番、くらいしそうだ。――あの過保護な、あたしのガウリイなら。
あの日、何も知らずに眠り続けるガウリイにお別れのキスをして、そうしてあたしは出てきたのだ、この家へと。

魔族から、ガウリイから身を隠しながらの日々は意外なほど穏やかに流れていた。
半身が告げる痛みと引き換えの日々。
でも、これはガウリイのためだったとあたしは信じている。
――今でも尚。

毛糸の端を始末しながら通りを眺める。
そろそろ家へ帰る人達で道が賑わう時間帯だ。
何とはなしに人恋しくなるトワイライトタイムがあたしは苦手だった。
前はそんなでも無かった筈だけど、隣にいつもあったぬくもりが無くなった所為なのか、この時間になると何かしら仕事に没頭して忘れるように勤めていた。

――今日は失敗しちゃったなぁ……
日は傾きかけ、夕闇が辺りを包みはじめた。
「お夕飯、作らなくちゃね……」
編みあがった肩かけをそっと編み物籠の上に置いて呟いてみる。
やる気はなんとも沸かなかったが、ロキになにか食べさせなくちゃいけない。

ロキ――あたしに残された宝玉。
ガウリイを無くした半身の痛みを癒してくれるただ一つのもの。
あたしの可愛い、小さな男の子。

そう言えばあの鉄砲玉はどこまで遊びに行ったんだろう、帰ってこないなぁ。
夕闇が落ちるこの時刻まで帰らないのは初めてだった。
不安が胸に湧き上がる、何かあったんじゃないだろうか。
この辺りは治安もいいし、近所の人達も皆ロキの事を生まれた時から知っている人達ばかりで、もし何かあっても直ぐに連絡が来る事はわかってる。
なのに心配で胸が詰まる、あの子が居なくなったらあたしは一人になってしまうのだ。そこまで考えてふと自嘲の笑みを浮かべてしまう。
あたしってあの子に依存して生きてるんだな、そう思って。

どうもいけない、この日になるとあたしは情緒不安定になる。
わかってはいるけどどうにもならなかった。
振り切るように頭を一つ振って探しに出る支度をする。
そもそもあの子はまだ三つなのだ、目の届かない所で遊ばせるにはまだ早い筈である。
心配するのも当り前なのかも。そう考えると少し気が楽になった。

扉に向かいかけてふと気が付いた。春とはいえこの時刻には大分冷え込む、なにか羽織るものを持っていったほうが良いかもしれない。
あたしは編みあがったばかりの肩掛けをすっと掛ける。うん、良い感じ。

改めて扉を開ける、と。

ばさっ

目の前に花束が突き出された。
我ながらうんざりとした溜息が漏れるのがわかる。
確認しなくても誰だかわかる。この家の大家の息子である。
どうやらあたしに気があるようで、素気無く帰しても懲りずに日参してくるまめな奴だ。
いつもなら軽く躱す所だけど、今日はあたしちょっと情緒不安定なのだ。
こんなのにいちいち付き合っていられない。

「リナさん」
無視。

「今日も一段とお美しい」
無視無視。

「御子息を寝かしつけた後で酒場にでも参りませんか?」
だから無視だってば。

「亡き御主人に操を立てていらっしゃるとは、御婦人の鏡ですが」
ぴくっ
亡き…?

「御子息にも父御が必要な筈。そこでこの私……ふぐっ!」
くだらない事を言い続けるどら息子の顔にあたしの拳がめり込む。

「勝手に殺さないで」
「ったた…え?」

「死んでないの」
そう、ただ別れただけ。

「勝手に……――っ」
だめだ、泣く。

あたし、まだだめなんだ。“別れた”ってそれだけの事も口に出せないほどに。
こんな日に、ガウリイと別れたこんな日に、くだらない冗談言わないでよ。再確認させないで。
涙が零れそうになって慌てて後ろを向く。
こんなのあたしじゃない、全然あたしらしくない!!――助けて、だれか。

「ロ、ロキを探さなけりゃならないからあたし、行くわ」
声が震えない様に勤めて声を出す。
「はあ……。あ!それじゃ帰ってきたら三人で夕食でも食べに行きましょう!!僕がおごりますよ!!」
無神経に言い続けるどら息子は取敢えず無視してあたしはさっさとその場を立ち去った。
やっぱり相手にするんじゃなかった。

