◆−コンチェルト4−神代  桜(10/9-01:27)No.8037
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8037コンチェルト4神代 桜 10/9-01:27



「なんか久しぶりですね?」
「なにがだ?」
日が南へやや傾いた午後。王室専用の馬車を下り、街道沿いを歩いていたアメリアは、ゼルガディスの方を向いてにっこりと笑った。
「こーやって二人で旅するのがです。」
えへっ♪ と微笑まれて、彼は思わず赤面してしまった。
既に子供が二人もいるにもかかわらず、この初々しさははっきりいって天然記念物モノではあるが、何事にもポーカーフェイスを通そうとする彼と、ぼけぼけノーテンキ娘である彼女のペアとなれば、致し方ないかとうなずけるというものである。
「あ、ああ。そうだな」
「あ、ゼルガディスさん、照れてますね。かぁわいい♪」
「なっ、あのなぁ……」
(ここにリナがいればまず間違いなくはたかれるな……)
そくなことを胸中で呟きながら、ゼルガディスはその愛らしき伴侶の艶やかな髪を優しく撫でた。
「ゼルガディスさん?」
「ん?」
「あたし……、きのう一晩考えてたんですけど…」
撫でられた手を自分の手に取り、頬に当てる彼女。その声に僅かに、なにか複雑なものが込められていたことに、ゼルガディスは気付いた。
「ガウリイさんの失踪について…、のことです。」
「ああ。それは俺も考えていた」
アメリアが白の巫女服なら、彼もまた昔と同じ白のフードという目立つ事この上ない服装の二人ではあるが、アメリアの容姿が容姿のため、かえって誰も不審に思わないという事実があったりするのだ。
「あのガウリイさんが、そうそうただの事故に遭うとは思えないんです。」
こっくりと頷くゼルガディス。
「やっかいな事件に巻き込まれたとしたって、あの人ほどの力量と技量があれば切り抜けられない事なんてありませんし…」
「…だろうな」
「ただし、それは人間の起こした事件ならば……の話です。」
「…………。」
奥歯がぎっといやな音をたてた。
風がいやに暖かい。それがアメリアの黒髪をさらさらと乱れさせるのを視界に入れつつ、ゼルガディスはどことへもなく、鋭い視線を投げた。
「また、魔族…か……」
「おそらく。」
苛立ち――
そんな、何かとげとげしい感情が、彼のなかを埋め尽くしていた。
魔族――
あの存在のために、自分は合成物の身体にされ、あの存在のために、仲間は身を切るような決断を迫られた。愛しい者を失うことからの悲しみに、その身を投げ出されて――
そして今また……
(今度はガウリイをか――!!)
ぐっと握り締めた拳。皮膚に爪が食い込んでくる。しかし
「…?」
ふと、腕に流れ込んできた自分の体温とは異なるぬくもりに気付いた。
「…アメリア」
見ればそこに、真剣な顔で自分の腕を抱き込んでいる少女がいた。
「…大丈夫ですよ……、ゼルガディスさん。ガウリイさんなら、今もまだ…無事です……。今までだって大丈夫だったじゃないですか。」
ね? と顔を上げてきたその表情に、ゼルガディスは返す言葉が見当たらなかった。今にも泣き出しそうな、それでも賢明に何かを支えようとするそれは、唯一無垢である存在――
ぽふ。
朝日に艶やかに照らされる黒髪に手をのせた。
「あたりまえだ。そう簡単に死なれてたまるか」
「はいっ!」
その呟かれた一言。それに少女は満面の笑みを浮かべて、再び彼の腕に抱きついた。
「…………………」
(俺は一生、こいつから抜け出せないんだろうな。)
どちらかといえば嘆息まじりに、しかしどこか微かに甘い余韻を残させるそんな考えに、ゼルガディスは大きく息をはいた。
こんな町外れでは人通りもまったくないといっていい。セイルーンという大都市を一歩でてしまえば、その周りに点在する小さな街までの道は、大抵がこういった人気のないものである。
強いて言うのであれば、木々から飛び立つ小鳥が数羽、小さくさえずる程度だ。
しんと静まり返った街道。アメリアの無理を聞いて日の昇る前から馬車をだしたのは正解だったかもしれない。まるで世界が眠りについている中で二人だけが、目覚めることを許されたかのような錯覚さえ覚えてしまう。
だが今は新婚旅行に来てるわけでもなければ、羽を伸ばしに出てきているのでもない。彼の頭はすぐに主題へと切り替わっていった。
(次は一体どこの腹心だ…。)