「ロキー!ローキー?どこー?」
あたしは呼びながら街を歩く。
自然皆に見られるが、その程度の事気にしてたら子育ては出来ないのだと、この三年の間に学んだ。子供にとって母親は、少々恥知らずでいるほうが良いのだ。
「ロキちゃんなら今し方宿のほうに走っていったよ」
声を上げていればこうやって教えてくれる人もいるしね。
「ありがとう、行ってみます」

にっこり答えて宿屋のほうに歩き出した。でも本当はあっちには行きたくない。
良い思い出の無い宿屋だから。
でも辺りは夕間暮れ、早く見つけて帰らないとお夕飯の時刻を過ぎてしまう。
教育に良くないし、片付くのも遅くなってしまう。

路地を抜けてきょろきょろ見回す。
「居ないじゃない」
しょうがないなぁ。
あたしは結局ここでもロキの名前を連呼する事になった。
「ロキー?どこなのロキー?」
すると、路地の向こうから金色の髪と蒼い瞳をした子供が駆けてきた。
ほ。安堵の息を付いて息子を抱き止める。
「ロキ〜?こんな遅くまで、だめでしょう?」
「ごめんなさ〜い」
叱られている筈なのに、迎えに来てもらえた喜びのほうが大きいのか、ロキはあたしの腕の中でにこにこする。

ふと視線を感じて路地の向こうを見やると、そこに居た人物と目が合った。
身体が震える。

うそ………でしょう……?

まさか……
「ガウ…リイ?」

そう。

そこに居たのは4年前に別れた筈のあたしの相棒にして自称保護者、そしてロキの父親――――ガウリイ。

緊張のあまり目眩がする。耳鳴りがして平衡感覚がずれる。
逃げなきゃ、ここを立ち去らなきゃ。
そう思うのに体は動いてくれず、彼が歩み寄ってくるのを固唾を飲んで見詰め続けるしかなかった。



「けっこん♪けっこん♪」
「結婚♪結婚♪」
てくてく。
とことこ。
楽しげに歌う、大小二つの足音があたしの前から聞こえる。それがこんなに心地よく響くものだとは思わなかった。思わず微笑む。理由も無く自然と微笑みが浮かぶなんてここ数年ではなかった事だ。

嬉しい。

嬉しい。

また一緒に歩いていける。ガウリイと。
三人で一緒に歩いていける、また、ガウリイに守ってもらえる。
ガウリイがあたしの為に家を出たのだろう事は分かりきっている。彼の家では、彼が後を継ぐ事こそを望んでいたから。でも彼はあたしを選んでくれた。それをとやかく言う事はもう出来ない。
ガウリイを信頼しているから、ガウリイが決めた事なら受け入れていきたいと思う。問題は残るかもしれないけどそれはその時だもの。
何より、再会してしまった以上離れるなんてできっこなかった。取り戻したあたしの半身。
失った痛みをあたしは知ってしまったから。
そして、同じ痛みをガウリイにも味わわせたと悟ったから。

とととっ

走っていって追いつき、ガウリイの右腕に腕を絡める。
それに気付いた彼はふっと優しい笑みをこちらにくれる。
変らない。瞳も、宿る光も。優しい空気に包まれたように暖かな気持ちになる。
ああ、こういうのを幸せって言うのかもしれない、そんな事を考えていた。
「リナちゃん。その人どなただい?」
野菜を洗っていたおばちゃんがあたしに声を掛けてきた。
「誰?」
ひそっ
耳元に問い。
くすぐったさに首を竦めつつ囁き返す。
「お産婆さんよ。ロキを産む時お世話になって、以来何かと気に掛けてくださるの。」
「そっか」
返事をしながら一歩進み出ると彼はおばちゃんに軽く会釈をした。
「オレの留守中、妻が何かとお世話になったそうでありがとうございます。」
「妻って…、! それじゃあんた……!!」
「な、ちょっとガウリイっ」
「まーっ!!リナちゃん!!」
「はいっ!!」
ガウリイに苦情を申し立てようとしていたあたしは、産婆のおばちゃんの叫びに思わず元気良く返事をする。
「良かったねえ、旦那さんが帰ってきてくれて。それにまあ良い男じゃないか」
「あ、ありがとうございます……」
てれてれ。
おばちゃんは涙を浮かべて感激している。

この人はあたし達の事情をほぼ知っているといって良い。
閉じこもりがちだったあたしをあちこちに連れ出してくれたり、相談に乗ってくれたり。
あんなに不安定な精神状態で五体満足な赤ちゃんを産めたのは彼女の力だ。

「本当に良かった、ねえロキちゃん?」
「うんっ」
頭を撫でられてロキは嬉しそうに笑う。
「こんどね、ははさまとちちさまけっこんしきするんだって!!」
「ちょっロキ!!」
おばちゃんは笑う。
「そうかいそうかい、良かったじゃないかおめでたいね。」
「これからはずーっといっしょにいていいんだって!!」
「ロキ……」
涙が零れそうになって思わず目を擦る。
ぽんぽん
ガウリイが優しくあたしの頭を叩いた。

「――それじゃあ、改めてお礼に寄らせていただきますので」

おばちゃんに背を向けて歩き出したあたしにおばちゃんから声がかかる。

「リナちゃん」
「はい?」

「本当に、本当に良かったねえ。あんた本当に幸せそうだ。リナちゃんがどういう風に笑うのか、今日始めて知った気がするよ。」
今まではロキと居る時でもどことなく寂しそうな、儚げな微笑みだった。
けど今は、'輝く笑顔'ってこんなんだろうと思うような良い顔をしている。
おばちゃんに指摘されて顔が赤らむのがわかる。
あたしってそんなに顔に出るほうだったのかなぁ…?
「ありがとうございます」
顔を赤くしたままぴょこんとお辞儀をして、数歩先でまっている二人の元へ走っていった。
ガウリイは片手を広げて待っていて、追いついたあたしは自然に肩を抱かれる。

「で?家はどっちだ?」
「知らないままで歩いていた訳ね」
変ってないなあ、思わず呆れる。
ふう、わざとらしく溜息を付きながらも顔が笑ってしまう。
こんな些細な事がこんなに嬉しいなんて、どうかしてる。

「あっちだよ!!ちちさま!!」
ロキがガウリイの脇を摺り抜けて駆け出す。
「また転ぶぞぉ」
「へーきっ…あっ!!」

べちっ!!

痛そうな音を立ててロキが転ぶ。
あーあ。
「あの子ってあたし達の子の割にはとろいって言うかのんびりしてると思わない?」
抱き寄せている腕の主を見上げる。
「いや、あんなもんだろ」
「そうなの?」
「オレの子供の頃って多分あんな感じだったと思うぞ」

え?

「子供の頃のガウリイって頭だけじゃなくて行動もとろかった訳?!」
「いや…そうはっきり言われると、オレとしてもだなぁ……」
信じらんない!!おっかしい!!野生の勘、とか常人以上の反射神経、とか言われてるガウリイが子供の頃ああだった訳?!
「おいおい…そこまでわらわんでも……」
「だーってだって!!」

くっくっくっく

………………

……――あ…

大笑いしてそれから気が付いた。
とろいとさえ思えるほどにのんびりした子供が、一流といえる腕を身につけるのにどれほどの努力を必要としたのかってことに。

あたしを幾度となく助けてくれた彼の能力は決して生まれつきの天賦の才では無かったのだ。
一言では言えない苦労があっただろうそこを 彼は乗り越えて一流と呼ばれるまでになった。
そんな彼が家を継がなくて本当に良かったのだろうか?

――ここにガウリイが居るのは本当に正しい事なの?!

「こら」
くいっ

前触れもなく腕を引かれる。
はっとして振り返ると、静かな表情のガウリイが居た。
「また変な事考えてるんじゃないだろうな?」

……見抜かれてる。
「変な事じゃないもん、大事な事よ。」
あんたをここに、あたし達の所に縛り付けるのはホントに良い事なの?
「お前、オレの言う事が信じられない?」
あたしの肩に両手を当てて蒼い瞳が覗き込む。
「うううん、そんなんじゃないけど」
首を振りながら視線を逸らそうとするあたしの頬をガウリイは両手で挟んで自分のほうを向かせる。
「言った筈だ、ずっといるって。お前と、ロキの側に。……今のオレには」
お前達以上に大事なものなんてないんだから。優しく笑いながら両の手の親指でそっと涙を拭ってくれる。
「それに」

こつ

身を屈めたガウリイと額がぶつかる。
「これはオレが決めた事だ。――お前の側に居るってな。それはたとえお前にだって覆させたりはしないからな。」
強い瞳。譲らない意志。あたしの迷いを振り切るような。

そうだった。
あたしもさっきそう思ったばかりだったのに。

頬にある手を上から握る。
「うん、ごめん。もう言わない」
だからずっといて。ずっとあたしの側に。
あたし達は微笑みあってキスをかわす。
「ああーっっ!!なにやってるんだ!!お前!!」
天にも轟く大悲鳴が聞こえ、あたし達はびくっと身体を離す。

振り返って見ると、そこに居たのはあの大家さん家のどら息子。名前は確か……ええーっと…なんだっけ?