魔族についての伝承がいくつか頭をよぎる。
瞑王と魔竜王、そして獣王が実在したのだ。ならば残り二人も当然いるに決まっている。
「数年前、ガイリアで起こった奇怪な騒動……」
「アルス将軍の話だと間違いなくその現場にいたのはリナさんたちですね。」
独り言のつもりだったのだが、みればアメリアが腕を組んだまま、いつの間にやら彼の思考の続きを声にだしていた。
まだ王位こそ順位的に遠いとはいえ、これでも第二王女花婿候補とは名ばかりのこと。白魔術都市セイルーンの宰相の地位にはいまやゼルガディスの名が大きく刻まれているのである。
ガイリアへの外交ついでに向こうの将軍から事態を聞き出すのに、そう手間はとらなかった。
「例の女将軍の名前からして覇王の部下であることに間違いはなかろう。」
「よかったですね。あまり部下の名前を深く考えない方たちで。」
「まったくだ。」
自分たちは子供の命名にアメリアが身篭ってから丸まる七ヶ月ちかく悩んだというのに。
などと、珍しく父親らしい思いが思考に割り込んだ時――
っぐおぉぉぉぉぉぉぉ………!
微かに、そんな地響きにも似た音が空気を震わせているのを感じた。
おそらく遠くから鳴り響いているのだろう。とたんに風が止んだ。
「なんだ……?」
「さあ…。――!」
事の事態に気付くのはアメリアの方が一瞬はやかった。
音が小さかったため、最初は響いてくる方向の特定ができなかったが……
「急ぎましょうゼルガディスさん!」
「ああ」
あせりが判断を狂わせる。彼女は一瞬駆け出そうとし、すぐに気付いて魔術の呪文の詠唱にはいった。
――彼女が諜報員から聞いた話は、あとふたつあった。
ひとつはたった今、なにか地響きのような音が聞こえてきた方向こそ、リナが現在いるであろう場所だということ。
そしてひとつは……。今朝出発する前に、ほぼすべり込みのようなかたちで彼女の耳に届いたもの。まだ誰にも告げていないことである。
それは昨日の昼下がり、丁度この街道で、リナらしき少女をみかけたという話。
(けれど…!)
アメリアは必死にカオス・ワーズを紡ぎ上げる。
隣りではゼルガディスも同じようにして魔術を発動させるところだった。
『レイウィング!』
声が二重に重なり、風の結界がふたりを覆う。この距離なら、なんとか街までもちそうだ。
(リナさんと一緒にいたのは……)
“黒い法衣を着た神官らしき男がひとり、なんか楽しげに彼女の隣りにいたそうですよ”
報告者の声が脳裏をよぎる。
どうも報告と彼女の思っていたものとは、あまりにも差異がありすぎる。
(一体、どういうことなんですか、ゼロスさん!?)
最後に心の奥で呟いた言葉は、ほとんど金切り声に近かった。
なぜ今なのか。それがアメリアには疑問でならない。
もし、あの獣神官が事の首謀者なのならばガウリイの失踪にも説明がつく。
しかし、事が始まったのはつい二日、三日前のことではないのだ。
何度もおなじ所を行ったり来たりするガウリイ。対して何事もなかったかのように旅をつづけるリナ。
二年前に、あきらかに『何か』が起こったはずだ。彼女の知らないところで、何かが…。
だからこそ、なぜ二年も経った今になってようやく彼が動き出したのかがわからない。
(とにかく、まだ無事でいてくださいよ。リナさん――!)
それだけを願って、アメリアは前だけを見据えた。
前方に小さく見えるのは、セイルーンの領土からは少し離れたライセンの村。
時間だけがゆっくりと流れる、静かな田舎町である…。


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きゃあぁぁぁぁぁ! 短いですうぅぅぅぅ!
こんにちは神代 桜です。最近忙しくてちまちまちまちまとしか書いておりませんが、ああ、どなたか私の存在をご存知の方はいらっしゃるのでしょうか…?
なんかもう忘れ去られてそうなくらいずぅっと投稿してませんが……。
もしもはじめましての方がいらっしゃいましたら「過去の小説」を読んでくださいね♪ そして感想をくださいね♪(なんてあつかましい…)
それでは、また次回で(あればの話ですが)

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8038コンチェルト5でしたぁ!神代 桜 10/9-01:29
記事番号8037へのコメント

うわあぁぁぁぁ! 間違えました。「コンチェルト5」でしたね!
すいませんーーー!