「きっきみっ!!リナさんから離れたまえっっ!!」
びしいっ!!
気障な仕種でガウリイに指を突きつける。
かっこいいつもりなんだろうけど指が震えているから減点だ。

「誰、こいつ。」
さっきおばちゃんの事を聞いた時とは違い、完全に呆れた様子だった。目を半開きにしてる。
「うちの大家さんとこのどら息子よ。あたしに気があるみたいなの。」
'ロキ君には父親が必要だ'とか言っちゃってさ。
あたしの説明にガウリイは面白そうに名称不明などら息子を見る。
瞳に宿る光がその色を変える。どことなく剣呑な光に。
どら息子に視線を据え、口調は能天気なまま、からかうようにあたしに囁く。

「へえ、もてるんだなぁ?お前さん」
「よしてよ、あんな親のすねかじり。真っ平ごめんだわ」
「ほぉ〜。そりゃあいつも気の毒だな」
ほぉーう、そういうこというわけね。

「もっともー?男女の仲は水のものって言うし、あんたがもう少し遅かったらあのどら息子と第二の人生の一つや二つ、歩んでたかもねー?」
「おいおい」
あたしの答えにこちらを見下ろしやれやれ、言うように溜息を付くガウリイ。
優しい瞳で苦笑する。
ふんだ、冗談でもそんな事言うからだい。

「リナさん!!なんでそんな奴に肩を抱かれているんだ!?肩が汚れる!!離れたほうが良いですよ!?」
よごれるって……ガウリイ君、凄い言われ様である。
初対面でそこまで言われて、さすがのガウリイも不機嫌そうにしている。
瞳にははっきり剣呑な光。
その表情のまま相手のほうに踏み出しかけたその足をあたしは慌てて止めた。
「ちょっとちょっとガウリイ!!揉め事は無しにしてよね、一応大家の息子なんだから」
『御近所付き合いは大切に。』姉ちゃんの言葉だ、厳守せねばなるまい。
あたしの釘刺しにガウリイは溜息だ。
「はいはい。んじゃ穏便に挨拶だけにしとくさ」
あたしの肩を放してずいっと一歩どら息子、あっ思い出したローイだローイ。
ローイのほうに踏み出した。
二人の間の空気に押されたようにローイは一歩下がる。

とてとてと軽い足音を立ててロキがこちらにやってくる。
「けんか?けんか?」
「何を嬉しそうに……違うわよ」
「ははさまをかけたけっとうだね♪」
な…。思わず脱力する。
「どこでそんな事覚えてきたの」
「さんばのおばあちゃんがゆってたの」
ロキちゃんのお父さんが戻ってきたらきっとどら息子と決闘してお母さんを守るのよ。
先程も会った産婆のおばちゃんが常々そう言っていたのだそうだ。――なんちゅう事を子供に言うんだあの人は。

「あ、あんた!!リナさんのなんなんだ!!」
ローイはびくつきながらも果敢に声を上げる。
へえ、結構根性あったのねえ。
ガウリイはへーぜんとしてる。別に威圧してる訳でも脅してる訳でもない。
不機嫌そうにしてるけど。
おばちゃんにやったのと同じに軽く会釈する。
「夫です。オレの留守中、妻が何かとお世話になったそうで、どーも。」
何かされるんじゃないかと身構えていたらしいローイは気抜けしたようにガウリイを見る。
「お前がリナさんの亡き夫…?」

…だから死んでないって。

心の中で突っ込みを入れつつ、すすっとガウリイに近づいて寄り添うように立つ。

「そー言う訳で、この人とは久しぶりの再会なの。水入らずで過ごしたいから、悪いけどお夕食のお誘いは無しにしてくれます?」
我ながら意地が悪いと思うけど、ここらできっちり振り切っておかないと後々面倒になるかもしんないし……ねえ。

にっこり、という擬音を乗せたあたしの言葉にコクコク頷いて彼はその場を後にしたのだった。――あたしの背後の視線が物を言ったに違いない。こわいなあ。

なんて、ホントはちょっと嬉しかったりもするんだけどね。

「けっとうわぁ〜?」
なにやら不満そうな声を上げてロキがスカートの裾を引っ張る。
ガウリイが苦笑する。
「……なによ」
「いや、ごたごたに首突っ込みたがる所はお前とそっくりだなぁ、と思ってさ」
う……
「し、しょうがないでしょうが」

「オレ達の息子だからな」
ふわっとやわらかな微笑みを浮かべてあたしの肩を引き寄せた。

「…そだね」

「おう。そんじゃ帰ろう。家はどっちかな?」
「あっちだよ!!ちちさま!!」
腕に抱き上げられたロキが通りの向こうを指差す。

あ。
「買い物しなくちゃ食べるもんないや」
二人分はあっても三人となると足りないだろう。

「えーっ」
「えーっ」

同じ調子で不満を鳴らす父子に軽くウインクする。
「先に帰ってて、買い物してくるから。今日はごちそうだよっ♪」
「うわーい♪ごっちそー♪」
「ついってってやるよ。荷物もち、いるだろ?」
ロキを降ろしつつウインクを返してくる。…何やっても様になるってのはちょっと悔しい気もするなぁ。
「そっか、三人分だもんね。あんた良く食べるし」
「おまえだって良く食うだろうが」
「前ほど食わないもん」
「本当かぁ〜?」
「ほんとかぁ〜?」
「だーっ二人して疑り深そうにしないの!!ロキ!!あんたは知ってるでしょうが!!」
「やーん、しらなーい」
きゃはははは!!
あたしの伸ばした手をするりと躱しながらロキは笑う。

三人分の買い物はきっと凄い量になるんだろう、食費が増えるなぁ。大変だって思うのに、そんな事までが嬉しくて、あたしはうきうきと市場に向かったのだった。

――きっと当分窓辺での編み物はお休みになるだろう。
そう確信して。

おしまひ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
と、言う訳で「輝く前に」でした。
読む限りじゃ別にリナちゃん逃げなくても良かったんじゃ…とか
思ったりしました。
まあ私の書くリナちゃんは考えすぎて失敗するタイプばっかなんで
仕方ないと言うところでしょう、うん。
やっぱ乗せなきゃ良かった……

では。
綾香でした。


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7835全部読ませていただきました!P.I E-mail 9/18-01:07
記事番号7826へのコメント

三剣綾香様
お久しぶりです。ガウリナふぁみり〜のその後が読めて嬉しいP.Iで
ございます♪ ではかんそうぶん、いっきま〜す!
<いずみのそばで>
泉で戯れるガウリナが素敵でした(うっとり^^)ガウリイの歌も聴いて
みたかったなぁ。リナとデュエットとか。
しかしこの二人、日頃子供達の前でもらぶらぶなんですね(^^;)
<裏・もり>
重い話でした・・・。でも感動しました。老人がガウリイじゃなくロキ君
とわかった時には、流れた時間の長さに愕然となりました。
リナは旅立ってしまいましたが、いつかまたあの森に帰ってきますよね。
<かがやくまえに>
いい味出してましたね〜、大家の息子(^^;)心なしかゼロスにちょっと
似てる気がしましたが(敬語で喋ってたせいかな?)ガウリイと決闘じゃ
あまりにもハンデがありすぎ(汗)だし、第一戦う前から結果が見えてるん
じゃ同情する気にもなりませんわ。はっはっは(^0^)

また幸せなガウリナを読ませてください。
長くなりましたが、これにて!

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7837Re:全部読ませていただきました!三剣 綾香 9/18-01:33
記事番号7835へのコメント

P.Iさんは No.7835「全部読ませていただきました!」で書きました。
>
>三剣綾香様
>お久しぶりです。ガウリナふぁみり〜のその後が読めて嬉しいP.Iで
>ございます♪ ではかんそうぶん、いっきま〜す!
今回はホントお久しぶりでした。
ツリー落ちちゃいましたしね。
毎回律儀に感想を寄せていただいて感謝感激の綾香です。

><いずみのそばで>
>泉で戯れるガウリナが素敵でした(うっとり^^)ガウリイの歌も聴いて
>みたかったなぁ。リナとデュエットとか。
>しかしこの二人、日頃子供達の前でもらぶらぶなんですね(^^;)
あのシーンが書きたくて書いた話なんで題名がこうついたのでした。
はじめからガウリナ書く気満々だったのがばればれですね。
子供の前でもらぶらぶかですって?
そりゃあらぶらぶでしょう!!
ロキも“らぶらぶ”なるものの正体を知ってたみたいですしねぇ…。

><裏・もり>
>重い話でした・・・。でも感動しました。老人がガウリイじゃなくロキ君
>とわかった時には、流れた時間の長さに愕然となりました。
>リナは旅立ってしまいましたが、いつかまたあの森に帰ってきますよね。
…ガウリイのお墓の前にたたずむリナを書いてみたかったんですよ、実は。…あんまりうまく行きませんでしたけどね。
実はこの話には続編があるんです。
旅の空でリナがある男の子に出会う話なんですけど。
読みたいですか?

><かがやくまえに>
>いい味出してましたね〜、大家の息子(^^;)心なしかゼロスにちょっと
>似てる気がしましたが(敬語で喋ってたせいかな?)ガウリイと決闘じゃ
>あまりにもハンデがありすぎ(汗)だし、第一戦う前から結果が見えてるん
>じゃ同情する気にもなりませんわ。はっはっは(^0^)
そう!!じつは彼が書きたかったんですよ!!
私の書く話ってああ言う一方的に情けない系の底の浅そーなやつって今までいなかったんですよ。初の試みだったので、そう言っていただけると、感涙です!!
もう、ありがとうならいもむしはたちって感じです!!
>
>また幸せなガウリナを読ませてください。
>長くなりましたが、これにて!
こんどは砂糖吐けそうな話を書いてみたいです……
ああ、でも道は遠い……
綾香負けない!!

ってなわけで。
感想寄せていただくたびに
ああ喜んで貰えてるんだったらまた書こう!!
なんて動力源になってます。
いつもいつもありがとです!!

では。
綾香でした。

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7858読みたいでしゅっ!P.I E-mail 9/20-22:29
記事番号7837へのコメント

三剣綾香様
レス返しいたします!
<裏・もり>の続き?読みたいです!ええそりゃもう!
お砂糖がっぱんがっぱんなお話も読みたいです!!
読んだら絶対また感想書かせていただきます。
お待ちしてますよ〜♪(ああ、要求してばっかのP・・・)

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7864Re:読みたいでしゅっ!三剣 綾香 9/21-01:33
記事番号7858へのコメント

P.Iさんは No.7858「読みたいでしゅっ!」で書きました。
>
>三剣綾香様
>レス返しいたします!
><裏・もり>の続き?読みたいです!ええそりゃもう!
>お砂糖がっぱんがっぱんなお話も読みたいです!!
>読んだら絶対また感想書かせていただきます。
>お待ちしてますよ〜♪(ああ、要求してばっかのP・・・)

読みたいんですかい?!
じゃあ書きます続き!!
近日公開!!……のはず。

お砂糖は……うううううれんしうちう……
照れちゃって書けないんですぅ……
でもテレながら書くと甘くならないし……辛いところですね。

とりあえずがんばって書きます!!
まっててくださいませ。

では。
綾香 拝

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7836Re:かがやくまえにNAOMI 9/18-01:08
記事番号7826へのコメント

三剣さま はじめまして
ここに感想書かせていただくのは初めて
なんですが、めちゃめちゃ感動したので
ひとことお礼を...

お話一気に読ませて頂きました。
(以前のお話も遡って読みました)
ホントに切なくて涙目になってしまいました(^^;
リナが歌うところや、泉のシーンを映像で見てみたい!
と思いました。シリーズ化大歓迎です。
とってもいいお話ありがとうございました(^^)

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7838Re:かがやくまえに三剣 綾香 9/18-01:41
記事番号7836へのコメント

NAOMIさんは No.7836「Re:かがやくまえに」で書きました。
>
>三剣さま はじめまして
>ここに感想書かせていただくのは初めて
>なんですが、めちゃめちゃ感動したので
>ひとことお礼を...
>お話一気に読ませて頂きました。
>(以前のお話も遡って読みました)
>ホントに切なくて涙目になってしまいました(^^;
>リナが歌うところや、泉のシーンを映像で見てみたい!
>と思いました。シリーズ化大歓迎です。
>とってもいいお話ありがとうございました(^^)
>
はじめまして 三剣綾香と申します。
感想ありがとうございます。
初めての感想を私のところに寄せていただけたなんて、光栄の至りです。

お礼なんてとんでもない!
私のほうこそ読んでいただいて、その上優しい励ましの言葉までいただけてお礼を言わなきゃならないほうなんですから。
毎回それなりに苦労して書いているものなので“感動した”なんて言っていただけると、作者冥利に尽きます。本当にありがとうございました!!

では。
綾香 拝。